説明

心房興奮の変化を用いた不整脈中の血行動態の安定性の検出

検出した心房興奮の変化を用いて、血行動態的に安定な頻拍性不整脈と血行動態的に不安定な頻拍性不整脈とを判別できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、心房興奮の変化を用いた不整脈中の血行動態安定性の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
埋込型医療装置(IMD)は、患者に埋込むように設計された装置である。これら装置の或る例として、心律動管理(CRM)装置が挙げられる。CRMデバイスとしては、埋込型ペースメーカ、埋込型除細動器(ICD)、及び心臓の再同期治療を含むペーシング並びに除細動の組合せを含む装置、が挙げられる。これら装置は、通常、電気的な治療を用いて患者を処置したり、患者の症状の内部監視により患者の診断について医師や介護者を支援するために用いられたりする。これら装置には、患者内部において心臓の電気的な活動を監視するセンス増幅器と連絡する電気的なリードを含むことがあり、また、患者の他の内部パラメータを監視するセンサが含まれることが多い。埋込型医療装置の他の例としては、埋込型インスリン・ポンプ又は患者への薬剤を投与するための埋込み装置が挙げられる。
【0003】
更に、IMDの中には、心臓の電気的な活動信号を監視することによって事象(イベント)を検出するものがある。心臓の信号を監視することによって、IMDは、異常な程速い心拍数、即ち、頻拍性不整脈を検出することが可能である。頻拍性不整脈の発生を検出することは重要であるが、頻拍性不整脈に関するその他の生理学的な情報、例えば、頻拍性不整脈が血行動態的に安定又は血行動態的に不安定であるかが分かれば、更に有用なことがある。頻拍性不整脈を検出可能なだけでなく、血行動態的に安定な頻拍性不整脈と血行動態的に不安定な頻拍性不整脈とを判別することも可能なIMDは、療法判断の手引きを支援するために用いることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書は、とりわけ、検出した心房興奮の変化を用いて、血行動態的に安定な頻拍性不整脈と血行動態的に不安定な頻拍性不整脈とを判別するためのシステム及び方法について述べる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
例1に含み得る主題には、心律動管理デバイスを備えた装置を含み得る。この心律動管理デバイスには、被検者の心房興奮を感知するように構成される心房興奮感知回路と、頻拍性不整脈が被検者に存在するか否か検出するように構成される頻拍性不整脈検出回路と、心房興奮感知回路及び頻拍性不整脈検出回路に結合されたプロセッサ回路と、が備えられている。このプロセッサは、頻拍性不整脈が検出される直前の心房興奮の特性と、検出した頻拍性不整脈中の心房興奮の特性とを比較し、そして、この比較結果を用いて、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を判断するように構成される。
【0006】
例2では、例1の主題にオプションとして、心房興奮の特性は、心房拍数若しくは心房間隔、又は心房若しくは心房間隔の変動のうちの少なくとも1つを含み得る。
例3では、例1−2のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、心房興奮の特性が、複数の心臓周期に亘って判断されることを含み得る。
【0007】
例4では、例1−3のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、プロセッサは、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数とを比較し、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数
よりも実質的に増加していないと判断し、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数よりも実質的に増加していないと判断されるときに、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言する、ように構成される。
【0008】
例5では、例1−4のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、プロセッサは、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数とを比較し、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数よりも実質的に増加したと判断し、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数よりも実質的に増加したと判断されるときに、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言する、ように構成される。
【0009】
例6では、例1−5のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、プロセッサは、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数変動と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数変動との間の差を判断し、その差としきい値とを比較し、差がしきい値を超える場合には、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言し、差がしきい値を下回る場合には、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言する、ように構成される。
【0010】
例7では、例1−6のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、プロセッサは、検出した頻拍性不整脈に応じて、検出した心房拍数がしきい値を超過するか否かを判断し、検出した心房拍数がしきい値を超過する場合には、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言し、検出した心房拍数がしきい値未満の場合には、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言する、ように構成される。
【0011】
例8では、例1−7のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、プロセッサは、ユーザインターフェイス又はプロセスに対する頻拍性不整脈の血行動態の安定特性の指標の通信を開始するように構成される。
【0012】
例9では、例1−8のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、プロセッサに結合され且つ被検者に治療を施すように構成された治療回路を含み得る。このプロセッサは、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を用いて、被検者に施される治療を制御するように構成される。
【0013】
例10では、例1−9のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、被検者に非頻拍性不整脈ペーシングを施すように構成される。
【0014】
例11では、例1−10のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が不安定である場合には、被検者にショック療法を施すように構成される。
【0015】
例12では、例1−11のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、ショック療法を保留するように構成される。
【0016】
例13では、例1−12のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、プロセッサに結合されるとともに、検出した頻拍性不整脈に応じて、被検者に治療を送達するように構成される治療回路を含み得る。このプロセッサは、頻拍性不整脈中且つ治療の送達直前の心房特性と、治療の送達中又は送達後の心房特性とを比較し、この比較結果を用いて、1)頻拍性不整脈の血行動態の安定特性の変化を確認又は検出することと、又は2)治療を調整することと、のうちの少なくとも1つを行うように構成される。
【0017】
例14は、心律動管理デバイスを備える装置を含む主題を含むことができるか、又はオプションとして心律動管理デバイスを備える装置を含む主題を含むことの可能な主題を含むように例1−13のうちのいずれか1つと組み合わせられることができる。この心律動管理デバイスは、被検者の心房拍数を感知するように構成される心房拍数感知回路と、頻拍性不整脈が被検者に存在するか否か検出するように構成される頻拍性不整脈検出回路と、心房拍数感知回路及び頻拍性不整脈検出回路に結合されたプロセッサ回路と、から構成される。このプロセッサ回路は、頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドを検出し、頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが、上昇しているか又は下降しているかを判断し、その判断の結果を用いて、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を宣言するように構成される。
【0018】
例15では、例1−14のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、プロセッサ回路は、頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが上昇していると判断されるときに、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言するように構成される。
【0019】
例16では、例1−15のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、プロセッサ回路は、頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが下降していると判断されるときに、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言するように構成される。
【0020】
例17では、例1−16のうちのいずれか1つの主題は、オプションとして、心房拍数トレンドが複数の心臓周期に亘って判断されることを含み得る。
例18では、例1−17のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、プロセッサ回路は、ユーザインターフェイス又はプロセスに対する頻拍性不整脈の血行動態の安定特性の指標の通信を開始するように構成される。
【0021】
例19では、例1−18のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、プロセッサに結合され且つ被検者に治療を施すように構成された治療回路を含み得る。このプロセッサは、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を用いて、被検者に施される治療を制御するように構成される。
【0022】
例20では、例1−19のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、被検者に非頻拍性不整脈ペーシングを施すように構成される。
【0023】
例21では、例1−20のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が不安定である場合には、被検者にショック療法を施すように構成される。
【0024】
例22では、例1−21のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、ショック療法を保留するように構成される。
【0025】
例23では、例1−22のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、プロセッサに結合され、且つ検出した頻拍性不整脈に応じて、被検者に治療を送達するように構成される治療回路を含み得る。このプロセッサは、頻拍性不整脈中且つ治療の送達直前の心房拍数トレンドを、治療の送達中又は送達後の心房拍数トレンドと比較し、この比較結果を用いて、1)頻拍性不整脈の血行動態の安定特性の変化を確認又は検出することと、
又は2)治療を調整することと、のうちの少なくとも1つを行うように構成される。
【0026】
例24は、以下の主題を含むことができる又はオプションとして、例1−23のうちのいずれか1つと組み合わせてその主題を含むことができる。その主題には、被検者の心房興奮を感知する段階と、頻拍性不整脈が被検者に存在することを検出する段階と、頻拍性不整脈が検出される直前の心房興奮の特性と、検出した頻拍性不整脈中の心房興奮の特性とを比較する段階と、その比較結果を用いて、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を判断する段階と、を含み得る。
【0027】
例25では、例1−24のうちのいずれか1つの主題にオプションとして、心房興奮の特性には、心房拍数若しくは心房間隔、又は心房拍数変動若しくは心房間隔変動のうちの少なくとも1つが含まれる。
【0028】
例26では、例1−25のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、心房興奮の特性が複数の心臓周期に亘って判断されることを含み得る。
例27では、例1−26のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数とを比較する段階と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数よりも実質的に増加していないと判断する段階と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数から実質的に増加していないと判断されると、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言する段階と、を含み得る。
【0029】
例28では、例1−27のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数とを比較する段階と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数よりも実質的に増加したと判断する段階と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数よりも実質的に増加したと判断されると、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言する段階と、を含み得る。
【0030】
例29では、例1−28のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数変動と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数変動との間の差を判断する段階と、その差としきい値とを比較する段階と、差がしきい値を超える場合には、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言する段階と、差がしきい値を下回る場合には、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言する段階と、を含み得る。
【0031】
例30では、例1−29のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈の存在を検出したことに応じて、検出した心房拍数がしきい値を超過するか否かを判断する段階と、検出した心房拍数がしきい値を超過する場合には、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言する段階と、検出した心房拍数がしきい値未満の場合には、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言する段階と、を含み得る。
【0032】
例31では、例1−30のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、ユーザインターフェイス又はプロセスに対する頻拍性不整脈の血行動態の安定特性の指標の通信を行う段階を含み得る。
【0033】
例32では、例1−31のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を用いて、被検者に施される治療を制御する段階を含み得る。
【0034】
例33では、例1−32のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性
不整脈の血行動態が安定である場合には、被検者に非頻拍性不整脈ペーシングを施す段階を含み得る。
【0035】
例34では、例1−33のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈の血行動態が不安定である場合には、被検者にショック療法を施す段階を含み得る。
【0036】
例35では、例1−34のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、ショック療法を保留する段階を含み得る。
例36では、例1−35のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、検出した頻拍性不整脈に応じて、被検者に治療を送達する段階と、頻拍性不整脈中且つ治療の送達直前の心房特性と、治療の送達中又は送達後の心房特性とを比較する段階と、その比較結果を用いて、1)頻拍性不整脈の血行動態の安定特性の変化を確認又は検出することと、又は2)治療を調整することと、のうちの少なくとも1つを行う段階と、を含み得る。
【0037】
例37は、次の主題を含むことができる又はオプションとして、例1−36のうちのいずれか1つと組み合わせてその主題を含むことができる。その主題には、被検者の心房拍数を感知する段階と、頻拍性不整脈が被検者に存在することを検出する段階と、頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドを検出する段階と、頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが、上昇しているか又は下降しているかを判断する段階と、その判断の結果を用いて、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を宣言する段階と、を含み得る。
【0038】
例38では、例1−37のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが上昇していると判断されると、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言する段階を含み得る。
【0039】
例39では、例1−38のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが下降していると判断されると、頻拍性不整脈の血行動態的は安定であると宣言する段階を含み得る。
【0040】
例40では、例1−39のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、心房拍数トレンドが、複数の心臓周期に亘って判断されることを含み得る。
例41では、例1−40のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、ユーザインターフェイス又はプロセスに対する頻拍性不整脈の血行動態の安定特性の指標の通信を行う段階を含み得る。
【0041】
例42では、例1−41のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を用いて、被検者に施される治療を制御する段階を含み得る。
【0042】
例43では、例1−42のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、被検者に非頻拍性不整脈ペーシングを施す段階を含み得る。
【0043】
例44では、例1−43のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性不整脈の血行動態が不安定である場合には、被検者にショック療法を施す段階を含み得る。
【0044】
例45では、例1−44のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、頻拍性
不整脈の血行動態が安定である場合には、ショック療法を保留する段階を含み得る。
例46では、例1−45のうちのいずれか1つの主題には、オプションとして、検出した頻拍性不整脈に応じて、被検者に治療を送達する段階と、頻拍性不整脈中且つ治療の送達直前の心房拍数トレンドを、治療の送達中又は送達後の心房拍数トレンドと比較する段階と、その比較結果を用いて、1)頻拍性不整脈の血行動態の安定特性の変化を確認又は検出することと、又は2)治療を調整することと、のうちの少なくとも1つを行う段階と、を含み得る。
【0045】
これらの例は、任意の順列又は組合せで組み合わせ得る。この概要は、本特許出願の主題の概要を提供することを意図している。排他的な又は網羅的な本発明の説明を提供することは意図していない。詳細な説明は、本特許出願に関して更なる情報を提供するために含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】埋込型又は他の携行型心律動管理(CRM)デバイスの例を示す図。
【図2】CRMデバイス電子ユニットの複数の部位の例を示す図。
【図3A】心房興奮及び血圧に対する頻拍性不整脈が誘発された影響を実証する実験動物のデータの例を示す図。
【図3B】心房興奮及び血圧に対する頻拍性不整脈が誘発された影響を実証する実験動物のデータの例を示す図。
【図4】頻拍性不整脈中の血圧と心房間隔との間の線形関係を実証する実験動物のデータの例を示す図。
【図5】頻拍性不整脈の血行動態が安定であるとき、及び頻拍性不整脈の血行動態が不安定であるときの心房興奮の変動の差を実証する実験動物のデータの例を示す図。
【図6A】心房興奮の変化を用いて、頻拍性不整脈中の血行動態の安定性を検出するための方法の例を示す図。
【図6B】心房興奮の変化を用いて、頻拍性不整脈中の血行動態の安定性を検出するための方法の例を示す図。
【図6C】心房興奮の変化を用いて、頻拍性不整脈中の血行動態の安定性を検出するための方法の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図面は、必ずしも縮尺通りに描かれているとは限らない。同様な数字は、異なる図において、同様な構成要素を表す。異なる接尾文字を有する同様な数字は、同様な構成要素の異なる例を表す。図面は、全般的に、限定的ではなく一例として、本明細書で議論する様々な実施形態を示す。
【0048】
圧反射すなわち圧受容器反射は、血圧を維持するための身体の恒常性メカニズムのうちの1つである。これは、血圧が上昇すると、反射的に血圧の低下を生じ得る負のフィードバックループを提供する。更に具体的には、血圧が上昇すると、圧受容器発射頻度(firing rate)が増大し得るが、このことは、副交感神経活動の増加及び交感神経活動の低下
を引き起こすことがある。このことは、更に、洞房(SA)結節の発射頻度の低下、心臓の収縮性の低下、血管拡張の増大を引き起こすことがあり、最終的に、これらは全て心拍出量の低下及び血圧の低下をもたらす。同様に、血圧が低下すると圧反射を押し下げ、血圧の上昇を招くような負のフィードバックループを与えることがある。
【0049】
圧反射は、血行動態的に安定な頻拍性不整脈中の動脈圧の回復に寄与し得るが、この頻拍性不整脈は、患者の血圧又は心拍出量の大幅な低下の原因にならない。血行動態的に安定な頻拍性不整脈の発症の最初の5秒以内に、血圧は、心臓のポンピング効率の低下により基準線から20−30%低下し得る。最低血圧は、発症後、約5乃至10秒で起こり、
そして、血圧は、回復し始めるか、又は、頻拍性不整脈前の元の基準線レベルに向かって増大し得る。血行動態的に安定な頻拍性不整脈中の血圧回復は、圧受容器の発射(firing)の低下による交感神経の活動の増加に起因するものであると考えられるが、これは、血管収縮、収縮性増大、及びSA結節の発射の増加に至り、これらは、全て、血圧上昇の原因になり得る。
【0050】
他方、血行動態的に不安定な頻拍性不整脈中に、圧反射の感度が低下し、圧反射メカニズムは、血圧の回復ができないことがある。血行動態的に不安定な頻拍性不整脈は、患者の血圧又は心拍出量の大幅な低下を招き、こうして、広域的又は局所的灌流は、通常の臓器機能を十分にサポートできなくなる。血行動態的に安定な頻拍性不整脈の発症の最初の5秒以内に、血圧は、心臓の無効なポンピングにより、基準線から50−60%低下し得る。そして、圧受容器の発射頻度の増大及び交感神経の活動の増加にもかかわらず、血圧は、引き続き低いままであり、回復できないことがある(例えば、ヘグボム(Hegbom)らを参照)。従って、血行動態的に不安定な頻拍性不整脈の処置は、一般的に、ショック療法又は電気的除細動を必要とし、これに対して、血行動態的に安定な頻拍性不整脈は、一般的に、非頻拍性不整脈ペーシング(ATP)で管理し得る。
【0051】
本発明者らは、とりわけ、血行動態的安定性又は血行動態的不安定性は、頻拍性不整脈中に、心房興奮の変化を用いて、検出し得ることを認識している。例えば、心房拍数の変化、心房間隔、又は心房拍数変動/心房間隔変動を含む心房興奮の変化は、上述した圧反射メカニズムを介して、頻拍性不整脈の血行動態的安定性を反映し得る。従って、血行動態的に安定な頻拍性不整脈中に、基準線から大幅に増可しない心房拍数は、動脈血圧の回復を反映し得る。しかしながら、血行動態的に不安定な頻拍性不整脈中に、心房拍数の大幅な増加は、圧反射感度の低下又は圧反射メカニズムの障害による血圧の大幅な低下を反映し得る。心房興奮の変化に基づく血行動態的に安定な頻拍性不整脈と血行動態的に不安定な頻拍性不整脈との判別は、頻拍性不整脈の処置の手引の際、有用であり得る。
【0052】
本出願全体において用いるように、また、当業者によって理解されるように、用語「心房拍数」と「心房間隔」とは、逆相関を有する。従って、心房拍数が早くなると、心房間隔が短くなることに対応し、また、心房拍数が遅くなると、心房間隔が長くなることに対応する。
【0053】
図1は、埋込型又は他の携行型心律動管理(CRM)装置100の例を示す。一例において、CRMデバイス100には、電子ユニット102を含み得るが、電子ユニット102には、密封された生体適合性ハウジング104と、そこから延びるヘッダ106と、を含み得る。ハウジング104は、電源及び電子機器を担持し得る。ヘッダ106には、例えば、血管内リード108A−Cの基端部を受容するための1つ又は複数の受け口を含み得る。一例において、リード108Aは、上大静脈(SVC)から右心房(RA)に、そして、右心室(RV)に延びる血管内RVリードであってよい。リード108Aには、RV尖端電極110と、わずかに基端側のRVリング電極112と、更にもう少し基端側のRVショックコイル電極114と、更にいっそう基端側のRA又はSVCショックコイル電極116と、を含み得る。これら様々な電極は、電気的エネルギを出力するために又は心臓の内因性の電気信号を感知するために用い得る。血管内CS/LVリード108Cは、SVCからRAに、冠状静脈洞(CS)を介して冠状血管系へ、例えば、左心室(LV)の一部位の付近に延在し得る。一例において、この第2のCS/LVリード108Cには、少なくとも先端電極118と、基端側電極120と、を含み得るが、これら電極からは、電気刺激エネルギを出力したり、心臓の内因性の電気信号を感知したりできる。血管内右心房(RA)リード108Bは、SVCからRAに延び、先端電極119及び基端側電極121を含み得る。他の電極(例えば、ハウジング104上のハウジング電極105、ヘッダ106上のヘッダ電極107、心外膜電極、心臓から離れて配置された皮下電極
、若しくは、どこか他の場所に配置された電極)又はリードを用いることができる。
【0054】
一例において、埋込型CRMデバイス100には、例えば、CRMデバイス・プログラマ、中継器、手持ち式装置等の外部ローカル・インターフェイス121と一方向又は双方向の無線通信を行うための通信回路を含み得る。ローカル・インターフェイス121は、有線又は無線コンピュータ又は通信ネットワーク122を介して、リモート・コンピュータ又はサーバ等のリモート・インターフェイス124と通信を行うように構成し得る。
【0055】
図2は、CRMデバイス電子ユニット102の複数の部位の例を示す。一例において、これには、例えば、リード108A−C上又はどこか他の場所にある様々な電極に選択的に接続するためのスイッチング回路200を含み得る。心房興奮感知回路202は、スイッチング回路200によって様々な電極に選択的に結合することができ、また、センス増幅器、フィルタ回路、例えば、心臓の心房の内因性信号等の内因性の電気信号を感知するための他の回路を含み得る。心房興奮感知回路202は、頻拍性不整脈検出回路204に結合し得る。頻拍性不整脈検出回路204は、例えば、心拍数又は心房興奮感知回路202によって感知された脱分極からの形態情報を用いることによって、患者の頻拍性不整脈を検出するように構成し得る。治療回路206は、スイッチング回路200によって様々な電極に選択的に結合することができ、また、例えば、電気刺激、電気的除細動、除細動、又は他のエネルギを生成したり、蓄積したり、出力したりするためのペーシングエネルギ生成回路(例えば、容量性、誘導性等)を含み得る。一例において、心房興奮感知回路202、頻拍性不整脈検出回路204、又は治療回路206は、プロセッサ回路212に結合し得る。一例において、プロセッサ212は、例えば、心房興奮感知回路202若しくは頻拍性不整脈検出回路204によって導き出された信号を信号処理するための命令、又は、治療回路206の動作若しくはCRMデバイス100の他の動作を制御するための命令、を実行し得る。プロセッサ212は、更に、例えば、命令又はデータを記憶又は検索するためのメモリ回路218に結合又はそれを含むことが可能であり、又は、例えば、ローカル・インターフェイス121と通信を行うための通信回路220に結合又はそれを含むことが可能である。
【0056】
図3A及び3Bは、心房興奮及び血圧に対する頻拍性不整脈が誘発された影響を実証する実験動物のデータの例を示す。図3A及び3Bは、2つの別個に頻拍性不整脈症状が誘発されたときの1匹の動物からのデータを含む。パネル302A及び302Bは、電位図によって検出されたその動物の右心房の活動を示す。パネル304A及び304Bは、電位図によって検出される右心室の活動を示す。パネル306A及び306Bは、大動脈圧を示す。時間間隔308A及び308Bにおいて、パネル304A及び304Bでは、それぞれ、心室ペーシングスパイクが、心室頻拍性不整脈の誘発を表す。対応する時間間隔309A及び309Bは、パネル302A及び304Bにおいて、それぞれ、心房感知電極によってピックアップされた心室ペーシングの人為結果による可能性がある心房スパイクを示す。垂直線310A及び310Bは、ペーシングが終了し、内因性の頻拍性不整脈が開始した時間を表す。パネル306A及び306Bの水平線312は、大動脈圧の低下が、図3Aより図3Bの方が大きいことを示す。図3Aにおいて、頻拍性不整脈中の大動脈圧信号から計算した平均動脈圧(MAP)は、基準線(例えば、頻拍性不整脈の誘発の直前)におけるMAPの49.7%である。しかしながら、図3Bでは、頻拍性不整脈中のMAPは、基準線におけるMAPのわずか33.1%である。
【0057】
図3A及び3Bのデータは、頻拍性不整脈中にMAPが(基準線におけるMAPと比較して)低下する量は、心房興奮の変化量に対応することを示す。図3Aにおいて、心房P−P間隔(PPI)は、基準線と比較して7.4%だけ低下し、これに対して、図3Bにおいて、心房PPIは、基準線と比較して13.0%だけ低下している。その結果、MAPの低下が小さかった図3Aと比較して、MAPの低下が大きかった図3Bでは、心房拍
数は、更に増加する。MAPの低下が大きければ大きいほど、心房拍数の増加(又は心房PPIの低下)は大きい。従って、頻拍性不整脈中の心房応答の変化をMAPの変化の代わりに又はそれに加えて用いて、血行動態的安定性又は血行動態的不安定性を検出することができる。そのような相関関係は、上述した圧反射メカニズムによると考えられる。従って、図3Aは、血行動態的に安定な頻拍性不整脈を表し、これに対して、図3Bは、血行動態的に不安定な頻拍性不整脈を表す。実際、ATPバーストにより図3Aの症状は、正常に終了し、図3Bの症状は、終了のために除細動ショックが必要であった。
【0058】
図4は、頻拍性不整脈中の血圧と心房間隔との間の線形関係を実証する実験動物のデータの例を示す。このデータは、左前部下行冠状動脈の閉塞を介して心筋梗塞が誘発されて14日後、単一の動物から得られた。11の別個に誘発された心室頻拍性不整脈症状をプロットしてある。正規化心房PPI低下は、x軸402に沿って表されている。正規化心房PPI低下は、基準線におけるPPI(例えば、頻拍性不整脈の誘発直前)と頻拍性不整脈中のPPIとの間の差を基準線におけるPPIで除算することによって計算した。正規化MAPは、y軸404に沿って表される。正規化MAPは、頻拍性不整脈中のMAPを基準線におけるMAPで除算することによって計算した。
【0059】
406にプロットしてある頻拍性不整脈症状が誘発されたグループは、平均データ点407によって表すことができる。同様に、408にプロットしてある頻拍性不整脈症状が誘発されたグループは、平均データ点409によって表すことができる。406にプロットしてある頻拍性不整脈症状は、正規化MAPの緩やかな低下を示し、また、正規化心房PPIの緩やかな低下を示すが、これは、心房拍数の緩やかな増加に対応する。408にプロットしてある頻拍性不整脈症状は、正規化MAPの大幅な低下を示し、また、正規化心房PPIの大幅な低下を示すが、これは、心房拍数の大幅な増加に対応する。このデータは、406にプロットしてある頻拍性不整脈症状は、血行動態的に安定である可能性があることを示唆し、また、408にプロットしてある頻拍性不整脈症状は、血行動態的に不安定である可能性があることを示唆する。実際、406にプロットしてある症状は、ATPによって終了し、また、408にプロットしてある症状は、ショック療法が必要であったが、これは、示唆された血行動態の特性評価を確認するのに役立つ。プロットしてある頻拍性不整脈症状に適合する線形回帰直線410は、0.7589のR値を有し、頻拍性不整脈中の心房興奮とMAPの低下との間に相対的に強い相関関係を示唆する。更に、(例えば、血行動態的に安定な)406にプロットしてある頻拍性不整脈症状は、(例えば、血行動態的に不安定な)408にプロットしてある頻拍性不整脈症状から十分に分離されるという事実は、心房興奮の変化を用いて(単独であろうが、血圧の変化と一緒であろうが)、血行動態的に不安定な頻拍性不整脈から血行動態的に安定な頻拍性不整脈を判別できることを実証している。
【0060】
図5は、血行動態的に安定な及び血行動態的に不安定な頻拍性不整脈中の心房興奮の変動の差を実証する実験動物のデータの例を示す。x軸502は、心房間隔の数を表し、y軸504は、正規化心房PPIを表す。506と表記された線は、黒三角として示すデータ点を含む。508と表記された線は、黒四角として示すデータ点を含む。線506及び508は、時間の経過に伴う正規化PPI(又は心房拍数)の小さい変動を示す。更に、線506及び508は、時間の経過に伴う回復が無い比較的一定な正規化PPI(又は心房拍数)を示す。小さい変動及び回復が無いことは、線506及び508を生成するために用いたデータが、血行動態的に不安定な頻拍性不整脈を有する動物からのものであることを示唆する。これらの動物において、圧反射は、感度が低いことがあり、心室頻拍性不整脈に応じて心房興奮を適切に制御できないことがある。しかしながら、線510、512、514、及び516(それぞれ、白丸、黒ひし形、黒ひし形、黒丸によって示す)は、大きい変動を実証し、また、正規化心房PPI(又は心房拍数)が徐々に回復することを実証する。従って、線510、512、514、及び516を形成するために用いたデ
ータは、血行動態的に安定な頻拍性不整脈を示唆する。このデータが得られた動物は、心室頻拍性不整脈に応じて、心房興奮の圧反射介在制御を保持できたはずである。
【0061】
図6A−6Cは、心房興奮の変化を用いて、頻拍性不整脈中の血行動態的安定性を検出するための方法の例を示す。図6Aは、心房拍数の変化を用いて、血行動態的に安定な頻拍性不整脈と血行動態的に不安定な頻拍性不整脈とを識別するための方法600Aの例を示す。602において、心律動が、例えば、埋込型CRMデバイスによって、検出され、監視される。604において、心房拍数測定値の基準線(例えば、頻拍性不整脈検出の直前に取得された心房拍数測定値)を取り込むか又は更新する。一例において、心房拍数測定値の代わりに又はそれに加えて、心房間隔測定値を取得してもよい。一例において、心房拍数測定値又は心房間隔測定値は、複数の心臓周期に亘って取得してよい。606において、検出した心律動が、例えば、毎分120乃至200鼓動(bpm)の心室頻拍性不整脈領域にある場合には、608において、検出した頻拍性不整脈を分類する。頻拍性不整脈は、例えば、検出した電気生理学的信号の解析を介して分類することができる。610において、頻拍性不整脈が、心室頻拍性不整脈又は心室細動のいずれかに分類される場合には、プロセスは、612に流れる。610において、頻拍性不整脈が、心室頻拍性不整脈又は心室細動のいずれにも分類されない場合には、プロセスは、614に流れる。
【0062】
606において、検出した心律動が心室頻拍性不整脈区域にある場合には、616において、心房拍数測定値が、心室頻拍性不整脈中に取り込まれる。心房拍数は、608における頻拍性不整脈の分類と同時に、616において取り込み得る。618において、心室頻拍性不整脈中の心房拍数が、心房拍数の基準線から実質的に増加したか否かを判断する。一例において、心房拍数の基準線を10%より大きく超える心室頻拍性不整脈中の心房拍数は、実質的に増加したと見なし得る。一例において、心室頻拍性不整脈中の心房拍数は、心房拍数の基準線と比較する代わりに又はそれに加えて、指定しきい値又はしきい値の範囲と比較することができる。一例において、指定しきい値は、患者毎に変わることがある。頻拍性不整脈中の心房拍数が、基準線から実質的に増加していない(又は、しきい値を超えていない)場合には、620において、頻拍性不整脈は、血行動態的に安定であると宣言される。頻拍性不整脈中の心房拍数が基準線から実質的に増加した(又は、しきい値を超える)場合には、622において、頻拍性不整脈は、血行動態的に不安定であると宣言される。頻拍性不整脈が、620において血行動態的に安定であると又は622において血行動態的に不安定であると宣言された後に、プロセスは、612及び614に戻って流れる。612において、頻拍性不整脈が血行動態的に安定であると宣言された場合には、624において、非頻拍性不整脈ペーシング(ATP)が患者に施される。612において、頻拍性不整脈が血行動態的に不安定であると宣言された場合には、626において、ショック療法が患者に施される。614において、頻拍性不整脈が血行動態的に安定であると宣言された場合には、628において、ATPが患者に施される。214において、頻拍性不整脈が血行動態的に不安定であると宣言された場合には、630において、電気的除細動が患者に施される。
【0063】
一例において、頻拍性不整脈中且つ治療の送達直前に測定された患者の心房拍数は、治療の送達中又は治療の送達後に測定された心房拍数と比較し得る。そのような比較結果を用いて、頻拍性不整脈の血行動態の特性評価を確認又は調整することができる。例えば、血行動態の安定性が宣言された患者にATP治療を施し、ATP治療が心房拍数を低下又は安定化させる場合には、血行動態の安定性を確認することができる。他方、ATP治療により心房拍数が低下又は安定化しない場合には、患者の頻拍性不整脈が、誤って分類され、また、実際には、血行動態的に不安定な可能性がある。この場合には、例えば、ATPを停止し、ショック療法又は電気的除細動を開始することによって、治療を変更することができる。
【0064】
図6Bは、心房拍数変動の変化を用いて、血行動態的に安定な頻拍性不整脈と血行動態的に不安定な頻拍性不整脈とを識別するための方法600Bの例を示す。602において、心律動が、例えば、埋込型CRMデバイスによって、検出され、監視される。632において、心房拍数変動測定値の基準線(例えば、頻拍性不整脈検出の直前に取得された心房拍数変動測定値)を取り込むか又は更新する。一例において、心房拍数変動の測定値の代わりに又はそれに加えて、心房間隔変動の測定値を取得してもよい。一例において、心房拍数変動測定値/心房間隔変動測定値は、複数の心臓周期に亘って取得してよい。606において、検出した心律動が、例えば、毎分120乃至200鼓動(bpm)の心室頻拍性不整脈区域にある場合、608において、検出した頻拍性不整脈を分類する。頻拍性不整脈は、例えば、検出した電気生理学的信号の解析を介して分類することができる。610において、頻拍性不整脈が、心室頻拍性不整脈又は心室細動のいずれかに分類される場合には、プロセスは、612に流れる。610において、頻拍性不整脈が、心室頻拍性不整脈又は心室細動のいずれにも分類されない場合には、プロセスは、614に流れる。
【0065】
606において、検出した心律動が心室頻拍性不整脈区域にある場合には、634において、心房拍数変動の測定値が、心室頻拍性不整脈中に取り込まれる。心房拍数変動の測定値は、608における頻拍性不整脈の分類と同時に、634において取り込み得る。636において、頻拍性不整脈中の心房拍数変動と基準線における心房拍数変動との間の差を判断する。638において、この差としきい値とを比較する。638において、この差がしきい値を超えない場合には、622において、頻拍性不整脈は、血行動態的に不安定であると宣言される。638において、差がしきい値を超える場合には、620において、頻拍性不整脈は、血行動態的に安定であると宣言される。頻拍性不整脈が、620において血行動態的に安定であると又は622において血行動態的に不安定であると宣言された後に、プロセスは、612及び614に戻って流れる。612において、頻拍性不整脈が血行動態的に安定であると宣言された場合には、624において、非頻拍性不整脈ペーシング(ATP)が患者に施される。612において、頻拍性不整脈が血行動態的に不安定であると宣言された場合には、626において、ショック療法が患者に施される。614において、頻拍性不整脈が血行動態的に安定であると宣言された場合には、628において、ATPが患者に施される。214において、頻拍性不整脈が血行動態的に不安定であると宣言された場合には、630において、電気的除細動が患者に施される。図6Aについて上述したように、頻拍性不整脈の血行動態の安定性の特性評価を確認又は調整するために、また、必要に応じて、治療を調整するために、治療前の患者の心房拍数変動を治療後の心房拍数変動と比較することができる。
【0066】
図6Cは、頻拍性不整脈の発症後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドの変化を用いて、血行動態的に安定な頻拍性不整脈と血行動態的に不安定な頻拍性不整脈とを識別するための方法600Cの例を示す。602において、心律動が、例えば、埋込型CRMデバイスによって、検出され、監視される。604において、心房拍数測定値の基準線(例えば、頻拍性不整脈検出の直前に取得された心房拍数測定値)を取り込むか又は更新する。一例において、心房拍数測定値の代わりに又はそれに加えて、心房間隔測定値を取得してもよい。一例において、心房拍数測定値又は心房間隔測定値は、複数の心臓周期に亘って取得してよい。606において、検出した心律動が、例えば、毎分120乃至200鼓動(bpm)の心室頻拍性不整脈区域にある場合には、608において、検出した頻拍性不整脈を分類する。頻拍性不整脈は、例えば、検出した電気生理学的信号の解析を介して分類することができる。610において、頻拍性不整脈が、心室頻拍性不整脈又は心室細動のいずれかに分類される場合には、プロセスは、612に流れる。610において、頻拍性不整脈が心室頻拍性不整脈又は心室細動のいずれにも分類されない場合には、プロセスは、614に流れる。
【0067】
606において、検出した心律動が心室頻拍性不整脈区域にある場合には、640にお
いて、心房拍数トレンドが、心室頻拍性不整脈の発症後、少なくとも5秒間検出される。心房拍数トレンドは、608における頻拍性不整脈の分類と同時に、640において検出し得る。642において、心室頻拍性不整脈の発症後少なくとも5秒間、心房拍数トレンドが上昇しているか又は下降しているかを判断する。頻拍性不整脈の発症後5秒間、心房拍数トレンドが下降している場合には、620において、頻拍性不整脈は、血行動態的に安定であると宣言される。頻拍性不整脈の発症後5秒間、心房拍数トレンドが上昇している場合には、622において、頻拍性不整脈は、血行動態的に不安定であると宣言される。頻拍性不整脈が、620において血行動態的に安定であると又は622において血行動態的に不安定であると宣言された後に、プロセスは、612及び614に戻って流れる。612において、頻拍性不整脈が血行動態的に安定であると宣言された場合には、624において、非頻拍性不整脈ペーシング(ATP)が患者に施される。612において、頻拍性不整脈が血行動態的に不安定であると宣言された場合には、626において、ショック療法が患者に施される。614において、頻拍性不整脈が血行動態的に安定であると宣言された場合には、628において、ATPが患者に施される。214において、頻拍性不整脈が血行動態的に不安定であると宣言された場合には、630において、電気的除細動が患者に施される。図6Aについて上述したように、頻拍性不整脈の血行動態の安定性の特性評価を確認又は調整するために、また、必要に応じて、治療を調整するために、治療前の患者の心房拍数変動を治療後の心房拍数変動と比較することができる。
【0068】
補足事項
上述した説明には、詳細な説明の一部を構成する添付図面に対する参照が含まれる。図面は、例証として、本発明を実践し得る特定の実施形態を示す。これらの実施形態は、本明細書では、「例」とも称する。そのような例には、図示又は記載したもの以外の要素を含んでよい。しかしながら、本発明者らは、図示又は記載した要素だけを備えた例も予期している。更に、本発明者らは、特定の例(又はその1つ又は複数の側面)について又は図示した若しくは本明細書に述べた他の例(又はその1つ又は複数の側面)について、図示又は記載した要素の任意の組合せ若しくは順列(又はそれらの1つ又は複数の側面)を用いる例も予期している。
【0069】
本明細書において参照する全ての公報、特許、及び特許文書は、あたかも個別に引用・参照するかのように、それら全体を本明細書に引用・参照する。本明細書とそのように引用・参照されたそれらの文書との間で整合性のない用法が生じた場合、引用した参照の用法は、本明細書の用法に対する補足であると見なし、相入れない不一致が生じた場合、本明細書の用法が優先する。
【0070】
本明細書では、用語「a」又は「an」(不定冠詞)は、特許文書において通例なように、いずれか他の例又は「少なくとも1つの」若しくは「1つ又は複数の」の用法とは無関係に、1つ又は2つ以上を含むように用いる。本明細書では、用語「or(又は/若しくは)」は、非排他を指すために用い、これにより、「A又はB」には、他に規定されない限り、「AだがBではない」、「BだがAではない」、並びに「A及びB」が含まれる。添付の請求項では、用語「including」及び「in_which」は、それぞれの用語「comprising」及び「wherein」の平易な英語の等価物として用いる。また、後続の請求項では、用語「含む(including)」及び「から構成される(comprising)」は、オープンエンドである。即ち、請求項において、そのような用語の後に列挙されたもの以外の要素を含むシステム、装置、物品、又はプロセスが、その請求項の範囲内に依然として入るものとみなす。更に、後続の請求項において、用語「第1の」、「第2の」、及び「第3の」等は、単に標識として用いるものであり、それらの目的語に数値的な要件を課すことを意図していない。
【0071】
上記説明は、例示であることを意図しており、限定的であることを意図していない。例
えば、上述した例(又はそれらの1つ又は複数の側面)は、互いに組み合わせて用いてもよい。他の実施形態は、上記説明を精査する際、当業者が用いてよい。要約書は、37C.F.R.§1.72(b)に準拠するために提供し、これにより、読者が技術的開示の性質を迅速に確認できるようにするものである。それは、請求項の範囲又は意味を解釈又は限定するために用いられないという理解と共に提出されている。更に、上記詳細な説明では、様々な特徴を一緒にグループ化して、本開示を簡素化する。このことは、権利が主張されていない開示された特徴が、いずれかの請求項に対して本質的であることを意図すると解釈すべきではない。むしろ、本発明の主題は、特定の開示された実施形態の全ての特徴より少ない特徴に見出される。従って、以下の請求項は、本明細書によって詳細な説明に引用されており、各請求項は別個の実施形態としてそれ自体に依拠している。本発明の範囲は、添付の請求項を参照して、そのような請求項が権利を与えられる等価物の全範囲と共に判断すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心律動管理デバイスを備える装置であって、該心律動管理デバイスは、
被検者の心房興奮を感知するように構成される心房興奮感知回路と、
頻拍性不整脈が被検者に存在するか否か検出するように構成される頻拍性不整脈検出回路と、
前記心房興奮感知回路及び前記頻拍性不整脈検出回路に結合されるプロセッサ回路と、を備え、
前記プロセッサが、
頻拍性不整脈が検出される直前の心房興奮の特性と、検出した頻拍性不整脈中の心房興奮の特性とを比較し、
該比較結果を用いて、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を判断するように構成される、前記装置。
【請求項2】
前記心房興奮の特性には、心房拍数若しくは心房間隔、又は心房若しくは心房間隔の変動のうちの少なくとも1つが含まれる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数とを比較し、
検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数よりも実質的に増加したか否かを判断し、
検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数よりも実質的に増加したと判断されるときに、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言し、
検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数よりも実質的に増加していないと判断されるときに、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言する、
ように構成される、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数変動と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数変動との間の差を判断し、
該差としきい値とを比較し、
前記差が前記しきい値を超える場合には、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言し、
前記差が前記しきい値を下回る場合には、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言する、
ように構成される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記プロセッサに結合された治療回路を備え、該治療回路が前記被検者に治療を施すように構成されており、
前記プロセッサは、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を用いて、前記被検者に施される治療を制御するように構成される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、前記被検者に非頻拍性不整脈ペーシングを施すように構成される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が不安定である場合には、前記被検者にショック療法を施すように構成され、
前記治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、ショック療法を保留するように構成される、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項8】
前記治療回路は、検出した頻拍性不整脈に応じて前記被検者に治療を送達するように構成されており、前記プロセッサは、
頻拍性不整脈中であって且つ治療の送達直前の心房特性と、治療の送達中又は送達後の心房特性とを比較し、
該比較結果を用いて、
頻拍性不整脈の血行動態の安定特性の変化を確認又は若しくは検出することと、治療を調整することと、のうちの少なくとも1つを行う、
ように構成される、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記心房興奮の特性は、複数の心臓周期に亘って判断される、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記プロセッサは、ユーザインターフェイス又はプロセスに対する頻拍性不整脈の血行動態の安定特性の指標の通信を開始するように構成される、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記心房興奮感知回路には、被検者の心房拍数を感知するように構成される心房拍数感知回路が含まれ、前記プロセッサは、
頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドを検出し、
頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが、上昇しているか又は下降しているかを判断し、
該判断の結果を用いて、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を宣言する、ように構成される、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記プロセッサ回路は、頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが上昇していると判断されるときに、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言するように構成され、
前記プロセッサ回路は、頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが下降していると判断されるときに、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言するように構成される、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記プロセッサに結合された治療回路を備え、該治療回路が前記被検者に治療を施すように構成されており、
前記プロセッサは、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を用いて、前記被検者に施される治療を制御するように構成され、
前記治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、前記被検者に非頻拍性不整脈ペーシングを施すように構成され、
前記治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が不安定である場合には、前記被検者にショック療法を施すように構成され、
前記治療回路は、頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、ショック療法を保留するように構成される、請求項11又は12に記載の装置。
【請求項14】
前記心房拍数トレンドは、複数の心臓周期に亘って判断される、請求項11乃至13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記プロセッサは、ユーザインターフェイス又はプロセスに対する頻拍性不整脈の血行動態の安定特性の指標の通信を開始するように構成される、請求項11乃至14のいずれ
か一項に記載の装置。
【請求項16】
被検者の心房興奮を感知する段階と、
頻拍性不整脈が前記被検者に存在することを検出する段階と、
頻拍性不整脈が検出される直前の心房興奮の特性と、検出した頻拍性不整脈中の心房興奮の特性とを比較する段階と、
該比較結果を用いて、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を判断する段階と、
が含まれる方法。
【請求項17】
前記心房興奮の特性には、心房拍数若しくは心房間隔、又は心房若しくは心房間隔の変動のうちの少なくとも1つが含まれる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数とを比較する段階と、
検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数よりも実質的に増加したか否かを判断する段階と、
検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数よりも実質的に増加したと判断されると、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言する段階と、
検出した頻拍性不整脈中の心房拍数が、頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数から実質的に増加していないと判断されると、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言する段階と、
が含まれる、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
頻拍性不整脈が検出される直前の心房拍数変動と、検出した頻拍性不整脈中の心房拍数変動との間の差を判断する段階と、
該差としきい値とを比較する段階と、
前記差が前記しきい値を超える場合には、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言する段階と、
前記差が前記しきい値を下回る場合には、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言する段階と、
が含まれる、請求項16乃至18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を用いて、前記被検者に施される治療を制御する段階が含まれる、請求項16乃至19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、前記被検者に非頻拍性不整脈ペーシングを施す段階が含まれる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
頻拍性不整脈の血行動態が不安定である場合には、前記被検者にショック療法を施す段階と、
頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、ショック療法を保留する段階と、
が含まれる、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
被検者の心房拍数を検出する段階と、
頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドを検出する段階と、
頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが、上昇しているか又は下降しているかを判断する段階と、
該判断の結果を用いて、頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を宣言する段階と、
が含まれる、請求項16乃至22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが、上昇していると判断されると、頻拍性不整脈の血行動態は不安定であると宣言する段階と、
頻拍性不整脈の検出開始後少なくとも5秒間における心房拍数トレンドが下降していると判断されると、頻拍性不整脈の血行動態は安定であると宣言する段階と、
が含まれる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
頻拍性不整脈の血行動態の安定特性を用いて、前記被検者に施される治療を制御する段階と、
頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、前記被検者に非頻拍性不整脈ペーシングを施す段階と、
頻拍性不整脈の血行動態が不安定である場合には、前記被検者にショック療法を施す段階と、
頻拍性不整脈の血行動態が安定である場合には、ショック療法を保留する段階と、
が含まれる、請求項23又は24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公表番号】特表2013−517917(P2013−517917A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551395(P2012−551395)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【国際出願番号】PCT/US2011/023864
【国際公開番号】WO2011/100182
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】