説明

心臓損傷の処置のためのピロロキノリンキノン薬およびその使用方法

本発明は、実質的に精製されたピロロキノリンキノンを含んでいる組成物を含み、この組成物は、低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷の処置および防止のための方法に役立つ。本発明はまた、発明の組成物とヒト患者とを接触させる工程を包含する、心臓損傷の処置および防止のための方法を含む。被験体における心筋の酸化的ストレスを処置または防止する方法であって、該方法は、その必要のある被験体に心筋の酸化的ストレスを調節する薬剤の無毒性量を投与し、その結果、該酸化的ストレスの対象である一以上の心筋細胞が細胞死から保護される工程を包含する、方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
心臓は、酸素および栄養分の送達ならびに有害な代謝産物の除去に関して、連続した血流に極めて依存している。虚血は心筋代謝の迅速な変化および細胞損傷をもたらし、損傷の程度は、虚血の重篤度に依存する。継続した虚血は、数時間で組織全体の壊死をもたらす。
【0002】
一般に有益であるとみなされるにもかかわらず、再灌流は、いくつかの機構によって組織損傷を引き起こす。臨床的に、開心術、心臓移植および心疾患の逆転において、虚血−再灌流による損傷に対する心筋の保護は、最大の臨床的に関心のある問題である。さらに、再灌流による酸素付加の回復(再酸素付加)後の低酸素損傷の増悪は、他のタイプの臓器移植における、ならびに肝臓、腸、脳、腎臓、および他の虚血性症候群における、細胞損傷の重要な機構である。細胞の低酸素および再酸素付加によって、部分的には反応性酸素種(ROS)により、虚血−再灌流損傷が引き起こされる。1970年代後期の細菌からの遊離PQQの最初の単離以来、さらなる研究は、PQQが脊椎動物のための必須の栄養素であって、おそらくビタミンB群に属することを示した(非特許文献1,非特許文献2)。遊離PQQは赤血球、好中球、脳脊髄液、滑液、胆汁において(非特許文献3)、そしてヒトの乳(非特許文献4)において確認された。痕跡量の遊離PQQもまた、脾臓、膵臓、肺、脳、心臓、腸、肝臓および精巣、ヒトの血漿および尿において、そしてラットの小腸、肝臓および精巣において、検出された(非特許文献5)。PQQ依存性デヒドロゲナーゼ酵素は、この反応においてPQQが哺乳動物レドックス補因子として作用するアミノ酸リジンの分解のために重要である(非特許文献6)。ヒトの組織および体液中のPQQレベルは、食品中で見出されるレベルよりも5〜10倍低いので、ヒトの組織中のPQQが、少なくとも部分的に野菜および肉を含め食事源に由来する可能性がある(非特許文献7)。PQQが欠損した食事をマウスに与えた場合、マウスはゆっくり成長し、脆い皮膚および低下した免疫応答を有し、よく繁殖しない。PQQを補充することにより、化学的に既定された、他の点では栄養的に完全な食事を供給したマウスにおいて、繁殖性能、成長を改善し得、そして新生仔の細胞外マトリックス生産の指数および成熟を調節し得ることが示された(非特許文献8,非特許文献9)。
【0003】
グルタミン酸レセプターのN−メチル−D−アスパルテート(NMDA)サブタイプの過剰な活性化は低酸素/虚血のニューロン損傷プロセスにおいて決定的であり、そしてNMDAアンタゴニストはグルタミン酸媒介性神経毒性のインビトロモデルおよびインビボモデルの両方でニューロンの損傷を改善し得る。以前の研究の結果はPQQが脳低酸素/虚血の齧歯類モデルにおいて脳損傷に対する保護効果を有することを証明して、PQQが発作の治療において潜在的用途を有し得ることを示唆した(非特許文献10)。PQQは限局性脳虚血および癲癇の動物モデルにおいて有効なことが示されたにもかかわらず、保護機構は良く理解されていない(非特許文献11および非特許文献10)。
【0004】
1つの報告だけは、PQQの潜在的心臓保護効果を調査した。この研究は、心臓排出液中に放出されるLDH活性で測定したところ、PQQが、単離されたウサギ心臓を再酸素付加損傷から保護することを示した(非特許文献12)。
【非特許文献1】Paz MAら,The biomedical significance of PQQ.Davidson VL編:Principles and Applications of Quinoproteins,1992,Marcel Dekker,Inc.P381−393
【非特許文献2】Kasahara TおよびKato T.,Nature 2003;422:832
【非特許文献3】Gallop PMら,Connect Tissue Res 1993;29:153−161
【非特許文献4】Mitchell AEら,Analytical Biochemistry 1999;269:317−325
【非特許文献5】Kumazawa Tら,Biochim Biophys Acta 1992;1156:62−66
【非特許文献6】Kasahara,T.およびKato,T.,Nature 200;422:832
【非特許文献7】Kumazawa Tら,Biochem J 1995;307:331−333
【非特許文献8】Steinberg Fら,Exp Biol Med (Maywood)2003;228:160−166
【非特許文献9】Steinberg FMら,J Nutr 1994;124:744−753
【非特許文献10】Jensen FEら,Neuroscience 1994;62(2):399−406
【非特許文献11】Zhang YおよびRosenberg PA.European J Neuroscience 2002;16:1015−1024
【非特許文献12】Xu Fら,Biochemical Biophysical Research Communications 1993、193:434−439
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この情報に基づいて、PQQが、予防的に(前処置)または虚血開始後の再灌流時(処置)のいずれかで与えられた場合に梗塞の大きさを減らすのに有効な薬剤であるか否かは、決定できなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書において、本発明者らは、PQQを用いた前処置または処置が虚血または虚血−再灌流損傷のインタクトなラットモデルの心筋梗塞の大きさを著しく減らし得ることを初めて証明する。
【0007】
(発明の要旨)
本発明は心筋の酸化的ストレスが、特定の心臓保護因子の投与によって防止または最小化され得、従って、心血管疾患および他の疾患を処置することに関して利点を有するという知見に関する。特に、無毒性投与量のピロロキノリンキノン(「PQQ」)薬が心臓保護剤として有用であり、従って、例えば、冠動脈遮断に起因した、例えば虚血−再灌流損傷、うっ血性心不全、心停止および心筋梗塞のような種々の様々な心臓関連の病気の処置において、ならびに心臓保護のために、有益であることが見出された。特にPQQは、心筋の酸化的ストレスを調節し、その結果、心筋細胞(これは、酸化的ストレスの対象である)が細胞死から保護されることが見出された。
【0008】
本発明の組成物および方法は、インビボおよびエキソビボでの低酸素/虚血性の心臓損傷の減少または除去、ならびに心血管疾患の予防および/または処置の必要のある哺乳動物(例えば、ヒト)における心血管疾患の予防および/または処置に驚くほど役立つ。
【0009】
本発明の別の局面では、PQQは、心臓保護シグナリング経路を調節(例えば、効果を増強または維持)する(例えば、ミトコンドリアチャネルmitoKATP、一酸化窒素−プロテインキナーゼC経路およびアンジオテンシン変換酵素経路を制御する)ことが見出された。
【0010】
本発明の別の局面では、本発明は、心筋の酸化的ストレスを調節する薬剤を投与し、その結果、心筋細胞が細胞死から保護されることによって、被験体の心筋細胞における心筋の酸化的ストレスを処置または防止することに関した。
【0011】
本発明の別の局面では、本発明は、心筋の低酸素性または虚血性の損傷を調節する薬剤を投与し、その結果、心筋細胞が細胞死から保護されることによって、被験体における心筋の低酸素性または虚血性の損傷を処置または防止することに関した。
【0012】
本発明の別の局面では、PQQが、心筋の酸化的ストレスによって引き起こされるフリーラジカル損傷を調節することが見出された。虚血条件または低酸素条件によって生成されるフリーラジカルは、心筋の死に至る心筋損傷の重大な原因であることが見出された。それゆえ、インビボで無毒性投与量において投与されるPQQの投与は、心筋の酸化的ストレスのフリーラジカル損傷を阻害または防止するための有効な処置である。
【0013】
本発明はさらに、被験体に無毒性量のPQQを投与し、その結果、冠動脈血流が改善されることによって、被験体における冠動脈血流を改善する方法に関する。
【0014】
一つの局面では、本発明は、(例えば、心臓損傷を処置または防止するのに有効な量の)ピロロキノリンキノンを投与することによって、被験体における低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷を処置または防止することに関する。PQQは、無毒性濃度(例えば、約1nMと10μM未満との間、900μM未満、700μM未満、500μM未満、300μM未満、100μM未満または50μM未満が挙げられる)で代表的に投与される。他の実施形態では、PQQは約1〜10μMの濃度で投与され得る。他の実施形態では、PQQは被験体の体重に相関して投与される。PQQは代表的に、被験体の体重の約1μg/kg〜1g/kgの間の濃度で(500mg/kg未満、250mg/kg未満、100mg/kg未満、10mg/kg未満、5mg/kg未満、3mg/kg未満、2mg/kg未満、1mg/kg未満、500μg/kg未満、250μg/kg未満、100μg/kg未満、10μg/kg未満、5μg/kg未満、2μg/kg未満または1μg/kg未満が挙げられる)投与され得る。
【0015】
本発明は、(例えば、心臓保護をもたらすのに有効な量の)PQQおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む心臓保護剤をさらに含む。また含まれるのは、心臓損傷、発作または片頭痛の危険性がある患者を処置するためのキットであって、一以上の容器において、有効量のピロロキノリンキノン、薬学的に受容可能なキャリアおよび使用説明書を備えるキットである。
【0016】
別の局面では、本発明は、NADPH依存性メトヘモグロビンレダクターゼ基質の投与による、インビボで低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷の処置または防止;ならびに有効量のNADPH依存性メトヘモグロビンレダクターゼ基質、薬学的に受容可能なキャリアおよび使用説明書を備える、心臓損傷の処置または防止に使用するためのキットに関する。。本発明のいくつかの実施形態では、NADPH依存性メトヘモグロビンレダクターゼ基質は、赤血球(例えば、哺乳動物赤血球(例えば、ヒト、ウシまたはマウス)または非哺乳動物赤血球(例えば、Rana catesbeiana))から精製される。
【0017】
さらに別の局面では、本発明は、器官移植または組織移植中の器官損傷を防止する方法に関し、ここで、PQQは、器官ドナーに、器官または組織の取り出し前に、および/または取り出しと同時に投与される。本発明は、器官移植または組織移植中の器官損傷を防止するために使用されるキットに関し、このキットは、有効量のピロロキノリンキノン、薬学的に受容可能なキャリアおよび使用説明書を備える。
【0018】
さらなる局面では、本発明は、所望の保護効果を得るのに有効な量のPQQを投与することによって、(例えば、心不全を患っている被験体において)発作を防止するための方法に関する。PQQは望ましくは、例えば、約1〜10μMの濃度で投与され得る。
【0019】
本発明は、PQQおよび一以上のさらなる治療用化合物を投与することによって、被験体における心不全を処置するための方法を含む。いくつかの実施形態では、さらなる治療用化合物は、抗血小板薬、抗凝固薬および/もしくは抗血栓薬またはそれらの組み合わせであり得る。
【0020】
別の局面では、本発明は、心筋梗塞が減少するかまたは安定するレベルでPQQを投与することによって、被験体における心筋梗塞を処置する方法に関する。
【0021】
さらに別の局面では、本発明は、PQQで被験体を処置することによって、被験体における片頭痛を防止する方法に関する。PQQは望ましくは、例えば、約1〜約10μMの濃度で投与され得る。
【0022】
さらに別の局面では、本発明は、PQQで被験体を処置することによって、低体温を患っているかまたは低体温の危険性がある被験体における再灌流損傷を防止する方法に関する。PQQは望ましくは、例えば、約1〜約10μMの濃度で投与され得る。
【0023】
本発明はさらに、PQQで被験体を予め処置することによって、被験体におけるバルーン血管形成術の後の血管閉塞の防止のための方法に関する。被験体はまた、PQQおよび一以上のさらなる治療用化合物(例えば、クマジン(coumadin)、アンギオテンシン変換酵素(ACE)インヒビター(例えば、カプトプリル、ベナゼプリル、エナラプリル、ホシノプリル、リシノプリル、キナプリル、ラミプリル、イミダプリル、ペリドプリルエルブミン(peridopril erbumine)、およびトランドラプリル)およびACEレセプター遮断薬(例えば、ロサルタン(losartan)、イルベサルタン(irbesartan)、カンデサルタンシレキセチル(candesartan cilexetil)およびバルサルタン(valsartan))によって、予め処置されてもよい。いくつかの実施形態では、さらなる治療用化合物は、抗血小板薬、抗凝固薬および/もしくは抗血栓薬、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0024】
別の局面では、本発明は、被験体にPQQを投与することによって、低体温損傷を患う被験体における再灌流損傷を防止または減少させるための方法を含む。
【0025】
本発明はさらに、心筋梗塞を処置する必要のある被験体における心筋梗塞を処置するための薬学的組成物に関し、この組成物は、治療的に有効な用量のピロロキノリンキノンおよび治療的に有効な用量のメトプロロールを含む。心筋梗塞を処置するための薬学的組成物の一実施形態では、ピロロキノリンキノンの治療的に有効な用量は、3mg/kgである。心筋梗塞を処置するための薬学的組成物の別の実施形態では、メトプロロールの治療的に有効な用量は、1mg/kgである。
【0026】
本発明はさらに、低酸素または虚血に関連した心臓損傷を処置または防止するためのキットに関し、このキットは、一以上の容器に、ピロロキノリンキニーネ、メトプロロール、薬学的に受容可能なキャリアおよびこのキットの使用説明書を備える。
【0027】
本発明はさらに、心筋の酸化的ストレスを処置または防止する必要のある被験体に治療的に有効な用量のピロロキノリンキノンおよび治療的に有効な用量のメトプロロールを投与する工程を包含する、被験体における心筋の酸化的ストレスを処置または防止する方法に関する。
【0028】
本発明はさらに、心筋梗塞を処置または防止する必要のある被験体に治療的に有効な用量のピロロキノリンキノンおよび治療的に有効な用量のメトプロロールを投与する工程を包含する、被験体における心筋梗塞を処置または防止する方法に関する。
【0029】
本発明はさらに、低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷を処置または防止する必要のある被験体に治療的に有効な用量のピロロキノリンキノンおよび治療的に有効な用量のメトプロロールを投与する工程を包含する、被験体における低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷を処置または防止する方法に関する。
【0030】
本発明のこれらおよび他の目的は、以下に提供する発明の詳細な説明から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(発明の詳細な説明)
本発明の特徴および他の詳細は、ここで、添付の図面を参照してより詳細に記載されており、特許請求の範囲において示される。本明細書に記載される特定の実施形態が例示として示され、そして、本発明の限定ではないことが理解される。本発明の主な特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく、各種実施形態において使用され得る。部およびパーセンテージは全て、他に特定しない場合には、重量による。
【0032】
(定義)
便宜上、明細書、実施例および添付の特許請求の範囲において使用される特定の用語をここで集める。他に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。しかし、これらの定義が当該分野内で広まっている意味から変化する場合には、下記の定義が優先する。
【0033】
「虚血」は、心筋血流の減少または停止を含む。
【0034】
「低酸素」は、身体組織に到達する酸素量の欠乏を含む。
【0035】
「低酸素または虚血に関連した損傷」は、心臓損傷を含む。
【0036】
「再灌流」は、心臓発作または発作の後のようにその血液供給が中断した器官または組織への血流の回復を含む。
【0037】
「酸化的ストレス」は、過剰のフリーラジカル、抗酸化剤レベルの減少またはその両方が存在する場合に発生する状態を含む。
【0038】
「壊死」は、(特に、身体の局部(例えば、心筋)での)損傷または疾患による細胞または組織の死を含む。
【0039】
「アポトーシス」とは、プログラム細胞死をいう。
【0040】
「β遮断剤」は、アドレナリンβレセプターにおいて競合的アンタゴニストとして作用する薬剤(例えば、アテノロール、メトプロロールおよびプロプラノロール)を含む。このような薬剤はまた、減少した全身性副作用を許容する、心臓(β−1)レセプターに関してより選択的なものを含む。β遮断剤は、高血圧、心臓不整性、片頭痛および交感神経系に関連した他の障害と関係がある症状を減らす。β遮断剤はまた、時々、心臓発作の後、心拍を安定させるために与えられる。交感神経系の中でも、βアドレナリン作用性レセプターは、主に心臓、肺、腎臓および血管に位置する。β遮断剤は、神経刺激ホルモンエピネフリンとこれらのレセプター部位を競合し、従って、エピネフリンの作用を妨害し、血圧および心拍数を低下させ、不整性を止め、そして片頭痛を防止する。
【0041】
「心臓損傷」は、虚血−再灌流損傷;うっ血性心不全;心停止;心筋梗塞;化合物(例えば、薬物(例えば、ドキソルビシン、ハーセプチン(herceptin)、チオリダジンおよびシサプリド(cisapride)))によって引き起こされる心臓毒性;寄生生物感染(細菌、菌類、リケッチアおよびウイルス(例えば梅毒、慢性Trypanosoma cruzi感染))による心臓損傷;劇症心臓アミロイドーシス;心臓手術;心臓移植;および外傷性心臓損傷(例えば、穿通性もしくは閉鎖性心臓損傷、大動脈弁破裂)を含め、心臓および/または関連する組織(例えば、心膜、大動脈および他の関連する血管)を含む任意の慢性または急性の病理学的事象を含む。
【0042】
「被験体」は、生きている生物体(例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、これらからの培養細胞およびそれらのトランスジェニック種)を含む。好ましい実施形態では、被験体は、ヒトである。処置される被験体に対する本発明の組成物の投与は、公知の手順を用いて、被験体における状態を処置するのに有効な投与量でかつ有効な期間にわたって実施され得る。治療効果を達成するのに必要な治療用化合物の有効量は、年齢、性別および被験体の体重のような要因、ならびに治療用化合物が被験体における外来因子を処置する能力に従って変化し得る。投与量のレジメンは、最適治療応答を提供するように調節され得る。例えば、いくつかに分割された用量が毎日投与されてもよく、または用量は治療状態の緊急性により示されるように比例して減少されてもよい。
【0043】
「実質的に純粋な」とは、天然では一緒にある構成要素から分離された化合物(例えば、薬、タンパク質またはポリペチド)を含む。サンプル中の全材料の(体積、湿重量もしくは乾燥重量、またはモルパーセントまたはモル分率によって)少なくとも10%、より好ましくは、少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも99%が目的の化合物である場合、化合物は実質的に純粋である。純度は、任意の適切な方法(例えば、ポリペチドの場合、カラムクロマトグラフィ、ゲル電気泳動またはHPLC分析による)によって測定され得る。化合物(例えば、タンパク質)はまた、天然で会合している構成要素を実質的に含まない場合、または天然の状態で付随している天然の夾雑物から分離されている場合、実質的に精製されている。用語「実質的に純粋な」の意味の範囲内に含まれるのは、サンプル中の総タンパク質の(体積、湿重量もしくは乾燥重量、またはモルパーセントもしくはモル分率によって)少なくとも95%が目的のタンパク質またはポリペチドである、均一に純粋である化合物(例えば、タンパク質またはポリペチド)である。
【0044】
「投与する」は、本発明の組成物がその意図された機能(例えば、低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷の処置または防止)を発揮し得る投与経路を含む。処置されるべき疾患または状態に依存して、非経口投与(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下の注射)、経口投与(例えば、食事)、局所、鼻、直腸、または徐放性マイクロキャリアが挙げられるが、これらに必ずしも限定されるわけではない、様々な投与経路が可能である。口腔投与、非経口投与および静脈内投与は好適な投与形態である。投与されるべき化合物の処方物(例えば、液剤、乳剤、ゲル剤、エアゾール剤、カプセル剤)は、選択される投与経路に従って変化する。投与されるべき化合物を含む適切な組成物は、生理的に受容され得るビヒクルまたはキャリアおよび必要に応じて佐剤および保存剤中で調製され得る。液剤または乳剤に関して、適切なキャリアとしては、例えば、生理的食塩水、緩衝化媒質、滅菌水、クリーム、軟膏、ローション、油、ペーストおよび固体キャリアを含め、水性またはアルコール性/水性の溶液、乳液または懸濁液が挙げられる。非経口的ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲルまたは固定油が挙げられ得る。静脈内ビヒクルは、様々な添加剤、保存剤または流体、栄養分もしくは電解質補充剤を含み得る(一般に、Remington’s Pharmaceutical Science、第16版、Mack、Ed.(1980)を参照のこと)。
【0045】
「有効量」は、その意図された機能(例えば、本明細書に記載される通りの低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷を部分的または完全に処置または防止する)を発揮し得るピロロキノリンキノン量を含む。有効量は、生物学的活性、年齢、体重、性別、全般的健康状態、処置されるべき状態の重篤度、ならびに適切な薬物動態学的特性を含む多くの要因に依存する。例えば、活性物質の投与量が、約0.0lmg/kg/日〜約500mg/kg/日(有利には、0.lmg/kg/日〜約100mg/kg/日)であり得る。活性物質の治療に有効な量は、一回用量または複数回用量で、適切な経路により投与され得る。さらに、活性物質の投与量は、治療状況または予防状況の緊急性により示されるように、比例して増減され得る。
【0046】
「特異的結合」または「特異的に結合する」は、タンパク質(例えば、ピロロキノリンキノンまたはそのリガンドを認識して結合するが、サンプル中の他の分子を実質的には認識も結合もしない抗体)を含む。
【0047】
「薬学的に受容可能なキャリア」は、化合物の活性と適合性であってかつ被験体にとって生理的に受容され得る、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを包含する。薬学的に受容可能なキャリアの例は、緩衝化通常生理食塩水(0.15M NaCl)である。薬学的に活性な物質のこのような媒質および薬剤の使用は、当該分野で周知である。任意の従来の媒質または薬剤が治療用化合物と適合性でない場合を除いて、薬学的投与に適している組成物におけるその使用が意図される。補助活性化合物もまた、組成物に組み込まれ得る。
【0048】
「薬学的に受容可能なエステル」は、本発明の治療用化合物の比較的無毒性のエステル型生成物を包含する。これらのエステルは、治療用化合物の最終的な単離および精製中に、またはその遊離酸形態もしくはヒドロキシルの精製された治療用化合物を適切なエステル化剤と別々に反応させることによって、現場で調製され得る;いずれも、当業者に公知の方法である。酸は、例えば、触媒存在下でのアルコールでの処理によって、当業者に周知の方法に従って、エステルに変更され得る。
【0049】
「さらなる成分」としては、以下のうちの一以上が挙げられるがこれらに限定されない:賦形剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤;顆粒化および崩壊剤;結合剤;滑沢剤;甘味料;矯味矯臭剤;着色剤;保存剤;生理的に分解可能な組成物(例えば、ゼラチン);水性ビヒクルおよび溶媒;油性ビヒクルおよび溶媒;懸濁剤;分散または湿潤剤;乳化剤、粘滑剤;緩衝剤;塩;増粘剤;充填材;乳化剤;抗酸化剤;抗生物質;抗真菌剤;安定剤および薬学的に受容可能なポリマー材料または疎水性材料。本発明の薬学的組成物に含まれ得る他の「さらなる成分」は、当該分野で公知であり、そして例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。
【0050】
「単位用量」は、所定量の活性成分を含んでいる、別々の量の薬学的組成物を含む。
【0051】
ピロロキノリンキノン(PQQ)は、様々な還元剤と酸化剤との間で触媒的に電子を移動させ得る水溶性アニオン性キノンであり、真核生物細胞における可溶性電子伝達系の一部であり得る。本来のPQQは、以下の一般構造のものである:
【0052】
【化1】

「ピロロキノリンキノン」は、PQQの密接に関連した異性体アナログおよび立体異性体アナログを含め、化学的類似性を有するピロロキノリンキノンファミリーの任意のメンバーを包含する(例えば、Zhangら,1995,Biochem.Biophys.Res.Commun.212:41−47,1995を参照のこと)。PQQは、メトキサチン(methoxatin)としても公知である。PQQは、動物の組織および体液中に見出される。理論に束縛されることを望まないが、PQQは、特に反応性酸素種(ROS)のフリーラジカルスカベンジャーとして部分的に作用し得る。それゆえ、PQQは、NADPH依存性メトヘモグロビンレダクターゼ基質として機能し得る(例えば、Xuら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1992,89(6):2130−4を参照のこと)。他のNADPH依存性メトヘモグロビンレダクターゼ基質は、低酸素または虚血に関連した心臓損傷を減少させるかまたは除去するように機能し得る。
【0053】
実質的に精製されたピロロキノリンキノンを含んでいる組成物は、ピロロキノリンキノンを単独でまたはβ遮断剤のような他の成分および心臓保護シグナリング経路を好都合に調節するのに効果的である化合物(例えば、フェニレフリン、スフィンゴシン−1−リン酸またはガングリオシドGM−1)と組み合わせて含み得る。ピロロキノリンキノンは、当業者に周知の方法のいずれかによって実質的に精製され得る(例えば、E.J.CoreyおよびAlfonso Tramontano,J.Am.Chem.Soc.,103,5599−5600(1981);J.A.Duine,Review Ann.Rev.Biochem.58,403(1989)を参照のこと)。
【0054】
本発明のピロロキノリンキノンは、1つの実施形態では、薬学的組成物の成分であり、薬学的組成物はまた、薬学的組成物として受容され得る、緩衝剤、塩、他のタンパク質および他の成分を含み得る。本発明はまた、ピロロキノリンキノンの改変形態を含み、これは、本明細書に記載される通りの低酸素/虚血性の心臓損傷を防止または低減し得る。
【0055】
本発明の治療用化合物の構造は、不斉炭素原子を含み得る。このような非対称から生じる異性体(例えば、エナンチオマーおよびジアステレオマー)は本発明の範囲内に含まれることがしたがって理解されるべきである。このような異性体は、古典的分離技術によって、そして、立体配置的に制御された合成によって、実質的に純粋な形態で入手され得る。本出願に関しては、はっきりとそうでないと注記されない限り、治療用化合物は各キラル中心におけるR立体異性体またはS立体異性体の両方を含むと解釈されるものとする。ある実施形態では、本発明の治療用化合物は、カチオンを含む。カチオン性基が水素(H)である場合、治療用化合物は酸と考えられる。水素が金属イオンまたはその等価物と置き換えられる場合、治療用化合物は酸の塩である。治療用化合物の薬学的に受容可能な塩(例えば、薬学的に受容可能なアルカリ金属(例えば、Li、NaまたはK)塩、アンモニウムカチオン塩、アルカリ土類カチオン塩(例えば、Ca2+、Ba2+、Mg2+)、より高い価数のカチオン塩、またはポリカチオン性の対イオン塩(例えば、ポリアンモニウムカチオン)は、本発明の範囲内にある(例えば、Bergeら(1977)「Pharmaceutical Salts」,J.Pharm.Sci.66:1−19を参照のこと)。塩形成対イオン(ある場合)に対するアニオン性化合物の化学量論が、この化合物のアニオン性部分の電荷(ある場合)およびこの対イオンの電荷に依存して変化することが理解される。好適な薬学的に受容可能な塩としてはナトリウム、カリウムまたはカルシウムの塩が挙げられるが、他の塩もまた、それらの薬学的に受容可能な範囲内で意図される。
【0056】
本発明は、被験体における(例えば、低酸素または虚血によって引き起こされる)心筋の酸化的ストレスを処置または防止する方法に関する。これは、その必要のある被験体に、(好ましくは無毒性量の)心筋の酸化的ストレスを調節する薬剤(例えば、PQQ)を投与し、その結果、酸化的ストレスの標的である心筋細胞が細胞死から保護されることによって行われる。細胞死は、例えば、壊死またはアポトーシスに起因し得る。
【0057】
心臓保護シグナリング経路は、当該分野で公知である。これらの経路は、心臓保護シグナリング経路の効果を強化または維持するのに有効な量のピロロキノリンキノンを投与することによって、心臓保護を必要とする患者における強化のために目標とされ得る。
【0058】
虚血性条件または低酸素条件によって発生するフリーラジカルが、心筋の死に至る心筋損傷の重大な原因であることが見出された。それゆえ、(例えば、無毒性投与量において)インビボで投与されるPQQの投与は、PQQ媒介性フリーラジカルスカベンジングまたはフリーラジカル生成の阻害のいずれかによって、心筋の酸化的ストレスのフリーラジカル損傷を阻害または防止するための有効な処置である。
【0059】
臨床的に必要であるかまたは望ましい場合(例えば、再灌流の開始時または再灌流の前)に、本発明の化合物の投与がされ得る。
【0060】
冠動脈流の改善の必要のある被験体に無毒性量のピロロキノリンキノンを投与することによって、被験体(例えば、低血流状態を患う被験体)において冠動脈流が有益に改善され得ることもまた、驚くべきことに見出された。これは、実施例において、例示される。冠動脈流は、いくつかの指標(例えば、左心室拡張期圧(「LVDP」)または左心室拡張末期圧(「LVEDP」))によって測定され得る。例えば、LVDPまたはLVEDPを決定することによる、冠動脈流の測定は、当業者の技術範囲内である。
【0061】
それゆえ、低酸素または虚血(例えば心筋梗塞)によって引き起こされる心臓損傷は、(好ましくは無毒性投与量の(例えば、約10μM未満の濃度の))ピロロキノリンキノンの投与によって処置または防止され得る。
【0062】
ラットを、2つの異なるモデルの対象であるPQQ処置を受けた。モデル1(図10Aに模式的に示される)において、雄性Sprague−Dawleyラットを、再灌流なしで2時間の左前下行(LAD)冠動脈結紮に供した。モデル2(虚血−再灌流、図10Bに示す)において、ラットは、左心室(LV)血行力学をモニタリングしながら17分間または30分間のLAD閉塞および2時間の再灌流に供した。PQQ(15〜20mg/kg)は、ヒトにおける臨床状態を模倣するために、LAD閉塞の30分前にi.p.注射によって(前処置)、または再灌流の開始時にi.v.注射によって(処置)のいずれかで与えられた。コントロールは、ビヒクル(2% NaHCO)を受けた。
【0063】
モデル1において、PQQ処置の後の梗塞の大きさ(梗塞量/LV量)は、コントロールより小さかった(コントロールでは19.1±2.1%であるのに対して、PQQ処置は10.0±1.5の梗塞の大きさをもたらした;n=9、P<0.01)。モデル2において、PQQでの前処置または処置のいずれもが、梗塞の大きさ(梗塞量/危険領域)の減少をもたらした(PQQ前処置の梗塞の大きさは18.4±2.3、そして処置の梗塞の大きさは25.6±3.5%、これに対して、コントロールは38.1±2.6%、P<0.01)。PQQは、1〜2の後、より高いLV発生圧力、LV(+)dP/dtおよびより低いLV(−)dP/dtにおいて、虚血誘発性の心臓機能不全を防止した。
【0064】
まとめると、PQQは、虚血または虚血−再灌流からなる2つの別々のインタクトなラット梗塞形成モデルにおいて心臓保護効果を有した。PQQは、虚血もしくは虚血−再灌流の前に与えられた場合、または再灌流の開始時に与えられた場合のいずれにおいても、梗塞の大きさを低下させた。さらに、PQQは、1〜2時間の再灌流において増加した左心室(LV)発生圧力およびLV(+)dP/dtにより証明されたように、有益な血行力学的効果を有した。PQQでの前処置は、ラットあたりの平均的心室性細動(VF)エピソードおよびVFを有するラットのパーセンテージを減少させたが、PQQでの処置は、虚血および再灌流中にVFを有するラットのパーセンテージを減少させた。PQQの用量は、梗塞の大きさに逆に相関した。PQQは、虚血心筋におけるマロンジアルデヒド(MDA)(脂質過酸化の指標)のレベルを低下させた。
【0065】
モデル2における3つの群の虚血−再灌流期間中の死亡率は、PQQの後に減少する傾向があった(コントロール:28.6%、前処置:12.9%、処置:21.7%)。しかし、これらの結果は、統計的有意差には至らなかった。研究が梗塞の大きさおよび血行力学の測定に集中して、より多数の動物を必要とする死亡率試験として設計されなかった点に留意すべきである。
【0066】
再灌流の開始時に与えられる場合、PQQもまた効果的である。マロンジアルデヒド(MDA:チオバルビツール酸と反応する脂質過酸化産物)の心筋組織レベルの研究を完了した。虚血/再灌流はMDAレベルを上昇させ、そしてPQQはこの上昇を防止した。虚血/再灌流(I/R)後のPQQと偽コントロールとを比較した値は、3倍異なった。類似の効果は、離れた「正常」心筋において見られた。
【0067】
前処置としてまたは再灌流の開始時の処置としてのいずれかで与えられるPQQは、虚血および虚血−再灌流のラットモデルにおいて用量関連様式で、心筋梗塞の大きさを減らして、心機能を改善することに非常に効果的である。脂質過酸化のこの指標がPQQによって減少したことを示すマロンジアルデヒド(MDA)の結果は、PQQが虚血心筋のフリーラジカルスカベンジャーとして作用することを示唆する。
【0068】
理論に束縛されることを望まないが、1つの可能なPQQ作用機構は、PQQがフリーラジカルスカベンジャーとして作用するということである。最近の研究は、PQQがキノンタンパク質酵素の補因子として作用することに加えてフリーラジカルスカベンジャーとして機能することを示す(Urakami Tら,J Nutr Sci Vitaminol(Tokyo)1997;43:19−33,He Kら,Biochemical Pharmacology 2003;65:67−74)。PQQは、ペルオキシ硝酸形成を抑制することによって、神経保護剤として作用し得る(Zhang YおよびRosenberg PA)。PQQはミトコンドリアを酸化的ストレス誘発性脂質過酸化、タンパク質カルボニル形成およびミトコンドリア呼吸鎖の不活化から保護する有効な抗酸化剤であった(He Kら,Miyauchi Kら,Antioxid Redox Signal 1999;1:547−554)。食細胞(例えば、単球および好中球)は、刺激に応答してスーパーオキシドを生成する。PQQのレドックスサイクリングのいくつかのインヒビターは、刺激された好中球および単球の両方によるスーパーオキシド放出についての遮断剤であることが証明された。これはPQQがマクロファージおよび好中球の両方の呼吸バーストに関係していることを示唆する(Bishop Aら,Free Radic Bio Med 1995;18:617−620,Bishop Aら,Free Radic Bio Med 1994;17:311−320)。
【0069】
本発明者らの結果は、上記の研究と一貫している。本発明者らは、PQQでの前処置が梗塞ゾーンの、および離れた「正常」心筋の心筋MDAレベルを有意に低下させることを見出した。本発明者らのデータは、MDAがこの推定上の正常領域においてI/Rによって増加したことを示しており、ヒトおよび動物における急性虚血中の離れた心筋のLV機能不全の存在を示している他の研究者による報告と一致する(Yang Zら,Circulation 2004;109:1161−1167,Kramer CMら,Circulation 1996;94:660−666)。本発明者らの観察は、PQQが脂質過酸化を減らして、虚血性心筋および非虚血性心筋の両方のスーパーオキシドを不活化するという仮説と一貫している。それゆえ、虚血−再灌流損傷に対するPQQの保護効果は、フリーラジカルスカベンジャーとしてのその作用に起因し得る。本発明者らの研究において、前処置または処置のいずれかとしても与えられるPQQはまた、心室性細動の発生率を低下させた。さらに、PQQは、抗不整脈効果を直接有し得、その抗虚血特性に起因してVFの減少を引き起こし得る。
【0070】
下記の実施例5に示されるデータは、PQQが脂質過酸化を減らすとともにスーパーオキシドをスカベンジングすることを示唆する。I/R損傷に対するPQQの保護効果がフリーラジカルスカベンジャーとしてのその作用に起因するというさらなる証拠。MDAが推定の正常領域においてI/R後に増加したという観察は、ヒトおよび動物モデルの両方において、梗塞ゾーンから遠く離れた心筋が機能抑制を呈することを示す他の研究者により報告された観察と一貫している。
【0071】
再灌流時に梗塞の大きさを減らすのに効果的であるPQQで最少の用量もまた、実施例5に示すようにも決定された。加えて、本発明者らは、ミトコンドリア機能に対するこの用量のPQQの効果を決定した。これらの研究のために、以前に記載された組織調製法を用いた。心臓を、左前下行冠動脈によって灌流される領域を含んでいる前部分と、非梗塞性後部部分とに視覚的に長手軸方向に分けた。ラットを、2時間の再灌流の開始の直前の30分間の虚血(I/R)後、PQQにより処置したかまたは処置しなかった(偽コントロール)。
【0072】
1mg/kgのPQQを用いた再灌流開始時の処置は、心臓も単離されたインタクトなミトコンドリアも、I/R損傷から保護しなかった。しかし、3mg/kgのPQQだけでの処置は、梗塞の大きさを49%減少させるのに、そしてミトコンドリア呼吸を回復させるのに非常に効果的であった。これらの実験において、血行力学の結果は、以前の報告に記載されている結果と異ならなかった。
【0073】
本発明者らのデータはまた、高危険度患者におけるPQQの予防的投与または活性な虚血性エピソード時の処置のいずれもが、梗塞の大きさおよび心室性不整脈を減らすことによって有益であることを示す。本発明者らの結果はまた、これらの手順が急性心筋梗塞の早期処置として使用される場合、PQQでの処置がまた化学的血栓崩壊またはバルーン血管形成術/ステント術と同時に発生する再灌流時にも有効であることを示す。この研究において全身血行力学に対する抑制効果がないこともまた有望である。フリーラジカル生成が損傷の最大の原因である虚血−再灌流損傷の他のモデルにおけるさらなる調査が所望され得る。急性毒性、特にラットにおいて記載された腎機能に対する有害な副作用(Watanabe Aら,Hiroshima J Med Sci 1989;38:49−51)およびヒトにおけるPQQの潜在的利点は、あるとしても、未決定のままである。
【0074】
それゆえ、虚血前の前処置として、または虚血後の再灌流開始時の処置としてのいずれかで与えられるPQQは、インタクトなラットにおいて用量関連様式で、心筋梗塞の大きさを減らして、心機能を改善することに非常に効果的である。PQQは、虚血心筋においてフリーラジカルスカベンジャーとして作用するようである。
【0075】
メトプロロールは、β選択的(心選択性)アドレナリン作用性レセプター遮断剤である。メトプロロールは、心臓の酸素要求量を減らし、心拍数を減らし、そして安静時および運動時の心拍出量を減らす;とりわけ、収縮期血圧を減らす。この薬物は、50mgおよび100mgの錠剤として、酒石酸塩(LOPRESSORTM,Geigy Pharmaceuticalsとして、米国において入手可能である。有効な1日用量は100mg〜450mgであり、そしてLOPRESSORTMは通常、2つの1日用量で与えられる100mgとして投与される。メトプロロールは、コハク酸塩(TOPROL XLTM、Astra Pharmaceutical Products,Inc.)としての米国の50mg、100mgおよび200mgの長期放出錠剤(これは、1日1回だけ投与され得る)として入手可能である。
【0076】
PQQは、メトプロロールと共に投与され得る。下記の実施例6に示される結果は、PQQおよびメトプロロールを一緒に使用することにより、PQQまたはメトプロロールを単独で使用するよりも大きく梗塞の大きさを減らす傾向があったことを示す。一実施形態では、メトプロロールは、PQQの用量とともに1:3の比で投与される。例えば、3mg/kgの用量のPQQには、1mg/kgの用量のメトプロロールが付随する。別の実施形態では、メトプロロールは、1日あたり約50mg〜約500mg/日の1日用量のPQQと合わせて、約50mg〜約450mgの1日用量で投与される。心筋の酸化的ストレスを、PQQとメトプロロールとの組合せの投与によって、防止または最小化し得されることができて、それゆえ、心血管および他の疾患を処置することに関して利点をする。特に、PQQとメトプロロールとの組合せは心臓保護剤として有効であり、それゆえ、虚血−再灌流損傷、うっ血性心不全、心停止および心筋梗塞(例えば、冠動脈妨害に起因する)のような種々の様々な心臓関連の病気の処置において、そして、心臓保護のために有用である。この組合せは特に、心筋の酸化的ストレスを調節し、その結果、心筋細胞(これは、酸化的ストレスの対象である)を細胞死から保護することに役立つ。
【0077】
本発明は、被験体における低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷を処置または防止する方法を包含し、ここで、PQQはその必要のある被験体に投与され、その結果、低酸素または虚血に関連した損傷は防止されるかまたは減少する。ある実施形態では、PQQは、約10μM未満の濃度で投与される。他の実施形態では、PQQは、約10nM〜約10μM、約10nM〜約1μM、100nM〜約10μM、および100nM〜約500nMの範囲の濃度で投与される。本発明のさらに他の実施形態では、PQQは、心臓の組織部位におけるPQQの濃度が10nM〜約10μMの範囲にあるような濃度で投与される。PQQはまた、被験体の体重に相関して投与され得る。本発明のいくつかの実施形態では、PQQは、被験体の体重の約1μg/kg〜1g/kgの間の濃度で(500mg/kg未満、250mg/kg未満、100mg/kg未満、10mg/kg未満、5mg/kg未満、3mg/kg未満、2mg/kg未満、1mg/kg未満、500μg/kg未満、250μg/kg未満、100μg/kg未満、10μg/kg未満、5μg/kg未満、2μg/kg未満または1μg/kg未満が挙げられる)投与される。本発明のさらなる実施形態では、PQQは、無毒性濃度で投与される。無毒性濃度は、細胞増殖阻害性であるが、細胞毒性ではないPQQ濃度および意図された一以上の細胞型(例えば、心筋細胞)以外の細胞型に対して細胞毒性である濃度を包含する。一以上の細胞型に対する既知濃度のPQQの細胞毒性の決定は、当業者の能力範囲内である。非限定的な例として、培養された成体マウス心臓筋細胞に対する毒性は、100μMのPQQの濃度で観察される。いくつかの実施形態では、PQQは、他の化合物(例えば、抗血小板薬、抗凝固薬および抗血栓薬)と共に投与される。
【0078】
本発明の方法および組成物により処置または防止され得る心臓損傷としては、低酸素および/または虚血によって引き起こされるかまたはそれらによって影響を受ける全ての心臓損傷が挙げられる。このような損傷としては、虚血−再灌流損傷、うっ血性心不全、心筋梗塞、薬物(例えば、ドキソルビシン)のような化合物によって引き起こされる心臓毒性、寄生生物感染、劇症心臓アミロイドーシス、心臓手術、心臓移植および外傷性心臓損傷に起因する心臓損傷が挙げられるが、これらに限定されない。関連する血管および/または組織(例えば、心膜)を含め、心臓の全体または一部が損傷し得る。
【0079】
本発明はまた、低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷を処置または防止する必要のある被験体にNADPH依存性メトヘモグロビンレダクターゼ基質を投与し、その結果、低酸素または虚血関連の損傷が防止されるかまたは減少することによって、被験体における低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷を処置または防止する方法を包含する。本発明の実施形態では、NADPH依存性メトヘモグロビンレダクターゼ基質は、赤血球(例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ウシまたはマウスの)赤血球または非哺乳動物赤血球(例えば、Rana catesbeiana))から精製される。当業者は、最小の実験を用いてNADPH依存性メトヘモグロビンレダクターゼ基質を単離および精製する方法を知っている。
【0080】
本発明は、ドナーに器官または組織の取り出しより前にまたは取り出しと同時にピロロキノリンキノンを投与し、その結果、この器官または組織の再灌流によって引き起こされる損傷が減少するかまたは防止されることによって、器官移植または組織移植中の器官または組織の損傷を防止する方法をさらに包含する。好ましい実施形態において、移植されるべき器官または組織は、心臓または心臓組織である。PQQは、ドナーからの器官または組織の外科的取り出しの後に、器官または組織と接触され得る。いくつかの実施形態では、PQQは、公知の器官保存溶液または組織保存溶液(例えば、ウィスコンシン大学溶液またはCelsior溶液)に加えて添加される(例えば、Thabutら,Am J Respir Crit Care Med,2001,164(7):1204−8;Faenzaら,Transplantation,2001,72(7):1274−7を参照のこと)。
【0081】
本発明は、ピロロキノリンキノンおよび薬学的に受容可能なキャリアで被験体を処置することによって、心不全を患っている被験体(例えば、ヒト)の発作を防止する方法をなおさらに包含する。いくつかの実施形態では、ピロロキノリンキノンは、約10μM未満の濃度で被験体に投与される。PQQは、患者の発作の可能性を増大させ得る外科的手順の前またはその手順と同時に投与され得る。一実施形態では、手順は、バルーン血管形成術である。他の手順としては、冠動脈バイパス手術および弁置換術手術が挙げられる。PQQは、抗血栓剤(例えば、クマジン)の前、抗血栓剤と同時または抗血栓剤後に投与され得る。
【0082】
本発明はまた、ピロロキノリンキノンおよび薬学的に受容可能なキャリアで被験体を処置することによって、被験体(例えば、ヒト)の頭痛を和らげるかまたは予防する方法を包含する。このような頭痛としては、急性および慢性の片頭痛および洞性の頭痛が挙げられる。
【0083】
本発明は、ピロロキノリンキノンおよび薬学的に受容可能なキャリアで被験体を処置することによって、低体温を患う被験体(例えば、ヒト)の再灌流損傷を防止する方法をなおさらに包含する。被験体は、当該分野で一般に公知であるように、低体温症を患っている人を処置するための標準復温手順より前にまたはこの手順と同時にPQQで処置され得る。
【0084】
上記のように、PQQとメトプロロールとの併用治療は、本発明の一部である。本発明の併用治療は、患者における心筋梗塞の所望の処置を得るために、任意の適切な様式によって投与される。例えば、実質的に同時の投与は、一定のPQQ対メトプロロール比を有する単一の注入液または複数の単一注射を被験体に投与することによって達成され得る。併用治療の成分は、上記のように、同じ経路によって、または、異なる経路によって投与され得る。例えば、PQQは経口投与され、その一方で、メトプロロールは静脈内に投与される;あるいは、全ての治療剤は、静脈内注射により投与され得る。治療剤が投与される順序は、決定的であるとは考えられない。
【0085】
各治療剤の逐次の、または実質的に同時の投与は、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路および粘膜組織を通した直接吸収を含むがこれらに限定されない任意の適切な経路によってもたらされ得る。治療剤は、同じ経路によって投与されてもよく、または異なる経路によって投与されてもよい。例えば、選択される組合せの第1の治療剤は静脈内注射により投与され得、一方、組合せの他の治療剤は経口投与され得る。あるいは、例えば、全ての治療剤は経口投与されてもよく、または、全ての治療剤は、静脈内注射により投与されてもよい。治療剤が投与される順序は、厳密に決定的というわけではない。
【0086】
「併用治療」はまた、他の生物学的に活性な成分および非薬物療法とさらに組合せた上記の通りの治療剤の投与を包含し得る。併用治療が非薬物処置をさらに含む場合、治療剤と非薬物処置との組合せの協働による有益な効果が達成される限り、非薬物療法は任意の適切な時点で実施され得る。例えば、適切な場合、非薬物処置が治療剤の投与から一時的に(おそらく数日間または数週間でさえある)取り除かれたときに、有益な効果は依然として達成される。
【0087】
従って、本発明の化合物および他の薬理活性薬剤は、同時に、逐次、または併用して、患者に投与され得る。逐次投与される場合、投与の間の時間は0.1〜約48時間まで一般に変化する。本発明の組合せを使用する場合、本発明の化合物および他の薬理活性薬剤が同じ薬学的に受容可能なキャリア中に存在してもよく、それゆえ、同時に投与され得ることが認識される。それらは、同時に採られる別々の薬学的キャリア(例えば、従来の経口投与形態)において存在してもよい。「併用」という用語は、化合物が別々の投与形態において提供されて逐次投与される場合をさらにいう。
【0088】
本発明の併用組成物の有益な効果としては、治療剤の併用から得られる薬物動態学的協働または薬力学的協働が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、治療剤の協働は、相加的である。別の実施形態では、治療剤の協働は、相乗的である。別の実施形態では、治療剤の協働は、薬剤の一方または両方の治療レジメンを改善する。
【0089】
本発明は、心筋梗塞を患う患者を処置するためのキットにさらに関し、このキットは、治療的に有効な用量の少なくとも一つのメトプロロールおよびPQQを同じかまたは別々の包装中に含み、そしてその使用指示書を備える。
【0090】
患者が(処置)によって利益を得ているか否かを評価するために、定量的方法において、再発頻度の減少によって、または持続した進行までの時間の増加によって患者の症状を調べる。成功裏の処置において、患者の状態は改善し、再発の測定数または再発頻度は減少し、または持続した進行までの時間は増加する。
【0091】
あらゆる薬物に関して、投与量は、処置の成功および患者の健康の重要な部分である。あらゆる場合において、指定された範囲内で、医師は、性別、年齢、重量、伸長、病理学的状態および他のパラメータに従って、所定の患者に関して最良の投与量を決めなければならない。
【0092】
本発明の薬学的組成物は、治療に有効な量の活性薬剤を含む。化合物の量は、処置される患者次第である。患者の体重、病気の重篤度、投与様式および処方医の判断は、適当な量を決定する際に考慮されなければならない。PQQまたはメトプロロールの治療に有効量の決定は、十分に当業者の技術範囲内である。
【0093】
場合によっては、患者を処置するために薬学的包装の添付書類において述べられる範囲外の投与量を使用することが必要であり得る。それらの場合は、処方医にとって明らかである。それが必要な場合、医師はまた、特定の患者の応答に関連して、どのようにいつ処置を中断、調節または終了するかがわかる。
【0094】
本発明は、低酸素/虚血性の心臓損傷の防止または減少に役立つ化合物を活性成分として含む薬学的組成物の調製および使用を包含する。このような薬学的組成物は、被験体に対する投与に適した形態の活性成分単独からなっていてもよく、または薬学的組成物は、活性成分および一以上の薬学的に受容可能なキャリア、一以上のさらなる成分またはこれらのいくつかの組合せを含んでもよい。当該分野で周知のように、活性成分は、例えば、生理的に受容可能なカチオンまたはアニオンとともに、薬学的に受容可能なエステルまたは塩の形態で薬学的組成物に存在してもよい。さらに、ピロロキノリンキノンは、(例えば、虚血または再灌流損傷を減少させるかまたは阻害する際に)調製物の効力に悪影響を与えない限り、薬学的製品に一般に使用される薬理学的に受容可能な添加剤(例えば、キャリア、賦形剤および希釈剤)、安定剤または調製物を処方するために必要な成分を含み得る。
【0095】
添加剤および安定剤の例としては、糖(例えば、単糖(例えば、グルコースおよびフルクトース)、二糖(例えば、スクロース、ラクトースおよびマルトース)および糖アルコール(例えば、マンニトールおよびソルビトール));有機酸(例えば、クエン酸、マレイン酸および酒石酸およびその塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩およびカルシウム塩));アミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン酸およびグルタミン酸)およびその塩(例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩またはカリウム塩);界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル);ヘパリン;ならびにアルブミンが挙げられる。
【0096】
本明細書に記載される薬学的組成物の処方物は、薬理学の分野で公知であるかまたは今後開発される任意の方法によって調製され得る。一般に、このような予備的な方法は、活性成分をキャリアまたは一以上の他の補助成分と合わせる工程、次いで、必要であるかまたは望ましい場合、生成物を成形するかまたは包装して望ましい単一用量単位または複数用量単位にする工程を包含する。
【0097】
本明細書において提供される薬学的組成物の説明は、主にヒトへの倫理的投与に適している薬学的組成物に関するが、このような組成物が一般に、全ての種類の動物への投与に適していることが当業者によって理解される。組成物を様々な動物への投与に適しているようにするための、ヒトに対する投与に適している薬学的組成物の改変は十分に理解され、そして当該分野の獣医学薬理学者は、あったとしても単なる通常の実験によってこのような改変を設計および実施し得る。本発明の薬学的組成物の投与が意図される被験体としては、ヒトおよび他の霊長類が挙げられるがこれらに限定されない。
【0098】
本発明の方法に役立つ薬学的組成物は、口腔投与、直腸投与、膣投与、非経口投与、局所投与、肺投与、鼻腔内投与、頬内投与、眼投与、または別の投与経路に適切な処方物において調製、包装または販売され得る。好適な形態は、静脈内投与である。
【0099】
ピロロキノリンキノンおよび上記の成分は適切に混合されて、散剤、顆剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤などが得られ得る。他の意図される処方物としては、計画されたナノパーティクル、リポソーム処方物、活性成分を含んで再封止された赤血球、および免疫学的に基づいた処方物が挙げられる。
【0100】
本発明の薬学的組成物を、バルクで、単一の単位用量として、または複数の単一単位用量として、調製、包装または販売され得る。活性成分の量は一般に、例えば、(被験体に投与される)活性成分の投与量またはこのような投与量の便利な画分(このような投与量の半分または3分の1)に等しい。
【0101】
本発明の薬学的組成物中の活性成分、薬学的に受容可能なキャリア、および任意のさらなる成分の相対量は、処置されるべき被験体の正体、大きさおよび状態に依存して、そして組成物が投与されるべき経路にさらに依存して変化する。例えば、組成物は、0.1%(w/w)と100%(w/w)との間の活性成分を含み得る。
【0102】
活性成分に加えて、本発明の薬学的組成物は、一以上のさらなる薬学的に活性な薬剤をさらに含み得る。
【0103】
特に意図されるさらなる薬剤としては、制吐剤およびスカベンジャー(例えば、シアン化物およびシアン酸塩スカベンジャー)が挙げられる。本発明の薬学的組成物の制御放出処方物または徐放性処方物は、従来技術を使用して製造され得る。
【0104】
経口投与に適している本発明の薬学的組成物の処方物は、各々が所定量の活性成分を含む、錠剤、硬質カプセル剤もしくは軟質カプセル剤、カシェ剤、トローチ剤または菓子錠剤を含むがこれらに限定されない別々の固体用量単位の形態で調製、包装または販売され得る。経口投与に適している他の処方物としては、粉末化処方物もしくは顆粒状処方物、水性懸濁剤もしくは油性懸濁剤、水溶液もしくは油性溶液、または乳濁液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
活性成分を含む錠剤は、例えば、活性成分と、必要に応じて一以上のさらなる成分を圧縮または成形することによって作製され得る。圧縮錠剤は、適切なデバイスにおいて、粉末または顆粒状調製物のような自由流動形態の活性成分を、必要に応じて結合剤、滑沢剤、賦形剤、界面活性剤および分散剤のうちの一以上と混合して圧縮することにより調製され得る。成形錠剤は、適切なデバイスにおいて、活性成分、薬学的に受容可能なキャリアおよび少なくとも混合物を湿らせるために充分な液体の混合物を成形することによって作製され得る。錠剤の製造において使用される薬学的に受容可能な賦形剤としては、不活性希釈剤、顆粒化および崩壊剤、結合剤および滑沢剤が挙げられるがこれらに限定されない。公知の分散剤としては、馬鈴薯澱粉および澱粉グリコール酸ナトリウムが挙げられる。公知の表面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。公知の希釈剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、微結晶性セルロース、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウムおよびリン酸ナトリウムが挙げられる。公知の顆粒化および崩壊剤としては、トウモロコシ澱粉およびアルギン酸が挙げられる。公知の結合剤としては、ゼラチン、アカシア、予め糊化されたトウモロコシ澱粉、ポリビニルピロリドンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。公知の滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、二酸化ケイ素およびタルクが挙げられる。
【0106】
錠剤は非被覆でもよく、または錠剤は、被験体の胃腸管における遅延した崩壊を達成し、それによって、活性成分の持続した放出および吸収を提供するために公知の方法を使用して被覆されてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンのような材料が、錠剤を被覆するために用いられ得る。さらに例えば、錠剤は、浸透圧的に制御された放出の錠剤を形成するために、例えば、米国特許第4,256,108号;同第4,160,452号および同第4,265,874号に記載される方法を使用して被覆され得る。錠剤は、薬学的に洗練されて口当たりの良い調製物を提供するために、甘味料、香料、着色剤、保存剤またはこれらのいくつかの組合せをさらに含み得る。
【0107】
活性成分を含む硬質カプセル剤は、生理的に分解可能な組成物(例えば、ゼラチン)を使用して作製され得る。このような硬質カプセル剤は活性成分を含み、そしてさらなる成分(例えば、不活性固体希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリン)が挙げられる)をさらに含み得る。
【0108】
活性成分を含む軟質ゼラチンカプセルは、生理的に分解可能な組成物(例えばゼラチン)を使用して作製され得る。このような軟質カプセルは、活性成分を含み、そしてこれは、水または油性媒体(例えば、落花生油、流動パラフィンまたはオリーブ油)を混合され得る。
【0109】
経口投与に適している本発明の薬学的組成物の液状処方物は、液体形態において、または使用前に水もしくは他の適切なビヒクルを用いて再構成することが意図される乾燥製品の形態のいずれかで調製、包装または販売され得る。
【0110】
液体懸濁液は、活性成分の水性ビヒクルまたは油性ビヒクル中での懸濁を達成するために従来法を使用して調製され得る。水性ビヒクルとしては、例えば、水および等張性生理食塩水が挙げられる。油性ビヒクルとしては、例えば、扁桃油、油性エステル、エチルアルコール、植物油(例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油またはヤシ油、分画植物油)および鉱油(例えば、流動パラフィン)が挙げられる。液体懸濁液は、懸濁剤、分散剤または湿潤剤、乳化剤、粘滑剤、保存剤、緩衝剤、塩、矯味矯臭剤、着色料および甘味料を含むがこれらに限定されない一以上のさらなる成分をさらに含み得る。油性懸濁液は、増粘剤をさらに含み得る。公知の懸濁剤としては、ソルビトールシロップ、水素添加された食用脂、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、アラビアゴムおよびセルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)が挙げられるがこれらに限定されない。公知の分散剤または湿潤剤としては、天然に存在するホスファチド(レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物、アルキレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、脂肪酸およびヘキシトールから誘導された部分エステルとアルキレンオキシドとの縮合生成物、脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導された部分エステルとアルキレンオキシドとの縮合生成物(例えば、それぞれ、ポリオキシエチレンステアレート、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレートおよびポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)が挙げられる。公知の乳化剤としては、レシチンおよびアカシアが挙げられる。公知の保存剤としては、メチル−パラ−ヒドロキシベンゾエート、エチル−パラ−ヒドロキシベンゾエートまたはn−プロピル−パラ−ヒドロキシベンゾエート、アスコルビン酸およびソルビン酸が挙げられる。公知の甘味料としては、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、スクロースおよびサッカリンが挙げられる。油性懸濁液のための公知の増粘剤としては、例えば、蜜蝋、固形パラフィンおよびセチルアルコールが挙げられる。
【0111】
水性溶媒または油性溶媒中の活性成分の液体溶液は、液体懸濁液と実質的に同じ様式で調製され得、主な違いは、活性成分が溶媒中に懸濁されるよりはむしろ、溶解されるということである。本発明の薬学的組成物の液体溶液は、液体懸濁液に関して記載されている成分の各々を含み得、懸濁剤は、溶媒中に活性成分を溶解するのを必ずしも補助しないことが理解される。水性溶媒としては、例えば、水および等張生理食塩水が挙げられる。油性溶媒は、例えば、扁桃油、油性エステル、エチルアルコール、植物油(例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油もしくはヤシ油、分画植物油)および鉱油(例えば、流動パラフィン)が挙げられる。
【0112】
本発明の薬学的調製物の粉末状および顆粒状の処方物は、公知の方法を使用して調製され得る。このような処方物は、被験体に直接投与されてもよく、あるいは、例えば、錠剤を形成するか、カプセルを充填するか、または、水性もしくは油性のビヒクルを添加することによって水性もしくは油性の懸濁液もしくは溶液を調製するために使用されてもよい。これらの処方物の各々は、分散剤または湿潤剤、懸濁剤および保存剤のうちの一以上をさらに含み得る。さらなる賦形剤(例えば、充填剤)および甘味料、矯味矯臭剤または着色剤もまた、これらの処方物に含まれ得る。
【0113】
本発明の薬学的組成物はまた、水中油型乳剤または油中水型乳剤の形態で調製、包装または販売され得る。油相は、植物油(例えば、オリーブ油または落花生油)、鉱油(例えば、流動パラフィン)またはこれらの組合せであり得る。このような組成物は、天然に存在するゴム(例えば、アラビアゴムまたはトラガカントゴム)、天然に存在するホスファチド(例えば、ダイズホスファチドまたはレシチンホスファチド)、脂肪酸とヘキシトール無水物との組合せに由来するエステルまたは部分エステル(例えば、ソルビタンモノオレエート)、およびこのような部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)のような一以上の乳化剤をさらに含み得る。これらの乳剤はまた、例えば、甘味剤または矯味矯臭剤を含むさらなる成分を含み得る。
【0114】
本発明の薬学的組成物は、直腸投与に適している処方物において調製、包装または販売され得る。このような組成物は、例えば、坐剤、停留浣腸調製物、および直腸灌注または結腸灌注用の溶液の形態であり得る。
【0115】
坐剤処方物は、通常の室温(すなわち、約20℃)では固体であって、被験体の直腸温(すなわち、健常なヒトでは約37℃)では液体である非刺激性の薬学的に受容可能な賦形剤と活性成分とを合わせることによって作製され得る。好適な薬学的に受容可能な賦形剤としては、カカオ脂、ポリエチレングリコールおよび様々なグリセリドが挙げられるが、これらに限定されない。坐剤処方物は、抗酸化剤および保存剤を含むがこれらに限定されない様々なさらなる成分をさらに含み得る。
【0116】
停留浣腸調製物または直腸灌注もしくは結腸灌注用の溶液は、活性成分と薬学的に受容可能な液体キャリアとを合わせることによって作製され得る。当該分野で周知のように、浣腸調製物は、被験体の直腸の解剖学的構造に適応した送達デバイスを使用して投与され得、そしてこのような送達デバイス内に詰められ得る。浣腸用調製物は、抗酸化剤および保存剤を含むがこれらに限定されない様々なさらなる成分をさらに含み得る。
【0117】
本発明の薬学的組成物は、膣内投与に適している処方物において調製、包装または販売され得る。このような組成物は、例えば、坐剤、含浸または被覆された膣に挿入され得る材料(例えば、タンポン、灌注調製物、ゲルまたはクリーム)または膣洗浄のための溶液の形態であり得る。
【0118】
材料に化学組成物を含浸するかまたはコーティングする方法は当該分野で公知であり、そして表面上へ化学組成物を堆積させるかまたは結合する方法、材料の合成注に化学組成物を材料の構造に組み込む方法(すなわち、例えば、生理的に分解可能な材料を用いる)、および水性または油性の溶液または懸濁液を吸収材料に吸収させる方法(その後の乾燥を伴っても伴わなくてもよい)が挙げられるが、これに限定されない。
【0119】
灌注調製物または膣洗浄用溶液は、活性成分と薬学的に受容可能な液体キャリアとを合わせることによって作製され得る。当該分野で公知のように、灌注調製物は、被験体の膣の解剖学的構造に適応した送達デバイスを用いて投与され得、そしてこの送達デバイスに詰められ得る。
【0120】
灌注調製物は、抗酸化剤、抗生物質、抗真菌剤および保存剤を含むがこれらに限定されない様々なさらなる成分をさらに含み得る。
【0121】
化合物の投与のためのさらなる送達方法としては、米国特許第5,928,195号に記載されている薬物送達デバイスのような薬物送達デバイスが挙げられる。
【0122】
本明細書中で使用される場合、薬学的組成物の「非経口投与」は、被験体の組織の物理的破損によって特徴付けられる投与および組織の裂け目を通る薬学的組成物の投与の任意の経路を包含する。従って、非経口投与は、組成物の注射による薬学的組成物の投与、外科的切開部を通した組成物の適用による薬学的組成物の投与、組織を貫通する非外科的創傷を通した組成物の適用による薬学的組成物の投与などを包含するが、これらに限定されない。特に、非経口投与は、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、胸骨内注射、および腎臓透析注入技術を含むが、これらに限定されないことが意図される。
【0123】
非経口投与に適している薬学的組成物の処方物は、薬学的に受容可能なキャリア(例えば無菌水または無菌の等張生理食塩水)と合わされた活性成分を含む。このような処方物は、ボーラス投与または連続投与に適している形で調製、包装または販売され得る。注射可能な処方物は、単位用量形態において(例えば、アンプルにおいて)または保存剤を含む複数用量容器において、調製、包装または販売され得る。非経口投与用処方物としては、油性または水性のビヒクル中の懸濁剤、液剤、乳剤、ペースト剤および移植可能な徐放性または生分解性の処方物が挙げられるが、これらに限定されない。このような処方物は、懸濁剤、安定剤または分散剤を含むがこれらに限定されない一以上のさらなる成分をさらに含み得る。非経口投与のための処方物の一実施形態では、活性成分は、再構成された組成物の非経口投与の前に、適切なビヒクル(例えば、発熱性物質を含まない滅菌水)を用いて再構成するための乾燥した(すなわち、粉末または顆粒状)形態で提供される。
【0124】
薬学的組成物は、無菌の注射可能な水性または油性の懸濁剤または液剤の形態で調製、包装または販売され得る。この懸濁剤または液剤は、当該分野の技術に従って処方され得、そして活性成分に加えて、添加された成分(例えば、本明細書に記載される分散剤、湿潤剤または懸濁剤)を含み得る。このような無菌の注射可能な処方物は、例えば無毒性の非経口的に受容可能な希釈剤または溶媒(例えば、水または1,3−ブタンジオール)を使用して調製され得る。他の受容可能な希釈液および溶媒としては、リンゲル溶液、等張塩化ナトリウム溶液および不揮発性油(例えば、合成のモノグリセリドまたはジグリセリド)が含まれるが、これらに限定されない。他の非経口的に投与可能な役立つ処方物としては、微結晶形態の、リポソーム調製物中の、または生分解性ポリマー系の成分として活性成分を含む処方物が挙げられる。徐放または移植のための組成物は、薬学的に受容可能なポリマー性または疎水性の材料(例えば、乳濁液、イオン交換樹脂、やや溶けにくいポリマーまたはやや溶けにくい塩)を含み得る。
【0125】
局所投与に適している処方物としては、液体または半液体の調製物(例えば、リニメント、ローション剤、水中油型乳剤または油中水型乳剤(例えば、クリーム剤、軟膏またはペースト)および液剤または懸濁剤が挙げられるが、これらに限定されない。局所的に投与可能な処方物は、例えば、約1%〜約10%(w/w)の活性成分を含み得るが、活性成分の濃度は、溶媒中での活性成分の溶解度の限界と同程度に高くてもよい。局所投与用処方物は、本明細書に記載されるさらなる成分のうちの一以上をさらに含み得る。
【0126】
本発明の薬学的組成物は、口腔前庭を介した肺投与に適している処方物において、調製、包装または販売され得る。このような処方物は、乾燥粒子を含み得、この乾燥粒子は、活性成分を含み、かつ約0.5〜約7ナノメートル、そして好ましくは約1〜約6ナノメートルの範囲の直径を有する。このような組成物は、便利に、プロペラントの流れが向けられて粉末を分散し得る乾燥粉末レザバを備えるデバイスを使用する、または自己推進性の溶媒/粉末分散容器(例えば、密封容器中の低沸点プロペラントに溶解または懸濁した活性成分を備えるデバイス)を使用する、投与のための乾燥粉末の形態である。好ましくは、このような粉末は粒子を含み、ここで、粒子の少なくとも98重量%が0.5ナノメートルより大きい直径を有し、そして粒子数の少なくとも95%が7ナノメートル未満の直径を有する。より好ましくは、粒子の少なくとも95重量%は1ナノメートルより大きい直径を有し、そして粒子数の少なくとも90%は6ナノメートル未満の直径を有する。乾燥粉末組成物は好ましくは、糖のような固体の細粉希釈剤を含み、そして単位用量形態で便利に提供される。
【0127】
低沸点プロペラントは一般に、大気圧で65°F未満の沸点を有する液体プロペラントを包含する。一般に、プロペラントは組成物の50〜99.9%(w/w)を構成し得、そして活性成分は組成物の0.1〜20%(w/w)を構成し得る。プロペラントは、(好ましくは、活性成分を含む粒子と同じ桁の粒子サイズを有する)さらなる成分(例えば、液体の非イオン性界面活性剤または固体のアニオン界面活性剤または固体の希釈剤)をさらに含み得る。
【0128】
肺送達のために処方される本発明の薬学的組成物はまた、溶液または懸濁液の液滴の形態で活性成分を提供し得る。このような処方物は、活性成分を含んでいる、(必要に応じて無菌の)水性または希アルコール性の溶液または懸濁液として調製、包装または販売され得、そして任意のネブライズデバイスまたはアトマイズデバイスを使用して便利に投与され得る。このような処方物は、矯味矯臭剤(例えば、サッカリンナトリウム)、揮発性油、緩衝剤、界面活性剤または保存剤(例えば、メチルヒドロキシベンゾエート)を含むがこれらに限定されない一以上のさらなる成分をさらに含み得る。この投与経路によって提供される液滴は好ましくは、約0.1〜約200ナノメートルの範囲の平均直径を有する。
【0129】
肺送達に役立つと本明細書に記載される処方物はまた、本発明の薬学的組成物の鼻腔内送達にも役立つ。
【0130】
鼻腔内投与に適している別の処方物は、活性成分を含んでおり、かつ約0.2〜500マイクロメートルの平均粒子を有している粗い粉末である。このような処方物は、嗅ぎタバコが服用される様式で、すなわち、鼻の近くに保持された粉末の容器からの鼻通路による迅速な吸入によって、投与される。
【0131】
鼻噴投与に適している処方物は、例えば、わずか0.1%(w/w)の、そして100%(w/w)もの多くの活性成分を含み得、そして本明細書に記載されるさらなる成分のうちの一以上をさらに含み得る。
【0132】
本発明の薬学的組成物は、頬内投与に適している処方物において、調製、包装または販売され得る。このような処方物は、例えば、従来法を使用して作製される錠剤または菓子錠剤の形態であり得、そして例えば0.1〜20%(w/w)の活性成分を含み得、残りは、経口的に溶解性であるかまたは分解可能な組成物、および必要に応じて本明細書に記載されるさらなる成分のうちの一以上を含み得る。あるいは、頬内投与に適している処方物は、活性成分を含んでいる、粉末、またはエアロゾル化もしくはアトマイズした溶液もしくは懸濁液を含み得る。分散される場合、このような粉末化、エアロゾル化またはアトマイズ化された処方物は、好ましくは約0.1〜約200ナノメートルの範囲の平均粒子サイズまたは液滴サイズを有し、そして本明細書に記載されるさらなる成分のうちの一以上をさらに含み得る。
【0133】
本発明の薬学的組成物は、眼の投与に適している処方物において、調製、包装または販売され得る。このような処方物は、例えば、水性または油性の液体キャリア中の例えば、0.1〜1.0%(w/w)の活性成分の液剤または懸濁剤を含む、点眼剤の形態であり得る。このような点眼剤は、緩衝剤、塩または本明細書に記載されるさらなる成分のうちの一以上の他のものをさらに含み得る。眼に投与可能な役立つ他の処方物としては、微結晶形態の、またはリポソーム調製物中に活性成分を含む処方物が挙げられる。
【0134】
ピロロキノリンキノンと薬理学的に受容可能な添加剤との混合物は好ましくは、凍結乾燥された製品として調製され、そして使用時に溶解される。このような調製物は、注射用蒸留水または滅菌精製水にピロロキノリンキノンを溶解することによって、約0.01〜100.0mg/mlのピロロキノリンキノンを含む溶液に調製され得る。より好ましくは、この調製物は、生理的に等張の塩濃度および生理的に望ましいpH値(pH6〜8)を有するように調節される。
【0135】
用量は症状、体重、性別、動物種などに応じて適切に決定されるが、血中濃度を約1μMに保持する処置選択肢が好適であると一般にみなされる。この血漿濃度は、1日につき1用量〜数用量の投与によって達成され得る。ピロロキノリンキノンが被験体に投与されるべきである場合、体重1kgあたり0.1ng〜10mg(例えば、体重1kgあたり1ng〜1mg)のピロロキノリンキノンは静脈内に与えられ得る。
【0136】
化合物は、1日に数回という高頻度で動物に与えられてもよく、または化合物は、例えば1日に一度、1週間に一度、2週間に一度、1ヶ月に一度というより低い頻度またはさらに低い頻度(例えば、数ヶ月に一度または1年に一度またはそれより少ない)で投与されてもよい。用量の頻度は、当業者に容易に明らかであり、多数の要因(例えば、処置される疾患の種類および重篤度、動物の種類および齢などであるがこれらに限定されない)に依存する。
【実施例】
【0137】
これらの実施例は例示のみを目的として提供されており、本発明はこれらの実施例に限定されるとは決して解釈されてはならず、むしろ、本明細書に提供される教示の結果として明白になるあらゆるおよび全てのバリエーションを包含すると解釈されるべきである。
【0138】
(実施例1.心臓筋細胞生存率のPQQ保存のインビトロ研究)
培養された成体マウス心臓筋細胞のインビトロモデルを、PQQによる心臓保護を研究するために開発した。これらの細胞は、生理的pHで48時間まで培養して生存可能であり、>90%が桿状細胞からなる。これらの細胞は、トリパンブルー排除による細胞生存率の決定のために、そして、生化学研究、免疫化学研究および分子研究のために容易に用いられ得る。このモデルでは、低酸素チャンバ中で0%酸素に2〜3時間さらされると、細胞の約35%は死ぬ。図1に示すように、細胞を高度の低酸素(2〜3時間の0%酸素)に供する1時間前に添加した1μM PQQは、トリパンブルー排除によって示されたように、生存可能な声望の比率の有意な増加を生じる。より高濃度のPQQ(100μM)は、100%の細胞死により証明されたように、正常な酸素条件下では非常に毒性である。図2は、低酸素誘発性の細胞死に対する1μMのPQQ保護が10μMの5−ヒドロキシデカン酸(ミトコンドリアのKATPチャネルインヒビター)により阻害されないことを実証する。理論に束縛されることを望まないが、これらのデータは、PQQがミトコンドリアKATPチャネルを開くことによって心臓保護を発揮するわけではないことを示唆する。
【0139】
(実施例2.心機能のPQQ保存のエキソビボ研究)
ランゲンドルフ技術を使用して単離されたマウス心臓調製物を使用してエキソビボ研究を実施した。このアプローチでは、心臓を取り出して灌流装置に載せ、この灌流装置においては、薬物が大動脈のカニューレを介して与えられ得る。心臓は、一定速度でペーシングされ、そして左心室発生圧力[LVDP;(左心室収縮期圧)−(左心室拡張末期圧)]、左心室拡張末期圧[LVEDP]、および左心室圧の正および負の最大の一次微分[+dP/dtmaxおよび−dP/dtmax]を記録する。心臓を20分間平衡化する。薬物またはビヒクルの注入後、心臓を20分の虚血[冠動脈流が完全に停止した]および30分間の再灌流に供する。冠動脈血流の反射としての冠状静脈洞血流もまた測定する。このプロトコルはより、血行力学的パラメータで測定した場合に重篤な心筋損傷がもたらされる。
【0140】
図3において示されるように、冠動脈血流の完全な停止の前にわずか2分間注入した100nMのPQQは、LVDP ベースライン1の有意な保存を生じる。VDPは、平均60mmHgである。類似の結果は、LVEDPを用いて得られる[図4]。LVEDPベースラインは平均8mmHgである。(LVEDPの増加が有害な応答を表すことに注意されたい)。予想通りに、+dP/dtmaxおよび−dP/dtmaxに関するデータは、LVDPの結果を追う[図5および図6]。同様に、冠動脈流は、コントロールと比較して、PQQ前処置によって有意に改善される[図7]。
【0141】
図8において、示した濃度のPQQでの2分間の前処置が10nMと1μMとの間では次第に好ましい応答を有するが、10μMでは毒性が生じることが示される。主に興味深いのは、再灌流の開始時に与えられた100nM PQQである(PQQ処置)が前処置に等しいことである。従って、PQQは、前処置(例えば、心臓手順または他の外科的手順において)および症状が発生した後(例えば、急性の重大な事象)の両方に役立つ。
【0142】
図9は、PQQ前処置後の梗塞の大きさの測定の実験結果を示す。示したように、10nMと1μMとの間では梗塞の大きさが漸減し、そして血行力学のデータに対応する。後者と一貫して、梗塞の大きさは10μM PQQでは減少しない。
【0143】
(実施例3.酸化的ストレスが与えられた細胞のPQQ保存)
培養された心臓筋細胞を、Hのインビトロ投与によって、酸化的ストレスに供する。2つの研究を行う。一方の研究では、心臓筋細胞に10nMと10μM未満との間の濃度のPQQを添加し、その後、Hを添加する。他方の研究では、心臓筋細胞を2時間のHの損傷インビトロ投与に供し、その後、PQQを両方の研究において、10nMと10μM未満との間の濃度で添加する。両方の研究において、PQQは保護することが見出される。
【0144】
(実施例4.インビボでの酸化的ストレスの防止/減少のためのPQQの使用)
雄性Sprague−Dawleyラットを、虚血または虚血−再灌流の前にピロロキノリンキノン(PQQ)によって、ランダムに処置した。PQQ(15〜20mg/kg)を、腹腔内投与によって左前下行冠動脈(LAD)閉塞の30分前に(前処置)、または、静脈内注射によって再灌流開始時に(処置)与えた。左心室(LV)血行力学をモニタリングしながら、ラットを17分間または30分間のLAD閉塞および2時間の再灌流に供した。前処置または処置のいずれかとして与えられたPQQは、これらのラットモデルにおいて梗塞の大きさを減少させた。PQQは、虚血により誘発される心臓機能不全から保護し、1〜2時間の再灌流後、LV発生圧力、LV(+)dP/dtはより高く、LV(−)dP/dtはより低かった。PQQ処置ラットにおいては、心室性細動(VF)エピソードはより少なかった。心筋のマロンジアルデヒド(MDA)(脂質過酸化の指標)は、PQQによって減少した。従って、前処置または再灌流の開始時の処置のいずれかとして与えられるPQQは、虚血および虚血−再灌流のラットモデルにおいて用量関連様式で心筋梗塞の大きさを減らし、心機能を改善することに非常に効果的である。MDAの結果は、PQQが虚血心筋においてフリーラジカルスカベンジャーとして働くことを示唆する。
【0145】
(統計解析)
全ての結果は、平均±SEMとして示される。2つの投与群(前処置および処置)を、複数の群の比較のための回帰式を用いて一元分散分析(ANOVA)を使用して正常コントロール群と比較した。3つの群の間での閉塞および再灌流期間中の死亡率の差を、χ二乗検定により評価した。VFを有するラットのパーセンテージを、フィッシャーの正確検定試験により評価した。全ての計算を、Minitabバージョン7.2(Minitab Statistical Software)またはPrimor of Biostatistics:The programバージョン3.03(McGraw−Hill)の一般線形モデル手順を使用して行った。統計的有意性を、p<0.05に設定した。
【0146】
(虚血および虚血−再灌流のモデル)
PQQをビヒクル(2% NaHCO)に溶解した。腹膜内(i.p.)または静脈内(i.v.)のいずれかで与えられた体積は、1mlであった。全てのコントロールを1mlのビヒクルにより処置した。モデル1において、20mg/kgのPQQを、LAD結紮により誘発される2時間の虚血の30分前に、i.p.で与えた。モデル2において、15mg/kgのPQQを、17分間または30分間の虚血の30分前にi.p.で与え、続いて2時間の再灌流を行った(前処置)。他のモデル2の実験において、15mg/kgのPQQを、再灌流の開始時に大腿静脈を介してi.v.ボーラス注射によって与えた(処置)。これらのプロトコルを、図10にまとめる。
【0147】
麻酔(ケタミン80mg/kg、キシラジン4mg/kg体重、腹膜内)導入後、気管切開術を実施し、そして動物をHarvard Rodent Respirator(モデル683、Harvard Apparatus)において通気した。モデル1のラットを再灌流のない2時間の近位左前下行(LAD)冠動脈結紮に供した。モデル2は、以前に記載されたとおりの虚血−再灌流(Sievers REら,Magn Reson Med 1989;10:172−81)を使用した。このモデルにおいて、可逆冠動脈係蹄オクルーダーを、正中線胸骨切開術により近位LAD冠動脈周辺に配置した。次いで、ラットを17分間または30分間のLAD閉塞および120分の再流動に供した。さらに、モデル2のラットについて、血行力学的測定値を記録した。4F Millarカテーテルを、右頸動脈を通して左心室(LV)へと挿入した。20分間の平衡化後、心拍数(HR)、収縮期圧(LVSP)、拡張末期期圧(LVEDP)、LV(+)dP/dtmax、LV(−)dP/dtmaxを、MacLab/4S(Milford,MA)を使用してモニタリングした。LV発生圧力(LVDP)を、LVEDPをLVSPから差し引くことにより算出した。
【0148】
モデル1およびモデル2、セット1およびセット2の両方におけるラットの3群における体重は異ならなかった(コントロール群、前処置群および処置群についての値はそれぞれ、以下の通りであった:320±16、321±22、および306±18g;分散分析(ANOVA)によって、p=0.799)。
【0149】
ベースラインではモデル2のコントロール群、前処置群および投与群間で心拍数、LVSP、LVEDP、LV(+)dP/dtおよびLV(−)dP/dtに有意差は存在しなかった。前処置によって与えられるかまたは処置として与えられるかにかかわらず、PQQは、1〜2時間の再灌流後、虚血により誘発される心臓機能不全を防止し、より高いLVSP、LVDP、LV(+)dP/dt、およびより低いLV(−)dP/dtを有した(図11A〜B;12A〜B)。
【0150】
(梗塞の大きさ)
梗塞の大きさを、以前に記載された通りに測定した(Sievers REら,Magn Reson Med 1989;10:172−81、Zhu B−Qら,J Am Coll Cardiol 1997;30:1878−85)。モデル1において、心臓を、2時間の虚血期間の終わりに切り出した。次いで、切片を、生存可能な心筋が赤レンガ色に着色されるまで塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)の1%溶液中で10〜15分間インキュベートした。
【0151】
モデル2において、2時間の再灌流後、LADを再閉塞し、そして、フタロシアニン色素(Engelhard Cooperation,Louiseville,KY)をLV腔に注射し、そして通常に灌流された心筋を青色に染色した。次いで、心臓を切り出し、過剰な色素をリンスし、そして頂部から基部に向かって横断してスライスして2mm厚の切片にした。切片を、上記の通りにTTC中でインキュベートした。梗塞を起こした心筋は、TTCで染色できない。次いで、組織切片を、10%ホルマリン溶液中で固定し、計量した。各横断スライスの両面のカラーディジタル画像を、顕微鏡(Stereo Zoom 6 Photo、Leica)に接続したビデオカメラ(Leica DC 300F)を使用して得た。青に染色された組織(非虚血性)、赤に染色された組織(虚血性であるが、非梗塞性)および染色されていない組織(梗塞性)を示す領域を、盲検様式で、各色の画像で輪郭を描き、そしてNIH Image 1.59(国立衛生研究所,Bethesda,MD)を使用して測定した。それぞれの面で、梗塞関連組織を表すLV面積の割合(2つの画像の平均)にその切片の重量を掛けることにより、梗塞関連組織の絶対重量を決定した。各心臓についての梗塞の大きさを、以下のように表現した:
【0152】
【数1】

次いで、危険領域のパーセンテージとしての梗塞の大きさを、以下の通りに計算した:
【0153】
【数2】

虚血モデル(モデル1)では、梗塞の大きさ(梗塞量/LV量、注射したフタロシアニン青色色素を有さない)は、コントロールよりも小さかった(図13)。モデル2における実験の第1セットにおいて、虚血は17分間であり、その後、2時間の再灌流が行われ、梗塞の大きさ(梗塞量/危険領域、梗塞量/LV量)は、20mg/kgのPQQでの前処置によって減少した(図14)。モデル2の実験の第2セットにおいて、虚血は30分間であり、その後、2時間の再灌流が行われ、15mg/kgのPQQでの前処置または処置のいずれかの後での梗塞の大きさ(梗塞量/危険領域、梗塞量/LV量)は、コントロールよりも小さかった(図15)。
【0154】
図16は、前処置として与えられたPQQの用量が、梗塞の大きさと逆に相関したことを示す。これらの実験において、17分間の虚血に続いて2時間の再灌流を行った。
【0155】
(心室性細動(VF))
皮下の針電極を四肢に挿入することによって心電図(ECG、誘導II)を得た。ECGを虚血の間モニタリングし、そして再灌流およびVF発作エピソードを記録した。ラット1匹当たりのVFエピソード数および各群におけるVFを有するラットのパーセンテージを算出した。ラットは、閉塞および再灌流の前にもその最中にも抗不整脈剤を受けなかった。露出した心筋を1つの手の親指および人さし指ですばやく打つことによってVFエピソードを好首尾に処置した。
【0156】
15または20mg/kgのPQQでの前処置は、ラット1匹あたりのVFの平均的エピソードを減少させた(図17A)。15または20mg/kgのPQQでの前処置または処置は、VFを有するラットのパーセンテージを低下させた(図17B)。
【0157】
マロンジアルデヒドを測定した別々のさらなる実験(下記参照)において、偽群またはPQQ群(各々n=5)のいずれにおいてもVFのエピソードは存在しなかった。しかし、I/R(30分間の虚血、続いて2時間の再灌流)のVFは平均1.8±0.4エピソード/ラットであり、15mg/kgのPQQでの前処置によって0.2±0.2エピソード/ラット(各群n=5、二元ANOVAによってP<0.001であり、PQQとI/Rとの間でP=0.002の重要な相互作用を有する)に減少した。
【0158】
(心筋マロンジアルデヒド(MDA)測定)
心筋組織のMDA(チオバルビツール酸と反応する脂質過酸化生成物)を、532nmの吸光度にて分光測光法により決定した。サンプルの濃度を、1.56×105/Mcmの吸光係数を使用して算出し、そして結果をnmol/g湿重量心臓として表した(Ohkawa Hら,Analytical Biochemistry 1979;95:351−358、Moritz Fら,Cardiovascular Research 2003;59:834−843)。
【0159】
心筋組織のMDA(脂質過酸化の指標)の測定のために、種々の組織調製法を用いた。心臓を、LADによって灌流される領域を含む前部分と残りの非虚血性部分へと、頂部から基部まで視覚的で分けた。ラットを、15mg/kgのPQQによって予め処置したかまたは処置せず(偽コントロール)、そして30分間の虚血および2時間の再灌流に供した。これらのさらなる実験において、血行力学的結果は、上記の結果と異ならなかった。図18Aから分かり得るように、I/RはMDAレベルを上昇させ、そしてPQQはこの上昇を防止した。I/R後のPQQの値とコントロールとの値は、3倍異なった(図18A)。類似の効果は、離れた「正常」心筋においても見られた(図18B)。再灌流の開始時に与えた場合、15mg/kgのPQQはまた、虚血心筋におけるMDAレベルを176±16から123±17nmol/gへとの低下させた(n=8、P<0.05)。
【0160】
(実施例5.PQQは、ミトコンドリアの呼吸を低濃度で回復させ、そして虚血/再灌流損傷のインビボモデルにおいて心臓保護的である)
成体雄ラットは、30分間の左前下行(LAD)冠動脈閉塞および2時間の再灌流を受けた。ヒトにおける再灌流治療の潜在的利益を評価するために、PQQを、再灌流の開始時に、1および3mg/kg体重の用量でi.v.注射によって与えた。取り出し後、心臓を、頂部から基部まで、LAD灌流した領域を含む前部と後部セグメントとに分け、そしてミトコンドリアを単離した。各心筋セグメントのミトコンドリア呼吸を測定し、そして(PQQなしで)あらかじめ馴化して偽手術を行った心臓から単離したミトコンドリアの呼吸と比較した。
【0161】
1mg/kgのPQQでの処置は、ミトコンドリアをI/R損傷から保護しなかった。しかし、3mg/kgのPQQでの処置は、ミトコンドリア呼吸を回復させることに非常に効果的であった。虚血領域での呼吸調節およびADPの酸素消費率(RCR:8.0±0.5、ADP/O;4.5)および状態3の呼吸速度(RR:41nmol O atom/分/mgタンパク質、n=5)は、偽のものと一致し(RCR:8.2±0.3、ADP/O:3.7、RR=43nmol O atom/分/mgタンパク質)、PQQなしであらかじめ馴化した心臓のRCR値は、驚くべきことに20%低かった。虚血性の未処置の心臓のミトコンドリアからの呼吸応答は、50〜100%減少した。PQQで処置した組織およびミトコンドリアの電子顕微鏡写真は、心筋損傷に典型的な形態を示さなかった。PQQはまた、梗塞の大きさおよび心筋のマロンジアルデヒド(MDA)組織濃度をそれぞれ、49%および61%低下させた。
【0162】
再灌流時に与えられた低用量の3mg/kgのPQQは、虚血によって阻害されたミトコンドリア呼吸を非常に効果的に回復させ、そしてミトコンドリアに対する酸化的損傷およびI/R損傷における梗塞の大きさを減少させる。PQQは、脂質過酸化インヒビターまたはラジカルスカベンジャーとしてその心臓保護機能を発揮し得る。それゆえ、PQQ処置は、急性虚血症候群の強力な治療剤として出現し得る。
【0163】
虚血性領域の呼吸調節およびADPの酸素に対する消費率(RCR:8.0 0.5、ADP/O、4.5)ならびに状態3の呼吸速度(RR:41nmol O atom/分/mgタンパク質、n=5)は、偽のものと一致し、一方、PQQなしであらかじめ馴化された心臓のRCR値は、驚くべきことに20%低かった。虚血性の未処置心臓のミトコンドリアからの呼吸応答は、50〜100%減少した。RCRデータを、視覚的に図19に示す。PQQで処置した組織およびミトコンドリアの電子顕微鏡写真は、心筋損傷に典型的な形態を示さなかった。それゆえ、再灌流時に与えられた低用量の3mg/kgのPQQは、虚血により阻害されるミトコンドリア呼吸を非常に効果的に回復させ、ミトコンドリアに対する酸化的損傷およびI/R損傷における梗塞の大きさを減少させた。
【0164】
毒性研究もまた行った。本発明者らは、3mg/kgまたは10mg/kgの用量で腎毒性も肝臓毒性も見出さなかった(表1を参照のこと)。上記のように、再灌流時に与えられた3mg/kgのPQQは、有効な心臓保護用量であるようであった。15mg/kgにおいて、7/8の動物は、腎毒性も肝臓毒性も示さなかったが、表1に示されるデータから除外した1匹のラットは、4日に尿毒症を発症して10日目に死んだ。20mg/kgを受けたラットは、予め2週間、30mg/kgの累積用量で10mg/kgを受けた。表1に示すように、これらの動物の全ては尿毒症を発症して10日目に死んだ。全ての実験室研究を、San Francisco VA Medical Centerの臨床実験室によって盲検様式で実施した。いくつかの尺度(例えば、アルブミン)のベースラインレベルが、ヒトよりもラットにおいて低いが、その一方で、他のもの(例えば、クレアチンキナーゼ(CK))はより高いことに留意されたい。
【0165】
【表1】

(実施例6.心機能に対するPQQおよびメトプロロールの効果の研究)
15mg/kgのPQQでの前処置または処置は、梗塞の大きさを低下させ、虚血/再灌流(I/R)のラットモデルにおける心機能を改善した。β遮断剤メトプロロールは、急性心筋梗塞症患者における標準処置として使用される。したがって、メトプロロールおよび低用量PQQを用いた心筋梗塞の併用処置を各薬物単独と比較して研究するために実験を行った。心臓保護の機構を決定するために、変化を、ミトコンドリア機能および脂質過酸化において測定した。
【0166】
インタクトな雄ラットを、左心室血行力学をモニタリングしながら、30分間の左前下行冠動脈閉塞および2時間の再灌流に供した。予備実験において、1mg/kgの用量のメトプロロールは、梗塞の大きさを減少させるために、このシステムにおいて最適であるとわかった。したがって、臨床処置を模倣するために、メトプロロール(1mg/kg)および/またはPQQ(3mg/kg)を、再灌流の開始時に大腿静脈注射によって与えた。別々の実験において、虚血/再灌流後、虚血性心筋および非虚血性心筋のミトコンドリア呼吸調節およびADPの酸素に対する消費率(RCR)、ならびにマロンジアルデヒド(MDA)(脂質過酸化の指標)のレベルを測定した。
【0167】
結果は、メトプロロールまたはPQQのいずれかを用いた処置が心筋梗塞の大きさ(梗塞重量/危険領域)を減らしたことを示す。これらの薬剤を合わせて使用することは、梗塞の大きさをさらに減らす傾向があった。メトプロロールおよび/またはPQQはまた、1〜2時間の再灌流後、虚血により誘発された左心室(LV)機能不全から保護した。それゆえ、LV発生圧力は増加し、そしてLV拡張末期圧力は減少した。メトプロロールおよび/またはPQQはまた、CK放出を減少させた。虚血性心筋および非虚血性心筋におけるミトコンドリアRCRは、主にPQQによって強化され、そしてメトプロロールによってはそれほどではなかった。PQQは、虚血性心筋および非虚血心筋におけるMDAを減少させた。これらの結果を下記の表2にまとめる。
【0168】
これらの実験は、PQQおよびメトプロロールが心筋梗塞を処置することに有効であることを示唆するが、PQQとメトプロロールとの組合せはいずれかの薬剤単独よりも効果的であり得る。ミトコンドリア保護のために、PQQは、優れている。メトプロロールまたはプラセボにランダム化された45,852人の急性心筋梗塞症患者の最近の大規模研究において、心臓性ショックの発生率がメトプロロール群において約30%より高かった点に留意すべきである(Collins Rら,COMMIT/CCS−2;Placebo−controlled trial of early metoprolol in 46,000 acute myocardial infarction patients.Late−breaking trials presented at the American College of Cardiology Annual Scientific Session 2005.2005年3月6〜9日,Orlando,Fla.)。これは、メトプロロールがミトコンドリア機能を回復することができないことに一部起因し得る。
【0169】
【表2】

(均等物)
当業者は、本明細書に記載される特定の手順に対する多数の均等物を認識するかまたは慣用実験に過ぎないものを使用してこれを確認することが可能である。このような均等物は、本発明の範囲内にあると考えられ、特許請求の範囲に含まれる。様々な置換、変更および改変は、特許請求の範囲に規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明に対して行われ得る。他の局面、利点および改変は、本発明の範囲内である。本出願全体にわたって引用される全ての参照文献、発行された特許および公開された特許出願の内容は、本明細書に参考として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】図1は、PQQでの前処置による、低酸素後に生存可能な成体マウス心筋細胞の増加を示している棒グラフである。
【図2】図2は、PQQ保護が10μMの5−ヒドロキシデカン酸(ミトコンドリアKATPチャネルインヒビター)により阻害されないことを示している棒グラフである。
【図3】図3は、虚血前のPQQ処置が左心室発生圧(LVDP)を保つことを示している折れ線グラフである。
【図4】図4は、虚血前のPQQ処置が左心室拡張末期圧(LVEDP)((左心室収縮期圧)−(左心室拡張末期圧))を保つことを示している折れ線グラフである。
【図5】図5は、左心室圧(LVDP)の正の最大一次微分によって測定した場合の、虚血前のPQQ処置の効果を示している折れ線グラフである。
【図6】図6は、左心室圧(LVDP)の負の最大一次微分で測定した場合の、虚血前のPQQ処置の効果を示している折れ線グラフである。
【図7】図7は、冠動脈血流が、PQQ処置によって、コントロールと比較して有意に改善されることを示している折れ線グラフである。
【図8】図8は、示されるいくつかの濃度のPQQでの2分間の前処置が、10nMと1μMとの間で次第に好ましい応答を有するが、毒性が10μMで発生することを示している棒グラフである。
【図9】図9は、PQQ前処置後の心筋梗塞の大きさの変化を示している棒グラフである。10nMと1μMとの間では梗塞形成の大きさが漸減するが、梗塞形成の大きさは10μM PQQでは減少しない。
【図10】図10は、実験プロトコルのモデル1(2時間虚血)およびモデル2(虚血/再灌流)を示す模式図である。モデル2は、別々の2セットの実験を含んでいた;セット1:(虚血17分/再灌流2時間)およびセット2:(虚血30分/再灌流2時間)。前処置ラットは、30分間の虚血の前にi.p.注射によってPQQを受けた。処置群において、PQQは、再灌流開始時にi.v.注射によって与えられた。コントロールラットは、示される時間に、等しい体積のビヒクルを与えられた。矢印は、PQQ投与のタイミングを示す。i.p.=腹腔内;i.v.=静脈内;I=虚血;LAD=は、左前下行冠動脈を残した。
【図11A】図11Aは、虚血/再灌流中のモデル2のラットにおける左心室収縮期圧(LVSP)を示している折れ線グラフである。PQQでの前処置(30分間の虚血の前のi.p.注射によるPQQ)またはPQQでの処置(再灌流の開始時のi.v.注射によるPQQ)は、2時間の再灌流においてLVSPの増加をもたらした。B=ベースライン;I=虚血;R=再灌流。
【図11B】図11Bは、虚血/再灌流中のモデル2のラットにおける左心室発生圧(LVDP)を示している折れ線グラフである。PQQでの処置は、30分間の再灌流後および2時間の再灌流後の両方でLVDPを増加させた。PQQでの前処置は、2時間の再灌流においてLVDPを増加させた。B=ベースライン;I=虚血;R=再灌流。
【図12A】図12Aは、虚血/再灌流中のモデル2のラットにおける左心室(LV)(+)dP/dtを示している折れ線グラフである。PQQでの前処置またはPQQでの処置は、2時間の再灌流においてLV(+)dP/dtを有意に増加させた。B=ベースライン;I=虚血;R=再灌流。
【図12B】図12Bは、虚血/再灌流中のモデル2のラットにおける左心室(LV)(−)dP/dtを示している折れ線グラフである。PQQでの前処置またはPQQでの処置は、2時間の再灌流におけるLV(−)dP/dtを有意に減少させた。B=ベースライン;I=虚血;R=再灌流。
【図13】図13は、モデル1(虚血のみ)における心筋梗塞の大きさを示している棒グラフである。20mg/kgのPQQでの前処置は、梗塞の大きさ(梗塞量/LV量%)を有意に減少させた。虚血は、再灌流のなしでの2時間のLAD結紮により誘発された。
【図14】図14は、モデル2(虚血/再灌流)における心筋梗塞の大きさを示している棒グラフである。これらの実験において、虚血は、17分間のLAD閉塞、続2時間の流動(再灌流)により誘発された。20mg/kgのPQQでの前処置は、梗塞の大きさを有意に減少させた(梗塞量/危険領域%または梗塞量/LV量%のいずれかで測定した場合)。
【図15】図15は、モデル2(虚血/再灌流)のさらなる実験の心筋梗塞の大きさを示している棒グラフである。これらの実験において、30分間の虚血後に、2時間の再灌流が続いた。15mg/kgのPQQでの前処置または15mg/kgのPQQでの処置は、梗塞の大きさを有意に減少させた(梗塞量/危険領域%または梗塞量/LV量%のいずれかで測定した場合)。P値は、それぞれのI/R梗塞の大きさの尺度をいう。
【図16】図16は、i.p.注射によって、示された範囲のPQQ用量によって前処置された5群のラットの梗塞の大きさに対する異なる用量のPQQでの前処置の効果を示している折れ線グラフである。梗塞の大きさとPQQの用量との間には強い負の相関が存在した。
【図17A】図17Aは、モデル1からのデータとモデル2からのデータとを合わせた際の、ラット1匹あたりの平均心室性細動(VF)エピソードを示している棒グラフである。15〜20mg/kgのPQQでの前処置は、ラット1匹あたりの平均VFエピソードを有意に減少させた。分析を一元分散分析(ANOVA)によって行った。
【図17B】図17Bは、モデル1およびモデル2からの合わせたデータを使用している、VFを有するラットのパーセンテージを示している棒グラフである。15〜20mg/kgのPQQでの前処置または15〜20mg/kgのPQQでの処置は、VFを有するラットのパーセンテージを有意に低下させた。分析をフィッシャーの正確検定によって行った。
【図18A】図18Aは、30分間のLAD閉塞、続いて2時間の再灌流に供したLVの前部セグメントからの心筋のMDAレベルを示している折れ線グラフである。15mg/kgのPQQでの前処置は、虚血心筋におけるMDAを有意に減少させた。I/Rおよび処置に供したラットとそうでないラット(コントロール)との差は、二元分散分析によって有意であった。偽=全研究期間について閉塞のないLAD冠動脈単離に供したラット。
【図18B】図18Bは、LVの後部セグメント(非虚血性)からの心筋のMDAレベルを示している折れ線グラフである。15mg/kgのPQQでの前処置はまた、この非虚血性離れた心筋におけるMDAを減少させた。
【図19】図19は、以下の条件下でラット心臓から単離されたミトコンドリアの呼吸制御比を示している棒グラフである:(i)コントロール:3時間のペントバルビタール麻酔、n=4、(ii)PQQ処置:3mg/kg、20分の平衡化時間、30分間の虚血、PQQ注射、2時間の再灌流、n=5;および(iii)虚血/再灌流:20分の平衡化時間、30分間の虚血、続いて2時間の再灌流、n=3。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における心筋の酸化的ストレスを処置または防止する方法であって、該方法は、その必要のある被験体に心筋の酸化的ストレスを調節する薬剤の無毒性量を投与し、その結果、該酸化的ストレスの対象である一以上の心筋細胞が細胞死から保護される工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記細胞死が、壊死性またはアポトーシス性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞死が、アポトーシス性である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞死が、壊死性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記心筋の酸化的ストレスが、低酸素または虚血によって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記薬剤が、ピロロキノリンキノンである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ピロロキノリンキノンが、約3mg/kgと約500mg/kg未満との間の用量で投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ピロロキノリンキノンが、約15mg/kgと約100mg/kgとの間の用量で投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ピロロキノリンキノンが、約20mg/kgの用量で投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
心臓保護シグナリング経路を調節する方法であって、該方法は、心臓保護を必要とする患者に該心臓保護シグナリング経路の効果を強化または維持するのに有効な量のピロロキノリンキノンを投与する工程を包含する、方法。
【請求項11】
前記心臓保護シグナリングが、RHO、PI 3−キナーゼおよびAktからなる群から選択される酵素を特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
心筋の酸化的ストレスによって引き起こされるフリーラジカル損傷を調節する方法であって、該方法は、フリーラジカル心筋損傷を必要とする患者に、フリーラジカル損傷を阻害するのに有効な無毒性量のピロロキノリンキノンを投与する工程を包含する、方法。
【請求項13】
前記フリーラジカル損傷が、PQQにより媒介されるフリーラジカルスカベンジングにより阻害される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記フリーラジカル損傷が、フリーラジカル生成を調節することにより阻害される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記心筋の酸化的ストレスが、低酸素または虚血によって引き起こされる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記投与が、再灌流の開始時に行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記投与が、再灌流の前に行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記ピロロキノリンキノンが、約3mg/kgと約500mg/kg未満との間の用量で投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記ピロロキノリンキノンが、約15mg/kgと約100mg/kgとの間の用量で投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記ピロロキノリンキノンが、約20mg/kgの用量で投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
被験体における心筋の低酸素性または虚血性の損傷を処置または防止する方法であって、該方法は、その必要のある被験体に、心筋の低酸素性または虚血性の損傷を調節する薬剤の無毒性量を投与し、その結果、心筋細胞が細胞死から保護される工程を包含する、方法。
【請求項22】
被験体における冠動脈血流を改善する方法であって、該方法は、その必要のある被験体にピロロキノリンキノンの無毒性量を投与し、その結果、該被験体における冠動脈流が改善される工程を包含する、方法。
【請求項23】
前記冠動脈流が、LVDPによって決定される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記冠動脈流が、LVEDPによって決定される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記投与が、再灌流の前に行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記投与が、再灌流の開始時に行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
被験体における低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷を処置または防止する方法であって、該方法は、その必要のある被験体にピロロキノリンキノンを投与し、その結果、該低酸素または虚血に関連した損傷が防止または減少される工程を包含し、ここで、該ピロロキノリンキノンは、約100mg/kg未満の用量で投与される、方法。
【請求項28】
前記損傷が、心筋梗塞、心停止および心臓移植からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記損傷が、心筋梗塞である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ピロロキノリンキノンが、約3mg/kgと約500mg/kg未満との間の用量で投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記ピロロキノリンキノンが、約15mg/kgと約100mg/kgとの間の用量で投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記ピロロキノリンキノンが、約20mg/kgの用量で投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
前記損傷が、心筋梗塞、心停止および心臓移植からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記損傷が、心筋梗塞である、請求項27に記載の方法。
【請求項35】
前記投与が、再灌流の前に行われる、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
前記投与が、再灌流の開始時に行われる、請求項27に記載の方法。
【請求項37】
被験体における低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷を処置または防止する方法であって、該方法は、その必要のある被験体にピロロキノリンキノンを投与し、その結果、該低酸素または虚血に関連した損傷が防止または減少される工程を包含し、ここで、該ピロロキノリンキノンは、無毒性濃度で投与される、方法。
【請求項38】
前記ピロロキノリンキノンが、約20mg/kgの用量で投与される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記損傷が、心筋梗塞;心停止;虚血−再灌流損傷;うっ血性心不全;心臓毒性;寄生生物感染による心臓損傷;劇症心臓アミロイドーシス;心臓手術;心臓移植;および外傷性心臓損傷からなる群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記心臓毒性が、ドキソルビシンによって引き起こされる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記寄生生物感染による心臓損傷が、梅毒または慢性Trypanosoma cruzi感染による、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記外傷性心臓損傷が、穿通性もしくは閉鎖性の心臓損傷、または大動脈弁破裂による、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
被験体における低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷を処置または防止する方法であって、該方法は、その必要のある被験体にNADPH依存性メトヘモグロビンレダクターゼ基質を投与し、その結果、該心臓損傷が防止または減少される工程を包含する、方法。
【請求項44】
前記NADPH依存性メトヘモグロビンレダクターゼ基質が、無毒性濃度で投与される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記損傷が、心筋梗塞;心停止;虚血−再灌流損傷;うっ血性心不全;心臓毒性;寄生生物感染による心臓損傷;劇症心臓アミロイドーシス;心臓手術;心臓移植;および外傷性心臓損傷からなる群から選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記心臓毒性が、ドキソルビシンによって引き起こされる、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記寄生生物感染による心臓損傷が、梅毒または慢性Trypanosoma cruzi感染による、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記外傷性心臓損傷が、穿通性もしくは閉鎖性の心臓損傷、または大動脈弁破裂による、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
心筋梗塞を処置する方法であって、該方法は、その必要のある被験体にピロロキノリンキノンを投与し、その結果、該心筋梗塞が減少または安定化する工程を包含し、ここで、該ピロロキノリンキノンは、約100mg/kg未満の用量で投与される、方法。
【請求項50】
器官移植または組織移植中の器官損傷を防止する方法であって、該方法は、器官ドナーに該器官の取り出しより前または取り出しと同時にピロロキノリンキノンを投与し、その結果、該器官または組織の再灌流によって引き起こされる損傷が減少するかまたは防止される工程を包含する、方法。
【請求項51】
前記器官が心臓である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
器官移植または組織移植中の器官損傷を防止する方法であって、ピロロキノリンキノンと、一以上の器官または組織とを接触させ、その結果、該器官または組織の再灌流によって引き起こされる損傷が減少するかまたは防止される工程を包含する、方法。
【請求項53】
心臓保護剤であって、ピロロキノリンキノンおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む、心臓保護剤。
【請求項54】
低酸素または虚血に関連した心臓損傷を処置または防止するためのキットであって、一以上の容器に、ピロロキノリンキノン、薬学的に受容可能なキャリアおよび該キットの使用説明書を備える、キット。
【請求項55】
心不全を患っている被験体における発作を防止する方法であって、該方法は、ピロロキノリンキノンおよび薬学的に受容可能なキャリアで該被験体を処置する工程を包含し、ここで、該ピロロキノリンキノンは、約100mg/kg未満の用量で投与される、方法。
【請求項56】
被験体における心不全を処置する方法であって、該方法は、ピロロキノリンキノンと、抗血小板薬、抗凝固薬、抗血栓薬からなる群から選択される化合物とで該被験体を処置する工程を包含し、ここで、該ピロロキノリンキノンは、約100mg/kg未満の用量で投与される、方法。
【請求項57】
被験体におけるバルーン血管形成術後の血管閉塞を防止する方法であって、該方法は、ピロロキノリンキノンおよび薬学的に受容可能なキャリアで該被験体を予め処置する工程を包含する、方法。
【請求項58】
片頭痛を減らすかまたは防止する必要のある被験体において片頭痛を減らすかまたは防止する方法であって、該方法は、ピロロキノリンキノンおよび薬学的に受容可能なキャリアで該被験体を処置する工程を包含し、該ピロロキノリンキノンは、約100mg/kg未満の用量で投与される、方法。
【請求項59】
低体温症を患っている被験体における再灌流損傷を防止する方法であって、該方法は、ピロロキノリンキノンおよび薬学的に受容可能なキャリアで該被験体を予め処置する工程を包含する、方法。
【請求項60】
心筋梗塞を処置する必要のある被験体における心筋梗塞を処置するための薬学的組成物であって、治療的に有効な用量のピロロキノリンキノンおよび治療的に有効な用量のメトプロロールを含む、薬学的組成物。
【請求項61】
前記ピロロキノリンキノンの治療的に有効な用量が3mg/kgである、請求項60に記載の薬学的組成物。
【請求項62】
前記メトプロロールの治療的に有効な用量が1mg/kgである、請求項60に記載の薬学的組成物。
【請求項63】
低酸素または虚血に関連した心臓損傷を処置または防止するためのキットであって、一以上の容器に、ピロロキノリンキニーネ、メトプロロール、薬学的に受容可能なキャリアおよび該キットの使用説明書を備える、キット。
【請求項64】
被験体における心筋の酸化的ストレスを処置または防止する方法であって、該方法は、その必要のある被験体に、治療的に有効な用量のピロロキノリンキノンおよび治療的に有効な用量のメトプロロールを投与する工程を包含する、方法。
【請求項65】
被験体における心筋梗塞を処置または防止する方法であって、該方法は、その必要のある被験体に、治療的に有効な用量のピロロキノリンキノンおよび治療的に有効な用量のメトプロロールを投与する工程を包含する、方法。
【請求項66】
被験体における低酸素または虚血によって引き起こされる心臓損傷を処置または防止する方法であって、該方法は、その必要のある被験体に、治療的に有効な用量のピロロキノリンキノンおよび治療的に有効な用量のメトプロロールを投与する工程を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【公表番号】特表2007−536256(P2007−536256A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511607(P2007−511607)
【出願日】平成17年5月5日(2005.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2005/015742
【国際公開番号】WO2005/107871
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(503441920)シーエルエフ メディカル テクノロジー アクセラレーション プログラム インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】