説明

心臓状態を治療するための物質組成並びに関連するシステム及び方法

【課題】心構造に関わる医学的状態を治療する方法及びそのシステムの提供。
【解決手段】治療用機械的足場が心構造自体の内部に形成されるように注入型ポリマー剤を心構造に注入する。具体的には、注入型足場剤315はフィブリン糊剤であって、虚血組織又は梗塞のような損傷を受けた心筋領域304に注入される。また、LV壁機能不全も、足場剤をLV壁に注入することにより治療することができる。フィブリン糊又は他の注入型ポリマー足場剤の注入に細胞治療を組み合わせてもよい。ポリマー形態の薬剤は、足場として心構造内部の「その場」で重合する前駆体物質としても注入可能であり得る。また、ポリマーにフラグメントE又はRDG結合部位をそれぞれ提供すること等によりポリマー剤を注入して、治療用血管新生又は注入域内での細胞の定着を誘発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には、生体の心臓状態を治療する治療薬並びに関連する送達システム及び方法に関し、さらに具体的には、拡張型心筋症、心筋梗塞又は鬱血性心不全に全体的に関わる心臓状態を治療する治療薬並びに関連する送達システム及び方法に関する。さらに明確に述べると、注入器を用いて、治療用内壁足場(scaffold)を形成するように心構造に注入型足場剤を送達することに関する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願のクロスレファレンス)
本特許出願は、2002年11月29日に出願された米国特許仮出願第60/429,914号、及び2002年12月6日に出願された米国特許仮出願第60/431,287号に対する優先権の利益を請求する。これら両特許仮出願の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。
【0003】
(連邦助成研究開発に関わる事項)
なし
【0004】
(コンパクトディスクで提出された文献引用資料)
なし
【0005】
(著作権保護を受ける資料の告示)
心血管疾患(CVD)は、米国では主要な死因である。米国心臓学会(American Heart Association)の推定によれば、米国では6000万人がCVDに罹患しており、保健制度に年間約1860億ドルの経費負担を生じている。新たな鬱血性心不全(CHF)患者は毎年約550,000人に上り、発病率は65歳を超える人口1,000人当たり10人に達しようとしている。CHFの5年死亡率は約50%であり、CHF患者では、心臓突然死が一般人口の6倍〜9倍の率で生じている。米国では、冠状動脈疾患が心不全の主因である。
【0006】
CVD、特にCHFの蔓延に関わるさらに詳細な情報が以下の刊行物に開示されている。尚、これらの文献を参照によりその全体として本出願に援用する。Lenfant,C.,“Fixing the failing heart.”1997,Circulation 95:771−772、“Heart and Stroke Statistical Update,”American Heart Association,2001、Lenfant,C.,“Cardiovascular research:an NIH perspective,”1997,Cardiovasc.Surg.5:4−5、Cohn,J.N.,et al.,“Report of the National Heart,Lung,and Blood Institute Special Emphasis Panel on Heart Failure Research.”1997,Circulation 95:766−770。
【0007】
心筋梗塞(MI)に続いて生ずる心不全はしばしば進行性である。心筋梗塞から生命を取り留めた患者には、梗塞領域の瘢痕組織形成及び動脈瘤菲薄化がしばしば生ずる。心筋細胞の死によって負の左室(LV)再構築(remodeling)が生じ、生存力のある残存心筋の壁応力を高めるものと考えられている。この過程から、順に分子、細胞及び生理学的応答が生じLV膨張を招く。心不全の正確な機構は分かっていないが、LV再構築は一般的には、心不全の進行に対する独立的な寄与因子であると考えられている。
【0008】
冠性心疾患は、米国における主要な死因である。米国心臓学会によれば、今年推定で110万人の米国人が新規又は再発で冠状動脈発作を起こしている。心臓移植は、MIによって重大な損傷を受けた心臓の唯一の治療法である。提供者の心臓は慢性的に不足していることから、心不全患者の生命を改善する代替的な方策が必要とされている。組織工学という新興分野は有望な代替法を提供し得る。
【0009】
従来開示されている心臓治療の組織工学的アプローチは一般的には、細胞移植及び生体物質の足場の利用を介して、失われた組織又は損傷した組織を修復するためのものである。幾つかのグループが、虚血心筋への細胞単独の注入を介して心機能を改善することを意図した方法を開示している。一つのグループはまた、LV機能を保存するために、胎児の心筋細胞を種子としたアルギネートゲルを心外膜表面に縫合することを開示している。
【0010】
負の左室再構築は、心筋梗塞に続く心不全の進行に対して独立的に寄与すると考えられている。負の左室再構築を制限する外部支持として機械的な外部拘束を設ける所期目的で、従来技術の幾つかの試みが開示されている。
【0011】
従来開示された一つの研究は、MI後のLV膨張及びLV機能低下を防ぐために外部支持を設ける所期目的で心外膜表面にポリマーメッシュを縫合することを含んでいる。従来開示されたもう一つの検討済み装置は、張力下にある心室を横断して開胸処置で埋め込まれる複数の縫合を設けて、心室形状の変化及び心空間径の縮小を図るものである。この経空洞縫合網は、心室の径を縮小することにより心室壁応力を低下させることを目的とする。従来開示された臨床研究中のもう一つの装置は全体的にメッシュ構造であって、心臓の周囲にジャケットとして埋め込まれて開胸手術時に滑り嵌めを提供するように調節される。ジャケットは心臓がさらに拡大しないように制約するためのものである。さらにもう一つの検討中のアプローチは、上述と同様の外部制約装置としてニチノールメッシュを設けるものである。しかしながら、この超弾性系は、心収縮期の収縮を助けるためのものであって、一般的には、胸腔鏡ガイドによる最小限の侵襲性での送達を介した利用向けである。さらにもう一つの検討中のシステムは、もう一つの外部制約装置として開胸手術時に心室に埋め込まれる剛性環を含んでいる。この環は、心室の径を縮小して心室の形状を変化させることにより、心室壁応力を減少させて、心臓がさらに拡張するのを防ぐためのものである。さらにもう一つの嘗て検討されていた装置アプローチは、損傷を受けた組織すなわち梗塞瘢痕組織を心臓手術時に収縮させることを意図した無線周波数(「RF」)アブレーションカテーテルを含んでいる。
【0012】
上述のものの1又は複数に類似したさらに他の装置及び方法の例は、「Acorn社」、「Myocor社」、「Paracor社」、「Cardioclasp社」及び「Hearten社」を含む様々な企業によって開示されている。
【0013】
様々な医療状態、組織工学物質及び手法、研究用ツール、並びに様々な組織培養方法及び目的とする細胞治療方法について侵襲的な解決法を与えることを目的とした心組織状態、装置及びシステムのさらに他の詳細な例が、背景技術のさらに十分な理解のために以下に掲げる参考文献に様々に開示されている。
【0014】
1.Taylor DA,et al.Regenerating functional myocardium:improved performance after skeletal myoblast transplantation.Nat Med.1998;4:929−33.
2.Leor J,et al.“Bioengineered cardiac grafts:A new approach to repair the infarcted myocardium?"Circulation.2000;102:III 56−61.
3.Cleutjens JP,et al.,"Regulation of co
llagen degradation in the rat myocardium after infarction."J Mol Cell Cardiol.1995;27:1281−92.
4.Erlebacher JA,et al.,"Early dilation of the infarcted segment in acute transmural myocardial infarction:role of infarct expansion in acute left ventricular enlargement"J Am Coll Cardiol.1984;4:201−8.
5.Olivetti G,et al.,"Side−to−side slippage of myocytes participates in ventricular wall remodeling acutely after myocardial infarction in rats."Circ Res.1990;67:23−34.
6.Pfeffer MA,et al.,"Ventricular remodeling after myocardial infarction.Experimental observations and clinical implications."Circulation.1990;81:1161−72.
7.Warren SE,et al.,"Time course of left ventricular dilation after myocardial infarction:influence of infarct−related artery and success of coronary thrombolysis."J Am Coll CardioL 1988;11:12−9.
8.Hunyadi J,et al.,"Keratinocyte grafting:a new means of transplantation for full−thickness wounds."J Dermatol Surg Oncol.1988;14:75−8.
9.Horch RE,et al.,"Single−cell suspensions of cultured human keratinocytes in fibrin−glue reconstitute the epidermis."Cell Transplant.1998;7:309−17.
10.Andree C,et al.,"Plasmid gene delivery to human keratinocytes through a fibrin−mediated transfection system."Tissue Eng.2001;7:757−66.
11.Sims CD,et al.,"Tissue engineered neocartilage using plasma derived polymer substrates and chondrocytes,"Plast Reconstr Surg.1998;101:1580−5.
12.Bach AD,et al.,"Fibrin glue as matrix for cultured autologous urothelial cells in urethral reconstruction."Tissue Eng.2001;7:45−53.
13.Han B,et al.,"A fibrin−based bioengineered ocular surface with human corneal epithelial stem cells."Cornea.2002;21:5
05−10.
14.Watanabe E,et al.,"Cardiomyocyte transplantation in a porcine myocardial infarction model."Celt Transplant.1998;74239−46.
15.Chawla PS,et al.,"Angiogenesis for the treatment of vascular diseases."Int Angiol 1999;18:185−92.
16.Kipshidze N,et al."Angiogenesis in a patient with ischemic limb induced by intramuscular injection of vascular endothelial growth factor and fibrin platform."Tex Heart Inst J.2000;27:196−200.
17.Sakiyama−Elbert SE,Hubbell JA."Development of fibrin derivatives for controlled release of heparin− binding growth factors."J Control Release.2000;65:389−402.
18.Pandit AS,Feldman DS,Caulfield J,et al."Stimulation of angiogenesis by FGF−1 delivered through a modified fibrin scaffold."Growth Factors,1998;15:113−23.
【0015】
上に掲げた参考文献の各々の開示内容、又は本開示の他の箇所で指示されている文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。
【0016】
また、以下の発行済み米国特許の開示内容も参照によりその全体として本出願に援用する。Kingの米国特許第5,103,821号、Soykan等の米国特許第6,151,525号、及びMarkowitz等の米国特許第6,238,429号。さらに、以下のPCT国際特許出願公告の開示内容も参照によりその全体として本出願に援用する。Kingの国際公開第90/10471号、及びStokes等の国際公開第98/02150号。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,103,821号
【特許文献2】米国特許第6,151,525号
【特許文献3】米国特許第6,238,429号
【特許文献4】国際公開第90/10471号
【特許文献5】国際公開第98/02150号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Lenfant,C.,“Fixing the failing heart.”1997,Circulation 95:771−772
【非特許文献2】“Heart and Stroke Statistical Update,”American Heart Association,2001
【非特許文献3】Lenfant,C.,“Cardiovascular research:an NIH perspective,”1997
【非特許文献4】Cardiovasc.Surg.5:4−5
【非特許文献5】Cohn,J.N.,et al.,“Report of the National Heart,Lung,and Blood Institute Special Emphasis Panel on Heart Failure Research.”1997
【非特許文献6】Circulation 95:766−770
【非特許文献7】Taylor DA,et al.Regenerating functional myocardium:improved performance after skeletal myoblast transplantation.Nat Med.1998;4:929−33
【非特許文献8】Leor J,et al.“Bioengineered cardiac grafts:A new approach to repair the infarcted myocardium?"Circulation.2000;102:III 56−61
【非特許文献9】Cleutjens JP,et al.,"Regulation of collagen degradation in the rat myocardium after infarction."J Mol Cell Cardiol .1995;27:1281−92.
【非特許文献10】Erlebacher JA,et al.,"Early dilation of the infarcted segment in acute transmural myocardial infarction:role of infarct expansion in acute left ventricular enlargement"J Am Coll Cardiol.1984;4:201−8.
【非特許文献11】Olivetti G,et al.,"Side−to−side slippage of myocytes participates in ventricular wall remodeling acutely after myocardial infarction in rats."Circ Res.1990;67:23−34.
【非特許文献12】Pfeffer MA,et al.,"Ventricular remodeling after myocardial infarction.Experimental observations and clinical implications."Circulation.1990;81:1161−72.
【非特許文献13】Warren SE,et al.,"Time course of left ventricular dilation after myocardial infarction:influence of infarct−related artery and success of coronary thrombolysis."J Am Coll CardioL 1988;11:12−9.
【非特許文献14】Hunyadi J,et al.,"Keratinocyte grafting:a new means of transplantation for full−thickness wounds."J Dermatol Surg Oncol.1988;14:75−8.
【非特許文献15】Horch RE,et al.,"Single−cell suspensions of cultured human keratinocytes in fibrin−glue reconstitute the epidermis."Cell Transplant.1998;7:309−17.
【非特許文献16】Andree C,et al.,"Plasmid gene delivery to human keratinocytes through a fibrin−mediated transfection system."Tissue Eng.2001;7:757−66.
【非特許文献17】Sims CD,et al.,"Tissue engineered neocartilage using plasma derived polymer substrates and chondrocytes,"Plast Reconstr Surg.1998;101:1580−5.
【非特許文献18】Bach AD,et al.,"Fibrin glue as matrix for cultured autologous urothelial cells in urethral reconstruction."Tissue Eng.2001;7:45−53.
【非特許文献19】Han B,et al.,"A fibrin−based bioengineered ocular surface with human corneal epithelial stem cells."Cornea.2002;21:505−10.
【非特許文献20】Watanabe E,et al.,"Cardiomyocyte transplantation in a porcine myocardial infarction model."Celt Transplant.1998;74239−46.
【非特許文献21】Chawla PS,et al.,"Angiogenesis for the treatment of vascular diseases."Int Angiol 1999;18:185−92.
【非特許文献22】Kipshidze N,et al."Angiogenesis in a patient with ischemic limb induced by intramuscular injection of vascular endothelial growth factor and fibrin platform."Tex Heart Inst J.2000;27:196−200.
【非特許文献23】Sakiyama−Elbert SE,Hubbell JA."Development of fibrin derivatives for controlled release of heparin− binding growth factors."J Control Release.2000;65:389−402.
【非特許文献24】Pandit AS,Feldman DS,Caulfield J,et al."Stimulation of angiogenesis by FGF−1 delivered through a modified fibrin scaffold."Growth Factors,1998;15:113−23.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
心構造自体の内部に壁支持又は組織工学的足場を設けることが必要とされている。
【0020】
治療用の注入型足場剤、並びにかかる薬剤を内壁足場及び/又は組織工学的足場として心構造に注入するように構成された関連するシステム及び方法が必要とされている。
【0021】
心筋梗塞に関わるような虚血心筋を治療するための改良された物質及び関連するシステム及び方法が必要とされている。
【0022】
また、心室の梗塞領域のような損傷を受けた心構造に支持を設ける注入型溶液が必要とされている。
【0023】
また、心室壁自体の内部で心室に支持を設けることが必要とされている。
【0024】
さらに、梗塞を起こした心室壁の内部等で細胞埋め込み治療を受ける心組織構造内に血管新生を提供することが必要とされている。
【0025】
さらに、細胞埋め込み治療を受ける心組織構造への付加的な細胞補給及び定着を提供することが必要とされている。
【0026】
さらに、心組織構造内で埋め込まれた細胞の保持力及び生存可能性を高める足場を設けることが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
従って、本発明の様々な観点を以下に掲げる。
【0028】
本発明の一観点は、左室壁機能不全を防ぐように構成されたシステム及び方法である。
【0029】
本発明のもう一つの観点は、負の左室壁再構築を防ぐように構成されたシステム及び方法である。
【0030】
本発明のもう一つの観点は、心空間壁の梗塞領域を治療するように構成されたシステム及び方法である。
【0031】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓の心構造内部に治療用足場を設けるように構成されたシステム及び方法である。
【0032】
本発明のもう一つの観点は、患者の体内の移植細胞の保持力を高めるように構成されたシステム及び方法である。
【0033】
本発明のもう一つの観点は、心構造に注入するための注入型足場剤を提供するように構成されたシステム及び方法である。
【0034】
本発明のもう一つの観点は、心構造内部で治療用内壁足場を注入するシステム及び方法である。
【0035】
本発明のもう一つの観点は、内壁支持として心構造内部に治療用機械的足場を設けるように構成されたシステム及び方法である。
【0036】
本発明のもう一つの観点は、心構造又は注入された心構造足場での治療用血管新生を誘発し又は強化するように構成されたシステム及び方法である。
【0037】
本発明のもう一つの観点は、患者の体内の移植細胞に治療用血管新生を提供するように構成されたシステム及び方法である。
【0038】
本発明のもう一つの観点は、患者の体内の細胞の心構造への定着を強化するように構成されたシステム及び方法である。
【0039】
本発明のもう一つの観点は、心筋梗塞の後の心臓状態を治療するように構成されたシステム及び方法である。
【0040】
本発明のもう一つの観点は、虚血性心組織構造を治療するように構成されたシステム及び方法である。
【0041】
本発明のもう一つの観点は、梗塞を治療するように構成されたシステム及び方法である。
【0042】
本発明のもう一つの観点は、鬱血性心不全に関わる心臓状態を治療するように構成されたシステム及び方法である。
【0043】
本発明のもう一つの観点は、心筋症に関わる心臓状態を治療するように構成されたシステム及び方法である。
【0044】
当業者には明らかであるように、本発明のさらに詳細な観点もまた、以上に述べた観点の1又は複数の目的を達成すること、又は他の場合には他の実質的な利点を提供することに関して有利と考えられることが認められよう。これらの観点は例えば下記に述べるようなものを含む。
【0045】
本発明はかかるさらに詳細な一観点では、心筋の所定領域に埋め込まれて、心臓の少なくとも一部に内壁支持及び組織工学的足場を設けるように構成された物質の調剤品である。一態様では、この調剤品は、虚血心筋を治療するように構成された態様で上述の領域に注入されるように特に構成されている。もう一つの態様では、この物質は注入型である。この態様の極めて有利な一実施形態では、この物質は注入型生体高分子である。この実施形態のさらに有利な変形では、注入型生体高分子は注入型フィブリン糊物質である。
【0046】
本発明のもう一つの観点は、虚血心筋を治療する方法であって、心臓の少なくとも一部に内壁支持及び組織工学的足場を設けるように心筋の所定領域に所定物質を埋め込むステップを含んでいる。
【0047】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓を治療する方法であって、心臓の虚血心筋に関わる心臓状態を治療するように、患者の心臓の心筋の所定領域に所定物質を埋め込むステップを含んでいる。この観点の一態様は、心臓の少なくとも一部に内壁支持及び組織工学的足場を設けることにより虚血心筋を治療するステップを含んでいる。この観点のもう一つの態様は、虚血心筋に関して心臓の負の再構築を防ぐステップを含んでいる。
【0048】
これらの方法の観点のさらに他の一つの態様はさらに、上述の領域に所定物質を注入するステップを含んでいる。この態様の有利な一実施形態は、上述の領域に生体高分子を注入するステップを含んでいる。この実施形態の極めて有利な変形は、上述の領域にフィブリン糊を注入するステップを含んでいる。
【0049】
本発明のもう一つの観点は、心構造に注入されたときに治療用機械的足場を設けるように構成された注入型足場剤として結合される所定容積の生体細胞及び所定容積の注入型ポリマー剤を含む患者の心臓状態を治療するシステムである。
【0050】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓の心臓状態を治療する方法であって、心構造に治療用足場を設ける態様で心臓に関わる心構造に所定容積の非生体ポリマー剤を注入するステップを含んでいる。
【0051】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓に関わる心臓状態を治療するシステムであって、心構造注入器を、心臓に関わる心構造内部に治療用足場を設ける手段と組み合わせて含んでいる。
【0052】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓に関わる心臓状態を治療するシステムであって、所定容積の生体細胞に結合された心構造注入器を含んでおり、この心構造注入器が、心臓に関わる心構造に上述の所定容積の生体細胞を注入するように構成されるようにする。この観点はさらに、心構造に注入される生体細胞の保持力を高める心構造注入器に結合された手段を含んでいる。
【0053】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓に関わる心臓状態を治療するシステムであって、所定容積の注入型ポリマー剤を含んでおり、これと共にこの所定容積の注入型ポリマー剤で心臓状態を治療する手段を設けている。
【0054】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓に関わる心臓状態を治療する方法であって、注入型ポリマー剤を心構造注入器に結合するステップと、心構造に関わる状態を治療するために心構造注入器で心構造に注入型ポリマー剤を注入するステップとを組み合わせて含んでいる。
【0055】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓の左室に関わるLV壁機能不全を治療する方法であって、心臓の左室に所定容積の注入型ポリマー剤を注入するステップを含んでいる。注入容積のポリマー剤は、LV壁機能不全を治療するのに十分な治療用足場を少なくとも部分的に設けるように構成されている。
【0056】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓の心構造に関わる虚血を治療する方法であって、虚血心構造に所定容積の注入型ポリマー剤を注入するステップを含んでいる。注入容積のポリマー剤は、虚血心構造を少なくとも部分的に治療するように構成されている。
【0057】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓に関わる心臓状態を治療する方法であって、心臓状態に関わる心構造にポリマー剤を注入するステップを含み、さらに、心構造に注入されたポリマー剤により少なくとも部分的に血管新生を誘発するステップを含んでいる。
【0058】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓に関わる心臓状態を治療する方法であって、心臓状態に関わる心構造にポリマー剤を注入するステップと、心構造に注入されたポリマー剤により少なくとも部分的に患者の自家細胞の定着を誘発するステップとを含んでいる。
【0059】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓の心臓状態を治療する方法であって、心臓状態に関わる心構造に所定容積の注入型ポリマー剤を注入するステップと、心構造に所定容積の生体細胞もまた注入するステップとを含んでいる。注入容積の生体細胞及び注入容積の非生体ポリマーは結合して、心構造に治療用足場を設ける。
【0060】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓の心臓状態を治療する方法であって、心臓状態に関わる心構造に所定容積の注入型ポリマー剤を注入するステップと、心構造に所定容積の生体細胞を注入するステップとを含んでいる。注入容積のポリマー剤は、心構造内部で注入された生体細胞の保持力を高める。
【0061】
本発明のもう一つの観点は、患者の心臓に関わる梗塞領域を治療する方法であって、梗塞領域に所定容積の生体細胞を注入するステップと、梗塞領域に所定容積の非生体ポリマーもまた注入するステップとを含んでいる。注入容積の生体細胞及び注入容積の非生体ポリマーは梗塞領域において結合して、心臓に治療効果を提供する。
【0062】
以下で、染色された組織断面像を表わす図面の幾つかでは、以下の記載と併せて様々な構造を観察する機会を当業者に与えるために元の染色像に対してコントラストを反転させるか、又は他の場合にはコントラストを修正した形態で掲げられていることを認められたい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の幾つかの観点によるフィブリン糊剤と共に組み合わせた細胞の注入手順の模式図である。
【図2】本発明の幾つかの観点によるもう一つの針注入アセンブリの模式図である。
【図3A】図2の線2−2に沿って見たさらに他の実施形態に対応するカテーテルシャフト構成の断面図である。
【図3B】図2の線2−2に沿って見たさらに他の実施形態に対応するカテーテルシャフト構成の断面図である。
【図3C】図2の線2−2に沿って見たさらに他の実施形態に対応するカテーテルシャフト構成の断面図である。
【図4】本発明のさらに他の観点による注入型足場剤供給源に結合された心構造注入アセンブリの一つの具体的なシステム構成の模式的側面図である。
【図5A】本発明のさらに他の観点による一つの例示的注入針実施形態の断面図による注入型足場剤システムの模式図である。
【図5B】足場剤の注入される液滴の拡大図である。
【図6】一つの利用態様でのもう一つの針注入アセンブリの断面図であって、注入型足場剤の供給源に結合された注入針を模式的に示す図である。
【図7A】左室壁に沿ったもののような心構造に関わる損傷を受けた組織の例示的な領域の平面図である。
【図7B】図7Aに示す損傷を受けた心構造を治療するための一つの利用態様での図4に示すものと類似した心構造送達アセンブリの模式図である。
【図7C】図7Bに示す利用実施形態の態様から結果として得られる治療用機械的足場の模式的平面図である。
【図8A】本発明の幾つかの実施形態に従って設けられる治療用足場に関連する間質細胞結合に関する観点を模式的に示す図である。
【図8B】本発明の幾つかの実施形態に従って設けられる治療用足場に関連する間質細胞結合に関する観点を模式的に示す図である。
【図9A】本発明による治療の前に左室壁の梗塞域又は他の場合には虚血域を含む心臓の断面図である。
【図9B】本発明を用いて左室壁の損傷域を治療する一つの心臓内態様時であることを除き、図9Aに示すものと同じ心臓の図である。
【図9C】もう一つの心臓内利用態様時のものであることを除き、図9A及び図9Bに示すものと同じ心臓の図である。
【図10A】本発明のもう一つの実施形態による一つの具体的な針注入アセンブリの図である。
【図10B】本発明のもう一つの実施形態による一つの具体的な針注入アセンブリの図である。
【図10C】本発明のもう一つの実施形態による一つの具体的な針注入アセンブリの図である。
【図11】さらに他の実施形態によるもう一つの注入針アセンブリのさらなる詳細を示す図である。
【図12】もう一つの心臓の断面図であって、損傷を受けた左室壁の他区域を治療する利用時のさらに他の針注入アセンブリを示す図である。
【図13A】図12の線A−Aに沿って見た図である。
【図13B】図12の線B−Bに沿って見た図である。
【図14A】注入型足場剤の供給源に結合された注入針と共に伸縮部材を組み入れたもう一つの心構造送達カテーテルの図である。
【図14B】図14Aの線B−Bに沿って見た図である。
【図15】図15A〜Bに示す実施形態のものに類似した心構造送達カテーテルの一つの経血管利用態様を示す図である。
【図16A】左室壁のような心構造の損傷域に足場剤を注入する心構造送達カテーテルのためのさらに他の経血管利用態様を示す模式図である。
【図16B】左室壁のような心構造の損傷域に足場剤を注入する心構造送達カテーテルのためのさらに他の経血管利用態様を示す模式図である。
【図17A】損傷を受けた心構造まで注入型足場剤を送達するように構成された心構造送達カテーテルのさらに他の実施形態を示す図である。
【図17B】損傷を受けた心構造まで注入型足場剤を送達するように構成された心構造送達カテーテルのさらに他の実施形態を示す図である。
【図18】注入型足場を用いた心臓治療を提供する一つの特定的な組み合わせシステムの模式図である。
【図19】ヘマトキシリン及びエオジン染色したフィブリン糊の顕微鏡写真を示す図である(原寸からの拡大率100倍)。
【図20】ヘマトキシリン及びエオジン染色した左室自由壁の壁横断型スライスの顕微鏡写真を示す図である。全断面で強い貫壁型心筋梗塞が見える。Aは対照心臓からの切片、Bはフィブリン糊を単独で受けた心臓からの切片、Cは筋芽細胞のみを注入された心臓からの切片、Dはフィブリン糊内の筋芽細胞を受けた心臓からの切片である。対照群切片の菲薄化した梗塞壁に注目されたい(原寸からの拡大率10倍)。
【図21】ミオシン重鎖の骨格速筋型アイソフォームを免疫染色したもののコントラストを反転させたネガ画像を示す図である。両画像ともフィブリン群での細胞の心臓の切片からの図である(A:原寸からの拡大率100倍、B:原寸からの拡大率400倍)。
【図22】実施例2に従って行なわれた実験時に準備された幾つかの組織標本の染色断面の様々なパネルA〜Dを示す図である。
【図23】実施例2に従って行なわれた実験時にやはり準備された幾つかの組織標本のさらに他の染色断面の様々なパネルA〜Dを示す図である。
【図24】実施例2として行なわれた実験による各々の群で測定したLVの百分率によって決定される梗塞の大きさを示す棒グラフ図である。
【図25】実施例2として行なわれた実験に関連するそれぞれの群について、梗塞の境界での梗塞内部の小動脈密度及び合計を示す棒グラフ図である。
【図26】実施例2による実験時に採取された染色した組織断面について二つのそれぞれのパネルA〜Bを示す図である。
【図27】実施例3の実験に従ってBSA内細胞で処理した標本対フィブリン内細胞で処理した標本で筋芽細胞密度を比較した棒グラフ図である。
【図28】実施例3の実験のさらに他の観点に従ってBSA注入を受けた標本対フィブリン注入を受けた標本で小動脈密度を比較した棒グラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
本書に開示する基本的な概念から逸脱せずに、本発明の装置は構成及び部材の詳細に関して変わり、また本発明の方法は特定のステップ及び順序に関して変わり得ることが認められよう。
【0065】
本発明は、特に本書に図示され記載された様々な実施形態を参照することにより、例えば拡張型心筋症のような医学的状態、及びさらに特定的な例としては鬱血性心不全又は急性心筋梗塞に関わる状態のような様々な医学的状態を治療する(例えば虚血組織又は梗塞を治療する等)ために、ポリマー剤物質を心組織に注入することに関わるものである。
【0066】
梗塞を伴った冠状動脈疾患及び心筋虚血は、拡張型心筋症(DCM)を患った患者の大半での病因である。DCMは、左室膨張、正常な又は菲薄化した壁厚み、及び心室収縮期機能の低下を特徴とする。LV動脈瘤は虚血心筋症の一形式であって、大きな貫壁型MIが経時的に菲薄化及び膨張を繰り返す。動脈瘤形成は心筋梗塞(MI)後の早い時期に始まることが明らかになった。さらに他の関連情報が次の参考文献に開示されている。Giles,T.,“Dilated Cardiomyopathy,in Heart Failure,”P.Poole−Wilson,et al.,Editors,1997,Churchill Livingstone:New York,p.401−422、及びEaton,L.W.,et al.,“Regional cardiac dilatation after acute myocardial infarction:recognition by two−dimensional echocardiography,”N Engl J Med,1979.300(2):p.57−62)。
【0067】
心筋梗塞瘢痕は心室の運動異常部位を生ずるか又は梗塞の菲薄化を招いて動脈瘤を生ずる可能性がある。これらの結果のいずれも、全体的な心機能を著しく低下させる。機械的応力を増大させる補償機構が、梗塞していない心筋の心筋細胞のプログラムされた細胞死を招き、心臓再構築を結果として生ずる場合がある(Cheng W,et al.,“Stretch−induced programmed myocyte cell death,”J.Clin.Invest.96:2247−2259,1995)。梗塞していない心筋の心臓再構築は、心室膨張を招き、心室機能不全及び悪性不整脈傾向にさらに寄与することが示唆されている(Beltrami C,et al.,“Structural basis of end−stage failure in ischemic cardiomyopathy in humans,”Circulation 89:151−163,1994、及びOlivetti G,et al.,“Side−to−side slippage of myocytes participates in ventricular wall remodeling acutely after myocardial infarction in rats.”Circ.Res.67:23−34,1990)。
【0068】
本書に記載する実施形態に従って様々に図示される本発明の様々な観点による治療法は、梗塞に関連した壁菲薄化及び動脈瘤形成という負の再構築過程を防ぐ。鬱血性心不全は、LV動脈瘤の防止及びLV機能の改善によって治療される。
【0069】
さらに、本発明のかかる観点によって提供される治療法は、慢性虚血心筋症又は特発性拡張型心筋症において壁厚みを増大させるのに有用である。機械的応力を増大させると心臓再構築、心室拡張及び心室機能不全を招く。これらの要因が鬱血性心不全の病因に寄与する。従って、本発明のこれら幾つかの治療的観点は、壁厚み及び機能を改善する態様で有利に用いられ、これにより鬱血性心不全を防ぐ。
【0070】
実行された特定的な実験例を参照して後述する具体的な実施形態によれば、フィブリン糊が、本発明の様々な実施形態による上述のような利用に有利な薬剤であると特に考えられる。さらに明確に述べると、幾つかの実施形態では、フィブリン糊物質を心室のような心構造に注入して壁支持を設ける。もう一つの観点では、フィブリン糊の心組織構造への注入は、細胞治療又は遺伝子治療のための分子足場を提供する。さらに他の実施形態では、フィブリン糊は、血管新生を誘発する態様で注入される。さらに極めて有利な観点では、フィブリン糊は、壁支持、細胞治療及び遺伝子治療のための分子足場、並びに血管新生の誘発という利点の二つ又は三つ全ての組み合わせを提供する態様で注入される。以下でさらに詳細に述べるように、フィブリン糊は、フィブリン分子足場の幾つかの特定の断片(フラグメント)又は生物活性部位等によって様々な生物活性因子を提供し、上述の利点の1又は複数に寄与する。この因子は、例えば自家細胞を動員するように構成された因子を含んでおり、かかる細胞定着動員因子を提供することは、単独であれ又は本書に記載されるような他の利点若しくは組み合わせとの併用であれ、付加的な独立の利点と考えられる。
【0071】
さらに、特に分子足場として、ポリマー又は生体高分子、特にフィブリン糊の実施形態を心構造への細胞の注入と組み合わせて心構造に注入する。かかる組み合わせ式送達は、例えば臨床用キットを用いて準備する若しくは治療と同時に準備することのできる単一の調剤品として行なわれてもよいし、又は他の観点では予め製造して後の治療用途のために貯蔵しておいてもよい。或いは、図1に示し本書の他の箇所で説明するように、組み合わせを送達カテーテルの内部で行なってもよい。かかる組み合わせでは、細胞を、二部式生体高分子前駆体物質の例えばフィブリノゲン若しくはトロンビン又はこれら両成分と組み合わせてよい。或いは、注入は、同じ送達システムを用いて異なる液体供給源と単純に結合するか、又は各々細胞物質及びポリマー物質をそれぞれ送達するように特別に構成された異なる送達システムを直列式で用いるかのいずれかで連続的に行なってもよい。
【0072】
さらに、細胞物質及びポリマー物質の注入は、単一の針を介して又は構造を同時に穿刺する多数の針を介して等のように同時に行なってもよい。例えば、図2は、物質供給源10及び送達カテーテル20を含む心臓治療システム1を提供する本発明の一実施形態を示す。送達カテーテル20は、例えば後述の図7A〜Cに示すように、物質供給源10に結合されて患者の心臓の所定領域に物質15を送達するように構成されている。さらに明確に述べると、本実施形態によれば、送達カテーテル20は細長い本体22を有し、本体22は基部側端部24、末梢側端部28、並びに本体22を貫通して基部側端部24及び末梢側端部26にそれぞれ沿って位置する基部側ポート34と末梢側ポート38との間に延在した管腔32を備える。基部側ポート34は、物質供給源10側の結合器(図示されていない)に結合されるように構成された基部側結合器36を含む。
【0073】
送達カテーテル20は、カテーテル20の末梢側先端29を超えて延在して組織に入り、さらにかかる組織に供給源10からの物質15を送達するように構成された針40を含む。針40は、カテーテル20に対して相対的に固定されていてもよいし、又は有利な変形では、図2で軸方向の参照矢印によって示すように、軸方向等に可動式である。
【0074】
送達カテーテル20及び針40のアセンブリは、極く単純化された形態では、カテーテル本体20について単一の管腔シャフトを単純に含んでいてよく、カテーテル本体20は針40を摺動自在に収容した単一の管腔32を有し、針40は、目標組織に薬剤である物質15を送達するそれ自体の送達管腔46をさらに含む。この構成を例えば図3Aで断面として示す。代替的には、以下の図3B〜Cで変形として示すような多管腔設計を組み入れてもよい。
【0075】
図3Bは多管腔設計の断面を示しており、針40がカテーテル管腔32の内部に位置して、また追加の管腔50及び60をカテーテル20にさらに設けている。これらの追加の管腔は、具体的な必要性に応じて様々な異なる機能を有していてよい。
【0076】
図3Cに示す特定的な変形では、管腔50は引き操作線56を収容し、管腔60及び70はリード線66及び76を収容する。引き操作線56は、先端29に位置する第一の保定点とアクチュエータ(図示されていない)との間に基部側端部24に沿って延在し、体外からの引き操作線の軸方向操作を可能にし、これにより生体内(インビボ)で末梢側端部28を偏向させるように構成される。先端設計を偏向自在にするためには、一般的にはカテーテルシャフト設計、シャフト構築に選択された材料の可撓性等のような幾つかの他の物性を考慮に入れ、また他の様々な置換形態の偏向、又は他の操作設計若しくは手法も思量される。例えば、引き操作線ではなく押し操作線を用いてもよく、或いは線以外のポリマーフィラメント若しくは繊維のような他の部材、又は捩り部材等を用いてもよい。もう一つの代替的な設計では、本実施形態については図示しないが、ガイドワイヤ追跡部材を設けて、生体内での遠隔式配置のためのレールとしてガイドワイヤに作用させる。
【0077】
リード線66及び76は、先端29に又は他の場合には末梢側端部28に沿って設けられ得るもののようなマッピング電極と、マッピング監視アセンブリに結合されるように構成される基部側電気結合器との間に延在し、カテーテル20を備えた全体的なマッピング系統を提供して、組織内足場を設けるための物質注入位置を決定する。一般的なマッピング電極構成又はかかる電極の組み合わせは、当業者に応じた利用に適したものであってよい。さらに、マッピング電極は、X線視覚化のために放射線不透過性であってよい。このために、他の放射線不透過性先端標識をかかる視覚化のために配置してもよいし、又は超音波(例えば血管内、心臓内又は経食道)、磁気共鳴撮像(「MRI」)若しくは他の適当な態様のような他の標識や視覚化手法を当業者に応じて用いてもよい。
【0078】
また、針40は、比較的直線的な先鋭な先端の針等の多くの異なる形態を取っていてよく、或いは中空のねじ形状の針又は所望の位置での定着を助けるような他の機構であってもよいことが思量される。
【0079】
さらに、カテーテル20は、カテーテルの末梢側端部28の細長い本体の側壁に沿ってといったように、先端29以外の他の箇所で針40の送達を可能にするように構成されてもよい。加えて、予め設定された長さに沿って足場を注入するために多数の針をカテーテル20の長さ等に沿って配置してもよい。このために、異なる管腔を介してカテーテル20に沿って異なるポートに送達する等のように、同じ針を異なる位置で用いてもよいし、又は多数の針を同時に又は相次いで配置してもよい。
【0080】
さらに詳細な図示のために、図4は送達カテーテル120を提供する本発明のさらに他の実施形態を示しており、送達カテーテル120は、基部側端部124に沿って基部側結合器アセンブリ136において、2種の別個の物質114及び118のそれぞれの二つの供給源112及び116に結合するように構成されている。この観点では、本書の他の箇所で一つの「物質供給源」への参照が記載されている場合にはかかる組み合わせが考慮されており、従って図4では一体の物質供給源110として図示されている。この具体的な実施形態では、2種の物質114及び118はフィブリン糊を形成する2種の前駆体物質であり、従って、これらの組み合わせ式送達は、後に混合される別個の前駆体物質としてであれ、又はフィブリン糊として混合された結合形態であれ、一つのフィブリン糊「薬剤」として考えられる。このため、この用語法での「薬剤」は、最終的な結果、又は結果的な物質を導く各前駆体物質成分の所要の組み合わせを意味するものとするが、他の観点では「薬剤」はまた、所望の結果的な物質自体を含んでいてもよい。
【0081】
従って、図4に示し、さらに図5A〜5Bを参照して示されるシステム100は、前駆体物質114及び118を別個に体内に送達するように構成されており、この場合にはこれらの物質114及び118は内部で混合され、針140を介して末梢側端部128の先端129を超えて組織内にフィブリン糊160の混合形態として送達される。図5Aに示すような上述の目的を達成する例示的な針アセンブリ140は、針アセンブリ140に関連する混合管腔150として収束する別個の管腔144及び148をそれぞれ介して前駆体物質114及び118を送達し、フィブリン糊160は、図5Bの展開図で示すように、針140を介した注入の直前に、注入されるフィブリン糊として形成される。
【0082】
図4〜5Bに実施形態として示すシステム100のアセンブリ及び様々な構成要素は例示的なものであって、2種の前駆体物質を送達して混合し、注入のための媒体を形成するという目的を達成するために他の適当な装置を用いてよいことが思量される。例えば、幾つかの状況では、これらの物質をカテーテル120の末梢部分への送達の前に、基部側結合器136の混合室で、又は送達カテーテル120に結合する前に等で混合してもよい。このために、一つの結合器を用いて多数の物質供給源の各々を結合して送達してもよいし、又は多数の基部側結合器を用いてもよい。
【0083】
さらに、送達される2種の物質の各々に1よりも多い送達装置又は注入針を用いてもよい。例えば、図6はシステム200の模式図を示し、カテーテル220の末梢側端部229が心組織202の参照領域と接触している。本実施形態では、2種の別個の針240及び250を用いてそれぞれ2種の物質214及び218の各々を患者の体外に位置する供給源212及び216からやはりそれぞれ送達している。この態様で、2種の前駆体物質は組織202に別個に送達されて、ここで混合して組織構造の内部でフィブリン糊260を形成する。このことは、遠隔の生体内組織位置への送達時にカテーテル220内部のそれぞれの送達管腔の望ましくない目詰まりを防ぐという利点を与える。
【0084】
この例からさらに進んで、例えば針240及び250を組織202に進め且つ/又は他の場合には物質214及び218をそれぞれ針240及び250を介して注入する一つの共通のアクチュエータ又は多数の独立したアクチュエータであり得るアクチュエータ(図示されていない)を含むカテーテル220の場合のように、システム200全体に他の様々な構造が寄与することができる。
【0085】
加えて、上で述べたシステム100及び200は、2種の前駆体物質の組み合わせを含むフィブリン糊剤と共に用いるように示されている。しかしながら、かかるシステムと共に用いるために他の物質を置き換えてもよく、かかるシステムを特定の物質の送達のために適当に修正することができる。例えば、細胞を、システム100又は200のいずれかによって、又は以下で思量する他の方法によって第二の物質と組み合わせて送達してもよい。かかる第二の物質はそれ自体がフィブリン糊であっても又は他の生体高分子剤であってもよく、このことはさらに多数の供給源及び送達管腔を例示し得る。さらに十分な理解のために、例えば図4〜5Bの実施形態を、以下に述べるように図6の実施形態と結合してもよい。図6の供給源212のような供給源は、送達される物質214として細胞を含み得る。しかしながら、この実施形態の供給源216自体が、前駆体フィブリン糊剤物質の2個の別個の供給源を含んでいてもよく、このように、図6の実施形態の針250が図5Aの針140について示すような形式のものであってよい。
【0086】
本発明は、様々な心組織構造を治療するのに有用であり、例えば図7A〜Cを参照して以下に述べるような注入された心室壁足場を設けるのに特に有用である。
【0087】
さらに明確に述べると、図7Aは、心組織302の心室に沿った領域を概略図示しており、この領域は梗塞ゾーン304又は他の場合には虚血心筋領域を含んでいる。図7Bに示すように、本発明のカテーテル320の末梢側端部328は、所望の物質315がゾーン304に注入され得るように、ゾーン304に関連した位置において領域に送達される。このことは、例えば、末梢側針先端329に設けられているマッピング電極330を用い、体外でカテーテル320の基部側端部324に結合されている外部マッピング/監視システム336を介して行なわれる。針340をこの位置で組織に穿刺し、針340を用いて、体外でカテーテル320の基部側端部324にやはり結合されている供給源310から所望の物質315を注入する。物質315の梗塞の位置へのこの極めて局所化された注入によれば、この位置の心室壁は、組織構造自体の内部で所望の分子足場によって支持される。本書に記載するさらに他の観点及び実施形態では、このようにして細胞足場を設けることもでき、これにより該当区域の血管新生を生じさせて、負の再構築を防ぎ、有害な心筋症の進行及び反転の可能性を阻害することができる。本実施形態による例示的な足場の結果を図7Cに示す。
【0088】
本書で思量されている各々の形式の心臓状態はまた、解剖学的に且つ機能的に固有の状況を表わすと考えられる。従って、かかる各々の状態は、幾つかの状況では、最適なそれぞれの治療を提供するために特別に構成された送達装置及び手法から利点を享受することができる。例えば、幾つかの損傷を受けた心組織領域は、周囲の非虚血域での催不整脈のような他の悪影響の可能性を最低限に抑えながら所期の内壁支持を達成するために正確に配置された足場の注入を必要とする。かかる状況は、特別に構成された送達装置、及び細胞又は他の送達される足場物質の量のような他の考慮点から利点を享受し得る。
【0089】
本書の他の箇所に記載される作用機構に加えて、本発明によるフィブリン糊のような注入型物質は、細胞外基質でのその範囲及び注入領域での細胞の結果的な物理的離隔距離によって少なくとも部分的に関係付けられ得ることがさらに思量される。さらに詳細に説明するために、図8A〜Bは、離隔距離dを有する初期ギャップ結合状態(図8A)での細胞基質と、細胞間の間隔がさらに大きい離隔距離Dで物理的に離隔した治療後状態(図8B)での細胞基質との間の移行を示す。これらの離隔距離は、細胞の間の伝導を刺激し得る作用電位を、該伝導を遮断するか又は他の場合には不整脈を潜在的に生ずるのに十分に遅延するような水準まで高めるのに十分な距離となる可能性がある。足場領域に沿って伝導が望まれる場合には、人工的細胞外基質内の導電性添加剤をさらに添加してもよいし、又は他の場合には、コネクシン43の過発現のために変性された細胞を支持すること等によりギャップ結合の強化を達成してもよい。かかる実施形態は、例えばLeeの米国特許出願公開第2003/0104568号、又はLeeのPCT特許出願国際公開第03/039344号に記載されているものと同様の細胞、関連するギャップ結合強化物質、及び様々な関連する方法を、当業者には明らかなように本開示と整合する態様で適当に改変又は応用される範囲まで組み入れていてよいと思量される。これらの参考文献の開示内容を、本開示の他の部分と整合する範囲まで、参照によりその全体として本出願に援用する。
【0090】
幾つかの実施形態が作用する機構に関して本書で描写される様々な理論はさておき、所期の結果を齎す範囲での幾つかの物質及び手順の利用は、これらの結果が達成される実際の機構を問わず本発明の下で思量されることが認められよう。
【0091】
以下で説明する図9A〜Cに示す様々な実施形態への全体的な参照によって、左室4、僧帽弁5、心室中隔6、及び梗塞ゾーン7を含む様々な断面図として示される心臓3に関して幾つかの治療態様を説明する。
【0092】
さらに明確に述べると、図9A〜Cは、左室4の梗塞領域7の治療用足場による処置を示し、図9Aでは治療前を示す。かかる状態を治療するために本発明の本実施形態を用いる特定的な態様を図9B〜Cに示す。図9Bに示すように、薬剤送達システムは、薬剤送達カテーテル328の上に摺動自在に係合した経中隔送達カテーテル318を含んでおり、薬剤送達カテーテル328はさらに、送達針アセンブリ340を覆って摺動自在に係合している。薬剤送達カテーテル328は、静脈系を通じた経皮的経管腔アプローチを介して体外からカテーテル328の基部側端部(図示されていない)を操作することにより左室4の内部に送達され、経中隔送達カテーテル318を介して僧帽弁5を通って経中隔アプローチで左室4の内部に進む。次いで、送達カテーテル328の末梢側先端322を、梗塞ゾーン7が識別された壁面に当接して左室4内部に配置する。
【0093】
図9Cに概略図示するように、薬剤供給源312が送達カテーテルの基部側端部に結合されている。次いで、供給源から所定容積の足場剤324を薬剤送達カテーテル328内部の送達管腔(図示されていない)を介して梗塞領域7の内部まで図9Cに示すように送達する。このことは圧力を単独で用いることにより達成してもよいが、幾つかの有利な実施形態(例えば本実施形態で示すもの)では、事実上送達カテーテルに一体形成されていてもよいし摺動自在にその内部に配置されていてもよい針先端340を用いて薬剤324を組織に注入する。かかる別個の協働針を用いる場合には、図9Cに示すように、基部側で針の内孔を薬剤供給源に結合させる。
【0094】
本書に記載する実施形態では、足場形成した領域の伝導を強化するために、又は適正な注入部位及びパターン若しくは区域を位置決定するマッピングの目的で、薬剤324の送達の後に、前に、又は同時に1又は複数(例えばアレイ型)の電極部材を送達してよいことが認められよう。
【0095】
本発明の幾つかの観点に従って用いられる足場注入システムのさらに極めて有利な実施形態、特に心臓内送達に有利であると考えられる実施形態を、図10A〜Cに示す。さらに明確に述べると、送達カテーテル330が管腔又は通路334のアレイを備えた本体336を含んでおり、それぞれの管腔又は通路334が中央管腔335の周囲に円周方向に隔設されている。円周方向に隔設された管腔334は各々が足場注入針350を収容している一方で、中央管腔335はもう1本の足場注入針360を収容しており、足場注入針360は、梗塞領域への送達及びその後の梗塞領域内部への定着のために中央管腔335から出し入れするように調節可能な螺旋形状の定着器を形成している。
【0096】
さらに、円周方向に隔設された注入部材350が、ニッケル−チタン合金又は他の超弾性物質、形状記憶物質又は他の適当な物質で製造され得る予備成形された針部材352を含むものとしてさらに詳細な実施形態に従って図10Cに示されており、針部材352は、先端338の送達時にはそれぞれの管腔334の内部に収容されて、心空間壁(例えば心室壁)に当接し、次いで管腔334から心組織内注入のために壁の内部に進むべく伸縮し得るように構成されている。さらに、伸縮電極部材356が示されており、伸縮電極部材356はさらに、針部材352から出し入れするように調節自在である。足場送達カテーテル330の先端338には環電極339が示されており、この環電極339を用いて、注入部材350の配置に最適な配置、及び/又は刺激電極としての刺激用の付加的な表面積のための最適な配置を求めるマッピングを支援することができる。
【0097】
図示の特定的な実施形態では、針350は形状記憶を有し、径Rが送達アセンブリの長軸からの偏向角度を与える。足場剤注入は、心組織構造、例えば心室壁の表面に対して鋭角注入で行なわれる方が、組織に対する法平面での直角注入よりも良好に行なわれることが判明している。従って、特定的な一変形では、かかる角度は組織表面から例えば約30°であってよい。このことは、図示の例では針の記憶径Rよりも大きい偏向角度によって達成される。但し、他の機構を用いてもよく、上で述べた実施形態の特定的な利点を問わず他の注入角度を用いてよいことは言うまでもない。
【0098】
図10A〜Cに示す特定的な構成は有利であると考えられるが、要素の数、配置又は具体的な形式等の様々な特徴は例示のためのものであって、他の適当な置換を施してよい。例えば、円周方向に隔設された注入部材350の他の数及び対応する配置を用いてよく、本実施形態では一般に2個以上の注入部材350が望ましく、一般に約2個〜約8個の注入部材、又は約2個〜約6個、他の観点では約2個〜約4個の注入部材350とし、いずれの場合にも所期の用途の具体的な状況に最適と考えられるものとしてよい。
【0099】
図11に示すもう一つの例では、可動式スタイレット358が注入部材350の通路の内部で可動式になっており、注入部材350は、先端に電極354を備えた可撓性のシャンク352を含んでいる。可動式スタイレット358は、足場注入のために梗塞に関連する所望の領域において電極を配置する所望の位置までの中隔壁組織を介した進行時にシャンク352を支援するように構成されている。かかる特徴は、図10Cに図示され同図を参照して説明した針アセンブリの利用の代わりに提供されてもよいし、例えば1本の特定の注入針アセンブリ350について提供する等を含めてこれら二つのアプローチの間で様々な観点を組み合わせた様々な修正を加えてもよいし、又は一つのかかるアセンブリを一方の設計で設け、他方の設計に従って一つ又は複数のアセンブリを設けることにより修正を加えてもよい。
【0100】
いずれの場合にも、利用時のアレイ型足場注入アセンブリの広い観点でのさらに他の模式図を図12に示す。注入部材350のアレイが、図示のために心臓を横断して切断した断面の内部で角度を成した構成で図示されているが、各注入部材350は、心臓3について示す断面平面を横断する平面等では一つの平面配向を共有していてよい。従って、定着器要素360が中隔壁組織の所定領域の内部に配置され、該領域は、領域全体にわたって中央定着器360の周囲のそれぞれの固有の位置に配置された注入部材350によって拘束される。足場注入部材350、中央注入部材360及び記録用電極としての先端338を設けることにより、注入部材350によって制約された組織は、梗塞、鬱血性心不全、又は心筋症を治療する等のための注入物によって実質的に支持されることができる。
【0101】
さらに詳細に説明するために、かかる注入部材350の配向を図13A〜Bで異なる平面で示しており、図13Bではさらに、刺激を受けている組織に対応する領域7に対する投影参照を掲げる。但し、領域7に対応して図13Bに示すような円周構成を、円形以外の形状で改変してもよいし、例えば部材350の異なる長さで改変してもよいし、又は定着器360等に位置する中央域を拘束領域7の内部でずらすように改変してもよい。一観点では、図13Bの図は、部材350の平面型アレイを二次元で示す特定的な図である。しかしながら、部材は、心室壁組織の三次元空間を領域として画定するように、相異なる平面に位置するように配向を改変されてもよい。さらに、得られる被支持領域7が代替的に2箇所以上の不連続的な領域となるように、部材350のアレイをさらに改変してもよく、このことについては以降で詳述する。
【0102】
要素350及び360、並びに心室壁表面の環電極338によって心組織内支持をかかる領域7に設ける利点はさておき、かかる要素全てにマッピング電極を設ける必要はないが、かかる構成にしてもよいことが認められよう。これらの要素の任意の1又は複数についての電極の包含及び/若しくは除去、又はマッピングを可能にしながらのこれらの注入能力の包含若しくは除去、並びにかかる結果として得られる組み合わせアレイは、ここでのさらに思量される実施形態である。例えば、中央螺旋型注入アセンブリ360を、注入及び/又はマッピング能力を与えずに単に定着器として設けてもよい。或いは、単純な針とし、必ずしも螺旋型定着器構成としなくてもよい。思量されるさらに他の改変例では、不連続的な注入ポートを注入部材350のシャンクに沿った様々な位置及び領域7の内部の様々な位置に配置して、領域全体の綿密な足場を確保してもよい。
【0103】
従って、当業者は、幾つかの例では例えば先端マッピング電極等と組み合わせて、何本かの針型又は「エンドホール」型注入送達カテーテル(例えば図1〜7B)を用いて、全体的に単一の位置において足場を注入し得ることが認められよう。加えて、さらに複雑な幾つかの「針」型注入装置がここで想到されることは明らかであり、例えば螺旋型シャンクに沿って多数のポートを備えた複数の螺旋型針を用いるもの、又は他の例では組織での局所的混合を提供することを意図して本書に掲げた針装置に多数の隣接する針(例えば図6)を設けたもの等がある。それでも尚、これらの例は一般的には、所期の注入が心組織壁構造の平面に沿って一つの局所化した部位に対して行なわれるという程度まででは「点」的な送達装置であると考えられる。対照的に、上で述べた図10A〜13Bの実施形態は一当業者による一般的な例示を掲げており、すなわちかかる送達は、従来の「エンドホール」型注入アプローチによって一般的に達成可能なものよりもさらに広い組織領域に沿って有利に行なわれ得るということを示している。さらに明確に述べると、多様な形式及び範囲の壁損傷範囲を治療するのに必要な足場を設けるためには、心室壁のかなりの部分に沿って足場を設けることがしばしば望ましい。さらに、細胞及び他の足場の送達を損傷域に密に適合させることが望ましく、従って、点供給源送達からの単純な拡散及び他の能動的又は受動的な輸送機構に頼るのでは信頼性を欠く。従って、かかる足場を達成するのに望まれる送達カテーテルは、かかる拡張的で且つ一般的には成形された領域に沿って足場物質を注入するように構成されると適当である。かかる特化型構成の送達及び得られる足場は一般的には、治療の影響の信頼性及び制御性を高めることができる。
【0104】
また、同様の目的を達成するその他の改変を施し得ることが理解されよう。送達アセンブリを所定の位置に定着させるために、例えば、籠型、バルーン型、螺旋型又は針型の定着器のような接触部材を用いて、針、又は他の注入部材若しくは送達部材が次いで送達カテーテルに沿った位置から接触部材に隣接するもう一つの位置まで伸張し得るようにすることができる。もう一つの観点では、接触部材自体が針を含んでいてもよく、送達領域全体にわたって隔設された態様で多数の針を用いて、注入及び引き続き生ずる組織内での拡散又は他の輸送機構によって、離散的な注入部位に起因する足場の間の間隙を閉じて領域を覆うことを可能にすることが認められよう。このことは、該当領域全体にわたる送達部材の連続的で断続のない接触に対する等価なアプローチの一例となる。換言すると、ある領域の組織に「接触する」ということは特定の実施形態又は応用に依存すると考えられ、幾つかの状況では実質的に連続的で断続のない接触であってもよいし、又は他の状況では解剖学的環境若しくはさらに一般的な用途の環境で極く僅かと看做されるような断続を有していてもよい。
【0105】
さらに詳細な説明の目的で、本開示に従って修正されて本発明の様々な目的の幾つかを達成し得る送達装置及び方法のその他のさらに特定的な例が、以下の発行済み米国特許の参考文献の1又は複数に様々に開示されている。McGee等の米国特許第5,722,403号、Swanson等の米国特許第5,797,903号、Fleishmanの米国特許第5,885,278号、Swartz等の米国特許第5,938,660号、Leshの米国特許第5,971,983号、Leshの米国特許第6,012,457号、Lesh等の米国特許第6,024,740号、Whayne等の米国特許第6,071,279号、Diederich等の米国特許第6,117,101号、Leshの米国特許第6,164,283号、Fleischman等の米国特許第6,214,002号、Swanson等の米国特許第6,241,754号、Lesh等の米国特許第6,245,064号、Lesh等の米国特許第6,254,599号、Leshの米国特許第6,305,378号、Fuimaono等の米国特許第6,371,955号、Diederich等の米国特許第6,383,151号、Lesh等の米国特許第6,416,511号、Leshの米国特許第6,471,697号、Maguire等の米国特許第6,500,174号、Leshの米国特許第6,502,576号、Maguire等の米国特許第6,514,249号、Schaer等の米国特許第6,522,930号、Langberg等の米国特許第6,527,769号、Maguire等の米国特許第6,547,788号。これらの参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。
【0106】
これらの参考文献が組織の切除について、又は細胞若しくはポリマー足場送達やここで思量されている状態を治療すること以外での治療用途について様々に述べている程度までで、それぞれのカテーテルシステム及び治療の幾つかの観点を改変してよいし、又は他の場合には当業者にとって適当なように本開示の意図及び目的に沿って改変してもよい。例えば、切除装置が開示されている場合には、切除電極、リード、トランスデューサ又は光学的アセンブリ等のような様々な関連要素を、本書に記載する形式の足場物質を注入する適当な要素で置き換える。切除アクチュエータのような他の関連要素、例えば電源を適当な注入型物質の供給源で置き換え、また送達アセンブリの管腔構造をかかる注入を可能にするように適当に改変して、電気リード等のような従来の結合態様を置き換えてよい。さらに、マッピング及び監視用アレイ及びアセンブリ、並びに方法のような幾つかの観点を、本発明のさらに他の態様に従って現在の実施形態の様々な特徴と組み合わせてもよい。
【0107】
心臓の特定領域に注入型足場物質を送達する一態様を図14A〜17Bに示す実施形態を参照することにより以下で様々に説明する。
【0108】
さらに明確に述べると、図14Aに示すシステム400が送達カテーテル420を含んでおり、カテーテル420はその末梢側端部428に拡張可能な部材430を備え、また体外の基部側アクチュエータ434に結合されている。図示の実施形態では、拡張可能な部材430は、カテーテル420を介して加圧流体の供給源であるアクチュエータ434に結合されている膨張式バルーンである。図14A及び図14Bに示すように、複数の針440がバルーン430の一部に沿って設けられ、足場剤414の送達のための供給源410に結合される。
【0109】
梗塞の治療等の幾つかの状況では、上述のような装置からの注入は、梗塞域、又は僅かに広い若しくは狭い対応する領域への足場の送達を実質的に独立させるように構成されており、所望の足場範囲を特定の必要に合わせて特化して構成し又は設計することができる。さらに詳細に説明するために、図15に示す態様では、バルーン430は梗塞の位置に据えられて、血管壁組織の円周領域に針440を係合させ、針440を血管に隣接する梗塞組織に挿入するように構成されている。針を介して物質414を十分な容積及び態様で注入することにより、針の注入物は壁組織に十分に注入され、これにより所望の足場を設ける。
【0110】
システム400はこのように、経血管送達を介して心室の虚血領域に内部分子足場を設けるのに特に適するように構成されている。また、注入針のかかる経血管送達及び針の注入型足場の正味量搭載(ペイロード)のために他の装置を用いてよい。図16に示すように、上述のような位置は、冠状動脈又は静脈のような血管402によって境界を画定されている領域404に全体的に位置し得る。例えば、遮断された血管の再疎通の後には、下流の灌流はしばしば、梗塞に直接関わっている。かかる血管を用いて、バルーンを梗塞ゾーンに送達させて、図示のように又は他の具体的な態様において血管壁を通して注入を行なうことができる。さらに、冠状静脈洞又はやはり静脈のような他の経路を用いてもよい。加えて、かかるバルーンを、心室内での利用のために、膨張を用いて、注入されるべき壁の部分にバルーンの穿刺された送達部分を押圧するように改変してもよい。
【0111】
これらの実施形態によって記載されるような装置によって、また類似の態様で形成される足場は、絶対的又は完全でない場合でも有利な結果を与えることが認められよう。このことは一観点では、上述のような拡張可能な部材すなわちバルーンの実施形態に当てはまる。一観点では、広がった領域を支持する肋材として作用する足場の「指(fingers)」を注入する等のように、かかる組織領域の一部を横断すれば治療用足場支持部を設けるのに十分な場合もある。加えて、針からの注入物の間に重なりを形成するには不十分な針網羅範囲を有するようなバルーン設計は、より十分な網羅範囲及び重なりのために1回又は複数回にわたり部分的に回転されてもよい。以上の記載はさておき、損傷を受けた心組織領域に沿った完全な又は実質的に完全な注入は、極めて有利な実施形態であり、多くの場合に最適な結果を与えると考えられる。
【0112】
さらに詳細に説明するために、図16Aは、上述のものと同様のもう一つの治療の模式図を示しており、送達カテーテル470が冠状血管402にカニューレ挿入され、薬剤送達装置406を血管403まで送達して、ここで針408を進めて貫通させ、足場物質414を注入している。図16Bによってさらに詳細に示すように、例えばガイドワイヤ追跡能力を用いて他の血管(例えば血管405)にこの態様でカニューレ挿入し、マッピング又は他の手法を用いて、薬剤送達カテーテル490及び注入針494によって連続した足場496、497及び498を形成する等により、異なる梗塞領域を位置決定して治療することができる。針を再配置しながら繰り返し注入する、又はアレイアセンブリのそれぞれの針で多数回の注入を行なうことにより、かかるゾーンが重なって、さらに広い損傷領域を治療する。
【0113】
上述の経血管実施形態は説明のためのものであって、改変を施し得ることが認められよう。例えば、バルーン支援式針若しくはエンドホール型針アセンブリ、又は経血管血管外足場注入のために構築されたその他の装置のいずれかを、図示して説明した実施形態に従って用いてもよい。さらに、これら特定的な装置、例えばバルーン式針装置のその他の用法を、図面で具体的な応用例として示すものと類似の設計によるか又は適当な改変を施した設計によって遂行してもよい。
【0114】
例えば、図14A〜Bを参照して本書で説明した装置にさらに他の様々な強化又は改変を施してよい。一つの特定的な例では、図17Aに示すような偏向自在型先端設計を用いてよく、カテーテル460が、アクチュエータ464を操作することにより偏向可能なバルーン466を設けた末梢側端部468を有している。例えば引き操作線設計を用いてこの実施形態を達成することができる。図17Bに示すもう一つの実施形態では、カテーテル470が、ガイドワイヤ480を包囲する内部管腔を介してガイドワイヤ追跡機構を有しており、ガイドワイヤ480が配置された肺静脈に、末梢側端部478及びバルーン476を送達し得るようにしている。例えば図17Bでは結合器474の位置に概略図示されている例えば止血弁を用いた標準的な形態のガイドワイヤ結合を用いてよい。
【0115】
さらに他の例示的な改変形態では、針を、送達のために組織に押圧されて係合するように構成された多孔質膜壁等を介して所望の足場剤物質を送達する他の態様によって置き換えてもよい。籠のような拡張可能な部材、又は望ましい送達面積を形成する適当な寸法で構成されていてよいループ形状の細長い部材等のその他装置のようなバルーン以外の装置を同様に用いてもよい。さらに、円形又は部分的円形(例えば曲線形)以外の領域に注入を行なっても本発明の所期の範囲から逸脱せずに利点を与えることができる。
【0116】
さらに他の実施形態では、心組織の内部に足場を注入する上述の具体的な実施形態を様々なペース調整装置、構造及び手法と組み合わせてもよい。一観点では、針アセンブリ自体を、注入された足場によって治療される梗塞又は他の場合には損傷を受けたゾーンに関わる心臓の領域のペースを調整するのに用いてもよい。或いは、異なるアセンブリであるが心臓全体の健康管理と協調的に作用するアセンブリとして装置を補助的に用いてもよい。
【0117】
ペース調整若しくは他の心臓刺激、又は電気的結合を目的とする装置及び方法、或いは他の場合にはこれらのために適応構成された装置及び方法のさらに詳細な例が以下の発行済み米国特許に開示されている。Moneyの米国特許第4,399,818号、Bush等の米国特許第5,683,447号、Salo等の米国特許第5,728,140号、Panescu等の米国特許第6,101,410号、Maarseの米国特許第6,128,535号。追加例が、以下の米国特許出願公告に開示されている。Lindemans等の米国特許出願第2002/0035388号、及びBen−Haimの米国特許出願第2002/0087089号。さらに他の例が以下のPCT国際特許出願公告に開示されている。Panescu等の国際公開第98/28039号、Fieldの国際公開第01/68814号、Leeの国際公開第02/22206号、Ideker等の国際公開第02/051495号。この段落に引用した全参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。
【0118】
本発明は、損傷を受けた心組織に治療結果を与えるのに一般的には十分な足場を心臓に設ける幾つかの極めて有利な実施形態を参照して本書に記載されている。「支持」、「足場」との用語又は類似の意味を有する用語は、一観点では、侵襲の主な結果が、一つ又は複数の構造的観点に関して機械的に関連のある構造的改善を提供することを意味するものとされていることが認められよう。しかしながら、組織に送達されている如何なる物質でも幾分かのコンプライアンスを生じる場合があり、支持及び足場が全ての場合に剛性になるように意図されていないことも考えられよう。また、もう一つの観点では、「足場」は、であってもよいことが認められる。さらに、治療が提供されても、損傷に関わる医学的状態の進行又は保持を依然として帰結する場合もあることが認められよう。しかしながら、このようなことは、治療されない対照よりは依然改善されており、利点を与え得る。
【0119】
同様の観点で、何らかの水準では、殆どの物質は、殆どの形式の細胞とは言えないまでも多くの細胞に対して幾分かの注入可能性を有し、また幾つかの足場特性を有し得る。しかしながら本書では、物質は、該物質が重要な利点を齎す場合、及びさらに悪影響の方が大きくならないような殆どの状況において、心臓細胞に関して実質的に注入可能な足場物質であると考えられている。
【0120】
さらに、本発明の幾つかの実施形態では、損傷を受けた心組織に対する長期的に改善された支持が観察されるが、全ての例で治療から価値及び利点を得るためにかかる長期的な結果が要求される訳ではないことも思量されている。
【0121】
幾種類かの局所的な不整脈に関わる特定の需要に向けて他の特殊なツールを製造してもよい。例えば各図面に全体的に掲げた様々な実施形態によって全体的に図示されていると考えられるように、例示的な心臓送達システムに典型的には接触部材が設けられて、目標位置で組織に接触してここで所要の物質送達を行なう。
【0122】
組織足場剤送達とポリマー足場剤送達との間の様々な組み合わせは、例示的な実施形態を参照して上でも記載しているが、さらに他の組み合わせ及び副次的組み合わせ、並びに改変を施してよい。例えば、螺旋型針に中空の管腔を設けて、細胞薬剤送達又はポリマー薬剤送達の一方又は他方と共に用い、他方、この中央螺旋の周囲に設けられている針の円周アレイがこれら2種の物質の他方を送達してもよい。
【0123】
他の例では、図16A〜Bは混合された足場剤の心室壁への極めて有利な経血管送達をそれぞれ示しているが、混合された足場の各々の成分に相異なるゲージの針又は相異なる形式の送達装置が必要とされる場合には特に言えることであるが、これらの送達手法を全体的な一つの結果を得るように組み合わせてもよい。多数成分から成る足場の一方の前駆体薬剤を例えば経血管で達成し、これと組み合わせて他のものについては経心臓アプローチで達成してよい。さらに、薬剤によって経心臓送達モダリティを介して送達させるものと、経血管アプローチを介して送達させるものとがあってよい。このとき、各々のアプローチが心室壁の様々な区域で医療的な利点を提供することができるが、これらのアプローチの組み合わせによって、心室全体にわたって完全且つさらに有利な医療的結果を与えることができる。このために、経心臓アプローチが全体的に本書で図示され説明されており、右心系がしばしば到達に好ましい。しかしながら、心室内アプローチ(又は経血管アプローチ)の代替として又はこれと組み合わせてポリマー剤及び細胞剤の一方又は両方の左室経心臓送達も思量される。これらの任意の組み合わせ又は副次的組み合わせも想到され、本開示に基づけば当業者には明らかであろう。
【0124】
具体的な要求に合わせて、異なる容積の足場剤、並びに異なる数、寸法、パターン及び/又は長さの注入針を用いてよい。一観点では、事前診断解析を用いて、条件範囲、条件位置、又は足場剤若しくは注入針アレイの容積及び/若しくはパターンについて記載されたいずれのパラメータを送達に用いるかという患者の様々な解剖学的考慮点を決定することができる。或いは、実時間診断アプローチでは、刺激又は他の効果の監視又はマッピングを可能にして、薬剤量、又は針展開の距離、方向若しくは数を正確な結果が達せられるまで修正する。従って、例えば、かかる実施形態の針は、損傷を受けた領域がマッピングされて適当な足場注入について特性決定されるまで異なる構成を試行し得るように、組織を通して後退及び前進が可能なものとすることができる。
【0125】
さらに、薬剤送達及び電極実施形態は互いに組み合わせると極めて有利であるが、独立でも有利であり、他方を必要とせずに有利な結果を与えるように用いることもできると思量される。
【0126】
以上の記載はさておき、具体的な有利な全体アセンブリを図18に示す。さらに明確に述べると、心室内足場システム500が、足場物質550の送達と、以下に述べるような電極針530及び定着器540の送達との両方を提供するように協働する送達カテーテル510を含むものとして示されている。送達カテーテル510は、基部側結合器514を備えた基部側端部512と、末梢側端部516と、末梢側先端518とを有しており、カテーテル510は心臓内送達カテーテルであって、内容物を左室空間の内部から左室壁に向かって送達するように構成されている。送達カテーテル510から伸縮式で、伸縮螺旋型針540を備えた内部カテーテル520、及び螺旋型針540の周囲に隔設されている多数の隔設型伸縮電極針530が設けられている。中央定着器540、伸縮電極針530及び部材520の先端の全て又は幾つかのみを刺激用電極として設けて、シャフト520等を介してエネルギ発生源560に結合することができる。さらに、中央螺旋540、伸縮電極部材530若しくは部材520の先端の全て又は幾つかのみは、領域550に示すような電極部位によっても結合された領域に所定容積の足場剤を送達するように構成されていてよく、この送達は、例えば通路に結合されたポート等(図示されていない)を介して行なわれ、通路はさらにかかる足場剤の供給源570(概略図示されている)に結合される。
【0127】
この組み合わせ型装置は、ペース調整、特にLV壁機能不全を治療する等のために心室の相当部分を刺激するのに極めて有利であると考えられる。図18にさらに詳細に図示し、心室壁のような組織内部に駆動される伸縮自在の要素を提供する他の実施形態として説明するように、それぞれの伸縮自在の要素の自動又は手動伸張のいずれかを可能にするアクチュエータであるさらに他の装置580をかかるアセンブリに結合してよい。図18の参照番号500又は本書のその他の実施形態に示すようなシステム全体に設けられ得るさらに他の要素としては、ペースメーカ/細動除去器のようなエネルギ発生源に組み入れられ若しくは他の場合にはこれと協働するような監視センサ並びに関連ハードウェア及び/又はソフトウェアがあり、例えば所望の足場の結果を判定する診断用の電気心臓信号をマッピングするためのハードウェア及び/若しくはソフトウェア、並びに/又は設定点等のように足場の注入自体の効果に関わるフィードバック制御等が含まれる。
【0128】
様々な実施形態の中で、心組織構造に治療用足場を設けるように構成された注入型物質を記載する。本発明による利用に極めて有利な物質の例としては、細胞、ポリマー、又は細胞間結合域の剛性を高めるような間質形態若しくは他の形態の内壁支持を設けるその他の液体や調剤品がある。フィブリン糊剤はかかる用途に極めて有利な生体高分子であると判明している。もう一つの例としては、コラーゲン、又はその前駆体、類似体若しくは誘導体を含有する注入型物質がある。
【0129】
細胞を用いる本発明のさらに特定的な態様としては、筋芽細胞、線維芽細胞、幹細胞、又は改善された心室伝導及び収縮を提供するために周囲の心構造に対して所望の伝導性結合を形成するのに十分な心臓細胞とのギャップ結合伝導を提供するその他の適当な細胞がある。かかる結合が注入領域にわたる適正な静脈洞律動を与えるのに十分に達成されないような他の態様では、反対が望ましい場合もある。つまり、注入されたゾーンを介した又は該ゾーンからの既存の不完全ではあるが収縮性の伝導の潜在的な「催不整脈」の危険性を減じるために注入された領域の完全な結合分離が好ましい場合がある。さらに細胞送達に関して、これらの細胞は患者自身の細胞から培養されたものであってもよいし、又は調節式細胞培養によるもののように人体の外部に由来する外来のものであってもよい。
【0130】
心筋修復のために骨格筋芽細胞移植を用いる組織工学手法は、正常な心筋でも損傷した心筋でも骨格筋芽細胞が生き延びて収縮性筋線維を形成することが実証されて益々注目を浴びている。しかしながら、心筋修復の力点は心筋収縮性の保存に置かれて、心臓刺激伝導又は不整脈原性に対する組織工学の効果については殆ど注目されていない。
【0131】
送達されるべく選択された生きた細胞物質としてポリマー足場と共に「筋芽細胞」を用いて治療的な医療効果を上げる本発明の実施形態によれば、かかる細胞は従来、正常な心組織構造に移植されると不整脈を発生することが観察されており、この観察は、正常な伝導経路が移植された細胞と既存の心組織との間のギャップ結合の欠陥によって遮断されることにより生ずると考えられている。このことは、従来の試みでは細胞治療によって収縮性及び伝導を高めようとしているため問題と看做されていた。対照的に、本発明の幾つかの観点及び態様による筋芽細胞移植の利用は、他の場合であれば心臓サイクルには結合されないことの多い梗塞領域に沿った位置で極めて局所化された態様でこれらの細胞の送達を構成するものであり、このため、損傷を受けた細胞と既存の細胞との間のギャップ結合の結果が、所期の医療的結果に実質的に関わることがない。
【0132】
線維芽細胞は、注入された体内の心臓足場のための極めて有利な態様と考えられるもう一つの代替的な細胞形式である。一つの特定の有利な観点では、線維芽細胞は、骨格筋芽細胞のように繁殖から成熟した細胞へ至る移行段階を経ない。従って、線維芽細胞は、骨格筋よりも均一な興奮パターンを有する。線維芽細胞の電気生理学的特性は、1個の線維芽細胞から次の線維芽細胞までかなり一貫しており、伝導に対する一貫した効果のために実効的であると考えられる。従って、線維芽細胞を用いて心室壁機能不全又は虚血に足場を設ける一つの実施形態例では、バッチ間/注入間でよく似た応答を予測することができる。
【0133】
従って、本発明はさらに他の実施形態では、線維芽細胞移植を注入型足場物質と組み合わせて用いて損傷を受けた心筋を治療するシステム及び方法を提供する。かかる実施形態の極めて有利な変形によれば、かかる線維芽細胞は典型的には皮膚標本から採取された自家のものであり、続いて適当に準備されて、心組織構造の内部の所定位置に移植されて足場の形成を容易にして、梗塞、虚血並びに/又は心筋症及びCHFのような心臓損傷を治療する。
【0134】
従って、本発明はこの有利な実施形態によれば、患者自身の身体からの線維芽細胞を用いて、心臓の伝導異常域に移植する。線維芽細胞は、瘢痕の低酸素環境で生き延びて増殖し得る細胞であって(典型的には、心臓の伝導異常はAMIからの梗塞瘢痕組織と正常な心組織との間の前端で生じる)、また、心臓の伝導経路を遮断する或いは変更/再構築する能力を有し、又は線維芽細胞の電気機械的な結合を誘発し得る場合には、新たな経路を形成して心臓の伝導を異常伝導経路から正常化する。
【0135】
以下の参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。Yair FELD,et.al.,“Electrophysiological Modulation of Cardiomyocytic Tissue by Transfected Fibroblasts Expressing Potassium Channels:A Novel Strategy to Manipulate Exitability,”Circulation,January 29,2002 pgs 522−529。
【0136】
本発明の幾つかの特定的な実施形態では、患者自身の線維芽細胞を培養して注入型ポリマー足場剤と共に損傷を受けたと識別された区域又は他の場合には機能不全心筋に移植して、周囲組織と共に収縮したり又は周囲組織から収縮したりしない足場を設ける。或いは、注入された足場ゾーンの周囲の既存の心筋細胞と電気機械的に結合する線維芽細胞の能力を介して伝導経路を正常化するために、これらの線維芽細胞でのギャップ結合タンパク質の生成を含む物質及び方法を用いてもよい。
【0137】
本発明の幾つかの広い観点は、治療用機械的足場を形成するために一般的に細胞治療を盛り込んでいるが、独立に有利であると考えられる幾つかのさらに特定的な態様もある。
【0138】
例えば、一つの具体的なかかる態様では、梗塞の治療に自家線維芽細胞を用いる。線維芽細胞は、典型的には組織損傷(すなわち皮膚損傷、AMI)及び瘢痕を生成する組織の治癒に関わる細胞系である。線維芽細胞の活性化は損傷に応答して生ずる。これらの事象は、正常組織の対応する休止細胞とは根本的に異なる生物学的機能を有する活性化された表現型への細胞形式の移行を生ずる。これらの細胞表現型(協調型の遺伝子発現から生ずる)は、サイトカイン、成長因子及び下流の核内標的によって調節される。傷の治癒の例と同様に、線維芽細胞は組織の修復及び再構築に振り向けられる。正常組織の休止線維芽細胞は主として、細胞外基質の定常状態での交代を受け持っており、例えば次の参考文献に開示されている。EGHBALI M,CZAJA MJ,ZEYDEL M,et al.,“Collagen chain mRNAs in isolated heart cells from young adult rats,”J Mol Cell Biol 1988;20:267−276、及びPOSTLETHWAITE A,KANG A.,“Fibroblasts and matrix proteins、及びGallin J,Snyderman R(eds),“Inflammation.Basic Principles and Clinical Correlates,”1999,Philadelphia:Lippincott Williams & Wilkins。これらの参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。
【0139】
皮膚の線維芽細胞は、PDGFへの移行を強化し、コラーゲン蓄積及びMMP合成、並びに正味のコラーゲン蓄積を増大させる。このことは例えば次の参考文献に開示される通りである。尚、これらの参考文献の開示内容も参照によりその全体として本出願に援用する。KAWAGUCHI Y,HARA M,WRIGHT TM.,“Endogenous 1 alpha from systemic sclerosis fibroblasts induces IL−6 and PDGF−A,”J Clin Invest,1999,103:1253−1260。線維芽細胞でのギャップ結合タンパク質の欠如と結合したこのコラーゲン基質の形成は、心筋細胞からの電気機械的な隔離を生ずる。一つのさらに具体的な例では、過去にMIに罹患した患者の心筋の線維芽細胞の移行領域には電気的伝導の欠如が観察される。
【0140】
従って、ポリマー足場が細胞治療と有利に組み合わされる幾つかの応用では、線維芽細胞は、異常な伝導経路の不整脈原性巣として現われる心筋内領域での電気的絶縁及び/又は電気的伝導の低減を生ずるのに用いる(及び増殖させる)ことのできる細胞である。
【0141】
線維芽細胞は体内の多くの組織(肺、心臓、皮膚)からバイオプシーに供され、単離され、培養で増殖されて、肺静脈、心房及び心室、並びに心耳を含めた心血管系において、伝導を低減させ、不整脈経路を孤立させ、不整脈原性巣を孤立させる必要が存在する心臓の領域に(注入、グラフト送達、ポリマー担体又はポリマー骨格とのグラフト形成等を介して)導入される。
【0142】
医学的治療に関わるものとしての筋芽細胞及び/又は線維芽細胞による細胞治療に関連した幾つかの観点のさらに詳細な例が以下の刊行された参考文献に様々に開示されている。SUZUKI,Ken et al.,“Overexpression of connexin 43 in skeletal myoblasts:Relevance to cell transplantation to the heart,”J.Thorac Cardiovasc Surg 2001;122:759−66、MURRY,Charles E.et al.,“Muscle Cell Grafting for the Treatment and Prevention of Heart Failure,”J Cardiac Failure 2002;8:6 S532−541、LONG,Carlin S.et al.,“The Cardiac Fibroblast,Another Therapeutic Target for Mending the Broken Heart?”J Mol Cell Cardiol 34,1273−1278(2002)。これらの参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。
【0143】
様々な実施形態に従って損傷を受けた心筋を治療する細胞治療は、土台となる心組織構造自体、さらに明確に述べると心空間に関わる構造を変化させることにより心臓壁支持を強化する手段を提供する本発明のさらに広い観点の一態様(極めて有利なものであるが)であると考えられる。この観点は、所期の治療を提供する際に、特に外部「ソック(sock)」又は他の拘束型埋込みを用いるような足場埋込みを形成するためのその他の従来の手法の他の副作用及び短所の多くを招かずに大きな利点を提供する。
【0144】
例えば、他の何らかの従来の拘束型モダリティから予測され得る組織糜爛(びらん)及び他の実質的な瘢痕性応答が実質的に回避される。このことは、例えば外部に位置する冠状血管の閉塞を防ぐ場合に特に利点を有する。
【0145】
加えて、細胞治療は一般的には、極めて局所化された態様で行なわれるが、多くの足場手法は損傷を大幅に超えた心臓の部分全体を支持するという要件を課される。
【0146】
従って、本発明は、LV壁自体の拡張特性に直接的な影響を及ぼす治療用機械的足場を設け、壁が拡張するのを外部から拘束することなくLV壁機能不全を治療することに関する広い観点を思量する。このようなものとして、細胞剤治療又はポリマー剤治療以外の適当な態様が本発明のこの観点に従って思量される。
【0147】
一般的には、「ポリマー」とは本書では、多数の単位又は「マー(mer)」の鎖として定義される。例えばフィブリン糊は、重合したフィブリン単量体を含んでおり、さらに本書では、その構成成分が生物性であるためフィブリン糊を生体高分子の一例と考える。
【0148】
フィブリン糊は既にFDAから認可を受けた生体物質であって、外科用の接着剤及び封止剤として常用されている。この生体高分子は、トロンビンのフィブリノゲンへの付加によって形成される。キット内のトロンビンはフィブリノゲンを酵素反応で開裂させる開始剤又は触媒であって、分子の電荷及び立体配座を変化させて、フィブリン単量体を形成する。次いで、フィブリン単量体は凝集を経て生体高分子フィブリンを形成する。トロンビン及びフィブリノゲンの二成分の結合の後に、溶液は数秒間液体に留まった後に重合する。従って、フィブリン糊剤は、前駆体物質の混合直後の混合物であれ「その場」(in−situ)で混合するために別個に各物質を送達することによるものであれ、注入カテーテル又は他の注入器を介して心筋に送達されるように構成され、このため侵襲的な処置を最小限しか必要としない。また、フィブリン糊剤は生体適合性で無毒性であり、炎症、異物反応、組織壊死又は広範な線維増多を招くことがない。
【0149】
天然フィブリンは、傷の治癒に深く関わっており、血管新生の身体の天然基質としての役割を果たす。内皮細胞がフィブリン内のRGDモチーフに結合したαvβ3インテグリンを介してフィブリン塊を経て移動する。内皮細胞の移動位置でのプラスミンの生成によってフィブリン基質が分解する。このフィブリン密度の低下によって毛管形成が可能になる。細胞は、相対的に稠密でないフィブリンを経て移動しながら、血管内皮カドヘリンを介してフィブリンのβ鎖上の残基と相互作用して、毛管形態発生を促進する。内皮細胞移動及び毛管形成の基質を提供することに加え、フィブリンはまた、様々な成長因子及びフィブリン溶解酵素のための徐放性貯蔵器としての役割も果たす。フィブリンの分解生成物であるフィブリンフラグメントEもまた特性決定されており、血管新生を誘発し、人体の微小血管内皮細胞の増殖、移動及び分化を刺激して、平滑筋細胞の移動及び増殖を刺激することが観察されている。フィブリン糊はまた、様々な成長因子を上方制御する又は放出すると考えられ、他の細胞を梗塞に動員したりLV拡張の過程を阻害したりすることができる。フィブリン糊は、線維芽細胞移動を誘発することが観察されており、梗塞での線維芽細胞の動員及び増殖を生ずることができ、結果として梗塞壁がより厚くなる。また、フィブリン糊の注入によって骨髄から幹細胞の動員を生ずることが可能になり、新たな血管成長を支援することができる。
【0150】
本発明の様々な観点に従って有用であり得るフィブリン糊のさらに詳細な例は次の参考文献に開示されている。Sierra,DH,“Fibrin sealant adhesive systems:a review of their chemistry,material properties and clinical applications.”J Biomater Appl.1993;7:309−52。この参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。
【0151】
本発明のさらに他の実施形態によれば、例えば細胞のような生体物質を非生体物質と組み合わせた調剤品が心組織構造に送達されてここで足場を設ける。さらに他の詳細な一実施形態では、ポリマー物質は、足場を形成したい位置まで送達される細胞の保持力を高めるように構成される。もう一つの観点では、ポリマー物質は、領域内の物質の重合鎖を介して内壁支持を提供すること等により、足場を設けることにさらに寄与するように構成されている。
【0152】
細胞治療とのかかる組み合わせで重要な利点を与える物質の一つの特定例がフィブリン糊である。さらに明確に述べると、フィブリン糊は、後述の実施例の一つを参照してさらに詳細に議論を展開するように、心臓の梗塞領域のような損傷を受けた心構造を治療するために心組織に注入される筋芽細胞のような細胞の保持力を高めることが観察されている。
【0153】
心臓不整脈を治療するために細胞送達と組み合わせてフィブリン糊を利用する重要な利点はさておき、かかる組み合わせで有利な効果を有する他の適当な物質も想到され、例えば、損傷を受けた壁構造の機能及び/又は支持を実質的に強化するために細胞間ギャップ結合まで十分に介入するか又は他の場合には心組織構造の細胞外基質に影響を与える他のポリマー、分子足場又は物質等がある。また、コラーゲン又はその前駆体、類似体若しくは誘導体がさらに、フィブリン糊に加えて又はフィブリン糊の代替としてこの目的に有用であると考えられる。
【0154】
本発明による注入型足場物質の実施形態は、主に若しくは唯一の注入型足場物質を含んでいてもよいし、又は複数の物質の組み合わせを含んでいてもよい。例えば、細胞を含む注入型足場物質の実施形態は、特に送達カテーテルの送達管腔等を介して注入されるように構成された細胞媒体として全体的な調剤品内で細胞を提供する流体又は他の基質のようなその他の物質を含んでいてよい。有用であると観察された一つの特定例では、注入型足場物質は、骨格筋芽細胞又は他の適当な置換細胞をフィブリン糊剤のような生体高分子剤と組み合わせて含んでいてよく、フィブリン糊剤自体が、心臓内の所望の位置に細胞と共に送達されると足場を設けるのを助けるフィブリン糊を形成するように混合される2種の前駆体物質として提供されてもよい。
【0155】
本書に記載しているような特定の必要性に合わせた特化されたツール及び手法から得られるような実質的な利点はさておき、注入された心臓内の壁の足場を形成するような特定の態様、又は他の場合には心筋症や虚血状態を治療する若しくは予防するために細胞治療を行なうような特定の態様が、本発明の様々な広い観点を限定すると考えるべきではない。
【0156】
例えば、フィブリン糊が、注入壁足場としてのフィブリンの具体的な治療結果を各々提供する又は強化する幾つかの異なる態様の有利な生物活性を発現することが認められよう。従って、フィブリン剤自体が、独立な価値を有するより広い観点のような生物活性特徴の例示的態様となる(各特徴の様々な組み合わせによる付加的な価値を問わず)。一観点では、フィブリンはRDG結合部位を含んでおり、これらの結合部位は、フィブリンと共に送達され又は区域に動員される細胞を含め、細胞の区域に対する親和性を高めることが観察されている。加えてフィブリンは、血管新生を誘発することが観察されているフラグメント「E」を含んでいる。これらの各々が、細胞治療の足場としてのフィブリン糊の独立した利点を表わし、これらの組み合わせが特にさらに有利である。例えば、RDG結合部位によって提供される細胞親和性は、足場内部で注入領域に細胞基質が形成することを可能にし、フラグメントEからの血管新生は、誘発される血液供給を介して細胞基質の長寿命及び生存力を可能にする。このことは、例えば虚血心筋に足場を注入する応用、又はCHF治療のように心筋症を治療する応用で特に有利であり、治療を施さなければ区域内で長期の細胞生存力を伴わずに進行したであろうような負の再構築を防ぎながら心室壁を強化する。
【0157】
従って、フィブリン糊はこれらの利点を提供する特徴の実例であると考えられ、類似の活性を求めてさらに他の実施形態に他の改変を施して他の注入型化合物を提供してもよい。例えば、上述のような組織に物質を注入して得られる注入された足場にRDG結合部位を発現させることは、例示される本発明の広い観点であるが、フィブリン糊の特定の有利な実施形態に限定されている訳ではない。もう一つの例では、血管新生を誘発する態様でポリマー剤を心組織に注入することは、フィブリン糊によって例示されるもう一つの広い観点であるが、全ての例でこの特定の有利な実施形態に必ずしも限定されている訳ではない。具体的には、詳細な実施形態の改変としては、特異的にフィブリン分子を介して以外でフラグメントEを提供する他の分子形態も含まれ得る。さらに、RDG結合活性(又は他の細胞親和性因子)とフラグメントE(又は他の血管新生因子)との組み合わせを、特異的にフィブリンを介して以外の態様で本発明のかかる様々な広い観点から逸脱せずに達成することができる。
【0158】
本発明の幾つかの広い観点からフィブリン糊の制限を除去することを意図した以上の記載はさておき、それでも尚、フィブリン糊はそれ自体の観点で、注入型足場剤として上述した各特徴及び各利点の組み合わせを個々に提供すること等により、大きな価値及び利点を提供することが認められよう。
【0159】
他のポリマー又は分子足場若しくは物質は、それら自体が注入型であってもよいし前駆体薬剤の形態であってもよく、これらの物質について以下に簡単に説明する。ポリエチレンオキシド(「PEO」)、PEO−ポリ−L−乳酸(「PLLA−PEOブロック共重合体」)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−アクリル酸)(「ポリ(NIPAAm−co−Aac)」)、各種プルロニック、及びポリ−(N−ビニル−2−ピロリドン)(「PVP」)のような幾種類かの合成ポリマーは、移植された細胞のための人工的な細胞外基質を提供するように構成され得る。アルギネート、コラーゲン、及び言うまでもなくフィブリン糊のような様々な生物学的ポリマーは、幾つかの環境で注入型足場としての利用態様で製造することができる。これらのポリマーの各々の利点としては、相対的に侵襲的な埋め込みを必要とせずに所望の位置に注入し得ること等がある。
【0160】
一つのさらに特定的な例では、PEOは生体適合性であると一般に考えられ、タンパク質及び殆どの生体高分子と反応しないことが知られている。この物質は注入可能ではあるが、22ゲージのようなより太い針がこの物質に一般的に用いられる。もう一つの例によれば、PEO−PLLA−PEOブロック共重合体もまた生体適合性で生分解性であると一般に考えられている。しかしながら、この化合物による組成は典型的には、約45℃でゲル溶液転移を経るため、典型的には、体温よりも高い温度で注入されるべきである。それぞれの治療システムはかかる状況では一般的には加熱器アセンブリも含む。ポリ(NIPAAm−co−AAC)ゲルもゲル溶液転移を生ずるが、これらのゲルは一般的には、室温では液体のままであり、体温では固化する。機械的に安定なゲルを形成するために、太いゲージの針の方が特に有用であり得る。各種プルロニックも一般に生体適合性であることが知られているが、生分解性であると典型的には考えられていない。プルロニックは4℃未満の温度では液体のままであるため、カテーテル送達もまた、能動的冷却及び/又は断熱をカテーテルに沿ってさらに含めて、送達されるまでかかる温度で物質を供給してこの温度に保つことができる。PVPは、30ゲージのような比較的細いゲージの針で注入され得る物質である。また、一般的には、非抗原性であり無毒性であるが、生分解性であると一般には考えられていない。アルギネートゲルは典型的には、カルシウムイオンによって共に結合されているが、経時的に解離してゲルを機械的に不安定にする。また、これらのゲルは、非生分解性であると一般に考えられ、幾つかの状況では免疫原性であることが観察されている。コラーゲンゲルは生体適合性で且つ生分解性であると一般に考えられているが、典型的には機械的に安定ではない。
【0161】
細胞培養及び移植のための足場として海綿体を形成するのに用いられる幾つかの追加物質も開示されている。特定的な一系列の開示では、多糖海綿体がかかる態様で応用されることが意図されている。しかしながら、これらの開示は、針注入手法又は経カテーテル手法を介した送達に好適な注入型足場剤を提供するようなこれらの構造の適当な改変を示唆していない。それでも尚、可能な場合には、本書では注入式送達のためにかかる改変を行なうことを以下でさらに他の観点として思量する。
【0162】
上述した物質の様々な観点のさらに詳細な例は次の参考文献の1又は複数に掲げられているMERRILL EW.“Poly(ethylene oxide)star molecules:synthesis,characterization,and applications in medicine and biology,”J Biomater Sci Polym Ed,1993;5:1−11、PEPPAS NA,Langer R.“New challenges in biomaterials,”Science,1994;263:1715−20、SIMS CD,Butler PE,Casanova R,Lee BT,Randolph MA,Lee WP,Vacanti CA,Yaremchuk MJ,“Injectable cartilage using polyethylene oxide polymer substrates,”Plast Reconstr Surg.1996;98:843−50、JEONG B,BaeYH,Lee DS,Kim SW,“Biodegradable block copolymers as injectable drug−delivery systems,”Nature,1997;388:860−2、STILE RA,Burghardt WR,Healy KE,“Synthesis and Characterization of Injectable Poly(N−isopropylacrylamide)−Based Hydrogels That Support Tissue Formation in Vitro,”Macromolecules,1999;32:7370−7379、ARPEY CJ,Chang LK,Whitaker DC,“Injectability and tissue compatibility of poly−(N−vinyl−2−pyrrolidone)in the skin of rats:a pilot study,”Dermatol Surg,2000;26:441−5;discussion 445−6、SMIDSROD O,Skjak−Braek G.“Alginate as immobilization matrix for cells,”Trends Biotechnol,1990;8:71−8、Paige KT,Cima LG,Yaremchuk MJ,Vacanti JP,Vacanti CA.“Injectable cartilage,”Plast Reconstr Surg,1995;96:1390−8;discussion 1399−400。これらの参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。
【0163】
本書に記載する物質の様々なものが、単独で、又は組み合わせて、又は例えばフィブリン糊に加えて若しくはこれに代えて等の他の物質との配合物としてのいずれかで本実施形態の様々なものに従って有用であると考えられる。これらの化合物はまた、化合物の幾つかのより広い分類を示しており、これらの分類は、当業者には明らかなようにさらに他の代替物に寄与することができる。さらに、列挙されている化合物を組織に送達させるために、「その場」で所期の化合物を形成するような前駆体物質を組織に送達してもよい。例えば、アルギネートは例示的な形態の重合型多糖であって、注入に適するように製造することができ、本書に記載する利点の様々なものを提供することができる。一つの特定的な例では、例えば多糖及びカルシウムの濃度を変化させることにより、アルギネートをポリマーとして注入可能にすることができる。このようにして、かかる調剤品、又は他の注入型調剤品を、本書に記載する様々な観点に従って、当業者には明らかなようにやはりフィブリン糊又は他の化合物の代替として又はこれらを組み合わせて心組織構造に注入することができる。
【0164】
さらに、ポリマーは心組織構造に足場を設けて細胞治療を支持する特に有利な手段であるが、ポリマー以外の形式の物質を本発明の様々な観点に従って用いてもよく、従ってさらに思量される実施形態に相当する。例えば、インテグリンは細胞結合を強化することが観察されているタンパク質の一例であり、従って心組織構造に注入してそこで細胞組織形成及び/又は保持力に対する実質的な利点を提供する。さらに詳細に説明するために、さらに具体的な実施形態はまた、インテグリンを細胞送達と組み合わせて含んでいてもよく、且つ/又は本発明の1若しくは複数の観点に従って有用であると本書で記載されている非生体化合物のその他のものと組み合わせて含んでいてもよい。
【0165】
例示的なポリマー及び他の潜在的に注入可能な足場剤の上述の一覧と比較して、それでも尚、フィブリン糊は、生体適合性、無毒性及び生分解性であると一般に考えられているため有用で比較的独特の利点の組み合わせを提供することが認められる。また、フィブリン糊は、室温又は体温で30ゲージの針で注入することができる。さらに、フィブリン糊は、複数の生物活性の組み合わせを提供し、その他多くの薬剤では提供に適さないような注入型足場として組み合わせ型治療を可能にする。
【0166】
しかしながら、フィブリン糊又は関連の薬剤が本書で記載されている場合に、コラーゲン、又はその前駆体、類似体若しくは誘導体のような他の物質もかかる状況で、特に注入された足場の形成に関連して、単独で又は細胞と組み合わせて用いてよいことがさらに思量されることが依然認められよう。
【0167】
さらに、本書に記載する1又は複数の実施形態に関連して例えばコラーゲン又はフィブリンのような化合物が本書で指定される場合には、これらの前駆体、類似体又は誘導体がさらに想到される。例えば、代謝され又は他の場合には体内で変化させられてかかる化合物を形成する物質構造が想到される。或いは、反応してかかる化合物を形成する組み合わせ物質も想到される。やはり想到される付加的な物質としては、上述の指定化合物の分子構造をあまり変化させない分子構造を有するもの、又は他の場合には本書で思量されている所期の利用に関して実質的に似た生物活性を有するもの(例えばかかる生物活性作用に関して非官能性の基を除去し若しくは変化させたもの)等がある。かかる化合物群、及びそのかかる前駆体、類似体又は誘導体を本書では「化合物薬剤」と呼ぶ。同様に、例えば「ポリマー剤」又は「フィブリン糊剤」のような他形態の「薬剤」に対する本書での参照は、実際の最終生成物、例えばそれぞれポリマー若しくはフィブリン糊、又は結果として得られる物質を形成するように一緒に協働的な態様で送達される1又は複数のそれぞれの前駆体物質をさらに含み得る。
【0168】
以上に掲げた実施形態の記載に加えて、本発明のさらに他の観点、態様、実施形態、並びに物質、システム及び方法の変形が、以下にまとめた幾つかの例示的な科学的研究を参照してさらに詳細に記載される。これらの記載は、当業者には明らかなように本開示の全体性の文脈で解釈され、特に明記されていない限り限定を意図するものではなく、また所載の特定の観点に限定されない。
【実施例1】
【0169】
この実施例は、フィブリン糊、注入型生体高分子の体内支持及び足場としての効果を検証して心筋梗塞(「MI」)後の心機能に対する改善及び梗塞壁厚みに対する影響を確認するために行なった例示的な研究を記載する。
【0170】
(1.方法)
(a.ラット心筋梗塞モデル)
この研究では虚血再灌流モデルを用いた。このモデルは、以下の刊行物に過去に開示されているものに様々な観点で類似している。この参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用するSievers RE,Schmiedl U,Wolfe CL,et al.,“A model of acute regional myocardial ischemia and reperfusion in the rat,”Magn Reson Med.1989;10:172−81。
【0171】
雌のSprague−Dawleyラット(225g〜250g)にケタミン(90mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔をかけた。無菌法で、ラットを仰臥位に配置して胸部を清浄化して剃毛した。胸骨正中切開を行なうことにより開胸した。左房底面及び室間溝を標認点として視野内に保ち、心室空間内に入らないように注意しながら、左冠状動脈の左前下行部(LAD)の知覚される水準よりも僅かに深い深さで1針の7−0Ticronの縫合を心筋を通して配置した。LADを塞ぐように縫合を17分間にわたって締めた後に除去して、再還流を可能にした。次いで、胸部を閉じ、1週間にわたってラットを回復させた。
【0172】
(b.骨格筋芽細胞の単離及び培養)
Sprague−Dawley新生児期ラット(2日齢〜5日齢)の後肢筋からの筋芽細胞を単離して、以下に記載する手順に従って、また以下の背景刊行物をさらに参照して精製した。尚、この参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。Rando TA,Blau HM,“Primary mouse myoblast purification,characterization,and transplantation for cell−mediated gene therapy.”J Cell Biol.1994 ;125:1275−87。
【0173】
簡単に述べると、リン酸緩衝塩水(PBS)−ペニシリン/ストレプトマイシン(PCN/Strep)の下で後肢筋を採取して、機械的にすりつぶした。組織を37℃で45分間にわたってDulbeccoのPBS(Sigma)内でディスパーゼ及びコラゲナーゼ(Worthington)で酵素作用で解離させた。次いで、得られた懸濁液を80μmの濾紙に通して細胞を遠心分離によって集めた。線維芽細胞から筋芽細胞を単離するために細胞を10分間にわたって予備培養(preplate)した。筋芽細胞懸濁液をコラーゲン被覆した100mmポリスチレン組織培養皿(Corning Inc)に移して、95%空気と5%CO2との加湿雰囲気内で37℃として成長媒体(HamのF10C媒体80%、胎児ウシ血清20%、PCN/Strep1%、組換えヒト塩基性線維芽細胞成長因子2.5ng/mL)内で増殖させた。培養物を細胞密度(confluency)70%〜75%に到達させて、3日〜4日毎に継代した(1:4分割)。筋芽細胞物質製造の幾つかの観点のさらに詳細な知見は上述のRando TA,Blau HM,“Primary mouse myoblast purification,characterization,and transplantation for cell−mediated gene therapy.”J Cell Biol.1994 ;125:1275−87に開示されている。
【0174】
(c.フィブリン糊)
本研究で用いたフィブリン糊は、市販のTisseel VHフィブリン封止剤(Baxterより販売)であった。この封止剤は二成分系であって、固化して固体ゲル基質になる前に数秒間にわたって液体に留まる。第一の成分は、濃縮フィブリノゲンと、フィブリン溶解阻害剤のアプロチニンとから成る。第二の成分はトロンビンとCaCl2との混合物である。この成分は、供給されたDuplojectアプリケータを介して送達され、アプリケータは、図1の例示的な実施形態に示すように、二つの成分を別個のシリンジに保って混合及び送達を同時に行なう。フィブリノゲン対トロンビンの成分比は本研究では1:1とした。
【0175】
(d.注入)
MIから約1週間の後に、PBS50μL(マイクロリットル)内の0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)(対照群)、50μLフィブリン糊、0.5%BSA50μL内の5×106筋芽細胞、又はフィブリン糊50μL内の5×106筋芽細胞のいずれかを虚血LVに注入した。殺菌法の下で、ラットに麻酔をかけて剣状突起から下部肋骨に沿って左腋窩の高さまで開腹した。左室心尖部を横隔膜下切開を介して露出させたが、胸壁及び胸骨はそのままにした。ラットを無作為抽出して対照群又は治療群のいずれかに分け、30ゲージの針を介して虚血LVに注入を行なった。細胞群では、5×106筋芽細胞を0.5%BSA50μLに懸濁して心筋に注入した。フィブリン内細胞群では、5×106筋芽細胞をフィブリン糊のトロンビン成分25μLに懸濁した。トロンビン−細胞混合物はフィブリノゲン成分25μLと同時に心筋に注入された(図1)。トロンビン25μL及びフィブリノゲン25μLはフィブリン群の虚血心筋に同時に注入された。胸部空洞部の吸引の後に横隔膜を縫合して閉じ、続いて腹部を閉じた。
【0176】
(e.心エコー法)
MIの約1週間後に全動物に対して覚醒状態で経胸腔心エコー法を行ない(ベースライン心エコー図)、続いて1日〜2日後に制御注入又は治療注入を行なった。次いで、約4週間後にフォローアップの心エコー図を撮影した。
【0177】
本実施例の研究に従って用いた心エコー法の方法は、次の参照文献に開示されているものと略類似している。Youn HJ,Rokosh G,Lester SJ,et al.,“Two−dimensional echocardiography with a 15−MHz transducer is a promising alternative for in vivo measurement of left ventricular mass in mice,”J Am Soc Echocardiogr.1999;12:70−5、及びNakamura A,Rokosh DG,Paccanaro M,et al.,“LV systolic performance improves with development of hypertrophy after transverse aortic constriction in mice,”Am J Physiol Heart Circ Physiol.2001;281:H1104−12。他の報告でも、心筋梗塞を有するラットでの経胸腔心エコー法の精度及び再現性が実証されている。心筋梗塞を有するラットでの経胸腔心エコー法の他の例を、さらに十分な理解の目的で次の参考文献に掲げる。Scorsin M,Hagege AA,Marotte F,et al.,“Does transplantation of cardiomyocytes improve function of infarcted myocardium?”Circulation,1997;96:11−188−93、及びLitwin SE,Katz SE,Morgan JP,et al.,“Serial echocardiographic assessment of left ventricular geometry and function after large myocardial infarction in the rat,”Circulation,1994;89:345−54。この段落で引用した参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。
【0178】
簡単に述べると、動物を剃毛してプラスチックのDecapiCone固定器(Braintree Scientific Inc.)に覚醒状態で配置した。音響カップリング用のゲル層を胸部に塗布した。次いで、動物を仰臥位又は僅かに側臥位に配置した。15MHzのリニアアレイ型トランスデューサシステム(米国カリフォルニア州Mountain View、Acuson Sequoiaのc256)を用いて心エコー法を行なった。徐脈を招く可能性があるので胸部に過大な圧力を加えないように注意した。胸骨傍長軸図及び短軸図の両方の二次元画像を得た(乳頭筋の高さで)。関心領域を心臓の大きさに調節した分解能増強撮像機能(RES)を可能な限り起動した。ゲインは最高画質の撮像に設定し、圧縮は70dBに設定した。画像をディジタル式で取得して光磁気ディスク(SONY、EDM−230C)に記憶した。
【0179】
この特定的実験モデルによる撮像のために二つの規準を用いた。第一に、短軸図には心臓内境界及び心臓外境界の少なくとも80%を示すような規準を与えた。第二に、長軸図には僧帽弁の平面を示すような規準を与えた。すると環及び頂点を視覚化することができる。適当な二次元画像が得られた後に、Mモードカーソルを心室前中隔壁(梗塞の部位)及び後壁に垂直に乳頭筋の高さに配置した。壁厚み及び左室内寸を米国心エコー法学会の前端法に従って測定した。心収縮期機能の尺度として左室径短縮率(FS)を次式で計算した。FS(%)=[(LVIDd−LVIDs)/LVIDd]×100%、式中、LVIDは左室内寸、dは心拡張期及びsは心収縮期である。治療群を知らされていない心エコー法検査者が画像を取得してデータ解析を行なった。この手法の精度及び再現性は上で参照により援用した参考文献に報告されている。Youn HJ,Rokosh G,Lester SJ,et al.,“Two−dimensional echocardiography with a 15−MHz transducer is a promising alternative for in vivo measurement of left ventricular mass in mice,”J Am Soc Echocardiogr.1999;12:70−5、及びNakamura A,Rokosh DG,Paccanaro M,et al.,“LV systolic performance improves with development of hypertrophy after transverse aortic constriction in mice,”Am J Physiol Heart Circ Physiol.2001;281:H1104−12。
【0180】
(f.組織学及び免疫組織化学的検討)
注入手術から約4週間後に、ペントバルビタールの過剰投与(200mg/kg)によってラットを安楽死させた。心臓を速やかに摘出してTissue Tek O.C.T.凍結媒体内で新鮮凍結した。次いで、5ミクロンスライスに切断してヘマトキシリン及びエオジン(H&E)で染色した。細胞群及びフィブリン糊内細胞群からの心臓の部分集合を、移植された細胞を標識するためにミオシン重鎖(MHC)の骨格速筋型アイソフォームに対するものであるMY−32クローン(Sigma)で染色した。Cy−3共役型抗マウス二次抗体(Sigma)を用いて、標識した細胞を目視可能にした。また、フィブリン糊の250μL標本1個を新鮮凍結して、5ミクロンスライスに切断し、H&Eで染色した。
【0181】
(g.統計学的解析)
データは平均±標準偏差として表わす。本発明者の研究室は、ラットの心筋梗塞モデルについては膨大な経験を有しており、梗塞が高度のばらつきを有することを見出しているため、治療効果を評価するために内部対照を具現化する。注入前後での左室径短縮率及び梗塞壁厚みの測定値間の差を、対応のある両側t検定を用いて比較した。かかる差は、ボンフェローニ(Bonferroni)調節を施した一方向ANOVAを用いて治療群間で比較された。注入後の測定も、ボンフェローニ調節を施した一方向ANOVAを用いて群間で比較された。有意差はP<0.05でありとした。
【0182】
(2.結果)
本研究では全部で41匹のラットを用いた。6匹のラットは梗塞手術の最中又は直後に死に、1匹のラットは注入手術中に死んだ(フィブリン糊内細胞群)。注入手術後には、全ての群で100%が生存した。34匹のラットに対して最終的な心エコー法測定を行なった。対照群(n=7)には0.5%BSAを注入し、フィブリン群(n=6)にはフィブリン糊を注入し、細胞群(n=6)には5×106筋芽細胞を注入し、フィブリン内細胞群(n=5)にはフィブリン糊内5×106筋芽細胞を注入した。
【0183】
(a.心エコー法)
心エコー法測定値をMI後(注入手術前)約1週目、並びにフィブリン糊、筋芽細胞、及びこれら二つの組み合わせのLV機能及び梗塞壁厚みに対する影響を決定するために注入手術後約4週目に収集した。MI後進行の典型として、対照群はLV機能の低下及び梗塞壁の菲薄化を呈した。4週間後に、FSに有意の低下が生じ(P=0.0005)、また梗塞壁厚みに有意の減少が生じた(P=0.02)(表1、対照群)。これらの結果を以下の表1に全体的に掲げる。
【0184】
【表1】

【0185】
対照的に、フィブリン糊単独での注入、筋芽細胞単独での注入、及びフィブリン糊内筋芽細胞の注入は、FS及び梗塞壁厚みを保存した。フィブリン群、細胞群及びフィブリン内細胞群のFSは有意の減少はなくそれぞれP値が0.18、0.89及び0.19(表1)であった。加えて、全ての治療群で梗塞壁厚みには有意の差はなかった(それぞれP=0.40、0.44、0.43)(表1)。FS及び梗塞壁厚みの注入前と注入後との差を治療群間で比較した。有意の差は認められなかった(それぞれP=0.52及びP=0.56)ため、単一の治療が他のものよりも実効的であるとは言えない。全ての群間での注入後4週目の梗塞壁厚みの比較は、フィブリン内細胞群の壁厚みが統計学的に対照(P=0.009)及びフィブリン群(P=0.04)よりも大きいことを証明している。しかしながら、前述のように梗塞間でのばらつきの程度は大きいため、内部対照を比較するデータを用いる方が意味がある。
【0186】
(b.組織学及び免疫組織化学的検討)
図19は、フィブリル及びフィブリン糊の有孔性質の両方を示す。この組織は、大径のフィブリル及び孔質(>2ミクロン)を含んでおり、粗大ゲルと名付ける。H&E染色した心臓切片の検査は、図20に示すように全ての群での徹底した貫壁型MIを明らかにした。梗塞領域では、本来の心筋細胞がフィブリル性コラーゲン性瘢痕組織で置き換えられた。注入後4週目に、フィブリン糊は完全に分解されて見えなくなった。骨格速筋MHCの免疫染色から、細胞群及びフィブリン内細胞群の両方で、移植された細胞が注入後4週間は生存しており梗塞瘢痕全体に分布していたことが証明された。図21は、フィブリン糊内筋芽細胞を注入した心臓の梗塞壁の移植された筋芽細胞を示す。移植された筋芽細胞は平行な配向で並んでいる。
【0187】
(3.議論)
フィブリン糊は、本書で開示する研究の実施形態によれば極めて有利であるが、生体高分子であり、このため適当な置換形態、例えば他の生体高分子であり得る利用環境で類似の組成又は機能を有する他の物質の例である。
【0188】
フィブリンは生体の傷の治癒に深く関わっており、小板と結合すると血塊の元となる。心筋への注入後に、血塊の心臓への又は心臓からの送達を含め、悪影響のある反応は見られなかった。フィブリンは酵素及び食細胞経路によって吸収され、従って注入後4週目にはフィブリンの痕跡は残らないと予測された。
【0189】
本研究の結果は、MI後にLV再構築を防いで心機能を高めるための支持及び/又は組織工学的足場としてフィブリン糊が有用であることを示す。フィブリン糊単独での注入及びフィブリン糊内骨格筋芽細胞の注入は、ラットのMIの後の梗塞壁厚み及び左室径短縮率のあらゆる減少を抑える。
【0190】
骨格筋芽細胞単独での注入は、梗塞を生じたLVの負の再構築及びLV機能の低下を防ぐことが観察された。筋芽細胞がLV機能を保存する正確な機構は分かっていないが、埋め込まれた変性されていない筋芽細胞は周囲の心筋細胞と共に十分に伝導性のあるギャップ結合を形成すると典型的に観察される訳ではないため、心収縮期時の能動的な力の発生によるものとは考え難い。筋芽細胞による負の左室再構築の減衰が心機能を保存すると考えられる。一観点では、剛性を高めることにより筋芽細胞が壁支持となり、もう一つの観点では壁厚みを増すと考えられ、両方の効果が負の再構築の防止と整合すると考えられる。本研究によるデータがこのことをさらに支持する。フィブリン糊単独での注入は、骨格筋芽細胞の注入と統計学的に異なる結果を生ぜず、従って、筋芽細胞の動作機構が、能動的な力の発生からではなく、壁厚みを保存して有害な心室再構築を防ぐことによるものであることを示唆している。
【0191】
もう一つの従来の研究が、LV拡張を防ぐための外部支持としての役割を果たすという所期目的でのポリマーメッシュの利用を開示している。本発明によるフィブリン糊は、心機能を保存するために内壁支持(すなわち壁内部において)としての役割を果たすと考えられる。MIの初期段階では、基質メタロプロテアーゼが上方調節されて細胞外基質(ECM)の分解を招く。このECMの分解から梗塞壁の脆弱化及び筋細胞のずれが生じ、LV動脈瘤を生ずる。加えて、コラーゲン瘢痕の引張り強さが梗塞壁を強化するまで、負の心室再構築が典型的には持続することが観察されている。
【0192】
本実施例によれば、梗塞の初期段階でのフィブリン糊投与が再構築を防ぐことが観察され、コラーゲン瘢痕が完全に発現する時間を有する前に梗塞領域の機械的強度を高めると考えられる。さらに、フィブリン糊は、共有結合、水素結合及び他の静電結合、並びに機械的な絡み合いを介してコラーゲン及び細胞表面受容体(主にインテグリン)を含めた様々な基質に接着する。従って、フィブリン糊は、隣接する正常な心筋に結合することにより、筋細胞のずれ及び引き続き生ずる動脈瘤を防ぐものとさらに考えられる。さらに、フィブリン糊の注入はまた、心機能を高めることが知られている血管新生成長因子のような幾つかの成長因子の上方調節又は放出を生ずるものと考えられる。
【0193】
内部支持を設けることに加え、本実施例のデータはまた、フィブリンが心筋の組織工学的足場として有用であることを証明する。フィブリン糊内筋芽細胞の注入は、梗塞壁菲薄化を防いで心機能を保存した。この群の壁厚みもまた、他の群での壁厚みよりも有意に厚かった。
【0194】
本書に掲げる各実施例による結果は、フィブリン糊が、実質的な治療結果を伴って心筋に生存可能な細胞を送達させる足場として、新規の及び有利な組み合わせ治療において有用であることを示す。従って、さらに他の実施形態では、受容側心臓にギャップ結合を生成する細胞形式が、胎児の心筋細胞、成人の骨髄幹細胞、又は線維芽細胞若しくは筋芽細胞、又はコネクシン43のような十分なコネクシンを発現するように変性された他の細胞形式を含めて、収縮性を改善すると共に再構築を防ぐ目的で上述のようにフィブリン糊内で心筋に送達される。
【0195】
少なくとも一つの過去に開示された参考文献は、アルギネート足場内の胎児の心筋細胞を心筋の表面に送達させることによる組織工学アプローチを調査して、心機能の保存を報告している。これらの結果は、一般的には胎児の心筋細胞の移植によるものであって、足場はLVに比べて大きさが小さいため足場の外部支持によるものではないと考えられる。
【0196】
フィブリン糊を足場として用いる本発明の様々な実施形態による利点としては一観点では、フィブリン糊が注入型薬剤として供給されることがあり、このため人体に対して侵襲的な処置を最小限しか必要としない。加えて、細胞は、単に心外膜表面に送達されるのではなく梗塞を生じた組織に直接送達される。
【0197】
本実施例に従って与えられる結果は、本発明の幾つかの観点によるフィブリン糊の調剤品及び利用がMIに罹患した患者の有利な治療を提供することを証明する。従って、本発明は一観点では、注入型内部支持及び/又は組織工学的足場を提供して、有害な心室再構築及び心機能の低下を防ぐ。支持としては、この特定の応用向けの機械的特性を特別に付与するようにフィブリン糊を変性してもよく、かかる変性は本発明の範囲内で思量される。トロンビン又はフィブリノゲン濃度の上昇によって、引張り強さ及びヤング率が増大する。また、フィブリノゲン濃度が上昇すると、生体高分子の分解速度が遅くなる。組織工学的足場として、フィブリン糊はまた、タンパク質及びプラスミドを送達することが可能であり、以下で思量されるさらに他の実施形態はかかる機構を用いてタンパク質形態又はプラスミド形態のいずれかの成長因子及び細胞の両方を心筋へ送達する。
【実施例2】
【0198】
心筋での細胞移植手法は、虚血組織又は他の場合には損傷を受けた組織の内部での移植された細胞の保持力及び生存力によって制限される。本実施例は、生体高分子足場としてのフィブリン糊の利点を確認して移植細胞の生存力を高め梗塞の大きさを小さくするために行なわれた例示的な研究を記載する。
【0199】
(1.方法)
(a.ラット心筋梗塞モデル)
実施例1に記載したものと類似のモデル及び手法を用いた。
【0200】
(b.骨格筋芽細胞の単離及び培養)
実施例1に記載したものと類似の方法を用いた。培養は、線維芽細胞混入について慣行的に検査され、95%を上回る筋芽細胞群のみが注入に許容可能とされた。全ての注入は同じ細胞プールから行なわれた。注入後24時間で屠殺されるラットに注入する前に、筋芽細胞を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で標識した(3μM、Molecular Probes)。
【0201】
(c.フィブリン糊)
本研究で用いたフィブリン糊は、実施例1に記載したものと同様のものであった。
【0202】
(d.注入手術)
この実施例2でも、実施例1に記載したものと同様の物質調剤品及び方法を用いた。各々の動物毎に50μLの容積での1回の注入を行なった。
【0203】
(e.組織学的検討)
注入手術から24時間又は5週間の後に、ペントバルビタールの過剰投与(200mg/kg)によってラットを安楽死させた。本研究は、ラットにおける再構築過程が完了すると一般に考えられる点である梗塞から6週間後の時点で終結した。心臓を速やかに摘出して、Tissue Tek O.C.T.凍結媒体(Sakura)内で新鮮凍結した。次いで、5ミクロンスライスに切断してヘマトキシリン及びエオジン(H&E)で染色した。各々の心臓から梗塞面積全体に均等に分布した5枚ずつのスライドを代表標本として採取して梗塞の大きさを測定した。簡単に述べると、梗塞及びLVをトレースして面積測定法を用いて大きさを決定した。梗塞の大きさを、梗塞瘢痕面積をSPOT3.5.1ソフトウェア(Diagnostic Instruments)で測定した合計LV面積で除算したものとして決定して、LVの百分率として記録した。24時間BSA内細胞群(n=5)及び24時間フィブリン内細胞群(n=4)の両方からさらに5枚ずつのスライドを、DAPIで標識した移植された細胞の存在について検査した。筋芽細胞によって覆われた面積をSPOT3.5.1を用いてトレースして梗塞面積の百分率として表わした。全てのH&E染色したスライドも、メンバーの心臓病理学者によって免疫反応の形跡について検査した。
【0204】
(f.免疫組織化学的検討)
5週間BSA群(n=6)、5週間フィブリン群(n=5)、5週間BSA内筋芽細胞群(n=5)及び5週間フィブリン内筋芽細胞群内の各々の心臓からも、梗塞面積全体に均等に分布した5枚ずつのスライドを採取して、抗平滑筋アクチン抗体(Dako、希釈率1:75)で染色し、小動脈を標識した。また、5週間筋芽細胞群(n=5)及び5週間フィブリン内筋芽細胞群(n=5)の各々の心臓からも5枚ずつのスライドを採取して、移植された細胞を標識するために、ミオシン重鎖(MHC)の骨格速筋型アイソフォームに対するMY−32クローン(Sigma、希釈率1:400)で染色した。また、ラット後肢骨格筋の切片を抗骨格MHC抗体で染色して、陽性対照とした。二次抗体と共にインキュベートのみ行なった切片を陰性対照として用いた。各スライドを先ず、1.5%ホルムアルデヒドで固定し、次いで、染色緩衝液(PBS内0.3%TritonX−100及び2%正常ヤギ血清)でブロッキングした。切片を、染色緩衝液で希釈した一次抗体と共にインキュベートした。
【0205】
標識した小動脈及び骨格筋芽細胞が目視可能になるように、切片をCy−3共役型抗マウス二次抗体(Sigma、希釈率1:100)と共にインキュベートした。切片をGel/Mount(Biomeda)でマウントした。次の規準を用いて各々の切片の小動脈を定量化した。(1)平滑筋標識について陽性である、(2)梗塞瘢痕内部又は境界にある、(3)目視可能な管腔を有する、及び(4)径が≧10ミクロンである。SPOT3.5.1ソフトウェアを用いて瘢痕面積を測定して、小動脈密度を計算した。また、小動脈径を記録した。細胞の生存力は、各々の切片において抗骨格速筋MHCについて陽性染色した細胞が覆う面積をScion画像(Scion)を用いて測定することにより決定され、梗塞面積の百分率として報告した。さらに5枚ずつのスライドを全ての5週間群の各々の心臓から採取した。毛管を標識した。各スライドを室温でアセトンで固定し、自家ペルオキシド活性を3%H22で消効した。切片をビオチン標識グリフォニアシンプリシフォリア(Griffonia simplicifolia)レクチン(GSL−1、Vector Labs)と共にインキュベートした。次いで、切片をペルオキシダーゼ共役型ストレプトアビジン(LSAB2 System、HRP、Dako)と共にインキュベートし、3,3’−ジアミノベンジジン発色溶液(LSAB2 System)を用いて毛管を目視可能にして、切片をGel/Mountでマウントした。各々の切片の梗塞の内部の5箇所の高倍率視野を無作為に選択して毛管を数え、血管密度を計算した。
【0206】
(g.統計学的解析)
データは平均±標準偏差として表わす。ステューデントt検定を用いて細胞密度測定値を比較した。また、ホルム(Holm)の調節を施した一方向ANOVA解析を用いて梗塞の大きさ及び血管測定値を比較した。有意差はP<0.05でありとした。
【0207】
(2.結果)
(a.細胞の保持力及び生存力)
24時間後に、BSA又はフィブリン糊のいずれかでの注入後の筋芽細胞密度には有意の差がなかった(P=0.85)。BSA内で注入された筋芽細胞は梗塞の15.8±9.2%を占め、フィブリン糊内で注入された筋芽細胞は17.3±14.6%をカバーした。フィブリン糊内で移植された筋芽細胞は、図22に示すように、フィブリン基質によって包囲された凝集群及びそのフィブリルの内部に分散した凝集群の両方で見出される。フィブリン糊内で注入された筋芽細胞をDAPI標識したものは、図22のAの4倍拡大図に示すように、梗塞壁に見出される。移植された筋芽細胞の対応するヘマトキシリン及びエオジン(H&E)染色した切片は、図22のBの4倍拡大図に示すように、梗塞瘢痕内部でフィブリン糊によって包囲されている。図22のCに示すように、さらに高倍率の10倍拡大のH&E切片は、移植されたフィブリン糊内筋芽細胞を示す。比較のために、体外でのフィブリン糊のH&E染色した切片を図22のDの10倍拡大図に示す。
【0208】
5週間後に、細胞がフィブリン足場内で注入された場合にはBSA内で注入されたものに比べて梗塞面積での筋芽細胞密度はかなり大きくなった(P=0.03)。フィブリン糊内で注入された細胞は梗塞面積の9.7±4.2%を占め、これに対してBSA内で注入された場合は4.3±1.5%であった。
【0209】
BSA内で注入された移植された筋芽細胞は、注入後5週目には、図23のA及び図23のCに示すように、虚血組織の内部ではなく梗塞瘢痕の境界に最も頻繁に見出された。対照的に、フィブリン糊内で注入された筋芽細胞は、図23のB及び23のDに示すように、梗塞瘢痕の境界及び内部の両方に見出された。フィブリン糊内で移植された細胞はしばしば、図23のB及び図23のDに示すように(矢印の先を参照されたい)梗塞瘢痕内で小動脈を包囲している。図23のC及び図23のDは、正常な心筋及び梗塞を生じた心筋の位置を示し、従って抗骨格速筋MHCで標識した筋芽細胞の位置をそれぞれ図23のA及び23のBで観察することができる。
【0210】
(b.組織学的検討)
LVの百分率で決定される梗塞の大きさを各々の群毎に測定した。対照(BSA)群での梗塞の大きさは26.5±2.2%であった。梗塞の大きさには治療群間で有意の差はなかった(P=0.45)。しかしながら、フィブリン糊の注入及びフィブリン糊内筋芽細胞の注入の両方とも、BSA対照注入に比較してかなり小さい梗塞を生じた(それぞれP=0.03及びP=0.003)。フィブリン糊は梗塞の大きさを19.7±3.8%まで縮小し、フィブリン糊内筋芽細胞は大きさを17.5±3.4%に縮小した。対照的に、BSA内で注入された筋芽細胞はBSAの注入よりも統計学的に小さい梗塞を生成することはなかった(20.9±5.2%、P=0.24)(図24)。各々の群からのH&E染色した切片の組織学的検討は、重大な免疫反応がないことを証明した。瘢痕は、前出血の形跡であって希少の単核細胞である散乱したヘモジデリンを蓄積したマクロファージを含んでいたが、進行中の炎症は実質的になかった。
【0211】
(c.血管構造新生)
虚血心筋でのフィブリン糊の血管新生の可能性を評価するために、梗塞を生じたラットの心臓にフィブリン糊及びBSAを注入したものを注入後5週目に毛管密度について検査した。群の間に有意の差はなかった(P=0.64)。小動脈をフィブリン群及びBSA群の両方において抗平滑筋アクチンで標識して、フィブリン糊が5週間後に動脈形成を誘発するか否かを判定した。治療を行なわないでも、並列した小動脈がMI後の瘢痕を境界付けているのがしばしば観察されるので、梗塞内部の血管及び瘢痕を境界付ける血管に対して別個の小動脈の計数を行なった。フィブリン群での合計梗塞についての小動脈密度はBSA群でのものよりも有意に大きかった(P=0.004)。フィブリン群の小動脈は16±1本/mm2まで増大したのに対し、BSA群では10±2本/mm2であった。二つの群の間には梗塞を境界付ける小動脈密度に差はなかった(P=0.32)。しかしながら、瘢痕内の小動脈密度にはフィブリン群とBSA群とで有意の差があった(P=0.001)。梗塞瘢痕の内部では、フィブリン糊の注入の後の小動脈密度は小動脈13±1本/mm2であり、これに対してBSAを注入した心臓では10±2本/mm2であった。
【0212】
また、筋芽細胞を含む二つの群での小動脈密度も計算した。フィブリン糊内筋芽細胞の注入では、BSA内筋芽細胞の注入に比べて合計小動脈密度及び瘢痕内の小動脈密度が有意に増える(それぞれP=0.007及びP=0.02)。合計小動脈密度及び瘢痕内小動脈密度はmm2当たり小動脈12.9±2.6本及び9.1±1.9本まで増大し、これに対しBSA内筋芽細胞の注入後にはmm2当たり小動脈6.3±1.8本及び4.2±2.0本であった。この場合にも、梗塞瘢痕を境界付ける小動脈の本数に差はない(P=0.21)。また、BSA群をBSA内筋芽細胞群と比較し、またフィブリン群をフィブリン内筋芽細胞群と比較して、筋芽細胞の添加が小動脈形成に影響を及ぼしたか否かを判定した。BSA及びフィブリン内での筋芽細胞の添加の両方ともが、合計小動脈密度に有意又は有意に近い減少を生じた(それぞれP=0.04及びP=0.05)。また、図25に示すように、筋芽細胞の添加は、瘢痕内でも小動脈密度の低下を生じた(それぞれP=0.02及びP=0.01)。
【0213】
フィブリン糊注入の後に、図26のA及び図26のBに示すように、梗塞瘢痕の内部に多数の小動脈が見出された。図26のAは、抗平滑筋アクチン標識した小動脈をCy3二次抗体で目視可能にしたものを示す。図26のBはH&Eで染色したものであり、図26のAの隣接スライドである。正常な健全心筋は相対的に濃い染色で、また梗塞瘢痕は相対的に淡い染色で示されており、これら両方が図26のBでは目視可能である。図26のBは、図26のAの多数の標識した小動脈が実際に梗塞瘢痕内に位置することを実証している。
【0214】
(3.議論)
本研究の結果は、フィブリン糊内細胞の注入によって梗塞を生じた心筋において移植細胞生存力は高まるが細胞保持力は高まらないことを示す。フィブリン糊内細胞の注入は、24時間後の梗塞内の筋芽細胞の量には影響を与えない。これらの結果は、フィブリン糊が細胞保持力を高めないことを示す。フィブリン糊は数秒間にわたって液体状態に留まるので、細胞は注入後に拍動する心筋から押し出され続けることができる。対照的に、移植された筋芽細胞によって覆われた梗塞壁の5週間後の面積は、筋芽細胞がフィブリン糊内で注入された場合の方が有意に大きくなり、フィブリンが細胞生存力を高めることを示す。フィブリンは、移植された細胞についての一時的な細胞外基質として作用することにより細胞生存力を高めることができる。典型的には、細胞は、食塩水、細胞培養媒体又はBSAの完全な液体の組成物として注入されている。しかしながら、フィブリン糊は心筋内部で固化して、細胞に一時的な半剛性の足場を与える。フィブリン糊はまた、RGDモチーフを含んでおり、細胞受容体(主にインテグリン)に結合する。フィブリン糊内での注入後に、細胞はこの一時的な細胞外基質内に捕捉される。フィブリン糊は、生存力のさらに大きい細胞の梗塞壁への直接の送達を可能にする注入型足場である。
【0215】
細胞生存力の増大に寄与すると考えられるもう一つの要因は、フィブリン糊の虚血心筋への注入が血管構造新生を誘発することである。血液供給が増大すると虚血領域が小さくなり、細胞が生育する。血管新生した心筋への細胞の注入は、虚血心筋での注入に比べて生存力を高めることが報告されている。本実施例によれば、フィブリン糊内で注入された筋芽細胞はしばしば、梗塞瘢痕の内部で小動脈を包囲していることが見出される。本研究で用いられた動物の一つの制限は、これらの動物が近交系統になく、このため、移植片拒絶反応が高まると想定されることである。フィブリン糊及び筋芽細胞による本研究での主な結果は、Sprague−Dawleyラットでは生存力のある移植片は残存することを示した。Sprague−Dawleyラットは免疫反応が高まっているため細胞生存力については「最悪のケース」のシナリオに相当する。フィブリン糊がこの「最悪のケース」で移植片の大きさを増大させることが可能であるならば、近交系統ではさらに顕著な効果が得られることが容易に認められよう。虚血心筋での移植細胞生存力の向上が証明されたことにより、フィブリン糊はこのように、標準的な細胞移植処置に対する極めて有利な修正及び改善として確認される。
【0216】
本実施例による結果はさらに、フィブリン糊単独での注入はまた、フィブリン糊内筋芽細胞で証明されたのと同様に、梗塞の大きさを小さくすることを証明する。フィブリン基質による血管構造の観察される増大がかかる観察をさらに支持する。梗塞への血流の増大は、「リスクを負って」心筋細胞を救済し、相対的に小さい梗塞しか発生しない。瘢痕によって覆われる面積の縮小はまた、梗塞過程は24時間以内に大略完了するので、遅延性梗塞拡張の減少につながる。負のLV再構築の指標として、遅延性梗塞拡張の減少は、フィブリンがラットにおいてMI後の負の左室再構築を防ぐことができることを示す。フィブリンは内壁支持を提供し、これにより剛性を高めると考えられる。また、フィブリンは、壁厚みを増すことにより少なくとも部分的に再構築に影響を及ぼすと考えられる。但し、治療群の間では梗塞の大きさに有意の差はなかった。BSA内骨格筋芽細胞の注入は、対照よりも統計学的に小さい梗塞を生ぜず、このことは梗塞を生じた心筋内部での移植生存力問題についての従来の報告と整合している。この傾向は、注入されたフィブリン、及びフィブリン糊内筋芽細胞が、BSA内筋芽細胞の注入と比較して小さい梗塞を生成するように構成されていることを示す。BSA内筋芽細胞の注入は、梗塞の大きさを小さくするのに十分なだけ大きい移植片を生成し得ない場合がある。
【0217】
フィブリン糊はまた、梗塞瘢痕内での小動脈形成を誘発した。平滑筋が存在しない状態では血管は退行し易いことから、毛管の形成のみでは必ずしも血流の増大を示さないので、フィブリン糊が動脈新生を齎すと観察されることは重要な利点である。フィブリンは、この実験ではBSAの注入と比べて毛管形成を増大させることは観察されなかった。心筋への注入は一般的には、幾分かの血管新生をしばしば誘発すると考えられる。従って、多くの異なる注入物は幾分かの非特異的な血管新生応答を生成し得るが、一般的には動脈新生とは直接相関しない。しかしながら、フィブリンはこれらの実験によれば有用な特異的な動脈新生を提供することが確認されて有利である。
【0218】
本研究からの結果は、フィブリン糊がMIに罹患した患者のための有望な治療であり得ることを示す。この研究は、一観点では、血管構造新生を増大させ且つ梗塞の大きさを縮小する治療モダリティを提供する。もう一つの観点では、虚血心筋での移植細胞の生存力を高める極めて有利な方法を提供することが確認される。
【実施例3】
【0219】
この実施例3に従って行なわれる研究では、慢性MIモデルでの心機能を保存するための注入型フィブリン足場の利用が実際に提示され、様々な利点が確認された。
【0220】
(1.方法)
MIの生成、骨格細胞の単離及び培養、並びにフィブリン及び心エコー法の利用の方法については実施例2に記載してある。
【0221】
(a.注入手術)
実施例2及びさらに詳細に実施例1に関して上述したものと同様の注入手術プロトコルを様々な治療群及び対照群に対して用いたが、但し、この実施例3では心筋梗塞(MI)の約5週間後に注入を行ない、続いて再構築過程を完了させた。
【0222】
(b.心エコー法)
MI後5週目に全動物に対して覚醒状態で経胸腔心エコー法を行ない(ベースライン心エコー図)、続いて1日〜2日後に対照注入又は治療注入を行なった。次いで、注入後5週目(MI後10週目)にフォローアップ心エコー図を撮影した。用いた心エコー法の方法は、実施例2に記載したものと同様とした。
【0223】
(c.組織学及び免疫組織化学的検討)
第二の心エコー図(MI後10週目)に続いて、ペントバルビタールの過剰投与(200mg/kg)によってラットを安楽死させた。心臓を速やかに摘出して、Tissue Tek O.C.T.凍結媒体(Sakura)内で新鮮凍結した。次いで、10ミクロンスライスに切断してヘマトキシリン及びエオジン(H&E)で染色した。全てのH&E染色したスライドを免疫反応の形跡について検査した。また、BSA群(n=5)及びフィブリン群(n=7)の各々の心臓から梗塞面積全体に均等に分布した5枚ずつのスライドを採取して、抗平滑筋アクチン抗体(Dako、希釈率1:75)で染色して小動脈を標識した。また、BSA内筋芽細胞群(n=6)及びフィブリン内筋芽細胞群(n=5)の各々の心臓から5枚ずつのスライドを採取して、移植された細胞を標識するために、ミオシン重鎖(MHC)の骨格速筋型アイソフォームに対するMY−32クローン(Sigma、希釈率1:400)で染色した。また、ラット後肢骨格筋の切片を抗骨格MHC抗体で染色して、陽性対照とした。二次抗体と共にインキュベートのみ行なった切片を陰性対照として用いた。
【0224】
各スライドを先ず、1.5%ホルムアルデヒドで固定し、次いで、染色緩衝液(PBS内0.3%TritonX−100及び2%正常ヤギ血清)でブロッキングした。各切片を、染色緩衝液で希釈した一次抗体と共にインキュベートした。標識した小動脈及び骨格筋芽細胞が目視可能になるように、切片をCy−3共役型抗マウス二次抗体(Sigma、希釈率1:100)と共にインキュベートした。切片をGel/Mount(Biomeda)でマウントした。各々の切片で小動脈を定量化した。SPOT3.5.1ソフトウェアを用いて瘢痕面積を測定して、小動脈密度を計算した。細胞の生存力は、各々の切片において抗骨格速筋MHCについて陽性染色した細胞が覆う面積をScion画像(Scion)を用いて測定することにより決定され、梗塞面積の百分率として報告した。
【0225】
(d.統計学的な解析)
データは平均±標準偏差として表わす。ステューデントt検定を用いて細胞密度測定値を比較した。また、MI後5週目及び10週目の心エコー法データを、対応のあるt検定を用いて比較した。10週目のデータ及び小動脈密度はホルムの調節を施した一方向ANOVA解析を用いて比較した。有意差はP<0.05でありとした。
【0226】
(2.結果)
(a.心エコー法)
MI後進行の典型として、BSA対照群はLV機能の低下及びLV寸法の拡張を呈した。10週間の後に、FSの有意の低下(P=0.04)、梗塞壁厚みの有意の低下(P=0.01)、並びにLVIDの有意の増大が心収縮期(P=0.02)及び心拡張期(P=0.01)の両方で生じた(表2、対照群)。
【0227】
同様に、BSA内筋芽細胞を注入された動物にもLVの拡張が見られた。心収縮期のLVID(P=0.02)及び心拡張期のLVID(P=0.009)は注入後5週目に有意に増大した。また、梗塞壁厚みも有意に菲薄化した(P=0.04)。しかしながら、BSA内筋芽細胞の注入はLV機能を保存することが可能であった(P=0.20)(表2、BSA内細胞群)。
【0228】
対照BSA注入及びBSA内筋芽細胞の注入とは対照的に、フィブリン糊単独での注入は梗塞壁厚み(P=0.86)、心収縮期LVID(P=0.30)、及びLV機能(P=0.68)を保存した(表2、フィブリン群)。さらに、フィブリン糊内筋芽細胞の注入は、梗塞壁厚み(P=0.56)、心収縮期LVID(P=0.31)、心拡張期LVID(P=0.05)、及びLV機能(P=0.47)を保存した(表2、フィブリン内細胞群)。
【0229】
フィブリン糊単独及びフィブリン糊内で注入された筋芽細胞の両方がLVの幾何学的構成及び心機能を保存したが、MI後10週目には、フィブリン糊内筋芽細胞を注入した動物は、フィブリン糊単独での注入に比べて有意に小さい心収縮期LVID(P=0.003)及び有意に良好な左室径短縮率(P=0.002)を有していた。10週目には、フィブリン内細胞群の動物はまた、BSAを注入された動物よりも統計学的に良好な心収縮期LVID(P=0.0496)及び心機能(P=0.02)を有していた。BSA内細胞群の動物の梗塞壁厚み(P=0.002)、心収縮期LVID(P=0.01)、及び左室径短縮率(P=0.001)もまた、フィブリン内細胞群の場合よりも有意に劣っていた(表3)。
【0230】
また、各々のラットの興奮レベルについての対照として心拍数も測定した。群間で心拍数に有意の差はなかった(P=0.92)。
【0231】
(b.組織学及び免疫組織化学的検討)
移植された筋芽細胞を抗骨格速筋MHCで標識して、フィブリン糊内細胞の注入が慢性MIモデルでの細胞生存力を高めるか否かを判定した。5週間後に、細胞がフィブリン足場内で注入された場合の方がBSA内での注入に比べて梗塞面積内の筋芽細胞密度が有意に大きくなった(P=0.008)。フィブリン糊内で注入された細胞は、梗塞面積の11.5±4.3%をカバーしており、これに対し、BSA内で注入した場合は4.7±2.3%であった(図27)。
【0232】
フィブリン群及びBSA群の両方で小動脈を抗平滑筋アクチンで標識して、梗塞後5週目に送達された場合にフィブリン糊が動脈新生を誘発するか否かを判定した。フィブリン糊はBSAの注入に比べて小動脈形成を有意に増大させた(P=0.04)。小動脈密度はフィブリン注入後にはmm2当たり小動脈14.2±3.3本まで増大したのに対し、BSA注入後にはmm2当たり10.2±1.6本であった(図28)。
【0233】
各々の群からのH&E染色した切片の組織学的検討は、重大な免疫反応が存在しないことを証明した。
【0234】
本実施例の実験による結果としての様々なデータを以下の表2及び表3に掲げる。
【0235】
【表2】

【0236】
【表3】

【0237】
(3.議論)
本研究の結果は、フィブリン糊及びさらにフィブリン糊内骨格筋芽細胞が虚血心筋症によって誘発される心不全の代替治療となり得ることを示す。フィブリン糊単独での注入及びフィブリン糊内筋芽細胞の注入は、注入後5週目にLV幾何学的構成及び心機能を保存していたが、BSA内筋芽細胞は、梗塞壁厚み及びLV寸法を保存することができなかった。加えて、MI後10週目には、フィブリン内筋芽細胞群の左室径短縮率及び心収縮期でのLVIDは、対照群、フィブリン単独群、及びBSA内筋芽細胞群よりも有意に良好であった。フィブリン内筋芽細胞の注入に続いて、梗塞壁もまた、フィブリン単独での注入又はBSA内筋芽細胞の注入に比較して有意に厚かった。これらの結果は、慢性MIに罹患した患者の心機能の低下を防ぐのに、フィブリン糊、及びフィブリン糊内筋芽細胞という組み合わせの両方が有用であることを確認するものである。
【0238】
フィブリン足場は、LV拡張を防いで心機能の低下を防ぐ内部支持を設ける。フィブリン糊は心筋内部で固化して、LV拡張を防ぐのに用いられてきた外部パッチよりも好ましいと考えられる内壁支持を設ける。さらに、フィブリン糊は共有結合、水素結合及び他の静電結合、並びに機械的な絡み合いを介してコラーゲン及び細胞表面受容体を含めた様々な基質に接着する。従って、フィブリン糊は、隣接する正常な心筋に結合することにより、筋細胞のずれ及び引き続き生ずるLV拡張を防ぐことができる。また、フィブリンは、虚血組織への血流を増大させることによりLV機能を保存することができる。急性MIにおいて送達される場合と同様に、フィブリン糊はまた、本研究での慢性MIモデルではBSAの注入に比べて血管構造新生を増大させる。本来は、フィブリンは傷の治癒に深く関わっており、身体の血管構造新生の天然基質としての役割を果たす。
【0239】
フィブリン糊単独では心機能及びLV幾何学的構成を保存したが、骨格筋芽細胞とフィブリン糊との組み合わせは、BSAでの場合、フィブリン糊単独での場合、及びBSA内筋芽細胞での場合に比べて心機能を有意に高めると共に、LV拡張を有意に縮小する。フィブリン単独での場合の好ましい効果に加えて、フィブリン糊内筋芽細胞は梗塞面積での筋芽細胞密度を増大させることによりさらなる利点を有し得る。急性MIに注入される場合と同様に、フィブリン糊は慢性MIモデルではBSA内での注入に比べて細胞生存力を高める。フィブリン糊は一観点では、移植された細胞についての一時的な細胞外基質として作用することにより、細胞生存力を高めると考えられる。食塩水又はBSAのように組織内で注入後完全に液状であるものとして留まる注入担体となるのではなく、フィブリン糊は代替的に心筋内で固化して、細胞に一時的な半剛性の足場を与える。フィブリン糊はまた、RGDモチーフを含んでおり、細胞受容体、主にインテグリンに結合し、これにより細胞に結合相手の基質を与える。フィブリン糊はまた、虚血心筋での血管構造新生を誘発することにより、細胞の生存力を高めることができる。血液供給が増大すると、細胞が生育するための虚血領域が小さくなる。
【0240】
本実施例による結果はさらに、フィブリン糊注入に関わる重大な免疫反応が心筋に存在しないことを示す。フィブリン糊は一般に生体適合性で無毒性であると観察され、炎症、異物反応、組織壊死又は広範な線維増多を誘発することは一般には観察されない。この注入型足場のもう一つの利点は、フィブリン糊は既にFDAから認可を受けた生体物質であって、外科用の接着剤及び封止剤として常用されていることである。フィブリン糊はその二成分の結合前には液体のままであるので、カテーテルを介しても送達させることができ、このため人体に対して侵襲的な処置を最小限しか必要としない。
【0241】
以上の各実施例による実験は、フィブリン糊単独、及びフィブリン糊内筋芽細胞が、MI後1週目に患者に送達されると心機能の低下を防ぐことを確認した。本実施例の実験による結果は、注入型フィブリン足場内で送達される骨格筋芽細胞が、MI後5週目に送達されると心機能を高めLV拡張を小さくすることを示す。従って、フィブリン足場内での細胞の送達は、MIの直後に送達されるか又はMIから数週間後に送達されるかを問わずMIに罹患した患者に有利な治療モダリティを提供する。
【0242】
以上に述べた実施例の1又は複数による方法、物質若しくは結果の解析に関わるさらに詳細な情報、又は他の場合には実施形態のさらに十分な理解のための一般的な背景情報を与える情報が、以下の参考文献に様々に開示されている。
【0243】
1.Mann,DL,"Mechanisms and models in heart failure:A combinatorial approach."Circulation.1999;100:999−1008.
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29.Radosevich,M et al.,"Fibrin sealant:scientific rationale,production methods,properties,and current clinical use."Vox Sang.1997;72:133−43.
【0244】
これらの参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する。
【0245】
様々な実施形態の以上の記載及び実施例のさらに詳細な参照はさておき、また如何なる特定的な機構が関わるかを問わず、本書に開示した様々な化合物調剤品、システム及び方法はそれでも尚、幾つかの心臓状態を治療する際に所期の結果を与えることが明らかに示されたことが認められよう。
【0246】
以上の記載は多くの細部を含んでいるが、これらの細部は本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の現状で好適実施形態の幾つかの例示を提供するに過ぎないものとする。さらに、本書に記載した様々な観点、態様、実施形態、変形又は特徴は、さらなる改変、並びに心構造に介入して治療を提供するその他の公知の装置及び方法との組み合わせにも好適であると考えられる。例えば、次の参考文献の開示内容を参照によりその全体として本出願に援用する:Lee等の米国特許第6,059,726号、Hubbellの米国特許第6,129,761号、Hellstrand等の米国特許第6,242,473号、Fisher等の米国特許第6,312,685号、Shapiro等の米国特許第6,334,968号、Shapiro等の米国特許第6,425,918号、Altmanの米国特許第6,443,949号、Leshの米国特許第6,502,576号、Altman等の米国特許第6,511,477号、Urry等の米国特許第6,533,819号、Altman等の米国特許第6,547,787号、及びSen等の公告されたPCT特許出願国際公開第00/59375号。これらの参考文献の範囲内には、当業者には明らかなように本書に掲げた記載と適当に組み合わせることのできる装置、特徴及び関連する方法のさらに他の実例があり、かかる組み合わせも本発明のさらに他の観点であると看做す。
【0247】
従って、本発明の範囲は、当業者には明らかとなり得るその他の実施形態も完全に包含しており、従って本発明の範囲は特許請求の範囲のみによって限定されることが認められよう。尚、本書では、要素に対する単数形での参照は、明記されていない限り「一つで且つ唯一」であることを意味している訳ではなく、寧ろ「1又は複数」を意味するものとする。上述の好適実施形態の諸要素に対する当業者に公知の全ての構造的、化学的及び機能的均等構成は、参照により明示的に本明細書に取り込まれ、特許請求の範囲によって包含されているものとする。さらに、特許請求の範囲によって包含されている場合には、一つの装置又は方法が、本発明が解決しようとした各々のあらゆる問題点に対処している必要は必ずしもない。さらに、要素、成分又は方法ステップが特許請求の範囲に明記されているか否かを問わず、本開示の要素、成分又は方法ステップは公衆に献呈されるものではない。本書の請求項の要素は、該要素が「〜のための手段」という文言を用いて明示的に記載されていない限り、米国特許法第112号第6項の規定に従うとは考えない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定容積の生体細胞と、
所定容積の注入型ポリマー剤と
を含む、患者の心臓状態を治療するシステムであって、
前記所定容積の生体細胞及び前記所定容積の注入型ポリマー剤は、心構造内部に注入可能であることを特徴としており前記心構造内部に治療用足場を設けるように構成された注入型足場剤として組み合わせて提供される、システム。
【請求項2】
前記注入型足場剤は、「その場」で組み合わされるように構成された2種の前駆体薬剤を含んでなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記注入型ポリマー剤はフィブリン糊剤を含んでなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記フィブリン糊剤はフィブリノゲン及びトロンビンを2種の別個の前駆体物質薬剤として含んでなる、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記フィブリノゲン及びトロンビンは前記心構造の内部で少なくとも部分的に重合するフィブリン糊混合物を形成するように、前記心構造に別個に注入されるように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記フィブリノゲン及びトロンビンは、注入型混合物として組み合わせて前記心構造に注入されるように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記所定容積の生体細胞は注入型混合物として前記トロンビンと組み合わされ、
前記注入型混合物及び前記フィブリノゲンは前記注入型足場剤として組み合わされるように構成されている、
請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
前記所定容積の生体細胞は注入型混合物として前記フィブリノゲンと組み合わされ、
前記注入型混合物及び前記トロンビンは前記注入型足場剤として組み合わされるように構成されている、
請求項4に記載のシステム。
【請求項9】
前記フィブリン糊剤及び生体細胞は、前記心構造内部で混合して前記治療用足場を設けるように、前記心構造に別個に注入されるように構成されている、請求項3に記載のシステム。
【請求項10】
前記フィブリン糊剤及び生体細胞は、注入型混合物として組み合わされて前記心構造に注入されるように構成されている、請求項3に記載のシステム。
【請求項11】
前記注入型ポリマー剤は血管新生薬を含んでなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記治療用足場は前記心構造内部で治療用血管新生を誘発するように構成されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記注入型ポリマー剤は前記心構造内部で生物活性フラグメントEを含んでなる、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記注入型ポリマー剤は、前記心構造内部での前記患者の自家細胞の定着を誘発するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記注入型ポリマー剤は、前記心構造内部の前記治療用足場内部での前記生体細胞の保持力を高めるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記注入型ポリマー剤は、前記心構造内部で生物活性RDG結合部位を含んでなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記所定容積の生体細胞は筋芽細胞を含んでなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記所定容積の生体細胞は線維芽細胞を含んでなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記所定容積の生体細胞は幹細胞を含んでなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
前記生体細胞はコネクシン43を発現するように遺伝的に変性されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項21】
前記生体細胞は前記患者の自家細胞である、請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
心構造注入器をさらに含んでなり、
前記所定容積の生体細胞は前記心構造注入器に結合されており、
前記所定容積の注入型ポリマー剤は前記心構造注入器に結合されており、
前記心構造注入器は、前記心構造内部に前記治療用足場を設けるように構成された態様で、前記所定容積の生体細胞及び前記所定容積の注入型ポリマー剤を前記注入型足場剤として組み合わせて前記心構造に注入するように構成されている、
請求項1に記載のシステム。
【請求項23】
前記心構造注入器は、
基部側端部及び末梢側端部を備えた細長い本体であって、前記末梢側端部は、前記患者の外部で前記基部側端部を操作することにより少なくとも部分的に前記患者の体内の前記心構造に関わる位置に送達されるように構成されている、細長い本体と、
前記心構造に挿入するように前記位置において前記末梢側端部から伸張可能な少なくとも1本の注入針を有する針注入アセンブリと、
を含んでおり、
前記針注入アセンブリは、前記治療用足場を設ける態様で前記心構造内部に前記注入型足場剤を注入するように構成されている、
請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記針注入アセンブリは複数の前記注入針を含んでおり、
該複数の前記注入針は、前記心構造の損傷部分に関わる領域全体に前記注入型足場剤を注入するように構成されている、
請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
少なくとも1個の電極が、前記心構造内部で前記注入針の1本に沿って配置されるように構成されており、
前記少なくとも1個の電極は導体に結合されており、該導体はさらに、前記細長い本体の前記基部側端部に沿って配置されている基部側電気結合器に結合されている、
請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記少なくとも1個の電極はマッピング電極を含んでいる、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記基部側電気結合器に結合されるように構成された心臓伝導マッピングシステムをさらに含んでいる請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
前記マッピング電極は、前記心構造の前記損傷を受けた領域に実質的に対応するように前記注入型足場剤の前記注入の位置を決定するように、前記それぞれの注入針と協働するように構成されている、請求項26に記載のシステム。
【請求項29】
複数の前記マッピング電極をさらに含んでおり、
該マッピング電極の各々は、前記注入された足場剤に対応する前記領域が前記心構造の前記損傷部分に実質的に対応するように前記複数の注入針が配置され得るように、前記複数の注入針の一意の針と協働するように構成されている、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
前記電極は心臓刺激電極を含んでいる、請求項25に記載のシステム。
【請求項31】
前記基部側電気結合器に結合されて、前記心構造に心臓刺激閾値エネルギを供給するように前記電極にエネルギを与えるように構成された心臓刺激エネルギ発生源を有する心臓刺激アセンブリをさらに含んでいる請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記複数の注入針が前記心構造の内部まで伸張し得るように、前記心臓に沿った所望の位置に針注入アセンブリを固定するように構成された定着器をさらに含んでいる請求項24に記載のシステム。
【請求項33】
前記複数の注入針は円周パターンに沿って前記細長い本体の前記末梢側端部から伸張可能であり、
前記定着器は前記円周パターンの中央に実質的に配置されている、
請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記定着器は螺旋部を含んでいる、請求項32に記載のシステム。
【請求項35】
前記定着器は電極を含んでおり、
該電極は導体に結合されており、該導体はさらに、前記基部側端部に沿って配置されている基部側電気結合器に結合されている、
請求項32に記載のシステム。
【請求項36】
前記針注入アセンブリは、
前記生体細胞供給源及び前記注入型ポリマー剤供給源の両方に結合されている混合室と、
該混合室から注入ポートまで延在可能であり前記針に沿って配置されている注入管腔と、
を含んでおり、
前記混合室は、前記注入型足場剤を単一の混合物として混合するように構成されており、
前記注入管腔は、前記注入ポートを介して前記組織に前記単一の混合物を送達するように構成されている、
請求項23に記載のシステム。
【請求項37】
前記針注入アセンブリはさらに、第一及び第二の送達管腔を含んでおり、
前記生体細胞の供給源及び前記注入型ポリマー剤の供給源は、第一及び第二の前駆体薬剤を形成する態様で組み合わされ、
前記第一の送達管腔は前記第一の前駆体薬剤に結合され、
前記第二の送達管腔は前記第二の前駆体薬剤に結合され、
前記第一及び第二の送達管腔は両方とも、前記第一及び第二の前駆体物質が前記混合室内部に送達されてここで混合されて単一の注入型混合物を形成するように構成されるように、前記混合室に結合されている、請求項36に記載のシステム。
【請求項38】
前記心構造注入器は心臓内心構造注入カテーテルを含んでいる、請求項22に記載のシステム。
【請求項39】
前記心構造注入器は心臓外心組織注入カテーテルを含んでいる、請求項22に記載のシステム。
【請求項40】
前記心構造注入器は経血管心組織注入カテーテルを含んでいる、請求項22に記載のシステム。
【請求項41】
前記心構造注入器はガイドワイヤ追跡部材を含んでいる、請求項22に記載のシステム。
【請求項42】
ガイドワイヤをさらに含んでいる請求項41に記載のシステム。
【請求項43】
前記心構造注入器は「その場」で偏向自在である、請求項22に記載のシステム。
【請求項44】
偏向スタイレットをさらに含んでいる請求項43に記載のシステム。
【請求項45】
前記心構造注入器は拡張可能な部材を含んでおり、
前記針注入アセンブリは、前記心構造内部まで前記注入針を伸張させるように前記拡張可能な部材と協働する、
請求項23に記載のシステム。
【請求項46】
前記拡張可能な部材は膨張式バルーンを含んでいる、請求項45に記載のシステム。
【請求項47】
前記注入型足場剤を形成するような態様で前記所定容積の生体細胞及び前記所定容積の注入型ポリマー剤を組み合わせるように構成されたキットをさらに含んでいる請求項1に記載のシステム。
【請求項48】
前記注入型足場剤は、左室機能不全の実質的な進行を防ぐように心室壁に十分な治療用機械的足場を設けるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項49】
前記注入型足場剤は、心筋症の進行を防ぐように心室壁に十分な治療用機械的足場を設けるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項50】
前記注入型足場剤は、損傷を受けた心組織の領域内での心機能を高めるのに十分な治療用足場を設けるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項51】
前記注入型足場剤は、梗塞を含む心構造内部での心機能を高めるのに十分な治療用足場を設けるように構成されている、請求項50に記載のシステム。
【請求項52】
生体の心臓の医学的状態を治療するシステムであって、
生体細胞又は遺伝物質を含む第一の注入型物質組成と、
心組織での前記生体物質の保持力を高めるように構成された第二の注入型物質組成と、
を備えたシステム。
【請求項53】
前記第一の注入型物質組成は前記生体からの自家細胞培養物を含んでなる、請求項52に記載のシステム。
【請求項54】
前記第一の注入型物質組成は筋芽細胞、線維芽細胞、骨格細胞又はウィルスを含んでなる、請求項52に記載のシステム。
【請求項55】
前記第二の注入型物質組成は注入型ポリマーを含んでなる、請求項52に記載のシステム。
【請求項56】
前記第二の注入型物質組成はフィブリン糊剤を含んでなる、請求項52に記載のシステム。
【請求項57】
患者の心臓に関わる心臓状態を治療するシステムであって、
心構造注入アセンブリと、
前記心臓に関わる心構造内部に治療用足場を設ける前記心構造注入アセンブリに関わる手段と、
を備えたシステム。
【請求項58】
患者の心臓に関わる心臓状態を治療するシステムであって、
心構造注入アセンブリと、
該心組織注入アセンブリに結合されている所定容積の生体細胞であって、前記心構造注入アセンブリは、前記心臓に関わる心構造に当該所定容積の生体細胞を注入するように構成されている、所定容積の生体細胞と、
前記心構造注入アセンブリに結合されており、前記心構造に注入される前記生体細胞の保持力を高める手段と、
を備えたシステム。
【請求項59】
患者の心臓に関わる心臓状態を治療するシステムであって、
所定容積の注入型ポリマー剤と、
該所定容積の注入型ポリマー剤で前記心臓状態を治療する手段と、
を備えたシステム。
【請求項60】
患者の心臓の組織構造を修復するシステムであって、
生体細胞又は遺伝物質を含んでおり、前記組織構造に注入されるように構成された第一の注入型物質組成と、
前記組織構造での前記第一の注入型物質組成の保持力を高める手段と、
を備えたシステム。
【請求項61】
患者の心臓の心室壁の寸法を大きくするシステムであって、
送達システムと、
該送達システムにより前記心室壁に送達されるように構成されており、前記心室壁の寸法を大きくする手段を含んでいる物質組成と、
を備えたシステム。
【請求項62】
前記手段は注入型ポリマー剤を含んでいる、請求項61に記載のシステム。
【請求項63】
前記手段は注入型フィブリン糊剤を含んでいる、請求項61に記載のシステム。
【請求項64】
患者の心臓の心臓状態を治療する方法であって、
前記心臓に関わる心構造に、該心構造に治療用足場を設ける態様で所定容積の非生体ポリマー剤を注入するステップ
を備えた方法。
【請求項65】
前記ポリマー剤を注入するステップは、前記心構造に所定容積のフィブリン糊剤を注入するステップを含んでいる、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記フィブリン糊剤を注入するステップは、フィブリノゲン及びトロンビンを、前記心構造内部で「その場」でフィブリン糊ポリマーを形成するような態様で前記心構造に別個に注入するステップを含んでいる、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記フィブリン糊剤を注入するステップは、
前記患者の体内に配置されている送達アセンブリの混合室内でフィブリノゲン及びトロンビンを混合するステップと、
フィブリノゲン及びトロンビンの前記混合物を前記混合室から前記心構造へ注入するステップと、
を含んでいる、請求項65に記載の方法。
【請求項68】
前記心構造内部で前記注入されたポリマー剤により治療用血管新生を促進するステップをさらに含んでいる請求項64に記載の方法。
【請求項69】
前記ポリマー剤に生物活性フラグメントEを提供するステップをさらに含んでおり、
前記治療用血管新生は、前記生物活性フラグメントEの発現した生物活性により少なくとも部分的に促進される、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記注入されたポリマー剤により前記心構造内部の前記患者の自家細胞の定着を促進するステップをさらに含んでいる請求項64に記載の方法。
【請求項71】
前記ポリマー剤に生物活性RDG結合部位を提供するステップをさらに含んでおり、
前記自家細胞の定着は、前記生物活性RDG結合部位の発現した生物活性により少なくとも部分的に促進される、
請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記所定容積のポリマー剤は前記心臓の左室(LV)壁に注入され、
前記治療用足場は、前記LV壁に関わるLV壁機能不全の進行を阻害するのに十分なだけ前記LV壁の内部に形成される、
請求項64に記載の方法。
【請求項73】
LV壁機能不全に罹患した前記患者を診断するステップと、
前記LV壁の内部で前記注入されたポリマー剤により前記治療用足場を設けることにより少なくとも部分的に前記LV壁機能不全を治療するステップと、
をさらに含んでいる請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記LV壁機能不全に関わる心筋症に罹患した前記患者を診断するステップと、
前記治療用足場で前記LV壁機能不全を治療することにより少なくとも部分的に前記心筋症を治療するステップと、
をさらに含んでいる請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記LV壁機能不全に関わる鬱血性心不全に罹患した前記患者を診断するステップと、
前記治療用足場で前記LV壁機能不全を治療することにより少なくとも部分的に前記鬱血性心不全を治療するステップと、
をさらに含んでいる請求項73に記載の方法。
【請求項76】
前記心構造を虚血性であると診断するステップと、
前記心構造内部で前記注入されたポリマー剤により前記治療用足場を設けることにより少なくとも部分的に前記心構造内部の前記虚血を治療するステップと、
をさらに含んでいる請求項64に記載の方法。
【請求項77】
前記心構造が梗塞を含むと診断するステップと、
前記心構造内部で前記注入されたポリマー剤により前記治療用足場を設けることにより少なくとも部分的に前記梗塞を治療するステップと、
をさらに含んでいる請求項64に記載の方法。
【請求項78】
前記心構造の損傷部分の実質的に内部で該損傷部分に実質的に対応する注入パターンを形成するように配置されている注入針のアレイを介して前記ポリマーを注入するステップをさらに含んでいる請求項64に記載の方法。
【請求項79】
損傷部分が位置決定されるように前記心構造をマッピングするステップをさらに含んでいる請求項64に記載の方法。
【請求項80】
前記心構造を心臓刺激アセンブリで刺激するステップをさらに含んでいる請求項64に記載の方法。
【請求項81】
前記心構造に関わる心空間内部から心臓内で前記心構造に前記ポリマー剤を送達するステップをさらに含んでいる請求項64に記載の方法。
【請求項82】
前記心構造に関わる心臓外空間内部から心臓外で前記心構造内部に前記ポリマー剤を送達するステップをさらに含んでいる請求項64に記載の方法。
【請求項83】
前記心構造に関わる血管内部から経血管で前記心構造に前記ポリマー剤を送達するステップをさらに含んでいる請求項64に記載の方法。
【請求項84】
患者の心臓に関わる心臓状態を治療する方法であって、
心構造注入器に注入型ポリマー剤を結合するステップと、
心構造に関わる状態を治療するために前記心構造注入器で前記心構造に前記注入型ポリマー剤を注入するステップと、
を備えた方法。
【請求項85】
患者の心臓の左室に関わる左室(LV)壁機能不全を治療する方法であって、
前記心臓の前記左室に所定容積の注入型ポリマー剤を注入するステップを備えており、
前記注入容積のポリマー剤は、前記左室壁機能不全を治療するのに十分な治療用機械的足場を少なくとも部分的に形成するように構成されている、
方法。
【請求項86】
患者の心臓の心構造に関わる虚血を治療する方法であって、
前記虚血心構造に所定容積の注入型ポリマー剤を注入するステップを備えており、
前記注入容積のポリマー剤は、前記虚血心構造を少なくとも部分的に治療するように構成されている、
方法。
【請求項87】
患者の心臓に関わる心臓状態を治療する方法であって、
前記心臓状態に関わる心構造にポリマー剤を注入するステップと、
前記心構造に注入された前記ポリマー剤により少なくとも部分的に血管新生を誘発するステップと、
を備えた方法。
【請求項88】
患者の心臓に関わる心臓状態を治療する方法であって、
前記心臓状態に関わる心構造にポリマー剤を注入するステップと、
前記心構造に注入された前記ポリマー剤により少なくとも部分的に前記患者の体内の自家細胞の定着を誘発するステップと、
を備えた方法。
【請求項89】
患者の心臓の心臓状態を治療する方法であって、
前記心臓状態に関わる心構造に所定容積の注入型ポリマー剤を注入するステップと、
前記心構造に所定容積の生体細胞を注入するステップと、
を備えており、
前記注入容積の生体細胞及び前記注入容積の非生体ポリマーは組み合わされて、前記心構造に治療用機械的足場を設ける、
方法。
【請求項90】
患者の心臓の心臓状態を治療する方法であって、
前記心臓状態に関わる心構造に所定容積の注入型ポリマー剤を注入するステップと、
前記心構造に所定容積の生体細胞を注入するステップと、
を備えており、
前記注入容積のポリマー剤は前記心構造内部での前記注入された生体細胞の保持力を高める、
方法。
【請求項91】
患者の心臓に関わる梗塞領域を治療する方法であって、
前記梗塞領域に所定容積の生体細胞を注入するステップと、
前記梗塞領域に所定容積の非生体ポリマーを注入するステップと、
を備えており、
前記注入容積の生体細胞及び前記注入容積の非生体ポリマーは前記梗塞領域において組み合わされて、前記心臓に治療効果を提供する、
方法。
【請求項92】
患者の心臓を治療する方法であって、
前記心臓の組織構造に所定容積の注入型非生体物質を注入するステップと、
前記注入容積の非生体物質により前記組織構造の厚みを増大させるか又は注入された生体細胞の保持力を高めるステップと、
を備えた方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2010−150261(P2010−150261A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298344(P2009−298344)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【分割の表示】特願2004−570753(P2004−570753)の分割
【原出願日】平成15年7月25日(2003.7.25)
【出願人】(501325945)ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ カリフォルニア (10)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【Fターム(参考)】