心臓由来が疑われる胸部痛を有する患者のリスク階層化のための装置および方法
本発明は、心臓由来が疑われるサインおよび症状を有する患者における急性冠症候群のような臨床事象の検出、診断およびリスク階層化に関する。1つの態様においては、患者のECGと少なくとも1つのインビトロ診断アッセイ、好ましくは虚血マーカーの診断、および所望により壊死マーカーまたは他の心臓指標のインビトロアッセイを得ること、およびアルゴリズムにてそれらの結果を臨床状態の診断またはリスク階層化を提供するように組み合わせるによって、患者の臨床状態を診断する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、心臓由来が疑われるサインおよび症状を有する患者における急性冠症候群のような臨床事象の検出、診断およびリスク階層化に関する。
【0002】
発明の背景および先行技術
米国では毎年、およそ800万人の人々が心臓由来と思われる胸部痛で病院の救急処置室(ER)を訪れ(Storrow et al.(2000) Ann. Emerg. Med. 35: 449)、そしてそれ以上がそれらのプライマリーケア医師を訪れる。
【0003】
急性冠症候群 (ACS) は、胸部痛、息切れ、肉体的作業の維持不能、恐怖感、左腕の痛みまたはうずきのような症状の自覚としてあわられ、そして心電図の変化や心臓トロポニンのような生化学的マーカーの上昇のような臨床サインを伴っているかもしれない。心臓由来が疑われる胸部痛は、しばしば狭心症の臨床記載により言及される。胸部痛は、すべての患者の約8%を締める救急処置室患者のナンバー2の理由である。
【0004】
胸痛患者は、救急処置室医師の診断に心配の種を与える。一方において、患者が実際に心臓発作を起こしている場合、早期に速やかな治療が心筋へのより多くのダメージを防ぐのには必須であり、誤った診断は死亡を含めて患者にとって不幸な結果をもたらすかもしれない。もう一方において、患者が心臓発作を起こしていないが、医師が、その患者を病院に長期間とどめて、多数の診断試験を行っている場合、それら患者は、他によりよく使われうる貴重な健康管理財源を消耗するであろう。事実、胸痛患者の診断は、米国だけで約60億ドルの浪費財源であると推定されている。
【0005】
「梗塞」または「梗塞形成」という用語は、死滅していて且つ機能しない組織領域を意味する。例えば、発作の結果として脳梗塞、または重症の腸虚血の結果として腸梗塞を有することがありうる。心筋梗塞(MI)は、死滅した心筋領域であり、したがって、これは、心臓のポンプ機能に寄与することができない。「心臓発作」という用語は、通常は、急性心筋梗塞またはAMIを意味し、これは、新生(emerging)または発達性(developing)MIであり、ACSの最終段階である。
【0006】
ヒトが年をとるにつれ、しばしば、冠状動脈に脂肪斑が蓄積する。この斑は、通常は、血液からのコレステロールの沈着のためであり、斑は軟質コアーから成り、その上により硬質の膜がある。ある時点で、斑は、不安定な状態になり且つ破裂することがありうる。破裂した斑は、血液中の一連の反応を引き起こして、血餅または血栓の形成をもたらすであろう。この血栓は、冠状動脈循環中の次第により狭くなる下流に運ばれることがありうる。結局は、この血栓は、冠状動脈を閉塞して循環を中断させ、心筋または心筋層への血液供給を妨げるであろう。
【0007】
虚血は、酸素の供給と需要との間の不均衡状態である。虚血は、一過性または持続性でありうる。心筋虚血の場合、酸素供給は、冠状動脈中の血流によって与えられている。需要は、ヒトの身体運動に依ることがありうる。したがって、虚血は、冠状動脈中での斑破裂および血栓形成で起こりうるように、限られた供給での増加した需要によって(例えば:閉塞した冠動脈で増加したストレスの結果として)、または突然に制限される供給によって生じることがありうる。第一の場合、しばしば、安定狭心症と称される。この「安定」という語は、供給の制限が安定しているので(そして通常は安定班のため)、この狭心症は再現性であるということを意味し、そしてこの虚血は、単純に活性を止めることによって逆行させることができる。不安定狭心症は、冠状動脈流が班の破壊のために速やかに障害が生じ(いわゆる不安定班)、最小活性の間の心臓の酸素需要を満たすのに冠状動脈流が不十分であるときに生じた胸痛のことである。この場合、活性を止めることによって虚血を停止させることはできないし、しかも虚血は、急性心筋梗塞のような何かいっそう悪い状態へと悪化することがありうる。
【0008】
心筋層への血液供給がいったん制限されると、この心筋層は酸素が不足した状態になって、虚血を引き起こす。早期段階において、組織は可逆的に虚血しているが、これは、血液供給の再開で、その組織が回復し且つ正常機能に戻るであろうという意味である。しばらくした後、その組織は、不可逆的に虚血した状態になるが、これは、血液供給が修復されたとしても、細胞は生きているけれどもその組織は救いようがなく、死を免れないであろうという意味である。最終的に、この組織は死滅し(すなわち、壊死した状態になり)、心筋梗塞部を形成する。事実、心筋梗塞は、「長時間虚血による心筋細胞死」として定義される。
【0009】
AMIで起こるイベントは、図1に図式的に示されている。冠状動脈の閉塞(1)は、血流を減少させる。組織は、最初は可逆的に虚血した状態になり、次に、不可逆的に虚血した状態、そして最後に、壊死(死滅)した状態になる。最も長い時間虚血していた組織は、最初に死滅する組織である。心筋組織の大部分は、毛細血管によって血液供給されるので、閉塞部位から最も遠い領域は、酸素化血液を受け取るのは最後であり、したがって、閉塞部位により近い部位より短い時間虚血している。したがって、冠状動脈閉塞より下流の組織には、進行中の状態の区域がいくつかある。最も遠い区域は、可逆的に虚血した状態(2)であり、不可逆的に虚血した状態(3)へ発展し、最後に壊死した状態(4)へと進行する。結局は、組織領域全体が、虚血組織が残っていない壊死状態になり、そして完全な梗塞となる。
【0010】
胸部痛を患う患者は、安定狭心症, 不安定狭心症, AMI, うっ血性心不全のような非虚血性心臓部の問題、または胃食道逆流疾患 (GERD)のような非心臓性の問題を有しているかもしれない。それらの患者タイプのそれぞれのために最適な治療と治療の緊急性は著しく異なり、それゆえ速やかな診断およびリスク階層化は非常に臨床的に重要である。
【0011】
最近まで、MIの診断は、追想的に行われていた。世界保健機関(WHO)によって確立された判定基準は、MIを、(a)典型的な症状(すなわち、胸部不快)、(b)酵素上昇、および(c)Q波の発達(壊死した心筋層の指標)を含む典型的なECGパターンの三つの特徴の内のいずれか二つとして定義した。何年も前に確立されたこれら判定基準での「酵素上昇」とは、クレアチンキナーゼ(CK)またはそのより心臓特異的なイソ型CK−MBの血清レベルの上昇を意味する。CK−MBは、死滅した心筋細胞から放出された分子の一つであり、それゆえ壊死の血清マーカーである。心筋細胞が、長時間虚血の結果として死滅すると、その細胞膜は破裂して、サイトゾル内容物を細胞外体液空間中に、次に、リンパ系中に放出し、そこから血流に入る。
【0012】
WHO判定基準が最初に公表されて以来、心臓壊死の新しい生化学的マーカーが発見され且つ商品化されてきている。(多数のこれらマーカーの完全な説明については、Wu, A.H.B.(ed.) Cardiac Markers, Humana Press ISBN 0-89603-434-8,1998 を参照されたい)。これまでに開発された最も特異的な心臓マーカーは、心臓トロポニン類である。これらは、心筋細胞の収縮装置部分であるタンパク質である。cTnIおよびcTnTの二つの型が商品化されており、たとえ僅かな心筋損傷でも検出はきわめて特異的であることが分かっている。CK−MBに類似した心臓トロポニン類は、死滅した心筋細胞から、その細胞膜が破裂した場合に放出され、そして結局は、血液中で検出可能である。壊死は、長時間の心筋虚血の結果として確かに起こりうるが、感染、外傷またはうっ血性心不全のような他の原因による心筋細胞損傷によって生じることもありうる。したがって、心臓壊死マーカーの増加の知見だけで、心筋梗塞の決定的診断に至ることはない。
【0013】
上記の心臓マーカーは、優れた壊死マーカーであるが、虚血のマーカーではない。しかしながら、医学界およびこの点についての文献では区別がつかないことが多く、心臓虚血の結果として放出されるとして記載されているトロポニン、CK−MBおよびミオグロビン(別の心臓壊死マーカー)への言及が見られることは希ではない。これは、壊死が常に虚血に先行されるという意味で真実であるが、虚血が常に壊死をもたらすということは真実ではない。したがって、これら壊死マーカーは、必ずしも虚血のマーカーではない。例えば、「安定狭心症」の臨床的状態とは、必ずしも壊死に至らない、身体運動の結果としての心臓虚血である。ヒトが運動を止めた場合、循環によって十分に供給されうるレベルまで需要は降下するであろうし、しかも虚血は消散し、壊死マーカーの上昇は起こらない。
【0014】
American College of Cardiology(ACC)および European Society of Cardiology(ESC)は、考えられる心筋梗塞の再定義を含む合意文書(Alpert, J.S. et al. (2000) J.Am.Coll.Card. 36:3)を公表した。この合意文書の一部分は、急性、発展性(evolving)または新生MIの新しい定義である。この新しい定義は、次の判定基準のいずれか一つが、急性、発展性または最近のMIについての診断を満たすということである。
【0015】
1.次の内の少なくとも一つと共に、心筋壊死の生化学的マーカーの典型的な上昇および漸次降下(トロポニン)またはより急速な上昇および降下(CK−MB)
a.虚血症状;
b.ECGでの病理学的Q波の発生;
c.虚血を示すECG変化(STセグメント上昇または低下);または
2.冠状動脈介入(例えば、冠状動脈形成術);または
3.急性MIの病理学的知見。
【0016】
この定義に暗に含まれるのは、AMIには、虚血成分および壊死成分の双方が含まれるという見解である。問題は、優れた生化学的壊死マーカー(すなわち、トロポニン)は存在するが、許容しうる生化学的虚血マーカーは存在しないので、症状およびECGの変化と組み合わされた臨床的所見に頼っているということである。トロポニンは虚血マーカーではないという事実は、この合意文書で強調されていて、「これらバイオマーカーは、心筋損傷を反映するが、その機構を示しているのではない。したがって、虚血の臨床的証拠の不存在下における上昇した値は、心筋炎のような心臓損傷の他の原因の探求を促すべきである。」と述べられている。
【0017】
難点は、心臓虚血は、診断するのがきわめて難しいということである。米国国立衛生研究所(NIH)の National Heart Lung and Blood Institute(NHLBI)は、1990年代初期に、National Heart Attack Alert Program(NHAAP)を作成した。1997年には、そのNHAAPの作業部会が、救急部で急性心臓虚血を識別するのに当時利用可能な全ての技術の評価を示した書物を公表した(Selker, H.P. et al. (1997) A Report from the National Heart Attack Alert Program (NHAAP) Coordinating Committee Blackwell Science ISBN 0-632-04304-0)。この報告についての主たる根拠は、新しい再灌流技術(具体的には、経皮的経管的冠状動脈形成術またはPTCA、およびTPA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)およびストレプトキナーゼのような全クラスの血栓溶解薬物療法)で、死亡率および罹病率の劇的改良が、胸痛の開始と療法の開始との間隔に関係していたということが分かったということであった。これは、明らかに、より早期の療法が適用されうるためであり、より多くの心筋組織は、壊死する代わりになお可逆的虚血状態にあり、したがって、血液供給が修復された場合にそれが回復する可能性はより高い。明らかに、療法までの時間を減少させる鍵は、可逆的虚血がなお存在している間のより早期に診断を行うことができるように、救急部(ED)での診断試験の性能を改良することである。事実、この書NHAAPの序論は、「AMIだけを識別することは、有意の且つ即時の心臓の危険に晒されている大多数のED患者を見落とすと考えられる」と述べている。
【0018】
EDにおけるACSの診断のための注意基準および最も広く許容されている手段は、標準的な12誘導心電図(ECGまたはEKG)である。STセグメントの上昇のような変化は、心筋層の損傷の指標であり、そしてMIの診断となる。STセグメント低下のような変化は虚血の指標である。ECGも心房性細動と心室性頻拍症のような不整脈の診断とクラス分けに使用される。左脚ブロック (LBBB)のような不整脈の患者は、ECGの特徴があいまいであり、ECGではACSとは解釈されない。
【0019】
ECGは、急性心臓虚血に対しての不完全な感度および特異性が欠点であり、AMIについての厳密な判定基準を用いて解釈する場合、感度は50%またはそれ未満に低下する。研究されてはいるが、まだ十分に許容されていない他の手段には、ECGの変法またはECGを含むアルゴリズム、CK−MBおよびTnIのような心臓マーカー、99Tcセスタミビ(sestamibi)およびタリウムを用いた放射性核種心筋灌流画像法(MPI)、ECG運動ストレス試験、および超音波心エコー検査法が含まれる。これらの中に、注意基準として許容された点までの一貫して信頼しうる感度および特異性を有することが示されたものはなかった。更に、MPIのような若干の技術は、相対的に十分な精度を与えるが、費用が掛かるし且つ利用可能性が制限される。
【0020】
胸痛患者のAMIを診断するための装置および/またはアルゴリズムを開発することは、いくつか試みられてきている(例えば、Jackowski, G., 米国特許第5,710,008号(1998年)を参照されたい)。この第5,710,008号特許は、AMIの診断用のアルゴリズムと連結した少なくとも3種類の生化学的マーカーの組合せを用いる方法および装置を記載している。トロポニンは、急性心筋梗塞の診断のための「金基準」生化学的マーカーとして許容されてきている。トロポニンIの臨床的性能は、多数の出版物によっておよび多数のトロポニン検定製造者によって報告されてきた。
【0021】
トロポニンは、心臓壊死についての非常に特徴的なマーカーであるが、その臨床的有用性は、特に、胸部痛開始後の早期(すなわち、冠状動脈閉塞が虚血に至った直後)において、そのマーカー自体の遅い速度論によって、およびそれが虚血ではなく壊死のマーカーであるので、臨床的経過の後期に放出されるという事実によって制限される。言い換えれば、AMIの検出でのトロポニンの臨床的感受性が100%となるには十分な時間の経過の経過が必要である。しかし、AMI(またはACS)の検出のためのトロポニンの臨床的感受性は、胸部痛の発症の2時間以内では患者の20%以下である(Mair et al. (1995) Clin. Chem. 41: 1266; Antman et al. (1995) JAMA 273 : 1279)。これは、胸部痛の発症後病院の救急処置室を訪れる患者のメディアン時間は、後にAMIと診断される患者では約2時間であるので重要である(Goff et al. (1999) Am. Heart J. 138 : 1046)。
【0022】
これら生化学的壊死マーカーによる結果の組合せを用いた、AMIのより良い診断を得る試みが、記載されてきている。例えば、Shah et al., 米国特許第5,382,515号(1995年)は、クレアチンキナーゼの異なったイソ型の密接に間隔を置いて連続した測定値を用いて、AMIの存在および時期の両方を決定するアルゴリズムを記載している。この概念は、Groth, T. et al., 米国特許第5,690,103号(1997年)によって発展されたが、彼らは、壊死組織から放出された数種類のマーカー(CK−MBおよびトロポニン)のいくつかの密接に間隔を置いた測定値がその入力情報である、神経ネットワークによって実行されるアルゴリズムの使用を記載している。この方法は、単一壊死マーカーの、または一度に多数の壊死マーカーの測定よりなお良いという点で有益でありうるが、少なくとも3時間が経過するまで、決定を行うことはまだ可能はないし、しかも壊死マーカーだけを用いているので、虚血の検出には役立たない。
【0023】
類似のアプローチ(神経ネットワークを含まないが)は、Armstrong et al.(米国特許第6,099,469号(2000年))によって提案されたが、この場合のアルゴリズムは、自動実験室分析器に埋め込まれた計算機で行うように設計されていて、次にどの試験を実施すべきであるかを示唆する。再度、Armstrong の発明は、壊死マーカーだけを使用するという限界が欠点であり、十分な性能を達成するのに多数連続した測定値を必要とする。
【0024】
Ohman et al.(米国特許第6,033,364号(2000年))は、血栓溶解療法後の再灌流を評価するのにも用いられてきた既存の壊死マーカーの組合せを用いたアルゴリズムを記載している。この発明の場合、壊死マーカー(CK−MB)の連続した測定値、およびCK−MBの上昇および降下の速度論に基づくモデルを用いたアルゴリズムは、療法が冠状動脈流の修復を可能にし、したがって、梗塞した組織の成長を阻止し、それによって、追加の壊死マーカーの放出を阻止した時に決定することができる。
【0025】
胸部痛の患者の確かな診断を得ることの難しさの結果の一部として、近年臨床医学においては確かな診断目的よりもリスク階層化により焦点を当てることが強調されてきている。それらの臨床実務ガイドラインを統一させるために、緊急医は、30分以内に高いリスクのACS患者を同定するのに助けとなる診断手段および手順が必要である。“胸部痛評価ユニット(Chest Pain Evaluation Unit)”(CPEU) のコンセプトは、緊急医学領域において急速に受け入れられている。その基本コンセプトは、階層中のECG、臨床症状およびしばしばトロポニンに基づくすばやいリスク階層化である。高リスク患者はより積極的な診断テスト(例えば:心臓カテーテル法)および治療(例えば:抗凝固剤)を受け、一方で低リスク患者は注意深く待機および結局的には帰ることになるという分類になるであろう。症状では適切にリスク階層化されることのできない患者は、さらなる試験、しばしばストレスECGのような誘発試験の対象となる。ECGとトロポニンを組み合わせた最近利用可能な手段では、患者の約25%でしか症状によって信頼できるようにリスク階層化をすることができず、その残りは治療を受ける前または開放される前に、更なるテストや注意深い監視に多くの時間を費やすことになるであろう。
【0026】
胸部痛患者の早期リスク階層化での問題の1つは、装置が中心の試験室にあり、それが“緊急”の使用目的に設計されていないときに、トロポニンのような生化学的マーカーの速やかな評価を得ることの問題である。結果として、 しばしば救急処置室中または患者の近くに専用の装置が置かれ、限られた数の診断テストを行うが短い時間で結果が得られる、ポイントオブケアーテスト(Point of Care (POC) Testing)が注目されてきている。例えば、Andersonらの米国特許6,394, 952 および米国特許6,267, 722“ポイントオブケアー診断システム(Point of Care Diagnostic Systems)”は、速やかに試験を行いその結果を診断およびリスク評価情報とする装置について述べている。
【0027】
心電図の解釈はエラーを伴い、心電図を頻繁におよびルーチンに行っていない医師では特にである。この問題の解決の手助けのために、ECGの自動解析を行う心電計測定器、例えばECGのSTセグメントの偏差を見ることによって虚血が存在するかしないかを決定する装置が開発された。この技術の初期の例として、米国特許4,546, 776“ST偏差のための携帯型EKGモニタリング装置”参照。心臓虚血の指標であるSTセグメントの変化を検出する装置のパフォーマンスを改良するための多くのアルゴリズムが発明されている−例えば米国特許6,507, 753 (2003)“ECGを使用した特定の患者グループの急性冠症候群を検出する方法および装置”、および米国特許4,930, 075 (1990)“ECGパラメーターから心筋虚血を評価する技術”参照。インターバルデータを含むECGの他のパラメーターは、虚血の検出として評価されてきた−例えば米国特許6,361, 503 (2002)“心臓虚血を評価するための方法およびシステム”参照。虚血の診断のためのシグナル源としてのECGの相対的にあまりよくないパフォーマンスのため、使用者に感度と特異性をアルゴリズムが働くように変更することを可能にする試みがある。例えば米国特許6,171, 256 B1 (2001)“急性心臓虚血と関連する状態を検出する方法および装置”参照。
【0028】
困難な診断から近年の生化学的マーカーの使用に見られるリスク階層化への力点のシフトは、心電図検査法の世界にもインパクトがあった。発明は、“イエス”または“ノー”の診断結果を単に与えるのではなく、患者が心臓虚血を有する可能性を評価する方向に向けられてきた。例えば、米国特許出願US2002/0133087A1 (2002)“患者が急性心臓虚血を有する可能性を決定するための患者のモニター”では、救急部門での患者の急性心臓虚血の可能性を数値として提供するために、発明者は連続的にモニターし解析したECGシグナルを使用している。欧州特許出願EP1.179. 319 A1 (2001)“ECGを用いた、特定の群の患者の急性冠症候群を検出する方法および装置”に述べられている発明も同様の目的である。
【0029】
救急処置室に患者が来る前、例えば救急車内または医師のオフィスでACSの診断を提供することには利益がある。幾つかの発明は、テレメディシン環境でのECG解析の性能の改良に向けられている−例えば米国特許6,424, 860“心筋虚血および梗塞の解析およびモニターの方法および装置”参照。インプラントのデバイスを使用して虚血を検出する試みもある(米国特許6,128, 526“虚血検出の方法およびそれを使用する装置”参照)。
【0030】
しかし、上述の発明の目的は、基本となるシグナル源−ECGが欠点があるか適切でない場合の装置の解析性能を改良することである。このように、救急医やその他の者に、既存の診断情報源とより重要には新しいものと既存の情報源の組み合わせの両方にて患者の心臓虚血のリスクをより信頼性の高い評価をできるようにするためによりよい手段を提供するニーズがある。
【0031】
発明の概要
本発明の目的は、1つ以上の生化学的マーカーを心電図とともに使用して、ACSのような臨床状態の診断を行うこと、またはACSが疑われる患者のリスク階層化をすることである。さらに本発明の目的は、虚血の生化学的マーカーをECGとともに使用して、心臓虚血が疑われる胸部痛がある患者の診断またはリスク階層化をすることである。さらに本発明の目的は、虚血の生化学的マーカーを心筋壊死の生化学的マーカーとともに使用して、心臓虚血が疑われる胸部痛のある患者を診断する、またはリスク階層化することである。最後に、本発明の目的は、ECG試験の結果とインビトロ診断アッセイの結果の組み合わせは、以前の試験結果にアクセスし、そして患者の臨床診断または結末と比較することにより、継続的に以前の経験から学んだ結果に基づいて、アルゴリズムにより改良する方法を提供することである。
【0032】
その最も広い見地では、本発明は、患者から少なくとも1つの物質流(例えば血流)のサンプルを患者から得、そのサンプルについて最初のインビトロ診断アッセイと場合により追加のインビトロ診断アッセイを実施し、患者の心電計試験を実施し、そしてアルゴリズムを使用して前述の試験結果と組み合わせ、例えばポジティブまたはネガティブの臨床事象の診断状態の診断または臨床状態のリスクの階層化または評価を提供する、患者に起きている臨床事象を診断する方法を含む。ECGとインビトロ診断試験を実施する順番は重要ではなく、それらは上述の順序でも、他の順序でも、または同時に実施してもよいことに注意すべきである。本明細書で使用する“アルゴリズム”は、ECG及び診断試験のの一つまたはそれ以上の結果を使用する臨床状態が起きているという診断またはリスク(または可能性)の評価をすることを含む手段のことである。本明細書で使用している“リスク階層化”とは、患者がサンプルが採取された時点で臨床状態を有している可能性(リスク)の評価をいう;本願での目的としては、この用語は患者の将来の臨床状態の発現のリスクの予測のことではない。本発明は、上述の方法を達成するための装置も含み、簡単には、前記装置は、心電計手段を含むハウジング、および患者のサンプルのインビトロ診断試験を実施するための装置からなり、およびアルゴリズムの計算を実施するための装置内に計算し加工する手段をも含みうる。
【0033】
物質流とは、以下のいずれかの体組織または液であり、制限的でない例には尿、唾液、 涙液、精液、粘液、便、血液、リンパ、血清、血漿および吐出した呼気が含まれる。
臨床状態とは、例えば急性心筋梗塞 (AMI)、急性心臓虚血(ACI)、急性冠症候群 (ACS)、または不安定狭心症 (UA)である。臨床状態がACS、UAまたはACSの場合は、物質流に存在し臨床事象により修飾される分子のアッセイは、イスケミアモディファイアルブミン(IMA)のアッセイであってもよい。患者サンプルは、血液、血清または血漿であり、the assay for イスケミアモディファイアルブミンのアッセイは、例えばアルブミンコバルト結合(ACB(登録商標))試験またはイスケミアモディファイアルブミンに特異的な免疫アッセイ(すなわち改変されたアルブミンのN末端に結合する抗体を使用した)、IMAの金属アフィニティーアッセイ、またはIMAの電気化学または光学試験であってもよい。それらの方法のいくつかは、米国特許5,290, 519, 5,227, 307,6, 492,179, および 6,461, 875, および特許庁に係属している特許出願である米国出願番号(USSN) 10/304,610, USSN 09/849,956, USSN 10/319,263, USSN 09/846,411および PCT/US02/16860に記載されており、それらを参照として本明細書に援用する。
【0034】
本発明は、更に、ACS、ACI、またはUAのような臨床的状態の診断を除外する方法であって、患者の血液、血清または血漿試料を得、心臓虚血および/または心臓壊死マーカーについての少なくとも一つのインビトロ検定を実施し、そしてアルゴリズムを用いてそれら検定の結果をECG分析の結果と組み合わせて、ネガティブな診断または低リスクの評価を提供することによる方法をも包含する。陰性診断は、全ての虚血マーカー試験および全ての壊死マーカー試験が陰性である場合、または虚血マーカー試験および壊死マーカー試験双方の大部分が陰性である場合で、ECGが“正常”または“診断されない”であるときに得ることができる。本明細書中で考察されるように、本方法は、高いネガティブな予測価(NPV)の利点を有し、それはACSまたはAMIの発生を除外するのに有益である。救急処置室に患者が訪れた後の比較的早期にAMIまたはACSを除外することは、早期の患者解放および医療財源の節約をもたらすことができる。
【0035】
発明の詳細な説明
ヒト血清アルブミンのN末端は、虚血組織にさらされると、ある種の金属、特にコバルトに結合する能力が低下するように修飾されうることが明らかになっている。そのようなイスケミアモディファイアルブミン(IMA(商標))の検出は、Ischemia Technologies, Inc., デンバー, COによって開発されたアルブミンコバルト結合試験(ACB(登録商標)試験)で具体化されている。虚血の検出のための血清タンパク(アルビミンを含む)の修飾された金属結合能の測定は、最初にBarOr, D.らにより報告された(参照(1993)米国特許5,227, 307, 虚血状態の速やかな評価のための試験、およびBarOr, D. ら、および(1994)米国特許5,290, 519、虚血状態の速やかな評価のための試験およびキット)。虚血の診断に関するさらなる発展は、米国特許6,492, 179および6,461, 875に記載されており、それらのすべてを参照として本明細書に援用する。IMAのメカニズムを確認するための実験の予備的結果も報告されている(BarOr D, Curtis G, Rao N, Bampos N, Lau E. ヒトアルブミンのN末端のアミノ酸残基のCo2+およびNi2+の結合特性。Eur. J. Biochem. 200; 268,42-47)。
【0036】
トロポニン、ミオグロビンおよびCK-MB(例えば、上述のJackowskiらにより記載されているように)のような通常の壊死マーカーとイスケミアモディファイアルブミンの使用の間には、基本的な相違がある。前者では、壊死の生化学的マーカーは、壊死による細胞膜の破壊の結果、細胞の細胞質ソル内容物が放出されたある時間後に、血流中に存在する分子である。それらの分子はまず細胞外空間に放出され、そこからリンパ系に入り、そしてそこから血流に排出される。IMAの場合、アルブミンは血中を循環し、そしてすみやかに虚血組織にさらされると修飾される。それゆえ、細胞膜が破壊されることは要求されないし、虚血に至る事象と血流中に生化学的マーカーが検出される時間との間に長い遅れはない。ACB試験は、経皮的冠動脈形成術(PTCA)によって引き起こされる一時的な虚血事象の結果のIMAの速やかな上昇を検出することが示されている(BarOr D, Winkler J, VanBenthuysen K, Harris L, Lau E, Hetzel F.“選択的経皮的冠動脈形成術の後の、一時的心筋虚血での減少したアルブミン−コバルト結合:クレアチンキナーゼ−MB、ミオグロビン、およびトロポニンIの予備的比較” Am Heart J, 2001; 141: 985-991)。 PTCAは、カテーテルを冠状動脈閉塞の部位へ放射線ガイドにより冠状動脈へ通す間の手順である。カテーテルは、その先端に長く薄い風船を有している。場所に達したときに風船が膨らみ、班を動脈の壁側に押し、それによって管腔のサイズを大きくし、血流を回復させ風船が縮む。PTCA手順は、臨床現場で受け入れられている。
【0037】
風船は膨らんでいるとき(典型的には30秒から2または3分)、冠状動脈流はなくなる。流れがないことにより、風船が膨らんでいる場所の下流に一時的な虚血が生じる。しかし、短時間の虚血は、細胞壊死のような長い期間の虚血の結果として見られる変化を誘導しない。
【0038】
診断手段としてのACB試験の有用性を示す更なる研究は、BarOr D, Lau E, Winkler J.による“心筋虚血のマーカーとしてのコバルト−アルブミン結合の新規アッセイと、その可能性−予備的レポート” J Emerg Med 2000; 19: 4.; Wu AHB, Morris DL, Fletcher DR, Apple FS, Christenson RH, Painter PC.による“急性心筋梗塞の早期検出のための心臓トロポニンの補助としての、アルブミンコバルト結合(ACB(商標))の解析” Cardiovascular Toxicology, 2001; 1: 2,147-152. ;およびChristenson R L, Duh SH, Sanhai W R, Wu AHB, Holtman V, Painter P, Branham E, Apple FS, Murakami MA, Morris DL.による“急性冠症候群患者の評価のためのアルブミンコバルト結合試験の特性:複数の機関での検討” Clinical Chemistry 2001 ; 47: 3,464-470に示されている。
【0039】
上述したように、本発明の1つの態様には、ECGの測定と共に、少なくとも1つの虚血マーカーの試験を実施し、そして場合により他のインビトロ診断試験を実施し、それらのすべての結果をアルゴリズムにより組み合わせることによる、ACSが疑われた患者のリスク階層化の改良された方法が含まれる。好ましくは、インビトロ診断試験は、壊死マーカーのためのものである。好ましくは、虚血メーカーに関する試験は、ACB試験のようなIMAに関する試験であり、そして壊死マーカー試験はトロポニンアッセイである。あるいは、壊死マーカーはCK−MBまたはミオグロビン、または上述のWu, A. H. B. (1998)に記載されているような当業者に知られた他の壊死マーカーであってもよい。
【0040】
本発明の更なる態様は、それぞれの試験が虚血について更なる情報を提供するように、ECGが1つ以上の虚血マーカーと組み合わされる。他の可能な虚血マーカーは、遊離脂肪酸またはFFAであり(参照:Kleinfeld AM, Prothro D, Brown DL, Davis RC, Richieri GV, DeMaria A 冠動脈形成に続く血清中の結合されていない遊離脂肪酸レベルの上昇。 Am. J. Cardiol. 1996 Dec 15; 78 (12): 1350-4)、そして従ってECGはFFAと、IMAと、またはそれらの両方と組み合わせることができる。
【0041】
本発明のさらなる態様では、ECGは、虚血マーカーの結果およびさらに1つ以上のトロポニン、CK−MBまたはミオグロビンを含む心筋壊死マーカーの試験と組み合わされる。
本発明の更なる態様では、ECGは、虚血マーカー結果、プラスしてC反応性タンパク質 (CRP)のような炎症マーカー、B 型ナトリウム利尿ペプチド (BNP)またはN−末端ポロBNPのような関連分子などの心筋負荷のマーカーなどの心臓学で有用な他のマーカー(すなわち:虚血のマーカーではなく、壊死のマーカーでもない)と組み合わされる。
【0042】
診断におけるECGとトロポニンの関係は、米国心臓学会(the American Heart Association)および米国心臓学大学(the American College of Cardiology)によって発行されたガイドライン中で定義されている (Braunwald ら,“不安定狭心症および非STセグメント上昇心筋梗塞患者のマネージメント(改訂)”ACC/AHA 2002不安定狭心症および非STセグメント上昇心筋梗塞患者のマネージメントのガイドライン改訂、米国心臓学大学/米国心臓学会対策委員会のプラクティスガイドラインに関するレポート(不安定狭心症患者のマネージメントに関する委員会) Circulation, Oct 2002; 106: 1893-1900))。そのガイドラインでは、臨床上のサインおよび兆候の後に、ECGがまず診断手段として使用されると述べられている。ECGが正常または役に立たない場合、トロポニンのような壊死マーカーが次の診断手段になる。しかし、イスケミアモディファイアルブミンの出現の前は利用可能な虚血の生化学マーカーはなかったので、ECGと虚血の生化学マーカーの組み合わせの使用に関する先行技術はないと考えられる。
【0043】
さらに、発行されたガイドラインは、患者をACSの疑いがあると決定する(すなわち、ポジティブな診断をする)におけるECGとトロポニンの使用に言及している。ECGとトロポニンは、初期に可能性を排除する(すなわち:ネガティブな診断をする)には使用することはできない。なぜならば、臨床的に許容されるネガティブな予測値を得るにはECGとトロポニン単独または組み合わせの感度は低すぎるからである。その主な理由は、トロポニンがゆっくりと上昇するマーカーであり(胸部痛の発症の6時間以内に最初に検出可能になり、そして24時間以内にピークになる)、ガイドラインでは胸部痛の発症から6時間より早い時期でのトロポニン測定は重きを置かないことを示している。一方、IMAは高感度で速やかに上昇するマーカーであり、それゆえ現在の技術では可能でない、可能性ありとするのと除外するのの両方に使用することができる。
【0044】
本発明では、患者のリスクは、ECGと少なくとも1つの虚血マーカーの結果、場合により少なくとも1つの壊死マーカー(例えば:トロポニン)の結果を考慮して示唆されるアルゴリズムに従って計算される。
【0045】
例えば、ECGがACSという診断(例えば:STセグメントの上昇)であれば、そのアルゴリズムはACSポジティブという診断とするものを含む。ECGが正常または診断されない場合(例えば:不整脈がある場合)で、壊死マーカー試験の少なくとも1つがポジティブの場合(虚血マーカーの試験値がどうであれ)は患者は最も高いリスクとなり、そしてすべての壊死マーカーが正常で虚血マーカーの少なくとも1つがポジティブの場合は高いリスク(最も高いリスクではないが)となり、そして壊死試験のすべてと虚血試験のすべてがネガティブである場合、もっとも低いリスクとなる。前記アルゴリズムは、虚血マーカーの定量的な値または他のインビトロ診断試験が、患者が臨床状態を有する可能性の評価を提供するために考慮してもよい。図6(実施例1から、下述)は、心臓トロポニンT試験とIMAを測定するためのACB試験の値の関数として、患者のACSを有するかの可能性を示している。それゆえ、本発明の1つの態様は、ECGの結果を取り込むアルゴリズムであり、そして虚血について正常か診断されない場合に、IMAとトロポニンの値を共に使用して患者がACSを有するかの可能性を計算するのに使用される。
【0046】
そのアルゴリズムは、患者がECG単独の解析により決定された臨床状態を有する可能性を考慮することもでき(例えば、上述のUS2002/0133087A1 の発明を使用して)、そしてこの可能性を、例えばヘイズの定理を使用してインビトロ試験の結果によって決定された可能性を組み合わせることができる。
【0047】
2つの試験結果(すなわち:ポジティブまたはネガティブ)が使用されているアルゴリズムの例を表1に示す(もちろんそれぞれの試験の定量的結果を使用する同様のアルゴリズムも適用可能である)。このアルゴリズムは、階層的で、順序だてられていて、最も高いリスク状態が表のトップで、表の下に行くに従いリスクが減る。すなわち、もしECGがはっきりとした診断情報を提供するならば(例えば:STセグメントの上昇)、診断は明確であり、その他の試験は必要ではない。もし、ECGでは診断されない(non-diagnostic)かまたは正常でトロポニンが上昇していれば、診断は非−ST上昇心筋梗塞(Non- ST Elevation Myocardial Infarction (NSTEMI))の定義により、他の試験は診断をなすにあたり必要とはされない。もし、ECGでは診断されないかまたは正常でトロポニンがネガティブで(すなわち:診断のカットオフ以下)、そしてIMAが上昇していれば、患者は多分ACSを有しているであろう。もしECGでは診断されないまたは正常で、トロポニンとIMAが上昇していなければ、診断は多分非虚血性胸部痛であろう。
【0048】
【表1】
【0049】
使用されるアルゴリズムは、患者の身体的性質、家族ヒストリー、または胸部痛の素質および持続期間のような追加のパラメーターを挿入することができる。そのアルゴリズムは、他の虚血、壊死やその他のマーカー(例えば:BNPまたはCRP)を挿入するように広げることができる。
【0050】
ACSがAMIへと導く期間のIMAとトロポニンの間の関係を、図4に図示した。グラフの下の部分は、虚血または壊死した組織の体積を表している。グラフの上部は、2つのマーカーの値を示している。冠状動脈閉塞のとき(水平時間軸の左サイドの縦の矢印で示される)、いくらかの組織は速やかに可逆性虚血となる。少しの時間の経過で、長い時間可逆性虚血であった組織は、不可逆性虚血になり始め、そして最終的には死ぬ。さらに時間が経つにつれ、より多くの組織が虚血となり、より多くの虚血組織が壊死する。最終的に、虚血組織が壊死組織に転換されるに従い、虚血組織の体積は減少し始める。最終的に、冠状動脈閉塞により影響される全ての組織は壊死し、そして虚血組織はなくなり、梗塞がいっぱいとなる。
【0051】
冠状動脈閉塞の後の短い時間、IMAは産生され、ACB試験値はカットオフ値以上に上がり(すなわち:正常レンジの上限以上)、速やかに虚血組織の存在を示す。時間が経つにつれて、ACB試験は虚血組織が存在する間は高いレベルのままであり、いったんすべての影響された組織が虚血から壊死に転換されると、ACB試験値は低下してくる。虚血組織の幾分かが壊死するとすぐに、トロポニンが放出され、血流に向かう。壊死組織の体積が十分になり、十分な時間が過ぎると、血清トロポニンレベルがカットオフレベルを超えて上昇する。
【0052】
トロポニンの使用の主な制限の一つは、トロポニンは梗塞の後にゆっくりと減少するので(通常は数日に渡って)、再梗塞または引き続く虚血事象を診断するのは極めて難しい。例として、胸部痛を煩い、AMIを有しているとして診断され、再潅流治療(例えば、血栓溶解、PTCA、ステントまたは手術)を受けている患者を考える。もしこの患者が最初の事象の後2日または3日後に胸部痛の他の症状が発現していて、壊死の生化学的マーカーが存在していると、トロポニン(およびおそらくCK-MB)はまだ最初のAMIでの心臓ダメージにより高められているだろうから、これが他の事象であるかを決定することは極めて難しい。しかし、症状の発現後IMAマーカーは速やかに減少するので、患者のIMAマーカーの分泌値は通常の範囲内であろう。このように、患者が他の症状の発現を示していて、IMAマーカーが2度目の発症で上昇していると、それは2度目の事象であろう。
【0053】
このIMAのユニークな利点を生かすため、アルゴリズムのさらなる態様には、患者の以前のヒストリーについてのメモリーが含まれる。つまり、もし患者がある日に症状を示し、その診断がSTEMIであり、そして数日後に正常のECGを示すがトロポニンが上昇していると、IMAの追加はこの症状が非虚血胸部痛(すなわち:IMA正常)または他の虚血事象(すなわち:IMA上昇)であるかを決定する助けとなる。
【0054】
上述のアルゴリズムはテスト結果があらかじめ決められた値以上か以下かの評価が必要であるので、試験方法として定量的結果が得られるものであることが厳密に必要ではない。もちろん、定量的結果は特に連続的測定が行われるときは事象のタイミングについてのさらなる情報を与えることにはなる。定量的結果により、症状の厳しさの指標、すなわち虚血組織の程度の指標を得ることもできる。
【0055】
更なる態様では、ECGの連続試験および/または壊死マーカーの連続試験と組み合わせたIMAマーカーのアッセイの連続測定は、心虚血のタイムコースの関する情報を得ることができる。図4を参照すると、図示的に冠状動脈閉塞の1事象にて、IMAマーカーとトロポニンの上昇と低下が見られる。心臓性のまたは疑心臓性の事象を示している患者群から虚血マーカーの連続測定(および場合により他のインビトロマーカー)および連続ECG測定は、心臓性の苦痛を経験している患者の虚血/壊死/ECG事象のタイムコースを図示している図4のものと同様なまたは類似なモデルまたはアルゴリズムを創造するように組み合わせることができる。医者は、特定の患者の(連続的な)測定値をそのモデルまたはアルゴリズムと相関させ、虚血/壊死進展内の患者の状態または位置を決定することができ、および/または急性心筋梗塞、不安定狭心症等の発症の時期を決定することができる。
【0056】
血中(血清または血漿とともに)で検出される生化学マーカーとともにECGを使用することに関する方法が記載されているが、本発明はその種のサンプルには限定されない。 尿、唾液、涙液、精液、粘液、便、吐いた呼気等のような他の物質流(体液または組織サンプル)も使用することができる。例えば、Paz, F. (米国特許No. 5,515, 859 (1996) ) は心臓血管の苦痛の可能なマーカーとして吐いた呼気サンプル中のアデノシンの検出の使用を開示している。アデノシンは有効な血管拡張剤であり、ストレスに応答して血流を増加させようとして組織で生産される。それは壊死の結果として細胞の内部から放出されないが、それは細胞によって正常の生理的メカニズムによって放出される。このように、ECGの測定と吐いた呼気からのアデノシンの測定の組み合わせは、本発明の1つの目的を満足するであろう。
【0057】
本発明の1つの特定の態様では、電子モジュールハウジングは、ECG手段とテストストリップを使用した生化学試験結果を読む、または実施する装置を含むものとして提供される。アッセイのためのテストストリップを実施する、当業者によく知られた多くの方法がある。例えば、バイオサイト社(Biosite Inc.)(サンディエゴ, CA)は、トロポニン、CK−MBおよびミオグロビンの定量的測定のためのTriage(登録商標) Cardiac Readerを販売している。
【0058】
図2は、そのような装置のイラストである。図2では、電子モジュールハウジング (10) は、ECG結果を表示しおよび/または印刷するための手段を含むECG機能手段(11)、およびオペレーターが装置の操作をコントロールし、装置にパラメーターを入力するキーボードのような手段(9)、および装置の操作をオペレータに表示する表示パネルのような手段(12)を含む。前記装置は、ケーブル(15)を通して患者(16)に連結される。そのケーブルは、患者の体上に置かれるECG電極(18)に接続されている複数のワイヤー(1つを(17)として示す)に接続されている。前記モジュールハウジングは、テストストリップが挿入さ、1つ以上の生化学的マーカーのテストストリップの結果を読む手段と関連した、アパーチャーまたはスロット(19)を有している。イラストでは、読む手段は、ハウジングモジュールの本体中に含まれている(しかしそれは分離されていて、例えばワイヤーで接続されていてもよい)。テストストリップ(13)は、患者サンプルの適用のためのウェルのような部分(14)を有する。ストリップテストは、アパーチャーまたはスロット(19)を経由して読み手段に挿入される。
【0059】
“テストストリップ”という用語は、2001年5月4日に出願された米国特許出願シリアル番号(U. S. Serial No. 09/849,956)に記載されているようなアッセイデバイスをいい(本明細書にその全体を参照として援用する)、それは典型的にフローパス、サンプルを置くための適用領域、および標的化合物(虚血および/または壊死マーカー)の検出および/または測定のための試験領域を有するキャリアー媒体を含む。“テストストリップ”という用語は本明細書で使用されているが、長くしたアッセイストリップ以外の形状のものも本発明の範囲内に含まれることが意図されている。テストストリップまたはそのようなデバイスは、2001年5月1日に出願された米国特許出願シリアル番号(U. S. Serial No.)09/846,411(本明細書に参照としてその全体を援用する)に記載されているようなバーコード読み取り可能デバイスであってもよいことも意図されている。当業者の技術水準によれば、テストストリップのための読取装置には、バーコードリーダーのような、ストリップの校正と他のパラメーターを読み取るための手段を含む。
【0060】
図3は、装置のECG作用とインビトロ診断試験/読み取り手段との間の相互作用のブロック・ダイヤグラムである。ケーブル(15)は、患者と複数の電極をECG手段(31)に接続する。IVDテストストリップ(13)は虚血および/またはインビトロ診断試験/読み取り手段(33)に挿入される。ECG手段と試験/読み取り手段は、結果を解析し、そしてそれらの結果をシグナルを通して、マイクロプロセッサーのような解析手段(32)に伝達される手段を含む。その解析手段は、ECG試験結果と虚血および場合により他のインビトロ診断試験の結果を組み合わせるためにアルゴリズムのための計算を実施する。虚血と他の測定の結果、およびそれらの組み合わせた結果の解析結果は、表示および/または印刷手段(11)によって表示され、および/または印刷される。ここでは、すべての表示と印刷のタイプを1つの手段として示しているが、事実表示されるか印刷される情報のそれぞれのタイプのために分離された手段であってもよい。コントロールパネルとデータ入力手段(9)は、装置の操作をコントロールするため、および解析手段にてアルゴリズムの一部として使用することができるデータ(例えば:胸部痛の素因のような患者のパラメーター)を入力するためにも使用される。
【0061】
いずれの診断手段の臨床上の性能は、その手段の統計を決定するために使用された臨床研究の統計上のパワー(power)に依存する。
そのような臨床検討は、限られた数の集団で実施され、しばしば非常に明確な構成で実施される。その手段が使用されるそれぞれの臨床設定は、年齢、性別、民族、食事および平均体重のような変数の変動のある異なった患者群を有するようである。それらのファクターのすべては、胸部痛で来た患者がACSを有するというリスクの評価の修正に貢献するであろう。
【0062】
本発明の更なる態様では、装置は貯蔵された情報のために使用されるメモリー手段(図3のアイテム(37))を含む。患者のデータが装置で解析されるにつれ、入力と出力パラメーターはメモリー手段に貯蔵される。ある期間後、オペレーターは患者の臨床上の結末をコントロールパネル(9)を通して入力することができる(または結末は、例えば病院内部の情報システムと連結した通信手段(34)を通して、自動的に利用可能とすることができる)。このように、メモリーのデータは更新され、そして臨床上の結末と比較され、そして解析手段(32)に内蔵されたアルゴリズムは、このおよび他の患者との新しい比較に対応して適当に修正され、次の使用で改良された性能を提供することができる。
【0063】
ニューラルネットワークを含む帰納的プロセスのようなものを実施するための、当業者に知られた多くの方法がある。帰納的アルゴリズムは、装置自体で完全に実施することもできるし、または組み合わされたECG装置と試験ストリップ装置が通信手段(34)(これは物理的な連結でも、インターネット経由のようなネットワークであってもよい)で通信するセントラルコンピューターシステム上に存在することもできる。後者の例では、ネットワークに接続されているどの装置からの比較情報も利用可能で、セントラルコンピューターシステムに連結しているそれぞれの装置のアルゴリズムは、最新情報に更新され、毎回改良される。
実施例
実施例1−急性冠症候群の診断に使用されるACB試験
本検討は、心臓由来が疑われる胸部痛(またはそれに等しい)を有する患者の早期リスク階層化のためのIMAの性能を調べるために実施した。IMAの性能はトロポニンTと12リードECG(12 lead ECG)結果と比較した。結論は、患者の短期リスクの測定として、ACS (STEMI, NSTEMIまたはUA)でないという診断、または非虚血性胸部痛 (NICP)であるという診断であった。
【0064】
ACSではないかという臨床サインと症状を有し、症状の発症後3時間以内に救急処置室(ED)に到着した患者を選んだ。すべての患者は12リードECGをとり、EDに到着の1−2時間以内に血液サンプルを回収した。IMAとcTnT(ロシュ診断(Roche Diagnostics))試験を、それぞれの提示サンプルで実施した。
【0065】
データ解析
STセグメントシフトまたはT波変化のない(リードIIIまたはV1とは別に)ECGを“ネガティブ”と考えた。“ポジティブ”ECGは、STセグメント低下または上昇≧1mV、またはT波転移≧2mv(2以上の連続リード)の場合であった。疑わしいまたは解釈できないECG(例えば:左脚ブロック、一定のリズム、大量の異常なQ波、および/または先のAMIに続く持続性のST−セグメント上昇)は、本検討では“ネガティブ”と考えた。
【0066】
ACB試験結果>85U/mlは前に実施した正常範囲検討(Normal Range Study)に基づいてポジティブと考えた。
心臓のトロポニンTは、エレクシス2010アナライザー(Elecsys 2010 analyzer)(ロシュダイアグノスティクス(Roche Diagnostics))を用いて電気化学ルミネセンスアッセイにて測定した。cTnT濃度は、>0.05ng/mlでポジティブと考えた。
【0067】
ST−上昇AMI(STEMI)、非ST−上昇AMI(NSTEMI)、不安定狭心症(UA)、および非−虚血性胸部痛(NICP)でないという施設での診断は、AMIの診断のためのESC/ACC基準および不安定狭心症の診断にためのACC/AHAガイドラインに基づいた施設でのガイドライン(institutional guidelines)に従って決定した。STEMI、NSTEMI、およびUAは、ハイリスクの診断と考えた。NICPの診断は、ローリスクと考えた。
【0068】
急性心筋梗塞(AMI)の診断は、cTnTが0.05 ng/mLのカットオフを使用してESC/ACC基準が満たされた場合に確証された。AMIは、ECGと生化学的基準、すなわちcTnT>0.05ng/mlに基づいて、ST上昇心筋梗塞(STEMI)または非−STセグメント上昇心筋梗塞(NSTEMI)として分類した。
【0069】
不安定狭心症 (UA) は、心筋壊死のない(すなわち:cTnTの上昇がない)急性胸部痛があり、しかし減少した心筋血流、ポジティブなECG/心エコーストレス試験、または冠動脈造影の顕著な損傷の臨床的証拠を有する場合に診断された。
【0070】
ACSでないという診断は、AMIとUAを含む。
非−心臓性原因の胸部痛および/または正常な冠動脈造影と診断された患者は、非−虚血性胸部痛(NICP)としてクラス分けされた。
【0071】
結果
トータルの検討集団は、140人の男性、68人の女性を含んだ。平均年齢は61.3歳(21−85歳の範囲);49(23.5%)は喫煙者;31(15%)は糖尿病;93(44%)は高血圧;65(31%)は冠状動脈疾患の家族歴を有していて:そして73(35%)は高コレステロール血症の治療を受けていた。
【0072】
データを7ケースで解析した:
1.IMA単独
2.トロポニン T単独
3.ECG単独
4.トロポニンTとIMAの組み合わせ (以下の表ではTnT&IMAとして示されている)
5.ECGとIMAの組み合わせ(以下の表ではECG&IMAとして示されている)
6.ECGとトロポニンTとの組み合わせ(以下の表ではECG&TnTとして示されている)
7.ECGとトロポニンTとIMAの組み合わせ(以下の表ではECG&TnT&IMAとして示されている)
IMA、ECGおよびcTnTの結果を、単独または組み合わせにて、臨床感度、特異性、ポジティブ予測値(PPV)およびネガティブ予測値(NPV)として解析した。IMA、ECGおよびcTnTの2および3つの試験の組み合わせは、いずれか一つの試験がポジティブであればポジティブと考え、すべての試験がネガティブの場合ネガティブと考えた。性能評価(Performance estimates)を相関比率(correlated proportions)に関するマクネマーの検定を使用して比較し、そして信頼区間を直接二項法(exact binomial method)と使用して計算した。下2桁のP値(two tailed p-value)が<0.05顕著だと考えた。データを下に分割表で示した。
【0073】
それぞれの診断試験の感度は、131人の急性冠症候群(ACS)患者で、そして20人のST上昇MI(STEMI)患者で、26人の非ST上昇MI(NETEMI)患者、85人の不安定狭心症患者での全数について示している。特異性評価は、非虚血胸部痛(NICP)と診断された77人の患者に基づいている。下の表では、“+ve”は“ポジティブ”の略であり、“−ve”は“ネガティブ”の略である。
【0074】
【表2−1】
【0075】
【表2−2】
【0076】
【表2−3】
【0077】
【表2−4】
【0078】
【表2−5】
【0079】
【表2−6】
【0080】
【表2−7】
【0081】
IMA、cTnT、ECG提示およびそれらの試験の組み合わせの感度は、統計的に顕著な差異で比較された。図5は、IMA単独とECGとcTnTとの組み合わせでの感度を示している。IMA提示では131人のACS患者のうち107人が同定され(82%、95%信頼区間(CI)74−88)、それに対してECGでは131人中59人(45%、CI36−54)、cTnTでは131人中26人(20%CI13−28)が同定された。IMAをECGと使用した場合は、感度は92%へ上昇し(CI86−96)、そしてこれはIMAをcTnTと共に使用した場合の感度90%(CI84−95)と同様であった。3つの試験の組み合わせでの感度は、95%(CI90−98)であり、これはIMAとcTnTと組み合わせでの感度(p=0.02)よりも顕著に高く、IMAとECGの組み合わせでの感度(p=0.13)と統計的に同等であった。標準の実施に従い、ECGとcTnTと使用したときは、虚血由来の胸部痛の53%(CI44%−62%)の患者が同定された。
【0082】
最終診断の推定モデルを構築するためにロジスチック回帰を使用した。IMAとcTnTを定量として扱い、ECGを定性として扱った。受信動作特性(ROC)曲線の下のエリアを、ACSをNICPから区別するそれぞれのモデルの能力として評価した。p値<0.05は顕著であると考えた。IMA単独でのROC曲線を図6に示し、曲線の下の領域は0.68(95%CI0.61−0.76)であった。この解析の結果を表2に示した。この表では、IMAにECGを加えることは、それぞれのパラメーター単独よりもより診断能力を与え、IMA、ECGとトロポニンTとの組み合わせは、いずれの単独の場合、いずれの2つの組み合わせの場合よりも診断能力を与えることがわかる。
【0083】
【表3】
【0084】
ロジスチック回帰でのパラメーターをACS, p [ACS], 対IMA値, cTnT値、およびその2つの組み合わせの可能性の曲線を描くのに使用した。
図7は、p[ACS]対(vs)IMAを、縦の線として示している正常カットオフの95百分順位上限(95thpercentile upper limit)で示している。これは、100より高いIMA値はACSであることを強く示唆しており(例えば、[IMA]>110U/mLで、p[ACS]>80% )、70より低いIMA値はACSでないことを強く示唆している(例えば:[IMA]>70U/mLで、p[ACS]<35%)。
【0085】
図8は、異なったcTnT値でのACSの可能性を示している。これは、cTnTが0.05ng/mLのカットオフ以上の上昇がACSではかなり顕著であることを示している(例えば: [cTnT]>0. 1 ng/mL ではp [ACS] >86%)。しかし、公開されている文献と一致して、for [cTnT] =0ではp [ACS]は依然>0. 5であるので、そのデータはネガティブcTnThs除外するのには価値がないことを示している。
【0086】
図9は、異なった[cTnT]値でのp [ACS] 対 [IMA] の曲線のファミリーを、85のACB試験値(正常の上限の第95百分位数)の縦線とともに示している。それらの曲線は、IMAの主な臨床値はc [TnT] がゼロである患者であり、もちろん運ばれてきた患者の大多数であることを示している。しかし、IMAは0.05ng/mlのカットオフ値近くの低い[cTnT]値でのケースを決定するのに役に立つであろう。例えば、もし[cTnT] =0.5 ng/mLで [IMA] >100であれば、p [ACS]>90%である。一方、もし [cTnT] =0.05 ng/mLで[IMA] <60 U/mLであればp [ACS] <25%である。
【0087】
実施例2:胸部痛患者のリスク階層化のためのIMA
本検討は、心臓由来が推定される胸部痛の患者の早期リスク階層化のための、急性患者でのIMA、ECGおよびトロポニンTの特性を調べることを意図した。本検討は、休息(rest)心筋灌流画像法(MPI)にて低〜中くらいのリスク患者集団にて実施した。
【0088】
ACSでないという施設での診断(すなわち:短期リスクの測定)は、このセクションに示されたデータ解析を使用した。血清試料を抜き取り、ACB試験および心臓トロポニンTアッセイで、二つの中心の試験所の一つにてアッセイされた。
【0089】
1つの血液検査試料を、灌流剤の注入前に採取した(もしMPI検討が来院から1時間以後で予定されていれば、来院時点で採取または追加のベースライン採取を行った)。心筋灌流剤の注入一時間後に、他の血液採取を行った。それらの採取したすべての血液サンプルは、患者が依然痛みがあるまたは痛みを感じてから3時間以内であるというSTUDY#1(検討1)での血液採取のタイミングと一致していた。IMAはRoche Cobas MIRA. (登録商標) PLUS にてアルブミンコバルト結合テスト (ACB (登録商標)Test)によって測定した。
【0090】
データ解析
STセグメントシフトまたはT波変化のないECG(リードIIIまたはV1とは別)を“ネガティブ”と考えた。“ポジティブ”ECGは、STセグメント低下または上昇≧1mV、またはT波転移≧2mV(2以上の連続リード)の場合であった。疑わしいまたは解釈できないECG(例えば:左脚ブロック、一定のリズム、大量の異常なQ波、および/または先のAMIに続く持続性のST−セグメント上昇)は、本検討では“ネガティブ”と考えた。
【0091】
ST−上昇AMI(STEMI)、非ST−上昇AMI(NSTEMI)、不安定狭心症(UA)、および非−虚血性胸部痛(NICP)でないという施設での診断は、AMIの診断のためのESC/ACC基準および不安定狭心症の診断のためのACC/AHAガイドラインに基づいた施設でのガイドライン(institutional guidelines)に従って決定した。STEMI、NSTEMI、およびUAは、ハイリスクの診断と考えた。NICPの診断は、ローリスクと考えた。
【0092】
急性心筋梗塞(AMI)の診断は、 cTnT が0.05 ng/mLのカットオフを使用してESC/ACC基準が満たされた場合に確認された。AMIは、ECGと生化学的基準、すなわちcTnT>0.05ng/mlに基づいて、ST上昇心筋梗塞(STEMI)または非−STセグメント上昇心筋梗塞(NSTEMI)として分類分けした。
【0093】
不安定狭心症(UA)は、心筋壊死のない(すなわち:cTnTの上昇がない)急性胸部痛があり、しかし減少した心筋血流、ポジティブなECG/心エコーストレス試験、または冠動脈造影の顕著な損傷の臨床的証拠を有する場合に診断された。
【0094】
ACSでないという診断は、AMIとUAを含む。
非−心臓性原因の胸部痛および/または正常な冠動脈造影と診断された患者は、非−虚血性胸部痛(NICP)としてクラス分けされた。
【0095】
ACB試験値が>85U/mlを、前述の正常範囲検討(Normal Range Study)に基づいてポジティブと考えた。来院の3時間以内に採取された血液でのACB試験結果で>85U/mlをACB試験ポジティブとした。
【0096】
心臓のトロポニンT濃度は、エレクシス2010アナライザー(Elecsys 2010 analyzer)(ロシュダイアグノスティクス(Roche Diagnostics))を用いて電気化学ルミネセンスアッセイにて商品パッケージの記載に従って測定した。cTnT濃度は、>0.05ng/mlでポジティブと考えた。来院3時間以内に取られた血液中のトロポニンが>0.05ng/mlであれば、データ解析ではトロポニンポジティブとした。
結果
8つの臨床試験場所にて募集した患者のデータを解析した。サンプルは、2つの中心となる試験所の1つで解析した。臨床データとアッセイ結果はトータルで199人の患者で解析した。IMA、ECGおよびcTnTの結果は、臨床感度、特異性、ポジティブ予想値(PPV)、およびネガティブ予想値(NPV)を、単独または組み合わせで解析した。IMA、ECGおよびcTnTの2つおよび3つの試験の組み合わせは、もしそれらの試験の1つがポジティブであればポジティブとみなし、すべてがネガティブであればネガティブとみなした。
【0097】
“ゴールドスタンダード(gold standard)”は、ACSではないという診断であった。
データは、下にリストした7つのケースについての上述のStudy#1(検討#1)で述べたのと同じ様式で解析し、以下のページの表中に示した:
1.IMA単独
2.トロポニンT単独
3.ECG単独
4.トロポニンTとIMAの組み合わせ (以下の表ではTnT&IMAとして示されている)
5.ECGとIMAの組み合わせ(以下の表ではECG&IMAとして示されている)
6.ECGとトロポニンTとの組み合わせ(以下の表ではECG&TnTとして示されている)
7.ECGとトロポニンTとIMAの組み合わせ(以下の表ではECG&TnT&IMAとして示されている)
【0098】
【表4−1】
【0099】
【表4−2】
【0100】
【表4−3】
【0101】
【表4−4】
【0102】
【表4−5】
【0103】
【表4−6】
【0104】
【表4−7】
【0105】
ロジスチック回帰を、IMAを定量的変数として使用した最終診断のための推定モデルを構築するために使用した。そのROC曲線を図10に示し、ROC曲線の下のエリアは0.68(95%CI0.53−0.84)であり、これは上述の前の検討での結果と同等である。
【0106】
この検討は、低いACS有病率の心臓由来が疑われる胸部痛の患者群では、IMAは同等の感度と特異性を示すが、前述の検討で示されたものより高いネガティブな推定値を示した。
【0107】
ACSでのIMA提示の感度(85.7%)は、TnT提示の感度(50%)よりかなり高い。IMAとTnTの組み合わせは、誤ったネガティブはなく、100%のネガティブ予想値となる。
【0108】
IMAとcTnTの組み合わせでの使用は、100%の感度を示し、そしてより多くの患者をACSと診断し、それはより早い治療に導く。
上述の実施例に基づいて、ECGと、IMAのような虚血マーカーとの組み合わせ、および場合によりトロポニンのような細胞死のマーカーのような他のインビトロ診断試験との組み合わせは、心臓由来であると示唆される胸部痛で病院の救急処置室に来る患者のより高い信頼性での診断またはリスク階層化に使用することができること、またはアルゴリズムにおいてACSの可能性を決定するのに使用することができることは明らかである。
【0109】
ここで記載した実施例と態様は例示的目的のみであり、それらに対する様々な修正や変更は当業者に示唆されるであろうこと、そして本出願の精神と範囲内に、そして添付の特許請求の範囲内に含まれることは、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1は、冠状動脈閉塞のすぐ後の可逆性虚血、不可逆性虚血、および壊死組織領域の概略の図示である。
【図2】図2は、1つまたはそれ以上のインビトロ診断試験を実施するための装置を伴った、ECG解析のための装置を含むデバイスの概略の図示である。
【図3】図3は、ECG装置と1つまたはそれ以上のインビトロ診断試験を実施するデバイスの間の相互作用のブロックダイアグラムである。
【図4】図4は、冠状動脈閉塞後のイスケミアモディファイアルブミンとトロポニンの上昇と低下の連続を示した概略の図示である。
【図5】図5は、ECG、心臓トロポニンTおよびIMAの、ACSの検出の感度のグラフである。
【図6】図6は、検討1(Study 1)からのACSの検出のためのIMAの受信者操作特性(ROC)曲線のグラフである。
【図7】図7は、ACSの可能性とIMA値単独とのグラフである。
【図8】図8は、ACSの可能性をトロポニンT値単独とのグラフである。
【図9】図9は、トロポニンとIMAの組み合わせを使用したACSの可能性のグラフである。
【図10】図10は、検討1(Study 2)でのACSの検出のためのIMAのROC曲線のグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、心臓由来が疑われるサインおよび症状を有する患者における急性冠症候群のような臨床事象の検出、診断およびリスク階層化に関する。
【0002】
発明の背景および先行技術
米国では毎年、およそ800万人の人々が心臓由来と思われる胸部痛で病院の救急処置室(ER)を訪れ(Storrow et al.(2000) Ann. Emerg. Med. 35: 449)、そしてそれ以上がそれらのプライマリーケア医師を訪れる。
【0003】
急性冠症候群 (ACS) は、胸部痛、息切れ、肉体的作業の維持不能、恐怖感、左腕の痛みまたはうずきのような症状の自覚としてあわられ、そして心電図の変化や心臓トロポニンのような生化学的マーカーの上昇のような臨床サインを伴っているかもしれない。心臓由来が疑われる胸部痛は、しばしば狭心症の臨床記載により言及される。胸部痛は、すべての患者の約8%を締める救急処置室患者のナンバー2の理由である。
【0004】
胸痛患者は、救急処置室医師の診断に心配の種を与える。一方において、患者が実際に心臓発作を起こしている場合、早期に速やかな治療が心筋へのより多くのダメージを防ぐのには必須であり、誤った診断は死亡を含めて患者にとって不幸な結果をもたらすかもしれない。もう一方において、患者が心臓発作を起こしていないが、医師が、その患者を病院に長期間とどめて、多数の診断試験を行っている場合、それら患者は、他によりよく使われうる貴重な健康管理財源を消耗するであろう。事実、胸痛患者の診断は、米国だけで約60億ドルの浪費財源であると推定されている。
【0005】
「梗塞」または「梗塞形成」という用語は、死滅していて且つ機能しない組織領域を意味する。例えば、発作の結果として脳梗塞、または重症の腸虚血の結果として腸梗塞を有することがありうる。心筋梗塞(MI)は、死滅した心筋領域であり、したがって、これは、心臓のポンプ機能に寄与することができない。「心臓発作」という用語は、通常は、急性心筋梗塞またはAMIを意味し、これは、新生(emerging)または発達性(developing)MIであり、ACSの最終段階である。
【0006】
ヒトが年をとるにつれ、しばしば、冠状動脈に脂肪斑が蓄積する。この斑は、通常は、血液からのコレステロールの沈着のためであり、斑は軟質コアーから成り、その上により硬質の膜がある。ある時点で、斑は、不安定な状態になり且つ破裂することがありうる。破裂した斑は、血液中の一連の反応を引き起こして、血餅または血栓の形成をもたらすであろう。この血栓は、冠状動脈循環中の次第により狭くなる下流に運ばれることがありうる。結局は、この血栓は、冠状動脈を閉塞して循環を中断させ、心筋または心筋層への血液供給を妨げるであろう。
【0007】
虚血は、酸素の供給と需要との間の不均衡状態である。虚血は、一過性または持続性でありうる。心筋虚血の場合、酸素供給は、冠状動脈中の血流によって与えられている。需要は、ヒトの身体運動に依ることがありうる。したがって、虚血は、冠状動脈中での斑破裂および血栓形成で起こりうるように、限られた供給での増加した需要によって(例えば:閉塞した冠動脈で増加したストレスの結果として)、または突然に制限される供給によって生じることがありうる。第一の場合、しばしば、安定狭心症と称される。この「安定」という語は、供給の制限が安定しているので(そして通常は安定班のため)、この狭心症は再現性であるということを意味し、そしてこの虚血は、単純に活性を止めることによって逆行させることができる。不安定狭心症は、冠状動脈流が班の破壊のために速やかに障害が生じ(いわゆる不安定班)、最小活性の間の心臓の酸素需要を満たすのに冠状動脈流が不十分であるときに生じた胸痛のことである。この場合、活性を止めることによって虚血を停止させることはできないし、しかも虚血は、急性心筋梗塞のような何かいっそう悪い状態へと悪化することがありうる。
【0008】
心筋層への血液供給がいったん制限されると、この心筋層は酸素が不足した状態になって、虚血を引き起こす。早期段階において、組織は可逆的に虚血しているが、これは、血液供給の再開で、その組織が回復し且つ正常機能に戻るであろうという意味である。しばらくした後、その組織は、不可逆的に虚血した状態になるが、これは、血液供給が修復されたとしても、細胞は生きているけれどもその組織は救いようがなく、死を免れないであろうという意味である。最終的に、この組織は死滅し(すなわち、壊死した状態になり)、心筋梗塞部を形成する。事実、心筋梗塞は、「長時間虚血による心筋細胞死」として定義される。
【0009】
AMIで起こるイベントは、図1に図式的に示されている。冠状動脈の閉塞(1)は、血流を減少させる。組織は、最初は可逆的に虚血した状態になり、次に、不可逆的に虚血した状態、そして最後に、壊死(死滅)した状態になる。最も長い時間虚血していた組織は、最初に死滅する組織である。心筋組織の大部分は、毛細血管によって血液供給されるので、閉塞部位から最も遠い領域は、酸素化血液を受け取るのは最後であり、したがって、閉塞部位により近い部位より短い時間虚血している。したがって、冠状動脈閉塞より下流の組織には、進行中の状態の区域がいくつかある。最も遠い区域は、可逆的に虚血した状態(2)であり、不可逆的に虚血した状態(3)へ発展し、最後に壊死した状態(4)へと進行する。結局は、組織領域全体が、虚血組織が残っていない壊死状態になり、そして完全な梗塞となる。
【0010】
胸部痛を患う患者は、安定狭心症, 不安定狭心症, AMI, うっ血性心不全のような非虚血性心臓部の問題、または胃食道逆流疾患 (GERD)のような非心臓性の問題を有しているかもしれない。それらの患者タイプのそれぞれのために最適な治療と治療の緊急性は著しく異なり、それゆえ速やかな診断およびリスク階層化は非常に臨床的に重要である。
【0011】
最近まで、MIの診断は、追想的に行われていた。世界保健機関(WHO)によって確立された判定基準は、MIを、(a)典型的な症状(すなわち、胸部不快)、(b)酵素上昇、および(c)Q波の発達(壊死した心筋層の指標)を含む典型的なECGパターンの三つの特徴の内のいずれか二つとして定義した。何年も前に確立されたこれら判定基準での「酵素上昇」とは、クレアチンキナーゼ(CK)またはそのより心臓特異的なイソ型CK−MBの血清レベルの上昇を意味する。CK−MBは、死滅した心筋細胞から放出された分子の一つであり、それゆえ壊死の血清マーカーである。心筋細胞が、長時間虚血の結果として死滅すると、その細胞膜は破裂して、サイトゾル内容物を細胞外体液空間中に、次に、リンパ系中に放出し、そこから血流に入る。
【0012】
WHO判定基準が最初に公表されて以来、心臓壊死の新しい生化学的マーカーが発見され且つ商品化されてきている。(多数のこれらマーカーの完全な説明については、Wu, A.H.B.(ed.) Cardiac Markers, Humana Press ISBN 0-89603-434-8,1998 を参照されたい)。これまでに開発された最も特異的な心臓マーカーは、心臓トロポニン類である。これらは、心筋細胞の収縮装置部分であるタンパク質である。cTnIおよびcTnTの二つの型が商品化されており、たとえ僅かな心筋損傷でも検出はきわめて特異的であることが分かっている。CK−MBに類似した心臓トロポニン類は、死滅した心筋細胞から、その細胞膜が破裂した場合に放出され、そして結局は、血液中で検出可能である。壊死は、長時間の心筋虚血の結果として確かに起こりうるが、感染、外傷またはうっ血性心不全のような他の原因による心筋細胞損傷によって生じることもありうる。したがって、心臓壊死マーカーの増加の知見だけで、心筋梗塞の決定的診断に至ることはない。
【0013】
上記の心臓マーカーは、優れた壊死マーカーであるが、虚血のマーカーではない。しかしながら、医学界およびこの点についての文献では区別がつかないことが多く、心臓虚血の結果として放出されるとして記載されているトロポニン、CK−MBおよびミオグロビン(別の心臓壊死マーカー)への言及が見られることは希ではない。これは、壊死が常に虚血に先行されるという意味で真実であるが、虚血が常に壊死をもたらすということは真実ではない。したがって、これら壊死マーカーは、必ずしも虚血のマーカーではない。例えば、「安定狭心症」の臨床的状態とは、必ずしも壊死に至らない、身体運動の結果としての心臓虚血である。ヒトが運動を止めた場合、循環によって十分に供給されうるレベルまで需要は降下するであろうし、しかも虚血は消散し、壊死マーカーの上昇は起こらない。
【0014】
American College of Cardiology(ACC)および European Society of Cardiology(ESC)は、考えられる心筋梗塞の再定義を含む合意文書(Alpert, J.S. et al. (2000) J.Am.Coll.Card. 36:3)を公表した。この合意文書の一部分は、急性、発展性(evolving)または新生MIの新しい定義である。この新しい定義は、次の判定基準のいずれか一つが、急性、発展性または最近のMIについての診断を満たすということである。
【0015】
1.次の内の少なくとも一つと共に、心筋壊死の生化学的マーカーの典型的な上昇および漸次降下(トロポニン)またはより急速な上昇および降下(CK−MB)
a.虚血症状;
b.ECGでの病理学的Q波の発生;
c.虚血を示すECG変化(STセグメント上昇または低下);または
2.冠状動脈介入(例えば、冠状動脈形成術);または
3.急性MIの病理学的知見。
【0016】
この定義に暗に含まれるのは、AMIには、虚血成分および壊死成分の双方が含まれるという見解である。問題は、優れた生化学的壊死マーカー(すなわち、トロポニン)は存在するが、許容しうる生化学的虚血マーカーは存在しないので、症状およびECGの変化と組み合わされた臨床的所見に頼っているということである。トロポニンは虚血マーカーではないという事実は、この合意文書で強調されていて、「これらバイオマーカーは、心筋損傷を反映するが、その機構を示しているのではない。したがって、虚血の臨床的証拠の不存在下における上昇した値は、心筋炎のような心臓損傷の他の原因の探求を促すべきである。」と述べられている。
【0017】
難点は、心臓虚血は、診断するのがきわめて難しいということである。米国国立衛生研究所(NIH)の National Heart Lung and Blood Institute(NHLBI)は、1990年代初期に、National Heart Attack Alert Program(NHAAP)を作成した。1997年には、そのNHAAPの作業部会が、救急部で急性心臓虚血を識別するのに当時利用可能な全ての技術の評価を示した書物を公表した(Selker, H.P. et al. (1997) A Report from the National Heart Attack Alert Program (NHAAP) Coordinating Committee Blackwell Science ISBN 0-632-04304-0)。この報告についての主たる根拠は、新しい再灌流技術(具体的には、経皮的経管的冠状動脈形成術またはPTCA、およびTPA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)およびストレプトキナーゼのような全クラスの血栓溶解薬物療法)で、死亡率および罹病率の劇的改良が、胸痛の開始と療法の開始との間隔に関係していたということが分かったということであった。これは、明らかに、より早期の療法が適用されうるためであり、より多くの心筋組織は、壊死する代わりになお可逆的虚血状態にあり、したがって、血液供給が修復された場合にそれが回復する可能性はより高い。明らかに、療法までの時間を減少させる鍵は、可逆的虚血がなお存在している間のより早期に診断を行うことができるように、救急部(ED)での診断試験の性能を改良することである。事実、この書NHAAPの序論は、「AMIだけを識別することは、有意の且つ即時の心臓の危険に晒されている大多数のED患者を見落とすと考えられる」と述べている。
【0018】
EDにおけるACSの診断のための注意基準および最も広く許容されている手段は、標準的な12誘導心電図(ECGまたはEKG)である。STセグメントの上昇のような変化は、心筋層の損傷の指標であり、そしてMIの診断となる。STセグメント低下のような変化は虚血の指標である。ECGも心房性細動と心室性頻拍症のような不整脈の診断とクラス分けに使用される。左脚ブロック (LBBB)のような不整脈の患者は、ECGの特徴があいまいであり、ECGではACSとは解釈されない。
【0019】
ECGは、急性心臓虚血に対しての不完全な感度および特異性が欠点であり、AMIについての厳密な判定基準を用いて解釈する場合、感度は50%またはそれ未満に低下する。研究されてはいるが、まだ十分に許容されていない他の手段には、ECGの変法またはECGを含むアルゴリズム、CK−MBおよびTnIのような心臓マーカー、99Tcセスタミビ(sestamibi)およびタリウムを用いた放射性核種心筋灌流画像法(MPI)、ECG運動ストレス試験、および超音波心エコー検査法が含まれる。これらの中に、注意基準として許容された点までの一貫して信頼しうる感度および特異性を有することが示されたものはなかった。更に、MPIのような若干の技術は、相対的に十分な精度を与えるが、費用が掛かるし且つ利用可能性が制限される。
【0020】
胸痛患者のAMIを診断するための装置および/またはアルゴリズムを開発することは、いくつか試みられてきている(例えば、Jackowski, G., 米国特許第5,710,008号(1998年)を参照されたい)。この第5,710,008号特許は、AMIの診断用のアルゴリズムと連結した少なくとも3種類の生化学的マーカーの組合せを用いる方法および装置を記載している。トロポニンは、急性心筋梗塞の診断のための「金基準」生化学的マーカーとして許容されてきている。トロポニンIの臨床的性能は、多数の出版物によっておよび多数のトロポニン検定製造者によって報告されてきた。
【0021】
トロポニンは、心臓壊死についての非常に特徴的なマーカーであるが、その臨床的有用性は、特に、胸部痛開始後の早期(すなわち、冠状動脈閉塞が虚血に至った直後)において、そのマーカー自体の遅い速度論によって、およびそれが虚血ではなく壊死のマーカーであるので、臨床的経過の後期に放出されるという事実によって制限される。言い換えれば、AMIの検出でのトロポニンの臨床的感受性が100%となるには十分な時間の経過の経過が必要である。しかし、AMI(またはACS)の検出のためのトロポニンの臨床的感受性は、胸部痛の発症の2時間以内では患者の20%以下である(Mair et al. (1995) Clin. Chem. 41: 1266; Antman et al. (1995) JAMA 273 : 1279)。これは、胸部痛の発症後病院の救急処置室を訪れる患者のメディアン時間は、後にAMIと診断される患者では約2時間であるので重要である(Goff et al. (1999) Am. Heart J. 138 : 1046)。
【0022】
これら生化学的壊死マーカーによる結果の組合せを用いた、AMIのより良い診断を得る試みが、記載されてきている。例えば、Shah et al., 米国特許第5,382,515号(1995年)は、クレアチンキナーゼの異なったイソ型の密接に間隔を置いて連続した測定値を用いて、AMIの存在および時期の両方を決定するアルゴリズムを記載している。この概念は、Groth, T. et al., 米国特許第5,690,103号(1997年)によって発展されたが、彼らは、壊死組織から放出された数種類のマーカー(CK−MBおよびトロポニン)のいくつかの密接に間隔を置いた測定値がその入力情報である、神経ネットワークによって実行されるアルゴリズムの使用を記載している。この方法は、単一壊死マーカーの、または一度に多数の壊死マーカーの測定よりなお良いという点で有益でありうるが、少なくとも3時間が経過するまで、決定を行うことはまだ可能はないし、しかも壊死マーカーだけを用いているので、虚血の検出には役立たない。
【0023】
類似のアプローチ(神経ネットワークを含まないが)は、Armstrong et al.(米国特許第6,099,469号(2000年))によって提案されたが、この場合のアルゴリズムは、自動実験室分析器に埋め込まれた計算機で行うように設計されていて、次にどの試験を実施すべきであるかを示唆する。再度、Armstrong の発明は、壊死マーカーだけを使用するという限界が欠点であり、十分な性能を達成するのに多数連続した測定値を必要とする。
【0024】
Ohman et al.(米国特許第6,033,364号(2000年))は、血栓溶解療法後の再灌流を評価するのにも用いられてきた既存の壊死マーカーの組合せを用いたアルゴリズムを記載している。この発明の場合、壊死マーカー(CK−MB)の連続した測定値、およびCK−MBの上昇および降下の速度論に基づくモデルを用いたアルゴリズムは、療法が冠状動脈流の修復を可能にし、したがって、梗塞した組織の成長を阻止し、それによって、追加の壊死マーカーの放出を阻止した時に決定することができる。
【0025】
胸部痛の患者の確かな診断を得ることの難しさの結果の一部として、近年臨床医学においては確かな診断目的よりもリスク階層化により焦点を当てることが強調されてきている。それらの臨床実務ガイドラインを統一させるために、緊急医は、30分以内に高いリスクのACS患者を同定するのに助けとなる診断手段および手順が必要である。“胸部痛評価ユニット(Chest Pain Evaluation Unit)”(CPEU) のコンセプトは、緊急医学領域において急速に受け入れられている。その基本コンセプトは、階層中のECG、臨床症状およびしばしばトロポニンに基づくすばやいリスク階層化である。高リスク患者はより積極的な診断テスト(例えば:心臓カテーテル法)および治療(例えば:抗凝固剤)を受け、一方で低リスク患者は注意深く待機および結局的には帰ることになるという分類になるであろう。症状では適切にリスク階層化されることのできない患者は、さらなる試験、しばしばストレスECGのような誘発試験の対象となる。ECGとトロポニンを組み合わせた最近利用可能な手段では、患者の約25%でしか症状によって信頼できるようにリスク階層化をすることができず、その残りは治療を受ける前または開放される前に、更なるテストや注意深い監視に多くの時間を費やすことになるであろう。
【0026】
胸部痛患者の早期リスク階層化での問題の1つは、装置が中心の試験室にあり、それが“緊急”の使用目的に設計されていないときに、トロポニンのような生化学的マーカーの速やかな評価を得ることの問題である。結果として、 しばしば救急処置室中または患者の近くに専用の装置が置かれ、限られた数の診断テストを行うが短い時間で結果が得られる、ポイントオブケアーテスト(Point of Care (POC) Testing)が注目されてきている。例えば、Andersonらの米国特許6,394, 952 および米国特許6,267, 722“ポイントオブケアー診断システム(Point of Care Diagnostic Systems)”は、速やかに試験を行いその結果を診断およびリスク評価情報とする装置について述べている。
【0027】
心電図の解釈はエラーを伴い、心電図を頻繁におよびルーチンに行っていない医師では特にである。この問題の解決の手助けのために、ECGの自動解析を行う心電計測定器、例えばECGのSTセグメントの偏差を見ることによって虚血が存在するかしないかを決定する装置が開発された。この技術の初期の例として、米国特許4,546, 776“ST偏差のための携帯型EKGモニタリング装置”参照。心臓虚血の指標であるSTセグメントの変化を検出する装置のパフォーマンスを改良するための多くのアルゴリズムが発明されている−例えば米国特許6,507, 753 (2003)“ECGを使用した特定の患者グループの急性冠症候群を検出する方法および装置”、および米国特許4,930, 075 (1990)“ECGパラメーターから心筋虚血を評価する技術”参照。インターバルデータを含むECGの他のパラメーターは、虚血の検出として評価されてきた−例えば米国特許6,361, 503 (2002)“心臓虚血を評価するための方法およびシステム”参照。虚血の診断のためのシグナル源としてのECGの相対的にあまりよくないパフォーマンスのため、使用者に感度と特異性をアルゴリズムが働くように変更することを可能にする試みがある。例えば米国特許6,171, 256 B1 (2001)“急性心臓虚血と関連する状態を検出する方法および装置”参照。
【0028】
困難な診断から近年の生化学的マーカーの使用に見られるリスク階層化への力点のシフトは、心電図検査法の世界にもインパクトがあった。発明は、“イエス”または“ノー”の診断結果を単に与えるのではなく、患者が心臓虚血を有する可能性を評価する方向に向けられてきた。例えば、米国特許出願US2002/0133087A1 (2002)“患者が急性心臓虚血を有する可能性を決定するための患者のモニター”では、救急部門での患者の急性心臓虚血の可能性を数値として提供するために、発明者は連続的にモニターし解析したECGシグナルを使用している。欧州特許出願EP1.179. 319 A1 (2001)“ECGを用いた、特定の群の患者の急性冠症候群を検出する方法および装置”に述べられている発明も同様の目的である。
【0029】
救急処置室に患者が来る前、例えば救急車内または医師のオフィスでACSの診断を提供することには利益がある。幾つかの発明は、テレメディシン環境でのECG解析の性能の改良に向けられている−例えば米国特許6,424, 860“心筋虚血および梗塞の解析およびモニターの方法および装置”参照。インプラントのデバイスを使用して虚血を検出する試みもある(米国特許6,128, 526“虚血検出の方法およびそれを使用する装置”参照)。
【0030】
しかし、上述の発明の目的は、基本となるシグナル源−ECGが欠点があるか適切でない場合の装置の解析性能を改良することである。このように、救急医やその他の者に、既存の診断情報源とより重要には新しいものと既存の情報源の組み合わせの両方にて患者の心臓虚血のリスクをより信頼性の高い評価をできるようにするためによりよい手段を提供するニーズがある。
【0031】
発明の概要
本発明の目的は、1つ以上の生化学的マーカーを心電図とともに使用して、ACSのような臨床状態の診断を行うこと、またはACSが疑われる患者のリスク階層化をすることである。さらに本発明の目的は、虚血の生化学的マーカーをECGとともに使用して、心臓虚血が疑われる胸部痛がある患者の診断またはリスク階層化をすることである。さらに本発明の目的は、虚血の生化学的マーカーを心筋壊死の生化学的マーカーとともに使用して、心臓虚血が疑われる胸部痛のある患者を診断する、またはリスク階層化することである。最後に、本発明の目的は、ECG試験の結果とインビトロ診断アッセイの結果の組み合わせは、以前の試験結果にアクセスし、そして患者の臨床診断または結末と比較することにより、継続的に以前の経験から学んだ結果に基づいて、アルゴリズムにより改良する方法を提供することである。
【0032】
その最も広い見地では、本発明は、患者から少なくとも1つの物質流(例えば血流)のサンプルを患者から得、そのサンプルについて最初のインビトロ診断アッセイと場合により追加のインビトロ診断アッセイを実施し、患者の心電計試験を実施し、そしてアルゴリズムを使用して前述の試験結果と組み合わせ、例えばポジティブまたはネガティブの臨床事象の診断状態の診断または臨床状態のリスクの階層化または評価を提供する、患者に起きている臨床事象を診断する方法を含む。ECGとインビトロ診断試験を実施する順番は重要ではなく、それらは上述の順序でも、他の順序でも、または同時に実施してもよいことに注意すべきである。本明細書で使用する“アルゴリズム”は、ECG及び診断試験のの一つまたはそれ以上の結果を使用する臨床状態が起きているという診断またはリスク(または可能性)の評価をすることを含む手段のことである。本明細書で使用している“リスク階層化”とは、患者がサンプルが採取された時点で臨床状態を有している可能性(リスク)の評価をいう;本願での目的としては、この用語は患者の将来の臨床状態の発現のリスクの予測のことではない。本発明は、上述の方法を達成するための装置も含み、簡単には、前記装置は、心電計手段を含むハウジング、および患者のサンプルのインビトロ診断試験を実施するための装置からなり、およびアルゴリズムの計算を実施するための装置内に計算し加工する手段をも含みうる。
【0033】
物質流とは、以下のいずれかの体組織または液であり、制限的でない例には尿、唾液、 涙液、精液、粘液、便、血液、リンパ、血清、血漿および吐出した呼気が含まれる。
臨床状態とは、例えば急性心筋梗塞 (AMI)、急性心臓虚血(ACI)、急性冠症候群 (ACS)、または不安定狭心症 (UA)である。臨床状態がACS、UAまたはACSの場合は、物質流に存在し臨床事象により修飾される分子のアッセイは、イスケミアモディファイアルブミン(IMA)のアッセイであってもよい。患者サンプルは、血液、血清または血漿であり、the assay for イスケミアモディファイアルブミンのアッセイは、例えばアルブミンコバルト結合(ACB(登録商標))試験またはイスケミアモディファイアルブミンに特異的な免疫アッセイ(すなわち改変されたアルブミンのN末端に結合する抗体を使用した)、IMAの金属アフィニティーアッセイ、またはIMAの電気化学または光学試験であってもよい。それらの方法のいくつかは、米国特許5,290, 519, 5,227, 307,6, 492,179, および 6,461, 875, および特許庁に係属している特許出願である米国出願番号(USSN) 10/304,610, USSN 09/849,956, USSN 10/319,263, USSN 09/846,411および PCT/US02/16860に記載されており、それらを参照として本明細書に援用する。
【0034】
本発明は、更に、ACS、ACI、またはUAのような臨床的状態の診断を除外する方法であって、患者の血液、血清または血漿試料を得、心臓虚血および/または心臓壊死マーカーについての少なくとも一つのインビトロ検定を実施し、そしてアルゴリズムを用いてそれら検定の結果をECG分析の結果と組み合わせて、ネガティブな診断または低リスクの評価を提供することによる方法をも包含する。陰性診断は、全ての虚血マーカー試験および全ての壊死マーカー試験が陰性である場合、または虚血マーカー試験および壊死マーカー試験双方の大部分が陰性である場合で、ECGが“正常”または“診断されない”であるときに得ることができる。本明細書中で考察されるように、本方法は、高いネガティブな予測価(NPV)の利点を有し、それはACSまたはAMIの発生を除外するのに有益である。救急処置室に患者が訪れた後の比較的早期にAMIまたはACSを除外することは、早期の患者解放および医療財源の節約をもたらすことができる。
【0035】
発明の詳細な説明
ヒト血清アルブミンのN末端は、虚血組織にさらされると、ある種の金属、特にコバルトに結合する能力が低下するように修飾されうることが明らかになっている。そのようなイスケミアモディファイアルブミン(IMA(商標))の検出は、Ischemia Technologies, Inc., デンバー, COによって開発されたアルブミンコバルト結合試験(ACB(登録商標)試験)で具体化されている。虚血の検出のための血清タンパク(アルビミンを含む)の修飾された金属結合能の測定は、最初にBarOr, D.らにより報告された(参照(1993)米国特許5,227, 307, 虚血状態の速やかな評価のための試験、およびBarOr, D. ら、および(1994)米国特許5,290, 519、虚血状態の速やかな評価のための試験およびキット)。虚血の診断に関するさらなる発展は、米国特許6,492, 179および6,461, 875に記載されており、それらのすべてを参照として本明細書に援用する。IMAのメカニズムを確認するための実験の予備的結果も報告されている(BarOr D, Curtis G, Rao N, Bampos N, Lau E. ヒトアルブミンのN末端のアミノ酸残基のCo2+およびNi2+の結合特性。Eur. J. Biochem. 200; 268,42-47)。
【0036】
トロポニン、ミオグロビンおよびCK-MB(例えば、上述のJackowskiらにより記載されているように)のような通常の壊死マーカーとイスケミアモディファイアルブミンの使用の間には、基本的な相違がある。前者では、壊死の生化学的マーカーは、壊死による細胞膜の破壊の結果、細胞の細胞質ソル内容物が放出されたある時間後に、血流中に存在する分子である。それらの分子はまず細胞外空間に放出され、そこからリンパ系に入り、そしてそこから血流に排出される。IMAの場合、アルブミンは血中を循環し、そしてすみやかに虚血組織にさらされると修飾される。それゆえ、細胞膜が破壊されることは要求されないし、虚血に至る事象と血流中に生化学的マーカーが検出される時間との間に長い遅れはない。ACB試験は、経皮的冠動脈形成術(PTCA)によって引き起こされる一時的な虚血事象の結果のIMAの速やかな上昇を検出することが示されている(BarOr D, Winkler J, VanBenthuysen K, Harris L, Lau E, Hetzel F.“選択的経皮的冠動脈形成術の後の、一時的心筋虚血での減少したアルブミン−コバルト結合:クレアチンキナーゼ−MB、ミオグロビン、およびトロポニンIの予備的比較” Am Heart J, 2001; 141: 985-991)。 PTCAは、カテーテルを冠状動脈閉塞の部位へ放射線ガイドにより冠状動脈へ通す間の手順である。カテーテルは、その先端に長く薄い風船を有している。場所に達したときに風船が膨らみ、班を動脈の壁側に押し、それによって管腔のサイズを大きくし、血流を回復させ風船が縮む。PTCA手順は、臨床現場で受け入れられている。
【0037】
風船は膨らんでいるとき(典型的には30秒から2または3分)、冠状動脈流はなくなる。流れがないことにより、風船が膨らんでいる場所の下流に一時的な虚血が生じる。しかし、短時間の虚血は、細胞壊死のような長い期間の虚血の結果として見られる変化を誘導しない。
【0038】
診断手段としてのACB試験の有用性を示す更なる研究は、BarOr D, Lau E, Winkler J.による“心筋虚血のマーカーとしてのコバルト−アルブミン結合の新規アッセイと、その可能性−予備的レポート” J Emerg Med 2000; 19: 4.; Wu AHB, Morris DL, Fletcher DR, Apple FS, Christenson RH, Painter PC.による“急性心筋梗塞の早期検出のための心臓トロポニンの補助としての、アルブミンコバルト結合(ACB(商標))の解析” Cardiovascular Toxicology, 2001; 1: 2,147-152. ;およびChristenson R L, Duh SH, Sanhai W R, Wu AHB, Holtman V, Painter P, Branham E, Apple FS, Murakami MA, Morris DL.による“急性冠症候群患者の評価のためのアルブミンコバルト結合試験の特性:複数の機関での検討” Clinical Chemistry 2001 ; 47: 3,464-470に示されている。
【0039】
上述したように、本発明の1つの態様には、ECGの測定と共に、少なくとも1つの虚血マーカーの試験を実施し、そして場合により他のインビトロ診断試験を実施し、それらのすべての結果をアルゴリズムにより組み合わせることによる、ACSが疑われた患者のリスク階層化の改良された方法が含まれる。好ましくは、インビトロ診断試験は、壊死マーカーのためのものである。好ましくは、虚血メーカーに関する試験は、ACB試験のようなIMAに関する試験であり、そして壊死マーカー試験はトロポニンアッセイである。あるいは、壊死マーカーはCK−MBまたはミオグロビン、または上述のWu, A. H. B. (1998)に記載されているような当業者に知られた他の壊死マーカーであってもよい。
【0040】
本発明の更なる態様は、それぞれの試験が虚血について更なる情報を提供するように、ECGが1つ以上の虚血マーカーと組み合わされる。他の可能な虚血マーカーは、遊離脂肪酸またはFFAであり(参照:Kleinfeld AM, Prothro D, Brown DL, Davis RC, Richieri GV, DeMaria A 冠動脈形成に続く血清中の結合されていない遊離脂肪酸レベルの上昇。 Am. J. Cardiol. 1996 Dec 15; 78 (12): 1350-4)、そして従ってECGはFFAと、IMAと、またはそれらの両方と組み合わせることができる。
【0041】
本発明のさらなる態様では、ECGは、虚血マーカーの結果およびさらに1つ以上のトロポニン、CK−MBまたはミオグロビンを含む心筋壊死マーカーの試験と組み合わされる。
本発明の更なる態様では、ECGは、虚血マーカー結果、プラスしてC反応性タンパク質 (CRP)のような炎症マーカー、B 型ナトリウム利尿ペプチド (BNP)またはN−末端ポロBNPのような関連分子などの心筋負荷のマーカーなどの心臓学で有用な他のマーカー(すなわち:虚血のマーカーではなく、壊死のマーカーでもない)と組み合わされる。
【0042】
診断におけるECGとトロポニンの関係は、米国心臓学会(the American Heart Association)および米国心臓学大学(the American College of Cardiology)によって発行されたガイドライン中で定義されている (Braunwald ら,“不安定狭心症および非STセグメント上昇心筋梗塞患者のマネージメント(改訂)”ACC/AHA 2002不安定狭心症および非STセグメント上昇心筋梗塞患者のマネージメントのガイドライン改訂、米国心臓学大学/米国心臓学会対策委員会のプラクティスガイドラインに関するレポート(不安定狭心症患者のマネージメントに関する委員会) Circulation, Oct 2002; 106: 1893-1900))。そのガイドラインでは、臨床上のサインおよび兆候の後に、ECGがまず診断手段として使用されると述べられている。ECGが正常または役に立たない場合、トロポニンのような壊死マーカーが次の診断手段になる。しかし、イスケミアモディファイアルブミンの出現の前は利用可能な虚血の生化学マーカーはなかったので、ECGと虚血の生化学マーカーの組み合わせの使用に関する先行技術はないと考えられる。
【0043】
さらに、発行されたガイドラインは、患者をACSの疑いがあると決定する(すなわち、ポジティブな診断をする)におけるECGとトロポニンの使用に言及している。ECGとトロポニンは、初期に可能性を排除する(すなわち:ネガティブな診断をする)には使用することはできない。なぜならば、臨床的に許容されるネガティブな予測値を得るにはECGとトロポニン単独または組み合わせの感度は低すぎるからである。その主な理由は、トロポニンがゆっくりと上昇するマーカーであり(胸部痛の発症の6時間以内に最初に検出可能になり、そして24時間以内にピークになる)、ガイドラインでは胸部痛の発症から6時間より早い時期でのトロポニン測定は重きを置かないことを示している。一方、IMAは高感度で速やかに上昇するマーカーであり、それゆえ現在の技術では可能でない、可能性ありとするのと除外するのの両方に使用することができる。
【0044】
本発明では、患者のリスクは、ECGと少なくとも1つの虚血マーカーの結果、場合により少なくとも1つの壊死マーカー(例えば:トロポニン)の結果を考慮して示唆されるアルゴリズムに従って計算される。
【0045】
例えば、ECGがACSという診断(例えば:STセグメントの上昇)であれば、そのアルゴリズムはACSポジティブという診断とするものを含む。ECGが正常または診断されない場合(例えば:不整脈がある場合)で、壊死マーカー試験の少なくとも1つがポジティブの場合(虚血マーカーの試験値がどうであれ)は患者は最も高いリスクとなり、そしてすべての壊死マーカーが正常で虚血マーカーの少なくとも1つがポジティブの場合は高いリスク(最も高いリスクではないが)となり、そして壊死試験のすべてと虚血試験のすべてがネガティブである場合、もっとも低いリスクとなる。前記アルゴリズムは、虚血マーカーの定量的な値または他のインビトロ診断試験が、患者が臨床状態を有する可能性の評価を提供するために考慮してもよい。図6(実施例1から、下述)は、心臓トロポニンT試験とIMAを測定するためのACB試験の値の関数として、患者のACSを有するかの可能性を示している。それゆえ、本発明の1つの態様は、ECGの結果を取り込むアルゴリズムであり、そして虚血について正常か診断されない場合に、IMAとトロポニンの値を共に使用して患者がACSを有するかの可能性を計算するのに使用される。
【0046】
そのアルゴリズムは、患者がECG単独の解析により決定された臨床状態を有する可能性を考慮することもでき(例えば、上述のUS2002/0133087A1 の発明を使用して)、そしてこの可能性を、例えばヘイズの定理を使用してインビトロ試験の結果によって決定された可能性を組み合わせることができる。
【0047】
2つの試験結果(すなわち:ポジティブまたはネガティブ)が使用されているアルゴリズムの例を表1に示す(もちろんそれぞれの試験の定量的結果を使用する同様のアルゴリズムも適用可能である)。このアルゴリズムは、階層的で、順序だてられていて、最も高いリスク状態が表のトップで、表の下に行くに従いリスクが減る。すなわち、もしECGがはっきりとした診断情報を提供するならば(例えば:STセグメントの上昇)、診断は明確であり、その他の試験は必要ではない。もし、ECGでは診断されない(non-diagnostic)かまたは正常でトロポニンが上昇していれば、診断は非−ST上昇心筋梗塞(Non- ST Elevation Myocardial Infarction (NSTEMI))の定義により、他の試験は診断をなすにあたり必要とはされない。もし、ECGでは診断されないかまたは正常でトロポニンがネガティブで(すなわち:診断のカットオフ以下)、そしてIMAが上昇していれば、患者は多分ACSを有しているであろう。もしECGでは診断されないまたは正常で、トロポニンとIMAが上昇していなければ、診断は多分非虚血性胸部痛であろう。
【0048】
【表1】
【0049】
使用されるアルゴリズムは、患者の身体的性質、家族ヒストリー、または胸部痛の素質および持続期間のような追加のパラメーターを挿入することができる。そのアルゴリズムは、他の虚血、壊死やその他のマーカー(例えば:BNPまたはCRP)を挿入するように広げることができる。
【0050】
ACSがAMIへと導く期間のIMAとトロポニンの間の関係を、図4に図示した。グラフの下の部分は、虚血または壊死した組織の体積を表している。グラフの上部は、2つのマーカーの値を示している。冠状動脈閉塞のとき(水平時間軸の左サイドの縦の矢印で示される)、いくらかの組織は速やかに可逆性虚血となる。少しの時間の経過で、長い時間可逆性虚血であった組織は、不可逆性虚血になり始め、そして最終的には死ぬ。さらに時間が経つにつれ、より多くの組織が虚血となり、より多くの虚血組織が壊死する。最終的に、虚血組織が壊死組織に転換されるに従い、虚血組織の体積は減少し始める。最終的に、冠状動脈閉塞により影響される全ての組織は壊死し、そして虚血組織はなくなり、梗塞がいっぱいとなる。
【0051】
冠状動脈閉塞の後の短い時間、IMAは産生され、ACB試験値はカットオフ値以上に上がり(すなわち:正常レンジの上限以上)、速やかに虚血組織の存在を示す。時間が経つにつれて、ACB試験は虚血組織が存在する間は高いレベルのままであり、いったんすべての影響された組織が虚血から壊死に転換されると、ACB試験値は低下してくる。虚血組織の幾分かが壊死するとすぐに、トロポニンが放出され、血流に向かう。壊死組織の体積が十分になり、十分な時間が過ぎると、血清トロポニンレベルがカットオフレベルを超えて上昇する。
【0052】
トロポニンの使用の主な制限の一つは、トロポニンは梗塞の後にゆっくりと減少するので(通常は数日に渡って)、再梗塞または引き続く虚血事象を診断するのは極めて難しい。例として、胸部痛を煩い、AMIを有しているとして診断され、再潅流治療(例えば、血栓溶解、PTCA、ステントまたは手術)を受けている患者を考える。もしこの患者が最初の事象の後2日または3日後に胸部痛の他の症状が発現していて、壊死の生化学的マーカーが存在していると、トロポニン(およびおそらくCK-MB)はまだ最初のAMIでの心臓ダメージにより高められているだろうから、これが他の事象であるかを決定することは極めて難しい。しかし、症状の発現後IMAマーカーは速やかに減少するので、患者のIMAマーカーの分泌値は通常の範囲内であろう。このように、患者が他の症状の発現を示していて、IMAマーカーが2度目の発症で上昇していると、それは2度目の事象であろう。
【0053】
このIMAのユニークな利点を生かすため、アルゴリズムのさらなる態様には、患者の以前のヒストリーについてのメモリーが含まれる。つまり、もし患者がある日に症状を示し、その診断がSTEMIであり、そして数日後に正常のECGを示すがトロポニンが上昇していると、IMAの追加はこの症状が非虚血胸部痛(すなわち:IMA正常)または他の虚血事象(すなわち:IMA上昇)であるかを決定する助けとなる。
【0054】
上述のアルゴリズムはテスト結果があらかじめ決められた値以上か以下かの評価が必要であるので、試験方法として定量的結果が得られるものであることが厳密に必要ではない。もちろん、定量的結果は特に連続的測定が行われるときは事象のタイミングについてのさらなる情報を与えることにはなる。定量的結果により、症状の厳しさの指標、すなわち虚血組織の程度の指標を得ることもできる。
【0055】
更なる態様では、ECGの連続試験および/または壊死マーカーの連続試験と組み合わせたIMAマーカーのアッセイの連続測定は、心虚血のタイムコースの関する情報を得ることができる。図4を参照すると、図示的に冠状動脈閉塞の1事象にて、IMAマーカーとトロポニンの上昇と低下が見られる。心臓性のまたは疑心臓性の事象を示している患者群から虚血マーカーの連続測定(および場合により他のインビトロマーカー)および連続ECG測定は、心臓性の苦痛を経験している患者の虚血/壊死/ECG事象のタイムコースを図示している図4のものと同様なまたは類似なモデルまたはアルゴリズムを創造するように組み合わせることができる。医者は、特定の患者の(連続的な)測定値をそのモデルまたはアルゴリズムと相関させ、虚血/壊死進展内の患者の状態または位置を決定することができ、および/または急性心筋梗塞、不安定狭心症等の発症の時期を決定することができる。
【0056】
血中(血清または血漿とともに)で検出される生化学マーカーとともにECGを使用することに関する方法が記載されているが、本発明はその種のサンプルには限定されない。 尿、唾液、涙液、精液、粘液、便、吐いた呼気等のような他の物質流(体液または組織サンプル)も使用することができる。例えば、Paz, F. (米国特許No. 5,515, 859 (1996) ) は心臓血管の苦痛の可能なマーカーとして吐いた呼気サンプル中のアデノシンの検出の使用を開示している。アデノシンは有効な血管拡張剤であり、ストレスに応答して血流を増加させようとして組織で生産される。それは壊死の結果として細胞の内部から放出されないが、それは細胞によって正常の生理的メカニズムによって放出される。このように、ECGの測定と吐いた呼気からのアデノシンの測定の組み合わせは、本発明の1つの目的を満足するであろう。
【0057】
本発明の1つの特定の態様では、電子モジュールハウジングは、ECG手段とテストストリップを使用した生化学試験結果を読む、または実施する装置を含むものとして提供される。アッセイのためのテストストリップを実施する、当業者によく知られた多くの方法がある。例えば、バイオサイト社(Biosite Inc.)(サンディエゴ, CA)は、トロポニン、CK−MBおよびミオグロビンの定量的測定のためのTriage(登録商標) Cardiac Readerを販売している。
【0058】
図2は、そのような装置のイラストである。図2では、電子モジュールハウジング (10) は、ECG結果を表示しおよび/または印刷するための手段を含むECG機能手段(11)、およびオペレーターが装置の操作をコントロールし、装置にパラメーターを入力するキーボードのような手段(9)、および装置の操作をオペレータに表示する表示パネルのような手段(12)を含む。前記装置は、ケーブル(15)を通して患者(16)に連結される。そのケーブルは、患者の体上に置かれるECG電極(18)に接続されている複数のワイヤー(1つを(17)として示す)に接続されている。前記モジュールハウジングは、テストストリップが挿入さ、1つ以上の生化学的マーカーのテストストリップの結果を読む手段と関連した、アパーチャーまたはスロット(19)を有している。イラストでは、読む手段は、ハウジングモジュールの本体中に含まれている(しかしそれは分離されていて、例えばワイヤーで接続されていてもよい)。テストストリップ(13)は、患者サンプルの適用のためのウェルのような部分(14)を有する。ストリップテストは、アパーチャーまたはスロット(19)を経由して読み手段に挿入される。
【0059】
“テストストリップ”という用語は、2001年5月4日に出願された米国特許出願シリアル番号(U. S. Serial No. 09/849,956)に記載されているようなアッセイデバイスをいい(本明細書にその全体を参照として援用する)、それは典型的にフローパス、サンプルを置くための適用領域、および標的化合物(虚血および/または壊死マーカー)の検出および/または測定のための試験領域を有するキャリアー媒体を含む。“テストストリップ”という用語は本明細書で使用されているが、長くしたアッセイストリップ以外の形状のものも本発明の範囲内に含まれることが意図されている。テストストリップまたはそのようなデバイスは、2001年5月1日に出願された米国特許出願シリアル番号(U. S. Serial No.)09/846,411(本明細書に参照としてその全体を援用する)に記載されているようなバーコード読み取り可能デバイスであってもよいことも意図されている。当業者の技術水準によれば、テストストリップのための読取装置には、バーコードリーダーのような、ストリップの校正と他のパラメーターを読み取るための手段を含む。
【0060】
図3は、装置のECG作用とインビトロ診断試験/読み取り手段との間の相互作用のブロック・ダイヤグラムである。ケーブル(15)は、患者と複数の電極をECG手段(31)に接続する。IVDテストストリップ(13)は虚血および/またはインビトロ診断試験/読み取り手段(33)に挿入される。ECG手段と試験/読み取り手段は、結果を解析し、そしてそれらの結果をシグナルを通して、マイクロプロセッサーのような解析手段(32)に伝達される手段を含む。その解析手段は、ECG試験結果と虚血および場合により他のインビトロ診断試験の結果を組み合わせるためにアルゴリズムのための計算を実施する。虚血と他の測定の結果、およびそれらの組み合わせた結果の解析結果は、表示および/または印刷手段(11)によって表示され、および/または印刷される。ここでは、すべての表示と印刷のタイプを1つの手段として示しているが、事実表示されるか印刷される情報のそれぞれのタイプのために分離された手段であってもよい。コントロールパネルとデータ入力手段(9)は、装置の操作をコントロールするため、および解析手段にてアルゴリズムの一部として使用することができるデータ(例えば:胸部痛の素因のような患者のパラメーター)を入力するためにも使用される。
【0061】
いずれの診断手段の臨床上の性能は、その手段の統計を決定するために使用された臨床研究の統計上のパワー(power)に依存する。
そのような臨床検討は、限られた数の集団で実施され、しばしば非常に明確な構成で実施される。その手段が使用されるそれぞれの臨床設定は、年齢、性別、民族、食事および平均体重のような変数の変動のある異なった患者群を有するようである。それらのファクターのすべては、胸部痛で来た患者がACSを有するというリスクの評価の修正に貢献するであろう。
【0062】
本発明の更なる態様では、装置は貯蔵された情報のために使用されるメモリー手段(図3のアイテム(37))を含む。患者のデータが装置で解析されるにつれ、入力と出力パラメーターはメモリー手段に貯蔵される。ある期間後、オペレーターは患者の臨床上の結末をコントロールパネル(9)を通して入力することができる(または結末は、例えば病院内部の情報システムと連結した通信手段(34)を通して、自動的に利用可能とすることができる)。このように、メモリーのデータは更新され、そして臨床上の結末と比較され、そして解析手段(32)に内蔵されたアルゴリズムは、このおよび他の患者との新しい比較に対応して適当に修正され、次の使用で改良された性能を提供することができる。
【0063】
ニューラルネットワークを含む帰納的プロセスのようなものを実施するための、当業者に知られた多くの方法がある。帰納的アルゴリズムは、装置自体で完全に実施することもできるし、または組み合わされたECG装置と試験ストリップ装置が通信手段(34)(これは物理的な連結でも、インターネット経由のようなネットワークであってもよい)で通信するセントラルコンピューターシステム上に存在することもできる。後者の例では、ネットワークに接続されているどの装置からの比較情報も利用可能で、セントラルコンピューターシステムに連結しているそれぞれの装置のアルゴリズムは、最新情報に更新され、毎回改良される。
実施例
実施例1−急性冠症候群の診断に使用されるACB試験
本検討は、心臓由来が疑われる胸部痛(またはそれに等しい)を有する患者の早期リスク階層化のためのIMAの性能を調べるために実施した。IMAの性能はトロポニンTと12リードECG(12 lead ECG)結果と比較した。結論は、患者の短期リスクの測定として、ACS (STEMI, NSTEMIまたはUA)でないという診断、または非虚血性胸部痛 (NICP)であるという診断であった。
【0064】
ACSではないかという臨床サインと症状を有し、症状の発症後3時間以内に救急処置室(ED)に到着した患者を選んだ。すべての患者は12リードECGをとり、EDに到着の1−2時間以内に血液サンプルを回収した。IMAとcTnT(ロシュ診断(Roche Diagnostics))試験を、それぞれの提示サンプルで実施した。
【0065】
データ解析
STセグメントシフトまたはT波変化のない(リードIIIまたはV1とは別に)ECGを“ネガティブ”と考えた。“ポジティブ”ECGは、STセグメント低下または上昇≧1mV、またはT波転移≧2mv(2以上の連続リード)の場合であった。疑わしいまたは解釈できないECG(例えば:左脚ブロック、一定のリズム、大量の異常なQ波、および/または先のAMIに続く持続性のST−セグメント上昇)は、本検討では“ネガティブ”と考えた。
【0066】
ACB試験結果>85U/mlは前に実施した正常範囲検討(Normal Range Study)に基づいてポジティブと考えた。
心臓のトロポニンTは、エレクシス2010アナライザー(Elecsys 2010 analyzer)(ロシュダイアグノスティクス(Roche Diagnostics))を用いて電気化学ルミネセンスアッセイにて測定した。cTnT濃度は、>0.05ng/mlでポジティブと考えた。
【0067】
ST−上昇AMI(STEMI)、非ST−上昇AMI(NSTEMI)、不安定狭心症(UA)、および非−虚血性胸部痛(NICP)でないという施設での診断は、AMIの診断のためのESC/ACC基準および不安定狭心症の診断にためのACC/AHAガイドラインに基づいた施設でのガイドライン(institutional guidelines)に従って決定した。STEMI、NSTEMI、およびUAは、ハイリスクの診断と考えた。NICPの診断は、ローリスクと考えた。
【0068】
急性心筋梗塞(AMI)の診断は、cTnTが0.05 ng/mLのカットオフを使用してESC/ACC基準が満たされた場合に確証された。AMIは、ECGと生化学的基準、すなわちcTnT>0.05ng/mlに基づいて、ST上昇心筋梗塞(STEMI)または非−STセグメント上昇心筋梗塞(NSTEMI)として分類した。
【0069】
不安定狭心症 (UA) は、心筋壊死のない(すなわち:cTnTの上昇がない)急性胸部痛があり、しかし減少した心筋血流、ポジティブなECG/心エコーストレス試験、または冠動脈造影の顕著な損傷の臨床的証拠を有する場合に診断された。
【0070】
ACSでないという診断は、AMIとUAを含む。
非−心臓性原因の胸部痛および/または正常な冠動脈造影と診断された患者は、非−虚血性胸部痛(NICP)としてクラス分けされた。
【0071】
結果
トータルの検討集団は、140人の男性、68人の女性を含んだ。平均年齢は61.3歳(21−85歳の範囲);49(23.5%)は喫煙者;31(15%)は糖尿病;93(44%)は高血圧;65(31%)は冠状動脈疾患の家族歴を有していて:そして73(35%)は高コレステロール血症の治療を受けていた。
【0072】
データを7ケースで解析した:
1.IMA単独
2.トロポニン T単独
3.ECG単独
4.トロポニンTとIMAの組み合わせ (以下の表ではTnT&IMAとして示されている)
5.ECGとIMAの組み合わせ(以下の表ではECG&IMAとして示されている)
6.ECGとトロポニンTとの組み合わせ(以下の表ではECG&TnTとして示されている)
7.ECGとトロポニンTとIMAの組み合わせ(以下の表ではECG&TnT&IMAとして示されている)
IMA、ECGおよびcTnTの結果を、単独または組み合わせにて、臨床感度、特異性、ポジティブ予測値(PPV)およびネガティブ予測値(NPV)として解析した。IMA、ECGおよびcTnTの2および3つの試験の組み合わせは、いずれか一つの試験がポジティブであればポジティブと考え、すべての試験がネガティブの場合ネガティブと考えた。性能評価(Performance estimates)を相関比率(correlated proportions)に関するマクネマーの検定を使用して比較し、そして信頼区間を直接二項法(exact binomial method)と使用して計算した。下2桁のP値(two tailed p-value)が<0.05顕著だと考えた。データを下に分割表で示した。
【0073】
それぞれの診断試験の感度は、131人の急性冠症候群(ACS)患者で、そして20人のST上昇MI(STEMI)患者で、26人の非ST上昇MI(NETEMI)患者、85人の不安定狭心症患者での全数について示している。特異性評価は、非虚血胸部痛(NICP)と診断された77人の患者に基づいている。下の表では、“+ve”は“ポジティブ”の略であり、“−ve”は“ネガティブ”の略である。
【0074】
【表2−1】
【0075】
【表2−2】
【0076】
【表2−3】
【0077】
【表2−4】
【0078】
【表2−5】
【0079】
【表2−6】
【0080】
【表2−7】
【0081】
IMA、cTnT、ECG提示およびそれらの試験の組み合わせの感度は、統計的に顕著な差異で比較された。図5は、IMA単独とECGとcTnTとの組み合わせでの感度を示している。IMA提示では131人のACS患者のうち107人が同定され(82%、95%信頼区間(CI)74−88)、それに対してECGでは131人中59人(45%、CI36−54)、cTnTでは131人中26人(20%CI13−28)が同定された。IMAをECGと使用した場合は、感度は92%へ上昇し(CI86−96)、そしてこれはIMAをcTnTと共に使用した場合の感度90%(CI84−95)と同様であった。3つの試験の組み合わせでの感度は、95%(CI90−98)であり、これはIMAとcTnTと組み合わせでの感度(p=0.02)よりも顕著に高く、IMAとECGの組み合わせでの感度(p=0.13)と統計的に同等であった。標準の実施に従い、ECGとcTnTと使用したときは、虚血由来の胸部痛の53%(CI44%−62%)の患者が同定された。
【0082】
最終診断の推定モデルを構築するためにロジスチック回帰を使用した。IMAとcTnTを定量として扱い、ECGを定性として扱った。受信動作特性(ROC)曲線の下のエリアを、ACSをNICPから区別するそれぞれのモデルの能力として評価した。p値<0.05は顕著であると考えた。IMA単独でのROC曲線を図6に示し、曲線の下の領域は0.68(95%CI0.61−0.76)であった。この解析の結果を表2に示した。この表では、IMAにECGを加えることは、それぞれのパラメーター単独よりもより診断能力を与え、IMA、ECGとトロポニンTとの組み合わせは、いずれの単独の場合、いずれの2つの組み合わせの場合よりも診断能力を与えることがわかる。
【0083】
【表3】
【0084】
ロジスチック回帰でのパラメーターをACS, p [ACS], 対IMA値, cTnT値、およびその2つの組み合わせの可能性の曲線を描くのに使用した。
図7は、p[ACS]対(vs)IMAを、縦の線として示している正常カットオフの95百分順位上限(95thpercentile upper limit)で示している。これは、100より高いIMA値はACSであることを強く示唆しており(例えば、[IMA]>110U/mLで、p[ACS]>80% )、70より低いIMA値はACSでないことを強く示唆している(例えば:[IMA]>70U/mLで、p[ACS]<35%)。
【0085】
図8は、異なったcTnT値でのACSの可能性を示している。これは、cTnTが0.05ng/mLのカットオフ以上の上昇がACSではかなり顕著であることを示している(例えば: [cTnT]>0. 1 ng/mL ではp [ACS] >86%)。しかし、公開されている文献と一致して、for [cTnT] =0ではp [ACS]は依然>0. 5であるので、そのデータはネガティブcTnThs除外するのには価値がないことを示している。
【0086】
図9は、異なった[cTnT]値でのp [ACS] 対 [IMA] の曲線のファミリーを、85のACB試験値(正常の上限の第95百分位数)の縦線とともに示している。それらの曲線は、IMAの主な臨床値はc [TnT] がゼロである患者であり、もちろん運ばれてきた患者の大多数であることを示している。しかし、IMAは0.05ng/mlのカットオフ値近くの低い[cTnT]値でのケースを決定するのに役に立つであろう。例えば、もし[cTnT] =0.5 ng/mLで [IMA] >100であれば、p [ACS]>90%である。一方、もし [cTnT] =0.05 ng/mLで[IMA] <60 U/mLであればp [ACS] <25%である。
【0087】
実施例2:胸部痛患者のリスク階層化のためのIMA
本検討は、心臓由来が推定される胸部痛の患者の早期リスク階層化のための、急性患者でのIMA、ECGおよびトロポニンTの特性を調べることを意図した。本検討は、休息(rest)心筋灌流画像法(MPI)にて低〜中くらいのリスク患者集団にて実施した。
【0088】
ACSでないという施設での診断(すなわち:短期リスクの測定)は、このセクションに示されたデータ解析を使用した。血清試料を抜き取り、ACB試験および心臓トロポニンTアッセイで、二つの中心の試験所の一つにてアッセイされた。
【0089】
1つの血液検査試料を、灌流剤の注入前に採取した(もしMPI検討が来院から1時間以後で予定されていれば、来院時点で採取または追加のベースライン採取を行った)。心筋灌流剤の注入一時間後に、他の血液採取を行った。それらの採取したすべての血液サンプルは、患者が依然痛みがあるまたは痛みを感じてから3時間以内であるというSTUDY#1(検討1)での血液採取のタイミングと一致していた。IMAはRoche Cobas MIRA. (登録商標) PLUS にてアルブミンコバルト結合テスト (ACB (登録商標)Test)によって測定した。
【0090】
データ解析
STセグメントシフトまたはT波変化のないECG(リードIIIまたはV1とは別)を“ネガティブ”と考えた。“ポジティブ”ECGは、STセグメント低下または上昇≧1mV、またはT波転移≧2mV(2以上の連続リード)の場合であった。疑わしいまたは解釈できないECG(例えば:左脚ブロック、一定のリズム、大量の異常なQ波、および/または先のAMIに続く持続性のST−セグメント上昇)は、本検討では“ネガティブ”と考えた。
【0091】
ST−上昇AMI(STEMI)、非ST−上昇AMI(NSTEMI)、不安定狭心症(UA)、および非−虚血性胸部痛(NICP)でないという施設での診断は、AMIの診断のためのESC/ACC基準および不安定狭心症の診断のためのACC/AHAガイドラインに基づいた施設でのガイドライン(institutional guidelines)に従って決定した。STEMI、NSTEMI、およびUAは、ハイリスクの診断と考えた。NICPの診断は、ローリスクと考えた。
【0092】
急性心筋梗塞(AMI)の診断は、 cTnT が0.05 ng/mLのカットオフを使用してESC/ACC基準が満たされた場合に確認された。AMIは、ECGと生化学的基準、すなわちcTnT>0.05ng/mlに基づいて、ST上昇心筋梗塞(STEMI)または非−STセグメント上昇心筋梗塞(NSTEMI)として分類分けした。
【0093】
不安定狭心症(UA)は、心筋壊死のない(すなわち:cTnTの上昇がない)急性胸部痛があり、しかし減少した心筋血流、ポジティブなECG/心エコーストレス試験、または冠動脈造影の顕著な損傷の臨床的証拠を有する場合に診断された。
【0094】
ACSでないという診断は、AMIとUAを含む。
非−心臓性原因の胸部痛および/または正常な冠動脈造影と診断された患者は、非−虚血性胸部痛(NICP)としてクラス分けされた。
【0095】
ACB試験値が>85U/mlを、前述の正常範囲検討(Normal Range Study)に基づいてポジティブと考えた。来院の3時間以内に採取された血液でのACB試験結果で>85U/mlをACB試験ポジティブとした。
【0096】
心臓のトロポニンT濃度は、エレクシス2010アナライザー(Elecsys 2010 analyzer)(ロシュダイアグノスティクス(Roche Diagnostics))を用いて電気化学ルミネセンスアッセイにて商品パッケージの記載に従って測定した。cTnT濃度は、>0.05ng/mlでポジティブと考えた。来院3時間以内に取られた血液中のトロポニンが>0.05ng/mlであれば、データ解析ではトロポニンポジティブとした。
結果
8つの臨床試験場所にて募集した患者のデータを解析した。サンプルは、2つの中心となる試験所の1つで解析した。臨床データとアッセイ結果はトータルで199人の患者で解析した。IMA、ECGおよびcTnTの結果は、臨床感度、特異性、ポジティブ予想値(PPV)、およびネガティブ予想値(NPV)を、単独または組み合わせで解析した。IMA、ECGおよびcTnTの2つおよび3つの試験の組み合わせは、もしそれらの試験の1つがポジティブであればポジティブとみなし、すべてがネガティブであればネガティブとみなした。
【0097】
“ゴールドスタンダード(gold standard)”は、ACSではないという診断であった。
データは、下にリストした7つのケースについての上述のStudy#1(検討#1)で述べたのと同じ様式で解析し、以下のページの表中に示した:
1.IMA単独
2.トロポニンT単独
3.ECG単独
4.トロポニンTとIMAの組み合わせ (以下の表ではTnT&IMAとして示されている)
5.ECGとIMAの組み合わせ(以下の表ではECG&IMAとして示されている)
6.ECGとトロポニンTとの組み合わせ(以下の表ではECG&TnTとして示されている)
7.ECGとトロポニンTとIMAの組み合わせ(以下の表ではECG&TnT&IMAとして示されている)
【0098】
【表4−1】
【0099】
【表4−2】
【0100】
【表4−3】
【0101】
【表4−4】
【0102】
【表4−5】
【0103】
【表4−6】
【0104】
【表4−7】
【0105】
ロジスチック回帰を、IMAを定量的変数として使用した最終診断のための推定モデルを構築するために使用した。そのROC曲線を図10に示し、ROC曲線の下のエリアは0.68(95%CI0.53−0.84)であり、これは上述の前の検討での結果と同等である。
【0106】
この検討は、低いACS有病率の心臓由来が疑われる胸部痛の患者群では、IMAは同等の感度と特異性を示すが、前述の検討で示されたものより高いネガティブな推定値を示した。
【0107】
ACSでのIMA提示の感度(85.7%)は、TnT提示の感度(50%)よりかなり高い。IMAとTnTの組み合わせは、誤ったネガティブはなく、100%のネガティブ予想値となる。
【0108】
IMAとcTnTの組み合わせでの使用は、100%の感度を示し、そしてより多くの患者をACSと診断し、それはより早い治療に導く。
上述の実施例に基づいて、ECGと、IMAのような虚血マーカーとの組み合わせ、および場合によりトロポニンのような細胞死のマーカーのような他のインビトロ診断試験との組み合わせは、心臓由来であると示唆される胸部痛で病院の救急処置室に来る患者のより高い信頼性での診断またはリスク階層化に使用することができること、またはアルゴリズムにおいてACSの可能性を決定するのに使用することができることは明らかである。
【0109】
ここで記載した実施例と態様は例示的目的のみであり、それらに対する様々な修正や変更は当業者に示唆されるであろうこと、そして本出願の精神と範囲内に、そして添付の特許請求の範囲内に含まれることは、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1は、冠状動脈閉塞のすぐ後の可逆性虚血、不可逆性虚血、および壊死組織領域の概略の図示である。
【図2】図2は、1つまたはそれ以上のインビトロ診断試験を実施するための装置を伴った、ECG解析のための装置を含むデバイスの概略の図示である。
【図3】図3は、ECG装置と1つまたはそれ以上のインビトロ診断試験を実施するデバイスの間の相互作用のブロックダイアグラムである。
【図4】図4は、冠状動脈閉塞後のイスケミアモディファイアルブミンとトロポニンの上昇と低下の連続を示した概略の図示である。
【図5】図5は、ECG、心臓トロポニンTおよびIMAの、ACSの検出の感度のグラフである。
【図6】図6は、検討1(Study 1)からのACSの検出のためのIMAの受信者操作特性(ROC)曲線のグラフである。
【図7】図7は、ACSの可能性とIMA値単独とのグラフである。
【図8】図8は、ACSの可能性をトロポニンT値単独とのグラフである。
【図9】図9は、トロポニンとIMAの組み合わせを使用したACSの可能性のグラフである。
【図10】図10は、検討1(Study 2)でのACSの検出のためのIMAのROC曲線のグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の臨床的状態の診断方法、または臨床状態であろう患者のリスク階層化の方法であって:
a)臨床状態を患っていると疑われる組織と接触している物質流の少なくとも1つのサンプルを患者から得る工程;
b)前記サンプルでの少なくとも最初のインビトロ診断アッセイ、および場合によりさらなるインビトロ診断アッセイを実施する工程;
c)患者の心電図(ECG)を測定し解析する工程;そして
d)工程bのアッセイの結果と工程cの心電図の結果を組み合わせるためのアルゴリズムを適用して、臨床状態のポジティブまたはネガティブの診断またはリスク階層化を提供する工程、を含む前記方法。
【請求項2】
前記最初のインビトロ診断アッセイが虚血のマーカーのアッセイである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記物質流が、血液全体、血清、プラズマ、唾液、尿、便、精液、粘液、涙液、呼気、または汗からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
さらに
e)メモリー手段に患者の物質流サンプルのアッセイ結果とECG結果を蓄積する工程;
f)その患者の臨床的結果をメモリー手段に蓄積する工程;
g)メモリー中のアッセイとECG結果を前記臨床結果と比較する工程;
h)前記比較に応答してアルゴリズムを修正し、改良された診断またはリスク階層化を得る工程;および
i)(a)−(h)の工程を複数の患者で繰り返し、それによって改良されたアルゴリズムを提供する工程、を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
臨床事象が急性心筋梗塞である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
臨床事象が安定狭心症である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
臨床事象が不安定狭心症である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
臨床事象が急性冠症候群である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
さらなるインビトロ診断アッセイが、トロポニン、CK-MBおよびミオグロビンからなる群から選択される壊死マーカーのアッセイである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
さらなるインビトロ診断アッセイが、B 型ナトリウム利尿ペプチド (BNP)または関連分子のアッセイである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
さらなるインビトロ診断アッセイが、C反応性タンパク質 (CRP)のアッセイである、請求項1記載の方法。
【請求項12】
虚血マーカーがイスケミアモディファイアルブミンである、請求項3記載の方法。
【請求項13】
さらなるインビトロ診断アッセイが、呼出された呼気中のアデノシンのアッセイである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
最初のアッセイがアルブミンコバルト結合(ACB(登録商標))テスト、イスケミアモディファイアルブミンの電気化学的テスト、イスケミアモディファイアルブミンの光学テスト、イスケミアモディファイアルブミンの免疫アッセイ、およびイスケミアモディファイアルブミンの金属アフィニティーアッセイからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
ECGでは診断されない(non-diagnostic)か正常であり、そして虚血マーカーアッセイ結果がネガティブである場合、アルゴリズムがネガティブな診断または低リスクの指標を与える、請求項2記載の方法。
【請求項16】
ECGでは診断されないか正常であり、そして最初とさらなるインビトロアッセイ結果の大部分がネガティブである場合、アルゴリズムがネガティブな診断または低リスクの指標を与える、請求項1記載の方法。
【請求項17】
ECGが正常か診断されず、そして少なくとも最初とさらなるインビトロアッセイの1つがポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断または高いリスク階層を与える、請求項1記載の方法。
【請求項18】
ECGでは診断されないか正常であり、そして壊死マーカーのさらなるインビトロアッセイ結果がネガティブで、最初のインビトロアッセイが虚血マーカーについてであってそれがポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断またはより高いリスクの指標を与える、請求項9記載の方法。
【請求項19】
ECGがポジティブであり、そして最初とさらなるインビトロアッセイの少なくとも1つがポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断またはより高いリスクの指標を与える、請求項1記載の方法。
【請求項20】
請求項1記載の方法であって、さらに工程(a)および(b)の繰り返し、および/または工程(c)の繰り返しに続き、工程(d)の繰り返しを含み、それによって臨床状態のタイムコース内の患者の状態についての情報が得られる、前記方法。
【請求項21】
前記情報が臨床状態の重大さである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記臨床状態がACSであり、そして前記情報が急性心筋梗塞または不安定狭心症の推定発症時期または程度である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
急性冠症候群(ACS)が疑われた患者のACSの診断方法またはリスク階層化の方法であって:
a)その患者から少なくとも1つの血液フラクションサンプルを得る工程;
b)そのサンプルでの少なくとも1つの虚血マーカーのインビトロ診断アッセイ、および少なくとも1つの壊死マーカーのインビトロ診断アッセイを実施する工程;
c)患者の心電図(ECG)を測定し解析する工程;そして
d)アルゴリズムを使用して工程(b)のアッセイの結果と工程(c)のECGの結果を組み合わせ、ACSのポジティブまたはネガティブの診断または患者がACSであるというリスクの指標を提供する工程、を含む前記方法。
【請求項24】
ACSの診断が急性心筋梗塞、不安定狭心症、安定狭心症および心臓虚血からなる群から選択される少なくとも1つの診断を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
壊死マーカーがトロポニン、CK-MBおよびミオグロビンからなる群から選択される、請求項23記載の方法。
【請求項26】
虚血のマーカーの診断アッセイが、アルブミンコバルト結合(ACB(登録商標))テスト、イスケミアモディファイアルブミンの電気化学的テスト、イスケミアモディファイアルブミンの光学テスト、イスケミアモディファイアルブミンの免疫アッセイ、およびイスケミアモディファイアルブミンの金属アフィニティーアッセイからなる群から選択される、請求項23記載の方法。
【請求項27】
ECGでは診断されないか正常であり、そして壊死マーカーアッセイ結果と虚血マーカーのアッセイ結果がネガティブである場合、アルゴリズムがACSのネガティブな診断または低リスクの指標を与える、請求項23記載の方法。
【請求項28】
ECGが正常か診断されず、そして虚血マーカーのインビトロ診断アッセイおよび壊死マーカーのインビトロ診断アッセイの少なくとも1つががポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断またはより高いリスクの指標を与える、請求項23記載の方法。
【請求項29】
ECGでは診断されないか正常であり、そして壊死マーカーのインビトロアッセイがネガティブであり、虚血マーカーのインビトロアッセイがポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断またはより高いリスクの指標を与える、請求項23記載の方法。
【請求項30】
ECGがポジティブで、少なくとも1つのインビトロアッセイがポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断またはより高いリスクの指標を与える、請求項23記載の方法。
【請求項31】
請求項23記載の方法であって、さらに工程(a)および(b)の繰り返し、および/または工程(c)の繰り返しに続き、工程(d)の繰り返しを含み、それによってACSのタイムコース内の患者の状態についての情報が得られる、前記方法。
【請求項32】
前記情報がACSの発症時期である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記情報がACSの程度である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
患者の臨床状態の診断のための、または患者の臨床状態の存在の可能性を評価するための装置であって:
表示手段を含む電子モジュールハウジング;
データ入力およびコントロール手段;
心電図 (ECG)を測定するための手段;
読み取り手段を含むアパーチャー;
前記データ入力とコントロール手段、ECG手段、および読み取り手段での電気的連続性を解析する手段であって、それによって前記解析手段はそれぞれの手段からのシグナルを解析することができ;
パワーソース;および
場合によりラボラトリーまたは病院の情報システムとのリンク;
ここで、前記アパーチャーは物質流の患者サンプルでのインビトロ診断アッセイを実施するためのサンプル解析ストリップを受け入れるようになっており、そして前記読み取り手段は前記アッセイの結果を読み取るようになっており;
それによって前記解析手段は前記ECG手段と前記データ入力とコントロール手段からのシグナルを受け取り、そして前記アパーチャーへの前記ストリップの挿入により前記読み取り手段からシグナルを受け取り、そして前記解析手段は解析した結果を前記表示手段に伝達する、
を含む、前記装置。
【請求項35】
読み取り手段が、サンプル解析ストリップ上の虚血マーカーのアッセイ結果および/または壊死マーカーのアッセイ結果を読み取ることができる少なくとも1つの読み取り装置を含む、請求項34記載の装置。
【請求項36】
ラボラトリーまたは病院情報システムへのリンクが、直接電気的リンク、赤外リンク(infrared link)およびワイアレスリンクからなる群から選択される、請求項34記載の装置。
【請求項1】
患者の臨床的状態の診断方法、または臨床状態であろう患者のリスク階層化の方法であって:
a)臨床状態を患っていると疑われる組織と接触している物質流の少なくとも1つのサンプルを患者から得る工程;
b)前記サンプルでの少なくとも最初のインビトロ診断アッセイ、および場合によりさらなるインビトロ診断アッセイを実施する工程;
c)患者の心電図(ECG)を測定し解析する工程;そして
d)工程bのアッセイの結果と工程cの心電図の結果を組み合わせるためのアルゴリズムを適用して、臨床状態のポジティブまたはネガティブの診断またはリスク階層化を提供する工程、を含む前記方法。
【請求項2】
前記最初のインビトロ診断アッセイが虚血のマーカーのアッセイである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記物質流が、血液全体、血清、プラズマ、唾液、尿、便、精液、粘液、涙液、呼気、または汗からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
さらに
e)メモリー手段に患者の物質流サンプルのアッセイ結果とECG結果を蓄積する工程;
f)その患者の臨床的結果をメモリー手段に蓄積する工程;
g)メモリー中のアッセイとECG結果を前記臨床結果と比較する工程;
h)前記比較に応答してアルゴリズムを修正し、改良された診断またはリスク階層化を得る工程;および
i)(a)−(h)の工程を複数の患者で繰り返し、それによって改良されたアルゴリズムを提供する工程、を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
臨床事象が急性心筋梗塞である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
臨床事象が安定狭心症である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
臨床事象が不安定狭心症である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
臨床事象が急性冠症候群である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
さらなるインビトロ診断アッセイが、トロポニン、CK-MBおよびミオグロビンからなる群から選択される壊死マーカーのアッセイである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
さらなるインビトロ診断アッセイが、B 型ナトリウム利尿ペプチド (BNP)または関連分子のアッセイである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
さらなるインビトロ診断アッセイが、C反応性タンパク質 (CRP)のアッセイである、請求項1記載の方法。
【請求項12】
虚血マーカーがイスケミアモディファイアルブミンである、請求項3記載の方法。
【請求項13】
さらなるインビトロ診断アッセイが、呼出された呼気中のアデノシンのアッセイである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
最初のアッセイがアルブミンコバルト結合(ACB(登録商標))テスト、イスケミアモディファイアルブミンの電気化学的テスト、イスケミアモディファイアルブミンの光学テスト、イスケミアモディファイアルブミンの免疫アッセイ、およびイスケミアモディファイアルブミンの金属アフィニティーアッセイからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
ECGでは診断されない(non-diagnostic)か正常であり、そして虚血マーカーアッセイ結果がネガティブである場合、アルゴリズムがネガティブな診断または低リスクの指標を与える、請求項2記載の方法。
【請求項16】
ECGでは診断されないか正常であり、そして最初とさらなるインビトロアッセイ結果の大部分がネガティブである場合、アルゴリズムがネガティブな診断または低リスクの指標を与える、請求項1記載の方法。
【請求項17】
ECGが正常か診断されず、そして少なくとも最初とさらなるインビトロアッセイの1つがポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断または高いリスク階層を与える、請求項1記載の方法。
【請求項18】
ECGでは診断されないか正常であり、そして壊死マーカーのさらなるインビトロアッセイ結果がネガティブで、最初のインビトロアッセイが虚血マーカーについてであってそれがポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断またはより高いリスクの指標を与える、請求項9記載の方法。
【請求項19】
ECGがポジティブであり、そして最初とさらなるインビトロアッセイの少なくとも1つがポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断またはより高いリスクの指標を与える、請求項1記載の方法。
【請求項20】
請求項1記載の方法であって、さらに工程(a)および(b)の繰り返し、および/または工程(c)の繰り返しに続き、工程(d)の繰り返しを含み、それによって臨床状態のタイムコース内の患者の状態についての情報が得られる、前記方法。
【請求項21】
前記情報が臨床状態の重大さである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記臨床状態がACSであり、そして前記情報が急性心筋梗塞または不安定狭心症の推定発症時期または程度である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
急性冠症候群(ACS)が疑われた患者のACSの診断方法またはリスク階層化の方法であって:
a)その患者から少なくとも1つの血液フラクションサンプルを得る工程;
b)そのサンプルでの少なくとも1つの虚血マーカーのインビトロ診断アッセイ、および少なくとも1つの壊死マーカーのインビトロ診断アッセイを実施する工程;
c)患者の心電図(ECG)を測定し解析する工程;そして
d)アルゴリズムを使用して工程(b)のアッセイの結果と工程(c)のECGの結果を組み合わせ、ACSのポジティブまたはネガティブの診断または患者がACSであるというリスクの指標を提供する工程、を含む前記方法。
【請求項24】
ACSの診断が急性心筋梗塞、不安定狭心症、安定狭心症および心臓虚血からなる群から選択される少なくとも1つの診断を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
壊死マーカーがトロポニン、CK-MBおよびミオグロビンからなる群から選択される、請求項23記載の方法。
【請求項26】
虚血のマーカーの診断アッセイが、アルブミンコバルト結合(ACB(登録商標))テスト、イスケミアモディファイアルブミンの電気化学的テスト、イスケミアモディファイアルブミンの光学テスト、イスケミアモディファイアルブミンの免疫アッセイ、およびイスケミアモディファイアルブミンの金属アフィニティーアッセイからなる群から選択される、請求項23記載の方法。
【請求項27】
ECGでは診断されないか正常であり、そして壊死マーカーアッセイ結果と虚血マーカーのアッセイ結果がネガティブである場合、アルゴリズムがACSのネガティブな診断または低リスクの指標を与える、請求項23記載の方法。
【請求項28】
ECGが正常か診断されず、そして虚血マーカーのインビトロ診断アッセイおよび壊死マーカーのインビトロ診断アッセイの少なくとも1つががポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断またはより高いリスクの指標を与える、請求項23記載の方法。
【請求項29】
ECGでは診断されないか正常であり、そして壊死マーカーのインビトロアッセイがネガティブであり、虚血マーカーのインビトロアッセイがポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断またはより高いリスクの指標を与える、請求項23記載の方法。
【請求項30】
ECGがポジティブで、少なくとも1つのインビトロアッセイがポジティブである場合、アルゴリズムがポジティブな診断またはより高いリスクの指標を与える、請求項23記載の方法。
【請求項31】
請求項23記載の方法であって、さらに工程(a)および(b)の繰り返し、および/または工程(c)の繰り返しに続き、工程(d)の繰り返しを含み、それによってACSのタイムコース内の患者の状態についての情報が得られる、前記方法。
【請求項32】
前記情報がACSの発症時期である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記情報がACSの程度である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
患者の臨床状態の診断のための、または患者の臨床状態の存在の可能性を評価するための装置であって:
表示手段を含む電子モジュールハウジング;
データ入力およびコントロール手段;
心電図 (ECG)を測定するための手段;
読み取り手段を含むアパーチャー;
前記データ入力とコントロール手段、ECG手段、および読み取り手段での電気的連続性を解析する手段であって、それによって前記解析手段はそれぞれの手段からのシグナルを解析することができ;
パワーソース;および
場合によりラボラトリーまたは病院の情報システムとのリンク;
ここで、前記アパーチャーは物質流の患者サンプルでのインビトロ診断アッセイを実施するためのサンプル解析ストリップを受け入れるようになっており、そして前記読み取り手段は前記アッセイの結果を読み取るようになっており;
それによって前記解析手段は前記ECG手段と前記データ入力とコントロール手段からのシグナルを受け取り、そして前記アパーチャーへの前記ストリップの挿入により前記読み取り手段からシグナルを受け取り、そして前記解析手段は解析した結果を前記表示手段に伝達する、
を含む、前記装置。
【請求項35】
読み取り手段が、サンプル解析ストリップ上の虚血マーカーのアッセイ結果および/または壊死マーカーのアッセイ結果を読み取ることができる少なくとも1つの読み取り装置を含む、請求項34記載の装置。
【請求項36】
ラボラトリーまたは病院情報システムへのリンクが、直接電気的リンク、赤外リンク(infrared link)およびワイアレスリンクからなる群から選択される、請求項34記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2007−505726(P2007−505726A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532878(P2006−532878)
【出願日】平成16年5月5日(2004.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/014412
【国際公開番号】WO2004/103150
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(501132491)イスケミア・テクノロジーズ・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月5日(2004.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/014412
【国際公開番号】WO2004/103150
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(501132491)イスケミア・テクノロジーズ・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
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