説明

心血管疾患予防・治療剤

【課題】心拍数の増加を抑制しつつ優れた降圧作用を発揮する薬剤を提供すること、特に後述の特定の条件を満たす対象において心拍数の増加を抑制しつつ優れた降圧作用を発揮する薬剤を提供すること。
【解決手段】シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを組み合わせてなる降圧剤及び心血管疾患予防・治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降圧剤及び心血管疾患予防・治療剤に関する。より詳細には、シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを併用することを特徴とする降圧剤及び心血管疾患予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、アンジオテンシンII受容体に対して特異的に拮抗することにより、レニン・アンジオテンシン系で産生されて強い昇圧作用を持つアンジオテンシンIIの生理作用を抑制し、降圧作用を奏する。
一方、カルシウム拮抗薬(CCB)は、現在、本邦で最も汎用されている降圧薬であり、重篤な副作用が少ないこと、利尿薬に次いで安価であることから第一選択薬として勧められている。
本邦の高血圧治療ガイドライン(JSH2000及びJSH2004)では、降圧薬単独での治療によって目標の血圧値に到達しない場合には、CCBとARBの併用投与が推奨されており、CCBとARBとの併用による高血圧治療は標準的な治療になりつつある。
心血管疾患死の予防には、高血圧患者の降圧剤による血圧コントロールが重要な役割を占めることは言うまでもないが、心拍数上昇と心血管疾患(冠動脈疾患を含む)による死亡率上昇の関係が明らかにされており(Framinghamスタディー)、心拍数のコントロールも極めて有効であることが知られている。特に、心拍数が75拍/分以上では急激なリスクの上昇が知られており、高い心拍数を低下させることは重要であると考えられている(非特許文献1)。
シルニジピンは、ジヒドロピリジン系CCBの1つであり、L型及びN型カルシウムチャネル拮抗作用を併せ持つ降圧薬である。ジヒドロピリジン系CCBの多くは降圧時に心拍数の増加を伴うが、シルニジピンは、心拍数を増加させることなく、安定した降圧効果を示すことが確認されている(非特許文献2)。
しかしながら、シルニジピンとARBとの併用症例はほとんど収集されておらず、併用時に血圧及び心拍数に与える効果についての詳細は不明であった。
【非特許文献1】Gillman MWら、「American heart journal」、1993年、第125巻、第4号、p.1148−1154
【非特許文献2】塩越隆広、「診療と新薬」、2004年、第41巻、第6号、p.475−481
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、心拍数の増加を抑制しつつ優れた降圧作用を発揮する薬剤を提供すること、特に後述の特定の条件を満たす対象において心拍数の増加を抑制しつつ優れた降圧作用を発揮する薬剤を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ARBとシルニジピンとを併用することによって、降圧に伴う心拍数の増加を抑止しつつ優れた降圧作用が得られること、さらには特定の条件を満たす投与対象において、降圧に伴う心拍数の増加を抑止しつつ特に優れた降圧作用が得られ、心血管疾患を効果的に予防・治療できる薬剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕 シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを組み合わせてなる心血管疾患予防・治療剤。
〔2〕 シルニジピン及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬を有効成分として含有する配合剤である、上記〔1〕に記載の心血管疾患予防・治療剤。
〔3〕 シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とが別個の製剤とされてなる、上記〔1〕に記載の心血管疾患予防・治療剤。
〔4〕 アンジオテンシンII受容体拮抗薬がカンデサルタンである、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の心血管疾患予防・治療剤。
〔5〕 重量比で、シルニジピン1に対してカンデサルタン0.05〜5が組み合わされている、上記〔4〕に記載の心血管疾患予防・治療剤。
〔6〕 シルニジピン以外のカルシウム拮抗薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬との併用による降圧治療を受けていた対象にその代替として投与するための、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の心血管疾患予防・治療剤。
〔7〕 シルニジピン以外のカルシウム拮抗薬がニフェジピンである、上記〔6〕に記載の心血管疾患予防・治療剤。
〔8〕 投与対象がヒトであり、投与対象の心拍数が75拍/分以上である、上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の心血管疾患予防・治療剤。
〔9〕 投与対象がヒト男性である、上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の心血管疾患予防・治療剤。
〔10〕 シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを組み合わせてなる降圧剤。
〔11〕 シルニジピン及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬を有効成分として含有する配合剤である、上記〔12〕に記載の降圧剤。
〔12〕 シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とが別個の製剤とされてなる、上記〔11〕に記載の降圧剤。
〔13〕 アンジオテンシンII受容体拮抗薬がカンデサルタンである、上記〔10〕〜〔12〕のいずれかに記載の降圧剤。
〔14〕 重量比で、シルニジピン1に対してカンデサルタン0.05〜5が組み合わされている、上記〔13〕に記載の降圧剤。
〔15〕 シルニジピン以外のカルシウム拮抗薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬との併用による降圧治療を受けていた対象にその代替として投与するための、上記〔10〕〜〔14〕のいずれかに記載の降圧剤。
〔16〕 シルニジピン以外のカルシウム拮抗薬がニフェジピンである、上記〔15〕に記載の降圧剤。
〔17〕 投与対象がヒトであり、投与対象の心拍数が75拍/分以上である、上記〔10〕〜〔16〕のいずれかに記載の降圧剤。
〔18〕 投与対象がヒト男性である、上記〔10〕〜〔17〕のいずれかに記載の降圧剤。
〔19〕 シルニジピン及びカンデサルタンを有効成分として含有する配合剤である医薬組成物。
〔20〕 重量比で、シルニジピン1に対してカンデサルタン0.05〜5を含有する、上記〔19〕に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明のシルニジピンとARBとを組み合わせてなる薬剤は、心拍数の増加を抑制しつつ優れた降圧作用を示し、心血管疾患の予防・治療に有用である。さらに、特定の条件を満たす投与対象においては、降圧剤及び心血管疾患の予防・治療剤として、特に優れた作用を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを組み合わせてなる降圧剤を提供する。
【0008】
アンジオテンシンII受容体拮抗薬とは、昇圧物質であるアンジオテンシンIIと拮抗し、アンジオテンシンIIがアンジオテンシンII受容体に結合するのを妨げることにより血圧の降下作用を示す薬物である。本発明で用いられるアンジオテンシンII受容体拮抗薬としては、シルニジピンと併用することによってそれぞれを単独で使用するよりも優れた降圧作用を示し、かつ、該降圧に伴う心拍数の増加を引き起こしづらいものであれば特に限定されないが、例えば、バルサルタン、カンデサルタン、ロサルタン、テルミサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン、エプロサルタンなどが挙げられる。なかでも、バルサルタン、カンデサルタン、ロサルタン、テルミサルタンが好ましく、カンデサルタンが特に好ましい。
本発明において使用されるシルニジピン((±)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボン酸 2−メトキシエチルエステル 3−フェニル−2(E)−プロペニルエステル)は、L型カルシウムチャネル及びN型カルシウムチャネルを共に阻害するL/N型カルシウム拮抗薬として公知の化合物であり、公知の製造方法により製造することが可能である。また、市販でその製剤を入手することも可能である。さらには、シルニジピンは該製剤から抽出等により取得することもできる。本発明において使用されるシルニジピンは必要に応じ、薬理的に許容される塩、水和物、溶媒和物としてもよい。薬理学的に許容される塩としては、例えば、無機酸との塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など)、有機酸との塩(酢酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩など)などが挙げられる。さらに、本発明において使用されるシルニジピンは必要に応じ、適当なその光学活性体を用いてもよい。
本発明の降圧剤は、優れた降圧作用を有しかつ降圧に伴う心拍数の増加をも抑制するため、心血管疾患予防・治療剤としても極めて有用である。
本発明の対象となる心血管疾患とは、虚血性心疾患を含む心血管系の病気であり、例えば、心筋梗塞、狭心症(不安定狭心症を含む)などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0009】
本発明のシルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬との併用により、シルニジピンを有効成分として含有するアンジオテンシンII受容体拮抗薬の降圧作用増強剤、及び、アンジオテンシンII受容体拮抗薬を有効成分として含有するシルニジピンの降圧作用増強剤を提供することが可能である。シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを併用することにより、それぞれを単独で用いるよりもシルニジピン又はアンジオテンシンII受容体拮抗薬の降圧作用を向上させることができるだけでなく、降圧剤投与による降圧に伴う副作用として発生しやすい心拍数の増加を抑制することが可能である。本発明は上記併用効果に基づき、シルニジピンを有効成分として含有するアンジオテンシンII受容体拮抗薬使用時の心拍数増加の抑制剤も提供する。
本発明の降圧剤及び心血管疾患予防・治療剤は、シルニジピン以外のカルシウム拮抗薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬との併用による降圧治療を受けていた対象にその代替として投与した場合、切り替え前よりも血圧を低下することができる。
ここで、シルニジピン以外のカルシウム拮抗薬として好ましくは、ジヒドロピリジン型のカルシウム拮抗薬が挙げられ、より具体的には、アムロジピン、ニフェジピン、ベニジピン、ニルバジピン、マニジピン、アゼルニジピン、フェロジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、バルニジピン、ニカルジピン、エホニジピンが挙げられ、好ましくは、アムロジピン、ニフェジピンであり、特に好ましくはニフェジピンである。
また、シルニジピン以外のカルシウム拮抗薬がニフェジピンである場合には、切り替え前よりも血圧を低下することができると同時に切り替え前に生じていた心拍数の増加を抑制し、心拍数を低下することもできる。
本発明の降圧剤及び心血管疾患予防・治療剤は、本発明の薬剤を併用投与する前の心拍数が75拍/分以上、より好ましくは85拍/分以上のヒトに投与した場合に、併用投与による降圧に伴う投与対象の心拍数増加をより効果的に抑制しつつ、所望の効果を達成することができる。
投与対象がヒトである場合、副作用発現の確率がより低い点から、対象が男性であることが好ましい。
【0010】
本発明で使用されるシルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬は、製剤時に予め混合された状態の配合剤の態様であってもよいし、別個に製剤化され、用時に混合する態様であってもよいし、用時にも別々に投与する態様であってもよい。
本発明の降圧剤及び心血管疾患予防・治療剤は、シルニジピンを含有してなる薬剤とアンジオテンシンII受容体拮抗薬を含有してなる薬剤とからなるキットとしてもよい。
【0011】
本発明の降圧剤及び心血管疾患予防・治療剤を投与するに際しては、シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とは同時に投与してもよいし、両者の併用効果、特に相乗効果が得られる限り、どちらか一方を先に投与した後に他方を投与してもよく、その際のそれぞれの薬剤の投与間隔も特に限定されない。
【0012】
本発明において、シルニジピン及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬は、別々にまたは同時に、そのまままたは医薬として許容される担体などと混合し、たとえば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの固形製剤、シロップ剤、乳剤、注射剤(皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、点滴剤を含む)などの液剤、舌下錠、バッカル剤、トローチ剤、マイクロカプセルや徐放性コーティングを施した製剤、坐剤などの薬剤として、経口または非経口的に投与することができる。なかでも、錠剤として経口投与するのが好ましい。
薬学的に許容される担体としては、製剤材料として慣用の各種有機または無機の担体物質を用いることができ、固形製剤の場合には、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などが、液状製剤の場合には、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などが適宜用いられる。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、香料などの添加物を加えてもよい。
特に、シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを同時に投与する場合には、シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを有効成分として含有する配合剤である医薬組成物として投与するのが好ましい。該医薬組成物の剤形としては、好ましくは、上記剤形が挙げられる。
上記剤形の製剤は、当該分野で公知の製剤方法に準じ、製造することができる。
【0013】
本発明におけるシニルジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬の組み合わせ量の割合は、それらを組み合わせることにより、効果的な本発明の併用効果が得られる範囲であり、例えば重量比で、シニルジピン1に対して、アンジオテンシンII受容体拮抗薬が通常0.01〜100、好ましくは0.1〜100、より好ましくは0.1〜10である。特に、カンデサルタンを組み合わせる場合はシニルジピン1に対して、カンデサルタンが通常0.01〜100、好ましくは0.05〜50、より好ましくは0.05〜5である。
【0014】
本発明の降圧剤、心血管疾患予防・治療剤、増強剤及び抑制剤の投与対象としては、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなどの哺乳動物が挙げられる。特に、ヒトが投与対象として好ましい。
本発明の降圧剤及び心血管疾患予防・治療剤の一日投与量は、投与対象の症状の程度、年齢、性別、体重、薬物に対する感受性、投与時期、間隔、投与経路などによって異なるが、通常、経口投与で一日量が、哺乳動物1kg体重あたりシルニジピン約0.1〜100mgとアンジオテンシンII受容体拮抗薬約0.01〜500mgとの組み合わせであり、好ましくはシルニジピン約0.5〜50mgとアンジオテンシンII受容体拮抗薬約0.03〜300mgとの組み合わせであり、さらに好ましくはシルニジピン約1〜20mgとアンジオテンシンII受容体拮抗薬約0.2〜200mgとの組み合わせであり、これを必要に応じて1〜3回に分割して投与すればよい。
【0015】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬(以下、ARBと略する)が併用されている症例において、使用実態下における安全性及び有効性等を確認するために多施設で特別調査を実施し、集計・解析を行った。
【0017】
[調査方法]
全国の内科・循環器科を中心に調査を依頼し、文書にて契約が締結された医療機関から収集予定症例数3,000例を目標とし開始した。
調査の対象は、シルニジピンの適応である高血圧の患者とし、高血圧の治療にシルニジピンとARBの併用投与を開始した症例とした。
調査方法は、シルニジピン(「アテレック(登録商標)」錠)とARBの併用投与を開始した症例順に各施設の契約例数に達するまでの連続した登録症例について調査を行う、プロスペクティブな連続調査方式にて実施した。
シルニジピンの投与方法は、承認された用法・用量である、「シルニジピンとして1日1回5〜10mgを朝食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。効果不十分の場合には、1日1回20mgまで増量することができる」とした。なお、シルニジピンの投与期間は原則として12週間とした。
観察項目は、患者背景(性別)、前治療薬の有無と内容、目標血圧値(収縮期血圧/拡張期血圧)、シルニジピン及びARBの投与状況、併用降圧薬(シルニジピンとARB以外の降圧薬)、臨床経過(収縮期血圧/拡張期血圧/心拍数)、副作用発現について調査を行った。併用投与の有効性については、併用開始12週目に担当医が収縮期及び拡張期血圧値の推移を参考にして、血圧コントロールの程度を「良好にコントロールできた」、「ほぼ良好にコントロールできた」、「コントロール不良であった」の3段階で判定した。安全性及び有効性の患者背景別解析においてはFisherの直接確率法又はx検定を用いた。血圧値、心拍数については、それぞれの観察日において、併用前(併用開始前4週以内)と併用開始後のデータが測定されていた症例を対象として平均値と標準偏差を算出し、対応のあるt検定を用いて解析を行った。検定は両側検定とし、危険率5%未満を有意とした。また、副作用名にはMedDRA/J ver 8.0の基本語(PT)を用いて集計した。
【0018】
[結果]
1.症例構成
全国471施設より3,322症例が連続調査方式により無作為に症例登録され、回収不能であった37例を除き、3,285症例の調査票を回収した。図1に回収症例3,285例の構成を示す。回収症例のうち、登録違反258症例、併用開始後一度も来院せず判定のない18症例、シルニジピン又はARBが投与されていなかった94症例の合計365症例(除外理由が2つ以上ある症例が11例)を完全除外症例とし、2,920症例を安全性解析対象症例とした。さらに、承認適応外(ネフローゼ症候群)に使用された1例を除く2,919症例を有効性解析対象症例とした。
【0019】
2.患者背景
1)安全性解析対象症例2,920例の患者背景は、表1の通りであった。
【0020】
【表1】

【0021】
性別では、男性1,416例(48.5%)、女性1,481例(50.7%)であった。
本調査開始前に降圧薬による高血圧治療を受けていた症例は2,483例(85.0%)であり、ARBやカルシウム拮抗薬が主体であった。そのうちARB単独投与にて治療を受けていた症例は1,179例(47.5%)、ARBと他の降圧薬の併用症例は944例(38.0%)〔うちARBとカルシウム拮抗薬の併用症例は684例(23.4%)〕で、シルニジピン投与前よりARBを先行投与されていた症例は2,123例であった。本調査開始後は全症例がARBとシルニジピンとの併用投与がされており、シルニジピンの投与方法としては、(1)ARB単独投与による治療例にシルニジピン追加投与、(2)ARB+カルシウム拮抗薬治療例のカルシウム拮抗薬をシルニジピンに切り替え、(3)ARBとシルニジピン同時投与開始などの症例であった。
シルニジピンとARB以外の降圧薬は25.2%に併用された。
シルニジピンの1日最大投与量は、10mg未満が389例(13.3%)、10mgが2,175例(74.5%)、10mgを超える症例が345例(11.8%)であり、87.8%は通常の用法・用量の範囲だった。
なお、安全性解析対象症例中、有効性解析対象症例からは除外されている1例の患者背景は、性別:女性、併用開始前降圧薬:ロサルタン、シルニジピンとARB以外の併用降圧薬:無、シルニジピン1日最大投与量:10mg、併用時に使用されたARB:ロサルタンであり、ARB単独投与にて治療されていた症例へのシルニジピン追加投与症例である。
【0022】
2)有効性解析対象症例2919症例に関して、シルニジピンと併用されたARBの種類と1日平均投与量を表2に示す。なお、併用投与開始時のカンデサルタンの1日最大投与量は、8mg未満が281例(27.7%)、8mgが693例(68.3%)、8mgを超える症例が37例(3.6%)であった。
【0023】
【表2】

【0024】
3)有効性解析対象症例中、ARB単独投与にて高血圧治療されていた症例へのシルニジピン単独追加投与症例で、治療期間中にARB及びシルニジピン以外の降圧剤の併用を行っていない1178症例における併用開始時のARBの種類と平均投与量を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
4)有効性解析対象症例中、ARBとシルニジピン以外のカルシウム拮抗薬にて高血圧治療されていたが、カルシウム拮抗薬をシルニジピンに切り替えた684症例におけるシルニジピンとの併用開始時のARBの種類と平均投与量を表4に示す。また、切り替え前のシルニジピン以外のカルシウム拮抗薬は、アムロジピン、ニフェジピン、ベニジピン、ニルバジピン、マニジピン、アゼルニジピン、フェロジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、バルニジピン、ニカルジピン、エホニジピン等の降圧薬として承認を受けている医薬品であり、その投与方法は承認された用法・用量である。
【0027】
【表4】

【0028】
3.安全性について
副作用発現症例率は低く特別な傾向は見られなかった。ただし、以下のように性別間の副作用発現症例率に有意な差が認められた。
1)性別による副作用発現状況
安全性解析対象症例2,920例を対象とし、性別について、副作用発現症例率の比較、検討を行った(表5)。その結果、副作用発現症例率に有意な差が認められた。性別においては女性群が3.2%、男性群が1.8%と男性群で有意に副作用発現症例率が低かった。副作用発現状況を確認したところ、「頭痛」、「動悸」、「浮動性めまい」等の自覚症状が多く見られた。なお、これら自覚症状の副作用発現症例率は低く、併用による重篤な副作用ではない。
【0029】
【表5】

【0030】
4.有効性について
1)血圧コントロールの程度
有効性の指標として、併用開始12週目に担当医が、血圧コントロールの程度について、「良好にコントロールできた」、「ほぼ良好にコントロールできた」、「コントロール不良であった」の3段階で判定を行った。
(1)有効性解析対象症例2,919例のうち、血圧コントロールの程度未記載42例及び判定不能168例を除く2,709例に占める「ほぼ良好にコントロールできた」以上の割合を有効率として算出した。その結果、有効性解析対象症例の有効率は84.8%(2,298/2,709例)であった。
(2)また、シルニジピンとARB以外の降圧薬との併用の影響を取り除き、シルニジピンとARBとの併用効果をより明確にするため、有効性解析対象症例中、ARB単独投与にて高血圧治療されていた症例へのシルニジピン追加投与症例(降圧薬はARBとシルニジピンのみ)の有効率を検討したところ、86.4%(1,018/1,178例)であった。(なお副作用に関して、ARB単独投与にて治療されていた症例へのシルニジピン追加投与症例においても、発現症例率は低く特別な傾向は見られなかった。)
(3)さらに、このARB単独投与にて高血圧治療されていた症例へのシルニジピン単独追加投与症例のうち、併用投与開始時から12週以降最終測定時までARBの薬剤種を変更することなく継続投与を行った症例に関するARB薬剤種別の1日当たりの平均投与量と有効率(上述の通り12週目の血圧コントロールの程度に基づく)を表6に示した。
【0031】
【表6】

【0032】
2)血圧値及び心拍数への推移
(1)有効性解析対象症例全例
有効性解析対象症例において、併用開始前、併用開始4週後、8週後、12週後及び12週以降最終測定時(併用開始から平均222.43日後、n=2919)の収縮期血圧、拡張期血圧及び心拍数について、血圧測定実施症例数と測定値の推移を表7及び図2に示した。併用開始後の血圧は、収縮期及び拡張期とも4週後までに有意に下降し、その後は緩やかな下降をたどり、良好で安定した推移が12週後まで認められた。併用開始後の心拍数についても4週後までに有意に下降し、12週以降まで安定した推移を示した。
【0033】
【表7】

【0034】
(2)ARB単独投与症例へのシルニジピン単独追加投与症例
ARB単独投与により高血圧治療されていた症例にシルニジピンを単独追加投与した症例(降圧薬はARBとシルニジピンのみ。12週以降最終測定時は併用開始から222.03±143.88日後(平均±標準偏差)、n=1178)における血圧値及び心拍数の推移を検討した。収縮期血圧、拡張期血圧及び心拍数は表8及び図3に示すように、併用開始4週後から有意な低下を認め、12週以降最終測定時にも全症例と同様の安定した降圧効果を認めた。
【0035】
【表8】

【0036】
(3)ARB単独投与症例へのシルニジピン追加投与症例(ARB薬剤別)
i)シルニジピン投与開始前までARB単独の投与で高血圧治療をしていた患者にシルニジピンを追加投与した症例(降圧薬はARBとシルニジピンのみ)について、併用開始時のARB薬剤別に併用開始前及び併用開始12週以降最終測定時における血圧値及び心拍数の推移を図4に示した。12週以降最終測定時の血圧はシルニジピン併用開始前に比較して収縮期血圧及び拡張期血圧とも有意な低下を認めた。また心拍数に関して、カンデサルタンの場合に有意な低下を認めた(p<0.01)。
ii)さらに、試験開始から終了まで、ARBの種類と投与量、及びシルニジピン投与量が未変化の症例のみを対象とした解析も行った。投与量及び結果を表9に示す。12週以降最終測定時の血圧はシルニジピン併用開始前に比較してARBの種類にかかわらず収縮期血圧及び拡張期血圧とも併用前値との対応のあるt検定で有意な低下を認めた(p<0.001)。また心拍数に関して、カンデサルタンの場合に有意な低下を認めた(p<0.01)。
【0037】
【表9】

【0038】
iii)併用開始12週後に関する解析結果も示す。シルニジピン投与開始前までARB単独の投与で高血圧治療をしていた患者にシルニジピンを追加投与した症例(降圧薬はARBとシルニジピンのみ)について、併用開始時のARB薬剤別に併用開始前及び併用開始12週目測定時における血圧値及び心拍数の推移を表10に示した。
12週目測定時の血圧も、シルニジピン併用開始前に比較してARBの種類にかかわらず収縮期血圧及び拡張期血圧とも有意な低下を認めた(p<0.0001)。また心拍数に関して、カンデサルタンシの場合に有意な低下を認めた(p<0.01)。
【0039】
【表10】

【0040】
(4)ARBと他のカルシウム拮抗薬併用投与からARBとシルニジピン併用投与に切り替えた症例
本調査開始前にARBとシルニジピン以外のカルシウム拮抗薬にて高血圧治療されていたが、カルシウム拮抗薬をシルニジピンに切り替えた症例が有効性解析対象症例中684例みられた。切り替え症例における血圧値及び心拍数の推移を図5に示す。
切り替え症例における12週以降最終測定時の血圧は切り替え前に比べ有意な低下を認め、切り替え前カルシウム拮抗薬別の収縮期血圧及び拡張期血圧は、切り替え前カルシウム拮抗薬の種類にかかわらず有意に低下していた。また、心拍数においては他のカルシウム拮抗薬からの切り替え症例全体及びニフェジピンからの切り替え症例において有意な低下が認められた。
さらに、切り替え開始時から12週以降最終測定時までARBとシルニジピンの投与量の変更を行わない投与法を行ったもののうち、アムロジピン5mg投与をシルニジピン10mg投与へ切り替えた症例についてARB薬剤別の1日当たりの平均投与量、血圧値及び心拍数の推移を表11に示す。
【0041】
【表11】

【0042】
12週以降最終測定時の収縮期血圧及び拡張期血圧は、ARBの種類によらず低下しており、バルサルタン(P<0.0001)、カンデサルタン(P<0.01)、ロサルタン(P<0.05)で有意な差が認められた。
【0043】
3)併用開始前心拍数別心拍数の推移
有効性解析対象症例全例、ARB単独投与症例へのシルニジピン追加投与症例について、併用開始前及び12週以降最終測定時の心拍数を図6に示した。有効性解析対象症例全例の併用開始後の心拍数が、併用開始前75拍/分以上85拍/分未満の症例は79.19±2.73拍/分から76.28±8.93拍/分から84.57±11.17拍/分と、それぞれ有意に低下した。また、ARB単独投与症例へのシルニジピン追加投与症例についても、併用開始後の心拍数が、併用開始前75拍/分以上85拍/分未満の症例は79.24±2.71拍/分から76.87±8.37拍/分、85拍/分以上の症例は93.64±6.90拍/分から84.30±10.58拍/分と、それぞれ有意に低下した。
【0044】
これらの結果から、本発明によれば、シルニジピンとARBとを併用投与することにより、心拍数の増加を抑制しつつ、優れた降圧効果を得ることができることがわかる。よって、本発明は、心血管疾患の予防・治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】症例構成を示す図である(実施例)。
【図2】有効性解析対象症例の血圧値及び心拍数の推移を示すグラフである(実施例)。
【図3】ARB単独投与症例へのシルニジピン単独追加投与症例の血圧値及び心拍数の推移(他の降圧薬を含まない)を示すグラフである(実施例)。
【図4】ARB単独投与症例へのシルニジピン単独追加投与症例の、ARB薬剤別の血圧値及び心拍数の推移(他の降圧薬を含まない)を示すグラフである(実施例)。
【図5】ARB+他のカルシウム拮抗薬併用投与からARB+シルニジピン併用投与に切り替えられた症例の、切り替え前カルシウム拮抗薬別の血圧値及び心拍数の推移を示すグラフである(実施例)。
【図6】有効性解析対象症例の併用前心拍数別の心拍数の推移を示すグラフである(実施例)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを組み合わせてなる心血管疾患予防・治療剤。
【請求項2】
シルニジピン及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬を有効成分として含有する配合剤である、請求項1に記載の心血管疾患予防・治療剤。
【請求項3】
シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とが別個の製剤とされてなる、請求項1に記載の心血管疾患予防・治療剤。
【請求項4】
アンジオテンシンII受容体拮抗薬がカンデサルタンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の心血管疾患予防・治療剤。
【請求項5】
重量比で、シルニジピン1に対してカンデサルタン0.05〜5が組み合わされている、請求項4に記載の心血管疾患予防・治療剤。
【請求項6】
シルニジピン以外のカルシウム拮抗薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬との併用による降圧治療を受けていた対象にその代替として投与するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の心血管疾患予防・治療剤。
【請求項7】
シルニジピン以外のカルシウム拮抗薬がニフェジピンである、請求項6に記載の心血管疾患予防・治療剤。
【請求項8】
投与対象がヒトであり、投与対象の心拍数が75拍/分以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の心血管疾患予防・治療剤。
【請求項9】
投与対象がヒト男性である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の心血管疾患予防・治療剤。
【請求項10】
シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを組み合わせてなる降圧剤。
【請求項11】
シルニジピン及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬を有効成分として含有する配合剤である、請求項10に記載の降圧剤。
【請求項12】
シルニジピンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とが別個の製剤とされてなる、請求項10に記載の降圧剤。
【請求項13】
アンジオテンシンII受容体拮抗薬がカンデサルタンである、請求項10〜12のいずれか1項に記載の降圧剤。
【請求項14】
重量比で、シルニジピン1に対してカンデサルタン0.05〜5が組み合わされている、請求項13に記載の降圧剤。
【請求項15】
シルニジピン以外のカルシウム拮抗薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬との併用による降圧治療を受けていた対象にその代替として投与するための、請求項10〜14のいずれか1項に記載の降圧剤。
【請求項16】
シルニジピン以外のカルシウム拮抗薬がニフェジピンである、請求項15に記載の降圧剤。
【請求項17】
投与対象がヒトであり、投与対象の心拍数が75拍/分以上である、請求項10〜16のいずれか1項に記載の降圧剤。
【請求項18】
投与対象がヒト男性である、請求項10〜17のいずれか1項に記載の降圧剤。
【請求項19】
シルニジピン及びカンデサルタンを有効成分として含有する配合剤である医薬組成物。
【請求項20】
重量比で、シルニジピン1に対してカンデサルタン0.05〜5を含有する、請求項19に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−44871(P2008−44871A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220712(P2006−220712)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月28日 医事出版社発行の「医療と新薬 第43巻・第2号」に発表
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】