説明

応答曲面モデル構築装置及びプログラム

【課題】エンジンの特性値と制御パラメータの関係を示す測定データに基づきその関係を精度良く再現する応答曲面モデルを効率的に構築する応答曲面モデル構築装置の提供。
【解決手段】応答曲面モデルに使用する制御パラメータの変数増加手段13による追加処理と変数減少手段14による削除処理をステップワイズ法による反復処理で行うにあたり、追加処理において、応答曲面モデルに取り込まれていない説明変数群の中から寄与率が最小の説明変数を選択してこれを追加候補説明変数とし、この追加候補説明変数と説明変数群の他の説明変数との間の相関係数を算出する。そして、この相関係数がすべて所定の相関係数閾値より小さい場合に、この追加候補説明変数を応答曲面モデルに取り込む。これにより、多重共線性を正確に考慮し、精度のよい応答曲面モデルの構築を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等の制御パラメータの応答曲面モデルを構築する応答曲面モデル構築技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のディーゼルエンジンは、コモンレール方式による多段噴射装置、EGR(排気再循環)装置、過給器などの多数の制御装置を装備している。従って、これらの多数の制御装置のパラメータを運転条件、燃費、多数の排出ガス成分を考慮して最適に設定し制御するには、実験データから多数の制御パラメータと特性値との関係を精度良く表現する応答曲面モデルの構築が必要となる。
【0003】
かかる応答曲面モデルの構築方法としては、従来から、実験データに基づいて多項式モデルによって近似する方法が広く用いられている(例えば、非特許文献1参照)。多項式モデルの作成においては、制御パラメータ等の目的変数に対して、その予測に有効な説明変数を特性値から選択する必要がある。この選択の方法としては、ステップワイズ法(変数増減法)等が提案されている(非特許文献2,3,特許文献1)。以下、特許文献1に記載のエンジン制御パラメータの適合方法について簡単に概説する。
【0004】
まず、エンジンの電子制御スロットルの開度、点火時期、燃料噴射時期、EGRバルブの開度、給気バルブの開弁時期などの制御パラメータを(x,x,…,x)とおく。説明変数を、これら5つの制御パラメータ(x,x,…,x)、及びこれらの制御パラメータを自乗し又はこれらの制御パラメータの2つを掛け合わせて得られる15個の2次項(x,x,…x,x,x,…,x)とし、これら20個の説明変数(x,x,…,x,x,x,…x,x,x,…,x)を(x,x,…,x20)と記す。また、目的変数を、NOx排出量や燃料消費量等のエンジンの各種特性値とし、これをyとおく。説明変数xに対する偏回帰係数をaとし、重回帰式を次式で表す。
【0005】
【数1】

【0006】
各制御パラメータ(x,x,…,x)を振りながらn回の計測を行う。各説明変数及び目的変数の計測値をx(m)(i=1,…,20),y(m)(m=1,…,n)とする。これらの計測値より、偏差積和Sij,Syyを次式のように計算する。
【0007】
【数2】

【0008】
さらに、算出された偏差積和Sij,Syyを用いて相関係数rijを次式で算出する。
【0009】
【数3】

【0010】
以上の計算を行った後、まず、算出された相関係数rijを用いて、初期の偏回帰係数a(i=1,…,5)を次式により算出する。
【0011】
【数4】

【0012】
次に、以下のような説明変数の追加処理及び説明変数の削除処理を繰り返すことによって、最適な説明変数の組み合わせによる重回帰式を求め、応答曲面モデルを構築する。
【0013】
(説明変数の追加処理)
現在の重回帰式にp個(p<20)の説明変数が含まれているとし、p+1個目の説明変数xを追加することを試みるものとする。まず、説明変数がp個の重回帰式の決定係数Rを次式により算出する。ここで、Y(m)はm番目の目的変数の計測値に対するp個の説明変数の重回帰式による予測値である。
【0014】
【数5】

【0015】
次に、(p+1)個目の説明変数xを追加した(p+1)個の重回帰式の決定係数Rp+1を次式により算出する。
【0016】
【数6】

【0017】
これを、追加することが可能なすべての説明変数xについて行い、決定係数Rp+1が最大となる説明変数xを、新たに追加する説明変数の候補として選出する。
【0018】
次に、決定係数Rp+1が最大となる説明変数xを追加した重回帰式において、追加した説明変数xの重回帰式に於ける寄与率を示すF値を次式より算出する。
【0019】
【数7】

【0020】
そして、このFp+1を所定の判定値Finと比較し、Fp+1>Finの場合には候補の説明変数xを追加して、次の説明変数の削除処理に移る。一方、Fp+1≦Finの場合には、現在の重回帰式を応答曲面モデルとして出力して終了する。
【0021】
(説明変数の削除処理)
現在の重回帰式にp+1個(p+1>5)の説明変数が含まれているとし、1つの説明変数x(15個の2次項x〜x20のうちの何れか)を削除することを試みるものとする。
【0022】
まず、説明変数としてx,x,…,xk−1,xk+1,…,xp+1のp個の変数に対して説明変数xを追加する場合のF値Fp+1を式(7)により算出する。そして、このFp+1が所定の判定値Fout(Fout<Fin)よりも小さい場合、この説明変数xを削除し、そうでなければ説明変数xを残す。この削除判定を、現在の重回帰式に含まれるすべての2次項の説明変数に対して行い、その後、先の説明変数の追加処理に移る。
【0023】
以上のようにして、最適なエンジン制御パラメータを含む重回帰式により表される応答曲面モデルを構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2004−68729
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】山崎光悦,“応答曲面法の展開”,日本機械学会誌,日本国,社団法人日本機械学会,2006年5月,第109巻,第1050号,pp.377-379.
【非特許文献2】管民郎,「多変量解析の実践(上)」,初版,上巻,日本国,株式会社現代数学社,1993年12月,pp.70-74.
【非特許文献3】河口至商,「多変量解析入門I」,初版,日本国,森北出版株式会社,1973年6月,pp.3-33.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかしながら、上記従来のエンジン制御パラメータの適合方法においては、変数選択に於いて回帰係数のF検定による有意性の判断を行っているものの、厳密には回帰係数の検定のみでは多重共線性が考慮されているとはいえず、説明変数間の相関係数が高い説明変数の組み合わせが選択される場合がある。従って、実際のエンジンの多項式モデルの構築にあたっては、単純にステップワイズ法を各制御パラメータの説明変数の選択に直接適用するだけでは推定精度や実用上の観点から不十分である。
【0027】
図10は、実際のエンジンの多項式モデルの構築において、各制御パラメータの説明変数の選択にステップワイズ法を直接適用して重回帰モデルを求めた結果の一例である。図10において、横軸は測定番号、縦軸はNOx値を表す。測定は76回行い、これら76回の測定から得られる76組の制御パラメータ及びNOxの測定値の組から、上記従来のステップワイズ法を用いて最適な重回帰式を求めた。重相関係数は0.9491であった。黒四角の点が実測値、白丸の点が重回帰式からの推定値である。図10より、ステップワイズ法を直接適用した場合、NOx値の変動が大きい点において誤差が大きく、特に、予測値が負値となる異常な予測点が複数出現しており、従来のエンジン制御パラメータの適合方法は、なお予測精度の改善が必要であることが分かる。そのためには、推定精度向上のために制御パラメータの非線形項を組み合わせた説明変数を複数作成し多項式モデルに導入することや、異常な予測値を出現させないために各説明変数を選択する際に多重共線性を厳密に考慮させることが必要である。また、1次、2次、及び高次の多項式モデルを生成し比較することにより、できる限り少ない説明変数で予測精度の高い多項式モデルを効率的に構築する方法が必要である。
【0028】
そこで、本発明の目的は、エンジンの特性値と制御パラメータとの関係を示す測定データに基づいてその関係を精度良く再現する応答曲面モデルを効率的に構築する応答曲面モデル構築装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明に係る応答曲面モデル構築装置の第1の構成は、エンジンの各種制御パラメータである1次の説明変数及びそれに対するエンジンの特性値である目的変数の測定値の組である測定値セットを測定回数だけ格納する測定データ記憶手段と、
各測定値セットについて、各制御パラメータの累乗項を含むk個(k=2,…,M;Mは重回帰式に取り込む説明変数の次数の最大値)の制御パラメータの積項からなる高次の説明変数を算出し、前記測定データ記憶手段に保存する高次説明変数生成手段と、
前記各説明変数から前記目的変数を予測する重回帰式の偏回帰係数及び切片である重回帰係数を記憶する重回帰係数記憶手段と、
前記測定データ記憶手段に格納されたすべての説明変数の中からから重回帰式による目的変数の予測に有効な説明変数を選択するとともに、選択した各説明変数による重回帰式の重回帰係数を算出し前記重回帰係数記憶手段に格納する説明変数選択手段と、を備え、
前記説明変数選択手段は、
各説明変数について、当該説明変数が、重回帰式に取り込まれない予定の未追加変数群に属するのか、重回帰式に取り込む予定の追加変数群に属するのかを示す変数群属性を登録する変数群属性テーブルが格納された変数群属性記憶手段と、
前記変数群属性テーブルの各説明変数の変数群属性を、すべて未追加変数群に初期化する変数群属性初期化手段と、
変数群属性が未追加変数群である説明変数のうち、予測に有効な説明変数の変数群属性を追加変数群に変更する変数取込処理を行う変数増加手段と、
変数群属性が追加変数群である説明変数のうち、予測に有効でない説明変数の変数群属性を未追加変数群に変更する変数除去処理を行う変数減少手段と、
前記変数取込処理及び前記変数除去処理を交互に繰り返し実行し、前記変数群属性テーブルにおいて変数群属性が追加変数群の説明変数が未追加変数群の説明変数よりも少なくなるか、又は前記変数取込処理において何れの説明変数の変数群属性も追加変数群に変更されなかった場合に繰り返し処理を終了する変数選択処理制御手段と、を備え、
前記変数増加手段は、
変数群属性が未追加変数群の説明変数を順次1つずつ選択し、選択した説明変数,変数群属性が追加変数群の説明変数,及び目的変数の測定値セットを前記測定データ記憶手段からすべて読み出し、読み出した測定値セットから重回帰係数を算出し、読み出した測定値セット及び当該重回帰係数から、選択した説明変数の寄与率を算出する追加時寄与率演算手段と、
前記変数群属性テーブルにおいて変数群属性が未追加変数群の説明変数のうち、前記追加時寄与率演算手段により算出された寄与率が最大の説明変数を初期の追加候補説明変数に選択する最大寄与率選定手段と、
前記追加候補説明変数の寄与率が、重回帰式に取り込む取込基準値より大きいか否かを判定し、当該取込基準値より大きくない場合、前記変数取込処理を終了する追加基準判定手段と、
前記追加基準判定手段が、当該追加候補説明変数の寄与率が取込基準値より大きいと判定した場合、当該追加候補説明変数と、前記変数群属性テーブルにおいて変数群属性が未追加変数群の他の各説明変数との相関係数を順次算出する相関係数演算手段と、
前記相関係数演算手段が算出する相関係数がすべて所定の相関係数閾値より小さい場合、前記変数群属性テーブルにおける当該追加候補説明変数の変数群属性を追加変数群に変更し、前記変数取込処理を終了する追加判定手段と、
前記相関係数演算手段が算出する相関係数の何れかが前記相関係数閾値より大きい場合、変数群属性が未追加変数群の説明変数のうち現在の追加候補説明変数の次に寄与率が大きい次候補説明変数がなければ前記変数取込処理を終了し、次候補説明変数があるときは、現在の追加候補説明変数を当該次候補説明変数に変更する追加候補説明変数変更手段と、
前記追加基準判定手段、前記相関係数演算手段、前記追加判定手段、及び前記追加候補説明変数変更手段による処理を繰り返し実行する変数取込処理制御手段と、を備え、
前記変数減少手段は、
前記変数群属性テーブルにおける変数群属性が追加変数群の説明変数を順次1つずつ選択し、当該選択した説明変数を除く追加変数群の説明変数に、当該選択した説明変数を追加する場合の寄与率を算出する除去時寄与率演算手段と、
前記除去時寄与率演算手段により算出される寄与率が最小の説明変数を、除去候補説明変数に選択する最小寄与率選択手段と、
当該除去候補説明変数の寄与率が、重回帰式から除去する除去基準値より小さい場合、前記変数群属性テーブルにおける当該除去候補説明変数の変数群属性を未追加変数群に変更し、それ以外の場合には前記変数除去処理を終了する除去基準判定手段と、
前記最小寄与率選択手段及び前記除去基準判定手段による処理を、前記除去基準判定手段が前記変数除去処理を終了するまで反復実行する制御を行う変数除去処理制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、変数増加手段における処理において、追加候補説明変数xαq+1の重回帰式への取り込みを行う際に、未追加変数群Pの他の各説明変数xとの相関係数rαq+1,jを調べ、これらすべての相関係数rαq+1,jが相関係数閾値rinより小さい場合にのみ追加候補説明変数xαq+1の重回帰式への取り込みを行うことで、多重共線性を正確に考慮し、精度のよい応答曲面モデルの構築を行うことができる。
【0031】
また、本発明に係る応答曲面モデル構築装置の第2の構成は、前記第1の構成において、前記寄与率は、F値又はT統計量であることを特徴とする。
【0032】
また、本発明に係る応答曲面モデル構築装置の第3の構成は、前記第1又は2の構成において、前記説明変数選択手段は、高次の説明変数の最大次数hが1からhmaxのそれぞれの場合について重回帰式の重回帰係数を算出し、前記重回帰係数記憶手段に格納するものであり、
前記重回帰係数記憶手段に格納された最大次数h(k=1,…,hmax)の場合の重回帰式のそれぞれに対して、根平均自乗誤差rを算出し、算出した各根平均自乗誤差rの最大値rmaxを抽出するとともに、各根平均自乗誤差r及びその最大値rmaxに基づいて、各最大次数hにおけるコストJを算出し、コストJが最大となる最大次数hに対する重回帰式を選択し出力する重回帰モデル評価手段を備えたことを特徴とする。
【0033】
この構成により、重回帰モデル評価手段によって、最も適した最大次数hの重回帰式による重回帰モデルを選定でき、不必要に説明変数が増大することを防止することができる。
【0034】
また、本発明に係るプログラムは、コンピュータに読み込んで実行させることにより、前記第1乃至3のいずれかの構成の応答曲面モデル構築装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
以上のように、本発明によれば、変数増加手段における処理において、追加候補説明変数xαq+1の重回帰式への取り込みを行う際に、未追加変数群Pの他の各説明変数xとの相関係数rαq+1,jを調べ、これらすべての相関係数rαq+1,jが相関係数閾値rinより小さい場合にのみ追加候補説明変数xαq+1の重回帰式への取り込みを行うことで、多重共線性を正確に考慮し、精度のよい応答曲面モデルの構築を行うことができる。
【0036】
また、さらに重回帰モデル評価手段によって、最も適した最大次数hの重回帰式による重回帰モデルを選定すれば、不必要に説明変数が増大することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例1に係る応答曲面モデル構築装置の構成を表すブロック図である。
【図2】変数増加手段13の構成を表すブロック図である。
【図3】変数減少手段14の構成を表すブロック図である。
【図4】本実施例に係る応答曲面モデル構築装置1によるエンジン制御パラメータ適合処理を表すフローチャートである。
【図5】本実施例に係る応答曲面モデル構築装置1によるエンジン制御パラメータ適合処理を表すフローチャートである。
【図6】実際のエンジンの多項式モデルの構築において、本実施例の応答曲面モデル構築装置1により重回帰モデルを求めた結果の一例である。
【図7】本発明の実施例2に係る応答曲面モデル構築装置1の構成を表すブロック図である。
【図8】実施例2の応答曲面モデル構築装置1によるエンジン制御パラメータ適合処理を表すフローチャートである。
【図9】実施例2の応答曲面モデル構築装置1によるエンジン制御パラメータ適合処理を表すフローチャートである。
【図10】実際のエンジンの多項式モデルの構築において、各制御パラメータの説明変数の選択にステップワイズ法を直接適用して重回帰モデルを求めた結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0039】
(1)応答曲面モデル構築装置の構成
(1−1)全体構成
図1は、本発明の実施例1に係る応答曲面モデル構築装置の構成を表すブロック図である。
【0040】
図1において、応答曲面モデル構築装置1は、エンジン101のNOx排出量や燃料消費量等の各種特性値を、所定の目標値の範囲内となるように、エンジン101の電子制御スロットルの開度、点火時期、燃料噴射時期、EGRバルブの開度、吸気バルブの開弁時期などの各種制御パラメータを適合させる応答曲面モデルの構築を行う装置である。すなわち、応答曲面モデル構築装置1は、エンジン101の各種制御パラメータを説明変数、エンジン101の種特性値を目標変数とする重回帰式の算出を行う。ここで、応答曲面モデルの重回帰式の算出を行うため、各種制御パラメータを人為的に変動させたときの各種特性値の測定データを予め用意しておく必要がある。そこで、制御パラメータ設定手段102は、エンジン101に対して予め定められた各種制御パラメータの組み合わせに基づいて、順次各種制御パラメータを設定する。そして、制御パラメータ測定手段103及び特性値測定手段104は、エンジン101の各種制御パラメータの設定が変更される毎に、エンジン101の各種制御パラメータ及び特性値を測定し、測定データ記憶手段2に格納する。
【0041】
応答曲面モデル構築装置1は、測定データ記憶手段2、高次説明変数生成手段3、重回帰係数記憶手段4、説明変数選択手段5、及び重回帰モデル出力手段7を備えている。尚、この応答曲面モデル構築装置1は、マイコンやFPGAなどによりハードウェア的に構成することもできるが、プログラムとして用意してパソコンなどの汎用コンピュータにこのプログラムをロードすることによってソフトウェア的に構成することもできる。
【0042】
測定データ記憶手段2は、上述したように、制御パラメータ測定手段103及び特性値測定手段104により測定される、エンジン101の各種制御パラメータである1次の説明変数(x,x,…,x)及びそれに対するエンジン101の特性値である目的変数yの測定値の組である測定値セット{(x,x,…,x),y}を測定回数Γ分だけ格納するためのものである。ここで、Nは制御パラメータの数である。
【0043】
なお、測定データ記憶手段2において、各測定回に対する測定値セット{(x,x,…,x),y}は、表1に示すような標本値テーブルとして格納される。
【0044】
【表1】

【0045】
表1において、「測定番号」のフィールドは、各測定回の番号が格納されるフィールドである。「制御パラメータ」のx〜xまでのフィールドは、各測定回の1次の説明変数が格納されるフィールドである。また、xN+1〜xN+Lまでのフィールドは、各測定回の高次の説明変数が格納されるフィールドである。「特性値」のフィールドは、各測定回の特性値yが格納されるフィールドである。ここで、「高次の説明変数」とは、各制御パラメータの累乗項(x,x等)を含むk個(k=2,…,M;Mは重回帰式に取り込む説明変数の次数の最大値)の制御パラメータの積項からなる説明変数をいう。Lは高次の説明変数の数を表す。重回帰式に取り込む説明変数の次数の最大値をMとすると、L==N!/(M!・(N−M)!)となる。以下、n番目の測定回に於ける説明変数(x,x,…,xN+L)及び目的変数yを、それぞれ(x(n),x(n),…,xN+L(n))及びy(n)と記す。また、高次の説明変数については、どの説明変数を掛け合わせた積項かを明示する必要がある場合、2次の説明変数xをxij、3次の説明変数xをxijkのように記すこととし、一般に、n次の説明変数xα1…xαnをxα1…αnのように記す。
【0046】
高次説明変数生成手段3は、測定データ記憶手段2に格納された各測定値セット{(x(n),x(n),…,x(n)),y(n)}(n=1,…,Γ)について、それぞれの高次の説明変数(xN+1(n),xN+2(n),…,xN+L(n))を算出し、前記測定データ記憶手段2に保存する。
【0047】
重回帰係数記憶手段4は、各説明変数xα1…αn(n=1,…,M)から前記目的変数yを予測する重回帰式の重回帰係数を記憶する。ここで、「重回帰係数」とは、重回帰式の回帰係数βα1…αn及び切片βをいう。尚、偏回帰係数βα1…αnは、重回帰式における説明変数xα1…αnの偏回帰係数を表す。
【0048】
説明変数選択手段5は、測定データ記憶手段2に格納されたすべての説明変数の中からから重回帰式による目的変数の予測に有効な説明変数を選択するとともに、選択した各説明変数による重回帰式の重回帰係数を算出し重回帰係数記憶手段4に格納する。この説明変数選択手段5の構成の詳細については、後述する。
【0049】
重回帰モデル出力手段7は、最終的に選択された説明変数名と、算出された各重回帰係数を出力する。
【0050】
(1−2)説明変数選択手段5の構成
説明変数選択手段5は、図1に示すように、変数群属性記憶手段11、変数群属性初期化手段12、変数増加手段13、変数減少手段14、及び変数選択処理制御手段15を備えている。
【0051】
変数群属性記憶手段11は、上記N+L個の各説明変数について、変数群属性を登録する変数群属性テーブルを記憶する。ここで、「変数群属性」とは、説明変数が、未追加変数群Pに属するのか、追加済変数群Qに属するのかを示す属性をいう。また、「未追加変数群」とは、重回帰式に取り込まれない予定の変数の集合をいい、「追加済変数群」とは、重回帰式に取り込む予定の変数の集合をいう。表2に、変数群属性テーブルを示す。表2において、g(i=1,2,…,N+L)は、目的変数xに対する変数群属性であり、「未追加変数群」又は「追加済変数群」の何れかの値をとる。
【0052】
【表2】

【0053】
変数群属性初期化手段12は、変数群属性記憶手段11に格納された変数群属性テーブルの各説明変数の変数群属性(g,…gN+L)を、すべて未追加変数群Pに初期化する。
【0054】
変数増加手段13は、変数群属性が未追加変数群Pである説明変数のうち、予測に有効な説明変数の変数群属性を追加済変数群Qに変更する変数取込処理を行う。この変数増加手段13の構成の詳細については、後述する。
【0055】
変数減少手段14は、変数群属性が追加済変数群Qである説明変数のうち、予測に有効でない説明変数の変数群属性を未追加変数群Pに変更する変数除去処理を行う。この変数減少手段1の構成の詳細については、後述する。
【0056】
変数選択処理制御手段15は、変数群属性初期化手段12、変数増加手段13及び変数減少手段14を制御して、最初に変数群属性テーブルを初期化した後、変数取込処理及び前記変数除去処理を交互に繰り返し実行し、変数群属性テーブルにおいて変数群属性が追加済変数群Qの説明変数が未追加変数群Pの説明変数よりも少なくなるか、又は前記変数取込処理において何れの説明変数の変数群属性も追加済変数群Qに変更されなかった場合に繰り返し処理を終了する処理を行う。
【0057】
(1−3)変数増加手段13の構成
図2は、変数増加手段13の構成を表すブロック図である。図2に示すように、変数増加手段13は、追加時寄与率記憶手段20、追加時寄与率演算手段21、最大寄与率選定手段22、追加基準判定手段23、相関係数演算手段34、追加判定手段25、追加候補説明変数変更手段26、及び変数取込処理制御手段27を備えている。
【0058】
追加時寄与率演算手段21は、変数群属性テーブルを参照しながら、変数群属性が未追加変数群Pの説明変数xαq+1(k)(k=1,…,N+L−q)を順次1つずつ選択する。ここで、qは変数群属性が追加済変数群Qである説明変数の現在の個数である。そして、選択した説明変数(以下「選択説明変数」という。)xαq+1(k),現在の変数群属性が追加済変数群Qの説明変数(xα1,xα2,…,xαq),及び目的変数yの測定値セット{(xα1(n),xα2(n),…,xαq(n),xαq+1(k)(n)),y(n)}(n=1,…,P)を測定データ記憶手段2からP組分すべて読み出し、読み出した測定値セットから重回帰係数F(βαq+1(k))を算出し、重回帰係数記憶手段4に、表3のような一時回帰係数テーブルとして格納する。ここで、β(k)は重回帰式の切片、βαi(k)(i=1,…,q)は説明変数xαkに対する偏回帰係数、βαq+1(k)は説明変数xαq+1(k)に対する偏回帰係数である。さらに、追加時寄与率演算手段21は、読み出した測定値セット及び算出した重回帰係数から、選択説明変数xαq+1(k)の寄与率F(βαq+1(k))を算出し、追加時寄与率記憶手段20に、表4のような寄与率テーブルとして格納する。ここで、F(βαq+1(k))は、選択説明変数xαq+1(k)を追加済変数群Qに追加した場合の当該選択説明変数xαq+1(k)の寄与率である。
【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
最大寄与率選定手段22は、追加時寄与率記憶手段20から、追加時寄与率演算手段21により算出された寄与率を読み出し、それらのうち、最大の寄与率に対応する選択説明変数xαq+1(k)を、初期の追加候補説明変数xαq+1とする。
【0062】
追加基準判定手段23は、追加候補説明変数xαq+1の寄与率F(βαq+1)が、重回帰式に取り込む取込基準値Finより大きいか否かを判定し、当該取込基準値Finより大きくない場合には、変数増加手段13における変数取込処理を終了する。
【0063】
相関係数演算手段24は、追加基準判定手段23が、追加候補説明変数xαq+1の寄与率F(βαq+1)が取込基準値Finより大きいと判定した場合、当該追加候補説明変数xαq+1と、変数群属性テーブルにおいて変数群属性が未追加変数群Pの他の各説明変数との相関係数を順次算出する。
【0064】
追加判定手段25は、相関係数演算手段24が算出する相関係数がすべて所定の相関係数閾値rinより小さい場合、変数群属性テーブルにおける当該追加候補説明変数xαq+1の変数群属性を追加済変数群Qに変更し、変数増加手段13における変数取込処理を終了する。
【0065】
追加候補説明変数変更手段26は、相関係数演算手段34が算出する相関係数の何れかが相関係数閾値rin以上の場合、追加時寄与率記憶手段20を参照し、変数群属性が未追加変数群Pの説明変数のうち現在の追加候補説明変数の次に寄与率の大きい説明変数(以下「次候補説明変数」という。)があるか否かを検索する。そして、次候補説明変数がなければ、変数増加手段13における変数取込処理を終了する。また、次候補説明変数があるときは、現在の追加候補説明変数xαq+1を当該次候補説明変数に変更する。
【0066】
変数取込処理制御手段27は、変数増加手段13における変数取込処理の全体制御を行う。すなわち、追加時寄与率演算手段21及び最大寄与率選定手段22による処理を最初に行った後、追加基準判定手段23、相関係数演算手段24、追加判定手段25、及び追加候補説明変数変更手段26による処理を繰り返し実行する制御を行う。
【0067】
(1−4)変数減少手段14の構成
図3は、変数減少手段14の構成を表すブロック図である。変数減少手段14は、図3に示すように、除去時寄与率記憶手段30、除去時寄与率演算手段31、最小寄与率選択手段32、除去基準判定手段33、及び変数除去処理制御手段34を備えている。
【0068】
除去時寄与率演算手段31は、変数群属性記憶手段11に記憶されている変数群属性テーブルを参照し、変数群属性が追加済変数群Qである説明変数xαkを順次1つずつ選択し、当該選択した説明変数(以下「選択説明変数」という。)xαkを除く追加済変数群Qの説明変数(xα1,…,xαk−1,xαk+1,…,xαq)に、当該選択した説明変数xαkを追加する場合の寄与率F(βαk)を算出し、除去時寄与率記憶手段30に寄与率テーブルとして格納する。ここで、qは変数群属性が追加済変数群Qである説明変数の現在の個数である。また、寄与率テーブルは表4に示したものと同様である。
【0069】
最小寄与率選択手段32は、除去時寄与率記憶手段30格納された寄与率テーブルを参照し、除去時寄与率演算手段31により算出される寄与率が最小の説明変数を、除去候補説明変数xminに選択する。
【0070】
除去基準判定手段33は、最小寄与率選択手段32により選択された除去候補説明変数xminの寄与率Fminが、重回帰式から除去する除去基準値Foutより小さい場合、変数群属性記憶手段11に格納された変数群属性テーブルにおける当該除去候補説明変数xminの変数群属性を未追加変数群Pに変更する。それ以外の場合には、変数減少手段14における変数除去処理を終了する。
【0071】
変数除去処理制御手段34は、変数減少手段14における変数除去処理の全体制御を行う。すなわち、除去時寄与率演算手段31による寄与率テーブルの生成を実行した後、最小寄与率選択手段32及び除去基準判定手段33による処理を、除去基準判定手段33が変数除去処理を終了させるまで反復実行する制御を行う。
【0072】
(2)応答曲面モデル構築装置1によるエンジン制御パラメータ適合処理
以上のように構成された本実施例に係る応答曲面モデル構築装置1について、次に、応答曲面モデル構築装置1によるエンジン制御パラメータ適合処理の詳細について説明する。
【0073】
図4,図5は、本実施例に係る応答曲面モデル構築装置1によるエンジン制御パラメータ適合処理を表すフローチャートである。
【0074】
まず、ステップS1において、高次説明変数生成手段3は、測定データ記憶手段2に格納された標本値テーブルから、Γ組の測定値セット(x(n),x(n),…,x(n))(n=1,…,Γ)を順次読み出し、それぞれ、L個の高次の説明変数を算出し標本値テーブルに格納する。
【0075】
次に、ステップS2において、変数群属性初期化手段12は、標本値テーブルに格納したN+L個の説明変数について、変数群属性記憶手段11に表2のような変数群属性テーブルを生成し、変数群属性テーブルの各説明変数x(i=1,…,N+L)の変数群属性gを未追加変数群Pに初期化し、未追加変数群Pの変数の個数pを0,追加済変数群Qの変数の個数qをN+Lとする。
【0076】
次に、変数取込処理制御手段27は、以下の変数取込処理(S3〜S15)と変数除去処理(S16〜S22)を反復実行し、多重共線性を考慮して有効な説明変数を選択するとともに、選択した説明変数による重回帰式を算出する。
【0077】
(変数取込処理)
変数取込処理では、まず、ステップS3において、変数取込処理制御手段27は、未追加変数群Pの変数の個数pと追加済変数群Qの変数の個数qを比較し、q<pの場合には、変数取込処理を打ち切って、ステップS23に移行する。q≧pの場合は、次のステップS4に進む。
【0078】
次に、ステップS4において、追加時寄与率演算手段21は、変数属性テーブルの変数属性が未追加変数群Pである説明変数xαq+1(k)(k=1,…,p)を順次1つずつ選択する。ここで、p=N+L−qである。
【0079】
次に、ステップS5において、追加時寄与率演算手段21は、追加済変数群Qの説明変数(xα1,xα2,…,xαq)と選択説明変数xαq+1(k)との重回帰式の重回帰係数β(k)(i=0,1,…,q,q+1)を算出し、表3に示した一時回帰係数テーブルに格納する。ここで、選択説明変数xαq+1(k)に対する重回帰式は次式(8)のように表される。
【0080】
【数8】

【0081】
測定データ記憶手段2の標本値テーブルに格納された測定値セット{(xα1(n),xα2(n),…,xαq(n),xαq+1(k)(n)),y(n)}(n=1,…,Γ)から重回帰係数β(k)(i=0,1,…,q,q+1)を算出する方法については、周知の線形回帰の計算方法が使用される(例えば、非特許文献3参照)。具体的には、目的変数ベクトルY、説明変数行列X、重回帰係数ベクトルBを次式(9)のように置く。
【0082】
【数9】

【0083】
このとき、重回帰係数ベクトルBは、次式(10)により算出することができる。但し、Xは行列Xの転置行列を表す。
【0084】
【数10】

【0085】
次に、ステップS6において、追加時寄与率演算手段21は、選択説明変数xαq+1(k)に対する寄与率F(βαq+1(k))を算出し、追加時寄与率記憶手段20に、表4に示した寄与率テーブルを格納する。具体的には、次のような演算が行われる。
【0086】
まず、次式のような(q+1)個の説明変数(xα1,xα2,…,xαq,xαq+1(k))の分散共分散行列Σの逆行列Σ−1を算出する。ここで、E[ ]は平均を表す。
【0087】
【数11】

【0088】
また、次式により目的変数yの予測誤差二乗和S及び回帰式の誤差分散Vを算出する。ここで、Γは標本値テーブルに格納された測定値セットの組数(測定回数)である。
【0089】
【数12】

【0090】
そして、これらの算出値から、選択説明変数xαq+1(k)に対する寄与率F(βαq+1(k))を次式により算出する。ここで、S(βαq+1(k)は不偏分散、T(βαq+1(k))はT値(T統計量)である。
【0091】
【数13】

【0092】
ここでは寄与率としてF値を使用した。F値は補修団の重回帰係数βがβ=0という仮説のもとで、自由度(1,N−q−1)のF分布に従うとする。F値がF分布の限界値と比較してF(β)>F(1,N−q−1,α)(右辺のF( )はF関数)ならば仮説を棄却し、係数βが有意であるとする。ここで、αは有意水準である。すなわち、ここではF値がFinの基準値よりも大きい偏回帰係数を仮採用し、それ以外は棄却する処理を行っている。
【0093】
尚、寄与率としては上式(13b)のT値を使用してもよい。T値を使用する場合、母集団の偏回帰係数βがβ=0という仮説のもとで自由度(N−q−1)のt分布に従うとする。この場合、T(β)>t(N−q−1,α/2)ならば仮説を棄却し、係数βは有意であるとする。
【0094】
次に、ステップS7において、追加時寄与率演算手段21は、未追加変数群Pし属するp個の説明変数xαq+1(k)(k=1,…,p)についてすべて寄与率F(βαq+1(k))を算出したか否かを判定し、すべての説明変数xαq+1(k)についての算出が終了していないときはステップS4に戻り、すべての説明変数xαq+1(k)についての算出が終了したときは、次のステップS8に移行する。
【0095】
次に、ステップS8において、最大寄与率選定手段22は、追加時寄与率記憶手段20に格納された寄与率テーブルを参照し、寄与率F(βαq+1(k))が最大の説明変数xαq+1(k)を索出し、これを初期の追加候補説明変数xαq+1に設定する。
【0096】
次に、ステップS9において、追加基準判定手段23は、追加候補説明変数xαq+1の寄与率F(βαq+1)が、重回帰式に取り込む取込基準値Finより大きいか否かを判定する。当該取込基準値Finより大きい場合には、次のステップS10に移行し、当該取込基準値Finより大きくない場合には、変数取込処理を終了して、ステップS23に移行する。
【0097】
次に、ステップS10において、相関係数演算手段24は、変数群属性テーブルにおいて変数群属性が未追加変数群Pの他の各説明変数xを1つ選択し、追加候補説明変数xαq+1と、未追加変数群Pの他の各説明変数xとの相関係数rαq+1,jを順次算出する。
【0098】
次に、ステップS11において、追加判定手段25は、相関係数演算手段24が算出する相関係数rαq+1,jが所定の相関係数閾値rinより小さいか否かを判定する。
【0099】
相関係数閾値rinより小さい場合は、ステップS13において、全ての未追加説明変数群Pの説明変数xが選択されたか否かを判定し、まだ、選択されていない説明変数xがあれば、ステップS10に戻り、すべての説明変数xが選択されていれば、ステップS13において、変数群属性テーブルにおける当該追加候補説明変数xαq+1の変数群属性を追加済変数群Qに変更し、変数増加手段13における変数取込処理を終了し、次の変数除去処理(ステップS16)に移行する。
【0100】
一方、相関係数閾値rinより小さくない場合は、ステップS14において、追加判定手段25は、追加時寄与率記憶手段20を参照し、変数群属性が未追加変数群Pの説明変数のうち現在の追加候補説明変数の次に寄与率の大きい次候補説明変数があるか否かを検索する。そして、次候補説明変数がなければ、変数増加手段13における変数取込処理を終了し、ステップS23に移行する。また、次候補説明変数があるときは、現在の追加候補説明変数xαq+1を当該次候補説明変数に変更し、ステップS9に戻る。
【0101】
(変数除去処理)
変数除去処理については、従来のステップワイズ法と同様である。
【0102】
まず、ステップS16において、除去時寄与率演算手段31は、変数群属性記憶手段11に記憶されている変数群属性テーブルを参照し、変数群属性が追加済変数群Qである説明変数xαkを順次1つずつ選択する。
【0103】
次に、ステップS17において、除去時寄与率演算手段31は、当該選択した説明変数(以下「選択説明変数」という。)xαkを除く追加済変数群Qの説明変数(xα1,…,xαk−1,xαk+1,…,xαq)に、当該選択した説明変数xαkを追加する場合の寄与率F(βαk)を算出し、除去時寄与率記憶手段30に寄与率テーブルとして格納する。寄与率F(βαk)の算出は、変数取込処理における場合と同様である。
【0104】
次に、ステップSにおいて、除去時寄与率演算手段31は、変数群属性が追加済変数群Qである説明変数xαkをすべて選択したかを判定し、まだ選択していない説明変数xαkがあれば、ステップS16に戻り、すべての説明変数xαkについて寄与率F(βαk)を算出した場合には、次のステップS19に移行する。
【0105】
次に、ステップS19において、最小寄与率選択手段32は、除去時寄与率記憶手段30格納された寄与率テーブルを参照し、除去時寄与率演算手段31により算出される寄与率が最小の説明変数を、除去候補説明変数xminに選択する。
【0106】
次に、ステップS20において、除去基準判定手段33は、最小寄与率選択手段32により選択された除去候補説明変数xminの寄与率Fminが、重回帰式から除去する除去基準値Foutより小さいか否かを判定する。
【0107】
寄与率Fminが除去基準値Foutより小さい場合、ステップS21において、変数群属性記憶手段11に格納された変数群属性テーブルにおける当該除去候補説明変数xminの変数群属性を未追加変数群Pに変更し、追加済変数群Qの個数qを1だけ減少させ、未追加変数群Pの個数pを1だけ増加させる。そして、q=0となった場合には変数減少手段14における変数除去処理を終了して、次のステップS23に移行する。q>0の場合にはステップS16に戻って変数除去処理を繰り返し行う。
【0108】
一方、寄与率Fminが除去基準値Fout以上の場合、他に追加すべき説明変数がないか調べるため、再び変数取込処理(ステップS3)に戻る。
【0109】
最後に、ステップS23において、重回帰モデル出力手段7は、すべての選択済説明変数群Pの説明変数による重回帰係数を出力し、終了する。
【0110】
以上のように、本実施例の応答曲面モデル構築装置1によれば、ステップS10〜S15の処理において、追加候補説明変数xαq+1の重回帰式への取り込みを行う際に、未追加変数群Pの他の各説明変数xとの相関係数rαq+1,jを調べ、これらすべての相関係数rαq+1,jが相関係数閾値rinより小さい場合にのみ追加候補説明変数xαq+1の重回帰式への取り込みを行うことで、多重共線性を正確に考慮し、精度のよい応答曲面モデルの構築を行うことができる。
【0111】
図6は、実際のエンジンの多項式モデルの構築において、本実施例の応答曲面モデル構築装置1により重回帰モデルを求めた結果の一例である。
【0112】
ステップワイズ法を直接適用した場合(図10)と比較すると、全体的に回帰誤差が縮小し、また、目的変数が負値となるような異常値の出現が防止されていることがわかる。
【実施例2】
【0113】
図7は、本発明の実施例2に係る応答曲面モデル構築装置1の構成を表すブロック図である。本実施例では、図1の応答曲面モデル構築装置1の構成に加えて、重回帰モデル評価手段6が新たに追加されている点が異なる。他の構成は、実施例1と同様である。
【0114】
図8,図9は、実施例2の応答曲面モデル構築装置1によるエンジン制御パラメータ適合処理を表すフローチャートである。
【0115】
図8,図9において、図4,図5と同様の処理を行うステップについては同符号を付して説明は省略する。
【0116】
本実施例においては、ステップS1の前に、ステップS0において、高次説明変数生成
手段3は、高次の説明変数の最大次数hを1に初期化する。そして、ステップS1におおては、高次説明変数生成手段3は、最大次数hまでの高次の説明変数を算出し標本値テーブルに格納する。尚、h=1の場合には、高次の説明変数はないため、ステップS1においては高次の説明変数は算出されないことになる。
【0117】
そして、ステップS1〜S22までの処理は、実施例1と同様の処理が行われる。
【0118】
変数取込処理と説明変数除去処理(ステップS3〜S22)がすべて終了すると、次に、ステップS22aにおいて、高次説明変数生成手段3は、最大次数hが予め定められた最終値hmaxに達したか否かを判定し、達していない場合は、ステップS22bにおいてhを1だけ増加させて、ステップS1に戻る。最大次数hが最終値hmaxに達した場合には、次のステップS22cに移行する。尚、最終値hmaxは、必要となる可能性のある最大次数hがすべてカバーできる程度の値に適宜設定すればよく、通常は、hmax=3〜8の値に設定される。
【0119】
ステップS22cにおいて、重回帰モデル評価手段6は、最大次数hが1〜hmaxの場合において算出された各重回帰式の評価・選定を行う。ここでは、根平均自乗誤差(RMSE)による分析処理により評価を行う。
【0120】
まず、重回帰モデル評価手段6は、次式により、各最大次数hにおける根平均自乗誤差rを算出する。ここで、y^(n)は、式(12b)に示した目的変数の推定値である。
【0121】
【数14】

【0122】
そして、重回帰モデル評価手段6は、各最大次数h(k=1,…,hmax)の最大値rmaxを求める。次いで、根平均自乗誤差rに基づいて、次式により各最大次数hにおけるコストJを算出する。
【0123】
【数15】

【0124】
ここで、wは累乗の大きさに対する重み係数で、0〜1の予め所定の値に定めておく。また、wはRMSEに対する重み係数でありw+w=1である。
【0125】
そして、重回帰モデル評価手段6は、コストJが最も小さくなる最大次数hを選択する。
【0126】
最後に、ステップS23において、重回帰モデル出力手段7は、重回帰モデル評価手段6が選択した最大次数hに対する重回帰式の重回帰係数を出力し、終了する。
【0127】
このように、本実施例の応答曲面モデル構築装置1によれば、重回帰モデル評価手段6によって、最も適した最大次数hの重回帰式による重回帰モデルを選定でき、不必要に説明変数が増大することを防止することができる。
【符号の説明】
【0128】
応答曲面モデル構築装置1
測定データ記憶手段2
高次説明変数生成手段3
重回帰係数記憶手段4
説明変数選択手段5
重回帰モデル評価手段6
重回帰モデル出力手段7
変数群属性記憶手段11
変数群属性初期化手段12
変数増加手段13
変数減少手段14
変数選択処理制御手段15
追加時寄与率記憶手段20
追加時寄与率演算手段21
最大寄与率選定手段22
追加基準判定手段23
相関係数演算手段24
追加判定手段25
追加候補説明変数変更手段26
変数取込処理制御手段27
除去時寄与率記憶手段30
除去時寄与率演算手段31
最小寄与率選択手段32
除去基準判定手段33
変数除去処理制御手段34
エンジン101
制御パラメータ設定手段102
制御パラメータ測定手段103
特性値測定手段104

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの各種制御パラメータである1次の説明変数及びそれに対するエンジンの特性値である目的変数の測定値の組である測定値セットを測定回数だけ格納する測定データ記憶手段と、
各測定値セットについて、各制御パラメータの累乗項を含むk個(k=2,…,M;Mは重回帰式に取り込む説明変数の次数の最大値)の制御パラメータの積項からなる高次の説明変数を算出し、前記測定データ記憶手段に保存する高次説明変数生成手段と、
前記各説明変数から前記目的変数を予測する重回帰式の偏回帰係数及び切片である重回帰係数を記憶する重回帰係数記憶手段と、
前記測定データ記憶手段に格納されたすべての説明変数の中からから重回帰式による目的変数の予測に有効な説明変数を選択するとともに、選択した各説明変数による重回帰式の重回帰係数を算出し前記重回帰係数記憶手段に格納する説明変数選択手段と、を備え、
前記説明変数選択手段は、
各説明変数について、当該説明変数が、重回帰式に取り込まれない予定の未追加変数群に属するのか、重回帰式に取り込む予定の追加変数群に属するのかを示す変数群属性を登録する変数群属性テーブルが格納された変数群属性記憶手段と、
前記変数群属性テーブルの各説明変数の変数群属性を、すべて未追加変数群に初期化する変数群属性初期化手段と、
変数群属性が未追加変数群である説明変数のうち、予測に有効な説明変数の変数群属性を追加変数群に変更する変数取込処理を行う変数増加手段と、
変数群属性が追加変数群である説明変数のうち、予測に有効でない説明変数の変数群属性を未追加変数群に変更する変数除去処理を行う変数減少手段と、
前記変数取込処理及び前記変数除去処理を交互に繰り返し実行し、前記変数群属性テーブルにおいて変数群属性が追加変数群の説明変数が未追加変数群の説明変数よりも少なくなるか、又は前記変数取込処理において何れの説明変数の変数群属性も追加変数群に変更されなかった場合に繰り返し処理を終了する変数選択処理制御手段と、を備え、
前記変数増加手段は、
変数群属性が未追加変数群の説明変数を順次1つずつ選択し、選択した説明変数,変数群属性が追加変数群の説明変数,及び目的変数の測定値セットを前記測定データ記憶手段からすべて読み出し、読み出した測定値セットから重回帰係数を算出し、読み出した測定値セット及び当該重回帰係数から、選択した説明変数の寄与率を算出する追加時寄与率演算手段と、
前記変数群属性テーブルにおいて変数群属性が未追加変数群の説明変数のうち、前記追加時寄与率演算手段により算出された寄与率が最大の説明変数を初期の追加候補説明変数に選択する最大寄与率選定手段と、
前記追加候補説明変数の寄与率が、重回帰式に取り込む取込基準値より大きいか否かを判定し、当該取込基準値より大きくない場合、前記変数取込処理を終了する追加基準判定手段と、
前記追加基準判定手段が、当該追加候補説明変数の寄与率が取込基準値より大きいと判定した場合、当該追加候補説明変数と、前記変数群属性テーブルにおいて変数群属性が未追加変数群の他の各説明変数との相関係数を順次算出する相関係数演算手段と、
前記相関係数演算手段が算出する相関係数がすべて所定の相関係数閾値より小さい場合、前記変数群属性テーブルにおける当該追加候補説明変数の変数群属性を追加変数群に変更し、前記変数取込処理を終了する追加判定手段と、
前記相関係数演算手段が算出する相関係数の何れかが前記相関係数閾値より大きい場合、変数群属性が未追加変数群の説明変数のうち現在の追加候補説明変数の次に寄与率が大きい次候補説明変数がなければ前記変数取込処理を終了し、次候補説明変数があるときは、現在の追加候補説明変数を当該次候補説明変数に変更する追加候補説明変数変更手段と、
前記追加基準判定手段、前記相関係数演算手段、前記追加判定手段、及び前記追加候補説明変数変更手段による処理を繰り返し実行する変数取込処理制御手段と、を備え、
前記変数減少手段は、
前記変数群属性テーブルにおける変数群属性が追加変数群の説明変数を順次1つずつ選択し、当該選択した説明変数を除く追加変数群の説明変数に、当該選択した説明変数を追加する場合の寄与率を算出する除去時寄与率演算手段と、
前記除去時寄与率演算手段により算出される寄与率が最小の説明変数を、除去候補説明変数に選択する最小寄与率選択手段と、
当該除去候補説明変数の寄与率が、重回帰式から除去する除去基準値より小さい場合、前記変数群属性テーブルにおける当該除去候補説明変数の変数群属性を未追加変数群に変更し、それ以外の場合には前記変数除去処理を終了する除去基準判定手段と、
前記最小寄与率選択手段及び前記除去基準判定手段による処理を、前記除去基準判定手段が前記変数除去処理を終了するまで反復実行する制御を行う変数除去処理制御手段と、を備えたことを特徴とする応答曲面モデル構築装置。
【請求項2】
前記寄与率は、F値又はT統計量であることを特徴とする請求項1記載の応答曲面モデル構築装置。
【請求項3】
前記説明変数選択手段は、高次の説明変数の最大次数hが1からhmaxのそれぞれの場合について重回帰式の重回帰係数を算出し、前記重回帰係数記憶手段に格納するものであり、
前記重回帰係数記憶手段に格納された最大次数h(k=1,…,hmax)の場合の重回帰式のそれぞれに対して、根平均自乗誤差rを算出し、算出した各根平均自乗誤差rの最大値rmaxを抽出するとともに、各根平均自乗誤差r及びその最大値rmaxに基づいて、各最大次数hにおけるコストJを算出し、コストJが最大となる最大次数hに対する重回帰式を選択し出力する重回帰モデル評価手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の応答曲面モデル構築装置。
【請求項4】
コンピュータに読み込んで実行させることにより、コンピュータを請求項1乃至3の何れかに記載の応答曲面モデル構築装置として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−92760(P2012−92760A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241570(P2010−241570)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】