説明

急速継手

【課題】誤操作を回避する安全機構を有する高圧エア用の急速継手を提供する。
【解決手段】急速継手は、嵌入口縁部20に複数の保持孔21を形成したソケットボディ2と、その内部に配置するスプール4と、保持孔内に配置する複数のボール6と、ホディの先端部側に外環させたロックリング7と、その内側面に形成した環状カム71と、ボディ側のガイド凸部23とこれが係合する略L字状のロックリング側のガイド溝82とからなるガイド手段8と、とから構成している。そして、特定保持孔形状を長孔21aに形成すると共に長孔のボール移動量をスプール移動量よりも大きくし、かつ環状カムにはロックリングの周回移動時に特定ボールがプラグ9のくびれ部91からロックリング側へ移動できる切欠き73を形成する。また、ガイド手段はガイド凸部がガイド溝を係合移動時にその移動を阻止し得る係止部を周溝側に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、プラグとの接合離脱によって圧搾エアの通気の継断を簡易確実に行う急速継手に関し、特に、高圧エア仕様のプラグ離脱時の誤操作防止を機構的に保証する急速継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から圧搾エアを駆動源とするドライバや釘打機などの工具(以下、「エア工具」という。)が広く用いられている。これら手持ち作業用のエア工具への圧搾エアの供給は、圧搾エア生成源(通常、エアコンプレッサ)にエア供給管(以下、「ホース」という。)を連結することによって行っている。このホースの連結と分離は、1又は2程度の簡易な動作で確実に行うことができる急速継手と言われる連結手段が用いられている。
【0003】
この急速継手は、エアコンプレッサの供給側に配設したソケットと、エア工具側に配設したプラグとを連結または分離させるものである。その連結時の操作は、プラグをソケットに嵌入させると、その先端部がソケット内のセルフシール弁(一般に、スプール)を開放して通気路を形成すると共に、ソケットの嵌入口縁部付近の内側に進退可能にして配置したボールをプラグのくびれ部に付勢力をもって係合させるものである(「ロック状態」と称する。)。一方、分離時の操作は、ソケットの先端側に外環させたロックリングを前記プラグの嵌入方向へ移動させると、プラグがソケットから反発的に放出されると同時に通気路は気密に閉塞されるものである(「フリー状態」と称する。)。
【0004】
ところで、近年のエア工具(特に、釘打ち機)は、より高性能化から要求仕様のエア圧が従来の使用されてきた圧力(約0.8MPs/約8気圧程度、「一般圧」)からより高圧(約2.5MPs/約25気圧程度)な仕様に移行してきている。そのため従来仕様の急速継手をそのまま高圧仕様に適用した場合は、使用状況において問題があった。
【0005】
例えば、作業終了後のソケットとプラグとの分離を従来仕様の急速継手の操作で行った場合、プラグに接続したホース内の残留エアが高圧であるため、プラグからの吹き出し圧がより大きな反動力(衝撃力)となって想定外のホースの躍動やプラグの飛び跳ねを生じさせ、周囲の人や器物に損傷を与える危険性があった。
【0006】
この危険性の排除を目的として本願発明の出願人は、先に、従来の急速継手の操作構造を変えることにより、高圧エアを配慮した構成の継手機構として、先に特許文献1として提案しており、これについては特許を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−120964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先の特許文献1で提案した特許発明の急速継手用ソケットの安全機構の概要は、以下のとおりであった。
【0009】
すなわち、従来構成の急速継手ではプラグ放出のためのロックリングの指先操作が軸方向押圧の1段階操作であるのに対して、先行特許発明はロックリングの操作を直交する2方向の2段階操作を行わせるものであった。すなわち、一旦、ロックリングを外側面に沿った周回移動をさせてから、次の動作で軸方向(又は母線方向)に沿って略直交する線分上を移動させる行程を踏ませることを特徴としたものであった。この行程(略L字状)を経ることにより、屈曲位置(別言すると、周回方向の線分と軸方向の線分との線端の連結位置)において、スプールによって通気路の閉塞を完了させると共に、プラグとソケットとを完全に分離させずに接合面を若干離隔させて間隙を設け、この間隙からプラグ側のホースに残留していた高圧エアを漏出させるものであった。この状態を「半ロック状態」と称する。
【0010】
現在、上記特許発明は、実際に製品化されて高圧用の急速継手として、上記の危険性の回避に役立つものとなっている。
【0011】
この特許発明にかかるロックリングの適正な操作(指先による手動操作)は、2段階の操作行程(略直角に屈曲した行程)を踏むことにある。すなわち、初めに、軸方向への押し力を掛けることなく、ロックリングをソケットボディの外周面に沿って周回させる作用力(「周回力」と言う。)のみをもって所定角度だけ周回させた後に、次の行程で軸方向に沿って直線方向の作用力(「直動力」と言う。)をもって軸方向へ移動させるものである。この後行程の押し操作がトリガー(引き金)となってプラグは、ソケットボディから弾き出されるようにして分離(放出)されるものであった。
【0012】
しかし、現場作業者の中には、従来品と同様の操作である後行程の押し操作を意識して前段の周回操作においても押し力を掛けながら周回させる操作(「押し回し操作」と称する。)を行ってしまうことが多々あった。この場合、直角2方向の作用力の合力がプラグの嵌入方向に向いた傾斜方向となるため、ロックリングの周回方向から軸方向への移動を一気に行ってしまうおそれがあった。この場合、屈曲位置での停留時間が充分で無いため、ホース内の残留エアが完全に抜け切ること無くプラグが分離してしまう可能性があった。このことは、従来ほどの急激な反動力ではないが、少なからずプラグへの衝撃力が生じて、やはりホースの躍動やプラグの飛び跳ねが発生するおそれがあった。
【0013】
そこで本願発明は、先行特許発明に更なる改良を加えて、作業者の誤操作の回避を機構に保証すべく安全機構を設けた高圧エア用の急速継手を提供するものである。別言すると、本願発明の主眼は、先行特許発明の構成に、さらにフールプルーフ(fool proof:間違った操作ができないようにした保障機構。)を付加したものである。
【0014】
なお、本明細書におけるロックリングの操作の説明は、プラグを手前にしてプラグ側から操作する場合を想定して説明している。この場合は"押し操作"となる。逆に、ソケットを手前にしてソケット側から操作する場合は"引き操作"となる。
また「ロック」、「半ロック」、及び「フリー」の用語は、プラグを主体としてソケットへの関わり状況を示す語句として用いている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本願発明に係る急速継手(以下、「ソケット」という。)は、以下のように構成している。
【0016】
すなわち、プラグと嵌合離脱してエアの供給を継断する急速継手であって、該急速継手の外殻本体を構成するソケットボディ内に配置して通気路を開閉塞するスプールと、該ソケットボディの嵌入口縁部の周回位置に形成した複数の保持孔と、該各保持孔内に保持されてソケットボディ側面を内外側へ進退移動する複数のボールと、前記ソケットホディの先端部に外環させ、かつ先端側方向への直動力と外側面に沿って周回移動させる回転力とを備えたロックリングと、該ロックリングの内側面に形成して前記ボールの移動を規制する環状カムと、該環状カムの所定位置に形成してロックリングを周回移動させたときに、特定位置のボールを収納し得る窪みを持った切欠きと、前記ロックリングの内側面側、又はソケットボディの外側面側の何れか一方側にガイド凸部を形成すると共に、他方側に略軸方向に延長した縦溝と周回方向に延びる周溝とがその端部において屈曲部をもって連通接続したガイド溝を形成して、これらガイド凸部とガイド溝との係合によってロックリングの軸方向と周方向の移動を規制するガイド手段と、からなり、さらに、前記ソケットボディに形成した複数の保持孔から特定した保持孔の形状を、保持したボールを先端側に直動させ得る特定長さの長形保持孔に形成すると共に、該長形保持孔内のボールの移動量をスプールの移動量よりも大きく設定し、かつ上記環状カムにはロックリングを周回移動させたときに特定のボールに対応させてプラグのくびれ部からロックリング側へ移動できる程度の収納空間を持った切欠きを形成してなる。さらに、前記ガイド手段におけるガイド凸部が前記周溝の先端側の溝側面に当接して相対移動してきた場合に、当該ガイド凸部の縦溝側への相対移動を阻止し得る係止部を周溝側に形成したことを特徴としている。
【0017】
前記特定位置のボールが環状カムに形成した切欠きへ移動してプラグ側のホース内の残留エアの漏出が開始するが、この漏出は、周溝を屈曲部側に移動してきたガイド凸部が前記係止部に当接する前に開始させるようにしても良く、また係止部に係止した状態では残留エアの漏出が開始しないようにしても良い。
【0018】
また上記係止部の配設位置は、周回方向のガイド溝内であることが必要であるが、その位置は周溝から縦溝へ切り替わるガイド溝の屈曲部の近傍であれば良い。
【0019】
その係止部の形状は、周溝の溝側面から後端側に突出させた凸部としても良く、また先端側に窪んだ凹部としても良い。
【0020】
さらに、周溝の溝幅は屈曲部の係止部に向かって漸次幅広(だんだんと広くすること。)に形成した場合は、溝側面を倣うようして摺動移動(相対移動)してきたガイド凸部が確実に係止部(凹部又は凸部)に当接して、確実に係止させることができる。
【0021】
さらにまた、ガイド手段の縦溝の溝幅を、屈曲部から端部に向かって(先端側に向かって)漸次幅狭(だんだんと狭くすること。)しても良い。
【0022】
また、上記した縦溝は、その延長方向の端部をロックリングの内周面上の母線延長より所定距離だけ周方向の何れかの方向に移動させて構成した斜め縦溝に形成しても良い。
【発明の効果】
【0023】
上記構成により、本願発明に係るソケット(「急速継手」)は、次のような効果を奏する。
ロックリングを上記した適正な手動操作した場合は、すなわちロックリングに押し力を掛けることなく周回移動させた後に、押し力を掛けて軸方向へ移動させた場合は、半ロック状態において残留エアの排気を完了させることができるが、これに反して「押し回し操作」を行った場合は、ガイド凸部が係止部に当接してそれ移行の周回方向及び軸方向の移動が阻止される。この場合、一端、操作の手を緩めて再度行うが、押し回し操作である限り、再度係止部で阻止されることとなる。その結果、操作者は押し圧を掛けない回し操作を試みるなどして、適正な操作を認識することとなる。これにより不適正な操作を排除することができると共に適正操作を認識かつ習得させることができる。
【0024】
また、環状カムに形成した切欠きの周回方向の幅を広く形成して、ガイド凸部が係止部で係止された状態で、又はその近傍において残留エアの排気を行わせるようにした場合は、少なくとも誤操作においても安全性を確保することができる。
【0025】
これら係止部の設定により、操作者に適正な操作を認識させることができ、ホース内の残留エアによる急激な反動と、それによるプラグへの躍動や近隣への損傷被害を回避することができる。
【0026】
また、かかる本願発明の構成は、高圧エアに限らず、当然従来の一般圧にも適用可能であり、フールプルーフ効果は顕著なものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ソケットとプラグとのフリー状態を示す縦断面図である。
【図2】ソケットとプラグとのロック状態を示す縦断面図である。
【図3】ソケットとプラグとの半ロック状態を示す縦断面図である。
【図4】図1〜図3の各A−A、B−B、C−C線断面におけるロックリングとボールとの関わりを示す断面図であり、(A)はフリー状態、(B)はロック状態、(C)は半ロック状態、を示すものである。
【図5】ガイド手段の作用とボールの移動行程を示す一部切欠き斜視図(A)と、ガイド溝部分の拡大図(B)である。
【図6】ガイド手段におけるボールの位置を示す説明図であり、それぞれ(A)はフリー状態、(B)はロック状態、(C)は半ロック状態、を示すものである。
【図7】(A)はガイド手段の作用とボールの移動行程を示す説明図であり、同図(B)は環状カムの部分拡大横断面図である。
【図8】ガイド溝の他の実施例を示す説明図(A)、(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本願発明のソケットの具体的実施形態例について、図面に基づき詳細に説明する。
【0029】
図1〜図3は、各状態におけるソケット1とプラグ9との位置関係を示すソケット軸Cを含む縦断面であり、図1はソケット1とプラグ9とがフリー状態、図2はソケット1とプラグ9とがロック状態、及び図3はソケット1とプラグ9とが半ロック状態を表したものである。
【0030】
なお、以下の説明においては、ソケット1におけるプラグ9の嵌入口側を「先端側」(図1〜3の図面において右側)、その反対側を「後端側」(図1〜3の図面において左側)として定義する。
【0031】
図示符号1は、主に、金属製や硬質樹脂などの硬質耐圧性材で成形されたソケットである。
【0032】
該ソケット1は、外殻本体となる略円筒状(外観形態は多角形状も可能)のソケットボディ2と、該ソケットボディ2の後端側に連通接続するエアコンプレッサ(図示省略)と連結するためのジョイント環3と、ソケットボディ2の内周面に内接して軸Cに沿って摺動するスプール4と、前記ソケットボディ2の内周面に内接固定すると共にスプール4と相対摺動を可能にして環装させた円筒状の弁座環5と、前記ソケットボディ2の先端側の嵌入口縁部20から若干後方側に寄った位置の内側に周回状にかつ等間隔に配設した6個のボール6、6、6・・と、及びこれらのボール6を囲むようにしてソケットボディ2の先端側に環装させた円筒状のロックリング7と、から構成している。また、前記各ボール6は、ソケットボディ2の前記嵌入口付近における肉厚以上の直径を持った大きさに形成している。
【0033】
前記ソケットボディ2の後端側の内側面には、円筒状の弁座環5を内接させて配置すると共に該弁座環5にOリング51を環装して前記ジョイント環3と気密性を確保している。このジョイント環3は、エアコンプレッサ側と連結するための補助具であり、これにスイーベルリング31を介在させてエアコンプレッサからの耐圧性の柔軟管であるエア供給管(以下、「ホース」と称する。)Hsを回転自在に連結している。なお、該ホースHsに介在させることなくエアコンプレッサの高圧エアの供給ポート(出力口)に直接取り付ける場合は、このスイーベルリング31は必ずしも必要なものではない。
【0034】
前記各ボール6、6、6、・・は、該ソケットボディ2の先端側に形成した保持孔21に収納するようにして保持している。この保持孔21は、ソケット1の内外側面への進退移動が可能となるように貫通した開口形を成している。これらを各別に収納する6カ所の保持孔21、21、21、・・のうち1つおきの3カ所の特定の保持孔21は、ソケットの軸Cの方向に沿って嵌入口縁部20まで延びる長形状に形成して長形保持孔21aとしている。これは、この長形保持孔21aに収納保持したボール6aを、ソケットボディ2から内面側に突出したまま先端側へ直線移動させるためである。
【0035】
なお、この6個のボールの配置構成は、本実施例限りの例示であり、かつ長形保持孔21aの配置構成も、これに限定するものではない。したがって、ボールの個数とこれに対応した保持孔、及びこの内のいずれを長形保持孔とするかの仕様は、適宜に選択設定されるものである。
【0036】
また、ソケットボディ2の先端部の嵌入口縁部20には、ロックリング7の前方移動の終点規制するストッパリング22をフランジ状に取り付けている。
【0037】
さらに、ソケットボディ2の保持孔21より後端側へ所定距離だけ寄った外側面には、凸状のガイド凸部23を設けている。このガイド凸部23は、棒状体や、自転又は固定の小球体などで構成しており、後述するロックリング7に形成したガイド溝82と係合してロックリング7の挙動を規制するものである。
【0038】
スプール4は、有底の円筒状をなし、全長略中間に配置した外段部41aを境として後端側の外径を比較的小さくした小径シャンク部41bとし、先端側の外径を比較的大きくした大径シャンク部41cとしている。
【0039】
該小径シャンク部41bは、前記弁座環5に環状に内接して摺動可能に構成し、その側面には通気路Vを構成する通気孔42を開設している。この通気孔42から後端側へ寄った位置には、シールリング43を環装している。このシールリング43は、スプール4の摺動に伴って弁座環5と当接することにより、スプール4の先端側方向の移動死点を規定すると共に、通気路Vを遮断した場合の気密手段として機能するものである。
【0040】
また、大径シャンク部41cは、ソケットボディ2に内接して摺動可能に配置し、その内面形は嵌入するプラグ9が適合する形状である嵌入受口44とすると共に、嵌入した時のプラグ9の先端部が当接する内段部44aを有している。
【0041】
さらに、スプール4の外側には、外段部41aと弁座環5との間に軸方向への拡張付勢力(弾発力)をもったコイルばね45を環装している。これにより、フリー状態へ至る過程でスプール4の先端側への移動に伴ってプラグ9を弾発的に放出すると共に、弁座環5の後端縁部50がシールリング43と圧着して通気路Vの閉塞時の気密性を確保している。
【0042】
次に、本願発明のロックリング7は、少なくとも内側が円筒状の筒状(外側は多角形状等でも良い。)を成しおり、ソケットボディ2の嵌入口縁部20の外周側を囲むようにして取り付け配置している。該ロックリング7の先端側の内周面には、法線方向に環状に突出させた環状カム71を形成している。これによりソケットボディ2の先端側に収納保持したボール6、6、・・と当接して各ボール6の移動(側面の内外移動)を制御している。また、該ロックリング7の先端縁の内周面には、ボール6、6、・・をソケットボディ2の内周面から退避し得る空間をもった拡径内周面72を形成している。
さらに、環状カム71には、図4に示すように、ロックリング7がソケットボディ2に対して所定の回転角θ(実施例では約30度)だけ周回した時に、前記長形保持孔21aに保持されたボール6a以外の特定のボール6bが、ソケットボディ2の内周面から突出しない程度に移動し得る空間をもった切欠き73を、周回上で等間隔となる3カ所に形成している。
【0043】
さらに、ロックリング7の内側には、環状カム71とソケットボディ2の外側面との間に直動力をもった渦巻きばね74を、ソケットボディ2に環装するようにして配置している。該渦巻きばね74の一端部74aはロックリング7の内周面に、また他端部74bはソケットボディ2の外周面にそれぞれ固定している。これにより、渦巻きばね74は、ロックリング7を先端側へ略直線移動させる直動力(付勢反発力)として、及び周回方向へ移動させる周回力(付勢反発力)として作用する。すなわち、この渦巻きばね74の介在によって、ロックリング7には、矢印f方向への周回力と先端側への押し付け力(矢印e)の2種の力が定常的に作用し、この周回力は、前記切欠き73を、何れのボール6とも係合しない位置(図4(B)の状態)まで周回移動させる作用力となる。
【0044】
次に、ロックリング7の後端側の内周面には、ガイド手段8を配設している。
このガイド手段8は、図5に示すように、前記のガイド凸部23とガイド溝82との連係手段である。
【0045】
ガイド凸部23は、ソケットボディ2の所定の外側面に所定の突出高さを持って形成した凸状体であり、回転可能な埋め込み小球体、又は進出調整自在なピン体、等で構成している。
【0046】
一方、ガイド溝82は、ソケットボディ2に環装したロックリング7を軸方向に所定距離だけ直線移動させる案内溝(「縦溝」と言う。)82aと、周回方向に移動させる案内溝(「周溝」と言う。)82bとから成り、これらの一端部側どうしを連結して略L字状の連続した溝に形成したものである。この周溝82bは、後端側の溝側面を設けずに開放した状態としている。これはロックリング7の組み付け行程を考慮した便宜上のものであるため、組み付け次第では後端側にも溝側面を設けても良い。
【0047】
さらに、該L字の屈曲部(前記連結部)81には、周溝82bの先端側の溝側面82cから後端側に向けて突出した凸部の係止部83を形成している。この係止部83の突出量(長さ)はガイド凸部23の周回方向の相対移動(実際は、ガイド凸部23は停止しており、これに係合したガイド溝82の方が倣い移動するため「相対移動」と称した。)を係止させるに充分な突出量であれば良い。また、周溝82bの形成方向(溝延長方向)は、図5(B)に示すように、前記屈曲部81から、渦巻きばね74による反周回力の方向(矢印g)となる。
【0048】
かかる構成により、ガイド溝82におけるガイド凸部23の相対移動は、以下の2つの行程が考えられる。
【0049】
先ず、ロックリング7に押し力を掛けないで周回させた場合は、ガイド凸部23は周溝82bの後端側を移動する行程(矢印d2)を経て屈曲部81まで移動し、その後の押し力によって縦溝82a内を移動する(矢印d3)。
【0050】
一方、ロックリング7に周回方向の力と共に押し力を掛けながらの操作(上述した「押し回し操作」)をした場合には、ガイド凸部23は溝側面82cに接触しながら倣い移動(矢印d1)するため、係止部83に当接してそれ以上の周回移動が阻止されることとなる。この結果、ガイド凸部23は縦溝82aへ移行することができないため、ロックリング7は後端側の軸移動(矢印j)が阻止されてプラグ9を完全に離脱(フリー状態)させることができなくなる。
[本実施例の作用]
【0051】
次に、上記ガイド凸部23のガイド溝82内での相対移動に連動して、ソケットボディ2側の前記環状カム71とロックリング7側の前記切欠き73によって規制されるボール6、6、6・・・の作動(図5〜図7を参照。)と、その時のソケット1の作動状況について説明する。
(1)ロック状態における作動状況(図2、図4(B)を参照。)
【0052】
ロック状態は、プラグ9とソケット1とが気密性をもって強固に嵌合した状態を言う。このロック状態においては、前記したようにロックリング7には定常的に矢印f方向の周回力と先端側への押し付け力(矢印e)が作用している。
【0053】
この状態で、ガイド凸部23は、周溝82bの端部82eに位置し、全てのボール6は環状カム71によってソケットボディ2の内周面側に押し出された状態となる。この突出したボール6、6、6・・・の全てがプラグ9のくびれ部91に係合してプラグ9の移動を阻止している。これと同時に、プラグ9の先端部がスプール4の嵌入受口44の内段部44aを押圧し、スプール4はコイルばね45を撓ませながら(弾性エネルギーの蓄積)後端側へ押し付けられる(矢印c)。これにより、スプール4の外段部41aが弁座環5と近接又は当接した状態で静止して、プラグ9とソケット1との連結状態が強固に維持されると共に、スプール4の通気孔42が開放されて通気路Vが形成される。この状況が「ロック状態」における各構成要素の位置関係である。
(2)半ロック状態における作動状況(図3、図4(C)を参照。)
【0054】
半ロック状態は、プラグ9とソケット1との嵌合が緩んだ状態を言う。この状態では、手動によりロックリング7を渦巻きばね74の周回力(矢印f方向)に逆らって周回させて、ガイド凸部23が周溝82bと縦溝82aとの連結部、すなわち屈曲部81まで移動した状態である。ロックリング7は、図4(C)に表したように、内周面に形成した切欠き73が6個のボール6、6、6、・・の内の一つおきに配置した3個のボール6b、6b、6bと対応する位置まで周回移動する。このときプラグ9には、ソケット1内のエア圧とコイルばね45に蓄積された撓み力が付勢反発力となって、プラグ9に対して押し出し力(又は放出力)として作用し(矢印h)、くびれ部91の円錐面91aに当接したボール6、6、・・のうち切欠き73に対応した(3個の)ボール6bは、くびれ部91との係合から外れてソケットボディ2の内側面から外側へ押し出されて切欠き73内に押しやられる(図4(C)の状態)。
【0055】
一方、残りの3個のボール6aは、前記長形保持孔21aに収納保持されて、ソケットボディ2内に突出したまま(くびれ部91に係合したまま)長形保持孔21a内を先端側(嵌入口側)に移動させられる。このボール6aの移動にしたがって、プラグ9とこれが嵌合しているスプール4も先端方向へ移動(矢印a)することとなる。このとき、長形保持孔21a内のボール6aの移動量Saは、弁座環5に対するスプール4の移動量Sbより大きく(Sa>Sb)設定しているため、弁座環5がスプール4の通気孔42を閉じると共に、シールリング43と当接してソケット1側の気密を確保した後も、プラグ9が先端側へ相対的に若干移動Sc(Sa−Sb)する。その結果、スプール4の嵌入受口44とプラグ9との間に間隙46が形成されることとなる。そして、この間隙46を通ってプラグ9側のホースHpの内部に残留していた高圧エアが先端側へ排気(矢印i)される。この状態では、長形保持孔21aに保持されたボール6aがまだプラグ9のくびれ部91と係合した状態にあるため、プラグ9がソケット1から完全に分離することはない。この状況が「半ロック状態」における各構成要素の位置関係である。
【0056】
ここで、本願発明は、上述したように押し回し操作をしたときは、ロックリング7のガイド凸部23が、周溝82bに形成した係止部83と係合して縦溝82aへ移動が阻止される。この時、更に強固に力を加えても係止部83によってこれ以上の周回方向への移動が阻止される。この場合、操作者はロックリング7への操作力を緩めるのが一般的である。このとき定常的(常時)に付勢力として作用している周回力によってロックリング7は、上記したロック状態の初期位置の端部82e付近まで戻される(後述の場合はこの限りでない。)。この現象を繰り返すことにより操作者は誤操作に気付き、押し力を掛けることなくロックリング7を周回させた後、押し力を掛ける操作を習得することとなる。
【0057】
なお、本願発明の実施例では、押し回し操作をしてもガイド凸部23が係止部83に当接した状態、又は近接した状態においても残留エアを漏出させる構成を採っている。すなわち、特に、図5(A)、図6(C)、及び図7に示すように、ロックリング7の周溝82bの係止部83が、ガイド凸部23に当接、又は近接位置まで移動したときに、対応するボール6bが環状カム71の切欠き73に進入し得る程度まで切欠き73の幅W(周回方向間の距離)を広げている。
【0058】
かかる構成により、操作者は押し回し操作をした場合、ロックリング7は周回移動のみで停止してしまうが、その時点で半ロック状態となって残留高圧エアを漏出が起きることとなる。しかし、これ以上、ロックリング7は軸方向へ移動をしないため、やはり操作者は操作力を弱めざるを得なくなり、ロックリング7は渦巻きバネ74の直動力(付勢反発力)によって押し戻されることとなる。この場合は、上記したロック状態の初期位置の端部82e付近まで戻ることはないが、再度の操作で押し力を掛けることなくロックリング7を周回させてから、押し力を掛けてロックリング7を軸移動させることを習得することになる。
(3)フリー状態における作動状況(図1、図4(A)を参照。)
【0059】
フリー状態は、プラグ9がソケット1と完全に分離した状態を言う。また視点を変えれば、プラグ9がソケット1に向かって(矢印b)嵌合する以前の初期状態と言うことができる。
上記(2)の半ロック状態からプラグ9を完全に分離させるには、従来と同様に上記渦巻きばね74によって定常的に作用している周回力(矢印f方向)に逆らうようにロックリング7を指先手動で後端側へ移動(このとき上記屈曲部81の位置にあるガイド凸部23は縦溝82aの端部82dまで移動)させると、拡径内周面72が長形保持孔21aに保持されていた3個のボール6a、6a、6a、を外側に移動させる。これにより、3個のボール6a、6a、6a、は、くびれ部91から外れて拡径内周面72側に移動する。この結果、他の3個のボール6bは半ロック状態において既にプラグ9のくびれ部91から外れているため、全てのボール6、6、6、・・・がくびれ部91の係合から外れたこととなる。これに連動して、スプール4と弁座環5との間に配置したコイルばね45の直動力(付勢反発力)によって、プラグ9は嵌入受口44から弾発的に放出される。これと共に嵌入受口44の先端部44bが、先端側に進出して、全ボール6、6、・・のソケットボディ2内への突出を規制すると共に、長形保持孔21a内のボール6aが環状カム71の前方側の段部面71aに当接し、ロックリング7は、ソケットボディ2の先端側の開口部から若干後退した位置で停止することとなる。この状況が「フリー状態」における各構成要素の位置関係である。この状態では、渦巻きばね74は圧縮されて拡張力(付勢力)を蓄えた状態にある。
以後、分離と連結においては、上記の各行程が繰り返されることになる。
[他の実施例の可能性]
【0060】
本実施例のガイド手段8は、ソケットボディ2に配設したガイド凸部23と、ロックリング7の内側面に形成したL字状のガイド溝82と、から構成しているが、ガイド凸部23をロックリング7の内側面に配設し、ガイド溝82をソケットボディ2の外側面に形成しても良い。
【0061】
また、ガイド溝82の係止部83を凸状に限定するものではなく、図8の(A)に示すように、溝側面82cから先端側に窪んだ凹部83aに形成して良い。
【0062】
さらに、これらに加え、図8の(B)に示すように、ガイド手段8の縦溝82aをその端部82dから周溝82bとの接続部に向かって、漸次幅広として形成しても良い。 これによりガイド凸部23の軸方向から周回方向への移行(フリー状態からロック状態への移行)が円滑となる。なお、このとき、この縦溝の形状に対応して、ロックリング7の切欠き73の幅の一部を広げボール6bが切欠き73から環状カム71に移行し易いようにすることが望ましい。
【0063】
加えて、縦溝82aの溝延長方向は、必ずしもロックリング7(又はソケット1)の軸Cと平行である必要はなく、縦溝82aの端部82dを、ロックリング7の内周面上を所定距離だけ周方向へ移動させてもよい。別言すると、図8(A)に示すように、ロックリング7の母線mに対して交差角を持った斜め方向に延びる斜め縦溝82fとしても良い。例えば、上記した実施例では周溝に対する縦溝の交差角αが90°であるがその他に、この前後の角度、α=88°、α=92°等としてもよい。
このように若干の交差角を持たせて斜め縦溝82aに設定することにより、例えば、α<90°に設定した場合は、分離時の行程である周溝から縦溝へ移動させるための操作法を明確に意識させることができる効果を有する。一方、α>90°に設定した場合は、接合時の行程である縦溝から周溝への移動行程を円滑に行うことができる効果を有する。
なお、αの設定範囲(90°の前後範囲)は、前記した切欠き73におけるボール6の移動と干渉しない範囲に制限する必要がある。
【符号の説明】
【0064】
1 ソケット
2 ソケットボディ
20 嵌入口縁部
21 保持孔
21a 長形保持孔
22 ストッパリング
23 ガイド凸部
3 ジョイント環
31 スイーベルリング
4 スプール
41a 外段部
41b 小径シャンク部
41c 大径シャンク部
42 通気孔
43 シールリング
44 嵌入受口
44a 内段部
44b 先端部
45 コイルばね
46 間隙
5 弁座環
50 後端縁部
51 Oリング
6 ボール
6a 長形保持孔に保持されたボール
6b 切欠きに対応したボール
7 ロックリング
71 環状カム
71a 段部面
72 拡径内周面
73 切欠き
74 渦巻きばね
74a 一端部(ロックリング側)
74b 他端部(ソケットリング側)
8 ガイド手段
81 屈曲部
82 ガイド溝
82a 縦溝
82b 周溝
82c 溝側面
82d (縦溝の〜)端部
82e (周溝の〜)端部
82f 斜め縦溝
83 係止部
83a 凹部
9 プラグ
91 くびれ部
91a 円錐面
Hs ホース(ソケット側)
Hp ホース(プラグ側)
C ソケット軸
m (ロックリングの)母線
Sa 長形保持孔内のボールの移動量
Sb スプールの移動量
Sc プラグの相対移動量
V 通気路
W 切欠きの幅(周方向間の距離)
矢印f ロック状態に至るロックリングの周回方向
矢印g フリー状態に至るロックリンの周回方向
矢印d1 横溝内の後端側寄りの行程
矢印d2 横溝内の溝側面に倣った行程
矢印d3 縦溝内の移動の行程
α 交差角
θ 回転角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラグと嵌合離脱してエアの供給を継断する急速継手であって、
該急速継手の外殻本体を構成するソケットボディ内に配置して通気路を開閉塞するスプールと、
該ソケットボディの嵌入口縁部の周回位置に形成した複数の保持孔と、
該各保持孔内に保持されてソケットボディ側面を内外側へ進退移動する複数のボールと、
前記ソケットホディの先端部に外環させ、かつ先端側方向への直動力と外側面に沿って周回移動させる回転力とを備えたロックリングと、
該ロックリングの内側面に形成して前記ボールの移動を規制する環状カムと、
該環状カムの所定位置に形成してロックリングを周回移動させたときに、特定位置のボールを収納し得る窪みを持った切欠きと、
前記ロックリングの内側面側、又はソケットボディの外側面側の何れか一方側にガイド凸部を形成すると共に、他方側に略軸方向に延長した縦溝と周回方向に延びる周溝とがその端部において屈曲部をもって連通接続したガイド溝を形成して、これらガイド凸部とガイド溝との係合によってロックリングの軸方向と周方向の移動を規制するガイド手段と、からなり、
さらに、
前記ソケットボディに形成した複数の保持孔から特定した保持孔の形状を、保持したボールを先端側に直動させ得る特定長さの長形保持孔に形成すると共に、該長形保持孔内のボールの移動量をスプールの移動量よりも大きく設定し、かつ上記環状カムにはロックリングを周回移動させたときに特定のボールに対応させてプラグのくびれ部からロックリング側へ移動できる程度の収納空間を持った切欠きを形成してなり、
さらに、前記ガイド手段におけるガイド凸部が前記周溝の先端側の溝側面に当接して相対移動してきた場合に、当該ガイド凸部の縦溝側へのさらなる相対移動を阻止し得る係止部を周溝側に形成したことを特徴とする急速継手。
【請求項2】
前記特定位置のボールがプラグのくびれ部からソケットリング側へ移動して前記切欠きへの移動開始が、
周溝を相対移動してきたガイド凸部が前記係止部への適合前であることを特徴とする請求項1記載の急速継手。
【請求項3】
周溝側に形成した係止部が、
周溝の屈曲部の近傍であることを特徴とする請求項1、又は2記載の急速継手。
【請求項4】
周溝側に形成した係止部が、
周溝の溝側面から後端側に突出した凸部であること特徴とする請求項1、2、又は3記載の急速継手。
【請求項5】
周溝側に形成した係止部が、
周溝の溝側面から先端側に窪んだ凹部であることを特徴とする請求項1、2、3、又は4記載の急速継手用ソケット。
【請求項6】
周溝の溝幅が、
屈曲部の係止部に向かって漸次幅広であることを特徴とする請求項1、2、3、4、又は5記載の急速継手。
【請求項7】
縦溝の溝幅を、
屈曲部から端部に向かって漸次幅狭であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、又は6記載の急速継手。
【請求項8】
縦溝が、その延長方向の端部をロックリングの内周面の母線より所定距離だけ周方向の何れかの方向へ移動させて構成した斜め縦溝であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、又は7記載の急速継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−144914(P2011−144914A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8415(P2010−8415)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(594069742)株式会社斎藤商会 (9)
【Fターム(参考)】