説明

急速膨張溶液により固体上に超疎水性表面を調製する方法

本発明は、固体基材上に超疎水性表面を調製する方法であって、(a)容器中に加圧流体の形態で溶媒を供給するステップであって、前記流体が、圧力の減少と共に溶解力の減少を示すステップと、(b)疎水性物質を溶質として前記溶媒に添加することにより、前記溶媒および前記溶質の溶液を前記容器中に得るステップであって、前記物質が、前記加圧流体に溶解し、前記流体の膨張後に結晶化/析出する能力を有するステップと、(c)少なくとも1個のオリフィスを前記容器上に開口させることにより、加圧溶液を前記容器から流出させ、外気中で、または前記容器内より圧力が低い膨張チャンバー中で減圧させるステップであって、それにより前記溶質が粒子を形成するステップと、(d)前記基材上に前記粒子を堆積させることにより、超疎水性表面を得るステップとを含む方法を指し示す。これにより、減圧の結果急速に膨張する加圧流体は、超疎水性表面を調製するために使用され、それにより該表面の調製を促進する。その上、本発明は、基材上に超疎水性表面を調製するための配置、本発明の方法で調製した超疎水性膜、および超疎水性膜をその上に堆積させた基材を指し示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超疎水性表面に関しており、広範な材料上にそのような表面を作製する方法を提供する。更に、本発明は、基材上に超疎水性表面を調製するための配置、本発明の方法で調製した超疎水性膜、および超疎水性膜をその上に堆積させた基材を指し示す。
【背景技術】
【0002】
ある種の技術的プロセスおよび作製手順、ならびに日常的な多くの状況において、水に曝された後でも撥水性を保持するに十分に安定である、高撥水性の表面を有する物体を利用することが、決定的に重要である。分子レベルで滑らかで平面的な、雲母およびガラスの表面のような多様な基材表面は、極性末端基を有する脂質分子もしくはフッ化炭素の単分子膜の堆積などの十分に確立した方法によって、または基材表面上に前段階で堆積させておいた金薄層のアルキルチオール処理のような何らかの特定の化学反応によって、疎水性にすることができる。このようにして、滑らかな基材表面上に存在する水滴に対する接触角は、最大約100〜120度に上げることができる。
【0003】
しかし、以前から、コロイド的な長さ尺度、即ち約10-8〜10-5mで幾何学的な構造をした基材表面を用いることにより、理論的最大値の180度に実際に近づいた、接触角の遥かに高い値さえも実現できることが判明していた。言い換えると、これに関して、生成した疎水性表面が、水と疎水性表面との接触面を相当程度に拡大する凹凸を有するならば有利となる。明らかに、これは、水との実際の接触面が、投影した肉眼的表面より遥かに大きいことを意味しており、水と炭化水素との界面自体は、約50mJ/m2の相対的に低い自由表面エネルギーを特徴とする事実にも関わらず、その接触面は、完全な(均一な)濡れには熱力学的に不利になることを示唆している。その結果、水相と疎水性表面との間には、多くの薄いエアポケットが存在する(不均一な濡れ)。この状況では、約72mJ/m2の表面張力を有するほぼ平面的な水-空気界面は、疎水性表面を表す「山形風景」の高いピークに付着したままであるが、その谷は、空気で満たされている(図1)。Cassie and Baxter (1)およびWenzel (2)により公表された論文を参照されたい。
【0004】
純水に対して約150〜180度の間の範囲に接触角を示す、上記考察した種類の固体表面は、超疎水性表面と一般に表現される。自然自体から得られる有名な例は、ハス植物(Nelumbo nucifera)の葉である。水平面からごく僅か逸れた箇所があると、水滴が、たちまち超疎水性表面上を転がることにより、容易に移動できる様子は目覚しい。この挙動の理由は、固体表面の完全に濡れた部分しか寄与しないために、水滴を表面に結合する全付着力が比較的弱いことである。小さな水銀滴の挙動の類似性も明白であるが、この場合には、主として、球形からの大きな逸れを妨げる水銀滴の高い表面張力の結果、付着力が小さくなる。更に、超疎水性表面は、概して「自浄性」であるが、これは、表面に最初に付着するチリやゴミの粒子が、表面上に撒かれた水滴に移されていき、次いで、水滴が表面から転がり落ちるときに除かれることを意味する。
【0005】
Ondaおよび共同研究者(3)は、基材表面上に溶融ワックス(アルキルケテンダイマー、AKD)を塗り付けた後、結晶化させることに基づいた、ガラスおよび金属表面を超疎水性にする方法を考案した。更に、日本人研究者のグループは、Pt/Pd表面上に超疎水性AKD膜を形成し、それによりPt/Pb膜にフラクタル構造を移すことに基づく、特許出願を出した(4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでの努力にも関わらず、高撥水性の材料および表面の制御を改善し、その応用を大規模化することにより、生産を促進すること、ならびに材料使用量を制限することに対して、当技術分野には依然として必要性が存在する。
【0007】
したがって、本発明の目的は、こうした要求を満足させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様において、本発明は、固体基材上に超疎水性表面を調製する方法であって、
(a)容器中に加圧流体の形態で溶媒を供給するステップであって、加圧流体が、圧力の減少と共に溶解力の減少を示すステップ、
(b)疎水性物質を溶質として溶媒に添加することにより、溶媒および溶質の溶液を容器中に得るステップであって、疎水性物質は、加圧流体に溶解し、加圧流体の膨張後に結晶化/析出する能力を有するステップ、
(c)少なくとも1個のオリフィスを容器上に開口させることにより、加圧溶液を容器から流出させ、外気中で、または容器内より圧力が低い膨張チャンバー中で減圧させるステップであって、それにより溶質が粒子を形成するステップ、
(d)基材上に粒子を堆積させることにより、超疎水性表面を得るステップ
を含む方法を指し示す。
【0009】
これにより、減圧の結果急速に膨張する加圧流体は、超疎水性表面を調製するために使用され、それにより該表面の調製を促進する。
【0010】
好ましくは、溶媒は、CO2、N2、Ar、Xe、C3H8、NH3、N2O、C4H10、SF6、CCl2F2またはCHF3などの超臨界流体、好ましくはCO2である。
【0011】
一実施形態では、該流体は、超臨界相から流体/気体相へ1/10以下に減少する溶解力を示す。
【0012】
一実施形態では、容器内の流体の圧力は、50〜500バール、好ましくは150〜300バールの区間にある。
【0013】
溶媒が超臨界流体である場合、容器内の流体の圧力および温度は、圧力が低下した際に流体の急速な膨張を可能にするために、流体の臨界値を超えていることが好ましい。
【0014】
好ましくは、疎水性溶質は、水に対して90°を超える固有接触角を示し、AKDなどのワックス、ステアリン、ステアリン酸、蜜蝋などの長い飽和炭化水素鎖を含有する物質、またはポリエチレンおよびフッ素化ポリマーなどのプラスチック性物質から選択される。本発明での使用に適した他の任意の疎水性溶質も、使用し得る。
【0015】
更に、該溶液は、超臨界溶媒の消費を減少させ、それにより当該プロセスをより有効でより低コストにするために、溶媒/溶質の組合せの飽和水準に近いことが好ましい。
【0016】
溶液の温度は、溶液の特定の成分、即ち、溶媒、溶質および他の任意の添加成分の組合せに応じて、30〜150℃、好ましくは40〜80℃の区間に入れることができる。最も好ましくは、その温度は、溶質の融点より高い。
【0017】
一実施形態では、超疎水性表面の柔軟な調製を可能にするために、複数のオリフィスが、容器上に開口される。
【0018】
更に、オリフィス(複数可)は、堆積時に適当な表面が覆われるように、適切に設計される。例えば、オリフィス(複数可)は、円形などのノズルを含み得る。
【0019】
オリフィスから基材までの距離は、周囲条件、および超疎水性表面の所望の性質に応じて、0.5〜100cm、1〜60cm、好ましくは1〜6cm(10〜60mm)の区間に入れることができる。
【0020】
その上、膨張チャンバーの圧力は、膨張チャンバーに入った際の溶媒の急速な膨張を可能にするために、通常、溶媒の蒸発限界圧未満で真空より高い。膨張チャンバーの選定圧も、超疎水性表面の所望の性質に関して選定される。一実施形態では、膨張チャンバーの圧力水準は、周囲圧力である。
【0021】
更に別の実施形態では、形成される粒子は、10nm〜100μmのサイズ範囲に実質的に入る。
【0022】
また別の実施形態では、溶質は、溶媒に連続的に添加されることにより、例えば、大きな疎水性表面の調製が可能になる。
【0023】
また、基材は、その調製の促進、および/または溶質材料の使用に関するその調製の経済性向上を図るために、堆積中に移動またはロール供給することができる。
【0024】
第2の態様において、本発明は、基材上で超疎水性表面を調製するための配置であって、少なくとも500バールに耐えるべき加圧可能な容器、および膨張チャンバーを含み、該容器は、超臨界流体などの溶媒と、結晶性または析出性物質の形態を取る溶質との溶液を含有するように配置されており、該容器は、加圧溶液の流出部を膨張チャンバー中に誘導するように構成された、少なくとも1個のオリフィスを更に含有し、膨張チャンバーは、結晶性または析出性物質が粒子を形成するために、溶液を減圧(または蒸発)させるように配置されており、粒子は、試料保持具上に載せた基材上に堆積する、配置を指し示す。
【0025】
一実施形態では、膨張チャンバーは、溶媒が加圧可能な容器にリサイクルされるように、配置されている。これにより、溶媒の使用は、経済および環境問題のために制限することができる。
【0026】
膨張チャンバーは、ガスおよび/または溶媒を放出するための少なくとも1個のバルブを含み得る。
【0027】
別の実施形態では、該容器は、溶質の溶液への連続的添加を可能にするように配置されている。これにより、例えば、大きな表面の調製に適した配置が提供される。
【0028】
また別の実施形態では、試料保持具は、調製の促進、および/または溶質材料の使用に関する調製の経済性のために、基材上での堆積中に移動またはロール供給されるように構成される。
【0029】
第3の態様では、本発明は、本発明の方法で調製される超疎水性膜を指し示す。
【0030】
一実施形態では、超疎水性膜は、10g/m2未満、好ましくは約1g/m2の表面密度を有する。これにより、溶質材料の使用量を制限することによって、環境および経済問題が満足される。膜の厚さは、10μm程度である。
【0031】
第4の態様では、本発明は、本発明による超疎水性膜をその上に堆積させた基材を指し示す。
【0032】
例えば、基材は、紙、プラスチック、ガラス、金属、木材、セルロース、シリカ、炭素テープ、布地および塗料から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】約72mJ/m2の表面張力を有し、疎水性表面を表す「山形風景」の高いピークに付着したままのほぼ平面的な水-空気界面を、一方で、空気で満たされている谷と共に示す図である。
【図2】本発明の方法で作製され、凝集したフレーク状微粒子からなる典型的な膜を示す図である。
【図3】超臨界溶液の急速膨張用装置の概要を示す図である。
【図4a】使用した紙について取ったXPSスペクトルを示す図である。以上から、本発明に従って曝された表面は、AKDで完全に覆われていることが明らかに示される。ラインC1sおよびO1sの対応する結合エネルギー(BE)値は、Table 3(表3)(図5)に見出される。
【図4b】使用した紙について取ったXPSスペクトルを示す図である。以上から、本発明に従って曝された表面は、AKDで完全に覆われていることが明らかに示される。ラインC1sおよびO1sの対応する結合エネルギー(BE)値は、Table 3(表3)(図5)に見出される。
【図4c】使用した紙について取ったXPSスペクトルを示す図である。以上から、本発明に従って曝された表面は、AKDで完全に覆われていることが明らかに示される。ラインC1sおよびO1sの対応する結合エネルギー(BE)値は、Table 3(表3)(図5)に見出される。
【図4d】使用したAKDについて取ったXPSスペクトルを示す図である。以上から、本発明に従って曝された表面は、AKDで完全に覆われていることが明らかに示される。ラインC1sおよびO1sの対応する結合エネルギー(BE)値は、Table 3(表3)(図5)に見出される。
【図4e】使用したAKDについて取ったXPSスペクトルを示す図である。以上から、本発明に従って曝された表面は、AKDで完全に覆われていることが明らかに示される。ラインC1sおよびO1sの対応する結合エネルギー(BE)値は、Table 3(表3)(図5)に見出される。
【図4f】使用したAKDについて取ったXPSスペクトルを示す図である。以上から、本発明に従って曝された表面は、AKDで完全に覆われていることが明らかに示される。ラインC1sおよびO1sの対応する結合エネルギー(BE)値は、Table 3(表3)(図5)に見出される。
【図4g】RESS噴霧表面について取ったXPSスペクトルを示す図である。以上から、本発明に従って曝された表面は、AKDで完全に覆われていることが明らかに示される。ラインC1sおよびO1sの対応する結合エネルギー(BE)値は、Table 3(表3)(図5)に見出される。
【図4h】RESS噴霧表面について取ったXPSスペクトルを示す図である。以上から、本発明に従って曝された表面は、AKDで完全に覆われていることが明らかに示される。ラインC1sおよびO1sの対応する結合エネルギー(BE)値は、Table 3(表3)(図5)に見出される。
【図4i】RESS噴霧表面について取ったXPSスペクトルを示す図である。以上から、本発明に従って曝された表面は、AKDで完全に覆われていることが明らかに示される。ラインC1sおよびO1sの対応する結合エネルギー(BE)値は、Table 3(表3)(図5)に見出される。
【図5】(Table 3(表3))非処理紙、AKDおよび処理紙のC1sおよびO1sラインのピーク値を示す図である。(「FWHM」は半値全幅、「AC」は原子濃度である)
【発明を実施するための形態】
【0034】
定義
「RESS」とは、超臨界溶媒の急速膨張を意味する。
【0035】
「超疎水性表面」とは、当業者に知られているように、液滴法に従って測定した、150°を超える水に対する見掛け接触角を示す表面を指す。更に、「超疎水性表面」は、体積5μl以上(球形滴として直径およそ2mm以上に相当する)の水滴について、水平に対して測定した5°未満の滑り角を有する。
【0036】
「滑り角」とは、表面上に堆積した所与の液体で所与のサイズの小滴が、滑り始めるまたは転がり始めるために、固体を傾けねばならない角度を指す。
【0037】
「加圧流体」とは、圧力に曝されることにより、液体形態で存在する溶媒を指す。
【0038】
「溶解力」とは、溶媒中に様々な溶質を溶解する能力と定義される。溶解力は、溶媒の圧力によっても変化する。本出願におけるように、即ち、加圧溶媒/溶質をオリフィスから膨張チャンバー中に放出する場合のように、圧力を減少させることにより、溶解力は低下することになろう。
【0039】
超臨界流体は、予想外に高い溶解力を備えており、その溶媒が、超臨界段階から流体/気体段階へ移るとき、流体/気体の溶解力は低下する。溶解力は、流体/気体相より超臨界相では、通常少なくとも10倍高く、流体/気体相より超臨界相では、少なくとも100倍または1000倍高いことさえあり得る。
【0040】
「加圧流体に溶解する」とは、溶質が、少なくとも0.1重量%程度、しかし、好ましくはより高く、10重量%程度の溶解度を示すことを意味する。
【0041】
「流体の臨界値」とは、超臨界流体に関しては、その温度および圧力を超えると、臨界流体が超臨界形態となる限界値を意味する。圧力および/または温度を、臨界流体が臨界限界値未満となるように低下させると、臨界流体は、液体または気体の形態に移行することになろう。
【0042】
「流体の膨張後に結晶化または析出する」能力を有するとは、溶質が、減圧/膨張時に固体粒子を形成すると見込まれ、その粒子が表面上に適切に堆積することを意味する。
【0043】
「容器」とは、好ましくは少なくとも500バールまでの水準に内容物の加圧を可能にし、内容物を放出させる少なくとも1個のオリフィスを備えた、任意の種類の容器または入れ物を意味する。
【0044】
「オリフィス」とは、容器の加圧内容物を制御可能に周囲環境へ放出させる、ノズルなどの容器の開口部を意味する。
【0045】
「溶液の蒸発」および「蒸発する」とは、溶媒の溶解力が減少して、溶質の結晶化または析出を起こし、粒子を形成するように、溶媒が膨張することを意味する。
【0046】
「減圧」とは、チャンバー内の圧力が低下するときを意味する。
【0047】
「膨張チャンバー」とは、溶媒の膨張が可能であり、そのため溶質の結晶化が可能である、容器外のチャンバーまたは環境を意味する。場合によっては、温度および/または圧力を膨張チャンバー内で制御することにより、膨張、結晶化およびその後の粒子の堆積を更に制御することもできる。
【0048】
「結晶性物質」とは、当該物質が溶解している溶媒の急速な膨張時に、結晶化/析出し、粒子を形成する能力を有する物質を意味する。
【0049】
「試料保持具」とは、結晶化粒子で覆おうとする基材を制御可能に保持する配置物を意味する。
【0050】
したがって、本発明は、ガラス、プラスチック、紙、木材、金属などから作製される商業的に重要な基材上に、好ましくはたった1つの処理段階で超疎水性表面を調製する方法に関する。本発明の現状の好ましい方式によれば、圧力の減少と共に溶解力の大きな減少を示す、超臨界流体、特に超臨界二酸化炭素などの加圧流体を含む処理溶液の調製から開始する。
【0051】
疎水性溶質としては、適切な結晶性物質、即ち、(i)水に対して90°を超える固有接触角を示し、(ii)選定した加圧流体中に溶解し、(iii)流体の急速な膨張後に、結晶化/自己組織化して、例えば、フレーク、棒または他の形態などに形作られる粒子になる、任意の固体物質が使用される。この物質は、以後本文書では、適切な結晶性物質(SCS)と表現することにする。重要な亜群は、AKDのようなワックス、ならびにステアリン、ステアリン酸および蜜蝋などの長い飽和炭化水素鎖を含有する他の物質である。
【0052】
加圧流体の重要な要件は、SCSが、加圧条件下で該流体に溶解すべきこと、および該流体は、減圧(即ち、「急速膨張」)中に蒸発することにより、SCSの粒子形成を起こすべきことである。超臨界流体を加圧流体として使用する場合、温度および圧力は、この溶媒の臨界値を超えなければならない。二酸化炭素については、これらの値は31.1℃および73.8気圧である。温度および圧力を超臨界領域内で変化させることにより、流体の溶媒性質(例えば、密度)は、広い範囲内で変化させることができる。しかし、実際的な理由から、選定した加圧流体/SCSの組合せの飽和水準に近い溶液で操作することが、普通は好ましい。ナノ材料および超臨界流体の主題に関する総説は、参考文献(5)に見出される。幾つかの典型的な超臨界流体の臨界温度および圧力については、下記の表1も参照されたい。
【0053】
【表1】

【0054】
次の処理段階では、SCSが加圧流体中に溶解し終えた際に、加圧流体/SCS混合物を含有する加圧容器上で小型オリフィスを開放し、その結果、SCS溶解流体が、1個または複数のノズルを介して外気中、または低圧の膨張チャンバー中に急速に流れ、それにより、流体は直ちに蒸発し、小さな粒子、例えば、SCSのフレークまたは他形状の微粒子が、好ましくはサイズ範囲10nm〜100μm、典型的には寸法5×5×0.1μmで形成されるが、他の寸法でも支障ない。これらの粒子は、固定も移動も可能な処理対象の基材表面に高速で衝突し、相対的に大きなSCS-基材接触面が形成される。基材に対するファンデアワールス力および他の発生表面力により得られる付着力は、実用時の粒子の粘着を保証するのに普通十分である。しかし、数種の基材を処理するためには、粘着テープで単純な剥離実験を行うことにより、付着強度を試験しなければならないこともある。付着力が弱過ぎると見なされる場合、例えば、表面の粗さの増加および/または表面に対する結合性が改良された中間表面層の適用によって、適切な表面改質段階を加える必要があるとも思われる。
【0055】
SCSの高速度は、加圧溶媒/溶質と膨張チャンバー内圧力との差により生み出され、その差は、1バールの場合もあるが、5、10、20、40、60、80、100、150、200、250、300、400などの、または500バールにも及ぶ、より大きな差が好ましい。
【0056】
本発明の更なる実施形態によれば、上記バッチ式の噴霧プロセスに対する代替法が、SCSを加圧流体中に連続的に溶解し、基材上に噴霧する連続プロセスとして、提供される。例えば、SCSを溶融して、加圧流体の流れが底部から頂部へと進む連続式向流抽出カラムの中央部に、ポンプで供給することができる。カラムの頂部から、SCS/加圧流体混合物は、上記バッチプロセスについて記載したように、1個または複数のノズルから急速に膨張させることができる。更に、基材は、例えば製紙工業で一般的なように、連続的に移動/ロール供給することができる。この実施形態では、本発明の他の実施形態と同様に、ノズル径および開口部は、当業者により容易に決定されるように、広範囲に変化させることができる。
【0057】
研究の結果、本発明者らは、ノズルを通る流速が非常に高くても、ワックス膜が基材上に最終的に安定化する前に、主に空気室/膨張チャンバー内に形成される微粒子が、ある程度凝集することを確立した。
【0058】
粒径分布は、以下の手順に従って得られた。先ず、SEM像から無作為に選択した、十分に離れ合った粒子200個を、ズームインモードで測定した。次に、粒子の直径とSEMの倍率尺度との比率に基づいて、Matlabで粒径を算出し、最後に、粒径分布のヒストグラムを描き、粒径の平均直径を決定した。様々な平均径の付着ワックス粒子は、SCSの融点(約50℃)近傍から約100℃までの温度、範囲100〜500気圧(バール)内の圧力、および加圧流体(この場合は、超臨界二酸化炭素)中のワックス濃度、ならびにノズルの形状を変更することにより、更に最後になったが重要なものとして、ノズルの出口オリフィスと基材表面との距離(約1〜25cm)を変更することにより、生成することができる。収集したワックス粒子の平均粒径は、予備膨張の圧力および温度の増加、ならびに噴霧距離の短縮と共にやや減少した。
【0059】
本発明の重要な一特徴は、2個以上のノズルまたは数群のノズルを基材表面から異なる距離に配置した場合、異なる平均粒径、即ち、好ましくは、「山頂」になることを狙った少数の相対的に大きな凝集体、それに加え、超疎水性表面が異なる用途において「ロバスト」になるのに十分に、平方メートル当たりの疎水性実表面積を拡大することを狙った多数の相対的に小さな粒子を得ることができる。
【0060】
それに加え、本発明者らは、異なる実験において、ワックス膜の超疎水性を生成するためには、膜の多孔性のためにおよそワックス1g/m2に相当する、10μm程度の膜厚を実現することで、概して十分であることを示した。比較のために、典型的な表面密度100g/m2の普通のパラフィン紙(撥水性であるが、決して超疎水性ではない)を製造するためには、約ワックス10g/m2が必要である。したがって、本発明による方法では、ワックス性成分を遥かに効率的に使用している。図2には、上記方法により得られた典型的な膜構造の電子顕微鏡写真が示されている。凝集した小型ワックスフレークが、緩く充填されているため、表面積が増加する。この外観は、使用するワックスの種類にさほど影響されない。
【0061】
ワックスフレークからなる疎水性のワックス表面が、本発明により首尾よく生成し、実験で試験した異なる全ての条件に対して、150度を超える水に対する平均接触角が得られた。この方法は、80回を超える実験を行って、全て接触角が150度を超える表面が得られたので、高い再現性を示す。
【0062】
本発明によって、化学的特質が広範に異なる基材表面、即ち、紙、スピンコーティングナノ平滑性セルロース表面、シリカおよび炭素テープを、超疎水性にできることが、以下の実施例により示されている。本発明は、粗いおよび滑らかな、有機および無機の表面である、ガラス、磁器、プラスチック、質的に異なる紙、布地、木材および木材から作製される合板などの材料、金属、ならびに塗装またはラッカー塗装表面などに対して使用できる。
【0063】
更に、合成ワックスまたは鉱物ワックスだけでなく生物起源のワックスも、使用できることが認められている。その上、SCSおよび基材の各組合せについて、剥離試験の実施、水および数種の溶媒に対する曝露、ならびに単純な転がり落ちの観察により、ワックス膜の付着が十分に強いことを調べるのが得策であることは、明白である。
【0064】
超疎水性表面を作製するために処理すべき物体の形状が、結局は、ノズル装備の配置および溶液を含有する圧力容器の設計を決定することになろう。
【0065】
上記に開示した方法以外に、本発明は、調製した材料、即ち、上記に考察したような広範囲の材料から作製され、こうした方法で得られるような超疎水性被膜を有する基材にも関する。
【0066】
本発明を実施例によって以下に説明するが、こうした実施例は、本発明の範囲を制限するものではなく、好ましい実施形態を単に例示するものと見なすべきである。
【0067】
(実施例)
全ての実施例において、市販のベンチスケール急速膨張ユニットを使用した(図3)。ここに報告する実施例は全て、「ワックス性物質」亜群の物質を用いて行っている。先ず、一定量のSCSを高圧容器中に投入する。シリンダーの液体二酸化炭素を、ステンレス鋼管を介して高圧流体ポンプの入口に送出する。圧縮液体二酸化炭素を、容積0.1Lの隔離したジャケット付きステンレス鋼高圧容器に入れる前に、熱交換器に供給する。二酸化炭素を、圧送し、加熱して所望の圧力および温度とする。SCSは、超臨界二酸化炭素を今や含有している加圧加熱容器中で、磁気撹拌することにより溶解する。通常1時間後に平衡飽和状態に達した後、バルブを開放することにより、圧力を下げると、ノズルによって、ノズルを経て膨張チャンバーに入るSCSを含有する超臨界二酸化炭素の急速膨張を起こし、膨張チャンバーではSCSが析出し、二酸化炭素は蒸発してチャンバー底部から逸散する。ノズル内および膨張チャンバー内の温度は、二酸化炭素が膨張しているときに低下するが、加熱窒素を流入させることにより、調整することができる。ノズルから所望の距離に配置した基材上へのSCSの噴霧は、一定時間、通常10秒間続けられる。基材は、噴霧中に固定されており、またはある種の用途では、120rpm(本実施例で使用されているが、速度は重要でない)で回転している直径4cm(本実施例で使用されているが、寸法は重要でない)のシリンダーに巻き付けられている。他の可能性も確かに存在するとしても、以下の実施例で変えられるパラメーターは、a)SCSの選択、b)圧力、c)温度、d)噴霧時間、e)基材の種類、f)噴霧距離、およびg)試料保持具の固定または回転である。
【0068】
(実施例1)
SCS AKD
圧力 300バール
温度 65℃
噴霧時間 12秒
基材 クラフトライナー型の紙
噴霧距離 30mm
試料保持具 40mmシリンダーが120rpmで回転
【0069】
非処理ライナーの表面上に載せた5μlの水滴は、20秒後に完全に吸収された。ここに記載の方法で処理した後、5μlの水滴は、経時的に安定な160°の接触角を示したが、それは、60秒後の管理測定により確認された。
【0070】
(実施例2)
SCS AKD
圧力 300バール
温度 40℃
噴霧時間 10秒
基材 エメリー布で粗くした紙
噴霧距離 10mm
試料保持具 直径40mmのシリンダーが120rpmで回転
【0071】
エメリー布で粗くした紙の表面上に、5μlの水滴を載せた。ここに記載の方法で処理した後、5μlの水滴は、経時的に安定な173°の接触角を示したが、それは、60秒後の管理測定により確認された。
【0072】
(実施例3)
SCS AKD
圧力 250バール
温度 60℃
噴霧時間 10秒
基材 スピンコーティングしたセルロース表面
噴霧距離 45mm
試料保持具 固定
【0073】
参考文献(6)に従って調製した非常に滑らかなセルロース表面を、この実施例で使用した。この種の表面は、非常に薄く、吸水量は無視し得るが、表面上に載せた水滴は、10秒後に10°よりかなり低い接触角となるように、素早く広がることになろう。反対に、5μlの水滴に対する処理表面は、経時的に安定な159°の接触角、および3°の滑り角を示した。
【0074】
(実施例4)
SCS AKD
圧力 300バール
温度 60℃
噴霧時間 10秒
基材 引掻き傷を付けたシリコンウェーハ
噴霧距離 60mm
試料保持具 固定
【0075】
シリコンウェーハの表面をガラスカッターで引掻き、粗い表面を得た。このような表面は、毛管のように作用する溝のために、完全な濡れを示す。処理表面は、5μlの水滴に対して153°の接触角を示した。
【0076】
(実施例5a))
SCS ステアリン酸
圧力 300バール
温度 60℃
噴霧時間 10秒
基材 炭素テープ
噴霧距離 25mm
試料保持具 固定
【0077】
走査型電子顕微鏡観察に使用される種類の炭素テープを、この回の実験用基材として使用した。この種の炭素テープは、経時的に安定な98°の水に対する接触角を示す。処理表面は、経時的にやはり安定な162°の水に対する接触角を示した。
【0078】
(実施例5b))
SCS ステアリン(トリステアレート)
圧力 200バール
温度 80℃
噴霧時間 10秒
基材 炭素テープ
噴霧距離 25mm
試料保持具 固定
【0079】
非処理炭素テープについては実施例5a)を参照されたい。5μlの小滴を用いた接触角の測定は、測定値4点の平均値として157°の接触角を示した。
【0080】
(実施例5c))
SCS AKD
圧力 Table 2(表2)を参照されたい
温度 Table 2(表2)を参照されたい
噴霧時間 12秒
基材 炭素テープ
噴霧距離 表2を参照されたい
試料保持具 固定
【0081】
【表2】

【0082】
非処理炭素テープについては実施例5a)を参照されたい。この実施例では、温度、試料距離および圧力を変化させた。表中に示した接触角は、測定値少なくとも4点の平均値であり、全ての接触角は、20秒間1秒ごとに行った1回の測定で管理して、経時的に安定であった。
【0083】
(実施例6)
SCS AKD
圧力 300バール
温度 65℃
基材 アルミニウム(Al)
噴霧距離 15cm
試料保持具 固定
接触角 161°
【0084】
(実施例7)
SCS AKD
圧力 300バール
温度 65℃
基材 ポリエチレン
噴霧距離 15cm
試料保持具 固定
接触角 155°
【0085】
(実施例8)
SCS AKD
圧力 300バール
温度 65℃
基材 ステンレス鋼
噴霧距離 15cm
試料保持具 固定
接触角 167°
【0086】
(実施例9)
SCS AKD
圧力 300バール
温度 65℃
基材 ガラス
噴霧距離 15cm
試料保持具 固定
接触角 155°
【0087】
(実施例10)
SCS AKD
圧力 200バール
温度 65℃
基材 木材
噴霧距離 15cm
試料保持具 固定
接触角 159°
【0088】
(実施例11)
SCS AKD
圧力 200バール
温度 65℃
基材 市販ゲルコート
噴霧距離 15cm
試料保持具 固定
接触角 156°
【0089】
【表3】

(参考文献)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体基材上に超疎水性表面を調製する方法であって、
(a)容器中に加圧流体の形態で溶媒を供給するステップであって、前記流体が、圧力の減少と共に溶解力の減少を示すステップと、
(b)疎水性物質を溶質として前記溶媒に添加することにより、前記溶媒および前記溶質の溶液を前記容器中に得るステップであって、前記物質が、前記加圧流体に溶解し、前記流体の膨張後に結晶化する能力を有するステップと、
(c)少なくとも1個のオリフィスを前記容器上に開口させることにより、加圧溶液を前記容器から流出させ、外気中で、または前記容器内より圧力が低い膨張チャンバー中で蒸発させるステップであって、それにより前記溶質が粒子を形成するステップと、
(d)前記基材上に前記粒子を堆積させることにより、超疎水性表面を得るステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記溶媒が、CO2、N2、Ar、Xe、C3H8、NH3、C4H10、SF6、CCl2F2、CHF3などの超臨界流体、好ましくはCO2である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記流体が、超臨界相から流体/気体相へ1/10以下に減少する溶解力を示す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記容器内の前記流体の圧力が、50〜500バール、好ましくは150〜300バールの区間にある、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記容器内の前記流体の圧力および温度が、前記流体の臨界値を超えている、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記疎水性溶質が、水に対して90°を超える固有接触角を示し、AKDなどのワックス、ステアリン、ステアリン酸、蜜蝋などの長い飽和炭化水素鎖を含有する物質、またはポリエチレンおよびフッ素化ポリマーなどのプラスチック性物質から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液が、前記溶媒/溶質の組合せの飽和水準に近い、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記溶液の温度が、30〜150℃、好ましくは40〜80℃、最も好ましくは前記溶質の融点を超えている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも複数のオリフィスが、前記容器上に開口される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記オリフィスから前記基材までの距離が、0.5〜100cm、1〜60cm、好ましくは1〜6cmの区間に入る、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記膨張チャンバーの圧力が、前記溶媒の蒸発限界圧未満で真空より高く、好ましくは周囲圧力の水準にある、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
形成される前記粒子が、10nm〜100μmのサイズ範囲に実質的に入る、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記溶質が、前記溶媒に連続的に添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記基材が、堆積中に移動またはロール供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
基材上で超疎水性表面を調製するための配置であって、加圧可能な容器および膨張チャンバーを含み、前記容器が、超臨界流体などの溶媒と、結晶性物質または析出性物質の形態を取る溶質との溶液を含有するように配置されており、前記容器が、加圧溶液の流出部を前記膨張チャンバー中に誘導するように構成された、少なくとも1個のオリフィスを更に含有し、前記膨張チャンバーは、前記結晶性物質または析出性物質が粒子を形成するために、前記溶液を蒸発させるように配置されており、前記粒子が、試料保持具上に載せた基材上に堆積する、配置。
【請求項16】
前記膨張チャンバーは、前記溶媒が前記加圧可能な容器にリサイクルされるように配置されている、請求項15に記載の配置。
【請求項17】
前記容器が、前記溶質の前記溶液への連続的添加を可能にするように配置されている、請求項15に記載の配置。
【請求項18】
前記試料保持具が、前記基材上での堆積中に移動またはロール供給されるように構成されている、請求項15に記載の配置。
【請求項19】
請求項1〜14に記載の方法によって調製される、超疎水性膜。
【請求項20】
10g/m2未満、好ましくは約1g/m2の表面密度を有する、請求項19に記載の超疎水性膜。
【請求項21】
請求項19〜20に記載の超疎水性膜をその上に堆積させた基材。
【請求項22】
紙、プラスチック、ガラス、金属、木材、セルロース、シリカ、炭素テープ、布地、塗料から選択される、請求項21に記載の基材。

【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【図4f】
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【図4g】
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【図4h】
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【図4i】
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【図1】
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【公表番号】特表2010−532258(P2010−532258A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514700(P2010−514700)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【国際出願番号】PCT/SE2008/050801
【国際公開番号】WO2009/005465
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(509159171)スヴェトリー・テクノロジーズ・アーベー (6)
【Fターム(参考)】