説明

性ホルモン誘発剤及びそれを用いたタンパク代謝改善、体質改善方法

【課題】タンパク代謝調節に有効であり、より汎用性の高い性ホルモン誘発機能を有する成分、食品を提供し、それにより効率良く、タンパク代謝調節を可能にすることを目的とする。
【解決手段】オレウロペイン、オレウロペインアグリコン、オレウロペイン誘導体のうち少なくとも1つを有効成分として含有してなる性ホルモン誘発剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は性ホルモン誘発機能を有する医薬品および飲食品組成物に関するものである。また、性ホルモン誘発機能を中心とした作用によるタンパク代謝改善、体質改善方法の提供に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホルモンは内分泌性の物質で、様々なかたちで体内の代謝調節に関与し健康維持に役立っている。例えば、成長ホルモンは肝臓、腎臓などに働きかけてキーとなる成分の分泌促進を通して骨を成長させ、また体内細胞に蓄積された成分の放出・分解などを通して、成長に必要なタンパク質の合成、筋肉の形成を促す働きをする。また、性ホルモンは二次性徴等身体の生殖機能の発育に大きく影響し、男性は男性らしい身体の、女性は女性らしい身体の形成に関与する。これらホルモンは関連する他のホルモンの分泌促進、或いは分泌抑制の機能を有するなど、お互いに影響を及ぼすものも多い。
【0003】
健康維持に必須なホルモンは常にそのバランスが重要となり、適度なバランスが維持されていないと健康を害し、さらには疾病に至る場合もある。一方、老齢化や疾病、不摂生によってくずれたホルモンバランスを元に戻すには食品に含まれる特定の成分の摂取が有効であることがある。さらには、これら特定の成分の摂取により、ある種のホルモンの分泌作用が増強され健康増進、体力増強など個々の生活にプラスとなる効果が得られる場合もある。
【0004】
これまでに、乳タンパク質の加水分解物を有効成分とする消化管ホルモン分泌促進剤(特許文献1)、γアミノ酪酸を有効成分とする成長ホルモン分泌促進剤(特許文献2)、大豆蛋白を酵素分解して得られる特定の分子量を持つペプチド混合物を有効成分とする成長ホルモン分泌促進剤(特許文献3)、アンブレッド・シード油または大環状ムスクを有効成分とする女性ホルモン分泌促進剤(特許文献4)、テアニンを有効成分とする副腎皮質刺激ホルモン分泌促進剤(特許文献5)等が提案されている。他にも、大豆に含まれるイソフラボンは、体内で女性ホルモンであるエストロゲンに似た働きをすることから、大豆イソフラボンを有効成分とする閉経後のホルモンバランスの崩れに起因する脂性乾燥肌を予防する食品(特許文献6)が提案されており、さらには、大豆イソフラボンは継続的な摂取により更年期に発生する障害の緩和やある種のがんの予防に役立つといわれている。
【0005】
本発明品であるオレウロペイン、オレウロペインアグリコン、オレウロペイン誘導体は主にオリーブの実、オリーブの葉、オリーブオイル等、オリーブ植物に含まれる成分を中心としたもので、既に本発明者らによってカテコールアミン誘発機能およびそれに付随する脂質代謝改善機能が見出されている(特許文献7)。また、オレウロペインについては血糖値上昇抑制、LDL酸化抑制作用等の脂質代謝改善機能は報告されているが(特許文献8)、性ホルモンを分泌・促進する機能およびタンパク代謝改善等に関する機能は知られていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2004-51623号公報
【特許文献2】特開2004−269361号公報
【特許文献3】特開2006-347946号公報
【特許文献4】特開2005-29776号公報
【特許文献5】特開2006-291030号公報
【特許文献6】特開2005-229855号公報
【特許文献7】特開2005-179353号公報
【特許文献8】特開2002-128678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、タンパク代謝調節に有効であり、より汎用性の高い性ホルモン誘発機能を有する物質、および食品、薬品、健康食品等を提供し、それにより効率良く、タンパク代謝改善を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的のために鋭意検討した結果、オレウロペイン、或いはオレウロペインアグリコン、或いはオレウロペイン誘導体が性ホルモン分泌促進機能、また、これに付随して起こるタンパク代謝改善機能、さらには体質改善機能を有することを見出し本願発明を完成するに至った。
すなわち、本願発明は、オレウロペイン、オレウロペインアグリコン、オレウロペイン誘導体のうち少なくとも1つを有効成分として含有してなる性ホルモン誘発剤である。
さらに、本願発明は、前記性ホルモン誘発剤を用いてなるタンパク代謝改善及び/又は体質改善方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のホルモン誘発機能を有する成分及び、飲食組成物は、優れたタンパク代謝改善作用を示し、それらを摂取することは優れた体質改善方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ホルモンはその作用、分泌する器官、骨格となる構造などで分類されるが、タンパク代謝に関与するホルモンを代謝機能の観点からみると(1)タンパク同化(生合成)と(2)タンパク異化(分解)に分類できる。タンパク同化作用を持つものとしてはインシュリン、成長ホルモン、インシュリン様成長因子I、アドレナリン、アンドロゲン(テストステロン)などがあり、またタンパク異化作用を持つものとしてはグルココルチコイド(コルチコステロン)、グルカゴン、甲状腺刺激ホルモンなどが挙げられる。タンパク同化作用を持つホルモンが多量に分泌されるとタンパクの合成が促進され、逆にタンパク異化作用を持つホルモンが多量に分泌されるとタンパクの分解が促進される。
タンパク同化作用を持つホルモンのうち、アンドロゲンは性ホルモンの一種である。性ホルモンは精巣や卵巣など生殖腺と胎盤で合成・分泌されるステロイドホルモンで、アンドロゲンのほかにエストロゲン等がある。
【0011】
アンドロゲンはテストステロンに代表される雄性ホルモンで、主に精巣で生合成され、思春期の男性性器の発育促進、骨格や筋肉の成長促進、性欲の亢進、他にも脳や精神面への作用を有している。テストステロンは、脳下垂体から分泌される黄体形成ホルモン(LH)と、視床下部から分泌される黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)によってその量が調節されている。すなわち、テストステロンが少ないとLHの分泌が増え精巣でのテストステロンが増産されるが、テストステロンが充分あるとLHの分泌が抑えられる。一方で、LHRHはLHの分泌量をコントロールしている。極端なダイエット等によって動物性食品の摂取が不足すると、テストステロンの原料となるコレステロールが不足し、テストステロンが分泌できず、慢性的な欠乏状態になることもあると言われている。女性においても副腎や卵巣でテストステロンが少量ながら分泌されている。テストステロンは筋肉増強作用があることから一部スポーツアスリートの間で医師の監視の下、体質改善目的で使用されることがあるが、ホルモン分泌を誘発する機能を持つ成分を食品の形態で摂取することは代謝におけるフィードバックの仕組みが充分に作用するため極めて安全性が高く、副作用の心配も少ない。
【0012】
このようにテストステロンは男女問わず広く体内の代謝調節に関わっており、バランス調節は健康維持には欠かせないことから、通常の食生活で体質改善効果のあるものがより求められている。テストステロンの分泌促進によってタンパク質代謝改善に伴う骨格や筋肉の成長促進だけでなく、正常な性欲の維持、他にも脳や精神面での障害克服など、体質改善に役立てることができる。
【0013】
テストステロンは生理的に非常に重要な機能を有しており、これらを利用することは産業上極めて有用である。
【0014】
本発明におけるオレウロペイン(Oleuropeine)は図1の一般式で表される物質で、オレウロペインアグリコンとは、オレウロペインのグルコースの部分がはずれた状態の物質である。またオレウロペイン誘導体とは、主にオレウロペイン及びそのアグリコンが酸化、或いは還元により変化したもので例えば図2〜6の一般式で表されるような物質である。
オレウロペインはその構成要素としてヒドロキシチロゾール(図7)とエレノール酸(図8、9)を含んでいるが、これらヒドロキシチロゾールとエレノール酸の結合体(エレノール酸のピラン環に結合する官能基の変化したもの、或いはピラン環そのものの開裂したものも含む)も、本発明に含まれる。
オレウロペインの詳細な作用機序は明確ではないが、ヒドロキシチロゾールとエレノール酸とのアシル結合部位から、エレノール酸のピラン環へ続く構造に起因する要素が作用に深く関与しているものと推測される。
【0015】
一般に配糖体は体内で吸収されるに伴い、その多くは糖部分が酵素により切り離されアグリコンの形をとることが知られている。従って、本発明のオレウロペインを経口摂取した場合、体内ではオレウロペインアグリコンの形で存在、作用している可能性が極めて高い。逆に、オレウロペインアグリコンの形で経口摂取した場合、作用強度の違いはあれ、オレウロペインと同種の作用が得られることとなる。また、オレウロペインをグルコシダーゼ酵素で処理した成分は、オレウロペインアグリコンに加えジアセト型オレウロペインアグリコンが含まれることがあり、従って、体内においてもオレウロペイン誘導体は、種々の形で存在しているものと考えられる。
【0016】
オレウロペイン、及びそのアグリコン、さらにはそれらの誘導体は天然にはオリーブ植物に多く含まれる。水、アルコール等の有機溶剤、油等により、オリーブ植物からこれら成分を抽出採取することができる。さらには、これらを必要により公知の方法で濃縮、乾固、精製して利用できる。特にオレウロペインは葉に多く、オリーブ植物の剪定、或いは伐採されたものを有効利用することもできる。
オリーブの実からオリーブ油を搾油する際には大量の植物水、処理水が発生するためこれも採取源となりうる。また、オリーブ油にもこれら成分が含まれており、油から採取、あるいは油そのものを利用することもできる。
他に構成成分を基質として合成により作られたものも使用可能である。
本発明の性ホルモン誘発剤は食品、健康食品等いずれの用途、形態でも利用できる。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明は、もとよりこれに限定されるものではない。
<実施例1〜3、比較例1〜3>
4週齢SD系雄ラットに実験食を28日間ペアーフィーディングにより投与した。実験食はそれぞれ蛋白レベル40%、25%、10%として、いずれも0.01%(W/W)のオレウロペイン(Extrasynthesis Geney フランスNo.0204)を配合した。比較例としてそれぞれの蛋白レベル食でオレウロペインを含まない組成のものを調製し摂食させた。
【0018】
【表1】

【0019】
28日間の飼育後、体重及び各組織の重量増加、窒素出納、睾丸中のテストステロン量、血漿中のコルチコステロン濃度を測定した。コルチコステロンはげっ歯類においてタンパク異化作用を持つ糖質コルチコロイドの代表的なホルモンの一種である。
【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
窒素出納では、オレウロペイン含有の実験食摂取群では特に40%カゼイン食において窒素取り込み量が有意に高く、また25%、10%カゼイン食においても窒素取り込み量が高い傾向がみられた。すなわちタンパク質の生合成量が高いことが示唆された。
オレウロペインを含有する実験食の摂取によって、性ホルモンであるテストステロンの分泌量の増加がみられ、またテストステロンのタンパク同化作用に起因するタンパクの生合成が促進された。
オレウロペイン含有の実験食摂取群では特に40%カゼイン食においてタンパク同化作用を持つテストステロンが有意に増加しており、また25%、10%カゼイン食においてもテストステロンの増加傾向がみられた。一方で、タンパク異化作用を持つコルチコステロンは、オレウロペイン含有の実験食摂取群では特に40%カゼイン食において有意に減少しており、また25%、10%カゼイン食においても比較群に比べて少ない傾向がみられた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】オレウロペインの構造式
【図2】オレウロペインアグリコンの構造式
【図3】オレウロペインアグリコンの構造式(2)
【図4】脱メチル型(オレウロペインアグリコン)の構造式
【図5】ジアルデヒド型(オレウロペインアグリコン)の構造式
【図6】ジアセト型(オレウロペインアグリコン)の構造式
【図7】ヒドロキシチロゾールの構造式
【図8】エレノール酸の構造式
【図9】エレノール酸(2)の構造式

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレウロペイン、オレウロペインアグリコン、オレウロペイン誘導体のうち少なくとも1つを有効成分として含有してなる性ホルモン誘発剤。
【請求項2】
性ホルモンが、テストステロンである請求項1に記載の性ホルモン誘発剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の性ホルモン誘発剤を用いてなるタンパク代謝改善および体質改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−263295(P2009−263295A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116644(P2008−116644)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月2日〜4日「第62回日本栄養・食糧学会大会」に文書をもって発表
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】