説明

情報制御システム

【課題】コスト増大を招くことのない安価なシステム構成で、通信端末からの送信情報の内容を当該通信端末の位置する領域に応じて制限する。
【解決手段】建造物内の複数のフロアを移動可能な少なくとも1つの通信端末1と、通信端末1と無線通信可能なセンター装置2と、を有する情報制御システムSであって、通信端末1は電波信号を発し、センター装置2は、建造物内の所定の測定地点に設けられ、アレイアンテナ3を有し、通信端末1の電波信号の発信点を特定するための第1処理段階G1、第3処理段階G3、第4処理段階G4、第5処理段階G5及び第6処理段階G6とを実行し、さらに発信点の特定結果に基づき通信端末1が存在するエリアを検出し、この検出結果に基づき、通信端末1から送信される電波信号に含まれる外部送信データの内容を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物内の複数の領域にそれぞれ対応するセキュリティ設定で建造物外部への情報送信を制限制御する情報制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、移動体通信技術の発達に伴い、個人が所持する携帯型通信端末が様々な画像情報や音声情報を無線通信で送受信可能となっている。
【0003】
従来、自機の現在位置を検出するGPS機能と、各種のメディアからコンテンツデータを選択して再生する機能とを組み合わせて、自機の現在位置に対応したコンテンツデータを選択・再生する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この従来技術では、通信端末にGPS受信機が備えられている。そして、通信端末は、当該GPS受信機から位置情報を入力するとともに、地図情報データベースから地図情報を入力する。そして、通信端末は、上記位置情報と地図情報とに基づいて自機が存在する地点情報を抽出し、この地点情報に基づいてコンテンツデータを検索して取得し、再生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−152174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、例えば所定の屋内施設内において、利用者の所有する移動可能な(携帯型あるいは可搬型の)通信端末より、施設外部へ情報を送信可能とするシステムが提唱されている。その際、セキュリティ確保の観点から、無制限な情報送信を可能とすることなく、所定の制限を設けることが考えられつつある。その際、例えば複数の通信端末それぞれごとにセキュリティ設定をするのではなく、その時点での当該屋内施設内での位置に応じたセキュリティ設定を可能とするシステムが要望されている。
【0007】
上記を実現するために、上記通信端末の屋内施設内での位置検出を行う際、上記従来技術の手法を適用することが考えられる。しかしながら、上記従来技術では、移動体である通信端末自体がGPS受信機を備えて自機の現在位置を検出している。このため、この従来技術を上記位置検出に適用しようとする場合、衛星通信ができない屋内などでは適用できず、通信端末自体がGPS受信機を備える必要があることでシステム全体のコストが増大する問題があった。
【0008】
本発明の目的は、コスト増大を招くことのない安価なシステム構成で、通信端末からの送信情報の内容を当該通信端末の位置する領域に応じて制限し、セキュリティを確保できる情報制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明は、建造物内の複数の領域を移動可能な少なくとも1つの通信端末と、前記通信端末に対し無線通信により情報送信可能な管理装置と、を有する情報制御システムであって、前記通信端末は、自通信端末を特定するID情報と、前記管理装置との通信情報と、を含んだ電波信号を発する電波信号出力手段と、を有し、前記管理装置は、前記建造物内に位置する所定の測定地点に設けられ、複数のアンテナ素子を備えた受信アンテナと、ビームフォーミングにより前記複数のアンテナ素子の指向性を制御しつつ、所定の受信角範囲における全ての方向にわたって電波を受信する受信制御手段と、前記受信制御手段により受信された前記全ての方向に含まれる複数の電波到達方向それぞれに対し、前記測定地点からレイトレーシング法により光を仮想的に仮想光線として放射し、前記建造物内の仮想電波伝播経路を算出する経路図において、前記建造物の構造及び各構造材の材質を前記仮想電波伝播経路を算出するパラメータとして用いて、前記放射した複数の仮想光線の中から異なる任意の2仮想光線を選択する組み合わせによって抽出された前記2仮想光線がお互いに最も近づいた位置を前記経路図上の近接点として、前記近接点を全て抽出する近接点抽出手段と、前記仮想電波伝播経路図の前記所定範囲において線密度計算により算出される前記近接点の数に基づき、前記電波信号の発信点を特定する発信点特定手段と、前記発信点特定手段による前記電波信号の発信点の位置と、前記発信点からの位置検出用電波に含まれたID情報とによる特定結果に基づき、前記複数の領域のうち、前記通信端末が存在する領域を検出する領域検出手段と、前記領域検出手段の検出結果に基づき、前記通信端末から送信される前記電波信号に含まれる通信情報の内容を制限可能な制限制御手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
本願第1発明の情報制御システムでは、少なくとも1つの通信端末が建造物内の複数の領域を移動可能に設けられる。管理装置の領域検出手段は、通信端末の電波信号出力手段から発せられる電波信号に基づき、通信端末が位置する領域の検出を行い、その位置検出結果に応じて、制限制御手段が、通信端末からの電波信号に含まれる通信情報の内容を制限することができる。
【0011】
ここで、上記領域の検出を実行するために、管理装置は、建造物内の所定の測定地点に、複数のアンテナ素子を備えたアンテナを設けている。受信制御手段が、アンテナの複数のアンテナ素子の指向性をビームフォーミングにより制御しながら、所定の受信角範囲の全方向にわたり電波を受信する。そして、近接点抽出手段が、レイトレーシング法により、測定地点から、上記全方向に含まれる各電波到達方向に対し、仮想光を仮想的に放射する。このとき、予め、建造物の構造や各構造材の材質に関するパラメータが取得されており、レイトレーシング法を適用する際の各光線の減衰や反射の特性を含めて、上記パラメータを用いて仮想電波伝搬経路を算出し、その算出によって建造物内の仮想電波伝搬経路図が作成される。そして、近接点抽出手段は、放射した複数の仮想光線の中から異なる任意の2つの仮想光線を選択する組み合わせによって抽出された2つの仮想光線がお互いに最も近づいた位置を近接点とし、その近接点の全てを抽出する。以上のように、複数のアンテナ素子の受信方向をビームフォーミングで制御することで電波到達方向を的確に把握する。そして、把握された各電波到達方向に対しレイトレーシング法により放射される仮想光線の挙動に建造物構造や材質を反映させた上で、所定範囲内における各仮想光線の全近接点を抽出する。これにより、当該近接点のいずれか、又はその近傍が通信端末の電波信号出力手段からの電波信号の発信点であると特定することができるので、高い精度で上記電波信号の発信点を推定することができる。この結果、上記のように移動する通信端末が位置する領域を正確に検出することができる。
【0012】
上記のように、本願第1発明においては、管理装置は、通信端末が発する電波信号を用いて当該電波信号の発信点を特定する。これにより、従来構成のように通信端末側に別途GPS等の位置検出手段を設けることなく、通信端末の位置を検出することができる。この結果、コスト増大を招くことのない安価なシステム構成で、通信端末からの通信情報の内容を当該通信端末の位置する領域に応じて制限し、セキュリティを確保することができる。
【0013】
第2発明は、上記第1発明において、前記管理装置は、前記複数の領域のそれぞれごとに設定された、前記制限制御手段で実行すべき制限態様情報を記憶した制限記憶手段を有し、前記制限制御手段は、前記制限記憶手段が記憶した前記制限態様情報に基づき、前記通信端末からの前記通信情報の内容を制限することを特徴とする。
【0014】
各領域ごとに制限態様情報を設定し予め制限記憶手段に記憶させておくことで、制限制御手段は、通信端末からの通信情報の内容を、各領域ごとに要求されるセキュリティの程度に応じて可変に制限することができる。
【0015】
第3発明は、上記第1又は第2発明において、前記管理装置の前記制限制御手段は、前記通信端末に対し、前記通信情報の内容を制限可能な制限指示信号を送信する指示信号出力手段を備えることを特徴とする。
【0016】
本願第3発明においては、管理装置が通信端末からの通信情報を制限する場合、指示信号出力手段から制限指示信号を送信する。これにより、通信端末は、当該管理装置からの制限指示に従う形で、通信端末からの通信情報の内容を自ら制限することが可能となる。
【0017】
第4発明は、上記第3発明において、前記通信端末の前記電波信号出力手段から出力される前記電波信号は、当該通信端末の識別情報を含み前記管理装置の前記制限制御手段により制御されない非制御データと、前記管理装置の前記制限制御手段により制御可能な、前記通信情報としての制御データとを含み、前記管理装置の前記領域検出手段は、前記発信点特定手段による前記電波信号の前記発信点の特定結果と、当該電波信号の前記非制御データに含まれる前記通信端末の前記識別情報とに基づき、当該通信端末が存在する領域を検出し、前記通信端末は、さらに、前記指示信号出力手段から送信された前記制限指示信号に基づき、前記電波信号出力手段から出力される前記電波信号に含まれる前記制御データの内容を実質的に無効化を有することを特徴とする。
【0018】
本願第4発明においては、管理装置の指示信号出力手段からの制限指示信号に応じて、通信端末のデータ無効化手段が、電波信号に含まれる非制御データ及び制御データのうち制御データを実質的に無効化する。これにより、非制御データは有効としたままで、通信情報である制御データのみを無効としセキュリティを確保することができる。
【0019】
このとき、非制御データについては管理装置による制限制御が及ばないので、管理装置は、非制御データに含まれる通信端末の識別情報を確実に取得することができる。この結果、上記制限制御を実行した際であっても、管理装置は、通信端末が発する電波信号を引き続き用いて当該電波信号の発信点を特定し、通信端末の位置検出を行うことができる。また、位置検出の結果、通信端末が上記制限制御の制限が必要のない領域に移動した場合には、当該移動に追従して上記データ無効化手段による制御データの無効化を直ちに解除することも可能となる。
【0020】
第5発明は、上記第3又は第4発明において、前記通信端末の前記電波信号出力手段から出力される前記電波信号は、さらに、システム外への情報送信を要求する送信要求信号を含み、前記管理装置の前記指示信号出力手段は、前記電波信号に含まれる前記送信要求信号が受信された場合に、前記通信端末に対し、前記通信情報の内容を制限可能な制限指示信号を送信することを特徴とする。
【0021】
セキュリティについて配慮する必要のある、通信端末からシステム外への情報送信時にのみ管理装置が通信情報の制限制御を行うことで、効率的な情報管理を行うことができる。
【0022】
第6発明は、上記第1乃至第5発明のいずれかにおいて、前記管理装置は、さらに、前記領域検出手段により検出された前記通信端末が存在する領域に対応した領域識別子を、前記通信端末からの前記通信情報に付加する、識別子付与手段と、前記識別子付与手段により前記領域識別子が付与された前記通信端末からの前記通信情報を、当該情報制御システム外のネットワークへ送信するネットワーク送信手段と、を有することを特徴とする。
【0023】
ネットワーク送信手段から送信された情報を受信したシステム外の機器や端末は、当該受信された情報がシステム内のどの領域にあるどの通信端末から送信されたものであるかを、確実に識別することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コスト増大を招くことのない安価なシステム構成で、通信端末からの送信情報の内容を当該通信端末の位置する領域に応じて制限し、セキュリティを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る情報制御システムを適用した多層階施設の一構成例を概略的に示した図である。
【図2】センター装置と通信スキャナ端末のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】本発明で利用する送信点推定方法を説明するために、通信端末とセンター装置を一台ずつ配置した建造物モデルの一例を全体を透視して示す斜視図である。
【図4】センター装置の機能構成を説明するための概略的なシステムブロック図である。
【図5】通信端末の位置を推定する際に演算処理部が行う処理手順を概略的に示した説明図である。
【図6】到来角を抽出した分布を示す図である。
【図7】建造物における構造データを可視化して示した図である。
【図8】仮想光路の透過を示す図、及び、仮想光路の反射を説明する説明図である。
【図9】単位方向ベクトルの方位角と仰角を説明する図である。
【図10】図3に対応した仮想電波伝搬経路図の例を示す側面図である。
【図11】2つの仮想光路上における最近接点の配置関係を示す図である。
【図12】発信点と最も近接する探索範囲との配置関係を示す図である。
【図13】演算処理部のCPUによって実行される制御手順を表すフローチャートである。
【図14】図13中のステップS100において実行される到来角候補絞り込み処理の詳細手順を表すフローチャートである。
【図15】通信端末がセンター装置へ送信する電波信号の種類を説明する概念図である。
【図16】フロア別セキュリティ設定テーブルの一例を示す図である。
【図17】図15(c)で示した、外部送信データを含む電波信号の詳細を示す図である。
【図18】外部送信の制限制御を行う場合の動作行程例を示すシーケンスチャートである。
【図19】図18のシーケンスチャートを実行するために、センター装置のCPUによって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートである。
【図20】図18のシーケンスチャートを実行するために、通信端末のCPUによって実行される通信端末処理の制御手順を表すフローチャートである。
【図21】有効な外部送信データにスタンプを付加する場合におけるスタンプの付加構成の一例を示す図である。
【図22】外部送信の制限制御とともにスタンプの付加を行う場合の動作行程例を示すシーケンスチャートである。
【図23】図22のシーケンスチャートを実行するために、センター装置のCPUによって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートである。
【図24】本発明に係る情報制御システムをカラオケボックスの店舗に適用した場合の構成例を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1は、本実施形態の情報制御システムを適用した多層階施設の一構成例を概略的に示した図である。図示する例の多層階施設であるビルBは、4階建ての建造物として構成されている。そして、当該ビルBに来た利用者は4つの階のそれぞれのフロアを自由に移動することができる。なお、それらフロアが、各請求項記載の複数の領域に相当している。
【0028】
本実施形態の情報制御システムSは、通信端末1とセンター装置2(管理装置)を有している。
【0029】
通信端末1は、センター装置2と無線通信を介して情報を送受信可能な携帯型の端末である。当該ビルBの利用者は、通信端末1を所持して当該ビルB内の各階をともに自由に移動可能となっている。
【0030】
センター装置2は、上記通信端末1と無線通信を介して情報を送受可能となっている。このセンター装置2は、ビルB内において通信端末1がどのエリアに存在しても無線通信が可能な位置(図示する例では1階)に、固定的に設置される。また、センター装置2は、ネットワーク回線NWに接続されている。なお、本実施形態では、発明の理解の容易のために、以下、1台の通信端末1とセンター装置2との情報送受信を例にとって説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0031】
図2は、センター装置2と通信端末1のハードウェア構成を示すブロック図である。この図2において、センター装置2は、CPU201、ROM202、RAM203、大容量記憶装置204、無線通信部205、ネットワーク通信部206、及びアレイアンテナ3(受信アンテナ)を有している。
【0032】
CPU201は、いわゆるマイクロコンピュータであり、RAM203の一時記憶機能を利用しつつROM202に予め記憶されたプログラムに従って各種の演算を行う。またCPU201は、他の各部との間で情報の交換や各種の制御指示を出力することで、センター装置2全体を制御する機能を有する。
【0033】
ROM202は、後述する各種の処理プログラムやその他必要な情報が予め書き込まれた情報記憶媒体である。RAM203は、上記各種のプログラムを実行する上で必要な情報の書き込み及び読み出しが行われる情報記憶媒体である。大容量記憶媒体204は、例えばフラッシュメモリ、ハードディスクなどで構成される不揮発性の情報記憶媒体である。
【0034】
無線通信部205は、アレイアンテナ3を介して通信端末1との無線通信を制御する機能を有する(後述の図4参照)。
【0035】
ネットワーク通信部206は、ネットワーク回線NWを介してビルB外部に存在する他の情報通信機器(図2中では特に図示せず)との情報の送受を制御する機能を有する。
【0036】
アレイアンテナ3は、後に詳述するように複数のアンテナ素子3aを備えており、全体の指向性を制御可能なアンテナである(後の図4で詳述する)。
【0037】
一方、通信端末1は、CPU101、ROM102、RAM103、操作部104、表示部105、無線通信部106、及び端末アンテナ107を有している。
【0038】
CPU101、ROM102、RAM103は、上記センター装置2が備えるものと同等の機能を有するものであり、説明を省略する。
【0039】
操作部104は、使用者である利用者が当該通信端末1に対して所定の指示を入力操作する機能を有する。表示部104は、利用者に対して各種の情報を表示する機能を有する。
【0040】
無線通信部106は、端末アンテナ107を介してセンター装置2との無線通信を制御する機能を有する。
【0041】
端末アンテナ107は、無指向性のものであり、特に送信時には立体的にほぼ360°のあらゆる方向に電波を発信可能となっている。
【0042】
なお、本実施形態の例においては、通信端末1とセンター装置2とが例えばIEEE802.11bなどに準拠した無線LANによって無線通信を行う。したがって利用者が所持する通信端末1は、当該ビルBの管理者が用意した専用の携帯端末機器以外にも、上記無線LANでの通信が可能であって適宜の操作部と表示部を備え、対応するアプリケーションを搭載した市販の携帯電話などの無線端末を利用してもよい。
【0043】
そして、上記センター装置2は、上記無線LANに基づいて、定期的に通信端末1から自機を特定する識別情報であるID情報(以下適宜、単にIDという)を含む電波信号(後述の図15(a)参照)を受信した際に、受信した電波の送信点を推定することで当該通信端末1のその時点の現在位置を検出する。以下において、本実施形態で利用する上記の送信点推定方法について詳細に説明する。
【0044】
図3は、本実施形態で利用する送信点推定方法を説明するために、通信端末1とセンター装置2を一台ずつ配置した建造物モデルの一例を全体を透視して示す斜視図である。
【0045】
図3において、建造物Hの内部を移動可能な通信端末1が電波信号を発信し、同じ建造物Hの内部で基本的に固定して配置されるセンター装置2が上記電波信号の受信状況に基づいて上記通信端末1の発信点位置を推定する。
【0046】
ここで、本発明が利用する送信点推定方法を実施するにあたっては、以下の条件を満たす環境が前提となっている。
(A)通信端末1及びセンター装置2は、外部から閉じた同一の屋内空間に存在する。
(B)上記屋内空間を形成するそれぞれの壁の位置、形状、大きさ、及び電波に対する性質が全て既知である。
【0047】
図3に示す例では、建造物Hの全体が6面の外壁12,13,14,15,16で略直方体に形成されており、その内部空間が2階床面21によって1階と2階に上下方向に仕切られている。さらに、各階の内部空間は内壁22,23によって水平方向に2つの部屋に仕切られている。このような建造物Hの内部で、通信端末1が2階に位置し、センター装置2が1階に位置している。なお図中では、図示の便宜上、手前側の外壁が省略されている。また、図示する例では、各階の内壁22,23に人が通過可能な出入口24が形成されている。以下においては、このような配置モデルにおいてセンター装置2が通信端末1の位置を推定する場合を説明する。
【0048】
図4は、センター装置2の機能構成を説明するための概略的なシステムブロック図である。この図4において、センター装置2は、アレイアンテナ3、高周波処理部4、A/D処理部5、DSP処理部6、演算処理部7、及び記憶部8を有している。上記図2で示したハードウェア構成と対比すると、上記無線通信部205が、高周波処理部4、A/D処理部5、DSP処理部6をまとめた形で機能し、上記CPU201、ROM202、RAM203が演算処理部7として機能し、上記大容量記憶部204が記憶部8として機能する。
【0049】
前述したように、アレイアンテナ3は、複数のアンテナ素子3aを備えており、受信時にはアンテナ素子3aごとの位相差をずらすことで全体の指向性を制御するビームフォーミングを行い、受信電波の到来方向を検出することができる。本実施形態の例では、受信点の位置をほぼ変えることなく、その周囲の360°(ほぼ立体球面範囲)にわたって受信電波の到来方向を検出できるよう、向きの異なる複数のアレイアンテナを備えるか、又は向きを変更できる首振り機構を備える。
【0050】
高周波処理部4は、上記アレイアンテナ3の各アンテナ素子3aが受信した高周波信号を低周波信号にダウンコンバートして出力する。
【0051】
A/D処理部5は、上記高周波処理部4から出力された低周波のアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0052】
DSP処理部6は、上記A/D処理部5から出力されたデジタル受信信号に対して所定の信号処理を行い、解析可能な情報信号として出力する。
【0053】
演算処理部7は、上述したようにCPU21、ROM202、及びRAM203によって構成される機能部であり、予めROM202などに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことで、後述の記憶部8に記憶されている各種情報を参照しつつ、上記DSP処理部6から出力された情報信号の解析を行うとともに、センター装置2全体の制御を行う。
【0054】
記憶部8は、上記演算処理部7が各種の演算及び解析を行う際に必要な情報を記憶する。本実施形態では、記憶する情報の例として、上記建造物Hを構成する各外壁12〜16及び各内壁21,22,23に関する構造データとともに、上記アレイアンテナ3のアンテナ特性も記憶している。
【0055】
図5は、通信端末1の位置を推定する際に上記演算処理部7が行う処理手順を概略的に示した図である。
【0056】
まず最初に、センター装置2は、第1処理段階G1で、アレイアンテナ3の受信角範囲における全ての方向にわたって電波を受信し、その受信レベルを全周での到来角分布で測定する。次に、第2処理段階G2で、当該到来角分布で測定された受信レベルのうち、所定のレベル以上に対応する到来角候補(到達角度)をピークサーチによって抽出し、さらにそれら到来角候補のうちで所定以上に離間したものを主要到来角(各請求項に記載の電波到達方向に相当)として絞り込む。なお、以上の2つの処理段階G1,G2のいずれにおいても、演算処理部7は記憶部8からアレイアンテナ3のアンテナ特性を読み出し、参照することで適切な演算を行う。
【0057】
次に、第3処理段階G3で、センター装置2の受信点から上記主要到来角に向けてそれぞれ光を仮想的に放射し、それらの反射経路を解析するレイトレーシング解析を行う。この第3処理段階G3において、演算処理部7は記憶部8から建造物Hの構造データを読み出し、参照することで適切な解析を行う。
【0058】
次に、第4処理段階G4で、上記レイトレーシング解析により生成された複数の仮想光路のうちの任意の組み合わせで、互いに最も近接する最近接点を抽出する。次に、第5処理段階G5で、抽出された多数の最近接点の配置に基づいて、それぞれに対応する線密度と評価値を算出する。そして、最後の第6処理段階G6で、それら線密度及び評価値に基づいて、どの最近接点(又は対応する近接位置)が最も発信点つまり通信端末1に近接しているか、を判定する。
【0059】
上述した各処理段階G1〜G6について、それぞれ順に詳細に説明する。
【0060】
まず、上記第1処理段階G1においてアレイアンテナ3の全周方向にわたって受信した電波の受信レベルのうち、所定のレベル以上となる到来角を到来角候補として抽出した結果の一例が図6である。この図6において、アレイアンテナ3の受信点(各請求項に記載の測定地点に相当)RPを原点としたRx軸−Ry軸−Rz軸の3次元直交座標が設定されており、受信点RPを中心として複数の到来角候補に向けた放射状に受信レベルに対応した長さの線分が示されている。つまり、当該アレイアンテナ3は、図示するそれぞれの到来角候補の角度で所定レベル以上の電波を受信している。なお、このような到来角候補の測定には、公知のいわゆるMUSICアルゴリズム(MUltiple Signal Classificationアルゴリズム)によるピークサーチを行うことで、精度の高い測定が可能となる。
【0061】
しかし、これら抽出した到来角候補は、受信電波の伝達経路における反射時の散乱の影響により、同じくらいの受信レベルにある到来角候補が密集して分布する傾向が強い。一方、本実施形態における送信点推定方法において、レイトレーシング解析に用いる到来角は、受信レベルが高いとともにできるだけ伝達経路が異なる(つまりマルチパス経路が離間している)受信電波の到来角を適用することが望ましい。したがって第2処理段階G2では、さらにこれら抽出した到来角候補のうちから次のレイトレーシング解析に用いる主要到来角を絞り込む。
【0062】
具体的には、本実施形態では、互いに立体角で半値角/2(図中のθh/2)だけ離間する到来角候補のうち最も受信レベルの大きいものから順に必要数(図示する例では5つ)の主要到来角を選択する。このようにすることで、各主要到来角をメインローブ方向としてビームフォーミングしたアレイアンテナ3の仮想上の通信範囲が、それぞれ互いに立体角で半値角/2以上に重なることがなく、すなわち各主要到来角は、相互に異なるマルチパス経路で伝達した受信電波に対応した到来角とみなすことができる。
【0063】
次に、上記第3処理段階G3で行うレイトレーシング解析について説明する。本実施形態におけるレイトレーシング解析は、センター装置2が受信点で電波を受信した主な方向、つまり主要到来角に対し、逆に、電波にみなした仮想的な光を各主要到来角の方向に放射して、それらの建造物H内における反射通過経路(光線;以下、仮想光路という)を解析することで、元の受信電波が伝達してきたマルチパス経路を逆行して可視化する解析手法である。
【0064】
このレイトレーシング解析を行う上で、上述した第3の前提条件、つまり上記屋内空間を形成するそれぞれの壁の位置、形状、大きさ、及び電波に対する性質が全て構造データとして既知であることが必要となる。図7は、上記図3に対応して、建造物Hにおける構造データを可視化して示した図である。図示する例では、6面の外壁12〜16(ただし手前側の外壁は省略)は全て電波を反射する材質の材料(後述の図8(b)参照)からなり、2階床面21と各階の内壁22,23は全て電波を透過する材質の材料(後述の図8(a)参照)からなっている。また、建造物H全体を包括するX軸−Y軸−Z軸の3次元直交座標が設定されており、各壁面はこのXYZ軸絶対座標における平面方程式としてデータ化されている。また、固定的に配置されるセンター装置2の受信点についても、このXYZ軸絶対座標における座標位置が予め既知となっている。また、特に図示しないが、壁面以外にも電波の伝搬に影響を及ぼす可能性のある構造材については全てデータ化されている必要がある。
【0065】
本実施形態では、建造物Hの内部空間だけを計算範囲として取り扱うことで、各壁面の平面方程式を一般化して取り扱いながらも無限の広さとならず、有限の大きさを有する壁面として取り扱うことができる。また、外壁12〜16における電波の反射についても、その減衰率などがパラメータとしてデータ化されている。記憶部8には以上の構造データが予め入力され、記憶している。
【0066】
ここで、本実施形態でのレイトレーシング解析においては、仮想光路は、図8(a)に示すような内壁22,23(又は2階床面21)の透過を何度も可能とする。一方、図8(b)に示すような外壁12〜16に対する反射は1回だけとし、2回目の外壁12〜16との交点をその仮想光路の終点とする。つまり、一つの仮想光路は、受信点RPから出発して最初の外壁12〜16との交点を反射点RePiとして反射し、次の外壁12〜16(図示省略)との交点を終点EPiとして途絶する。以下において、第i番目の主要到来角に向けて放射した仮想光路を

とし、そのうちの受信点RPと最初の交点である反射点RePiとの間の仮想光路を第1仮想光路節

とし、反射点RePiと終点EPiとの間の仮想光路を第2仮想光路節

とする。
【0067】
第1仮想光路節

と、第2仮想光路節

とは、外壁12〜16の表面に垂直な面、及び入射面に垂直な面に関して、面対称の関係にあり、それぞれの単位方向ベクトルを

、外壁12〜16の表面の法線ベクトルを

(ただし入射面とは逆向き)とすると、以下の関係が成り立つ。



ここで、






であり、

は入射側単位方向ベクトル

の方位角(いわゆるアジマス;図9参照)、

は入射側単位方向ベクトル

の仰角(いわゆるエレベーション;図9参照)、

は反射側単位方向ベクトル

の方位角(いわゆるアジマス)、

は反射側単位方向ベクトル

の仰角(いわゆるエレベーション)である。
【0068】
また、第1仮想光路節

上の任意の点を示す位置ベクトル、また第2仮想光路節

上の任意の点を示す位置ベクトルは、それぞれ以下の式で示される。









【0069】
一方、各壁面と仮想光路は、






を満たす

が、

又は

を満たすとき交点を有する。ここで、

は壁面の頂点の位置ベクトルであり、

は上記第1仮想光路節

の単位方向ベクトルである。
【0070】
以上のようなレイトレーシング解析を、上記第2処理段階G2で選択した5つの主要到来角に対してそれぞれ行うことにより、図3に対応する図10に示すような建造物H内の仮想電波伝播経路を算出する経路図が作成される。なお、この図10は図示の便宜上、建造物Hを側面から見た側面図で示している。そして、図中において各仮想光路が集中する範囲内に発信点TP(図7参照)が存在すると推定される。この仮想光路の集中度合いの具体的な指標が線密度であり、さらにこの線密度の有効性を示す指標が評価値である。次の第4処理段階G4では、これら線密度及び評価値を算出するのに必要な最近接点を抽出する。
【0071】
第4処理段階G4では、任意の組み合わせの2つの仮想光路



に対して、図11に示すように互いに最も近接する最近接点Pi、Pj(各請求項記載の近接点)の位置座標を算出する。なお、受信点RPを原点としたRx軸−Ry軸−Rz軸の3次元直交座標は、XYZ軸絶対座標を平行移動した配置関係にある。図示する例では2つの第2仮想光路節



どうしの最近接点を求める場合を示しており、このとき最近接点を求める2つの第2仮想光路節



上に存在する最近接点Pi、Pjの位置ベクトル



はそれぞれ以下のように示される。






ただし

である。これら2つの第2仮想光路節の最近接点Pi,Pjを






より求める。
【0072】
なお、図11に示した上記演算例は第2仮想光路節



どうしでの組み合わせにおける最近接点の求め方であるが、これ以外にも第1仮想光路節

と第2仮想光路節

との組み合わせにおける最近接点も同じ算出方法で求めることができる。なお、同一の仮想光路における仮想光路節どうしの組み合わせ(2回以上の反射を許容した場合でも)や、第1仮想光路節どうしの組み合わせでは、最近接点を求める必要はない。
【0073】
そして上記2つの対応する最近接点Pi、Pjの間の中間点を探索中心点Pcとし、この探索中心点Pcを中心とする所定の半径rの球内に存在する最近接点の個数が線密度である。つまりこの球形の探索範囲(各請求項に記載の所定範囲)30内に存在する最近接点の個数が多いほど、仮想光路節が集中していることになり、当該探索範囲30内に発信点TPが存在する可能性が高くなる。しかし、大きく離間した2つの仮想光路節の組み合わせでも2つの最近接点Pi、Pjとその間の探索中心点Pcを算出できる場合があり、さらにこの探索中心点Pcを中心とした探索範囲30内で他の関係の薄い最近接点が検出される可能性もある。このような場合を排除するために、最近接点間のベクトル

の距離Dを、受信点RPと最近接点Pi,Pjの中間点(つまり上記探索中心点Pc)との間の電波伝搬距離で除して求められる評価値

により、線密度の妥当性を評価する。
【0074】
これにより、2つの対応する最近接点Pi,Pjが近接しているほど評価値

の値は小さくなり、受信点RPから最近接点Pi,Pjとの間の電波伝播距離が長いほど評価値

の値は小さくなる。第5処理段階G5では、以上のようにして各探索中心点Pcを中心としたそれぞれの探索範囲30における線密度と評価値を求める。ここで、線密度の算出にあたって探索範囲30内に計数する対象の最近接点は、当該探索中心点Pcを求めた際の元となる2つの仮想光路節にそれぞれ近接する他の仮想光路節との組み合わせで求められる最近接点が望ましい。
【0075】
そして、第6処理段階G6で、上記第5処理段階G5で求められた各探索範囲30での線密度と評価値に基づいて、どの探索範囲30の探索中心点Pcが最も発信点TPに近接しているかを判定する。ここで、線密度が大きい探索範囲30ほど順位が高く、さらに同じ線密度の場合に評価値が小さい探索範囲30ほど順位が高くなる。このような発信点判定を行うことにより、図12に示すような実際の発信点TPに近い探索中心点Pcを判定し、発信点TPを推定することができる。また、前述したように、レイトレーシング解析に用いられた主要到来角は、図示するように明確にマルチパス経路が離間しているものが選択されているため、受信電波の散乱反射の影響を受けることなく高い精度で発信点TPを推定することができる。
【0076】
図13は、以上説明した内容の処理を実行するために、演算処理部7のCPU(センター装置2のCPU201)によって実行される送信点推定処理S1の制御手順を表すフローチャートである。なお、センター装置2が通信端末1から電波信号を受信した際、又は所定の操作が行われた際にこのフローが開始される。
【0077】
まず、ステップS5で、CPU201は、半値角θhなどアレイアンテナ3に関するアンテナ特性を記憶部8から読み出して取得する。その後、CPU201は、ステップS10において建造物Hに関する構造データを記憶部8から読み出して取得する。
【0078】
そして、ステップS15へ移り、CPU201は、主要到来角選択数の変数Nの値を5に設定する。
【0079】
その後、ステップS20へ移り、CPU201は、アレイアンテナ3の受信角範囲における全ての方向にわたって電波を受信し、その受信レベルを全周での到来角分布で測定する。つまり、上記第1処理段階G1に対応する制御を行う。
【0080】
そして、ステップS25へ移り、CPU201は、到来角分布で測定された受信レベルのうち、所定のレベル以上に対応する到来角候補を上記MUSIC法などに基づくピークサーチによって取得する。
【0081】
その後、ステップS30へ移り、CPU201は、上記ステップS25で到来角候補が一つも取得できなかったか否かを判定する。到来角候補の取得数が0である場合、ステップS30の判定が満たされる。つまり、CPU201は、この時点で通信端末1からの電波の発信がない、若しくは電波の受信が困難であるとみなし、このままこのフローを終了する。一方、到来角候補が一つでも取得されていた場合、ステップS30の判定は満たされず、ステップS100の到来角候補絞り込み処理へ移る。
【0082】
ステップS100の到来角候補絞り込み処理では、CPU201は、上記ステップS25で取得された到来角候補のうち、半値角θh/2以上離間して最も受信レベルの大きい5つの主要到来角を選択する(詳細は後述の図14参照)。なお、上記ステップS25と当該ステップS100とで、上記第2処理段階G2に対応する制御が行われる。
【0083】
その後、ステップS35へ移り、CPU201は、上記ステップS100で選択された主要到来角に対するレイトレーシング解析を行う。つまり、上記第3処理段階G3に対応する制御を行う。
【0084】
そして、ステップS40へ移り、CPU201は、上記ステップS35で解析された各仮想光路節どうしの最近接点を全て抽出する。つまり、上記第4処理段階G4に対応する制御を行う。
【0085】
その後、ステップS45へ移り、CPU201は、上記ステップS40で求められた全ての最近接点に対応する探索中心点Pcを求め、それぞれの探索範囲30の球半径を一律に設定する。
【0086】
そして、ステップS50へ移り、CPU201は、上記ステップS45で設定した各探索範囲30のそれぞれにおける線密度を算出する。
【0087】
その後、ステップS55へ移り、CPU201は、上記ステップS45で設定した各探索範囲30のそれぞれにおける評価値

を算出する。なお、上記ステップS45、上記ステップS50、及び当該ステップS55とで、上記第5処理段階G5に対応する制御が行われる。
【0088】
そして、ステップS60へ移り、CPU201は、上記ステップS50で算出した線密度と、上記ステップS55で算出した評価値

とに基づいて、いずれか一つの探索中心点を発信点TPとして判定する。つまり、上記第6処理段階G6に対応する制御を行う。そして、このフローを終了する。
【0089】
図14は、上記図13中のステップS100において実行される到来角候補絞り込み処理の詳細手順を表すフローチャートである。
【0090】
ステップS105で、CPU201は、到来角候補選択数の変数nの値を0にリセットする。
【0091】
その後、ステップS110へ移り、CPU201は、この時点での選択範囲内に到来角候補が一つでも存在しているか否かを判定する。一つも存在していない場合、判定が満たされ、そのままこのフローを終了する。ここで到来角候補選択数nの値が5未満である場合でも、前述のステップS35ではそのままn本の主要到来角に対してレイトレーシング解析が行われる。
【0092】
また一方、この時点での選択範囲内に到来角候補が一つでも存在している場合、ステップS110の判定は満たされず、ステップS115へ移る。
【0093】
ステップS115では、CPU201は、この時点の選択範囲内で受信レベルが最大である到来角候補を選択し、ステップS120で到来角候補選択数nの値を1増加する。
【0094】
その後、ステップS125へ移り、CPU201は、上記ステップS115で選択した到来角候補の方位角及び仰角のそれぞれ±半値角θh/2の範囲を選択範囲から除外する。なお、この場合には、受信点RPを頂点とし、半値角θhを頂角とした略四角錐の範囲で選択範囲の除外を行うことになる。これ以外に、選択した到来角候補を中心とした立体角で±半値角θh/2の範囲を選択範囲から除外してもよい。この場合には、受信点RPを頂点とし、半値角θhを頂角とした略円錐の範囲で選択範囲の除外を行うことになる。
【0095】
そして、ステップS130へ移り、CPU201は、この時点での到来角候補選択数nの値が、主要到来角選択数Nの値(=5;上記ステップS15参照)以上となったか否かを判定する。到来角候補選択数nが主要到来角選択数N未満である場合、つまりn<5である場合、判定は満たされず、上記ステップS110へ戻って同様の手順を繰り返す。一方、n≧5である場合、ステップS130の判定が満たされ、このフローを終了する。
【0096】
以上において、上記第1処理段階G1が各請求項記載の受信制御手段に相当し、上記第3処理段階G3及び第4処理段階G4が近接点抽出手段に相当し、上記第5処理段階G5及び第6処理段階G6が発信点特定手段に相当する。
【0097】
本実施形態におけるセンター装置2は、以上のように実行される送信点推定処理を利用することにより、上記のようにビルB内を自由に移動する通信端末1から電波信号を受信した際に、その時点で位置しているフロアを正確に検出することができる。なお、このためにはビルBが上述した前提条件を満たす必要がある。すなわち、当該ビルBの建造物が外部から閉じた屋内空間であって、この屋内空間を形成するそれぞれの壁の位置、形状、大きさ、及び電波に対する性質が全て既知である。これにより、センター装置2は、ビルB内の各フロアにそれぞれ対応してセキュリティの設定を行うことができ、通信端末1からセンター装置2を介してビルBの外部へ情報を送信する際に、そのセキュリティ設定に基づいた制限制御を行うことができる。
【0098】
図15は、通信端末1がセンター装置2へ送信する電波信号の種類を説明する概念図である。
【0099】
本実施形態において通信端末1がセンター装置2へ送信する電波信号は、図示するようにデータ構造によって3種類に分けられる。図15(a)に示す電波信号のデータ構造は、当該通信端末1のIDのみを含む。なお、このIDが各請求項に記載の非制御データに相当している(図15(b)、図15(c)でも同様)。この信号は、情報データの送受信を行わない通常時に、通信端末1からセンター装置2へ定期的に送信される電波信号である。センター装置2は、このIDのみを含んだ電波信号を受信することにより、前述した送信点推定方法により、当該IDに対応する通信端末1がその時点で位置しているフロアを定期的に判定する。
【0100】
図15(b)に示す電波信号は、IDとともに外部送信要求(送信要求信号)を含んでいる。この外部送信要求は、通信端末1が所定の情報データを外部送信データとしてビルBの外部へ送信したい場合に、センター装置2に対して送信するものである。センター装置2は、このIDと外部送信要求とを含んだ電波信号を受信した際に、その時点で当該通信端末1が位置しているフロアに対応するセキュリティの設定に応じて外部送信の可否を判定し、通信端末1に対して許可又は不許可の応答を返信する(後述の図16参照)。すなわち、センター装置2は、ネットワークNWを介したビルB外部(言い換えればシステム外部)への送信を許可する場合には制限指示信号として外部送信許可を送信し、ネットワークNWを介したビルB外部(言い換えればシステム外部)への外部送信を許可しない場合には制限指示信号として外部送信許可を送信する。
【0101】
図15(c)に示す電波信号は、IDとともに上記外部送信データ(通信情報)が含まれている。上記外部送信要求に対する応答としてセンター装置2から外部送信許可を受信した場合には、この外部送信データに送信対象の情報データがそのまま含まれる。また、上記外部送信要求に対する応答として外部送信不許可を受信した場合には、外部送信データは通信端末1側で無効化され、その中身のデータは「0」だけで構成されるいわゆるヌルデータとなる(後述の図17参照)。すなわち、上記外部送信データは、各請求項記載の制御データに相当している。
【0102】
以上をまとめると、通信端末1が送信する電波信号には常にIDが含まれており、状況に応じて外部送信要求又は外部送信データが含まれるデータ構造となる。
【0103】
図16は、フロア別セキュリティ設定テーブル(制限態様情報)の一例を示す図である。本実施形態において、このフロア別セキュリティ設定テーブルは、センター装置2の大容量記憶装置204(制限記憶手段)に記憶保持される情報であり、各フロアに対応してそれぞれに位置する通信端末1に外部送信を許可するか否かが予めセキュリティ管理者により設定されている。センター装置2は、上記図15(b)で説明した外部送信要求を通信端末1から受信した際に、このフロア別セキュリティ設定テーブルを参照して外部送信の可否を判定し、外部送信許可か外部送信不許可の応答を返信する。なお、図示する例では、1階フロアと2階フロアとで外部送信を許可し、3階フロアと4階フロアとで外部送信を不許可としており、上記図1に示した例に対応している。
【0104】
図17は、上記図15(c)で示した、外部送信データを含む電波信号の詳細を示す図である。上述したように、通信端末1が所定の情報データを外部送信データとしてビルBの外部へ送信したい場合には、センター装置2に対して外部送信要求(上記図15(b)参照)を送信する。その後、その応答としてセンター装置2から外部送信許可を受信した場合には、図17(a)に示すように、送信対象の情報データがそのまま含まれる外部送信データをセンター装置2に送信することができる。しかし、外部送信要求の応答として外部送信不許可を受信した場合には、図17(b)に示すように、送信対象の情報データは通信端末1側で無効化され、中身が「0」だけで構成されるヌルデータを外部送信データとしてセンター装置2に送信することとなる。
【0105】
センター装置2は、実質的に情報データが含まれている外部送信データのみをネットワーク回線NWを介してビルB外部に送信し、ヌルデータの外部送信データに対しては上記図15(a)に示したIDのみを含むデータ構造の電波信号と同等に扱い、そのまま無視するか、送信点推定処理にのみ用いる。なお、特に図示しないが、図17(a)の有効な外部送信データには、例えばIPアドレスなどのようにビルB外部での具体的な送信先を示す情報が通信端末1によって含められている。本実施形態は、このようにして通信端末1からセンター装置2を介してビルBの外部へ情報データを送信する際の制限制御を行うことができる。
【0106】
図18は、このような外部送信の制限制御を行う場合の動作行程例を示すシーケンスチャートである。なお、図示する例では、外部送信が許可される2階フロアへ通信端末1が移動した際の外部送信の動作行程例を示す。
【0107】
まず、通信端末1は上記図15(a)に示したIDのみの電波信号を定期的に送信し、センター装置2がこれを受信している(ステップSS1)。これにより、センター装置2は上記電波信号の受信に基づく送信点推定処理により、通信端末1がその時点で位置しているフロアを判定する。通信端末1が新しいフロア(この例では2階フロア)へ移動した(ステップSS2)際には、センター装置2が送信点推定処理(ステップSS3)により通信端末1の移動先のフロアを判定する(ステップSS4)とともに、当該通信端末1を識別確認する(ステップSS5)。
【0108】
そして、通信端末1は、所定の情報データをビルB外部に送信する外部送信データとして準備し(ステップSS6)、上記図15(b)に示したIDと外部送信要求とを含む電波信号をセンター装置2へ送信する(ステップSS7)。センター装置2がこの外部送信要求を受信(ステップSS8)した際には、上記図16に示したフロア別セキュリティ設定テーブルを参照して、当該通信端末1がその時点で位置しているフロアでの外部送信の可否を判定し(ステップSS9)、外部送信許可又は外部送信不許可のいずれかを返信する。なお、この例では通信端末1が2階フロアに位置しているため、センター装置2は外部送信許可を送信している(ステップSS10)。
【0109】
通信端末1は外部送信許可を受信したことで、上記図17(a)に示したように上記所定の情報データをそのまま有効に含んだ外部送信データを、IDとともにセンター装置2へ送信する(ステップSS12)。センター装置2は、このように有効な外部送信データを受信(ステップSS13)したことで、ネットワーク回線を介してビルB外部へ当該外部送信データを送信する(ステップSS14)。このようにして本実施形態の情報制御システムSは、フロア別のセキュリティ設定で外部送信が許可される有効な外部送信データだけをビルB外部へ送信するよう制限制御する。
【0110】
図19は、上記シーケンスチャートを実行するために、センター装置2のCPU201によって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートである。なお、センター装置2が通信端末1から電波信号を受信した際、又は所定の操作が行われた際にこのフローが開始される。
【0111】
まず、ステップS1で、CPU201は、受信した電波信号に基づいて当該電波信号を送信した通信端末1の現在位置を推定するための送信点推定処理を行う(上記図13、図14参照)。
【0112】
そして、ステップS205へ移り、CPU201は、上記ステップS1で判定した通信端末1の現在位置と、ビルB内におけるフロアの区分けとを参照して、通信端末1が位置しているフロアを判定する。
【0113】
その後、ステップS210へ移り、CPU201は、受信した電波信号に含まれる上記IDにより通信端末1の個体を識別する。
【0114】
そして、ステップS215へ移り、CPU201は、受信した電波信号に前述の外部送信要求が含まれていたか否かを判定する。電波信号に外部送信要求が含まれていなかった場合、判定は満たされず、ステップS1に戻って同様の手順を繰り返す。電波信号に外部送信要求が含まれていた場合、ステップS215の判定が満たされ、ステップS220へ移る。
【0115】
その後ステップS220で、CPU201は、上記図16のフロア別セキュリティ設定テーブルを参照して、上記ステップS205で判定した当該通信端末1の現在のフロアが外部送信を許可するよう設定されているか否かを判定する。外部送信を許可するよう設定されているフロアであった場合、ステップS220の判定が満たされ、ステップS225へ移る。
【0116】
ステップS225では、CPU201は、通信端末1に対して前述の外部送信許可を送信する。
【0117】
その後、ステップS230へ移り、CPU201は、上記外部送信許可に対応した、通信端末1からの前述した有効な外部送信データを受信する。
【0118】
そして、ステップS235へ移り、CPU201は、上記ステップS230で受信した有効な外部送信データを、ネットワーク回線を介してビルB外部へ送信する。なおこの際には、上述したように、外部送信データに含まれているIPアドレスなどの識別情報で特定される送信先へ送信する。そしてこのフローを終了する。
【0119】
また一方、上記ステップS220の判定において、上記ステップS205で判定した当該通信端末1の現在のフロアが外部送信を許可しないよう設定されているフロアであった場合、判定は満たされず、ステップS240へ移る。ステップS240では、通信端末1へ外部送信不許可を送信し、その後、このフローを終了する。なお、この外部送信不許可を送信した後に、通信端末1から無効化された外部送信データを受信するが、前述したように、これについては無視するか次の送信点推定処理だけに用い、ビルB外部への送信は行わない。
【0120】
図20は、上記図18のシーケンスチャートを実行するために、通信端末1のCPU101によって実行される通信端末処理の制御手順を表すフローチャートである。なお、通信端末1において電源が投入された際にこのフローが開始される。
【0121】
まず、ステップS305で、CPU101は、上記図15(a)に示した、上記IDのみを含む電波信号をセンター装置2に送信する。
【0122】
そして、ステップS310へ移り、CPU101は、操作部を介して外部送信を行うよう指示する操作が入力されたか否かを判定する。外部送信の操作が入力されていない場合、判定は満たされず、ステップ305へ戻って同様の手順を繰り返す。外部送信の操作が入力されていた場合、ステップS310の判定が満たされ、その後ステップS315へ移る。
【0123】
その後ステップS315で、CPU101は、ビルBの外部(システムの外部)に送信する対象の情報データを取得する等を行い、外部送信データの準備を行う。
【0124】
そして、ステップS320へ移り、CPU101は、センター装置2に対して上記図15(b)に示したIDと外部送信要求とを含む電波信号を送信する。
【0125】
その後、ステップS325へ移り、CPU101は、センター装置2から外部送信許可を受信したか否かを判定する。外部送信許可を受信した場合(上記ステップS225参照)、ステップS325の判定が満たされ、ステップS330に移る。ステップS330では、上記ステップS315で取得した情報データをそのまま含んだ有効な外部送信データ(上記図17(a)参照)をIDとともにセンター装置2へ送信するとともに、その旨を表示部105に表示して、このフローを終了する。なお、この外部送信データには、例えばビルB外部の送信先を特定する識別情報も含まれている。
【0126】
一方、ステップS325において、外部送信不許可を受信した場合(上記ステップS240参照)、判定は満たされず、ステップS335に移る。ステップS335では、上記ステップS315で取得した情報データを無効化した外部送信データ(上記図17(b)参照)をIDとともにセンター装置2へ送信するとともに、その旨を表示部105に表示し、このフローを終了する。
【0127】
以上において、端末アンテナ107と上記図20のフローにおけるステップS305で実行される処理とが、各請求項に記載の電波信号出力手段として機能する。また、上記図17のフローにおけるステップS205で実行される処理が、領域検出手段として機能する。また、ステップS225とステップS240で実行される処理が制限制御手段と指示信号出力手段として機能し、ステップS335で実行される処理がデータ無効化手段として機能する。
【0128】
以上説明したように、本実施形態においては、センター装置2は、通信端末1が発する電波信号を用いて当該電波信号の発信点を特定し、これによって通信端末1が存在するエリアを検出する。そして、その検出結果のエリアに対応したセキュリティ設定により通信端末1からの信号に含まれる情報内容を制限する。これにより、従来構成のように通信端末1側に別途GPS等の位置検出手段を設けることなく、通信端末1の位置を検出することができる。この結果、コスト増大を招くことのない安価なシステム構成で、通信端末1からの外部送信データの内容を当該通信端末1の位置する領域に応じて制限し、セキュリティを確保することができる。
【0129】
また、この実施形態では特に、フロア別セキュリティ設定テーブルにおいて各フロアごとにセキュリティの程度を設定し、予め大容量記憶装置204に記憶させておく。これにより、センター装置2は、ステップS225又はステップS240で、それぞれ外部送信許可又は外部送信不許可を送信する。これにより、通信端末1は、当該センター装置2からの制限指示に従う形で、通信端末1からの外部送信データの内容を自ら制限する。この結果、センター装置2は、通信端末1からの外部送信データの内容を、各フロアごとに要求されるセキュリティの程度に応じて可変に制限することができる。
【0130】
また、この実施形態では特に、センター装置2がステップS240で送信する外部送信不許可に応じて、通信端末1が、ステップS335で、電波信号に含まれるID及び外部送信データのうち外部送信データを実質的に無効化する。これにより、IDは有効としたままで、外部送信データのみを無効としセキュリティを確保することができる。
【0131】
そして、このとき、IDについてはセンター装置2による制限制御が及ばないので、センター装置2は、IDに含まれる通信端末1の識別情報を確実に取得することができる。この結果、上記制限制御を実行した際であっても、センター装置2は、通信端末1が発する電波信号を引き続き用いて当該電波信号の発信点を特定し、通信端末1の位置検出を行うことができる。また、位置検出の結果、通信端末1が上記制限制御の制限が必要のないフロアに移動した場合には、当該移動に追従してステップS240での外部送信データの無効化を直ちに解除することができる。
【0132】
また、この実施形態では特に、センター装置2は、通信端末1から上記送信要求が受信された場合に、通信端末1に対し、外部送信許可や外部送信不許可制限指示信号を送信する。このように、セキュリティについて配慮する必要のある、通信端末1からシステム外への情報送信時にのみ、センター装置2が外部送信データの制限制御を行うことで、効率的な情報管理を行うことができる。
【0133】
なお、上記実施形態では、センター装置2と1台の通信端末1との情報送受信を例にとって説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、複数の通信端末1を用意した場合でも、それぞれ異なる周波数チャンネルで無線通信することで、各通信端末1の送信点推定が可能であり、それぞれに対応してフロア別のセキュリティ管理を行うことができる。又は、センター装置2側で時分割で複数の通信端末1との無線通信を個別に行うようにすることでも、同様に動作できる。
【0134】
なお、本発明は、上記に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を説明する。
【0135】
(1)有効な外部送信データにスタンプを付加する場合
すなわち、センター装置2が有効な外部送信データを受信した際、当該有効な外部送信データを送信した通信端末1のその時点で位置しているフロアに対応したスタンプを外部送信データに付加し、ビルB外部へ送信するようにしてもよい。
【0136】
図21は、この変形例におけるスタンプの付加構成の一例を示す図であり、上記実施形態における図17に対応する図である。
【0137】
この図21において、通信端末1が外部送信許可を受信した場合には、有効な外部送信データをセンター装置2に送信する。この時点で、センター装置2は当該通信端末1が位置しているフロア(図示する例では1階フロア)を既に判定しているため、このフロアに対応したスタンプ(領域識別子)を当該外部送信データに付加することができる。そして、センター装置2がネットワーク回線を介してビルB外部の所定の情報機器Cや端末に、上記スタンプが付加された外部送信データを送信する。これを受信したビルB外部の機器Cは、外部送信データを受信できるとともに、IDから通信端末1を特定し、スタンプから送信時のフロアを特定できる。
【0138】
図22は、このような外部送信の制限制御とともにスタンプの付加を行う場合の動作行程例を示すシーケンスチャートであり、上記実施形態における図18に対応する図である。なお、図示する例では、上記図18と同様に、外部送信が許可される2階フロアへ通信端末1が移動した際の外部送信の動作行程例を示す。
【0139】
この図22に示す動作行程例は、基本的には上記図18で示したものとほぼ同じであるが、センター装置2が通信端末1から有効な外部送信データを受信した後の動作が相違する。つまり、有効な外部送信データを受信した(ステップSS13)センター装置2は、その後、既に判定していた通信端末1のフロアに対応するスタンプを外部送信データに付加する(ステップSS20)。そしてセンター装置2は、このようにスタンプが付加された有効な外部送信データをネットワーク回線を介してビルB外部へ当該外部送信データを送信する(ステップSS14)。
【0140】
図23は、本変形例における上記シーケンスチャートを実行するために、センター装置2のCPU201によって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートであり、上記実施形態における図19に対応する図である。
【0141】
この図23に示すフローチャートは、基本的には上記図19で示したものとほぼ同じであるが、ステップS230とステップS235の間に新たにステップS233が設けられた点が相違する。
【0142】
つまり、ステップS230で、CPU201が通信端末1から有効な外部送信データを受信した後に、ステップS233へ移る。
【0143】
その後ステップS233で、CPU201は、上記ステップS230で受信した有効な外部送信データに対して、上記ステップS205で判定したフロアに対応するスタンプを付加する。
【0144】
そして、ステップS235へ移り、CPU201は、上記ステップS233でスタンプを付加した外部送信データをネットワーク回線を介してビルB外部へ送信し、このフローを終了する。なお、この変形例における通信端末処理は、上記実施形態の図20に示したフローチャートと同一であるため、説明を省略する。
【0145】
以上において、上記図23のフローにおけるステップS233で実行される処理が、各請求項に記載の識別子付与手段として機能し、ステップS235の手順が、ネットワーク送信手段として機能する。
【0146】
本変形例においては、ステップS235で送信された情報を受信したシステム外の機器Cや端末は、当該受信された情報がシステムS内のどのフロアにあるどの通信端末1から送信されたものであるかを、確実に識別することができる。
【0147】
(2)その他
上記実施形態及び(1)の変形例では、本発明の情報制御システムSを多層階構造のビルBに適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、図24に示すように1つのフロア内に収容されるカラオケボックスの店舗Kなどに適用してもよい。この場合には、各エリアに相当する各部屋90別で外部送信の許可・不許可(例えば、客室Bの通信端末1Aから、カラオケボックス内のセンター装置2に組み込まれたWebサーバには、有効な外部送信データ(アクセス許可)を送信し、センター装置2に組み込まれたルータからネットワーク回線NWを介して外部のインターネット上に公開されているWebサーバに対しては無効化された外部送信データ(アクセス不許可)を送信する。事務室の通信端末1Aからは、カラオケボックス内のセンター装置に組み込まれたWebサーバ、インターネット上に公開されているWebサーバ、いずれに対してもアクセス許可する)などのセキュリティの程度を、センター装置2に予め設定しておき、センター装置2が各部屋90に設置した通信端末1Aの位置を送信点推定によって、位置判定することで、通信端末1Aが動作(電波を送信している)している部屋を特定し、各部屋で動作する各通信端末1Aに対して部屋別にデータの外部送信許可又は外部送信不許可の指示(SS10相当)を送信し、各通信端末1Aが対応する(SS11〜SS12相当)ことでセュリティを確保できる。
【0148】
また、上記例では、1つのフロア(同一フロア)で説明したが、本発明は3次元的な電波の到来角から送信位置を推定(特定)するので、センター装置2と通信端末1Aとが、同一フロアでなくても、送信位置を推定できるのは明らかである。
【0149】
なお、以上において、図2、図4等の各図中に示す矢印は信号の流れの一例を示すものであり、信号の流れ方向を限定するものではない。
【0150】
また、図13、図14、図19、図20、図23等に示すフローチャートは本発明を上記フローに示す手順に限定するものではなく、発明の趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で手順の追加・削除又は順番の変更等をしてもよい。
【0151】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0152】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0153】
1,1A 通信端末
2 センター装置(管理装置)
3 アレイアンテナ(受信アンテナ)
3a アンテナ素子
12,13,14 外壁
15,16 外壁
21 2階床面
22,23 内壁
24 出入口
30 探索範囲(所定範囲)
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 操作部
105 表示部
106 無線通信部
107 端末アンテナ
201 CPU
202 ROM
203 RAM
204 大容量記憶装置(制限記憶手段)
205 無線通信部
206 ネットワーク通信部
S 情報制御システム
B ビル
H 建造物
Pc 探索中心点
RP 受信点(測定地点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物内の複数の領域を移動可能な少なくとも1つの通信端末と、
前記通信端末に対し無線通信により情報送信可能な管理装置と、
を有する情報制御システムであって、
前記通信端末は、
自通信端末を特定するID情報と、前記管理装置との通信情報と、を含んだ電波信号を発する電波信号出力手段と、
を有し、
前記管理装置は、
前記建造物内に位置する所定の測定地点に設けられ、複数のアンテナ素子を備えた受信アンテナと、
ビームフォーミングにより前記複数のアンテナ素子の指向性を制御しつつ、所定の受信角範囲における全ての方向にわたって電波を受信する受信制御手段と、
前記受信制御手段により受信された前記全ての方向に含まれる複数の電波到達方向それぞれに対し、前記測定地点からレイトレーシング法により光を仮想的に仮想光線として放射し、前記建造物内の仮想電波伝播経路を算出する経路図において、前記建造物の構造及び各構造材の材質を前記仮想電波伝播経路を算出するパラメータとして用いて、前記放射した複数の仮想光線の中から異なる任意の2仮想光線を選択する組み合わせによって抽出された前記2仮想光線がお互いに最も近づいた位置を前記経路図上の近接点として、前記近接点を全て抽出する近接点抽出手段と、
前記仮想電波伝播経路図の前記所定範囲において線密度計算により算出される前記近接点の数に基づき、前記電波信号の発信点を特定する発信点特定手段と、
前記発信点特定手段による前記電波信号の発信点の位置と、前記発信点からの位置検出用電波に含まれたID情報とによる特定結果に基づき、前記複数の領域のうち、前記通信端末が存在する領域を検出する領域検出手段と、
前記領域検出手段の検出結果に基づき、前記通信端末から送信される前記電波信号に含まれる通信情報の内容を制限可能な制限制御手段と、
を有することを特徴とする情報制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の情報制御システムにおいて、
前記管理装置は、
前記複数の領域のそれぞれごとに設定された、前記制限制御手段で実行すべき制限態様情報を記憶した制限記憶手段を有し、
前記制限制御手段は、
前記制限記憶手段が記憶した前記制限態様情報に基づき、前記通信端末からの前記通信情報の内容を制限する
ことを特徴とする情報制御システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の情報制御システムにおいて、
前記管理装置の前記制限制御手段は、
前記通信端末に対し、前記通信情報の内容を制限可能な制限指示信号を送信する指示信号出力手段を備える
ことを特徴とする情報制御システム。
【請求項4】
請求項3記載の情報制御システムにおいて、
前記通信端末の前記電波信号出力手段から出力される前記電波信号は、当該通信端末の識別情報を含み前記管理装置の前記制限制御手段により制御されない非制御データと、前記管理装置の前記制限制御手段により制御可能な、前記通信情報としての制御データとを含み、
前記管理装置の前記領域検出手段は、
前記発信点特定手段による前記電波信号の前記発信点の特定結果と、当該電波信号の前記非制御データに含まれる前記通信端末の前記識別情報とに基づき、当該通信端末が存在する領域を検出し、
前記通信端末は、さらに、
前記指示信号出力手段から送信された前記制限指示信号に基づき、前記電波信号出力手段から出力される前記電波信号に含まれる前記制御データの内容を実質的に無効化を有する
ことを特徴とする情報制御システム。
【請求項5】
請求項3又は請求項4記載の情報制御システムにおいて、
前記通信端末の前記電波信号出力手段から出力される前記電波信号は、さらに、
システム外への情報送信を要求する送信要求信号を含み、
前記管理装置の前記指示信号出力手段は、前記電波信号に含まれる前記送信要求信号が受信された場合に、前記通信端末に対し、前記通信情報の内容を制限可能な制限指示信号を送信する
ことを特徴とする情報制御システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の情報制御システムにおいて、
前記管理装置は、さらに、
前記領域検出手段により検出された前記通信端末が存在する領域に対応した領域識別子を、前記通信端末からの前記通信情報に付加する、識別子付与手段と、
前記識別子付与手段により前記領域識別子が付与された前記通信端末からの前記通信情報を、当該情報制御システム外のネットワークへ送信するネットワーク送信手段と、
を有することを特徴とする情報制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−129578(P2012−129578A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276442(P2010−276442)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】