説明

情報取得装置,その方法,そのシステム,その反射板

【課題】目標物からの反射波から豊富な情報を抽出でき,それにより,目標物の種類を確実に識別できる情報取得装置,その方法,そのシステム,その反射板を提供すること。
【解決手段】基板上に少なくとも2つ以上の,使用帯域内に異なる透過帯域を持つバンドパスフィルタ特性を持つ吸収材を設けて反射板とする。この反射板は,使用帯域内の周波数の電波に対し3水準以上の反射率を持つ。一方,使用帯域内の周波数に対する3水準以上の反射率分布のパターンを目標物の種類ごとに割り当て,割り当てられたパターンの反射率分布を持つ反射板を種類に応じて目標物に付与する。そして情報取得装置は,使用帯域にわたる周波数の電波を送信し,目標物により反射された電波を受信し,受信した電波の周波数に対する強度分布のパターンを抽出し,抽出したパターンと目標物の種類ごとに割り当てられたパターンとを比較して,目標物の種類を識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,目標物から受信した反射波によりその目標物に関する情報を取得する情報取得技術に関する。さらに詳細には,単に目標物の存否だけでなく,その種類の識別ができる情報取得装置,その方法,そのシステム,その反射板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,例えば特許文献1のように,車両等の移動体において,周囲の障害物の存在や距離を知るための情報取得が行われている。特許文献1の技術では,目標物の少なくとも一部を,1つまたは複数の特定の周波数の電波を全反射する電波反射体と,1つまたは複数の特定の周波数の電波を吸収する電波吸収体とで構成している。これにより,選択的な電波反射特性を目標物に付与しておくのである。このような電波反射特性を有する目標物に電波を照射して,その反射波の周波数成分を解析する。これにより,目標物の距離,相対速度等の情報を抽出するのである。また,目標物の電波反射特性に応じたコード情報を得ることにより,目標物の種類についての情報も得られるとされている。
【特許文献1】特開2000−88951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら,前記した従来の技術では,目標物の種類を識別する機能がまだ不十分であった。その原因は,反射波中の種々の周波数成分についての有無しか見ていないことにある。このために情報量が不足しており,目標物の種類の確実な識別には十分でなかったのである。
【0004】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,目標物からの反射波から豊富な情報を抽出でき,それにより,目標物の種類を確実に識別できる情報取得装置,その方法,そのシステム,その反射板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の情報取得方法は,使用帯域内の周波数に対する3水準以上の反射率分布のパターンを目標物の種類ごとに割り当て,割り当てられたパターンの反射率分布を持つ反射板を種類に応じて目標物に付与し,使用帯域にわたる周波数の電波を送信し,目標物により反射された電波を受信し,受信した電波の使用帯域内における周波数に対する強度分布のパターンを抽出し,抽出したパターンと目標物の種類ごとに割り当てられたパターンとを比較して,受信した電波を反射した目標物の種類を識別することにより,目標物の種類に関する情報を取得する方法である。
【0006】
本発明は,上記の情報取得方法により,目標物に関する情報を車載の情報取得装置に取得させる情報取得システムおよびその情報取得装置にも及ぶ。すなわちその情報取得装置は,使用帯域にわたる周波数の電波を送信する送信部と,目標物により反射された電波を受信する受信部と,受信部で受信した電波の使用帯域内における周波数に対する強度分布のパターンを抽出する信号処理部と,信号処理部で抽出したパターンと目標物の種類ごとに割り当てられたパターンとを比較して,受信部で受信した電波を反射した目標物の種類を識別するパターン比較部とを有するものである。ここで,パターン比較での比較に供する目標物の種類ごとのパターンは,パターン出力部から出力させればよい。
【0007】
本発明はまた,上記の情報取得方法に用いる反射板にも及ぶ。すなわちその反射板は,使用帯域内のすべての周波数の電波を反射する基板と,基板上に設けられた少なくとも2つ以上の吸収材とを有し,各吸収材が,使用帯域内に透過帯域を持つバンドパスフィルタ特性を有し,各吸収材の透過帯域の両端周波数の少なくとも一方が互いに異なり,使用帯域内の周波数の電波に対し3水準以上の反射率を持つように構成したものであることが望ましい。
【0008】
あるいはその反射板は,使用帯域内のすべての周波数の電波を反射する基板と,基板上に設けられた少なくとも2つ以上の吸収体とを有し,各吸収体として,使用帯域内に互いに異なる共振周波数を有するものを用いており,使用帯域内の周波数の電波に対し3水準以上の反射率を持つように構成したものであってもよい。
【0009】
本発明では,上記の反射板を用いることにより,有限枚の吸収材により,3水準以上の反射率を持つ多様な反射率パターンを容易に用意できる。このため目標物の多様な種類に対応可能である。そして,その反射波の強度分布パターンにより,目標物の種類を,高い信頼性で確実に識別できる。このため,目標物の種類についての情報を確実に取得できる情報取得装置等となっている。
【0010】
ここで,情報取得装置の送信部は,周波数に対して不均一な強度分布により電波の送信を行うこともできる。その場合に信号処理部は,受信した電波から強度分布のパターンを抽出するに際し,送信部における送信の強度分布に基づく補正を行うことになる。これにより,さらに情報量を増やすことができる。
【0011】
さらに反射板には,吸収体の接地状態を個別に切り替えるスイッチ群を備えることができる。その場合,あらかじめ情報の種類ごとに割り当てられた時間パターンによりスイッチ群を操作することで,反射板から情報を送信できる。この場合に情報取得装置では,信号処理部が,受信部で受信した電波の時間変化パターンをも抽出し,パターン出力部が,あらかじめ情報の種類ごとに割り当てられた時間パターンをも出力し,パターン比較部が,信号処理部で抽出した時間変化のパターンと情報の種類ごとに割り当てられた時間パターンとを比較すればよい。これにより,反射板からの情報の種類の識別を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,目標物からの反射波から豊富な情報を抽出でき,それにより,目標物の種類を確実に識別できる情報取得装置,その方法,そのシステム,その反射板が提供されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,自動車等の車両において安全のために周囲の物の情報を取得するシステムに本発明を適用したものである。より詳細には,特定の電波反射特性をもの反射板をあらかじめ目標物に付与しておき,この目標物からの反射波を受信することにより,目標物に関する情報を取得するシステムである。本形態では,ミリ波帯に属する76〜77GHz(以下,「使用帯域」という)の電波を情報取得用に使用する。
【0014】
まず,目標物に付与する反射板について説明する。本形態で使用する反射板1は,図1に示すように,基板2に複数枚の吸収材3,4,5を貼り付けたものである。基板2は基本的に,上記の帯域すべての電波を反射するものである。吸収材3〜5は,上記の使用帯域をさらに細分した特定の周波数帯の電波のみを透過させ,それ以外の周波数の電波を吸収するバンドパスフィルタ特性を有するものである。
【0015】
吸収材3〜5の吸収特性の例を図2に示す。これらの透過帯域は,それぞれ異なっている。図2の例では,吸収材3の透過帯域と吸収材4の透過帯域とは,幅はほぼ同じだが全く重複していない。吸収材5の透過帯域は,前二者よりも広く,吸収材3の透過帯域の下端から吸収材4の透過帯域の上端にわたっている。このような吸収特性により,吸収材3〜5は,反射板1が電波を反射するに際して,その吸収帯域に相当する周波数の電波を減衰させる作用を奏する。これにより,吸収帯域に相当する周波数の反射波は,透過帯域に相当する周波数の反射波よりも弱いのである。
【0016】
これら3種の吸収材3〜5を有する反射板1の全体としての反射率特性を図3に示す。図3のグラフから,反射板1の反射率が,周波数に応じて3通りの値のいずれかであることが分かる。すなわち,76.0〜76.2GHzの範囲内および76.8〜77.0GHzの範囲内では,最も低いR1である。この範囲内の周波数の電波は,吸収材3〜5のすべてに吸収されてしまう。このために反射率が最低のR1となるのである。
【0017】
76.2〜76.4GHzの範囲内および76.6〜76.8GHzの範囲内では,最も高いR3である。この範囲内の周波数の電波は,吸収材3〜5のうち1枚には吸収されるが,残り2枚には吸収されない。このために反射率が最高のR3となるのである。76.4〜76.6GHzの範囲内では,R1とR3との中間のR2である。この範囲内の周波数の電波は,吸収材3〜5のうち2枚に吸収され,残り1枚には吸収されない。このために反射率が中間のR2となるのである。
【0018】
むろん,図2および図3に示したものは例示である。吸収材の吸収特性やその組み合わせは種々可能である。吸収材の透過帯域の両端の周波数は,0.2GHz刻みには限定されない。吸収材の枚数も,3枚に限定されるわけではない。吸収材においては,透過帯域の深さ,すなわち透過帯域と吸収帯域での吸収率の差異の程度にもバリエーションがあってよい。よって反射板1の反射率特性も,様々なパターンが可能である。反射率の水準の数も,「3」に限定されない。もっと多水準であってもよい。
【0019】
このような吸収材は,樹脂またはセラミックのような絶縁物を基材として,これに適宜の電波吸収剤を配合することで作成できる。配合する電波吸収剤の選択により,図2に例示した吸収特性を調整できるのである。そしてその吸収帯域と透過帯域との境目に,吸収率の鋭いエッジを実現できる。
【0020】
そして,これらの吸収材の組み合わせにより,図3の反射率特性を調整できるのである。例えば図4のような反射率特性も可能である。これらの反射率特性におけるエッジの急峻性も良好なものとできる。以下では,図3の反射率特性を「パターンA」といい,図4の反射率特性を「パターンB」ということとする。そして,パターンAの反射率特性を有する反射板1は歩行者用,パターンBの反射率特性を有する反射板1は車両用,といった具合に目標物の種類ごとにパターンを割り当てるのである。
【0021】
次に,本形態のシステムにおける情報取得装置について説明する。本形態の情報取得装置10は,自動車等の車両に運転者支援装置の一環として搭載されるものであり,図5のブロック図に示すように構成されている。図5の情報取得装置10は,送信アンテナ11,受信アンテナ12,送信部13,受信・信号処理部14,パターン出力部15,パターン比較部16,指令部17を有している。これにより情報取得装置10は,FM−CWレーダとして機能するようになっている。むろん,送信アンテナ11と受信アンテナ12とを1つのアンテナで兼用することもできる。
【0022】
送信部13は,送信アンテナ11を介して,使用帯域の全域にわたって周波数を時間とともに変化させつつ,目標物20へ向けて電波を出力するブロックである。受信・信号処理部14は,受信アンテナ12による受信信号を取得して,増幅やノイズ除去などの通常の処理をし,さらに種々の演算処理を行うブロックである。その具体的な目的は,目標物20から帰ってきた反射波から,図2や図3に示したようなパターンを抽出することである。このためには,高速フーリエ変換(FFT)その他の公知の演算機能を有していれば十分である。
【0023】
パターン出力部15は,図2や図3に示した種々のパターンを出力するブロックである。このためにパターン出力部15は,必要なパターンを記憶している。さらに,その割り当てられた目標物の種類も,表1に例示するように合わせて記憶している。以下,パターン出力部15に記憶されているパターンを,「登録パターン」という。なお,登録パターンとして記憶するのは,図2や図3に示したパターンのうち使用帯域内の部分だけで十分である。
【0024】
【表1】

【0025】
パターン比較部16は,受信・信号処理部14で抽出したパターンと,パターン出力部15から出力された登録パターンとを比較するブロックである。すなわち,受信・信号処理部14で抽出したパターンが,パターン出力部15に記憶されている登録パターンのうちどれにマッチするかを判別するブロックである。指令部17は,パターン比較部16での判別結果に応じて,車両側へ種々の指令信号を発するブロックである。
【0026】
本形態のシステムは以下のように動作する。ここで,図5中の目標物20は,図1に示した反射板1を備えているものとする。まず,送信部13は常時,図6のグラフに示すように周波数変調した電波を,送信アンテナ11から送信している。すなわち,送信波の周波数は,使用帯域の下限である76GHzと上限である77GHzとの間で周期的に変化する。その波形は三角波であり,図6中ではその周期をTで表している。1周期Tはおおむね,3msec程度である。なお波形は,三角波の代わりにノコギリ波であってもよい。これを時間積分して周波数と送信強度との関係を示すと,図7のグラフのようになる。
【0027】
すると情報取得装置10は,目標物20が近くにあれば,その反射板1による反射波を,受信アンテナ12により受信する。受信信号の周波数は基本的に,図6に示した送信波と同様に変化する。しかし受信した反射波は,反射板1の吸収材3〜5により一部の周波数成分が減衰している筈である。そのため,周波数と受信強度との関係は,図7に示した送信時のものとは異なっている筈である。
【0028】
そこで,情報取得装置10はこの受信信号により,図8に示す手順により処理を行う。すなわちまず,受信信号に対して,受信・信号処理部14での演算処理を行う。これにより,受信信号における周波数と受信強度との関係を抽出する。これにより例えば,図9に示すような受信強度のパターンが得られる。実際には,このうちの使用帯域の部分のみを考慮すればよい。
【0029】
すると情報取得装置10では,パターン比較部16にて,受信パターン(例えば図9)と,パターン出力部15の登録パターン(例えば図3や図4)との比較を行う。むろん,実際に比較するのは使用帯域の中の部分だけである。これにより,受信パターンが登録パターンのうちどれとマッチするかを判定するのである。その際,受信パターンの縦軸については適宜,伸縮や上下移動をしてマッチングさせてよい。反射信号の強度は,情報取得装置10と目標物20との間の距離などの要因による影響を受けているからである。これにより受信パターンとマッチする登録パターンが見つかったら,表1を参照することにより,そのパターンが割り当てられている目標物20の種類も特定できる。図9の受信パターンであれば,図3のパターンAとマッチし,目標物20の種類は歩行者であると識別できる。
【0030】
これにより,図8中の「特殊な制御」を行うことができる。特殊な制御とは,識別された目標物20の種類に応じた制御のことである。具体的には,車載の音声機器や画像機器を使用しての運転者への警告や,さらには車両の強制停車などである。この制御は,車両側の制御装置(ナビゲーション装置やエンジンコントロールユニット等)にて実行される。このため,上記のパターン比較部16での処理結果に基づく指令信号が,指令部17から車両側の制御装置に送信される。なお,図8中の「通常の制御」は,目標物20の方角や距離に応じた制御のことである。反射波からこのような情報を抽出することは,従来からすでに実現されているので,上記の特殊な制御と合わせて通常の制御をも行うことが容易にできる。
【0031】
このようにして本形態の情報取得システムでは,目標物20にその種類に応じた反射率パターンを有する反射板1をあらかじめ付与しておく。これにより,情報取得装置10を搭載した車両の運転者は,接近した目標物20が反射板1を備えていれば,その種類に応じた適切な運転支援を受けることができる。
【0032】
ここにおいて本形態では前述のように,反射板1として,周波数に応じて3水準以上の反射率を持つものを使用する。さらに,周波数軸上で反射率が一定である区間の数については,図3等に示した5区間よりももっと多くすることもできる。例えば図10のようなパターンのものも可能である。図10は,4水準10区間のパターンの例を示している。しかも,図10のような複雑なパターンの反射板1でも,有限枚の吸収材の組み合わせにより容易に実現することができる。
【0033】
そのため,パターンの総数を28〜10程度も用意することが可能である。このため,多様な目標物の種類に対応できる。先の表1にはごく簡単にしか示さなかったが,歩行者をさらに,幼児,少年,壮年,老人といった具合に分類し,それぞれに固有のパターンを割り当てることができる。自動車についても,普通車や大型車などの種類別の他,車両の前部,後部,側部用にそれぞれ固有のパターンを割り当てることができる。自動車以外の車両についても,自転車や車いす,ベビーカーなどにそれぞれ固有のパターンを割り当てることができる。土地に固定されている物についても,建築物や電柱,道路標識などの種類ごとに固有のパターンを割り当てることができる。そして,反射板1における反射率のエッジが前述のように急峻であることもあり,情報取得装置10では確実にその判別ができるのである。
【0034】
路上で運転中には,例えば図11のような場面に出くわすこともあり得る。この場面は,前方の道路40の両脇に電柱30と郵便ポスト33がある場所において,電柱30の陰に子供31がおり,郵便ポスト33の前に老人32がいる状況である。図11は,車両の前方の場面がナビゲーション装置のモニタ画面に表示されている様子を模して描いたものである。このような場面に遭遇した場合でも,それぞれの目標物(電柱30,子供31,老人32,郵便ポスト33)がそれぞれの反射板1を備えていれば,情報取得装置10は確実にその種類を識別しつつ存在を認知できる。これにより,特定された対象物の種類に応じた適切な運転支援も可能となっている。
【0035】
さらに,図7に示した送信波の強度分布について,変形が可能である。図12がその変形の一例である。図7では使用帯域の全域にわたり送信強度が均一であったが,図12では右上がりに直線的に送信強度が強くなっている。すなわち,周波数が高いほど送信強度が強くなっている。
【0036】
このような送信強度分布で送信を行うと,受信パターンにも当然その影響が現れる。すなわち,図3の反射率パターンを持つ目標物20からは,図9の受信パターンの代わりに,図13の受信パターンが得られるのである。この場合には,図13の受信パターンを,図12の送信強度分布を考慮して補正してから,登録パターンとの比較に供することになる。そのための送信強度分布のデータは,送信部13から受信・信号処理部14に提供すればよい。これにより,図7の送信強度分布を用いた場合と同様に目標物の種類の識別が可能である。
【0037】
これにより,さらに情報量を豊富にできる。例えば,同様の情報取得装置10を搭載する他車が近くにいた場合でも,他車からの送信波による影響を排除できる。自車と他車とで異なる送信強度分布を用いることで,他車の送信波による受信パターンは登録パターンとマッチしなくなるからである。これにより,交通が混雑している環境下でも,他車からのノイズを排除してより正確な判別ができる。むろん,変形例に係る送信強度分布は,図12に示したものに限らず,右下がりでも山形でも谷形でも何でもよい。
【0038】
また反射板についても,図1に示したものに限らず変形例が考えられる。図14にその1つの例を示す。図14に示す例は,パッチアンテナの組み合わせにより反射板の反射率特性を実現する変形例である。図14の反射板30は,パッチアンテナ31〜33を有している。パッチアンテナは,その辺の長さに応じた共振周波数を持つ。よって,共振周波数の電波に対しては高い吸収率を示すが,それ以外の周波数の電波はあまり吸収しない。辺が短いほど共振周波数が高い。また,共振周波数ばかりでなく吸収能力もパッチアンテナ31〜33ごとに異なる。このため反射板30は,周波数に応じて3水準以上の反射率を持つ。
【0039】
反射板30のパッチアンテナ31〜33は,辺の長さがそれぞれ異なっており,共振周波数f1,f2,f3を持つ。共振周波数f1,f2,f3はいずれも,使用帯域内の周波数である。そして,パッチアンテナ31〜33は,それぞれスイッチSW1〜SW3を介してグランドに接続されている。反射板30は,このスイッチSW1〜SW3のオンオフ操作により,8通りの反射率パターンを持つことができる。かかる反射板30を,図1に示した反射板1に替えて用いることができる。むろん,パッチアンテナの数は「3」に限らず,もっと多くてもよいし,「2」でもよい。
【0040】
図15に別の変形例の反射板を示す。図15の反射板40は,パッチアンテナの代わりに直線アンテナ41〜43を用いたものである。直線アンテナは,その長さに応じた共振周波数を持つ。直線アンテナ41〜43の長さはそれぞれ異なっている。これにより,図14に示したものと同様の機能を奏することができる。図16に示すのは,長さが異なるスリット51〜53を設けた反射板50の例である。スリットも,その長さによって異なる共振周波数を持つ。このため,スイッチによる操作はできないが,スリット51〜53を設けるか設けないかの組み合わせにより,異なる反射率パターンを実現できる。スリット51を設けずスリット52,53を設けた例を図17に示す。
【0041】
図14,図15に示したスイッチを持つ反射板の場合は,スイッチ操作により,時間軸をも利用してさらに情報量を増やすことができる。図18にその応用例を示す。図18に示すのは,道路脇の電子標識60にパッチアンテナ31〜33とスイッチSW1〜SW3を設けた例である。電子標識60全体が,本来の視覚による表示機能の他に,図14の反射板30としての機能を有している。
【0042】
この電子標識60にはさらに,スイッチSW1〜SW3を操作するコントローラ61が備えられている。コントローラ61によりスイッチSW1〜SW3を,例えば図19のタイミングチャートに示すように操作することができる。これにより,電子標識60の反射率パターンを時間とともに変調することができる。ミリ波帯レーダのスキャンは1.5msec/scan程度で行われるので,10MHz以上の周波数で変調を掛ければ,十分なビット数が得られる。これにより,さらに大幅に情報量を増やすことができる。例えば,規制速度の天候等による一時的な変更や,渋滞の末尾の接近などの情報を,電子標識60から車載の情報取得装置10に伝えることができる。
【0043】
そのためには,上記のような情報の種類ごとに,図19のような時間による操作パターンをあらかじめ定めておけばよい。そしてコントローラ61は,その時点で送信すべき情報に割り当てられている操作パターンでスイッチSW1〜SW3を操作するのである。一方,車両側では,図5中のパターン出力部15が,図19のような時間パターンをも出力する必要がある。また,受信・信号処理部14が,受信信号の時間変化パターンをも抽出することになる。そして,パターン比較部16が,受信信号の時間変化パターンと,パターン出力部15から出力された時間パターンとの比較をも行うのである。これにより,電子標識60から発信された情報の種類を,車載の情報取得装置10で識別できるのである。
【0044】
むろんこのような使い方は,図14のものに限らず図15のものでも可能である。さらに,目標物が道路標識のような固定物である場合の他,可動物であっても,自動車のような電源を搭載しているものであれば,スイッチによる変調が可能である。
【0045】
以上詳細に説明したように本形態の情報取得システムでは,バンドパスフィルタ特性を有する吸収材の組み合わせにより,反射板を構成するようにしている。または,共振周波数のことなるアンテナの組み合わせにより,反射板を構成するようにしている。このため,反射板の反射率パターンを非常に多様に用意できる。これにより,目標物20の多様な種類にそれぞれ固有の反射率を割り当てることができる。また反射率のエッジ特性もよいので,情報取得装置では,受信した反射波の強度分布により,確実に目標物の種類を識別できる。このようにして,信頼性の高い情報取得方法等が実現されている。
【0046】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,使用帯域は,その使用される国や地域の法制に応じて適宜定めればよい。また,パターン出力部15は,必要なパターンを自ら記憶しておくものに限らない。ネット上など,情報取得装置10の外部に記憶エリアを設けておき,必要なときにそこへアクセスして必要なパターンを取得するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施の形態に係る反射板を示す斜視図である。
【図2】実施の形態の反射板に用いられる吸収材の透過特性の例を示すグラフである。
【図3】実施の形態の反射板の反射率特性の例(パターンA)を示すグラフである。
【図4】実施の形態の反射板の反射率特性の別の例(パターンB)を示すグラフである。
【図5】実施の形態の情報取得装置の構成を示すブロック図である。
【図6】実施の形態の情報取得装置からの送信波の周波数を示すグラフである。
【図7】実施の形態の情報取得装置からの送信波の周波数に対する強度分布を示すグラフである。
【図8】実施の形態の情報取得装置における反射波受信後の処理の手順を示す図である。
【図9】実施の形態の情報取得装置における受信波の周波数に対する強度分布の例を示すグラフである。
【図10】実施の形態の反射板の反射率特性のさらに別の例を示すグラフである。
【図11】車両の運転中に遭遇する場面の一例の模式図である。
【図12】送信波の強度分布の変形例を示すグラフである。
【図13】変形例に係る受信波の強度分布の例を示すグラフである。
【図14】変形例に係る反射板(その1)の構成図である。
【図15】変形例に係る反射板(その2)の構成図である。
【図16】変形例に係る反射板(その3)の構成図である。
【図17】変形例に係る反射板(その3)の構成図である。
【図18】図14の反射板の応用例を示す図である。
【図19】スイッチ操作の一例を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1 反射板
2 基板
3〜5 吸収材
10 情報取得装置
11 送信アンテナ
12 受信アンテナ
13 送信部
14 受信・信号処理部
15 パターン出力部
16 パターン比較部
20 目標物
30 反射板
31〜33 パッチアンテナ(吸収体)
40 反射板
41〜43 直線アンテナ(吸収体)
50 反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用帯域にわたる周波数の電波を送信する送信部と,
目標物により反射された電波を受信する受信部と,
前記受信部で受信した電波の使用帯域内における周波数に対する強度分布のパターンを抽出する信号処理部と,
あらかじめ目標物の種類ごとに割り当てられた使用帯域内の周波数に対する3水準以上の反射率分布のパターンを出力するパターン出力部と,
前記信号処理部で抽出した強度分布のパターンと前記パターン出力部から出力された反射率分布のパターンとを比較して,前記受信部で受信した電波を反射した目標物の種類を識別するパターン比較部とを有することを特徴とする情報取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報取得装置において,
前記送信部は,周波数に対して不均一な強度分布により電波の送信を行うものであり, 前記信号処理部は,受信した電波から強度分布のパターンを抽出するに際し,前記送信部における送信の強度分布に基づく補正を行うことを特徴とする情報取得装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の情報取得装置において,
前記信号処理部は,前記受信部で受信した電波の時間変化パターンをも抽出するものであり,
前記パターン出力部は,あらかじめ情報の種類ごとに割り当てられた時間パターンをも出力するものであり,
前記パターン比較部は,前記信号処理部で抽出した時間変化のパターンと情報の種類ごとに割り当てられた時間パターンとの比較による,目標物からの情報の種類の識別をも行うことを特徴とする情報取得装置。
【請求項4】
使用帯域内の周波数に対する3水準以上の反射率分布のパターンを目標物の種類ごとに割り当て,
割り当てられたパターンの反射率分布を持つ反射板を種類に応じて目標物に付与し,
情報取得装置から使用帯域にわたる周波数の電波を送信し,
目標物により反射された電波を前記情報取得装置で受信し,
前記情報取得装置で受信した電波の使用帯域内における周波数に対する強度分布のパターンを抽出し,
抽出した強度分布のパターンと目標物の種類ごとに割り当てられた反射率分布のパターンとを比較して,受信した電波を反射した目標物の種類を識別することを特徴とする情報取得方法。
【請求項5】
請求項4に記載の情報取得方法において,前記反射板として,
使用帯域内のすべての周波数の電波を反射する基板と,
前記基板上に設けられた少なくとも2つ以上の吸収材とを有し,
各吸収材が,使用帯域内に透過帯域を持つバンドパスフィルタ特性を有し,
各吸収材の透過帯域の両端周波数の少なくとも一方が互いに異なるものを用いることを特徴とする情報取得方法。
【請求項6】
請求項4に記載の情報取得方法において,前記反射板として,
使用帯域内のすべての周波数の電波を反射する基板と,
前記基板上に設けられた少なくとも2つ以上の吸収体とを有し,
各吸収体として,使用帯域内に互いに異なる共振周波数を有するものを用いることを特徴とする情報取得方法。
【請求項7】
請求項6に記載の情報取得方法において,
前記反射板に,前記2つ以上の吸収体の接地状態を個別に切り替えるスイッチ群を備えておき,
あらかじめ情報の種類ごとに割り当てられた時間パターンにより前記スイッチ群を操作し,
前記情報取得装置で受信した電波の時間変化パターンをも抽出し,
抽出した時間変化のパターンと,情報の種類ごとに割り当てられた時間パターンとの比較により,前記反射板からの情報の種類の識別をも行うことを特徴とする情報取得方法。
【請求項8】
目標物にその種類に応じた反射板を付与し,目標物に関する情報を車載の情報取得装置に取得させる情報取得システムにおいて,
使用帯域内の周波数に対する3水準以上の反射率分布のパターンを目標物の種類ごとに割り当て,
目標物に付与する反射板は,その種類に対して割り当てられたパターンの反射率分布を持つものとし,
前記情報取得装置として,
使用帯域にわたる周波数の電波を送信する送信部と,
目標物により反射された電波を受信する受信部と,
前記受信部で受信した電波の使用帯域内における周波数に対する強度分布のパターンを抽出する信号処理部と,
前記信号処理部で抽出した強度分布のパターンと目標物の種類ごとに割り当てられた反射率分布のパターンとを比較して,前記受信部で受信した電波を反射した目標物の種類を識別するパターン比較部とを有するものを用いることを特徴とする情報取得システム。
【請求項9】
請求項8に記載の情報取得システムにおいて,前記反射板として,
使用帯域内のすべての周波数の電波を反射する基板と,
前記基板上に設けられた少なくとも2つ以上の吸収材とを有し,
各吸収材が,使用帯域内に透過帯域を持つバンドパスフィルタ特性を有し,
各吸収材の透過帯域の両端周波数の少なくとも一方が互いに異なるものを用いることを特徴とする情報取得システム。
【請求項10】
請求項8に記載の情報取得システムにおいて,前記反射板として,
使用帯域内のすべての周波数の電波を反射する基板と,
前記基板上に設けられた少なくとも2つ以上の吸収体とを有し,
各吸収体として,使用帯域内に互いに異なる共振周波数を有するものを用いることを特徴とする情報取得システム。
【請求項11】
請求項10に記載の情報取得システムにおいて,
前記反射板には,
前記2つ以上の吸収体の接地状態を個別に切り替えるスイッチ群と,
あらかじめ情報の種類ごとに割り当てられた時間パターンにより前記スイッチ群を操作する制御部とが設けられており,
前記信号処理部は,前記受信部で受信した電波の時間変化パターンをも抽出し,
前記パターン比較部は,前記信号処理部で抽出した時間変化のパターンと情報の種類ごとに割り当てられた時間パターンとの比較による,前記反射板からの情報の種類の識別をも行うことを特徴とする情報取得システム。
【請求項12】
使用帯域内のすべての周波数の電波を反射する基板と,
前記基板上に設けられた少なくとも2つ以上の吸収材とを有し,
各吸収材が,使用帯域内に透過帯域を持つバンドパスフィルタ特性を有し,
各吸収材の透過帯域の両端周波数の少なくとも一方が互いに異なり,
使用帯域内の周波数の電波に対し3水準以上の反射率を持つように構成したことを特徴とする情報取得用の反射板。
【請求項13】
使用帯域内のすべての周波数の電波を反射する基板と,
前記基板上に設けられた少なくとも2つ以上の吸収体とを有し,
各吸収体として,使用帯域内に互いに異なる共振周波数を有するものを用いており,
使用帯域内の周波数の電波に対し3水準以上の反射率を持つように構成したことを特徴とする情報取得用の反射板。
【請求項14】
請求項13に記載の情報取得用の反射板において,
前記2つ以上の吸収体の接地状態を個別に切り替えるスイッチ群と,
あらかじめ情報の種類ごとに割り当てられた時間パターンにより前記スイッチ群を操作する制御部とを有することを特徴とする情報取得用の反射板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−63544(P2009−63544A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234007(P2007−234007)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】