説明

情報記録媒体に用いる相変化記録材料、及びそれを用いた情報記録媒体

【課題】 高速記録消去が可能な書き換え型情報記録媒体に用いる相変化記録材料、及び前記相変化記録材料を用いた書き換え型情報記録媒体を提供する。
【解決手段】 結晶状態を未記録状態とし、非晶質状態を記録状態とする情報記録媒体に用いる相変化記録材料であって、所定のSbSnGeTeM1組成(M1はIn等)を主成分とすることを特徴とする相変化記録材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶状態を未記録状態とし、非晶質状態を記録状態とする相変化記録材料及び前記相変化記録材料を用いた情報記録媒体に関する。特に、高速記録消去が可能な情報記録媒体に用いる相変化記録材料、及び前記相変化記録材料を用いた情報記録媒体に関する。さらには、初期結晶化が容易で、信号振幅が大きく、繰り返しオーバーライト特性に優れ、保存安定性に優れ、さらには高転送レートでの記録で優れたジッタ特性を有する情報記録用媒体を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
書き換え型情報記録用媒体として、光、電流(ジュール熱)などのエネルギービームもしくはエネルギー流を作用させることで、金属又は半導体の結晶構造を可逆的に変化せしめる方法が知られている(例えば、非特許文献1又は特許文献1参照)。
【0003】
書き換え可能な相変化記録材料を用いた情報記録媒体の記録手法として現在実用化されているのは、結晶相と非晶質相との間での可逆的変化を利用し、結晶状態を未記録・消去状態とし、記録時に非晶質のマークを形成するものである。通常、記録層を局所的に、融点より高い温度まで加熱し急冷して非晶質のマークを形成し、一方、記録層を概ね融点以下、結晶化温度以上に加熱して徐冷することで、結晶化温度以上に一定時間保つことで再結晶化を行う。すなわち一般的には、安定的な結晶相と非晶質相との間での可逆的変化を利用する。そして、結晶状態と非晶質状態における物理的パラメーター、例えば、屈折率、電気抵抗、体積、密度変化等の差を検出することで、情報の再生を行う。
【0004】
中でも光学的情報記録用媒体としての応用は、集束光ビームを照射して局所的に生起せしめた結晶状態−非晶質状態の可逆的な変化に伴う反射率変化を利用して情報の記録再生消去が行われる。このような相変化型かつ書き換え型の相変化型記録層を有する光学的情報記録用媒体は、可搬性、耐候性、耐衝撃性等に優れた安価な大容量記録媒体として開発および実用化が進んでいる。例えば、CD−RWなどの書き換え可能なCDが既に普及しており、DVD−RW、DVD+RW、DVD−RAMなどの書き換え可能なDVDが販売されつつある。
【0005】
このような相変化型記録層の材料としては、カルコゲン系合金が用いられることが多い。このようなカルコゲン系合金としては、例えば、GeSbTe系、InSbTe系、GeSnTe系、AgInSbTe系合金が挙げられる。中でもGeTe−Sb2Te3疑似2元合金系材料は、光学的情報記録用媒体の記録層材料として広く用いられるとともに、近年は、電気抵抗変化を利用した、不揮発性メモリとしての応用も盛んに研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3530441号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Feinleib et al.「RAPID REVERSIBLE LIGHT−INDUCED CRYSTALLIZATION OF AMORPHOUS SEMICONDUCTORS」,Appl.Phys.lett.,Vol.18(1971),pp.254−257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年の情報量の増大に伴い、より高速の記録再生が可能な情報記録用媒体を得たいとの要請がある。また、記録した情報の保存安定性が高いこと、つまり長期間保存しても情報記録媒体に記録した情報が劣化せず安定であることも情報記録用媒体に求められる重要な性能の一つである。上記情報記録媒体のうち書き換え型情報記録用媒体に関しては、単に高速での書き換えを実現するだけであれば、例えば、非晶質と結晶間の相変化を利用する場合、結晶化速度が速い材料であれば良いということになる。しかし、高速結晶化ができるような材料は、非晶質状態が保存環境において短時間で結晶化してしまう傾向も顕著になる。従って、高速での記録再生が可能でかつ記録した情報の保存安定性の高い書き換え型情報記録媒体を得ようとすると、相変化記録材料には、記録消去時には高速結晶化による高速での非晶質から結晶への転移が求められる一方、室温近くの保存状態では極めて遅い結晶化による非晶質状態の安定化が求められるという、一見矛盾する特性が求められる。
【0009】
そして、情報の書き換えを多数回行っても信号特性が安定していること、つまり繰り返しオーバーライト特性が高いことも書き換え型情報記録用媒体に求められる重要な性能の一つである。
また、書き換え型情報記録用媒体を光学的に情報の記録再生を行う光学的情報記録用媒体として用いる場合、製造後の記録層の初期結晶化を短時間で行うことが困難であった。しかし、生産効率を高めるという点から、短時間で前記初期結晶化を行うようにすることも、光学的情報記録用媒体ひいては書き換え型情報記録媒体に求められる重要な性能の一つである。
【0010】
本発明はこのような要請に応えるためになされたもので、その目的は、より高速での記録消去が可能で、記録信号の保存安定性が高く、オーバーライト特性に優れ、かつ生産性の高い情報記録媒体に用いることが可能な相変化記録材料、及び前記材料を用いた情報記録媒体を提供することにある。さらには、情報記録媒体の応用の一形態である光学的情報記録用媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち本発明の要旨は、結晶状態を未記録状態とし、非晶質状態を記録状態とする情報記録媒体に用いる相変化記録材料であって、下記一般式(1)で表される組成を主成分とすることを特徴とする相変化記録材料に存する。
【0012】
【化1】

(ただしx、y、z、wは原子数比を表し、x、z、wは、それぞれ0.01≦x≦0.5、0≦z≦0.3、0≦w≦0.1を満たす数であり、元素M1はIn、Ga、Pt、Pd、Ag、希土類元素、Se、N、O、C、Zn、Si、Al、Bi、Ta、W、Nb、及びVからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、かつ
(I)z=0、w=0のとき
yを、0.1≦y≦0.3を満たす数とし、
(II)0<z≦0.3、w=0のとき
yを、0.05≦y≦0.3を満たす数とし、
(III)0≦z≦0.3、0<w≦0.1のとき
yを、0.01≦y≦0.3を満たす数とする。)
【0013】
さらに、本発明の要旨は、結晶状態を未記録状態とし、非晶質状態を記録状態とする光学的情報記録媒体であって、下記一般式(1)で表される組成を主成分とする相変化記録材料を用いることを特徴とする光学的情報記録媒体に存する。
【0014】
【化2】

(ただしx、y、z、wは原子数比を表し、x、z、wは、それぞれ0.01≦x≦0.5、0≦z≦0.3、0≦w≦0.1を満たす数であり、元素M1はIn、Ga、Pt、Pd、Ag、希土類元素、Se、N、O、C、Zn、Si、Al、Bi、Ta、W、Nb、及びVからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、かつ
(I)z=0、w=0のとき
yを、0.1≦y≦0.3を満たす数とし、
(II)0<z≦0.3、w=0のとき
yを、0.05≦y≦0.3を満たす数とし、
(III)0≦z≦0.3、0<w≦0.1のとき
yを、0.01≦y≦0.3を満たす数とする。)
【0015】
上記のSb−Sn系合金にGeを添加した組成を主成分とする合金からなる記録層を用いることにより、従来知られている情報記録用媒体よりも相変化速度が速い情報記録媒体を得ることができ、ひいてはより高速の記録消去が行えるようになる。例えば、情報記録媒体のうちでも光学的情報記録媒体においては、従来GeSbTe等の組成を有する相変化記録材料が用いられていたが、高速での消去が可能となる程度に十分に速い結晶化速度を有する組成領域にすると、結晶化が均一に起こらずノイズが大きくなってしまう問題があった。これに対して、本発明に用いるSbSnGe系の相変化記録材料は、結晶化速度が速くかつ均一な結晶化が可能となるため、高速記録に良好に用いることができる。また従来の光学的情報記録用媒体では高結晶化速度と記録された信号の保存安定性の両立が困難であったが、本発明の相変化記録材料を用いた情報記録媒体では前記両立が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、相変化速度が速く高速記録消去が可能で、保存安定性に優れ、信号強度が大きく、高速初期化が可能となる相変化記録材料を得ることができ、これを用いた情報記録媒体を得ることができる。そして、本発明の相変化記録材料を書き換え型の情報記録媒体に用いると記録特性が特に良好になる。
【0017】
また、本発明の相変化記録材料を光学的情報記録用媒体、特に書き換え型の光学的情報記録媒体に用いると、高速記録消去が可能となり、非晶質マークの保存安定性が優れ、ジッタ特性に優れ、反射率及び信号振幅が大きく、繰り返しオーバーライト特性、さらには、長期保存した記録マークをオーバーライトした際のオーバーライト特性にも優れる光学的情報記録用媒体を得ることができる。
【0018】
さらには、本発明の相変化記録材料を用いることにより、生産性の高い情報記録媒体を得ることができる。特に本発明の相変化記録材料を光学的情報記録用媒体に用いると、初期結晶化が容易で生産性が飛躍的に改善される光学的情報記録媒体を得ることができるようになる。
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】光学的情報記録用媒体の層構成を示す模式図である。
【図2】光学的情報記録用媒体の記録方法における記録光のパワーパターンを示す模式図である。
【図3】非晶質マーク記録時の温度履歴及び再結晶化による消去時の温度履歴を示す概念図である。
【図4】不揮発性メモリーの1セルの構造を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例における光学的情報記録用媒体の記録特性を示す図である。
【図6】本発明の他の実施例における光学的情報記録用媒体の記録特性を示す図である。
【図7】本発明のさらに他の実施例における光学的情報記録用媒体の記録特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.相変化記録材料
本発明に用いる相変化記録材料は、結晶状態を未記録状態とし、非晶質状態を記録状態とする情報記録媒体に用いる相変化記録材料であって、下記一般式(1)で表される組成を主成分とする。
【0021】
【化3】

(ただしx、y、z、wは原子数比を表し、x、z、wは、それぞれ0.01≦x≦0.5、0≦z≦0.3、0≦w≦0.1を満たす数であり、元素M1はIn、Ga、Pt、Pd、Ag、希土類元素、Se、N、O、C、Zn、Si、Al、Bi、Ta、W、Nb、及びVからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素であり、かつ
(I)z=0、w=0のとき
yを、0.1≦y≦0.3を満たす数とし、
(II)0<z≦0.3、w=0のとき
yを、0.05≦y≦0.3を満たす数とし、
(III)0≦z≦0.3、0<w≦0.1のとき
yを、0.01≦y≦0.3を満たす数とする。)
【0022】
本発明において、「所定組成を主成分とする」とは、所定組成が含有される材料全体又は層全体のうち、前記所定組成の含有量が50原子%以上であることを意味する。
また、本発明に用いる情報記録媒体が光学的情報記録媒体であるときは、「結晶状態を未記録とし、非晶質状態を記録状態とする」とは、非晶質のマークを結晶相中に形成することをいう。
【0023】
本発明においては、Sb−Sn系合金にGeを含有させる。Geは、相変化記録材料の結晶化速度を制御する働きを有するため、Geの含有量を所定範囲(10原子%〜30原子%)に制御することにより、高速記録に適した結晶化速度を有する相変化記録材料を得ることができるようになる。
そして、本発明においては、Sb−Sn−Ge合金に、必要に応じてTeを含有させることにより、さらに記録特性に優れる相変化記録材料を得ることができるようになる。具体的には、Teを含有させることにより、上記長期間保存した相変化材料に繰り返し記録を行った場合においても良好な記録特性を得ることができるようになる。TeはGeと同様に結晶化速度を制御する働きも有するため、Sb−Sn系合金にGe及びTeを含有させれば、Geの含有可能な範囲を広げることができるようになる。具体的には、Geの含有可能な下限値を1原子%まで下げることができるようになる。そして、Geの含有量を減らすことにより、相変化記録材料を長期間保存した後の記録特性を向上させることができるようになる。
【0024】
本発明においては、Sb−Sn−Ge合金、又はSb−Sn−Ge−Te合金にIn等の所定元素を含有させることにより、信号振幅を大きくすることができる等のさらなる効果を得ることができる。さらにIn等の所定の元素を用いることにより、GeやTeとともに結晶化速度のさらなる制御が可能となる場合がある。
すなわち、本発明においては、Sb−Sn系合金にGeを含有させることにより、結晶化速度を良好に制御して高速記録や記録信号の保存安定性に優れる相変化記録材料を得ることができる。そして、このSb−Sn−Ge合金にTe及び/又はIn等の他の元素を含有させることによって、上記長期間保存した相変化材料に繰り返し記録を行った場合においても良好な記録特性を得ることができること、信号振幅を大きくすることができること等のさらなる効果を得ることができる。また、Sb−Sn−Ge合金に含有させる元素によっては、結晶化速度の制御をさらに精密に行うことが可能となる上、長期間保存後の記録特性等の記録性能も良好にすることができるようになる。従って、本発明によれば、相変化記録材料が用いられる用途に合わせて、所望の性能を有する相変化記録材料が提供されるようになる。
【0025】
また、本発明においては、上記一般式(1)に表される組成を主成分とする相変化記録材料を、結晶状態を未記録状態とし非晶質状態を記録状態とする情報記録媒体に用いることにより、記録信号の品質が飛躍的に向上する。特に上記相変化記録材料を書き換え型の情報記録媒体に用いることにより、高速記録消去、記録信号の保存安定性の向上、オーバーライト特性の向上、さらには長期保存した書き換え型情報記録媒体をさらにオーバーライトした場合のオーバーライト特性の向上が達成される。さらには、初期結晶化が容易で生産性の高い書き換え型情報記録媒体が得られるようになる。ここで、書き換え型の情報記録媒体としては、集束光ビームを照射することにより結晶状態−非晶質状態の可逆的な変化に伴う反射率変化を利用して情報の記録再生消去を行う、光学的情報記録媒体(例えば、CD−RW)等を挙げることができる。
【0026】
以下、上記一般式(1)において、(A)z=0、w=0のとき、(B)0<z≦0.3、w=0のとき、(C)0≦z≦0.3、0<w≦0.1のとき、及び(D)その他の事項に分けて相変化記録材料についての説明を行う。
(A)z=0、w=0のとき
上記一般式(1)においてz=0、w=0のときは、本発明の相変化記録材料は、SbSnGeの3元系組成となる。そして、上記一般式(1)は、下記一般式(1a)のようになる。
【0027】
【化4】

そして、x及びyは、それぞれ0.01≦x≦0.5及び0.1≦y≦0.3を満たす数となる。
一般式(1a)において、xを0.01以上とすることにより結晶状態が均一になる傾向にあり、再生時のノイズを小さくすることができる利点がある。ここで、均一な結晶状態とは、概ね単一結晶相からなり、微細な結晶粒径の結晶子からなる多結晶構造をいう。微細な結晶子とは、平均的な結晶粒径が記録マークのサイズとほぼ同じオーダーからそれ以下であり、粒径のばらつきが小さいことをいう。
一般式(1a)において、xは、好ましくは0.05≦x、より好ましくは0.1≦x、さらに好ましくは0.15≦x、特に好ましくは0.2≦xとする。xをこの範囲にすればより均一な結晶状態を得ることができるようになり、再生時のノイズを更に小さくすることができる。
逆に、上記一般式(1a)においては、xが0.01より少なく(Snが1原子%より少なく)なると、相変化記録材料全体において均一な結晶状態を得ることができなくなる。これは、高品質の非晶質の記録マークを形成するための前提となる均一な初期結晶化状態(未記録状態)を得ることができないことを意味する。つまり、相変化記録材料全体において均一な結晶状態を得ることができなくなることは、結晶状態を未記録状態とし非晶質状態を記録状態とすることが困難となることを意味する。
【0028】
また、xが大きい方が、結晶状態と非晶質状態との光学的な特性差が大きくなるので、本発明の情報記録媒体を光学的情報記録用媒体として用いる場合には、信号振幅が大きく取れる利点がある。ただし、xが0.5より大きいと、非晶質マークの形成(記録)と非晶質マークの結晶化(消去・未記録状態)とを安定的に行うことが困難になるため、xは0.5以下とする。また、結晶状態−非晶質状態の間の可逆的な相変化を繰り返した場合に、より確実に100回以上の可逆相変化(情報の書き換え)を行うには、x≦0.4とすることがより好ましく、x≦0.35とすることが特に好ましい。xの値を上記範囲とすることがより好ましいのは、Snを過度に含有させるとSnの相分離によると思われる結晶化/非晶質メカニズムの変化により相変化記録材料の相変化が起こらなくなるためではないかと考えられる。
【0029】
特に、xを0.2以上、0.35以下の範囲でxを小さくすると、信号振幅が小さくなる傾向にあるものの、繰り返し記録を行った際の相変化記録材料の耐久性が向上する傾向にあり好ましい。
従って、本発明に用いる相変化記録材料は、xの値を制御することにより、上記特性を自由に実現することができるため、相変化記録材料が用いられる情報記録媒体の目的に応じて適当な組成を用いることができる利点がある。
【0030】
一方、前記一般式(1a)において、Ge含有量を変化させることにより、結晶化速度を制御することができる。すなわち、記録層組成(Sb1-xSnx1-yGeyにおいてyが小さくなると結晶化速度が速くなる傾向にある。書き換え型情報記録媒体では、短時間での記録消去を考慮すると、結晶化速度を速くすることが好ましい。このため、書き換え型情報記録媒体の記録条件に応じた結晶化速度を得るために、含有されるGe量を適宜制御すればよい。具体的には、書き換え型情報記録媒体を光学的情報記録用媒体として用いる場合等を考慮すると、集束光ビームの走査線速度調整メカニズムやレーザーパワー立ち上がり時間等の制限もあるため、yの範囲を、0.1以上、好ましくは0.12以上、より好ましくは0.15以上、一方0.3以下、好ましくは0.25以下、より好ましくは0.2以下とする。
【0031】
上述の通り、Ge含有量を少なくする(yを小さくする)と結晶化速度は早くなる。本発明の相変化記録材料は、ある程度の結晶化速度が必要ではあるものの、結晶化速度が早くなりすぎると、非晶質化の過程で一旦溶融した相変化記録材料が再凝固する際に再結晶化してしまい非晶質状態が得られにくくなる。さらに、得られる非晶質状態の保存安定性も低下する。従って、結晶状態を未記録状態とし、非晶質状態を記録状態とするためには、yを0.1以上(Geを10原子%以上)含有させる必要がある。
【0032】
また、本発明に用いる相変化記録材料において、Geは非晶質マークの安定性に関係していると思われる。すなわち、Geの含有量を多くすれば非晶質マークの安定性が向上すると考えられる。しかし、yが0.3より大きいと、非晶質マークが安定になりすぎ、短時間での再結晶化(消去)及び初期結晶化が困難となる。上記一般式(1a)において、Ge含有量の10原子%以上30原子%以下の範囲内とすれば、必要な結晶化速度を確保しつつも非晶質マークも極めて安定となり、結晶状態を未記録状態とし非晶質状態を記録状態とできるのみならず、記録した信号の保存安定性が優れる状態となる。
本発明に用いる相変化記録材料は、結晶化時の温度に依存して結晶化速度が大きく変化することが好ましい。つまり、結晶化時の温度が結晶化温度より十分高く融点に近い高温領域においては結晶化速度が速くなる一方で、室温近傍の低温領域においては結晶化速度が遅くなることが好ましい。本発明においては、Geを用いることにより、上記結晶化速度の温度依存性を実現することができるようになる。
(B)0<z≦0.3、w=0のとき、
上記一般式(1)において0<z≦0.3、w=0のときは、本発明の相変化記録材料はSbSnGeM1の4元系の組成となる。そして、上記一般式(1)は、下記一般式(1b)のようになる。
【0033】
【化5】

そして、x及びyは、それぞれ0.01≦x≦0.5及び0.05≦y≦0.3を満たす数となる。さらに、上記一般式(1b)において、元素M1は、In、Ga、Pt、Pd、Ag、希土類元素、Se、N、O、C、Zn、Si、Al、Bi、Ta、W、Nb、及びVからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
長期保存した非晶質記録マークをオーバーライトした際のオーバーライト特性を良くするためにはSnが少ない方が良いが、Snを少なくすると、均一な結晶状態が得られずにノイズが大きくなり初期特性が多少悪化する場合がある。このような場合に、元素M1を含有させることにより、前記ノイズの上昇を抑制することができる。つまり、元素M1を用いることにより、初期特性に優れ、かつ、長期保存した記録マークをオーバーライトした際のオーバーライト特性の良いディスクを得ることができるようになる。
【0034】
上記一般式(1b)において、xの値を0.01≦x≦0.5の範囲とする点については上記(A)において説明した通りである。また、前記一般式(1b)において、xを大きくすると結晶状態と非晶質状態との光学的な特性差が大きくなるので、本発明の情報記録媒体を特に光学的情報記録用媒体として用いる場合には、信号振幅が大きくなるという利点がある。ただし、繰り返しオーバーライト耐久性、及び長期保存した非晶質の記録マーク上にさらにオーバーライトを行う場合の信号特性をさらに改良する観点から、xを0.2以下とすることが好ましい。上記一般式(1a)のように、SbSnGeの3元系の組成においては、x≦0.2の場合においては、xが小さくなると媒体のノイズが大きくなる傾向にあるが、元素M1を添加することによりノイズを下げることができる。ひいては長期保存した記録マーク上にさらにオーバーライトを行う場合の信号特性がより優れた相変化記録材料を得ることができる。
【0035】
上記一般式(1b)においては、元素M1を含有させる必要があるため、zの値は、0より大きくするが、0.005以上とするのが好ましく、0.01以上とするのがより好ましい。この範囲にすれば、相変化記録材料全体において結晶状態がより均一となり、ノイズが改善される。さらに、zを上記範囲とすれば、上記一般式(1b)においてx≦0.2とした場合においても、確実にノイズを低減することができるようになる。一方、zの値は、0.3以下とするが、0.25以下とすることが好ましく、0.2以下とすることがより好ましい。この範囲にすることによって、結晶状態−非晶質状態間の相変化時の反射率変化が十分に大きく、また相変化速度を速くすることができるようになる。
【0036】
上記一般式(1b)において、元素M1は、In、Ga、Pt、Pd、Ag、希土類元素、Se、N、O、C、Zn、Si、Al、Bi、Ta、W、Nb、及びVからなる群から選ばれる少なくとも1つである。このような元素M1を少量用いることにより、結晶化速度をほとんど変えずに、長期間経過後の記録特性を改善したり、さらに別の効果を付与できるようになる。以下元素M1の種類を、(B−1)In、Ga、Pd、Pt及びAgから選ばれる元素、(B−2)希土類元素、(B−3)Se、N、O、C、Zn、Si、Al、Bi、Ta、W、Nb及びVから選ばれる元素、に分けてそれぞれの元素が発揮する効果について説明する。
【0037】
尚、元素M1を用いることにより結晶化速度の制御が可能となる場合がある。このため、元素M1を用いることによって、上記一般式(1b)で表されるSbSnGeM1の4元系の組成において、Geの含有量の下限値を下げる(10原子%より少なくできる)ことができるようになる。この点について下記(B−4)で説明する。ただ、元素M1を用いることによる結晶化速度の調整は二次的なものであり、相変化記録材料の結晶化速度の調整は、まずGeの含有量を制御することによって行う。
(B−1)In、Ga、Pd、Pt及びAgから選ばれる元素
上記一般式(1b)において、元素M1をIn、Ga、Pd、Pt、Agから選ばれる元素とする場合は、初期結晶化は多少困難になる傾向にあるものの、結晶化温度を高めて非晶質マークの安定性を増す効果を得ることもでる。また、本発明の相変化記録材料を光学的情報記録用媒体の記録層に用いた場合に信号振幅を大きくできる利点がある。ここで、信号振幅が大きくなることは、結晶状態と非晶質状態との間の屈折率変化が大きくなることを意味する。
【0038】
尚、相変化記録材料中のSnの含有量を減少させると信号振幅が低下する場合があるが、このような場合においても上記元素を元素M1として用いることにより、信号振幅の低下を補うことができるようになる。Snの含有量を減少させれば、繰り返しオーバーライト特性等を改良することができるため、元素M1として、In、Ga、Pd、Pt、Agから選ばれる少なくとも1つの元素を用いる場合には、上記一般式(1b)において、xを0.2以下とするのが好ましく、0.15以下とすることが特に好ましい。
【0039】
特に、添加元素MをIn、Gaとすれば、長期保存した記録マークをオーバーライトした際のオーバーライト特性を良好にすることも可能となる。また、InとGaとを比較すると、Inの方がノイズを低減する効果が大きい。添加元素MがPt、Pdである場合は、信号振幅の改善は小さいものの、容易に初期結晶化できる利点がある。
これらの元素の中で、本発明の相変化記録材料を光学的情報記録媒体に用いる場合には、Inを用いることが最も好ましい。Inを用いる場合には、In及びSnの含有量を制御することが好ましい。具体的には、上記一般式(1b)におけるx+zを、0.05以上とするのが好ましく、0.1以上とするのが特に好ましい。一方、上記x+zを、0.3以下とするのが好ましく、0.25以下とするのが特に好ましい。
【0040】
(B−2)希土類元素
上記一般式(1b)において、元素M1を希土類元素としてもよい。希土類元素とは、周期表3B族元素をいい、具体的には、Sc、Y、ランタノイド元素、及びアクチノイド元素をいう。これら、周期表3B族元素は類似する性質を有しているため、元素M1として上記いずれの元素を用いてもよい。好ましいのは、電子配置上4f電子が順次満たされていく系列であり、類似する性質を有する傾向の強いランタノイド元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの15元素)を用いることである。上記ランタノイド元素の中でも、特に好ましくはTb、Gdを用いることである。Tb、Gdを用いることにより、情報記録媒体の初期結晶化が容易にできるようになる。
【0041】
さらに、元素M1にランタノイド元素を用いる場合は次のような効果もある。本発明のSbSnGe系の相変化記録材料は、記録条件等によっては、繰り返しオーバーライト記録を行うと次第に結晶化速度が遅くなり記録特性が悪化する場合がある。例えば、上記相変化記録材料を情報記録媒体の一つである書き換え型の光学的情報記録媒体の記録層に用いた場合、繰り返し記録回数が1000回を越えると、ジッタ特性が悪化する場合がある。この傾向は、Snの量が0.2≦x≦0.35の範囲内においては、xを大きくすると顕著となる。しかし、xを大きくする(Sn量を多くする)と、信号振幅が大きくなり低パワーでの記録が可能となる利点がある。従って、繰り返し記録によるジッタ特性の悪化を軽減できるならば、xの値をなるべく大きく(Sn量をなるべく多く)して、信号振幅を大きくすることが有効となる。ランタノイド元素の添加は、上記繰り返し記録したときの結晶化速度低下に伴うジッタ特性の悪化を抑制する効果がある。すなわち、本発明のSbSnGe系の相変化記録材料にランタノイド元素を含有させることにより、信号振幅が大きく低パワーでの記録が可能で、かつ繰り返し記録耐久性に非常に優れる情報記録媒体が得られるようになる。
【0042】
上記ランタノイド元素を含有させる効果は、本発明の相変化記録材料を特に光学的情報記録媒体に用いる場合に顕著に発揮される。
(B−3)Se、N、O、C、Zn、Si、Al、Bi、Ta、W、Nb、及びVから選ばれる元素
上記一般式(1b)において、元素M1をSe、C、Si、Alから選ばれる元素とする場合は、初期結晶化は多少困難になる傾向にあるものの、信号振幅を大きくできる利点があり、結晶化温度を高めて非晶質マークの安定性を増す効果を得ることもできる。
また、元素M1をBi、Ta、W、Nb、Vから選ばれる元素とすると、信号振幅の改善は小さいものの、容易に初期結晶化できる利点がある。
さらに、元素M1をN、O、Znから選ばれる元素とすると、光学特性と結晶化速度との微調整ができるようになる。
【0043】
尚、元素M1をSe、N、O、C、Zn、Si、Al、Bi、Ta、W、Nb、及びVからなる群から選ばれる少なくとも1つとする場合には、元素M1の含有量の上限を10原子%とすることが最も好ましい。つまり、上記一般式(1b)において、zをz≦0.1とすることが好ましく、z≦0.05とするのがより好ましい。これは、上記元素を10原子%より多く添加すると、ノイズが高くなったり、初期結晶化が困難になったりする場合があるからである。
【0044】
(B−4)元素M1を用いることによる副次的な効果
前記一般式(1b)において、元素M1を用いることにより、Geの量を表すyを0.1より小さくできるようになる。上記(A)で説明したように、SbSnGeの3元系の組成においては、結晶化速度が速くなりすぎて、非晶質状態の記録マークの形成安定性及び保存安定性を保つために、Geの含有量を10原子%より少なくする(yを0.1よりも小さくする)ことができない。しかし、元素M1の添加により結晶化速度を遅くして、非晶質状態の良好な形成及び保存安定性の向上を達成できる場合がある。特に、元素M1をIn、Ga、Ag、ランタノイド元素(中でもTb,Gd)とすると、上記効果が大きい。従って、元素M1を用いることにより、SbSnGeの3元系の組成における場合よりも、Geの含有量の下限値を下げることができるようになる。Geの含有量を少なくすることは以下のような効果もある。
【0045】
Geを多く含有させると、相変化記録材料の結晶化速度が遅くなり、非晶質相の保存安定性が向上する。つまり、Geを用いることによって主として室温近傍の保存状態における非晶質の再結晶化を抑制することができるようになり、非晶質状態の保存安定性が向上する。従って、Geを用いることにより相変化記録材料の記録安定性が向上する。
しかしながら、この非晶質相の経時安定性の向上は、記録後長期間経過した非晶質相を再度結晶化(記録マークの消去)する際に良好に相変化が行えない問題を引き起こす場合がある。上記非晶質相の再度結晶化が良好に行えなくなる理由は必ずしも明らかではないが、急冷によって一旦形成された非晶質状態が経時によってさらに安定な他の非晶質状態に移行するために、長期間保存後の結晶化が良好に行えなくなると考えられる。急冷によって一旦形成された非晶質状態は局所安定な状態であるため、長時間の間に原子の結合状態が微妙に変化し、非晶質状態がさらにエネルギー的に安定な状態になることは十分あり得ることである。
そして、上記長期間経過後に非晶質マークを再結晶化(消去)した上で再度非晶質マークのオーバーライト記録を行う場合の記録特性を重視する観点からは、Geの含有量をなるべく少なくして、室温近傍における非晶質相の保存安定性を多少不安定にしてでも、長期間経過後の消去特性の改善効果を得るようにしたい。
ところが、上述の通り、SbSnGe系の3元組成においては、Geの含有量を10原子%より少なくすると、結晶化速度が速くなりすぎて結晶状態を未記録状態とし非晶質状態を記録状態とする事が困難となる。さらに、たとえ非晶質状態が形成されたとしても、この非晶質状態は室温保存状態において再結晶化しやすい問題もあるため、SbSnGe系の3元組成においてはGeの含有量を10原子%より少なくすることは困難である。このため本発明においては、元素M1を用いることにより、元素M1が有する結晶化速度を遅くする効果又は非晶質相の保存安定性を改善する効果と、Geの含有量を少なくすることよる結晶化速度を速くする効果又は非晶質の保存安定性を低下させる効果とが相殺されて、結晶化速度をほとんど変えずに、上記長期間経過後の記録特性を改善することができるようになる。
但し、元素M1が有する結晶化速度を遅くする効果は、後述するように、Teが有する結晶化速度を遅くする効果程は高くない。このため、SbSnGe系の3元組成に元素M1を含有させる場合は、Geの含有量の下限値を5原子%(y=0.05)より少なくすると相変化記録材料の結晶化速度が速くなりすぎてしまう。このため、後述するように、SbSnGe系の3元組成にTeを含有させる場合においては、Geの含有量の下限値を1原子%(y=0.01)まで下げることができるが、SbSnGe系の3元組成に元素M1のみを含有させる場合においては、Geの含有量の下限値を5原子%(y=0.05)までしか下げることができない。
【0046】
すなわち、上記一般式(1b)において、yの値は、0.05以上とするが、0.08以上とするのが好ましく、0.1以上とするのがより好ましく、0.12以上とするのがさらに好ましく、0.15以上とするのが特に好ましい。この範囲にすることによって、長期間経過後においても良好な記録特性が得られるようになる。一方、yの値は、0.3以下とするが、0.25以下とするのが好ましく、0.2以下とするのがより好ましい。この範囲とすることにより、高転送レートの記録消去に必要な結晶化速度を得ることができるようになる。
(C)0≦z≦0.3、0<w≦0.1のとき
上記一般式(1)において0≦z≦0.3、0<w≦0.1のときは、本発明の相変化記録材料は、Teを含有する組成となる。そして、一般式(1)は、下記一般式(1c)のようになる。
【0047】
【化6】

そして、x及びyは、それぞれ0.01≦x≦0.5及び0.01≦y≦0.3を満たす数となる。さらに、上記一般式(1c)において、元素M1は、In、Ga、Pt、Pd、Ag、希土類元素、Se、N、O、C、Zn、Si、Al、Bi、Ta、W、Nb、及びVからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
上記一般式(1c)において、xの値を0.01≦x≦0.5の範囲とする点については上記(A)において説明した通りである。上記一般式(1a)のように、SbSnGeの3元系の組成においては、xを大きくする(例えばx≦0.2とする。)と結晶状態と非晶質状態との光学的な特性差が大きくなるので、本発明の情報記録媒体を特に光学的情報記録用媒体として用いる場合には、信号振幅が大きくなるという利点がある。しかし、繰り返しオーバーライト耐久性、及び長期保存した記録マーク上にさらにオーバーライトを行う場合の信号特性をさらに改良する観点からは、xをある程度小さくすることが好ましい。ここで、Teを添加すると、xが0.2以上の比較的大きい場合であっても、繰り返し記録耐久性、長期保存した記録マーク上にさらにオーバーライトを行う場合の信号特性を改善することができる。ひいては初期特性、繰り返し記録耐久性、及び長期保存した記録マーク上にさらにオーバーライトを行う場合の信号特性のすべてに優れた相変化記録材料を得ることができる。
【0048】
Teの含有量は、0原子%より大きくする(0<w)が、0.1原子%以上とする(0.001≦w)ことが好ましく、1原子%以上とする(0.01≦w)ことがより好ましく、3原子%以上とする(0.03≦w)ことが特に好ましい。この範囲とすれば、長期保存した記録マークをオーバーライトした際のオーバーライト特性を良好にすることができるようになる。一方、Teの含有量が多くなると、GeTeの結晶相又はGeSbTeの結晶相が出現する傾向があり、SbSnを主成分とする本発明の相変化記録材料における結晶の均一性が低下し、結晶状態の反射率及び信号振幅が小さくなる傾向があるため、Teの含有量は、10原子%以下とする(w≦0.1)が、9原子%以下とする(w≦0.09)ことが好ましく、7原子%以下とする(w≦0.07)ことがより好ましい。Teの含有量を7原子%以下とすれば、結晶状態の反射率及び信号振幅を十分に確保することができるようになる。
本発明の相変化記録材料においてTeを用いるさらなる意義について説明する。すなわち、前記一般式(1c)において、Teを用いることにより、Geの含有量を10原子%より少なく(y<0.1)、さらには5原子%より少なく(y<0.05)にすることができるようになるのである。上記(A)で説明したように、SbSnGeの3元系の組成においては、結晶化速度を調節して結晶状態を未記録状態とし非晶質状態を記録状態とする点から、Geの含有量を表すyを0.1よりも少なくすることができない。さらに、上記(B)で説明したように、SbSnGeに結晶化速度等を調節する働きを有するM1(M1はIn等)を添加した4元系の組成とすれば、Geの含有量の下限値を5原子%(y=0.05)まで下げることができるようになる。しかしこの場合においても、5原子%よりも少なくすると相変化記録材料の結晶化速度が速くなりすぎてしまう。
これら組成の相変化記録材料に対し、相変化記録材料にTeを含有させると、結晶化速度をより遅くすることができる。このように、Teは、結晶化速度を遅くする働きが強い元素である。従って、SbSnGe又はSbSnGeM1の各組成における場合よりも、Geの含有量の下限値を下げることができるようになる。Geの含有量を少なくすることは以下のような効果もある。
【0049】
Geを多く含有させると、相変化記録材料の結晶化速度が遅くなり、非晶質相の保存安定性が向上する。つまり、Geを用いることによって主として室温近傍の保存状態における非晶質の再結晶化を抑制することができるようになり、非晶質状態の保存安定性が向上する。従って、Geを用いることにより相変化記録材料の記録安定性が向上する。
しかしながら、この非晶質相の保存安定性の向上は、記録後長期間経過した非晶質相を再度結晶化(記録マークの消去)する際に良好に相変化が行えない問題を引き起こす場合がある。上記非晶質相の再度結晶化が良好に行えなくなる理由は必ずしも明らかではないが、急冷によって一旦形成された非晶質状態が経時によってさらに安定な他の非晶質状態に移行するためと考えられる。
従って、上記長期間経過後に一旦、非晶質マークを再結晶化(消去)した上で再度非晶質マークの記録を行う場合の記録特性を重視する観点からは、Geの含有量をなるべく少なくして、室温近傍における非晶質相の保存安定性を多少不安定にしてでも、長期間経過後の消去特性の改善効果を得るようにしたい。ところが、上述の通り、Geの含有量を少なくすると、結晶化速度が速くなりすぎて結晶状態を未記録状態とし非晶質状態を記録状態とする事が困難となる。さらに、たとえ非晶質状態が形成されたとしても、この非晶質状態は室温保存状態において再結晶化しやすい問題もある。このため本発明においては、Teを用いることにより、Teが有する結晶化速度を遅くする効果又は非晶質相の保存安定性を改善する効果と、Geの含有量を少なくすることよる結晶化速度を速くする効果又は非晶質の保存安定性を低下させる効果とが相殺されて、結晶化速度をほとんど変えずに、上記長期間経過後の記録特性を改善することができるようになる。
また、Teを用いることにより、上述の経時変化によって非晶質状態がさらに安定な他の非晶質状態に移行することを抑制する効果も発揮されると推測される。
【0050】
以上を踏まえ、上記一般式(1c)におけるGe含有量を表すyは、0.01以上とするが、0.05以上とするのが好ましく、0.08以上とするのがより好ましく、0.1以上とするのがさらに好ましい。この範囲にすることによって、長期間経過後においても良好な記録特性が得られるようになる。一方、yの値は、0.3以下とするが、0.25以下とするのが好ましく、0.2以下とするのがより好ましい。この範囲とすることにより、高転送レートの記録消去に必要な結晶化速度を得ることができるようになる。
相変化記録材料にGeと併用してTeを用いる一つの目的は、上述の通りGe単独の場合よりもさらに長期保存安定性を高めるためである。この点から、TeはGeに対して補助的に用いられることが好ましい。さらに、Ge及びTeの合計含有量については、y+w≦0.3にすることが好ましく、y+w≦0.2とすることがより好ましい。一方で、非晶質マークの安定性を確保するために、y+wは、通常0.05以上、好ましくは0.07以上、より好ましくは0.1以上とする。
また、上記一般式(1c)において元素M1を用いる意義については、上記(B)で説明した通りである(元素M1を用いることにより、ノイズの上昇が抑制されること、元素M1は用いる種類によって更なる別の効果を得ることができること、等)。さらに、上記一般式(1c)において元素M1の含有量を示すzの範囲やそのような範囲とする理由等についても上記(B)で説明した通りである。
【0051】
尚、Teを添加することにより、相変化記録材料の結晶状態の反射率及び信号振幅が低下する傾向にあるため、Teを添加すると同時に、例えば、In、Pd、Ag、Au等の信号振幅を大きくする働きのある元素を元素M1として添加してやれば、さらに良好な相変化記録材料を得ることができるようになる。Teと組み合わせて用いる元素M1として最も好ましいのはInである。その場合、(1d)は、
【化7】

となるが、特に、Teの添加による光学的コントラストの低下を抑制するため、In又はSnを多めにする必要があり、InとSnの合計の含有量{x×(1−y−w−z)+z}とTe含有量wとの比、{x×(1−y−w−z)+z}/wを2以上とするのが好ましく、3以上とするのがより好ましい。
(D)その他の事項
本発明の相変化記録材料は、Sbを主成分とすることが好ましい。高速結晶化に最も有効な元素はSbであるため、相変化記録材料にSbを主成分とするものを用いれば、例えば、非晶質マークの再結晶化(消去)を100nsecより短い時間のエネルギービームの照射で行う場合においても、良好な再結晶化を行うことができるようになる。従って、上記一般式(1)において、Sbの含有量は50原子%以上であることが好ましい。すなわち、(1−x)×(1−y−w−z)≧0.5であることが好ましい。このように、Sbを主成分とすることにより、Sbの六方晶をベースとする単一結晶相が選られやすくなる。
また、上記一般式(1)において、結晶化速度の精密な制御のためには、Ge量、Te、及び元素M1の含有量の合計値を制御することが重要となる。このため、y+z+wは、0.1以上とすることが好ましく、0.15以上とすることがより好ましい。この範囲にすれば、非晶質マークが良好に形成できるようになる。一方、y+z+wは、0.4以下とすることが好ましく、0.3以下とするのがより好ましい。この範囲にすれば、相変化速度を十分に速く、また相変化時の反射率変化を大きくすることができるようになる。さらに、上記範囲にすれば、Ge、Te及び元素M1の結合によって他の安定な結晶相が出現することも抑制できる。
【0052】
このように、上記一般式(1)において、yとzとwの和の値を制御する意義を以下に詳細に説明する。
前記一般式(1)において、Ge含有量を変化させることにより、結晶化速度を制御することができる。すなわち、記録層組成、(Sb1-xSnx1-y-w-zGeyTewM1zにおいてyが小さくなると結晶化速度が速くなる傾向にある。書き換え型情報記録媒体では一般に、短時間での記録消去では結晶化速度を速くする必要がある。このため、書き換え型情報記録媒体の記録条件に応じた結晶化速度を得るために、含有されるGe量を適宜制御すればよい。ただし、結晶化速度はz、wの値にも関係しz、wが大きくなると結晶化速度は遅くなる。したがって結晶化速度を制御するために、z、wを大きくしたときにyは小さくして、y+z+wを上記所定範囲内に制御することが有効となるのである。
【0053】
尚、特開昭63−201927号公報には、SbSnGe系合金を用いた、ライトワンス型の記録要素について記載があるが、記録マークを形成する原理が本発明とは異なる。すなわち、上記公報に記載されたライトワンス型媒体では、媒体製造時に得られる非晶質膜を未記録状態としており、その中に光照射により結晶状の記録マークを形成する。一方、本発明の相変化記録材料においては、相変化記録材料の結晶状態を未記録状態とし非晶質状態を記録状態とする。特に、本発明の相変化記録材料を光学的情報記録媒体に用いる場合には、相変化記録材料を含有する記録層全体が均一な結晶状態となることが重要である。そして、光学的情報記録媒体においては、上記均一な結晶状態の記録層中に非晶質の記録マークを形成することとなる。
【0054】
ここで、ライトワンス型媒体において結晶の記録マークを形成する場合と、本発明の媒体のように非晶質の記録マークを形成する場合とでは、相変化記録材料に要求される性能が大きく異なる。
まず、ライトワンス型媒体において結晶の記録マークを形成する場合と、本発明の媒体のように非晶質の記録マークを形成する場合とでは、相変化記録材料に要求される結晶化速度範囲が異なる。すなわち、ライトワンス型媒体において結晶の記録マークを形成する場合は、結晶化速度が非常に速い相変化記録材料を用いる必要がある。なぜなら、一度形成した結晶の記録マークは非晶質に戻す必要がないばかりか、むしろ結晶マークの安定性確保の観点からは非晶質状態に戻ることは好ましくないからである。さらに、結晶化速度が遅い相変化記録材料では、光照射等により溶融した部分が全て結晶状態となる前にその一部が非晶質化してしまうため、記録マークが変形する問題もあるからである。
【0055】
一方、本発明の媒体のように非晶質の記録マークを形成する場合は、相変化記録材料の結晶化速度が速すぎると、光照射等により溶融した部分が再結晶化して非晶質の記録マークを形成することができなくなる。従って、非晶質の記録マークを安定に形成するためには、結晶化速度と非晶質の記録マークの安定性とのバランスがとれるような結晶化速度とする必要がある。ここで、結晶化速度と非晶質のマークの安定性とのバランスを良好に保つためには、結晶化速度の温度依存性が大きいことが好ましい。すなわち、非晶質の記録マークを再結晶化する場合には、結晶化時の温度が結晶化温度より十分高く融点に近い高温領域となるが、この温度領域においては結晶化速度が速くなることが好ましい。その一方で、非晶質の記録マークの保存安定性を上げる観点から、結晶化温度より十分低く室温近傍の低温領域においては、非晶質マークの再結晶化を防ぐために結晶化速度が遅くなることが好ましい。本発明の相変化記録材料においては、Geを用い、さらにGeの含有量を制御することにより、上記結晶化速度の温度依存性を実現することができるようになる。
【0056】
次に、ライトワンス型媒体において結晶の記録マークを形成する場合と、本発明の媒体のように非晶質の記録マークを形成する場合とでは、相変化記録材料中の結晶核について要求される性質も全く異なる。すなわち、非晶質状態の中に結晶の記録マークを形成する場合は、非晶質状態の中に結晶核が数多く存在する必要がある。これは、結晶核が存在しない領域では結晶の記録マークが形成できないためであり、しかも結晶の記録マークの形と位置とを正確に制御するためには、記録マークが形成される領域中に数多く結晶核が存在する必要があるからである。結晶核の数が足りないと、結晶の記録マークが形成される位置が結晶核の位置に依存するため、ジッタ等の記録特性が悪化することになる。
【0057】
一方、本発明の媒体のように均一な結晶状態の中に非晶質の記録マークを形成する場合には、相変化記録材料中に結晶核は存在しないか、又は存在したとしても、結晶核の数が、非晶質の記録マークを形成する過程において結晶核が実質的に機能しない程度に少ないことが好ましい。なぜなら、マーク形成過程において結晶核が有効に機能すると、非晶質マークを形成すべき溶融領域の一部又は全部が非晶質化することなく再結晶化してしまうからである。すなわち非晶質マークを形成する場合には、マーク形状は、結晶核の数や位置に極力影響を受けることなく、相変化記録材料の熱履歴によってのみ決まることが好ましい。
さらに、本発明においては、非晶質の記録マークを再結晶化により消去する場合に記録マーク中に結晶核が存在しなくとも、記録マーク周辺の結晶を起点として結晶成長が起きるので、非晶質中に結晶核を存在させる必要はない。本発明においては、Geを用い、かつGeの含有量を制御することにより、相変化記録材料中での結晶核生成を有効に抑制できるようになる。結晶核生成は、結晶成長が起こる温度領域よりも低い温度領域において進行するのが一般的である。従って、結晶核生成を抑制することは、室温付近での非晶質マークの保存安定性の点からも好ましい。
【0058】
このように、ライトワンス型媒体において結晶の記録マークを形成する場合と、本発明の媒体のように非晶質の記録マークを形成する場合とでは、相変化記録材料に求められる性質(例えば結晶化速度の最適な領域)や、相変化記録材料の結晶状態(例えば、結晶核が数多く存在する結晶状態であるか、結晶核が少なく均一な結晶状態であるか)が異なる。その結果、結晶の記録マークを形成する相変化記録材料と非晶質の記録マークを形成する相変化記録材料とでは、その組成範囲は当然に異なるものとなる。
尚、特開2002−11958号公報においては、InSnSbにGeを微量添加したライトワンス型の光学的情報記録媒体が開示されている。しかしながら、上記光学的情報記録媒体は、非晶質状態の記録層に結晶状態の記録マークを形成する(結晶記録型)ものであるため、非晶質状態の記録マークを形成すること及び非晶質状態の記録マークの保存安定性を向上させることへの配慮は全くない。そして、結晶型記録の光学的情報記録媒体であるため、具体的に開示された記録層組成では、Geの含有量が5原子%未満としている。
2.情報記録媒体
本発明の情報記録媒体は、結晶状態を未記録状態とし、非晶質状態を記録状態とする情報記録媒体であって、前記一般式(1)で表される組成を主成分とする相変化記録材料を用いることを特徴とする。上記「1.相変化記録材料」で説明したように、前記一般式(1)で表される組成を主成分とする相変化記録材料は、書き換え型情報記録媒体に用いると、記録信号の品質向上効果、及び情報記録媒体の生産性の向上効果が特に顕著に発揮されるようになる。従って、本発明においては、情報記録媒体を、前記一般式(1)で表される組成を主成分とする相変化記録材料が結晶状態と非晶質状態との間を可逆的に変化することによって、情報記録媒体の情報が書き換えられる書き換え型の情報記録媒体とすることが好ましい。
【0059】
より好ましいのは、本発明における情報記録媒体が光学的情報記録媒体であり、前記一般式(1)で表される組成を主成分とする相変化記録材料を含有する相変化型記録層と少なくとも1層の保護層とを有する情報記録媒体であることである。さらに好ましいのは、この光学的情報記録媒体が、書き換え型の情報記録媒体であることである。
【0060】
そこで、以下においては、本発明に用いる相変化記録材料を書き換え型の光学的情報記録用媒体(以下、「書き換え型の光学的情報記録用媒体」を単に「光学的情報記録用媒体」という。)に適用する場合の、媒体の具体的構成及び記録再生方法について、(A)〜(C)において詳細に説明する。
(A)層構成
光学的情報記録用媒体としては通常、図1(a)や、図1(b)に示すような多層構成のものが用いられる。すなわち、図1(a)、(b)より明らかなように、基板上に、本発明の光学的情報記録用媒体に用いる記録層とその少なくとも一方の面に耐熱性の保護層を積層するのが好ましい。そして、記録再生光ビーム入射とは反対側に反射層を設けることが多いが、この反射層は必ずしも必須ではない。また、光の入射面側に、光吸収の制御用に半透明な吸収性膜を設けることも適宜行われる。また、記録層の少なくとも一方の面に設けられることが好ましい保護層において、特性の異なる材料を多層化することも行われる。
【0061】
次に、記録層について説明する。
記録層に含有される材料は、上記一般式(1)で表される相変化記録材料を主成分とする。本発明の効果を有効に発揮するためには、記録層全体のうち、上記一般式(1)で表される相変化記録材料が、通常50原子%以上、好ましくは80原子%以上、より好ましくは90原子%以上、特に好ましくは95原子%以上含有される。含有量が高ければ高いほど本発明の効果が顕著に発揮されるようになるが、記録層の成膜時にOやN等の他の成分が含有されたとしても数原子%から20原子%の範囲内であれば、高速記録消去等の本発明の効果が確実に発揮される。
【0062】
記録層の厚さは、通常1nm以上であるが、好ましくは5nm以上であり、特に好ましくは10nm以上である。このようにすれば、結晶と非晶質状態と間の反射率のコントラストが十分となり、また結晶化速度も十分となり、短時間での記録消去が可能となる。また、反射率自体も十分な値となる。一方、記録層の厚さは、通常30nm以下、好ましくは25nm以下、特に好ましくは20nm以下である。このようにすれば、光学的なコントラストを十分得ることができ、また、記録層にクラックが生じにくくなる。また、熱容量が大きくなることによる記録感度の顕著な悪化も発生しない。さらにまた、上記膜厚範囲とすれば、相変化に伴う体積変化を適度に抑制することができ、オーバーライトを繰り返した際に、ノイズの原因となる、記録層自身やその上下に設けることができる保護層の微視的かつ不可逆な変形が蓄積されにくくなる。このような変形の蓄積は、繰り返しオーバーライト耐久性を低下させる傾向があるため、記録層の膜厚を上記範囲内にすることによりこの傾向を抑制することができる。
【0063】
書き換え型DVDのように波長約650nmのLD(レーザーダイオード)、開口数約0.6〜0.65の対物レンズの集束光ビームで記録再生を行う場合や、波長約400nmの青色LD、開口数約0.7〜0.85の対物レンズの集束光ビームにて記録再生を行う高密度媒体ではノイズに対する要求はいっそう厳しいために、このような場合には、より好ましい記録層の厚さは25nm以下である。
【0064】
上記記録層は所定の合金ターゲットを不活性ガス、特にArガス中でDCまたはRFスパッタリングにより得ることができる。
また、記録層の密度は、バルク密度の通常80%以上、好ましくは90%以上とする。ここでいうバルク密度ρとは、通常下記(2)式による近似値を用いるが、記録層を構成する合金組成の塊を作成して実測することもできる。
【0065】
【数1】

(ここで、miは各元素iのモル濃度であり、ρiは元素iの原子量である。)
スパッタ成膜法においては、成膜時のスパッタガス(通常Ar等の希ガス:以下Arの場合を例に説明する。)の圧力を低くしたり、ターゲット正面に近接して基板を配置するなどして、記録層に照射される高エネルギーAr量を多くすることによって、記録層の密度を上げることができる。高エネルギーArは、通常スパッタのためにターゲットに照射されるArイオンが一部跳ね返されて基板側に到達するものか、プラズマ中のArイオンが基板全面のシース電圧で加速されて基板に達するものかのいずれかである。
【0066】
このような高エネルギーの希ガスの照射効果をatomic peening効果というが、一般的に使用されるArガスでのスパッタではAtomic peening効果により、Arがスパッタ膜に混入される。膜中のAr量により、Atomic peening効果を見積もることができる。すなわち、Ar量が少なければ、高エネルギーAr照射効果が少ないことを意味し、密度の疎な膜が形成されやすい。
【0067】
一方、Ar量が多ければ、高エネルギーArの照射が激しくなり、膜の密度は高くなるものの、膜中に取り込まれたArが繰り返しオーバーライト時にvoidとなって析出し、繰り返しの耐久性を劣化させやすい。従って、適度な圧力、通常は10-2〜10-1Paのオーダーの範囲で放電を行う。
さらに、本発明の好ましい態様である、光学的情報記録用媒体の構造の他の構成要素について説明する。
【0068】
本発明で使用する基板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリオレフィンなどの樹脂、あるいはガラス、アルミニウム等の金属を用いることができる。通常基板には深さ20〜80nm程度の案内溝が設けられているので、案内溝を成形によって形成できる樹脂製の基板が好ましい。また、記録消去再生用の集束光ビームが基板側から入射する、いわゆる基板面入射(図1(a)参照)の場合は、基板が透明であることが好ましい。
【0069】
記録層の相変化に伴う蒸発・変形を防止し、その際の熱拡散を制御するため、通常記録層の上下一方又は両方、好ましくは両方に保護層が形成される。保護層の材料は、屈折率、熱伝導率、化学的安定性、機械的強度、密着性等に留意して決定される。一般的には透明性が高く高融点である金属や半導体の酸化物、硫化物、炭化物、窒化物やCa、Mg、Li等のフッ化物等の誘電体を用いることができる。
【0070】
この場合、これらの酸化物、硫化物、炭化物、窒化物、フッ化物は必ずしも化学量論的組成をとる必要はなく、屈折率等の制御のために組成を制御したり、混合して用いることも有効である。繰り返し記録特性を考慮すると誘電体の混合物が好ましい。より具体的には、ZnSや希土類硫化物等のカルコゲン化合物と酸化物、窒化物、炭化物、弗化物等の耐熱化合物の混合物が挙げられる。例えば、ZnSを主成分とする耐熱化合物の混合物や、希土類の硫酸化物、特にY22Sを主成分とする耐熱化合物の混合物は好ましい保護層組成の一例である。
保護層を形成する材料としては、通常、誘電体材料を挙げることができる。誘電体材料としては、例えば、Sc、Y、Ce、La、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Al、Cr、In、Si、Ge、Sn、Sb、及びTe等の酸化物、Ti、Zr,Hf、V、Nb,Ta、Cr、Mo、W、Zn,B、Al、Ga、In、Si,Ge、Sn、Sb、及びPb等の窒化物、Ti、Zr,Hf、V,Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、B、Al、Ga,In、及びSi等の炭化物、又はこれらの混合物を挙げることができる。また、誘電体材料としては、Zn、Y、Cd、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、及びBi等の硫化物、セレン化物もしくはテルル化物、Mg、Ca等のフッ化物、又はこれらの混合物を挙げることができる。
さらに誘電体材料の具体例としては、ZnS−SiO2、SiN、SiO2、TiO2、CrN、TaS2、Y22S等を挙げることができる。これら材料の中でも、ZnS−SiO2は、成膜速度の速さ、膜応力の小ささ、温度変化による体積変化率の小ささ及び優れた耐候性から広く利用される。
【0071】
繰り返し記録特性を考慮すると、保護層の膜密度はバルク状態の80%以上であることが機械的強度の面から望ましい。誘電体の混合物を用いる場合には、バルク密度として上述の式(2)の理論密度を用いる。
保護層の厚さは、一般的に通常1nm以上500nm以下である。1nm以上とすることで、基板や記録層の変形防止効果を十分確保することができ、保護層としての役目を十分果たすことができる。また、500nm以下とすれば、保護層としての役目を十分果たしつつ、保護層自体の内部応力や基板との弾性特性の差等が顕著になって、クラックが発生するということを防止することができる。
【0072】
特に、入射光側の基体(このような基体としては、例えば基板を挙げることができる。)と記録層の間に保護層(下部保護層と称することがある)を設ける場合、下部保護層は、熱による基体変形を抑制する必要があるため、その厚さは通常1nm以上、好ましくは5nm以上、特に好ましくは10nm以上である。このようにすれば、繰り返しオーバーライト中の微視的な基体変形の蓄積が抑制され、再生光が散乱されてノイズ上昇が著しくなるということがなくなる。
【0073】
一方、下部保護層の厚みは、成膜に要する時間の関係から、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以である。このようにすれば、記録層平面で見た基体の溝形状が変わるということがなくなる。すなわち、溝の深さや幅が、基体表面で意図した形状より小さくなったりする現象が起こりにくくなる。
【0074】
一方、記録層の入射光側とは反対側に保護層(上部保護層と称することがある)を設ける場合、上部保護層は、記録層の変形抑制のために、通常その厚さは1nm以上、好ましくは5nm以上、特に好ましくは10nm以上である。また、繰り返しオーバーライトに伴って発生する上部保護層内部の微視的な塑性変形の蓄積を防止し、再生光の散乱によるノイズ上昇を抑制するため、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下である。
【0075】
なお、記録層および保護層の厚みは、機械的強度、信頼性の面からの制限の他に、多層構成に伴う干渉効果も考慮して、レーザー光の吸収効率が良く、記録信号の振幅が大きく、すなわち記録状態と未記録状態のコントラストが大きくなるように選ばれる。
光学的情報記録媒体においては、さらに反射層を設けることができる。反射層の設けられる位置は、通常再生光の入射方向に依存し、入射側に対して記録層の反対側に設けられる。即ち、基板側から再生光を入射する場合は、基板に対して記録層の反対側に反射層を設けるのが通常であり、記録層側から再生光を入射する場合は記録層と基板との間に反射層を設けるのが通常である(図1(a)、(b)参照)。
【0076】
反射層に使用する材料は、反射率の大きい物質が好ましく、特に放熱効果が期待できるAu、Ag又はAl等の金属が好ましい。その放熱性は膜厚と熱伝導率で決まるが、熱伝導率は、これら金属ではほぼ体積抵抗率に比例するため、放熱性能を面積抵抗率で表すことができる。面積抵抗率は、通常0.05Ω/□以上、好ましくは0.1Ω/□以上、一方、通常0.6Ω/□以下、好ましくは0.5Ω/□以下とする。
【0077】
これは、特に放熱性が高いことを保証するものであり、光学的情報記録用媒体に用いる記録層のように、非晶質マーク形成において、非晶質化と再結晶化の競合が顕著である場合に、再結晶化をある程度抑制するために必要なことである。反射層自体の熱伝導度制御や、耐腐蝕性の改善のため上記の金属にTa、Ti、Cr、Mo、Mg、V、Nb、Zr,Si等を少量加えてもよい。添加量は通常0.01原子%以上20原子%以下である。Ta及び/又はTiを15原子%以下含有するアルミニウム合金、特に、AlαTa1-α(0≦α≦0.15)なる合金は、耐腐蝕性に優れており、光学的情報記録用媒体の信頼性を向上させる上で特に好ましい反射層材料である。
【0078】
あるいは、AgにMg,Ti,Au,Cu,Pd,Pt,Zn,Cr,Si,Ge、希土類元素のいずれか一種を0.01原子%以上10原子%以下含むAg合金も反射率、熱伝導率が高く、耐熱性も優れていて好ましい。
尚、上部保護層の膜厚を5nm以上50nm以下とする場合には特に、反射層を高熱伝導率にするため、含まれる添加元素を2原子%以下とするのが好ましい。
反射層の材料として、特に好ましいのは、Agを主成分とすることである。Agを主成分とすることが好ましい理由は以下の通りである。すなわち、長期保存した記録マークを再度オーバーライトすると、保存直後の第一回目のオーバーライトだけ、相変化記録層の再結晶化速度が速くなる現象が発生する場合がある。このような現象が発生する理由は不明であるが、この保存直後における記録層の再結晶化速度の増加により、保存直後の第一回目のオーバーライトで形成した非晶質マークの大きさが所望するマークの大きさよりも小さくなる。従って、このような現象が発生するような場合には、反射層に放熱性が非常に高いAgを用いて記録層の冷却速度を上げることにより、保存直後における第一回目のオーバーライト時の記録層の再結晶化を抑制して非晶質マークの大きさを所望の大きさに保つことができるようになる。
【0079】
反射層の膜厚としては、透過光がなく完全に入射光を反射させるために10nm以上が望ましい。また、あまりに厚すぎても、放熱効果に変化はなくいたずらに生産性を悪くし、また、クラックが発生しやすくなるので、通常は500nm以下である。
【0080】
光学的情報記録用媒体の好ましい層構成は、再生光の入射方向に沿って順に、第1保護層、記録層、第2保護層、反射層が設けられている構成である。即ち、基板側から再生光を入射する場合は、基板、下部保護層、記録層、上部保護層、反射層の層構成とし、記録層側から再生光を入射する場合は、基板、反射層、下部保護層、記録層、上部保護層の層構成とするのが好ましい。
【0081】
無論、これらの各層はそれぞれ2層以上で形成されていても良く、また、それらの間に中間層が設けられていても良い。例えば、基板側から再生光を入射する場合の基板/保護層間や、基板とは反対側から再生光を入射する場合の保護層上に、半透明の極めて薄い金属、半導体、吸収を有する誘電体層等を設けて、記録層に入射する光エネルギー量を制御することも可能である。
【0082】
記録層、保護層、及び反射層は、通常スパッタリング法などによって形成される。
記録層用ターゲット、保護層用ターゲット、必要な場合には反射層材料用ターゲットを同一真空チャンバー内に設置したインライン装置で膜形成を行うことが各層間の酸化や汚染を防ぐ点で望ましい。また、生産性の面からも優れている。
光学的情報記録用媒体の最表面側には、空気との直接接触を防いだり、異物との接触による傷を防ぐため、紫外線硬化樹脂や熱硬化型樹脂からなる保護コートを設けるのが好ましい。保護コートは通常1μmから数百μmの厚さである。また、硬度の高い誘電体保護層をさらに設けたり、その上にさらに樹脂層を設けることもできる。
【0083】
(B)光学的情報記録媒体の初期結晶化方法
記録層は通常スパッタ法等の真空中の物理蒸着法で成膜されるが、成膜直後の状態(as−deposited状態。本明細書においては、これを単にas−depo.という場合がある。)では、記録層は通常非晶質であるため、本発明ではこれを結晶化させて未記録消去状態とする。この操作を初期化と称する。初期結晶化操作としては、例えば、結晶化温度(通常150〜300℃)以上融点以下での固相でのオーブンアニールや、レーザー光やフラッシュランプ光などの光エネルギー照射でのアニール、溶融初期化などの方法が挙げられる。本発明においては、結晶核生成の少ない相変化記録材料を用いるため、上記初期結晶化操作のうち、溶融初期化を用いることが好ましい。
【0084】
溶融初期化においては、再結晶化の速度が遅すぎると熱平衡を達成するための時間的余裕があるために他の結晶相が形成されることがあるので、ある程度冷却速度を速めるのが好ましい。また、溶融状態で長時間保持されると、記録層が流動したり、保護層等の薄膜が応力で剥離したり、樹脂基板等が変形するなどして、媒体の破壊につながるので好ましくない。
【0085】
例えば、融点以上に保持する時間は、通常10μs以下、好ましくは1μs以下とすることが好ましい。
また、溶融初期化には、レーザ光を用いるのが好ましく、特に、走査方向にほぼ平行に短軸を有する楕円型のレーザ光を用いて初期結晶化を行う(以下この初期化方法を「バルクイレーズ」と称することがある)のが好ましい。この場合、長軸の長さは、通常10〜1000μmであり、短軸の長さは、通常0.1〜5μmである。
【0086】
なお、ここでいうビームの長軸及び短軸の長さは、ビーム内の光エネルギー強度分布を測定した場合の半値幅から定義される。このビーム形状も短軸方向における局所加熱、急速冷却を実現しやすくするため、短軸長を5μm以下、さらには2μm以下とすることがより好ましい。
レーザ光源としては、半導体レーザ、ガスレーザ等各種のものが使用できる。レーザ光のパワーは通常100mWから10W程度である。なお、同等のパワー密度とビーム形状が得られるならば、他の光源を使用してもかまわない。具体的にはXeランプ光等があげられる。
【0087】
バルクイレーズによる初期化の際、例えば円盤状の記録媒体を使用した際、楕円ビームの短軸方向をほぼ円周方向と一致させ、円盤を回転させて短軸方向に走査するとともに、1周(1回転)ごとに長軸(半径)方向に移動させて、全面の初期化を行うことができる。こうすることで、周方向のトラックにそって走査される記録再生用集束光ビームに対して、特定方向に配向した多結晶構造を実現できる。
【0088】
1回転あたりの半径方向の移動距離は、ビーム長軸より短くしてオーバーラップさせ、同一半径が複数回レーザー光ビームで照射されるようにするのが好ましい。その結果、確実な初期化が可能となると共に、ビーム半径方向のエネルギー分布(通常10〜20%)に由来する初期化状態の不均一を回避することができる。一方、移動量が小さすぎると、かえって前記他の好ましくない結晶相が形成されやすいので、通常半径方向の移動量は、通常ビーム長軸の1/2以上とする。
【0089】
少なくとも、溶融初期化によって本発明に用いる光学的情報記録用媒体を得ることができたかどうかは、初期化後の未記録状態の反射率R1と、実際の直径1μm程度の記録用集束光ビームで非晶質マークのオーバーライトを行った後の再結晶化による消去状態の反射率R2とが実質的に等しいかどうかで判断できる。ここでR2は、10回オーバーライト後の消去部の反射率である。
【0090】
従って、本発明に用いる光学的情報記録用媒体は、初期結晶化後の未記録部の反射率R1、10回オーバーライト後の消去部の反射率をR2とするとき、下記関係式(3)を満たすことが好ましい。
【0091】
【数2】

ここで、10回オーバーライト後の消去部の反射率R2を判断指標とする理由は、10回のオーバーライトを行えば、1回の記録だけでは未記録状態のまま残りうる結晶状態反射率の影響を除去し、光学的情報記録用媒体全面を少なくとも1回は記録・消去による再結晶化した状態とすることができるからである。一方、オーバーライトの回数が10回を大きく超えると逆に、繰り返しオーバーライトによる微視的変形や、保護層からの異元素の拡散等、結晶構造の変化以外の要因が反射率変化を引き起こすため、所望の結晶状態が得られたか否かの判断が困難となるからである。
【0092】
上記関係式(3)においては、ΔRが10%以下なるようにするが、5%以下とすることが好ましい。5%以下とすれば、より信号ノイズの低い光学的情報記録用媒体を得ることができる。
例えば、R1が17%程度の光学的情報記録用媒体では、概ねR2が16〜18%の範囲にあればよい。初期化エネルギービームの走査速度は、通常3〜20m/s程度の範囲である。
【0093】
尚、上記消去状態は、必ずしも記録用集束レーザー光を実際の記録パルス発生方法に従って変調しなくても、記録パワーを直流的に照射して記録層を溶融せしめ、再凝固させることによっても得られる。
本発明に用いる相変化記録材料に対して、所望の初期結晶状態を得るには、この初期化エネルギービームの記録層平面に対する走査速度の設定が特に重要である。基本的には、初期結晶化後の結晶状態がオーバーライト後の消去部分の結晶状態と類似することが重要であるから、集束光ビームを使って実際にオーバーライトする場合の集束光ビームの記録層面に対する相対的な走査線速度に近いことが望ましい。具体的には、光学的情報記録用媒体のオーバーライト記録を行う最高線速度の20〜80%程度の線速度で初期化エネルギービームを走査する。
【0094】
なお、オーバーライトの最高線速とは、例えば、ここではその線速度で消去パワーPeを直流的に照射したときに、消去比が20dB以上となることをいう。
消去比は、概ね単一周波数で記録された非晶質マークの信号のキャリアレベルとPeの直流照射による消去後のキャリアレベルとの差として定義される。消去比の測定は例えば以下のように行う。まず、十分な信号特性(すなわち反射率や信号振幅またジッタ(本明細書においてはjitterという場合がある。)などが規定値を満たす特性)が得られる記録条件において、記録する変調信号のなかで周波数の高い条件を選び単一周波数として10回オーバーライトして非晶質マークをつくり、キャリアレベル(記録時C.L.)を測定する。その後、非晶質マークに対して直流照射を1回、消去パワーPeを変えながら行い、このときのキャリアレベル(消去後C.L.)を測定し、記録時C.L.と消去後C.L.の差、すなわち消去比を算出する。直流照射のパワーPeを変更すると消去比は一般に一度大きくなり、下がり、また大きくなる傾向があるが、ここではパワーPeを大きくし始めたときにみられる消去比のはじめのピーク値をそのサンプルの消去比とする。
【0095】
初期化エネルギービームの走査速度は、上記のように規定された最高線速度の概ね20%より低い速度で初期化エネルギービームを走査すると相分離が生じて単一相が得られにくかったり、単一相であっても、結晶子が特に初期化ビーム走査方向に伸びて巨大化したり、好ましくない方向に配向したりする。好ましくは、オーバーライト可能な最高線速度の30%以上の速度で初期化エネルギービームを走査すればよい。
【0096】
一方、オーバーライト記録可能な最高使用線速度と同等、すなわち概ねその80%より高い速度で初期化エネルギービームを走査した場合、初期化走査で一旦溶融した領域が再度非晶質化してしまうので好ましくない。走査線速度を早くすると溶融した部分の冷却速度は速くなり、再固化までの時間が短くなるからである。記録用の直径1ミクロン程度の集束光ビームでは、溶融領域周辺の結晶領域からの結晶成長による再結晶化は短時間でも完了できる。しかし、初期化楕円光ビームで走査した場合は、長軸方向の溶融領域面積が広くなるため、実際のオーバーライト時よりは、走査線速度を低くして、再凝固中の再結晶化を溶融領域全域に行き渡らせる必要がある。このような観点から、初期化エネルギービームの走査線速度は、オーバーライトの最高線速度の70%以下とすることが好ましく、60%以下とすることがより好ましい。
【0097】
本発明に用いる光学的情報記録用媒体は、レーザー光の照射により初期結晶化をおこなう場合、レーザー光に対する媒体の移動速度を大きくすることが可能であるという特徴をもつ。これは、短時間での初期結晶化が可能であるということに結びつき、生産性の向上やコスト削減が可能となる点で好ましい。
(C)光学的情報記録媒体の記録再生方法
本発明に用いる光学的情報記録用媒体に使用できる記録再生光は、通常半導体レーザーやガスレーザーなどのレーザー光であって、通常その波長は300〜800nm、好ましくは350〜800nm程度である。特に1Gbit/inch2以上の高面記録密度を達成するためには、集束光ビーム径を小さくする必要があり、波長350から680nmの青色から赤色のレーザー光と開口数NAが0.5以上の対物レンズを用いて集束光ビームを得ることが望ましい。
【0098】
本発明では、前記のように非晶質状態を記録マークとする。また、本発明では、マーク長変調方式によって情報を記録するのが有効である。これは、特に最短マーク長が4μm以下、特に1μm以下となるマーク長記録の際に特に顕著である。
【0099】
記録マークを形成する際、従来の2値パワーレベル変調方式による記録を行うこともできるが、本発明においては下記のような記録マークを形成する際にオフパルス期間を設ける3値以上の多値パワーレベル変調方式による記録方法を採用するのが特に好ましい。
図2は、光学的情報記録用媒体の記録方法における記録光のパワーパターンを示す模式図である。長さnT(Tは基準クロック周期、nはマーク長変調記録において取りうるマーク長であり、整数値である)にマーク長変調された非晶質マークを形成する際、(n−j)T(ただしjは0以上2以下の実数)を、m=n−k(ただしkは0以上の整数)個の記録パルスに分割し、個々の記録パルス幅をαiT(1≦i≦m)とし、個々の記録パルスにβiT(1≦i≦m)なる時間のオフパルス区間を付随させる。尚、図2の分割記録パルスにおいては、図の見やすさの観点から、基準クロック同期Tの表記を省略してある。つまり、図2において、例えばαiTと記載すべきところは、単にαiと記載してある。ここでαi≦βi、あるいはαi≦βi-1(2≦i≦mないしはm−1)とするのが好ましい。なおΣαi+Σβiは通常nであるが、正確なnTマークを得るためΣαi+Σβi=n−j(jは、−2≦j≦2なる定数)とすることもできる。
【0100】
記録の際、マーク間においては、非晶質を結晶化しうる消去パワーPeの記録光を照射する。また、αiT(i=1〜m)においては、記録層を溶融させるのに十分な記録パワーPwの記録光を照射し、βiT(1≦i≦m−1)なる時間においては、Pb<Pe、好ましくはPb≦(1/2)PeとなるバイアスパワーPbの記録光を照射する。
【0101】
なお、期間βmTなる時間において照射する記録光のパワーPbは、βiT(1≦i≦m−1)の期間と同様、通常Pb<Pe、好ましくはPb≦1/2Peとするが、Pb≦Peとなっていてもよい。
上記の記録方法を採用することによって、パワーマージンや記録時線速マージンを広げることができる。この効果は、特にPb≦1/2PeなるようにバイアスパワーPbを十分低くとる際に顕著である。
【0102】
上記記録方式は、本発明の相変化記録材料を記録層に用いた光学的情報記録媒体に特に適した方式である。短時間での消去を確実にするために、Ge量を少なくしていくと、非晶質マーク記録のために必要な臨界冷却速度が極めて高くなり、逆に良好な非晶質マークの形成が困難になってしまうからである。
すなわち、Ge量を減らす事は、非晶質マークの周辺結晶部からの再結晶化を促進するとともに、溶融再凝固時の結晶成長速度をも増加させるからである。非晶質マーク周辺からの再結晶化速度をある程度以上増加させると、非晶質マーク記録のために形成した溶融領域の再凝固時に、溶融領域周辺部からの再結晶化が進行し、冷却速度が極めて早くなければ、非晶質化することなく再結晶化してしまう傾向が強くなるのである。
【0103】
そのうえ、クロック周期が短縮されてオフパルス区間が短くなって冷却効果が損なわれるので、nTマーク記録の際に記録パルスを分割し、オフパルスによる冷却区間を実時間にして1nsec以上、より好ましくは、3nsec以上設定することが有効である。
(D)本発明の情報記録媒体の光学的情報記録媒体以外の用途
本発明に用いる情報記録媒体は、少なくとも光照射による可逆的な相変化記録が可能であるため、光学的情報記録用媒体として用いることが可能であることは、上述した通りである。しかし、本発明に用いる書き換え型情報記録媒体は、例えば微少領域に電流を流すことによる相変化記録にも適用できる。この点について以下説明する。
【0104】
図3は、非晶質マーク記録時の温度履歴(曲線a)、及び、再結晶化による消去時の温度履歴(曲線b)の概念図である。記録時には、記録層の温度は、高電圧かつ短パルスの電流または高パワーレベルの光ビームでの加熱によって短時間に融点Tm以上に昇温され、電流パルスもしくは光ビーム照射を切った後は、周辺への放熱により急冷されて非晶質化する。融点Tmから結晶化温度Tgまでの時間τ0における温度の冷却速度が非晶質化のための臨界冷却速度より大きければ、非晶質化される。一方、消去時には、比較的低電圧の印加もしくは低パワーレベルの光エネルギー照射によって、結晶化温度Tg以上、概ね融点Tm以下に加熱され、一定時間以上保持されることで、実質的に固相状態で非晶質マークの再結晶化が進む。すなわち、保持時間τ1が十分で有れば、結晶化が完了する。
ここで、記録もしくは消去用のエネルギー印加前の記録層の状態がどのようなものであっても、前記記録層に曲線aの温度履歴を与えれば記録層が非晶質化され、前記記録層に曲線bの温度履歴を与えれば記録層が結晶化される。
【0105】
本発明に用いる書き換え型情報記録が、光学的情報記録用媒体としてのみでなく、微小領域に電流を流すことによる相変化記録に用いることができる理由は次の通りである。つまり、可逆的相変化を生じせしめるのは、あくまで、図3に示すような温度履歴であって、その温度履歴を生じせしめるエネルギー源は、集束光ビーム又は電流加熱(通電によるジュール熱)のいずれでもよいからである。
【0106】
本発明に用いる相変化記録材料の結晶と非晶質との相変化に伴う抵抗率変化は、現在、不揮発性メモリーとして開発の進んでいるGeTe−Sb2Te3疑似2元合金、特に、Ge2Sb2Te5化合物量論組成合金で示されているような、2桁以上の抵抗率変化に十分匹敵するものである(J.Appl.Phys., Vol.87(2000), pp4130−4133)。実際に、前記一般式(1)で表されるようなSbSnGeTeM1組成を主成分とする相変化記録材料を用いた書き換え型情報記録媒体のas−depo.の非晶質状態での抵抗率、及びアニールによる結晶化後の抵抗率をそれそれ測定したところ、3桁以上の変化が確認された(後述の実施例参照)。電流パルスによる非晶質化、結晶化で得られる非晶質、結晶状態は、上記as−depo.の非晶質状態、及び上記アニールによる結晶状態とはそれぞれ若干異なるものと考えられるものの、本発明に用いる相変化記録材料を電流パルスによって相変化させた場合においても、2桁程度の大きな抵抗率変化は十分生じうるものと期待される。
【0107】
図4は、このような不揮発性メモリーの1セルの構造を示す断面図である(このような不揮発性メモリーについては、相変化光記録シンポジウム論文集、2001年、pp61−66にも記載がある)。図4において上部電極1と下部電極2との間に電圧が印加され、相変化記録材料を含有する相変化記録層3(以下、単に相変化記録層3という場合がある。)とヒーター部4とが通電される。相変化記録層3はSiO2等の絶縁体10で覆われている。また、相変化記録層3は、初期状態においては結晶化されている。この場合の初期結晶化は、図4の系全体を記録層の結晶化温度(通常は100−300℃程度)に加熱して行う。集積回路の形成ではこの程度の昇温は普通に行われる。
【0108】
さて、図4で特に、細くなっている部分4(ヒーター部)は、上部電極1と下部電極2との間の通電により、ジュール熱による発熱が生じやすいため、局所的なヒーターとして機能する。そこに隣接した可逆変化部5が、局所的に加熱され図3の曲線aで示したような温度履歴を経て非晶質化され、また、図3の曲線bで示したような温度履歴を経て再結晶化される。
【0109】
読み出しは、ヒーター部4の発熱が無視できる程度に低電流を流し、上下の電極間に生じる電位差を読みとる。なお、結晶、非晶質状態間で電気容量にも差があるので、電気容量の差を検知しても良い。
実際には、半導体集積回路形成技術を用いて、さらに集積化したメモリーが提案されている(米国特許6314014号公報)が、その基本構成は図4に示すものであり、相変化記録層3に、本発明に用いる相変化記録材料を含有させれば、全く同等の機能を実現できる。
【0110】
尚、図3に示すような温度変化を生じさせるエネルギー源としては、電子ビームを挙げることもできる。電子ビームを用いる記録デバイスの例としては、米国特許5557596号公報に開示されたような、フィールドエミッタで放出された電子ビームを局所的に照射して相変化記録材料に相変化を生じさせる方法がある。
【実施例】
【0111】
以下に、本発明の相変化記録材料を光学的情報用記録媒体(実施例において、光学的情報記録用媒体を単にディスクという場合がある。)に適用した実施例、及び電気抵抗変化によって記録を行う書き換え型情報記録媒体に対して本発明の相変化記録材料の適用可能性を検討した実施例について説明する。下記実施例は、あくまで本発明の実施態様の1つであり、その要旨の範囲を越えない限り本発明は、光学的情報記録用媒体や電気抵抗変化によって記録を行う書き換え型情報記録媒体への応用のみに限定されるものではない。
また、光学的情報記録媒体の実施例においては、非晶質の記録マークを形成した部分における反射率は、初期結晶化後(未記録状態)及び消去後における結晶状態の反射率に対して相対的に低くなっている。また、光学的情報記録媒体の記録層において、記録マーク部が非晶質状態となり消去・未記録状態が多結晶状態となることは、記録層の透過型電子顕微鏡観察によって確認した。また、結晶状態はほぼ単一相であり、結晶粒径は概ね数μm以下であった。
【0112】
光学的情報記録用媒体の記録層に用いた相変化記録材料の組成の測定には、酸溶解ICP−AES(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いた。分析装置はJOBIN YVON社製JY 38 Sを用い、記録層をdil−HNO3(希硝酸)に溶解しマトリクスマッチング検量線法で定量した。
【0113】
ディスク特性の測定には、パルステック社DDU1000を使用し、再生パワーを1mW未満として溝内にフォーカスサーボ及びトラッキングサーボをかけて行った。
(実施例1、2、比較例1〜4)
溝幅約0.5μm、溝深さ約40nm、溝ピッチ1.6μmの案内溝を有する直径120mm、1.2mm厚のディスク状ポリカーボネート基板上に、(ZnS)80(SiO220層(80nm)、Ge−Sb−Sn記録層(15nm)、(ZnS)80(SiO220層(30nm)、Al99.5Ta0.5合金反射層(200nm)をスパッタリング法により成膜し、相変化型光ディスクを作製した。
【0114】
なお、記録層組成を(Sb1-xSnx1-yGeyで表記した場合のx、yの値を表−1に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
これらのディスクは以下のように初期結晶化をおこなった。すなわち、幅約1μm、長さ約150μmの形状を有する波長810nm、パワー1600mWのレーザー光を長軸が上記案内溝に垂直になるようにして12m/sで回転させたディスクに照射し、レーザー光を1回転あたり送り量60μmで半径方向に連続的に移動させることにより初期化をおこなった。
【0117】
その後、レーザー波長780nm、NA0.5のピックアップを有するディスク評価装置を用い、線速度28.8m/sでEFMランダム信号を後述のように記録した。EFM信号に含まれる長さ3T〜11T(Tは基準クロック周期で9.6nsec)のマークはそれぞれ以下に示すレーザーパルスを順につなげたパルス列の照射により形成した。
【0118】
【表2】

【0119】
上記3T〜11Tのレーザーパルスを図2に示すような表記方法を用いて示すと、αi、βiは表−2のようになる。そして、区間αiTでは記録パワーPwを照射し、区間βiTではバイアスパワーPb=0.8mWを照射する。
【0120】
【表3】

【0121】
上記の各マーク形成用パルス列間は消去パワーPeを照射した。また、3Tマーク形成用パルスの照射位置はランダム信号本来の3Tマークの位置より0.35Tだけ前にずらし(照射時刻を本来より早くし)、4Tマーク形成用パルスの照射位置はランダム信号本来の4Tマークの位置より0.1Tだけ前にずらした。こうすることにより形成されるマークは本来のランダム信号に近くなる。また、記録時は特に記述のない場合はPe/Pw比を0.31に固定した。
【0122】
記録部は線速度1.2m/sで再生し記録信号の特性を評価した。
実施例1,2のディスクの評価結果を図5、6にそれぞれ示す。評価内容は、Pwを22〜28mWで変化させEFMランダム信号を10回オーバーライト記録したときの再生信号の3Tマークジッタと3Tスペースジッタ(結果を図5(a)、図6(a)に示す。)、結晶部反射率(結果を図5(b)、図6(b)に示す。)、「結晶部反射率の信号レベル−11Tマーク部反射率の信号レベル」で定義される信号振幅(結果を図5(c)、図6(c)に示す。)、および、記録パワーを固定し繰り返しダイレクトオーバーライトをしたときの再生信号の3Tマークジッタと3Tスペースジッタ(結果を図5(d)、図6(d)に示す。)である。繰り返しダイレクトオーバーライト時の記録パワーは実施例1で25mW、実施例2で24mWとした。
【0123】
図5(d)、図6(d)の結果から、実施例1、2の各ディスクにおいて、1000回までのオーバーライトでジッタの値が40nsecより十分に小さくなるような記録条件が存在することがわかる。従って、この点で実施例1、2の各ディスクは、書き換え型情報記録媒体として十分に実使用可能であることがわかる。実施例1、2の各ディスクの記録層組成付近では、記録層組成を(Sb1-xSnx1-yGeyと表記したとき、図6(d)と図5(d)とを比較してわかるように、繰り返しオーバーライト特性に関してはxの小さい方が優れる傾向にある。また、図5(c)と図6(c)とを比較してわかるように、信号振幅に関してはxの大きい方が優れる傾向にある。
【0124】
また、実施例1、2の各ディスクにおいて、相変化記録材料として、Sb−Sn−Ge−M1を用い、元素M1として、Bi、Ta、W、Nb、N、O、C、Se、Al、Si、Zn、Vを1〜10原子%程度添加した場合((Sb1-xSnx1-y-zGeyM1zにおいて、x=0.25、y=0.18、0.01≦z≦0.1、又は、x=0.32、y=0.18、0.01≦z≦0.1とした場合)も、実施例1、2のディスクと同様の書き換え記録特性を示した。
また、これらのディスクを105℃の環境に3時間保った後上記記録部を再生したところ、記録された信号のジッタや信号振幅に劣化は全くなかった。
【0125】
表−1に示すように、比較例1のディスクは、前記の初期結晶化操作による均一な反射率上昇は見られず、ディスク一周のトラック内に局所的に反射率が低い場所が数カ所必ずできた。さらに表−1に示すように、比較例1のディスクに対しては、Ge量を制御して結晶化速度を変化させても、均一な初期結晶化を行うことができなかった。
【0126】
また、比較例1のディスクは、線速度1.2m/s、Resolution band width 30kHz、Video band width 30Hzの条件でスペクトラムアナライザ(アドバンテスト社、TR4171)500kHzでのノイズレベルを測定したところ実施例1のディスクよりノイズレベルが13dB高かった。
比較例1のディスクについては、ディスク評価装置を用いて、線速度1.2〜4.8m/s、6〜12mWのDCレーザー光を照射することでも初期結晶化を試みもしたが、均一な反射率上昇が見られず、初期結晶化を良好に行うことができなかった。初期結晶化を均一に行うことができない上記ディスクに、非晶質マークの記録を試みたが、1回目の記録からジッタが40nsec以上となった。これは、比較例1のディスクでは、結晶状態を未記録状態とし非晶質状態を記録状態とすることができないことを意味する。
【0127】
これらの結果から、相変化記録材料にSnが含まれない場合は、結晶状態を未記録状態とし非晶質状態を記録状態とする情報記録媒体としての使用が困難となることがわかる。
また、比較例3のディスクも前記の初期化操作による均一な反射率上昇は見られなかった。これは、Ge含有量が多く(y=0.35)非晶質相から結晶相への相変化速度が遅すぎるためと思われる。比較例3のディスクについては、ディスク評価装置を用いて、線速度1.2〜4.8m/s(この線速度範囲では、ディスクは静止している状態に非常に近い。)、6〜12mWのDCレーザー光を照射することでも初期結晶化を試みもしたが、均一な反射率上昇が見られず、初期結晶化を良好に行うことができなかった。これら結果から、相変化記録材料のGe含有量が0.3より多くなると書き換え型情報記録媒体としての使用が困難となることがわかる。
【0128】
比較例2のディスクは、初期結晶化後は均一な反射率が得られたものの、非晶質マークの形成ができなかった。さらに線速度を変化して非晶質マークの形成を試みたが、少なくとも線速度38.4m/s以下での非晶質マークの形成はできなかった。これは、Ge含有量が少なく(y=0.09)結晶化速度が速すぎて溶融部分が再結晶化したためと思われる。これらの結果から、相変化記録材料のGe含有量が0.1より少ないと書き換え型情報記録媒体としての使用が実質的に困難となることがわかる。尚、38.4m/s以上の線速度は装置上の制限により使用できないため、比較例2のディスクでは実質的に非晶質マークの形成は不可能であるといえる。
また、比較例2のディスクを極めて特殊な条件下で非晶質化できたとしても、比較例2のディスクの記録層組成は、Geの含有量が少なく(y=0.09)非晶質マークが室温下ですぐに再結晶化してしまうため、光学的情報記録媒体に用いるには不適当である。
【0129】
比較例4のディスクは、初期結晶化後は均一な反射率が得られたものの、実施例1,2と同条件で記録、再生を行ったところ40nsec以下の3Tマーク間ジッタを得ることができなかった。さらに比較例4のディスクについては、表−1に示すように、Ge含有量を変化させて結晶化速度を変えたディスクを作製し、これらディスクの記録特性をも調べた。その結果、x=0.59と固定した比較例4の各ディスクにおいては、Ge含有量を変化させても、非晶質マークの形成と非晶質マークの結晶化との両立が困難であること、さらには少なくともマークの結晶化に必要な結晶化速度を有する組成では信号振幅が0.05程度で小さいことがわかった。すなわち、Sn含有量が多くなりすぎると書換可能媒体としての使用は実質的に困難となる。
(比較例5)
比較例5のディスクは、実施例1においてGeをInに置き換えた相変化記録材料を用いたものである。比較例5の各ディスクにおける、記録層組成を(Sb1-xSnx1-yInyで表記した場合のx、yの値、初期結晶化の可否、及び記録特性を表−1に示した。
【0130】
比較例5の各ディスクに用いた相変化記録材料は、Snの量を0.01〜0.5の範囲とし、Inの量を0.1〜0.3の付近の範囲(本発明におけるGe量の含有範囲)としている。これらディスクは、初期結晶化後は均一な反射率が得られたものの、少なくとも線速度38.4m/s以下での非晶質マークの形成はできなかった。In含有量を変化させても、非晶質マークの形成はできなかった。
【0131】
この結果から、非晶質マーク形成にはGeが重要であり、GeをInに置き換えた場合は、情報記録用媒体としての使用は実質的に困難となることがわかる。尚、In量をさらに多くした(Sb0.73Sn0.270.56In0.44では初期結晶化時に反射率の低い別の結晶相と思われる状態に変化した。
以上より、(Sb1-xSnx1-yGeyにおいて0.01≦x≦0.5、0.1≦y≦0.3とすることにより、良好な光学的情報記録用媒体を得ることができる。
(実施例3)
次に、本発明の相変化記録材料を、電気抵抗の変化によって記録を行う情報記録媒体の記録材料として用いることができるか否かを検討するために以下の実験を行った。
すなわち、直径120mmのポリカーボネート基板上に50nmの膜厚のGe0.18Sb0.66Sn0.16((Sb1-xSnx1-yGeyにおいて、x=0.2、y=0.18)非晶質膜をスパッタリングで作製した。そして、この非晶質膜の抵抗率測定をした後、結晶化させ再度結晶化後の膜の抵抗率測定を行った。結晶化は前述の実施例の各ディスクと同じ条件で行い、抵抗率測定にはダイアインスツルメント社製抵抗率測定装置ロレスタMP(MCP−T350)を用いた。結晶化前後の抵抗率は、それぞれ1.03×10-1Ωcm、0.80×10-4Ωcmであり、非晶状態と結晶状態との間で3桁近い抵抗率の変化が生じることがわかった。
上記と同様の方法で、ポリカーボネート基板上にGe0.17Sb0.75Sn0.08((Sb1-xSnx1-yGeyにおいて、x=0.1、y=0.17)非晶質膜をスパッタリングで作製し、この膜の非晶質状態及び結晶状態における抵抗率を測定した。その結果、非晶質状態での抵抗率は5.96×10-1Ωcm、結晶状態での抵抗率は0.8×10-4Ωcmであり、非晶状態と結晶状態との間で3桁近い抵抗率の変化が生じることがわかった。
また、上記と同様の方法で、ポリカーボネート基板上にGe0.16Sb0.84((Sb1-xSnx1-yGeyにおいて、x=0、y=0.16)非晶質膜をスパッタリングで作製し、この膜の非晶質状態及び結晶状態における抵抗率を測定した。その結果、非晶質状態での抵抗率は1.51×10-0Ωcm、結晶状態での抵抗率は0.7×10-4Ωcmであり、非晶状態と結晶状態との間で4桁近い抵抗率の変化が生じることがわかった。
以上3つの相変化記録材料から形成した膜の抵抗率測定結果から、相変化記録材料中のSnの含有量を変化させれば、非晶質状態と結晶状態との間での抵抗率の変化を制御することができることがわかる。すなわち、Snの含有量を少なくすると非晶質状態と結晶状態との間での抵抗率の変化が大きくなることが分かる。
本発明の相変化記録材料を、抵抗率の変化を利用した不揮発性メモリーに用いる場合に抵抗率の変化を大きくするだけならば、Snを含有させない組成も採用しうる((Sb1-xSnx1-y-w-zGeyTewM1zにおいて、0≦xとする。)。しかしながら、通常は、上記不揮発性メモリーを組み込む電子回路の設計の都合上、上記抵抗率の変化を所定範囲内に制御する必要がある。従って、Snを含有する相変化記録材料を用いることによって、抵抗率の変化が所定範囲内に制御された高性能な不揮発性メモリーを得ることができるようになる。
さらに、上記GeSbSnの3元組成にTeや元素M1等の添加元素を加えても、非晶質状態と結晶状態との間で良好な抵抗率変化を得ることができる。実際に、ポリカーボネート基板上にGe0.08In0.11Sb0.65Sn0.11Te0.05((Sb1-xSnx1-y-w-zGeyTewInzにおいて、x=0.14、y=0.08、w=0.05、z=0.11)非晶質膜をスパッタリングで作製し、この膜の非晶質状態及び結晶状態における抵抗率を測定した。その結果、非晶質状態での抵抗率は8.73×10-1Ωcm、結晶状態での抵抗率は1.12×10-4Ωcmであり、非晶状態と結晶状態との間で3桁近い抵抗率の変化が生じることがわかった。
以上の実験から、本発明に用いる相変化記録材料は、非晶質状態と結晶状態での相変化における抵抗率の差違を大きくしつつも所定範囲内に制御することが可能であるため、電気抵抗変化による記録を行う書き換え型情報記録媒体への適用が可能であることがわかる。
(実施例4〜11、比較例6)
光学的情報記録用媒体の記録層に用いた相変化記録材料の組成の測定には、酸溶解ICP−AES(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置)及び蛍光X線分析装置を用いた。酸溶解ICP−AESに関しては、分析装置はJOBIN YVON社製JY 38 Sを用い、記録層をdil−HNO3に溶解しマトリクスマッチング検量線法で定量した。蛍光X線分析装置は、理学電機工業株式会社のRIX3001を用いた。
【0132】
ディスク特性の測定には、パルステック社DDU1000を使用し、再生パワーを0.8mWとして溝内にフォーカスサーボ及びトラッキングサーボをかけて測定をおこなった。
溝幅約0.5μm、溝深さ約40nm、溝ピッチ1.6μmの案内溝を有する直径120mm、1.2mm厚のディスク状ポリカーボネート基板上に、(ZnS)80(SiO220層、Ge−Sb−Sn−M1記録層、(ZnS)80(SiO220層、Al99.5Ta0.5合金反射層をスパッタリング法により成膜し、8種類の相変化型光ディスクを作製した(比較例6、実施例4〜10)。同様に、(ZnS)80(SiO220層、Ge−Sb−Sn−M記録層、(ZnS)80(SiO220層、窒化ゲルマニウム層、Ag反射層からなる相変化型光ディスクも作製した(実施例11)。窒化ゲルマニウム層は(ZnS)80(SiO220層とAg層の間の元素の相互拡散を防ぐための界面層である。
【0133】
各ディスクの膜厚および記録層組成を(Sb1-xSnx1-y-zGeyM1zと表記した場合のx、y、zの値を表−3に示す。なお、表−3をみてわかるように、各ディスクを構成する各層の膜厚は多少異なっている。これは、結晶部反射率や信号振幅を同程度にするためである。そして、比較例6を除くすべてのディスクの結晶部反射率は19〜21%の範囲にあった。
【0134】
【表4】

【0135】
これらのディスクは以下のように初期結晶化をおこなった。すなわち、幅約1μm、長さ約150μmの形状を有する波長810nm、パワー1600mWのレーザー光を長軸が上記案内溝に垂直になるようにして12m/sで回転させたディスクに照射し、レーザー光を1回転あたり送り量60μmで半径方向に連続的に移動させることにより初期化をおこなった。ディスクによってはこの初期化条件が最適ではないものもあるため、その後、レーザー波長780nm、NA0.5のピックアップを有するディスク評価装置を用い、線速度4m/sで10mWのDCレーザー光を1回照射した。
【0136】
比較例6のディスクは上記初期化操作による反射率変化が小さく記録媒体として機能しなかった。
実施例4と実施例5〜8のディスクについては初期化部のノイズ測定を以下の条件でおこなった。すなわち、線速度1.2m/s、Resolution band width 30kHz、Video band width 30Hzの条件でスペクトラムアナライザ(アドバンテスト社、TR4171)を用い500kHzでのノイズレベルを測定した。結果を表−3に示す。実施例5〜8のディスクは実施例4のディスクと比較してノイズが小さい。GeSbSn系材料は、Snの含有量(xの値)が小さい場合ノイズが大きくなる傾向にある。このため、x=0.2である実施例4のディスクはノイズが多少大きくなるが、実施例4と同程度以下のxの値をもつ実施例5〜8は明らかにノイズが小さく、In、Pd、Pt、Ag添加によるノイズ改善効果が大きいことがわかる。
【0137】
次に、実施例4、5、9、10、及び11のディスク(In添加、未添加系)に、レーザー波長780nm、NA0.5のピックアップを有するディスク評価装置を用い、線速度28.8m/sでEFMランダム信号を後述のように記録した。EFM信号に含まれる長さ3T〜11T(Tは基準クロック周期で9.6nsec)のマークはそれぞれ以下に示すレーザーパルスを順につなげたパルス列の照射により形成した。
【0138】
【表5】

【0139】
上記の各マーク形成用パルス列間は消去パワーPeを照射した。また、3Tマーク形成用パルスの照射位置はランダム信号本来の3Tマークの位置より0.35Tだけ前にずらし(照射時刻を本来より早くし)、4Tマーク形成用パルスの照射位置はランダム信号本来の4Tマークの位置より0.1Tだけ前にずらした。こうすることにより形成されるマークは本来のEFMランダム信号に近くなる。また、記録時はPe/Pw比を0.31に固定した。
【0140】
各ディスクに、記録パワーPwを変化させたときに長さが3Tに相当するマーク間長のジッタ(「3Tマーク間ジッタ」と記述する)が10回オーバーライト記録でほぼ最小となる記録パワーを用いて上記EFMランダム信号を10回オーバーライト記録し(以下、「加速前記録」と記述する場合がある。)、3Tマーク間ジッタを測定した。3Tマーク間ジッタと記録パワーの値とを表−3に示す。表−3において、3Tマーク間ジッタと記録パワーの値は、「加速前記録」の欄に示してある。
【0141】
次に実施例5、9、10、及び11の各ディスクを105℃の環境に3時間保った(加速試験)。その後上記記録部を再生し(以下、「加速後」と記述する場合がある。)、3Tマーク間ジッタを測定した。3Tマーク間ジッタの値を表−3に示す。表−3において、3Tマーク間ジッタの値は、「加速後」の欄に示してある。
【0142】
さらに加速前記録部に加速試験後記録パワーを変化させてEFMランダム信号を1回オーバーライトし(以下、「加速後記録」と記述する場合がある。)、3Tマーク間ジッタを測定した。最も小さい値となった3Tマーク間ジッタと記録パワーの値を表−3に示す。表−3において、3Tマーク間ジッタと記録パワーの値は、「加速後記録」の欄に示してある。
【0143】
なお、この加速試験は通常の環境試験と比較して非常に厳しい条件で行っている。従って、この加速試験において加速試験後の特性が悪化した場合においても、実使用上の性能は十分確保されたディスクであるといえる。
尚、記録マークの再生は1.2m/sの線速でおこなった。
実施例4のディスクはノイズが多少大きいものの、加速前記録における3Tマーク間ジッタは40nsec以下となり、十分実使用可能といえる。
【0144】
実施例9のディスクは加速前記録のジッタ特性(3Tマーク間ジッタ値)は、実施例4のディスクよりSnが多い(xが大きい)ためさらに良くなっている。しかし加速後記録の3Tマーク間ジッタ値は48.8nsecと若干大きくなる。一方、Snの少ない(xが小さい)組成にInを添加した実施例5、10、11のディスクでは加速後記録の3Tマーク間ジッタ値が改善されるのがわかる。
【0145】
ほぼ同じ記録層組成を用いた実施例10と実施例11の比較でわかるとおり、反射膜としてAgを用いることにより加速後記録特性はさらに良くなる。
また、どのディスクにおいても加速前記録部ジッタの加速試験による劣化は見られず、非晶質マークは十分に安定であることがわかる。
(実施例12、比較例7)
添加元素としてTeを用い、Teの含有量を5原子%(実施例12)及び11原子%(比較例7)含有させた以外は、上記(実施例4〜11、比較例6)と同様にしてディスクを作製し、各ディスクの評価を行った。各ディスクの膜厚及び記録層組成を(Sb1-xSnx1-y-wGeyTewと表記した場合のx、y、wの値を表−4に示す。
【0146】
【表6】

【0147】
実施例12のディスクでは、上記実施例5、10と同程度の加速後記録特性が得られており、Teの添加によって、加速後記録特性が良好になることがわかる。尚、実施例12のディスクの結晶部反射率は16.6%と他の実施例のディスクより若干低い値となった。
比較例7のディスクは、結晶状態の反射率が12.1%と低く信号振幅も小さかったため、実使用可能な相変化型光ディスクとはならなかった。
【0148】
また、実施例12のディスクにおいても加速前記録部ジッタの加速試験による劣化は見られず、非晶質マークは十分に安定であることがわかる。
(実施例13〜17)
光学的情報記録用媒体の記録層に用いた相変化記録材料の組成の測定には、酸溶解ICP−AES(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置)及び蛍光X線分析装置を用いた。酸溶解ICP−AESに関しては、分析装置はJOBIN YVON社製JY 38 Sを用い、記録層をdil−HNO3に溶解しマトリクスマッチング検量線法で定量した。蛍光X線分析装置は、理学電機工業株式会社のRIX3001を用いた。
【0149】
ディスク特性の測定には、パルステック社DDU1000を使用し、再生パワーを0.8mWとして溝内にフォーカスサーボ及びトラッキングサーボをかけて測定をおこなった。
溝幅約0.5μm、溝深さ約40nm、溝ピッチ1.6μmの案内溝を有する直径120mm、1.2mm厚のディスク状ポリカーボネート基板上に、(ZnS)80(SiO220層、Ge−Sb−Sn−M1記録層、(ZnS)80(SiO220層、Al99.5Ta0.5合金反射層をスパッタリング法により成膜し、M1をそれぞれTb又はGdとする2種類の相変化型光ディスクを作製した(実施例13、14)。つまり、実施例13では元素M1としてTbを、実施例14では元素M1としてGdを用いた。
【0150】
次に、実施例4において、反射層をAg反射層とし、反射層と保護層との間に窒化ゲルマニウム層を挿入した相変化型光ディスクを作製した(実施例15)。同様に、実施例13、及び14においても反射層をAg反射層とし、反射層と保護層との間に窒化ゲルマニウム層を挿入した相変化型光ディスクを作製した(実施例16、17)。尚、Ag反射層を用いる場合に、反射層と保護層との間に窒化ゲルマニウム層を挿入した理由は、(ZnS)80(SiO220保護層とAg反射層層との間の元素の相互拡散を防ぐためである。
【0151】
表−5に、実施例4、13、14の各ディスクの、元素M1、層構成、膜厚、及び記録層組成を(Sb1-xSnx1-y-zGeyM1zと表記した場合のx、y、zの値をそれぞれ示す。
【0152】
【表7】

【0153】
これらのディスクは以下のように初期結晶化をおこなった。すなわち、幅約1μm、長さ約150μmの形状を有する波長810nm、パワー1600mWのレーザー光を長軸が上記案内溝に垂直になるようにして12m/sで回転させたディスクに照射し、レーザー光を1回転あたり送り量60μmで半径方向に連続的に移動させた。その後、レーザー波長780nm、NA0.5のピックアップを有するディスク評価装置を用い、線速度4m/sで10mWのDCレーザー光を1回照射した。
【0154】
初期結晶化後の実施例13、14のディスクの結晶部反射率は19〜21%の範囲にあった。また、実施例4のディスクの初期結晶化後の結晶部反射率も19〜21%であった(実施例4参照)。
実施例13、14のディスクについては前述の実施例4と実施例5〜8のディスクと同様にノイズ測定をおこなった。結果を表−5に示す。実施例13、14のディスクは実施例4のディスクと比較してノイズが小さく、Tb、Gd等のランタノイド元素ひいては希土類元素添加によるノイズ改善効果が大きいことがわかる。
【0155】
次に、レーザー波長780nm、NA0.5のピックアップを有するディスク評価装置を用い、実施例15〜17のディスクの繰り返しオーバーライト耐久性を測定した。線速度は28.8m/sとしEFMランダム信号を後述のように記録した。EFM信号に含まれる長さ3T〜11T(Tは基準クロック周期で9.6nsec)のマークはそれぞれ以下に示すレーザーパルスを順につなげたパルス列の照射により形成した。
【表8】

【0156】
上記の各マーク形成用パルス列間は消去パワーPeを照射した。また、3Tマーク形成用パルスの照射位置はランダム信号本来の3Tマークの位置より0.3Tだけ前にずらし(照射時刻を本来より早くし)、4Tマーク形成用パルスの照射位置はランダム信号本来の4Tマークの位置より0.1Tだけ前にずらした。こうすることにより形成されるマークは本来のEFMランダム信号に近くなる。また、記録時はPe/Pw=8mW/26mWとした。
【0157】
実施例15〜17のディスクの繰り返しオーバーライト回数と3Tマーク間ジッタとの関係を図7に示す。再生は1.2m/sでおこなった。実施例15〜17のいずれのディスクも繰り返しオーバーライト回数が1000回までは良好なジッタ特性を示し、実使用上は問題の無いディスクであることがわかる。但し、実施例15のディスクは、さらに繰り返しオーバーライト回数を増やしていくと、2000回のオーバーライト時点で3Tマーク間ジッタが46.2nsecとなった。実施例15のディスクにおいては、相変化記録材料にランタノイド元素ひいては希土類元素を含有させていないため、繰り返しオーバーライトにより結晶化速度が低下しマークの消去が不完全になるためにジッタの上昇が発生すると考えられる。一方、ランタノイド元素(Tb、Gd)を相変化記録材料に含有させた実施例16、17のディスクは2000回オーバーライト後も良好なジッタ値を示した。これは、ランタノイドの添加によって、上記繰り返しオーバーライト回数に伴って発生する結晶化速度の低下が軽減されるためであると考えられる。
(参考例1)
実施例15のディスクに用いた記録層組成が、結晶のマークの形成に適しているか、すなわち、記録層をスパッタした後の非晶質膜中に結晶マークを記録することが可能であるか否かを調べるため以下の実験をおこなった。
【0158】
実験に用いたディスクは、基板に接する(ZnS)80(SiO220層の膜厚を150nmにしたこと以外は実施例15のディスクと同様に作製した。これは、実施例15のディスクそのままでは、記録層をスパッタした状態である非晶質膜(結晶マークを形成する場合の未記録状態)の反射率が低くく、フォーカスサーボがかけられなかったため、(ZnS)80(SiO220層の膜厚を実施例15よりも厚くして前記非晶質膜の反射率を上げてフォーカスサーボをかけるためである。基板に接する(ZnS)80(SiO220層の膜厚を150nmとした結果、非晶質膜の反射率は7%となり、フォーカスおよびトラッキングサーボをかけることができた。
【0159】
線速度を28.8m/sとし、実施例15で用いたディスク評価装置(パルステック社DDU1000)を用いて、5〜20mWのDCレーザー光を1回照射したが結晶化は全く起こらなかった。実施例15において消去パワーPe(消去パワーは、非晶質マークを消去するためのパワーゆえ結晶化パワーを意味する。)が8mWであることを考えると、上記5〜20mWのDCレーザー光は、結晶マークが形成できるか否かを確認するには十分に広範なレーザーパワーである。このような広範なレーザーパワーにおいても結晶相のマークが形成できないことから、このディスクの非晶質膜に結晶マークを記録することは非常に困難であるといえる。すなわち、このディスクの成膜直後における非晶質の記録層中には、結晶核がほとんど存在していないか、存在していたとしても結晶マークを形成できる程は密に存在していないと考えられる。
【0160】
さらに、上記DCレーザー光を複数回照射したところ、結晶化が起こり反射率の上昇が見られたが、均一な反射率上昇ではなく結晶化しやすい部分としにくい部分が混ざり合っていることが観察された。これは、実施例15の記録層組成においては、高い信号品質を有する結晶マークを形成できる程度の結晶核の数が元々存在しないことを示している。従ってこのディスクに対して、レーザー照射等の前処理をいくら行ったとしても、非晶質状態における記録層中の結晶核の数がそもそも少ないので、実使用に耐えうる記録特性を有する結晶マークを形成することは困難である。
【0161】
以上から、本発明の相変化記録材料は、非晶質状態、特にスパッタ成膜直後の非晶質状態においては、結晶核の密度が非常に疎であることがわかる。従って、この相変化記録材料を用いた情報記録媒体においては、結晶状態を記録マークとする記録方法を用いることが非常に困難であることがわかる。
(実施例18〜19、比較例8〜9)
光学的情報記録用媒体の記録層に用いた相変化記録材料の組成の測定には、酸溶解ICP−AES(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置)及び蛍光X線分析装置を用いた。酸溶解ICP−AESに関しては、分析装置はJOBIN YVON社製JY 38 Sを用い、記録層をdil−HNO3に溶解しマトリクスマッチング検量線法で定量した。蛍光X線分析装置は、理学電機工業株式会社のRIX3001を用いた。
【0162】
ディスク特性の測定には、パルステック社DDU1000を使用し、再生パワーを0.8mWとして溝内にフォーカスサーボ及びトラッキングサーボをかけて測定をおこなった。
溝幅約0.5μm、溝深さ約40nm、溝ピッチ1.6μmの案内溝を有する直径120mm、1.2mm厚のディスク状ポリカーボネート基板上に、(ZnS)80(SiO220層、Ge−Sb−Sn−M1−Te記録層、(ZnS)80(SiO220層、Ta層、Ag反射層をスパッタリング法により成膜し、M1をInとした相変化型光ディスクを作製した(実施例18、19、比較例8)。尚、Ag反射層を用いる場合に、反射層と保護層との間にTa層を挿入した理由は、(ZnS)80(SiO220保護層とAg反射層との間の元素の相互拡散を防ぐためである。比較例9に関しては、元素M1としてInを用いなかった他、Ta層とAg反射層の代わりにAl99.5Ta0.5反射層を設けた。
表−6に、各ディスクの、元素M1、層構成、膜厚、及び記録層組成を(Sb1-xSnx1-y-zGeyM1zTewと表記した場合のx、y、z、wの値をそれぞれ示す。
【0163】
【表9】

【0164】
これらのディスクは以下のように初期結晶化をおこなった。すなわち、幅約1μm、長さ約150μmの形状を有する波長810nm、パワー1600mWのレーザー光を長軸が上記案内溝に垂直になるようにして12m/sで回転させたディスクに照射し、レーザー光を1回転あたり送り量60μmで半径方向に連続的に移動させた。
次に、レーザー波長780nm、NA0.5のピックアップを有するディスク評価装置を用い、実施例18、19、比較例8、9のディスクの10回オーバーライト後の記録信号特性を測定した。
【0165】
実施例18のディスクについては以下の条件で記録をおこなった。線速度は28.8m/sとしEFMランダム信号を後述のように記録した。EFM信号に含まれる長さ3T〜11T(Tは基準クロック周期で9.6nsec)のマークはそれぞれ以下に示すレーザーパルスを順につなげたパルス列の照射により形成した。
【表10】

【0166】
上記の各マーク形成用パルス列間は消去パワーPeを照射した。記録時はPe/Pw=0.27とした。
表−6に、10回オーバーライト後の3Tマーク間ジッタとPwの値を示す。再生は1.2m/sでおこなった。表−6より、実施例18のディスクは優れたオーバーライトジッタ特性を有することがわかる。Ge量を表すyの値は0.07であり、たとえば実施例1のyの値と比較してかなり小さい値となっている。これは、同程度の結晶化速度を有するディスクであってもTe、Inが含まれることによりGe量を少なくできることを示している。
【0167】
実施例19のディスクについては以下の条件で記録をおこなった。線速度は38.4m/sとしEFMランダム信号を後述のように記録した。EFM信号に含まれる長さ3T〜11T(Tは基準クロック周期で7.2nsec)のマークはそれぞれ以下に示すレーザーパルスを順につなげたパルス列の照射により形成した。
【表11】

【0168】
上記の各マーク形成用パルス列間は消去パワーPeを照射した。また、3Tマーク形成用パルスの照射位置はランダム信号本来の3Tマークの位置より0.06Tだけ前にずらした(照射時刻を本来より早くした)。こうすることにより形成されるマークは本来のEFMランダム信号に近くなる。記録時はPe/Pw=0.25とした。
表−6に、10回オーバーライト後の3Tマーク間ジッタとPwの値を示す。再生は1.2m/sでおこなった。表−6より、実施例19のディスクは優れたオーバーライトジッタ特性を有することがわかる。Ge量を表すyの値は0.04である。Te、Inを含むことによりGe量を少なくできることがわかる。すなわち、これは、同程度の結晶化速度を有するディスクであってもTe、Inが含まれることによりGe量を少なくできることを示している。
一方、Geの含まれていない比較例8、9のディスクは少なくとも38.4m/s以下の線速度において非晶質マークを充分に形成することができなかった。したがって情報記録用媒体としての使用は実質的に困難である。
【符号の説明】
【0169】
1 上部電極
2 下部電極
3 相変化記録層
4 ヒーター部
5 可逆変化領域
10 絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶状態を未記録状態とし、非晶質状態を記録状態とする情報記録媒体に用いる相変化記録材料であって、下記一般式(1a)で表される組成を主成分とする
ことを特徴とする、相変化記録材料。
【化1】

(ただしx、yは原子数比を表し、x、yは、それぞれ0.05≦x≦0.4、0.1≦y≦0.3を満たす数である。)
【請求項2】
前記情報記録媒体が書き換え型の情報記録媒体である
ことを特徴とする、請求項1記載の相変化記録材料。
【請求項3】
前記一般式(1a)において、xの値を0.1≦x≦0.35とする
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の相変化記録材料。
【請求項4】
結晶状態を未記録状態とし、非晶質状態を記録状態とする光学的情報記録媒体であって、下記一般式(1a)で表される組成を主成分とする相変化記録材料を用いる
ことを特徴とする、光学的情報記録媒体。
【化2】

(ただしx、yは原子数比を表し、x、yは、それぞれ0.05≦x≦0.4、0.1≦y≦0.3を満たす数である。)
【請求項5】
前記一般式(1a)で表される組成を主成分とする相変化記録材料が結晶状態と非晶質状態との間を可逆的に変化することによって、光学的情報記録媒体の情報が書き換えられる
ことを特徴とする、請求項4記載の光学的情報記録媒体。
【請求項6】
前記一般式(1a)において、xの値を0.1≦x≦0.35とする
ことを特徴とする、請求項4又は請求項5に記載の光学的情報記録媒体。
【請求項7】
前記一般式(1a)で表される組成を主成分とする相変化記録材料を含有する相変化型記録層と少なくとも1層の保護層とを有する
ことを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載の光学的情報記録媒体。
【請求項8】
前記光学的情報記録媒体がさらに反射層を有し、前記反射層がAgを主成分とする
ことを特徴とする、請求項4〜7のいずれか一項に記載の光学的情報記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−30303(P2010−30303A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192277(P2009−192277)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【分割の表示】特願2003−56996(P2003−56996)の分割
【原出願日】平成15年3月4日(2003.3.4)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【Fターム(参考)】