説明

情報記録媒体及び追記型情報記録装置

【課題】高記録密度の記録再生が可能な追記型の情報記録媒体及び情報記録装置を提供する。
【解決手段】多層膜構造(13,14)を有し、レーザー光等の熱源により局所的に多層構造が崩れる事で磁化状態に差異を生じる記録膜を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は情報の記録再生を行うための媒体及び装置に関し、特に高密度記録に適した追記型の情報記録媒体及び情報記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の発展には目覚しいものがあり、文字情報のみならず音声及び画像情報を高速に処理することができる装置の1つとしてコンピュータ等に装着されている磁気記録方式の情報記録装置が知られている。特に画像情報を扱うためには大容量の記録装置が強く求められており、磁気記録方式の情報記録装置の記録密度向上が強力に進められている。典型的な磁気記録方式の情報記録装置は、複数の情報記録媒体をスピンドル上に回転可能に装着している。各情報記録媒体は、基板とその上に形成された磁性膜からなり、情報の記録は、特定の磁化方向を有する磁区を磁性膜中に形成することにより行われる。現在は、より高記録密度を目指して、従来面内方向に記録していた面内記録方式から磁化を垂直方向に記録する垂直磁気記録方式の研究開発が活発に行われており、一部実用化も始まっている。
【0003】
【非特許文献1】T.Oikawa et.Al, IEEE Trans. Magn., vol.38, pp.1976-1978, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録装置は他に類をみない大容量のため、様々なデータの記録用途として用いられている。このデータの種類の中には、例えば医療データのように書き換えを不可能にしなければならないものも存在する。磁気記録は磁化の方向によって記録しているために物理的な変化がなく、本質的に無限回の書き換え可能な記録方法である。従って、上記のようなデータを安全に保存するためには何らかの工夫が必要で、現状はソフトウェアで管理している。
【0005】
書き換えを不可能にするような用途には、一般的には追記型の媒体が使用されている。追記型媒体として、例えば、DVD−R等の有機色素を記録層に用いた光ディスクがある。これはディスクにレーザーを照射することで加熱された箇所の有機色素が分解してピットが形成され、レーザーの反射率が変化することを利用して信号の記録・再生を実現している。有機色素の分解は不可逆変化であり、一旦形成されたピットは消去することができないため、追記型媒体として機能する。
【0006】
しかしながら、このような光記録では、記録密度は光のスポットサイズで決定される。例えば現在積極的に開発及び実用化が進められている青紫色レーザーを用いた光記録においても、記録密度はおおよそ30Gbit/in2程度であり、現在実用化されている磁気記録装置の記録密度の約1/4ほどしかない。このようなレーザーを用いた光記録の場合、記録密度はその波長とレンズの開口数で決定される。一方、近接場光を用いると光の回折限界を超えた、例えば30nm程度の微小な光スポットを形成できる。しかし、現在は、このような微小スポットで記録された信号を光学的に読み取る技術が確立されていない。
【0007】
一方、磁気記録では、巨大磁気抵抗効果を利用した高感度な読み取り素子を用いているため、線記録密度はビット長が30nmクラスの850kFCIでも読み取りが可能であり、これが磁気記録の高記録密度化を進めることを可能にしている大きな理由である。
【0008】
しかしながら、前述したように、磁気記録は本質的に物質の物理的、化学的変化の生じない記録方法であるため、原理的には無限回書き換え可能である。従って、追記型にするには、記録媒体の物理的、あるいは、化学的な構造を変化させる必要がある。
【0009】
本発明の目的は、高い記録密度を実現し、且つ、書き換えが不可能な情報記録媒体及びそれを装着した情報記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
我々は、高い記録密度を保持しながら記録の書き換えが不可能な方式の記録媒体及び記録装置について検討を行った結果、近接場光を用いて、微小ビット記録時に光により媒体の構造を不可逆的に変化させ、読み取りを磁気抵抗効果素子で行うことができれば、高記録密度な追記型情報記録媒体、及び情報記録装置を構成することが可能になると考えた。記録に光と磁気を利用する情報記録装置として、光磁気記録装置が知られている。これは、記録層を希土類金属と遷移金属の合金で構成し、記録時には光を照射して強磁性状態から常磁性状態へと変化する温度、すなわちキュリー温度以上に昇温し、冷却する過程で磁場印加方向を変化させることで磁化方向を制御する。光磁気記録方式では、記録層が加熱されてはいるものの、構造変化は生じないので、書き換え可能な記録装置である。したがって、追記型にするためには、記録層に加熱前後で非可逆的な変化を引き起こす必要がある。
【0011】
そこで、種々の媒体構造を検討した結果、多層膜構造を有し、レーザー光等の熱源による局所的な加熱で多層構造を崩したとき磁化状態に差異を生じる新規な情報媒体構造を採用することで、上記要件を満たすことが出来ることを見出した。
【0012】
多層膜で構成された記録層を加熱すると、層間で相互拡散が生じるため、多層構造は変化する。そのため、例えば、Feを主成分とする層とPtを主成分とする層をこの順に積層した場合、加熱前の多層構造での磁気特性は軟磁性であるが、加熱により層間の相互拡散が進行するとFePt規則合金が形成され、磁気特性は硬磁性を示す。このような変化を用いると、加熱前は軟磁性体のために記録ヘッドで磁場を印加した後においても膜外に磁束が発生しないような多磁区構造をとり、加熱後は記録ヘッドからの磁場印加方向に磁化が向くために漏洩磁束が発生するので、この違いをGMR素子等の磁気記録装置に用いられる再生ヘッドを用いて読み取ることが可能となる。
【0013】
このような多層膜の構造変化は非可逆変化であり、合金化した物質が再び多層膜に戻ることはない。さらに、磁性体を用いれば、構造変化に起因する磁化状態をGMR素子等の高分解能な読み取り素子で検出することで、光の再生限界を超えることが出来るので、従来よりも高記録密度の追記型情報記録媒体として使用することが可能となる。
【0014】
本発明の磁気記録媒体を組み込み、媒体を駆動する媒体駆動部、加熱機構により媒体を加熱し局所的に多層構造を崩すことで磁化状態に変化を生じさせて記録を行う光学ヘッド及び記録層への磁界の印加と読み出しを行うヘッドを搭載した記録再生ヘッド、磁気記録媒体に対して記録再生ヘッドを相対的に駆動する駆動装置を備えることで、追記型の情報記録装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高密度記録可能な追記型の情報記録媒体及びそれを備えた情報記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の情報記録媒体及び情報記録装置について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0017】
(実施例1)
実施例1で作製した情報記録媒体の概略断面図を図1に示す。図1に示すように、情報記録媒体10は、基板11、Fe−O層12、Fe層13、Pt層14、及び保護層15を順次積層した構造を有する。基板11には直径2.5インチ(6.5cm)の円板状の結晶化ガラス基板を用いた。基板11上に、Fe−O層12を形成し、その上にFe層13を形成し、さらにその上にPt層14を形成した。各層はいずれもDCスパッタ法で形成した。Fe−O層は、ArとOの混合ガス中でFeターゲットをスパッタすることにより形成した。Fe−O層の膜厚は3nmとした。Fe層とPt層のスパッタはArガス中で行った。Fe層とPt層の厚さは各々3nmとした。Fe−O層、Fe層およびPt層スパッタ時のガス圧は0.9Paとした。Pt層14上に、保護層15として、カーボン保護層をガス圧0.5PaのArガス中でスパッタ法により2nm形成した。
【0018】
次に、上記情報記録媒体の記録再生特性を評価した。実施例1で作製した情報記録媒体の保護層上に1nmの厚さの潤滑剤を塗布した後、その情報記録媒体(ディスク)を、図2に示した情報記録装置20内に装着して記録再生特性を評価した。情報記憶装置20は、モータで回転駆動されるスピンドル22、記録再生ヘッド23、及び記録再生ヘッド23を駆動してディスク10の所望のトラックに位置決めするヘッド駆動系24を有する。ディスク10はスピンドル22に固定され、所定の回転数で回転する。
【0019】
図3は、記録再生ヘッド23の一例を示す概略断面図である。記録再生ヘッドには磁気ヘッドと光照射部31が一体化されており、光照射部31は、レーザーからPlanar型のヘッドにレーザー光を当てて近接場光を発生させる。レーザーとしては波長780nmを発生する半導体レーザーを用いた。磁気ヘッドは、記録ヘッド32(トレーリングシールド付、トレーリングシールドギャップ長Gts=35nm、トラック幅Tw=70−100nm、磁束密度2.45T)と、再生ヘッド33(トラック幅Twr=60nm、再生ギャップGs=50nm、MR比=13%)を備える。実施例1においては記録層が垂直磁化膜であるため、記録ヘッド32には、垂直記録を行いやすい単磁極ヘッド構造を採用した。再生ヘッド33は、スピンバルブ型磁気抵抗効果膜34を一対の磁気シールド35で挟んだ構造を有し、再生ヘッド直下の記録ビットから漏れる磁束を検出することができる。この一体型記録再生ヘッド23はヘッド駆動系24により駆動されて、情報記録媒体10上の所望のトラック上に位置決めされる。記録再生ヘッド23は、媒体対向面と情報記録媒体面との距離を5nmに保って記録再生を行った。
【0020】
この情報記録媒体10を用いて、光照射部31へのレーザー投入パワーを変化させながら、線記録密度1000kFCIに相当する周波数89MHzで光照射部31から近接場光を照射した。近接場光を照射後に、記録ヘッド32で一方向に磁場を印加した後に、再生ヘッド33により出力を測定した。スペクトルアナライザーを用いて、出力を周波数解析し、1000kFCIに相当する周波数である89MHzでの出力をキャリアー(C)、ベース値をノイズ(N)、キャリアーとノイズの比をC/N比と定義して、電気信号特性を評価した結果を図4に示す。近接場光を照射していない場合にはC/N比は5dB程度と低いが、レーザーパワーが70mW以上では急激にC/N比が向上し、100mWにおいてC/N比は40dBとなり、充分な信号品質が得られた。このようにレーザーパワーに応じて著しい信号の変化を観測した。
【0021】
近接場光を照射した前後の媒体の違いを調べるため、レーザーパワー100mWにおいて、近接場光が照射された領域と照射されていない箇所の電子線回折パターンを透過電子顕微鏡により平面方向から測定した。近接場光が照射されていない箇所では、Fe(002)及びPt(002)に対応する電子線回折パターンが観測された。一方、近接場光が照射された箇所からは、L10FePt規則合金の(001)及び(002)に対応する回折パターンが観測された。このような構造変化は、FeとPtの相互拡散によって進行する。この相互拡散に必要な拡散エネルギーが今回の実験系では、70mW以上であると推定される。70mW以上のレーザーパワーで近接場光を発生させると、近接場光照射前後で多層膜媒体の膜組織が変化し、光が照射された箇所にはL10規則合金が形成され、記録再生ヘッド23の記録ヘッド32から発生される磁場によってそのL10規則合金を一方向に磁化させることができたために、その磁束を検出したと考えられる。
【0022】
(実施例2)
実施例2で作製した情報記録媒体の概略断面図を図5に示す。図5に示すように、情報記録媒体40は、基板41、Ti密着層42、Pd下地層43、Co/Pd多層膜層44、及び保護層45を順次積層した構造を有する。基板41には直径2.5インチ(6.5cm)の円板状の結晶化ガラス基板を用いた。基板41上に、Ti密着層42を形成し、その上にPd下地層43を形成し、さらにその上にCo/Pd多層膜層44を形成した。各層はいずれもDCスパッタ法で形成した。Ti密着層42は基板と薄膜の密着性を向上させるための層である。Ti密着層42の膜厚は3nmとした。Pd下地層43はCo/Pd多層膜の配向性を向上させる層で、膜厚は10nmとした。Co/Pd多層膜層44は、記録が行われる層である。Coの膜厚を0.3nm、Pdの膜厚を0.7nm、積層周期を12周期とした。保護層45として、カーボン保護層をガス圧0.5PaのArガス中でスパッタ法により2nm形成した。
【0023】
この情報記録媒体40を用いて、実施例1と同様の図2に示す情報記録装置を用いて記録再生評価を行った。線記録密度1000kFCIになるような周波数89MHzで記録再生ヘッド23の光照射部31から近接場光を照射した。レーザーの投入パワーは100mWとした。近接場光を照射後に、記録再生ヘッド23の記録ヘッド32から一方向に磁場を印加した後に、再生ヘッド33により出力を測定した。スペクトルアナライザーを用いて、出力を周波数解析し、1000kFCIに相当する周波数である89MHzでの出力をキャリアー(C)、ベース値をノイズ(N)、キャリアーとノイズの比をC/N比と定義して、電気信号特性を評価したところ、C/N比は38dBとなり、充分な信号品質であることがわかった。
【0024】
情報記録媒体40に近接場光を照射しないで記録再生ヘッド23の記録ヘッド32から一方向に磁場を印加した後に再生ヘッド33により出力を測定すると、一定の磁束量を検出した。一方、近接場光を直流照射した後に、記録ヘッド32から一方向に磁場を印加した後に再生ヘッド33により出力を測定すると、磁束はほとんど検出されなかった。
【0025】
以上の結果から、本実施例の情報記録媒体40の記録層は、近接場光照射前には硬磁性体として機能し、磁場印加後の磁化は磁場印加方向を向くのに対し、近接場光照射後には多層膜構造が崩れて軟磁性体のCoPd合金が形成され、照射箇所は磁場を印加した後でも磁束が膜外に漏れない多磁区構造をとるためであると考えられる。そのため、光が照射されていない箇所からは漏洩磁束が生じ、光が照射されて多層膜構造が崩れた箇所からは漏洩磁束が発生せず、そのために、漏洩磁束量が記録周期と同様に変化し、再生が可能になると考えられる。
【0026】
以上、実施例1の情報記録媒体は、多層構造のとき軟磁性を示し、多層構造を崩したとき硬磁性を示すという記録前後での磁気特性の変化を利用して情報の記録再生を行う。また、実施例2の情報記録媒体は、多層構造のとき硬磁性を示し、多層構造を崩したとき軟磁性を示すという記録前後での磁気特性の変化を利用して情報の記録再生を行う。実施例1と同様の磁気特性の変化を起こす構造として、Co/Pt,Fe/Pd積層膜が挙げられる。一方、実施例2と同様の磁気特性の変化を起こす構造としてはCo/Pt多層膜がある。さらに、その他の磁化状態の変化、例えば、多層構造で強磁性体から記録後は非磁性体、多層構造で非磁性体から記録後は強磁性体等の変化を利用することも可能である。
【0027】
上記実施例では、情報記録媒体の基板材料としてガラスを用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されない。場合によっては、アルミニウム、ポリカーボネードなどのプラスチック、あるいは、樹脂等を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による情報記録媒体の一例の断面模式図。
【図2】情報記録装置の概略平面図。
【図3】本発明の情報記録再生装置で用いる記録再生ヘッドの一例の断面概略図。
【図4】C/N比のレーザーパワー依存性を示す図。
【図5】本発明による情報記録媒体の他の例の断面模式図。
【符号の説明】
【0029】
10 情報記録媒体
11 基板
12 Fe−O層
13 Fe層
14 Pt層
15 保護層
20 情報記録装置
22 スピンドル
23 記録再生ヘッド
24 ヘッド駆動系
31 光照射部
32 記録ヘッド
33 再生ヘッド
34 スピンバルブ型磁気抵抗効果膜
35 磁気シールド
40 情報記録媒体
41 基板
42 Ti密着層
43 Pd下地層
44 Co/Pd多層膜層
45 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された多層構造の記録層とを有し、
前記記録層は、多層構造の箇所と局所加熱によって局所的に多層構造が崩れた箇所とで磁気特性が異なり、前記磁気特性の差異を利用して記録を行うことを特徴とする情報記録媒体。
【請求項2】
請求項1記載の情報記録媒体において、前記多層構造の箇所は軟磁性を示し、前記多層構造が崩れた箇所は硬磁性を示すことを特徴とする情報記録媒体。
【請求項3】
請求項1記載の情報記録媒体において、前記多層構造の箇所は硬磁性を示し、前記多層構造が崩れた箇所は軟磁性を示すことを特徴とする情報記録媒体。
【請求項4】
基板と前記基板上に形成された多層構造の記録層とを有し、前記記録層は多層構造の箇所と局所加熱によって局所的に多層構造が崩れた箇所とで磁気特性が異なる情報記録媒体と、
前記情報記録媒体に光照射する光照射部と磁界を印加する磁気ヘッドと再生ヘッドとを有する記録再生ヘッドと、
前記情報記録媒体を駆動する媒体駆動部と、
前記記録再生ヘッドを駆動するヘッド駆動部とを有し、
前記記録再生ヘッドの前記光照射部による光照射によって前記情報記録媒体の前記記録層の多層構造を崩し、前記磁気ヘッドによって一方向に磁界を印加することによって記録を行うことを特徴とする追記型情報記録装置。
【請求項5】
請求項4記載の追記型情報記録装置において、前記記録層は、前記多層構造の箇所が軟磁性を示し、前記多層構造が崩れた箇所が硬磁性を示すことを特徴とする追記型情報記録装置。
【請求項6】
請求項4記載の追記型情報記録装置において、前記記録層は、前記多層構造の箇所が硬磁性を示し、前記多層構造が崩れた箇所が軟磁性を示すことを特徴とする追記型情報記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−265498(P2007−265498A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87789(P2006−87789)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】