説明

意匠形成方法および意匠が形成された物

【課題】多くの塗色を用いることなく、かつ、周囲の景観を損ねることなく、優れた視認性を有する意匠を形成することができる方法およびそれを用いて意匠が形成された物を提供する。
【解決手段】被塗装物に同一または近似の塗色の着色材を塗布して、意匠構成部分Aと意匠構成部分Bとを含む意匠を形成する方法であって、上記着色材は、アスペクト比が7を超える扁平着色顔料、顔料分散剤およびバインダー成分を含んでいて、全着色顔料における上記扁平着色顔料の含有量は、60質量%以上であり、かつ、上記意匠構成部分Aにおいては、上記着色材を単一の方向で塗布し、かつ、上記意匠構成部分Bにおいては、上記着色材を上記方向の垂直方向に対して−45〜45度の角度の方向で塗布することを特徴とする意匠形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠形成方法およびそれから得られる意匠が形成された物に関する。
【背景技術】
【0002】
商業地区において、通常、商業用の比較的大規模な各種広告板や看板は、意匠性を高めるために、また、文字、絵柄等を明瞭に表すために、多くの塗色の着色材を用いることによって形成される。しかしながら、多くの塗色の着色材を用いることは、その費用として最終的に施主が負担するため経済的ではなかった。
【0003】
また、このような広告板や看板は、目立たせるために周囲の風景色から色相の離れた塗色を用いられることが多く、住宅地域や一部の風致地区においては、景観を損ねるとして使用を制限される場合があった。
【0004】
一方、道路に直接着色材を塗布することによって各種情報の表示を行うことがある。このような着色材は路面標示材と呼ばれている。(例えば、非特許文献1参照のこと。)
集合住宅敷地内等においてこのような塗装を行う場合には、景観を損なわないような配色となるように配慮されている場合がある。
【0005】
しかしながら、例えば、通行車両に対する歩行者注意喚起の表示等を行う場合にはその表示を際立たせるための塗色の着色材を使用して塗装することが必要であり、結果として景観を損ねることがあった。
【非特許文献1】日本ライナー株式会社、“水性路面標示用塗料 ロードラインマーキュリー”、[online]、新着製品/技術情報、[平成17年1月17日検索]、インターネット<URL:http://www.nipponliner.co.jp/mf_newp01_b04.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、多くの塗色を用いることなく、周囲のカラーデザインや景観に調和し、かつ、優れた視認性を有する意匠を形成することができる方法およびそれを用いて意匠が形成された物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被塗装物に同一または近似の塗色の着色材を塗布して、意匠構成部分Aと意匠構成部分Bとを含む意匠を形成する方法であって、上記着色材は、アスペクト比が7を超える扁平着色顔料、顔料分散剤およびバインダー成分を含んでいて、全着色顔料における上記扁平着色顔料の含有量は、60質量%以上であり、かつ、上記意匠構成部分Aにおいては、上記着色材を単一の方向で塗布し、かつ、上記意匠構成部分Bにおいては、上記着色材を上記方向の垂直方向に対して−45〜45度の角度の方向で塗布することを特徴とする意匠形成方法である。ここで、予め、周囲のカラーデザインまたは景観に調和する塗色を選定する工程を含んでいることが好ましい。
【0008】
また、着色材は、ガラス板上に、その塗色において下地を隠蔽する乾燥膜厚となるように塗布した後、JIS K 5600の温湿度条件に準拠した条件下で24時間放置して得られる塗膜のマンセル明度が8以下であるものが好ましい。
【0009】
ここで、着色材は水性型着色材であり、また、揮発性有機化合物の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明は、上記の意匠形成方法で得られた意匠を形成された物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の意匠形成方法は、全く異なる塗色の着色材を用いるのではなく、同一または近似の塗色の着色材を用いるため、経済的であり、視認性に優れた意匠を形成することができる。
【0012】
これは、光の反射に関して異方性を有すると考えられる高いアスペクト比を有する着色顔料を一定方向に配向させるように塗布方向を設定することで、得られた塗膜も光の反射に関して異方性を持つようになったためであると思われる。
【0013】
つまり、視認性に優れた意匠が得られるように意匠構成部分毎に塗布方向を変えることによって、各意匠構成部分において光の反射が異なるため塗膜の発色に差が生じ、そのため、その発色の差を利用することによって同一または近似の塗色の着色材を用いても視認性に優れた意匠を作成できると考えられる。
【0014】
従って、さらに、形成する意匠の周囲のカラーデザインや景観に調和する塗色を選定することにより、本発明の効果をさらに発揮することができる。
【0015】
以上のことから、本発明の意匠形成方法は、道路表面やある地域の建築物や車両の壁面、特に、景観を損なう塗色の使用が認められない地域における物品の意匠、広告の作成および情報の表示等に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の意匠形成方法は、被塗装物に同一または近似の塗色の着色材を塗布して意匠を形成するものである。上記着色材は、扁平着色顔料、顔料分散剤およびバインダー成分を含んでいる。
【0017】
本明細書中において、上記扁平着色顔料の長辺長は、分散された扁平着色顔料をxy平面、yz平面およびxz平面に投影して直方体化処理した際の最も長い辺の長さを、また、短辺長は最も短い辺の長さを意味するものである。本発明におけるアスペクト比とは、上記長辺長/短辺長比をいう。ここで、上記長辺長および短辺長は、着色材に含まれる扁平着色顔料の特数値であり、電子顕微鏡写真によって実測されるものである。従って、カタログ等に記載されている着色顔料の一次粒子状態の値と異なっても構わない。
【0018】
本発明の意匠形成方法に用いられる着色材は、アスペクト比が7を超える扁平着色顔料を含んでいる。なお、上記比が7を超える扁平着色顔料を原料として用いても、着色材製造工程で粉砕されたり、変形されることによって、結果として得られた着色材中に含まれる扁平着色顔料が上記比の範囲外となる場合もあり、これは上記着色材中の上記比を有する扁平着色顔料に含まれないものである。なお、上記扁平着色顔料の形状としては、例えば、扁平形状のものの他、針状のものも含まれる。
【0019】
上記アスペクト比が7を超える扁平着色顔料として具体的には、FASTOGEN Super Red 500RG(大日本インキ化学工業社製扁平赤色顔料、アスペクト比8.0)、FASTOGEN Super Magenta HS−01(大日本インキ化学工業社製扁平マゼンタ色顔料、アスペクト比8.8)、Tarox LL−XLO(チタン工業社製扁平黄色顔料、アスペクト比10.0)等の扁平着色顔料を挙げることができる。これらは単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記着色材中の全着色顔料において、上記比が7を超える扁平着色顔料の含有率は60質量%以上であることが好ましい。60質量%未満であると得られる意匠の視認性が低下する恐れがある。さらに好ましくは70質量%以上である。
【0021】
上記着色材はアスペクト比が1〜7である別の着色顔料を含んでいてもよい。上記アスペクト比が1〜7となる別の着色顔料として具体的には、FASTOGEN Super Red 7100Y(大日本インキ化学工業社製赤色顔料、アスペクト比1.5)、FASTOGEN Super Magenta RH(大日本インキ化学工業社製マゼンタ色顔料、アスペクト比4.5)、Bayferrox 915(バイエル社製黄色顔料、アスペクト比1.0)等の着色顔料を挙げることができる。これらは単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
上記着色材中の全着色顔料において、上記比が7を超える扁平着色顔料の含有率は60質量%以上であるので、上記比が1〜7である別の着色顔料を含んでいる場合、上記別の着色顔料の含有率は、40質量%未満であることが好ましい。40質量%以上であると得られる意匠の視認性が低下する恐れがある。さらに好ましくは30質量%未満である。
【0023】
上記着色材に含まれる上記扁平着色顔料および別の着色顔料とも、一次平均粒子径は特に限定されず、一般的には、0.03〜30μmである。
【0024】
上記着色材において、着色材中の全着色顔料体積濃度は15%以下であることが好ましい。上記全着色顔料体積濃度が15%を超えると得られる塗膜の平滑性が低下し、得られる意匠の視認性が低下する恐れがある。より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0025】
上記着色材は、顔料分散剤を含んでいる。上記顔料分散剤は、上記着色顔料、および上記別の着色顔料を含んでいる場合は、その別の着色顔料をも着色材中で安定して存在させるために含んでいるものであり、具体的には、適用する着色材が有機溶剤型着色材であれば有機溶剤型の顔料分散剤を、また、水性型着色材であれば水性型の顔料分散剤を適宜選択することが好ましい。上記顔料分散剤としては通常用いられる顔料分散樹脂を挙げることができ、これらは、着色材用として市販されているものであってよい。
【0026】
上記着色材は、バインダー成分を含んでいる。上記バインダー成分は、樹脂を含んでいる。上記樹脂としては特に限定されず、具体的には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。上記樹脂は硬化性官能基を有していてもよい。これらは単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
さらに、上記バインダー成分は、硬化剤を含んでいてよい。上記硬化剤としては特に限定されず、上記樹脂の有する反応性官能基と硬化可能な官能基を有する硬化剤を挙げることができ、具体的には、上記樹脂が水酸基を有している場合はアミノ樹脂や(ブロック化)ポリイソシアネート化合物等を、また、上記樹脂がカルボキシル基を有している場合はエポキシ基を有する樹脂やカルボジイミド基を有する化合物等を、また上記樹脂がカルボニル基を有している場合はヒドラジド化合物等を挙げることができる。
【0028】
上記着色材は、有機溶剤型であっても水性型であっても構わないが、環境に対する配慮の観点から、水性型であることが好ましく、特に、VOC含有量が1質量%以下であるものがさらに好ましい。上記VOC含有量の測定方法としては、例えば、水素炎イオン化検出器(FID検出器)付きガスクロマトグラフィによる分析等、当業者によってよく知られている方法を挙げることができる。
【0029】
なお、本発明において、VOC、すなわち揮発性有機化合物とは、常圧において揮発性を有する有機化合物を意味する。
【0030】
上記着色材が水性型の場合、含まれる顔料分散剤が水性型であり、上記バインダー成分がエマルション樹脂および/または水性アルキド樹脂を含んでいることが好ましい。上記エマルション樹脂は、含まれる有機溶剤量を最小限にするという観点から、例えば、モノマー混合液を乳化重合することによって得られたものであることが好ましい。
【0031】
上記着色材は、ガラス板上に、その塗色において下地を隠蔽する乾燥膜厚となるように塗布し、JIS K 5600の温湿度条件に準拠した条件下で24時間放置して得られる塗膜が、マンセル明度が8以下であることが好ましい。上記マンセル明度が8を超えると、得られる意匠の視認性が低下する恐れがある。好ましくは、マンセル明度が7以下である。なお、上記乾燥膜厚を得るために、数回塗り重ねを行ってもよい。ここで、その塗色において下地を隠蔽する乾燥膜厚とは、例えば、白黒隠蔽板と呼ばれる白色部分と黒色部分に塗り分けられている基板に対して塗布して乾燥塗膜を得た際に、乾燥塗膜のどの部分を測色しても誤差範囲内の色度になる膜厚を意味するものである。
【0032】
上記着色材は、上記成分の他、消泡剤、増粘剤、防腐剤、紫外線吸収剤および光安定剤等、当業者によってよく知られた各種添加剤等を含むことができる。また、本発明の着色材組成物が水性型である場合、さらに、凍結防止剤や造膜助剤等を含むことができるが、上記凍結防止剤および上記造膜助剤はVOCに該当するものが多く、環境に対する配慮の観点から、これらを含まないことが好ましい。上記着色材としては、具体的には、塗料、絵の具、インク等を挙げることができる。
【0033】
本発明の着色材は、上記扁平着色顔料と上記顔料分散剤と、必要に応じて上記別の着色顔料や上記各種添加剤等とを混合、撹拌した後、さらに上記バインダー成分を混合、撹拌することによって得ることができる。上記混合、撹拌する機器としては特に限定されず、例えば、ディスパー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ホモミキサー等の各々単独または組み合わせを挙げることができる。
【0034】
意匠形成方法
本発明の意匠形成方法は、被塗装物に同一または近似の塗色である上述の着色材を塗布して、意匠構成部分Aと意匠構成部分Bとを含む意匠を形成するものである。なお、本発明における同一または近似の塗色とは、色相が同一かまたは非常に近い塗色を意味し、同一または近似の塗色かどうかを比較判定する場合は、例えば、判定したい各塗色の着色材を、各塗色毎に幅100mm×長さ200mmのブリキ板に下地を隠蔽できる乾燥膜厚で塗布して乾燥させて試験板を作製した後、それらを縦または横に並べて2m離れ、目視にて観察した時に、塗色の差異を認めることができないものをいう。
【0035】
ここで、上記塗色は、予め、得られる意匠が周囲のカラーデザインまたは景観に調和するものを選定していることが好ましい。
【0036】
本発明の意匠形成方法は、被塗装物上に形成される意匠が、意匠構成部分Aと意匠構成部分Bとを含んでいるものであり、上記意匠構成部分Aにおいては、上記の着色材を単一の方向で塗布し、かつ、上記意匠構成部分Bにおいては、上記の着色材を上記方向の垂直方向に対して−45〜45度の角度の方向で塗布することを特徴とするものである。
【0037】
上記意匠構成部分Bにおける着色材の塗布方向が、上記意匠構成部分Aにおける塗布方向の垂直方向に対して上記範囲外であると、得られる意匠形成物の意匠の視認性が低下する。好ましくは、上記意匠構成部分Aにおける塗布方向の垂直方向に対して−30〜30度の角度で塗布することであり、さらに好ましくは、上記意匠構成部分における塗布方向の垂直方向に対して−10〜10度の角度で塗布することである。
【0038】
なお、上記意匠構成部分Bにおける塗布方向は必ずしも単一の方向である必要はなく、上記範囲内の方向であればよい。
【0039】
上記形成される意匠は、上記意匠構成部分Aおよび意匠構成部分B以外の部分を連続的に、または、不連続的に含んでいてもよい。さらに、例えば、上記意匠構成部分Aを形成した後、一部を重ねて円のような曲線を描いた場合のように、ある点における接線を意匠構成部分Bの塗布方法と設定して、意匠構成部分Bを定義することもできる。
【0040】
上記形成される意匠は、上記意匠構成部分Aと意匠構成部分Bとを含むものである。上記形成される意匠は、その主たる部分が意匠構成部分Aであっても意匠構成部分Bであっても、あるいは、その両方であってもよい。
【0041】
上記被塗装物としては、道路、建造物および構造物の外壁、内壁および天井等を形成するものや、広告板、看板等であり、例えば、セメント類、石灰類、石膏類等のセメント系基材、鉄、ステンレス、アルミニウム等およびその表面処理物の金属基材、ポリ塩化ビニル類、ポリエステル類、ポリカーボネート類、アクリル類等のプラスチック系基材、木材、紙類等を挙げることができる。これらにはシーラー等の下塗りが形成されていてもよい。上記被塗装物の形状としては特に限定されず、任意の形状を挙げることができる。
【0042】
上記塗布方法としては特に限定されず、例えば、塗布によって着色顔料の配向が起きやすいと考えられるハケ塗り、ローラー塗布および筆による塗布が、本発明の効果が最も顕著に現れるものである。また、上記被塗装物の各部分において異なる方法で塗布してもよい。塗布後、常温にて放置または強制的に加熱を行い乾燥させて塗膜を得ることができる。なお、塗布量、塗布膜厚および乾燥時間は、着色材の種類や適用する基材に応じて任意に設定することができる。
【0043】
意匠が形成された物
本発明の意匠が形成された物は、上述の意匠形成方法によって得られることを特徴とするものである。従って、ある範囲の角度から観察した際にのみ、意匠の視認性を高くすることができ、それ以外の範囲の角度からの観察では意匠の視認性を低減することができる。従って、本発明の意匠が形成された物は、周囲のカラーデザインや景観に調和する塗色を用いて、広告や情報の表示等を行うことができる。
【0044】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下において「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0045】
製造例1 アクリル樹脂1の製造
滴下漏斗、温度計、窒素導入管、還流冷却器および撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、ミネラルスピリットを170部仕込んだ後、窒素雰囲気のもとで110℃に昇温した。2−エチルヘキシルメタクリレート140部、t−ブチルメタクリレート180部、スチレン105部、メタクリル酸5部、および、グリシジルメタクリレートに大豆油脂肪酸を付加した大豆油モノマー2490部を混合して得られるモノマー混合液と、ミネラルスピリット70部およびt−ブチルパーオクトエート25部からなる開始剤混合液とを、別個の滴下漏斗から同時に均等に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度でさらに30分間反応を継続した。
【0046】
その後、ミネラルスピリット60部およびt−ブチルパーオクトエート5部からなる開始剤混合液を滴下漏斗から均等に30分間かけて滴下した。滴下終了後、同温度でさらに2時間反応を継続してアクリル樹脂1を得た。得られたアクリル樹脂1は、固形分70質量%、固形分酸価4.6であった。
【0047】
製造例2 アクリル樹脂2の製造
滴下漏斗、温度計、窒素導入管、還流冷却器および撹拌機を備えたセパラブルフラスコに脱イオン水1320.0部、アクアロンBC−1025(第一工業製薬社製反応性アニオン界面活性剤)40.0部を仕込み、窒素雰囲気のもとで80℃に昇温した。スチレン50部、2−エチルヘキシルアクリレート260部、エチルアクリレート300部、メチルメタクリレート160部およびメタクリル酸130部からなるモノマー混合液に、ドデシルメルカプタン20部を加えた後、これに、アクアロンBC−1025を80部およびアクアロンRN−2025(第一工業製薬社製反応性ノニオン界面活性剤)400部を脱イオン水940部に溶解させた乳化剤水溶液中に加え、ミキサーを用いて乳化させてプレエマルションを調製した。
【0048】
このようにして得られたプレエマルションと、過硫酸アンモニウム5.0部を脱イオン水200部に溶解させた開始剤水溶液を別個の滴下漏斗から同時に、各々2時間かけて均等に滴下した。滴下終了後、同温度でさらに120分間反応を継続した。冷却後、水酸化ナトリウム24部を脱イオン水387部で溶解した中和混合液で中和してアクリル樹脂2を得た。得られたアクリル樹脂2は、固形分25質量%、固形分酸価80であった。
【0049】
実施例1
ベッセルに、分散樹脂として製造例1で得られたアクリル樹脂1を18.0部、ミネラルスピリット21.8部、Tarox LL−XLO(チタン工業社製扁平黄色顔料、アスペクト比10)60.0部およびディスパロン4200−20(楠本化成社製増粘剤)0.2部を仕込んだ後、ディスパーでプレミックスした。
【0050】
続いて、70.0部のガラスビーズを加えて卓上SGミル(太平工業社製サンドグラインドミル)で分散して着色顔料分散体1を得た。
得られた着色顔料分散体1部を、ミネラルスピリット50部に、分散樹脂として用いたアクリル樹脂1を50部溶解させて得られた溶液に混合して希釈液を作製した。この希釈液を透過型電子顕微鏡(TEM)用の試料台に塗布し、減圧乾燥された後、TEMによって観察したところ、着色顔料のアスペクト比は10であった。
【0051】
容器に、得られた着色顔料分散体1を30.0部仕込んだ後、ディスパーで撹拌しながら製造例1で得られたアクリル樹脂1を43.0部、ディスパロン4200−20(楠本化成社製増粘剤)0.2部およびミネラルスピリット19.8部を順次加えて着色材1を得た。
【0052】
得られた着色材1は、粘度が70KUであり、また、全着色顔料における上記比が7を超える扁平着色顔料の比率は100質量%であり、全着色顔料体積濃度は5.2%であった。
【0053】
得られた着色材1を白黒隠蔽板上にドクターブレードで塗布して、隠蔽できる乾燥膜厚を調べたところ、60μmであり、CR−200(コニカミノルタ製色差計)を用いて測定したマンセル明度は6.2であった。
次に、得られた着色材1を、図1に示すように、幅200mm×長さ200mm×厚さ1mmの鋼板を4等分して左上と右下の領域をハケにて塗布量300g/cmとなるように塗布方向を水平(左右方向)のみとして塗布して、意匠構成部分Aを作成した。続いて、右上と左下の領域をハケにて塗布量が同量となるように、意匠構成部分Aを作成した塗布方向の垂直方向に対して0度となる方向(上下方向)に塗布して、意匠構成部分Bを形成した。塗布後、室温で24時間乾燥させて試験板を得た。
【0054】
実施例2
ベッセルに、分散樹脂として製造例2で得られたアクリル樹脂2を30.0部、水28.4部、Tarox LL−XLOを40.0部、BYK−024(ビックケミー社製消泡剤)0.5部、ベストサイド201(大日本インキ化学工業社製防腐剤)0.1部およびプライマルASE−60(ローム・アンド・ハース社製増粘剤)1.0部を仕込んだ後、ディスパーでプレミックスした。
続いて、70.0部のガラスビーズを加えて卓上SGミル(太平工業社製サンドグラインドミル)で分散して着色顔料分散体2を得た。
【0055】
得られた着色顔料分散体2部を、水50部に、分散樹脂として用いたアクリル樹脂2を50部溶解させて得られた溶液に混合して希釈液を作製した。この希釈液を透過型電子顕微鏡(TEM)用の試料台に塗布し、減圧乾燥された後、TEMによって観察したところ、着色顔料のアスペクト比は10であった。
【0056】
容器に、得られた着色顔料分散体2を30.0部仕込んだ後、ディスパーで撹拌しながらスチレン−アクリル樹脂エマルション(固形分50質量%、固形分酸価15)50.0部、プライマルASE−60を0.5部および水14.5部を順次加えて着色材2を得た。
【0057】
得られた着色材2は、粘度が70KUであり、また、全着色顔料における上記比が7を超える扁平着色顔料の比率は100質量%であり、全着色顔料体積濃度は3.3%であった。
【0058】
得られた着色材2を白黒隠蔽板上にドクターブレードで塗布して、隠蔽できる乾燥膜厚を調べたところ、60μmであり、CR−200(コニカミノルタ製色差計)を用いて測定したマンセル明度は6.3であった。
次に、得られた着色材2を、実施例1と同様にして塗布し、試験板を得た。
【0059】
実施例3、4および比較例1〜4
表1の配合に従い、実施例1または実施例2と同様にして、着色顔料分散体3〜8を得た。さらに、実施例1または2と同様にして、着色顔料のアスペクト比を調べた。得られた各値は表1に示した。
【0060】
さらに、表2の配合に従い、実施例1または2と同様にして、着色材3〜8を得た。得られた着色材3〜8の粘度は全て70KUであった。さらに、実施例1または2と同様にして、全着色顔料における上記比が7を超える着色顔料の比率、全顔料体積濃度、隠蔽できる乾燥膜厚およびマンセル明度を調べた。得られた上記比が7を超える着色顔料の比率、全顔料体積濃度、隠蔽できる乾燥膜厚およびマンセル明度は表2に示した。
【0061】
その後、実施例1と同様にして鋼板に塗布し、各試験板を得た。
【0062】
【表1】

【0063】
評価試験
実施例1〜4および比較例1〜4によって得られた各試験板に対して、図2および図3のようにして評価試験を行った。すなわち、暗室において、図2で示したように、それぞれの中心線が一直線となるように光源1、試験板2の中心線および観察者3を配置した後、光源1から矢印のように放たれる光の光軸4の、試験板2に対する入射角度θが45度、試験板から矢印のように反射する光を観察する観察者3の試験板2に対する観察角度θが20度となるように光源および観察者を配置した後、試験板内に描いた円形が色差として目視にて視認できるかどうかを評価した。評価基準は以下の通りとした。結果を表2に示した。
【0064】
◎:市松模様が色差として明確に視認できる。
○:市松模様が色差として視認できる。
×:市松模様が色差として視認できない。
【0065】
【表2】

【0066】
表2から明らかなように、本発明の意匠形成方法によって意匠が形成された物は、特定の角度からの観察によってのみ試験板上の意匠が色差として表れ、その意匠が視認できた(実施例1〜4)。しかしながら、本発明の意匠形成方法に含まれない方法によって意匠が形成された物は、どの角度から見ても試験板上の意匠が色差として表れず、その意匠が認識できなかった(比較例1〜4)。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の意匠形成方法は、商業用の各種広告板や看板、および、各種情報の表示を目的とした道路等に対して好適である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の評価試験を行うための試験板の塗布方法を模式的に表した図である。
【図2】本発明の評価試験のうち、試験1を行うための、光源、試験板および観察者の、上方から見た水平方向の位置関係を簡略化して表した図である。
【図3】本発明の評価試験を行うための、光源、試験板および観察者の、側方から見た鉛直方向の位置関係を簡略化して表した図である。
【符号の説明】
【0069】
1・・・光源
2・・・試験板
3・・・観察者
4・・・光軸
A・・・意匠構成部分A
B・・・意匠構成部分B
a・・・意匠構成部分Aを形成するための塗布方向
b・・・意匠構成部分Bを形成するための塗布方向
θ・・・光軸の試験板に対する入射角度
θ・・・観察者の試験板に対する観察角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物に同一または近似の塗色の着色材を塗布して、意匠構成部分Aと意匠構成部分Bとを含む意匠を形成する方法であって、
前記着色材は、アスペクト比が7を超える扁平着色顔料、顔料分散剤およびバインダー成分を含んでいて、全着色顔料における前記扁平着色顔料の含有量は、60質量%以上であり、
かつ、前記意匠構成部分Aにおいては、前記着色材を単一の方向で塗布し、かつ、前記意匠構成部分Bにおいては、前記着色材を前記方向の垂直方向に対して−45〜45度の角度の方向で塗布することを特徴とする意匠形成方法。
【請求項2】
予め、周囲のカラーデザインまたは景観に調和する塗色を選定する工程を含んでいる請求項1に記載の意匠形成方法。
【請求項3】
前記着色材は、ガラス板上に、その塗色において下地を隠蔽する乾燥膜厚となるように塗布した後、JIS K 5600の温湿度条件に準拠した条件下で24時間放置して得られる塗膜のマンセル明度が8以下である請求項1または2に記載の意匠形成方法。
【請求項4】
前記着色材は水性型着色材である請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の意匠形成方法。
【請求項5】
前記水性型着色材の揮発性有機化合物の含有量は、1質量%以下である請求項4に記載の意匠形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の意匠形成方法で得られた意匠を形成された物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−224003(P2006−224003A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41553(P2005−41553)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】