説明

感光性樹脂組成物、液体吐出装置及び微細構造体の製造方法

【課題】感度及び造形精度が高い感光性樹脂組成物及び該組成物を用いた微細構造体の製造方法を提供する。また、高精細な形状の吐出口が設けられた液体吐出装置を提供する。
【解決手段】(a)酸により重合可能な化合物と(b)下記(b1)で表されるカチオン部構造及び下記(b2)で表されるアニオン部構造を含有するオニウム塩からなる光酸発生剤とを含有する感光性樹脂組成物であって(b)成分が感光性樹脂組成物が吸収する波長365nmの光のうち50%以上を吸収する感光性樹脂組成物である。この感光性樹脂組成物を使用することで微細構造体や高精細な形状の吐出口が設けられた液体吐出装置が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方式に用いるインク小滴を発生するための液体吐出装置、その製造を目的とした感光性樹脂組成物、及びその組成物を用いた微細構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術の一つとして、ネガ型感光性樹脂に対して露光、現像を行い、パターン、構造物を形成するフォトリソグラフィーの技術が知られている。この技術は、例えば半導体集積回路製造用途、半導体露光用マスク製造用途、各種MEMS製造用途など、広範に使用されている。MEMS製造用途の一例としては、液体吐出ヘッドのノズルの製造などに応用されている。露光を行うための装置としては、i線を光源とするステッパーが広く用いられている。この技術の分野においては、近年、より複雑かつ高精細な構造を有する構造物を製造することが求められ、そのため光源からの光に対して高い感光性と造形精度を示すネガ型感光性樹脂が求められている。
【0003】
ネガ型感光性樹脂の一例としては、特許文献1に、多官能エポキシ樹脂とカチオン重合開始剤とを含む感光性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
液体吐出装置の構造の一例としては、特許文献2に、発熱抵抗体を加熱することにより生成した気泡を外気と連通させることにより、インク液滴を吐出させることを特徴とする、液体吐出装置用のノズルを含む装置の構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−256980号公報
【特許文献2】特開平4−10940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の組成物においては、以下の点において特性が十分ではない場合があった。一例としては、テーパー形状を有する液体吐出装置の吐出口などの複雑な形状を、i線を光源としてネガ型感光性樹脂から形成しようとした場合には、エッジの一部が丸みを帯びるなど所望の形とならないことがあった。
【0007】
本発明は、上記を鑑みなされたものであって、i線を用いたフォトリソグラフィーに適用した場合に、感度及び造形精度が高い感光性樹脂組成物、及びその組成物を用いた微細構造体の製造方法を提供することを目的の一つとする。また、本発明は、高精細な形状の吐出口が設けられた液体吐出装置を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明は、(a)酸により重合可能な化合物と、(b)下記(b1)で表されるカチオン部構造及び下記(b2)で表されるアニオン部構造を含有するオニウム塩からなる光酸発生剤とを含有する感光性樹脂組成物であって、かつ(b)成分が、感光性樹脂組成物が吸収する波長365nmの光のうち50%以上を吸収することを特徴とする感光性樹脂組成物である。
【0009】
【化1】

【0010】
[R1乃至R3は、それぞれ独立して炭素数1以上30以下の有機基を表す。ただし、上記(b1)で表されるカチオン部構造は、酸素原子を2つ以上含有し、かつ、チオキサントン骨格、9,10−ジアルコキシアントラセン骨格、およびアントラキノン骨格から選ばれる少なくとも1つの骨格を有する。Xは、炭素原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子及びアンチモン原子から選ばれる。Yは、−S(=O)2−、−CF2−O−、−CF2−C(=O)−、−CF2−C(=O)−O−、−CF2−O−C(=O)−及び単結合から選ばれる。R4は、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1以上30以下の炭化水素基を表し、Yが−S(=O)2−又は単結合の場合、少なくとも1つのフッ素原子を有する。Xが炭素原子の場合、m及びnは、m+n=3且つn=0乃至2を満たす整数である。Xが窒素原子の場合、m及びnは、m+n=2且つn=0乃至1を満たす整数である。Xがリン原子又はアンチモン原子の場合、m及びnは、m+n=6且つn=0乃至6を満たす整数である。Xがホウ素原子の場合、m及びnは、m+n=4且つn=0乃至3を満たす整数である。]
また、本発明は、基板上に形成される微細構造体の製造方法であって、前記感光性樹脂組成物を前記基板上に成膜する工程と、該感光性樹脂組成物をフォトリソグラフィーによりパターニングする工程と、該パターニング後の感光性樹脂組成物を、140℃以上の温度で加熱処理する工程とを有することを特徴とする微細構造体の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、上記の感光性樹脂組成物の層に形成された吐出口を有する液体吐出装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、i線を用いたフォトリソグラフィーに適用した場合に、感度及び造形精度が高いパターニングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例でモデルパターンを形成する際に用いたマスクを示す図である。
【図2】インクジェット記録ヘッドの構造の一例を示す図である。
【図3】図2の基板上にエネルギー発生素子が所定のピッチで複数個配置されていることを示す図である。
【図4】図2及び図3のA−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔感光性樹脂組成物〕
以下に、本発明に係る感光性樹脂組成物を、詳細に説明する。
【0015】
<(a)酸により重合可能な化合物>
本発明に係る感光性樹脂組成物は、酸により重合可能な化合物((a)成分)を含有する。酸により重合可能な化合物としては、カチオン重合可能な化合物であれば特に制限されず、エポキシ化合物、オキセタン化合物、カチオン重合性ビニル化合物等が挙げられる。感光性樹脂組成物を用いて厚膜を形成する観点から、エポキシ化合物が好ましく、複数のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物が好ましい。多官能エポキシ化合物の官能基の数は、5以上が好ましい。
【0016】
多官能エポキシ化合物としては、多官能脂環型エポキシ樹脂、多官能フェノール・ノボラック型エポキシ樹脂、多官能オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、多官能トリフェニル型ノボラック型エポキシ樹脂、多官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのうち、多官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂又は多官能脂環型エポキシ樹脂が好ましい。多官能エポキシ化合物としては、例えば、ジャパンエポキシレジン製商品名「エピコート157S70」、大日本インキ化学工業製商品名「エピクロンN−865」、ダイセル化学工業製商品名「EHPE 3150」が市販品として入手できる。
【0017】
(a)成分は、常温(24℃)で固体であることが好ましい。(a)成分の軟化点は、特に限定されないが、一般に、50〜180℃であることが好ましく、60〜160℃であることがより好ましい。
【0018】
(a)成分は、単独で又は2つ以上を組み合わせて使用することができる。感光性樹脂組成物における(a)成分の含有量は、感光性樹脂組成物の全固形分に対し、60〜99.9質量%であることが好ましく、80〜99.9質量%であることがより好ましく、85〜99.2質量%であることが更に好ましい。感光性樹脂組成物における(a)成分の含有量を上記の範囲とすることで、支持体に塗布した際に、高感度で適当な硬度のレジスト層が得られる。
【0019】
<(b)光酸発生剤>
本発明に係る感光性樹脂組成物は、光酸発生剤((b)成分)を含有する。(b)成分である光酸発生剤は、i線、すなわち波長365nmの光により酸を発生する特性を有し、(b1)で表されるカチオン部構造及び下記(b2)で表されるアニオン部構造を含有するオニウム塩からなる。
【0020】
【化2】

【0021】
(b)成分を構成するオニウム塩が含有する、(b1)で表されるカチオン部構造と(b2)で表されるアニオン部構造の組み合わせの一例を以下に挙げる。
【0022】
【化3】

【0023】
(b1)におけるR1乃至R3は、それぞれ独立して炭素数1以上30以下の有機基を表す。ただし、(b1)で表されるカチオン部構造は、酸素原子を2つ以上含有し、かつ、チオキサントン骨格、9,10−ジアルコキシアントラセン骨格、およびアントラキノン骨格から選ばれる少なくとも1つの骨格を有する。なお、このカチオン部構造が有する2つ以上の酸素原子には、チオキサントン骨格や9,10−ジアルコキシアントラセン骨格やアントラキノン骨格が有する酸素原子も含む。また、このカチオン部構造は、複数のチオキサントン骨格や、複数の9,10−ジアルコキシアントラセン骨格や、複数のアントラキノン骨格を有していても良い。光酸発生剤が(b1)で表されるカチオン部構造を有することで、吸収波長が長波長シフトし、得られる感光性樹脂組成物がi線感光性を有するようになる。
【0024】
1〜R3となる有機基としては、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基、及び炭素数4〜30の複素環基;これらの基が有する水素原子の少なくとも一部が、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、又はハロゲン原子で置換された基;並びに、これらの基におけるC−C結合間に、炭素数が30を超えない範囲で、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル基、オキシカルボニル基、チオカルボニル基、スルフィニル基、又はスルホニル基を挿入した基が挙げられる。R1〜R3は、互いに同一でもよく、異なっていてもよい。また、R1〜R3のうちの2つ以上が互いに結合して、環構造を形成していてもよい。
【0025】
(b2)におけるXは、炭素原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子及びアンチモン原子から選ばれる。Yは、−S(=O)2−、−CF2−O−、−CF2−C(=O)−、−CF2−C(=O)−O−、−CF2−O−C(=O)−及び単結合から選ばれる。R4は、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1以上30以下の炭化水素基を表し、Yが−S(=O)2−又は単結合の場合、少なくとも1つのフッ素原子を有する。Xが炭素原子の場合、m及びnは、m+n=3且つn=0乃至2を満たす整数である。Xが窒素原子の場合、m及びnは、m+n=2且つn=0乃至1を満たす整数である。Xがリン原子又はアンチモン原子の場合、m及びnは、m+n=6且つn=0乃至6を満たす整数である。Xがホウ素原子の場合、m及びnは、m+n=4且つn=0乃至3を満たす整数である。
【0026】
なお、後述する(b2−10)のように、mが2以上の整数を表す場合に、複数のR4が互いに結合して、環構造を形成していても良い。
【0027】
光酸発生剤が(b2)で表されるアニオン部構造を有することで、i線により(b)成分が分解して(b2)の構造に起因する酸が発生し、その発生した酸の作用により(a)成分のカチオン重合反応を開始、促進することができるようになる。なお、(b)成分の分解により発生する酸は、(a)成分を十分に硬化する酸強度を有している。ここで、(a)成分を十分に硬化する酸強度とは、ルイス酸においては六フッ化アンチモン酸以上の強酸であること、すなわちハメットの酸度関数−HO=18以上であることを意味する。また、ブレンステッド酸においては、ノナフルオロブタンスルホン酸以上の強酸であること、すなわちPKa=−3.57以上であることを意味する。
【0028】
(b1)で表されるカチオン部構造の好ましい具体例(b1−1)〜(b1−26)と、(b2)で表されるアニオン部構造の好ましい具体例(b2−1)〜(b2−23)を、以下に挙げる。なお、(b2)におけるXはリン原子であることが好ましい。Xがリン原子であることにより、発生酸の拡散が抑制され、造形精度をより向上させることができる。また、(b1)で表されるカチオン部構造が少なくとも2つのチオキサントン骨格を含有し、かつ(b2)におけるYが単結合、R4がCF3またはC25、及びmが3以上であることが好ましい。これにより、i線感光性が大きく向上し、発生酸の拡散が抑制され、かつアンチモン酸よりも酸強度の強い酸になることから、造形精度をさらに向上させることができる。
【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
【化7】

【0033】
(b)成分は、単独で又は2つ以上を組み合わせて使用することができる。感光性樹脂組成物における(b)成分の含有量は、感光性樹脂組成物の全固形分に対し、0.01〜20質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましい。
【0034】
本発明に係る感光性樹脂組成物では、(b)成分が、感光性樹脂組成物が吸収する波長365nmの光のうち50%以上を吸収する。この条件を満たすことで、高い感光性を得ることができ、高感度な露光量でパターンを形成することができる。また、本発明では、(b)成分が、感光性樹脂組成物が吸収する波長365nmの光のうち80%以上を吸収することが好ましい。
【0035】
<(c)露光後、(b)成分から発生した酸を失活させることができる化合物>
本発明に係る感光性樹脂組成物は、更に、(b)成分から発生した酸を失活させることができる化合物((c)成分)を含有することができる。酸を失活させることができる化合物は、その化学構造において特に制限されるものではないが、例えば窒素原子含有塩基性化合物が挙げられる。窒素原子含有塩基性化合物とは、窒素原子を含有し、且つ窒素原子の孤立電子対に由来し塩基性を発現する塩基性化合物を指す。(c)成分の機能として、例えば光酸発生剤から発生した酸をトラップし、その酸性度を失活することができる。それにより、熱により酸を拡散させる工程でその酸拡散長を制御しパターン解像性を向上させたり、感光性樹脂組成物溶液を保存中に、暗反応により光酸発生剤等から微量に発生する酸を失活させることで保存期間の感度変動を抑制するという効果を発揮する。
【0036】
(c)成分である窒素原子を含有する塩基性化合物としては、特に限定されないが、異なる化学的環境の窒素原子を2つ以上有する塩基性化合物であることが好ましい。特に、少なくとも1つの置換又は非置換アミノ基と、少なくとも1つの窒素原子含有環構造とを含む化合物が好ましく、更には、置換アミノ基として、少なくとも1つのアルキルアミノ基を有する化合物が好ましい。窒素原子を含有する塩基性化合物は、テトラアルキル−アンモニウム塩のようなイオン性化合物でもよく、非イオン性化合物でもよい。
【0037】
窒素原子を含有する塩基性化合物としては、グアニジン、ピリジン、ピロリジン、インダゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、プリン、イミダゾリン、ピラゾリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリンが挙げられる。これらの化合物は、置換されていてもよい。置換基としては、アミノ基、アミノアルキル基、アルキルアミノ基、アミノアリール基、アリールアミノ基、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アリルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、シアノ基が挙げられる。
【0038】
窒素原子を含有する塩基性化合物の好ましい具体的としては、グアニジン、1,1−ジメチルグアニジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、2−ジメチルアミノピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、2−ジエチルアミノピリジン、2−(アミノメチル)ピリジン、2−アミノ−3−メチルピリジン、2−アミノ−4−メチルピリジン、2−アミノ−5−メチルピリジン、2−アミノ−6−メチルピリジン、3−アミノエチルピリジン、4−アミノエチルピリジン、2−アミノピロリジン、3−アミノピロリジン、1−(2−アミノエチル)ピロリジン、ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペリジン、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ピペリジノピペリジン、2−イミノピペリジン、ピラゾール、3−アミノ−5−メチルピラゾール、5−アミノ−3−メチル−1−p−トリルピラゾール、ピラジン、2−(アミノメチル)−5−メチルピラジン、ピリミジン、2,4−ジアミノピリミジン、4,6−ジヒドロキシピリミジン、2−ピラゾリン、3−ピラゾリン、N−アミノモルホリン、N−(2−アミノエチル)モルホリンが挙げられる。
【0039】
(c)成分は、単独で又は2つ以上を組み合わせて使用することができる。感光性樹脂組成物における(c)成分の含有量は、感光性樹脂組成物の全固形分に対し、0.001〜10質量部であることが好ましく、0.01〜5質量部であることがより好ましい。
<(d)分子内に縮合環、もしくは2つ以上のベンゼン環を含有する化合物>
本発明に係る感光性樹脂組成物は、更に、分子内に2つ以上のベンゼン環、もしくは縮合環を含有する化合物((d)成分)を含有することができる。(d)成分は、分子内に2つ以上のベンゼン環、もしくは縮合環を含有する化合物であり、かつ(b)成分と(c)成分に該当しないという範囲内においては、その化学構造において特に制限されるものではないが、形成された膜中において、揮発が少なく十分に残存する分子量であることが好ましい。また(d)成分は、低分子化合物であることが好ましく、(d)成分の好ましい分子量範囲としては、分子量100〜1100、より好ましくは、分子量200〜900の範囲が挙げられる。
(d)成分の機能として、形成された膜の特性を調整することができる。例えば、硬化が進行することから発生する内部応力を緩和したり、形成された膜の親水性、撥水性を調整したり、塗布面状を改善すること、などが挙げられる。
以下に、(d)成分の好ましい具体例(d−1)〜(d−7)を挙げる。
【0040】
【化8】

【0041】
(d)成分は、単独で又は2つ以上を組み合わせて使用することができる。感光性樹脂組成物における(d)成分の含有量は、感光性樹脂組成物の全固形分に対し、0.1〜30質量部であることが好ましく、1〜25質量部であることがより好ましい。
【0042】
<その他>
本発明に係る感光性樹脂組成物の応用分野は、特に制限されず、本発明に係る感光性樹脂組成物は、半導体集積回路製造、半導体露光用マスク製造、MEMS製造などの各分野に応用することができる。特に、本発明に係る感光性樹脂組成物は感度及び造形精度が高いため、基板上に形成される微細構造体の製造に適用することができ、さらにMEMS分野における液体吐出装置の製造に適用することで、高精細な形状の吐出口を形成することができる。尚、微細構造体とは、mm単位より小さな単位で制御されて製造される部分を有する構造体である。
【0043】
〔微細構造体の製造方法〕
本発明に係る微細構造体の製造方法は、以下の工程を有する。
上記感光性樹脂組成物を基板上に成膜する工程。
この感光性樹脂組成物をフォトリソグラフィーによりパターニングする工程。
パターニング後の感光性樹脂組成物を、140℃以上の温度で加熱処理する工程。
【0044】
〔液体吐出装置〕
本発明に係る液体吐出装置は、前述の感光性樹脂組成物の層に形成された吐出口を含有する。液体吐出装置としては、特に限定されるものではないが、一例として、図2に示す構造を有するインクジェット記録ヘッドが挙げられる。
【0045】
図2に示すインクジェット記録ヘッドでは、エネルギー発生素子2を複数有する基板1上に、インクを保持するインク流路3cと、インク流路3cと連通しインクを吐出するためのインク吐出口5とを形成するインク流路形成層4が設けられている。また、基板1には、インクをインク流路3cに供給するインク供給口6が設けられている。以下、図2及び図3のA−B断面図である図4を参照しつつ、本発明に係る液体吐出装置及びその製造方法について説明する。なお、図3及び図4(a)に示すように、基板1上には、エネルギー発生素子2が所定のピッチで複数個配置されており、そのエネルギー発生素子2には、素子を動作させるための制御信号入力電極(図示せず)が接続されている。
【0046】
基板1は、シリコン基板であることが好ましい。特に、シリコン単結晶体基板であることが好ましく、基板1の貫通孔の穿設を異方性エッチングにより行う場合は、結晶方位100のシリコン単結晶体基板であることが好ましい。基板1の貫通孔の穿設をドライエッチング、サンドブラスト又はレーザーにより行う場合は、結晶方位110のシリコン単結晶体基板等でもよい。
【0047】
エネルギー発生素子2は、インク液小滴を吐出させるための吐出エネルギーがインクに与えられ、インク液滴がインク吐出口から吐出可能なものであれば、特に限定はされない。例えば、エネルギー発生素子2として発熱抵抗素子が用いられる場合、その発熱抵抗素子が近傍のインクを加熱することにより、インクに状態変化を生起させ吐出エネルギーが発生する。
【0048】
前記基板1上に、溶解可能な樹脂組成物を塗布し、インク流路パターン層3aを形成する(図4(b))。インク流路パターン層3aの形成方法としては、ポジ型感光性樹脂を適宜溶媒に溶解し、スピンコート法等により前記基板1上に塗布した後、加熱することでインク流路パターン層3aを形成することができる。インク流路パターン層3aの厚さとしては、所望のインク流路の高さとすればよく、特に限定されるものではないが、2〜50μmであることが好ましい。
【0049】
次に、インク流路パターン層3aに放射線を照射し、現像することにより、インク流路パターン3bを形成する(図4(c))。
【0050】
次に、インク流路パターン3b及び基板1上に、本発明に係る感光性樹脂組成物からなるインク流路形成層4を形成する。インク流路形成層4の厚さは、インク流路パターン3b上の厚さとして2μm以上であることが好ましい。また、インク流路形成層4の厚さの上限は、インク吐出口部の現像性が損なわれない範囲であれば、特に制限されるものではないが、インク流路パターン3b上の厚みとして100μm以下が好ましい。
【0051】
次に、インク流路形成層4に放射線を照射し、その後MIBK(メチルイソブチルケトン)等により現像を行い、更にIPA等によりリンス処理を行うことで、インク吐出口5を形成する(図4(d))。その後、エッチング処理などの適当な方法によりインク供給口6を形成する(図4(e))。
【0052】
次に、インク流路パターン3bを適当な溶媒に溶解して除去する(図4(f))。用いる溶媒は、アルカリ水溶液でも有機溶媒でもよい。
【0053】
その後、基板1をダイシングソー等により切断分離、チップ化し、エネルギー発生素子2を駆動させるための電気的接合を行う。更に、インク供給のためのチップタンク部材を接続して、インクジェット記録ヘッドが完成する。
【0054】
なお、上記の方法は、インクジェット記録ヘッドの製造方法に限られず、中空パターンを形成するパターン形成方法としても有効である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1〜9、比較例1〜4>
表1に記載の配合(単位は質量部)に従って、(a)成分としての多官能エポキシ樹脂と、(b)成分としての光酸発生剤と、溶剤と、必要に応じて(c)成分や、(d)成分を配合した感光性樹脂組成物を得た。なお、溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/プロピレンカーボネート=25/1の質量比率の混合溶剤を用い、その配合量は、(a)成分100質量部に対して80質量部とした。
【0057】
これら感光性樹脂組成物を、シリコンウエハーからなる支持体上にスピンコーターで塗布した後、90℃で5分のプリベーク乾燥して、20μmの膜厚を有する感光性樹脂組成物層を得た。プリベーク後、FPA−3000i5+(キヤノン社製商品名、i線ステッパー)を用いて所望のパターンが描写されたマスクを介してパターン露光を行い、ホットプレートにより90℃で4分の露光後ベークを行った。その後、CDS−630+(キヤノン社製商品名)を用いて現像処理を行った。次いで、現像後の樹脂パターンを基板ごと、オーブンを用いて140℃で1時間のポストベークを行い、支持体上に硬化したレジストパターンを得た。
【0058】
ここで、比較例1〜3では、(b)成分に対応する光酸発生剤として、R1〜R3の全構成原子中に酸素原子を1つのみ含有し、かつ、(b1)構造中にチオキサントン骨格、9,10−ジアルコキシアントラセン骨格、およびアントラキノン骨格をいずれも含有しない(b1−27)を含有するスルホニウム塩を用いた。また、比較例4では、(b)成分に対応する光酸発生剤として、R1〜R3の全構成原子中に酸素原子を含有せず、かつ、(b1)構造中にチオキサントン骨格、9,10−ジアルコキシアントラセン骨格、およびアントラキノン骨格をいずれも含有しない(b1−28)を含有するスルホニウム塩を用いた。
【0059】
<評価>
(感度)
図1に示したマスクを用い、設計寸法が長軸20μm×短軸16μmの楕円ノズル口における短軸に沿って幅3μm(図1のc)のラインパターンで橋渡ししたモデルパターンを転写し、ネガ型レジストパターンを形成した。このパターン形成にあたっては、露光量を500〜20000J/m2の範囲で段階的に変更してi線露光を行い、得られたパターンが上記設計サイズに形成されるために必要な露光量を測定した。
【0060】
(造形精度)
楕円と橋渡しラインパターンが交差する部分を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、その解像性を測定した。マスクパターンに忠実にレジストパターンが形成できた場合の半月型の端部(図1のa)から、橋渡しラインパターンのエッジ上に沿った仮想直線を引いた時、この仮想直線と実際に解像したパターンが交差する距離(図1のb)を造形精度とした(単位はμm)。これは、実際のパターンが、半月型の端部(図1のa)まで解像している場合、造形精度が0μmとなることを意味し、設計寸法に一致していることを示す。しかし、造形精度が低下すると、半月型の端部(図1のa)にネガ化物が残るので、このネガ化物の広がりの程度により造形精度の値を決定される。
【0061】
(吸光率)
吸光度の評価では、まず、以下の2つの組成物を準備した。
<組成物1>
上記で得られた感光性樹脂組成物。
<組成物2>
(b)成分を配合しないこと以外は、上記と同様の方法で得られた感光性樹脂組成物。
【0062】
次に、石英ガラスからなる支持体上に、上記組成物1及び組成物2をそれぞれスピンコーターで塗布した後、90℃5分プリベーク乾燥して、約20μmの膜厚を有する樹脂組成物層1及び樹脂組成物層2をそれぞれ得た。次に、U−3300形分光光度計(日立製作所製商品名)を使用して、樹脂組成物層1及び樹脂組成物層2の波長365nmでの吸光度(単位はAbs)をそれぞれ測定した。また、樹脂組成物層1及び樹脂組成物層2の膜厚(単位はμm)をそれぞれ測定した。そして、得られた測定結果から、以下の計算式により、感光性樹脂組成物が吸収する波長365nmの光のうち、(b)成分が吸収する波長365nmの光の割合を算出した。この値を吸光率と称する(単位は%)。
【0063】
<計算式>
吸光率=[(樹脂組成物層1の吸光度/樹脂組成物層1の膜厚)−(樹脂組成物層2の吸光度/樹脂組成物層2の膜厚)]÷(樹脂組成物1の吸光度/樹脂組成物1の膜厚)×100
【0064】
【表1】

【0065】
(a−1):エピクロンN−865(大日本インキ化学工業製商品名)、エポキシ当量:210、軟化点:68℃
(a−2):JER157S70(ジャパンエポキシレジン製商品名)、エポキシ当量:210、軟化点:70℃
(a−3):EHPE3150(ダイセル化学工業製商品名)、エポキシ当量:180、軟化点:85℃
【0066】
【化9】

【0067】
(b1−28):トリフェニルスルホニウム
(c−1):4−アミノエチルピリジン
(d−8):1−ナフトール(増感剤)
実施例1〜9では、4000J/m2以下の小さい露光量で液滴吐出口モデルパターンを形成することができた。この時の造形精度は2.0μm以下と微細なものであった。
【0068】
一方、比較例1〜4では、高感度、すなわち小さい露光量と微細な造形精度の両立はできなかった。なお、これらの比較例では、(b1)で表されるカチオン部構造が、チオキサントン骨格、9,10−ジアルコキシアントラセン骨格、およびアントラキノン骨格をいずれも有さず、かつ酸素原子を2つ以上含有していない。また、比較例3及び4のように、(b)成分による露光光の吸光割合、すなわち吸光率が50%より小さい場合、造形精度の低下が観察された。
【0069】
以上より、本発明に係る感光性樹脂組成物によれば、感度及び造形精度が高いパターニングが可能となるので、MEMS用等の微細加工を施した各種デバイスの製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0070】
1 基板
2 エネルギー発生素子
3a インク流路パターン層
3b インク流路パターン
3c インク流路
4 インク流路形成層
5 インク吐出口
6 インク供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸により重合可能な化合物と、(b)下記(b1)で表されるカチオン部構造及び下記(b2)で表されるアニオン部構造を含有するオニウム塩からなる光酸発生剤とを含有する感光性樹脂組成物であって、かつ(b)成分が、感光性樹脂組成物が吸収する波長365nmの光のうち50%以上を吸収することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【化1】

[R1乃至R3は、それぞれ独立して炭素数1以上30以下の有機基を表す。ただし、上記(b1)で表されるカチオン部構造は、酸素原子を2つ以上含有し、かつ、チオキサントン骨格、9,10−ジアルコキシアントラセン骨格、およびアントラキノン骨格から選ばれる少なくとも1つの骨格を有する。Xは、炭素原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子及びアンチモン原子から選ばれる。Yは、−S(=O)2−、−CF2−O−、−CF2−C(=O)−、−CF2−C(=O)−O−、−CF2−O−C(=O)−及び単結合から選ばれる。R4は、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1以上30以下の炭化水素基を表し、Yが−S(=O)2−又は単結合の場合、少なくとも1つのフッ素原子を有する。Xが炭素原子の場合、m及びnは、m+n=3且つn=0乃至2を満たす整数である。Xが窒素原子の場合、m及びnは、m+n=2且つn=0乃至1を満たす整数である。Xがリン原子又はアンチモン原子の場合、m及びnは、m+n=6且つn=0乃至6を満たす整数である。Xがホウ素原子の場合、m及びnは、m+n=4且つn=0乃至3を満たす整数である。]
【請求項2】
前記(b)成分のXがリン原子であることを特徴とする請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
更に、前記(b)成分の、(b1)で表されるカチオン部構造が少なくとも2つのチオキサントン骨格を含有し、かつYが単結合、R4がCF3またはC25、及びmが3以上であることを特徴とする請求項2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
更に、(c)成分として、露光後、(b)成分から発生した酸を失活させることができる化合物、を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
更に、(d)成分として、分子内に縮合環もしくは2つ以上のベンゼン環を含有する化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
基板上に形成される微細構造体の製造方法であって、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物を前記基板上に成膜する工程と、
該感光性樹脂組成物をフォトリソグラフィーによりパターニングする工程と、
該パターニング後の感光性樹脂組成物を、140℃以上の温度で加熱処理する工程と
を有することを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物の層に形成された、吐出口を有する液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−180586(P2011−180586A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21767(P2011−21767)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】