説明

感光性耐熱性樹脂組成物

【課題】ガラス転移温度等耐熱性、並びに現像性、感度、及び解像度といった感光性に優れた効果を有する感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリエーテルスルホン100質量部に対して、(B)酸触媒の存在下、架橋反応を起こすCHOR基(ここで、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)を有する架橋剤2〜40質量部、(C)ナフタレン核またはアントラセン核を有する光酸発生剤2〜20質量部、および(D)溶媒100〜4000質量部を含むことを特徴とする感光性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感光性樹脂組成物に関するものであり、露光・露光後加熱・現像のプロセスにより得られるレリーフパターンを有する半導体装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化、高性能化の進歩は著しいものがあるが、その性能を十分発揮させるために必要な技術がパッケージ技術である。例えば極めて多数の取り出し電極を有しかつ高い動作周波数で駆動するロジック半導体の多くは半導体チップ表面に直接バンプと呼ばれる電極を形成するフリップチップと呼ばれるパッケージ形態に加工される。その場合チップ内の電極の配置とプリント配線板に接続するための電極の配置は異なる事が多いため配線を引き直す事が行われる。これを再配線と呼ぶがこの上下の配線の間(層間)には絶縁膜を形成させる事が必要である。
もう一つの高性能なパッケージの例として、ボールグリッドアレイ(BGA)やチップサイズパッケージ(CSP)を挙げる事ができる。この場合にはパッケージ基板と呼ばれる非常に微細な配線を多層にした基板の上に半導体チップを実装し、基板の裏面にはんだボールを装着してパッケージとする。このパッケージ基板にも層間絶縁膜が使用される。
【0003】
さらに、近年マルチチップパッケージ(MCP)とかスタックドCSPと呼ばれる積層型の高密度パッケージが広く使われるようになってきた。ここでは、複数のチップがダイアタッチフィルム(DAF)と呼ばれる接着性フィルムを用いて積層され、各チップの周辺に並んでいる電極パッドとパッケージ基板の間はワイヤボンド方式で接続される。一部のメモリーでは電極パッドはチップの中央部に並んでいるものがあり、この場合は再配線を行いチップ周辺にワイヤボンドするためにパッドを形成し、MCPを作成する。ここでも層間絶縁膜を用いて上下の配線層を隔離する。
また、半導体チップの表面にはチップを保護するためにバッファコートと呼ばれる表面保護膜が形成される事が多い。
【0004】
これらのパッケージを構成する層間絶縁膜や表面保護膜の次世代の用途においては次に述べる多くの特性が要求される。第一には、パッケージをプリント配線板に搭載する場合のはんだリフロープロセスに耐えるために耐熱性が必要となる。第二の要求は機械物性である。パッケージは色々な材料を組みあわせて作りこまれ、それぞれの材料の熱膨張率は異なる。樹脂封止をする際には高熱がかかり、冷える過程で熱膨張率の違いに由来する応力が発生する。また出来上がったパッケージはヒートショックテストとかヒートサイクルテストと呼ばれる苛酷な試験を課する。これはパッケージの温度を繰り返し変えることによりパッケージ内部に熱応力を発生させ、半導体およびパッケージがそれに耐える事を確認する事で信頼性を保証するというものである。この試験に耐えるには絶縁膜や表面保護膜は十分な機械物性を有する事が求められる。第三には高速の信号を効率的に伝送するために絶縁膜の誘電率や誘電正接(tanδ)が小さい事が望ましい。第四の要求としては感光性を有する事である。層間絶縁膜においては垂直方向の接続個所であるビアを形成することが必要であるが、加工サイズはますます微細となりフォトリソグラフィー法で形成する事が望ましい。これらの要求を満足する材料としては感光性ポリイミドや感光性ポリベンズオキサゾールが広く使われている(非特許文献1、2)。
【0005】
また、感光性ポリイミドや感光性ポリベンズオキサゾールは微細加工を行った後、350℃付近の温度で熱硬化させる事で耐熱性高分子に変換しているが、近年この熱処理温度を低下する必要性が生じてきた。その背景としては不揮発性メモリー等のデバイスは高温で熱処理を行うと半導体自体が動作不良を起こす場合がある。また、MCPにおいては、パッケージの厚みの制約から半導体ウエハーを100μm以下まで薄膜化するが、この時バッファーコートの熱処理温度が高温であると熱応力に起因するウエハーの反りが大きくなり取り扱えないという問題もある。従って、第五には低温で熱処理を完了できることが望ましい。
【0006】
そこで、これらの問題を解決するべく、ポリマー、架橋剤、光酸発生剤の組み合わせからなる感光性組成物に関して、既にいくつかの例が提案されている。例えば、特許文献1ではフェノール性水酸基を側鎖置換基に有する可溶性ポリイミドに架橋剤と光酸発生剤を添加した感光性ポリイミドが開示されている。また、特許文献2にはジアミノポリシロキサンおよびカルボキシル基含有ジアミンと2,5−ジオキソテトラヒドロフリル基を一方の酸無水物基とするジカルボン酸無水物との共重合体からなるポリイミドに光架橋剤および光酸発生剤を混合した感光性組成物が開示されている。特許文献3では特定の構造を有する可溶性ポリイミドに酸触媒下該ポリイミドと反応可能な架橋剤および活性光線に対して分解して酸を発生する感光剤と増感剤からなるネガ型感光性組成物を開示している。
【0007】
しかし、感光性ポリイミドや感光性ポリベンズオキサゾールは、ポリイミドやポリベンズオキサゾールの前駆体ポリマーと感光性成分の混合物からなるネガ型感光性組成物をフォトリソグラフィーを利用して画像形成したあと、熱処理により安定な耐熱性構造に変換するという原理であり、時には光感度や解像度といった画像形成上の要求と最終物性にトレードオフの関係が生じてしまう事もある。また、機械物性や誘電率も次世代用途には不十分な場合もある。さらに、熱硬化温度を下げると耐熱性樹脂本来の物性が十分発揮できないという問題もある。確かにポリイミド樹脂はそれ自体は最高の耐熱性を有するエンジニアリングプラスチックであるが、多くの溶剤に不溶である事から感光性組成物のベースポリマーにはならず、そこで、特許文献1〜3のようにポリイミド本来の特性を若干犠牲にして溶剤に可溶な構造に変換している。
また、感光性樹脂としてポリエーテルスルホンを用いたものとしては特許文献4を挙げることができる。特許文献4ではエポキシ樹脂にその3〜50%の範囲でポリエーテルスルホンを加え、光酸発生剤と有機フィラーを添加した組成物を開示している。ここで光酸発生剤は露光でエポキシ樹脂を硬化させるものであり、ポリエーテルスルホンも助剤として加えられているにすぎない。
【0008】
【特許文献1】特開平10−316751号公報
【特許文献2】特開2000−034347号公報
【特許文献3】特開2003−207892号公報
【特許文献4】特開平11−143073号公報
【非特許文献1】上田充、「感光性ポリイミド」、日本写真学会誌、日本写真学会、2003年06巻、4号、p367−375
【非特許文献2】池田章彦、水野晶好、「初歩から学ぶ感光性樹脂」、工業調査会、2002年4月10日、p125−142
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、現像性、感度、及び解像度といった感光性に優れた感光性樹脂組成物、並びに、耐熱性に優れる、つまり高いガラス転移温度を有するレリーフパターンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、これらの背景を踏まえ鋭意検討の結果、特に架橋基や反応性基を樹脂自体に導入することなく、耐熱性を有するエンジニアリングプラスチックであるポリエーテルスルホンに添加物を加えるだけで活性光線の露光さらに加熱する事により架橋反応を誘起し、その後現像する事により耐熱性を有する薄膜パターンを形成出来る感光性樹脂組成物を提供するに至った。
ここでは、画像形成後に加熱して耐熱性を有するポリマー構造に変換する方式ではなく、耐熱性や機械物性に優れたエンジニアリングプラスチックを樹脂として用いるため、用いるポリマーの選択により絶縁膜の物性を自由に設計できるという利点を有している。電気特性も優れたポリエーテルスルホンをベースとするので、画像形成されたデバイス用絶縁膜を得る事ができる。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.(A)下記一般式(I)で示されるポリエーテルスルホン100質量部に対して、(B)酸触媒の存在下、架橋反応を起こすCHOR基(ここで、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)を有する架橋剤2〜40質量部、(C)ナフタレン核またはアントラセン核を有する光酸発生剤2〜20質量部を含むことを特徴とする感光性樹脂組成物。
【化1】

(式中、mは0または1、nは10〜400の整数、Arは炭素数6〜18の芳香族基である。)
【0012】
2.上記(A)ポリエーテルスルホンが、上記一般式(I)の式中、mが1、Arがビフェニル基であることを特徴とする上記1に記載の感光性樹脂組成物。
3.上記(B)架橋剤が、酸触媒の存在下、架橋反応を起こすCHOCH基を有することを特徴とする上記1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
4.(1)上記1〜3のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層を基板上に形成し、(2)活性光線で露光し、(3)80〜190℃で加熱し、(4)現像する、ことを特徴とする、硬化レリーフパターンの製造方法。
5.上記4に記載の製造方法により得られたレリーフパターンを有してなる半導体装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の感光性樹脂組成物は、現像性、感度、及び解像度といった感光性に優れた効果を有する。また、本発明のレリーフパターンは耐熱性に優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の感光性樹脂組成物を構成する各成分について、以下具体的に説明する。
(A)ポリエーテルスルホン
ポリエーテルスルホンとしては、下記一般式(I)で示されるものが、形成される画像パターンの電気特性、耐熱性が良好で好ましい
【化2】

(式中、mは0または1、nは10〜400の整数、Arは炭素数6〜18の芳香族基である。)
【0015】
さらには、nは20〜200の整数が好ましい。またArとしては下記の構造のものが好ましい。
【化3】

【0016】
好ましいポリスルホンとしては、繰り返し単位が下記一般式(II)及び(III)で示されるものであり、特に下記一般式(III)で示されるものがもっとも好ましい。 これを以下PEESとも記す。
【化4】

【0017】
【化5】

ポリエーテルスルホンは、「エンジニアリングポリマー」化学工業日報社、1996のp268に開示があるように、公知の方法によって合成することができる。
【0018】
(B)酸触媒の存在下、架橋反応を起こすCHOR基を有する架橋剤
(B)架橋剤は、酸触媒の存在下、架橋反応を起こすCHOR基を有する化合物である。(B)架橋剤としては、下記化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物が好ましい。
【0019】
下記一般式に示されるベンゼン核を有する化合物、
【化6】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0020】
下記一般式に示されるナフタレン核を有する化合物、
【化7】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0021】
下記一般式に示されるアントラセン核を有する化合物、
【化8】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0022】
下記一般式に示されるジフェニル核を有する化合物、
【化9】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0023】
下記一般式に示されるジフェニルメチレン核を有する化合物、
【化10】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0024】
下記一般式に示されるジフェニルエーテル核を有する化合物、
【化11】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0025】
下記一般式に示されるトリアジン核を有する化合物が好ましい。
【化12】


(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0026】
上記架橋剤の中でも、Rがメチル基であるものが好ましい。
中でも、下記化学式で記載されるCHOR が一つの化合物中に4基置換された架橋剤が好ましい。
【化13】

その中でも特に4,4’−メチレンビス[2,6−ビス(メトキシメチル)フェノール](以下、MBMPとも記す。)が好ましい。
【0027】
ここで、酸触媒の存在下、架橋反応を起こすCHOR基を有する架橋剤の量は(A)ポリエーテルスルホン100質量部に対して、2〜40質量部が好ましく、より好ましくは4〜30質量部である。酸触媒の存在下、架橋反応を起こすCHOR基を有する架橋剤の量が(A)ポリエーテルスルホン100質量部に対して2質量部以上であると画像形成性が良好で、40質量部以下であると熱処理で得られたフィルムの特性が良好である。
【0028】
(C)ナフタレン核またはアントラセン核を有する光酸発生剤
(C)光酸発生剤としては、紫外線等の活性光線の照射により酸が発生するものを指し、中でも、熱処理後の耐熱性が求められるのでナフタレン核もしくはアントラセン核を有するものが用いられる。ナフタレン核を有する光酸発生剤としては下記式で表される化合物が挙げられる。
【化14】

【0029】
また、アントラセン核を有する光酸発生剤としては下記化合物が挙げられる。
【化15】

【0030】
【化16】

【0031】
(C)光酸発生剤の量は、(A)ポリエーテルスルホン100質量部に対して2〜20質量部が好ましく、より好ましくは3〜16質量部である。ここでナフタレン核またはアントラセン核を有する光酸発生剤の量が(A)ポリエーテルスルホン100質量部に対して2質量部以上であると光感度が良好で、20質量部以下であると熱硬化した後のフィルムの物性が良好である。
【0032】
(D)溶媒
感光性樹脂組成物に、(D)溶媒を添加してワニス状にし、感光性樹脂組成物溶液として使用することが好ましい。溶媒としては、有機溶媒が用いられる。具体的には、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMFとも記す)、ジメチルアセトアミド(以下DMAcとも記す)N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、ニトロベンゼン さらにジクロロメタン、テトラクロロエタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトンが挙げられる。
(D)溶媒を加える場合の添加量は、(A)ポリエーテルスルホン100質量部に対して100〜4000質量部が好ましく、より好ましくは200〜2000質量部である。溶媒の添加量が100質量部以上であると溶解性が良好であり、4000質量部以下であると厚膜も含め膜形成性が良好である。
【0033】
(E)その他の成分
感光性樹脂組成物には、必要に応じて、以下の種々の化合物を添加する事ができる。
感度向上のため増感剤を加えることができる。増感剤としては次にものが挙げられる。増感剤の添加量は、(A)ポリエーテルスルホン100質量部に対し0.1〜10質量部が推奨される。
【化17】

【0034】
界面活性剤としては、ポリプロピレングリコール、もしくはポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリグリコール類、またはその誘導体からなる非イオン系界面活性剤があげられる。また、フロラード(登録商標)(住友3M社製)、メガファック(登録商標)(大日本インキ化学工業社製)、またはルミフロン(登録商標)((旭硝子社製)等のフッ素系界面活性剤が挙げられる。さらに、KP341(信越化学工業社製:商品名)、DBE(チッソ社製:商品名)、またはグラノール(共栄社化学社製:商品名)等の有機シロキサン界面活性剤が挙げられる。該界面活性剤の添加により、塗布時のウエハーエッジでの塗膜の不均一塗布現象をより発生しにくくすることができる。
界面活性剤を加える場合の添加量は、(A)ポリエーテルスルホン100質量部に対し、0〜10質量部が好ましく、0.01〜1質量部がより好ましい。添加量が10質量部以内であれば、熱硬化後の膜の耐熱性が良好である。
接着助剤としては、アルキルイミダゾリン、酪酸、アルキル酸、ポリヒドロキシスチレン、ポリビニルメチルエーテル、t−ブチルノボラック、エポキシポリマー、およびシランカップリング剤が挙げられる。
【0035】
シランカップリング剤の具体的な好ましい例としては、3−メタクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジアルコキシアルキルシラン、3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、3−グリシドキシプロピルジアルコキシアルキルシラン、3−アミノプロピルトリアルコキシシラン又は3−アミノプロピルジアルコキシアルキルシランと、酸無水物又は酸二無水物の反応物、3−アミノプロピルトリアルコキシシラン又は3−アミノプロピルジアルコキシアルキルシランのアミノ基をウレタン基やウレア基に変換したものが挙げられる。この際のアルキル基としてはメチル基、エチル基、ブチル基などが、酸無水物としてはマレイン酸無水物、フタル酸無水物などが、酸二無水物としてはピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物などが、ウレタン基としてはt−ブトキシカルボニルアミノ基などが、ウレア基としてはフェニルアミノカルボニルアミノ基などが挙げられる。
接着助剤を加える場合の添加量は、(A)ポリエーテルスルホン100質量部に対し、0〜30質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。添加量が30質量部以下であれば、熱硬化後の膜の耐熱性が良好である。
【0036】
<レリーフパターン、及び半導体装置の製造方法>
次に、レリーフパターンの製造方法について、以下具体的に説明する。
(1)感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層を基板上に形成する工程(第一の工程)。
上述の感光性樹脂組成物溶液を、例えばシリコンウエハー、セラミック基板、アルミ基板等の基板に、スピンコーターを用いた回転塗布、又はダイコーター、バーコーター、ワイヤコーターもしくはロールコーター等のコータ−により最終硬化膜の膜厚が0.1〜20μmとなるように塗布して、感光性樹脂層とする。もしくは、インクジェットノズルやディスペンサーを用いて、所定の場所に塗布することも可能である。これをオーブンやホットプレートを用いて50〜140℃で乾燥して溶媒を除去する。これをプリベークと呼ぶ。
【0037】
(2)活性光線で露光する工程(第二の工程)。
続いて、感光性樹脂層をマスクを介して活性光線により露光する。具体的には、コンタクトアライナーやステッパーを用いて化学線による露光を行うか、光線、電子線またはイオン線を直接照射する。活性光線としては、g線、h線、i線、KrFレーザーを用いることもできる。
【0038】
(3)80〜190℃で加熱する工程(第三の工程)。
第三の加熱する工程は、加熱手段として、例えばホットプレート、赤外線、電磁誘導等を利用できるが、加わる温度と時間の制御の精度からポットプレート上で80〜190℃の温度で1〜20分加熱を行う事が推奨される。
この第三の工程はPEB(Post Exposure Bake)と呼ばれ、条件を選ぶことにより最終的に良好なパターンを形成させることができる。良好なパターンを得るためには露光部と未露光部の現像液への溶解速度に差をつけることが必須である。
それを実現するための条件を見出す方法について述べる。上記の第一の工程に従ってウェハー上に感光性組成物の膜を形成させた後、ウェハー表面にまで達する傷をつける。次にその傷の一部が隠れるようにウェハーの半分を遮光シートで覆う。次にこのシートをマスクとみなして第二の工程に従い露光を行う。次にある温度である時間PEBを行う。
次に以下に述べる第四の工程に従い、該シートを剥離し、未露光部の膜がちょうど除去されるまで現像を行う。それに要した時間と、傷を横切って表面段差計で測定した現像前の膜厚から未露光部の現像速度を求める。
次に露光部の膜厚を測定し露光部の膜厚が減る速度を求める。ここで露光部に対する未露光部の現像速度の差を求め その値が大きくなる条件を見つけることが出来る。
このウェハーを細かく活断し、露光量、PEBの時間や温度を変えたサンプルを作成し上記の現像速度の差が大きくなる条件を見出す手法が推奨される。
【0039】
(4)現像する工程(第四の工程)
第四の工程として、未露光部を有機溶媒で溶出または除去する。引き続き、好ましくはリンス液によるリンスを行うことで所望のレリーフパターンを得る。現像方法としてはスプレー、パドル、ディップ、または超音波等の方式が可能である。
感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層を現像するために用いられる現像液は、既に述べたポリエーテルスルホンの溶媒(上記(D)溶媒)から選ばれる。
その後、任意に、現像によって形成したレリーフパターンをリンス液により洗浄を行い、現像液を除去してもよい。リンス液としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル等を単独または混合して用いる。
【0040】
なお、熱重量減少温度を上げる等の目的で得られたレリーフパターンを加熱処理する事も出来る。加熱装置としては、オーブン炉、ホットプレート、縦型炉、ベルトコンベアー炉、圧力オーブン等を使用する事ができ、加熱方法としては、熱風、赤外線、電磁誘導による加熱等が推奨される。温度は200〜450℃が好ましく、250〜400℃がさらに好ましい。加熱時間は15分〜8時間が好ましく、1〜4時間がさらに好ましい。雰囲気は窒素、アルゴン等不活性ガス中が好ましい。
半導体装置は、レリーフパターンを、表面保護膜、層間絶縁膜、再配線用絶縁膜、フリップチップ装置用保護膜、あるいはバンプ構造を有する装置の保護膜として、公知の半導体装置の製造方法と組み合わせることで製造することができる。
また、本発明の感光性樹脂組成物は、多層回路の層間絶縁、フレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜、または液晶配向膜等の用途にも有用である。
【実施例】
【0041】
本発明を合成例、実施例、比較例、及び参考例に基づいて更に具体的に説明する。
[合成例1]
(架橋剤の合成)
以下の手順に従って架橋剤を合成した。
(i)4,4’−メチレンビス[2,6−ビス(ヒドロキシメチル)フェノール](以下、「MBHP」とも記す)の合成:36gの37質量%ホルムアルデヒド水溶液、2.2gのナトリウムヒドロキシド、及び水30mlの混合物の入った200ml容量の三角フラスコに11.0gのビスフェノールFを加え、室温で24時間撹拌した。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾別後減圧下ロータリーエバポレータを用いて濃縮し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲルカラム、展開液:ヘキサン/酢酸エチル)で生成物を単離した。得られた生成物をヘキサン/プロパノールを用いて再結晶し白色の固体を得た。
【0042】
(ii)4,4’−メチレンビス[2,6−ビス(メトキシメチル)フェノール](以下、「MBMP」とも記す)の合成:撹拌機、温度計、及び還流コンデンサーを備えた1リットル容量の三口フラスコに500mlのメタノールと1.75gの濃硫酸を加え、そこに前記(i)で合成した5.0gのMBHPを加え均一溶液とした。次に60℃で20時間撹拌を続けた。
その後、得られた反応混合液をロータリーエバポレータを用い、常温でメタノールを減圧除去した。次に塩化メチレンを用い分液ロートで生成物を抽出した。有機層を1%の炭酸水素ナトリウム水溶液に続いて水で洗浄し無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾別後、減圧下ロータリーエバポレータを用いて有機層を濃縮した。この濃縮液をカラムクロマトグラフィーにより分離精製し乾燥して高純度の生成物を得た。展開液としては3/2(容量)のヘキサン/酢酸エチル混合液を用いた。収量は5.11gであった(収率87%)。融点は36.5〜37.5℃であった。生成物の赤外吸収スペクトル(cm−1;KBr法):1083、1222、1485、1608、2827、2989、3355.プロトンNMRケミカルシフト(300MHz、CDCl溶液;ppm):3.42(12H,s)、3.78(2H,s)、4.55(8H,s)、6.92(4H,s)、7.67(2H,s)。C13NMRケミカルシフト(75MHz、CDCl溶液;ppm)40.59、58.75、72.35、123.93、129.22、132.89、136.16、152.94元素分析値:C;66.90%、H;7.47% 計算値(C2128):C;67.00%、H;7.50%。以上の分析から生成物はMBMPと確認された。
【0043】
[実施例1]
(感光性樹脂組成物の調整と現像性の評価1)
20ml容量のガラス製サンプルビンにシクロペンタノン8.00gとPEES(以下で説明するポリエーテルスルホン)1.60g、合成例2で調製したMBMP0.30g、下記式で示されるジフェニルヨードニウム−9,10−ジメトキシアントラセン−2−スルフォナート(以下、「DIAS」とも記す)(東洋合成株式会社製)0.10gを加え、サンプルビンをミックスローター(アズワン株式会社製 MR−5)を用いて均一になるまで回転しネガ型感光性組成物を調整した。この混合物をスピンコーター(ミカサ社製 1H−D7)にて2枚の8インチシリコンウエハーに8000rpmの回転数で30秒スピン塗布し、ホットプレートにて空気中で80℃、60秒間プリベークを行い厚み2.2μmの塗膜を形成した。超高圧水銀灯にフィルターを掛けて365nmのi線のみを取り出し300mJ/cmの露光量で塗膜の半分を遮光したウエハーに露光した。このウエハーをそれぞれの片に露光部と遮光部が含まれるように分割し、ホットプレートを用い各ウエハー片を130〜180℃の各種の温度でそれぞれ3分間PEBを行った。次に、各ウエハー片を室温でDMAcに2秒間浸漬した。図1に示すように、縦軸にDissolution rate(膜の溶解速度)、横軸にPEB temperatureをとり、各露光部と遮光部が含まれるウエハー片の現像前後の厚みを測定し膜の溶解速度を計算しPEBの温度に対してプロットした(□が露光無し、◆が露光あり)。その結果、160〜180℃の範囲でPEBを行えば、未露光部と露光部の溶解速度の比率は10000倍以上である事が確認できた。
【0044】
【化18】

なお、ここで用いたPEESはSIGMA−Aldrich Co.Ltd.社から購入した。
分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(装置:JASCO co−2006 カラム:TOSOH TSK gel GMHHR−M)を用い、DMFを展開液として測定したところ、数平均分子量、重量平均分子量はそれぞれ、34,700、60,700であった。このポリエーテルスルホンの繰り返し構造は以下の式(III)である。
【0045】
【化19】

【0046】
[実施例2]
(感光性樹脂組成物の調整と現像性の評価2)
PPESを1.70g、MBMPを0.20g、DIASを0.10g用いた以外は実施例1と同様な操作でウェハー上に塗膜を形成した。
PEB温度は160℃とし、時間を0〜20分の各種条件で実施例1と同様にPEBを実施した。
露光量は300mJ/cmの現像時間は2秒とし、実施例1と同様に溶解速度を測定した。その結果を図2に示す(縦軸にDissolution rate(膜の溶解速度)、横軸にPEB timeをとった。□が露光無し、◆が露光あり)。その結果、12〜20分間のPEBで未露光部と露光部の溶解速度の比率は約9800倍となる事が確認できた。
また、同様の実験を170℃のPEB温度で行った結果を図3に示す。3〜20分間のPEBで未露光部と露光部の溶解速度の比率は約12000倍となる事が確認できた。
【0047】
[実施例3]
(感光性樹脂組成物の調整と現像性の評価3)
PEESを1.60g、MBMPを0.30g、DIASを0.10g用いた以外は実施例1と同様な操作でウェハー上に塗膜を形成した。
170℃で3分間PEBを実施し、露光量は300mJ/cmの現像時間は2秒とし、実施例1と同様に溶解速度を測定した。その結果を図3に示す。未露光部と露光部の溶解速度の比率は約12000倍となる事が確認できた。
【0048】
[実施例4]
(感光性樹脂組成物の感度評価)
実施例2の感光性樹脂組成物をスピンコーター(ミカサ社製 1H−D7)にて8インチシリコンウエハーにスピン塗布し、ホットプレートにて80℃、60秒間プリベークを行い、膜厚2.5μmの膜を形成した。膜厚はフィルム膜厚測定装置(Veeco Instruments Inc.社製 Dektak3system)にて測定した。
この塗膜に、テストパターン付きレチクルを通してi線(365nm)の露光波長を有するコンタクト露光機(ミカサ社製 マスクアライメント装置 M−1S)を用いて、種々の露光量で露光を行った。さらに、170℃、3分間PEBを行った。これをDMAcで2秒間現像し各露光量における膜厚を測定した。得られた感度曲線を図4に示す。ここで縦軸は、(露光現像後の膜厚/露光前の膜厚)×100(%)で相対膜厚(Normalized film thickness)を示し、横軸はExposure dose(露光量)を示す。この図からD50(相対膜厚が50%になる露光量)は21mJ/cmでありγ値は2.1であった。γ値の定義は非特許文献2のp60に記載されているが、ここでは相対膜厚が50%である点でのグラフの接線の傾きと定義する。
【0049】
〔実施例5〕
(感光性樹脂組成物の解像度の評価)
実施例2の感光性樹脂組成物をスピンコーターにて8インチシリコンウエハーにスピン塗布し、ホットプレートにて80℃、60秒間プリベークを行い、膜厚2.5μmの膜を形成した。
この塗膜に、テストパターン付きレチクルを通してi線(365nm)の露光波長を有するコンタクト露光機(ミカサ社製 マスクアライメント装置 M−1S)を用いて、150mJ/cmの露光を行った。さらに、170℃、3分間PEBを行った。これをDMAcで15秒間現像しレリーフ画像を形成した。電子顕微鏡による観察で4μm/4μmのライン/スペースパターンまで解像している事を確認した。
【0050】
[実施例6]
(感光性PEES組成物から得たフィルムの動的粘弾性の評価)
実施例2で調製した感光性樹脂組成物をガラス板にバーコーターで塗布し、ホットプレート上で40℃、80℃、100℃、135℃で続けて各30秒間プリベークを行った。 次にi線で1000mJ/cmの露光を全面に実施した。次に170℃のホットプレート上で15分間PEBを行った。
得られた膜から長さは30mm、幅は10mm、膜厚は60μmの試験片を切り出した。
このフィルムをサンプルとして動的粘弾性測定装置(型式:DMS6300 セイコーインスツル製)を用い空気中、2℃/分の速度で昇温しながら1Hzの周波数で動的粘弾性を測定した。その結果を図5に示す。
50℃での貯蔵弾性率(E’)は1.7GPaと良好な機械物性を示した。また損失弾性率(E”)のピークから求めたガラス転移点(Tg)は220℃で、次の参考例1に示したPEESと同じ値であり、レリーフパターンはマトリックスポリマーであるPEESの良好な耐熱性を維持していることが明らかになった。
【0051】
[参考例1]
(PEESフィルムの動的粘弾性性能の評価)
実施例1で用いたPEESをシクロペンタノンに溶解し固形分濃度20%の溶液を作成した。この溶液をガラス板にバーコーターで塗布し、ホットプレート上で40℃、80℃、100℃、135℃で各30秒間プリベークを行った。
次に60℃で2時間真空乾燥を行った。
実施例6と同じサイズの試験片を切りだし実施例6と同様に測定した。その結果を図5に示す。50℃での貯蔵弾性率(E’)は1.0GPaであった。そして、損失弾性率(E”)のピークから求めたガラス転移点(Tg)は220℃であった。
【0052】
[参考例2]
(光酸発生剤の熱重量減少量評価)
DIASおよび下式で示されるPTMAを1分あたり100mlの空気を流しながら熱重量分析装置で熱安定性の評価を行った。結果を図6に示す(縦軸に重量減少量(%)、横軸に温度(℃)をとった。)がPTMAは150℃付近から重量減少が始まり195℃付近から急激に重量減少したのに対しDIASは190℃付近から重量減少を始め220℃付近から急激に重量減少をみた。なおDIASの100℃付近でのわずかな重量減少は水分の揮発によるものと考えられる。
【0053】
【化20】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の感光性樹脂組成物は、半導体の保護膜、パッケージの絶縁膜の製造に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1の感光性樹脂組成物塗膜の3分間のPEBを行った後の膜の溶解速度(Dissolution rate)をPEBの温度(PEB temperature)に対してプロットしたもの。□は露光しなかった膜、◆はi線で300mJ/cmの露光を行った膜に関するデータを示す。
【図2】実施例2の感光性樹脂組成物塗膜のPEBを160℃で行い、現像を2秒に固定した場合のPEBの時間(PEB time)に対して膜の溶解速度(Dissolution rate)をプロットしたものである。□は露光しなかった膜、◆はi線で300mJ/cmの露光を行った膜に関するデータを示す。
【図3】実施例3の感光性樹脂組成物塗膜のPEBを170℃で行い、現像を2秒に固定した場合のPEBの時間(PEB time)に対して膜の溶解速度(Dissolution rate)をプロットしたものである。□は露光しなかった膜、◆はi線で300mJ/cmの露光を行った膜に関するデータである。
【図4】実施例2の感光性樹脂組成物塗膜を種々の露光量で露光し170℃でのPEBを3分間行い、現像を2秒に固定した場合の露光量(Exposure Dose)に対して残膜率(Normalized film thickness)をプロットしたものである。
【図5】実施例2で調整した感光性樹脂組成物から得たフィルム(実施例6)(「PSPEES」とも記す)の動的粘弾性の温度依存性を測定したチャートである。●がE’◆がE”である。○、◇はポリスルホンPEESそのもの(参考例1)のE’、E”である。
【図6】参考例2の2種類の光酸発生剤(DIASおよびPTMA)の空気中での熱重量分析曲線を示す(縦軸:残存率(%)、横軸に温度(℃))。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(I)で示されるポリエーテルスルホン100質量部に対して、(B)酸触媒の存在下、架橋反応を起こすCHOR基(ここで、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)を有する架橋剤2〜40質量部、(C)ナフタレン核またはアントラセン核を有する光酸発生剤2〜20質量部を含むことを特徴とする感光性樹脂組成物。
【化1】

(式中、mは0または1、nは10〜400の整数、Arは炭素数6〜18の芳香族基である。)
【請求項2】
上記(A)ポリエーテルスルホンが、上記一般式(I)の式中、mが1、Arがビフェニル基であることを特徴とする請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
上記(B)架橋剤が、酸触媒の存在下、架橋反応を起こすCHOCH基を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
(1)請求項1〜3のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層を基板上に形成し、(2)活性光線で露光し、(3)80〜190℃で加熱し、(4)現像する、ことを特徴とする、レリーフパターンの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法により得られたレリーフパターンを有してなる半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−282344(P2009−282344A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134960(P2008−134960)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年 3月19日に東京大学 工学部2号館A会場(221号室)にて発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】