説明

感圧トリガー式酵素発色材、発色性シート、その製造方法及び用途

【課題】簡便な反応開始操作により、酵素−基質反応が速やかに生じて発色させることができる感圧トリガー式酵素発色材、該発色材を用いた、発色性インキ及び発色性シート並びにその製造方法、時間−温度インジケーターやガスセンサーを提供すること。
【解決手段】本発明の発色材は、酵素−基質反応して発色する、酵素及び基質と、沸点100℃以上の水系溶媒と、マイクロカプセルとを含み、酵素及び基質の少なくとも一方がマイクロカプセルに内包し、圧力により該マイクロカプセルを破壊することで、前記水系溶媒の存在下に酵素−基質反応して発色することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感圧式に酵素−基質反応が開始され発色する感圧トリガー式酵素発色材、該発色材を利用した、インキ、発色性シート、その製造方法及び該発色材等を利用した時間−温度インジケーター並びにガスセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
酵素−基質反応により発色する材料は、免疫診断、微量金属分析、細菌検査等の産業上の様々な場面で応用されている。
最近では、酵素−基質反応による発色を利用して、食品流通等に応用可能な時間−温度の積算を表示する温度履歴インジケーターが検討されている。例えば、特許文献1には、酵素と基質とを分離し、押圧することで該酵素と基質とが接触して、一定温度範囲内で特定の色を呈する温度履歴インジケーターが提案され、例えば、酵素又は酵素基質の一方をマイクロカプセル内に格納し、温度履歴開始時に押圧することによりマイクロカプセルを破壊し両試薬を混合して発色させることも記載されている。しかし、この文献には、該マイクロカプセルを利用した具体的な実施例については何等示されていない。
【0003】
ところで、酵素をマイクロカプセルに内包する技術については、様々な用途において展開されている。例えば、特許文献2では、酵素等のタンパク質をマイクロカプセルに内包して安定化し、バイオチップ等に応用可能な技術として開示されている。
一方、特許文献3には、基材上に酵素を受理層として塗布し、顔料を有するマイクロカプセルと受理層の成分とを酵素反応させることにより、顔料を受理層に付着させる工程を含む技術が開示されている。
尚、一般的な技術として、マイクロカプセル化したタンパク質については特許文献4に、発色物質と酵素とを反応発色させる方法については特許文献5に、発色汚れを少なくするために大豆タンパク質を感圧記録紙に用いることにつては特許文献6に、ホスホリルコリン基含有重合体を用いる酵素の安定化方法としては特許文献7にそれぞれ開示されている。
【0004】
しかしながら、従来、マイクロカプセルを用いて酵素−基質反応を利用した発色材や、該発色材を利用した各種用途についての具体的な実施例が示されたことはなく、マイクロカプセルを用いて、発色反応が有効に生じるかについては十分な検討がなされていない。
【特許文献1】特開2001−272283号公報
【特許文献2】特開2006−223124号公報
【特許文献3】特開平11−152848号公報
【特許文献4】特開平7−10771号公報
【特許文献5】特開平6−18521号公報
【特許文献6】特開平11−165462号公報
【特許文献7】特開平10−45794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、簡便な反応開始操作(トリガー)により、酵素−基質反応が速やかに生じて発色させることができる感圧トリガー式酵素発色材、該発色材を用いた、発色性インキ及び発色性シート並びにその製造方法を提供することにある。
本発明の別の課題は、簡便な反応開始操作により、低温領域における温度履歴の発色表示が温度依存的に可能な時間−温度インジケーターを提供することにある。
本発明の更に別の課題は、簡便な反応開始操作で、特定のガスの存在を発色変化により速やかに検知しうるガスセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。まず、酵素、基質を別個にマイクロカプセル内に収容した後、圧力により該マイクロカプセルを破壊して酵素及び基質を接触反応させた。その結果、発色は生じたがその反応が速やかでなく、改良を重ねた結果、酵素と基質とが接触反応する際に、高沸点の水系溶媒を介在させることにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明によれば、酵素−基質反応して発色する、酵素及び基質と、沸点100℃以上の水系溶媒と、マイクロカプセルとを含み、酵素及び基質の少なくとも一方がマイクロカプセルに内包し、圧力により該マイクロカプセルを破壊することで、前記水系溶媒の存在下に酵素−基質反応して発色することを特徴とする感圧トリガー式酵素発色材が提供される。
また本発明によれば、上記発色材を含む発色性インキが提供される。
更に本発明によれば、シート基体の表面に、上記発色材を備えた発色性シートが提供される。
更にまた本発明によれば、上記発色材を酵素と基質とが各別になるように分割し、2枚のシート基体のそれぞれ一方の表面に塗布固定し、該発色材成分を固定した表面が重なるように、シート基体を積層することを特徴とする上記発色性シートの製造方法が提供される。
また本発明によれば、上記マイクロカプセルを含む発色材又は発色性シートを備え、圧力により該マイクロカプセルを破壊することで、該発色材等における酵素及び基質が、特定温度範囲において酵素−基質反応して発色することを特徴とする時間−温度インジケーターが提供される。
更に本発明によれば、酵素と、沸点100℃以上の水系溶媒と、発色材料と、マイクロカプセルとを含み、少なくとも酵素がマイクロカプセルに内包し、圧力により該マイクロカプセルを破壊し、検知する所定ガスが、前記水系溶媒の存在下に酵素と接触反応し、更に発色材料と反応して発色する感圧式発色材を備えることを特徴とするガスセンサーが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の感圧トリガー式酵素発色材、発色性インキ及び発色性シートは、酵素、基質、特定の溶媒及びマイクロカプセルを含み、酵素及び基質の少なくとも一方がマイクロカプセルに内包し、該溶媒の存在下に酵素−基質反応するようにしているので、簡便な反応開始操作により、酵素−基質反応を速やかに生じさせ発色させることができる。
本発明の時間−温度インジケーターは、本発明の発色材又は発色性シートを利用するので、簡便な反応開始操作により、温度環境に依存した速やかな発色変化が生じ、一定時間後の発色の度合いによって温度履歴の表示が可能であり、食品の流通や保管等に利用することができる。
本発明のガスセンサーは、酵素、特定の溶媒、発色材料及びマイクロカプセルを含み、少なくとも酵素がマイクロカプセルに内包し、検知する所定ガスが、前記水系溶媒の存在下に酵素と反応し、更に発色材料と反応することにより発色する感圧式発色材を備えるので、簡便な反応開始操作で、所定ガスを発色変化により速やかに検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の発色材は、酵素−基質反応して発色する、酵素及び基質と、沸点100℃以上の水系溶媒と、マイクロカプセルとを含み、酵素及び基質の少なくとも一方がマイクロカプセルに内包する。そして、圧力により該マイクロカプセルを破壊することで、前記水系溶媒の存在下に酵素−基質反応して発色することを特徴とする。
【0010】
前記酵素及び基質は、発色系を構築できるものであれば特に限定されない。例えば、ペルオキシダーゼと過酸化水素とテトラメチルベンチジンとからテトラメチルベンチジン重合物を生成させる青色発色系、アルカリホスファターゼとp−ニトロフェニルリン酸と過酸化水素とからp−ニトロフェノールを生成させる黄色発色系、アルカリホスファターゼとナフトールリン酸エステルとから生成するナフトールをジアゾニウム塩と反応させる赤色発色系、ガラクトシダーゼを利用する発色系、プロテアーゼとpNA−ペプチドとの黄色発色系、アミラーゼとブルースターチとの青色発色系、アミラーゼと2−シクロ−4−ニトロフェニル−4−O−β−D−ガラクトピラノシルマルトサイドとの黄色発色系、グルコシダーゼの発色系、ウレアーゼと尿素とからアンモニアを生成しアルカリpH指示薬による発色系、リパーゼとトリグリセリドとから脂肪酸を生成し酸pH指示薬による発色系、グルコースオキシダーゼとグルコースとからグルコン酸を生成し酸pH指示薬による発色系が挙げられる。
【0011】
本発明において前記水系溶媒は、酵素−基質反応の反応率を上げ発色性を高める成分であって、沸点100℃以上、好ましくは150℃以上、更に好ましくは200℃以上の水に溶解する溶媒である。該水系溶媒の水への溶解度は、5%以上、特に10%以上、更には水に任意の割合で混合しうる溶媒が望ましい。また、本発明の発色材を特に低温で利用する場合の前記水系溶媒としては、融点が低いものが好ましく、例えば、融点が−5℃以下、特に−20℃以下のものが好ましい。水系溶媒の液体状態での粘度は、低粘性でも高粘性でも良いが、通常、0.01〜100万P、特に、1〜10万Pの比較的高い粘度が好ましい。
【0012】
本発明に用いる前記水系溶媒として、例えば、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール類;分子量1000以下の、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体等のポリアルキレングリコール類;ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒が挙げられ、これらを2種以上混合して利用することができる。
より好ましい水系溶媒としては、例えば、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール類;分子量1000以下の、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体等の高沸点のプロトン性溶媒が挙げられる。
【0013】
本発明の発色材において酵素はその種類によって、後述するマイクロカプセルを作成する工程やコーティングの工程、更には高温条件下等において活性が低下する可能性もあるので、本発明の発色材は、酵素の安定化剤を含むことが好ましい。
安定化剤は、酵素の活性を安定に維持する効果のある化合物であればいずれでも使用可能である。例えば、ホスホリルコリン基含有重合体、ブドウ糖、ショ糖、マルトース、キシリトール、トレハロース、オリゴ糖、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コンドロイチン硫酸、デキストリン、シクロデキストリン等の糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体等のポリアルキレングリコール類;アスパラギン酸、アルギニン等のアミノ酸類が挙げられる。これらの中でも酵素安定化効果の点で、ホスホリルコリン基含有重合体、ブドウ糖、ショ糖、マルトース、キシリトール、トレハロース、オリゴ糖、セルロース、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸、デキストリン、シクロデキストリン等の糖類が好ましく挙げられる。最も好ましいのは、様々な環境下でも酵素安定化効果が高く、かつ本発明の発色材において酵素反応の効率を高めることのできるホスホリルコリン基含有重合体である。
【0014】
ホスホリルコリン基含有重合体としては、ホスホリルコリン基を含む重合体であればいずれでも使用可能であるが、例えば、2‐メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を含む単量体組成物を重合して得られるMPC含有重合体が好ましく挙げられる。
MPCは、公知の方法で製造できる。例えば、特開昭54−63025号公報、特開昭58−154591号公報等に示された公知の方法に準じて製造することができる。
【0015】
MPC含有重合体は、MPCと他の単量体との共重合体でも良く、その中でも疎水性単量体とMPCとを共重合して得られるものが望ましく、更にはヒドロキシ基を有する単量体と疎水性単量体とMPCとの共重合体が好ましい。また、グリセロールモノメタクリレート(以下、GLMと略す)等の水酸基含有単量体とアルキル(メタ)アクリレート等の疎水性単量体とMPCとを共重合して得られる3元共重合体がより好ましい。これらの共重合体には、他の単量体を更に共重合することも可能である。
【0016】
疎水性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環状アルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の疎水性ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。
【0017】
MPC含有共重合体を得るための他の単量体としては、疎水性単量体以外にも、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(以下、HEMAと略す)、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)クリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等のイオン性基含有単量体;(メタ)アクリルアミド、アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の含窒素単量体;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いられる。これらの中でもHEMA、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、GLM等の水酸基含有(メタ)アクリレートを利用することが、酵素の劣化を抑制する点で最も望ましい。
【0018】
MPC含有重合体を構成するMPCの構成単位の割合は、通常20〜95重量%、好ましくは30〜70重量%である。MPCの割合が20重量%より少ないと酵素の反応効率を十分に維持することができず、95重量%より多いと共重合する他の単量体の機能を十分に発揮することができない恐れがある。
MPC含有重合体の分子量は、重量平均分子量で5000〜5000000の範囲がよく、更に望ましくは50000〜1000000の範囲である。
【0019】
本発明の発色材における酵素活性の高さ及び酵素活性の劣化抑制の効果の点で、MPC含有共重合体を構成する単量体の最も優れた特定の組み合わせの例としては、MPC−GLM−アルキルメタクリレートの3元共重合体、特に、MPC−BMA−GLMの組み合わせが挙げられる。
MPC−GLM−アルキルメタクリレートの3元共重合体を構成する各単量体の組成は、望ましくはMPC20〜90重量%、GLM5〜70重量%、アルキルメタクリレート5〜60重量%の範囲であり、さらに望ましくはMPC40〜80重量%、GLM10〜50重量%、アルキルメタクリレート10〜50重量%の範囲である。
これらMPC含有重合体は、公知の方法で得ることができる。
【0020】
本発明の発色材には、上記酵素安定化剤以外にも必要に応じて、酵素活性を損ねない範囲で他の物質を添加しても良い。他の物質としては、例えば、バインダー、無機塩類、有機塩類、界面活性剤、防腐剤、色素、架橋剤、紫外線吸収剤、基材との密着性を高めるためのプライマーが挙げられる。
【0021】
バインダーとしては、例えば、ロジン変性フェノール樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂、ポリアミド樹脂、ロジン変性マレイン樹脂、マレイン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ニトロセルロース、エチルセルロース、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、又はそれらのラテックス、ゼラチン、セルロース等の水溶性樹脂、紫外線硬化樹脂が挙げられる。
バインダーは、本発明の発色材をコーティング液とした際に、該コーティング液中に必要な量含有させることができる。例えば、コーティング液中に1〜50重量%、好ましくは2〜20重量%の割合で含有させることができる。
【0022】
本発明の発色材において、上述の酵素及び基質を離隔するために少なくとも一方を内包するマイクロカプセルは、例えば、界面重合法やin−site重合法等の化学的手法、液中乾燥法、ゲル転換法やコアセルベーション法等の物理化学的手法、噴霧乾燥法や乾式混合法等の機械的手法といった公知のいずれの方法で調製したものを使用することができる。該マイクロカプセルは、水性溶液である酵素液又は基質液を内包するので、酵素液又は基質液を疎水性のオイルにW/O乳化させ、この乳化物を内包物とする方法により調製することができる。更に、酵素液又は基質液を水性媒体でなく疎水性オイルに分散させマイクロカプセルの調製に利用することもできる。
【0023】
マイクロカプセルの膜材は、公知の材料のいずれでも使用可能であり、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、ウレア樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられる。
マイクロカプセルの調製にあたっては、公知の分散剤が使用できる。分散剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタリンスルホン酸塩又はジアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル又はポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤;部分けん化ポリビニルアルコール、低級アルキルエーテル変性ポリビニルアルコール、アクリルアミド重合体、アクリルアミド共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、無水マレイン酸・イソブチレン共重合体塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース、澱粉、カゼイン、アラビアゴム又はゼラチン等の水溶性高分子化合物が挙げられる。
【0024】
マイクロカプセルの粒子径は、目的にあわせていずれにも設定できるが、好ましくは0.5〜500μm、より好ましくは1〜50μmの範囲であり、最も好ましくは、様々な印刷方法やインクへの応用可能性の高い2〜20μmの範囲である。
【0025】
本発明の発色材においてマイクロカプセルには、酵素又は基質の一方のみを内包させるか、若しくは酵素と基質とを、それぞれが離隔するように別のマイクロカプセルに内包させることができる。
酵素を内包するマイクロカプセルは、上記酵素安定化剤を内包することが好ましく、上述の基質以外の他の材料を内包することもできる。
基質を内包するマイクロカプセルは、酵素及び酵素安定化剤以外の上述の他の材料を内包することができる。
【0026】
上記沸点100℃以上の水系溶媒は、酵素含有マイクロカプセル中に含有させても、基質含有マイクロカプセル中に含有させても、また両者に含有させることもできる。また、マイクロカプセルを破壊して酵素−基質反応させる際に存在させることが可能であれば、いずれのマイクロカプセルにも含有していなくても良い。例えば、本発明の発色材を後述するコーティング液の形態で基体に固定する場合には、コーティング液の分散溶媒中に含有させ、コーティング後に基材に残留させる方法、前記水系溶媒を含まないコーティング液を基材に固定した後、該水系溶媒を噴霧や塗布等でマイクロカプセル及び/又は基体に含浸させる方法が採用できる。
【0027】
本発明の発色材において、酵素及び基質の含有割合は、酵素−基質反応により発色しうる量であれば特に限定されず、例えば、後述する時間−温度インジケーターに使用する場合には、酵素及び基質の種類、温度や時間により所望の発色をさせるために適宜選択することができる。また、上記沸点100℃以上の水系溶媒の含有割合は、上記酵素−基質反応時に存在しうる量を適宜選択して決定することができる。
【0028】
本発明の発色材は、例えば、適当な液状媒体を用いてコーティング液とし、各種基体にコーティングして固定することにより使用することができる。
前記液状媒体としては、マイクロカプセルを含む液をコーティングできる溶媒であれば、いずれでも使用可能であり、本発明に用いる前記沸点100℃以上の水系容媒の中から利用することも出来るし、その他にも、例えば、水、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッドの緩衝液などの各種緩衝溶液、メタノール、エタノール、プロパノール、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、トルエン、ヘキサン、クロロホルム等の各種有機溶媒の単独液あるいは混合液を用いることができる。
【0029】
本発明の発色材を固定する基体は、マイクロカプセルを含む液をコーティングできるものであればいずれも良く、例えば、紙、不織布、繊維、布帛、フィルム、プラスチック、発泡プラスチック、木材、金属、ゴム、セラミクス、塗装面が挙げられ、平面に限らず曲面の基板も挙げられる。繊維や多孔質体等の微小で複雑な表面を有するものも基体として適用できる。これらの中でも、食品等の包装材料に利用でき得るものが好ましく、例えば、紙、不織布、フィルム、プラスチック、発泡プラスチックがより好ましい。更には、後述する本発明の発色性シートの基体とすることができる、紙、不織布、フィルム等のシート基体が、食品包装や壁紙等の様々な用途で利用できる点で好ましい。
【0030】
本発明の発色材を含むコーティング液をコーティングする方法は、マイクロカプセルを含む液をコーティングできる方法であれば、いずれも使用可能であり、例えば、バーコーティング、ブレードコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、シルクスクリーンコーティング、噴霧コーティング、ディップコーティング、スピンコーティングの方法が挙げられる。
コーティングの条件は特に制限がないが、酵素が熱に対して劣化する可能性があるので、乾燥時の温度は通常5〜50℃、特に10〜30℃の範囲が好ましい。
【0031】
前記コーティング方法の具体例としては、例えば、基質を含むコーティング液を基体にコーティングし、その上に酵素含有マイクロカプセルを含むコーティング液をコーティングする方法、酵素を含むコーティング液を基体にコーティングし、その上に基質含有マイクロカプセルを含むコーティング液をコーティングする方法、基質含有マイクロカプセルを含むコーティング液を基体にコーティングし、その上に酵素含有マイクロカプセルを含むコーティング液をコーティングする方法、逆の順序で酵素含有マイクロカプセルを含むコーティング液を基体にコーティングした上に基質を含むコーティング液をコーティングする方法、基質含有マイクロカプセルを含むコーティング液を基体にコーティングした上に酵素を含むコーティング液をコーティングする方法、酵素含有マイクロカプセルを含むコーティング液を基体にコーティングし、その上に基質含有マイクロカプセルを含むコーティング液をコーティングする方法、また、酵素含有マイクロカプセルと基質とを含むコーティング液、基質含有マイクロカプセルと酵素とを含むコーティング液又は酵素含有マイクロカプセルと基質含有マイクロカプセルとを含むコーティング液を基体にコーティングする方法、上記各コーティング液を別の基体にコーティングし、各基体のコーティング面を重ね合わせて接触させる方法が挙げられる。
この際、上述の沸点100℃以上の水系溶媒は、各コーティング液の一方若しくは両方に含ませることができる他、沸点100℃以上の水系溶媒を含む別のコーティング液を準備し、適当な順で基体にコーティングすることができる。
【0032】
本発明の発色性インキは、上述の本発明の発色材を含む。
本発明の発色性インキには、インキとして使用するために、適宜、樹脂、溶剤、乾性油、消泡剤、被膜強化剤、乾燥促進剤、裏移り防止剤、乾燥抑制剤、ポリマー、オリゴマー、モノマー、開始剤、光開始剤、増感剤等をその目的に応じて適量配合することができる。
本発明の発色性インキは、例えば、オフセット印刷、凸版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷方法に利用することができる。
【0033】
本発明の発色性シートは、シート基体の表面に、上述の本発明の発色材を備えるシートである。また、本発明の発色性シートは、一方のシート基体の積層面に酵素を備え、他方のシート基体の積層面に基質を備える2枚のシート基体を積層したシート、一方のシート基体の積層面に酵素及び基質を離隔した状態で備え、他方のシート基体の積層面に上述の沸点100℃以上の水系溶媒を備える2枚のシート基体を積層したシートも含み、これらのシートに更に感圧紙(ノンカーボン紙)を積層したシートも含む。
該感圧紙を用いることにより、感圧式に酵素発色系により測定を開始したことを、該感圧紙の発色で確認することができ、利便性が高くなる。
【0034】
本発明の発色性シートは、例えば、1枚のシート基体に、上述のコーティング方法等により本発明の発色材をコーティングして固定する方法、2枚のシート基体に、上述のコーティング方法等により本発明の発色材をコーティングして固定し、各コーティング面を重ねて接触させる方法、具体的には、一例として、本発明の発色材を酵素と基質とが各別になるように分割し、2枚のシート基体のそれぞれ一方の表面に塗布固定し、該発色材成分を固定した表面が重なるように、シート基体を積層する方法、更には、これらの方法に、感圧紙を組み合わせる方法により作製することができる。
【0035】
感圧紙を組み合わせる方法としては、例えば、感圧紙と上記コーティングシートとをコーティング面を合わせ積層する方法、上記シート基体として感圧紙を利用する方法、感圧紙の発色系の材料溶液を本発明の発色材の上にコーティングする方法、感圧紙の発色系の材料溶液と本発明の発色材とを同時にシート期待にコーティングする方法が挙げられる。
【0036】
本発明の発色材や発色性インキを備える基体、若しくは本発明の発色性シートは、上述のマイクロカプセルを圧力により破壊することにより酵素と基質が接触し、酵素−基質反応が開始され、発色する。
マイクロカプセルを破壊するためにかける圧力は、破壊が可能であれば特に限定されず、例えば、1cm2あたり、1g〜100kg程度、望ましくは10g〜1kg程度の圧力が挙げられる。該圧力をかける方法は、例えば、ペン等の先のとがった治具で基体表面をなぞる方法、10cm程度の金属ローラーを用いて、基体表面上を転がす方法が挙げられる。
【0037】
本発明の時間−温度インジケーターは、マイクロカプセルを含む本発明の発色材又は発色性シートを備え、圧力により該マイクロカプセルを破壊することで、これらに含まれる前述の酵素及び基質が、特定温度範囲において酵素−基質反応して発色する。
このような発色の制御は、上述の本発明の発色材において、酵素と基質の発色系の種類、その溶剤、濃度等の条件を制御することにより、時間−温度に依存して行うことができる。このような発色の度合いにより対象の時間−温度履歴を検知することができる。特に5〜40℃の比較的低温領域での時間−温度履歴管理は、食品管理等に重要であり、この用途に好適に利用できる。
本発明の発色材は、雰囲気中の微量ガスや水分等の物質に依存して発色の程度を変化させるように制御することが可能であるので、感圧式に測定を開始できるガス検知や湿度測定等に利用することもできる。
【0038】
本発明のガスセンサーは、酵素と、沸点100℃以上の水系溶媒と、発色材料と、マイクロカプセルとを含み、少なくとも酵素がマイクロカプセルに内包し、圧力により該マイクロカプセルを破壊し、検知する所定ガスが、前記水系溶媒の存在下に酵素と接触反応し、更に発色材料と反応して発色する感圧式発色材を備える。
沸点100℃以上の水系溶媒及びマイクロカプセルは、上述の本発明の発色材において例示したものを好ましく用いることができ、上記必須成分以外にも、上述のその他の材料を含ませることも可能である。
【0039】
本発明のガスセンサーに用いる酵素及び発色材料は、検地するガスの存在により発色系となるものであれば良く、例えば、ホルムアルデヒドを検地するための測定系としては、ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼと補酵素NAD+によりホルムアルデヒドを分解することにより生じる蟻酸によるpH変化をpH指示薬で発色させるための該酵素と発色材料、あるいは、ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼと補酵素NAD+によりホルムアルデヒドを分解することにより生じるNADHとフェナジンメト硫酸塩(酸化型)によりフェナジンメト硫酸塩(還元型)を生成せしめ、そのフェナジンメト硫酸塩(還元型)とニトロテトラゾリウムブルーが反応することによりジホルマザン色素を生成し、青色に発色させるための該酵素と発色材料が代表的に挙げられる。
【0040】
本発明のガスセンサーは、本発明の発色材や発色性シートにおける基質の代わりに発色材料を用いたものであって、例えば、上述の基体、特にシート基体に、上述のコーティング方法を用いて、ガスセンサーにおける上記感圧式発色材をコーティングすることにより製造することができる。
本発明のガスセンサーは、前述の圧力によるマイクロカプセルの破壊等と同様な方法により実施することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれらに限定されない。
製造例1
MPC−BMA共重合体の調製(MPC0.7−BMA0.3)
MPC28.0g、ブチルメタクリレート(BMA)12.0gをエタノール160gに溶解し4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ後、60℃でアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.82gを加えて8時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中に撹拌しながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、48時間室温で真空乾燥を行って粉末のMPC−BMA共重合体32.5gを調製した。これをポリマー1と略す。
【0042】
製造例2
MPC−BMA−GLM共重合体の調製(MPC0.4−BMA0.4−GLM0.2)
MPC11.4g、BMA5.5g、GLM3.1gをエタノール180gに溶解し4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹込んだ後、50℃でAIBN0.85gを加えて8時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中に撹拌しながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、48時間室温で真空乾燥を行って、粉末のMPC−BMA−GLM共重合体16.1gを調製した。これをポリマー2と略す。
【0043】
製造例3
酵素含有マイクロカプセルのコーティング液(A)の調製
クロロホルム250gとシクロヘキサン750gとの混合液に、75gのソルビタントリオレートを溶解させ(A−1)液を調製し、氷冷した。ヘキサメチレンジアミン5.0g及び炭酸ナトリウム5.0gを純水200gに溶解させ、更に50mMのマグネシウム塩、アルカリホスファターゼ0.02gを溶解させた(A−2)液を調製した。次いで、(A−2)液を(A−1)液に加えて強く攪拌し、これに、クロロホルム250gとシクロヘキサン750gとの混合液に塩化テレフタル酸10gを溶解させた(A−3)液を徐々に加え、1時間反応させた。反応後、得られたマイクロカプセルを沈降させ、上澄みの溶媒を除去しエタノール500gを加えて洗浄した。このエタノール洗浄をもう一度繰り返し、更に純水により十分洗浄した後、水を除去した。得られたマイクロカプセルスラリーに、ポリビニルアルコール2.5gを純水50gに溶解した液を加えて攪拌し、スチレン−ブタジエンゴムラテックス150gを加えて攪拌し、酵素含有マイクロカプセルのコーティング液(A)を調製した。
【0044】
製造例4
(酵素+グリセリン)含有マイクロカプセルのコーティング液(B)の調製
クロロホルム250gとシクロヘキサン750gとの混合液に、75gのソルビタントリオレートを溶解させ(B−1)液を調製し、氷冷した。ヘキサメチレンジアミン5.0g、炭酸ナトリウム5.0g、グリセリン50gを純水150gに溶解させ、更に50mMのマグネシウム塩、アルカリホスファターゼ0.02gを溶解させた(B−2)液を調製した。次いで、(B−2)液を(B−1)液に加えて強く攪拌し、これに、クロロホルム250gとシクロヘキサン750gとの混合液に塩化テレフタル酸10gを溶解させた(B−3)液を徐々に加え、1時間反応させた。反応後、得られたマイクロカプセルを沈降させ、上澄みの溶媒を除去しエタノールを500g加えて洗浄した。このエタノール洗浄をもう一度繰り返し、さらに純水により十分洗浄した後、水を除去した。得られたマイクロカプセルスラリーに、ポリビニルアルコール2.5gを純水50gに溶解した液を加えて攪拌し、スチレン−ブタジエンゴムラテックス150gを加えて攪拌し、酵素含有マイクロカプセルのコーティング液(B)を調製した。
【0045】
製造例5
(酵素+グリセリン+ポリマー1)含有マイクロカプセルのコーティング液(C)の調製
クロロホルム250gとシクロヘキサン750gとの混合液に、75gのソルビタントリオレートを溶解させ(C−1)液を調製し、氷冷した。ヘキサメチレンジアミン5.0g、炭酸ナトリウム5.0g、グリセリン50gを純水150gに溶解させ、更に、製造例1で製造したポリマー1を1.5g、50mMのマグネシウム塩、アルカリホスファターゼ0.02gを順に溶解させた(C−2)液を調製した。次いで、(C−2)液を(C−1)液に加えて強く攪拌し、これに、クロロホルム250gとシクロヘキサン750gとの混合液に塩化テレフタル酸10gを溶解させた(C−3)液を徐々に加え、1時間反応させた。反応後、得られたマイクロカプセルを沈降させ、上澄みの溶媒を除去しエタノールを500g加えて洗浄した。このエタノール洗浄をもう一度繰り返し、更に純水により十分洗浄した後、水を除去した。得られたマイクロカプセルスラリーに、ポリビニルアルコール2.5gを純水50gに溶解した液を加えて攪拌し、スチレン−ブタジエンゴムラテックス150gを加えて攪拌し、(酵素+グリセリン+ポリマー1)含有マイクロカプセルのコーティング液(C)を調製した。
【0046】
製造例6
(酵素+グリセリン+ポリマー2)含有マイクロカプセルのコーティング液(D)の調製
ポリマー1の代わりに、製造例2で製造したポリマー2を使用した以外は、製造例5と同様にして、(酵素+グリセリン+ポリマー2)含有マイクロカプセルのコーティング液(D)を調製した。
【0047】
製造例7
(酵素+ポリグリセリン)含有マイクロカプセルのコーティング液(E)の調製
グリセリンをポリグリセリンに変更した以外は、製造例4と同様に操作し、(酵素+ポリグリセリン)含有マイクロカプセルのコーティング液(E)を調製した。
【0048】
製造例8
(酵素+ジエチレングリコール)含有マイクロカプセルのコーティング液(F)の調製
グリセリンをジエチレングリコールに変更した以外は、製造例4と同様に操作し、(酵素+ジエチレングリコール)含有マイクロカプセルのコーティング液(F)を調製した。
【0049】
製造例9
(酵素+イソプロパノール)含有マイクロカプセルのコーティング液(G)の調製
グリセリンを低沸点のイソプロパノールに変更した以外は、製造例4と同様に操作し、(酵素+イソプロパノール)含有マイクロカプセルのコーティング液(G)を調製した。
【0050】
製造例10
(基質+グリセリン)含有マイクロカプセルのコーティング液(H)の調製
クロロホルム250gとシクロヘキサン750gとの混合液に、75gのソルビタントリオレートを溶解させ(H−1)液を調製し、氷冷した。ヘキサメチレンジアミン5.0g、炭酸ナトリウム5.0g、グリセリン50gを、50mMのマグネシウム塩を含む水150gに溶解させ、更にニトロブルーテトラゾリウム塩80mg及び5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸トルイジン塩40mgを溶解させた(G−2)液を調製した。次いで、(H−2)液を(H−1)液に加えて強く攪拌し、これに、クロロホルム250gとシクロヘキサン750gとの混合液に塩化テレフタル酸10gを溶解させた(H−3)液を徐々に加え、1時間反応させた。反応後、得られたマイクロカプセルを沈降させ、上澄みの溶媒を除去しエタノールを500g加えて洗浄した。もう一度上澄みの溶媒を除去しエタノールを加えて洗浄した後、溶媒のエタノールを除去した。得られたマイクロカプセルに、ポリビニルアルコール2.5gを溶解した純水50gを加えて攪拌した後、スチレン−ブタジエンゴムラテックス150gを加えて攪拌し、基質含有マイクロカプセルのコーティング液(H)を調製した。
【0051】
製造例11
酵素コーティング液(I)の調製
アルカリホスファターゼ0.01gを、50mMマグネシウム塩を含む0.1Mトリスバッファー(pH9.5)39.95gに溶解し、スチレン−ブタジエンゴムラテックス50gと混合し酵素コーティング液(I)を調製した。
【0052】
製造例12
基質コーティング液(J)の調製
ニトロブルーテトラゾリウム塩80mg及び5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸トルイジン塩40mgを、50mMのマグネシウム塩を含む0.1Mトリスバッファー(pH9.5)40.0gに溶解し、スチレン−ブタジエンゴムラテックス50gと混合し基質コーティング液(J)を調製した。
【0053】
製造例13
酵素含有マイクロカプセル塗布シートの作製
製造例3で調製した、酵素含有マイクロカプセルのコーティング液(A)を100g/m2の基紙上に厚さ20μmで塗布し、35℃の循環式乾燥機で6時間乾燥して酵素含有マイクロカプセル塗布シートを作製した。このシートをEMAと略記する。
【0054】
製造例11〜19
コーティング液(A)の代わりに、製造例4〜12において調製したそれぞれのコーティング液(B)〜(J)を用いた以外は、製造例13と同様に各コーティング液を使用し、シートを作製した。酵素、基質、マイクロカプセル、グリセリン、ポリマー1及びポリマー2のうちの作製したシートに固定された材料、シートの略号及び使用したコーティング液の種類を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
参考例1
感圧トリガー式酵素発色性シートの発色試験
表1に示すシートEMA及びSCJにおける、各コーティング液塗布面を重ねて、感圧トリガー式酵素発色性シートを作製した。次いで、直径2mmのステンレス球を先端に取り付けた治具に、50gの荷重をかけながらシート上をゆっくりとなぞり、温度30℃の環境下に放置した。0分、5分、10分、30分、1時間、2時間、3時間、6時間、12時間、24時間後に発色の状況(明度の低下の状況として示す)を、簡易型分光色差計NF333(日本電色工業株式会社製)にて評価した。結果を表2に示す。この際、明度が70以下となるのに要した時間は1時間であった。
【0057】
【表2】

【0058】
実施例1
感圧トリガー式酵素発色性シートの発色試験
シートとして、表1に示すEMB及びSCJを用いた以外は、参考例1と同様に発色性シートを作製し、発色の状況を評価した。結果を表3に示す。この際、明度が70以下となるのに要した時間は10分であった。
【0059】
【表3】

【0060】
実施例2〜8
表4に示すシートの組み合わせ、並びに温度を変更した以外は、実施例1と同様に発色性シートを作製し、発色の状況を評価した。明度が70以下となった時間及び1時間後の明度を、参考例1及び実施例1の結果と合わせて表4に示す。
実施例1〜実施例4では、同一の材料で温度環境の違いにより発色状況を制御できており、1時間後の明度の数値により材料が置かれていた温度環境を知ることができた。また、参考例1では、沸点100℃以上の水系溶媒を含んでいないので、同温度での試験を行った実施例1に比して明度が70以下となる時間が長かった。
【0061】
【表4】

【0062】
実施例9
感圧トリガー式酵素発色性シートの発色試験
シートとして、表1に示すEME及びSCJを用いた以外は、実施例1と同様に発色性シートを作製し、発色の状況を評価した。結果を表5に示す。この際、明度が70以下となるのに要した時間は10分であった。
【0063】
【表5】

【0064】
実施例10
感圧トリガー式酵素発色性シートの発色試験
シートとして、表1に示すEMF及びSCJを用いた以外は、実施例1と同様に発色性シートを作製し、発色の状況を評価した。結果を表6に示す。この際、明度が70以下となるのに要した時間は10分であった。
【0065】
【表6】

【0066】
比較例1
マイクロカプセルを使用しない場合
表1に示すシートECI及びSCJの塗布面を重ねて、感圧トリガー式酵素発色性シートを作製した。塗布面を重ねた直後から発色し、感圧式に任意の時点での反応開始ができなかった。
【0067】
比較例2
シートとして、表1に示すEMG及びSCJを用いた以外は、実施例1と同様に発色性シートを作製し、発色の状況を評価した。結果を表7に示す。この際、明度が70以下となるのに要した時間は、沸点100℃以上の水系溶媒を用いていないので2時間と長時間を要した。
【0068】
【表7】

【0069】
実施例11〜13
耐久性試験(50℃、4時間)
表8に示す各シートを50℃で4時間保存した後に、表8に示すシートの組み合わせで、実施例1と同様に発色性シートを作製し、発色の状況を評価した。明度が70以下となった時間及び1時間後の明度を、表8に示す。
【0070】
【表8】

【0071】
比較例3
マイクロカプセルを使用しない場合の耐久性試験(50℃、4時間)
表1に示すシートECI及びSCJを50℃で4時間保存した後に塗布面を重ねて、感圧トリガー式酵素発色性シートを作製した。その結果、塗布面を重ねた直後に弱く発色し、感圧式に任意の時点での反応開始ができなかった。
【0072】
実施例14〜16
耐久性試験(60℃、4時間)
表9に示す各シートを60℃で4時間保存した後に、表9に示すシートの組み合わせで、実施例1と同様に発色性シートを作製し、発色の状況を評価した。明度が70以下となった時間及び1時間後の明度を、表9に示す。
【0073】
【表9】

【0074】
比較例4
マイクロカプセルを使用しない場合の耐久性試験(60℃、4時間)
表1に示すシートECI及びSCJを60℃で4時間保存した後に塗布面を重ねて、感圧トリガー式酵素発色性シートを作製した。その結果、塗布面を重ねた直後の明度は89であり、その後も変化が無く、圧力をかけた後にも発色せず、明度の変化がなかった。
【0075】
実施例17
感圧トリガー式酵素発色材+多価アルコールの発色試験
表1に示すシートEMAの塗布面にジエチレングリコール5質量%含むエタノール溶液を噴霧し、40℃の温風でエタノールを乾燥させた。次いで、表1に示すシートSCJの塗布面を重ねて、実施例1と同様の操作で発色の状況を調べた。結果を表10に示す。明度が70以下となった時間は10分であり、1時間後の明度は61であった。
【0076】
【表10】

【0077】
実施例18
感圧トリガー式酵素発色材+多価アルコールの発色試験
表1に示すシートEMAの塗布面にジグリセリン5質量%含むエタノール溶液を噴霧し、40℃の温風でエタノールを乾燥させた。次いで、表1に示すシートSCJの塗布面を重ねて、実施例1と同様の操作で発色の状況を調べた。結果を表11に示す。明度が70以下となった時間は10分であり、1時間後の明度は55であった。
【0078】
【表11】

【0079】
実施例19
感圧トリガー式酵素発色材と感圧紙とを組み合わせた発色性シートの発色試験
表1に示すシートEMB及びSCJの塗布面を重ね、更に裏面に市販のノーカーボン紙を重ねて、感圧トリガー式酵素発色性シートを作製した。実施例1と同様に直径2mmのステンレス球を先端に取り付けた治具に50gの荷重をかけながら発色性シートの上をゆっくりとなぞり、温度30℃の環境下で酵素反応を開始させた。ノーカーボン紙の黒色が発色性シートの裏面に記録された。表側の発色の状況を表12に示す。明度が70以下となった時間は10分であり、1時間後の明度は60であった。黒色の記録により酵素反応が開始されたことが明確に表示された。
【0080】
【表12】

【0081】
実施例20
感圧トリガー式酵素発色材からなるインク
製造例6で調製した、酵素+グリセリン+MPC−BMA−GLM共重合体含有マイクロカプセルのコーティング液(D)を10g取り、純水10gで希釈し、更にスチレン−無水マレイン酸共重合体1.5g、イソプロパノール40gを加えて攪拌した。次いで、製造例12で調製した基質コーティング液(J)を5g加えて混合し、感圧トリガー式酵素発色材からなるインクを調製した。このインクを多孔質のインキ浸透印にて紙に印字した。印字部分の乾燥後、30℃の環境下で実施例1と同様の方法で圧力をかけてなぞり、酵素反応を開始させた。30分後には圧力をかけてなぞった部分のみで、明確に発色した。
【0082】
実施例21
ガスセンサー用の、酵素+グリセリン+ポリマー1含有マイクロカプセルの調製
クロロホルム250gとシクロヘキサン750gとの混合液に、75gのソルビタントリオレートを溶解させ(K−1)液を調製し、氷冷した。ヘキサメチレンジアミン5.0g、炭酸ナトリウム5.0g及びグリセリン50gを、純水150gに溶解させ、更にポリマー1を1.5g、ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ0.02gを順に溶解させた(K−2)液を調製した。(K−2)液を(K−1)液に加えて強く攪拌し、これに、クロロホルム250gとシクロヘキサン750gとの混合液に塩化テレフタル酸10gを溶解させた(K−3)液を徐々に加え、1時間反応させた。反応後、得られたマイクロカプセルを沈降させ、上澄みの溶媒を除去しエタノールを500g加えて洗浄した。このエタノール洗浄をもう一度繰り返し、更に純水により十分洗浄した後、水を除去した。得られたマイクロカプセルスラリーにポリビニルアルコール2.5gを純水50gに溶解した液を加えて攪拌し、スチレン−ブタジエンゴムラテックス150gを加えて攪拌し、酵素+グリセリン+ポリマー1含有マイクロカプセルのコーティング液(K)を調製した。
【0083】
ガスセンサー用酵素含有マイクロカプセル塗布シートの作製
上記コーティング液(K)を、100g/m2の基紙上に厚さ20μmで塗布し、35℃の循環式乾燥機で6時間乾燥して酵素含有マイクロカプセル塗布シートを作製した。このシートをEMKと略記する。
【0084】
ガスセンサー用発色材料コーティングシートの作製
補酵素NAD+160mg、フェナジンメト硫酸塩(酸化型)4mg及びニトロテトラゾリウムブルー40mgを、pH7.5の50mMリン酸緩衝液40.0gに溶解し、スチレン−ブタジエンゴムラテックス50gと混合し発色材料コーティング液(L)を調製した。このコーティング液(L)を、100g/m2の基紙上に厚さ20μmで塗布し、35℃の循環式乾燥機で6時間乾燥して発色材料コーティングシートを作製した。このシートをSCLと略記する。
【0085】
感圧式発色材を備えたガスセンサーの作製
シートEMK及びSCLの塗布面を重ねて、感圧式発色材を供えたガスセンサーを作製した。これを、まずホルムアルデヒドガス1〜5ppmの濃度に保ったデシケータ―に入れ10分間放置したが変化は無かった。その後このセンサーを取り出し、真空乾燥機中で24時間乾燥して吸着したホルムアルデヒドガスを取り除いた後、直径2mmのステンレス球を先端に取り付けた治具に50gの荷重をかけながら表面上をゆっくりとなぞり、酵素反応を開始させた。そのまま室内に10分間放置したが変化は無かった。次に、これを10分間ホルムアルデヒドガス1〜5ppmのデシケータ―に入れたところ、青色に発色し、圧力をかけた後にガスセンサーとして機能した。
【0086】
比較例5
ガスセンサー用酵素コーティングシートの作製
ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ0.01gを、pH7.5の50mMリン酸緩衝液39.95gに溶解し、スチレン−ブタジエンゴムラテックス50gと混合し酵素コーティング液(M)を得た。このコーティング液(M)を100g/m2の基紙上に厚さ20μmで塗布し、35℃の循環式乾燥機で6時間乾燥して酵素塗布シートを作製した。このシートをECMと略記する。
【0087】
ガスセンサーの作製
シートECM及びSCLの塗布面を重ねて、ガスセンサーを作製した。これを、まずホルムアルデヒドガス1〜5ppmの濃度に保ったデシケータ―に入れ10分間放置したところ、青色に発色し、圧力をかける前に酵素反応による発色が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素−基質反応して発色する、酵素及び基質と、沸点100℃以上の水系溶媒と、マイクロカプセルとを含み、酵素及び基質の少なくとも一方がマイクロカプセルに内包し、圧力により該マイクロカプセルを破壊することで、前記水系溶媒の存在下に酵素−基質反応して発色することを特徴とする感圧トリガー式酵素発色材。
【請求項2】
酵素及び基質が接触しないように、各々別のマイクロカプセルに内包している請求項1記載の発色材。
【請求項3】
前記水系溶媒が、マイクロカプセルの全部もしくは一部に内包している請求項1又は2記載の発色材。
【請求項4】
酵素が内包したマイクロカプセル中に、酵素安定化剤を含む請求項1〜3のいずれか1項記載の発色材。
【請求項5】
酵素安定化剤が、ホスホリルコリン基含有重合体である請求項4記載の発色材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の発色材を含む発色性インキ。
【請求項7】
シート基体の表面に、請求項1〜5のいずれか1項記載の発色材を備えた発色性シート。
【請求項8】
2枚のシート基体を積層したシートを備え、一方のシート基体の積層面に酵素を備え、他方のシート基体の積層面に基質を備えた請求項7記載の発色性シート。
【請求項9】
感圧紙を更に備える請求項7又は8記載の発色性シート。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項記載の発色材を酵素と基質とが各別になるように分割し、2枚のシート基体のそれぞれ一方の表面に塗布固定し、該発色材成分を固定した表面が重なるように、シート基体を積層することを特徴とする請求項8記載の発色性シートの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項記載のマイクロカプセルを含む発色材を備え、圧力により該マイクロカプセルを破壊することで、該発色材における酵素及び基質が、特定温度範囲において酵素−基質反応して発色することを特徴とする時間−温度インジケーター。
【請求項12】
請求項7〜9のいずれか1項記載のマイクロカプセルを含む発色性シートを備え、圧力により該マイクロカプセルを破壊することで、該発色性シートにおける酵素及び基質が、特定温度範囲において酵素−基質反応して発色することを特徴とする時間−温度インジケーター。
【請求項13】
酵素と、沸点100℃以上の水系溶媒と、発色材料と、マイクロカプセルとを含み、少なくとも酵素がマイクロカプセルに内包し、圧力により該マイクロカプセルを破壊し、検知する所定ガスが、前記水系溶媒の存在下に酵素と接触反応し、更に発色材料と反応して発色する感圧式発色材を備えることを特徴とするガスセンサー。
【請求項14】
酵素が内包したマイクロカプセル中に、酵素安定化剤を含む請求項13記載のガスセンサー。
【請求項15】
酵素安定化剤が、ホスホリルコリン基含有重合体である請求項14記載のガスセンサー。

【公開番号】特開2008−105358(P2008−105358A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292877(P2006−292877)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】