説明

感放射線性レジスト組成物及びパターン形成方法

【課題】 ソルベントクラックを抑制した膜厚の大きなレジスト層を形成することが可能であり、これにより、高アスペクト比で微細構造を形成可能なレジスト組成物を提供すること。
【解決手段】次の成分(A)ないし(C)
(A)放射線で露光することにより現像液に可溶となるベース樹脂、
(B)一般式(1)
【化1】


(式中、Rは、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖アルキル基を示し、nは1〜5の整数を示す)
で表される繰り返し単位を有する樹脂
(C)有機溶剤
を含有することを特徴とするレジスト組成物並びにレジスト組成物を基材に塗布してレジスト膜を得る第1の工程と、得られたレジスト膜に放射線を照射して所望のパターンに露光する第2の工程と、露光後のレジスト膜を現像して露光域のレジストを溶解除去してパターン層を得る第3の工程とを有することを特徴とするパターン形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線、X線または集束イオンビーム等の放射線を照射して微細構造を形成する際に用いられるレジスト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、近接X線マスクを使用し、X線を照射してパターンをレジスト層(ポリメチルメタクリレート:PMMA)に転写するLIGA(Lithographie, Galvanoformung und Abformung)と称されるプロセスが利用されるようになっている(非特許文献1)。LIGAプロセスは、アスペクト比(加工幅に対する加工深さの比)を大きくすることができるという優れた特徴を有し、ナノインプリント等の微細加工装置に使用される金型等の製作に利用されている。
【0003】
しかし、LIGAには近接X線マスクを製作しなければならず、そのためのコストや労力を要するという問題を有しているため、マスクレスで直接レジスト層にパターンを露光する方法として、水素イオン(プロトン)、ヘリウムイオン、またはリチウムイオン等の軽イオンのビームを用いた微細加工プロセスが開発されている(特許文献1)。なかでも、ミクロンからサブミクロンサイズに集束したMeV(百万電子ボルト)オーダーのエネルギーを持つプロトンビームを走査しながら描画するPBW(Proton Beam Writing)の露光プロセスは、高アスペクト比の微細構造形成が可能なプロセスとしてナノインプリント用の金型やバイオデバイス等の製造技術として期待されている(非特許文献2)。
【0004】
この集束プロトンビームは、同じ進入深さの電子線に比べて、<1>物質中での横方向散乱が極めて小さく、直進性が高い、<2>任意の描画パターンが直接描画により形成可能、<3>加工深さをビームエネルギーにより制御可能、といった特徴を有する。このため、電子線と比較して高アスペクト比構造が形成可能であり、X線やUV光で不可欠なマスクが不要であるといった優位点がある。
【0005】
ところが、LIGAやPBWの技術に対応した専用レジストが市販されていないため、これらに用いるレジストとして、電子線レジストとして市販されているPMMAなどを代替利用しているのが現状である。
【0006】
また、当該技術を用いて高アスペクト比の微細構造を形成するためには、レジストを数十〜数百μm程度の膜厚で基材に塗布する必要があるが、このような厚膜を一回でスピンコートすることは技術的に困難であり、一般的には、レジストの重ね塗り(マルチレイヤーコート法)が行われている。
【0007】
しかしながら、市販されているPMMAなどを用い、マルチレイヤーコート法で形成したレジスト層は、LIGAやPBWプロセスにおいて、現像時に内部応力によってクラック(ソルベントクラック)が発生することが知られており、ソルベントクラックの制御がこれらのプロセスの課題のひとつとされている(非特許文献3)。
【0008】
このほかにも、PMMAの厚膜を得る方法として、市販のPMMAシートを直接基板に貼り付ける接着法(例えば特許文献2など)や、PMMAとメチルメタクリレート(MMA)に重合開始剤を混合してスペーサーを付した基板に滴下し、加熱重合させてレジスト層を形成するキャスティング法(例えば特許文献3など)が知られている。
【0009】
しかしながら、接着法では、基板とレジスト層との間の隙間への気泡の取り込み等によってレジスト層と基板とが部分的に接着されない領域が発生しやすく、その結果、レジスト層への露光及び現像等の工程を経て形成される微細パターンが基板から剥離したり、パターン倒れが発生する等の問題を有していた。また、キャスティング法では、重合による体積変化によって膜厚が不均一になったり、内部応力による反りやクラックの発生によってレジスト層と基板との間の接着力不足が生じる等の問題を有していた。
【0010】
一方、熱可塑性樹脂に耐衝撃性や柔軟性を付与する目的で、軟質化剤としてポリイソブチルビニルエーテルやポリエチルビニルエーテルなどの低級アルキルビニルエーテルポリマーを添加する技術が知られている(特許文献4)。しかしながら、この特許文献では、熱可塑性樹脂の多くの例の一つとしてポリアクリル樹脂が開示されているものの、PMMA等のポリアクリル樹脂に低級アルキルビニルエーテルポリマーを添加した例は開示されていないし、ましてや、上記低級アルキルビニルエーテルポリマーをレジスト樹脂に加えた場合の効果は全く記載されておらず、ソルベントクラックに対する作用などについては、示唆さえない。
【0011】
更にまた、これらの低級アルキルビニルエーテルポリマーは、PMMAと共に有機溶剤と混合した場合に、均一なワニスとすることが困難な場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2001−503569号公報
【特許文献2】特開平7−092687号公報
【特許文献3】特表平7−507355号公報
【特許文献4】特開2003−138140号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】http://www.ritsumei.ac.jp/se/~sugiyama/research/re_5.1.html
【非特許文献2】http://www.rada.or.jp/database/home4/normal/ht-docs/member/ synopsis/010310.html
【非特許文献3】Madou著, "Fundamentals of Microfabrication", CRC出版, Boca Raton, FL, USA, 2002年,p.336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、ソルベントクラックを抑制した膜厚の大きなレジスト層を形成することが可能であり、これにより、高アスペクト比で微細構造を形成可能なレジスト組成物の提供をその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明らは鋭意検討した結果、PMMAなどのベース樹脂に特定構造を有する樹脂を添加することで得られたレジスト組成物は、高分解能性、高アスペクト比パターンニング性を犠牲にすることなく、ソルベントクラックを抑制することが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、次の成分(A)ないし(C)
(A)放射線で露光することにより現像液に可溶となるベース樹脂
(B)一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖アルキル基を示し、nは1〜5の整数を示す)
で表される繰り返し単位を有する樹脂
(C)有機溶剤
を含有することを特徴とするレジスト組成物である。
【0017】
また本発明は、上記のレジスト組成物を基材に塗布してレジスト膜を得る第1の工程と、得られたレジスト膜に放射線を照射して所望のパターンに露光する第2の工程と、露光後のレジスト膜を現像して露光域のレジストを溶解除去してパターン層を得る第3の工程とを有することを特徴とするパターン形成方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のレジスト組成物は、電子ビーム、X線、イオンビーム等の放射線を用いるリソグラフィー技術に用いることができ、特に、高分解能性、高アスペクト比パターンニング性を犠牲にすることなく、厚膜化した際のソルベントクラックの発生を抑制することができることから、X線や集束イオンビームを用いた高アスペクト比の微細構造形成プロセスに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例24及び比較例11における描画パターンである。
【図2】実施例24で得られたパターンの光学顕微鏡写真である。
【図3】比較例11で得られたパターンの光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の成分(A)であるベース樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やこれを共重合成分として含むポリマーが挙げられるが、PMMAが好ましい。このPMMAの重量平均分子量は好ましくは100,000〜2,000,000である。この範囲を外れると、解像性が低下したり、良好な膜形成ができなくなる場合がある。
【0021】
また、本発明のレジスト組成物の成分(B)は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂である。この一般式(1)において、Rで示される炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−アミル基、イソアミル基等が挙げられる。
【0022】
前記一般式(1)で示される繰り返し単位を与える単量体としては、例えば、2−メトキシエチルビニルエーテル、2−エトキシエチルビニルエーテル、2−(2−メトキシエトキシ)エチルビニルエーテル、2−(2−エトキシエトキシ)エチルビニルエーテル、2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチルビニルエーテル、2−(2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ)エチルビニルエーテル、2−(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチルビニルエーテル、2−(2−(2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0023】
上記成分(B)の樹脂には、更に、本発明の効果に影響を与えない範囲で他の繰り返し構造を含んでいてもよい。
【0024】
成分(B)である樹脂の重量平均分子量は、1,000〜100,000程度であり、好ましくは3,000〜50,000の範囲である。重量平均分子量が上記範囲に満たない場合は、ソルベントクラック抑制の効果が十分に得られない場合があり、上記範囲を超える場合は、有機溶剤への溶解性が悪くなり、均一なレジスト膜が得られなくなる場合がある。
【0025】
本発明のレジスト組成物における成分(B)の配合量は、ベース樹脂である成分(A)100質量部に対して1〜40質量部が好ましく、3〜30質量部が特に好ましい。樹脂(B)の配合量が上記範囲に満たない場合は、ソルベントクラック抑制の効果が十分に得られない場合があり、上記範囲を超える場合は、有機溶剤への溶解性が悪くなり、均一なレジスト膜が得られなくなる場合がある。
【0026】
更に、本発明のレジスト組成物に成分(C)として用いられる有機溶剤は、ベース樹脂(A)及び樹脂(B)を溶解するものであればいずれも使用することができる。このような有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、安息香酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、β−イソブチル酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等のセロソルブエステル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールエステル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、iso−ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、ベンゼン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒から選ばれる溶媒等が挙げられ、中でも、アニソール、クロロベンゼン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチルセロソルブアセテート等が好ましく用いられる。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
成分(C)である有機溶剤の使用量は、レジスト組成物を基板に均一に塗布することが可能な範囲で適宜選択されるが、通常、ベース樹脂である成分(A)100質量部に対して100〜10000質量部の範囲で用いられ、好適には200〜1000質量部の範囲で用いられる。
【0028】
本発明のレジスト組成物には、上記成分以外に任意成分として塗布性を向上させるために慣用されている界面活性剤や、安定剤、色素、他の高分子化合物などの他の成分を添加してもよい。なお、これら任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常使用される量とすることができる。
【0029】
以上のようにして得られる本発明のレジスト組成物は、電子ビーム、X線、イオンビーム等の放射線を用いるリソグラフィー技術に用いることができ、特に、高分解能性、高アスペクト比パターンニング性を犠牲にすることなく、厚膜化した際のソルベントクラックの発生を抑制することができることから、X線や集束イオンビームを用いた高アスペクト比の微細構造形成プロセスに好適に用いることができる。
【0030】
上記微細構造形成プロセスは、本発明のレジスト組成物を基材に塗布してレジスト膜を得る第1の工程と、得られたレジスト膜に放射線を照射して所望のパターンに露光する第2の工程と、露光後のレジスト膜を現像して露光域のレジストを溶解除去してパターン層を得る第3の工程とを含むものである。
【0031】
これら工程のうち、第1の工程は、本発明のレジスト組成物を基材に塗布する工程である。レジスト組成物を機材に塗布するための塗布法には特に制限はなく、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法およびインクジェット印刷法等の公知の塗布方法を適用することができる。特に本発明のレジスト組成物は、現像時の内部応力によるクラック発生を抑制する特徴を有するので、スピンコート法等の簡便な方法を繰り返すことにより厚膜塗布する場合において効果的に用いることができる。
【0032】
また、レジスト組成物を塗布する支持基材は特に制限されず、例えば、シリコン、アルミ、銅、サファイア、ガラス、樹脂フィルム等の各種基材を任意に使用することができる。更に、これら支持基材に金、銀、銅、アルミニウムなどの金属薄膜層を蒸着させたものを使用することもできる。これら支持基材は、接着性向上等を目的として基材の前処理を行うこともでき、例えば、シラン処理を行うことで接着性向上が期待できる。
【0033】
塗布後の塗膜の乾燥方法に特に制限はないが、レジスト組成物に含まれる有機溶剤が揮発し、かつ発泡やタックの無いレジスト膜を形成できる温度および時間で乾燥を行うことが好ましい。なお、レジスト膜の膜厚は特に制限はないが、高アスペクト比のパターンを得る場合は、通常5〜200μm、好ましくは10〜150μm、より好ましくは15〜100μmである。
【0034】
前記第1の工程で得られたレジスト膜に、第2の工程では放射線を照射して所望のパターンに露光する。露光に用いられる放射線は、電子ビーム、X線、イオンビームの内の少なくとも一つであり、上述したように、特に、X線や集束イオンビームを用いる高アスペクト比の微細構造形成プロセスにおいて、本発明の効果がより顕著に発揮される。イオンビームとしては、水素イオン(プロトン)、ヘリウムイオン、リチウムイオン等の軽イオンの高エネルギービームが用いられ、特にミクロンからサブミクロンサイズに集束したMeV(百万電子ボルト)オーダーのエネルギーを持つプロトンビームが好適に用いられる。放射線としてX線を照射する場合は、近接X線マスクを用いてパターンをレジスト層に転写することができる。また、集束イオンビームを用いる場合は、マスクレスで直接レジスト層にパターンを描画することが可能である。
【0035】
第2の工程で露光したレジスト膜は、第3の工程により現像して露光域のレジストを溶解除去してパターン層を得ることができる。この現像は、PMMAを含むベース樹脂に使用される公知の現像液を用いて行うことができる。具体的な現像液の例としては、メチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンとイソプロパノールの混合液、イソプロパノールと水の混合液、メチルエチルケトンとエタノールの混合液、セロソルブとメタノールの混合液、メチルイソブチルケトンとメチルエチルケトンとセロソルブの混合液、乳酸イソアミルと乳酸エチルの混合液などが挙げられる。また、現像時のクラックを防止するための現像液として、水と任意な割合で混合可能な炭素数6以上のグリコールエーテル、含窒素塩基性有機溶剤、水を含有する現像液も好適に用いられ、例えば、X線リソグラフィーでは、PMMA用の現像液としてGG現像液〔組成は、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール60vol%、モルホリン20vol%、2−アミノエタノール5vol%、水15vol%〕が用いられる。
【0036】
上記した本発明のパターン形成方法によれば、レジスト膜が厚膜かつ高強度で、解像度も優れているため、高アスペクトパターンを形成することができる。
【実施例】
【0037】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0038】
参 考 例 1
ポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)(以下、「PMOVE−L」と記載す る)の合成:
三方活栓をつけたガラス容器を準備し、アルゴン置換後、アルゴン雰囲気下で加熱してガラス容器内の吸着水を除いた。容器内にメトキシエチルビニルエーテル(以下、「MOVE」と記載する)0.37M、酢酸エチル0.44M、1−ブトキシエチルアセテート(以下、「IBEA」と記載する)15.8mMおよびトルエン454mlを入れ、冷却した。系中温度が0℃に達したところでEt1.5AlCl1.5のトルエン溶液を11.5mM加えて重合を開始した。これを0℃で15分撹拌後、反応液にメタノールを添加し、反応を停止した。
【0039】
上記反応溶液にアンバーリストMSPS2−1・DRY〔商品名、オルガノ(株)製〕を9wt%添加し、室温で1時間攪拌した後、孔径1μmのフィルターに通液させた。この溶液をエバポレーターで減圧濃縮し、孔径0.45μmのフィルターに通液させてPMOVE−Lを得た。
【0040】
参 考 例 2
ポリ(2−メトキシエチルビニルエーテル)(以下、「PMOVE−H」と記載す る)の合成:
三方活栓をつけたガラス容器を準備し、アルゴン置換後、アルゴン雰囲気下で加熱してガラス容器内の吸着水を除いた。容器内にMOVE 0.78M、酢酸エチル 0.77M、IBEA 2mMおよびトルエン 415mlを入れ、冷却した。系中温度が0℃に達したところでEt1.5AlCl1.5のトルエン溶液を13.3mM加えて重合を開始した。これを0℃で2時間撹拌後、反応液にメタノールを添加し反応を停止した。
【0041】
上記反応溶液に活性アルミナを13.8wt%添加し、室温で5時間攪拌した後、孔径1μmのフィルターに通液させた。この溶液をエバポレーターで減圧濃縮し、PMOVE−Hを得た。
【0042】
参 考 例 3
ポリ(2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチルビニルエーテル)(
以下、「PTEGVE」と記載する)の合成:
三方活栓をつけたガラス容器を準備し、アルゴン置換後、アルゴン雰囲気下で加熱してガラス容器内の吸着水を除いた。容器内に2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチルビニルエーテル 0.51M、酢酸エチル 0.15M、1,4−ビス(アセトキシエトキシ)ブタン 3.22mMおよびトルエン 408mlを入れ、冷却した。系中温度が0℃に達したところでEt1.5AlCl1.5のトルエン溶液を5.44mM加えて重合を開始した。これを0℃で2時間撹拌後、反応液に1Mアンモニア/メタノール溶液を添加し反応を停止した。
【0043】
上記反応溶液にアンバーリストMSPS2−1・DRY〔商品名、オルガノ(株)製〕を11wt%添加し、室温で1時間攪拌した後、孔径1μmのフィルターに通液させた。この溶液をエバポレーターで減圧濃縮し、孔径0.45μmのフィルターに通液させてPTEGVEを得た。
【0044】
参 考 例 4
ポリエチルビニルエーテル(以下、「PEVE」と記載する)の合成:
三方活栓をつけたガラス容器を準備し、アルゴン置換後、アルゴン雰囲気下で加熱してガラス容器内の吸着水を除いた。容器内にエチルビニルエーテル 2.02M、酢酸エチル 0.16M、IBEA 5.89mMおよびトルエン 380mlを入れ、冷却した。系中温度が0℃に達したところでEt1.5AlCl1.5のトルエン溶液を7.88mM加えて重合を開始した。これを0℃で1.5時間撹拌後、反応液に1Mアンモニア/メタノール溶液を添加し反応を停止した。
【0045】
上記反応溶液にアンバーリストMSPS2−1・DRY〔商品名、オルガノ(株)製〕を11wt%添加し、室温で1時間攪拌した後、1μmのフィルターに通液させた。この溶液を孔径0.45μmのフィルターに通液させて、エバポレーターで減圧濃縮しPEVEを得た。
【0046】
参 考 例 5
ポリトリシクロデカニル〔5.2.1.02,6〕ビニルエーテル(以下、「PTCD
VE」と記載する)の合成:
三方活栓をつけたガラス容器を準備し、アルゴン置換後、アルゴン雰囲気下で加熱してガラス容器内の吸着水を除いた。容器内にトリシクロデカニル〔5.2.1.02,6〕ビニルエーテル 0.962M、酢酸エチル 0.91M、1,4−ビス(アセトキシエトキシ)ブタン 8.44mMおよびトルエン 2140mlを入れ、冷却した。系中温度が0℃に達したところでEt1.5AlCl1.5のトルエン溶液を11.2mM加えて重合を開始した。これを0℃で45分撹拌後、反応液にメタノールを添加し、反応を停止した。
【0047】
上記反応溶液にアンバーリストMSPS2−1・DRY〔商品名、オルガノ(株)製〕を7.5wt%添加し、室温で1時間攪拌した後、孔径1μmのフィルターに通液させた。この溶液をメタノールに沈殿させてポリマーを回収しPTCDVEを得た。
【0048】
参考例1〜5で得られたビニルエーテル樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および多分散度(Mw/Mn)を下の表1に示す。なお、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および多分散度(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により標準ポリスチレンの検量線から求めた〔GPC装置:HLC−8220GPC((株)東ソー製)、検出器:RI検出器、カラム:KF804L(Shodex社製)×3本、溶離液:テトラヒドロフラン〕。
【表1】

【0049】
実 施 例 1
(1)レジスト組成物の調製:
Mwが996000のポリメチルメタクリレート(SIGMA−Aldrich社製、以下、「PMMA−H」という)13.3重量部とアニソール 56.7重量部を均一に溶解させ、ADVANTEC社製加圧濾過器を用い、日本ミリポア社製PTFEメンブレンフィルター(ポアサイズ5ミクロン)にて加圧濾過した。得られた調合液5重量部に上記参考例1で得られたビニルエーテル樹脂(PMOVE−L)を0.0475重量部配合し、均一になるまで十分混合させ、レジスト組成物1を調製した。
【0050】
(2)レジスト膜の作製:
シリコンウエハーをスピンコーター(MIKASA社製1H−DX)にセットして上記レジスト組成物1を滴下し、500回転で5秒間、さらに1000回転で20秒間スピン塗布し、5秒間かけて回転を停止させた。
【0051】
その後、ホットプレート上で、85℃で5分、120℃で20分、さらに85℃で2分間加熱乾燥させ、室温まで放冷した。得られたレジスト膜の膜厚を表2に示す。なお、膜形成後の膜厚は、エリプソメーター(Foothill社製KT−22)で塗布面5点の膜厚測定を実施し、その平均値を求めた。
【0052】
(3)クラックテスト:
レジスト塗布された試験片を現像液(イソプロパノール70重量部、イオン交換水30重量部)に15分間浸漬した。その後、イオン交換水中に移しリンスさせ、付着水を乾燥させた後、クラックの有無を目視にて確認した。クラックが確認されなかった試験片は○、クラックが確認された試験片は×と評価した。クラックテストの結果を後記表2に示す。
【0053】
実 施 例 2〜10
実施例1と同様にして、表2に示す組成および重量部でレジスト組成物2〜10を調製した。得られたレジスト組成物を用いてレジスト膜を作製し、この膜についてクラックテストを実施した。膜形成後の膜厚及びクラックテストの結果を表2に示す。
【0054】
比 較 例 1〜6
実施例1と同様にして、表2に示す組成および重量部でレジスト組成物11〜16を調製した。得られたレジスト組成物を用いてレジスト膜を作製し、この膜についてクラックテストを実施した。なお、レジスト組成物11およびレジスト組成物16に関しては、ビニルエーテル樹脂を配合せずに、ポリメチルメタクリレートと溶剤のみのレジスト組成物とした。膜形成後の膜厚及びクラックテストの結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
実 施 例 11〜18 及び 比 較 例 7〜10
実施例2〜8、10及び比較例1、2、4、6で調製したレジスト組成物を用い、実施例1と同様の膜形成作業を2度繰り返すことで2度重ね塗りしたレジスト膜を作製した。この膜について実施例1と同様にしてクラックテストを実施した。膜形成後の膜厚及びクラックテストの結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
実 施 例 19〜23
実施例4〜8で調製した組成物4〜8を用いて、実施例1と同様の膜形成作業を3度繰り返すことで3度重ね塗りしたレジスト膜を作製し、実施例1と同様にしてクラックテストを実施した。膜形成後の膜厚及びクラックテストの結果を表4に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
実 施 例 24
レジスト塗布膜のパターン評価:
実施例4で調製した組成物4を用い、実施例1と同様の重ね塗り手法を5回繰り返して厚膜の塗布膜を形成した。この塗布膜に加速電圧1MeV、ビーム径1.2μmのプロトンビームを用いて、図1に示すパターンを描画した。描画後、現像液(イソプロパノール70重量部、イオン交換水30重量部)に15分間浸漬した後、イオン交換水中に移しリンスさせ、付着水を乾燥させ、パターンを光学顕微鏡で観察した。この評価結果を後記表5に示す。
【0061】
比 較 例 11
比較例1で調製した組成物11を用い、実施例24と同様にしてレジスト塗布膜のパターン評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
表2〜5から明らかなように、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂を含有するレジスト組成物は現像時にクラックが発生せず、良好なパターンが形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明で得られるレジスト組成物は、厚膜化した場合であってもソルベントクラックの発生が抑制されるので、高分解能性、高アスペクト比パターンニング性を犠牲にすることなく電子ビーム、X線、イオンビーム等の放射線を用いるリソグラフィー技術に用いることができ、特にX線や集束イオンビームを用いた高アスペクト比の微細構造形成プロセスに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)ないし(C)
(A)放射線で露光することにより現像液に可溶となるベース樹脂、
(B)一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖アルキル基を示し、nは1〜5の整数を示す)
で表される繰り返し単位を有する樹脂
(C)有機溶剤
を含有することを特徴とするレジスト組成物。
【請求項2】
前記成分(A)のベース樹脂が、ポリメチルメタクリレート(PMMA)である請求項1記載のレジスト組成物。
【請求項3】
前記成分(B)の樹脂の重量平均分子量が1,000〜100,000である請求項1又は2に記載のレジスト組成物。
【請求項4】
前記成分(A)100質量部に対し、前記成分(B)の樹脂を1〜40質量部含む請求項1〜3のいずれか1項記載のレジスト組成物。
【請求項5】
前記成分(C)が、アニソール、クロロベンゼン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートおよびエチルセロソルブアセテートからなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1〜4のいずれか1項記載のレジスト組成物。
【請求項6】
前記放射線が、電子線、X線または集束イオンビームである請求項1〜5のいずれか1項記載のレジスト組成物。
【請求項7】
前記放射線が、集束プロトンビームであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のレジスト組成物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のレジスト組成物を基材に塗布してレジスト膜を得る第1の工程と、得られたレジスト膜に放射線を照射して所望のパターンに露光する第2の工程と、露光後のレジスト膜を現像して露光域のレジストを溶解除去してパターン層を得る第3の工程とを有することを特徴とするパターン形成方法。
【請求項9】
前記露光工程において、放射線が電子線、X線または集束イオンビームである請求項8記載のパターン形成方法。
【請求項10】
前記露光工程において、放射線が集束プロトンビームである請求項8記載のパターン形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−154265(P2011−154265A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16633(P2010−16633)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】