説明

感染症治療用のチオキサンテン誘導体

本発明は、抗感染症薬への用途に適した、特に、抗感染症の治療用に適したチオキサンテン誘導体およびフェノチアジン誘導体を目的とする。本発明はさらに該抗感染症薬を含んでなる組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗感染症薬、特にチオキサンテンおよびフェノチアジン誘導体を目的とし、同様に、感染症の治療のための使用を目的とする。さらに、本発明は本発明化合物の化学感受性(chamosensitising)化合物としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
感染症の治療は世界的に主要な臨床的関心事である。感染性病原体がより多くの抗生物質に対して耐性になる程、新規でより効率的な薬剤の開発が当業界に於ける主要な課題になる。化学療法に対する耐性は感染症の患者に一般的な臨床問題である。感染症の治療の間、原核または真核微生物細胞の薬物標的は異なる構造および機能を有する種々の薬物で難治性であると分かることが多い。この現象は多剤耐性(MDR)と称されている。
【0003】
院内/集中治療室内感染を引き起こす細菌の多抗菌剤耐性の出現は増大しており、10を超える異なる抗生剤がきかない微生物の発見は例外ではない。そのような耐性細菌の例としては、メチシリン耐性およびメチシリン-バンコマイシン耐性の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus);大便連鎖(または、連鎖)球菌(Enterococcus faecalis)およびエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)などのバンコマイシン耐性の腸球菌(enterococci);ペニシリン耐性の肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、およびセファロスポリンおよびキノロン耐性のグラム陰性桿菌(gram-negative rods)(大腸菌群(coliforms))、例えば大腸菌(E. coli)、サルモネラ種、肺炎桿菌、緑膿菌種およびエンテロバクター種が挙げられる。より最近には、汎抗生剤耐性のグラム陰性菌およびグラム陽性菌が出現した。
【0004】
これらの多抗生剤耐性菌の出現の速さは、同速度の新たな抗生剤の発展によって反映されておらず、それゆえ重篤な感染症の患者はまもなく現在入手可能な抗感染症薬でもはや治療できなくなるであろうことが想像できる。いくつかの国際的な報告は、医薬の多くの領域における抗菌剤耐性の出現と関連する潜在的な問題を強調しており、これらの微生物により引き起こされる感染症の患者の管理における困難性もまた概説している。
【0005】
ほとんどのより強い微生物が院内に存在するが、肺炎連鎖球菌およびヒト結核菌などの多剤耐性細菌の菌株もまた、重篤な市中感染を引き起こした。薬物耐性肺炎連鎖球菌の有病率は、ペニシリンまたは第三世代セファロスポリンのそれぞれへの中レベルまたは高レベルの耐性を示す分離株の51%および8%であることから、1980年以来60倍に増大している。従って、肺炎球菌性肺炎は、第一線抗感染症薬で治療するのにより困難になっている。病院からの耐性細菌、例えば多剤耐性黄色ブドウ球菌およびバンコマイシン耐性腸球菌は、家での継続治療のために退院した、それらの菌を有する患者により地域社会に持ち込まれうる。
【0006】
フェノチアジンおよびチオキサンテンは、神経遮断薬および制吐剤として臨床的に用いられる。フェノチアジン、および構造的に関連する抗精神病薬は、いくつかの細胞酵素を阻害し、重大な細胞レセプターの機能を遮断する。抗精神病薬療法に伴う錐体外路系副作用はドーパミンレセプター結合に起因する。一般にこれらの錐体外路系副作用は、抗癌治療などの非精神病領域にてフェノチアジンおよびチオキサンテンを用いる治験に限定される用量であると分かった。潜在的な副作用を回避するために、フェノチアジンおよびチオキサンテンの妥当な血漿水レベルは一般に、ほぼ0.3 μg/l〜0.5 mg/l (0.3 ng/ml〜0.5 μg/ml) の範囲でる。
【0007】
フェノチアジンおよびチオキサンテンはそれ自体に穏やかだが幅広い抗菌活性を有することが示されてきた。MIC(感染性物質が阻害される化合物の最少量)は一般的に、インビトロにおける開示された最少有効濃度がおよそ20 mg/lから数百mg/lの大きさにある限りにおいて、臨床的に意義ある濃度よりも高い。
フェノチアジンおよび他の薬物がMDRを調節する機序は未だ明確でないが、それらの薬理学的特性は、少なくとも一部、排出ポンプの阻害により媒介することができることが示唆されている。また、プロメタジンは、大腸菌、腸炎エルシニア、黄色ブドウ球菌およびアグロバクテリウム・トゥメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)などの細菌種を含む培地中にて有効な抗プラスミド薬として認識されている。しかし、用いる濃度は一般に、臨床的に意義のある濃度より高い。
【0008】
近年、抗感染症化合物として用いられるいくつかのフェノチアジンおよびチオキサンテン誘導体が抗感染症薬とともに用いられる場合に、臨床的に意義のある濃度でさえ、多剤耐性病原菌などの病原菌の殺傷の補助に驚くほど有効であることが示されている。
【0009】
従って、国際公開公報WO205/105145は、化学物質感受性化合物としてのいくつかのチオキサンテン誘導体およびフェノチアジン誘導体の使用を開示する。化学物質感受性化合物は、抗感染症薬と組み合わされて、感染症の治療のための抗感染症化合物となる。
開示された誘導体はチオキサンテンまたはフェノチアジン骨格上に含窒素置換基を有する。前記開示によって解決された課題は感染症の併用治療に関しており、開示化合物が単一抗生物質としての投与に適することは教示しておらず、むしろ、別の抗生剤がその開示化合物とともに同時に用いられる併用治療に適するということを教示する。この点、本発明になる化合物はWO2005/105145Aの化合物とは、例えば、本発明になる原子結合置換基R9およびR10中のCがNに置換されている点で相違する。
【0010】
WO2008/080408Aは、WO2005/105145A中に開示された化合物の下位群が事実上単一の抗生物質として有用であり得るという驚くべき発見を開示している。この発見が驚くべき事であるのは、WO2005/105145Aに開示化合物の化学感受性化合物としての機能は、1以上の抗感染症薬に対して耐性を後進させると考えられていたからである。
【0011】
EP-A-0338532は、抗原虫薬としての他の化合物のうちのクロペンチキソールの使用を開示する。
Kolaczkowski Mらの文献(International Journal of Antimicrobial Agents (2003) Vol 2, No. 3)は、酵母多剤耐性のモジュレータとしての種々の化合物のうちのトランス-フルペンチキソールを開示する。
Kristensenらの文献(International Journal of Antimicrobial Agents (2000) Vol 14, No. 3)は、HIV阻害剤としてのシス-およびトランス-フルペンチキソールを開示する。
【0012】
上記議論から、抗生剤などの抗感染症薬への耐性における増大は、感染症の治療への主な障害を与えることは明らかである。従って、抗感染症薬が緊急に必要である。また、感染性物質における医薬耐性および医薬耐性の進展を阻害し且つ後進させる化合物もまた必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、臨床的に意義のある量の抗感染症薬のそれを必要とする対象への投与により、臨床的に意義のある微生物、特に多剤耐性などの耐性を示す細胞または微生物の増殖を殺傷または阻害することができる、抗感染症薬を提供することである。
【0014】
さらに、本発明の目的は、臨床的に意義のある量の抗感染症薬を、それを必要とする対象への投与により、臨床的に意義のある微生物、特に多剤耐性などの耐性を示す細胞または微生物の増殖を、追加の抗感染症薬との組み合わせで殺傷または阻害することができる、化学感受性物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の開示
驚くべき事には、ある種の新規なチオキサンテンおよびフェノチアジン化合物もまた、WO2005/105145Aに開示された化合物の代わりに、感染症治療への使用に適しており、より優れてさえあることが見出された。
【0016】
驚くべきことに、本明細書に記載の臨床的に意義のある量の新規な抗感染症薬を適用することにより、耐性または多剤耐性を示す臨床的に意義のある分離株などの微生物の有効な殺傷が達成されることを見出した。以前に信じられていたことに反して、この驚くべき発見は、本明細書に記載の抗感染症薬を単独抗感染症薬として使用することにより、微生物と有効に戦う可能性を広げる。さらに、本発明になる化合物は化学感受性化合物として有用であることが示された。
【0017】
従って、第一態様において、本発明は、一般式(I):
【化1】

(I)
[式中、
VはS、SO2、SO、OおよびNHからなる群から選択され;
WはN-(CHX)m-CX(R9)(R10)であり、またはWはN-(CHX)m-1-CH=C(R9)(R10)であり、またはWはC=CH-(CHX)n-CX(R9)(R10)であり、またはWはC=CH-(CHX)n-1-CH=C(R9)(R10)であり;
mは1〜6の範囲の整数であり;
nは1〜5の範囲の整数であり;
Xはそれぞれ、独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシからなる群から選択され;
【0018】
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ、独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルキニルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシ、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニルオキシ、カルボキシ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシカルボニル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルカルボニル、ホルミル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいアリール、適宜置換されていてもよいアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールオキシ、適宜置換されていてもよいアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールアミノ、アリールスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいヘテロアリール、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシ、適宜置換されていてもよいヘテロアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールアミノ、ヘテロアリールスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいヘテロシクリル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルオキシ、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルアミノ、ヘテロシクリルスルホニルアミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ、カルバモイル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノカルボニル、アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、C1-6-アルキルカルボニルアミノ、アミノ-C1-6-アルキル-カルボニルアミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-カルボニルアミノ、アミノ-C1-6-アルキル-アミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-アミノ、シアノ、グアニジノ、カルバミド、C1-6-アルカノイルオキシ、C1-6-アルキルスルホニル、C1-6-アルキルスルフィニル、C1-6-アルキルスルホニルオキシ、アミノスルホニル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノスルホニル、および適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルチオからなる群から選択され;および
【0019】
R9およびR10はそれぞれ独立に、水素、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルキニル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシカルボニル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルカルボニル、適宜置換されていてもよいアリール、適宜置換されていてもよいアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリール、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールカルボニル、アミノカルボニル、モノ-およびジ(C1-6-アルキル)-アミノカルボニルからなる群から選択され;または
【0020】
R9およびR10は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、適宜置換されていてもよいアリール基、または適宜置換されていてもよいC3-6-シクロアルキルまたは適宜置換されていてもよいC3-6-ヘテロシクリル、好ましくは含窒素ヘテロアリールまたは含窒素で適宜置換されていてもよいヘテロシクリルを形成する。]
で表される化合物またはその代謝体もしくは塩に関する。
本発明の好ましい態様において、Wは、C=CH-(CHX)n-CX(R9)(R10)またはC=CH-(CHX)n-1-CH=C(R9)(R10)である。
【0021】
好ましい態様において、本発明は抗感染症薬であって、一般式(II):
【化2】

(II)
[式中、
VはS、SO2、SO、OおよびNHからなる群から選択され;
W'はNまたはC=CHであり;
nは1〜6の範囲の整数であり;
Xはそれぞれ、独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシからなる群から選択され;
ZはC、N、SまたはOの間から選択され:
【0022】
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R11、R12、R14およびR15はそれぞれ、独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルキニルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシ、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニルオキシ、カルボキシ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシカルボニル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルカルボニル、ホルミル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいアリール、適宜置換されていてもよいアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールオキシ、適宜置換されていてもよいアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールアミノ、アリールスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいヘテロアリール、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシ、適宜置換されていてもよいヘテロアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールアミノ、ヘテロアリールスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいヘテロシクリル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルオキシ、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルアミノ、ヘテロシクリルスルホニルアミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ、カルバモイル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノカルボニル、アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、C1-6-アルキルカルボニルアミノ、アミノ-C1-6-アルキル-カルボニルアミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-カルボニルアミノ、アミノ-C1-6-アルキル-アミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-アミノ、シアノ、グアニジノ、カルバミド、C1-6-アルカノイルオキシ、C1-6-アルキルスルホニル、C1-6-アルキルスルフィニル、C1-6-アルキルスルホニルオキシ、アミノスルホニル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノスルホニル、および適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルチオからなる群から選択され;および
R13は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルまたは適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシである。]
で示される抗感染症薬またはその塩に関する。
【0023】
当業者には直ちに明白であるように、本発明の発明の範囲を超えることとならない限りにおいて、フェノチアジンもしくはチオキサンテン骨格とR9およびR10からなる群、もしくは上記式IIに示される6員ヘテロシクリルとを結合している(CHX)n鎖中の炭素原子は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、単結合の代わりに二重結合で結合されていてもよい(2XHの消費によって)。
【0024】
本発明に係る化合物は抗感染症薬である。それは感染症の治療または予防に有用である。それはさらに、感染症の治療用または予防用医薬の製造に用いることができる。それは単一の有効成分として用いることができる。それはまた、他の抗感染症薬と組み合わせて抗感染症有効成分として用いることもできる。それはまた、化学感受性化合物として他の抗感染症薬と組み合わせて用いることもできる。
【0025】
好ましい態様において、W’はC=CHであり、R12は水素、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、ハロゲン、CH2Y、CHY2およびCY3であり、ここでYはハロゲン原子である。
【0026】
一つの好ましい態様において、本発明は、式:
【化3】

で表される抗感染症薬に関する。
【0027】
他の好ましい態様において、本発明は、式:
【化4】

で表される抗感染症薬に関する。
本発明の他の態様は、以下の記載および添付した特許請求の範囲から明らかであろう。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な記載
定義
本明細書において、用語「C1-6-アルキル」は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルおよびn-ヘキシルなどの1〜6の炭素原子を有する、直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素基を意味するものとする。
【0029】
本明細書において、用語「C3-6-シクロアルキル」は、炭素原子のみからなる3員、4員、5員および6員環を対象とするものとし、一方、用語「ヘテロシクリル」は、炭素原子が1〜3のヘテロ原子と一緒になって該環を構成する、3員、4員、5員および6員環を意味するものとする。ヘテロ原子は、独立して酸素、硫黄および窒素から選択される。C3-6-シクロアルキルおよびヘテロシクリル環は一以上の不飽和結合を適宜含んでいてもよいが、その不飽和結合は芳香族π-電子系が生じないような位置にある。
【0030】
「C3-6-シクロアルキル」の具体例は、炭素環シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、1,3-シクロヘキサジエンおよび1,4-シクロヘキサジエンである。
【0031】
「ヘテロシクリル」の具体例は、含窒素ヘテロ環2-ピロリニル、3-ピロリニル、ピロリジニル、2-イミダゾリニル、イミダゾリジニル、2-ピラゾリニル、3-ピラゾリニル、ピラゾリジニル、ピペリジニル、モルホリニル、チオモルホリニルおよびピペラジニルである。ヘテロ環への結合は、ヘテロ環のヘテロ原子の位置にて、または炭素原子を経由したものである。
【0032】
本明細書において、用語「C2-6-アルケニル」は、2〜6の炭素原子を有し、1以上の二重結合を含む、直鎖または分枝鎖の炭化水素基を意味するものとする。C2-6-アルケニル基の具体例としては、アリル、ホモアリル、ビニル、クロチル、ブテニル、ペンテニルおよびヘキセニルが挙げられる。二以上の二重結合を有するC2-6-アルケニル基の具体例としては、ブタジエニル、ペンタジエニルおよびヘキサジエニルが挙げられる。二重結合の位置は、炭素鎖に沿ったいずれかの位置であることができる。
【0033】
本明細書において、用語「C2-6-アルキニル」は、2〜6の炭素原子および一つ以上の三重結合を含む直鎖または分枝鎖の炭化水素基を意味するものとする。C2-6-アルキニル基の具体例としては、アセチレン、プロピニル、ブチニル、ペンチニルおよびヘキシニルが挙げられる。三重結合の位置は、炭素鎖に沿ったいずれかの位置であることができる。二以上の結合は、「C2-6-アルキニル」が当業者に知られているようなジインまたはエンジインであるように不飽和であることができる。
【0034】
本明細書において用語「C1-6-アルコキシ」は、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペントキシ、イソペントキシ、ネオペントキシおよびn-ヘキソキシなどのC1-6-アルキル-オキシを意味するものとする。
用語「ハロゲン」としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
【0035】
本明細書において用語「アリール」は、炭素環芳香環または環系を意味するものとする。さらに用語「アリール」としては、少なくとも二つのアリール環、または少なくとも一つのアリールと少なくとも一つのC3-6-シクロアルキル、または少なくとも一つのアリールと少なくとも一つのヘテロシクリルが少なくとも一つの化学結合を分ける縮合環系が挙げられる。「アリール」環の具体例としては、フェニル、ナフタレニル、フェナントレニル、アントラセニル、アセナフチレニル、テトラリニル、フルオレニル、インデニル、インドリル、クマラニル、クマリニル、クロマニル、イソクロマニルおよびアズレニルが挙げられる。
【0036】
本明細書において用語「ヘテロアリール」は、芳香環の一つ以上の炭素原子が窒素、硫黄、リンおよび酸素からなる群から選択される一つ以上のヘテロ原子で置き換えられているアリール基を意味するものとする。さらに、本明細書において用語「ヘテロアリール」は、少なくとも一つのアリール環と少なくとも一つのヘテロアリール環、少なくとも二つのヘテロアリール、少なくとも一つのヘテロアリールと少なくとも一つのヘテロシクリル、または少なくとも一つのヘテロアリールと少なくとも一つのC3-6-シクロアルキルが少なくとも一つの化学結合を分けている縮合環を含む。
【0037】
ヘテロアリールの具体例としては、フラニル、チエニル、ピロリル、フェノキサゾニル、オキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル イソチアゾリル、オキサジアゾリル、フラザニル、トリアゾリル、チアジアゾリル、ピペリジニル、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピラゾリルおよびトリアジニル、イソインドリル、インドリニル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾピラゾリル、インダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、プリニル、キノリジニル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、フタラジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、ナフチリジニル、プテリジニルチエノフラニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサリニルおよびチアントレニルが挙げられる。
【0038】
本明細書において用語「適宜置換されていてもよい」は、問題の基が、C1-6-アルキル、C1-6-アルコキシ、オキソ(互変異性エノール体で示すことができる)、カルボキシル、アミノ、ヒドロキシ(エノール系にて存在するときに、互変異性ケト体で示すことができる)、ニトロ、スルホノ、スルファニル、C1-6-カルボキシル、C1-6-アルコキシカルボニル、C1-6-アルキルカルボニル、ホルミル、アリール、アリールオキシ、アリールオキシカルボニル、アリールカルボニル、ヘテロアリール、アミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ、カルバモイル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノカルボニル、アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、C1-6-アルキルカルボニルアミノ、シアノ、グアニジノ、カルバミド、C1-6-アルカノイルオキシ、C1-6-アルキルスルホニルオキシ、ジハロゲン-C1-6-アルキル、トリハロゲン-C1-6-アルキルおよびハロゲン(ここに、アリールおよびヘテロアリール置換基は、それ自体C1-6-アルキル、C1-6-アルコキシ、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノまたはハロゲンで1〜3回置換されていてもよい)からなる群から選択される一つ以上の基で、1〜5回、好ましくは1〜3回、最も好ましくは1〜2回など1回以上置換されていてもよいということを意味するものとする。一般に上記置換は、さらに任意の置換を受けることができる。
【0039】
用語「病原菌」は、細菌、ウイルス、菌類、および細胞内または細胞外寄生虫などの病原性微生物を意味するものとする。本発明の好ましい態様において、用語「病原菌」は、細菌、真菌およびヴィラ(vira)などの病原微生物を意味するものである。本発明のより好ましい態様において、用語「病原菌」は、病原性細菌、真菌およびヴィラのみである。本発明のさらにより好ましい態様において、用語「病原菌」は、病原性細菌、真菌およびヴィラのみを意味するものである。本発明のある態様において、用語「病原菌」は、病原性細菌のみを意味するものである。本発明のある態様において、用語「病原菌」は、病原性真菌のみを意味するものである。本発明のある態様において、用語「病原菌」は病原性ヴィラのみを意味するものである。
同様に、用語「感染症」は、病原菌により引き起こされる疾患について用いられる。
【0040】
本明細書において用語「抗感染症薬」は、病原菌を殺傷し、その増殖を阻害し、またはそうでなければ減退させることができる物質を含む。本発明の好ましい態様において、用語「抗感染症薬」は、50 mg/lを超えない量にて対象に投与された場合、病原菌を殺傷し、その増殖を阻害し、またはそうでなければ減退させることができる物質を含む。好ましくは、感染性物質は20 mg/lを超えない量にて対象に投与される。従って、用語「抗感染症薬」は、本明細書の実施例に記載のとおりに測定される場合、20μg/ml以下のMIC値を示す物質を含む。用語「抗感染症薬」は、病原菌の性質に応じて用語「抗生剤(あるいは、行成物質)」または「抗ウイルス薬」または「抗真菌薬」と同義で用いることができる。細菌感染および真菌感染症を治療するために一般に用いられる抗生剤の具体例としては、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルミシン、ストレプトマイシンおよびトブラマイシンなどのアミノグリコシド;ロラカルベフなどのカルベセフェム(cabecephem);エルタペネム、イミペネム/シラスタチンおよびメロペネムなどのカルバペネム;セファドロキシル、セファゾリン、セファレキシン、セファクロール、セファマンドール、セファレキシン、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソンおよびセフェピムなどのセファロスポリン;アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシンおよびトロレアンドマイシンなどのマクロライド;モノバクタム;アモキシシリン、アンピシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリンおよびチカルシリンなどのペニシリン;バシトラシン、コリスチンおよびポリミキシン(polymyxin)Bなどのポリペプチド;シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシンおよびトロバフロキサシンなどのキノロン;マフェニド、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルファサラジン、スルフイソキサゾールおよびトリメトプリム-スルファメトキサゾールなどのスルホンアミド;デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリンおよびテトラサイクリンなどのテトラサイクリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書において、用語"化学感受性化合物"は、抗生物質と共に、または組み合わせて用いられたときに、感染性物質を殺傷し、阻害し、または増殖を遅らせる点で相乗効果を有する化合物に及ぶ。本明細書において用いられた際、用語"共に"および"組み合わせて"は、化学感受性化合物および抗感染症薬が必ず同時に、および/または、同一の医薬組成物の一部として投与されるべきであるという様に狭く解釈されるべきではない。尤も、この投与法は本発明の一つの態様ではある。もし画分阻害濃度指数(FIC)が0.5未満あれば、本発明の相乗効果が得られる。部分的阻止濃度指数(FIC)は、WO2005/105145に記載されたようにして、各化合物について計算される。
【0042】
ウイルス感染を治療するために一般に用いられる抗ウイルス剤の具体例としては、アシクロビル、アマンタジン、シドフォビル ファムシクロビル、ホミビルセン、フォスカルネット、ガンシクロビル、インターフェロンアルファ、オセルタミビル、ペンシクロビル、リバビリン、リマンタジン、トリフルリジン、バラシクロビル、バルガンシクロビル、ビダラビンおよびザナミビルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
重篤な真菌感染症を治療するために一般に用いられる抗真菌剤の具体例としては、アンフォテリシンB、カスポファンギン、フルコナゾール、フルシトシン、イトラコナゾール、ケトコナゾールおよびボリコナゾールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書において、病原菌は、該病原菌が該病原菌により引き起こされる感染症を治すために通常用いられる抗感染症薬の有効性を軽減するか、または除去する変化を受けるならば、「耐性」または「薬物耐性」であるという。同様に、用語「薬物耐性」は、疾患、例えば感染症が抗感染症薬などの治療薬に応答しない環境を意味する。薬物耐性は、疾患が治療薬に決して応答しないことを意味する本質的なもの、または疾患が以前に応答した治療薬に応答しなくなることを意味する後天的なものであることができる。
【0045】
本明細書において、病原菌は、該病原菌が該病原菌により引き起こされる感染症を治すために通常用いられる二つ以上の抗感染症薬の有効性を軽減するか、または除去する変化を受けるならば、「多剤耐性」であるという。同様に、「多剤耐性」は、疾患、例えば感染症が種々の抗感染症薬などの種々の薬物に耐性を示す薬物耐性の型である。
【0046】
用語「臨床的に意義のある量」は、一方で感染症の症状を軽減するか、または患者が治療される感染症を治すことができるが、他方で患者に無毒性であり、許容されない副作用を生じない量にて患者に抗感染症薬を投与することを意味するものである。上記に示すように、すべてでないならば多くの本明細書記載の抗感染症薬は、あまりに高すぎる濃度、すなわち「臨床的に意義」のない量にて投与されたときに患者に重篤な副作用を引き起こすことが知られている。
【0047】
本明細書において、用語「病原菌」すなわち病原性微生物と関連して用いられるときの用語「天然」は、感染症を引き起こす病原菌がヒトなど自然に発見することができる微生物であることを意味する。遺伝子操作(gen-manipulated)実験室株などの病原菌、または他の手法により変化し、および/またはヒトの介入により操作される病原菌は、用語「天然」に含まれないものと考えることは理解されよう。
【0048】
用語「血清」は、その通常の意味、すなわちフィブリノゲンおよび他の凝固因子を有さない血漿として用いられる。
【0049】
本明細書において用語(抗感染症薬の)「定常状態血清濃度」は、各用量で繰り返される遊離非結合薬物の値として定義され、投与された抗感染症薬の量と与えられた時間間隔中に除去される量との平衡状態を示す。用語「定常状態血清濃度」は、従って、血清中の自由な非結合化合物(抗感染症薬)の濃度を意味する意図である。このことは、濃度が血清の構成成分(例えば、蛋白質)に結合している化合物を除いて決定されることを意味する。
【0050】
本明細書において用語「治療」は、対象に薬物を投与することを意味し、i)感染症を予防すること(すなわち感染症の臨床症状を発症しないようにすること)、ii)感染症を阻害すること(すなわち感染症の臨床症状の発症を阻むこと)およびiii)疾患を緩和すること(すなわち感染症の臨床症状の後退をもたらすこと)ならびにその組合せを含む。
【0051】
用語「予防」または「予防的治療」は、まだ感染していないが、感染しやすいか、または感染の危険性のありうる対象の治療を意味する。
【0052】
本明細書において用語「対象」は、生きた脊椎動物、例えばヒトなどの哺乳動物を意味する。
【0053】
「医薬的に許容される」は、哺乳動物、特にヒトにおける使用に適切であることを意味する。
【0054】
抗感染症薬
上記一般式について、置換基R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R11、R12、R14およびR15はそれぞれ、独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルキニルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシ、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニルオキシ、カルボキシ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシカルボニル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルカルボニル、ホルミル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいアリール、適宜置換されていてもよいアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールオキシ、適宜置換されていてもよいアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールアミノ、アリールスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいヘテロアリール、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシ、適宜置換されていてもよいヘテロアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールアミノ、ヘテロアリールスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいヘテロシクリル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルオキシ、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルアミノ、ヘテロシクリルスルホニルアミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ、カルバモイル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノカルボニル、アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、C1-6-アルキルカルボニルアミノ、アミノ-C1-6-アルキル-カルボニルアミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-カルボニルアミノ、アミノ-C1-6-アルキル-アミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-アミノ、シアノ、グアニジノ、カルバミド、C1-6-アルカノイルオキシ、C1-6-アルキルスルホニル、C1-6-アルキルスルフィニル、C1-6-アルキルスルホニルオキシ、アミノスルホニル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノスルホニル、および適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルチオからなる群から選択される。
【0055】
R13は水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルまたは適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシである。
好ましくは、R13は水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルからなる群から選択される。より好ましくは、R13は水素、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、ハロゲン、CH2Y、CHY2およびCY3であり、Yはそれぞれ水素、ヒドロキシ、アミノ、ニトロまたはハロゲンから選択される。
本発明の好ましい具体的態様において、R13は水素、CH3およびCH2OHからなる群から選択される。
本発明のより好ましい具体的態様において、R13は水素およびCH3からなる群から選択される。
最も好ましい態様において、R13は水素である。
【0056】
本発明の好ましい具体的態様において、R2置換基は、ハロゲン、ニトロまたはハロゲン-置換C1-6-アルキルなどの電子吸引基である。より好ましくは、R2はF、Cl、Br、I、CH2Y、CHY2およびCY3(ここに、Yはハロゲン原子を示す)からなる群から選択され、例えばCH2Cl、CH2F、CHCl2、CHF2、CCl3またはCF3、特にCCl3またはCF3である。最も好ましくは、R2はClまたはCF3である。
【0057】
置換基R1、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R11、R12、R14およびR15は、好ましくはそれぞれ独立して水素、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシからなる群から選択される。より好ましくは、すべてのR1、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R11、R12、R14およびR154は、水素である。
【0058】
従って、本発明の非常に好ましい具体的態様において、R2はClまたはCF3であり、R1、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R11、R12、R14およびR15は、それぞれ水素である。
【0059】
上記のように、VはS、SO2、SO、OおよびNHからなる群から選択され、例えばSまたはSOである。本発明の非常に好ましい具体的態様において、VはSである。
【0060】
以下ままだ未検証
当然のことながら、WがN-(CHX)m-CX(R9)(R10)またはWがN-(CHX)m-1-CH=C(R9)(R10)であり、VがSである場合、一般式(I)の抗感染症薬は一般式(III):
【化5】

(III)
[式中、nは2〜6の範囲の整数、例えば2、3、4、5または6であり、Xはそれぞれ水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシからなる群から選択される]
で示されるフェノチアジン誘導体となる。
【0061】
本発明の好ましい具体的態様において、nは2または3であり、Xは水素またはCH3であり、R12は水素またはCH3である。特に、nが2であり、Xがそれぞれ水素であり、R12は水素またはCH3である場合、一般式(III)の抗感染症薬は強力な抗感染活性を示す。従って、本発明の好ましい具体的態様において、Wはそれが結合する官能基と一緒になって、適宜置換されていてもよいヘテロシクリル基を有するアルキル鎖(N-(CHX)n-)を形成する。ヘテロシクリル基は好ましくは置換されていないか、またはパラ位(R13)にて置換されている。好ましい具体的態様において、それが結合する官能基と一緒になったWは、N-(CH2)3-4-メチル-ピペリジニル、N-CH2-CH(CH3)-4-メチル-ピペリジニル、N-(CH2)3-ピペリジニルまたはN-CH2-CH(CH3)-4-メチル-ピペリジニルである。特に、それが結合する官能基と一緒になったWの構造はN-(CH2)3-ピペリジニルが好ましい。
上記フェノチアジン誘導体の具体例としては、ペルフェナジンおよびプロクロルペラジンの誘導体が挙げられる。
【0062】
当然のことながら、WがC=CH-(CHX)n-CX(R9)(R10)またはC=CH-(CHX)n-1-CH=C(R9)(R10)であり、VがSである場合、一般式(I)の化合物は一般式(IV):
【化6】

で示されるチオキサンテンとなる。
【0063】
一般式(III)のフェノチアジンおよび一般式(IV)チオキサンテンはシスおよびトランス異性体を生じる。本明細書において、一般式(IVa)の化合物はシスコンフィギュレーションと言われており、一般式(IVb)の化合物はトランスコンフィギュレーションと言われる:
【化7】

[式中、nは1〜5の範囲の整数、例えば1、2、3、4または5であり、Xはそれぞれ水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシからなる群から選択される。
R9はR10はそれぞれ独立に、水素、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルキニル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシカルボニル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルカルボニル、適宜置換されていてもよいアリール、適宜置換されていてもよいアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリール、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールカルボニル、アミノカルボニル、モノ-およびジi(C1-6-アルキル)-アミノカルボニルからなる群から選択され; または
R9およびR10は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、適宜置換されていてもよいアリール基、シクロアルキル基またはヘテロシクリル基を形成し、好ましくは、適宜置換されていてもよいC3-6-シクロアルキル基またはC3-6-ヘテロシクリル基、好ましくは含窒素ヘテロアリールまたは適宜置換されていてもよい含窒素ヘテロシクリルを形成する]。
本発明の化合物はトランスコンフィギュレーション、即ち、一般式(IVb)で示される構造をとるのが一般的に好ましい。
【0064】
本発明の好ましい具体的態様において、Xは水素であり、nは3から5、特に、3または4である。従って、本発明の好ましい態様において、Wは構造C=CH-(CH2)2-CX(R10)(R11)を有する。本発明の他の好ましい態様において、Wは構造C=CH-(CH2)3-CX(R10)(R11)を有する。本発明の他の好ましい態様において、Wは構造C=CH-(CH2)4-CX(R10)(R11)を有する。本発明の他の好ましい態様において、Wは構造C=CH-CH2-CH=C(R10)(R11)を有する。本発明の他の好ましい態様において、Wは構造C=CH-(CH2)2-CH=C(R10)(R11)を有する。本発明の他の好ましい態様において、Wは構造C=CH-(CH2)3-CH=C(R10)(R11)を有する。
【0065】
本発明の一つの興味ある態様において、R9およびR10はそれぞれ独立して、水素および適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルからなる群から選択される。この態様によれば、R9およびR10が共に、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルであることが好ましい。最も好ましくは、R9およびR10がCH3である。
【0066】
本発明の他の興味ある態様において、R9およびR10はそれらが結合している炭素原子と一緒になって、適宜置換されていてもよいアリール、適宜置換されていてもよいC3-6-シクロアルキルまたは、適宜置換されていてもよい2-ピロリニル、適宜置換されていてもよい3-ピロリニル、適宜置換されていてもよいピロリジニル、適宜置換されていてもよい2-イミダゾリニル、適宜置換されていてもよいイミダゾリジニル、適宜置換されていてもよい2-ピラゾリニル、適宜置換されていてもよい3-ピラゾリニル、適宜置換されていてもよいピラゾリジニル、適宜置換されていてもよいピペリジニル、適宜置換されていてもよいモルホリニル、適宜置換されていてもよいチオモルホリニル、または適宜置換されていてもよいピペリジニルの様なヘテロシクリルを形成する。好ましくは、R9およびR10はそれらが結合している炭素原子と一緒になって、適宜置換されていてもよい含窒素ヘテロアリールまたは適宜置換されていてもよい含窒素ヘテロシクリルを形成し、ここで、窒素原子は、R9およびR10が結合している炭素原子から2個の炭素原子によって隔てられている。この態様によれば、R9およびR10は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、適宜置換されていてもよいピペリジニルまたは適宜置換されていてもよいピペラジニルを、特に、適宜置換されていてもよいピペリジニルを形成することが好ましい。ピペリジニル環は無置換でもよいが、適宜置換されていてもよいC1-6アルキル基が、特に、パラ位で置換しているのが好ましく、即ち、適宜置換されていてもよいC1-6アルキル基がピペリジニル環の窒素原子に共有結合しているピペリジニル環が好ましい。本発明の非常に好ましい態様において、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルは-CH3、-CH2OH、-CH2-CH3およびCH2-CH2OHからなる群から選ばれるが、例えば、-CH3または-CH2-CH2OH、特に-CH2-CH2OHである。
【0067】
本明細書で示された式およびそこでの定義から明らかのように、ここで記載された化合物の幾つかはキラルである。さらに、幾つかの不飽和もしくは環状フラグメントまたは複数の立体中心原子の存在により、化学感受性化合物に幾つかのジアステレオマーが存在する。本発明は、純品や部分的に濃縮されたものやラセミ体と同様に、全ての立体異性体およびその混合物を包含することを意図する。特に、本明細書に記載された化学感受性化合物の多くは、E-またはZ-異性体、またはそれらの混合物の形態であってよい。
【0068】
本発明の好ましい態様において、WはC=CH-(CHX)n-CX(R9)(R10)またはC=CH-(CHX)n-1-CH=C(R9)(R10)であり、これらの態様において、nは2または3または4であることが好ましい。さらに、Xが水素またはCH3であることが好ましい。またこの態様において、R9およびR10が、それらが結合している炭素原子と一緒になって適宜置換されていてもよいアリールを形成することも好ましい。好ましい態様において、R9およびR10が、それらが結合している炭素原子と一緒になって、適宜置換されていてもよいC3-6-シクロアルキルまたは適宜置換されていてもよいC3-6-ヘテロシクリルを形成することが好ましい。好ましくは、R9およびR10は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、適宜置換されていてもよいC6-シクロアルキルまたは適宜置換されていてもよいC6-ヘテロシクリルを形成する。
【0069】
R13は水素またはCH3であることが好ましい。特に、nが2であり、Xがそれぞれ水素であり、R13が水素またはCH3である場合、一般式(IVa)および(IVb)で示される物質は臨床的に意義のある濃度にて強力な抗感染活性を示すことが示されている。従って、本発明の好ましい具体的態様において、Wはそれに結合する官能基と一緒になって、適宜置換されていてもよいピペリジニル基を有するアルケニル鎖(C=C-(CHX)n-)を形成する。ピペリジニル基は、好ましくはパラ位(R13)にて無置換または置換される。従って、好ましい具体的態様において、Wはそれに結合する官能基と一緒になって、CCH-(CH2)2-4-メチル-ピペリジニル、CCH-CH2-CH(CH3)-4-メチル-ピペリジニル、CCH-(CH2)2-ピペリジニルまたはCCH-CH2-CH(CH3)-ピペリジニルである。特に、Wがそれに結合する官能基と一緒になって、CCH-(CH2)2-4-メチル-ピペリジニルである構造が好ましい。
【0070】
驚くべきことに、本発明のチオキサンテン抗感染症薬が異性体純度が増大した抗感染症薬としてますます有効である。言い換えると、驚くべきことに、一般式(IVa)で示される物質(シス-異性体)および一般式(IVb)で示される物質(トランス-異性体)がともに強力な抗感染特性を示す一方、一般式(IVa)および(IVb)で示される物質の異性体混合物が抗感染活性の軽減を示すことが示されている。
【0071】
特に驚くべきことに、トランス-異性体の存在がシス-異性体の抗感染特性を阻害し、シス-異性体の存在がトランス-異性体の抗感染特性を阻害する。一の異性体の少量の異性体不純物でさえも、他の関連する抗感染異性体の抗感染特性を阻害することができる。
【0072】
結果的に、一般式(III)で示される化合物は一般に、純粋または実質的に純粋な異性体として用いることが好ましい。従って、この具体的態様による化合物は、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも98%の異性体純度にて用いる。
【0073】
本発明に至る一連の実験中、本発明化合物のトランス体が最も強力な抗感染症薬であることが示されている。さらに、トランス体の抗精神病活性または錐体外路副作用の明らかな欠如により、トランス体が抗感染症薬としての使用に特に魅力的となる。従って、一般に、一般式(IV)で示される化合物がトランス立体配置、すなわち一般式(IVb)に示される構造を有することが好ましい。
【0074】
さらに、本明細書に記載の抗感染症薬はその可能な塩を含み、その医薬的に許容される塩はもちろん特に治療用途に関連があることが理解されるべきである。塩は酸付加塩および塩基性塩を含む。酸付加塩の例は塩酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩などである。塩基性塩の例は、(残りの)対イオンがアルカリ金属(ナトリウムおよびカリウムなど)、アルカリ土類金属(カルシウム塩、カリウム塩など)およびアンモニウムイオン(+N(R')4(ここに、R'は独立して適宜置換されていてもよいC1-6-アルキル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニル、適宜置換されていてもよいアリールまたは適宜置換されていてもよいヘテロアリールである)から選択される、塩である。医薬的に許容される塩は例えばRemingtonの文献(The Science and Practice of Pharmacy, 20th Ed. Alfonso R.Gennaro (Ed.), Lippincott, Williams&Wilkins; ISBN: 0683306472, 2000, and in Encyclopedia of Pharmaceutical Technology)に記載のものである。
【0075】
抗感染症薬の効果は本明細書に記載のように評価することができ、選択される微生物に対する抗感染症薬の効率はMIC値として示すことができる。
【0076】
最小発育阻止濃度(MIC)は、NCCLSガイドラインにより増殖を示さない最低阻止濃度として定義される。
【0077】
本明細書記載の抗感染症薬の抗感染性は、本明細書実施例に記載のインビトロアッセイなどの当業者に利用できるいずれかの方法により評価することができる。本発明の好ましい具体的態様において、抗感染症薬および病原菌(および従って治療される感染症)は、本明細書実施例に記載のように測定された場合の50μg/ml以下、好ましくは20μg/ml以下のMIC値を示す。より好ましくは、抗感染症薬および病原菌は、本明細書実施例に記載のように測定される場合、16μg/ml以下のMIC値を示す。さらにより好ましくは、MIC値は8μg/ml以下、例えば4μg/ml以下、例えば最大4.0である。さらにより好ましくは、MIC値は2μg/ml以下、例えば最大2.0、最大1.0または最大0.5などである。
【0078】
治療、医薬組成物および投与量
上記に説明されるように、本明細書に記載の抗感染症薬は、感染症の治療に有用である。従って、本明細書に記載の抗感染症薬は、感染症の治療のための医薬の製造に用いることができ、ここに、抗感染症薬は単一抗感染症薬である。
開示された化合物はまた、他の抗感染症薬と組み合わせて用いることもできる。
従って、ある具体的態様において本発明は、抗感染症薬が単一抗感染症薬である感染症の治療用の、本明細書記載の抗感染症薬に関する。
【0079】
さらに、本明細書に記載の抗感染症薬は、感染症の予防的治療に有用である。これはヒトが免疫抑制患者または外科手術を受けた患者などの感染症に罹る危険性が高いという状況に特に関連する。従って、本明細書に記載の抗感染症薬はまた、感染症の予防的治療のための医薬の製造にも用いることができ、ここに、抗感染症薬は単一抗感染症薬である。
【0080】
従って、別の具体的態様において本発明は、抗感染症薬が単一抗感染症薬である感染症の予防的治療用の、本明細書記載の抗感染症薬に関する。
さらなる態様において、本発明は本明細書に記載された抗感染症薬の感染症用医薬への使用に関する。
さらなる態様において、本発明は、多剤耐性感染症の治療用医薬として用いられる本明細書記載の抗感染症薬を目的とする。
【0081】
さらなる態様において、本発明は、感染性病原体中の抗生剤耐性の進展を阻止する用途(例えば、薬物として)に用いられる本明細書記載の抗感染症薬を目的とする。
【0082】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載の抗感染症薬を対象に投与することを特徴とする、対象における感染症を治療または予防する方法に関する。
【0083】
本発明になる化合物は、他の抗菌剤と組み合わせて用いられると相乗効果を有することが示された。従って、本発明になる化合物は化学感受性化合物として使用することができる。
【0084】
化学感受性化合物(それは耐性後進または多剤耐性後進によって生じると信じられている)は、本明細書に記載された様にアッセイすることができ、選択された抗炎症剤との組合せになる化学感受性化合物の選択された微生物に対する効率はDR比および/またはFIC指数として表わすことができる。
【0085】
薬剤耐性比は、化学感受性化合物の存在下での抗感染症薬のMIC値で除した抗感染症薬単独のMIC値間の比として定義される。この比は化学感受性化合物により引き起こされた抗感染症薬の表面的効力(または、薬価)の増加として表わされ、

DR比= (MIC抗感染症薬)/(MIC抗感染症薬 + 化学感受性化合物)

として示すことができる。
【0086】
画分阻害濃度 (FIC) 指数は、抗感染症薬単独および化学感受性剤との組合せそれぞれに対して次式によって計算される:
【数1】

【0087】
本明細書に記載された化学感受性化合物の相乗効果、即ち、微生物中の薬剤耐性または多剤耐性を後進させるそれらの能力は、当業者にとって用い得る如何なる方法によっても、例えば本明細書に記載されたインビトロアッセイを含む方法によってもアッセイすることができる。本発明の好ましい態様において、化学感受性化合物、抗感染症薬および感染性物質(および、今から治療される感染症)は本明細書に記載された例で決定した場合、せいぜい0.5のFIC指数を示す。より好ましくは、FIC指数はせいぜい0.4、例えば、せいぜい0.3である。
【0088】
有効な阻害剤である化学感受性化合物にとって、このことは、比(MIC(化学感受性化合物+抗感染症薬))/(MIC(化学感受性化合物))が零に近づくことを意味し、このことは、転じて、FIC(化学感受性化合物)≒0であることを意味する。これはまた、FIC≒FIC(抗感染症薬)=(MIC(抗感染症薬+化学感受性化合物)/(MIC(抗感染症薬))≒1/DRであることを意味する。
【0089】
従って、本発明の他の好ましい態様において、本発明になる化合物および感染性物質(および、これから治療されるべき感染症)は少なくとも2のDR比を示す。より好ましくは、DR比は少なくとも5、例えば、少なくとも10、例えば、少なくとも20である。より好ましくは、MIC値は少なくとも30、例えば、少なくとも50、少なくtも75、さらには少なくとも100である。
【0090】
治療
本明細書の開示事項から理解されるように、治療される感染症は通常、細菌、ウイルス、真菌または細胞内もしくは細胞外寄生虫、特に細菌などの病原菌により引き起こされる。病原菌は典型的に、天然、すなわち天然の細菌、天然のウイルス、天然の真菌または天然の細胞内もしくは細胞外寄生虫、特に天然の細菌である。
より具体的に、病原菌はグラム陰性菌またはグラム陽性菌であることができる。
【0091】
具体例としては、エシェリキア属、プロテウス属、サルモネラ属、クレブシエラ属、プロビデンシア属、エンテロバクター属、ブルクホリデリア属(Burkholderia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、アシネトバクター属、アエロモナス属、ヘモフィルス属、エルシニア属、ナイセリア属、エルビニア属、ロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas)およびブルクホリデリア属からなる群から選択される属のグラム陰性菌が挙げられる。
【0092】
グラム陽性菌の具体例としては、ラクトバチルス(Lactobacillus)、アゾリゾビウム属(Azorhizobium)、ストレプトコッカス属、ペジオコックス属、フォトバクテリウム属(Photobacterium)、バチルス属、エンテロコッカス属、スタヒロコッカス属、クロストリジウム属、ブチリビブリオ属、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)、ロドコッカス属およびストレプトミセス属からなる群から選択される属の細菌が挙げられる。
【0093】
他の具体的態様において、病原菌は例えば、メタノバクテリウム属(Methanobacierium)、スルホロブス属(Sulfolobus)、アーケオグロブ属(Archaeoglobu)、ロドバクター属(Rhodobacter)およびシノリゾビウム属(Sinorhizobium)からなる群から選択される属に由来する。
【0094】
他の具体的態様において、病原菌は例えば、マイコバクテリウム種の抗酸菌、例えばヒト結核菌、ウシ結核菌、トリ結核菌およびハンセン菌、ならびにノルカジア・アステロイデス(Nocardia asteroides)、ノルカジア・ブラジリエンシス(Nocardia brasiliensis)およびノルカジア・カヴィエ(Nocardia caviae)の様な関連するノルカジア属である。
【0095】
さらに他の具体的態様において、病原菌は、ケカビ属(Mucor)もしくはカンジダ属、例えばケカビ(Mucor racemosus)もしくはカンジダ・アルビカンス(Candida albicans);クリプトコッカス属(Crytococcus)、例えばクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cr. Neoformans);またはアスペルギルス属、例えばアスペルギルス・フミガーツスなどに由来する真菌である。
【0096】
さらに他の具体的態様において、病原菌は、マラリアまたはクリプトスポリジウム寄生虫などの原虫である。
【0097】
本明細書に記載の抗感染症薬の毒性および治療有効性は、細胞培地または実験動物における標準的薬学手順、例えばLD50(個体群の50%が死に到る量)およびED50(個体群の50%に治療的に有効な量)を測定することにより決定することができる。毒性効果と治療効果との用量比は、治療指標であり、LD50とED50との比(LD50/ED50)として表すことができる。大きな治療指標を示す抗感染症薬が好ましい。これらの細胞培地アッセイまたは動物検討から得られたデータは、ヒト対象における使用のためにさまざまな投与量の製剤化に用いることができる。そのような抗感染症薬の投与量は、好ましくはほとんど、またはまったく毒性を示さずにED50を含む血中濃度の範囲内にある。投与量は、用いられる投薬形態および利用される投与経路に応じて、この範囲内にて変化することができる。
【0098】
医薬組成物
本明細書に記載の抗感染症薬は典型的に、製剤原料として用いられる前に医薬組成物に製剤化される。
【0099】
従って、さらなる態様において本発明は、本明細書に記載の抗感染症薬および少なくとも一つの医薬的に許容される担体または賦形剤を含有する医薬組成物に関する。
【0100】
本明細書に記載の抗感染症薬の投与経路は、臨床的に意義のある濃度に対応する血液または組織における濃度を生じるいずれかの適切な経路であることができる。従って、本発明は以下のものに限定されないが、例えば次の投与経路が適用可能であることができる:経口経路、非経口経路、皮内経路、経鼻経路、直腸経路、膣内経路および眼球経路。投与経路が問題の特定の抗感染症薬に依存し、特に投与経路の選択は、患者の年齢および体重とともに抗感染症薬の物理化学的特性、および特定の疾患またはその病態および重篤度に依存することは当業者に明白であるべきである。しかし一般に、経口および非経口経路が好ましい。
【0101】
本明細書に記載の抗感染症薬は、医薬組成物にていずれかの適当な量にて含まれていてよく、一般に組成物の全重量の約0.1〜95重量%の量にて含まれる。組成物は、単位投与形態などの投薬形態にて存在することができ、これは経口、非経口、直腸、皮内、経鼻、膣内および/または眼球投与経路に適切である。従って組成物は、例えば錠剤、カプセル、丸剤、散剤、顆粒、懸濁剤、乳剤、溶液剤、ヒドロゲルなどのゲル、貼付剤、軟膏、クリーム、膏薬、水薬(drench)、運搬装置(delivery device)、坐剤、浣腸剤、注射剤、埋め込み剤(implant)、スプレー、エアロゾルおよび他の適切な形態などの形態であることができる。
【0102】
医薬組成物は、従来の医薬実践により製剤化することができ、例えば文献(Swarbrick, J.&J. C. Boylan, Marcel Dekker, Inc.により編集された「Remington's Pharmaceutical Sciences」および「Encyclopedia of Pharmaceutical Technology」New York, 1988)を参照のこと。典型的に、本明細書に記載の抗感染症薬は、(少なくとも)医薬的に許容される担体または賦形剤とともに製剤化される。医薬的に許容される担体または賦形剤は当業者に知られているものである。
【0103】
経口使用のための医薬組成物には、適宜少なくとも一つのさらなる抗感染症薬と組み合わされていてもよい、無毒性の医薬的に許容される賦形剤との混合物にて、本明細書に記載の抗感染症薬を含む錠剤が含まれる。これらの賦形剤は、例えば、スクロース、ソルビトール、糖、マンニトール、微結晶性セルロース、ジャガイモデンプンなどのデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムなどの不活性希釈剤または増量剤;例えば微結晶性セルロースなどのセルロース誘導体、ジャガイモデンプンなどのデンプン、クロスカルメロースナトリウム、アルギン酸塩またはアルギン酸などの顆粒化剤および崩壊剤;例えばスクロース、グルコース、ソルビトール、アカシア、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、前ゼラチン化(pregelatinized)デンプン、微結晶性セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンまたはポリエチレングリコールなどの結合剤;および例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、硬化植物油またはタルクなどの流動促進剤および抗接着剤などの滑沢剤であることができる。
【0104】
他の医薬的に許容される賦形剤は、着色剤、香料、可塑剤、湿潤剤、緩衝剤などであることができる。
【0105】
錠剤は、胃腸管における崩壊および吸収を適宜遅らせるためにコーティングされないか、または公知技術によりコーティングされていてもよく、それによりより長期間の持続作用を提供する。コーティングは、例えば制御放出製剤(以下を参照のこと)を達成するために、所定の形態で抗感染症薬を放出するために適用してもよく、または胃(腸溶コーティング)の通過後まで有効製剤原料を放出しないために適用してもよい。コーティングは、糖コーティング、フィルムコーティング(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸コポリマー(Eudragit E(登録商標))、ポリエチレングリコールおよび/またはポリビニルピロリドンに基づく)または腸溶コーティング(例えばメタクリル酸コポリマー(Eudragit(登録商標)LおよびSに基づく)、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、セラックおよび/またはエチルセルロース)であることができる。
【0106】
さらに、例えばモノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンなどの時間遅延物質を用いることができる。
さらに、上記固体錠剤組成物は、抗感染症薬の放出前の不要な化学変化、例えば化学的崩壊から該組成物を保護するために適用されるコーティングとともに提供することができる。
【0107】
コーティングは、Swarbrick, J.&J. C. Boylan, Marcel Dekker, Inc., New York, 1988により編集された「Encyclopedia of Pharmaceutical Technology」, Vol 1, pp.337-349中のJames A. Seitzによる「水性フィルムコーティング」に記載のものと同様の方法で固体投薬形態に適用することができる。
【0108】
経口使用のための製剤はまた、咀嚼錠剤として、または有効成分が不活性固体希釈剤、例えばジャガイモデンプン、ラクトース、微結晶性セルロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムもしくはカオリンと混合される硬ゼラチンカプセルとして、または有効成分が水もしくは油状媒体、例えばピーナッツ油、液体パラフィンもしくはオリーブ油と混合される軟ゼラチンカプセルとして存在することもできる。
【0109】
散剤および顆粒は、例えばミキサー、流動床装置またはスプレー乾燥装置を用いた従来法により、錠剤およびカプセルにて上記成分を用いて製造することができる。
【0110】
経口使用のための制御放出組成物は、例えば有効製剤原料の分解および/または拡散を制御することにより有効製剤原料を放出するために構築することができる。
【0111】
溶出(dissolution)または拡散制御放出は、抗感染症薬の錠剤、カプセル、丸薬もしくは顆粒製剤の適当なコーティングにより、または例えば適当なマトリックスにおける問題の抗感染症薬の取り込みにより達成することができる。
【0112】
制御放出コーティングは、一つ以上の上記コーティング物質、および/または例えばセラック、蜜ろう(beeswax)、糖ろう(glycowax)、カストリウムろう(castor wax)、カルナウバろう(carnauba wax)、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリン、ジステアリン酸グリセリン、パルミトステアリン酸グリセロール(glycerol palmitostearate)、エチルセルロース、アクリル樹脂、dl-ポリ乳酸、セルロースアセテートブチレート、ポリビニルクロリド、ポリビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリメタクリル酸、メチルメタクリル酸、2-ヒドロキシメタクリル酸、メタクリル酸ヒドロゲル、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコールメタクリル酸および/またはポリエチレングリコールを含有することができる。
【0113】
抗感染症薬の制御放出マトリックス製剤にて、マトリックス物質は、例えば水酸化メチルセルロース、カルナウバろうおよびステアリルアルコール、カルボポール934、シリコン、トリステアリン酸グリセリン、アクリル酸メチル-メタクリル酸メチル、ポリビニルクロリド、ポリエチレンおよび/またはハロゲン化過フッ化炭化水素を含有することができる。
【0114】
本明細書に記載の抗感染症薬の制御放出組成物はまた、浮揚性の錠剤またはカプセル、すなわち一定の期間、経口投与時に胃内容物の上部に浮揚する錠剤またはカプセルの形態であることもできる。問題の抗感染症薬の浮揚性錠剤製剤は、抗感染症薬、賦形剤、およびヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの20〜75%w/wの親水コロイドの混合物を顆粒化することにより製造することができる。次いで得られた顆粒は、錠剤に圧縮することができる。胃液と接触する際に、錠剤は、その表面の回りに実質的に水不浸透性ゲル障壁を形成することができる。このゲル障壁は、1未満の密度を維持することに関与し、それにより錠剤を胃液中にて浮揚性の状態のままとする。
【0115】
水の添加による水性懸濁液の調製に適した散剤、分散性散剤または顆粒はまた、便利な投薬形態でもある。懸濁液としての製剤は、分散剤もしくは湿潤剤、懸濁剤、および一つ以上の防腐剤と混合された抗感染症薬を提供する。
【0116】
適切な分散剤または湿潤剤は、例えばレシチン;またはエチレンオキシドと、例えば脂肪酸、長鎖脂肪族アルコール、または脂肪酸およびヘキシトールまたは無水ヘキシトールに由来する部分エステル、例えばポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートとの縮合生成物などとしての天然ホスファチドである。
【0117】
適切な懸濁剤は、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどである。
【0118】
医薬組成物はまた、投薬形態、製剤または例えば従来の、無毒性の医薬的に許容される担体およびアジュバントを含む適切な送達装置もしくはインプラントにおける、注射、輸液または移植(静脈内、筋肉内、関節内、皮下など)により非経口投与することもできる。
【0119】
そのような組成物の製剤化および製造は、医薬製剤の分野の当業者によく知られている。具体的な製剤は、標題「Remington's Pharmaceutical Sciences」の教科書に見ることができる。
【0120】
非経口使用のための組成物は、いくらかの投与量を含む単位投与形態、例えばアンプルまたはバイアルにて存在することができ、その中に適切な防腐剤を加えることができる(以下を参照のこと)。組成物は、溶液剤、懸濁剤、乳剤、輸液用器具もしくは移植用送達装置の形態であることができるか、または使用前に水または別の適切なビヒクルで再構成するために乾燥散剤として存在することができる。本明細書に記載の抗感染症薬から離れて、組成物は、適切な非経口的に許容される担体および/または賦形剤を含有することができるか、または有効製剤原料は、制御放出のためのミクロスフェア、マイクロカプセル、ナノ粒子、リポソームなどに組み込むことができる。さらに、組成物は、懸濁剤、可溶化剤、安定化剤、pH調節剤および/または分散剤を都合よく含むことができる。
【0121】
本発明の別の興味深い具体的態様において、医薬組成物は、WO 03/004001およびWO 2004/062643に記載の特定物質から製造される、錠剤などの固体投薬形態である。
【0122】
上記に示されるように、医薬組成物は、滅菌注射用形態にて抗感染症薬を含むことができる。そのような組成物を製造するために、抗感染症薬は、非経口的に許容される液体ビヒクルに溶解させ、または懸濁させる。用いることができる許容されるビヒクルおよび溶媒のうち、水は、適当な量の塩酸、水酸化ナトリウムまたは適切な緩衝液、1,3-ブタンジオール、リンゲル溶液および等張性塩化ナトリウム溶液の添加により適切なpHに調節する。水性製剤はまた、一つ以上の防腐剤、例えばp-ヒドロキシ安息香酸メチル、エチルまたはn-プロピルを含むこともできる。抗感染症薬が水に難溶性であるか、またはわずかに可溶性である場合、溶解増強剤または可溶化剤を加えることができるか、または溶媒が水とは別に、10〜60%w/wのプロピレングリコールなどを含むことができる。
【0123】
投与量
先に詳細に示したように、本発明の重要な態様は、臨床的に意義のある量、すなわち本明細書に記載の抗感染症薬に通常伴う重篤な副作用を回避するために十分に少ない量にて本明細書に記載の抗感染症薬が投与される場合に、抗感染症薬が病原菌を殺傷することができるという認識である。
【0124】
投与される投与量が投薬形態(以下を参照のこと)に依存するだろうことは理解されよう。独立して、投薬形態の抗感染症薬は、臨床的に意義のある量、すなわち一方で関連する治療効果を及ぼすが、他方で重篤な副作用を提供しない量にて投与されるべきである。
【0125】
本発明の抗感染症薬は血清中の幾つかの成分と結合することがあり、このため、薬剤の増加した用量が余儀なくされる。しかしながら、あまりにも高い用量は好ましからざる副作用を招くことがある。従って、本発明の目的を達成するためには、200 mg/ml未満、例えば150 mg/mlまたは100 mg/mlまたは50 mg/l、好ましくは20 mg/lの遊離の非結合性薬剤の定常状態における血清濃度が適切である。グラム陰性菌感染の一般的な治療においては、グラム陽性菌感染の治療におけるよりも高い用量が必要とされる。従って、本発明の好ましい実施態様において、本明細書に記載の抗感染症薬は、0.5〜200 mg/mlの間、例えば、0.5〜150 mg/mlの間、または0.5〜100 mg/mlの間、または1.0〜50 mg/lの間、または1.5〜20 mg/l の間の遊離の非結合薬剤の定常状態血清濃度を生じる臨床的に意義のある量にて投与される。より好ましくは、抗感染症薬は、10 mg/l未満、例えば8.0 mg/l未満などの定常状態血清濃度を生じる意義のある量にて投与する。より好ましくは、抗感染症薬は、7.0 mg/l未満、例えば6.0 mg/l未満など、5.0 mg/l未満の定常状態血清濃度を生じる臨床的に意義のある量にて投与する。幾つかの場合には、抗感染症薬は、3.0 mg/l未満、例えば2.0 mg/l未満など、4.0 mg/l未満の定常状態血清濃度を生じる臨床的に意義のある量にて投与する。幾つかの場合には、抗感染症薬は、1.5 mg/l未満、例えば約1.0 mg/lまたは約0.5 mg/lの定常状態血清濃度を生じる臨床的に意義のある量にて投与する。
【0126】
言い換えると、抗感染症薬は好ましくは、例えば0.01 μg/lから150.0 mg/l未満、例えば0.01 μg/lから100.0 mg/未満、例えば0.01 μg/〜50.0 mg/l未満、例えば0.01 μg/l から20.0 mg/l未満、例えば0.02μg/l〜7.0 mg/l、例えば0.04μg/l〜6.0 mg/lなど、0.01μg/lから10.0 mg/l未満および0.01μg/lから8.0 mg/l未満など、0.01μg/lから200.0 mg/ml未満の間の定常状態血清濃度を生じる臨床的に意義のある量にて投与する。より好ましくは、抗感染症薬の定常状態血清濃度は、0.08μg/l〜4.0 mg/lなど、例えば0.1μg/l〜3.0 mg/lなど、0.06μg/l〜5.0 mg/lの間である。さらにより好ましくは、抗感染症薬の定常状態血清濃度は、0.4μg/l〜2.0 mg/l、例えば0.5μg/l〜2.0 mg/lなど、0.2μg/l〜2.0 mg/lの間である。さらにより好ましくは、抗感染症薬の定常状態血清濃度は、0.8μg/l〜2.0 mg/l、例えば0.9μg/l〜2.0 mg/lなど、0.6μg/l〜2.0 mg/lの間である。最も好ましくは、抗感染症薬の定常状態血清濃度は、1.5μg/l〜2.0 mg/l、例えば1.5μg/l〜1.5 mg/lなど、1.0μg/l〜2.0 mg/lの間である。
【0127】
抗感染症薬は、好ましくは約0.1〜10,000 mg/日、例えば約0.5〜5000 mg/日、または例えば約1.0〜2000 mg/日、または約2.0〜1000 mg/日などの量にて投与する。当業者により理解されるであろうが、投与される実際の量はとりわけ投与経路、すなわち抗感染症薬が経口投与か、静脈内投与か、筋肉内投与かなどに依存するであろう。
【0128】
全身使用のための経口投与に適合させる組成物について、投与量は通常、治療される感染症に応じて、1 mg〜3 g/用量で、1〜4回/日にて1日〜12ヶ月間投与である。
【0129】
非経口投与、特に静脈内投与について、約0.1〜約2000 mg/日の用量が都合よい。静脈内投与について、1日〜12ヶ月間投与される約0.1〜約2000 mg/日の用量が都合よい。
【0130】
上記定常状態血清濃度および投与量は、所望の臨床効果を生じ、同時に本明細書に記載の抗感染症薬に通常伴う重篤な副作用を回避するだろう。しかし、いくつかの本明細書に記載の抗感染症薬、特に一般式IIIbの抗感染症薬は、より高用量にて投与することができ、それにより上記のレベルを超えた定常状態血清濃度を生じ得る。これは、これらの抗感染症薬が、より高用量にて投与された場合でさえも、重篤な副作用を示さないと考えられる事実による。
本発明はさらに、以下の限定されない実施例により例示される。
【0131】
物質および方法
細菌
臨床分離株をUSA, Canada, Europe and Middle Eastから得、標準対照株をATCC(American Type Culture Selection USA)およびCCUG(Control Culture University of Goteborg, Sweden)から得た。収集は多耐性分離株を含み、臨床的に重要な細菌および真菌を示す。
耐性細胞は感受性細胞株と比較しておよそ10〜1000倍耐性であり、薬物不含培地にて増殖させた場合に安定な薬物耐性表現型を維持した。分離株が同じクローン/菌株を示さないことを確認するためにすべてのブドウ球菌を打ち込んだ。
【0132】
薬物
培地での希釈前に薬物を少量の水または1% DMSO(0.05% DMSO未満のDMSO最終培養濃度)に溶解した。溶液を各実験のために新たに調製した。化合物の純度は>95%であった。
【0133】
微生物細胞増殖における薬物の効果
NCCLSガイドライン(NCCLS Guidelines, Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically; Approved Standard, Sixth Edition, Volume 23; Number 2)によれば、微量液体希釈法の使用により最小阻止濃度(MIC)感受性試験を用いて細胞増殖を試験した。最小阻止濃度(MIC)は、目に見えない増殖を検出する意味で、試験有機体の増殖を阻害する薬物の最低濃度(増殖の全阻害)として定義する。実施例2において、真菌性微生物に用いられる化合物のMICは、NCCLSガイドラインによりIC90測定から決定した。
【0134】
細菌の対数期を新たなあらかじめ温めたMueller-Hinton培地で希釈し、600 nmにて定義されたODに調節し、最終濃度1 x 104-5細菌/培地mlを得た。細菌培養物をマイクロタイタープレートに移し、培養液を各ウェルに加えた。薬物の2倍希釈物としてウェル中の細菌培養物に薬物を加え、0.03〜128μg/mlの最終濃度を得た。ロボットアナライザー, PowerWavex, software KC4, Kebo.Lab, Copenhagenにて16時間振盪することにより37℃にてトレーをインキュベーションし、インキュベーション中、光学密度を600 nmにて測定し、増殖曲線を記録した。薬物を含まない細菌培養物を含むウェルを対照として用い、インキュベーション中、正しい接種サイズおよび細菌増殖を確認した。培養物を試験し、汚染を検出した。各実験を三回繰り返した。MIC値は二の別々の三回実験の平均値を示す。イントラおよびインター・アッセイ変動は<5%であった。
【0135】
抗感染症薬の増殖阻害効果の定義
ウェル中の細菌増殖を遅滞期(lagphase)、すなわち増殖が開始するまで(前)の期間、対数期、すなわち最大増殖速度の期間、定常状態期、次いで死滅期(deathphase)により記載する。細菌増殖における薬物の阻害効果を評価する際に、薬物ありおよびなしで増殖曲線を比較することによりこれらのパラメータを用いる。
細菌増殖の全阻害は、NCCLSガイドラインによりOD (16h) = OD (0h)または増殖が見られないとして定義する。
阻害90(IC90)を90%増殖阻害に対応するODとして定義する。
以下の実施例において、試験した化合物を表1に示す。
【0136】
表1.試験化合物1(N-デアルキル-トランスクロペンチキソール)および2(トランス-クロペンチキソール)は対照化合物である。
【表1】

【実施例】
【0137】
実施例1a:臨床的に意義のある分離株における効果
結論:化合物3の抗感染効果は化合物1および2に比べて優れている。

菌株(Strains):使用した全ての菌株はベータラクタム抗菌剤、キノロンおよびアミノグリコシド(MIC値 > 16 μg per ml)に対する耐性を含む多剤耐性菌である。
試験群毎に10の菌株。
【0138】
表1a.化合物のMIC中央値(μg/ml):試験群毎に10の菌株。
【表2】

上記表に見られるように、全ての試験群において、化合物3は強い抗感染活性を示し、トランスクロペンチキソールおよびN-デアルキル-トランスクロペンチキソールより優れている。
【0139】
実施例1b.ブドウ球菌(Staphylococci)、連鎖球菌(Streptococci)、マイクロコッカス(Micrococci)およびグラム陰性菌種の、多剤耐性で感受性種の臨床的に意義あるヒト分離株に対する効果

ブドウ球菌、連鎖球菌、マイクロコッカスおよびグラム陰性種の臨床的に意義あるヒト菌体分離株を培養し、表1bに記載の化合物に対する感受性を上述の様にアッセイした。結果を表1bに示す。
【0140】
表1b.デアルキルフェノチアジンまたはチオキサンテン化合物のブドウ球菌、連鎖球菌、マイクロコッカスおよびグラム陰性菌種の多剤耐性で感受性種のヒト分離株に対する抗菌効果
【表3】

【0141】
表1bの結果は、試験された化合物が、多剤耐性分離株の全てを含め、グラム陽性およびグラム陰性の臨床的分離株全てに対して強い抗菌効果を発現することを示している。化合物の効果は感受性および耐性分離株に対してほぼ同程度に穏当であった(データは省略)。
【0142】
実施例2.大便連鎖球菌およびエンテロコッカス・フェシウムの臨床的耐性分離株に対する効果

臨床的に意義ある分離株を培養し、上記の様にアッセイした。結果を表2に示す。
【0143】
表2.デアルキルフェノチアジンまたはチオキサンテン化合物の、多剤耐性で感受性の臨床的分離株に対する抗菌効果
【表4】

*)各群は、以下の耐性を発現する8多剤耐性分離株;VanB:(分離株はテイコプラニンではなく、主にバンコマイシンに作用するvanB−グリコペプチド耐性を示す);VanA:(分離株はバンコマイシンよびテイコプラニンの双方に作用するvanA−グリコペプチド耐性を示す);HLAR:(分離株は強いアミノグリコシド耐性を示す);BLR、CR:(分離株はベータラクタムおよびカルバペネム耐性を示す)ならびに8感受性分離株からなる。
【0144】
実験は、試験化合物がバンコマイシン耐性、テイコプラニン耐性および高レベルのアミノグリコシド耐性腸球菌種を含む耐性および多剤耐性分離株に対して強い抗菌活性を発現することを示す。化合物の効果は感受性および耐性分離株に対してほぼ同程度に穏当であった(データは省略)。
【0145】
実施例3.臨床的に単離された真菌に対するデアルキルフェノチアジンまたはチオキサンテン化合物の抗菌効果
デメチル/デアルキルフェノチアジンまたはチオキサンテン化合物の抗菌効果を、細胞を薬物0-32μg/mlに曝露する増殖阻害研究により検討した。各実験を三回繰り返した。MIC値は二つの別々の実験3回の平均値を示す。
カンジダ種(3つのフルコナゾール耐性分離株など)の4つの臨床的分離株を感受性試験前にサブロー(Sabouraud)・ブドウ糖寒天培地上で24時間継代培養した。微量液体希釈試験をNCCLS資料M27-A(Ref: National Commitee for Clinical Laboratory Standards. (1997). Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Yeasts: Approved Standard M27-A. NCCLS, Wayne, PA.)により行った。ピペッティングによりウェルを混合し、酵母沈降物を再懸濁した後、マイクロタイタープレートを530 nmにて分光学的に読み取った。本実験にて、MICを、90%増殖阻害をもたらす最低薬物希釈として定義した。結果を以下の表3に示す。
【0146】
表3.デアルキルフェノチアジンまたはチオキサンテン化合物の、多剤耐性および感受性カンジダ種の臨床的分離株*に対する抗菌効果
【表5】

*)各群はカンジダ種のフルコナゾール耐性を含む8多剤耐性分離株および8感受性臨床的分離株からなる。

結果は、試験された化合物がすべての多剤耐性分離株を含むカンジダ種の臨床的分離株に対して強い抗真菌活性を示すことを示す。化合物の効果は感受性および耐性分離株に対してほぼ同程度に中程度であった(データは省略)。
【0147】
実施例4a.デアルキルフェノチアジンまたはチオキサンテン化合物の相乗効果
材料および方法
化合物の効果はWO2005/105145に記載された方法に従って試験を行った。簡単に云えば、細胞成長速度はNCCLSガイドライン(NCCLSガイドライン, 好気的増殖菌に対する抗菌感受性希釈試験方法;認可基準、第6版、第23巻、第2号(NCCLS Guidelines, Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically; Approved Standard, Sixth Edition, Volume 23; Number 2))に従い、微量液体希釈法を用いたMIC感受性試験を用いて測定した。
【0148】
FIC:
画分阻害濃度 (FIC) 指数は、WO2005/105145に記載の様に各化合物について計算した。相乗性は、部分的阻止濃度 (FIC) 指数が0.5未満であると定義した。
【0149】
分離菌株:
大便連鎖球菌:8多剤耐性インビボ-選択臨床的分離株。アンピシリン、シプロフロキサシンおよびゲンタマイシン耐性、ならびに減衰したまたは完全なバンコマイシン耐性。主要耐性機構としての細胞壁前駆体ターゲットにおける発現変異(Expressing change in the cell wall precurcer target) (VanA遺伝子発現)。
黄色ブドウ球菌:8 (MRSA) インビボ-選択臨床的分離株。メチシリンおよびベータラクタム抗生物質耐性。テイコプラニン・クロラクフェニコール、ホスホマイシン、ネチルマイシンおよびバンコマイシン感受性。
大腸菌:8インビボ-選択多剤耐性大腸菌の臨床的分離株。テトラサイクリン、ベータラクタム類、フルオロキノロン類、クロラムフェニコールおよびアミノグリコシド耐性。
【0150】
表4aは、シプロフロキサシン、ゲンタマイシン、テトラサイクリンおよびジクロキサシリンとのそれぞれの組合せにおいて、耐性菌分離株上で試験された試験化合物1、2、3および4の相乗効果を示す。相乗作用は、0.5未満(*平均値)の画分阻害濃度(FIC)指数として定義した。
【表6】

*化合物は、MIC値の1/4の値に対応する濃度で試験した。
【0151】
化合物に対するFIC指数は、これらの化合物が薬剤耐性細胞中における抗感染症薬の抗菌活性を促進する点で相乗的であることを示す。薬剤耐性細胞上でアッセイされた化学感受性化合物に対する全てのFIC指数が<0.5未満であった。化合物3は試験された化学感受性化合物全ての中で最も強力であり、次いで化合物1、化合物4 および化合物2の順であった。この様に、抗感染症薬との組合せでの化合物の臨床的使用が、DR細胞に対するこの抗感染症薬のMIC値を臨床的に達成し得る濃度より十分に低い値へシフトさせるであろうし、0.06 μg/mlに至る程の有効濃度を示している。抗DR効果は耐性細胞中で最も強いと期待された。しかしながら、感受性細胞中でも顕著な抗菌性増強効果が示されたことから、これら化学感受性化合物の抗DR効果は、排出ポンプやベータラクタマーゼが過剰発現している細胞に限定されるのではないこと、および抗DR機序はこれらのターゲットに限定されるものではないことを強く示唆している。抗菌剤感受性細胞のFIC指数は、0.47から1.0の範囲に亘った。
【0152】
実施例4b.デアルキルフェノチアジンまたはチオキサンテン化合物の相乗効果
耐性後進の獲得および相乗効果の最高値を、先に述べた様にして試験した。
菌株:黄色ブドウ球菌(S.aureus)および表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)の多剤耐性臨床的分離株は、各群につき10菌株。

表4b:化合物1〜4の耐性後進および相乗効果最大値。中央値: μg/ml。
【表7】

【0153】
耐性後進の最大値は、化合物の追加的投与がMICをそれ以上に低下させない濃度を意味する。 表から判るように、化合物3は通常の抗菌剤との組合せにおいて耐性を後進させる能力と相乗効果の点で優れている。最低濃度、0.30 μg/ml、において、化合物3 は組み合わされた抗菌剤の抗菌活性を最高度まで増強させ、最高の増強倍数および最低のMIC値を得た。化合物1、2および4は全て相乗効果を示したが、低いレベルに止まり、高濃度(0.75または0.98または0.60 μg/ml)においてである。しかしながら、化合物4は耐性の最大後進がより低い濃度で達成された点で、化合物2より優れていた。得られた相乗効果に一致して、全てのFIC値は0.5より小さかった。
【0154】
実施例4c.デアルキルフェノチアジンまたはチオキサンテン化合物の相乗効果

化合物3は、トランスクロペンチキソールおよびN-デアルキル-トランスクロペンチキソールに比較して優れている。
最大耐性後進および相乗効果を前述のようにして試験した。
菌株:多剤耐性臨床的分離株大腸菌、各群につき10株。

表4c.化合物1〜3の最大耐性後進および相乗効果。中央値: μg/ml。
【表8】

【0155】
表から判るように、化合物3は通常の抗生物質との組合せにおいて、耐性後進能力および相乗効果に関して優れている。最低濃度、0,6 μg/mlで、化合物3は組み合わされた抗生物質の抗菌活性を最高度にまで増強し、増強倍率の最高値、および最少のMIC値を得た。化合物1および2では共に相乗効果を得たが、低い程度に止まり、高い使用濃度であった(2.0 or 1.0 μg/ml)。得られた相乗効果に一致して、全てのFIC値は0.5より低かった。
【0156】
実施例5.化学感受性化合物に対する不感受性の進展
抗感染症薬と耐性機構の阻害剤との組合せに対する一つの潜在的制限は、微生物が阻害剤に不感受性となる突然変異を進展させる可能性である。その様な状況は、例えば細菌、ウイルス、真菌および酵母に観察されてきた。
インビトロ-選択された黄色ブドウ球菌(S. aureus)O11の臨床的分離株に対する一段階(single-step)シプロフロキサシン耐性の発生速度に対する阻害剤の効果を決定した。
【0157】
化合物3が1 μg/mlの濃度で存在または不存在下に(表4参照)、シプロフロキサシンを1 μg/ml(MIC値の2倍)の濃度で含むLB寒天培地上に黄色ブドウ球菌を植え付けて24時間後に、自然突然変異体を得た。抗感染症薬を含む培地上で増殖したコロニー数と、抗感染症薬の不在下に適切な希釈で植え付けて得られたコロニー数とを比較することによって、突然変異体の選択頻度は3×10-8と決定した。
【0158】
臨床で阻害剤を評価する際の、おそらく最も重要な側面は、耐性突然変異体の発生に対するこれらの阻害剤の効果である。重要なことは、表5に示されるように、試験された阻害剤は、シプロフロキサシン耐性の自然発生頻度を100倍以上減少させた。この劇的効果は、阻害剤の毒性効果に帰することはできない。と言うのは、阻害剤のその様な濃度は、黄色ブドウ球菌に対するその阻害剤のMIC値より少なくとも10倍は少なく、シプロフロキサシン不存在下に植え付けられた黄色ブドウ球菌のコロニー形成能力にもコロニー大きさにも影響しないからである。結論として、トランス−クロペンチキソールは黄色ブドウ球菌中にシプロフロキサシン耐性が発生するのを阻止した。
【0159】
表5
【表9】

表5.阻害剤不存在または存在下における、シプロフロキサシン1μg/ml(黄色ブドウ球菌株に対するMIC値の2倍)に耐性を有するインビトロ選択的な黄色ブドウ球菌変異体の発生頻度。
【0160】
実施例6.マウス腹膜炎モデルにおける化合物3の抗菌効果
マウス腹膜炎/種モデル。
細菌:ヒト尿からの大便連鎖球菌BG VSE-92の臨床分離株を使用した。
動物:雌NMRIマウス(週齢、おおよそ6〜8週;体重、30±2 g)をマウス肺炎性腹膜炎(pneumonia peritonitis)モデルとして用いた(下記)。
【0161】
細菌懸濁液を、新鮮な一晩培養物(凍結保存培養物由来)から5%血液寒天培地上で上記のように調製した。マウス腹膜炎モデルへの接種物を使用直前に調製し、おおよそ107 CFU/mlの密度を与える540 nmにて調整した。接種物サイズは5%血液寒天培地上で生存率により決定した。
0.5 mlの連鎖球菌懸濁液をマウスに腹腔内注射し、接種から1時間以内に菌血症を発症させた。接種から1時間後に抗菌治療を開始した。N-デアルキル-トランス-クロペンチキソールを頸部に用量当たり0.7 mlの体積で皮下投与した。接種後未治療の対照マウスを全ての試験に含めた。(方法の参照: Erlandsdottir et al; Antimicrob Agents Chemother. 2001 Apr;45(4):1078-85)
【0162】
表6.感染マウスの治療処方(regimes)
【表10】

【0163】
種々の治療処方の効果を、5時間の治療中に腹水中の細菌カウント数の評価によって決定した。マウスモデルにおける治療処方の殺菌効率は、治療の終わりに(5時間)各治療マウスの結果を対照マウスの結果の平均値から差し引くことにより算出した。一千倍(3 log10 ステップ) の減少は、このモデルにおける最大効果を表し、試験化合物の強力な細菌殺傷効果を維持している。
結果:
感染マウスにおける化合物3の強力な抗菌活性。
マウス腹水中における化合物3の殺菌活性を表7に示す。マウス腹水中での化合物3の殺菌活性を表7に示す。表から判るように、マウスが該化合物で治療されると、腹水1 ml当たりの細菌数は3 log10 ステップ減少し、僅かに細菌の0.001%だけが5時間後に生存していた (p< 0.05)。
【0164】
表7:治療および非治療感染マウスの腹水1 ml当たりの細菌、接種後5時間後。
【表11】

【0165】
実施例7.マウス腹膜炎モデルにおける化合物3の増強効果
細菌.
ヒト尿からの大便連鎖球菌ENT 28 (VRE)の多剤耐性分離株を用いた。
動物.
雌NMRIマウス(週齢、およそ6〜8週;体重、30 ±2 g)をマウス肺炎腹膜炎モデルとして用いた(下記のとおり)。
抗生物質.
リネゾリドをシグマ社、デンマークから乾燥粉末として入手した。
マウス腹膜炎モデル。
どの様な相乗効果をも検出するために、感染マウスを各試験化合物単独または2つの化合物の混合物の副治療用量で治療した。
【0166】
細菌懸濁液を、新鮮な一晩培養物(凍結保存培養物由来)から5%血液寒天培地上で上記のように調製した。マウス腹膜炎モデルへの接種物を使用直前に調製し、おおよそ107 CFU/mlの密度を与える540 nmにて調整した。接種物の大きさを5%血液寒天培地上で生存率により決定した。
シクロホスファミド(1日6 mgを3日間)でマウスを予備処置することによって好中球減少症を導入した。連鎖球菌懸濁液の0.5 mlをマウスに腹腔内注射し、接種から1時間以内に菌血症を発症させた。接種直後から、抗生物質治療を開始した。リネゾリドおよび化合物3を用量当たり0.5 mlの体積で頸部に皮下注入した。各治療群で3匹のマウスを用いた。接種後非治療の対照マウスを全ての試験に含めた。(方法参照: Erlandsdottir et al; Antimicrob Agents Chemother. 2001 Apr;45(4):1078-85)
【0167】
表8.感染マウスの治療処方
【表12】

【0168】
種々の治療処方の効果を、5時間の治療中に腹水中の細菌カウント数の評価によって決定した。マウスを殺処理後、無菌食塩水2 mlを腹腔内注射して腹腔洗浄を行い、腹部マッサージ後、腹膜を切開して液体を収集した。腹水を食塩水で直ちに10倍に希釈し、そこから20 μlを5%血液寒天媒体上に所々に置き、次いで35℃で終夜培養後にコロニー数を数えた。血液および腹水中における細菌数読み取りの最低検出レベルは、それぞれ50および250 CFU/mlであった。マウスモデルにおける治療処方の殺菌効率は、治療の終わり(5時間後)に、各治療マウスの結果を対照マウスの結果の平均値から差し引くことにより算出した。一千倍(3 log10 ステップ) の減少は、このモデルにおける最大効果を表し、試験化合物の強力な細菌殺傷効果を維持している。
【0169】
結果:
マウス腹膜中における化合物3の強い増強活性。
リネゾリドおよび化合物3の、単独または組合せでの殺菌活性を表9に示す。表から判るとおり、リネゾリド単独では補助治療的用量において感染に対して何の効果も持たず、マウス腹膜から耐性菌は根絶されない。しかし、マウスをリネゾリドおよび化合物3の組合せで治療すると、細菌は根絶され、0.001%未満しか生存していなかった(p< 0.05)。化合物3単独では所与の補助治療的用量において細菌に影響を及ぼさなかった。
【0170】
表9:化合物3のマウス腹膜炎モデルにおける増強効果
【表13】

【0171】
実施例8.デアルキルフェノチアジンまたはチオキサンテン化合物の真菌に対する相乗効果

抗真菌剤:フルコナゾール(Pfizer, Ballerup, Denmark)
感受性試験の前に、分離株をサブロー(Sabouraud)・グルコース寒天媒体上で24時間継代培養した。
ブロス微量希釈試験をNCCLS文書M27-Aに従って実施した(参考文献:National Commitee for Clinical Laboratory Standards. (1997). Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Yeasts: Approved Standard M27-A. NCCLS, Wayne, PA.)

フラクショナル(fractional) 阻止濃度(FIC)を抗感染症薬単独および化合物3および4との組合せで上記のようにして計算した(表4参照)。相乗効果を、FIC指数が<0.5であると定義した。算出したFIC指数を以下の表10に示す。
【0172】
表10a.カンジダ・アルビカンスに対する化合物3の相乗効果
【表14】

【0173】
表10b.カンジダ・アルビカンスに対する化合物4の相乗効果
【表15】

【0174】
化合物3および4に対するFIC指数は、これらの化合物が薬剤耐性細胞中の抗真菌剤の抗真菌効果を促進する点で相乗的であることを示している。表から判るように、薬剤耐性細胞上でアッセイされた化学感受性化合物に対するFIC指数は、<0.5であった。従って、例えば、化合物3または4の抗真菌剤との組合せでの臨床使用は、この抗真菌剤のDR細胞に対するMICを、臨床的に達成可能な濃度より十分に低い値、<0.5 μg/ml未満での有効濃度にシフトさせるであろう。
【0175】
実施例9.抗ウイルス化合物に対する化合物3の増強効果

抗ウイルス剤に対する化合物3の増強効果を、化合物3の不存在下または0〜6 μM濃度での存在下でHIV感染細胞を0〜3 μMの抗ウイルス剤に晒すチェッカーボード組合せ試験法によって試験した。各実験を複製物で三回繰り返した。MICは2つの別々の実験の平均値を示す。
【0176】
方法:
ウイルスおよび細胞
HIV-1菌株HTLV〜IIIBを、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FCS)および抗生剤(増殖培地)でRPMI 1640を用いて37℃、5%CO2にてH9細胞にて増殖させた。培養上清をろ過し(0.45 nm)、アリコートを取り、使用まで−80℃にて保存した。HIV-1菌株をNIH AIDS Research and Reference Programから得た。
化合物
抗ウイルス薬:AZT、(3'-アジド-3'-デオキシチミジン)、Glaxo Wellcome。
増強化合物: トランス-クロペンチキソールをBritish Pharmacopoeia Commission Laboratory, Middlesex, United Kingdomから粉末参照物質として入手した。
【0177】
HIV−1複製の阻害
標的細胞としてMT4細胞を用いてHIV−1の菌株IIIBに対する可能性のある抗ウイルス活性について化合物を試験した。ウイルス感染培養物および化合物を加えない非感染対照培養物と並行して6日間、ウイルス(0.005 MOI)および化合物の試験希釈物を含む増殖培地でMT4細胞をインキュベーションした。培養物中のHIVの発現は先に記載のMTTアッセイを用いて間接的に定量した。HIV発現の30%未満の減少を媒介する化合物は生物学的活性を有さないものと考えた。上記の化合物の試験希釈物を含む非感染MT4培養物における細胞毒性効果について並行して化合物を試験した。抗ウイルス活性および細胞毒性効果の両方の試験についての培養物は、マイクロタイタープレート中の培養物あたり200 mlの複製物で三回行った。
対照培養物と関連する細胞増殖の30%阻害は有意であると考えた。
化合物の濃度に対する百分率阻害のプロットからの補間により50%阻止濃度を測定した。
EC50を、50%のウイルス生成、50%のウイルス感染性または50%のウイルス誘導細胞変性効果を阻害する有効濃度として定義する。
CC50を、非感染細胞の細胞増殖または生存率を50%減少させる阻止濃度として定義する。
【0178】
結果
表11に見られるように、化合物3 (表4参照)およびAZTの組合せは、AZTの抗ウイルス活性を5倍増強する結果を生た。従って、耐性ウイルス株を阻害するのに十分であることができる。化合物3単独では、使用した濃度において何ら抗ウイルスまたは細胞毒性効果を有さなかった。
【0179】
表11:抗ウイルス化合物AZT (A)に対する化合物3 (C3)の増強効果。濃度はμM基準。
【表16】

EC50を、50%のウイルス生成、50%のウイルス感染性または50%のウイルス誘導細胞変性効果を阻害する有効濃度として定義する。
CC50を、非感染細胞の細胞増殖又は生存率を50%減少させる阻止濃度として定義する。
【0180】
ウイルス試験方法参照:Petersen L, Jorgensen PT, Nielsen C, Hansen TH, Nielsen J, Pedersen EB. Synthesis and Evaluation of Double-Prodrugs against HIV. SATEプロドラッグアプローチによる、D4Tと6-ベンジル-1-(エトキシメチル)-5-イソプロピルウラシル(MKC-442, エミビリン(Emivirine))型逆転写酵素阻害剤とのコンジュゲーション J. Med. Chem. 2005, 48, 1211-1220。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

(I)
[式中、
VはS、SO2、SO、OおよびNHからなる群から選択され;
WはC=CH-(CHX)n-CX(R9)(R10)またはC=CH-(CHX)n-1-CH=C(R9)(R10)であり;
nは1〜5の範囲の整数であり;
Xはそれぞれ、独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシからなる群から選択され;
1、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ、独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルキニルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシ、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニルオキシ、カルボキシ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシカルボニル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルカルボニル、ホルミル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいアリール、適宜置換されていてもよいアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールオキシ、適宜置換されていてもよいアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールアミノ、アリールスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいヘテロアリール、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシ、適宜置換されていてもよいヘテロアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールアミノ、ヘテロアリールスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいヘテロシクリル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルオキシ、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルアミノ、ヘテロシクリルスルホニルアミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ、カルバモイル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノカルボニル、アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、C1-6-アルキルカルボニルアミノ、アミノ-C1-6-アルキル-カルボニルアミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-カルボニルアミノ、アミノ-C1-6-アルキル-アミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-アミノ、シアノ、グアニジノ、カルバミド、C1-6-アルカノイルオキシ、C1-6-アルキルスルホニル、C1-6-アルキルスルフィニル、C1-6-アルキルスルホニルオキシ、アミノスルホニル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノスルホニル、および適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルチオからなる群から選択され;
2はF、Cl、Br、I、CH2Y、CHY2およびCY3(ここに、Yはハロゲン原子である)からなる群から選択され;および
およびR10は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、適宜置換されていてもよいC3−6−シクロアルキル、またはC3−6−ヘテロシクリル、好ましくは適宜置換されていてもよい含窒素ヘテロシクリル、を形成する。]
で示される化合物またはその塩。
【請求項2】
VがSである、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
nが2、3または4である、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
9およびR10は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、適宜置換されていてもよいピペリジニルまたはピペラジニル、好ましくは、適宜置換されていてもよいピペリジニルを形成する、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
およびR10は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、適宜置換されていてもよい含窒素ヘテロアリールまたは適宜置換されていてもよいヘテロシクリルを形成し、窒素原子が、RおよびR10が結合している炭素原子から2個の炭素原子で隔てられたものである、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
一般式:
【化2】

[式中、
VはS、SO2、SO、OおよびNHからなる群から選択され;
W'はC=CHであり;
nは1〜6の範囲の整数であり;
Xはそれぞれ、独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシからなる群から選択され;
ZはC、N、SまたはOの間から選択され:
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R11、R12、R14およびR15はそれぞれ、独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニル、適宜置換されていてもよいC2-6-アルキニルおよび適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシ、適宜置換されていてもよいC2-6-アルケニルオキシ、カルボキシ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシカルボニル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルカルボニル、ホルミル、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいアリール、適宜置換されていてもよいアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールオキシ、適宜置換されていてもよいアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいアリールアミノ、アリールスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいヘテロアリール、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールオキシ、適宜置換されていてもよいヘテロアリールカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロアリールアミノ、ヘテロアリールスルホニルアミノ、適宜置換されていてもよいヘテロシクリル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルオキシカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルオキシ、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルカルボニル、適宜置換されていてもよいヘテロシクリルアミノ、ヘテロシクリルスルホニルアミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ、カルバモイル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノカルボニル、アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-アミノカルボニル、C1-6-アルキルカルボニルアミノ、アミノ-C1-6-アルキル-カルボニルアミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-カルボニルアミノ、アミノ-C1-6-アルキル-アミノ、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノ-C1-6-アルキル-アミノ、シアノ、グアニジノ、カルバミド、C1-6-アルカノイルオキシ、C1-6-アルキルスルホニル、C1-6-アルキルスルフィニル、C1-6-アルキルスルホニルオキシ、アミノスルホニル、モノおよびジ(C1-6-アルキル)アミノスルホニル、および適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルチオからなる群から選択され;および
13は水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、適宜置換されていてもよいC1-6-アルキルまたは適宜置換されていてもよいC1-6-アルコキシである。]
で示される化合物またはその塩。
【請求項7】
治療用としての、請求項1〜6のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
感染症治療用としての、請求項1〜7のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
追加の抗感染症薬と組み合わされた、感染症治療用としての請求項1〜8のいずれかに記載の感染症治療用化合物。
【請求項10】
感染症が薬剤耐性の感染性病原体により引き起こされたものである、請求項1〜9のいずれかに記載の化合物。
【請求項11】
感染症の治療用または予防用医薬の製造のための、請求項1〜10のいずれかで定義された化合物の使用。
【請求項12】
前記医薬が臨床的に意義のある量にて、用いられるか、または投与される、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
対象における感染症を治療または予防するための方法であって、対象に請求項1〜6のいずれかで定義された薬剤を投与することを含有する方法。
【請求項14】
薬剤が臨床的に意義のある量にて投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜6のいずれかに記載の薬剤および少なくとも一つの医薬的に許容される担体もしくは賦形剤を含有する、医薬組成物。

【公表番号】特表2012−524118(P2012−524118A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506464(P2012−506464)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055176
【国際公開番号】WO2010/122012
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(506363654)ベーコーゲー・ファーマ・アンパルトセルスカブ (4)
【氏名又は名称原語表記】BKG Pharma ApS
【Fターム(参考)】