説明

感熱記録粘着剤および感熱記録粘着シート

【課題】150℃以上280℃以下の温度では発色や発泡、浮き、剥がれが発生せず、加工性や保存安定性において優れ、サーマルヘッドまたはレーザー光の熱量を制御することにより、淡い発色からコントラストの高い黒色発色を示す感熱記録粘着剤およびこれを用いた感熱記録粘着シートの提供。
【解決手段】芳香環を有するホスホン酸銅、好ましくはフェニルホスホン酸銅と、粘弾性重合体、好ましくはアクリル系樹脂と、必要に応じて無機材料、カーボンブラックまたはグラファイトから選ばれる一種以上の材料とを含む感熱記録粘着剤、および基材の少なくとも一方の面に、前記感熱記録粘着剤からなる粘着剤層が積層されている感熱記録粘着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱記録粘着剤およびこれを用いた感熱記録粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、POS(販売時点情報管理)システム用のバーコードラベル、価格表示ラベル類、その他配送、商品仕訳ワッペン、郵送用シールなどの用途には感熱記録方式が多く用いられている。その理由は、印字方式が熱による瞬間的な化学反応により発色画像を得るものであり、装置も小型で記録スピードも速く、騒音、環境汚染も少なく、コストが安い等の利点があるためである。しかしながら、特定の部位を加熱によって発色させるため、感熱記録素材全体が高温に晒される用途、例えば、電子レンジ内やオーブン内等に投入されると素材全体が発色して記録が失われたり、ラベルに剥がれが生じるため、晒す温度に制限がある。特許文献1ないし特許文献3には、耐熱性を向上させた素材が示されているが、150℃以上の温度での耐熱性は見出せない。
【特許文献1】特開平5−8548号公報
【特許文献2】特開平5−318906号公報
【特許文献3】特開平10−123957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、150℃以上280℃以下の温度では発色や発泡、浮き、剥がれが発生せず、加工性や保存安定性において優れ、サーマルヘッドまたはレーザー光の熱量を制御することにより、淡い発色からコントラストの高い黒色発色を示す感熱記録粘着剤およびこれを用いた感熱記録粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の感熱記録粘着剤は、芳香環を有するホスホン酸銅と粘弾性重合体とを含むことを特徴とする。
本発明の感熱記録粘着剤は、無機材料、カーボンブラックまたはグラファイトから選ばれる一種以上の材料を含むことが好ましく、無機材料が銅原子を含有することがさらに好ましい。また、芳香環を有するホスホン酸銅は、フェニルホスホン酸銅であることが特に好ましい。さらに、本発明の粘弾性重合体は、アクリル系樹脂、特に重量平均分子量100万以上のアクリル系樹脂であることが好ましい。
また、本発明の感熱記録粘着シートは、基材の少なくとも一方の面に、本発明の感熱記録粘着剤からなる粘着剤層が積層されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の感熱記録粘着剤は、色が淡い芳香環を有するホスホン酸銅および弾性重合体を含むため、化学的にも物理的にも安定で、加熱記録時に無色または淡色から黒色または褐色に発色し、コントラストの高い画像を記録でき、優れた感熱記録適性を示す。また、本発明の感熱記録剤は、高い耐熱性を有する芳香環を有するホスホン酸銅を感熱発色成分として用いているため、150℃以上280℃以下の温度で色変化や発泡、浮き、剥がれを生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
まず、感熱記録粘着剤について説明する。
本発明の感熱記録粘着剤を構成する芳香環を有するホスホン酸銅は、記録時の温度で酸化反応を起こしやすく、非常に着色力の高い黒色または褐色に発色するものである。例えば、フェニルホスホン酸銅、2−メトキシフェニルホスホン酸銅、4−メトキシフェニルホスホン酸銅、4−エチルフェニルホスホン酸銅、2−イソプロピルフェニルホスホン酸銅、3−ニトロフェニルホスホン酸銅、4−ニトロフェニルホスホン酸銅、2−メチル−4−ニトロフェニルホスホン酸銅、3−メチル−5−ニトロフェニルホスホン酸銅、2−クロロ−5−メチルフェニルホスホン酸銅、4−クロロフェニルホスホン酸銅、4−ブロモフェニルホスホン酸銅、2−ヨードフェニルホスホン酸銅、2−フルオロフェニルホスホン酸銅等が挙げられる。特に、フェニルホスホン酸銅は、高い耐熱性および疎水性を持つため熱可塑性樹脂などへの分散性が良好であり、また安価に合成できるため好ましい。芳香環を有するホスホン酸銅は、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0007】
感熱記録粘着剤には、記録時の熱伝導性や、熱源としてレーザー光を用いる場合のレーザー光に対する感度を向上させるため、無機材料、カーボンブラックまたはグラファイトから選ばれる一種以上の材料を含有させることが好ましい。無機材料、カーボンブラック、グラファイトは、二種類以上を混合して用いてもよい。また、芳香環を有するホスホン酸銅と、無機材料、カーボンブラックまたはグラファイトから選ばれる一種以上の材料の混合重量比率は、99.9:0.1〜10:90が好ましく、その範囲の中でも95:5〜50:50がより好ましい。
【0008】
無機材料としては、金属の単体、塩、酸化物、水酸化物等を用いることができる。
金属の単体として具体的には、鉄、亜鉛、スズ、ニッケル、銅、銀、金等が挙げられる。
金属の塩として具体的には、炭酸カルシウム、炭酸銅、炭酸ニッケル、炭酸マンガン、炭酸コバルト、炭酸ランタン、硝酸マグネシウム、硝酸マンガン、硝酸鉄、硝酸カドミウム、硝酸亜鉛、硝酸コバルト、硝酸鉛、硝酸ニッケル、硝酸銅、硝酸パラジウム、硝酸ランタン、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン、酢酸カドミウム、酢酸亜鉛、酢酸コバルト、酢酸鉛、酢酸ニッケル、酢酸銅、酢酸パラジウム、塩化銅、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化銀、塩化亜鉛、リン酸銅、リン酸鉄、リン酸コバルト、ピロリン酸銅、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸コバルト、シュウ酸銅、シュウ酸鉄、シュウ酸コバルト、安息香酸銅、安息香酸鉄、安息香酸コバルト等が挙げられる。
【0009】
金属の酸化物として具体的には、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化鉛、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化マンガン、酸化モリブテン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化パラジウム、酸化ランタン、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、インジウムドープ酸化スズ(ITO)、合成ゼオライト、天然ゼオライト、銅−モリブテン複合酸化物等が挙げられる。金属酸化物としては、層状構造を有する、マイカ、モンモリロナイト、スメクタイト、タルク、クレー等を用いることもできる。
【0010】
金属の水酸化物として具体的には、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アンチモン、水酸化コバルト、水酸化ニッケル、水酸化鉄、水酸化ランタン等が挙げられる。
特に、銅原子を含有する無機材料は、記録時の熱伝導性の向上、高い感熱発色性を持つことによるコントラストの高い画像の記録、熱源として用いられるレーザー光に対する感度の向上による感熱発色性の向上などの利点が得られるため好ましい。
【0011】
次に、本発明の感熱記録粘着剤を構成する粘弾性重合体について説明する。
粘弾性重合体としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂等が挙げられるが、耐熱性の点からアクリル系樹脂、シリコーン系樹脂が好ましい。
アクリル系樹脂としては、アクリル酸エステル系単量体と、これと共重合可能な単量体とを共重合してなる共重合体が好適に用いられる。本発明の感熱記録粘着剤を用いた感熱記録粘着シートを、例えば200℃以上の高温になる鉛フリーハンダリフロー工程に用いる場合には、感熱記録粘着剤に重量平均分子量100万以上のアクリル系樹脂を含有させることが好ましい。本発明の感熱記録粘着剤が重量平均分子量100万以上のアクリル系樹脂を含まない場合には、架橋剤を使用しても凝集力が不足して、粘着剤層と被着体界面での発泡やハガレが生じやすい。また、アクリル系樹脂の重量平均分子量が200万より大きいと、粘着剤の粘度が高くなり、塗工等の作業性が劣るため、アクリル系樹脂の重量平均分子量は100万〜200万であることが好ましい。
【0012】
アクリル酸エステル系単量体としては、反応性官能基を有する単量体があり、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アミノメチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、反応性官能基を有しない(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、iso−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0013】
また、上記アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、無水フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−シクロヘキシルマレイミド、N−メチルイタコンイミド、N−(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、酢酸ビニル、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル等が挙げられる。さらに、ベンゼン環を有するスチレン、メチルスチレン、ビニルトルエンを共重合成分とすると芳香環を有するホスホン酸銅の加熱による炭化(黒色化)が助長され、好ましい。
これらの単量体は、単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。
【0014】
前述の各単量体の共重合は、公知の任意の方法、例えば、原料の単量体100重量部に対して、0.001〜5重量部の重合開始剤を用いて塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などの方法により行うことができるが、溶液重合で行うことが好ましい。重合開始剤としては、アゾ系化合物および有機過酸化物を用いることができる。
アゾ系化合物の例としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル等が挙げられる。
【0015】
有機過酸化物の例としては、分子内にパーオキサイド基を有する構造であれば特に限定されない。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。
これらの重合開始剤は、単独で、若しくは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
溶液重合の場合には、重合溶媒として、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が用いられる。これらの重合溶媒は、2種類以上混合して用いても良い。
反応温度は40〜150℃、好ましくは50〜110℃、反応時間は3〜30時間、好ましくは5〜20時間である。
【0017】
アクリル系樹脂を含む感熱記録粘着剤には、粘着性を調整する目的で粘着付与樹脂を含有させることができる。粘着付与樹脂の配合量は、アクリル系樹脂100重量部に対して、通常は0.5〜100重量部、好ましくは1〜50重量部である。このような配合量で粘着付与樹脂を含有させることにより、粘着剤層に優れた粘着力が発現する。
粘着付与樹脂としては、ロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂、石炭系粘着付与樹脂、その他の粘着付与樹脂等を用いることができる。
【0018】
ロジン系粘着付与樹脂としては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、変性ロジンのグリセリンエステル、変性ロジンのペンタエリスリトールエステル等が挙げられる。テルペン系粘着付与樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、ジペンテン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。石油系粘着付与樹脂ではC5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5系/C9系共重合系石油樹脂、水素添加C5系石油樹脂、水素添加C9系石油樹脂、水素添加C5系/C9系共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、スチレン系石油樹脂等が挙げられる。石炭系粘着付与樹脂としてはクロマン樹脂、クロマン・インデン樹脂等が挙げられる。その他の粘着付与樹脂としてはフェノール系樹脂、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂等が挙げられる。これらの粘着付与樹脂は、単独でまたは複数組み合わせて使用することができる。
さらに、不飽和環を有するロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂等を添加すると芳香環を有するホスホン酸銅の加熱による炭化(黒色化)が助長され、好ましい。
【0019】
また、アクリル系樹脂を含む感熱記録粘着剤には、架橋剤を含有させることができる。架橋剤は、アクリル酸エステル系単量体に含まれる反応性官能基と反応可能な官能基を少なくとも2個、好ましくは2〜4個有する多官能性化合物である。
架橋剤の配合量は、アクリル系樹脂100重量部に対して、通常は0.005〜50重量部、好ましくは0.05〜10重量部である。このような配合量で架橋剤を含有させることにより、アクリル系樹脂との間で好適な三次元架橋が形成され、優れた耐熱性が発現する。
【0020】
架橋剤としては、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、アミン系化合物、金属キレート系化合物、アジリジン系化合物等を用いることができる。アクリル系樹脂がカルボキシル基を有する場合には、エポキシ系化合物を架橋剤として用いると粘着剤層の耐熱性を特に向上させることができるため好ましい。
イソシアネート系化合物の例としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびこれらポリイソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体、これらポリイソシアネート化合物のビュレット体やイソシアヌレート体等が挙げられる。
【0021】
エポキシ系化合物の例としては、ビスフェノールA−エピクロロヒドリン型のエポキシ系樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン等が挙げられる。
アミン系化合物の例としては、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。
金属キレート化合物の例としては、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウムなどの多価金属がアセチルアセトンやアセト酢酸エチルに配位した化合物を挙げられる。
【0022】
アジリジン化合物の例としては、N,N‘−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、N,N‘−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)等が挙げられる。
これらの架橋剤は、単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。
アクリル系樹脂を含む感熱記録粘着剤は、好ましくは粘着付与樹脂、架橋剤を含むが、さらに、通常粘着剤に配合される、シランカップリング剤、熱安定剤、耐候安定剤、可塑剤等を含有させることができる。
【0023】
シリコーン系樹脂としては、架橋時の反応機構から縮合型と付加反応型に大別される。縮合型のシリコーン系樹脂は、錫化合物やジルコニウム化合物等の金属脂肪酸塩等を必須触媒として架橋できる。付加反応型のシリコーン系樹脂は、ヒドロシリル化架橋法や過酸化物架橋法等で硬化させることができる。ヒドロシリル化架橋法は、生産温度が80℃〜120℃で硬化できるため生産コストの向上が見込め、また、過酸化物の残留がほとんどないため衛生上好ましい。過酸化物架橋法は、予備乾燥を行ってシリコーン系樹脂を含む感熱記録粘着剤の溶剤を蒸発させた後に加熱硬化(一般的には200℃3時間)させる必要があるため多くの熱容量を必要とするが、硬化剤添加後のポットライフが長く、また、一般的に高い粘着力を発揮できる点で好ましい。
【0024】
ヒドロシリル化架橋法で硬化するシリコーン系樹脂を含む感熱記録粘着剤としては、例えば、東レダウコーニング・シリコーン(株)製のSD4560,SD4570,SD4580,SD4581,SD4584,SD4585,SD4586,SD4587L,SD4590,SD4592,BY24−738,BY24−740、信越化学工業(株)製のKR−3700,KR3701,X−40−3102が挙げられる。
過酸化物架橋法で硬化するシリコーン系樹脂を含む感熱記録粘着剤としては、例えば、東レダウコーニング・シリコーン(株)製のSH4280,SE4200,SD4280,Q2−7735、信越化学工業(株)製のKR−100,KR−101−10,KR−120T,KR−130が挙げられる。
【0025】
反応開始剤となる過酸化物としては、分子内にパーオキサイド基を有する構造であれば特に限定されない。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。
シリコーン系樹脂を含む感熱記録粘着剤は、好ましくは粘着付与樹脂、架橋剤を含むが、さらに、通常粘着剤に配合される、熱安定剤、耐候安定剤、可塑剤等を含有させることができる。
【0026】
ゴム系樹脂としては、天然ゴム、合成ゴムのいずれであってもよく、具体的にはシス−1、4−ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、部分加硫ブチルゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)を挙げることができる。ゴム系樹脂を含む感熱記録粘着剤は、アクリル系樹脂を含む感熱記録粘着剤と同様に、必要に応じ種々の粘着付与樹脂の他に、芳香族アミン誘導体、フェノール誘導体、有機チオ酸塩等の老化防止剤を含むことができ、さらに必要に応じて架橋剤を適宜含むことができる。
ゴム系樹脂を含む感熱記録粘着剤としては、東洋インキ製造(株)製のオリバインBPS3757−1、BPS4595等が挙げられる。
【0027】
感熱記録粘着剤中の芳香環を有するホスホン酸銅の含有量は、弾性重合体の全固形分を基準として、0.05〜60重量%が好ましく、0.5〜30重量%がより好ましい。芳香環を有するホスホン酸銅の含有量が60重量%を超えると、粘着剤の持つ粘着力、凝集力等の粘着物性を損ねる可能性があるからである。また、白色でない淡く着色した芳香環を有するホスホン酸銅を使用する場合には、含有量を上げすぎると組成物全体の色調にも影響するため、含有量は60重量%以下の範囲内であることが好ましい。
感熱記録粘着剤には、得られる粘着剤層の感熱記録特性を損なわない範囲で、分散安定剤、酸化防止剤、軟化剤、滑剤、充填剤、着色剤、帯電防止剤、防曇剤等を添加しても良い。
【0028】
また、感熱記録粘着剤を塗工することにより粘着剤層を形成する場合には、芳香環を有するホスホン酸銅および弾性重合体を液状媒体に分散して塗工液を調製することが好ましい。塗工液を調製する際に使用する分散機としては、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノーミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル、ホモミキサー、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」等)、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」)等が挙げられる。分散機にメディアを使う場合には、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、磁性ビーズ、スチレンビーズ等を用いることが好ましい。
【0029】
次に、感熱記録粘着シートについて説明する。
感熱記録粘着シートは、基材の少なくとも一方の面に、本発明の感熱記録粘着剤からなる粘着剤層が積層されているものであり、例えば、以下の方法で製造することができる。
(1)基材の一方の面に感熱記録粘着剤を塗布してオーブンにて乾燥後、剥離処理基材とラミネートして、片面粘着型の感熱記録粘着シートAを得る。
(2)感熱記録粘着シートAの粘着剤層を形成しなかった面に、感熱記録粘着剤を塗布してオーブンにて乾燥後、剥離処理基材とラミネートして、両面粘着型の感熱記録粘着シートBを得る。
(3)剥離処理基材に感熱記録粘着剤を塗布してオーブンにて乾燥後、感熱記録粘着シートAの粘着剤層を形成しなかった面とラミネートして、両面粘着型の感熱記録粘着シートCを得る。
【0030】
(4)剥離処理基材に感熱記録粘着剤を塗布してオーブンにて乾燥後、基材とラミネートして、片面粘着型の感熱記録粘着シートDを得る。
(5)感熱記録粘着シートDの感熱記録粘着剤層を形成しなかった面に感熱記録粘着剤を塗布してオーブンにて乾燥後、剥離処理基材とラミネートして、両面粘着型の感熱記録粘着シートEを得る。
(6)剥離処理基材に感熱記録粘着剤を塗布してオーブンにて乾燥後、感熱記録粘着シートDの感熱記録粘着剤層を形成しなかった面とラミネートして、両面粘着型の感熱記録粘着シートFを得る。
(7)剥離処理基材に感熱記録粘着剤を塗布してオーブンにて乾燥後、剥離処理基材とラミネートして、感熱記録粘着剤層のみ(キャストタイプ)の感熱記録粘着シートGを得る。
【0031】
基材としては、具体的に、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリイミド系樹脂等のフィルム基材や上質紙やグラシン紙等の紙基材が挙げられ、表面平滑性や耐久性の観点からポリ塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリイミド系樹脂が好ましく、例えば200℃以上の高温になる鉛フリーハンダリフロー工程に用いる場合には耐熱性の観点からポリイミド系樹脂が特に好ましい。
【0032】
また、基材の表面は、感熱記録粘着剤との密着性を向上させる目的で、コロナ処理やプラズマ処理、プライマー処理、粗面化処理が施されていても良い。
また、基材の表面は、感熱記録粘着剤の剥離性を付与させる目的で、シリコーン処理やワックス塗布処理が施されていても良い。
基材の厚さとしては特に限定はないが、1μm〜500μmが好ましい。
【0033】
感熱記録粘着剤の塗布は、通常使用されている塗布装置、例えばコンマコーター、ダイコーター、リップコーター、キスコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター等を使用して行う。コンマコーターを用いる場合、粘着剤の粘度は0.1〜100Pa・s程度が良好である。
また、粘着剤層の厚さは特に限定しないが、例えば、0.5μm〜200μm、好ましくは1μm〜100μmである。
【0034】
本発明の感熱記録粘着シートへの感熱記録は、感熱記録粘着シートを加熱することにより行う。
感熱記録粘着シートを加熱することにより、感熱記録粘着剤層中の芳香環を有するホスホン酸銅が熱により酸化分解または炭化し、素材によっては芳香環を有するホスホン酸銅の周りに存在する粘弾性重合体等も熱により分解し変色することで、非常に鮮明なコントラストを持った記録を行うことができる。記録する際には、芳香環を有するホスホン酸銅の種類や量、粘着剤層の厚みなどによって異なるが、少なくとも芳香環を有するホスホン酸銅が酸化分解または炭化するためのエネルギー量が必要であり、記録時の加熱温度は280〜550℃であることが好ましく、300〜500℃であることがより好ましい。
【0035】
感熱記録を行う加熱源としては、例えばサーマルヘッド、熱ペン、レーザー光等が挙げられる。サーマルヘッドや熱ペンを用いる場合は、熱伝導率の高い無機材料、カーボンブラック、グラファイトを、芳香環を有するホスホン酸銅と一緒に用いることが好ましい。また、レーザー光を用いる場合は、熱伝導率が高く、使用するレーザー光に対しても感度を有する無機材料、カーボンブラック、グラファイトを、芳香環を有するホスホン酸銅と一緒に用いることが好ましい。また、レーザー光の場合は焦点をμmオーダーに絞ることができるので、網点密度の高低やレーザー光の出力エネルギー制御によって発色濃度が調整できるので好ましい。レーザー光としては、例えば炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、YVO4レーザー、エキシマレーザー等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例中、部および%は、重量部および重量%をそれぞれ表す。
(合成例1)
水1350部に、フェニルホスホン酸130部を溶解させた。これに、硫酸銅5水和物103部を添加し、室温下で2時間攪拌した。析出物をろ過し、水で洗浄を行い、100℃で減圧乾燥させフェニルホスホン酸銅35部を得た。
(合成例2)
フェニルホスホン酸の代わりに4−エチルフェニルホスホン酸153部を使用した以外は、合成例1と同様にして4−エチルフェニルホスホン酸銅を得た。
(合成例3)
フェニルホスホン酸の代わりにエチルホスホン酸90部を使用した以外は、合成例1と同様にしてエチルホスホン酸銅を得た。
【0037】
(合成例11)
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、n−ブチルアクリレート20部、2−エチルヘキシルアクリレート10部、アクリル酸メチル8.4部、アクリル酸1.6部、酢酸エチル60部、ベンゾイルパーオキサイド0.03部を仕込み、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しながら窒素雰囲気下中で、この反応溶液を還流温度で9時間反応させた。反応終了後、トルエンを100部添加して希釈して室温まで冷却し、固形分18%のアクリル系共重合体11溶液を得た。アクリル系共重合体11の重量平均分子量は80万であった。
【0038】
(合成例12)
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、n−ブチルアクリレート30部、アクリル酸メチル8.4部、アクリル酸1.6部、アセトン60部、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.01部を仕込み、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しながら窒素雰囲気下中で、この反応溶液を還流温度で9時間反応させた。反応終了後、トルエンを100部添加して希釈して室温まで冷却し、固形分17%のアクリル系共重合体12溶液を得た。アクリル系共重合体12の重量平均分子量は160万であった。
【0039】
[実施例1]
(感熱記録粘着剤の作成)
合成例11で得られたアクリル系重合体11溶液100部と、合成例1で得られたフェニルホスホン酸銅5部と、アミン系の分散安定剤1部とをペイントコンディショナーにて攪拌分散することにより、感熱記録粘着剤A’を得た。
(感熱記録粘着シートの作成)
感熱記録粘着剤A’に、架橋剤としてN,N,N',N'-テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン(三菱瓦斯化学社製「TGMXDA」)を有効成分5%に希釈したものを、アクリル系共重合体11の固形分100部に対して1部の割合で添加して良く攪拌した。調整した粘着剤溶液を、コンマコーターで乾燥膜厚25μmとなるように、50μm厚のポリエステルフィルムベースの剥離処理基材(藤森工業社製「バイナシート50E0010−No.23」)の全面に塗布乾燥させて、粘着剤層を形成し、前述の剥離処理基材とラミネートして、感熱記録粘着シートAを得た。
【0040】
[実施例2]
(感熱記録粘着剤の作成)
合成例12で得られたアクリル系重合体12溶液100部と、合成例2で得られた4−エチルフェニルホスホン酸銅5部と、アミン系の分散安定剤1部とを用い、実施例1と同様にして感熱記録粘着剤B’を得た。
(感熱記録粘着シートの作成)
感熱記録粘着剤A’を感熱記録粘着剤B’に変えた以外は、実施例1と同様にして粘着剤溶液を調整し、コンマコーターでポリエステルフィルムベースの剥離処理基材(藤森工業製バイナシート50E0010−No.23)の全面に塗布乾燥させて、粘着剤層を形成し、12μm厚のポリイミド樹脂フィルム(東レ・デュポン社製「カプトン」)とラミネートして、感熱記録粘着シートBを得た。
【0041】
[実施例3]
(感熱記録粘着剤の作成)
シリコーン系粘着剤(東レダウコーニング・シリコーン社製「SD4580」)100部と、合成例1で得られたフェニルホスホン酸銅と銅-モリブデン複合酸化物の混合品(混合重量比率80:20)10部と、アミン系の分散安定剤2部とをペイントコンディショナーにて攪拌分散することにより、感熱記録粘着剤C’を得た。
(感熱記録粘着シートの作成)
感熱記録粘着剤C’に、架橋剤として白金錯体系触媒(東レダウコーニング・シリコーン社製「SRX212」)を、シリコーン系粘着剤の固形分100部に対して1部の割合で添加して良く攪拌した。調整した粘着剤溶液を、コンマコーターで乾燥膜厚25μmとなるように、50μm厚のポリエステルフィルムベースの剥離処理基材(藤森工業社製「バイナシート50E0010SF」)の全面に塗布乾燥させて、粘着剤層を形成し、実施例2と同様のポリイミド樹脂フィルムとラミネートして、感熱記録粘着シートCを得た。
【0042】
[実施例4]
(感熱記録粘着剤の作成)
合成例12で得られたアクリル系粘着剤100部と、合成例1で得られたフェニルホスホン酸銅と銅-モリブデン複合酸化物の混合品(混合重量比率80:20)5部と、アミン系の分散安定剤1部とをペイントコンディショナーにて攪拌分散することにより、感熱記録粘着剤D’を得た。
(感熱記録粘着シートの作成)
感熱記録粘着剤A’を感熱記録粘着剤D’に変えた以外は、実施例1と同様にして粘着剤溶液を調整した。得られた粘着剤溶液を用い、実施例2と同様にして感熱記録粘着シートD’’を得た。
さらに、得られた粘着剤溶液を、実施例2と同様にしてポリエステルフィルムベースの剥離処理基材の全面に塗布乾燥させて、粘着剤層を形成し、感熱記録粘着シートD’’のポリイミド樹脂側とラミネートして、両面型の感熱記録粘着シートDを得た。
【0043】
[実施例5]
(感熱記録粘着剤の作成)
合成例11で得られたアクリル系粘着剤100部と、合成例1で得られたフェニルホスホン酸銅とカーボンブラックの混合品(混合重量比率80:20)5部と、アミン系の分散安定剤1部とをペイントコンディショナーにて攪拌分散することにより、感熱記録粘着剤E’を得た。
(感熱記録粘着シートの作成)
感熱記録粘着剤A’を感熱記録粘着剤E’に変えた以外は、実施例4と同様にして、両面型の感熱記録粘着シートEを得た。
【0044】
[実施例6、実施例7]
(感熱記録粘着剤および感熱記録粘着シートの作成)
表1に示す感熱記録材料(混合重量比率80:20)5部を用いた以外は実施例2と同様にして、感熱記録粘着シートF、感熱記録粘着シートGを得た。
(比較例1)
(感熱記録粘着剤の作成)
合成例11で得られたアクリル系粘着剤100部と、合成例3で得られたエチルホスホン酸銅5部と、アミン系の分散安定剤1部とをペイントコンディショナーにて攪拌分散することにより、感熱記録粘着剤H’を得た。
(感熱記録粘着シートの作成)
感熱記録粘着剤A’を感熱記録粘着剤H’に変えた以外は、実施例1と同様にして粘着剤溶液を調整した。得られた粘着剤溶液を用い、実施例2と同様にして感熱記録粘着シートHを得た。
【0045】
[比較例2]
(感熱記録粘着剤の作成)
合成例2で得られた4−エチルフェニルホスホン酸銅5部を、合成例3で得られたエチルホスホン酸銅とATOの混合品(混合重量比率80:20)5部に変えた以外は、実施例2と同様にして、感熱記録粘着剤I’を得た。
(感熱記録粘着シートの作成)
感熱記録粘着剤I’を用いた以外は、実施例4と同様にして、両面型の感熱記録粘着シートIを得た。
【0046】
(記録画像の評価)
得られた感熱記録粘着シートに、YVO4レーザー「YVO社製i-Marker10W」(連続描画)を使用して感熱記録を行い、記録画像の反射濃度(O.D.値)をマクベス濃度計で測定した。結果を表1示す。
【0047】
(耐熱性の評価)
エポキシ樹脂含浸ガラスファーバー板に剥離処理基材を剥がした感熱記録粘着シートを貼り付け、その貼り付けた表面温度と時間が、90℃1分、200℃2分、280℃30秒、掛かるように設定したコンベアー式オーブン中を通過させて、感熱記録粘着シートの変色と発泡を目視により評価した。結果を表1に示す。
◎:変色および発泡、剥がれ無し
○:変色および剥がれはないが、実用レベルの発泡あり
△:変色および剥がれはないが、実用レベルの収縮あり
×:変色はないが、剥がれが発生
【0048】
【表1】

*PI:東レ・デュポン社製12μm厚のポリイミドフイルム「カプトン」

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環を有するホスホン酸銅と粘弾性重合体とを含むことを特徴とする感熱記録粘着剤。
【請求項2】
さらに、無機材料、カーボンブラックまたはグラファイトから選ばれる一種以上の材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の感熱記録粘着剤。
【請求項3】
芳香環を有するホスホン酸銅が、フェニルホスホン酸銅であることを特徴とする請求項1または2に記載の感熱記録粘着剤。
【請求項4】
無機材料が、銅原子を含有することを特徴とする請求項2または3に記載の感熱記録粘着剤。
【請求項5】
粘弾性重合体が、アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項に記載の感熱記録粘着剤。
【請求項6】
基材の少なくとも一方の面に、請求項1ないし請求項5いずれか1項に記載の感熱記録粘着剤からなる粘着剤層が積層されていることを特徴とする感熱記録粘着シート。

【公開番号】特開2006−83316(P2006−83316A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270912(P2004−270912)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】