説明

慢性心不全治療および/または予防薬

【課題】慢性心不全に有効な治療及び予防薬として有用な、急性心筋梗塞サイズ縮小効果を有する薬剤を提供すること。
【解決手段】例えば、ファモチジン、シメチジン、ラニチジン、ロキサチジンアセタート、ニザチジン、またはラフチジンのようなヒスタミンH2受容体遮断効果を有する薬剤を有効成分として含有する慢性心不全治療および/または予防薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒスタミンH2受容体遮断剤を有効成分として含有する慢性心不全治療および/または予防薬に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性心不全(CHF)患者のための現在の治療には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、b-アドレナリン受容体遮断薬、および利尿薬が使われている(非特許文献1)。しかし、積極的な医療にもかかわらず、CHFは世界的に罹患および死亡の主要な原因のままである。また、虚血性心不全の原因となる心筋梗塞発症時において心筋梗塞サイズを縮小させることは心不全発症の予防につながるが、急性期に心筋保護作用を有する薬剤はあまり知られていない。
【0003】
本発明者らは、先に新規なデータマイニング法によってヒスタミンH2受容体遮断剤が慢性心不全(CHF)患者における心臓保護作用を有する可能性を示した(非特許文献2)。
【非特許文献1】Braunwald E, Bristow MR. Congestive heart failure: fifty years of progress. Circulation. 2000;102:14-23
【非特許文献2】Kim J, Washio T, Yamagishi M, Yasumura Y, et al. A Novel Data Mining Approach to the Identification of Effective Drugs or Combinations for Targeted Endpoints-Application to Chronic Heart Failure as a New Form of Evidence-based Medicine. Cardiovasc Drugs Ther. 2004;18:483-9.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、虚血性心不全及び非虚血性心不全に対する増悪因子については十分に解明されておらず、虚血性心不全及び非虚血性心不全を含む慢性心不全に対する有効な治療及び予防薬および急性心筋梗塞時の心筋保護薬は依然として不足していた。非特許文献2での可能性の示唆は、あくまでも、データ発掘法によるものであり、実際の薬剤を使用して実証されたものではなかった。
【0005】
そこで本発明は、慢性心不全に有効な治療及び予防薬として有用な、急性心筋梗塞サイズ縮小効果を有する薬剤を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者らはヒスタミンH2受容体遮断薬であるファモチジンを用いて、実際の慢性心不全(CHF)患者において、慢性心不全を改善・心筋梗塞サイズを縮小することを見いだし、ヒスタミン受容体遮断作用を有する、H2受容体遮断薬のような消化性潰瘍治療薬が、慢性心不全の新しい治療及び予防薬および心筋梗塞時の心筋保護薬となることを見いだして、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ヒスタミンH2受容体遮断効果を有する薬剤を有効成分として含有する慢性心不全治療および/または予防薬に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、慢性心不全の治療及び予防薬を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、消化性潰瘍治療効果を有する薬剤を有効成分として含有する慢性心不全治療および/または予防薬に関する。
【0010】
慢性心不全とは、慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し、末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態をいう。慢性心不全の大半は心臓の左室の収縮機能不全にもとづくものであり、その原因としては非虚血性の拡張型心筋症と虚血性心疾患に大別される。これらの疾患においては、交感神経系やレニン-アンジオテンシン系に代表される神経内分泌因子が著しく亢進することにより左室の進行性の拡大と収縮の低下、すなわちリモデリングがおき、死亡や心不全の悪化などのイベントにつながると考えられている。そこで従来は、このような神経内分泌系を阻害することにより左室リモデリングを抑制し、心不全の予後を改善することが慢性心不全治療の中心となっている。
【0011】
それに対して本発明では、消化性潰瘍治療効果を有する薬剤を有効成分として含有する慢性心不全治療薬および予防薬を提供する。消化性潰瘍治療効果を有する薬剤は文字通り、消化性潰瘍の治療薬として使用される薬剤であり、特に、ヒスタミンH2受容体遮断効果を有する薬剤を挙げることができる。
【0012】
ヒスタミンH2受容体遮断効果を有する薬剤は、ヒスタミンのH2受容体に競合的に結合する薬物であり、胃酸、ペプシンの分泌を抑制する作用がある。通常は、胃十二指腸潰瘍、ゾリンジャーエリソン症候群の治療薬として使用されている。ヒスタミンH2受容体遮断効果を有する薬剤しては、例えば、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ロキサチジンアセタート、ニザチジン、ラフチジンを挙げることができる。
【0013】
本発明の慢性心不全治療薬は、例えば、上記ヒスタミンH2受容体遮断効果を有する薬剤と、通常、消化性潰瘍治療薬として使用される賦形剤等から構成することができ、有効成分であるヒスタミンH2受容体遮断効果を有する薬剤の適量を、例えば、1回から数回分けて患者に投与することができる。投与量は、患者の症状、年齢、性別、薬剤の効力、その他の条件(他の薬剤との併用など)により決定されるが、通常1日約1〜1000mgを1回ないし数回に分けて投与する。
【0014】
投与対象は、慢性心不全を罹患している患者であり、非虚血性の拡張型心筋症を罹患している患者、および虚血性心疾患を罹患している患者のいずも対象となる。
【0015】
また、本発明の慢性心不全治療薬は、剤型、投与形態、投与対象等は、本発明の慢性心不全治療薬と同様であることができる。
【実施例】
【0016】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0017】
例1
臨床後ろ向き研究
国立循環器病センターに入院した心不全症例連続1104症例を対象とした。症例は全て、従来からの心不全薬物内服療法を施行されたにもかかわらず、1)心不全症状を呈し、2)左心室短縮率が30%未満であった。患者はみな、IIIに対してIIのニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能機分類のIIまたはIIIに分類される心不全症例であり、この症状は2か月の間安定していた。これらの症例の中から私たちは、ファモチジン(159症例、ファモチジン群)を処方された患者を選びました。対照群としてはファモチジン群の年齢、性別および心不全の原因が一致する、その他の心不全症例から無作為に159症例を選択した。各グループ中の159人の患者の間で、拡張型心筋症(DCM)、高血圧性心疾患(HHD)、虚心形心筋症(ICM)および心臓弁膜症は、それぞれ71人、11人、39人および38人でした。血中脳ナトリウム排泄増加ペプチド(BNP)レベルおよび超音波心臓検診の臨床のパラメーター、NYHA心機能分類について比較検討を行った。結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

値は、各群のいずれかの数、範囲、または平均 ± SEM、NYHA; ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)、CHF; 慢性心不全、機能短縮(%) = (左心室端−心拡張直径−左心房端−心収縮直径)/ 左心室端−心拡張直径、LV; 左心室、LA; 左心房、ACE; アンジオテンシン転換酵素、ARB; アンジオテンシンレセプターブロッカー
*P<0.05 対コントロール群
【0019】
上記表の結果から、両群に年齢・性別や投薬内容に差がないが、ファモチジン群では血圧・心拍数に加え心不全の指標となる左心室径・血中BNPレベルの低下が認められ心不全の改善が認められた。
【0020】
例2
臨床前向き研究
例1に示した後ろ向き研究と同様の症状を示す心不全50症例に対して、前向き薬物介入試験を行った。平均年齢65歳であり、32人が男性および18人が女性であった。心不全の原因はDCM、HHD、ICMおよびvulvular心臓病は、各グループの中にそれぞれ17人、2人、4人および2人であった。患者はみな、超音波心臓検診と無作為化を遮る前に少なくとも3か月の間、b-ブロッカーおよびACE抑制剤の最適で安定した服用量によって治療された。患者は、2つの治療グループに任意に分割されましたファモチジン(n=25、ファモチジン群)およびテプレノン(n=25、対照群)。ファモチジンとテプレノンの服用量はそれぞれ1日当たり、30mgおよび150mgとした。結果を表2に示す。
【0021】
【表2】

値は、各群のいずれかの数、範囲、または平均 ± SEM、NYHA; ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)、CHF; 慢性心不全、 機能短縮 (%) = (左心室端−心拡張直径−左心房端−心収縮直径)/ 左心室端−心拡張直径、LV; 左心室、LA; 左心房、ACE; アンジオテンシン転換酵素、ARB; アンジオテンシンレセプターブロッカー
【0022】
上記表の結果から、ファモチジン群、コントロール群に年齢・投薬内容等の差を投薬開始前には認めなかった。さらに、24週間の前後での血中のBNPおよびNYHA心機能分類を図1に示す。図1の(A)に示すように、コントロール群では、24週間の前後で、血中のBNPに変化はなかった。それに対して、ファモチジン群では、ファモチジン24週間投与前後で、血中のBNPに改善が見られた。さらに、NYHA心機能分類に付いても、図1の(B)に示すように、ファモチジン群では改善が見られた。ファモチジン群におけるこれらの機能の改善は、心機能の改善に関連している。図2に示すように、コントロール群に比べて、ファモチジン群においては、FSが変化することなく、LVDdおよびLVDsが低下している。CHFの悪化に起因するリードミッションの頻度は、コントロール群に比べて、ファモチジン群においては、低下した。(4%および24%、P<0.05)
【0023】
例3
麻酔開胸犬モデル
麻酔開胸犬モデルの実験プロトコルを図3に示す。麻酔・開胸したイヌにおいて冠動脈前下行枝を90分間結紮し、360分間再灌流した後心筋梗塞サイズの検討を行った。ファモチジン群では、結紮前10分間と再灌流時に60分間ファモチジンを冠動脈内に投与した(15μg/kg/min)。対照群では、薬物を含まない生理的食塩水をファモチジン群と同様に冠動脈内に投与した。結果を図3および4に示す。図3は、心筋梗塞サイズ評価の各群の代表例であり、心筋梗塞に陥った薄い肌色の部分がファモチジン群では有意に減少しているのが解る。図4は、心筋梗塞サイズと側副血行路の比較データであり、二群に側副血行路の差を認めず、心筋梗塞サイズはファモチジン群が有意に低値であった。これらの結果は、虚血性心筋障害時にファモチジンが心筋保護的に働き、心筋梗塞サイズを縮小させることを示している。
【0024】
例4
動物実験(心不全モデルマウスを用いた実験)
リュン・リャオら(Yulin Liao et al.)(Circulation Research October 17, 2003, p759-766)に記載の方法に従って、大動脈縮窄により心不全モデルマウスを作成した。
作成した大動脈縮窄モデルに、シメチジンを強制投与し(TAC+Cimetide)、4週後の随時血糖値を測定した。対照としては、開胸のみを行い大動脈縮窄をしなかったSham群、大動脈縮窄後シメチジンを投与しなかった(TAC)群を用いた。結果を図6示す。
【0025】
図6に示す結果から、マウスの大動脈縮窄モデル(TAC群)において、心肥大の指標となる心重量/体重比(HW/BW)はSham群に比して有意に上昇しており、シメチジンにより(TAC+Cimetide)その上昇は抑制されていることが分かる。即ち、シメチジンには心肥大抑制効果があることが分かる。
【0026】
さらに図6に示す結果から、マウスの大動脈縮窄モデル(TAC群)において、縮窄後4週目の左室壁厚(LVPWd)は有意に増加しており、シメチジンにより(TAC+Cimetide)かかる心不全の指標は改善することが分かる。即ち、シメチジンには心臓リモデリング抑制効果があることが分かる。
【0027】
さらに図6に示す結果から、マウスの大動脈縮窄モデル(TAC群)において、縮窄後4週目の肺重量・左心室収縮能を表す左室短縮率(LVFS) は有意に減少しており、シメチジンにより(TAC+Cimetide)かかる心不全の指標は改善することが分かる。即ち、シメチジンには心不全改善効果があることが分かる。
【0028】
これら、マウス圧負荷モデルにおけるシメチジンの効果(図4に示す結果)から、シメチジンの効果により、心肥大を抑制することが可能であった。圧負荷モデルで、シメチジンは心肥大・心拡大を抑制しておりヒトにおいて認められた現象と同様の結果を得た。
【0029】
本実施例においては、シメチジンには、心肥大・心拡大があることが示された。即ち、シメチジンのようなヒスタミンH2受容体遮断効果を有する薬剤には、慢性心不全に対する治療及び予防効果があることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、医薬分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】例2の血中のBNP(A)およびNYHA心機能分類(B)の結果。*P<0.01, ** P < 0.05対コントロール群
【図2】例2の各種心機能の結果[(A)左心室端拡張容量 (LVDd)、(B)左心室端収縮容量(LVDs), (C)LV 機能短縮 (FS), (D) LA 直径 (LAD) および(E)圧力差尖弁値(TR dPmax)。
【図3】例3の麻酔開胸犬モデルの実験プロトコルを示す。
【図4】例3で得た心筋梗塞サイズ評価の各群の代表例を示す。
【図5】例3で得た心筋梗塞サイズと側副血行路の比較データを示す。
【図6】例4で得たマウス圧負荷モデルにおけるシメチジンの効果を示す結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒスタミンH2受容体遮断効果を有する薬剤を有効成分として含有する慢性心不全治療および/または予防薬。
【請求項2】
ヒスタミンH2受容体遮断効果を有する薬剤がファモチジン、シメチジン、ラニチジン、ロキサチジンアセタート、ニザチジン、またはラフチジンである請求項1に記載の慢性心不全治療および/または予防薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−8845(P2007−8845A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189970(P2005−189970)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】