説明

成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板およびその製造方法

【課題】 非常に厳しい加工を受け耐レトルト性をも要求されるアルミニウム製キャップの樹脂密着性を向上させる。
【解決手段】 化成型下地処理後、脂肪酸および/または脂肪酸塩が50ppm以下かつ全有機炭素量(TOC)が100ppm以下の水を用いて仕上げ洗浄を行い、次に板表面の水膜を200g/m以下に低減し、続いて50〜150℃の温風を、5〜25m/秒の風速で、1〜10秒の間、板表面に吹き付けることにより乾燥させるとともに、アルミニウム板の温度をA、アルミニウム板周辺の雰囲気温度をBとする場合、乾燥終了から樹脂を設けるまでの間において常にA≧Bとすることにより、下地処理皮膜表面の水分の吸着量を100mg/m以下、脂肪酸・脂肪酸塩の吸着量を10mg/m以下、下地処理皮膜表面の全有機炭素量(TOC)を20mg/m以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも片面に樹脂塗料を塗装もしくは樹脂フィルムをラミネートしたアルミニウム板に関し、特にプレス成形などの成形加工後において樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板(以下、アルミニウム板と呼称する)は、軽量で適度な機械的特性を有し、かつ美感、成形加工性、耐食性等に優れた特徴を有しているため、各種容器類、構造材、機械部品等に広く使われている。
【0003】
上記用途のアルミニウム板は、耐食性・耐溶出性のさらなる向上、外観の向上およびキズつき防止等のため、その表面に樹脂塗料の塗装および樹脂フィルムのラミネート加工が施されることが多い。このときアルミニウム板には、樹脂密着性ならびに耐食性を向上させるため、既存技術に基づいた下地処理(例えばリン酸クロメート、クロム酸クロメートおよびリン酸ジルコニウム等の化成型下地処理)が施されるのが一般的である。アルミニウム製キャップの場合、材料のアルミニウム板に下地処理および樹脂被覆を施してから成型加工する、いわゆるプレコート材料が多く用いられている。
【0004】
キャップ成型用プレコートアルミニウム合金板に対しては、成型加工しても樹脂の剥離が生じないための樹脂密着性や、腐食雰囲気に侵されない耐食性、ならびに高度な成型に耐えうる加工性が要求される。そのため、樹脂および下地処理にさまざまな工夫が施されてきた。例えば特許文献1は、水酸基含有有機樹脂とアミノ樹脂よりなる樹脂組成物(a)、カルボキシル基含有有機樹脂とエポキシ基含有有機樹脂よりなる樹脂組成物(b)又はビニル系有機樹脂含有樹脂組成物(c)から選ばれる樹脂組成物(A)の樹脂固形分100重量部に基いて凝固点10℃以下の脂肪酸エステル(B)を1〜10重量部配合してなることを特徴とする塗料組成物を提供している。また特許文献2は、冷間圧延により表面が仕上げられたキャップ成形加工用アルミニウム板において、圧延方向に対して平行及び直角方向に1cm当り5〜500 μmの高さあるいは深さを有する山及び谷が10〜500 個であるように表面が粗面化されたキャップ成形加工用アルミニウム板を提供している。
【特許文献1】特開2003−253195号公報
【特許文献2】特開平6−142723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような従来技術には、以下のような問題があった。
すなわち、ボトル缶を始めとする再密閉可能な容器に用いられるアルミニウム製キャップは、深絞り成型、スクリュー成型、更にはピルファープルーフ化に伴うミシン目加工など、非常に厳しい加工を受ける。さらに近年は、ボトル缶がホット飲料に採用されるようになったため、キャップの樹脂塗膜に耐レトルト性をも要求されるようになった。こうした条件に対し、特許文献1および2のような技術では、厳しい加工を受けた後の樹脂密着性が不足するため、レトルト後の樹脂塗膜剥離のような問題が発生していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、加工後の樹脂密着性を高めるためには、化成型下地皮膜の表面の水分吸着量を100mg/m以下、また脂肪酸および/または脂肪酸塩の吸着量を10mg/m以下に規制すること、さらに、化成型下地皮膜の全有機炭素量(TOC)を20mg/m以下に制限することにより、樹脂密着性が飛躍的に高まることを発見した。
【0007】
すなわち請求項1の発明は、表面に化成型下地処理を施し、さらにその上に樹脂を設けるキャップ成型用アルミニウム板において、下地処理皮膜表面の水分吸着量が100mg/m以下、脂肪酸および/または脂肪酸塩の吸着量が10mg/m以下であり、かつ下地処理皮膜表面の全有機炭素量(TOC)が20mg/m以下であることを特徴とする、成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板である。
【0008】
また請求項2の発明は、アルミニウム板の化成型下地処理を施した後、脂肪酸および/または脂肪酸塩が50ppm以下かつ全有機炭素量(TOC)が100ppm以下の水を用いて仕上げ洗浄を行い、次に板表面の水膜を200g/m以下に低減し、続いて50℃以上150℃以下の温風を、5m/秒以上25m/秒以下の風速で、1秒以上10秒以下の間、板表面に吹き付けることにより乾燥させるとともに、アルミニウム板の温度をA、アルミニウム板周辺の雰囲気温度をBとする場合、乾燥終了から樹脂を設けるまでの間において常にA≧Bであることを特徴とする、請求項1に記載の成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従って作られたキャップ成型用アルミニウム板は、高い樹脂密着性を発揮するために、より優れた成型加工性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0011】
先に記述したとおり、アルミニウム表面に対する化成型下地処理として、リン酸クロメート、クロム酸クロメートおよびリン酸ジルコニウム等が一般的に行われている。ただ、それらの下地処理皮膜が樹脂密着性を発揮するメカニズムについては、「凹凸形状によるアンカー効果」「下地処理皮膜と樹脂との分子間力」等が提案されているものの、いまだ不明確な点が多い。
【0012】
本発明者は、化成型下地処理皮膜の表面状態に関する各種要因を調査する過程において、樹脂密着性のメカニズムとして「下地処理皮膜と樹脂との水素結合力」に着目した。すなわち、化成型下地処理皮膜は、各種の金属酸化物および金属塩により構成されており、一方その上に通常に設けられる樹脂には、アクリル基、エポキシ基ならびにケトン基といった極性成分が含まれている。これらが接触した場合、下地処理皮膜と樹脂との間に新たに水素結合が発生し、互いに強固に結びつくことによって樹脂密着性が発揮されるものと考察した。
【0013】
ここで、下地処理皮膜に水分が吸着すると、皮膜成分と水分との間に水素結合が発生する。この状態において上に樹脂を設けたとしても、水素結合力が下地処理皮膜と吸着した水分との間で消費されてしまうため、十分な樹脂密着性が発揮されない。ゆえに、樹脂を設ける下地処理皮膜の表面は、水分の付着から極力遠ざけるべきである。水分の吸着量が100mg/mを上回ると、下地処理皮膜表面の極性基が水分と結合し尽くしてしまうため、加工後の樹脂密着性が極端に損なわれる。このため下地処理皮膜の表面に吸着した水分は100mg/m以下であることが必要である。なお、吸着した水分の量を測定するためには、従来技術に基づいたカール・フィッシャー水分計等の測定法が、簡易かつ好適に用いられる。
【0014】
また、脂肪酸および脂肪酸塩は、カルボニル基を有するため極性を持ち、下地処理皮膜と容易に水素結合を形成するので、上述の水分と同様、樹脂密着性に悪影響を及ぼす。加えて、脂肪酸および脂肪酸塩に含まれる炭化水素成分は、下地処理皮膜の表面エネルギーを低下させるため、塗料等の接触角を増大させ、樹脂密着性を低下させる。下地処理皮膜に対する脂肪酸および/または脂肪酸塩の吸着量が10mg/mを上回ると、下地処理皮膜表面の極性基が消費され、表面エネルギーも低下するため、加工後の樹脂密着性が極端に損なわれる。このため下地処理皮膜の表面に吸着した脂肪酸および/または脂肪酸塩は10mg/m以下であることが必要である。なお、脂肪酸の種類には、パルミチン酸やステアリン酸に代表される飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸に代表される不飽和脂肪酸があり、それぞれにカリウム塩、ナトリウム塩およびカルシウム塩等が存在するが、いずれの物質も樹脂密着性を低下させるので、下地処理皮膜表面への吸着量は10mg/m以下とする必要がある。なお、吸着した脂肪酸および/または脂肪酸塩の量を測定するためには、サンプルを溶剤抽出して各種クロマトグラフィーにて分析する方法や、表面の高感度反射赤外分光法を用いることができる。
【0015】
加えて、その他の有機物による汚染、具体的には、製造工程雰囲気に存在する浮遊溶剤や油煙の付着、また化成型下地処理工程の浴汚染に由来する油分等の残留等も、樹脂密着性低下の要因となる。これらは、水分や脂肪酸類のような水素結合こそ起こさないものの、下地処理皮膜の表面に付着することによって表面エネルギーを低下させ、塗料等の接触角を増加させる。これら汚染物質の付着量は、全有機炭素量(TOC)により表わすことができる。TOCが20mg/mを上回ると、表面エネルギーの低下が顕著になり、樹脂密着性が保てない。ゆえに、下地処理皮膜表面のTOCは20mg/m以下である必要がある。
【0016】
なお本発明の実施にあたって、化成型下地処理の種類は不問であり、従来技術に基づいた化成処理が幅広く採用できる。特に、樹脂密着性と人体への影響の小ささから、リン酸クロメートおよびリン酸ジルコニウムが好適に用いられる。そして皮膜付着量は、リン酸クロメートの場合で5mg/m以上50mg/m以下、リン酸ジルコニウムの場合で5mg/m以上20mg/m以下が適当である。これらはいずれも、皮膜付着量が低すぎると樹脂密着性が十分に発揮されず、多すぎると経済的に不利である上に、加工を施した際に下地皮膜自身が層間剥離を起こして加工密着性が低下するためである。
【0017】
そして、上記要件を満たすアルミニウム板を作製するためには、水分、脂肪酸/脂肪酸塩および有機不純物付着量の低い下地処理皮膜を作製すること、および水分の再吸着ならびに有機不純物の再付着が発生する前に、塗料の塗装およびフィルムラミネートによって樹脂被覆を完了することが重要である。
【0018】
まず、水分、脂肪酸/脂肪酸塩および有機不純物付着量の低い下地処理皮膜の作製方法について説明する。一般的に化成型下地処理工程は、従来技術に基づき、「脱脂(エッチング)」「洗浄」「化成浴による処理」「洗浄」「乾燥」の順になっている。このうち本発明において重要なのは、化成処理以降の「洗浄」と「乾燥」の各工程である。
【0019】
洗浄工程については、仕上げ洗浄に使用する洗浄水に含まれる脂肪酸および/または脂肪酸塩の濃度が50ppm以下かつTOCが100ppm以下であることが必要である。仕上げ洗浄とは、乾燥工程に入る直前に実施される洗浄のことであり、例えばコイルによる連続処理において洗浄ゾーンを数分割するような場合では、最終の洗浄ゾーンに相当する。この洗浄水に、脂肪酸および/または脂肪酸塩が50ppmを超えて、またはTOCが100ppmを超えて混入すると、下地処理皮膜の表面に残存する可能性が急激に高まり、好ましくない。
【0020】
乾燥工程は、まず仕上げ洗浄後に水膜を200g/m以下に低減することが必要である。水膜を低減させる方法に特に規定はないものの、コイルによる連続処理を考慮すると、リンガーロールによって余剰な洗浄水を絞る方法が好適に用いられる。水膜が200g/mを上回ると、続く温風乾燥に負荷がかかり過ぎ、乾燥が不十分になる上、飛び散った水滴が表面に再付着する危険性が高まるため、好ましくない。続いて、50℃以上150℃以下の温風を、5m/秒以上25m/秒以下の風速で、1秒以上10秒以下の間、表面に吹き付けることが有効である。温風の温度が50℃を下回ると乾燥が不十分になり、150℃を上回ると、エネルギー的に無駄が生じる。風速が5m/秒を下回ると乾燥が不十分になり、25m/秒を上回ると、エネルギー的に無駄が生じるほか、アルミニウム板が強風に煽られて危険が生じる。吹き付け時間が1秒を下回ると乾燥が不十分になり、10秒を上回るとエネルギー的に無駄が生じる上、生産効率が低下する。
【0021】
次に、水分の再吸着が発生する前に、塗料の塗装およびフィルムラミネートによって樹脂被覆を完了する方法について説明する。これは、アルミニウム板の温度をA、アルミニウム板周辺の雰囲気温度をBとした場合、水洗・乾燥工程終了後から樹脂被覆が完了するまで、一貫してA≧Bであることが必要である。B<A、すなわち雰囲気温度がアルミニウム板の温度より高い状態が発生すると、特に高温多湿な夏場では、アルミニウム板表面に結露するため好ましくない。具体的には、水洗・乾燥工程が終了し、温風乾燥の余熱が残っているアルミニウム板に対し、直ちに塗料の塗装またはフィルムラミネートを実施し、B<Aなる状態を発生させないことが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
アルミニウム合金材料として、板厚0.23mmの3105−H34合金板を使用した。また、化成処理の前処理として市販のアルカリ脱脂剤「FC−E3001(日本パーカライジング)」を使用した。使用条件は、濃度1.0%、温度60℃、スプレー圧1.5kgf/cm、スプレー時間8秒とした。
【0023】
発明例1:常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム4ppm、TOC=11ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を16g/mに低減した。次いで、100℃の温風を15m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温26℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0024】
発明例2:常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム46ppm、TOC=69ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を17g/mに低減した。次いで、100℃の温風を15m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温26℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0025】
発明例3: 常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム5ppm、TOC=91ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を17g/mに低減した。次いで、100℃の温風を15m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温26℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0026】
発明例4:常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム5ppm、TOC=11ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を184g/mに低減した。次いで、100℃の温風を15m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温25℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0027】
発明例5:常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム4ppm、TOC=11ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を191g/mに低減した。次いで、52℃の温風を8m/秒の風速で1秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温25℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0028】
発明例6:常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム5ppm、TOC=11ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を16g/mに低減した。次いで、100℃の温風を15m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温26℃の雰囲気において直ちに市販の缶フタ成型用ラミネートフィルム(ポリエチレンテレフタラート系、フィルム厚み10μm、ラミネート温度200℃)を両面にラミネートし、試験サンプルとした。
【0029】
発明例7:常法に基づきリン酸ジルコニウム処理(Zr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム5ppm、TOC=11ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を19g/mに低減した。次いで、100℃の温風を15m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温27℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0030】
比較例1:常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム53ppm、TOC=78ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を17g/mに低減した。次いで、100℃の温風を15m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温27℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0031】
比較例2:常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム6ppm、TOC=113ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を17g/mに低減した。次いで、100℃の温風を15m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温26℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0032】
比較例3:常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム5ppm、TOC=11ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を205g/mに低減した。次いで、100℃の温風を15m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温26℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0033】
比較例4:常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム5ppm、TOC=11ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を16g/mに低減した。次いで、44℃の温風を15m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温27℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0034】
比較例5:常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム4ppm、TOC=11ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を19g/mに低減した。次いで、100℃の温風を4m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温26℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0035】
比較例6:常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム5ppm、TOC=11ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を19g/mに低減した。次いで、100℃の温風を15m/秒の風速で0.5秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、室温26℃の雰囲気において直ちに市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0036】
比較例7:
常法に基づきリン酸クロメート処理(Cr=10mg/m)を施した後、ステアリン酸ナトリウム5ppm、TOC=11ppmの洗浄水にて洗浄を行い、リンガーロールにより板表面の水膜を18g/mに低減した。次いで、100℃の温風を15m/秒の風速で3秒間吹き付けて乾燥させた。板の乾燥後、コイルに巻き取って屋外にて冷却した後、室温27℃の雰囲気において市販のキャップ用溶剤型塗料(ポリエステル系、塗膜量5g/m、焼付温度190℃、焼付時間60秒)を両面に塗布し、試験サンプルとした。
【0037】
【表1】

【0038】
このようにして得られたサンプルに対し、以下の評価を実施した。
【0039】
(化成型下地皮膜分析)
・水分吸着量・・・樹脂を設ける直前にサンプリングし、市販のカール・フィッシャー式水分量測定装置にて測定した。
・脂肪酸類量・・・樹脂を設ける直前にサンプリングし、高感度反射赤外分光スペクトルを測定、ステアリン酸ナトリウムの検量線から算出した。
・TOC・・・樹脂を設ける直前にサンプリングし、市販の固体TOC測定装置(加熱温度=900℃)にて測定した。
【0040】
(加工後の樹脂密着性評価)
各下地処理板の両面に、市販のシリコン系潤滑剤を50mg/mずつ塗布し、キャップ成型機により絞り成型加工(キャップ径=38mm)ならびにミシン目加工を行った。得られたキャップに対し、ミシン目部およびエッジ部の剥離状態を、成型直後/レトルト後(125℃×30分)にて目視観察した。ミシン目部およびエッジ部の全長に対する剥離発生部位の長さを、%単位で記録し、全てにおいて10%以下のものを合格とした。
【0041】
結果を、塗装直前の板表面の脂肪酸類量、TOCおよび水分量とともに表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2から明らかなように、発明例1〜7は、本発明要件を満たし、強加工に対する樹脂密着性が高いため、キャップ成型試験において、成型直後/レトルト後とも良好な結果を示した。一方、比較例1〜6は、本発明の要件を満たしていないため、強加工に対する樹脂密着性が低く、特にレトルト実施後に塗膜剥離が目立つ結果となった。具体的には、比較例1は、洗浄水に含まれるステアリン酸ナトリウムが多すぎるため、化成皮膜の脂肪酸類の付着量が高い。比較例2は、洗浄水に有機物が多く含まれており、結果として化成皮膜のTOCが高い。比較例3は乾燥前の水膜が多すぎるため、乾燥工程にて水分が除去しきれず、化成皮膜の吸着水分量が高い。比較例4、5および6は、乾燥工程においてそれぞれ温度、風速および乾燥時間が不足したため乾燥不足が生じ、化成皮膜の吸着水分量が高い。比較例7は乾燥工程終了までは請求項2を満たしているものの、屋外冷却により板の温度が室温を下回ったため水分の結露が生じ、化成皮膜の吸着水分量が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に化成型下地処理を施し、さらにその上に樹脂を設けるキャップ成型用アルミニウム板において、下地処理皮膜表面の水分の吸着量が100mg/m以下、脂肪酸および/または脂肪酸塩の吸着量が10mg/m以下であり、かつ下地処理皮膜表面の全有機炭素量(TOC)が20mg/m以下であることを特徴とする、成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板。
【請求項2】
アルミニウム板の化成型下地処理を施した後、脂肪酸および/または脂肪酸塩が50ppm以下かつ全有機炭素量(TOC)が100ppm以下の水を用いて仕上げ洗浄を行い、次に板表面の水膜を200g/m以下に低減し、続いて50℃以上150℃以下の温風を、5m/秒以上25m/秒以下の風速で、1秒以上10秒以下の間、板表面に吹き付けることにより乾燥させるとともに、アルミニウム板の温度をA、アルミニウム板周辺の雰囲気温度をBとする場合、乾燥終了から樹脂を設けるまでの間において常にA≧Bであることを特徴とする、請求項1に記載の成型加工後の樹脂密着性に優れたキャップ成型用アルミニウム板の製造方法。

【公開番号】特開2007−291428(P2007−291428A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118759(P2006−118759)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】