説明

成形型及び成形方法

【課題】簡便に作成することができ、軽量且つ廉価な成形型を提供する。
【解決手段】成形型10は、複数の段ボール12が積層されたベース部14と、該ベース部14に設けられ、成形品の表面形状に合わせて膨らんだ成形面16とを有する。複数の段ボール12は、それぞれの中しん22の段24が同方向に延在するように積層され、成形面16は、段24の延在する方向に向かって窪んでいる。成形面16には樹脂層30が設けられている。樹脂層30には、段24の隙間26に連通する孔32が設けられている。孔32は隙間26を通じて成形面16から反対側の下面に連通している。孔32及び隙間26を介して吸気をしながらワークの成形をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品を得るための成形型及び成形方法に関し、特に簡便且つ廉価に製作可能な成形型、及び該成形品を用いた成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のフロントカウル等は樹脂成形品で構成されていることが多い。樹脂成形品では、種々の形状の製品を大量且つ廉価に成形することができる。
【0003】
樹脂成形品を得るために用いられる成形型は、例えば、ブロック状の合成樹脂をベースにして、成形品の表面形状に合わせて窪み又は膨らんだ成形面を設けている。
【0004】
一方、建材の用途では、軽量な支持台として積層した段ボールを用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3120150号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような合成樹脂のブロックを用いた成形型では、ブロックの塊から成形面を設定する際に相当に大量の切屑が発生し、材料の無駄が多くなる傾向にある。
【0007】
また、合成樹脂のブロックは高価であり、しかも扱う業者が限られており入手性が必ずしもよくない。特に、成形型は実際に成形品を成形してみないと成形面の適否判断ができない場合が多く、失敗を重ねることもあり得るので、合成樹脂のブロックの費用が高騰することが考えられる。また合成樹脂のブロックは比較的重量が大きいため、移動、運搬に不便である。
【0008】
一方、前記の特許文献1のような積層段ボールを用いたものは、建材等の支持台として提案されているのであって、成形型の分野に適用する発想や取り組みはなされていない。
【0009】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、簡便に作成することができ、軽量且つ廉価な成形型、及び該成形型を用いた成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る成形型は、以下の特徴を有する。
【0011】
第1の特徴:複数の段ボールが積層されたベース部と前記ベース部の一部が、成形品の表面形状に合わせて窪み又は膨らんだ成形面とを有することを特徴とする。
【0012】
このように、積層された段ボールに成形面を設けることにより、成形型を簡便に作成することができ、しかも該成形型は軽量且つ廉価である。
【0013】
第2の特徴:前記複数の段ボールは、それぞれの中しんの段が同方向に延在するように積層され、前記成形面は、前記段の延在する方向に向かって窪み又は膨らんでいることを特徴とする。このように、中しんの段が同方向に延在する方向に成形面を設けることにより、高強度の成形型が得られる。
【0014】
第3の特徴:前記成形面には、樹脂層が設けられていることを特徴とする。このような樹脂層を設けることにより、得られる成形品の表面をより滑らかにすることができ、加工性がより良好となる。
【0015】
第4の特徴:前記樹脂層には、前記段の隙間に連通する孔が設けられていることを特徴とする。このような孔から空気を吸気することにより、ワークが成形面に引き寄せられ、簡便に成形を行うことができる。
【0016】
第5の特徴:前記樹脂層はエポキシ系樹脂であると、速乾性があって固化させやすく、しかも固化した後は適度な強度があり好適である。
【0017】
本発明に係る成形方法は、以下の特徴を有する。
【0018】
第6の特徴:複数の段ボールが積層されたベース部と、前記ベース部の一部が、成形品の表面形状に合わせて窪んでいる成形面とを備える成形型を用い、前記段ボールにおける段の少なくとも1つの隙間は前記成形面から反対側の面に連通し、前記孔及び前記隙間から吸気をしながらワークの成形をすることを特徴とする。
【0019】
このように、段ボールが有する段の隙間を有効に利用して吸気を行い、ワークが成形面に引き寄せられ、簡便に成形を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る成形型によれば、積層された段ボールに成形面を設けることにより、成形型を簡便に作成することができ、しかも該成形型は軽量且つ廉価である。
【0021】
本発明に係る成形方法では、段ボールが有する段の隙間を有効に利用して吸気を行い、ワークが成形面に引き寄せられ、簡便に成形を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る成形型及び成形方法について実施の形態を挙げ、添付の図1〜図12を参照しながら説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態に係る成形型10は、複数の段ボール12が積層されたベース部14と、該ベース部14に設けられ、成形品の表面形状に合わせて窪んだ成形面16とを有する。成形型10は、自動二輪車のフロントカウル部品を成形するためのものである。成形型10は、該フロントカウル以外の種々の成形品に適用可能であることはもちろんである。
【0024】
なお、以下の説明では、図2に示すように、段ボール12の表裏に用いる板紙をライナ20とし、段ボール12の波形を成型する目的に用いる板紙を中しん22とし、中しん22による各段形状を段24とし、各段24の間を隙間26とし、段24と平行な方向を矢印A方向とする。
【0025】
図1に戻り、複数の段ボール12は、それぞれの中しん22の段24が縦方向に延在するように積層されている。成形面16は、段24の延在する矢印A方向に向かって窪んで設けられている。成形面16には、樹脂層30が設けられており、表面が滑らか設定されている。樹脂層30には、26隙間に連通する複数(例えば4つ程度)の孔32が相互に適度に離間して設けられている。樹脂層30は、薄くて足り、例えば2〜5mm程度に設定される。樹脂層30の材質としては、速乾性であることが好ましく、例えばエポキシ系の樹脂等を挙げることができる。樹脂層30は、成形面16の全面とその周囲に僅かにはみ出る程度に設けられている。
【0026】
図1では、成形面16(及び後述する成形面60)は、ベース部14において矢印A方向の面14aに設けられているが、設計条件によっては、ライナ20の面14b、又は段ボール12が積層されている側の面14cに設けてもよい。
【0027】
次に、成形型10の作成方法について説明する。
【0028】
先ず、図3に示すように、両面式の段ボール12を積層し、隣接するライナ20同士を接着してベース部14を構成する。このとき、それぞれの中しん22の段24が同方向に延在するように積層、接着する。この際、用いられる段ボール12は、両面段ボールに限らず、片面段ボール、複両面段ボール、複々両面段ボール又はこれらの組合わせであってもよい。
【0029】
また、ベース部14は、段ボール12を1枚ずつ重ねるのではなく、所定枚数からなる小ブロック(例えば、100mm幅程度)を予め作成しておき、成形面16の広さに応じて該小ブロック同士をいくつか接着して作成してもよい。
【0030】
このようにして得られるベース部14は、段ボール12がベースとなっているので、軽量且つ廉価である。また、ベース部14は、段ボール12によって略ハニカム構造となっており、特に矢印A方向の強度が高い。
【0031】
次に、図4に示すように、ベース部14をカッタ40により矢印A方向に切削して成形面16を形成する。カッタ40は、例えばNC装置により動作の制御を行うとよい。
【0032】
この第1の切削工程では、成形面16に応じた体積の紙の切屑が発生することになるが、段ボール12はその体積のほとんどが隙間26(図2参照)であることから、実際の切屑の体積は非常に少ない。また、切屑及びベース部14の本体ブロックは紙であることから古紙として有効に再利用される。段ボール12は基本的に紙であることから、金属や樹脂等と比較して非常に柔らかく、カッタ40はほとんど摩耗しないなどの利点がある。
【0033】
なお、第1の切削工程では、後に行う第2の切削工程を考慮し、やや深めの粗削りとしておいてもよい。
【0034】
第1の切削工程により、図5に示すように、樹脂層30のない成形面16がベース部14に形成される。
【0035】
次に、図6に示すように、成形面16の全面及びその周辺に液状の樹脂42を塗布し、加熱又は自然乾燥により固化させる。樹脂42がエポキシ系樹脂であると、速乾性があって固化させやすく、しかも固化した後は適度な強度があり好適である。また、固化する前のエポキシ系樹脂は適度な粘性を有しており、隙間26から漏れ流れることはない。
【0036】
次いで、図7に示すように、第2の切削工程として、樹脂42をカッタ40により矢印A方向に切削して成形面16の樹脂層30を形成する。カッタ44は、例えばNC装置により動作の制御を行うとよい。この場合、樹脂42は予め適度に薄く形成されており、削り屑は微量である。また、エポキシ系樹脂は適度な強度があることから切削しやすい。
【0037】
このようにして得られた樹脂層30の表面は、成形品の表面形状に合わせて高精度に設定され、得られる成形品の表面をより滑らかにすることができる。
【0038】
次に、図8に示すように、孔開工程として、ドリル46により樹脂層30に矢印A方向の孔32を設ける。孔32は隙間26を通じて反対側の下面に連通することになる。樹脂層30は薄いため、孔32を設ける際の削り屑は微量であり、孔開工程は簡便、迅速に行うことができる。
【0039】
1つの孔32に連通する隙間26は複数であってもよい。
【0040】
このように構成される成形型10は、図9に示すように用いられる。すなわち、孔32に連通する隙間26に継手50a、50b及びチューブ52を介して図示しない吸気手段(真空ポンプやイジェクタ等)に接続する。成形型10の上面に、可塑性の薄い樹脂板のワークWを載置し、吸気手段を用いて成形面16とワークWで囲まれた空間56内の空気を吸気する。これにより、ワークWは矢印A方向に吸い寄せられ、塑性変形して成形面16に合った成形品が得られることになる。このとき、成形型10は矢印A方向の力を受けることになるが、矢印A方向の強度は高いことからほとんど変形することなく、成形面16もほとんど変形せず、高精度な形状の成形品が得られる。成形型10はほとんど変形することがないため、高寿命である。この後、必要に応じて、成形品の周辺の余分部を取り除くとよい。
【0041】
上述したように、成形型10は、段ボール12により簡便に作成することができ、軽量且つ廉価である。また、成形型10は実際に成形品を成形してみないと成形面16の適否判断ができない場合もある。このような場合でも成形型10の試作を何度か繰り返しても材料費は十分低く抑えることができる。仮に失敗をしても、該成形型10のほとんどは古紙として再利用できる。
【0042】
また、段ボール12を扱う業者の数は比較的多く、入手性がよい。ベース部14を作成する前段階では、段ボール12は個別の板形状であることから、保管が容易である。
【0043】
さらに、成形型10を用いた成形方法では、孔32が段ボール12が有する段24の隙間26に連通していることから、該隙間26を有効に利用して吸気を行い、ワークWが成形面に引き寄せられ、簡便に成形を行うことができる。
【0044】
次に、変形例に係る成形型10a及び10bについて説明する。以下の説明では、成形型10aと同じ構成部については同符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0045】
図10に示すように、第1の変形例に係る成形型10aは、前記の窪んだ成形面16に相当する箇所に、矢印A方向に膨らんだ成形面60が設けられている。成形面60は、成形品の表面形状に合わせて膨らんだ形状に設定されている。
【0046】
このような成形型10aでは、前記の成形型10が吸気手段によって空間56内の空気を吸気して成形を行うのに対して、所定の流体加圧手段等によってワークWを上方から加圧して成形を行うとよい。
【0047】
また、図11に示すように、成形型10の成形面16を凹形状、成形型10aの成形面60を凸形状として対向するように組合わせ、プレスするようにワークWの成形を行ってもよい。
【0048】
成形型10aの詳細な作成手順については説明を省略するが、前記の成形型10の作成時には、成形面16が凹形状となるようにカッタ40で切削をしたのに対し(図4参照)、成形型10aでは成形面60が凸形状となるように切削をすればよいことは容易に理解されよう。
【0049】
図12に示すように、第2の変形例に係る成形型10bは、右型62aと左型62bから構成される。右型62aの成形面64aと、左型62bの成形面64bはそれぞれ凹形状で対向しており、入口66の部分ががやや狭いキャビティ68を形成している。
【0050】
このような成形型10bでは、例えば、ブロー成型により入口66から挿入された樹脂材に流体力を加えてキャビティ68に当接するように変形させて成形を行うことができる。得られた成形品は、右型62aと左型62bとを離間させた後に取り出すことができる。成形型10bは、例えば容器の成形に好適に用いることができる。
【0051】
なお、成形型10、10a及び10bでは、樹脂層30は必ずしも必要ではなく、条件によっては図5に示すように樹脂層30がない状態で用いてもよい。この場合、成形面16に開口する任意の隙間26を吸気用に用いることができる。
【0052】
本発明に係る成形型は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施の形態に係る成形型の斜視図である。
【図2】段ボールの一部拡大斜視図である。
【図3】段ボールを積層して得られるベース部の斜視図である。
【図4】第1の切削工程の様子を示す模式図である。
【図5】樹脂層のない成形面が形成されたベース部の斜視図である。
【図6】樹脂を塗布する工程の様子を示す模式図である。
【図7】第2の切削工程の様子を示す模式図である。
【図8】孔開工程の様子を示す模式図である。
【図9】本実施の形態に係る成形方法による成形の様子を示す模式図である。
【図10】第1の変形例に係る成形型の斜視図である。
【図11】凹形状と凸形状の成形面を組み合わせて、プレス成形をする様子を示す模式図である。
【図12】第2の変形例に係る成形型の一部断面斜視図である。
【符号の説明】
【0054】
10、10a、10b…成形型 12…段ボール
14…ベース部 16、60、64a、64b…成形面
20…ライナ 22…中しん
24…段 26…隙間
30…樹脂層 32…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の段ボールが積層されたベース部と、
前記ベース部の一部が、成形品の表面形状に合わせて窪み又は膨らんだ成形面と、
を有することを特徴とする成形型。
【請求項2】
請求項1記載の成形型において、
前記複数の段ボールは、それぞれの中しんの段が同方向に延在するように積層され、
前記成形面は、前記段の延在する方向に向かって窪み又は膨らんでいることを特徴とする成形型。
【請求項3】
請求項1記載の成形型において、
前記成形面には、樹脂層が設けられていることを特徴とする成形型。
【請求項4】
請求項3記載の成形型において、
前記樹脂層には、前記段の隙間に連通する孔が設けられていることを特徴とする成形型。
【請求項5】
請求項3又は4記載の成形型にいおいて、
前記樹脂層は、エポキシ系樹脂であることを特徴とする成形型。
【請求項6】
複数の段ボールが積層されたベース部と、
前記ベース部の一部が、成形品の表面形状に合わせて窪んでいる成形面と、
を備える成形型を用い、
前記段ボールにおける段の少なくとも1つの隙間は前記成形面から反対側の面に連通し、
前記孔及び前記隙間から吸気をしながらワークの成形をすることを特徴とする成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−155394(P2008−155394A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344156(P2006−344156)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(599166208)株式会社岩間工業所 (3)
【出願人】(506423707)栄光デザイン&クリエーション株式会社 (1)
【出願人】(000129493)株式会社クラウン・パッケージ (21)
【Fターム(参考)】