説明

成形型,成形装置及び成形方法

【課題】 型面に段差部を有する成形型によりシート状のワークを成形する際に、ワークが段差部の外周付近で無理に引き伸ばされて、亀裂等の成形不良が発生するおそれを防止することができる成形型及び成形装置を提供する。
【解決手段】 シート状のワークWを成形するための成形型12において、型面12a上の段差部12bにおけるワークWの成形代が確保されるように、成形前においてワークWを弛ませておくための成形代確保構造14を設ける。この成形代確保構造14として、段差部12bの近傍において、バネ18により突出位置に配置されるとともに、型閉じに伴って没入されて型面12aの一部を形成する入れ子型16を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車等の車両の天井材を成形するのに適用可能な成形型、その成形型を備えた成形装置及び成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の天井材Mとしては、例えば図5及び図6に示すように、前部にオーバーヘッドコンソール用の取付部Maを形成したものや、左右両側部にスピーカー用の取付部Mbを形成したものが知られている。この天井材Mを成形する場合には、図7に示すように、凹状型面21aを有する下成形型21と、凸状型面22aを有する上成形型22とを備えた成形装置が使用されている。下成形型21の凹状型面21aには凸状の段差部21bが形成されるとともに、上成形型22の凸状型面22aには凹状の段差部22bが形成されている。
【0003】
そして、両成形型21,22の間に、ウレタンシート等を主材とするシート状のワークWを供給した状態で、それらの成形型21,22が型閉じされることにより、両型面21a,22a間においてシート状のワークWが所定の形状に成形されて、天井材Mが上下を反転した状態で形成される。この場合、両型面21a,22a上の段差部21b,22bにより、天井材Mの頂壁の内面に取付部Ma,Mbが突出形成されるようになっている。そして、その後、取付部Ma,Mbの頂壁(図6の下端の壁部)が、コンソール取付け等のために切り抜かれる。
【0004】
また、表面に凹凸を有する成形基材に対してシート状の表皮材を被装する装置として、特許文献1に開示されるような構成のものが従来から提案されている。この従来装置においては、成形基材を保持する上成形型と、表皮材をセットする下成形型とが設けられている。下成形型は、中央の固定主型と、その周囲に位置する進退移動可能な可動外型とに分割して構成されている。可動外型の型面には、表皮材をセットするためのセットピンが設けられている。
【0005】
そして、上成形型に成形基材を保持するとともに、セットピンにより下成形型上に表皮材をセットした状態で、両成形型が型閉じされることにより、両成形型の型面間で表皮材が成形基材に圧着被装される。この場合、両成形型の型閉じに伴い、上成形型の型面が表皮材の外周部を介して下成形型の可動外型に押し付けられて、その可動外型が下方に後退移動され、表皮材が張設状態で成形基材の凹凸表面に沿って接着されるようになっている。
【特許文献1】特開2000−117760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図5〜図7に示す天井材Mとなるシート状のワークWがウレタンシート等を主材とする伸び率の低い材料で形成されている。このため、図7及び図8(a)に示すように、ワークWが下成形型21の凹状型面21a上に供給されたとき、凸状の段差部21bの外周部においてワークWに大きな弛みが生じない。よって、図8(b)及び図8(c)に示すように、両成形型21,22の型閉じに伴って、両型面21a,22a上の段差部21b.22b間で取付部Ma,Mbが形成される際に、ワークWが段差部21b,22bの外周付近で無理に引き伸ばされて、その引き延ばされた部分に亀裂等の成形不良が発生するという問題があった。
【0007】
一方、前記特許文献1には、図5〜図7と類似の表面に凹凸を有する成形基材は開示されているものの、その成形基材に対してシート状の表皮材を確実に接着被装するために、下成形型を固定主型と可動外型とに分割した構成が示されているに過ぎない。よって、この特許文献1に記載の構成においては、前述した亀裂等の成形不良の発生を防止することはできない。
【0008】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、型面に段差部を有する成形型によりシート状のワークを成形する際に、ワークが段差部の外周付近で無理に引き伸ばされて、亀裂等の成形不良が発生するおそれを防止することができる成形型及び成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、シート状のワークを成形するための成形型において、型面の段差部におけるワークの成形代が確保されるように、成形前及び成形過程時においてワークを弛ませておくための成形代確保手段を設けたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記成形代確保手段は、前記段差部またはその近傍において、付勢手段により突出位置に配置されるとともに、型閉じに伴って没入されて型面の一部を形成する入れ子型であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、凹状型面を有する下成形型と、凸状型面を有する上成形型とを備え、両成形型の型閉じにより、それらの型面間でシート状のワークの成形を行うようにした成形装置において、前記下成形型が請求項1または請求項2に記載の成形型よりなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、シート状のワークを段差状成形部が形成されるように成形するための成形方法において、前記段差状成形部のためのワークの成形代が確保されるように、成形前及び成形過程時において段差状成形部と対応する部分のワークを弛ませて、成形代を確保しておくことを特徴としたものである。
【0013】
(作用)
請求項1,請求項3及び請求項4に記載の発明においては、型面によるシート状のワークの成形に先立って、成形代確保手段により型面の段差部付近でワークに弛みが付けられて、所定量の成形代が確保される。よって、ワークの成形時に、ワークが段差部の外周付近で無理に引き伸ばされるのを抑制することができて、亀裂等の成形不良が発生するおそれを確実に防止することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明においては、入れ子型が昇降するだけの構成に付勢手段を設けるのみでよいため、成形代確保手段の構成が簡単であるとともに、入れ子型の突出位置と没入位置との間の移動により、成形代の確保及びその成形代による段差部でのワークの成形を円滑かつ確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、この発明によれば、型面に段差部を有する成形型によりシート状のワークを成形する際に、ワークが段差部の外周付近で無理に引き伸ばされて、亀裂等の成形不良が発生するおそれを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、この発明を具体化した成形装置の一実施形態を、図1〜図4に基づいて説明する。
図1に示すように、この実施形態の成形装置11は、例えば図5及び図6に示すような車両用天井材M等の成形品を成形するための成形設備の一部に装設されている。図示しないが、この成形装置11の上流側には、例えばウレタンシートを主材とするシート状のワークWを加工して、成形装置11に供給するためのワーク供給装置等が配設されている。また、同じく図示しないが、成形装置11の下流側には、成形装置11においてシート状のワークWから成形された車両用天井材M等の成形品を切断するための切断装置や、成形品の外周をトリミングするためのトリミング装置等が配設されている。
【0017】
前記成形装置11には、下成形型12及び上成形型13が対向配置され、上成形型13が昇降されることにより、両型12,13が接離可能に対向配置されている。下成形型12の上面には凹状型面12aが形成され、上成形型13の下面には下成形型12の凹状型面12aに対応する凸状型面13aが形成されている。そして、両成形型12,13が型開きされた状態で、下成形型12の凹状型面12a上にシート状のワークWが移送供給される。その後、両成形型12,13が型閉じされることにより、それらの型面12a,13a間でシート状のワークWが所定の形状に成形されて、天井材M等の成形品が上下を反転した状態で形成されるようになっている。
【0018】
図1に示すように、前記下成形型12の凹状型面12aには凸状の段差部12bが形成されている。上成形型13の凸状型面13aには、凸状の段差部12bと対応する凹状の段差部13bが形成されている。そして、両成形型12,13の型閉じによりシート状のワークWから天井材M等の成形品が成形される際に、両型面12a,13a上の段差部12b,13bにより、成形品に取付部Ma,Mb等の段差状成形部が形成されるようになっている。
【0019】
図1〜図3に示すように、前記下成形型12における凹状型面12a上の段差部12bには、成形代確保手段としての成形代確保構造14が設けられている。そして、この成形代確保構造14により、ワークWの成形に先立って、凸状の段差部12b周辺においてワークWに弛みWaを生じさせ、前記取付部Ma,Mb等の段差状成形部を成形するための成形代を確保しておくようになっている。
【0020】
前記成形代確保構造14においては、下成形型12の段差部12bに一対の収容凹部15が形成されている。各収容凹部15内には入れ子型16が昇降可能に収容され、段差部12bの上方に突出する突出位置と、段差部12bの頂面と同一位置まで没入する没入位置とに移動可能に収容配置されている。ガイドピン17は、入れ子型16の昇降を案内するとともに、入れ子型16の上昇限を規制する。各入れ子型16の下部と収容凹部15の内底部との間には、付勢手段としての各一対のバネ18が介装されている。そして、両成形型12,13の型開き時には、これらのバネ18の付勢力により、各入れ子型16がガイドピン17で規制される突出位置に移動配置されている。また、両成形型12,13の型閉じ時には、各入れ子型16が上成形型13との接触により、バネ18の付勢力に抗して没入位置に移動されて、凹状型面12aの一部を形成するようになっている。
【0021】
次に、前記のように構成された成形装置11の動作を説明する。
さて、この成形装置11においては、図1に示すように、両成形型12,13の型開き状態で、下成形型12の凹状型面12a上にシート状のワークWが移送供給される。このとき、図2及び図4(a)に示すように、成形代確保構造14の各入れ子型16がバネ18の付勢力により、段差部12bの上方の突出位置に移動配置されている。このため、下成形型12の凹状型面12a上の段差部12bと対応する部分では、ワークWに所要の量の弛みWaが付けられて、所定量の成形代が確保される。
【0022】
その後、両成形型12,13が型閉じされると、それらの型面12a,13a間でシート状のワークWが所定の形状に成形されて、天井材M等の成形品が上下を反転した状態で形成される。この場合、図4(b)及び図4(c)に示すように、両成形型12,13の型閉じに伴って、成形代確保構造14の各入れ子型16が上成形型13との接触による上成形型13の段差部13bの外周13cによりワークWとともに押し込まれるが、この状態、すなわち成形過程時の終了時を除いた状態ではワークWには弛みWaが維持され、成形代が確保される。そして、各入れ子型16は、バネ18の付勢力に抗して突出位置から没入位置に移動される。このため、前記のように成形前に予め確保されたワークWの成形代により、両型面12a,13aの段差部21b.22b間において、天井材M等の成形品に取付部Ma,Mb等の段差状成形部が突出形成される。
【0023】
従って、この段差状成形部のMbが形成時には、ワークWの段差状成形部となる位置にあらかじめ成形代が確保されているため、ワークWが段差部12b,13bの外周付近で無理に引き伸ばされるのを抑制することができて、亀裂等の成形不良が発生するおそれを確実に防止することができる。また、以上のように亀裂を防止するための構成としては、バネ18により上方に付勢された入れ子型16を昇降可能に設けるのみでよいため、構成が簡単である。
【0024】
成形が終了した成形品は、次工程に送られてトリミング等の加工を受け、前記段差状成形部の頂壁が切り抜かれる。
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0025】
・ 下成形型12の凹状型面12a上の段差部12bの一部ではなく、段差部12bの全体に成形代確保構造14の入れ子型16を設けて、突出位置と没入位置とに移動配置させるように構成すること。
【0026】
・ 成形代確保構造14の入れ子型16を凹状型面12a上の段差部12b以外のところで、段差部12bの近傍に設けること。このようにしても、ワークWの段差状成形部のための成形代を確保できる。
【0027】
・ 前記実施形態の車両用天井材Mとは異なった成形品を成形するための成形型及び成形装置に実施すること。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一実施形態の成形型を備えた成形装置を示す断面図。
【図2】図1の2−2線における部分拡大断面図。
【図3】図1の3−3線における部分拡大断面図。
【図4】(a)〜(c)は図1の4部分における成形時の動作を順に示す部分拡大断面図。
【図5】成形品としての車両の天井材を示す斜視図。
【図6】図5の6−6線における拡大断面図。
【図7】従来の成形型を備えた成形装置を示す断面図。
【図8】(a)〜(c)は図7の8部分における成形時の動作を順に示す部分拡大断面図。
【符号の説明】
【0029】
11…成形装置、12…下成形型、12a…凹状型面、12b…凸状の段差部、13…上成形型、13a…凸状型面、13b…凹状の段差部、14…成形代確保手段としての成形代確保構造、16…入れ子型、18…付勢手段としてのバネ、W…シート状のワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のワークを成形するための成形型において、
型面の段差部におけるワークの成形代が確保されるように、成形前及び成形過程時においてワークを弛ませておくための成形代確保手段を設けたことを特徴とする成形型。
【請求項2】
前記成形代確保手段は、前記段差部またはその近傍において、付勢手段により突出位置に配置されるとともに、型閉じに伴って没入されて型面の一部を形成する入れ子型であることを特徴とする請求項1に記載の成形型。
【請求項3】
凹状型面を有する下成形型と、凸状型面を有する上成形型とを備え、両成形型の型閉じにより、それらの型面間でシート状のワークの成形を行うようにした成形装置において、
前記下成形型が請求項1または請求項2に記載の成形型よりなることを特徴とする成形装置。
【請求項4】
シート状のワークを段差状成形部が形成されるように成形するための成形方法において、
前記段差状成形部のためのワークの成形代が確保されるように、成形前及び成形過程時において段差状成形部と対応する部分のワークを弛ませて、成形代を確保しておくことを特徴とした成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−1140(P2007−1140A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183837(P2005−183837)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】