説明

成形用シート及びこれから得られる成形体

【課題】膨張成形性に優れ、得られる成形体が優れた寸法安定性、断熱性、吸音性等を有する成形用シート、及びこの成形用シートから得られる成形体の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、繊維素材、熱発泡性マイクロカプセル及びカチオン性定着剤を含有する熱発泡層を備える成形用シートであって、上記繊維素材が天然繊維及び多分岐形状を有する熱可塑性繊維を含み、上記熱発泡性マイクロカプセルの少なくとも一部が熱可塑性繊維に定着していることを特徴とする。当該成形用シートが抄紙工程及び70℃を超え95℃以下の加熱乾燥工程を経て得られているとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用シート及びこの成形用シートから得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の天井内装材や建材等には、一般的に断熱性、吸音性、剛性、寸法安定性等が要求されている。一方、近年において、自動車用の天井内装材や建材等には、このような断熱性等の要求に加えて、軽量性、成形性の向上、さらには製造過程での作業性、サーマルリサイクル、産業廃棄物削減等の環境に対する配慮が強く要請されている。
【0003】
従来の自動車用天井内装材としては、例えば発泡ポリウレタンシートの両表面に、結合剤によりガラスチョップドストランドマットを接着した自動車成形天井材が開発されている(特許第4026455号公報参照)。このガラスチョップドストランドマットは、ガラスチョップドストランドが接着剤を介して結合したものであり、目付が80g/m〜200g/mで、JIS−R3420に基づいて測定した強熱減量が10質量%〜25質量%とされている。しかしながら、上記天井内装材は、剛性、寸法安定性、断熱性等には優れるものの、素材としてガラス繊維を用いることから、軽量化や、プレス加工等における成形性の向上、サーマルリサイクルなどの環境問題等を十分にクリアすることができない。
【0004】
そこで、上述の天井内装材等に用いられる材料として、熱発泡性マイクロカプセルを含有する成形用シートの開発も進められている(特開2006−28654号公報及び特開2008−50724号公報参照)。この成形用シートは、加熱によりマイクロカプセルを発泡させて膨張成形し、この成形体を内装材等として用いるものである。このようにして得られた成形体は、軽量性やリサイクル性の点において優れている。
【0005】
このマイクロカプセルを含有する成形用シートにおいては、天然繊維間の水素結合を弱め、効率的に低密度にまで膨張させることを目的として、含水状態で加熱成形を行う場合がある。しかし、この際、従来の上記成形用シートでは、マイクロカプセルの定着性が低く、このマイクロカプセルが含水状態の天然繊維間で流動化することで、不均一な膨張が生じてしまうことがある。このように成形用シートの膨張成形性が不十分で、不均一な膨張が生じた場合、得られる成形体は寸法安定性が低く、密度の不均一性から断熱性や吸音性が低下することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4026455号公報
【特許文献2】特開2006−28654号公報
【特許文献3】特開2008−50724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、膨張成形性に優れ、得られる成形体が優れた寸法安定性、断熱性、吸音性等を有する成形用シート、及びこの成形用シートから得られる成形体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、
繊維素材、熱発泡性マイクロカプセル及びカチオン性定着剤を含有する熱発泡層を備える成形用シートであって、
上記繊維素材が天然繊維及び多分岐形状を有する熱可塑性繊維を含み、
上記熱発泡性マイクロカプセルの少なくとも一部が熱可塑性繊維に定着していることを特徴とする。
【0009】
当該成形用シートは、熱発泡性マイクロカプセルが熱可塑性繊維に定着しているため、含水状態で加熱した場合でも、熱発泡性マイクロカプセルの繊維素材間の流動が抑制される。特に、上記熱可塑性繊維が多分岐形状を有しているため、マイクロカプセルの熱可塑性繊維への定着性が高い。このため、加熱成形の際に、マイクロカプセルがシート内で偏在化することなく、均一な膨張が可能となる。従って、当該成形用シートは優れた膨張成形性を有し、得られた成形体は優れた寸法安定性、断熱性及び吸音性を発揮することができる。
【0010】
当該成形用シートが抄紙工程及び70℃を超え95℃以下の加熱乾燥工程を経て得られているとよい。このような範囲の温度で加熱乾燥を経ることで、熱発泡性マイクロカプセルと熱可塑性繊維の先端部分等とが融着することなどにより、マイクロカプセルが強固に定着されることができる。従って、当該成形用シートは、より高い均一膨張性を発揮することができる。
【0011】
上記熱発泡層における熱発泡性マイクロカプセルの含有量が、繊維素材100質量部に対して10質部%以上50質量部以下であることが好ましい。熱発泡性マイクロカプセルの含有率を上記範囲とすることで、当該成形用シートは、加熱によってより効率的に膨張することができ、得られる成形体の断熱性及び吸音性をさらに高めることができる。
【0012】
当該成形用シートが、多層抄きによる3層以上の上記熱発泡層からなるとよい。当該成形用シートが3層以上の熱発泡層からなることで、熱発泡性マイクロカプセルの厚み方向の偏在を防ぐことができるため、均一な膨張を可能とし、膨張成形性をさらに高めることができる。
【0013】
本発明の成形体は、上記成形用シートを含水状態で加熱及びプレス加工して成形され、密度が0.02g/cm以上0.055g/cm以下であるものである。当該成形体は、このように低密度でありながら、この密度にむらがなく、優れた断熱性及び吸音性を有するため、自動車等の天井内装材や建材等に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の成形用シートによれば、加熱、特に含水状態での加熱による膨張成形性に優れ、得られる成形体が高い断熱性、吸音性等を有するため、各種断熱材料、吸音材料等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の成形用シート、及びこの成形用シートから得られる成形体について詳説する。
【0016】
(成形用シート)
本発明の成形用シートは、繊維素材、熱発泡性マイクロカプセル及びカチオン性定着剤を含有する熱発泡層を備える。上記繊維素材としては、天然繊維及び多分岐形状を有する熱可塑性繊維を含む。また、上記熱発泡性マイクロカプセルの少なくとも一部が熱可塑性繊維に定着している。
【0017】
当該成形用シートは、熱発泡性マイクロカプセルが熱可塑性繊維に定着しているため、含水状態で加熱した場合でも、熱発泡性マイクロカプセルの繊維素材間の流動が抑制される。特に、上記熱可塑性繊維が多分岐形状を有しているため、マイクロカプセルの熱可塑性繊維への定着性が高い。このため、加熱成形の際に、マイクロカプセルがシート内で偏在化することなく、均一な膨張が可能となる。従って、当該成形用シートは優れた膨張成形性を有し、得られた成形体は優れた寸法安定性、断熱性及び吸音性を発揮することができる。
【0018】
当該成形用シートの層構造としては、上記熱発泡層一層からなる単層構造、一又は複数の熱発泡層と他の層とからなる混合層構造、複数の熱発泡層からなる多層構造等を挙げることができる。なお、熱発泡層以外の他の層としては、熱発泡性マイクロカプセルを含有しない繊維素材等からなる層などが挙げられる。
【0019】
これらの構造の中でも、複数、好ましくは3層以上、さらに好ましくは5層以上の熱発泡層のみからなる多層構造であるとよい。当該成形用シートが3層以上の熱発泡層からなることで、熱発泡性マイクロカプセルの厚み方向の偏在を防ぐことができるため、均一な膨張を可能とし、膨張成形性(均一膨張性)をさらに高めることができる。このような多層構造は一般的な抄紙に用いられる多層抄きによって形成することができる。
【0020】
この複数の熱発泡層における熱発泡性マイクロカプセルの含有率は、同一であることが膨張の際の均一性を高める点で好ましい。また、同様の理由から、各熱発泡層の繊維素材の種類及び配合比も同一であるとよく、各熱発泡層のカチオン性定着剤の種類及び配合量も同一であるとよい。
【0021】
当該成形用シートが複数の熱発泡層からなる場合、各熱発泡層の厚さとしては、0.05mm以上0.3mm以下が好ましい。各熱発泡層をこのような厚さとすることで、加熱の際の均一膨張性をさらに高めることができる。この厚さが0.3mmを超える場合は、抄紙において厚さ方向にマイクロカプセルが偏在しやすくなり、その結果、得られる成形体の密度にムラが生じ、断熱性及び吸音性が低下するおそれがある。また、各熱発泡層の厚さが0.05mm未満の場合は、抄紙が困難となるおそれがある。
【0022】
当該成形用シートの密度は0.3g/cm以上0.7g/cm以下が好ましく、0.4g/cm以上0.65g/cm以下がより好ましい。当該成形用シートをこのような低密度にすることで、繊維素材間の疎密さを好適に制御でき、膨張成形性をより高めることができる。なお、この密度は、JIS−P8118(厚さ及び密度の試験方法)に準拠して測定した値である。
【0023】
当該形成用シートの密度が0.3g/cm未満の場合は、膨張後の成形体の強度が低下し、成形性や寸法安定性が十分ではない場合がある。逆に、この密度が0.7g/cmを超える場合は、加熱による膨張度合いが不十分なものとなり、成形性が低下するおそれがある。
【0024】
当該成形用シートの坪量の上限としては1,000g/mが好ましく、900g/mがより好ましく、800g/mがさらに好ましい。また坪量の下限としては200g/mが好ましく、300g/mがより好ましく、400g/mがさらに好ましい。このように当該成形用シートの坪量の上限及び下限を設定することで、当該成形用シートを用いた成形体に付与される軽量性及び剛性のバランスをより一層向上させることができる。
【0025】
当該成形用シートの厚さの上限としては、1.5mmが好ましく、1.2mmがより好ましい。また、厚さの下限としては0.5mmが好ましく、0.8mmがより好ましい。このように当該成形用シートの厚さの上限及び下限を設定することで、成形用シートの厚さの均一化を図ると共に、抄紙工程での抄紙機による巻き取りを容易とすることができる。かかる成形用シートの厚さが0.5mm未満であると、成形時において嵩が出ず、十分な剛性、吸音性を発揮することができないため好ましくない。逆に、厚さが1.5mmを超えると、抄紙機による巻き取りが困難になるおそれがある。
【0026】
当該成形用シートのフリーネスの上限としては800ccが好ましく、700ccがより好ましい。また、フリーネスの下限としては580ccが好ましく、600ccがより好ましい。本発明者等の知見では、好適な原料パルプとして多分岐形状を有する熱可塑性繊維と叩解処理を施したバージンパルプ(非古紙パルプ)のNBKPを組み合わせ、得られた多分岐形状を有する熱可塑性繊維とNBKPとの混合原料パルプのフリーネスを上限としては800ccが好ましく、700ccがより好ましい。また、フリーネスの下限としては580ccが好ましく、600ccとなるように叩解や分級、配合により調整することが好ましいことを見出している。このフリーネスが580cc未満であると、当該成形性シートから得られる成形体の天然繊維の繊維長が短くなり、破裂強度の低下や角割れ等が発生しやすくなると共に、天然繊維において水素結合が発生する表面積が拡大し、発泡が阻害されるため好ましくない。なお、フリーネスは、JIS−P8220に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した後、JIS−P8121に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて濾水度を測定した値である。
【0027】
(天然繊維)
天然繊維は、当該成形用シートの熱発泡層を構成する骨格素材である。かかる天然繊維を熱発泡層が含有することで、得られる成形体の軽量性を向上することができる。また、このような天然繊維は焼却が容易であるため、サーマルリサイクルの効率を著しく向上することができ、その結果産業廃棄物の大幅な削減を実現することができる。
【0028】
上記天然繊維の種類としては、特に限定されず、例えばパルプ(古紙パルプ、化学パルプ、機械パルプ等)が挙げられる。
【0029】
古紙パルプとしては、例えば段ボール古紙、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、上白古紙、ケント古紙、構造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、脱墨・漂白古紙パルプ等が挙げられ
る。
【0030】
化学パルプとしては、例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等が挙げられる。
【0031】
機械パルプとしては、例えばストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等が挙げられる。
【0032】
これらの中でも、叩解によりフィブリル化(毛羽立ち)された微細な小繊維を比較的多く有するバージンパルプ(非古紙パルプ)を含有させることが、後述する多分岐形状を有する熱可塑性繊維との絡みによる熱発泡性マイクロカプセルの定着寄与や紙質強度等の相乗効果が得られ好ましく、パルプ繊維入手が容易で比較的紙力が大きく、加熱による成形性及び得られる成形体の形状安定性を効果的に高めることができる化学パルプが好ましく、NBKPがさらに好ましい。
【0033】
上記天然繊維の繊維素材全体に対する含有量の上限としては90質量%が好ましく、85質量%がより好ましい。また、天然繊維の繊維素材全体に対する含有量の下限としては60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、75質量%が特に好ましい。このように天然繊維の含有量の上限及び下限を設定することで、当該成形用シートを用いた成形体の軽量性を向上させつつ、成形体に対して良好な寸法安定性及び剛性を付与することができる。この天然繊維の含有量が60質量%未満であると密度が高くなり、膨張成形性が下がるため好ましくない。また、この天然繊維の含有量が90質量%を超えると、熱可塑性繊維の含有量が低下し、膨張性形成が低下するため好ましくない。
【0034】
(熱可塑性繊維)
熱可塑性繊維は、天然繊維と共に繊維素材として当該成形用シートに含有される繊維体である。この熱可塑性繊維は、成形加工の加熱下で融解して天然繊維の繊維間に浸透し、その後、冷却して再び凝固することから、当該成形用シートから得られる成形体に対して高い剛性及び寸法安定性を付与することができる。
【0035】
上記熱可塑性繊維は多分岐形状を有している。このような多分岐形状の熱可塑性繊維を用いることで、マイクロカプセルが熱可塑性繊維の多分岐間に複雑に絡まれた状態となるため、マイクロカプセルの固定性が高い。さらには、多分岐形状の熱可塑性繊維は、抄紙後の加熱乾燥の際に、熱可塑性繊維の分岐の先端部分が溶解しやすい。このため、熱可塑性繊維とマイクロカプセルとが融着した状態となりやすく、この場合、さらにマイクロカプセルの固定性が高いため、含水状態での均一膨張性がより向上する。なお、高分子の融点は分子量等に応じて幅があるため、特に繊維において細くかつ先端の部分の表面等は比較的低温(ポリオレフィン系繊維においても100℃以下等)で一部溶融することができるとされている。
【0036】
さらには、多分岐形状の熱可塑性繊維と組み合わせて用いる天然性として、フィブリル化された微小繊維を多く含有し、パルプ繊維自体の強度も高いNBKPと組み合わせて使用することで、本件発明の課題である、膨張成形性に優れ、得られる成形体が優れた寸法安定性、断熱性、吸音性等を有する成形用シート、及びこの成形用シートから得られる成形体を好適に得ることができる。
【0037】
上記熱可塑性繊維の種類としては、特に限定されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレンなどのポリオレフィン系繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、共重合ポリエステルなどのポリエステル系繊維;ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−46、ナイロン−66、共重合ナイロンなどのポリアミド系繊維;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートなどの生分解性繊維等が挙げられる。中でも、天然繊維との熱溶融による接着性や、熱発泡性マイクロカプセルとの定着性(上述の溶融による融着も含む)に優れ、その結果、膨張性形成や、得られる成形体の剛性を向上させることから、ポリオレフイン系繊維を用いることが好ましい。
【0038】
上記熱可塑性繊維の融点は、後述する熱発泡性マイクロカプセルの発泡開始温度以上最大膨張温度以下であることが好ましい。当該成形用シートによれば、熱可塑性繊維の融点と熱発泡性マイクロカプセルの発泡温度に上述の関係を持たせることで、マイクロカプセルが熱可塑性繊維と密着しつつ膨張することができるため、所定の密度にまで効率的に膨張することができるとともに、膨張の際の成形性及び得られる成形体の寸法安定性をさらに高めることができる。上記熱可塑性繊維の融点が熱発泡性マイクロカプセルの発泡開始温度未満の場合は、熱可塑性繊維がマイクロカプセルの発泡より先に溶融することで、溶融した熱可塑性繊維がマイクロカプセルの発泡(膨張)を阻害し、膨張成形性が低下するおそれがある。また、熱可塑性繊維の融点が熱発泡性マイクロカプセルの最大膨張温度を超える場合は、溶融していない熱可塑性繊維がマイクロカプセルの発泡(膨張)を阻害するおそれがある。
【0039】
上記熱可塑性繊維の繊維素材全体に対する含有量の上限としては、40質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、25質量%が特に好ましい。また、熱可塑性繊維の繊維素材全体に対する含有量の下限としては、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。このように熱可塑性繊維の含有量の上限及び下限を設定することで、溶融した熱可塑性繊維の天然繊維の繊維間への浸透率を向上させ、当該成形用シートを用いた成形体の剛性、寸法安定性等を効果的に実現することができる。
【0040】
この熱可塑性繊維の含有量が40質量%を超えると、後述する発泡性マイクロカプセルの発泡を阻害し、得られる成形体の厚みが不十分となり、良好な吸音性及び断熱性を確保することができなくなる場合があるため好ましくない。また、熱可塑性繊維の含有量が10質量%未満であると、膨張性や繊維素材同士の接着性が不十分となり、破れの発生が増加する傾向があるため好ましくない。
【0041】
上記熱可塑性繊維の繊維長の上限としては2mmが好ましく、1mmが特に好ましい。また、熱可塑性繊維の繊維長の下限としては0.1mmが好ましく、0.6mmがより好ましい。このように熱可塑性繊維の繊維長の上限及び下限を設定することにより、加熱による熱可塑性繊維の溶融効率が向上し、当該成形性シートから得られる成形体における天然繊維の繊維間への浸透率がより一層向上する。
【0042】
上記熱可塑性繊維の繊維長が上記上限を超えると、この熱可塑性繊維が熱発泡性マイクロカプセルの膨張を阻害する場合がある。逆に、熱可塑性繊維の繊維長が上記下限未満であると、加熱による膨張後に、各熱可塑性繊維が分離して存在することとなりやすく、寸法安定性が低下するおそれがある。
【0043】
上記熱可塑性繊維が親水性を有するとよい。当該成形用シートによれば、親水性を有する熱可塑性繊維を用いることで、この熱可塑性繊維とカチオン性定着剤との親和性が高く、マイクロカプセルの熱可塑性繊維への定着性を高めることができる。また、親水性を有する熱可塑性繊維を用いることで、天然繊維と熱可塑性繊維とが均一に絡み合い、各繊維の偏在を抑えることができる。従って、当該成形用シートは、均一膨張性がより高まり、膨張成形性を高めることができる。
【0044】
上記熱可塑性繊維の表面に界面活性剤が付着していることが好ましい。熱可塑性繊維の表面に界面活性剤を付着させることで、熱可塑性繊維が好適な度合いの親水性を備えることができる。また、界面活性剤の付着により、熱可塑性繊維同士の凝集を抑制し、熱可塑性繊維とマイクロカプセルとの定着を促進させることができるとともに、天然繊維と熱可塑性繊維との均一性がさらに高まる。従って、当該成形用シートは、膨張成形性をより高めることができる。なお、このような表面に界面活性剤が付着している熱可塑性繊維としては、三井化学社製の「SWP−E400」、「SWP−E620」等を挙げることができる。
【0045】
上記熱可塑性繊維の繊維長の調整には、水系分散させた熱可塑性繊維に対し叩解処理や分級手段を用いることで、好適な範囲に調整することができる。
【0046】
(非熱可塑性化学繊維)
当該成形用シートの熱発泡層には、上記天然繊維及び熱可塑性繊維に加えて、非熱可塑性化学繊維を含有してもよい。この非熱可塑性化学繊維は、成形体加工の加熱下で溶融することなく、天然繊維の繊維間の水素結合を部分的に阻害することで当該成形性シートから得られる成形体の天然繊維の繊維間に連続した空隙を形成させ、この成形体に対して軽量性、断熱性及び吸音性を付与すると共に、成形体の破断や層間剥離を効果的に防止することができる。また、この非熱可塑性化学繊維を含有することで、繊維素材間の水素結合を弱めることができるため、低含水状態においても、加熱によって効率的に膨張させることができる。
【0047】
上記非熱可塑性化学繊維の種類としては、特に限定されないが、例えばビニロン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維などの再生セルロース繊維等が挙げられる。
これらの中でも、繊維方向と垂直な断面の形状が略円形であるビニロン繊維が、当該成形用シートから得られる成形体に対して高い強度、耐久性、空隙性、低コスト性を付与することができるため好ましい。
【0048】
上記非熱可塑性化学繊維の繊維素材全体に対する含有量としては、例えば5質量%以上50質量%以下であり、20質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。
【0049】
このように非熱可塑性化学繊維の含有量の上限及び下限を設定することで、天然繊維間の水素結合を弱め、低含水状態においても加熱によって容易に膨張させることができ、また、得られる成形体に対して、連続的な空隙を確実かつ効率的に形成させることができ、その結果、この成形体の吸音性及び断熱性を向上することができる。この非熱可塑性化学繊維の含有量が50質量%を超えると、後述する発泡性マイクロカプセルと繊維素材との接触性が低下し、成形体に十分な嵩を付与することができないため好ましくない。また、非熱可塑性化学繊維の含有量が5質量%未満であると、繊維素材間の絡まりが不十分となり破れの発生を増加させると共に、天然繊維の繊維間の水素結合阻害を抑制し、十分な発泡を行えず、その結果、シート状成形体の軽量性、断熱性及び吸音性を低下させるため好ましくない。
【0050】
上記非熱可塑性化学繊維の繊維長の上限としては45mmが好ましく、25mmがより好ましく、20mmが特に好ましい。また、非熱可塑性化学繊維の繊維長の下限としては5mmが好ましく、7mmがより好ましく、15mmが特に好ましい。このように非熱可塑性化学繊維の繊維長の上限及び下限を設定することで、成形用シートの加熱の際の成形体の破断を防止でき、天然繊維の繊維間隔を拡張することをより一層確実なものとすることができる。かかる非熱可塑性化学繊維の繊維長が5mm未満であると、当該成形用シートを発泡・成形した際に繊維間の絡み合いが少なくなり、成形体の破れや強度が低下するため、例えば深絞り成形性や剛性が必要とされる自動車用内装材には品質が不十分となると共に、この成形用シートから得られる成形体における気道確保の効果が不十分となるため好ましくない。また、この非熱可塑性化学繊維の繊維長が45mmを超えると、当該成形用シートの抄紙作業において均一なシートとすることが困難になると共に、この成形用シートから得られる成形体の天然繊維が剥離しやすくなるため好ましくない。
【0051】
上記非熱可塑性繊維の繊維長の調整においても、熱可塑性繊維と同様に、水系分散させた熱可塑性繊維に対し叩解処理や分級手段を用いることで、好適な範囲に調整することができる。
【0052】
(熱発泡性マイクロカプセル)
熱発泡性マイクロカプセルは、熱可塑性重合体から形成される微小なカプセルに発泡剤を封入したものである。この熱発泡性マイクロカプセルは、当該成形用シートの抄紙工程では膨張することなく安定した状態を維持しているが、成形体加工の際の加熱下では、熱発泡性マイクロカプセルに封入されている発泡剤が気化することで蒸気圧が上昇し、熱可塑性重合体から形成されるカプセルが膨張する。このように、熱発泡性マイクロカプセルが成形体加工の加熱下で膨張することで、天然繊維等の繊維間隔を拡張させ、得られる成形体の軽量性、耐久性、断熱性、吸音性等を著しく向上させることができる。なお、この熱発泡性マイクロカプセルを膨張させるための加熱は、一回の加熱で当該シート状成形体の所望とする大きさまで発泡させ膨張させるとよい。
【0053】
上記カプセルを構成する熱可塑性重合体の種類としては、特に限定されず、例えば塩化ビニリデン系共重合体、アクリロニトリル系共重合体、アクリル系共重合体等が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性重合体の熱安定性の観点から、ニトリル系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を主成分としたアクリル系共重合体を用いることが特に好ましい。
【0054】
上記発泡剤の種類としては、特に限定されないが、カプセルを構成する熱可塑性重合体の軟化温度以下の温度の沸点を有する液体を用いるとよく、例えばプロパン、シクロプロパン、ブタン、シクロブタン、イソブタン、ペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、ヘプタン、シクロヘプタン、オクタン、シクロオクタン、メチルヘプタン類、トリメチルペンタン類、ハイドロフルオロエーテル類が挙げられる。なお、これらの発泡剤を1種又は2種以上併用して用いることもできる。
【0055】
上記熱発泡性マイクロカプセルの平均粒子径は5μm以上50μm以下が好ましく、20μm以上45μm以下がさらに好ましく、30μm以上45μm以下がさらに好ましい。このような平均粒子径に加えて、この発泡性マイクロカプセルの発泡体積比率が、50倍以上130倍以下が好ましく、70倍以上120倍以下がさらに好ましく、80倍以上100倍以下が特に好ましい。
【0056】
熱発泡性マイクロカプセルがこのような平均粒子径を有している場合、密度が好ましくは0.3g/cm以上0.7g/cm以下である当該成形用シートの繊維素材の間隙に、この熱発泡性マイクロカプセルが余裕をもって配置されることができる。さらに、この熱発泡性マイクロカプセルの発泡性マイクロカプセルの発泡体積比率が上記範囲であると、加熱によるマイクロカプセルの発泡において各繊維素材の絡まりを弱めつつ膨張し、かつ、膨張後も繊維素材の絡まりを一定程度残して成形体となることができる、従って、得られる成形体において所定の低密度を効率的に達成しつつ、優れた寸法安定性を発揮することができる。
【0057】
上記熱発泡性マイクロカプセルの発泡開始温度としては、80℃以上120℃以下が好ましく、85℃以上110℃以下がさらに好ましい。このような発泡開始温度に加えて、この発泡性マイクロカプセルの最大膨張温度が150℃以上200℃以下であることが好ましい。さらに、この最大膨張温度が熱可塑性繊維の融点以上であることが好ましい。なお、この発泡開始温度及び最大膨張温度は、特開平11−2615号公報に記載の測定方法によって測定した値である。
【0058】
熱発泡性マイクロカプセルの発泡開始温度を上記範囲とすることで、抄紙後の乾燥加熱の際に、この加熱温度を制御することで、マイクロカプセルが発泡しない状態で、熱可塑性繊維の少なくとも一部を溶融させ、マイクロカプセルと融着させることができる。このように熱可塑性繊維とマイクロカプセルとの少なくとも一部が融着していると、上述のように高含水状態で加熱成形させても、密度の均一性により優れた成形体を得ることができる。
【0059】
発泡開始温度が上記下限未満の場合は、乾燥加熱の際にマイクロカプセルが発泡しやすくなるため、加熱乾燥の際の温度制御が難しくなる。また、発泡開始温度が上記上限を超える場合も膨張成形性が低下する傾向にある。これは、加熱乾燥の際、マイクロカプセルの表面の一部も溶融した状態が熱可塑性繊維との定着(融着)性をさらに向上させるためであると考えられる。
【0060】
さらに、マイクロカプセルの最大膨張温度を上記範囲とすることで、マイクロカプセルの膨張と熱可塑性繊維の軟化とを同時に進め、均一かつ効率的な膨張を行うことができる。この結果、得られる成形体の密度が均一化され、より優れた断熱性及び吸音性等を発揮することができる。
【0061】
上記熱発泡性マイクロカプセルの熱発泡層における含有量としては、繊維素材100質量部に対して10質量部以上50質量部以下であることが好ましく、15質量部以上45質量部以下とすることがさらに好ましい。熱発泡性マイクロカプセルの含有率を上記範囲とすることで、当該成形用シートは、加熱によって所望する低い密度にまで、より効率的にかつ、均一に膨張することができ、得られる成形体の断熱性及び吸音性をさらに高めることができる。この熱発泡性マイクロカプセルの含有量が50質量部を超えると、成形体の繊維素材同士の絡みが少なくなり強度が低下すると共に、成形時に発泡性マイクロカプセルが脱落する可能性があるため好ましくない。また、この熱発泡性マイクロカプセルの含有量が10質量部未満であると、成形体の嵩が低下し、軽量化が困難となり、吸音性が低下するため好ましくない。
【0062】
(カチオン性定着剤)
カチオン性定着剤は、抄紙の際に、熱発泡性マイクロカプセルの少なくとも一部を熱可塑性繊維に定着させる。このため当該成形用シートは、含水状態で加熱した場合も、熱発泡性マイクロカプセルの繊維素材間の流動が抑制され、マイクロカプセルがシート内で偏在化することなく、均一な膨張が可能となる。
【0063】
このカチオン性定着剤としては、カチオン性の高分子化合物であれば特に限定されず、例えばポリアクリルアミド系紙力剤、ポリアミドエピクロロヒドリン系紙力剤、ポリエチレンイミン系紙力剤、カチオン化澱粉等、公知の種々のものを用いることができる。これらの中でも特に、ポリアクリルアミド系又はポリエチレンイミン系の高分子薬品が好ましい。具体的には、例えばハクトロンKC−100(伯東株式会社製)を挙げることができる。
【0064】
また、カチオン性の定着剤の配合量は、繊維素材100質量部に対して固形分換算で1質量部以上8質量部以下が好ましく、2質量部以上5質量部以下が好ましい。カチオン性定着剤の配合量が1質量部未満であると十分な定着効果がなく、8質量部を超えると、凝集効果が高くなり、パルプがフロックとなってしまい、地合が悪く、熱発泡性マイクロカプセルの定着効果が頭打ちとなり、コストに対する効果を発揮できなくなる。
【0065】
(その他の任意成分)
当該成形用シートの熱発泡層中には、上記繊維素材、熱発泡性マイクロカプセル及びカチオン性定着剤の他に、本発明の目的効果を損なわない範囲で、任意成分を適宜使用することができる。この任意成分としては、例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クレー、焼成カオリン、デラミカオリン、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、尿素−ホリマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子などの填料;アルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤などのサイズ剤;ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン/ホルマリン樹脂などの紙力増強剤;DS4356などの紙粉脱落防止剤;硫酸バンド;湿潤紙力材;紙厚向上剤;嵩高剤;カチオン化剤;着色剤;染料などを、その種類及び含有量を適宜調整して添加することができる。
【0066】
また、当該成形性シートの表裏面に、サイズブレス、ゲートロール等の塗工方法を用いて、シート表面にデンプン、ポリビニルアルコール、表面サイズ剤、蛍光増白剤等を塗布することもできる。
【0067】
(成形用シートの製造方法)
当該成形用シートの製造方法としては、一般的に製紙用途で使用される方法を用いることができる。具体的には、上記繊維素材(天然繊維、熱可塑性繊維及び必要に応じて非熱可塑性化学繊維)、熱発泡性マイクロカプセル及びカチオン性定着剤等を含む原料スラリーを抄紙(抄紙工程)し、その後ドライヤーパートにて加熱乾燥(加熱乾燥工程)し、これを巻き取ることで製造することができる。
【0068】
かかる加熱乾燥工程では、当該成形用シートに含まれる熱可塑性繊維の少なくとも一部を溶解させ、かつ熱発泡性マイクロカプセルの発泡が開始しない温度に調整して乾燥を行うことが好ましい。具体的には、加熱乾燥温度として、70℃を超え95℃以下とすることが好ましく、75℃以上90℃以下がさらに好ましい。なお、このような加熱乾燥温度において用いる好適な熱可塑性繊維の融点としては例えば110〜145℃程度であり、熱発泡性マイクロカプセルの発泡開始温度は例えば85〜110℃程度である。
【0069】
このような範囲の温度で加熱乾燥を経ることで、熱発泡性マイクロカプセルと熱可塑性繊維の先端部分等とが融着することなどにより、強固に定着されることができる。従って、当該成形用シートは、より高い均一膨張性を発揮することができる。なお、熱可塑性繊維の融点より低い温度で加熱した場合においても、上述のように熱可塑性繊維の一部を溶融させることができるため、融着を可能とする。
【0070】
上記熱発泡性マイクロカプセルを成形用シートの熱発泡層中に付与する方法としては、上述の熱発泡性マイクロカプセルを原料スラリーに混合して抄紙する内添抄紙方法以外にも、抄紙工程途中における湿潤状態の湿紙に発泡性マイクロカプセルをスプレーする方法、発泡性マイクロカプセルとゴムラテックス及び/又は合成樹脂エマルジョンからなる含浸液を湿式含浸法により含浸させる方法等を用いることができる。
【0071】
(成形体及び成形体の製造方法)
当該成形体は、上記成形用シートを含水状態で加熱及びプレス成形(深絞り成形)して形成される。当該成形用シートに上記加熱処理を施して得られた成形体の密度の上限としては0.055g/cmが好ましく、0.05g/cmがより好ましい。また、この密度の下限としては0.02g/cmが好ましく、0.04g/cmがより好ましい。当該成形体は、このように低密度でありながら、この密度にむらがなく、優れた断熱性及び吸音性を有するため、自動車等の天井内装材や建材等に好適に用いることができる。
【0072】
上記含水状態としては、当該成形用シートの質量に対して、水分を50質量%以上300質量%以下含ませた状態が好ましく、100質量%以上200質量%以下含ませた状態がさらに好ましい。当該成形用シートによれば、上述のように熱発泡性マイクロカプセルが熱可塑性繊維に定着しているため、このような高含水状態で加熱した場合も、熱発泡性マイクロカプセルの繊維素材間の流動が抑制される。従って、このようにして得られた当該成形体は優れた寸法安定性、断熱性及び吸音性を発揮することができる。
【0073】
上記プレス成形に用いる成形装置としては、雄型及び雌型から構成されるプレス成形金型を用いることができる。
【0074】
上記加熱・プレス成形の方法については、当該成形用シートのみを予め加熱しておき、加熱していないプレス成形金型でプレスする方法や、当該成形用シート及びプレス成形金型の両方を加熱しておく方法が挙げられる。また、当該成形体及びプレス成形金型の加熱方法については、赤外線加熱方式、電気ヒーター加熱方式、熱風加熱方式、蒸気加熱方式、加熱オイル循環方式などを単独又は併用することができる。
【0075】
上記プレス成形の圧力は、当該成形用シートを構成する組成物の含有割合や含有量、目的とする成形体のサイズ・厚さ・用途等に応じて調整することができる。このプレス成形の圧力は、成形体の破損等を防ぐためには、5kg/cm以上500kg/cm以下であることが好ましく、10kg/cm以上350kg/cm以下であることがより好ましく、30kg/cm以上250kg/cm以下であることが特に好ましい。また、プレス成形の時間についても、当該成形用シートを構成する組成物の含有割合や含有量、目的とする成形体のサイズ・厚さ・用途等に応じて調整することができ、上述したプレス圧力で成形を行う場合には、プレス時間を2秒以上20秒以下に調整することが好ましい。
【0076】
当該成形体の寸法安定率は3%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。この寸法安定性は、成形用シートの膨張成形性の指標の一つとなり、成形体の形状安定性及び加工容易性に優れる。かかる寸法安定率C(%)は、成形体の加熱直後の寸法をL1とし、その後冷却した後の寸法をL2とすると、下記式(1)で算出される値である。
C=[(L1−L2)/L1]×100 ・・・(1)
【0077】
当該成形体の吸音率としては0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。このように成形体当該成形体は極めて良好な吸音性を発揮することができる。かかる吸音率はJIS−A1409に準拠した値であり、残響室内で音を出して急に止めた際の残響質の減衰時間から算出されるものである。
【0078】
また、当該成形体の断熱性としては、0.05W/mk以下が好ましく、0.03W/mk以下がさらに好ましい。当該成形体がこのような優れた断熱性を発揮することで、自動車の天井内装材や建設材料等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下、合成例及び実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
(成形用シートの製造)
[実施例1]
成形用シートを構成する繊維素材として、天然繊維であるNBKP80質量部、熱可塑性繊維であるポリオレフィン繊維(繊維A:三井化学社製「SWP−E400」)20質量部を配合してスラリーとした。このスラリーに、繊維素材100質量部に対して発泡性マイクロカプセル(カプセルA:松本油脂製薬製「松本マイクロスフェア−F78K」)30質量部、カチオン性定着剤(定着剤A:伯東社製「ハクトロンKC−100」)3.7質量部、硫酸バンド5質量部、紙粉脱落防止剤(星光PMC社製「DS4356」)3.6質量部をさらに配合して原料スラリーとした。
【0081】
次いで、上記原料スラリーを抄紙工程(ワイヤーパート及びプレスパート)、乾燥加熱工程(ドライヤーパート)、及びカレンダーパートを経て、表層、5層の中層及び裏層の7層からなる実施例1の成形用シートを得た。なお、各層全て上記原料スラリーを用いた。表層の付け量を85g/m、各中層の付け量を100g/m、裏層の付け量を85g/mとし、得られたシート全体の坪量は600g/m、密度は0.6g/cmであった。
【0082】
上記ドライヤーパートにおける乾燥温度は、80℃に調整した。なお、ワイヤーパートではギャップフォーマを、プレスパートではオープンドローのないストレートスルー型を、ドライヤーパートではシングルデッキドライヤーを用いて抄紙した。カレンダーパートでは、マルチニップカレンダーを用いて平坦化処理を行った。
【0083】
[実施例2〜18及び比較例1〜2]
繊維素材の配合比、熱可塑性繊維の種類、発泡性マイクロカプセルの種類及び配合量、定着剤の種類及び配合量並びに乾燥温度を表1の通りとし、抄紙処理及び平坦化処理を調整することで密度を変化させたこと以外は実施例1と同様の操作をし、実施例2〜20及び比較例1〜2の成形用シートを得た。
【0084】
なお、用いた各熱可塑性合成繊維、熱発泡性マイクロカプセル及び定着剤は以下のとおりである。
(熱可塑性繊維)
・繊維A:三井化学社製「SWP−E400」
形状:多分岐形状 平均繊維長:0.9mm 融点:135℃
・繊維B:三井化学社製「SWP−E620」
形状:多分岐形状 平均繊維長:1.2mm 融点:135℃
(熱発泡性マイクロカプセル)
・カプセルA:松本油脂製薬製「松本マイクロスフェア−F78K」
平均粒子径:30μm 発泡体積比率:100倍
発泡開始温度:95℃ 最大膨張温度:165℃
・カプセルB:松本油脂製薬製「松本マイクロスフェア−F36」
平均粒子径:15μm 発泡体積比率:100倍
発泡開始温度:80℃ 最大膨張温度:125℃
・カプセルC:松本油脂製薬製「松本マイクロスフェア−FN100」
平均粒子径:30μm 発泡体積比率:100倍
発泡開始温度:130℃ 最大膨張温度:180℃
(定着剤)
・カチオン性定着剤:伯東社製「ハクトロンKC−100」
・アニオン性定着剤:明成化学工業社製「セラフィックスST」
【0085】
(成形体の製造)
上述した製造工程により得られた成形用シートを、雄型及び雌型の金型を有する加熱プレス装置を用いて、含水率150%の状態から150℃で加熱させて成形体とした。
【0086】
[評価]
(定着性)
得られた成形用シートをJIS−P8220に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した。その後、熱可塑性繊維の一部の表面を光学顕微鏡を用いて観察し、熱発泡性マイクロカプセルの付着の有無を以下の基準で評価した。
A:十分な付着が観察される(定着性が高い)
B:ある程度の付着が観察される(定着性有り)
C:若干の定着が観察される(定着性が低い)
D:付着していない(定着性無し)
【0087】
(密度)
得られた成形用シート及び成形体の密度をJIS−P8118に準じて測定した。
【0088】
(寸法安定率の測定)
実施例及び比較例で得られた各成形体の寸法安定率を、上記式(1)に基づいて測定した。
【0089】
(吸音率の測定)
得られた成形体の吸音率(ランダム入射吸音率)を以下の方法で測定した。ランダム入射吸音率は、残響室吸音率と呼ばれるもので、JIS−A1409に準拠し、残響室内で音を出して急に止めた際の、残響室の減衰時間から算出したものである。具体的には、容積:70m、表面積:95mである残響室の床面中央に、実施例及び比較例のシート状成形体を設置し、天井の周囲には厚さ17mmのアクリル板からなる高さ700mmの拡散枠板を設置した。そして、音源を天井内装材から離れた位置に配置した。このように、天井表面に対してランダムな方向から音による空気振動が入射するようにした。なお、吸音率は、実際の健常者の体感では、吸音率が0.4以上あれば、効果が実感でき、良好な吸音材といえる。
【0090】
(断熱性の測定)
断熱性(W/mk)とは熱伝導率であり、JIS−A1412の熱流計法に基づき、英弘精機株式会社製の熱伝導率測定器HC−110を用いて測定した値である。なお、測定は温度20℃の条件下で行った。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示す通り、実施例1〜18の成形用シートから得られる成形体は、比較例1〜2と比較して、良好な寸法安定性、吸音性及び断熱性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上のように本発明の成形用シート及びこれから得られる成形体は、自動車の天井内装材や建設材料等、従来の断熱・吸音材料の代替となる各種用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維素材、熱発泡性マイクロカプセル及びカチオン性定着剤を含有する熱発泡層を備える成形用シートであって、
上記繊維素材が天然繊維及び多分岐形状を有する熱可塑性繊維を含み、
上記熱発泡性マイクロカプセルの少なくとも一部が熱可塑性繊維に定着していることを特徴とする成形用シート。
【請求項2】
抄紙工程及び70℃を超え95℃以下の加熱乾燥工程を経て得られる請求項1に記載の成形用シート。
【請求項3】
上記熱発泡層における熱発泡性マイクロカプセルの含有量が10質量%以上50質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の成形用シート。
【請求項4】
多層抄きによる3層以上の上記熱発泡層からなる請求項1、請求項2又は請求項3に記載の成形用シート。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の成形用シートを含水状態で加熱及びプレス加工して成形され、
密度が0.02g/cm以上0.055g/cm以下である成形体。

【公開番号】特開2012−136808(P2012−136808A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291113(P2010−291113)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】