説明

成形用難燃性ポリエステル及びその製造方法

【課題】 透明性が良好で、難燃性に優れ、フィルム、シート、ボトルなどの各種成形物への適用に好適なポリエステルを提供する。
【解決手段】 エチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステルであり、有機リン化合物(1)がポリエステル中のリン原子の含有量として500〜15000ppmとなるよう共重合されており、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有し、極限粘度が0.6以上、ヘーズが5%以下であることを特徴とする成形用難燃性ポリエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性や難燃性に優れた成形用ポリエステル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する)はその優れた機械的特性及び化学的特性のため、衣料用、産業用等の繊維のほか、磁気テープ用、コンデンサー用等のフィルムあるいはボトル等の成形物用として広く用いられている。近年、火災予防の観点から合成繊維や各種プラスチック製品の難燃性への要請が強まっている。
【0003】
従来、ポリエステルに難燃性を付与する試みは種々なされており、リン化合物を含有させる方法が有効であるとされている。リン化合物としては、各種提案されているが、その中でも下記一般式〔2〕で示される有機リン化合物(2)は難燃性能の点で良好である。しかし、この有機リン化合物は、ポリエステルの重合触媒として一般的である三酸価アンチモンに代表されるアンチモン化合物を用いた場合、アンチモン化合物との反応により三酸化アンチモンが、ポリエステルに不溶な金属アンチモンに還元されるため、重合反応時においては重合性が低下し、目標の極限粘度のポリエステルが得られない、また、金属アンチモンにより、ポリエステルが黒色に着色するという問題があった。
【0004】
【化1】

【0005】
そこで、三酸化アンチモンの代わりに、酸化ゲルマニウムを用いることで、リン化合物と反応が行われなくなり、ポリエステルの着色は改善されるが、酸化ゲルマニウムのコストが非常に高いという問題がある。(特許文献1)
【特許文献1】特開平01−284521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような現状に鑑み、本発明の課題は、透明性や難燃性に優れた繊維用ポリエステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するものであって、以下の内容を要旨とするものである。
1.エチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステルであり、下記一般式〔1〕で示される有機リン化合物(1)がポリエステル中のリン原子の含有量として500〜15000ppmとなるよう共重合されており、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有し、極限粘度が0.6以上、ヘーズが5%以下であることを特徴とする成形用難燃性ポリエステル。
【0008】
【化2】

(式中、Xはアルキル基の水素原子のうち2個以上がカルボキシル基で置換されたアルキル基を表す。)
2.エチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステルの製造方法において、ポリエステルオリゴマーに、下記一般式〔2〕で示される有機リン化合物(2)と脂肪族不飽和ジカルボン酸との反応により得られる有機リン化合物(1)を添加し、重縮合触媒として、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体を用いて、重縮合反応を行うことを特徴とする上記成形用難燃性ポリエステルの製造方法。
【0009】
【化3】

【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステルは、重縮合触媒として、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物の固溶体を用いることによって、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物の複合効果が得られ、適度な重合活性が得られる。加えて、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物固溶体は、難燃成分として使用するリン化合物との反応が起こらないため、アンチモン触媒を使用した場合のような着色やくすみがなく透明性が良好で、難燃性も良好なポリエステルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明のポリエステルにおいては、エチレンテレフタレート単位を主成分とする。エチレンテレフタレート単位の割合は特に規定はないが、80モル%以上が好ましい。
【0013】
本発明のポリエステルには、下記一般式〔1〕で示される有機リン化合物(1)が、ポリエステル中のリン原子の含有量として500〜15000ppmとなるよう共重合されていることが必要で、好ましくは1000〜10000ppmである。
【0014】
【化4】

(式中、Xはアルキル基の水素原子のうち2個以上がカルボキシル基で置換されたアルキル基を表す。)
【0015】
上記有機リン化合物(1)の共重合割合が、リン原子の含有量として500ppm未満では、十分な難燃性能が得られない。一方、15000ppmを超えると、ポリエステルの重合性が悪くなるため重合度を十分に上げることが困難となる。
【0016】
上記有機リン化合物(1)をポリエステルに共重合する方法としては、予め、下記式〔2〕で表される有機リン化合物(2)と脂肪族不飽和ジカルボン酸を反応させることで、有機リン化合物(1)とした後、反応系に添加することが好ましい。
【0017】
【化5】

【0018】
脂肪族不飽和ジカルボン酸の具体例としては、フマル酸、マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸等、もしくはそれらの無水物やそれらのエステル化合物が挙げられるが、最も好ましいのはイタコン酸である。
【0019】
有機リン化合物(2)と脂肪族不飽和ジカルボン酸との反応条件については、特に規定はないが、脂肪族不飽和ジカルボン酸を、有機リン化合物(2)に対し、1.0〜1.05倍当量の割合とし、エチレングリコール溶液下において、反応温度100℃〜150℃にて1〜10時間反応させ、反応溶液中の有機リン化合物(2)と脂肪族不飽和ジカルボン酸との反応率が90%以上となることが好ましい。
【0020】
なお、本発明のポリエステルは、本発明の効果を損ねない範囲で、有機リン化合物(1)と脂肪族不飽和ジカルボン酸以外の共重合成分を含有していてもよい。このような共重合成分の例としては、イソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、ダイマー酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸成分、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等の脂肪族グリコール成分、1,4ーシクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール成分、ポリエチレングリコール等のポリアルキレンエーテル成分、ビスフェノールAやビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール成分、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸成分が挙げられる。
【0021】
本発明のポリエステルにおいて、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有することが必要である。アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体とは、それぞれが溶け合って均一な相となった固体であり、重縮合触媒として用いられる。含有量が100ppm未満の場合は、重合性が低いため重合度を十分に上げることが困難となる。含有量が400ppmを超えると重合性が飽和するばかりで、得られるポリエステルの色調が低下する。
【0022】
固溶体を形成するアルミニウム化合物の例としては、酢酸アルミニウム、安息香酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、炭酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどの無機酸塩が挙げられる。これらのうちカルボン酸塩および無機酸塩が好ましく、これらの中でもさらに水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウムが特に好ましい。
【0023】
また、固溶体を形成するマグネシウム化合物としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸以外のカルボン酸塩などが挙げられ、特に水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが好ましい。
【0024】
また、本発明のポリエステルに含有する固溶体中には、マグネシウム、アルミニウム以外の他の金属またはそれらの化合物が含有されていてもよい。他の金属としては亜鉛、チタン、錫、コバルト、マンガンなどが挙げられる。
【0025】
本発明のポリエステルの極限粘度は、0.6以上であることが必要である。0.6未満では、フィルムや繊維、成形品等に加工することができない、または、加工後の強度等が不充分なものとなる。
【0026】
本発明のポリエステルのヘーズは、5%以下であることが必要である。本発明においてヘーズとは、溶融重合後のポリエステルを、押し出し温度280℃、金型温度20℃、冷却時間30秒の条件で射出成形して得られた厚さ5mm×長さ10cm×幅6cmのプレートの厚さ方向の濁度を表す。ヘーズが5%を超えると透明性が十分でなく、透明な成形材料としては使用できない。
【0027】
また、本発明の目的を損なわない範囲において、本発明のポリエステルには、ヒンダードフェノール系化合物のような抗酸化剤、コバルト化合物、蛍光剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような顔料、酸化セリウムのような耐光性改良材等の添加剤が添加されていてもよい。
【0028】
本発明のポリエステルは、例えば次のような方法により製造することができる。
【0029】
エチレングリコール溶媒下で、有機リン化合物(2)と脂肪族不飽和ジカルボン酸を、有機リン化合物(2)に対して脂肪族不飽和ジカルボン酸が1.0〜1.05倍当量の割合とし、反応温度100℃〜150℃にて1〜10時間反応させることで、有機リン化合物(1)とする。
【0030】
次に、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体の存在するエステル化反応槽に、テレフタル酸とエチレングリコールとのスラリーを連続的に供給し、250℃の温度で3〜8時間程度反応させて、エステル化反応率95%付近のポリエステルオリゴマーを連続的に得る。これを重合缶に移送し、上記の有機リン化合物(1)のエチレングリコール溶液を添加し、230〜260℃の温度で0.5〜2時間解重合を行った後、重縮合触媒としてアルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体を添加し、重縮合反応を開始させ、反応開始後に所定温度まで内温を上昇させる。
【0031】
重縮合反応は、通常、0.12〜12hPa程度の減圧下、250〜290℃の温度で、極限粘度が0.6以上となるまで行うことが好ましい。
【0032】
本発明のポリエステルは、フィルム、成形容器など各種用途に用いることが可能である。
【実施例】
【0033】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0034】
なお、実施例及び比較例中に示したポリエステルの特性は、以下の方法により測定もしくは評価したものである。
(1)極限粘度〔η〕
フェノールとテトラクロロエタンとの等質量混合物を溶媒とし、温度20℃で測定した。
(2)ポリエステルの色調(b値)
日本電色工業社製の色差計ND−Σ80型を用いて測定した。色調の判定は、ハンターのLab表色計で行った。b値は黄−青系(+は黄味、−は青味)を表す。b値が10以下であれば合格である。
(3)リン原子、固溶体の含有量
蛍光X線スぺクトロメーター(リガク社製3270型)を用いて、蛍光X線法により定量した。
(4)不飽和ジカルボン酸の比率
日本電子工業社製1H−NMRスペクトロメータJNM−LA400装置で測定した。
(5)プレートヘーズ
乾燥したポリエステルを、日精樹脂工業社製射出成形機(PS20E2ASE)にて、押し出し温度280℃、金型温度20℃、冷却時間30秒の条件で、厚さ5mm×長さ10cm×幅6cmのプレートに射出成形し、濁度を日本電色工業社製の濁度計 MODEL 1001DPで評価した(空気:ヘーズ0%)。この値が小さいほど透明性が良好であり、5%未満であれば合格である。
(6)難燃性
厚さ5mm×長さ10cm×幅10mmのプレートを用いて、JIS K 7201−2に準拠してLOI値(限界酸素指数)を測定し、45以上のものを合格とした。
【0035】
実施例1
[1]有機リン化合物(1)の調製
有機リン化合物(2)(10kg)と、脂肪族不飽和ジカルボン酸としてイタコン酸(6.3kg(有機リン化合物(2)に対し1.02当量))と、エチレングリコール(38.7kg)とを反応缶に入れ、常圧下、130℃で3時間加熱して反応させ、有機リン化合物(1)のエチレングリコール溶液を得た。
[2]ポリエステルの製造
PETオリゴマーの存在するエステル化反応缶に、テレフタル酸とエチレングリコールとの物質量比が1:1.6であるスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.1MPa、滞留時間8時間の条件で、エステル化反応を行い、反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。
このエステル化反応させたPETオリゴマー47.3kgを重縮合反応缶に移送し、上記[1]で得られた有機リン化合物(1)の溶液12.9kgを添加して、250℃の温度で60分間解重合を行った後、触媒として、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムからなり、アルミニウム/マグネシウムのモル比率が0.4である固溶体(堺化学工業社製HT−P)12.5gの1.5質量%エチレングリコールスラリーを添加した。その5分後、減圧を開始して60分後に1.2hPa以下とし、反応缶内の温度は減圧開始後30分間で275℃まで昇温させた。この条件で、攪拌しながら4時間重縮合反応を行った後、常法により払い出してペレット化して、本発明のポリエステルを得た。このポリエステルの極限粘度は0.63、b値10、リン化合物の共重合量は、ポリエステル中のリン化合物として7000ppmであり、固溶体の含有量は、250ppmであった。得られたポリエステルを用いて射出成形によりプレートを得た。このプレートを用いてヘーズと難燃性能(LOI値)を測定したところ、ヘーズは2.5%、LOI値は60で良好であった。
【0036】
実施例2〜4、比較例1〜4
リン原子の含有量と、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体の含有量とを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に行うことにより、ポリエステルを得た。
【0037】
比較例5
アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体のかわりに、三酸化アンチモンを250ppm添加した以外は実施例1と同様に行うことにより、ポリエステルを得た。
【0038】
上記の実施例及び比較例で得られたポリエステルの特性について測定及び評価した結果を下記表1にまとめて示した。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示された結果から明らかなように、実施例1〜4では、透明性や難燃性の良好な本発明のポリエステルを得ることができた。一方、比較例1〜5では、次のような問題があった。
比較例1では、リン原子の含有量が少なかったため、得られたプレートのLOI値が低く、満足な難燃性が得られなかった。
比較例2では、リン原子の含有量が多かったため、ポリエステルの重合性が低くなり、目標の極限粘度に到達できず、成形及び難燃評価ができなかった。
比較例3では、固溶体の含有量が少なかったため、ポリエステルの重合性が低くなり、目標の極限粘度に到達できず、成形及び難燃評価ができなかった。
比較例4では、固溶体の含有量が多かったため、ポリエステルの色調が良好でなく、b値が高かった。
比較例5では、固溶体の代わりに三酸化アンチモンを用いたところ、金属アンチモンが生成し、ポリエステルが黒く着色し、ヘーズ値が高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステルであり、下記一般式〔1〕で示される有機リン化合物(1)がポリエステル中のリン原子の含有量として500〜15000ppmとなるよう共重合されており、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有し、極限粘度が0.6以上、ヘーズが5%以下であることを特徴とする成形用難燃性ポリエステル。
【化1】

(式中、Xはアルキル基の水素原子のうち2個以上がカルボキシル基で置換されたアルキル基を表す。)
【請求項2】
エチレンテレフタレート単位を主成分とするポリエステルの製造方法において、ポリエステルオリゴマーに、下記一般式〔2〕で示される有機リン化合物(2)と脂肪族不飽和ジカルボン酸との反応により得られる有機リン化合物(1)を添加し、重縮合触媒として、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体を用いて、重縮合反応を行うことを特徴とする請求項1記載の成形用難燃性ポリエステルの製造方法。
【化2】


【公開番号】特開2006−169359(P2006−169359A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−362922(P2004−362922)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】