説明

成膜方法及びその方法に使用する成膜装置並びに気化装置

【課題】 固体物質をその気化温度よりも低い温度で気化させることを可能とし、CVD法による成膜可能な固体物質の選択範囲を拡大する。
【解決手段】 成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液5を貯蔵すると共に該溶液5を飛散させて霧状化する原料貯蔵容器3と、内部を減圧可能に形成され、前記原料貯蔵容器3から第1の輸送管9を介して輸送される前記霧状化された微細な液滴8を導入し、該微細な液滴8中に含まれる前記微粒子材に筒状ヒータ15により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する気化室4と、前記気化室4から第2の輸送管12を介して導入される前記原料ガスをプラズマ処理し、内部に設置された基板16上に前記固体物質の膜を堆積させる反応室2と、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料ガスを用いてCVD法により成膜する成膜方法に関し、詳しくは、固体物質をその気化温度よりも低い温度で気化させることを可能とし、CVD法による成膜可能な固体物質の選択範囲を拡大しようとする成膜方法及びその方法に使用する成膜装置並びに気化装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
一般にCVD法による成膜方法は、CVD成膜装置を使用して原料を反応室の直前で気化して原料ガスを生成し、この原料ガスを反応室に導入してプラズマ処理して成膜するようになっている。
【0003】
この場合、原料を気化する従来の気化装置は、原料が変化しない範囲で最高の温度に加熱する複数本のヒータを装置本体の周囲に配置し、液体原料を気化させて原料ガスを生成する気化室の上壁部に設けられたノズルで液体原料を噴射して粒子化し、該ノズルに対向して配置された高周波振動板でノズルから噴射された液体原料の粒子に高周波振動を加えてより微粒子化して液体原料を気化させ、原料ガス輸送管を介してこの気化した原料ガスを反応室に輸送するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他の気化装置は、気密室内に加熱可能に蒸発皿を備え、原料を貯蔵する原料貯蔵容器から蒸気圧の低い液体原料や昇華性の固体物質の原料を所定温度に加熱された蒸発皿に供給して原料を気化させ、生成された原料ガスをCVD反応室に移送するようになっている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−152343号公報
【特許文献2】特開平6−346243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような従来の気化装置においては、気化可能な原料は液体有機金属や有機金属溶液等の液体原料または昇華性の固体物質の原料等、比較的気化温度の低い原料に限られており、気化温度の高い例えばレアメタル等の金属はCVD法による成膜は困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題点に対処し、CVD法による成膜可能な固体物質の選択範囲を拡大しようとする成膜方法及びその方法に使用する成膜装置並びに気化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の発明による成膜方法は、成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を飛散させて霧状化し、該霧状化された微細な液滴を減圧された気化室内に導入し、該微細な液滴中に含まれる前記微粒子材に所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成し、該原料ガスを反応室に導入してプラズマ処理し、該反応室内に設置された基板上に前記固体物質の膜を堆積させるものである。
【0008】
また、前記溶液の霧状化は、超音波を前記溶液中に放射させ、該溶液中に発生する空洞の生成時及び消滅時の衝撃力を利用して行うものである。これにより、超音波を溶液中に放射させ、該溶液中に発生する空洞の生成時及び消滅時の衝撃力を利用して溶液を霧状化する。
【0009】
さらに、前記溶液の霧状化は、前記溶液を噴射ノズルから噴射して行うものである。これにより、溶液を噴射ノズルから噴射して霧状化する。
【0010】
さらにまた、前記生成した原料ガスに対して反応室へ輸送する前にプラズマエネルギーを加え、原料ガスを遊離させるものである。これにより、反応室へ輸送する前の原料ガスにプラズマエネルギーを加えて原料ガスを遊離させる。
【0011】
そして、前記固体物質の微粒子材は、金属ナノパーティクル材である。これにより、金属ナノパーティクル材からなる微粒子材を用いて原料ガスを生成して成膜する。
【0012】
また、第2の発明による成膜装置は、成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を貯蔵すると共に該溶液を飛散させて霧状化する原料貯蔵容器と、内部を減圧可能に形成され、前記原料貯蔵容器から第1の輸送管を介して輸送される前記霧状化された微細な液滴を導入し、該微細な液滴中に含まれる前記微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する気化室と、前記気化室から第2の輸送管を介して導入される前記原料ガスをプラズマ処理し、内部に設置された基板上に前記固体物質の膜を堆積させる反応室と、を備えたものである。
【0013】
このような構成により、成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を原料貯蔵容器に貯蔵すると共に該溶液を微細な液滴にして霧状化し、内部を減圧可能に形成された気化室内に原料貯蔵容器から第1の輸送管を介して輸送される上記霧状化された微細な液滴を導入し、気化室で該微細な液滴中に含まれる微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成し、反応室に上記気化室から第2の輸送管を介して上記原料ガスを導入し、反応室で該原料ガスをプラズマ処理して内部に設置された基板上に上記固体物質の膜を堆積させる。
【0014】
また、第3の発明による成膜装置は、成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を貯蔵する原料貯蔵容器と、前記原料貯蔵容器から供給管を介して供給される前記溶液を噴霧室内に噴射し、微細な液滴にして霧状化する噴射ノズルと、内部を減圧可能に形成され、前記噴霧室から第1の輸送管を介して輸送される前記霧状化された微細な液滴を導入し、該微細な液滴中に含まれる前記微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する気化室と、前記気化室から第2の輸送管を介して導入される前記原料ガスをプラズマ処理し、内部に設置された基板上に前記固体物質の膜を堆積させる反応室と、を備えたものである。
【0015】
このような構成により、成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を原料貯蔵容器に貯蔵し、上記原料貯蔵容器から供給管を介して供給される溶液を噴射ノズルで噴霧室内に噴射し、微細な液滴にして霧状化し、内部を減圧可能に形成された気化室内に上記噴霧室から第1の輸送管を介して輸送される上記霧状化された微細な液滴を導入し、気化室で該微細な液滴中に含まれる微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成し、反応室に上記気化室から第2の輸送管を介して上記原料ガスを導入し、反応室で該原料ガスをプラズマ処理して内部に設置された基板上に上記固体物質の膜を堆積させる。
【0016】
また、第4の発明による気化装置は、成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を貯蔵すると共に該溶液を飛散させて霧状化する原料貯蔵容器と、内部を減圧可能に形成され、前記原料貯蔵容器から第1の輸送管を介して輸送される前記霧状化された微細な液滴を導入し、該微細な液滴中に含まれる前記微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する気化室と、を備えたものである。
【0017】
このような構成により、成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を原料貯蔵容器に貯蔵すると共に該溶液を飛散させて霧状化し、内部を減圧可能に形成された気化室内に原料貯蔵容器から第1の輸送管を介して輸送される上記霧状化された微細な液滴を導入し、気化室で該微細な液滴中に含まれる微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する。
【0018】
さらに、前記原料貯蔵容器は、その底面部に超音波振動子を備え、該超音波振動子の駆動により発生する超音波を前記溶液中に放射させ、該溶液中に発生する空洞の生成時及び消滅時の衝撃力を利用して前記溶液を霧状化するものである。これにより、原料貯蔵容器の底面部に備えた超音波振動子を駆動して超音波を発生し、この超音波を溶液中に放射させ、この溶液中に発生する空洞の生成時及び消滅時の衝撃力を利用して上記溶液を霧状化する。
【0019】
そして、前記原料貯蔵容器は、内部に貯蔵された溶液の液面と上壁面との間の側壁部分に上下方向に並べて複数の取出し口を設け、そのうちの一つを前記第1の輸送管に接続したものである。これにより、原料貯蔵容器の内部に貯蔵された溶液の液面と原料貯蔵容器の上壁面との間の側壁部分に上下方向に並べて複数の取出し口を設け、そのうちの一つを第1の輸送管に接続する。
【0020】
また、第5の発明の気化装置は、成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を貯留する原料貯蔵容器と、前記原料貯蔵容器から供給管を介して供給される前記溶液を噴霧室内に噴射し、微細な液滴にして霧状化する噴射ノズルと、内部を減圧可能に形成され、前記噴霧室から第1の輸送管を介して輸送される前記霧状化された微細な液滴を導入し、該微細な液滴中に含まれる前記微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する気化室と、を備えたものである。
【0021】
このような構成により、成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を原料貯蔵容器に貯蔵し、原料貯蔵容器から供給管を介して供給される溶液を噴射ノズルで噴霧室内に噴射し、微細な液滴にして霧状化し、内部を減圧可能に形成された気化室内に噴霧室から第1の輸送管を介して輸送される上記霧状化された微細な液滴を導入し、気化室で該微細な液滴中に含まれる微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する。
【0022】
さらに、前記噴霧室は、側壁に上下方向に並べて複数の取出し口を設け、そのうちの一つを前記第1の輸送管に接続したものである。これにより、噴霧室の側壁に上下方向に並べて複数の取出し口を設け、そのうちの一つを第1の輸送管に接続する。
【0023】
さらにまた、前記気化室は、前記加熱手段よりも原料ガスの下流側にてその流れに対して直交方向に対向して一対の電極を配設したものである。これにより、気化室の加熱手段よりも下流側にてその流れに対して直交方向に対向して配設された一対の電極でその間にプラズマを発生し、原料ガスにプラズマエネルギーを加えて原料ガスを遊離させる。
【0024】
そして、前記固体物質の微粒子材は、金属ナノパーティクル材である。金属ナノパーティクル材からなる微粒子材を気化する。
【発明の効果】
【0025】
請求項1又は6に係る発明によれば、成膜原料となる個体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を飛散させて霧状化し、この霧状化された微細な液滴中に含まれる微粒子材に所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成し、これをプラズマ処理して成膜するものとしたことにより、固体物質を本来それが有する気化温度よりも低い温度で気化させることができる。したがって、CVD法による成膜可能な固体物質の選択範囲を拡大することができる。また、固体物質を低温で気化させることができるので低温で成膜することができ、例えばフィルム等にも成膜することが可能となる。したがって、常圧プラズマCVDに適用すれば大型フィルムを連続して供給しながら成膜して大型の面発光有機ELを製造することができ、有機ELを備えて面発光する天井材や壁材の製造が可能となる。
【0026】
また、請求項2に係る発明によれば、超音波を溶液中に放射させ、この溶液中に発生する空洞の生成時及び消滅時の衝撃力を利用して溶液を霧状化するものとしたことにより、溶液を容易に霧状化することができる。
【0027】
さらに、請求項3に係る発明によれば、溶液を噴射ノズルから噴射して霧状化するものとしたことにより、より微細な液滴を生成することができる。
【0028】
さらにまた、請求項4に係る発明によれば、反応室へ輸送する前の原料ガスにプラズマエネルギーを加えてガスを遊離させるものとしたことにより、反応室における遊離した原料ガスの割合が高くなり、成膜効率を向上することができる。
【0029】
そして、請求項5又は14に係る発明によれば、金属ナノパーティクル材からなる微粒子材を用いるものとしたことにより、導電膜に適用できる金属材料の選択範囲が広がる。
【0030】
また、請求項7に係る発明によれば、成膜原料となる個体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を噴射ノズルから噴射し、微細な液滴にして霧状化し、この霧状化された微細な液滴中に含まれる微粒子材に所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成し、これをプラズマ処理して成膜するものとしたことにより、より微細な液滴を生成することができ、該微細な液滴中の微粒子材に対して熱エネルギーを効率よく作用させることができ、微粒子材の気化を効率よく行わせることができる。したがって、成膜に使用する原料の利用効率を向上することができる。
【0031】
さらに、請求項8に係る発明によれば、成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を飛散させて霧状化し、この霧状化された微細な液滴中に含まれる微粒子材に所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成するものとしたことにより、固体物質を本来それが有する気化温度よりも低い温度で気化させることができる。したがって、成膜可能な固体物質の選択範囲が広がって、従来CVD法による成膜が困難であった固体物質の低温成膜を可能とする成膜装置を容易に製造することができる。
【0032】
そして、請求項9に係る発明によれば、原料貯蔵容器の底面部に超音波振動子を備え、該超音波振動子の駆動により発生する超音波を前記溶液中に放射させ、該溶液中に発生する空洞の生成時及び消滅時の衝撃力を利用して溶液を霧状化するものとしたことにより、原料貯蔵容器内に貯蔵された固体物質の微粒子材を溶液中に均一に分散させることができると共に、霧状化された微細な液滴中に上記微粒子材を混入させることができる。
【0033】
また、請求項10に係る発明によれば、原料貯蔵容器の内部に貯蔵された溶液の液面と原料貯蔵容器の上壁面との間の側壁部分に上下方向に並べて複数の取出し口を設け、そのうちの一つを第1の輸送管に接続したことにより、粒径のそろった微細な液滴を気化室に導入することができる。したがって、上記微細な液滴中に含まれる微粒子材に作用する熱エネルギーを均一にすることができ、微粒子材の気化を効率よく行うことができる。
【0034】
さらに、請求項11に係る発明によれば、成膜原料となる個体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を噴射ノズルから噴射し、微細な液滴にして霧状化し、この霧状化された微細な液滴中に含まれる微粒子材に所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成するものとしたことにより、より微細な液滴を生成することができ、固体物質を本来それが有する気化温度よりも低い温度で効率よく気化させることができる。したがって、成膜可能な固体物質の選択範囲が広がって、これによっても従来CVD法による成膜が困難であった固体物質の低温成膜を可能とする成膜装置を容易に製造することができる。また、より微細な液滴を生成することができるため、この微細な液滴中の微粒子材に対して熱エネルギーを効率よく作用させることができ、微粒子材の気化を効率よく行わせることができる。したがって、成膜効率の高い成膜装置を製造することができる。
【0035】
さらにまた、請求項12に係る発明によれば、噴射ノズルで溶液を噴射して霧状化する噴霧室の側壁に上下方向に並べて複数の取出し口を設け、そのうちの一つを第1の輸送管に接続するものとしたことにより、粒径のそろったより微細な液滴を気化室に導入することができる。したがって、上記微細な液滴中に含まれる微粒子材に作用する熱エネルギーを均一にすることができ、微粒子材の気化をより効率よく行うことができる。
【0036】
そして、請求項13に係る発明によれば、気化室に加熱手段よりも原料ガスの下流側にてその流れに対して直交方向に対向して一対の電極を配設したことにより、該電極間にプラズマを発生させて反応室へ輸送する前の原料ガスにプラズマエネルギーを加えて原料ガスを遊離させることができる。したがって、反応室における遊離した原料ガスの割合を高くして成膜効率の高い成膜装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明による成膜装置の第1の実施形態の概略構成を断面で示す説明図である。この成膜装置は、原料ガスを用いてCVD法により成膜するもので、原料貯蔵容器1と、気化室2と、反応室3とからなる。
【0038】
上記原料貯蔵容器1は、成膜原料となる固体物質、例えば金、銀、銅、スズやレアメタル等の金属ナノパーティクルで粒子径が1nm〜60nmの微粒子材を例えば有機溶媒中に所定量混合した溶液5を貯蔵すると共に溶液5を微細な液滴にして霧状化するものであり、容器の底面部1aに超音波振動子6と、20KHz〜10MHzで発振して上記超音波振動子6を振動させる発振器7とを備えている。この場合、上記原料貯蔵容器1は、発振器7を駆動して超音波振動子6を振動させ、そのとき発生する超音波を上記溶液5中に放射させ、溶液5中に発生する空洞の生成時及び消滅時の衝撃力を利用して、上記ナノパーティクルの微粒子材を含む溶液5を1μm〜50μm径の微細な液滴8として飛散させる。また、上記原料貯蔵容器1は、その一方の側壁1bの上端部に後述する第1の輸送管9の一端部を接続し、対向する他方の側壁1cの上端部に例えば窒素ガス(N2)等の不活性ガスのキャリアガスを導入するキャリアガス導入管10を接続し、上記霧状化された微細な液滴8を上記キャリアガスによって第1の輸送管9内を図1に示す矢印A方向に輸送できるようになっている。
【0039】
なお、図1に示すように、上記原料貯蔵容器1の溶液5内に金属やセラミック等の棒状又は板状の部材11を浸漬すると溶液5中に発生する超音波の定在波が崩され、液面5aから溶液5の微細な液滴8がより飛び散り霧の生成が促進される。
【0040】
上記原料貯蔵容器1には、気化室2が接続されている。この気化室2は、上記微細な液滴8中に含まれる上記ナノパーティクルの微粒子材に例えば500℃以下の所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成するものであり、一方の側壁2aに第1の輸送管9を設けて上記原料貯蔵容器1から上記霧状化された微細な液滴8を導入可能とし、他方の側壁2bに後述する第2の輸送管12の一端部を接続して上記原料ガスを図1に示す矢印B方向に輸送できるようにすると共に、真空ポンプ13を接続して内部を減圧可能にした石英又は金属製の気密室である。
【0041】
上記第1の輸送管9の先端部9aは、気化室2内に導入されており、その側壁には複数の孔14が形成されている。また、上記第1の輸送管9の先端部9aを取り囲んで加熱手段としての例えば筒状ヒータ15が設けられており、この筒状ヒータ15で上記第1の輸送管9の先端部9aの複数の孔14から放出される微細な液滴8を加熱し、そこに含まれるナノパーティクルの微粒子材に所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成するようになっている。なお、ナノパーティクルの微粒子材の表面積は大きいため、この微粒子材は原料の固体物質が本来有する気化温度よりも低い温度で容易に気化する。したがって、上記筒状ヒータ15の設定温度は、上記微粒子材と同質の個体物質の気化温度よりも低く設定され、例えば炭素の場合には120℃程度でよく、金、銀又は銅等の場合には300℃以下でよい。
そして、上記原料貯蔵容器1と、気化室2とから気化装置4が構成される。
【0042】
上記気化装置4の気化室2には、反応室3が接続されている。この反応室3は、上記気化室2から導入される原料ガスをプラズマ処理して基板16上に上記固体物質の膜を堆積させるものであり、上壁部3aに第2の輸送管12を設けて上記気化室2から原料ガスを導入可能とし、内部にプラズマを発生する一対の対向電極(図示省略)を備え、内部の下側に基板16を搬送する搬送ベルト17を備えて常圧下で成膜できるようになっている。なお、反応室3は、上述のものに限られず、密閉可能に形成され真空ポンプを接続して減圧下で成膜できるようにしたものであってもよく、公知の技術を適用することができる。また、上記固体物質の膜には、原料ガスが反応性ガスと反応して生成される膜も含むものである。
【0043】
なお、図1において、符号19aはキャリアガス導入管10の開閉バルブ、符号19bは真空ポンプ13の吸引管の開閉バルブ、符号19cは第2の輸送管12の開閉バルブを示している。また、符号20は、第1及び第2の輸送管8,12並びに気化室2の周囲に設けられ上記霧状化された微細な液滴8の結露や気化した原料ガスの液化を防止するヒータである。
【0044】
次に、このように構成された第1の実施形態の成膜装置の動作及びこの成膜装置を使用して行う成膜方法について説明する。
先ず、例えば金属ナノパーティクルの微粒子材を有機溶剤の溶媒に所定量混合した溶液5を原料貯蔵容器1に貯蔵して容器を密閉する。このときキャリアガス導入管10の開閉バルブ19a及び第2の輸送管12の開閉バルブ19cは閉じられている。
【0045】
次に、真空ポンプ13を駆動し、開閉バルブ19bを開いて気化室2内を所定の真空度まで減圧して脱酸素状態にする。そして、開閉バルブ19bを閉じる。このとき、原料貯蔵容器1内も第1の輸送管9を介して同時に減圧される。さらに、キャリアガス導入管10の開閉バルブ19aを開いてキャリアガスを原料貯蔵容器1から気化室2内に導入する。気化室2内にキャリアガスが充満すると開閉バルブ19cを開いてキャリアガスを反応室3側に流す。
【0046】
次に、気化室2内の筒状ヒータ15に通電してこの筒状ヒータ15を金属ナノパーティクルの微粒子材が気化する適正温度に加熱すると共に、ヒータ20に通電して霧状化された微細な液滴8が結露しないように、また原料ガスが液化しないように第1及び第2の輸送管8,12及び気化室2の外周面を所望の温度に暖める。さらに、発振器7を駆動して超音波振動子6を振動させ、これにより発生する超音波を原料貯蔵容器1内に貯蔵された溶液5中に放射させる。このとき溶液5中に空洞の生成及び消滅現象が発生し、それに伴って発生する衝撃力により溶液5中の上記微粒子材が均一に分散される。同時に、上記衝撃力によって溶液5が微細な液滴8となって飛び散り、その液面5aと原料貯蔵容器1の上壁面1dとの間の空間に上記微細な液滴8の霧が生成される。
【0047】
この微細な液滴8の霧は、キャリアガスによって第1の輸送管9内を矢印A方向に輸送され、第1の輸送管9の先端部9aに設けられた複数の孔14から気化室2内に放出される。この放出された微細な液滴8中の溶媒は、筒状ヒータ15から熱エネルギーを得て気化する。同時に、上記微細な液滴8中に含まれる金属ナノパーティクルの微粒子材も上記熱エネルギーを得て気化して原料ガスが生成される。
【0048】
この原料ガスは、キャリアガスによって第2の輸送管12内を矢印B方向に輸送されて反応室3に導入され、そこでプラズマ処理される。そして、例えば搬送ベルト17によって矢印C方向に搬送されて反応室3内に設置された基板16上に上記金属の膜が堆積する。この場合、例えばインジウムやスズ又は亜鉛等は、その原料ガスを常圧下で酸素と反応させることによって成膜することができる。また、反応室3が減圧可能にされたものであるときには、脱酸素状態で金、銀又は銅等を成膜することができる。
【0049】
図2は上記原料貯蔵容器1の他の構成例を示す断面図である。この原料貯蔵容器1は、貯蔵された溶液5の液面5aと上壁面1dとの間の側壁1b部分に上下方向に並べて三つの取出し口21a,21b,21cを設け、そのうちの一つを第1の輸送管9に接続したものである。これにより、微細な液滴8のうち粒径が小さくて軽い液滴8aを上側の取出し口21aから取り出すことができ、粒径が大きくて重い液滴8cを下側の取出し口21cから取り出すことができ、中間の大きさの液滴8bを真ん中の取出し口21bから取り出すことができる。したがって、粒径のそろった微細な液滴8を気化室2に導入することができ、微細な液滴8中に含まれる微粒子材に作用する熱エネルギーを均一にして微粒子材の気化を効率よく行うことができる。なお、気化室2に接続されない取出し口、例えば同図に示す取出し口21b,21cから取り出された微細な液滴8は排気してもよく、原料貯蔵容器1側に戻してもよい。
【0050】
図3は本発明による成膜装置の第2の実施形態の要部を断面で示す説明図である。この第2の実施形態は、気化装置4が成膜原料となる固体物質のナノパーティクルの微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液5を貯蔵する原料貯蔵容器1と、該原料貯蔵容器1から供給管22を介して供給される上記溶液5を噴霧室23内に噴射し、微細な液滴8にして霧状化する噴射ノズル24と、内部を減圧可能に形成され、噴霧室23から第1の輸送管9を介して輸送される上記霧状化された微細な液滴8を導入し、該微細な液滴8中に含まれる上記微粒子材に所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する気化室2と、を備え、気化室2から第2の輸送管12を介して上記原料ガスを図示省略の反応室3(図1参照)に導入し、反応室3でこの原料ガスをプラズマ処理して内部に設置された基板16上に上記固体物質の膜を堆積させるようになっている。
【0051】
このような構成により、原料貯蔵容器1にマスフローコントローラ25により1cc〜20cc程度に流量調節された窒素ガス(N2)等の不活性ガスをガス配管26を介して導入し、このガスによって上記溶液5の液面5aを加圧し、原料となる微粒子材を均一に分散させて有する溶液5を供給管22を介して噴射ノズル24に供給する。また、噴射ノズル24には、マスフローコントローラ27により5L〜10L程度に流量調節された窒素ガス(N2)等の不活性ガスからなる噴射ガスがガス配管28を介して供給されて噴射ノズル24から噴射される。これにより、噴射ノズル24に供給された上記溶液5は、噴射ノズル24から噴射する噴射ガスと共に微細な液滴29となって噴射される。
【0052】
この微細な液滴29は、噴射ノズル24と対向する噴霧室23の壁面23aに衝突してより微細な液滴8にされ、噴霧室23内に分散されて霧状化する。そして、この霧状化された微細な液滴8は、噴射ノズル24から噴射される不活性ガスによって、第1の輸送管9内を同図に示す矢印A方向に減圧された気化室2に向かって輸送される。
【0053】
上記第1の輸送管9を介して輸送された上記霧状化された微細な液滴8は、第1の輸送管9の先端部9aに設けた孔14から放出し、気化室2内で筒状ヒータ15から熱エネルギーを得る。この熱エネルギーにより、上記微細な液滴8中に含まれるナノパーティクルの微粒子材が気化されて原料ガスとなる。そして、この原料ガスは、第2の輸送管12により同図に示す矢印B方向に輸送されて反応室3に導入され、そこでプラズマ処理される。これにより、反応室3内に設置された基板16(図1参照)上に上記固体物質の膜が堆積する。
【0054】
図4は上記噴霧室23の他の構成例を示す断面図である。この噴霧室23は、その側壁23bに上下方向に並べて複数の取出し口30a,30b,30c,30dを設け、そのうちの一つ、例えば取出し口30aを第1の輸送管9に接続したものである。この場合も、前述の図2に示す原料貯蔵容器1と同様に微細な液滴8の粒径を選別して取り出すことができる。また、噴射ノズル24から噴霧室23に噴射される噴射ガスの圧力を複数の取出し口30a〜30dにより分圧して気化室2に流入するガス流量を調節することができる。なお、気化室2に接続されない取出し口、例えば同図に示す取出し口30b〜30dから取り出された微細な液滴8は排気してもよく、または原料貯蔵容器1側に戻してもよい。
【0055】
図5は本発明による成膜装置の第3の実施形態の要部を断面で示す説明図である。この第3の実施形態は、気化室2の筒状ヒータ15よりも原料ガスの下流側(同図に示す矢印D方向)にてその流れに対して直交方向に対向する側壁2c,2dに一対の電極31を配設して該電極31間に例えば13.58MHzの高周波を印加してプラズマを発生させ、上記原料ガスにプラズマエネルギーを加えて原料ガスを遊離させるようにしたものである。
【0056】
このような構成により、筒状ヒータ15の熱エネルギーを微細な液滴8に作用させてそこに含まれる微粒子材を気化させ、こうして得られた原料ガスにプラズマエネルギーを加えてガスを遊離させ、これを同図に示す矢印B方向に輸送して反応室3に導入する。これにより、反応室3における遊離した原料ガスの割合が高くなり、成膜効率を向上することができる。なお、図5においては、溶液5の霧状化は、図1に示す原料貯蔵容器1に備えた超音波振動子6を駆動して原料貯蔵容器1内の溶液5中に超音波を放出して行う場合について示しているが、これに限られず、図3に示すように噴射ノズル24を使用して溶液5を噴射して行ってもよい。
【0057】
以上の説明においては、固体物質の微粒子材として金属ナノパーティクルを使用する場合について述べたが、これに限られず、ナノパーティクルとして生成可能な固体物質であればいかなるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明による成膜装置の第1の実施形態の概略構成を断面で示す説明図である。
【図2】上記第1の実施形態の原料貯蔵容器の他の構成例を示す断面図である。
【図3】本発明による成膜装置の第2の実施形態の要部を断面で示す説明図である。
【図4】上記第2の実施形態の噴霧室の他の構成例を示す断面図である。
【図5】本発明による成膜装置の第3の実施形態の要部を断面で示す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1…原料貯蔵容器
1a…底面部
1b…側壁
1d…上壁面
2…気化室
2a〜2d…側壁
3…反応室
4…気化装置
5…溶液
5a…液面
6…超音波振動子
8…液滴
9…第1の輸送管
12…第2の輸送管
15…筒状ヒータ(加熱手段)
16…基板
21a〜21c,30a〜309d…取出し口
22…供給管
23…噴霧室
23b…側壁
24…噴射ノズル
31…電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を飛散させて霧状化し、
該霧状化された微細な液滴を減圧された気化室内に導入し、該微細な液滴中に含まれる前記微粒子材に所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成し、
該原料ガスを反応室に導入してプラズマ処理し、該反応室内に設置された基板上に前記固体物質の膜を堆積させる、
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記溶液の霧状化は、超音波を前記溶液中に放射させ、該溶液中に発生する空洞の生成時及び消滅時の衝撃力を利用して行うことを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記溶液の霧状化は、前記溶液を噴射ノズルから噴射して行うことを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項4】
前記生成した原料ガスに対して反応室へ輸送する前にプラズマエネルギーを加え、原料ガスを遊離させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記固体物質の微粒子材は、金属ナノパーティクル材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項6】
成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を貯蔵すると共に該溶液を飛散させて霧状化する原料貯蔵容器と、
内部を減圧可能に形成され、前記原料貯蔵容器から第1の輸送管を介して輸送される前記霧状化された微細な液滴を導入し、該微細な液滴中に含まれる前記微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する気化室と、
前記気化室から第2の輸送管を介して導入される前記原料ガスをプラズマ処理し、内部に設置された基板上に前記固体物質の膜を堆積させる反応室と、
を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を貯蔵する原料貯蔵容器と、
前記原料貯蔵容器から供給管を介して供給される前記溶液を噴霧室内に噴射し、微細な液滴にして霧状化する噴射ノズルと、
内部を減圧可能に形成され、前記噴霧室から第1の輸送管を介して輸送される前記霧状化された微細な液滴を導入し、該微細な液滴中に含まれる前記微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する気化室と、
前記気化室から第2の輸送管を介して導入される前記原料ガスをプラズマ処理し、内部に設置された基板上に前記固体物質の膜を堆積させる反応室と、
を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を貯蔵すると共に該溶液を飛散させて霧状化する原料貯蔵容器と、
内部を減圧可能に形成され、前記原料貯蔵容器から第1の輸送管を介して輸送される前記霧状化された微細な液滴を導入し、該微細な液滴中に含まれる前記微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する気化室と、
を備えたことを特徴とする気化装置。
【請求項9】
前記原料貯蔵容器は、その底面部に超音波振動子を備え、該超音波振動子の駆動により発生する超音波を前記溶液中に放射させ、該溶液中に発生する空洞の生成時及び消滅時の衝撃力を利用して前記溶液を霧状化することを特徴とする請求項8記載の気化装置。
【請求項10】
前記原料貯蔵容器は、内部に貯蔵された溶液の液面と上壁面との間の側壁部分に上下方向に並べて複数の取出し口を設け、そのうちの一つを前記第1の輸送管に接続したことを特徴とする請求項8又は9に記載の気化装置。
【請求項11】
成膜原料となる固体物質の微粒子材を溶媒中に所定量混合した溶液を貯留する原料貯蔵容器と、
前記原料貯蔵容器から供給管を介して供給される前記溶液を噴霧室内に噴射し、微細な液滴にして霧状化する噴射ノズルと、
内部を減圧可能に形成され、前記噴霧室から第1の輸送管を介して輸送される前記霧状化された微細な液滴を導入し、該微細な液滴中に含まれる前記微粒子材に加熱手段により所定温度の熱エネルギーを加えて気化させて原料ガスを生成する気化室と、
を備えたことを特徴とする気化装置。
【請求項12】
前記噴霧室は、側壁に上下方向に並べて複数の取出し口を設け、そのうちの一つを前記第1の輸送管に接続したことを特徴とする請求項11記載の気化装置。
【請求項13】
前記気化室は、前記加熱手段よりも原料ガスの下流側にてその流れに対して直交方向に対向して一対の電極を配設したことを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の気化装置。
【請求項14】
前記固体物質の微粒子材は、金属ナノパーティクル材であることを特徴とする請求項8〜13のいずれか1項に記載の気化装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−299335(P2006−299335A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121702(P2005−121702)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(391061510)株式会社藤森技術研究所 (20)
【Fターム(参考)】