成膜方法
【課題】エアロゾルデポジションを用いた成膜方法において、堆積膜の膜厚増加を容易にし、或いは、硬質基板への堆積を容易にして、その粉体歩留まりを高くすること。
【解決手段】 基板への固着が可能な粒径を第1の平均粒径とする微粒子群からなら第1の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第1の粉末を真空中で前記基板に向けて噴射する第1の工程と、前記第1の平均粒径より小さな第2の平均粒径を有する第2の微粒子群からなり前記第1の粉末と同一組成の第2の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第2の粉末を真空中で前記第1の粉末が固着した前記基板に向けて噴射する第2の工程を具備すること。
【解決手段】 基板への固着が可能な粒径を第1の平均粒径とする微粒子群からなら第1の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第1の粉末を真空中で前記基板に向けて噴射する第1の工程と、前記第1の平均粒径より小さな第2の平均粒径を有する第2の微粒子群からなり前記第1の粉末と同一組成の第2の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第2の粉末を真空中で前記第1の粉末が固着した前記基板に向けて噴射する第2の工程を具備すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾルデポジッション法による成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末等の電子機器対する小型化・高機能化・多機能化の要求は、近年益々増大している。これらの要求を満たすため、電子機器を構成する種々の材料、すなわち、金属、セラミックス、樹脂等を一体化して狭い空間に集積化する複合化技術が活発に研究・開発されている。
【0003】
このような技術の一つとして、樹脂ビルドアップ型実装基板がある。この技術は、樹脂層上への銅配線や内蔵キャパシタの形成、樹脂層の貼り合わせ(ラミネート)、及び樹脂層を貫通する配線の形成を順次繰返して実装基板を形成する技術である。
【0004】
樹脂ビルドアップ型実装基板に於ける銅配線は、下地層形成のための無電解鍍金とその後の鍍金・パターニングによって形成される。また、内蔵キャパシタは、上下の金属層からなる電極の間に、高誘電率セラミック粉末を分散させた樹脂層(ポリマーコンポジット)形成して誘電体層とする。
【0005】
この樹脂ビルドアップ型実装基板は、コスト面では優れているが、高周波特性に優れたセラミック材料の導入が困難であるという問題を抱えている。樹脂ビルドアップ型実装基板では、上述したように、高誘電率セラミックからなる粉末を分散させた樹脂層(ポリマーコンポジット)を誘電体層として、内蔵キャパシタを形成する。しかし、セラミックの充填率に限界があるため、十分な高周波特性を得ることができない。また、樹脂ビルドアップ型実装基板には、銅配線の形成に長時間を要し、しかも鍍金廃液の処理に多大な環境負荷が強いられるという問題もある。
【0006】
樹脂ビルドアップ型実装基板以外にも、金属、セラミックス、樹脂等を一体化して狭い空間に集積化する技術には、LTCC(Low Temperature Cofired Ceramics)がある。この技術では、セラミックグリーンシート上に低抵抗導体配線や内蔵キャパシタを印刷法で形成し、このグリーンシートを多数積層した後、1000℃前後の高温で同時焼結する。LTCCでは、内蔵キャパシタの誘電体層には、高誘電率セラミックスとガラスとの複合体が用いられる。
【0007】
LCCは、セラミック材料の導入が容易なので高周波特性に優れているが、ベース基板としてコストの低い樹脂基板を使用することができない等、コスト面に課題がある。これは、同時焼成に必要な1000℃前後の高温熱処理に、樹脂基板が耐えられないためである。
【0008】
これらの技術に対して、最近、衝突固化現象を利用したエアロゾルデポジション(ASD)技術が注目されている(非特許文献1,2)。エアロゾルデポジション技術は、室温に於いて、セラミックス、金属、及び樹脂の成膜を可能とするユニークな技術であり、しかも環境負荷も小さい。従って、エアロゾルデポジションを用いれば、セラミックス、金属、及び樹脂の複合化を、低コストで実現することが可能になる。
【非特許文献1】「微粒子, 超微粒子の衝撃固化現象を用いたセラミクス薄膜形成技術 ―エアロゾルデポジション法による低温・高速コーティング―」, まてりあ, 明渡 純, M. Lebedev, Vol.41, No.7, 459-466(2002).
【非特許文献2】「エアロゾルデポジションによる高周波受動素子集積化技術」, 今中 佳彦, 明渡 純, セラミックス, Vol.39, No8,584-589(2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図13は、ASD装置2の構成図である。振動攪拌を施した原料粉末4の中に圧縮ガス6を供給することで形成したエアロゾル流(原料微粒子と気体との混合体)をメカニカルブースターポンプ8と真空ポンプ10によって成膜室12に形成した減圧雰囲気(50〜1kPa)で更に流れを加速し、スリット状のノズル14を通して、音速以上の高速で基板16に向かって噴射する。噴射された原料粉末は基板に衝突し、基板表面に固着して厚膜が形成される。
【0010】
原料としては、セラミックや金属の微粒子が用いられ、その粒径は0.05〜2μm程度である。
【0011】
しかし、その成膜メカニズムは十分には解明されておらず、例えば、粉体歩留まり(粒子の定着率)が高々数%程度である等、未解決の問題も多い。
【0012】
このような粉体歩留まりの悪さには、2つの態様がある。
【0013】
第1の態様は、成膜過程の初期は膜形成が順調に行われるが、途中から膜厚の増加が止まったり、或いは、反って膜厚が減少してしまうという粉体歩留まりの悪さである。すなわち、第1の態様は、ある膜厚以上で堆積膜の膜厚増加が困難になる態様である。
【0014】
第2の態様は、例えば、ガラスやエポキシ樹脂のような硬質基板では、膜形成自体が殆ど行われず、粉体歩留まりが略0%になる粉体歩留まりの悪さである。
【0015】
以上のような現象が起きると、粉体の利用効率が悪いということに止まらず、堆積膜の膜厚が薄くなってしまう。その結果、種々の不都合が生じる。例えば、内蔵キャパシタ形成のためにセラミック膜を成膜した場合には、十分な絶縁性が保てないと問題が起きる。これは、堆積膜が薄いと、衝突固化した微粒子間に残存する空隙が繋がって膜上面から下面に至るパスが形成され、そこに膜上面に形成した金属が侵入して電流漏れの原因となるためである。
【0016】
一方、配線用の金属層を成膜した場合には、膜厚が薄いと配線抵抗が高くなる。
【0017】
そこで、本発明の目的は、エアロゾルデポジションを用いた成膜方法において、堆積膜の膜厚増加を容易にし、或いは、硬質基板への堆積を容易にして、その粉体歩留まりを高くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(第1の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、基板への固着が可能な粒径を第1の平均粒径とする微粒子群からなら第1の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第1の粉末を真空中で前記基板に向けて噴射する第1の工程と、前記第1の平均粒径より小さな第2の平均粒径を有する第2の微粒子群からなり前記第1の粉末と同一組成の第2の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第2の粉末を真空中で前記第1の粉末が固着した前記基板に向けて噴射する第2の工程を具備することを特徴とする。
【0019】
第1の側面によれば、膜堆積の初期過程と成長過程で夫々に適した粒径の粉体を用いるので、従来のエアロゾルデポジッション法に比べ、より厚い膜の成長が可能になり、粉体歩留まりが向上する。更に、第1の側面によれば、従来は困難であった硬質基板に対しても、成膜が可能になる。
【0020】
(第2の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第2の側面によれば、第1の側面において、前記第1の粒径の標準偏差が、前記第1の平均粒径の2割以内であることを特徴とする。
【0021】
(第3の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第3の側面によれば、第1又は2の側面において、 前記第1の工程の前に、前記基板の表面に凹凸を設けて、前記第1の粉末が前記基板に固着しやすくすることを特徴とする。
【0022】
第3の側面によれば、基板表面に設けた凹凸部にアンカーが形成されやすくなるので、硬質基板等、従来は成膜が困難であった基板に対しても、更に粉体歩留まりが向上する。
【0023】
(第4の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第4の側面によれば、第1乃至3の何れかの側面において、前記基板が樹脂からなり、且つ、成膜する膜がセラミックからなることを特徴とする。
【0024】
(第5の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第5の側面によれば、第1乃至4の何れかの側面において、前記基板が樹脂からなり、且つ、成膜する膜が金属からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、膜堆積の初期過程では大型の微粒子群からなる粉体を用いてアンカーを形成し、膜の成長過程では小型の微粒子群を用いて堆積膜の破壊を回避するので、従来のエアロゾルデポジッション法に比べ、より厚い膜の成長が可能になり、粉体歩留まりが向上する。
【0026】
また、本発明によれば、基板表面に設けた凹凸部によってアンカーが形成されやすくなるので、硬質基板等、従来は成膜が困難であった基板に対しても、粉体歩留まりが向上する。
【0027】
すなわち、本発明によれば、エアロゾルデポジッション法において、堆積膜の膜厚増加が容易になり、或いは、硬質基板への堆積が容易になるので、その粉体歩留まりが高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態に従う成膜方法の手順を説明するフロー図である。また、図2及び3は、本実施の形態における処理ステップを説明する状態図である。
【0030】
本実施の形態は、図2に示すように、基板16への固着が可能な粒径を第1の平均粒径とする微粒子群からなら第1の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した上記第1の粉末21を真空中で上記基板16に向けて噴射する第1の工程(ステップS1)と、図3のように、上記第1の平均粒径より小さな第2の平均粒径を有する第2の微粒子群からなり上記第1の粉末と同一組成の第2の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した上記第2の粉末25を真空中で、上記第1の粉末が固着した上記基板16に向けて噴射する第2の工程(ステップS2)を具備する。
【0031】
上記処理ステップでは、第1及び第2の微粒子群の粒径は、平均粒径によって規定されている。これは、粉体を構成する微粒子の粒径は、一定の範囲に分布するためである。そして、平均粒径だけでなく、粒径分布の度合も規定しようとすると、粒径の標準偏差にも言及する必要がある。
【0032】
本実施の形態では、下記実施例で例示するように、第1の粒子群の粒径の標準偏差は、第1の平均粒径の2割以内であることが好ましく、更には、1割以内であることが好ましい。また、第2の粒子群の粒径の標準偏差は、同じく下記実施例で例示するように、第2の平均粒径の2/3以内であることが好ましく、更には、5割以内であることが好ましい。
【0033】
ところで、基板に向けてエアロゾルを噴射した場合に起こる現象は、エアロゾルを構成する微粒子の大きさによって3つの領域に分類される。尚、以下の説明は、エアロゾル中の微粒子の粒径が全て同一であると仮定した場合の説明である。
【0034】
第1の領域は、粒径が大きい領域である。この領域では、微粒子の質量も大きくその運動エネルギーが大きいため、基板は、微粒子の衝突によって大きな衝撃を受け、破壊され削られて行く。すなわち、基板がエッチングされる。
【0035】
第2の領域は、粒径が中程度の領域である。この領域では、基板に衝突した微粒子は、基板に減り込み変形する(図4参照)。その後に続く微粒子26は、この減り込んだ微粒子(以後、アンカー28と呼ぶ)の上に堆積して行き、堆積膜32が成長して行く(図5参照)。尚、図4及び図5は、第2の領域に於ける成膜過程を説明する状態図である。
【0036】
第3の領域は、微粒子が小さい領域である。この領域では、基板に向かって噴射された微粒子は、衝突時に基板によって跳ね返され、膜は形成されない。
【0037】
エアロゾルデポジションは、第2の領域を利用して、基板上に堆積膜を形成する技術である。
【0038】
このエアロゾルデポジションは、衝突固化現象を利用するため、堆積膜には、その成長に従って圧縮応力が蓄積されて行く。膜厚が厚くなり圧縮エネルギーが増大して来ると、後続する微粒子の衝突によって、堆積膜が、破壊されやすくなる。このため、堆積膜の厚さが一定値以上になると、その成長が阻害され、場合によっては膜厚が減少してしまう。従って、堆積膜の形成が可能な第2の領域でも、粉体歩留まりは悪い。
【0039】
実際のエアロゾルデポジションでは、基板に向かって噴射するエアロゾルは種々の粒径の微粒子の集合体であり、粒径は広範囲に分布している。例えば、その標準偏差は、平均粒径の5割以上に及ぶ。このため、従来のエアロゾルデポジションでは、上記第1乃至第3の領域が競合して起き、結果として、粉体歩留まりは、上記第2の領域よりも悪くなる。
【0040】
そこで、本実施の形態では、まず、最初に基板に固着が可能な大型の微粒子を主成分とするエアロゾルを基板に向かって噴射して、アンカー28を形成する(図2参照)。次に、基板16に向かって噴射する微粒子群の平均粒径を小さくして、その運動エネルギーを小さくし、衝突時の衝撃を緩和する(図3参照)。このようにすると、既に成長した堆積膜42の破壊が防止される一方、粒径の小さい微粒子22はその表面エネルギーを小さくしようとして堆積膜表面上で凝集して堆積膜42を成長させる。
【0041】
このように、本実施の形態では、膜堆積の初期過程では大型の微粒子群からなる粉体を用いてアンカーを形成し、膜の成長過程では小型の微粒子群を用いて堆積膜の破壊を回避するので、従来のエアロゾルデポジッション法に比べ、より厚い膜の成長が可能になり、粉体歩留まりが向上する。
【0042】
ところで、基板がガラスやエポキシ樹脂のように硬い場合には、従来のエアロゾルデポジッションでは、堆積膜の形成が困難であった。これは、従来使用していた粉体は、その平均粒径が小さいため(0.05〜2μm)、十分なアンカーが形成されなかったためである。
【0043】
しかし、本実施の形態によれば、大型の微粒子群を用いてアンカーを形成するので、硬質の基板に対しても成膜が容易になる。
(実施の形態2)
図6は、本実施の形態に従う成膜方法の手順を説明するフロー図である。また、図7及び8は、本実施の形態における処理ステップを説明する状態図である。
【0044】
本実施の形態では、まず、図7のように、基板16の表面に凹凸34を設け、エアロゾル化された粉末が基板に固着しやすくする(ステップS0)。その後は、図1を参照して、実施の形態1で説明したステップS1及びS2を実施する。
【0045】
本実施の形態によれば、基板16に凹凸34が設けられるので(図7参照)、たとえ硬質基板を用いても、基板16に衝突した微粒子が凹部に嵌り込みアンカー28が容易に形成される(図8参照)。このため、粉体歩留まりが向上する。
【0046】
一方、基板の硬度が強度の場合には、基板に凹凸を形成しないと、微粒子18は、基板に衝突しても変形するだけで基板に減り込まず、アンカーが形成されない(図9参照)。このため、エアロゾル化した粉体をいくら基板16に向けて噴射しても、膜は形成されない。
【0047】
このように、本実施の形態によれば、硬質基板等、従来は成膜が困難であった基板に対しても成膜が容易になり、粉体歩留まりが一層向上する。
【実施例1】
【0048】
本実施例は、ガラス基板に向かって、まず、平均粒径の大きな金属微粒子群からなるエアロゾルを噴射し、次に、平均粒径の小さな金属微粒子群からなるエアロゾルを噴射して金属膜(Cu膜)を形成する成膜方法に係るものである。
【0049】
図10は、本実施例に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【0050】
まず、ガラス基板16を用意する(ステップS2)。
【0051】
次に、ガラス基板16を、図13に示すエアロゾルデポジション装置に装着する。但し、本実施例で使用するエアロゾルデポジション装置は、図示したエアロゾル発生容器38の他に、追加のエアロゾル発生器(図示せず)を有している。追加のエアロゾル発生器には、エアロゾル発生器38と同様に、圧縮ガス、ノズル、及び振動機が接続されている。成膜室12はX、Y方向に移動可能のステージ36を有し、これにステップS2で用意した基板16を貼り付け設置する(ステップS4)。
【0052】
次に、成膜室12内をメカニカルブースターポンプ8と真空ポンプ10で真空に排気し、予め10Pa以下に減圧する(ステップS6)。
【0053】
一方、平均粒径10μm±1μmのCu微粒子群からなる粉末(日本アトマイズ加工製HXR−Cu10)を第1の原料粉末4として、エアロゾル発生容器38に入れ、振動器40によりエアロゾル発生容器38全体に超音波を加え、約80度で加熱しながら、30分間真空脱気して、粉末表面に吸着した水分を除去する前処理を施す。同様に、平均粒径1μm±0.5μmのCu微粒子群からなる粉末(三井金属製、1050Y)を第2の原料粉末として、図示しない追加のエアロゾル発生容器に入れ、振動器によりエアロゾル発生容器全体に超音波を加え、約80度で加熱しながら、30分間真空脱気して、粉末表面に吸着した水分を除去する前処理を施す(ステップS8)。
【0054】
尚、上記「平均粒径10μm±1μm」との記載は、平均粒径が10μmであり、粒径の標準偏差が1μmであることを表す。以後の説明に於いても、同様である。これらの値は、遠心分離沈降法によって測定されるものであり、具体的にはシマズ(Shimazu)社製の遠心粒径測定装置SA-CP3(centrifugal particle size analyzer;SA-CP3)によって測定される。
【0055】
次に、圧縮ガス6とエアロゾル発生容器38の間の配管に設けられた第1のバルブ(図示せず)を開けて、エアロゾル発生器38に高純度ヘリウムガス(ガス圧: 2kg/cm2、ガス流量:8l/min.)からなる圧縮ガス6を導入し、前処理を施した第1の原料粉末4をエアロゾル化(浮遊粉塵化)する(ステップS10)。
【0056】
次に、エアロゾル発生器38とノズル14の間の配管に設けられた第2のバルブ(図示せず)を開けて、このエアロゾルを、ノズル14により成膜室12に送り込む。ノズル14は、内側にらせん状の溝を形成したものを使用する。内側にらせん状の溝を有したノズル14からガラス基板16に向けて、2分間、エアロゾル化した第1の原料粉末4を噴射する(ステップS12)。エアロゾルの噴射中、チャンバー中の圧力は一定値200Paに保たれる。
【0057】
この時、図2のように、エアロゾル20中のCuからなる微粒子18は、音速以上の高速でガラス基板16に突進し衝突する。この衝突時の衝撃によって、Cuからなる微粒子18は、変形しガラス基板16に固着して、アンカー28を形成する。
【0058】
次に、上記第1及び第2のバルブ(図示せず)を閉めて、第1の原料粉末4の噴射を停止する。
【0059】
次に、ステップS10と同様の手順によって、追加のエアロゾル発生器(図示せず)に高純度ヘリウムガスからなる圧縮ガス6(ガス圧: 2kg/cm2、ガス流量:8l/min.) を導入し、前処理を施した第2の原料粉末をエアロゾル化(浮遊粉塵化)する(ステップS14)。
【0060】
次に、ステップS12と同様の手順によって、このエアロゾルを、配管を通してノズル(図示せず)により成膜室12に送り込む。ノズルの内側には、らせん状の溝が形成されている。このノズルからガラス基板16に向けて、15分間、エアロゾル化した第2の原料粉末を噴射する(ステップS16)。エアロゾルの噴射中、チャンバー中の圧力は一定値200Paに保たれる。
【0061】
この時、図3のように、エアロゾル24中のCuからなる小型の微粒子22は、音速以上の高速でガラス基板上に形成されたアンカー層41に突進し衝突する。Cuからなる小型の微粒子22は、この衝突時の衝撃によってアンカー層41に固着し、或いは、その表面エネルギーを小さくしようと互いに凝集し、堆積膜42を成長させる。一方、小型の微粒子22は質量が小さいので、既に堆積した膜42を破壊することはない。
【0062】
従って、本実施例によれば、硬質でエアロゾルデポジッションに適さないガラス基板に対して、従来のエアロゾルデポジション法に従って得られるCu膜の膜厚1μmより格段に厚い5μmのCu膜を成膜することができる。そして、粉体歩留まりは、従来の3%から10%に向上する。また、堆積膜42の基板間密着強度は、3kg/mm2と強固である。尚、上記結果は、比較例1で示す表1に纏められている。
【実施例2】
【0063】
本実施例は、硬質でエアロゾルデポジションに適さないガラス基板に対して、表面に凹凸を設けてエアロゾルデポジションが起きやすくしてから、実施例1と同様の手順によってCu膜を形成する成膜方法に係るものである。
【0064】
図11は、本実施例に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【0065】
まず、図10を参照して実施例1で説明したステップS2と同様に、ガラス基板を用意する。
【0066】
次に、このガラス基板の表面をエメリー研磨紙によって荒らし、最大表面粗さRmaxが1μmとなるように凹凸を設ける(ステップS3)。
【0067】
その後、実施例1と同様に、ステップS4からステップS16の処理を行う。但し、ステップS12に於ける最初のエアロゾルの噴射時間は1分間であり、ステップS16に於ける2回目のエアロゾルの噴射時間は10分間であり、夫々実施例1の対応する噴射時間より短い。
【0068】
以上の処理により、本実施例では、粉体歩留まりは、実施例1の10%より高い20%に向上する。また、形成されるCu膜の膜厚は5μm、その基板間密着強度は3kg/mm2である。これらの結果は、比較例1で示す表1に纏められている。
【0069】
(比較例1)
本比較例は、実施例1及び2に関する比較例である。
【0070】
図12は、本比較例に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【0071】
本比較例では、実施例1と同様に、図12に示すステップS2からステップS12の処理を実施する。
【0072】
但し、原料粉末は、平均粒径10μm±5μmのCu微粒子群からなる粉末である。また、実施例1とは異なり、2回目のエアロゾルの噴射(図10及び11のステップS14からステップS16)は実施しない。更に、エアロゾルの基板への噴射時間も、20分と実施例1のトータル時間17分よりも長い。
【0073】
以上の処理により、ガラス基板上に、厚さ1μmのCu膜が形成される。この時の粉体歩留まりは、3%である。また、堆積膜の基板間密着強度は、3kg/mm2と強固である。
【0074】
本比較例及び上記実施例1,2の結果を纏めると、表1のようになる。
【0075】
【表1】
【実施例3】
【0076】
本実施例は、セラミック(BaTiO3)からなる原料粉末を用いて、実施例2と同様の処理手順でセラミック膜を形成する成膜方法に係るものである。
【0077】
本実施例では、図11に従って処理手順を説明した実施例2と同様に、ステップS2からステップ16の処理を実施する。
【0078】
但し、ステップS10からステップS12で用いる第1の原料粉末は、平均粒径1μm±0.2μmのBaTiO3微粒子群からなる粉末である。また、ステップS14からステップS16で用いる第2の原料粉末は、平均粒径0.3μm±0.2μmのBaTiO3微粒子群からなる粉末である。
【0079】
これら第1及び第2の原料粉末は、実施例2と同様に、ステップ8において前処理が施される。また、ステップS8に於ける加熱温度は、150℃である。
【0080】
更に、ステップS10及びステップS14で、使用する圧縮ガスは、高純度酸素ガス(ガス圧: 2kg/cm2、ガス流量:4l/min.)である。
【0081】
以上の処理手順によれば、硬質でエアロゾルデポジッションに適さないガラス基板に対して、従来のエアロゾルデポジション法に従って得られるBaTiO3膜の膜厚2μmより格段に厚い5μmのBaTiO3膜を成膜することができる。そして、粉体歩留まりは、従来法の1%から10%に向上する。また、堆積膜の基板間密着強度は、3kg/mm2と強固である。
【0082】
尚、これらの結果は、比較例2で示す表2に纏められている。
【0083】
(比較例2)
本比較例は、実施例3に関する比較例である。
【0084】
本比較例では、図11に従って実施例3で説明したステップS2からステップS12を実施する。
【0085】
但し、ガラス基板(最大表面粗さRmaxは0.02μm)の表面を凹凸化するステップS3は実施しない。また、原料粉末には、平均粒径0.5μm±0.4μmのBaTiO3微粒子群からなる粉末を用いる。
【0086】
また、エアロゾルの基板への噴射時間は20分であり、実施例3のトータル噴射時間11分より長い。更に、本比較例では、実施例3と異なり、2回目のエアロゾルの噴射(ステップS14からステップS16)は実施しない。
【0087】
以上の処理手順によれば、ガラス基板上に、厚さ2μmのBaTiO3膜が形成される。この時の粉体歩留まりは、1%である。また、堆積膜の基板間密着強度は、3kg/mm2と強固である。
【0088】
本比較例及び上記実施例3の結果を纏めると、表2のようになる。
【0089】
【表2】
【実施例4】
【0090】
本実施例は、アクリル樹脂からなる基板に対して、実施例1と同様の手順でCu膜を形成する成膜方法に係るものである。
【0091】
本実施例では、実施例1と同様に図10のステップS2からステップ16の処理を実施する。
【0092】
但し、基板16は、ガラス製ではなくアクリル樹脂製である。尚、基板16の最大表面粗さRmaxは、0.1μmである。
【0093】
上記ステップS2からステップS16の処理により、アクリル樹脂基板に対して、従来のエアロゾルデポジション法に従って得られるCu膜の膜厚1μmより格段に厚い2μmのCu膜を成膜することができる。そして、粉体歩留まりは、従来法の1%から8%に向上する。また、堆積膜の基板間密着強度は、2kg/mm2と強固である。これらの結果は、比較例3で示す表3に纏められている。
【0094】
(比較例3)
本比較例は、実施例4に関する比較例である。
【0095】
本比較例では、実施例1を援用して実施例4で説明した図10のステップS2からステップS12の処理を実施する。
【0096】
但し、基板は、実施例4と同様、最大表面粗さRmaxが0.1μmのアクリル樹脂である。また、原料粉末は、平均粒径3μm±1μmのCu微粒子群からなる粉末である。また、エアロゾルの基板への噴射時間も、20分と実施例4のトータル噴出時間17分より長い。
【0097】
更に、実施例4とは異なり、2回目のエアロゾルの噴射(図10のステップS14からステップS16)は実施しない。
【0098】
上記ステップS2からステップS12の処理により、アクリル樹脂基板上に、厚さ1μmのCu膜が形成される。この時の粉体歩留まりは1%である。また、堆積膜の基板間密着強度は、2kg/mm2と強固である。
【0099】
本比較例及び上記実施例4の結果を纏めると、表3のようになる。
【0100】
【表3】
【実施例5】
【0101】
本実施例は、アクリル樹脂からなる基板に対して、実施例3と同様にBaTiO3膜を形成する成膜方法に係るものである。
【0102】
本実施例では、図11に従って実施例3で説明したステップS2からステップ16の処理を、実施する。
【0103】
但し、基板表面の凹凸化処理(ステップS3)は実施しない。また、基板16は、ガラス製ではなくアクリル樹脂製である。尚、基板16の最大表面粗さRmaxは、0.1μmである。
【0104】
上記ステップS2からステップS16の処理により、アクリル樹脂基板に対して、従来のエアロゾルデポジション法に従って得られるBaTiO3膜の膜厚1μmより格段に厚い3μmのBaTiO3膜を成膜することができる。そして、粉体歩留まりは、従来法の1%から8%に向上する。また、堆積膜の基板間密着強度は、2kg/mm2と強固である。
【0105】
これらの結果は、比較例4で示す表4に纏められている。
【0106】
(比較例4)
本比較例は、実施例5に関する比較例である。
【0107】
本比較例では、実施例3を援用して実施例5で説明した図11のステップS2からステップS12までの処理(ステップS3を除く)を実施する。
【0108】
但し、原料粉末は、平均粒径0.5μm±0.4μmのBaTiO3微粒子群からなる粉末である。また、エアロゾルの基板への噴射時間は、20分と実施例5に於けるトータル噴射時間11分より長い。
【0109】
更に、実施例5とは異なり、2回目のエアロゾルの噴射(図11のステップS14からステップS16)は実施しない。
【0110】
上記ステップS2からステップS12の処理により、アクリル基板上に、厚さ1μmのBaTiO3膜が形成される。この時の粉体歩留まりは、1%である。また、堆積膜の基板間密着強度は、2kg/mm2と強固である。
【0111】
本比較例及び上記実施例5の結果を纏めると、表4のようになる。
【0112】
【表4】
【0113】
以上の実施の形態をまとめると、次の付記のとおりである。
【0114】
(付記1)
基板への固着が可能な粒径を第1の平均粒径とする微粒子群からなら第1の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記粉末を真空中で前記基板に向けて噴射する第1の工程と、
前記第1の平均粒径より小さな第2の平均粒径を有する第2の微粒子群からなり前記第1の粉末と同一組成の第2の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第2の粉末を真空中で、前記第1の粉末が固着した前記基板に向けて噴射する第2の工程を、
具備することを特徴とする成膜方法。
【0115】
(付記2)
付記1に記載の成膜方法において、
前記第1の粒径の標準偏差が、前記第1の平均粒径の2割以内であることを、
特徴とする成膜方法。
【0116】
(付記3)
付記2に記載の成膜方法において、
前記第2の粒径の標準偏差が、前記第1の平均粒径の7割以内であることを、
特徴とする成膜方法。
【0117】
(付記4)
付記1乃至3の何れかに記載の成膜方法において、
前記第1の工程の前に、
前記基板の表面に凹凸を設けて、前記第1の粉末が前記基板に固着しやすくすることを特徴とする成膜方法。
【0118】
(付記5)
付記1乃至4の何れか記載の成膜方法において、
前記基板が樹脂からなり、
且つ、成膜する膜がセラミックからなることを、
特徴とする成膜方法。
【0119】
(付記6)
付記1乃至5の何れかに記載の成膜方法において、
前記基板が樹脂からなり、
且つ、成膜する膜が金属からなることを、
特徴とする成膜方法。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】実施の形態1に従う成膜方法の手順を説明するフロー図である。
【図2】実施の形態1における処理ステップを説明する状態図(その1)である。
【図3】実施の形態1における処理ステップを説明する状態図(その2)である。
【図4】エアロゾルデポジシュンに於ける成膜過程を説明する状態図(その1)である。
【図5】エアロゾルデポジシュンに於ける成膜過程を説明する状態図(その2)である。
【図6】実施の形態2に従う成膜方法の手順を説明するフロー図である。
【図7】実施の形態2における処理ステップを説明する状態図(その1)である。
【図8】実施の形態2における処理ステップを説明する状態図(その2)である。
【図9】硬質基板に向けてエアロゾロを噴射した状態を説明する図である。
【図10】実施例1に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【図11】実施例2に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【図12】比較例1に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【図13】エアロゾルデポジション装置の構成図である。
【符号の説明】
【0121】
2・・・ASD装置 4・・・原料粉末
6・・・圧縮ガス 8・・・メカニカルブースターポンプ
10・・・真空ポンプ 12・・・成膜室
14・・・ノズル 16・・・基板
18・・・第1の微粒子 20,24,30・・エアロゾル
21,25・・・エアロゾル化した粉末
22・・・第2の微粒子 28・・・アンカー
32・・・堆積膜 34・・・凹凸
36・・・ステージ 38・・・エアロゾル発生容器
40・・・振動機
41・・・アンカー層 42・・・堆積膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾルデポジッション法による成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末等の電子機器対する小型化・高機能化・多機能化の要求は、近年益々増大している。これらの要求を満たすため、電子機器を構成する種々の材料、すなわち、金属、セラミックス、樹脂等を一体化して狭い空間に集積化する複合化技術が活発に研究・開発されている。
【0003】
このような技術の一つとして、樹脂ビルドアップ型実装基板がある。この技術は、樹脂層上への銅配線や内蔵キャパシタの形成、樹脂層の貼り合わせ(ラミネート)、及び樹脂層を貫通する配線の形成を順次繰返して実装基板を形成する技術である。
【0004】
樹脂ビルドアップ型実装基板に於ける銅配線は、下地層形成のための無電解鍍金とその後の鍍金・パターニングによって形成される。また、内蔵キャパシタは、上下の金属層からなる電極の間に、高誘電率セラミック粉末を分散させた樹脂層(ポリマーコンポジット)形成して誘電体層とする。
【0005】
この樹脂ビルドアップ型実装基板は、コスト面では優れているが、高周波特性に優れたセラミック材料の導入が困難であるという問題を抱えている。樹脂ビルドアップ型実装基板では、上述したように、高誘電率セラミックからなる粉末を分散させた樹脂層(ポリマーコンポジット)を誘電体層として、内蔵キャパシタを形成する。しかし、セラミックの充填率に限界があるため、十分な高周波特性を得ることができない。また、樹脂ビルドアップ型実装基板には、銅配線の形成に長時間を要し、しかも鍍金廃液の処理に多大な環境負荷が強いられるという問題もある。
【0006】
樹脂ビルドアップ型実装基板以外にも、金属、セラミックス、樹脂等を一体化して狭い空間に集積化する技術には、LTCC(Low Temperature Cofired Ceramics)がある。この技術では、セラミックグリーンシート上に低抵抗導体配線や内蔵キャパシタを印刷法で形成し、このグリーンシートを多数積層した後、1000℃前後の高温で同時焼結する。LTCCでは、内蔵キャパシタの誘電体層には、高誘電率セラミックスとガラスとの複合体が用いられる。
【0007】
LCCは、セラミック材料の導入が容易なので高周波特性に優れているが、ベース基板としてコストの低い樹脂基板を使用することができない等、コスト面に課題がある。これは、同時焼成に必要な1000℃前後の高温熱処理に、樹脂基板が耐えられないためである。
【0008】
これらの技術に対して、最近、衝突固化現象を利用したエアロゾルデポジション(ASD)技術が注目されている(非特許文献1,2)。エアロゾルデポジション技術は、室温に於いて、セラミックス、金属、及び樹脂の成膜を可能とするユニークな技術であり、しかも環境負荷も小さい。従って、エアロゾルデポジションを用いれば、セラミックス、金属、及び樹脂の複合化を、低コストで実現することが可能になる。
【非特許文献1】「微粒子, 超微粒子の衝撃固化現象を用いたセラミクス薄膜形成技術 ―エアロゾルデポジション法による低温・高速コーティング―」, まてりあ, 明渡 純, M. Lebedev, Vol.41, No.7, 459-466(2002).
【非特許文献2】「エアロゾルデポジションによる高周波受動素子集積化技術」, 今中 佳彦, 明渡 純, セラミックス, Vol.39, No8,584-589(2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図13は、ASD装置2の構成図である。振動攪拌を施した原料粉末4の中に圧縮ガス6を供給することで形成したエアロゾル流(原料微粒子と気体との混合体)をメカニカルブースターポンプ8と真空ポンプ10によって成膜室12に形成した減圧雰囲気(50〜1kPa)で更に流れを加速し、スリット状のノズル14を通して、音速以上の高速で基板16に向かって噴射する。噴射された原料粉末は基板に衝突し、基板表面に固着して厚膜が形成される。
【0010】
原料としては、セラミックや金属の微粒子が用いられ、その粒径は0.05〜2μm程度である。
【0011】
しかし、その成膜メカニズムは十分には解明されておらず、例えば、粉体歩留まり(粒子の定着率)が高々数%程度である等、未解決の問題も多い。
【0012】
このような粉体歩留まりの悪さには、2つの態様がある。
【0013】
第1の態様は、成膜過程の初期は膜形成が順調に行われるが、途中から膜厚の増加が止まったり、或いは、反って膜厚が減少してしまうという粉体歩留まりの悪さである。すなわち、第1の態様は、ある膜厚以上で堆積膜の膜厚増加が困難になる態様である。
【0014】
第2の態様は、例えば、ガラスやエポキシ樹脂のような硬質基板では、膜形成自体が殆ど行われず、粉体歩留まりが略0%になる粉体歩留まりの悪さである。
【0015】
以上のような現象が起きると、粉体の利用効率が悪いということに止まらず、堆積膜の膜厚が薄くなってしまう。その結果、種々の不都合が生じる。例えば、内蔵キャパシタ形成のためにセラミック膜を成膜した場合には、十分な絶縁性が保てないと問題が起きる。これは、堆積膜が薄いと、衝突固化した微粒子間に残存する空隙が繋がって膜上面から下面に至るパスが形成され、そこに膜上面に形成した金属が侵入して電流漏れの原因となるためである。
【0016】
一方、配線用の金属層を成膜した場合には、膜厚が薄いと配線抵抗が高くなる。
【0017】
そこで、本発明の目的は、エアロゾルデポジションを用いた成膜方法において、堆積膜の膜厚増加を容易にし、或いは、硬質基板への堆積を容易にして、その粉体歩留まりを高くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(第1の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、基板への固着が可能な粒径を第1の平均粒径とする微粒子群からなら第1の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第1の粉末を真空中で前記基板に向けて噴射する第1の工程と、前記第1の平均粒径より小さな第2の平均粒径を有する第2の微粒子群からなり前記第1の粉末と同一組成の第2の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第2の粉末を真空中で前記第1の粉末が固着した前記基板に向けて噴射する第2の工程を具備することを特徴とする。
【0019】
第1の側面によれば、膜堆積の初期過程と成長過程で夫々に適した粒径の粉体を用いるので、従来のエアロゾルデポジッション法に比べ、より厚い膜の成長が可能になり、粉体歩留まりが向上する。更に、第1の側面によれば、従来は困難であった硬質基板に対しても、成膜が可能になる。
【0020】
(第2の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第2の側面によれば、第1の側面において、前記第1の粒径の標準偏差が、前記第1の平均粒径の2割以内であることを特徴とする。
【0021】
(第3の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第3の側面によれば、第1又は2の側面において、 前記第1の工程の前に、前記基板の表面に凹凸を設けて、前記第1の粉末が前記基板に固着しやすくすることを特徴とする。
【0022】
第3の側面によれば、基板表面に設けた凹凸部にアンカーが形成されやすくなるので、硬質基板等、従来は成膜が困難であった基板に対しても、更に粉体歩留まりが向上する。
【0023】
(第4の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第4の側面によれば、第1乃至3の何れかの側面において、前記基板が樹脂からなり、且つ、成膜する膜がセラミックからなることを特徴とする。
【0024】
(第5の発明)
上記の目的を達成するために、本発明の第5の側面によれば、第1乃至4の何れかの側面において、前記基板が樹脂からなり、且つ、成膜する膜が金属からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、膜堆積の初期過程では大型の微粒子群からなる粉体を用いてアンカーを形成し、膜の成長過程では小型の微粒子群を用いて堆積膜の破壊を回避するので、従来のエアロゾルデポジッション法に比べ、より厚い膜の成長が可能になり、粉体歩留まりが向上する。
【0026】
また、本発明によれば、基板表面に設けた凹凸部によってアンカーが形成されやすくなるので、硬質基板等、従来は成膜が困難であった基板に対しても、粉体歩留まりが向上する。
【0027】
すなわち、本発明によれば、エアロゾルデポジッション法において、堆積膜の膜厚増加が容易になり、或いは、硬質基板への堆積が容易になるので、その粉体歩留まりが高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態に従う成膜方法の手順を説明するフロー図である。また、図2及び3は、本実施の形態における処理ステップを説明する状態図である。
【0030】
本実施の形態は、図2に示すように、基板16への固着が可能な粒径を第1の平均粒径とする微粒子群からなら第1の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した上記第1の粉末21を真空中で上記基板16に向けて噴射する第1の工程(ステップS1)と、図3のように、上記第1の平均粒径より小さな第2の平均粒径を有する第2の微粒子群からなり上記第1の粉末と同一組成の第2の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した上記第2の粉末25を真空中で、上記第1の粉末が固着した上記基板16に向けて噴射する第2の工程(ステップS2)を具備する。
【0031】
上記処理ステップでは、第1及び第2の微粒子群の粒径は、平均粒径によって規定されている。これは、粉体を構成する微粒子の粒径は、一定の範囲に分布するためである。そして、平均粒径だけでなく、粒径分布の度合も規定しようとすると、粒径の標準偏差にも言及する必要がある。
【0032】
本実施の形態では、下記実施例で例示するように、第1の粒子群の粒径の標準偏差は、第1の平均粒径の2割以内であることが好ましく、更には、1割以内であることが好ましい。また、第2の粒子群の粒径の標準偏差は、同じく下記実施例で例示するように、第2の平均粒径の2/3以内であることが好ましく、更には、5割以内であることが好ましい。
【0033】
ところで、基板に向けてエアロゾルを噴射した場合に起こる現象は、エアロゾルを構成する微粒子の大きさによって3つの領域に分類される。尚、以下の説明は、エアロゾル中の微粒子の粒径が全て同一であると仮定した場合の説明である。
【0034】
第1の領域は、粒径が大きい領域である。この領域では、微粒子の質量も大きくその運動エネルギーが大きいため、基板は、微粒子の衝突によって大きな衝撃を受け、破壊され削られて行く。すなわち、基板がエッチングされる。
【0035】
第2の領域は、粒径が中程度の領域である。この領域では、基板に衝突した微粒子は、基板に減り込み変形する(図4参照)。その後に続く微粒子26は、この減り込んだ微粒子(以後、アンカー28と呼ぶ)の上に堆積して行き、堆積膜32が成長して行く(図5参照)。尚、図4及び図5は、第2の領域に於ける成膜過程を説明する状態図である。
【0036】
第3の領域は、微粒子が小さい領域である。この領域では、基板に向かって噴射された微粒子は、衝突時に基板によって跳ね返され、膜は形成されない。
【0037】
エアロゾルデポジションは、第2の領域を利用して、基板上に堆積膜を形成する技術である。
【0038】
このエアロゾルデポジションは、衝突固化現象を利用するため、堆積膜には、その成長に従って圧縮応力が蓄積されて行く。膜厚が厚くなり圧縮エネルギーが増大して来ると、後続する微粒子の衝突によって、堆積膜が、破壊されやすくなる。このため、堆積膜の厚さが一定値以上になると、その成長が阻害され、場合によっては膜厚が減少してしまう。従って、堆積膜の形成が可能な第2の領域でも、粉体歩留まりは悪い。
【0039】
実際のエアロゾルデポジションでは、基板に向かって噴射するエアロゾルは種々の粒径の微粒子の集合体であり、粒径は広範囲に分布している。例えば、その標準偏差は、平均粒径の5割以上に及ぶ。このため、従来のエアロゾルデポジションでは、上記第1乃至第3の領域が競合して起き、結果として、粉体歩留まりは、上記第2の領域よりも悪くなる。
【0040】
そこで、本実施の形態では、まず、最初に基板に固着が可能な大型の微粒子を主成分とするエアロゾルを基板に向かって噴射して、アンカー28を形成する(図2参照)。次に、基板16に向かって噴射する微粒子群の平均粒径を小さくして、その運動エネルギーを小さくし、衝突時の衝撃を緩和する(図3参照)。このようにすると、既に成長した堆積膜42の破壊が防止される一方、粒径の小さい微粒子22はその表面エネルギーを小さくしようとして堆積膜表面上で凝集して堆積膜42を成長させる。
【0041】
このように、本実施の形態では、膜堆積の初期過程では大型の微粒子群からなる粉体を用いてアンカーを形成し、膜の成長過程では小型の微粒子群を用いて堆積膜の破壊を回避するので、従来のエアロゾルデポジッション法に比べ、より厚い膜の成長が可能になり、粉体歩留まりが向上する。
【0042】
ところで、基板がガラスやエポキシ樹脂のように硬い場合には、従来のエアロゾルデポジッションでは、堆積膜の形成が困難であった。これは、従来使用していた粉体は、その平均粒径が小さいため(0.05〜2μm)、十分なアンカーが形成されなかったためである。
【0043】
しかし、本実施の形態によれば、大型の微粒子群を用いてアンカーを形成するので、硬質の基板に対しても成膜が容易になる。
(実施の形態2)
図6は、本実施の形態に従う成膜方法の手順を説明するフロー図である。また、図7及び8は、本実施の形態における処理ステップを説明する状態図である。
【0044】
本実施の形態では、まず、図7のように、基板16の表面に凹凸34を設け、エアロゾル化された粉末が基板に固着しやすくする(ステップS0)。その後は、図1を参照して、実施の形態1で説明したステップS1及びS2を実施する。
【0045】
本実施の形態によれば、基板16に凹凸34が設けられるので(図7参照)、たとえ硬質基板を用いても、基板16に衝突した微粒子が凹部に嵌り込みアンカー28が容易に形成される(図8参照)。このため、粉体歩留まりが向上する。
【0046】
一方、基板の硬度が強度の場合には、基板に凹凸を形成しないと、微粒子18は、基板に衝突しても変形するだけで基板に減り込まず、アンカーが形成されない(図9参照)。このため、エアロゾル化した粉体をいくら基板16に向けて噴射しても、膜は形成されない。
【0047】
このように、本実施の形態によれば、硬質基板等、従来は成膜が困難であった基板に対しても成膜が容易になり、粉体歩留まりが一層向上する。
【実施例1】
【0048】
本実施例は、ガラス基板に向かって、まず、平均粒径の大きな金属微粒子群からなるエアロゾルを噴射し、次に、平均粒径の小さな金属微粒子群からなるエアロゾルを噴射して金属膜(Cu膜)を形成する成膜方法に係るものである。
【0049】
図10は、本実施例に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【0050】
まず、ガラス基板16を用意する(ステップS2)。
【0051】
次に、ガラス基板16を、図13に示すエアロゾルデポジション装置に装着する。但し、本実施例で使用するエアロゾルデポジション装置は、図示したエアロゾル発生容器38の他に、追加のエアロゾル発生器(図示せず)を有している。追加のエアロゾル発生器には、エアロゾル発生器38と同様に、圧縮ガス、ノズル、及び振動機が接続されている。成膜室12はX、Y方向に移動可能のステージ36を有し、これにステップS2で用意した基板16を貼り付け設置する(ステップS4)。
【0052】
次に、成膜室12内をメカニカルブースターポンプ8と真空ポンプ10で真空に排気し、予め10Pa以下に減圧する(ステップS6)。
【0053】
一方、平均粒径10μm±1μmのCu微粒子群からなる粉末(日本アトマイズ加工製HXR−Cu10)を第1の原料粉末4として、エアロゾル発生容器38に入れ、振動器40によりエアロゾル発生容器38全体に超音波を加え、約80度で加熱しながら、30分間真空脱気して、粉末表面に吸着した水分を除去する前処理を施す。同様に、平均粒径1μm±0.5μmのCu微粒子群からなる粉末(三井金属製、1050Y)を第2の原料粉末として、図示しない追加のエアロゾル発生容器に入れ、振動器によりエアロゾル発生容器全体に超音波を加え、約80度で加熱しながら、30分間真空脱気して、粉末表面に吸着した水分を除去する前処理を施す(ステップS8)。
【0054】
尚、上記「平均粒径10μm±1μm」との記載は、平均粒径が10μmであり、粒径の標準偏差が1μmであることを表す。以後の説明に於いても、同様である。これらの値は、遠心分離沈降法によって測定されるものであり、具体的にはシマズ(Shimazu)社製の遠心粒径測定装置SA-CP3(centrifugal particle size analyzer;SA-CP3)によって測定される。
【0055】
次に、圧縮ガス6とエアロゾル発生容器38の間の配管に設けられた第1のバルブ(図示せず)を開けて、エアロゾル発生器38に高純度ヘリウムガス(ガス圧: 2kg/cm2、ガス流量:8l/min.)からなる圧縮ガス6を導入し、前処理を施した第1の原料粉末4をエアロゾル化(浮遊粉塵化)する(ステップS10)。
【0056】
次に、エアロゾル発生器38とノズル14の間の配管に設けられた第2のバルブ(図示せず)を開けて、このエアロゾルを、ノズル14により成膜室12に送り込む。ノズル14は、内側にらせん状の溝を形成したものを使用する。内側にらせん状の溝を有したノズル14からガラス基板16に向けて、2分間、エアロゾル化した第1の原料粉末4を噴射する(ステップS12)。エアロゾルの噴射中、チャンバー中の圧力は一定値200Paに保たれる。
【0057】
この時、図2のように、エアロゾル20中のCuからなる微粒子18は、音速以上の高速でガラス基板16に突進し衝突する。この衝突時の衝撃によって、Cuからなる微粒子18は、変形しガラス基板16に固着して、アンカー28を形成する。
【0058】
次に、上記第1及び第2のバルブ(図示せず)を閉めて、第1の原料粉末4の噴射を停止する。
【0059】
次に、ステップS10と同様の手順によって、追加のエアロゾル発生器(図示せず)に高純度ヘリウムガスからなる圧縮ガス6(ガス圧: 2kg/cm2、ガス流量:8l/min.) を導入し、前処理を施した第2の原料粉末をエアロゾル化(浮遊粉塵化)する(ステップS14)。
【0060】
次に、ステップS12と同様の手順によって、このエアロゾルを、配管を通してノズル(図示せず)により成膜室12に送り込む。ノズルの内側には、らせん状の溝が形成されている。このノズルからガラス基板16に向けて、15分間、エアロゾル化した第2の原料粉末を噴射する(ステップS16)。エアロゾルの噴射中、チャンバー中の圧力は一定値200Paに保たれる。
【0061】
この時、図3のように、エアロゾル24中のCuからなる小型の微粒子22は、音速以上の高速でガラス基板上に形成されたアンカー層41に突進し衝突する。Cuからなる小型の微粒子22は、この衝突時の衝撃によってアンカー層41に固着し、或いは、その表面エネルギーを小さくしようと互いに凝集し、堆積膜42を成長させる。一方、小型の微粒子22は質量が小さいので、既に堆積した膜42を破壊することはない。
【0062】
従って、本実施例によれば、硬質でエアロゾルデポジッションに適さないガラス基板に対して、従来のエアロゾルデポジション法に従って得られるCu膜の膜厚1μmより格段に厚い5μmのCu膜を成膜することができる。そして、粉体歩留まりは、従来の3%から10%に向上する。また、堆積膜42の基板間密着強度は、3kg/mm2と強固である。尚、上記結果は、比較例1で示す表1に纏められている。
【実施例2】
【0063】
本実施例は、硬質でエアロゾルデポジションに適さないガラス基板に対して、表面に凹凸を設けてエアロゾルデポジションが起きやすくしてから、実施例1と同様の手順によってCu膜を形成する成膜方法に係るものである。
【0064】
図11は、本実施例に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【0065】
まず、図10を参照して実施例1で説明したステップS2と同様に、ガラス基板を用意する。
【0066】
次に、このガラス基板の表面をエメリー研磨紙によって荒らし、最大表面粗さRmaxが1μmとなるように凹凸を設ける(ステップS3)。
【0067】
その後、実施例1と同様に、ステップS4からステップS16の処理を行う。但し、ステップS12に於ける最初のエアロゾルの噴射時間は1分間であり、ステップS16に於ける2回目のエアロゾルの噴射時間は10分間であり、夫々実施例1の対応する噴射時間より短い。
【0068】
以上の処理により、本実施例では、粉体歩留まりは、実施例1の10%より高い20%に向上する。また、形成されるCu膜の膜厚は5μm、その基板間密着強度は3kg/mm2である。これらの結果は、比較例1で示す表1に纏められている。
【0069】
(比較例1)
本比較例は、実施例1及び2に関する比較例である。
【0070】
図12は、本比較例に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【0071】
本比較例では、実施例1と同様に、図12に示すステップS2からステップS12の処理を実施する。
【0072】
但し、原料粉末は、平均粒径10μm±5μmのCu微粒子群からなる粉末である。また、実施例1とは異なり、2回目のエアロゾルの噴射(図10及び11のステップS14からステップS16)は実施しない。更に、エアロゾルの基板への噴射時間も、20分と実施例1のトータル時間17分よりも長い。
【0073】
以上の処理により、ガラス基板上に、厚さ1μmのCu膜が形成される。この時の粉体歩留まりは、3%である。また、堆積膜の基板間密着強度は、3kg/mm2と強固である。
【0074】
本比較例及び上記実施例1,2の結果を纏めると、表1のようになる。
【0075】
【表1】
【実施例3】
【0076】
本実施例は、セラミック(BaTiO3)からなる原料粉末を用いて、実施例2と同様の処理手順でセラミック膜を形成する成膜方法に係るものである。
【0077】
本実施例では、図11に従って処理手順を説明した実施例2と同様に、ステップS2からステップ16の処理を実施する。
【0078】
但し、ステップS10からステップS12で用いる第1の原料粉末は、平均粒径1μm±0.2μmのBaTiO3微粒子群からなる粉末である。また、ステップS14からステップS16で用いる第2の原料粉末は、平均粒径0.3μm±0.2μmのBaTiO3微粒子群からなる粉末である。
【0079】
これら第1及び第2の原料粉末は、実施例2と同様に、ステップ8において前処理が施される。また、ステップS8に於ける加熱温度は、150℃である。
【0080】
更に、ステップS10及びステップS14で、使用する圧縮ガスは、高純度酸素ガス(ガス圧: 2kg/cm2、ガス流量:4l/min.)である。
【0081】
以上の処理手順によれば、硬質でエアロゾルデポジッションに適さないガラス基板に対して、従来のエアロゾルデポジション法に従って得られるBaTiO3膜の膜厚2μmより格段に厚い5μmのBaTiO3膜を成膜することができる。そして、粉体歩留まりは、従来法の1%から10%に向上する。また、堆積膜の基板間密着強度は、3kg/mm2と強固である。
【0082】
尚、これらの結果は、比較例2で示す表2に纏められている。
【0083】
(比較例2)
本比較例は、実施例3に関する比較例である。
【0084】
本比較例では、図11に従って実施例3で説明したステップS2からステップS12を実施する。
【0085】
但し、ガラス基板(最大表面粗さRmaxは0.02μm)の表面を凹凸化するステップS3は実施しない。また、原料粉末には、平均粒径0.5μm±0.4μmのBaTiO3微粒子群からなる粉末を用いる。
【0086】
また、エアロゾルの基板への噴射時間は20分であり、実施例3のトータル噴射時間11分より長い。更に、本比較例では、実施例3と異なり、2回目のエアロゾルの噴射(ステップS14からステップS16)は実施しない。
【0087】
以上の処理手順によれば、ガラス基板上に、厚さ2μmのBaTiO3膜が形成される。この時の粉体歩留まりは、1%である。また、堆積膜の基板間密着強度は、3kg/mm2と強固である。
【0088】
本比較例及び上記実施例3の結果を纏めると、表2のようになる。
【0089】
【表2】
【実施例4】
【0090】
本実施例は、アクリル樹脂からなる基板に対して、実施例1と同様の手順でCu膜を形成する成膜方法に係るものである。
【0091】
本実施例では、実施例1と同様に図10のステップS2からステップ16の処理を実施する。
【0092】
但し、基板16は、ガラス製ではなくアクリル樹脂製である。尚、基板16の最大表面粗さRmaxは、0.1μmである。
【0093】
上記ステップS2からステップS16の処理により、アクリル樹脂基板に対して、従来のエアロゾルデポジション法に従って得られるCu膜の膜厚1μmより格段に厚い2μmのCu膜を成膜することができる。そして、粉体歩留まりは、従来法の1%から8%に向上する。また、堆積膜の基板間密着強度は、2kg/mm2と強固である。これらの結果は、比較例3で示す表3に纏められている。
【0094】
(比較例3)
本比較例は、実施例4に関する比較例である。
【0095】
本比較例では、実施例1を援用して実施例4で説明した図10のステップS2からステップS12の処理を実施する。
【0096】
但し、基板は、実施例4と同様、最大表面粗さRmaxが0.1μmのアクリル樹脂である。また、原料粉末は、平均粒径3μm±1μmのCu微粒子群からなる粉末である。また、エアロゾルの基板への噴射時間も、20分と実施例4のトータル噴出時間17分より長い。
【0097】
更に、実施例4とは異なり、2回目のエアロゾルの噴射(図10のステップS14からステップS16)は実施しない。
【0098】
上記ステップS2からステップS12の処理により、アクリル樹脂基板上に、厚さ1μmのCu膜が形成される。この時の粉体歩留まりは1%である。また、堆積膜の基板間密着強度は、2kg/mm2と強固である。
【0099】
本比較例及び上記実施例4の結果を纏めると、表3のようになる。
【0100】
【表3】
【実施例5】
【0101】
本実施例は、アクリル樹脂からなる基板に対して、実施例3と同様にBaTiO3膜を形成する成膜方法に係るものである。
【0102】
本実施例では、図11に従って実施例3で説明したステップS2からステップ16の処理を、実施する。
【0103】
但し、基板表面の凹凸化処理(ステップS3)は実施しない。また、基板16は、ガラス製ではなくアクリル樹脂製である。尚、基板16の最大表面粗さRmaxは、0.1μmである。
【0104】
上記ステップS2からステップS16の処理により、アクリル樹脂基板に対して、従来のエアロゾルデポジション法に従って得られるBaTiO3膜の膜厚1μmより格段に厚い3μmのBaTiO3膜を成膜することができる。そして、粉体歩留まりは、従来法の1%から8%に向上する。また、堆積膜の基板間密着強度は、2kg/mm2と強固である。
【0105】
これらの結果は、比較例4で示す表4に纏められている。
【0106】
(比較例4)
本比較例は、実施例5に関する比較例である。
【0107】
本比較例では、実施例3を援用して実施例5で説明した図11のステップS2からステップS12までの処理(ステップS3を除く)を実施する。
【0108】
但し、原料粉末は、平均粒径0.5μm±0.4μmのBaTiO3微粒子群からなる粉末である。また、エアロゾルの基板への噴射時間は、20分と実施例5に於けるトータル噴射時間11分より長い。
【0109】
更に、実施例5とは異なり、2回目のエアロゾルの噴射(図11のステップS14からステップS16)は実施しない。
【0110】
上記ステップS2からステップS12の処理により、アクリル基板上に、厚さ1μmのBaTiO3膜が形成される。この時の粉体歩留まりは、1%である。また、堆積膜の基板間密着強度は、2kg/mm2と強固である。
【0111】
本比較例及び上記実施例5の結果を纏めると、表4のようになる。
【0112】
【表4】
【0113】
以上の実施の形態をまとめると、次の付記のとおりである。
【0114】
(付記1)
基板への固着が可能な粒径を第1の平均粒径とする微粒子群からなら第1の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記粉末を真空中で前記基板に向けて噴射する第1の工程と、
前記第1の平均粒径より小さな第2の平均粒径を有する第2の微粒子群からなり前記第1の粉末と同一組成の第2の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第2の粉末を真空中で、前記第1の粉末が固着した前記基板に向けて噴射する第2の工程を、
具備することを特徴とする成膜方法。
【0115】
(付記2)
付記1に記載の成膜方法において、
前記第1の粒径の標準偏差が、前記第1の平均粒径の2割以内であることを、
特徴とする成膜方法。
【0116】
(付記3)
付記2に記載の成膜方法において、
前記第2の粒径の標準偏差が、前記第1の平均粒径の7割以内であることを、
特徴とする成膜方法。
【0117】
(付記4)
付記1乃至3の何れかに記載の成膜方法において、
前記第1の工程の前に、
前記基板の表面に凹凸を設けて、前記第1の粉末が前記基板に固着しやすくすることを特徴とする成膜方法。
【0118】
(付記5)
付記1乃至4の何れか記載の成膜方法において、
前記基板が樹脂からなり、
且つ、成膜する膜がセラミックからなることを、
特徴とする成膜方法。
【0119】
(付記6)
付記1乃至5の何れかに記載の成膜方法において、
前記基板が樹脂からなり、
且つ、成膜する膜が金属からなることを、
特徴とする成膜方法。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】実施の形態1に従う成膜方法の手順を説明するフロー図である。
【図2】実施の形態1における処理ステップを説明する状態図(その1)である。
【図3】実施の形態1における処理ステップを説明する状態図(その2)である。
【図4】エアロゾルデポジシュンに於ける成膜過程を説明する状態図(その1)である。
【図5】エアロゾルデポジシュンに於ける成膜過程を説明する状態図(その2)である。
【図6】実施の形態2に従う成膜方法の手順を説明するフロー図である。
【図7】実施の形態2における処理ステップを説明する状態図(その1)である。
【図8】実施の形態2における処理ステップを説明する状態図(その2)である。
【図9】硬質基板に向けてエアロゾロを噴射した状態を説明する図である。
【図10】実施例1に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【図11】実施例2に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【図12】比較例1に従う成膜方法の手順を示すフロー図である。
【図13】エアロゾルデポジション装置の構成図である。
【符号の説明】
【0121】
2・・・ASD装置 4・・・原料粉末
6・・・圧縮ガス 8・・・メカニカルブースターポンプ
10・・・真空ポンプ 12・・・成膜室
14・・・ノズル 16・・・基板
18・・・第1の微粒子 20,24,30・・エアロゾル
21,25・・・エアロゾル化した粉末
22・・・第2の微粒子 28・・・アンカー
32・・・堆積膜 34・・・凹凸
36・・・ステージ 38・・・エアロゾル発生容器
40・・・振動機
41・・・アンカー層 42・・・堆積膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板への固着が可能な粒径を第1の平均粒径とする微粒子群からなら第1の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第1の粉末を真空中で前記基板に向けて噴射する第1の工程と、
前記第1の平均粒径より小さな第2の平均粒径を有する第2の微粒子群からなり前記第1の粉末と同一組成の第2の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第2の粉末を真空中で前記第1の粉末が固着した前記基板に向けて噴射する第2の工程を、
具備することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜方法において、
前記第1の粒径の標準偏差が、前記第1の平均粒径の2割以内であることを、
特徴とする成膜方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の成膜方法において、
前記第1の工程の前に、
前記基板の表面に凹凸を設けて、前記第1の粉末が前記基板に固着しやすくすることを特徴とする成膜方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の成膜方法において、
前記基板が樹脂からなり、
且つ、成膜する膜がセラミックからなることを、
特徴とする成膜方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の成膜方法において、
前記基板が樹脂からなり、
且つ、成膜する膜が金属からなることを、
特徴とする成膜方法。
【請求項1】
基板への固着が可能な粒径を第1の平均粒径とする微粒子群からなら第1の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第1の粉末を真空中で前記基板に向けて噴射する第1の工程と、
前記第1の平均粒径より小さな第2の平均粒径を有する第2の微粒子群からなり前記第1の粉末と同一組成の第2の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した前記第2の粉末を真空中で前記第1の粉末が固着した前記基板に向けて噴射する第2の工程を、
具備することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜方法において、
前記第1の粒径の標準偏差が、前記第1の平均粒径の2割以内であることを、
特徴とする成膜方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の成膜方法において、
前記第1の工程の前に、
前記基板の表面に凹凸を設けて、前記第1の粉末が前記基板に固着しやすくすることを特徴とする成膜方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の成膜方法において、
前記基板が樹脂からなり、
且つ、成膜する膜がセラミックからなることを、
特徴とする成膜方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の成膜方法において、
前記基板が樹脂からなり、
且つ、成膜する膜が金属からなることを、
特徴とする成膜方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−202129(P2009−202129A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49073(P2008−49073)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ナノテク・先端部材実用化研究開発/ナノキャピラリー構造を有する高容量電解コンデンサの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ナノテク・先端部材実用化研究開発/ナノキャピラリー構造を有する高容量電解コンデンサの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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