説明

成膜用マスク及びその洗浄方法

【課題】マスク母材にダメージを与えることなくデポジション膜の洗浄除去が可能であり、洗浄作業性にも優れた成膜用マスクを提供する。
【解決手段】成膜用マスク11は、基板Wの成膜面に対向配置され成膜領域を制限する一つの開口部20が形成されたマスク本体2と、このマスク本体の表面の開口部の外側を被覆するカバー部材とを備え、このカバー部材3は、マスク本体に対して着脱自在に取り付けられた複数のカバー分割片3A、3B、3C、3Dの集合体で構成されている。マスク本体の表面の所定領域をカバー部材で被覆することにより、マスク本体へのデポジション膜の付着を抑え、マスク洗浄時におけるマスク母材のダメージを防ぐ。カバー部材に付着したデポジション膜の除去は、個々のカバー分割片に個片化した状態で行うことにより、洗浄作業が簡単になり、マスクの大型化にも容易に対応できるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ装置等の成膜装置に用いられ、基板の成膜面に対向配置されることにより成膜領域を制限する成膜用マスクに関し、更に詳しくは、品質及び耐久性に優れ、マスクの大型化にも対応できる成膜用マスク及びその洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体基板やガラス基板等の成膜工程においては、図9A,Bに示されるように、基板W上の成膜領域を制限する開口部Pが形成された成膜用マスクMが広く用いられている。この成膜用マスクMとしては、例えばアルミニウムやチタン、ステンレス等の金属製単層マスクが用いられている。
【0003】
この種のマスクは、基板表面の一部が成膜されないように基板成膜面に対向配置して使用されるので、成膜時、マスク表面に成膜材料が付着する。使用済のマスクは、従来、付着した成膜材料(デポジション膜)を化学エッチングにより洗浄除去した後、再使用していた。
【0004】
なお、下記特許文献1には、複数個のマスク素体を環状に配置することにより枠状のマスク体を形成するとともに、個々のマスク素体を基板に対して独立して位置変更可能とした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−60624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、従来では、成膜用マスクに付着したデポジション膜を化学エッチングによって除去していたので、マスク自体に対するダメージが大きく、マスク品質(精度)の劣化、あるいは耐久性の低下が問題となっていた。
【0007】
また、デポジション膜がアルミニウム合金の場合、例えばアルカリ系のエッチング液でマスクを洗浄するが、マスクがアルミニウム製だとマスク母材の損傷が避けられなくなるので、アルカリ液には不溶解の金属マスクを用意する必要があり、不経済であった。
【0008】
一方、例えばディスプレイ基板成膜用のマスクなど、マスクが大型化するに伴って洗浄作業が困難になるという問題もあった。特に、成膜材料との関係でアルミニウム製マスクが使用できない場合、チタンやステンレス等の他の金属マスクで大型マスクを構成することになるが、この場合、マスクの高重量化によりハンドリング性が悪化し、また高価になるという問題点もあった。
【0009】
なお、上記特許文献1の構成では、マスクが複数のマスク素体で分割構成されているので、一体構造のマスクに比べて洗浄作業性等に優れる。しかしながら、これら個片化されたマスク素体にも直にデポジション膜が付着することから、繰り返し洗浄によりマスクがダメージを受け、また、成膜材料との関係でマスク構成材料に制限があるという点では、上述と同様の問題を有している。
【0010】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、マスク母材にダメージを与えることなくデポジション膜の洗浄除去が可能であり、洗浄作業性にも優れた成膜用マスクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するに当たり、本発明の成膜用マスクは、基板の成膜面に対向配置され成膜領域を制限する一つの開口部が形成されたマスク本体と、このマスク本体の表面の開口部の外側を被覆するカバー部材とを備え、このカバー部材は、マスク本体に対して着脱自在に取り付けられた複数のカバー分割片の集合体で構成されている。
【0012】
マスク本体の表面の所定領域をカバー部材で被覆することにより、マスク本体へのデポジション膜の付着を抑える。これにより、マスク洗浄時におけるマスク母材のダメージを防ぎ、マスク精度の劣化及び耐久性の向上が図れるようになる。カバー部材を構成する個々のカバー分割片には、例えば打ち抜き材等が使用でき、低廉かつ簡素に製作できる。
【0013】
カバー部材に付着したデポジション膜の除去は、カバー部材を個々のカバー分割片に個片化した状態で行うことができるので、洗浄作業が簡単になり、マスクの大型化にも容易に対応できるようになる。
【0014】
マスク本体に対するカバー分割片の取付けは、例えばネジ、あるいはボルト及びナット等の部材を用いることができる。この場合、カバー分割片の表面側はデポジション膜が付着するので、カバー分割片の装着状態を保持する保持部材(例えばナット)をマスク本体の裏面側に配置することにより、離脱作業が容易となる。
【0015】
カバー部材は、成膜材料が比較的付着しやすい領域に取り付けられるようにし、具体的には、少なくともマスク本体の開口部周縁領域に取り付けられる。この場合、開口部の周縁領域に取り付けられているカバー分割片の各々を基板の成膜面に向かって傾斜して取り付けたり、開口部に臨む側の端部の厚さが漸次小さくなるように形成することによって、マスク精度の向上を図ることができる。
【0016】
また、マスク精度の観点から、開口部周縁領域におけるカバー分割片の取付精度、位置合わせ精度を高める必要があるが、これらカバー分割片の取付作業性と組付精度を確保するために、カバー分割片の各々を開口部の辺単位で一体化してもよい。
【0017】
以上の構成の成膜用マスクにおいて、マスク本体に対するカバー部材の取付けには、マスク本体が設置されるマスク設置部と、マスク本体の開口部を貫通するとともに、開口部の周縁領域に取り付けられるカバー分割片の端部と当接し、当該カバー分割片の開口部に対する位置決めをなす位置決め凸部とを備えたマスク取付治具を用いることができ、これにより容易かつ高精度にマスクを組み立てることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明の成膜用マスクによれば、マスク本体と、このマスク本体の表面所定領域を被覆する複数のカバー分割片の集合体でなるカバー部材とを備えた構成としているので、デポジション膜の洗浄除去は主としてカバー部材に対してのみ行えば足りるようになり、これによりマスク本体を保護でき、マスク精度の維持と耐久性の向上とを図ることができる。
【0019】
また、カバー部材を複数個のカバー分割片の集合体として構成したので、デポジション膜の洗浄除去はカバー分割片単位で行えるようになり、大型マスク用の洗浄設備を不要として洗浄工程の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態による成膜用マスクの構成を示す図であり、Aは平面図、BはAにおける[B]−[B]線方向断面図である。
【図2】マスク本体に対するカバー部材の取付形態を示す要部断面図であるとともに、開口部の周縁領域の各種構成例を示している。
【図3】本発明の第2の実施の形態による成膜用マスクの構成を示す図であり、Aは平面図、BはAにおける[B]−[B]線方向断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態による成膜用マスクの構成を示す図であり、Aは平面図、BはAにおける[B]−[B]線方向断面図である。
【図5】本発明の第5の実施の形態を示す要部断面図である。
【図6】図5の構成の変形例を示す要部断面図である。
【図7】マスク組立治具の概略構成を示す平面図である。
【図8】マスク組立治具を用いたマスク組立工程を説明する側断面図である。
【図9】従来の成膜用マスクの構成を示す図であり、Aは平面図、BはAにおける[B]−[B]線方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の各実施の形態について図面を参照して説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態による成膜用マスク11の概略構成図であり、Aは平面図、Bは断面図である。成膜用マスク11は、マスク本体2と、このマスク本体2の表面全域を被覆するカバー部材3の二層構造となっている。
【0023】
マスク本体2は、例えばアルミニウムやチタン、ステンレス等の金属材料で構成されており、その略中央部には長方形状の開口部20が形成されている。マスク本体2は基板Wの上面(成膜面)に対向配置され、開口部20は、基板Wの成膜領域を制限する。
【0024】
ここで、マスク本体2の開口部20の周縁部21は、テーパー面とされており、厚さ(高さ)が漸次小さくなるように形成されている。これにより、開口部20の周縁部の成膜に与える影響を小さくでき、高い成膜精度を確保できる。
なお、周縁部21の形状はテーパー状に限らず、後述する図5又は図6に示すように、階段状としてもよい。
【0025】
カバー部材3は、複数のカバー分割片3A・・・,3B・・・,3C・・・の集合体で構成されている。これらカバー分割片のうち、3Aはマスク本体2の開口部20の周縁部21に取り付けられる四角形状の分割片であり、3Bはマスク本体2の表面の平面部に取り付けられる四角形状の分割片である。そして、3Cはマスク本体2の開口部20の四隅位置に取り付けられ、一対の直角二等辺三角形状の分割片、あるいは四角形状の分割片を対角位置で所定角度折り曲げて形成されている。
なお、この開口部周縁部21に取り付けられているカバー分割片3Aは、図中、網掛けして示している。
【0026】
カバー分割片3Aの各々は、マスク本体2の開口部20のテーパー状の周縁部21に取り付けられることによって、基板Wの成膜面に向かって傾斜して取り付けられている。更に、これらカバー分割片3Aの開口部20に臨む側の端部31は、その厚さが漸次小さくなるように例えばテーパー状に形成されている。
【0027】
カバー部材3を構成する各カバー分割片3A,3B,3Cは、アルミニウム、チタン、ステンレス、ニッケル等の金属板のプレス加工品のほか、セラミック板やプラスチック板等が適用可能であり、成膜材料その他の成膜条件に応じて適宜選定される。
例えば、アルミニウム合金を成膜する場合には、アルミニウム製のカバー部材(カバー分割片)が用いられ、同様に、クロム成膜の場合にはチタン製のカバー部材、モリブデンやタングステンを成膜する場合にはニッケル合金製のカバー部材が適用できる。
なお、カバー部材3を構成する各カバー分割片は、同一材質のものが用いられる場合は勿論、異種材質のものが組み合わされていてもよい。
【0028】
ここで、カバー部材3の材質は、マスク本体2よりも、成膜材料と熱膨張係数が近い材料で形成することが好ましい。デポジション膜がカバー部材3から剥離し難くなり、成膜時のパーティクル発生を抑えると同時に、メンテナンスサイクルの長期化を図ることができるからである。
同様な理由で、カバー部材3は、マスク本体2よりも、成膜材料との密着性がよい材料で形成されるのが好ましい。密着性を高めるため、カバー部材3の表面を例えばブラスト処理して粗面化したり、後述する図5に示すように、隆起部34を設けた凹凸形状とするのも有効である。
【0029】
カバー分割片3A〜3Cの大きさは、カバー部材3の分割数によって異なるが、例えば一辺5cm〜50cmの大きさに分割されている。また、カバー分割片3A〜3Cの厚さも特に限定されず、例えば0.3mm程度とされている。
なお、これらカバー分割片3A〜3Cの形状、大きさ及び厚さは均一とする場合に限らず、形状や大きさの異なるカバー分割片の集合体としてカバー部材3を形成してもよい。
【0030】
カバー部材3は、マスク本体2に対して着脱自在に取り付けられている。図2Aは、マスク本体2とカバー部材3(カバー分割片3A〜3C)の取付形態を説明する要部断面図である。
【0031】
カバー分割片3A〜3C(図では3A,3Bのみ図示)は、取付具5で各々マスク本体2の表面に装着されており、これにより、マスク本体2の表面にカバー部材3が形成されている。
取付具5は、カバー分割片3A〜3C及びマスク本体2を貫通し軸部にネジ山が形成されたボルト状の軸部材6と、この軸部材6の軸部に螺合しマスク本体2に対するカバー分割片3A〜3Cの装着状態を保持するナット状の保持部材7とで構成されている。これら取付具5は、カバー分割片一枚当たり、1カ所〜4カ所、あるいはそれ以上取り付けられるが、カバー分割片の大きさによって取付具5の取付個数が決定される。
【0032】
なお、ワッシャ、スプリングワッシャ等のネジ弛み止め部品を適宜介装させるようにしてもよい。また、マスク本体2及びカバー分割片3A〜3Bの何れか一方について、軸部材6が貫通する孔を長孔状に形成することにより、カバー分割片の加工精度に起因する取付精度のバラツキを低減したり、マスク本体に対するカバー分割片の相対位置の変更が可能となる。
【0033】
ここで、取付具5の保持部材7は、マスク本体2の裏面側に適宜形成された凹所10内に配置されている。これにより、表面にデポジション膜が付着したカバー分割片3A〜3Cをマスク本体2から容易に取り外せるようになり、作業性を確保することができる。
【0034】
図2Aに示したように、マスク本体2の開口部周縁部21に取り付けられているカバー分割片3Aの端部31は、マスク本体2の開口部周縁部21の端部と整列配置されている。そして、当該カバー分割片3Aは、マスク本体2の開口部周縁部21を被覆すると同時に、端部31が基板Wの成膜面に接触あるいは近接して成膜領域と非成膜領域とを区画するマスク境界部20Pを形成する。カバー分割片3Aの端部31は、上述したように漸次厚さが小となるテーパー形状に形成されているので、マスク境界部20Pにおける高い成膜精度を維持できる。
【0035】
上述のように、マスク本体2の開口部周縁部21に取り付けられているカバー分割片3Aは、マスク境界部20Pを形成することから、マスク本体2の開口部周縁部21を図2B,Cのように構成することもできる。
図2Bの構成例は、カバー分割片3Aの開口部20側端部を、マスク本体2の開口部周縁部21よりも内方(開口部20)側に突出させた例を示している。
また、図2Cの構成例は、マスク本体2の開口部周縁部21を薄厚形状とせずに、これに取り付けられるカバー分割片3Aの開口部20側端部を基板Wの成膜面に向かって傾斜するように折り曲げてマスク開口部20Pを形成した例を示している。
【0036】
以上のように構成される本実施の形態の成膜用マスク11は、マスク本体2の表面全域に複数枚のカバー分割片3A〜3Cを装着した状態で使用される。そして、スパッタ室等の成膜室に設置された基板Wの成膜面にマスク11が対向配置され、このマスク11を介して基板Wの成膜処理が行われる。これにより、マスク本体2の開口部20を介して露出する基板Wの成膜領域に対して所定の成膜材料でなる薄膜が形成される。
なお、マスク11は、基板Wの成膜面に直接載置されてもよいし、基板Wの周囲に別途設置されたマスク支持台(図示略)上に載置されてもよい。
【0037】
さて、マスク11の洗浄工程においては、成膜室からマスク11を取り出した後、マスク本体2からカバー分割片3A〜3Cが全て取り外される。ここで、取付具5の保持部材7がマスク本体2の裏面側に配置されているので、デポジション膜の付着量に関係なくカバー分割片3A〜3Cをマスク本体2から容易に取り外すことができる。
【0038】
本実施の形態によれば、マスク本体2は、複数のカバー分割片3A,3B,3Cの集合体でなるカバー部材3によって表面全域が被覆されているので、マスク本体2の表面に成膜材料のデポジション膜が直接付着することが防止され、マスク本体2の洗浄を不要あるは簡素化することが可能となる。これにより、マスク本体2のダメージを抑えて長寿命化が図られ、マスク精度(開口形状)の維持と耐久性向上が図れるようになる。
【0039】
また、本実施の形態によれば、成膜材料に関係なくマスク本体2の構成材料を選定することができる。例えば、マスク本体2を軽量なアルミニウム系合金で構成した場合にも、カバー部材3を装着することによってアルミニウム金属の成膜処理にも使用することが可能となる。
【0040】
この場合、カバー部材3としてアルミニウム板を用いた場合には、個々のカバー分割片3A〜3Cに個片化した後、Alスクラップとしてリサイクル材に供することができる。また、カバー部材3としてステンレス板を用いた場合には、個々のカバー分割片3A〜3Cに個片化した後、アルカリ液等にてAlデポジション膜の洗浄除去を行った後、再使用することができる。
【0041】
更に、本実施の形態によれば、カバー部材3を複数のカバー分割片3A〜3Cの集合体として構成したので、カバー部材3の洗浄処理を個々の分割片単位で行えるようになる。これにより洗浄槽の小型化、洗浄液の低減等、洗浄設備を簡素化して洗浄コストの低減を図ることができる。
【0042】
(第2の実施の形態)
図3A,Bは、本発明の第2の実施の形態を示している。なお、図において上述の第1の実施の形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略するものとする。
【0043】
本実施の形態の成膜用マスク12は、マスク本体2とカバー部材3とでなり、カバー部材3は、複数のカバー分割片3A〜3Cの集合体で構成されている点で、上述の第1の実施の形態と同様な構成を有している。しかし本実施の形態では、カバー部材3で被覆するマスク本体2表面の領域が、上述の第1の実施の形態と異なっている。
【0044】
即ち、本実施の形態の成膜用マスク12は、デポジション膜の付着量が比較的多い部分にカバー部材3が設置されている。より具体的には、マスク本体2の外周部分と比較して開口部20の周縁を含む内周部分の方がデポジション膜の付着量が多い場合には、この開口部20の周縁を含むマスク本体2の内周部分にのみ、上述した構成のカバー部材3が設置されるようになっている。
【0045】
本実施の形態によれば、カバー部材3による被覆領域が少ない分、カバー分割片3A〜3Cの取付枚数を削減できるので、カバー部材3の取付け及び取り外し作業数の低減を図ることができ、生産性の向上を図ることができるようになる。
【0046】
(第3の実施の形態)
図4A,Bは、本発明の第3の実施の形態を示している。なお、図において上述の第1の実施の形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略するものとする。
【0047】
本実施の形態の成膜用マスク13は、マスク本体2とその表面全域を被覆するカバー部材3とでなり、カバー部材3は、複数のカバー分割片3A〜3Cの集合体で構成されている点で、上述の第1の実施の形態と同様な構成を有している。しかし本実施の形態では、カバー部材3を形成するカバー分割片のうち、マスク本体2の開口部周縁部21に取り付けられるカバー分割片3Aの各々が、開口部20の辺単位で一体化されている点で、上述の第1の実施の形態と異なっている。
【0048】
上述のように、カバー分割片3Aの開口部側端部31は、基板Wの成膜領域を区画するマスク境界部20Pを形成する。しかし、これらカバー分割片3Aの各々が個々に独立していると、マスク本体2への取付精度によって上記マスク境界部20Pの位置精度にバラツキが生じ易くなる。
【0049】
そこで本実施の形態では、開口部20の開口形状に対応して、開口部20の一辺単位でカバー分割片3Aを一体化し、マスク本体2に対する取付精度をバラツキを低減するようにしている。
【0050】
本実施の形態によれば、カバー部材3によるマスク境界部20Pの位置精度の向上が図ることができ、マスク精度を高めることができる。また、開口部周縁部21に対するカバー分割片3Aの取付け及び取り外し工数の低減が図れるようになり、作業性を改善することができる。
【0051】
(第4の実施の形態)
上述の各実施の形態では、カバー部材3を形成する複数のカバー分割片3A〜3Cをマスク本体2の表面上で隙間なく配置することによって、マスク本体2へのデポジション膜の付着を阻止していた。しかし、各カバー分割片の加工精度等の原因により、これらを隙間なく配置することが困難な場合がある。
【0052】
そこで本実施の形態では、図5に示すように、各カバー分割片3A,3Bの側端部に、隣接する分割片どうしが互いに係合する係合凸部32及び係合凹部33をそれぞれ設け、これら分割片どうしが部分的に重なり合ってマスク本体2を被覆するようにしている。これら係合凸部32及び係合凹部33は本発明の「オーバーラップ部」を構成し、その係合量は特に制限されず、比較的遊度を保ってマスク本体2上に取り付けられるようにしてもよい。
【0053】
これにより、本実施の形態によれば、カバー分割片3A,3Bの加工精度あるいは寸法精度の影響を受けずに、マスク本体2の所定領域を隙間なく被覆することができるようになり、マスク本体2の保護を図れるとともに、各分割片の取付精度をも緩和でき、作業性の向上を図ることができる。
【0054】
また、カバー分割片の少なくとも一部の表面に隆起部34を形成して、付着したデポジション膜を剥離し難くしパーティクルの発生要因を低減する実施形態において、上記オーバーラップ部によって形成される隙間G1,G2によって、隆起部34と同様、カバー部材3の表面を凹凸化させる機能が得られることになる。これにより、本実施の形態によれば、隆起部34の単独形成に比べて、デポジション膜の剥離を阻止できる膜厚量を大きくでき、メンテナンスサイクルの長期化を図れるようになる。
【0055】
同様な考え方で、例えば図6に示すように、カバー分割片3A,3Bのオーバーラップ部を傾斜部35で構成しても、上述と同様な効果を得ることができる。カバー分割片3A,3Bの重なり量は、傾斜部35の形成角、カバー分割片の板厚、配置間隔等により適宜調整することができる。また、傾斜部35は図示するテーパー状に限らず、階段状としてもよい。
【0056】
(第5の実施の形態)
上述のように、マスク本体2の開口部20の周縁領域に取り付けられるカバー分割片3Aは、基板Wの成膜領域を区画するマスク境界部20Pを形成する。このマスク境界部20Pは成膜用マスクのマスク精度に直結し、マスク本体2に対するカバー分割片3Aの取付精度に大きく依存する。そこで本実施の形態では、図7及び図8に示すマスク組立治具40を用いてカバー分割片3Aをマスク本体2に高精度に組み付けるようにしている。
【0057】
マスク組立治具40は、マスク本体2が設置されるマスク設置部41と、このマスク設置部41の内方側に形成された位置決め凸部42と、これらマスク設置部41と位置決め凸部42との間に形成された環状凹所43とを備えている。
【0058】
マスク設置部41は、マスク本体2と略同一の外形形状を有している。このマスク設置部41には、マスク本体2との相対的位置関係を保持する位置決め機構(図示略)が設けられていてもよい。
【0059】
位置決め凸部42は、マスク設置部41にマスク本体2が設置された際、マスク本体2の開口部20を貫通する高さとされ、その平面形状は、基板Wの成膜領域に対応する形状に一致している。そして、マスク設置部41に設置されたマスク本体2の開口部周縁領域にカバー分割片3Aを取り付ける際、位置決め凸部42の側周部に当該カバー分割片3Aの端部を当接させて、マスク本体2に対する位置決めをなすようにしている。
【0060】
以上のように構成されるマスク組立治具40を用いて本発明の成膜用マスクを組み立てるようにすれば、開口部周縁領域に取り付けられるカバー分割片3Aの所望の取付精度を確保することができ、高品質のマスクを容易に作製することができるようになる。
【0061】
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、勿論、本発明はこれらに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0062】
例えば以上の実施の形態では、マスク本体2の開口部20の形状を四角形状としたが、勿論これに限られず、他の幾何学的形状を呈していてもよい。また、開口部20は単一に限らず、複数形成されていてもよい。
【0063】
また、成膜室はスパッタ室に限らず、CVD装置等の他の成膜装置が適用可能である。また、マスクを要する成膜以外の他の用途、例えばイオン注入やドライエッチング等の真空処理にも、本発明は適用可能である。
【0064】
更に、以上の実施の形態では、マスク本体2に対するカバー分割片3A〜3Cの装着に取付具5を用いたが、この取付具の構成は各種変更可能である。また、成膜等の真空処理に影響を及ぼさない限りにおいて、マスク本体とカバー分割片との一体化機構にマグネット等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0065】
2 マスク本体
3 カバー部材
3A,3B,3C カバー分割片
5 取付具
6 軸部材
7 保持部材
10 凹所
11,12,13 成膜用マスク
20 開口部
21 マスク本体の開口部周縁部
31 カバー分割片の開口部に臨む側の端部
32 係合凸部
33 係合凹所
34 隆起部
35 傾斜部
40 マスク組立治具
41 マスク設置部
42 位置決め凸部
43 環状凹所
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の成膜面に対向配置され成膜領域を制限する一つの開口部が形成されたマスク本体と、
このマスク本体の表面の開口部の外側を被覆するカバー部材とを備え、
前記カバー部材は、前記マスク本体に対して着脱自在に取り付けられた複数のカバー分割片の集合体でなることを特徴とする成膜用マスク。
【請求項2】
前記マスク本体は、前記基板の周縁部への成膜を制限する
請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項3】
前記マスク本体に対して前記カバー分割片の装着状態を保持する保持部材が、前記マスク本体の前記基板側に配置されている請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項4】
前記カバー部材は、少なくとも、前記マスク本体の開口部周縁領域に取り付けられている請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項5】
前記開口部の周縁領域に取り付けられているカバー分割片の各々は、基板の成膜面に向かって傾斜して取り付けられている請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項6】
前記開口部の周縁領域に取り付けられているカバー分割片の各々は、前記開口部に臨む側の端部の厚さが漸次小さくなるように形成されている請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項7】
前記マスク本体の開口部周縁領域は、厚さが漸次小さくなるように形成されている請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項8】
前記開口部の周縁領域に取り付けられているカバー分割片の各々は、前記開口部に臨む側の端部が前記マスク本体の開口部周縁よりも内方側に突出している請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項9】
前記開口部の周縁領域に取り付けられているカバー分割片の各々は、前記開口部の辺単位で一体化されている請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項10】
前記カバー分割片の各々には、隣接するカバー分割片どうしが互いに重なり合うオーバーラップ部を有している請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項11】
前記カバー部材は、前記マスク本体よりも、成膜材料と熱膨張係数が近い材料で形成されている請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項12】
前記カバー部材は、表面に凹凸形状を有する請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項13】
基板の成膜面に対向配置され成膜領域を制限する一つの開口部が形成されたマスク本体と、
このマスク本体の表面を被覆するカバー部材とを備え、
前記カバー部材は、前記マスク本体に対して着脱自在に取り付けられた複数のカバー分割片の集合体でなり、
前記カバー分割片を前記マスク本体から取り外して洗浄する
成膜用マスクの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−168894(P2011−168894A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94054(P2011−94054)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【分割の表示】特願2006−548635(P2006−548635)の分割
【原出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(507111346)アルバック シンガポール プライベート リミテッド (1)
【Fターム(参考)】