説明

成膜装置及びクリーニング方法

【課題】大気開放することなくチャンバー内で防着シールドのクリーニングを行うことができ、メンテナンスコストの低減を図ることができる成膜装置を提供する。
【解決手段】真空処理装置は、基板に対してスパッタリング成膜処理を行うときは、カソード14に電力を印加するとともに、シリンダー部32を伸ばしてアース電極41を防着シールド20に電気的に接続させ、防着シールドをクリーニングするときは、防着シールドに高周波電流を印加するとともに、シリンダー部を縮ませてアース電極と防着シールドを電気的に絶縁することができるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防着シールドを備える成膜装置及び該防着シールドのクリーニング方法に係り、特に防着シールドがカソードの周囲に配設された成膜装置及び該防着シールドのクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来カソードを搭載したスパッタリング装置において、スパッタリングによりカソード又はチャンバー内部の壁面に成膜材料が付着することを防止するためチャンバー内に防着シールドが設置されている(例えば、特許文献1,2参照)。スパッタリングを繰り返すことでターゲット材が防着シールドに付着物として堆積していくことになる。
【0003】
そのため、防着シールドに堆積した付着物を定期的にクリーニングして除去する必要がある。例えば、特許文献1に記載されたスパッタリング装置においては、付着物が堆積した防着シールドを、メンテナンスの際に予めストックしてある予備の防着シールドと交換し、取り外した防着シールドをチャンバー外でクリーニングしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−87835号公報
【特許文献2】特開平10−275694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたスパッタリング装置では、防着シールドをクリーニングする際に予めストックしてある予備の防着シールドと交換する必要があるため、防着シールドの交換作業及び予備の防着シールドの保守と確保が不可欠であった。また、メンテナンスの際にチャンバーを大気開放するためメンテナンス後の排気やベーキングを行う必要があった。従って、メンテナンスに要する時間が長く、メンテナンスコストの低減が困難であるという問題を有していた。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、大気開放することなくチャンバー内で防着シールドのクリーニングを行うことができ、メンテナンスコストの低減を図ることができる成膜装置及び防着シールドのクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る成膜装置は、真空容器内に設けられたカソード部と、カソード部の周囲に設けられたシールド部と、シールド部の電位状態を切り替える切替え部とを備え、切替え部は、所定の電位状態にされた電極部を有するとともに、電極部を前記シールド部に当接する位置又はシールド部と離間する位置に移動可能に構成されていることを特徴とする。
或いは、本発明に係るシールド部のクリーニング方法は、シールド部は高周波電流を印加できる電源に接続されている上述の成膜装置を用いたシールド部のクリーニング方法であって、シールド部に高周波電流を印加するとともに、電極部をシールド部から離間することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の成膜装置或いは防着シールドのクリーニング方法を用いることによりチャンバーを大気開放せずにチャンバー内部のターゲット材付着防止シールドのクリーニングが可能になる。また、使用済みの防着シールドをチャンバーの内側でクリーニングするために保守部品へ交換する必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置の概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るプロセスチャンバーの断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るシールドクリーニング装置の概略図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るシールドクリーニング装置のシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は発明を具体化した一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0011】
本願明細書中では、成膜装置として真空処理装置S(インライン型のスパッタリング成膜装置)を例に挙げて説明するが本発明はこの限りではない。例えば、他のPVD装置やCVD装置などにも本発明に搭載されたシールドクリーニング装置30やアース装置40は好適に適用可能である。
【0012】
図1〜4は本発明の一実施形態に係るバイアス印加装置又は真空処理装置について説明した図であり、図1は真空処理装置の概略図、図2はプロセスチャンバーの断面図、図3はシールドクリーニング装置の概略図、図4はシールドクリーニング装置のシステム構成図である。なお、図面の煩雑化を防ぐため一部を除いて省略されている。
【0013】
図1に示す真空処理装置Sは、インライン型のスパッタリング成膜装置(成膜装置)であり、ロードチャンバLL、アンロードチャンバUL、成膜室(プロセスチャンバー)S1やその他の処理室などとして機能する複数のチャンバーが四角形状にゲートバルブGVを介して連結されている。真空処理装置Sには各チャンバーを貫通する基板搬送路12を有する基板搬送装置Tが設けられており、基板9を搭載したキャリア10が基板搬送路12に沿って各チャンバー内を所定方向(図1中の矢印方向)に順次搬送することができる。
【0014】
本実施形態における基板9としては、磁気ディスクや光ディスクなどの記憶メディアに用いられる円板状部材が好適に用いられるが、キャリア10に取り付けられた基板ホルダ11を交換することにより、種々の形状のガラス基板、アルミニウム若しくはアルミニウム合金などの金属基板、シリコン基板、樹脂基板などを用いることができる。
【0015】
図2に示す成膜室S1は、インライン式成膜装置Sを構成するプロセスチャンバー(真空容器)の一つであり、成膜室S1内側(真空容器内)には、真空ポンプ4に接続されるとともに基板9を搭載したキャリア10を搬送可能な基板搬送路12を有する基板搬送装置T、カソード部としてのスパッタリングカソード(カソード)14が備えられており、さらにカソード14の周囲にはシールド部としての防着シールド20、シールドクリーニング装置30とアース装置40(切替え部)を有している。
【0016】
基板搬送装置Tは、いわゆる縦型搬送機構であり、基板9を垂直姿勢でキャリア10に搭載した状態で基板搬送路12に沿って搬送できるように構成されている。また、キャリア10は基板搬送路12側に配置されるスライダーと、カソード14側の空間に基板9を支持する基板ホルダとから構成されている。一つのスライダーに対して2つの基板ホルダが搭載されているため、1つのキャリア10は2つの基板9を搭載することができる。
【0017】
成膜室S1側面の左右の壁面にはカソード14が2つずつ配置されており、2つのカソード14(一対のカソード)は、キャリア10に搭載された基板が配置される位置(停止位置)で基板ホルダに搭載された基板9の表裏面にそれぞれ対向する位置に対応している。すなわち、成膜室S1では、2枚の基板9の表面と裏面(表裏面)に対して同時にスパッタリングによる成膜処理を行うことができるように構成されている。
【0018】
カソード14は、カソードボディの内側にカソードマグネットと裏板が配設されて構成されており、裏板の基板側表面にはターゲット材料がボンディングされている。なお、カソードボディは成膜室S1の壁面側に固定されている。
【0019】
それぞれのカソードの周囲には、基板9以外の場所に成膜材料がスパッタされることを防ぐための防着シールド20が取り付けてある。防着シールド20は、成膜室S1の壁面に対して電位的に分離されており、カソード14の側面を囲む筒状部21と、カソード14のターゲット前面の周囲を囲むリング部22(付着部)と、カソードボディに固定される取り付け部23とから構成されている。また、対向するカソード14の周囲に配置された2つの防着シールド20の取り付け部23同士は、連結部24によって電気的に接続されている。連結部24は防着シールド20と同じ材質で形成された板状部材であり、2つの取り付け部23の上側を連結している。さらに、防着シールド20はシールドクリーニング装置30にRF印加ケーブル36を介して接続されており、また、アース装置40とも接続可能に構成されている。
【0020】
シールドクリーニング装置30は、防着シールド20の取り付け部23の下側に高周波電流を印加する装置であり、電源34と整合器MBとRF印加ケーブル36を有して構成されている。シールドクリーニング装置30は、RF印加ケーブル36を介して防着シールド20に常時接続されている。防着シールド20(取り付け部23)とRF印加ケーブル36との接続部の拡大断面図を図3に、シールドクリーニング装置30のシステム構成図を図4に示す。防着シールド20は、チャンバー(成膜室S1)に対して電気的に分離しており、シールドクリーニング装置30から高周波電流が印加されることによりエッチングされて、防着シールド20に付着したターゲット材が除去される。
【0021】
RF印加ケーブル36は、銅板や銅線などの導電性材料から構成されたケーブルであり、一端部を整合器MBに接続され、他端部を取り付け部23に溶接やネジによって固着されている。
電源34は、整合器MBとRF印加ケーブル36を介して防着シールド20に印加する高周波電流を発生させるRF電源装置(電源)であり、公知のものを適宜用いることができる。高周波電流は防着シールド20をクリーニングするために印加されるRF電流である。整合器MBは、電源で発生させた高周波電流を低損失でバイアス機構と防着シールド20に印加する装置であり、公知のものを適宜用いることができる。
【0022】
シールドクリーニング装置30による防着シールド20のクリーニング処理(クリーニング方法)は、カソード14のOFF(オフ)時に行われるのでカソード14の電源としてRF電源が使われている場合には、カソード14の電源をシールドクリーニング装置30の電源として流用できる。また、整合器MBも同様にカソード用のものを流用できる。しかし、整合器MBと電流導入部については、防着シールド20と隣接している方が望ましいので、カソード14用のものを流用することは原則的に行わないものとする。
【0023】
切替え部としてのアース装置40は、防着シールド20の電位状態を切り替える装置であり、本実施形態においては、防着シールド20を所定のタイミングでアース電位に切り替えることができる。カソード14によりスパッタリング処理する際に、アース電位とされたアース電極41(電極部)を防着シールド20の取り付け部23に接触させるシリンダー部32を備えている。シリンダー部32は、取り付け部32に向けて進退動するシリンダーとシールのためのベローズとを有して構成されている。シリンダーは接地されている。なお、シリンダーに変えて進退動可能な他の装置(例えば、リニアアクチュエータ)を用いることができることはもちろんである。
【0024】
基板9に対してスパッタリングされる際にだけシリンダーを伸長させて、シリンダー部32の先端に取り付けられたアース電極41を取り付け部23に電気的に接続することにより防着シールド20をアース電位にすることができる。なお、上述したシールドクリーニング装置30から防着シールド20に高周波電流が印加される際には、シリンダー部32は縮められた状態とされ、アース電極41と取り付け部23が接続されないようにする。
【0025】
シリンダー部32の先端に取り付けられたアース電極41は、板ばね状になっている。そのため、アース装置40のシリンダー部32が伸長し、アース電極41が防着シールド20に接触すると板ばね状部分が弾性変形して防着シールド20に所定圧力で押し付けられる。アース電極41を板ばね状にすることによって、シリンダー部32の進退動するストロークのみを管理すればよく、シリンダー部32の押圧力を管理する必要がなくなるという利点がある。
【0026】
ここで、シールドクリーニング装置30による防着シールド20のクリーニング処理の方法について説明する。
まず、基板9に対してカソード14からスパッタリング処理を行う際には、カソード14に対して電流が印加されている状態である。このとき、シールドクリーニング装置30からは高周波電流は印加されない。一方、スパッタリング処理中は、アース装置40のシリンダー部32は伸長してアース電極41が取り付け部23に接続されており、防着シールド20全体はアース電位にされている。
【0027】
シールドクリーニング装置30を使用する際には、まず、アース装置40のシリンダー部32を縮めて、アース電極41が取り付け部23から離れた後、電源34から高周波電流の印加を開始する。ほぼ同時にクリーニング用のプロセスガスをチャンバー内に導入する。プロセスガスはCF4ガスやAr混合ガスを用いることができる。なお、シールドクリーニング装置30は、基板9に対して成膜処理を行っていないとき、すなわち、基板9及びキャリア10がチャンバー内に存在せず、カソード14がOFFのときに使用されることを想定している。
【0028】
RF印加ケーブル36を介して取り付け部23に印加された高周波電流は、取り付け部23と電気的に接続されている防着シールド20全体に印加される。もちろん、連結部24を介して対向する位置に配置されている防着シールド20にも高周波電流は印加される。対向する2つの防着シールド20に同時に高周波電流が印加されるため、2つの防着シールド20の隙間にプラズマが発生することになる。
【0029】
このとき、2つの防着シールド20の隙間に生じたプラズマから入射するイオンにより防着シールド側がエッチングされることにより、防着シールド20表面の付着物がクリーニングされる。ところで、防着シールド20は、カソード14のターゲット前面の周囲を囲むリング部22が対向するカソード14に面しているため、このリング部22に付着物が堆積しやすいことが知られている。そして本発明に係る防着シールド20は2つが対向して配置されているため、対向する2つのリング部22の間にプラズマが発生している。従って、付着物の多いリング部22の表面のクリーニングが効率的に行われることになる。クリーニング処理が終了したら、電源34からの高周波電流の供給を停止する。
【0030】
本発明に係るシールドクリーニング装置30によれば、チャンバーを大気開放することなくその内部に固定された防着シールド20をクリーニング処理することができる。すなわち、防着シールド20の交換作業をせずに、付着物の除去などのクリーニングができる。また、このような防着シールド20のクリーニング処理には、防着シールド20の交換用保守部品を用いる必要がなく、結果としてメンテナンスコストの低減を図ることができる。
【0031】
本発明に係るアース装置40は、防着シールド20の基板の高さよりも下側でシリンダー部32(アース電極41)に接触させるため、取り付け部23とアース電極41の接触の際にパーティクルが発生しても基板9に悪影響を及ぼすことが少ない。
また、本発明においては、カソード14周辺の防着シールド20に接続されるシールドクリーニング装置30及びアース装置40について記載したが、CVDチャンバーなどの防着シールドにも本発明のシールドクリーニング装置30及びアース装置40を適用可能であることはもちろんである。
【0032】
また、本発明の成膜装置によれば、基板9に対して成膜処理を行うときは、シリンダー部32を伸ばしてアース電極41を防着シールド20に電気的に接続させ、防着シールド20をクリーニングするときは、シリンダー部32を縮ませてアース電極41と防着シールド20を電気的に分離することができるアース装置40を備えることにより、防着シールド20の電位状態(RF印加状態とアース電位)を必要に応じて切り替えることができる。このため、チャンバーを大気開放せずにチャンバー内部のターゲット材が付着した防止シールド20のクリーニングが可能になる。
【0033】
また、使用済みの防着シールド20をチャンバーの内側でクリーニングするために保守部品へ交換する必要がなくなる。さらに、対向して配置されている2つの防着シールドは連結部24によって電気的に連結されているため、1つのシールドクリーニング装置30で2つの防着シールド20のクリーニングを同時に行うことができる。
【0034】
上述のように本発明は、アース電極41を移動させることによって、防着シールド20と導通する接触状態と導通しない離間状態とを適宜切り替えることができることが特徴の一つである。アース電極41に替えて、任意の電力を印加する電極を用いることにより、クシールドリーニング以外の用途にも応用可能である。例えば、アース電極41とは別にアース電極41と同様な動作をする可動電極と設けて、その可動電極RF印加ケーブルを接続すると、防着シールド20はアース状態、フローティング状態、RF印加状態の3種類の状態を任意に選択することが可能になる。
【符号の説明】
【0035】
S 真空処理装置
S1 成膜室
LL ロードチャンバ
UL アンロードチャンバ
GV ゲートバルブ
T 基板搬送装置
MB 整合器(M.BOX)
4 真空ポンプ
9 基板
10 キャリア
12 基板搬送路
14 カソード
20 防着シールド
21 円筒部
22 リング部
23 取り付け部
24 連結部
30 シールドクリーニング装置
32 シリンダー部
34 電源
36 RF印加ケーブル
40 アース装置
41 アース電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に設けられたカソード部と、
前記カソード部の周囲に設けられたシールド部と、
前記シールド部の電位状態を切り替える切替え部とを備え、
前記切替え部は、所定の電位状態にされた電極部を有するとともに、前記電極部を前記シールド部に当接する位置又は前記シールド部と離間する位置に移動可能に構成されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記カソード部は、真空容器内に配置される基板の表面と裏面のそれぞれに対向するように設けられた一対のカソードからなり、
前記シールド部は、前記一対のカソードの周囲にそれぞれ配設された一対の付着部と、前記一対の付着部を電気的に連結する連結部とを有して構成されていることを特徴とする請求項1に記載された成膜装置。
【請求項3】
前記電極部は、弾性変形する材質で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載された成膜装置。
【請求項4】
前記シールド部は高周波電流を印加できる電源に接続されている請求項1乃至3に記載の成膜装置を用いたシールド部のクリーニング方法であって、
前記シールド部に高周波電流を印加するとともに、前記電極部を前記シールド部から離間することを特徴とするクリーニング方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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