説明

成長促進活性を有するボタン属及びその抽出物の獣医及び畜産における使用

本発明は、ボタン属、特にシャクヤクの植物体又は根の抽出物を、家畜に使用する成長促進剤の製造に使用することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜に使用する成長促進剤の製造のためのボタン属(Paeonia)、特にシャクヤク(Paeonia lactiflora)の植物体又は根の抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌の抗生物質耐性は、畜産分野を含む公衆衛生に影響を与える問題として増大している。
【0003】
ヒト用医薬に使用されるものと殆ど同じか極めて類縁した抗生物質を動物薬においての使用、ならびに成長促進剤や集団用予防薬(mass metaphylactic agent)として準治療用量で抗生物質を使用する慣習は、家畜及びしばしばヒトの病変に関係する多くの細菌種が獲得する抗生物質耐性を拡散させる主な原因である。食肉中の残留抗生物質の存在、及び間接的には、ヒトに対して病気をもたらす細菌に耐性遺伝子を転移できる抗生物質耐性の細菌の選抜は、ヒトの健康にとって害にある。
【0004】
全抗生物質生成物の約25%は、家畜に使用するためのものであり、そのうちの90%は疾病予防及び成長促進のために準治療用量で使用されている。抗菌剤は、生産性を向上させるために飼料に添加され、50年代以来、畜産において広く使用されてきた。養豚においては、例えば、子豚の離乳が最も注意を有する段階である。というのは、異なる動物群の移動と混合及び飼料の変更に伴うつらい出来事は、動物の腸内微生物叢に変化を誘発し、感染症をより受けやすくさせるからである。離乳中に発症する種特有の病気の予防への抗生物質の使用が、抗生物質の汎用につながっている。その抗生物質は動物がちょうど70〜80日齢になるまで延ばされている期間中飼料に配されている。
【0005】
抗生物質耐性の危機のゆえに、欧州連合は、食餌及び水を通じて、成長促進剤、抗菌性予防、多重治療(multi-therapies)、集団投薬として抗生物質を使用することに関して、限定的な姿勢をとってきた。特に、EUは、2006年までに、抗生物質の成長促進剤としての使用に関して、あらゆる承認を撤回している。しかし、抗生物質の成長促進剤及び予防薬としての使用の差し止めは、下痢、体重減少及び死亡率の増大と共に、動物の健康の悪化となる。
【0006】
畜産の、より具体的には養豚の、抗生物質使用への依存を減らすために様々な手法がある。その選択肢の1つは、細菌を制御することを通して作用し、動物の自然な活性を促進し、それにより健康の増進ならびに能力の最大化を達成する、代替物質を開発することである。このような代替案に必須の特性は、使用に対する安全性及び生産者にとり、ひいては消費者にとり安価であることである。
【0007】
ボタン属はボタン科に属する。種の数が比較的少ない属であるが、ボタン属は分類学的には複雑である。ボタン属の植物体の根は、そのままで、あるいは水抽出物又は水−エタノール抽出物の形態で、高血圧、筋痙攣、熱、女性の生殖系の疾患、出血を含む様々な症状の治療に、中国の伝統的医学において、長い間使用されてきた。
【0008】
特に、シベリア、モンゴル、及び中国北部原産のシャクヤクは、1本の茎あたり1つを超える花をつける。19世紀には西洋諸国に導入され、多数の品種及び交雑種を生み出した。シャクヤクに存在する有効成分は、グリコシドペオニフロリンならびにプロアントシアニジン、フラボノイド、タンニン、多糖類である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
今、ボタン属、特にシャクヤクの植物体の部分、特に根、又はその植物の抽出物の家畜への投与は、少なくとも成長促進性抗生物質の投与と同程度に活性であることが判明した。
【0010】
したがって、本発明は、有効成分として、ボタン属、好ましくはシャクヤクの粉砕した根又は根の抽出物を、適切な担体と混合し又は補助飼料の形態で含む、獣医又は畜産での使用のための組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
前記組成物は、成長促進性抗生物質の欠点や副作用なしに、家畜の、特に豚、牛、羊、及び馬の、より具体的には豚の成長を促進できることが証明された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
用量は、動物の種、サイズ、重量及び年齢のようないくつかの要因に依存して決められる。原則として、一般的な用量は、動物1体につき1日あたり抽出物/根0.1g〜10gの範囲である。
【0013】
本発明の使用可能な抽出物は、以下の工程を含むプロセスによって製造することができる:
a)溶媒を用いてシャクヤクの根を抽出すること(生抽出物)、及び随意に
b)不水溶性物質から精製すること。
【0014】
シャクヤクの根を抽出する工程(a)は、水又はC1〜C3アルコール、又はそれらの混合物、あるいはそれらの水溶液の使用が必要である。アルコール含有量90%(v/v)の水−エタノール溶液が好ましいが、水含有量5%v/v〜100%v/vのアルコール溶液を使用することもできる。抽出温度は、5℃〜使用の溶媒の沸点の範囲、好ましくは70℃である。
【0015】
生抽出物は、不水溶性物質を除くことによって精製することができる(工程b)。
【0016】
ステップ(a)からの生抽出物を、減圧下60℃で濃縮し、溶液からエタノール(又は上記の中で使用された他の溶媒でも)を完全に除去し、次いでその抽出物は、乾燥残渣5%w/w〜55%w/w、好ましくは25%w/wまで濃縮され、1時間〜32時間、好ましくは16時間、撹拌せずに、1℃〜30℃、好ましくは4℃の温度で保持される。
【0017】
精製抽出物からなる、得られた透明溶液は、遠心分離によって不溶性物質が分離される。
【0018】
ペオニフロリン及びアルビフロリン含有量が5%〜30%の範囲である得られた抽出物は、本発明の他の一態様である。
【実施例】
【0019】
以下の実施例は、本発明をさらに詳細に示すものである。
【0020】
実施例1:畜産で使用するためのシャクヤクの根の抽出物の製造
工程a):含水アルコール溶液によるシャクヤクの根の抽出
シャクヤクの根1000gを乾燥し微細粉砕し、次いで90%v/vエタノール0.8リットルを用いて、70℃で4時間、ジャケット付き静水パーコレータ中で抽出する。4時間後、浸出液を回収し、さらに7〜8回、同じ条件下で抽出を繰り返す。混合浸出液を、吸引により熱濾過し、回転式蒸発器によって減圧下60℃で濃縮する。
【0021】
さらに、抽出物を真空下60℃で24時間乾燥させて、粉砕しやすい黄色粉末を得る。HPLCによるペオニフロリン含有量が9.62%w/w、アルビフロリン含有量が1.26%w/w、つまり合計値が10.88%w/wである、32.3%w/wの収量に相当する生成物322gを得る。
【0022】
工程b):シャクヤクの根の生抽出物の精製
工程a)で得られた残渣322gを有する生抽出物を、減圧下60℃で濃縮し、それによって水以外の溶媒の全てを除去する。得られた水性懸濁液を濃縮して乾燥残渣25%w/wとし、撹拌せずに4℃で16時間静置する。
【0023】
16時間後4℃で、水性懸濁液を遠心分離にかけて、不溶性物質を溶液から除き、それを真空下60℃で乾燥し、精製乾燥抽出物231.4gを得る。HPLCによるペオニフロリン含有量が13.41%w/w、アルビフロリン含有量が1.74%w/w、つまり精製抽出物中の合計値がHPLCにより15.15%w/wである、精製乾燥抽出物231.4gを得る。
【0024】
出発原料に対する精製抽出物の重量収率は、23.1%w/wである。
【0025】
実施例2:In vivo試験
実験は、各30匹の4つのグループに分けられた120匹の子豚で実施された。
【0026】
グループ1(対照)は、添加剤のない標準飼料を用いて飼育された。グループ2(抗生物質)は、飼料1kgあたりアプラマイシン2g及びコリスチン1gが配された薬を含む飼料で飼育された。グループ3は、ボタン属抽出物2g/Kgを添加した標準飼料で飼育された。グループ4は、微細粉砕したボタン属の根5g/kgを添加した標準飼料で飼育された。
【0027】
全ての動物は、22日齢から41日齢の離乳期中飼育された。
【0028】
健康な動物は、全体重増加、1日の飼料摂取量及び下痢症状の動物のパーセンテージによって評価された。さらに41日目から、糞便サンプルが、総中生植物蓄積(mesophyte charge)、全大腸菌群及び全乳酸杆菌の細菌数について微生物学的に分析された。全パラメータは、当分野の技術者に周知の標準法で評価された。
【0029】
以下の表で報告された結果は、微細粉砕した根及び水−エタノール抽出物の両方の形態でボタン属を標準飼料に添加することは、それ自体in vitro抗菌活性がないものの、離乳飼料における抗生物質系成長促進剤の有益な代替物となり得ることを示している。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼料用成長促進剤の製造のためのボタン属の植物体の部分又は抽出物の使用。
【請求項2】
ボタン属植物がシャクヤクである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ボタン属の部分が根である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
抽出物が根の含水アルコール抽出物である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項5】
ボタン属の植物体の部分又は抽出物を適切な担体と混合して含む、獣医用又は畜産用組成物。
【請求項6】
シャクヤクの根又はその含水アルコール抽出物を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ボタン属、特にシャクヤクの植物の根又は根の抽出物を添加した飼料。
【請求項8】
ペオニフロリン及びアルビフロリン含有量が5〜30%の範囲である、シャクヤク抽出物。

【公表番号】特表2008−509097(P2008−509097A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524213(P2007−524213)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007895
【国際公開番号】WO2006/012999
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(591092198)インデナ エッセ ピ ア (52)
【Fターム(参考)】