説明

扁平状軟磁性材料及びその製造方法

【課題】透磁率が十分に高いノイズ抑制用磁性シートを作製可能な扁平状軟磁性材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
ノイズ抑制磁性シートに用いられる扁平状軟磁性材料であって、扁平状軟磁性材料の50%粒子径D50(μm)、保磁力Hc(A/m)及びかさ密度BD(Mg/m)が下記式(1)を満足する、扁平状軟磁性材料。
50/(Hc×BD)≧1.5 (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ抑制用磁性シートに用いられる扁平状軟磁性材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル回路の動作速度の高速化に伴い、回路から放射される電磁ノイズは高周波帯域へ移行している。このようなノイズは、内部干渉による機器自身の誤動作や、外部干渉による他機器の誤作動の原因となる。一方、近年のデジタル回路を搭載した機器の軽量化、薄型化及び小型化も軽量小型化を進めるためには、実装密度をこれまで以上に高める必要がある。そのため、ノイズを遮断できる電磁シールド材の開発が行われており、軟磁性材料を配向分散させたシート状のノイズ抑制部品を、ノイズの発生源である電子回路の近傍に配置する方法が提案されている。
【0003】
上述したようにシート状のノイズ抑制部品には、軟磁性材料が使用されており、軟磁性材料の厚みを薄くし扁平状にすることで、広い周波数帯域でノイズ抑制効果が得られることが知られている。
【0004】
扁平状の軟磁性材料を作製する方法として、例えば、特許文献1及び2には、片状又は扁平状Fe−Si−Al合金の粉末の製造方法として水アトマイズ法により作製されたセンダスト原料を用いることが開示されている。また、特許文献3及び4には、扁平状軟磁性金属粉末又はその製造方法としてガスアトマイズ法により作製された原料を用いることが開示されている。また、特許文献5には、アトマイズ法による軟磁性金属粉末の粉砕媒体を粉砕機で機械的に扁平加工する際に、アルコール等の有機溶剤と脂肪酸とを混入して粉砕する方法が開示されている。さらに、特許文献6には、実施例として水アトマイズ法により作製したセンダスト粉末をエタノールと共にアトライタで扁平化処理することが開示されている。
【特許文献1】特開昭62−238305号公報
【特許文献2】特開平1−294802号公報
【特許文献3】特開2003−332113号公報
【特許文献4】特開2005−123531号公報
【特許文献5】特開2001−303111号公報
【特許文献6】特開平5−98301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1、2、5及び6は、軟磁性材料を磁気カード用に使用するために検討されたものであり、引用文献3及び4は、軟磁性材料の酸素量に着目してなされものである。上記引用文献1〜6に記載の方法で作製される軟磁性材料は、いずれもノイズ抑制用磁性シートとして使用する場合のシート特性を十分に満足するほどの高い透磁率を有するものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、透磁率が十分に高いノイズ抑制用磁性シートを作製可能な扁平状軟磁性材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ノイズ抑制用磁性シートに用いられる扁平状軟磁性材料であって、50%粒子径D50(μm)、保磁力Hc(A/m)及びかさ密度BD(Mg/m)が下記式(1)を満足する扁平状軟磁性材料を提供する。
50/(Hc×BD)≧1.5 (1)
【0008】
上記条件を満足する扁平状軟磁性材料を用いることによって、透磁率が十分に高いノイズ抑制用磁性シートを作製することができる。ここで、高周波における透磁率は、実部透磁率μ’と虚部透磁率μ”を用いて、複素透磁率(μ=μ’−jμ”)で表すことができる。磁気シールド効果は、実部透磁率μ’の大きさに依存し、ノイズ吸収効果は、虚部透磁率μ”の大きさに依存する。
【0009】
ノイズ抑制用磁性シートは、ノイズの発生する周波数帯域における磁性材料の複素透磁率の虚部μ”を利用してノイズ吸収を行うものであり、μ”の最大値は低周波におけるμ’が大きいほど大きくなる。このような高透磁率(Highμ)シートは、保磁力Hcが小さく粒径の大きな扁平粉を高密度充填することで得られる。
【0010】
そこで、本発明者らは、軟磁性合金粉末を扁平化処理して得られた扁平粉を用いて作製した磁性シートにおいて、扁平粉の各物性とシート特性である透磁率μ’の関係について鋭意検討した結果、扁平粉のD50/(Hc×BD)の値が大きいほど、磁性材料の充填率が一定のときの磁性シートのμ’が大きくなることを見出した。また、本発明者らは、Hcは扁平粉の粒径が大きいほど小さくなる傾向があることから、粒径が大きく十分に扁平化された磁性材料を用いることが、磁性シートをHighμ化するための必要条件になると考えている。
【0011】
本発明の扁平状軟磁性材料は、アスペクト比が20以上であり、D50が50μm以上であることが好ましい。このような扁平状軟磁性材料を用いることにより、透磁率がより高いノイズ抑制用磁性シートを作製できる。
【0012】
上記扁平状軟磁性材料は、Fe−Si−Al系合金(以下、「センダスト」という場合がある)を含有することが好ましい。センダストは、保磁力が十分に小さいため、透磁率をより一層を高くすることができる。また、センダストは高価な金属を含まないため、コストを低減できるという利点もある。
【0013】
本発明は、上記扁平状軟磁性材料の製造方法であって、アトマイズ法で作製された軟磁性合金粉末を、不活性雰囲気中800〜1200℃で熱処理して熱処理粉末を得る熱処理工程と、上記熱処理粉末を有機溶媒の存在下で扁平化する扁平化処理工程とを備える扁平状軟磁性材料の製造方法を提供する。
【0014】
上記製造方法により、透磁率が十分に高いノイズ抑制用磁性シートを作製可能な扁平状軟磁性材料を作製できる。
【0015】
本発明の製造方法において、上記熱処理粉末のポロシティが0.15m/Mg以下であり、平均結晶粒径が6μm以上であることが好ましい。このような熱処理粉末を用いることにより、Hcがより一層小さな扁平状軟磁性材料を得ることができる。
【0016】
上記製造方法において、有機溶媒が炭素数2〜4の1価アルコールであると、扁平化助剤を用いなくとも粒径の大きな扁平粉が収率よく得られるため好ましい。また、この場合、扁平化に使用したアルコールは、回収再利用が容易である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、透磁率が十分に高いノイズ抑制用磁性シートを作製可能な扁平状軟磁性材料及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<扁平状軟磁性材料>
本実施形態の扁平状軟磁性材料(以下、場合により「扁平粉」という)は、50%粒子径D50(μm)、保磁力Hc(A/m)及びかさ密度BD(Mg/m)が下記式(1)を満足するものである。
50/(Hc×BD)≧1.5 (1)
【0019】
上記扁平状軟磁性材料は、軟磁性合金粉末を扁平化処理することで作製することができる。
【0020】
軟磁性合金粉末は、保磁力が小さな合金であることが好ましく、センダストと呼ばれるFe−Si−Al系合金又はパーマロイと呼ばれるFe−Ni系合金であることがより好ましく、Hcをより小さくできることから、センダストであることがさらに好ましい。
【0021】
軟磁性合金粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法又はガス噴霧水アトマイズ法により作製することができる。水アトマイズ法とは、ノズルから流下させた原料である軟磁性合金の溶湯に高圧水を噴射し水冷して、軟磁性合金を凝固・粉末化する方法である。また、ガスアトマイズ法とは、ノズルから流下させた軟磁性合金の溶湯に高圧ガスを噴射し空冷して、軟磁性合金を凝固・粉末化する方法である。ガスとしては、空気や不活性ガスが用いられるが、センダストでは不活性ガスを用いるのが好ましい。さらに、ガス噴霧水アトマイズ法は、ガスアトマイズ法と水アトマイズ法とを組み合わせたものであり、ノズルから流下させた軟磁性合金の溶湯に高圧ガスを噴射した後水冷し、軟磁性合金を凝固・粉末化する方法である。
【0022】
本発明においては、ポロシティを小さくできることから、ガスアトマイズ法又はガス噴霧水アトマイズ法で製造された軟磁性合金粉末を用いることが好ましい。
【0023】
なお、扁平粉の粒径が大きいほど、同じ充填率では磁性シートのμ’をより大きくできる一方、高密度充填が困難になることやシート表面が粗くなることから、上記軟磁性合金粉末の50%粒子径D50は、50〜100μm程度であることが好ましい。
【0024】
上記扁平状軟磁性材料は、上記軟磁性合金粉末を不活性雰囲気中800〜1200℃で熱処理して熱処理粉末を得る熱処理工程と、熱処理粉末を有機溶媒の存在下で扁平化する扁平化処理工程とを備える方法により製造することができる。以下、その方法について説明する。
【0025】
(熱処理工程)
軟磁性合金粉末を扁平化する前の前処理として、各種アトマイズ法で得られた軟磁性合金粉末をアルゴンガス等の不活性ガスを導入した不活性雰囲気中、所定の温度で熱処理して熱処理粉末を得る。
【0026】
熱処理温度は、800〜1200℃であり、900〜1100℃であることが好ましい。この温度範囲で熱処理することにより、軟磁性合金粉末の結晶粒径を大きくすることができる。なお、処理温度が1200℃を超えると、軟磁性合金粉末が激しく凝集又は焼結してしまうため、扁平化処理が困難となる。
【0027】
熱処理時間としては、10分〜5時間程度が好ましく、1〜3時間がより好ましい。熱処理時間が10分未満では結晶粒径が十分に大きくならず、5時間を超えても結晶粒径はそれ以上大きくならないため生産性が低下する。
【0028】
熱処理粉末のポロシティは、0.15m/Mg以下であることが好ましく、0.10m/Mg以下であることがより好ましく、0.07m/Mg以下であることがさらに好ましい。ポロシティが小さいほど、扁平化処理後の軟磁性材料の50%粒子径が大きくなり、磁性シートのμ’が大きくなる傾向がある。熱処理粉末のポロシティは、水銀ポロシメータにより測定することができる。
【0029】
ここで、図1は、各種アトマイズ法により作製したFe−Si−Al系合金粉末の水銀ポロシメータによる測定結果を示すグラフである。図1からわかるように、軟磁性合金粉末のポロシティはアトマイズ法に依存するものであり、ガスアトマイズ法<ガス噴霧水アトマイズ法<水アトマイズ法の順にポロシティが大きくなる。なお、熱処理温度による軟磁性合金粉末のポロシティの変化は小さい。
【0030】
熱処理粉末の平均結晶粒径は、6μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましく、9μm以上であることがさらに好ましい。平均結晶粒径が6μm未満では、扁平状軟磁性材料の50%粒子径が小さくなり、磁性シートのμ’が小さくなる傾向がある。なお、平均結晶粒径は、軟磁性合金粉末又は熱処理粉末を樹脂埋めして鏡面加工後エッチングし、走査型顕微鏡(SEM)写真を撮影し、画像解析することで求めた値である。
【0031】
(扁平化処理工程)
次に、上記熱処理粉末を扁平化する。
【0032】
扁平化方法は、特に制限はなく、例えば、アトライタ、ボールミル、振動ミル等を用いて行うことができる。中でも、ボ−ルミルや振動ミルに比べ、短時間で原料粉末の混合・粉砕を行うことができるため、アトライタを用いることが好ましい。また、扁平化処理は、有機溶媒を用いて湿式で行うことが好ましい。
【0033】
上記有機溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン、アセトン、メタノール及び炭素数2〜4の1価アルコールを用いることができる。炭素数2〜4の1価アルコールには、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノールがある。
【0034】
有機溶媒の添加量は、熱処理粉末100質量部に対して、200〜2000質量部であることが好ましく、500〜1000質量部であることがより好ましい。有機溶媒の添加量が200質量部未満では、扁平粉の粒径が小さくなる傾向があり、2000質量部を超えると、処理時間が長くなり生産性が低下する。
【0035】
有機溶媒を添加することにより脆い軟磁性合金粉末を用いた場合でも、その粒子径が大きく、十分に扁平化された扁平粉を高い歩留りで作製できる。センダストは粉砕されやすく、従来の方法では粒径が大きく十分に扁平化された扁平粉を高い歩留りで得ることが困難であることが知られている。本発明によれば、センダストを用いた場合でも、十分に扁平化が可能となり、ノイズ抑制用磁性シートに好適に使用できる平均粒子径50μm以上の扁平状軟磁性材料が得られる。
【0036】
扁平粉の粒径を大きくするために、有機溶媒と共に扁平化助剤を用いてもよい。扁平化助剤としては、例えば、ステアリン酸等の脂肪酸を好適に用いることができる。扁平化助剤の添加量は、熱処理粉末100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.5〜2質量部であることがより好ましい。扁平化助剤の添加量が5質量部を超えても扁平粉の粒径はそれ以上大きくならない上に、有機溶媒の回収利用が困難になり、熱処理炉の汚染が激しくなる。また、有機溶媒として炭素数2〜4の1価アルコール類を使用した場合、扁平化助剤を添加しなくても粒径の大きな扁平粉が得られる。
【0037】
なお、扁平化処理後、得られた扁平状軟磁性材料を不活性雰囲気中で熱処理することが好ましい。これにより、保磁力Hcが小さくなり磁性シートのμ’が大きくなる。この場合の熱処理温度は700〜900℃であり、処理時間は10分〜3時間程度である。
【0038】
上述のようにして作製される扁平状軟磁性材料において、アスペクト比(=粒径/厚さ)が20以上であることが好ましく、20〜100であることがより好ましく、30〜50であることがさらに好ましい。アスペクト比が20未満では、反磁界が大きくなり、これを磁性シートにしたときのみかけの透磁率が低下し、100を超えると充填率(=扁平状軟磁性材料の体積/磁性シートの体積)が低下し透磁率が低下する傾向がある。
【0039】
上記扁平状軟磁性材料の50%粒子径D50は50μm以上であることが好ましく、55μm以上であることがより好ましく、60μm以上であることがさらに好ましい。D50が50μm未満では、保持力Hcの小さな扁平粉が得られ難く実部透磁率μ’が小さくなる傾向がある。なお、D50が大きくなりすぎると、バインダー樹脂との混合が容易でなくなり、磁性シートを作製し難くなるため、D50の上限は100μm程度である。なお、本明細書におけるD50は、乾式分散ユニットを用いたレーザー回折法により、日本レーザー社製の「HELOS SYSTEM」を用いて測定した値である。
【0040】
扁平状軟磁性材料の保磁力Hcは、100A/m以下であることが好ましく、80A/m以下であることがより好ましい。Hcが100A/mを超えると、磁性シートのμ’が小さくなる傾向がある。Hcは、市販のHcメータで測定することができる。
【0041】
扁平状軟磁性材料のかさ密度BDは、0.20〜0.60Mg/mであることが好ましく、0.25〜0.50Mg/mであることがより好ましい。BDが0.20Mg/m未満では、シート化したときの充填率が低下する傾向があり、0.60Mg/mを超えると、扁平化が不十分なため反磁界が大きくなり、みかけの透磁率が低下する。BDは、JIS K−5101に準拠する方法でカサ比重測定器を用いて測定することができる。
【0042】
扁平状軟磁性材料の比表面積SSAは、1.5m/g以下であることが好ましく、1.0m/g以下であることがより好ましい。SSAが1.5m/gを超えると、バインダー樹脂が多量に必要となり、磁性材料の充填率が低下する傾向がある。本明細書におけるSSAは、マウンテック社製の全自動比表面積計「Macsorb model−1201」を用いて測定した値である。
【0043】
本発明の扁平状軟磁性材料は、D50と、Hcと、BDとが上記式(1)で表される条件を満足するものであり、D50/(Hc×BD)で算出される値は、1.5(μm/Am−1/Mgm−3)以上であり、2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。
【0044】
ここで、図2は、扁平状軟磁性材料におけるD50/(Hc×BD)と磁性シートのμ’との関係を示すグラフである。一般的に、ノイズ抑制用磁性シートは、ノイズの発生する周波数帯域における磁性材料の複素透磁率の虚部μ”を利用してノイズ吸収を行うものであるが、μ”の最大値は低周波におけるμ’が大きいほど大きくなる。したがって、μ’の値の大きさでノイズ抑制シートの実力を評価することができる。μ’の値の大きな磁性シートは、保磁力が小さく50%粒子径の大きな扁平粉を高密度充填することで得られる。また、磁性シートにおける扁平粉の充填率が一定である場合、扁平粉におけるD50/(Hc×BD)で表される値が大きいほど、μ’は大きくなり、ノイズ抑制効果がより優れるものとなる。
【0045】
よって、D50/(Hc×BD)が1.5未満では、磁性シートのμ’が小さくなり、ノイズ抑制効果が不十分となる傾向がある。
【0046】
<ノイズ抑制用磁性シート>
磁性シートは、上記扁平状軟磁性材料を用いて作製することができる。磁性シートの作製方法は特に限定されないが、一例を示すと以下のようになる。
【0047】
扁平状軟磁性材料とバインダー樹脂とを混練し、プレス成形・押出成形によってシート状にする方法で作製できる。また、扁平状軟磁性材料とバインダー樹脂とを有機溶媒に分散させてスラリーを作製し、上記スラリーをドクターブレード法で支持基材上に所定の厚さに製膜し、乾燥後にカレンダーロールによって圧延してシート状にすることでも作製できる。
【0048】
磁性シートの厚さは、0.05〜2mm程度である。ノイズ抑制効果は磁性シートの厚さに比例するため、磁性シートの厚さが0.05mm未満では、十分な効果が得られ難い。一方、磁性シートの厚さが2mmを超えると、電気機器の筐体内部の狭い空間に収め難くなる。
【0049】
磁性シートにおける扁平状軟磁性材料の充填率は、30〜60体積%であることが好ましく、40〜50体積%であることがより好ましい。充填率が30体積%未満であるとノイズ抑制効果が不足し、60質量%を超えると軟磁性材料同士がバインダー樹脂によって強固に結び付くことができず、磁性シートの強度が低下する。
【0050】
バインダー樹脂は、扁平状軟磁性材料を結合するための絶縁性の樹脂である。扁平状軟磁性材料は、バインダー樹脂によってその表面の一部又は全部がコーティングされる。バインダー樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ABS樹脂、二トリル−ブタジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂が挙げられる。
【0051】
バインダー樹脂の添加量は、扁平状軟磁性材料100質量部に対して、10〜40質量部であることが好ましく、15〜25質量部であることがより好ましい。
【0052】
なお、磁性シートは、扁平状軟磁性材料及びバインダー樹脂に加えて、必要に応じて、可塑剤、硬化剤、分散剤、安定剤、カップリング剤、希釈剤等を含有してもよい。
【0053】
また、磁性シートを所要の形状に成形又は塗布する際に、配向磁界を印加又は機械的に配向することにより、方向性の高い磁性シートとすることができる。
【0054】
十分に高いノイズ抑制効果を得るためには、ノイズ抑制用磁性シートのμ’は、130以上であることが好ましく、150以上であることがより好ましい。
【0055】
以上のようにして作製される磁性シートは、高透磁率でありノイズ抑制用磁性シートとして非常に有用である。
【0056】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はこれに制限されるものではない。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
(実施例1〜6及び比較例1〜6)
表1に示すように、各種アトマイズ法で作製したFe−Si−Al(Si=8〜11質量%,Al=5〜7質量%)系合金粉末(センダスト粉末)を準備し、Ar雰囲気中700〜1300℃で2時間処理し、熱処理粉末を得た。熱処理粉末のポロシティは、水銀ポロシメータ(CE Instruments社製、商品名「ポロシメータPASCAL140/440型」)を用いて測定した。軟磁性合金粉末の平均結晶粒径は、上述の通りSEM写真を画像解析することで求めた。
【0059】
次いで、熱処理なし又は熱処理粉末に対し、質量比で5.7倍のトルエン及び扁平化助剤として1質量%のステアリン酸を添加し、アトライタを用いて扁平化処理を行ない、扁平粉を得た。なお、扁平化時間は、かさ密度BDが約0.4Mg/mになるよう調整した。扁平粉のかさ密度は、JIS K−5101に準じ、カサ比重測定器(測定試料:30ml)を用いて測定した。また、扁平粉の粒度分布は、レーザー法(日本レーザー社製、商品名「HELOS SYSTEM」)で測定した。次に、上記扁平粉をAr雰囲気中800℃で2時間、熱処理した。熱処理後の扁平粉の保磁力Hcは、Hcメータ(東北特殊鋼社製、商品名「K−HC1000」)を用いて測定した。
【0060】
得られた扁平粉100質量部、バインダー樹脂(ポリビニルブチラール)17質量部、可塑剤(フタル酸ジエチル)2質量部及び希釈剤(トルエン、キシレン、1−プロパノール及びソルミックス(日本アルコール販売社製、商品名)混合溶媒)150質量部を混合しスラリーを作製した。上記スラリーをPETフィルム上に塗布して、同極を対向させた磁場中を通すことで磁場配向を行い、磁性シート層を形成した。乾燥後、磁性シート層をPETフィルムから剥がし、6枚重ねて90℃、77MPaで1時間熱プレスを行い、磁性シートを作製した。
【0061】
(磁性シートの評価)
磁性シートを外径18mm、内径10mmの金型を用いてトロイダル形状に打ち抜き、インピーダンスアナライザ(Agilent Technologies社製、商品名「E4991A」)を用いて磁気特性を評価した。
【0062】
表1に、原料、扁平粉及び磁性シートの特性(磁性シートのμ’は磁性材料の充填率が40vol%のときの換算値)を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例1〜6では、ガスアトマイズ法又はガス噴霧水アトマイズ法で作製したセンダスト粉末を800〜1200℃で熱処理することにより、D50が50μm以上の扁平粉が得られ、D50/(Hc×BD)の値が1.5以上になった。このような扁平粉を用いて作製した磁性シートは、μ’が130以上であり透磁率が十分に高いことが確認できた。一方、比較例1〜4及び6では、得られた扁平粉のD50は50μm未満であり、D50/(Hc×BD)の値も1.5未満であり、シートのμ’は130未満であった。また、比較例5では、熱処理を1300℃で行ったため焼結してしまい、扁平化処理できなかった。
【0065】
(実施例7〜11及び比較例7〜11)
表2に示すように、各種アトマイズ法で作製したFe−Si−Al(Si=8〜11質量%,Al=5〜7質量%)系合金を準備し、Ar雰囲気中700〜1100℃で2時間処理し、熱処理粉末を得た。次いで、熱処理なし又は熱処理粉末に対し、質量比で5.7倍の2−プロパノールを添加し扁平化助剤を使用せずにアトライタを用いて扁平化を行ない、扁平粉を得た。なお、扁平化時間は、BDが0.2〜0.3Mg/mになるよう調整した。以下、実施例1と同様の処理及び評価を行った。
【0066】
【表2】

【0067】
実施例7〜11では、D50は50μm以上、D50/(Hc×BD)の値が1.5以上である扁平粉が得られ、上記扁平粉を用いることにより十分に高透磁率(μ’が130以上)である磁性シートが得られた。一方、比較例7〜11では、扁平粉のD50は50μm未満にしかならず、D50/(Hc×BD)の値も1.5未満であり、作製した磁性シートのμ’は120以下であった。
【0068】
(実施例12〜15及び比較例12〜16)
表3に示すように、ガス噴霧水アトマイズ法で作製したFe−Si−Al(Si=8〜11質量%,Al=5〜7質量%)系合金を準備し、Ar雰囲気中1000℃で2時間処理し、熱処理粉末を得た。次いで、熱処理粉末に対し、質量比で5.7倍の表3に示す扁平化処理溶媒を添加し助剤を使用せずにアトライタを用いて扁平化を行ない、扁平粉を得た。なお、扁平化時間はBDが0.2〜0.3Mg/mになるよう調整した。以下、実施例1と同様の処理及び評価を行った。
【0069】
【表3】

【0070】
実施例7、12〜15によれば、扁平化処理溶媒として炭素数2〜4の1価アルコール類を用いた場合、扁平化助剤を使用しなくとも扁平粉のD50は50μm以上になり、D50/(Hc×BD)の値が1.5以上を満足することにより、十分に高透磁率(μ’が130以上)である磁性シートが得られた。一方、それ以外の扁平化処理溶媒を使用した比較例12〜16では、扁平粉のD50は50μm未満であり、D50/(Hc×BD)の値も1.5未満となり、シートのμ’は130未満であった。
【0071】
(実施例16、17及び比較例17、18)
表4に示すように、水アトマイズ法で作製したMo−パーマロイ(Ni=79、Mo=4質量%)合金粉末を準備し、Ar雰囲気中900℃で1時間処理し、熱処理粉末を得た。次いで、熱処理粉末に対し、質量比で5.7倍のトルエンを添加し、扁平化助剤を使用せずにアトライタを用いて扁平化処理を行ない、扁平粉を得た。以下、実施例1と同様の処理及び評価を行った。
【0072】
【表4】

【0073】
実施例16及び17によれば、パーマロイを使用して扁平化した場合も、D50/(Hc×BD)の値が1.5を満足することにより、十分に高透磁率である磁性シートが得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】各種アトマイズ法により作製したFe−Si−Al系合金粉末の水銀ポロシメータの測定結果を示すグラフである。
【図2】扁平状軟磁性材料におけるD50/(Hc×BD)と磁性シートのμ’との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性シートに用いられる扁平状軟磁性材料であって、
50%粒子径D50(μm)、保磁力Hc(A/m)及びかさ密度BD(Mg/m)が下記式(1)を満足する、扁平状軟磁性材料。
50/(Hc×BD)≧1.5 (1)
【請求項2】
アスペクト比が20以上であり、前記D50が50μm以上である、請求項1記載の扁平状軟磁性材料。
【請求項3】
Fe−Si−Al系合金を含有する、請求項1又は2記載の扁平状軟磁性材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の扁平状軟磁性材料の製造方法であって、
アトマイズ法で作製された軟磁性合金粉末を、不活性雰囲気中800〜1200℃で熱処理して熱処理粉末を得る熱処理工程と、前記熱処理粉末を有機溶媒の存在下で扁平化する扁平化処理工程と、を備える扁平状軟磁性材料の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理粉末のポロシティが0.15m/Mg以下であり、平均結晶粒径が6μm以上である、請求項4記載の扁平状軟磁性材料の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、炭素数2〜4の1価アルコールである、請求項4又は5記載の扁平状軟磁性材料の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−266960(P2009−266960A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112863(P2008−112863)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】