説明

手動変速機

【課題】エンジンからの駆動力が入力される入力軸と、該入力軸と平行に配置された第1、第2カウンタ軸と、該入力軸と第1、第2カウンタ軸との間に設けられた複数のギヤ列と、これらのカウンタ軸にそれぞれ固設され、ドライブ軸上のデフリングギヤを駆動する第1、第2デフ駆動ギヤとが備えられた手段変速機において、軸方向寸法を更に短縮することができる手動変速機を提供する。
【解決手段】エンジン2側から順に、1速段用のギヤ列G1、所定前進変速段用のギヤ列G4、及び後退速段用のギヤ列GRを配置する。第1カウンタ軸11上の後退速段用ギヤ列GRの第1被動ギヤ47Aと1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41との間に、シフトレバーが後退速にシフト操作されたときに、後退速段用ギヤ列GRの第1被動ギヤ47Aと1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41とを結合する後退速段用同期装置57を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動変速機に関し、変速機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
手動変速機は、例えば、エンジンからの駆動力が入力される入力軸と、該入力軸と平行に配置されたカウンタ軸と、該入力軸とカウンタ軸との間に設けられた複数のギヤ列と、これらのカウンタ軸に固設され、ドライブ軸上のデフリングギヤを駆動するデフ駆動ギヤとを有している。
【0003】
ところで、変速機においては、ドライブフィーリング等の向上のために多段化の要求がある。しかし、多段化すると、入力軸及びカウンタ軸上に配置されるギヤや同期装置の数が増加し、その結果、これらの軸が長くなり、変速機の軸方向寸法が大きくなる。
【0004】
この問題に対処可能な技術として、例えば特許文献1に開示されているものがある。すなわち、この特許文献1に記載の変速機においては、カウンタ軸を2本設けると共に、各カウンタ軸にそれぞれドライブ軸上のデフリングギヤを駆動するデフ駆動ギヤが設けられている。このような構成によれば、特に同期装置を入力軸と2本のカウンタ軸とに分散して設けることができ、これらの軸の長さや、変速機の軸方向寸法を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−503662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このように入力軸と2本のカウンタ軸とを有する手動変速機においても、軸方向寸法の更なる短縮が要求されている。
【0007】
そこで、本発明は、入力軸と2本のカウンタ軸とを有する手動変速機において、軸方向寸法を更に短縮することができる手動変速機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0009】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンからの駆動力が入力される入力軸と、該入力軸と平行に配置された第1、第2カウンタ軸と、該入力軸と第1、第2カウンタ軸との間に設けられた複数のギヤ列と、これらのカウンタ軸にそれぞれ固設され、ドライブ軸上のデフリングギヤを駆動する第1、第2デフ駆動ギヤとが備えられた手段変速機であって、エンジン側または反エンジン側から順に、1速段用のギヤ列、1速を除く所定前進変速段用のギヤ列、及び後退速段用のギヤ列が配置されていると共に、前記1速段用ギヤ列は、前記入力軸上に固設された駆動ギヤと、前記第1カウンタ軸上に遊転自在に設けられて、該駆動ギヤと噛合う被動ギヤとで構成され、前記所定前進変速段用ギヤ列は、前記入力軸上に固設された駆動ギヤと、前記第2カウンタ軸上に遊転自在に設けられて、該駆動ギヤと噛合う被動ギヤとで構成され、前記後退速段用ギヤ列は、前記第1カウンタ軸上に遊転自在に設けられた第1被動ギヤと、前記第2カウンタ軸上に固設されて該遊転自在に設けられて、該該第1被動ギヤと噛合う第2被動ギヤとを有し、かつ、前記第1カウンタ軸上における前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤと前記1速段用ギヤ列の被動ギヤとの間に、シフトレバーが後退速にシフト操作されたときに、前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤと前記1速段用ギヤ列の被動ギヤとを結合する後退速段用同期装置が配置されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の手動変速機において、前記1速段用ギヤ列の被動ギヤの内周部における前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤ側に、切欠形状部が設けられていると共に、この切欠形状部に、前記後退速段用同期装置のスリーブが配設されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の手動変速機において、前記第1カウンタ軸が、前記入力軸よりも上方に配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の手動変速機において、前記1速段用ギヤ列の被動ギヤと前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤとの間に、1速段用ギヤ列の被動ギヤから後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤ側に作用するスラスト力を受けるスラスト受け部材が設けられていると共に、前記第1カウンタ軸に、前記スラスト受け部材に前記1速段用ギヤ列の被動ギヤ側から作用するスラスト力を受け止める段部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
次に、本発明の効果について説明する。
【0014】
まず、請求項1に記載の発明においては、エンジン側または反エンジン側から順に、1速段用のギヤ列、1速を除く所定前進変速段用のギヤ列、及び後退速段用のギヤ列が配置されていると共に、前記1速段用ギヤ列は、前記入力軸上に固設された駆動ギヤと、前記第1カウンタ軸上に遊転自在に設けられて、該駆動ギヤと噛合う被動ギヤとで構成され、前記所定前進変速段用ギヤ列は、前記入力軸上に固設された駆動ギヤと、前記第2カウンタ軸上に遊転自在に設けられて、該駆動ギヤと噛合う被動ギヤとで構成され、前記後退速段用ギヤ列は、前記第1カウンタ軸上に遊転自在に設けられた第1被動ギヤと、前記第2カウンタ軸上に固設されて、該該第1被動ギヤと噛合う第2被動ギヤとを有する構造とされている。すなわち、前記第1カウンタ軸上における前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤと前記1速段用ギヤ列の被動ギヤとの間には、前記所定前進変速段のギヤは存在していないので、空きスペースが生じることとなる。そこで、本発明においては、前記後退速段用同期装置を、前記第1カウンタ軸上における前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤと前記1速段用ギヤ列の被動ギヤとの間、すなわち前記所定前進変速段のギヤが存在していない空きスペースを利用して配置したものである。これによれば、空きスペースを利用しないで他のスペースに配設する場合と比べ、第1カウンタ軸の軸方向寸法を短縮することができる。しかも、この後退速段用同期装置は、前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤと前記1速段用ギヤ列の被動ギヤとを結合するように構成されているので、1速段用ギヤ列の駆動ギヤを、後退速段用の駆動ギヤとして利用することができ、変速機の構造を簡素化することができる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記1速段用ギヤ列の被動ギヤの内周部における前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤ側に、切欠形状部が設けられていると共に、この切欠形状部に、前記後退速段用同期装置のスリーブが配設されているから、すなわち後退速段用同期装置のスリーブと1速段用ギヤ列の被動ギヤの軸方向配設位置をオーバーラップさせたから、後退速段用同期装置配設のみのために必要な軸方向寸法が短くなる。したがって、第1カウンタ軸の長さをより短くすることも可能となる。
【0016】
ところで、前記ドライブ軸は、低い位置で車幅方向に延びているので、車体前後方向に延びるフロントサイドフレーム(車体構成部材)は、該ドライブ軸よりも高い位置に配設されることとなる。すなわち、変速機の上部側の搭載幅が小さいのが好ましい。
【0017】
そこで、請求項3に記載の発明においては、軸方向寸法が短縮される第1カウンタ軸を、前記入力軸よりも上方に配置したものであり、これにより、変速機の搭載性が向上することとなる。
【0018】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記1速段用ギヤ列の被動ギヤと前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤとの間に、1速段用ギヤ列の被動ギヤから後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤ側に作用するスラスト力を受けるスラスト受け部材が設けられていると共に、前記第1カウンタ軸に、前記スラスト受け部材に前記1速段用ギヤ列の被動ギヤ側から作用するスラスト力を受け止める段部が設けられているから、1速段用ギヤ列の被動ギヤに生じるスラスト力が、後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤに伝達されるのが防止されることとなる。また、後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤの軸受に、1速段用ギヤ列の被動ギヤから生じるスラスト力が作用するのも防止されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る手動変速機の構成を示す骨子図である。
【図2】本手動変速機の展開断面図である。
【図3】本手動変速機の車両搭載状態での各軸の位置関係を示す概略側面図である。
【図4】図2の後退速段用同期装置及びその周辺の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
図1は本発明の実施の形態に係る手動変速機の構成を示す骨子図である。本実施の形態に係る変速機1は、複数の軸を備える多軸式のいわゆる横置きタイプの手動変速機であり、前進6速、後進1速を達成可能に構成されている。なお、以下、変速機1のエンジン側を変速機前側、変速機1の反エンジン側を変速機後側として説明を行なう。
【0022】
この変速機1は、エンジン2からの回転駆動力がクラッチ装置3を介して入力される入力軸10と、該入力軸10と平行に配置された第1、第2カウンタ軸11,12と、該入力軸10と第1、第2カウンタ軸11,12との間に設けられた複数のギヤ列G1,G2,G3,G4,G5,G6,GRと、第1、第2カウンタ軸11,12上におけるこれらのギヤ列の変速機前側に設けられ、ドライブ軸4上のデフ装置5のデフリングギヤ6を駆動する第1、第2デフ駆動ギヤ48,58とを有している。
【0023】
入力軸10、第1カウンタ軸11、及び第2カウンタ軸12は、変速機前側の前端と変速機後側の後端の2ヶ所で、それぞれ、ベアリング部材21〜26によって回転自在に軸支されている。
【0024】
前記複数のギヤ列は、変速機前側から、後退速段用ギヤ列GR、4速段用ギヤ列G4、1速段用ギヤ列G1、2速段用ギヤ列G2及び3速段用ギヤ列G3、6速段用ギヤ列G6、5速段用ギヤ列G5の順で配置されている。
【0025】
1速段用ギヤ列G1は、入力軸10に固設された1速段用駆動ギヤ31と、第1カウンタ軸11上に遊転自在に設けられて、該駆動ギヤ31と噛合う1速段用被動ギヤ41とで構成されている。
【0026】
2速段用ギヤ列G2は、入力軸10に固設された2−3速段用駆動ギヤ32と、第1カウンタ軸11上に遊転自在に設けられて、該駆動ギヤ32と噛合う2速段用被動ギヤ42とで構成されている。
【0027】
3速段用ギヤ列G3は、入力軸10に固設された前記2−3速段用駆動ギヤ32と、第2カウンタ軸12上に遊転自在に設けられて、該駆動ギヤ32と噛合う3速段用被動ギヤ43とで構成されている。2−3速段用駆動ギヤ32は、2速段用駆動ギヤと3速段用駆動ギヤとを兼ねている。
【0028】
4速段用ギヤ列G4は、入力軸10上に遊転自在に設けられた4速段用駆動ギヤ34と、第2カウンタ軸12上に固設されて、該駆動ギヤ34と噛合う4速段用被動ギヤ44とで構成されている。
【0029】
5速段用ギヤ列G5は、入力軸10上に遊転自在に設けられた5速段用駆動ギヤ35と、第2カウンタ軸12上に固設されて、該駆動ギヤ35と噛合う5速段用被動ギヤ45とで構成されている。
【0030】
6速段用ギヤ列G5は、入力軸10上に遊転自在に設けられた6速段用駆動ギヤ36と、第2カウンタ軸12上に固設されて、該駆動ギヤ36と噛合う6速段用被動ギヤ46とで構成されている。
【0031】
後退速段用ギヤ列GRは、第1カウンタ軸11上に遊転自在に設けられた後退速段用第1被動ギヤ47Aと、第2カウンタ軸12上に固設されて、該第1被動ギヤ47Aと噛合う後退速段用第2被動ギヤ47Bとを有している。
【0032】
また、入力軸10上の5速段用駆動ギヤ35と6速段用駆動ギヤ36との間には、シフトレバーが5速または6速に操作されたときに当該変速段用の駆動ギヤを入力軸10に結合する5−6同期装置55が設けられている。また、第1カウンタ軸11上の1速段用被動ギヤ41と後退速段用第1被動ギヤ47Aとの間には、シフトレバーが後退速に操作されたときに後退速段用第1被動ギヤ47Aを1速段用被動ギヤ41に結合する後退速段用同期装置57が設けられている。また、第1カウンタ軸11上の1速段用被動ギヤ41と2速段用被動ギヤ42との間には、シフトレバーが1速または2速に操作されたときに当該変速段の被動ギヤを第1カウンタ軸11に結合する1−2同期装置51が設けられている。また、第2カウンタ軸12上の3速段用被動ギヤ43と4速段用被動ギヤ44との間には、シフトレバーが3速または4速に操作されたときに当該変速段用の被動ギヤを第2カウンタ軸12に結合する3−4同期装置53が設けられている。
【0033】
次に、このように構成された変速機1の動力伝達について説明する。
【0034】
まず、ニュートラル時には、いずれの同期装置も作動していないので、各変速段用ギヤ列を構成するギヤのうちの遊転自在に設けられたギヤは、いずれも各軸10,11,12には結合されない。このため、入力軸10が回転しても、ドライブ軸4のファイナルリングギヤ6には回転駆動力が伝達されず、ドライブ軸4は回転しない。
【0035】
また、1速時には、1速段用被動ギヤ41が1−2同期装置51を介して第1カウンタ軸11に結合される。このため、入力軸10が回転すると、1速段用駆動ギヤ31→1速段用被動ギヤ41→第1カウンタ軸11→第1デフ駆動ギヤ48→ファイナルリングギヤ6という流れで回転駆動力が伝達されることとなり、エンジン2の回転駆動力がドライブ軸4に最も減速されて出力される。
【0036】
また、2速時には、2速段用被動ギヤ42が1−2同期装置51を介して第1カウンタ軸11に結合される。このため、入力軸10が回転すると、2−3速段用駆動ギヤ32→2速段用被動ギヤ42→第1カウンタ軸11→第1デフ駆動ギヤ48→ファイナルリングギヤ6という流れで回転駆動力が伝達されることになり、エンジン2の回転駆動力がドライブ軸4に減速されて出力される。
【0037】
また、3速時には、3速段用被動ギヤ43が3−4同期装置53を介して第2カウンタ軸12に結合される。このため、入力軸10が回転すると、2−3速段用駆動ギヤ32→3速段用被動ギヤ43→第2カウンタ軸12→第2デフ駆動ギヤ58→ファイナルリングギヤ6という流れで回転駆動力が伝達されることになり、エンジン2の回転駆動力がドライブ軸4にやや減速されて出力される。
【0038】
また、4速時には、4速段用被動ギヤ44が3−4同期装置53を介して第2カウンタ軸12に結合される。このため、入力軸10が回転すると、4速段用駆動ギヤ34→4速段用被動ギヤ44→第2カウンタ軸12→第2デフ駆動ギヤ58→ファイナルリングギヤ6という流れで回転駆動力が伝達されることになり、エンジン2の回転駆動力がドライブ軸4にほぼ同じ回転速度で出力される。
【0039】
また、5速時には、5速段用駆動ギヤ35が5−6同期装置55を介して入力軸10に結合される。このため、入力軸10が回転すると、5速段用駆動ギヤ35→5速段用被動ギヤ45→第2カウンタ軸12→第2デフ駆動ギヤ58→ファイナルリングギヤ6という流れで回転駆動力が伝達されることになり、エンジン2の回転駆動力がドライブ軸4にやや増速されて出力される。
【0040】
また、6速時には、6速段用駆動ギヤ36が5−6同期装置55を介して入力軸10に結合される。このため、入力軸10が回転すると、6速段用駆動ギヤ36→6速段用被動ギヤ46→第2カウンタ軸12→第2デフ駆動ギヤ58→ファイナルリングギヤ6という流れで回転駆動力が伝達されることになり、エンジン2の回転駆動力がドライブ軸4に最も増速されて出力される。
【0041】
一方、後退速時には、後退速用第1被動ギヤ47Aが後退速段用同期装置57を介して1速段用被動ギヤ41に結合される。このため、入力軸10が回転すると、1速段用駆動ギヤ31→1速段用被動ギヤ41→後退速段用同期装置57→後退速段用第1被動ギヤ47A→第2後退速段用被動ギヤ47B→第2デフ駆動ギヤ58→ファイナルリングギヤ6という流れで回転駆動力が伝達されることになり、エンジン2の回転駆動力がドライブ軸4に逆転されて出力される。
【0042】
図2は、本実施の形態に係る変速機1の展開断面図であり、次に、この図によりこの変速機1の詳細構造について説明する。
【0043】
すなわち、変速機1は、前述の入力軸10、第1カウンタ軸11、第2カウンタ軸12、ギヤ列G1,G2,G3,G4,G5,G6,GR、同期装置51,53,55、57、クラッチ装置3(図2には図示せず)、及びデフ装置5(図2には図示せず)等を収容する変速機ケース7を有している。
【0044】
この変速機ケース7は、変速機前側に配置されるクラッチハウジング8と変速機後側に配置されるミッションケーシング9とで構成されている。クラッチハウジング8には、入力軸10を軸方向に挿通する貫通穴8aが穿設されていると共に、第1、第2カウンタ軸11,12の前端部を支持する前端支持部8b,8c、及び入力軸10の中間部を支持する中間支持部8dが形成されている。ミッションケース9は、有底筒状ケース体によって構成され、各軸10,11,12の後端部を支持する後端支持部9a,9b,9cが形成されている。そして、これらの支持部8b,8c,8d,9a,9b,9cに前記各ベアリング部材21〜26を介して入力軸10,第1カウンタ軸11、第2カウンタ軸12が回転可能に支持されるようになっている。
【0045】
各ギヤ列G1,G2,G3,G4,G5,G6,GRを構成するギヤのうち各軸10,11,12に固設されたギヤ31,32,34,45,46,47Bは、スプライン嵌合によりまたは軸と一体形成されることにより固設されている。一方、各軸10,11,12に遊転可能に設けられたギヤ41,42,43,44,35,36,47Aは、ニードルベアリング等を介して各軸10,11,12や該軸10に設けられた支持部材等に支持されることにより、遊転可能とされている。
【0046】
第1デフ駆動ギヤ48及び第2デフ駆動ギヤ58は、第1カウンタ軸11及び第2カウンタ軸12と一体形成されることにより設けられている。
【0047】
各同期装置51,53,55,57は、いわゆるトリプルコーン式あるいはダブルコーン式のものであり、詳しい説明は省略するが、各軸10,11,12にスプライン嵌合されたクラッチハブと、該ハブ上で軸方向に摺動可能に設けられたスリーブと、左右のギヤとの間にそれぞれ配置された各変速段用の3個のコーン等を有し、スリーブを軸方向にスライドさせると、軸方向にスライドされた側の各コーン面同士がそれぞれ圧接されつつ、スリーブ内面のスプラインが、ハブのスプラインと、アウターコーンのスプラインと、ギヤに形成された係合歯部とに跨ることにより、スライドされた側のギヤが各軸等に結合されるように構成されている。
【0048】
図3は本実施の形態に係る手動変速機1を車両に搭載した状態での各軸の位置関係を示した概略側面図である。この図3に示すように、入力軸10は、車両前方側に位置して上下方向略中央に配置されている。第1カウンタ軸11は、入力軸10の車両後方側でやや上方位置に配置されている。第2カウンタ軸12は、入力軸10の車両後方側でやや下方位置に配置されている。そして、第1、第2カウンタ軸11,12のデフ駆動ギヤ48,58が噛合うファイナルリングギヤ6を設けたドライブ軸4は、その車両後方側に配置されている。なお、Zは路面を示している。
【0049】
ところで、この図3に示すように、ドライブ軸4は、低い位置で車幅方向に延びているので、車体を構成して車体前後方向に延びるフロントサイドフレームSF(車体構成部材)は、該ドライブ軸4よりも高い位置に配設する必要がある。すなわち、変速機1の上部側の搭載幅が小さいのが好ましい。そこで、本実施の形態においては、配置されるギヤ数が最も少なく、かつこれから説明する以下の構造により軸方向寸法を最も短くすることができる第1カウンタ軸11を、入力軸10、第2カウンタ軸12,及びドライブ軸4よりも上方に配置している。
【0050】
すなわち、本実施の形態においては、図1、図2に示すように、後退速段用同期装置57を、第1カウンタ軸11上の後退速段用第1被動ギヤ47Aと前記1速段用被動ギヤ41との間に配置している。換言すれば、第1カウンタ軸11上における、軸方向において4速段用ギヤ列G4とほぼ同じ位置、すなわち4速段のギヤが存在していない空きスペースを利用して配置している。さらに、詳しく説明すると、図4に示すように、1速段用被動ギヤ41の内周部における後退速段用第1被動ギヤ47A側に切欠形状部41bを設け、この切欠形状部41bにより形成される空間を利用して、後退速段用同期装置57を配置するようにしている。
【0051】
その場合に、この後退速段用同期装置57は、前述のようにいわゆるトリプルコーン式のものであるが、クラッチハブ71は、1速段用被動ギヤ41の切欠形状部41bに一端が固着されて、後退速段用第1被動ギヤ47A側へ軸方向に延びる構造とされており、スリーブ72はこのクラッチハブ71上を軸方向に摺動可能に構成されている。また、クラッチハブ71と後退速段用第1被動ギヤ47Aとの間に、アウターコーン73、ミドルコーン74、及びインナーコーン75等を有している。アウターコーン73及びインナコーン75はクラッチハブ71に連動回転するように連結され、ミドルコーン74は、後退速段用第1被動ギヤ47Aに連動回転するように連結されている。そして、スリーブ72を後退速段用第1被動ギヤ47A側に軸方向にスライドさせると、アウタコーン73の下面のコーン面とミドルコーン74の上面のコーン面とが,またミドルコーン74の下面のコーン面とインナーコーン75の上面のコーン面とが、またインナーコーン75A下面のコーン面と後退速段用第1被動ギヤ47Aのコーン面47Acとがそれぞれ圧接されつつ、スリーブ72内面のスプライン72aが、ハブ71のスプライン71aと、1速段用アウターコーン73のスプライン73aと、後退速段用第1被動ギヤ47Aに形成された係合歯部47Aaとに跨ることにより、後退速段用第1被動ギヤ47Aが後退速段用同期装置51を介して1速段用被動ギヤ41に結合される。
【0052】
ここで、本実施の形態においては、後退速段用第1被動ギヤ47Aはヘリカルギヤとされており、そのためこのギヤ47Aには動力伝達時にスラスト力が作用する。その場合に、このスラスト力は、ヘリカルギヤの歯の傾き方向の設定上、矢印αで示すように、第1デフ駆動ギヤ48側に作用するようになっている。
【0053】
そこで、この後退速段用第1被動ギヤ47Aは、ニードルベアリング81を介して入力軸10上に遊転自在に支持されていると共に、第1デフ駆動ギヤ48側の面が、スラストベアリング82を介して、第1デフ駆動ギヤ48における第1被動ギヤ47A側の端面に配設された支持部材83に支持されるようになっている。
【0054】
また、本実施の形態においては、1速段用被動ギヤ41もヘリカルギヤとされており、そのためこのギヤ41には動力伝達時にスラスト力が作用する。その場合に、このスラスト力は、ヘリカルギヤの歯の傾き方向の設定上、矢印βで示すように、後退速段用第1被動ギヤ47A側に作用するようになっている。
【0055】
そこで、第1カウンタ軸11には、1速段用被動ギヤ41が設けられる軸方向位置に、後退速段用第1被動ギヤ47A側に立上り部84aを有する断面L字状の支持部材84がスプライン嵌合されており、この支持部材84に、ローラベアリング85とスラストベアリング86とを介して、1速段用被動ギヤ41が支持されるようになっている。
【0056】
ところで、後退速段用第1被動ギヤ47Aがこのように支持されている場合において、前述のように後退速段用第1被動ギヤ47Aを後退速段用同期装置51を介して1速段用被動ギヤ41に結合するように構成した場合、後退速時には、後退速段用第1被動ギヤ47Aだけでなく、1速段用被動ギヤ41からも後退速段用第1被動ギヤ47A側へのスラスト力が作用するが、このスラスト力が後退速段用第1被動ギヤ47A用のスラストベアリング82に作用するのは該ベアリング82の耐久性上等好ましくない。
【0057】
そこで、本実施の形態においては、1速段用被動ギヤ41に生じる後退速段用第1被動ギヤ47A側へのスラスト力が後退速段用第1被動ギヤ47Aのスラストベアリング82に作用するのを防止するための構造が設けられている。
【0058】
すなわち、第1カウンタ軸11には、前記支持部材84の後退速段用第1被動ギヤ47A側の端に対応する位置に、後退速段用第1被動ギヤ47A側の方が大径となるように形成された段部11aが設けられ、この段部11aに支持部材84における後退速段用第1被動ギヤ47A側の端部の内周部が当接するように構成されている。
【0059】
この構成によれば、支持部材84に1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41側から作用するスラスト力が段部11aにより受け止められることとなり、その結果、1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41に生じるスラスト力が、後退速段用ギヤ列GRの第1被動ギヤ47Aに伝達されるのが防止されることとなる。また、後退速段用ギヤ列GRの第1被動ギヤ47Aのスラストベアリング86(軸受)に、1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41から生じるスラスト力が作用するのも防止されることとなる。
【0060】
次に、本実施の形態に係る手動変速機1の作用、効果について説明する。
【0061】
すなわち、本実施の形態においては、エンジン2側から順に、1速段用のギヤ列G1、4速段用のギヤ列G4(1速を除く所定前進変速段用のギヤ列)、及び後退速段用のギヤ列GRが配置されていると共に、1速段用ギヤ列G1は、入力軸10上に固設された駆動ギヤ31と、第1カウンタ軸11上に遊転自在に設けられて、該駆動ギヤ31と噛合う被動ギヤ41とで構成され、4速段用のギヤ列G4は、入力軸10上に固設された駆動ギヤ34と、第2カウンタ軸12上に遊転自在に設けられて、該駆動ギヤ34と噛合う被動ギヤ44とで構成され、後退速段用ギヤ列GRは、第1カウンタ軸11上に遊転自在に設けられた第1被動ギヤ47Aと、第2カウンタ軸12上に固設されて、該第1被動ギヤ47Aと噛合う第2被動ギヤ47Bとを有する構造とされている。すなわち、第1カウンタ軸11上における後退速段用ギヤ列GRの第1被動ギヤ47Aと1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41との間には、4速段用のギヤ列G4のギヤは存在していないので、空きスペースが生じることとなる。そこで、本実施の形態においては、後退速段用同期装置57を、第1カウンタ軸11上における後退速段用ギヤ列GRの第1被動ギヤ47Aと1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41との間、すなわち4速段のギヤが存在していない空きスペースを利用して配置したものである。これによれば、空きスペースを利用しないで他のスペースに配設する場合と比べ、第1カウンタ軸11の軸方向寸法を短縮することができる。しかも、この後退速段用同期装置57は、後退速段用ギヤ列GRの第1被動ギヤ47Aと1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41とを結合するように構成されているので、1速段用ギヤ列G1の駆動ギヤ31を、後退速段用の駆動ギヤとして利用することができ、変速機1の構造を簡素化することができる。
【0062】
また、1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41の内周部における後退速段用ギヤ列GRの第1被動ギヤ47A側に、切欠形状部41bが設けられていると共に、この切欠形状部41bに、後退速段用同期装置57のスリーブ72が配設されているから、すなわち後退速段用同期装置57のスリーブ72と1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41の軸方向配設位置をオーバーラップさせたから、後退速段用同期装置57配設のみのために必要な軸方向寸法が短くなる。したがって、第1カウンタ軸11の長さをより短くすることができる。
【0063】
また、軸方向寸法が最も短い第1カウンタ軸11が、入力軸10、及び第2カウンタ軸12よりも上方に配置されているから、車体への変速機1の搭載性が向上することとなる。
【0064】
また、第1カウンタ軸11に、前記支持部材84に1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41側から作用するスラスト力を受け止める段部11aが設けられているから、1速段用ギヤ列G1の被動ギヤ41に生じるスラスト力が、後退速段用ギヤ列GRの第1被動ギヤ47Aに伝達されるのが防止されることとなる。
【0065】
なお、本実施の形態においては、エンジン側から順に、1速段用のギヤ列、1速を除く所定前進変速段用のギヤ列、及び後退速段用のギヤ列が配置されているが、本発明は、反エンジン側から順に、1速段用のギヤ列、1速を除く所定前進変速段用のギヤ列、及び後退速段用のギヤ列が配置されている場合にも適用可能である。また、本実施の形態においては、所定前進変速段は4速であるが、本発明は、請求項1に記載の要件を満足する限り、2速、3速、5速、6速のいずれにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、エンジンからの駆動力が入力される入力軸と、該入力軸と平行に配置された第1、第2カウンタ軸と、該入力軸と第1、第2カウンタ軸との間に設けられた複数のギヤ列と、これらのカウンタ軸にそれぞれ固設され、ドライブ軸上のデフリングギヤを駆動する第1、第2デフ駆動ギヤとが備えられた手段変速機において、軸方向寸法を更に短縮することができる手動変速機を提供することができ、自動車産業において広く利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0067】
1 手動変速機
2 エンジン
4 ドライブ軸
6 デフリングギヤ
10 入力軸
11 第1カウンタ軸
11a 段部
12 第2カウンタ軸
31 1速段用駆動ギヤ
41 1速段用被動ギヤ
41b 切欠形状部
34 4速段用駆動ギヤ(所定前進変速段の駆動ギヤ)
44 4速段用被動ギヤ(所定前進変速段の被動ギヤ)
47A 後退速段用第1被動ギヤ
47B 後退速段用第2被動ギヤ
48 第1デフ駆動ギヤ
57 後退速段用同期装置
58 第2デフ駆動ギヤ
72 スリーブ
84 支持部材(スラスト受け部材)
G1 1速段用ギヤ列
G2 2速段用ギヤ列
G3 3速段用ギヤ列
G4 4速段用ギヤ列(所定前進変速段のギヤ列)
G5 5速段用ギヤ列
G6 6速段用ギヤ列
GR 後退速段用ギヤ列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの駆動力が入力される入力軸と、該入力軸と平行に配置された第1、第2カウンタ軸と、該入力軸と第1、第2カウンタ軸との間に設けられた複数のギヤ列と、これらのカウンタ軸にそれぞれ固設され、ドライブ軸上のデフリングギヤを駆動する第1、第2デフ駆動ギヤとが備えられた手段変速機であって、
エンジン側または反エンジン側から順に、1速段用のギヤ列、1速段を除く所定前進変速段用のギヤ列、及び後退速段用のギヤ列が配置されていると共に、
前記1速段用ギヤ列は、前記入力軸上に固設された駆動ギヤと、前記第1カウンタ軸上に遊転自在に設けられて、該駆動ギヤと噛合う被動ギヤとで構成され、
前記所定前進変速段用ギヤ列は、前記入力軸上に固設された駆動ギヤと、前記第2カウンタ軸上に遊転自在に設けられて、該駆動ギヤと噛合う被動ギヤとで構成され、
前記後退速段用ギヤ列は、前記第1カウンタ軸上に遊転自在に設けられた第1被動ギヤと、前記第2カウンタ軸上に固設されて、該第1被動ギヤと噛合う第2被動ギヤとを有し、
かつ、前記第1カウンタ軸上における前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤと前記1速段用ギヤ列の被動ギヤとの間に、シフトレバーが後退速にシフト操作されたときに、前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤと前記1速段用ギヤ列の被動ギヤとを結合する後退速段用同期装置が配置されていることを特徴とする手動変速機。
【請求項2】
前記請求項1に記載の手動変速機において、
前記1速段用ギヤ列の被動ギヤの内周部における前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤ側に、切欠形状部が設けられていると共に、
この切欠形状部に、前記後退速段用同期装置のスリーブが配設されていることを特徴とする手動変速機。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載の手動変速機において、
前記第1カウンタ軸が、前記入力軸よりも上方に配置されていることを特徴とする手動変速機。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の手動変速機において、
前記1速段用ギヤ列の被動ギヤと前記後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤとの間に、1速段用ギヤ列の被動ギヤから後退速段用ギヤ列の第1被動ギヤ側に作用するスラスト力を受けるスラスト受け部材が設けられていると共に、
前記第1カウンタ軸に、前記スラスト受け部材に前記1速段用ギヤ列の被動ギヤ側から作用するスラスト力を受け止める段部が設けられていることを特徴とする手動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−236589(P2010−236589A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83947(P2009−83947)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】