説明

打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルム

【課題】組立て作業中等において傷がつき難く、打ち抜き特性が優れており、光学性能の良い耐擦傷性複層レンズフイルムを提供する。
【解決手段】レンズ模様を外側面に備えたレンズ層2と、前記レンズ層2の内側面に積層されるポリカーボネートの基材層3とからなる複層レンズフイルムであって、レンズ層2は、一定以上の硬度と屈折率を有し、ポリカーボネートとの親和性を有する透明な樹脂からなり、レンズ層2を構成する樹脂と基材層3のポリカーボネートは溶融共押し出しにより一体化されていることを特徴とする打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶テレビ、コンピューターやワードプロセッサーなどの液晶表示装置に好適な耐擦傷性複層レンズフイルムに関し、更に詳しくは、表面に傷が付き難く、所望の形に打ち抜いても割れや欠け(クラック)等が発生せず、取り扱いの容易なレンズ機能を有する耐擦傷性複層レンズフイルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置が多方面に用いられるようになって、それぞれの用途に応じて多様な性能が求められている。OA機器、パーソナルコンピューター、ワードプロセッサー等では、軽量化、薄型化、高精彩化、省電力化の要求が強く、更に、液晶テレビにあっては、広視野化、広画面化、高輝度化の要求が強くなっている。
【0003】
これらの要求に応ずるために、バックライトからの光を用途に応じて拡散したり、逆に光の指向性を変更、即ち不要な方向の光を方向変換して観察者の正面に集光するために、レンズ機能を有するフイルムやシート(以下、総称してレンズフイルムという)を使用するのが一般化している。
【0004】
このようなレンズフイルムを作成するために、一般に、2軸延伸のポリエチレンテレフタレートを基材としてその表面に光や熱または電子線で硬化する樹脂からなるレンズ構造を形成する方法、前記の基材上に透明な樹脂を一体化した上で立体模様が刻設された金型等を押し付けることによりレンズ機能を有する立体模様(以下、レンズ模様と称することがある)を形成する方法、基材を用いずに該レンズ模様が設けられたレンズフイルムを一体的に形成する方法などが使用されている。この中でもレンズフイルムを一体的に形成する方法はレンズフイルム自体の厚さを調節しやすく、また基材との接着性の関係でレンズ模様が基材から外れるようなこともない点で好ましい。
【0005】
レンズフイルムを一体的に成形する方法を採用する場合、該レンズフイルムの材料として使用する樹脂に要求される特性としては、透明性、寸法安定性、防湿性、使用時の高温に耐える耐熱性等が高いことが挙げられ、その上で、レンズフイルムを所望の形に打ち抜く際の衝撃で破損しないような耐衝撃性(打ち抜き性)、取り扱い時に液晶表示装置の表面と擦れても傷が付きにくいような耐擦傷性が望まれる。更に、レンズ機能を向上するためには、屈折率が高い材料が好ましい。
【0006】
上記の好ましい特性のうちの多くを充足する材料としてはポリカーボネートがよく知られており、比較的安価であるためプリズムフイルムの材料として従来からよく利用されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。しかし、ポリカーボネートからなるレンズフイルムは、表面硬さ、耐擦傷性に劣る欠点があり、耐擦傷性については、表面の鉛筆硬度がBもしくは2B程度と劣っており、バックライトや液晶パネルの表面に該レンズフイルムを貼着する際に、該レンズフイルムの面に擦り傷が生じることがある。
特に、レンズフイルムの表面に付されたレンズ模様は精密で凹凸の激しい立体模様であるため、他の部材と僅かに擦れただけで傷が付いてしまい、この傷により光学的な特性が部分的に変化して所望の光学特性が得られなくなることがある。この傷付いた部分は他の部分とは見え方が明らかに異なるため、レンズ模様が設けられた面(以下、レンズ面ということがある)に付いた傷は非常に目立ち易い。
また、液晶表示装置のバックライトには、通常、導光板上に光拡散フイルムが設置されるが、この光拡散フイルムには表面に散乱を起こすように凹凸が刻まれている。この凹凸は樹脂の表面を粗面成形するか、または樹脂の表面に有機物又は無機物の粒子を配して形成される。また、液晶パネルの表面にはカラーフイルタが設けられているが、このカラーフィルタにもマトリックスの設定に伴う凹凸がある。これらのいずれの凹凸も、ポリカーボネートより硬度が高く、レンズフイルムの表面及び裏面に擦り傷がつきやすい。
【0007】
この欠点を解消する方法として、レンズフイルムの表面に熱、光、電離性放射線により硬化する樹脂を塗工することによりハードコート処理する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、平坦な面ならともかく、凹凸の激しいレンズ面にそのような樹脂を塗布するとレンズ面の凹凸を塗布された樹脂が埋めてしまい、光学性能が著しく低下してしまうため、レンズ面に対してこの方法を採用することはできない。
更には、気相中で物理的に蒸着する方法、化学反応により蒸着する方法があるが、明確な効果は得られないばかりでなく、いずれも生産性が悪くコスト高になるという欠点がある。
【特許文献1】特許第3030792号公報
【特許文献2】特開平11−326607号公報
【非特許文献1】日経マテリアル No.136(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる実情に鑑み、従来技術の問題点を解消し、液晶テレビの大画面にも対応し得る耐擦傷性を備え、組み立て作業等において傷が発生し難いばかりでなく、組み立て後の装置内でも傷が発生しにくく、且つレンズフイルムの重要な性質である光の集光性能、屈折による方向変換性能、光透過性といった光学性能を損なうことのない、打ち抜き容易な耐擦傷性複層レンズフイルムを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記従来の課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリカーボネートは、ポリカーボネートよりも硬度が大きく、且つ屈折率も大きいメチルメタクリレートやアクリロニトリルを一定の割合以上含有する単量体を重合させた樹脂、又は熱可塑性ポリエステル樹脂との親和性がよい点に着目し、これらの樹脂をレンズ層とし、ポリカーボネートを基材層として溶融共押し出しすることにより接着剤を使用せずに接着してレンズフィルムとすることにより、レンズフィルムのレンズ面に傷が付きにくくすることができるとともに光透過性が優れたレンズフイルムが形成でき、更に、ポリカーボネートの裁断性に優れる性質を利用して打ち抜き可能であることを見出して、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するためになされたもので、本発明の請求項1は、レンズ機能を有する立体模様を外側面に備えたレンズ層と、前記レンズ層の内側面に積層されるポリカーボネートの基材層とからなる複層レンズフイルムであって、レンズ層は、ポリカーボネート以上の硬度とポリカーボネートの98%以上の屈折率を有し、ポリカーボネートとの親和性を有する透明な樹脂からなり、レンズ層を構成する樹脂と基材層を構成するポリカーボネートは溶融共押し出しにより一体化されていることを特徴とする打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルムを内容とする。
【0010】
本発明の請求項2は、レンズ層を構成する樹脂が、スチレン70〜85重量%とメチルメタクリレート及び/又はアクリロニトリルが30〜15重量%を重合させてなるスチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルムを内容とする。
【0011】
本発明の請求項3は、レンズ層を構成する樹脂が、70℃以上のガラス転移温度を示す熱可塑性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルムを内容とする。
【0012】
本発明の請求項4は、基材層のレンズ層側とは反対側の面に、ポリカーボネート以上の硬度を有し、ポリカーボネートとの親和性を有する透明な樹脂からなる裏面層を積層することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルムを内容とする。
【0013】
本発明の請求項5は、裏面層を構成する樹脂が、電離放射線硬化型樹脂又は熱硬化型樹脂である請求項4に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルムを内容とする。
【0014】
本発明の請求項6は、裏面層を構成する樹脂が、メタクリル酸メチル60〜100重量%とこれと共重合可能な単量体40〜0重量%を重合させてなるアクリル系樹脂、スチレン40〜85重量%とメチルメタクリレート及び/又はアクリロニトリルが60〜15重量%を重合させてなるスチレン系樹脂、70℃以上のガラス転移温度を示す熱可塑性ポリエステル樹脂から選択され、前記裏面層を構成する樹脂はレンズ層を構成する樹脂及び基材層を構成するポリカーボネートと溶融共押出しにより一体化されていることを特徴とする請求項5に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルムを内容とする。
【0015】
本発明の請求項7は、基材層を構成するポリカーボネートの重さが、レンズ層を構成する樹脂の重さの2倍以上、又は、レンズ層を構成する樹脂の重さと裏面層を構成する樹脂の重さの和の2倍以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルムを内容とする。
【0016】
本発明の請求項8は、基材層のレンズ層側とは反対面に光拡散機能のある凹凸構造が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルムを内容とする。
【0017】
本発明の請求項9は、裏面層の外側面に光拡散機能のある凹凸構造が設けられていることを特徴とする請求項4乃至請求項7のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルムを内容とする。
【0018】
本発明の請求項10は、光拡散機能のある凹凸構造がランダムの凹凸構造又は線状の凹凸構造であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルムを内容とする。
【0019】
本発明の請求項11は、ランダムの凹凸構造における10点平均粗さRzが、0.1〜2.0μmであることを特徴とする請求項10に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルムを内容とする。
【0020】
本発明の請求項12は、レンズ層、基材層、裏面層のうちの少なくとも1層に光拡散性粒子が含有されていることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルムを内容とする。
【0021】
本発明の請求項13は、レンズ機能を有する立体模様が、断面が3角形で底辺を隣接した多数の3角柱を頂稜が略平行になるように配列したプリズム;断面が半円状又は半楕円状で底辺を隣接した多数の半円柱又は半楕円柱を略平行になるように配列した凸状のレンチキュラーレンズ;断面が凹状面を有する半円状又は半楕円状で側面を隣接した多数の凹状半円柱又は凹状半楕円柱を略平行になるように配列した凹状のレンチキュラーレンズ;ピラミッド型4角錐状物、キュービックコーナー様3角錐状物、半球状物から選択される立体形状を平面に突設した模様またはこの立体形状を平面から穿設した模様から選択されることを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルムを内容とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルム(以下、「耐擦傷性レンズフイルム」、又は単に「レンズフイルム」と称することがある)によれば、ポリカーボネートからなる基材層を有しているので、ポリカーボネートの有する優れた耐衝撃性(打抜き性)、耐熱性、寸法安定性を維持することができる。
また、レンズ機能を有する立体模様が外面側に設けられたレンズ層を有し、このレンズ層を構成する樹脂として、ポリカーボネート以上の硬度とポリカーボネートの98%以上の屈折率を有する樹脂を使用しているため、このレンズ模様が設けられた面(レンズ面)は傷付きにくくなるとともに、ポリカーボネートからなるレンズ層と比べても遜色ない光学機能を発揮することができる。
さらに、レンズ層を構成する樹脂としてポリカーボネートとの親和性を有する樹脂を使用するため、接着剤を使って張り合わせるという煩雑な工程が省かれ、効率的に製造することができる。
上記の特性を満たすレンズ層を構成する樹脂としては、スチレン70〜85重量%とメチルメタクリレート及び/又はアクリロニトリルが30〜15重量%を重合させてなるスチレン系樹脂、及び70℃以上のガラス転移温度を示す熱可塑性ポリエステル樹脂が好適である。
【0023】
また、基材層のレンズ層側とは反対側の面(以下、反対面と称することがある)に、ポリカーボネート以上の硬度を有する透明な樹脂からなる裏面層が設けられていると、本発明のレンズシートを液晶表示装置などに組み込む時又は組み込んだ後の装置内において、レンズシートはレンズ面だけでなく裏面も保護されるので傷が付きにくい。
このような特性を満たす裏面層を構成する樹脂としては、電離放射線硬化型樹脂又は熱硬化型樹脂など、従来からハードコート処理に用いられてきた樹脂が好適である。
更に、裏面層を構成する樹脂として、メタクリル酸メチル60〜100重量%とこれと共重合可能な単量体40〜0重量%を重合させてなるアクリル系樹脂が使用でき、その他、レンズ面を構成する樹脂としても使用されるスチレン70〜85重量%とメチルメタクリレート及び/又はアクリロニトリルが30〜15重量%を重合させてなるスチレン系樹脂及び70℃以上のガラス転移温度を示す熱可塑性ポリエステル樹脂を好適に使用することもできる。これらの樹脂はポリカーボネートとの親和性を有するため、溶融共押出しにより容易に複層化することができる。
【0024】
基材層を構成するポリカーボネートの重さが、レンズ層を構成する樹脂の重さ、又は、レンズ層を構成する樹脂の重さと裏面層を構成する樹脂の重さの和の2倍以上であれば、耐衝撃性(打ち抜き性)が極めて優れており、打ち抜き時に割れや欠け(クラック)が殆ど発生しない。
【0025】
基材層の反対面又は裏面層の外側面に拡散機能のある凹凸構造が設けられているか、あるいは基材層、レンズ層、裏面層のうちの少なくとも1層に光拡散性粒子が含有されると、レンズ機能と拡散機能を併せ持つことができる。
拡散機能のある凹凸構造としては、ランダムの凹凸構造または線状の凹凸構造が好適で、凹凸構造における10点平均粗さRzが、0.1〜2.0μmとすれば、レンズ面の光学性能を大きく妨げることもない。その上に、仮にレンズ面又は裏面に些細な傷が発生しても、視認し難い特徴もある。
【0026】
本発明のレンズシートで採用可能なレンズ機能を有する立体模様としては、断面が3角形で底辺を隣接した多数の3角柱を頂稜が略平行になるように配列したプリズム;断面が半円状又は半楕円状で底辺を隣接した多数の半円柱又は半楕円柱を略平行になるように配列した凸状のレンチキュラーレンズ;断面が凹状面を有する半円状又は半楕円状で側面を隣接した多数の凹状半円柱又は凹状半楕円柱を略平行になるように配列した凹状のレンチキュラーレンズ;ピラミッド型4角錐状物、キュービックコーナー様3角錐状物、半球状物から選択される立体形状を平面に突設した模様またはこの立体形状を平面から穿設した模様が好適で、これにより所望の光学性能を有するレンズシートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の耐擦傷性複層レンズフイルムは、図1に基本的な構成を示したように、レンズ機能を有する立体模様を外側面に備えたレンズ層2と、ポリカーボネートからなり前記レンズ層2の内側面に積層される基材層3とからなる複層レンズフイルムであって、レンズ層2は、ポリカーボネート以上の硬度と、ポリカーボネートの98%以上の屈折率を有し、ポリカーボネートとの親和性を有する透明な樹脂からなり、レンズ層2を構成する樹脂と基材層3のポリカーボネートは溶融共押し出しにより一体化されていることを特徴とする。
【0028】
なお、以下の説明において、レンズ層2のJIS−K5600−5−4に基づき耐擦傷性を表す特性値としては表面硬度を鉛筆硬度で代表するのがよく、また、プラスチックで良く用いられるロックウェル硬度も参考にすることができる。ここで、鉛筆硬度とは様々な硬度の鉛筆で測定対象の表面を引っ掻き、表面を傷つける鉛筆のうち最も柔らかい鉛筆の硬度で表された硬度であり、ロックウェル硬度とは球圧子による侵入深さにより表わされた硬度であり、多くの場合、ASTM D−785のMスケールが用いられる。
なお、鉛筆硬度やロックウェル硬度は、本来、素材の特性を表わす場合に単品の平坦な面で測定され、他の樹脂と複層したり、平坦でない場合には値が変化するが、比較対照のためには使用できる。
【0029】
本発明で使用するレンズ層2は、ポリカーボネートと溶融共押し出しによって接合される透明な樹脂からなる。この樹脂はレンズ層2の耐擦傷性を高めるためにポリカーボネート以上の硬度を持つ樹脂でなければならない。具体的には、ポリカーボネートの硬度は、鉛筆硬度で表わすとB〜2Bであり、ロックウェル硬度で表わすとMスケールで77であるから、レンズ層を構成する樹脂の硬度はそれ以上である必要がある。
また、ポリカーボネートと同等程度の光学特性を得るために、屈折率がポリカーボネートの98%以上である必要がある。具体的には、ポリカーボネートの屈折率は1.58(波長589.3nmのD線で測定した場合。以下同じ)である。従って、必要な屈折率は1.55以上である。
さらに、接着剤を使用せずにポリカーボネートと接着するようにポリカーボネートと親和性が高いことが必要である。
【0030】
上記の条件を満たすレンズ層を構成する樹脂の例としては、スチレン70〜85重量%とメチルメタクリレート及び/又はアクリロニトリルが30〜15重量%を重合させてなるスチレン系樹脂が挙げられる。ここで、スチレンが70重量%より少ないと屈折率が1.55を下回る場合があり、85重量%を超えるとポリカーボネートとの親和性が不十分になる場合がある。メチルメタクリレート及び/又はアクリロニトリルが30重量%を超えると屈折率が1.55を下回る場合があり、15重量%より少ないとポリカーボネートとの親和性が不十分になる場合がある。なお、本発明の特徴を損なわない範囲でこれらと共重合可能な単量体を重合させた樹脂をレンズ層用の樹脂として用いることもできる。
上記の範囲の単量体を重合させてなるスチレン系樹脂の硬度は鉛筆硬度でH〜2H(ロックウェル硬度はMスケールで83〜85)、屈折率は1.56〜1.57であり本発明の要求を満たす。また、ガラス転移温度は102〜105℃で十分な耐熱性を有する。
【0031】
レンズ層を構成する樹脂の他の例としては、70℃以上のガラス転移温度を示す熱可塑性ポリエステル樹脂が挙げられる。ここで、ガラス転移温度が70℃未満であれば液晶表示装置用のレンズフィルムとして、十分な耐熱性を持つことができない。
なお、通常の場合、ポリエステルの耐熱性は結晶融点に左右されるが、本発明の場合、ポリカーボネートと溶融共押し出しされるため、延伸等の結晶化措置を行うことができず、結晶化できないので結晶融点を利用した耐熱性は問題とならない。また、通常、液晶表示装置用のレンズフィルムは85℃以上の耐熱性を要求されることが多いが、本発明においては熱可塑性ポリエステル樹脂はガラス転移温度145℃のポリカーボネートと複層一体化されているので、ポリエステル樹脂自体のガラス転移温度は70℃以上で実用的に十分である。
【0032】
本発明で使用できる熱可塑性ポリエステルの具体例としては、芳香族二塩基酸としてテレフタル酸、二価アルコールとしてエチレングリコールからなるポリエステル(PET)の例として非結晶性のA−PET、PETG(イーストマン・ケミカル社製)が挙げられ、更に、ポリエチレングリコールナフタレート(PEN(帝人社製))、芳香族二塩基酸としてビスフェノールAからなるポリアリレート等を挙げることができる。
これらの熱可塑性ポリエステルの硬度は、ポリエチレンテレフタレートは鉛筆硬度がHでロックウェル硬度がMスケールで85であり、ポリエチレングリコールナフタレートは硬度は鉛筆硬度がH〜2Hでロックウェル硬度がMスケールで90であり、ポリアリレートは鉛筆硬度がHでロックウェル硬度がMスケールで90である。また、屈折率は、ポリエチレンテレフタレートで1.55以上(ポリカーボネートの屈折率の98%以上)ポリエチレングリコールナフタレートで1.68(同106%以上)であり、ポリアリレートで1.60以上(同101%以上)である。また、ガラス転移温度は、ポリエチレンテレフタレートが80℃、ポリエチレングリコールナフタレートが118℃、ポリアリレートが161℃で十分な耐熱性を有する。さらに、これらの樹脂及びポリカーボネートを加えた各種の混練組成物が光線透過率の劣化がない限りレンズ層の透明樹脂として使用でき、これらの樹脂は全てポリカーボネートと溶融共押し出しすることにより、接着剤を使用せずに積層一体化することができる。
なかでも、ポリエチレングリコールナフタレートは、硬度、屈折率が特に高く、基材層のポリカーボネートとの溶融共押し出しによる接着性も良いため特に好ましい。
【0033】
レンズ層2の表面、即ちレンズ面2aには、レンズ機能を有する立体模様(レンズ模様)が設けられる。
レンズ模様を形成する方法は特に限定されず、樹脂を複層フイルム化した後で、このフイルムをエンボスロールなどで押圧することにより、所定のフイルムにエンボス加工を施す方法や、共押出し時における冷却ロールに所望する立体模様を形成したロールを用いて挟圧して、押出しと同時に所定のフイルムにレンズ模様を形成する方法が例示できる。
【0034】
レンズ模様としては、所望の光学性能を有する形状であれば特に限定されないが、断面が3角形で底辺を隣接した多数の3角柱を頂稜が略平行になるように配列したプリズム;断面が半円状又は半楕円形で底辺を隣接した多数の半円柱又は半楕円柱を略平行になるように配列した凸状のレンチキュラーレンズ;断面が凹状面を有する半円状又は半楕円状で側面を隣接した多数の凹状半円柱又は凹状半楕円柱を略平行になるように配列した凹状のレンチキュラーレンズ;ピラミッド型4角錐状物、キュービックコーナー様3角錐状物、半球状物から選択される立体形状を平面に突設した模様またはこの立体形状を平面から穿設した模様;などが例示できる。
【0035】
このような形状の立体模様を採用した場合、例えば断面が3角形の場合はプリズムフイルムとなり断面円形の場合とともに光をフイルムの法線方向に集める能力がある。
詳述すれば、断面が3角形の形状を持ちその底辺を互いに隣接した多数の3角柱を頂稜が略平行になるように配列したプリズムを有するフイルムとすれば、入射面に各種の方向からの光が入射する時に、3角形の頂点方向に集光しやすく、またプリズムの3角形の形状が2等辺の場合はレンズフイルムの法線方向に集光しやすい。この3角形の形状は、通常、頂角が60度から120度の範囲である。特定の方向の入射光が大部分である場合には、所要の方向に出射光を得るように等辺又は不等辺の3角形プリズムの形状が設計される。
【0036】
また、キュービックコーナ様の3角錐や、ピラミッド型4角錐とすれば、集光する能力以外に、光源方向に返す再帰反射性の光学性能を有する耐擦傷性レンズフイルムが得られる。
【0037】
本発明の耐擦傷性複層レンズフイルム1のうち、基材層3はポリカーボネートからなる。本発明に使用されるポリカーボネートはビスフェノールAを主成分とする通常のポリカーボネートであり、市販のポリカーボネート樹脂が全て好適に使用できる。この樹脂は前記したように屈折率が1.58で光透過率が90%以上であり、耐衝撃性(打抜き性)、耐熱性、寸法安定性、防湿性に優れており、レンズフィルムの基材層を構成する素材として好適に使用できる。
【0038】
基材層3のレンズ層側とは反対面3a側には、図3に示したように、ポリカーボネート以上の硬度を有する透明な樹脂からなる裏面層4を設けることもできる。これにより、裏面の耐擦傷性が高められ、本発明のレンズフイルム1を液晶表示装置などに組み込む時、或いは組み込んだ後に、レンズフイルムの裏面を液晶表示装置内の部材などに引っ掻けたとしても、傷が付き難くなる。
【0039】
裏面層4を構成する樹脂としては、第1に、電離放射線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂など、従来からハードコート処理に用いられてきた樹脂が例示できる。詳述すると、電離放射線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂などを、レンズフイルム1に積層された基材層3の反対面3aに3〜15μmの厚さに塗布し、これを紫外線照射、加熱等の方法で硬化させることにより、裏面層4を形成させることができる。
【0040】
本発明に使用できる電離放射線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂としては、ポリカーボネート以上の硬度を有する透明樹脂であれば特に限定されず、公知の樹脂が使用できる。電離放射線硬化型樹脂にはアクリル系官能基を持つものが多い。
また、硬度を高めるために多官能単量体を併用することができる。さらに、反応性有機ケイ素化合物を含ませることも出来る。この化合物はアルコキシシラン化合物であって、硬化してSiO2 ゲル膜となり、耐擦傷性を向上させることができる。また、電離放射線硬化型樹脂を使用する場合は、光重合開始剤や光増感剤を使用することができる。
【0041】
裏面層4を構成する第2の樹脂としては、ポリカーボネート以上の硬度を有する透明な熱可塑性樹脂が挙げられる。このような熱可塑性樹脂で裏面層4を形成するには、フィルム状に形成した樹脂をレンズフイルム1の基材層3に熱圧着や接着剤、粘着剤で貼合する方法もあるが、レンズ層2や基材層3の積層と同時に、即ち、レンズ層2の樹脂と基材層3のポリカーボネートと共に溶融共押し出しして積層一体化する方法が好ましい。
【0042】
溶融共押し出し可能な裏面層用の熱可塑性樹脂としては、例えば、前述したレンズ層2を構成する樹脂を採用することができる。但し、レンズ層2を構成する樹脂はレンズ機能を十分発揮させるため屈折率が高い必要があるが、裏面層4ではレンズ機能が求められていないため屈折率が低い樹脂でも使用することができ、レンズ層用のものより幅広い樹脂を採用できる。むしろ、一般にレンズフイルムは、裏面が光の入射面になるように使用されることが多く、この場合、屈折率が低い方がフィルムの透過率を高めるので好都合である。
【0043】
具体的には、レンズ層用の樹脂と同様、ポリカーボネートと接着性の良い樹脂、即ち、メタクリル酸メチル60〜100重量%とこれと共重合可能な単量体40〜0重量%を重合させてなるアクリル系樹脂、スチレン70〜85重量%とメチルメタクリレート及び/又はアクリロニトリルが30〜15重量%を重合させてなるスチレン系樹脂、70℃以上のガラス転移温度を示す熱可塑性ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0044】
本発明の耐擦傷性レンズフイルム1の厚さは特に限定されないが、芯材等に巻き付けてロール状製品とする場合を考慮し、巻き取り可能な厚さ、即ち500μm以下とするのが好ましい。レンズ層2、基材層3、裏面層4の厚さも特に限定されず、例えばレンズ層2の厚さはレンズ模様を構成する凹凸の頂部と底部の高低差に相当する厚さ以上であれば十分であるが、レンズ層2の樹脂が脆い場合は、レンズ層2が厚すぎると打ち抜き時に端部が欠ける恐れがあるため、基材層3の厚さが大きい方が好ましい。具体的には、基材層3の厚さは、基材層3を構成する樹脂の重さがレンズ層2を構成する樹脂の重さの2倍以上、又はレンズ層2を構成する樹脂の重さと裏面層4を構成する樹脂の重さの和の2倍以上になるような厚さとするのが好ましい。
【0045】
本発明の耐擦傷性レンズフイルム1には、上記のレンズ機能に加えて、光拡散機能を付与することが出来る。具体的には、レンズ層2、基材層3、裏面層4のうちの少なくとも1層に光拡散性粒子を含有させたり、基材層3のレンズ層側とは反対面や、裏面層4が設けられている場合は裏面層4の外側面4aに光拡散機能のある凹凸構造を設けることができる。
これら光拡散機能の付与により、レンズ機能と拡散機能を併せ持つことが出来るとともに、本発明の耐擦傷性レンズフイルムと共に用いられた他の光学部材との間に発生する干渉縞等の画面の品位を落とす異変を防ぐ効果がある。
【0046】
光拡散性粒子の例としては、一般に使用される無機粒子や有機粒子の使用が可能であるが、全光線透過率が高くヘイズの大きい種類を選ぶことが好ましい。
具体的には、無機粒子としてはケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム等が挙げられる。有機粒子としては架橋ポリアクリレート、シリコン樹脂等が挙げられる。
光拡散性粒子の径は、0.5μm〜25μmが好ましい。粒子径が0.5μm未満でも25μmを超えても拡散機能が低下する。
光拡散性粒子の配合量としては特に限定されないが、通常、レンズ層又は裏面層の樹脂100重量部に対して0.5重量部〜20重量部である。ただし、これらの粒子は粒子径と屈折率を調整すれば、硬度を向上させる充填剤にもなり得るため、裏面層又はハードコート層を構成するアクリル系樹脂にポリカーボネートとの接着性を害しない範囲で配合することも出来る。
【0047】
裏面層4の外側面4a又は基材層3のレンズ層側とは反対面3aに設けられる凹凸構造の例としては、ランダムの凹凸構造、線状の凹凸構造等の光拡散機能のある凹凸構造が挙げられる。
線状の凹凸構造としては、断面がV字型、U字型、四角形型、台形型等であり、平面視が直線状、波線状、円弧線状などの形状が例示できる。
光拡散機能のある凹凸構造を形成する方法は特に限定されないが、レンズ模様を形成する場合と同様、樹脂を複層フイルム化した後で、このフイルムをエンボスシートなどで押圧することにより、所定のフイルムにエンボス加工を施す方法や、共押出し時における冷却ロールによる押圧と同時に所望する立体模様を形成したロールを用いて挟圧することにより、所定のフィルムに該凹凸模様を形成して凹凸構造とする方法が例示できる。
【0048】
裏面層4の外側面4a又は基材層3のレンズ層側とは反対面3aに凹凸構造を設けた場合、単に傷を見え難くしたり干渉縞等の異変を防ぐだけでなく、組み立て作業中等において傷を発生し難くする効果がある。更に、適切なランダムな凹凸構造を採用した場合には、他の面との間の摩擦係数を低下せしめるので擦れ合った時に傷そのものの発生を防ぐことができる。しかし、光拡散機能を大きくし過ぎるとレンズ層2による光学機能を阻害するので、適切な範囲を選ぶ必要がある。
【0049】
凹凸構造の凹凸の程度は、レザー顕微鏡の観察によりJISB0601で定義された表面粗さで読み取ることができる。この場合、平均粗さRa及び基準長の中で山の高さが5番目までの高さの平均値と谷の深さが5番目までの深さの平均値との和を10点平均粗さRzとして定義され、この値を表面の粗さとして代表することができる。特に、後者のRzがランダムな凹凸面の実態を表すことが多い。
Rzの範囲としては0.1〜2μmが好ましい。この値が2μmよりも大きいとレンズの光学機能が低下し、0.1μmよりも小さいと拡散機能が減少する。
【0050】
上記したレンズ層2を構成する樹脂、基材層3を構成するポリカーボネートは溶融共押し出しにより積層一体化され、耐擦傷性レンズフイルム1とされる。また、裏面層4を構成する樹脂を同時に溶融共押し出しすることもできる。
共押し出しによって耐擦傷性レンズフイルム1を作製する方法を、図2に基づいて説明する。なお、図2は共押し出しによる樹脂の複層方法の一例を示す概略図である。
まず、それぞれ別の溶融押出機5A、5Bを用いてレンズ層用の樹脂とポリカーボネートをそれぞれ溶融し、それぞれのギアポンプ6a、6aを通して、両溶融樹脂をフイードブロック6bに送り込み、このフイードブロック6bにより整流状に積層して、ダイス6cより、図示していないが、表面にレンズ機能を有する立体模様を刻設した金属製の冷却ロール7aとゴムロール7bの間に、レンズ用の樹脂が冷却ロール7a側になるようにフイルム状に押し出す。
押し出されたレンズ層用の樹脂とポリカーボネートの溶融樹脂は、冷却ロール7aにより冷却されると同時に、冷却ロール7aの表面に刻設した立体模様がレンズ層用の樹脂の表面に転写形成される。なお、冷却の際、レンズ層用の樹脂とポリカーボネートの接着を完全にするため、冷却ロール7a’の間でさらに挟圧することが望ましい。押し出された樹脂を挟圧するロール7a、7b、7a’の組み合わせは上記したロールに限定されず、金属ロールとゴムロール、金属ロールと金属ベルト、金属ロールと金属弾性ロール等の組み合わせが例示できる。
なお、レンズ層用の樹脂とポリカーボネートを共押し出しする際に、必要に応じ、金属ロールとゴムロールの組み合わせの場合、ゴムロール面の保護と耐久性を増すために、更にこの粗面の写し取りを避け、又は特定の形状を付与するために支持体8を介在させることができる。図中、8aは支持体繰り出し機、8bは支持体巻き取り機である。
冷却されたレンズフイルム1は巻き取り機9を使用して芯材などに巻き取ってロール状製品としてもよいし、適当な形、大きさに裁断して束にしてもよい。支持体8を使用した場合は、レンズフィルム1から支持体を剥離除去してからロール状製品とされ、又は裁断される。
【0051】
裏面層4を同時に溶融共押し出しする場合も上記の場合と原理的に同じであり、図4に示した如く、裏面層用の樹脂のための溶融押し出し機5C及びギア−ポンプ6aを付加して、3種の溶融樹脂をフィードブロック6bに送り込む他は、前述の方法と同様にしてレンズフイルム1を作製することができる。
【0052】
本発明の耐擦傷性レンズフイルムは、従来のレンズフイルムと同様、様々な方法で使用することができる。例えば、液晶表示装置のバックライトとして使用する場合は、一般的なレンズフイルムと同様、光拡散板上に、レンズ層2の面を光の出射面となるように配置して使用できる。更に、光を一層集中したい場合には、同一又は同類の耐擦傷性レンズフイルムを重ねて使用することもできるが、この場合でも、上に重ねたレンズフィルムとの摩擦で下においたレンズフイルムのレンズ模様に傷が付くようなこともなく、長期間安定した光学性能を発揮できる。
使用されるバックライトは直下型でもエッジライト型でもどちらでもよい。特に、広画面の液晶テレビでは、本発明の耐擦傷性レンズフイルムは、直下型の拡散した光源が使用される場合に適している。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
(耐擦傷性レンズフイルムの作成)
実施例1
レンズ層を構成する樹脂として、スチレン系樹脂(新日鉄化学株式会社製、エスチレンMS−300:鉛筆硬度2H(Mスケールのロックウエル硬度83),屈折率1.56、ガラス転移温度103℃:スチレン70重量%とメタクリル酸メチル30重量%の共重合体)を十分除湿乾燥した後、スクリュー型押出機5A(口径45mm、L/D28)に投入し、押出機の加熱ゾーンの最高設定温度260℃、先端部設定温度260℃になるように設定した。
一方、基材層を構成するポリカーボネート(帝人化成株式会社製、パンライトL−1250Y:鉛筆硬度B(Mスケールのロックウエル硬度77)、屈折率1.58)を十分除湿乾燥した後、スクリュー型押出機5B(口径90mm、L/D32)に投入し、押出機最高設定温度285℃、先端部設定温度260℃になる様に設定した。
なお、本実施例において、スチレン系樹脂の屈折率(1.56)はポリカーボネートの屈折率(1.58)の約98.7%である。
【0055】
上記の樹脂を、図2に示した如く、それぞれのギアポンプ6a、6aを通して、スチレン系樹脂は8kg/hrの吐出量にて、ポリカーボネートは85kg/hrの吐出量にて、260℃に保たれた共押し出し用のフイードブロック6bに送り込み、ダイ温度265℃に設定したダイス6cのリップ先端より吐出した。
その後、共押し出しした樹脂を金属製の冷却ロール7aとゴムロール7bの間隙で押圧し、耐擦傷性レンズフイルム1とした。なお、金属製の冷却ロール7aの表面には断面が頂角90度で底辺が50μmの2等辺3角形である三角柱を底面が隣接するように連設して配備され、断面が頂角90度で底辺が50μmの2等辺3角形であるプリズム型のレンズ模様を樹脂に付するように配備された。金属製の冷却ロール7aは共押し出しされた樹脂のスチレン系樹脂側に配置するとともに、ゴムロール7bをポリカーボネート側とし、さらにポリカーボネートとゴムロール7bの間に、支持体8として100μmの2軸延伸したポリエチレンテレフタレートフイルムを挟み込んだ。
その後、更に冷却ロール7a’にて積層物を冷却した後、支持体8を剥離除去し、スチレン系樹脂からなるレンズ層とポリカーボネートからなる基材層が積層された耐擦傷性レンズフイルム1を巻き取り機9にて芯材に巻き取ってロール状製品とした。
得られた耐擦傷性レンズフイルムの厚さは平均240μmであった。共押し出し用のフイードブロックに送り込んだ樹脂の量を勘案すると、ポリカーボネートからなる基材層の厚さは約220μm、スチレン系樹脂からなるレンズ層の厚さは平均約20μm(プリズムの頂部で32.5μm、底部で7.5μm)と推定される。
【0056】
実施例2
実施例1のスチレン系樹脂に代えて、熱可塑性ポリエステル樹脂(帝人化成株式会社製、ポリエチレングリコールナフタレートPEN:鉛筆硬度2H(Mスケールのロックウェル硬度90)、屈折率1.68、ガラス転移温度118℃)をレンズ層用の樹脂として使用し、スクリュー型押出機5Aの加熱ゾーンの最高設定温度280℃、先端部設定温度270℃になるように設定し、共押し出し用のフィードブロックの温度を270℃に変更した他は実施例1と同様にして耐擦傷性レンズフイルムを作成した。
【0057】
実施例3
実施例2で得られた耐擦傷性レンズフィルムにおける基材層のレンズ層側とは反対面に、ポリエステルアクリレートを主成分とする紫外線硬化樹脂(大日精化株式会社製、PETD−31)をトルエンにて35重量%に希釈し、ロールコート法により塗膜が乾燥後厚さで6μmになるように塗布してから、紫外線を照射して裏面層を形成し、3層構造のレンズフイルムとした。
【0058】
実施例4
図4に示した如く、実施例2で使用した装置にスクリュー型押出機5C(口径45mm、L/D28)とギア−ポンプ6aを付加して3層のフィードブロックに連結する。押出機5Aには実施例2と同じPEN樹脂、押出機5Bにはポリカーボネート、押出機5Cにはポリメタクリル酸メチル(住友化学株式会社製、スミペックHT25X:鉛筆硬度4H、屈折率1.49)を溶融共押し出しした。押出機の設定温度は押出機5A及び押出機5Bは実施例2と同様であり、押し出し機5Cは加熱ゾーンの最高設定温度265℃、先端部設定温度270℃として、フィードブロックを270℃に連結して実施した。各樹脂の吐出量は押し出し機5A及び押し出し機5Cが8kg/hrであり、押出機5Bからの吐出量が77kg/hrとした。得られたレンズフィルム1の厚さは平均約240μmであるから、レンズ層の厚さは平均約20μm(プリズムの頂部で32.5μm、底部で7.5μm)、基材層は約200μm、裏面層は約20μmと推定される。
【0059】
比較例1 実施例1において、押出機5Aを使用せず、押出機5Bの吐出量を93kg/hrに代える以外は実施例1と同様にして、厚さ240μmのポリカーボネート単層のレンズフィルム1を得た。
【0060】
比較例2
比較例1のポリカーボネートに代えてスチレン系樹脂(スチレン−メタクリル酸共重合体)を使用し、温度設定を実施例1の押出機5Aと同様にした他は比較例1と同様にして、厚さ240μmのスチレン系樹脂単層のレンズフィルム1を得た。
但し、比較例2のレンズフィルム1はロール状に巻き取ることが出来ず、平板の状態であり、また所定の大きさに打ち抜くことも出来ず、試験可能な大きさに成形することができなかったため、下記の振動試験、打ち抜き特性試験、レンズ特性試験を行わなかった。
【0061】
比較例3
比較例1のポリカーボネートに代えてPEN樹脂を使用し、設定温度を実施例2の押出機5Aと同様にした他は比較例1と同様にして、厚さ240μmのPEN樹脂単層のレンズフィルム1を得た。
【0062】
上記の実施例及び比較例で得られたレンズフイルムについて、以下の方法で耐擦傷性試験を行い、打ち抜き特性、レンズ特性を測定した。結果は実施例については表1に示す。
【0063】
(耐擦傷性試験)
1.レンズ面及び裏面の鉛筆硬度
JIS K5600−5−4に準じて、各種の硬度の鉛筆にてレンズフイルムのレンズ面ではプリズムの山に直交して描画し、反対面(基材層又は裏面層)の平坦面でも同方向に描画し、その後、レンズ面及び反対面の傷の有無を調べた。但し、レンズ面の引っかきでは荷重を500gに変更した。結果は、傷の発生しない最大の硬度で表す。
【0064】
2.振動試験
実用に供せられる液晶表示装置のバックライトに準じて、導光板に使用される4mmの厚さの乳白色のアクリル平板の上に拡散フイルムD124Z(ツジデン株式会社製)を凹凸面を上になるように置き、この上にレンズフイルムの反対面(基材層又は裏面層)が接するように設置し、その上に拡散フィルムPBS072(恵和株式会社製)を置いて四辺を固定した後、試験機で振動を加えた。その後、レンズフイルムのレンズ面及び反対面を目視及び顕微鏡で観察した。結果は目視による印象及び顕微鏡観察により測定した傷の大きさで示す。
〔振動条件〕
試験機:エミック株式会社製 EMICF 600BA/FAEO8
振動周期:20Hzより400Hzまで11分で上昇下降しこれを1サイクルとして縦、横、高さの方向に各1時間振動する。
振幅:50Hzまで0.075mm、50Hz以上は1.5G の一定加速度による振幅規制による。
評価方法:導光板の底部を照明し、レンズフイルム斜め方向より目視観察する。なお、傷の発生は縦横高さに振動を受けるので傷は球状になりやすく顕微鏡でその径を観察出来る。
【0065】
(打ち抜き特性)
図5に示した271mm×478mmの長方形の短辺側の中点に固定のための12mm× 5mmの窪みがある長方形の片刃のトムソン金型によりステンレス板上に200μmのポリエチレンテレフタレートフイルムを当て板として敷き、その上にサンプルフイルムを載せて打ち抜く。この場合、固定のための窪みの角からのクラックが起こり易い。
【0066】
(レンズ特性)
プリズムの反対面(基材層又は裏面層)から散乱光を入射して法線方向に集光する能力で測定する。冷陰極線管を拡散導光板下部に設け、導光板の上に拡散フイルムBS702(恵和株式会社製)を置き、レンズフイルムの上方60cmの離れた位置に輝度計(ミノルタ株式会社製(CA−1500)を設置して測定する。値はCd/m2 で示され、レンズフイルムを使用しない場合の何倍かを示す。レンズフイルムを使用しない場合の輝度は6907Cd/m2 であった。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
叙上のとおり、本発明の耐擦傷性複層レンズフイルムは、レンズ機能を有する立体模様を外側面に備えたレンズ層と、ポリカーボネートからなり前記レンズ層の内側面に積層される基材層と、更には、必要に応じ、前記基材層のレンズ層とは反対側に積層された裏面層とからなる複層レンズフイルムであって、レンズ層は一定以上の硬度と屈折率を有し、ポリカーボネートとの親和性を有する透明な樹脂からなり、レンズ層を構成する樹脂と基材層のポリカーボネートは溶融共押し出しにより一体化され、また裏面層も溶融共押し出し又は塗工により一体化されているため、組立て作業中等においても傷がつき難いばかりでなく、耐衝撃性が高く、打ち抜き特性が優れている、特に大画面の液晶表示装置の表面に使用するレンズフイルムとして頗る有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の耐擦傷性複層レンズフイルムの基本的な構成を示す概略図である。
【図2】共押し出しによる樹脂の複層方法の一例を示す概略図である。
【図3】裏面層を有する耐擦傷性複層レンズフイルムの基本的な構成を示す概略図である。
【図4】裏面層を有する耐擦傷性複層レンズフイルムを共押し出しにより複層する方法の一例を示す概略図である。
【図5】打ち抜き特性の試験に使用するトムソン刃の形状を示す正面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 耐擦傷性複層レンズフイルム
2 レンズ層
2a レンズ面
3 基材層
3a 反対面
4 裏面層
4a 外側面
5A、5B、5C 溶融押出機
6a ギアポンプ
6b フイードブロック
6c ダイス
7a、7a’ 冷却ロール
7b ゴムロール
8 支持体
8a 支持体繰り出し機
8b 支持体巻き取り機
9 巻き取り機
C 打ち抜き刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ機能を有する立体模様を外側面に備えたレンズ層と、前記レンズ層の内側面に積層されるポリカーボネートの基材層とからなる複層レンズフイルムであって、
レンズ層は、ポリカーボネート以上の硬度とポリカーボネートの98%以上の屈折率を有し、ポリカーボネートとの親和性を有する透明な樹脂からなり、
レンズ層を構成する樹脂と基材層を構成するポリカーボネートは溶融共押し出しにより一体化されていることを特徴とする打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルム。
【請求項2】
レンズ層を構成する樹脂が、スチレン70〜85重量%とメチルメタクリレート及び/又はアクリロニトリル30〜15重量%を重合させてなるスチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルム。
【請求項3】
レンズ層を構成する樹脂が、70℃以上のガラス転移温度を示す熱可塑性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルム。
【請求項4】
基材層のレンズ層側とは反対側の面に、ポリカーボネート以上の硬度を有し、ポリカーボネートとの親和性を有する透明な樹脂からなる裏面層を積層することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルム。
【請求項5】
裏面層を構成する樹脂が、電離放射線硬化型樹脂又は熱硬化型樹脂である請求項4に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルム。
【請求項6】
裏面層を構成する樹脂が、メタクリル酸メチル60〜100重量%とこれと共重合可能な単量体40〜0重量%を重合させてなるアクリル系樹脂、スチレン70〜85重量%とメチルメタクリレート及び/又はアクリロニトリルが30〜15重量%を重合させてなるスチレン系樹脂、70℃以上のガラス転移温度を示す熱可塑性ポリエステル樹脂から選択され、前記裏面層を構成する樹脂はレンズ層を構成する樹脂及び基材層を構成するポリカーボネートと溶融共押出しにより一体化されていることを特徴とする請求項5に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルム。
【請求項7】
基材層を構成するポリカーボネートの重さが、レンズ層を構成する樹脂の重さの2倍以上、又は、レンズ層を構成する樹脂の重さと裏面層を構成する樹脂の重さの和の2倍以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフィルム。
【請求項8】
基材層のレンズ層側とは反対面に光拡散機能のある凹凸構造が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルム。
【請求項9】
裏面層の外側面に光拡散機能のある凹凸構造が設けられていることを特徴とする請求項4乃至請求項7のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルム。
【請求項10】
光拡散機能のある凹凸構造がランダムの凹凸構造又は線状の凹凸構造であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルム。
【請求項11】
ランダムの凹凸構造における10点平均粗さRzが、0.1〜2.0μmであることを特徴とする請求項10に記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルム。
【請求項12】
レンズ層、基材層、裏面層のうちの少なくとも1層に光拡散性粒子が含有されていることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルム。
【請求項13】
レンズ機能を有する立体模様が、断面が3角形で底辺を隣接した多数の3角柱を頂稜が略平行になるように配列したプリズム;断面が半円状又は半楕円状で底辺を隣接した多数の半円柱又は半楕円柱を略平行になるように配列した凸状のレンチキュラーレンズ;断面が凹状面を有する半円状又は半楕円状で側面を隣接した多数の凹状半円柱又は凹状半楕円柱を略平行になるように配列した凹状のレンチキュラーレンズ;ピラミッド型4角錐状物、キュービックコーナー様3角錐状物、半球状物から選択される立体形状を平面に突設した模様またはこの立体形状を平面から穿設した模様から選択されることを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれかに記載の打ち抜き可能な耐擦傷性複層レンズフイルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−103884(P2009−103884A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275067(P2007−275067)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000166649)五洋紙工株式会社 (43)
【Fターム(参考)】