説明

把持装置

【課題】簡素な構造からなり、少数のアクチュエーターで駆動することができるとともに、多様な目標物体に対応することができる把持装置を提供する。
【解決手段】把持装置1は、グリッパーの対向する左右の2指がともに平行リンクで構成される。左右の指部25、35の把持面には、薄く細かい物体を捕捉するための爪部が、内側に向かって突出する爪部が、先端縁に沿ってそれぞれ形設されている。爪は、その断面が45度程度の鋭角をなし、開閉方向の内側に向かって突設している。したがって、左右の指部25、35を閉成すると、爪の鋭角な先端が対象物体と接地面の間に潜り込むので、掴み易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばロボット装置に搭載され、物体の移動や部材の組み立てなどに用いられる把持装置に係り、特に、簡素な構造からなり、少数のアクチュエーターで駆動することができるとともに、多様な目標物体に対応することができる把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人的作業の代行を主な目的として、ロボットに関する研究開発が盛んに行なわれている。多くのロボットは、物体の移動や部材の組み立てなどの作業を実現するために、手部に把持装置を備えている。
【0003】
把持装置は、多くの関節自由度を備えることにより複雑な作業が可能となるが、各関節を駆動するアクチュエーターの個数が増すため、アクチュエーター自身並びにこれを支えるフレームの重量が増加し、装置が大型化してしまう。また、アクチュエーターを動作させるための駆動回路や制御回路、配線も、アクチュエーターの個数に応じて増大し、さらに、複数の関節軸を同期して制御する必要があるため、駆動用のソフトウェアが複雑になってしまう。基本的には、1つのアクチュエーターで回転駆動や平行移動など単一の自由度しか実現できないことから、アクチュエーターの個数を少なくすると、多様な目標物体に対応することが困難になる。
【0004】
例えば、板ばねと1つのアクチュエーターを用いた2指把持型ロボットハンドについて提案がなされている(例えば、特許文献1を参照のこと)。このロボットハンドは、アクチュエーターのトルクが0でもばね力により物体を把持することができるが、常に内側の力が発生する、回転方向のみ把持できる、といった欠点がある。
【0005】
また、根元の1つのアクチュエーターで、指中間関節及び、指根元関節をギア列により開閉させ、左右の指を同期的に開閉させるロボットハンドについて提案がなされているが(例えば、特許文献2を参照のこと)、動力をギア列で伝達するがゆえ、バックラッシュが問題となる。また、指に相当するリンクの回転方向でしか把持することができない。
【0006】
また、差動歯車を用い、プーリーを介したワイヤーを用いて左右の指を同期的に開閉するロボットハンドについて提案がなされている(例えば、特許文献3を参照のこと)。しかしながら、このロボットハンドは、動力をワイヤーで伝達するがゆえに、初期張力やワイヤー自身の伸びなどが問題になる。また、ベーベル・ギアを用いているため、バックラッシュや効率が問題となる。
【0007】
また、グリッパーの対向する2指がともに平行リンクで構成される把持装置について提案がなされている(例えば、特許文献4、5を参照のこと)。このような把持装置によれば、各指の先端の爪にて、それぞれの把持面を互いにほぼ平行に保ったままで開閉して対象物を把持するので、対象物が箱状である場合にも、箱のサイズによらず、爪と箱との接触面積を大きく確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−105116号公報
【特許文献2】特開2008−49456号公報
【特許文献3】特開2007−69286号公報
【特許文献4】特開2005−238400号公報
【特許文献5】特開2005−261535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、例えばロボット装置に搭載され、物体の移動や部材の組み立てなどに用いることができる、優れた把持装置を提供することにある。
【0010】
本発明のさらなる目的は、簡素な構造からなり、少数のアクチュエーターで駆動することができるとともに、多様な目標物体に対応することができる、優れた把持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願は、上記課題を参酌してなされたものであり、請求項1に記載の発明は、
ベース部と、
前記ベース部の基軸を中心に開閉方向に回動可能に取り付けられた第1のリンクと、前記ベース部の前記基軸よりも前記開閉方向の外側に位置する補助軸を中心に前記開閉方向に回動可能に取り付けられた第2のリンクと、前記開閉方向の内側に把持面を持ち前記第1のリンク及び前記第2のリンクの各先端で回動可能に支持される指部からそれぞれなり、ほぼ左右対称となる左右の平行リンクと、
前記ベース部内に収容された、前記左右の平行リンクの各第1のリンクを各々の開閉方向に駆動する駆動部と、
を具備し、
前記の左右の指部の把持面の先端縁に沿って、前記開閉方向の内側に向かって突出する爪部がそれぞれ形設される把持装置である。
【0012】
本願の請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の把持装置の駆動部は、アクチュエーターと、前記アクチュエーターによる回転を前記左右の平行リンクの各基軸にほぼ均等に伝達する伝達部で構成される。また、本願の請求項3に記載の発明によれば、伝達部は、前記基軸を従動する最終段においてノンバックラッシュ・ギアが適用されたギア列で構成される。
【0013】
本願の請求項4に記載の発明によれば、請求項1に記載の把持装置の指部及び爪部は、例えばショアA硬度が70〜90のウレタン素材などの高分子化合物で製作されている。
【0014】
本願の請求項5に記載の発明によれば、請求項1に記載の把持装置の左右の指部の各把持面は、例えばアクリル、ウレタン、ゴムの共重合発泡体からなる滑り止め部からなる。
【0015】
本願の請求項6に記載の発明によれば、請求項1に記載の把持装置の平行リンクは、前記第1及び第2のリンクの回転に応じて前記指先の先端がほぼ円弧軌道を描く回転領域と、前記指部の先端の動作を水平動作に擬似できる擬似水平移動領域を有する。ここで、本願の請求項7に記載の発明によれば、擬似水平移動領域の長さは、前記第1及び第2のリンクの長さと前記擬似水平領域において前記指先の先端が変化する許容高さの関係に基づいて決定される。
【0016】
本願の請求項8に記載の発明によれば、請求項1に記載の把持装置の左右の平行リンクの各第1のリンクは、前記開閉方向の内側に凹み形状をした把持面を備えている。ここで、本願の請求項9に記載の発明によれば、左右の平行リンクの各第1のリンクの把持面の下端縁に沿って、前記開閉方向の内側に向かって突出する内側爪がそれぞれ形設されている。また、本願の請求項10に記載の発明によれば、内側爪は、例えばショアA硬度が70〜90のウレタン素材などの高分子化合物で製作される。また、左右の平行リンクの各第1のリンクの把持面は、例えばアクリル、ウレタン、ゴムの共重合発泡体からなる滑り止め部からなる。
【0017】
本願の請求項11に記載の発明によれば、請求項1に記載の把持装置の左右の平行リンクの各第2のリンクは、前記開閉方向の外側に凹み形状をした把持面を備えている。
【0018】
本願の請求項12に記載の発明によれば、請求項1に記載の把持装置の左右の平行リンクの開閉動作を利用して物体を把持する際の把持力を感知する感知手段をさらに備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ロボット装置に搭載され、物体の移動や部材の組み立てなどに用いることができる、優れた把持装置を提供することができる。
【0020】
また、本発明によれば、簡素な構造からなり、少数のアクチュエーターで駆動することができるとともに、多様な目標物体に対応することができる、優れた把持装置を提供することができる。
【0021】
本願の請求項1乃至3に係る発明によれば、把持装置は、1つの動力源により、左右双方の平行リンクを連動させることができる。したがって、左右双方の平行リンクは機構的に同期動作が可能である。また、部品点数が少ない簡素な構造であることから、安価に製作することが可能である。また、空間上の制約が少ないことから、各部品の剛性を高めることによって、MTBF(Mean Time Between Failure:平均故障間隔)が向上し、左右の各指部の先端の移動軌跡が単一動作となるため位置合わせのための制御が不要で高速且つ正確な動作が可能になる。また、簡素な構造で剛性が高いことから、軽い物体だけでなく、動力源が出力を維持することが可能な範囲で最大の重量となる重量物も把持することができる
【0022】
また、本願の請求項1乃至3に係る発明によれば、左右の指部の把持面の先端縁に沿って、内側に向かって突出する爪がそれぞれ形設されているので、コインやカード、ヘアピンなどの床面に落ちている薄い物体を、好適に把持することができる。
【0023】
また、本願の請求項4に係る発明によれば、左右の指部並びにこれらの先端縁に沿って形設された各爪部は、柔軟性、耐久性を持ち、把持状態を安定にするとともに、安全上の問題を解消することができる。
【0024】
また、本願の請求項5に記載の発明によれば、把持面の滑り止めスポンジと、上記の指先の爪との組み合わせにより、高い把持性能を実現することができる。
【0025】
また、本願の請求項6、7に記載の発明によれば、並進駆動及び回転駆動という2通りの駆動方法により多様な把持形態が可能になる。把持対象となる物体の形状や大きさに応じて、これらの駆動方法のうちいずれかを適宜利用すればよい。
【0026】
また、本願の請求項8乃至10に記載の発明によれば、左右の平行リンクの各第1のリンクが開閉方向の内側に凹み形状をした把持面をそれぞれ備えているので、両凹みで挟持するようにして、比較的サイズの大きな物体を安全把持することができる。
【0027】
また、本願の請求項12に記載の発明によれば、左右の平行リンクの開閉動作を利用して物体を把持する際の把持力を感知することができる。
【0028】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る把持装置1の全体構成を示した図(斜視図)である。
【図2】図2は、図1に示した把持装置1の、左右の2平行リンク20、30をベース部10から取り外した分解図である。
【図3】図3は、図1に示した把持装置1のベース部10内を斜視した図である。
【図4】図4は、図1に示した把持装置1のベース部10内に収容される伝達部12の側面図である。
【図5】図5は、図1に示した把持装置1の上面図(但し、左右の平行リンク20、30を閉じた状態)である。
【図6】図6は、図1に示した把持装置1の上面図(但し、左右の平行リンク20、30を開いた状態)である。
【図7A】図7Aは、把持装置1で床面上の物体を把持する様子を示した図である。
【図7B】図7Bは、把持装置1で床面上の物体を把持する様子を示した図である。
【図7C】図7Cは、把持装置1で床面上の物体を把持する様子を示した図である。
【図7D】図7Dは、把持装置1で床面上の物体を把持する様子を示した図である。
【図7E】図7Eは、把持装置1で床面上の物体を把持する様子を示した図である。
【図8】図8は、把持装置1の片指の動きと可動範囲を示した図である。
【図9】図9は、平行リンクの長さrを一定とした場合の、許容高さcと擬似水平移動領域の長さxhの関係を示した図である。
【図10A】図10Aは、左右の平行リンク20、30の第1のリンク22、32が開閉方向の内側に凹みを持つ把持面を有するとともに、把持面の下端縁に沿って内側爪26、36がそれぞれ突設されている様子を示した図である。
【図10B】図10Bは、左右の平行リンク20、30の開閉方向の内側に有する凹みからなる把持面を利用して、ペットボトルを首部で把持している様子を示した図である。
【図10C】図10Cは、左右の平行リンク20、30の第2のリンク24、34が開閉方向の内側に凹みを持つ把持面を示した図である。
【図11】図11は、左右の各平行リンク20、30が十分開いた状態で、スライダー27がベース部10から出現した様子を示した図である。
【図12】図12は、左右の各平行リンク20、30が十分開いた状態で、フック28がベース部10から出現した様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明に係る把持装置の実施形態について詳細に説明する。なお、下記の実施形態に係る把持装置は、例えばロボット・アームの手部に適用することができる。但し、本発明の適用対象はロボットに限定されず、また、本発明の要旨は特定のロボットに限定されるものではないので、本明細書ではロボット本体の説明を省略する。
【0031】
まず、実施形態に係る把持装置の全体構成について図1を参照しながら説明する。図示の把持装置1は、グリッパーの対向する左右の2指がともに平行リンクで構成される。但し、図1は把持装置1の外観を斜視した図、図2は、左右の2平行リンク20、30をベース部10から取り外した分解図、図3はベース部10内を斜視した図、図4はベース部10内に収容される伝達部12の側面図、図5は把持装置1の上面図(但し、左右の平行リンク20、30を閉じた状態)、図6は把持装置1の上面図(但し、左右の平行リンク20、30を開いた状態)を、それぞれ示している。図6では、左右の平行リング20、30が擬似水平移動領域(後述)内で開いた状態であり、図示しないが、平行リング20、30は最大回転量θmax(後述)まで開くことができる。
【0032】
図1に示すように、把持装置1は、ベース部10と、ベース部10に取り付けられた左右の平行リンク20、30を備えている。
【0033】
図2に示すように、左の平行リンク20は、ベース部10に対し基軸21を中心に開閉方向に回動可能に軸支された第1のリンク22と、基軸21よりも開閉方向の外側に位置する補助軸23を中心に開閉方向に回動可能に軸支された第2のリンク24と、第1のリンク22及び第2のリンク24の各先端でそれぞれ回動可能に支持される指部25で構成される。図示の例では、第1のリンク22は、基軸21の軸方向に連接する2枚のリンク部材からなり、第2のリンク24は、この2枚のリンク部材の間に挿設された1枚のリンク部材からなる。また、指部25の開閉方向の内側は把持面となっている。
【0034】
第1のリンク22が基軸21を中心に開閉方向に回動すると、これに連動して、第2のリンク24が補助軸23を中心に開閉方向に回動する。かかる回動動作を通して、ベース部10、第1のリンク22、第2のリンク24、及び、指部25が形成する平行四辺形を保つことから、指部25の把持面のベース部10に対する角度は一定である。
【0035】
また、右の平行リンク30は、ベース部10に対し基軸31を中心に開閉方向に回動可能に軸支された第1のリンク32と、基軸31よりも開閉方向の外側に位置する補助軸33を中心に開閉方向に回動可能に軸支された第2のリンク34と、第1のリンク32及び第2のリンク34の各先端でそれぞれ回動可能に支持される指部35で構成される。図示の例では、第1のリンク32は、基軸31の軸方向に連接する2枚のリンク部材からなり、第2のリンク34は、この2枚のリンク部材の間に挿設された1枚のリンク部材からなる。また、指部35の開閉方向の内側は把持面となっている。
【0036】
第1のリンク32が基軸31を中心に開閉方向に回動すると、これに連動して、第2のリンク34が補助軸33を中心に開閉方向に回動する。かかる回動動作を通して、ベース部10、第1のリンク32、第2のリンク34、及び、指部35が形成する平行四辺形を保つ。したがって、指部35の把持面のベース部10に対する角度は一定である。
【0037】
左右の平行リンク20、30は、ほぼ左右対称的に構成されている。そして、左右の第1のリンク22、32が開閉方向に回動すると、これに伴って指部25、35も開閉方向に変位する。このとき、第1のリンク22、32の各々と平行リンクを構成する左右の第2のリンク24、34がそれぞれ連動して、ほぼ左右対称的に回動する。したがって、図6に示すように、対向する把持部25、35の把持面同士は平行リンク20、30の回転位置に関わらず平行を保つ。
【0038】
ベース部10は、モーターなど駆動源となるアクチュエーター11、並びに、アクチュエーター11の回転出力を左右の平行リンク20、30の基軸21、31(すなわち、第1のリンク22、32)に同じギア比で伝達する(すなわち、回転出力をほぼ均等に分岐する)ギア列からなる伝達部12を収容する。ここで言うアクチュエーター11は、具体的には、モーターと減速機を有したものとする。減速機として、平歯ギア列や遊星ギア、波動歯車減速装置などを用いることができる。また、アクチュエーター11には、例えばロータリー・エンコーダーなどの角度検出センサー13が取り付けられている。
【0039】
ここで、アクチュエーター11の回転出力を左右の平行リンク20、30に分岐する動作について、主に図4を参照しながら説明しておく。
【0040】
アクチュエーター11の出力軸に固定されたピニオンギア14、第2ギア15a、第3ギア15b、第4ギア15c、分岐ギア16の順で噛合して、アクチュエーター11の回転が減速される。分岐ギア16の回転方向は、ピニオンギア14すなわちアクチュエーター11の回転方向と一致する。
【0041】
従動ギア18は、基軸21を中心に回転可能に配置されるとともに、分岐ギア17と噛合し、その回転方向は分岐ギア16すなわちピニオンギア14とは反対方向となる。また、従動ギア19は、基軸31を中心に回転可能に配置されるとともに、反転用アイドラギア17に噛合している。この反転用アイドラギア17が分岐ギア16に噛合しており、従動ギア19の回転方向は、分岐ギア16すなわちピニオンギア14の回転方向と一致する。なお、各従動ギア18、19にはノンバックラッシュ・ギアが適用されており、それぞれバックラッシュレスで回転が伝達される。
【0042】
左の平行リンク20の第1のリンク22は従動ギア18の回転に従って駆動し、右の平行リンク30の第1のリンク32は従動ギア19の回転に従って駆動する。したがって、アクチュエーター11が回転駆動すると、その回転出力は上記のように伝達部12を介して分岐し、左右の平行リンク20、30をほぼ左右対称的に駆動する。そして、左右の第1のリンク22、32が開閉方向に回動すると、これに伴って指部25、35も開閉方向に変位する。このとき、第1のリンク22、32の各々と平行リンクを構成する左右の第2のリンク24、34がそれぞれ連動して回動するので、図5並びに図6に示すように、指部25、35の内側の把持面を互いにほぼ平行に保ちながら開閉する。
【0043】
このように、本実施形態に係る把持装置1は、アクチュエーター11という1つの動力源により、双方の平行リンク20、30を連動させることができる。したがって、双方の平行リンク20、30は機構的に同期動作が可能である。また、部品点数が少ない簡素な構造であることから、安価に製作することが可能である。また、空間上の制約が少ないことから、各部品の剛性を高めることによって、MTBFが向上し、指部25、35の先端の移動軌跡が単一動作となるため位置合わせのための制御が不要で高速且つ正確な動作が可能になる。また、簡素な構造で剛性が高いことから、軽い物体だけでなく、アクチュエーター11が出力を維持することが可能な範囲で最大の重量となる重量物も把持することができる。
【0044】
続いて、本実施形態に係る把持装置1の把持動作について考察する。
【0045】
平行リンクからなる左右の2指を図5、図6に示したような開閉動作させて、例えば床面に落ちている物体を把持する際、開成状態の2指で物体を挟み込むようにして各々の指先をともに床面に当接させた後、各々の指先を床面に摺るようにして左右2本の指部25、35を閉成していくことで、物体を把持することができる。
【0046】
図7A〜Eには、床面に落ちている、薄い物体を把持装置1の2指で把持する様子を示している。薄い物体の例として、コインやカード、ヘアピンなどを挙げることができる。
【0047】
左右の指部25、35の把持面には、薄く細かい物体を捕捉するための爪部が、内側に向かって突出する爪部が、先端縁に沿ってそれぞれ形設されている。爪は、その断面が45度程度の鋭角をなし、開閉方向の内側に向かって突設している。したがって、左右の指部25、35を閉成すると、爪の鋭角な先端が対象物体と接地面の間に潜り込むので、掴み易くなる。
【0048】
ここで、爪部が金属製では、爪部の先端のみで物体を把持してしまうことがあり、物体との接触面が狭いなどの理由で、不安定な把持状態となる。また、爪部の先を硬い素材で鋭角に製作すると、人体を切りつけるなど安全上の問題もある。そこで、本実施形態では、左右の爪部を、ウレタン素材を用いて、それぞれ指部25、35と一体的に製作している。ウレタンは、ショアA硬度が70〜90と、金属に比べて柔軟であることから、安全性が高い。爪のショアA硬度を70〜90とすることで、柔軟性、耐久性が向上するとともに、重量物に対応できる、といった効果がある。
【0049】
また、本実施形態では、左右の指部25、35の内側の把持面に滑り止めスポンジを貼設している。把持面の滑り止めスポンジと、上記の指先の爪との組み合わせにより、高い把持性能を実現することができる。ここで言う滑り止めスポンジは、好ましくは、細かい気泡が無数の吸盤のように働く特殊なスポンジであり、例えば、株式会社ミスミが販売する、アクリル、ウレタン、ゴムの共重合発泡体からなる滑り止めゴムシート「STPES」を適用することができる。
【0050】
図7Bに示すように、開成状態の2指部で物体を挟み込むようにして各々の指先をともに床面に当接させた後、各々の指先を床面に摺るようにして左右の指部を閉じていく。左右の爪部の先端が物体の底面に到達し、さらに閉じていくと、図7Cに示すように、各爪部の先端が少し撓って、物体の底面に食い込む。ここで、把持対象の物体が小さいと、図7Dに示すように、物体が45度の傾斜からなる爪部の表面に沿って微小にせり上がる(但し、物体が大きいと、指部25、35の内側の把持面を用いて物体を直接支持することができる)。そして、物体の左右側面が指部の内側の滑り止めスポンジからなる把持面に接触すると、物体を確実に把持した状態となり、図7Eに示すように、物体を左右の指部25、35内側の把持面で挟持して、安全に持ち上げることができる。
【0051】
把持装置1による上記(図7を参照のこと)のような把持動作の際、床面が制御上のコンプライアンス・アプローチ面となる。図5、図6に示したような2指の開閉動作に際して、指先位置の上下方向(若しくは、指の長さ方向)の変化が大きいと、これに伴ってベース部10の位置が上下に変動することになる。例えば、把持装置1が多関節アームのエンドエフェクターとして適用されている場合、このような把持動作に伴って手首位置が上下に変動することになる。このため、把持動作には2指だけでなく、アームの手首位置が制御対象となり、演算処理が複雑化する。逆に言えば、把持動作に際して指先の上下方向の変化が小さく、水平動作に擬似することができれば、多関節アームの手首位置を固定し、2指のみが制御対象となる。すなわち、把持装置1の指先は、円弧軌道を描くが、直線移動に近似できる領域を大きくすることで、制御のための演算処理が簡素化する。
【0052】
図8には、把持装置1の片指の動きと可動範囲を図解している。同図中、基軸に対する平行リンクの最大回転量をθmaxとし、かかる平行リンクの可動範囲における指先の水平方向の移動量をxmaxとし、指先の上下方向のリーチをymaxとする。また、指先の動作を水平動作とし擬似できる程度の指先位置の上下方向(指の長さ方向)の許容高さをcとし、許容高さc以内となる平行リンクの(垂直位置からの)回転量をφhとし、指先の擬似水平移動領域の長さをxhとする。ここで言う許容高さcは、例えば、多関節アームのコンプライアンスで吸収できる程度の指先の上下方向の変位量に相当する。
【0053】
指先の上下方向の許容高さcが決まれば、指先の先端の位置が水平方向に変位しないと擬似できる擬似水平移動領域の長さxhを、下式(1)〜(3)に従って平行リンクのリンク長さrから求めることができる。
【0054】
【数1】

【0055】
許容高さcは、例えば、実施形態に係る把持装置1をエンドエフェクターとして搭載する多関節アームが有する柔軟性、剛性、制御上のコンプライアンス、床面の柔軟性などのパラメータの影響を受ける。
【0056】
許容高さcは、例えば設計者の経験値に基づいて決定するようにしてもよい。また、多関節アームの手首の根元に短いスライド機構を設けるなどして、許容高さcを機構的に設定するようにしてもよい。
【0057】
上式(1)〜(3)、並びに、図8を参照すると、擬似水平移動領域の長さxhを大きく取りたいときには、許容高さcを大きくするか、又は、平行リンクの長さrを大きくすればよい。但し、許容高さcを大きく取ると、誤差としてアームへの撓みとなり負担がかかる。また、平行リンクの長さrを大きく取ると、把持装置1全体のサイズが大きくなってしまう。したがって、c/rが小さい方が、把持装置1全体を小さい図に保ちながら擬似水平移動領域の長さxhを大きくするのに有利である、と結論することができる。平行リンクの長さrを一定とした場合の、許容高さcと擬似水平移動領域の長さxhの関係を以下の表並びに図9に示しておく。
【0058】
【表1】

【0059】
平行リンクの回転領域のうち、正弦方向の変化が大きく余弦方向の変化が小さい領域を活用することで、擬似水平移動領域の長さxhを確保することができる。
【0060】
本実施形態では、左右の平行リンク20、30の第1のリンク22、32はそれぞれ、上方からみると、開閉方向の内側に凹みを有する略「く」の字の形状を備えている(図10Aを参照のこと)。したがって、左右の指部25、35の各把持面で物体を挟持するだけでなく、左右の第1のリンク22、32の内側の略「く」の字の凹みを利用して、比較的サイズの大きな物体を挟持することで、安全に把持できる。
【0061】
また、左右の平行リンク20、30の第1のリンク22、32の内側の端縁に沿って、内側爪26、36がそれぞれ突設されている(図10Aを参照のこと)。左右の第1のリンク22、32の内側の略「く」の字の凹みを利用して、括れのある物体を把持する際には、内側爪26、36が物体の括れに係合することで、安全に把持することができる。物体並びにその括れの一例として、ペットボトルの首部を挙げることができる(図10Bを参照のこと)。
【0062】
内側爪26、36は、ショアA硬度が70〜90のウレタン素材で製作されており、柔軟性、耐久性が向上するとともに、重量物に対応することができる(同上)。また、第1のリンク22、32の開閉方向の内側の把持面には、例えば滑り止めスポンジが貼設されており、内側爪26、36との組み合わせにより、高い把持性能を実現することができる(同上)。
【0063】
左右の平行リンク20、30の各第1のリンク22、32は、基軸21、31の軸方向に連接する2枚のリンク部材からなる。また、左右の平行リンク20、30の各第2のリンク24、34はそれぞれ、第1のリンク22、32を構成する2枚のリンク部材の間に挿設された1枚のリンク部材からなる(前述)。
【0064】
図7A〜Eに示したような、指部25、35の擬似水平移動領域を利用した把持動作は、平行リンク20、30の並進駆動を利用した動作として位置付けられる。他方、左右の第1のリンク22、32の内側の略「く」の字の凹みを利用した把持動作は、平行リンク20、30の回転駆動を利用した動作として位置付けられる。したがって、本実施形態に係る把持装置1は、アクチュエーター11という1つの動力源により、双方の平行リンク20、30を連動させて、並進駆動及び回転駆動という2通りの駆動方法により多様な把持形態が可能になる。把持対象となる物体の形状や大きさに応じて、これらの駆動方法のうちいずれかを適宜利用すればよい。
【0065】
また、本実施形態に係る把持装置1は、左右の平行リンク20、30を用いて物体を把持する際の把持力を感知する手段をさらに備えている。上述した、平行リンクの並進駆動並びに回転駆動をそれぞれ利用したし2通りの把持動作を行なう際の把持力を感知する方法として、以下の3例を挙げることができる。
【0066】
(1)左右の第1のリンク部22、32の少なくとも一方、又は、左右の指部25、35の少なくとも一方の根元部に、歪みゲージを装着する。そして、物体を把持した際の歪みゲージの歪み量を計測し、その計測結果に基づいて把持力を感知する。
(2)左右の指部25、35(の把持面)に、導電性感圧ゴム、圧力センサーなどを装着し、これらのセンサー出力に基づいて把持力を感知する。
(3)把持した際のアクチュエーター11の出力電流値に基づいて、把持力を感知する。
【0067】
なお、歪みゲージは、抵抗部の変形量に応じて抵抗値が変化する抵抗体で構成される。上記(1)では、計測された歪みゲージの変形量を把持力に変換する。
【0068】
また、導電性ゴムは、金属粉を混合したゴムからなり、力が印加されたときの変形量に応じて同電量が変化する。上記(2)では、計測された導電性ゴムの変形量を把持力に変換すればよい。
【0069】
また、圧力センサーには、静電容量式、光学式、磁界変化式などの方式が挙げられる。このうち、静電容量式の圧力センサーは、対向して配置された2枚の静電板からなり、一方の静電板に力が印加されたときに他方の静電板の間隔が狭くなり、静電容量が変化する。上記(3)では、計測された静電容量の変化量を把持力に変換すればよい。
【0070】
光学式の圧力センサーは、発光側と受光側の素子からなる。例えば、発光側から受光側への光の通路が力の印加により潰され、受光量が変化する。そして、上記(3)では、計測された受光量の変化を把持力に変換する。あるいは、対面する発行側と受光側との距離が力の印加により変化する。そして、上記(3)では、計測された距離の変化量を把持力に変換すればよい。
【0071】
磁界変化式の圧力センサーは、変形に伴って磁界量が変化する磁性体材料からなる。そして、上記(3)では、力の印加による磁界量の変化量を計測し、これを把持力に変換すればよい。
【0072】
左右の平行リンク20、30の第2のリンク24、34はそれぞれ、上方からみると、外側に凹みを持つ略「く」の字の形状を有するが、この凹みを把持面として利用することができる(図10Cを参照のこと)。把持面には、例えば滑り止めスポンジが貼設されており、爪との組み合わせにより、高い把持性能を実現することができる(同上)。例えば、本実施形態に係る把持装置1を搭載した2本の多関節アームを複数本備えたロボットなどの機械装置において、隣接する2本のアームの対向する第2の平行リンクの略「く」の字の凹みを利用して物体を挟持する、という利用形態も考えられ、物体をより安全に把持することができる。
【0073】
図9に示したように、本実施形態に係る把持装置1において、左右の各平行リンク20、30の最大回転量はθmaxに規定されているが、本発明の要旨は、この最大回転量θmaxが特定の角度に限定されるものではない。但し、左右の各平行リンク20、30がある所定の角度を超えて開いてしまうと、左右の指部25、35の把持面同士、あるいは第1のリンク22、32の内側の略「く」の字の凹み同士が対向しなくなり、把持性能を失うことは、容易に推測できよう。
【0074】
これまで本実施形態に係る把持装置1に対して、このように左右の各平行リンク20、30が十分開いた状態になると、トレイとして活用できるスライダー27や、フックがベース部10から出現する、という変形例を挙げることができる。図11には、左右の各平行リンク20、30が十分開いた状態で、スライダー27がベース部10から出現した様子を示している。また、図12には、左右の各平行リンク20、30が十分開いた状態で、フック28がベース部10から出現した様子を示している。スライダー27を用いれば、錠剤や粉といった、細かいものや形のない物をまとめて捕捉することができる。また、フック28を用いれば、服のような柔軟物を引っ掛けて持つことができる。
【0075】
各図に示したスライダー27やフック28は、左右の各平行リンク20、30の開閉状態に連動してベース部10から出没するように構成されている。このような部品の出没動作は、カムなどの周知の連動機構によって実現することができる。左右の指部25、35の把持面同士、あるいは第1のリンク22、32の内側の略「く」の字の凹み同士で物体を挟持するような角度の範囲内では、スライダー27やフック28はベース部10内に収容されるので、左右の平行リンク20、30を用いた上記の把持動作と干渉することはない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳細に説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0077】
本発明に係る把持装置は、ロボット用ハンドの他、電子リーチャーや義手などに適用することができる。但し、本発明の適用対象はロボットに限定されず、また、本発明の要旨は特定のロボットに限定されるものではない。
【0078】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【符号の説明】
【0079】
1…把持装置
10…ベース部
11…アクチュエーター
12…伝達部
13…ロータリー・エンコーダー
14…ピニオンギア
15a…第2ギア
15b…第3ギア
15c…第4ギア
16…分岐ギア
17…反転アイドラギア
18…従動ギア
19…従動ギア
20、30…平行リンク
21、31…基軸
22、32…第1のリンク
23、33…補助軸
24、34…第2のリンク
25、35…指部
26、36…内側爪
27…スライダー
28…フック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部と、
前記ベース部の基軸を中心に開閉方向に回動可能に取り付けられた第1のリンクと、前記ベース部の前記基軸よりも前記開閉方向の外側に位置する補助軸を中心に前記開閉方向に回動可能に取り付けられた第2のリンクと、前記開閉方向の内側に把持面を持ち前記第1のリンク及び前記第2のリンクの各先端で回動可能に支持される指部からそれぞれなり、ほぼ左右対称となる左右の平行リンクと、
前記ベース部内に収容された、前記左右の平行リンクの各第1のリンクを各々の開閉方向に駆動する駆動部と、
を具備し、
前記の左右の指部の把持面の先端縁に沿って、前記開閉方向の内側に向かって突出する爪部がそれぞれ形設される把持装置。
【請求項2】
前記駆動部は、アクチュエーターと、前記アクチュエーターによる回転を前記左右の平行リンクの各基軸にほぼ均等に伝達する伝達部を備える、
請求項1に記載の把持装置。
【請求項3】
前記伝達部は、前記基軸を従動する最終段においてノンバックラッシュ・ギアが適用されたギア列からなる、
請求項2に記載の把持装置。
【請求項4】
前記指部及び前記爪部は、高分子化合物で製作されている、
請求項1に記載の把持装置。
【請求項5】
前記の左右の指部の各把持面は、共重合発泡体からなる滑り止め部からなる、
請求項1に記載の把持装置。
【請求項6】
前記平行リンクは、前記第1及び第2のリンクの回転に応じて前記指先の先端がほぼ円弧軌道を描く回転領域と、前記指部の先端の動作を水平動作に擬似できる擬似水平移動領域を有する、
請求項1に記載の把持装置。
【請求項7】
前記擬似水平移動領域の長さは、前記第1及び第2のリンクの長さと前記擬似水平領域において前記指先の先端が変化する許容高さの関係に基づいて決定される、
請求項6に記載の把持装置。
【請求項8】
前記左右の平行リンクの各第1のリンクは、前記開閉方向の内側に凹み形状をした把持面を備える、
請求項1に記載の把持装置。
【請求項9】
前記左右の平行リンクの各第1のリンクの把持面の下端縁に沿って、前記開閉方向の内側に向かって突出する内側爪がそれぞれ形設される、
請求項8に記載の把持装置。
【請求項10】
前記内側爪は、高分子化合物で製作され、
前記左右の平行リンクの各第1のリンクの把持面は、共重合発泡体からなる滑り止め部からなる、
請求項9に記載の把持装置。
【請求項11】
前記左右の平行リンクの各第2のリンクは、前記開閉方向の外側に凹み形状をした把持面を備える、
請求項1に記載の把持装置。
【請求項12】
前記左右の平行リンクの開閉動作を利用して物体を把持する際の把持力を感知する感知手段をさらに備える、
請求項1に記載の把持装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−131341(P2011−131341A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293796(P2009−293796)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】