説明

抗がん剤送達のためのポリマー系

本発明は、温血動物におけるがん組織の治療のための組成物であって、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)および/またはN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)のうち1つまたは複数から誘導されるモノマー単位を有するポリマー担体と結合している1つまたは2つの抗がん剤を含有する組成物に関する。組成物中の抗がん剤は、前記ポリマー担体に、細胞内でリソソーム酵素による加水分解を受けやすいものでありうる側鎖により結合することができる。組成物は、ポリマー担体に結合し、場合により第2のリンカーを介して結合しているターゲティングリガンドを含むこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー担体に結合した、温血動物のがん組織治療のための1つまたは2つの抗がん剤を含有する組成物を含む。該ポリマー担体は、アミノ基またはカルボン酸基などの官能基を含む。該組成物中の1つまたは2つの抗がん剤は、リソソーム酵素による細胞内の加水分解を受けやすい側鎖により前記ポリマー担体に結合していてもよく、このとき、前記ポリマー担体は、場合によりターゲティングリガンドを含有する。
【背景技術】
【0002】
化学療法において使用される多くの低分子量の薬物は、細胞膜を通るランダムな拡散により、あらゆる種類の細胞に急速に入り込む。こうした選択性のなさは、所望の標的細胞または標的組織での利用可能性を低下させ、時には、望ましくない副作用の原因となる。細胞の取込みが急速であることから、治療効果は一定期間を超えて持続しない。さらに、糸球体濾過により、薬物は血流から急速に除去される可能性がある。
【0003】
低分子量の生物活性分子を可溶性のポリマー担体と共有結合により結合させると、糸球体濾過が防止されると共に、単純な拡散のみ以外の機序による細胞吸収が促進される。
【0004】
合成のN−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)コポリマーは、抗がん治療薬をin vivo送達するための、生体適合性、水溶性、不活性および中性の薬物担体の例である(特許文献1および特許文献2を参照)。抗がん薬をHPMAコポリマーとコンジュゲートさせる結果、小分子治療薬に対し、以下を含め多くの有利な特徴がもたらされる:可溶性および生体利用可能性の改善、充実性腫瘍中への該コンジュゲートの優先的な貯留、またはEPR(enhanced permeability and retention)効果による受動的な腫瘍ターゲティング、全身毒性の低下、ならびに治療有効性の向上、ならびに多剤耐性の下方制御。
【0005】
現在、臨床試験の多様な段階にある6つのHPMAコポリマー−薬物コンジュゲートが存在し、それらの調製および組成については、いくつかの特許に開示されている。現在、臨床試験の多様な段階にある2つのポリグルタミン酸−薬物コンジュゲートが存在し、さらなるポリマー−薬物コンジュゲート(デキストラン−薬物コンジュゲートおよびPEG−薬物コンジュゲートなど)が臨床開発中または前臨床開発中であると報告されている。
【0006】
1991年8月6日発行の特許文献3(Kopecekら)には、ペプチド連結を介して生物活性分子と結合している不活性なポリマー担体の薬物コンジュゲートが記載されている。この特許には、抗がん薬(例えば、アドリアマイシン、ダウノマイシン、メルファラン)の末端にあるオリゴペプチド配列を含有し、標的指向性を与える部分(以下、ターゲティング部分)(例えば、ガラクトサミン、フコシルアミン、抗Thy1.2抗体、抗Ia抗体)と結合するN−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドのコポリマー(ポリマーを含有しない低分子量の薬物と比較して治療有効性が高いとされる)が記載されている。とりわけ、薬物としてアドリアマイシンを(Gly−Phe−Leu−Glyオリゴペプチド配列を介して結合)、ターゲティングリガンドとしてガラクトサミンを含有するコンジュゲートが記載されている。特許文献4(Stewartら、2004)および特許文献5(Nowotnik、2007)には、ポリ(HPMA)−GFLG−プラチナ薬が記載されている。Luoらは、ポリ(HPMA)−GFLG−HA−ドキソルビシンの細胞標的型のポリマー性の送達系を開示している(特許文献6参照)が、この送達系は、ヒアルロン酸(HA)と、がん細胞表面上で過剰発現しているその細胞表面受容体との間の特異的な相互作用に基づいて設計された。Ghandehariらも、ポリアミンとコンジュゲートしているHPMAを含む核酸送達のための組成物および方法について記載している(特許文献7参照)。別の発行された特許である特許文献8(KopecekおよびKrinick、1993)には、ポリ(HPMA)−GFLG−アドリアマイシン−ce6−セクレチンによる、抗がん剤と光活性化可能な薬物との併用効果が記載されている。Lammersらは、HPMAコポリマーを使用すると、2つの異なる化学療法剤(ドキソルビシンおよびゲムシタビン)が腫瘍へ同時に送達されることを示した(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,062,831号明細書
【特許文献2】米国特許第4,097,470号明細書
【特許文献3】米国特許第5,037,883号明細書
【特許文献4】米国特許第6,692,734号明細書
【特許文献5】米国特許第7,166,733号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/0234497号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0014695号明細書
【特許文献8】米国特許第5,258,453号明細書
【特許文献9】米国特許第6,348,209号明細書
【特許文献10】米国特許第6,346,349号明細書
【特許文献11】米国特許第6,342,221号明細書
【特許文献12】米国特許第4,074,039号明細書
【特許文献13】米国特許第3,997,660号明細書
【特許文献14】米国特許第3,931,123号明細書
【特許文献15】米国特許第3,931,111号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lammers et al., Biomaterials 30: 3466-3475 (2009)
【非特許文献2】Kopecek et al., Advances in Polymer Science, 122 (Biopolymers II): 55-123 (1995)
【非特許文献3】Felding-Habermann et al., Clin. Exp. Metastasis, 19: 427-436 (2002)
【非特許文献4】Koivunen, E., Wang, B. & Ruoslahti, E., Biotechnology (N. Y.), 13: 265-270 (1995)
【非特許文献5】Arap, W., Pasqualini, R. & Ruoslahti, E., Science, 279: 377-380 (1998)
【非特許文献6】Capello, A. et al., J. Nucl. Med., 45: 1716-1720 (2004)
【非特許文献7】Skehan et al., J. National Cancer Institute, 82: 1107-1112 (1990)
【発明の概要】
【0009】
抗がん薬などの送達のための追加的なポリマー担体に対する必要性は、未だに存在する。
【0010】
実施形態には、第1のポリマー担体を有する治療用組成物が含まれる。第1のポリマー担体は第1のモノマーを有し、このモノマーは、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)またはN−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)である。この治療用組成物は、第1のポリマー担体と結合しており、場合によりリンカーを介して結合している第1の抗がん剤をさらに含み、このとき、第1の抗がん剤は、第1のモノマーまたは別のモノマーと結合している。例えば、該ポリマー担体は、2−CPMA、3−CPMA、3−APMAまたは2−APMAのホモポリマーであってもよく、このとき、モノマー単位の少なくともいくつかは、抗がん剤と化学的に結合している。
【0011】
いくつかの実施形態では、第1のポリマー担体は第2のモノマーを有する。言い換えれば、第1のポリマー担体はコポリマーである。例えば、該ポリマー担体は、2−CPMAモノマー、3−CPMAモノマー、3−APMAモノマーおよび/または2−APMAモノマーを有するコポリマーである。コポリマーの場合、2−CPMA、3−CPMA、3−APMAまたは2−APMAのうち少なくともいくつかは、抗がん剤と化学的に結合していてもよい。いくつかの実施形態では、第1の抗がん剤は、第2のモノマーと結合しており、場合によりリンカーを介して結合している。例えば、これらのコポリマーにおいては、2−CPMAモノマー、3−CPMAモノマー、3−APMAモノマーまたは2−APMAモノマーは修飾されていなくてもよく、該コポリマーは、該抗がん剤と化学的に結合している、2−CPMA、3−CPMA、3−APMAまたは2−APMA以外のモノマーを含む。いくつかの実施形態では、第2のモノマーは、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートまたはメタクリレートである。これらのモノマーは、誘導体化されていなくてもよく、または、誘導体化されて、例えば1つもしくは複数の抗がん剤もしくはターゲティングリガンドもしくはリンカーと化学的に結合していてもよい。
【0012】
いくつかの実施形態では、本組成物は、第1の抗がん剤とは異なる追加的な抗がん剤をさらに含む。該追加的な抗がん剤は、第1のポリマー担体と結合しており、場合によりリンカーを介して結合している。該追加的な抗がん剤は、第1のモノマーまたは別のモノマーと結合していてもよい。いくつかの実施形態では、両方の抗がん剤が、第1の種類のモノマー(すなわち2−CPMA、3−CPMA、2−APMAまたは3−APMA)と結合しているが、これは、第1のモノマーの少なくともいくつかの個別の単位が、各抗がん剤で化学的に修飾されていることを意味する。いくつかの実施形態では、一方の抗がん剤が第1のモノマーと結合しているが、他方は第1のモノマー以外のモノマーと結合している。いくつかの実施形態では、両方の抗がん剤は、第1のモノマー以外のモノマーと結合している。いずれの場合においても、2つの抗がん剤が結合しているモノマーは、同じであっても異なっていてもよい。
【0013】
いくつかの実施形態では、本組成物は、第1のポリマー担体と結合しており、場合によりリンカーを介して結合しているターゲティングリガンドをさらに含む。前述のように、ターゲティングリガンドは、第1のモノマーまたは別のモノマーと結合していてもよい。前述のように、ターゲティングリガンドは、第1の抗がん剤または第2の抗がん剤(存在する場合)と同じ種類のモノマー(第1のモノマーまたは別のモノマーのいずれか)と結合していてもよい。他の例においては、ターゲティングリガンドは、第1または第2の抗がん剤とは異なる種類のモノマーと結合している。いくつかの実施形態では、ターゲティングリガンドは、RGDfK、EPPT1または葉酸であってもよい。
【0014】
実施形態には、第2のポリマー担体、ならびに第2の抗がん剤、および/または、第2のポリマー担体と結合しており、場合によりリンカーを介して結合しているターゲティングリガンドをさらに含む組成物が含まれる。いくつかの実施形態では、第2のポリマー担体は、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)およびN−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)から選択されるモノマーを含むポリマーである。
【0015】
いずれの実施形態においても、第1の抗がん剤は、第1のポリマー担体とリンカーを介して結合していてもよい。同様に、ポリマー担体と結合している複数の抗がん剤および/またはターゲティングリガンドが存在する場合、そのいずれかまたは全ては、リンカーを介して結合していてもよい。1つのポリマー担体と結合している少なくとも2つの抗がん剤を有する実施形態では、両方ともリンカーにより結合している。2つ以上のリンカーを有する実施形態では、各リンカーは、同じであっても異なっていてもよい。
【0016】
少なくとも1つの抗がん剤がポリマーとリンカーを介して結合しているいくつかの実施形態では、1つまたは複数または全てのリンカーは、リソソーム酵素による切断を受けやすいものであってもよい。リソソーム酵素による切断を受けやすいリンカーの例としては、オリゴペプチド配列、オリゴ糖配列、および核酸中の構造と類似した構造が挙げられる。いくつかの実施形態では、リンカーはオリゴペプチド配列である。オリゴペプチド配列の例としては、以下が挙げられる:Gly−Gly、Gly−Phe−Gly、Gly−Phe−Phe、Gly−Leu−Gly、Gly−Val−Ala、Gly−Phe−Ala、Gly−Leu−Phe、Gly−Leu−Ala、Ala−Val−Ala、Gly−Phe−Leu−Gly(配列番号:1)、Gly−Phe−Phe−Leu(配列番号:2)、Gly−Leu−Leu−Gly(配列番号:3)、Gly−Phe−Tyr−Ala(配列番号:4)、Gly−Phe−Gly−Phe(配列番号:5)、Ala−Gly−Val−Phe(配列番号:6)、Gly−Phe−Phe−Gly(配列番号:7)、Gly−Phe−Leu−Gly−Phe(配列番号:8)またはGly−Gly−Phe−Leu−Gly−Phe(配列番号:9)。いくつかの実施形態では、オリゴペプチドリンカーはGly−Phe−Leu−Gly(配列番号:1)である。2つ以上のリンカーを有する実施形態では、第2のリンカーは、アミノ酸またはペプチドであってもよい。いくつかの実施形態では、第2のリンカーはGly−Gly(GG)であってもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、第1の抗がん剤は、ドセタキセル、ゲムシタビン、シスプラチン、ドセタキセルの誘導体、ゲムシタビンの誘導体またはシスプラチンの誘導体であってもよい。少なくとも2つの抗がん剤を有する実施形態では、抗がん剤のうち少なくとも1つは、ドセタキセル、ゲムシタビン、シスプラチン、ドセタキセルの誘導体、ゲムシタビンの誘導体またはシスプラチンの誘導体であってもよい。少なくとも2つの抗がん剤を有するいくつかの実施形態では、一方はドセタキセルまたはドセタキセルの誘導体であってもよく、他方はゲムシタビンまたはゲムシタビンの誘導体であってもよい。2つの抗がん剤を有するいくつかの実施形態では、第1の抗がん剤はドセタキセルまたはドセタキセルの誘導体であり、第2の抗がん剤または追加的な抗がん剤はシスプラチンまたはシスプラチンの誘導体である。
【0018】
実施形態には、前述の組成物のうち1つまたは複数を含む医薬組成物が含まれる。他の実施形態には、前述の組成物のうち治療上有効量の1つを投与することにより新生物性疾患を治療する方法が含まれる。他の実施形態には、新生物性疾患を治療するための前述の組成物のうち1つの使用が含まれる。
【0019】
本発明による組成物は、HPMAにあるような中性のヒドロキシル基ではなくカルボン酸基を有するモノマーであるN−2−カルボキシプロピルメタクリルアミド(2−CPMA)またはN−3−カルボキシプロピルメタクリルアミド(3−CPMA)を含むことができる。CPMAモノマーである2−CPMAおよび3−CPMAを使用して、抗がん剤を送達するためのCPMAベースのコポリマーを合成する。カルボン酸基には、HPMAに対し利点があるが、それは、この基をエステル、酸ハロゲン化物、酸アミドおよび酸無水物の生成に使用できる点においてである。加えて、この酸性の薬物担体中のカルボン酸は、他の官能基を含有するペプチド、薬物またはポリマーをこのカルボキシル基とコンジュゲートさせるために使用できる。カルボン酸を重合前または重合後に使用して、ポリマー鎖を伸張または付加することができる。
【0020】
本発明の実施形態には、酸性の薬物担体(2−CPMA含有ポリマーおよびコポリマーまたは3−CPMA含有ポリマーおよびコポリマーなど)ならびに塩基性の薬物担体(N2−APMA含有ポリマーおよびコポリマーまたは3−APMA含有ポリマーおよびコポリメスが含まれ、このような薬物担体は、1種類の抗がん剤または2種類の異なる抗がん剤を送達するための有用なポリマー系である。
【0021】
本発明の実施形態は、新生物性疾患の治療のための抗がん剤を送達するための新しいポリマー系にも関する。この系は、ポリマー骨格と例えばペプチド連結を介して結合している1つまたは2つの異なる抗がん剤を有する、水溶性のポリマーから成る。
【0022】
本発明の実施形態は、抗がん剤および/またはターゲティングリガンドの、水溶性のポリマー(ポリN−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(p2−CPMA)、ポリN−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(p3−CPMA)、ポリN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(p3−APMA)またはポリN−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド)(p2−APMA)など)とのコンジュゲート、ならびに、腫瘍中への抗がん剤の特異的な細胞内担体としての当該コンジュゲートの使用に関する。ターゲティングリガンドの例としては、RGDfK、EPPT1ペプチドまたは葉酸が挙げられる。
【0023】
本発明の実施形態には、可溶性の生物活性のあるポリマー((ポリN−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(p2−CPMA)、ポリN−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(p3−CPMA)、ポリN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(p3−APMA)およびポリN−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(p2−APMA)など)、ならびに、同じモノマーを含有し、酵素分解性の結合により結合しているペンダント式の抗がん剤とペンダント式のターゲティングリガンドとを有する関連のコポリマーが含まれる。
【0024】
本発明は、可溶性の生物活性のあるコポリマー((ポリN−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(p2−CPMA)、ポリN−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(p3−CPMA)、ポリN−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(p2−APMA)またはポリN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(p3−APMA)など)、ならびに、同じモノマーを含有し、酵素分解性の結合を介して場合により結合しているペンダント式の抗がん剤を含有する関連のコポリマーの投与による、新生物性疾患の治療のための方法も提供する。該コポリマーは、がん細胞上の腫瘍マーカーに特異的なターゲティングリガンドを含有することもできる。
【0025】
本発明は、2つ以上の異なる抗がん剤を含有するコポリマーの投与による、新生物性疾患の治療のための方法をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】pHPMA−GFLG−ドセタキセル(H1)およびp2−CPMA−GFLG−ドセタキセル(C1)によりHCT116ヒト結腸癌細胞を皮下注射したヌードマウスにおける腫瘍成長の阻害を示すグラフである。「GFLG」は配列番号:1として開示する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態を以下に詳細に述べる。実施形態の説明においては、明確を期して特定の専門用語を用いる。しかし、本発明は、そのように選択した特定の専門用語に限定されること意図したものではない。当業者には、本発明の精神および範囲を逸脱せずに、他の等価な要素を用い、および、他の方法を開発することができることは認識されよう。本明細書中で引用する全ての参考文献は、それぞれが個々に組み込まれている場合と同様に、参照により組み込まれる。
【0028】
遊離型の抗がん薬は、細胞全体に拡散し、細胞内の特定の位置に集中しない。加えて、そのような薬物は、静脈内投与されると、体の全組織に全身性に分布する。これらの薬物がこうした意図しない分布部位で作用する結果、観察可能な全身性の副作用が生じる。したがって、そうした薬物は、作用することが望ましい体内の部位に局在化させることが好ましい。こうした薬剤を、それが最も有効である細胞内の部位にターゲティングすることにより、その有効性が増し、その毒性は低下する。
【0029】
抗がん薬の腫瘍へのターゲティングは、「受動的ターゲティング」および「能動的ターゲティング」により達成できる。受動的ターゲティングには、標的細胞への薬物送達を選択的に増加させるための一般に非特異的な方法の使用が含まれる。例えば、受動的ターゲティングは、抗がん薬を巨大分子担体(水溶性ポリマーなど)中に組み込みまたは結合しすることにより達成できる。能動的ターゲティングは、標的細胞の表面上の認識分子(受容体)に特異的な部分を利用する。例えば、能動的ターゲティングは、細胞へのターゲティング部分を巨大分子担体などの送達系に結合することにより達成できる。
【0030】
ポリマーは、正常組織と比較すると、充実性腫瘍において優先的に局在化する。これは、腫瘍組織または腫瘍細胞における形態的な変化の原因となる「EPR(Enhanced Permeability and Retention)」効果と呼ばれる現象により起きることであり、そうした組織または細胞では、血管新生により、漏れやすい血管系が生じる結果、血管の内容物が細胞外組織中に漏出する。加えて、リンパ管が遮断されることがあり、その結果、巨大分子の薬剤は、腫瘍細胞を取り巻く細胞外組織中に貯留する。この現象を用いて、薬物をポリマーと結合することにより、腫瘍細胞をターゲティングすることができる。ポリマーは腫瘍細胞の周囲に局在化することから、ポリマーと結合された薬物は、腫瘍の周囲でも、より高い濃度で利用可能である。ポリマーと結合された抗がん剤は、エンドサイトーシスにより細胞内部に取り込まれる。ポリマーと結合された抗がん剤は、自身の抗がん活性を保持できる。しかし、この薬剤は、ポリマー骨格と共有結合により結合したままであることから、場合によっては、遊離型の薬剤ほど有効ではない可能性がある。このことは、薬物をポリマー骨格と結合するための生分解性または加水分解性の結合またはリンカー(ペプチド配列など)を使用することにより克服できる。ペプチド配列を使用する際は、特定の条件下にて細胞内で分解できるような配列を選ぶ。
【0031】
加えて、がん細胞は、多くの場合、正常組織中には存在しないかまたは正常組織と比較して過剰発現しているかのいずれかである表面分子を有する。このような表面分子としては、成長因子受容体および/または一定の抗原を挙げることができる。認識分子を、これらの分子と結合するポリマーと結合する結果、担体は腫瘍細胞および腫瘍組織に選択的に結合し、腫瘍の局所的な環境におけるポリマーは高濃度になる。そのようなターゲティング部分としては、細胞表面受容体に対する抗体およびペプチジルリガンドが挙げられる。これらの認識分子のいくつかがその受容体に結合することにより開始される受容体介在性のエンドサイトーシスは、結果として細胞内の濃度を増加させることができ、それに対応して、結果として治療効果を向上させることができる。
【0032】
ポリマーベースの治療薬は水力学的体積が大きく、これは、言い換えれば、血管内の半減期がより長いということである。ポリマーベースの治療薬は、不溶性の薬物の可溶性および生体利用可能性も向上させる。ポリマーベースの治療薬により得られる他の利点としては、最大耐量の増加、非特異的な毒性の減少、アポトーシスの誘導の向上、および、代替的なシグナル伝達経路の活性化が挙げられる(非特許文献2参照)。
【0033】
実施形態には、新しいポリマーベースの治療薬、および、新生物性疾患の治療のためのその使用が含まれる。実施形態には、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)またはN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)のうち1つまたは複数の重合から生成されるホモポリマーおよびコポリマーが含まれ、このとき、該ホモポリマーまたはコポリマーは、2−CPMA、3−CPMA、2−APMAまたは3−APMAのうち少なくとも1つを含む。
【0034】
モノマー
本明細書中で使用する場合、モノマーまたはコモノマーという用語は、重合前のモノマーを意味するために使用することがある。しかし、形成されたポリマーに関して使用する場合は、モノマー、コモノマー、モノマー単位またはコモノマー単位という用語は、重合されていない形態のモノマーまたはコモノマーから誘導されたポリマー鎖またはコポリマー鎖中のサブユニットを指す。これらの用語の使われ方は、本明細書および特許請求の範囲の文脈において当業者には明らかであろう。
【0035】
本明細書中で使用する場合、用語「HPMA」、「2−CPMA」、「3−CPMA」、「2−APMA」および「3−APMA」は、化合物N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(2−アミノプロピル)メタクリルアミドおよびN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミドを意味し、それぞれ、以下の構造:
【0036】
【化1】

【0037】
で表されるとおりである。
【0038】
本明細書中で使用する場合、「誘導体化されていない」モノマーは、化学修飾されていないモノマーである。誘導体化されていないモノマーとしては、例えば以下が挙げられる:2−CPMA、3−CPMA、HPMA、2−APMA、3−APMA、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、アクリレート、メタクリレート、および他のビニルコモノマー。「誘導体化されている」モノマーは、化学修飾されている(重合による以外)モノマーを意味する。化学修飾は、重合の前に行われても後に行われてもよい。いくつかの実施形態では、「誘導体化されている」モノマーは、重合前に合成される。いくつかの実施形態では、モノマーまたはモノマー単位は、重合後に「誘導体化」される。モノマーを「誘導体化」させて、例えば、抗がん剤、リンカー、ターゲティングリガンド、リンカー−抗がん剤の組合せ、またはリンカー−ターゲティングリガンドの組合せと結合させることができる。誘導体化されているモノマーの例としては、以下が挙げられる:カルボン酸官能基が、例えば共有結合によりリンカー、抗がん剤もしくはターゲティングリガンドと直接結合するように修飾されている2−CPMAもしくは3−CPMA、または、アミン官能基が、例えば共有結合によりリンカー、抗がん剤もしくはターゲティングリガンドと直接結合するように修飾されている2−APMAもしくは3−APMA。他の例としては、以下が挙げられる:カルボン酸官能基が、例えば共有結合によりリンカーと直接結合しており、抗がん剤またはターゲティングリガンドが、例えば共有結合により該リンカーと直接結合している、2−CPMAまたは3−CPMA。他の例としては、以下が挙げられる:アミン官能基が、例えば共有結合によりリンカーと直接結合しており、抗がん剤またはターゲティングリガンドが、例えば共有結合により該リンカーと直接結合している、2−APMAまたは3−APMA。
【0039】
ポリマーベースの治療薬
本発明の実施形態には、例えば抗がん療法において使用できる、ポリマーベースの治療用化合物が含まれる。これらの化合物は、抗がん化合物または他の治療用化合物の、標的指向性のある送達を増加または変化させることができる。ポリマーベースの治療用化合物としては、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)またはN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)のうち1つまたは複数の重合から生成されるホモポリマーおよびコポリマーが挙げられ、このとき、該ホモポリマーまたはコポリマーは、2−CPMA、3−CPMA、2−APMAまたは3−APMAのうち少なくとも1つを含み、該ホモポリマーまたはコポリマーは、少なくとも1つの抗がん剤を含む。
【0040】
これらのポリマーベースの治療用化合物は、抗がん剤とポリマー担体とを含む。該ポリマーベースの治療用化合物は、場合により、リンカー(例えば、Gly−Phe−Leu−Gly(配列番号:1)など)、および/またはターゲティングリガンド(例えば、RGDfK、EPPT1ペプチドまたは葉酸など)を含んでもよい。本明細書中で使用する場合、ポリマー担体は、1つもしくは複数の抗がん剤、リンカー、ターゲティングリガンド、リンカー−抗がん剤の組合せ、またはリンカー−ターゲティングリガンドの組合せと結合しているポリマー骨格である。
【0041】
実施形態には、第1のポリマー担体を有する治療用組成物が含まれる。第1のポリマー担体は、第1のモノマーを有し、この第1のモノマーは、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)またはN−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)のいずれかである。該治療用組成物は、第1のポリマー担体と結合しており、場合によりリンカーを介して結合している第1の抗がん剤をさらに含み、このとき、第1の抗がん剤は、第1のモノマーまたは別のモノマーと結合している。例えば、該ポリマー担体は、2−CPMA、3−CPMA、3−APMAまたは2−APMAのホモポリマーであってもよく、このとき、モノマー単位の少なくともいくつかは、抗がん剤と化学的に結合している。
【0042】
いくつかの実施形態では、第1のポリマー担体は第2のモノマーを有する。言い換えれば、第1のポリマー担体は、コポリマー、すなわち、2−CPMAモノマー、3−CPMAモノマー、3−APMAモノマーおよび/または2−APMAモノマーを有するコポリマーである。コポリマーの場合、2−CPMAモノマー単位、3−CPMAモノマー単位、3−APMAモノマー単位または2−APMAモノマー単位の少なくともいくつかは、抗がん剤と化学的に結合していてもよい。いくつかの実施形態では、第1の抗がん剤は、第2のモノマーと結合しており、場合によりリンカーを介して結合している。例えば、いくつかのコポリマーにおいては、2−CPMAモノマー、3−CPMAモノマー、3−APMAモノマーまたは2−APMAモノマーは修飾されていなくてもよく、該コポリマーは、該抗がん剤と化学的に結合している、2−CPMA、3−CPMA、3−APMAまたは2−APMA以外のモノマーを含む。いくつかの実施形態では、第2のモノマーは、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートまたはメタクリレートである。これらのモノマーは、誘導体化されていなくてもよく、または、誘導体化されて、例えば1つもしくは複数の抗がん剤もしくはターゲティングリガンドもしくはリンカーと化学的に結合していてもよい。当技術分野で公知のHPMAポリマーおよびコポリマー送達系において使用されるコモノマーは、本発明における使用のための例示的なコモノマーである。
【0043】
いくつかの実施形態では、本組成物は、第1の抗がん剤とは異なる追加的な抗がん剤をさらに含む。該追加的な抗がん剤は、第1のポリマー担体と結合しており、場合によりリンカーを介して結合している。該追加的な抗がん剤は、第1のモノマーまたは別のモノマーと結合していてもよい。いくつかの実施形態では、両方の抗がん剤は第1のモノマーと結合しており、このことは、第1のモノマーの異なる単位が各抗がん剤で化学修飾されていることを意味する。そのような場合、いくつかのモノマー単位は第1の抗がん剤と、いくつかは第2の抗がん剤と結合しているが、いくつかは誘導体化されていない。いくつかの実施形態では、一方の抗がん剤は第1のモノマーと結合しているが、他方は、第1のモノマー以外のモノマーと結合している。いくつかの実施形態では、両方の抗がん剤は、第1のモノマー以外のモノマーと結合している。いずれの場合においても、2つの抗がん剤が結合しているモノマーは、同じであっても異なっていてもよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、本組成物は、第1のポリマー担体と結合しており、場合によりリンカーを介して結合しているターゲティングリガンドをさらに含む。前述のように、ターゲティングリガンドは、第1のモノマーまたは別のモノマーと結合していてもよい。前述のように、ターゲティングリガンドは、第1の抗がん剤または第2の抗がん剤(存在する場合)と同じモノマー(第1のモノマーまたは別のモノマーのいずれか)と結合していてもよい。言い換えれば、第1の抗がん剤と結合しているモノマーは、ターゲティングリガンドと結合しているモノマーと同じ種類のもの(すなわち、2−CPMA、3−CPMA、2−APMA、3−APMA、HPMA、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミドまたはメタクリルアミド)である。いくつかの実施形態では、ターゲティングリガンドは、第1の抗がん剤とは異なる種類のモノマーと結合している。言い換えれば、ターゲティングリガンドと結合しているモノマー単位は、第1の抗がん剤と結合しているモノマー単位とは異なる。ターゲティングリガンドは、例えば、RGDfK、EPPT1または葉酸であってもよい。
【0045】
いずれの実施形態においても、第1の抗がん剤は、第1のポリマー担体とリンカーを介して結合していてもよい。同様に、ポリマー担体と結合している複数の抗がん剤および/またはターゲティングリガンドが存在する場合、そのいずれかまたは全ては、リンカーを介して結合していてもよい。1つのポリマー担体と結合している少なくとも2つの抗がん剤を有するいくつかの実施形態では、両方ともリンカーにより結合している。
【0046】
実施形態には、第1のポリマー担体が約5%から約99.7%の間の誘導体化されていないモノマー単位を有する組成物が含まれる。他の実施形態では、該ポリマー担体は、約25%から約98%の間の誘導体化されていないモノマー単位を含む。いくつかの実施形態では、該ポリマー担体は、約50%から約98%の間の誘導体化されていないモノマー単位を含む。いくつかの実施形態では、該ポリマー担体は、約5%超、約10%超、約20%超、約25%超、約40%超、約50%超、約70%超、約80%超または90%超の誘導体化されていないモノマー単位を有する。いくつかの実施形態では、該ポリマー担体は、約99.5%未満、約99.0%未満、約98.0%未満または約95%未満の誘導体化されていないモノマー単位を有する。該誘導体化されていないモノマー単位は、例えば、第1のモノマー単位(すなわち、2−CPMA、3−CPMA、2−APMAもしくは3−APMA)、または別の誘導体化されていないモノマー単位であってもよい。
【0047】
実施形態には、第1のポリマー担体が、抗がん剤と結合している約0.1mol%から約20.0mol%の間の誘導体化されているモノマー単位を有する、ポリマーが含まれる。いくつかの実施形態では、第1のポリマー担体は、抗がん剤と結合している、約0.1mol%超、約0.2mol%超、約0.5mol%超、約1.0mol%超、約2.0mol%超、約5.0mol%超または約7.0mol%超の誘導体化されているモノマー単位を有する。いくつかの実施形態では、第1のポリマー担体は、抗がん剤と結合している、約20mol%未満、約15mol%未満、約10mol%未満または約5.0mol%未満の誘導体化されているモノマー単位を有する。
【0048】
実施形態には、第1のポリマー担体が、ターゲティングリガンドと結合している約0.1mol%から約94.8mol%の間の誘導体化されているモノマー単位を有する、組成物が含まれる。いくつかの実施形態では、第1のポリマー担体は、ターゲティングリガンドと結合している約0.1mol%超、約0.5mol%超、約1.0mol%超、約2.0mol%超、約5mol%超、約10mol%超、約20mol%超、約40mol%超または約50mol%超の誘導体化されているモノマー単位を有する。いくつかの実施形態では、第1のポリマー担体は、ターゲティングリガンドと結合している約94.8mol%未満、約90mol%未満、約80mol%未満、約70mol%未満、約50mol%未満、約40mol%未満または約20mol%未満の誘導体化されているモノマー単位を有する。
【0049】
実施形態には、抗がん剤と、ポリマー担体と、場合によりリンカー分子と、場合によりターゲティングリガンド(RGDfK、EPPT1ペプチドまたは葉酸など)とを含むポリマーベースの治療用化合物であって、抗がん剤、ポリマー担体、リンカー分子および/またはターゲティングリガンド(RGDfK、EPPT1ペプチドまたは葉酸など)が、共有結合を介して互いに結合している治療用化合物が含まれる。
【0050】
抗がん剤、ポリマー担体、任意選択的なリンカー分子および任意選択的なターゲティングリガンドが互いに結合することができるいくつかの異なる方式が存在する。いくつかの実施形態では、抗がん剤と、ポリマー担体と、場合によりリンカー分子と、場合によりターゲティングリガンドとは、互いに直接結合することができる。例示的な実施形態を、以下に記載し、模式的に示す。例えば、抗がん剤は、共有結合(I)を介してポリマー担体と結合していてもよい。
【0051】
【化2】

【0052】
他の実施形態(II)では、リンカー分子は共有結合を介してポリマー担体と直接結合しており、抗がん剤は共有結合を介してリンカー分子と直接結合している。
【0053】
【化3】

【0054】
他の実施形態(III)では、抗がん剤は共有結合を介してポリマー担体と直接結合しており、ターゲティングリガンドは共有結合を介してポリマー担体と直接結合している。
【0055】
【化4】

【0056】
他の実施形態(IV)では、リンカー分子は共有結合を介してポリマー担体と直接結合しており、抗がん剤はリンカー分子と直接結合しており、ターゲティングリガンドは共有結合を介してポリマー担体と直接結合している。
【0057】
【化5】

【0058】
他の実施形態(V)では、リンカー分子は共有結合を介してポリマー担体と直接結合しており、ターゲティングリガンドはリンカー分子と直接結合しており、抗がん剤は、共有結合を介してポリマー担体と直接結合している。
【0059】
【化6】

【0060】
他の実施形態(VI)では、リンカー分子は共有結合を介してポリマー担体と直接結合しており、抗がん剤はリンカー分子と直接結合しており、ターゲティングリガンドは、異なるリンカー分子と直接結合しており、この異なるリンカー分子は、共有結合を介してポリマー担体と直接結合している。
【0061】
【化7】

【0062】
他の実施形態では、異なる種類の2つ以上の抗がん剤が存在してもよい。例えば、先に記載の実施形態のいずれかにおいて、2つの異なる抗がん剤を使用してもよい。2つ以上の異なる抗がん剤を有する実施形態では、抗がん剤は、担体と、または担体と結合しているリンカーと、直接結合していてもよい。2つ以上の異なる抗がん剤を有するいくつかの実施形態では、少なくとも1つ(但し全てではない)の抗がん剤はリンカーと結合しており、リンカーは担体と直接結合している。2つ以上の異なる抗がん剤を有する他の実施形態では、抗がん剤は全て、別々のリンカーと結合しており、該別々のリンカーはポリマー担体と直接結合している。それぞれが別々のリンカーにより担体と隔てられている2つの抗がん剤を有する化合物の図(VII)を以下に示す。全ての場合において、リンカーは、任意選択的なものであり、同じであっても異なっていてもよい。
【0063】
【化8】

【0064】
2つ以上の異なる抗がん剤を有する実施形態(例えばVIII)は、リンカーによりポリマー担体と場合により隔てられているターゲティングリガンドを有することもできる。別々のリンカーを伴う2つの抗がん剤と、リンカーにより隔てられているターゲティングリガンドとを有する化合物の例を、以下に図示する。全ての場合において、リンカーは、任意選択的なものであり、同じであっても異なっていてもよい。
【0065】
【化9】

【0066】
2つ以上のリンカーを使用する全ての実施形態では、リンカーは、同じであっても異なっていてもよい。例えば、抗がん剤およびターゲティングリガンドが両方ともリンカーによりポリマー担体と隔てられている場合、リンカーは、同じであっても異なっていてもよい。同様に、2つ以上の抗がん剤が使用され、2つ以上または全てがリンカーによりポリマー担体と隔てられている場合にも、リンカーは、同じであっても異なっていてもよい。
【0067】
実施形態には、2つ以上のポリマー担体を使用する組成物および方法も含まれる。例えば、組成物は、抗がん剤が場合によりリンカーを介して結合している第1のポリマー担体を含んでもよい(例えばIまたはII)。第2のポリマーは、ターゲティングリガンドも含むことができる(例えばIII、IV、VまたはVI)。本組成物は、例えば、ターゲティングリガンドが場合によりリガンドを介して結合している第2のポリマー担体も含むことができる。(例えばIXまたはX)。
【0068】
【化10】

【0069】
これらのいくつかの実施形態では、第2のポリマー担体は、2−CPMAモノマー、3−CPMAモノマー、3−APMAモノマーまたは2−APMAモノマーを有するポリマーに限定されない。例えば、第2のポリマー担体は、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)モノマー、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)モノマー、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)モノマー、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)モノマー、N−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)モノマーまたは他のアクリレートモノマーおよびアクリルアミドモノマーを有するポリマーであってもよい。該モノマーは、抗がん剤、リンカー、ターゲティングリガンド、リンカー−抗がん剤の組合せ、またはリンカー−ターゲティングリガンドの組合せで誘導体化されていてもよい。
【0070】
いくつかの実施形態では、第1のポリマー担体と第2のポリマー担体とは、共に連結して、より大きい単一のポリマーを形成していてもよい。そのような実施形態では、該ポリマーは、各ポリマー上でモノマーと結合することが可能な任意のリンカーを介して連結していてもよい。例えば、第1のポリマーにおいては、連結基は、重合されて第1の担体分子を形成するモノマーと結合していてもよく、このとき、連結基の、結合されていない末端は、第2の担体ポリマー上のモノマー(またはリンカー)上の反応基と接合できる反応性の官能基または脱離基を有する。例えば、第1の担体ポリマーは、パラニトロフェノキシ(ONp)基などの脱離基中の末端にある連結基を含むことができる。そのような担体ポリマーは、アミン基を含む、例えば3−APMAから調製される第2の担体分子と反応させることができる。次に、2つの担体ポリマーを、アミン基でONp基を置換することにより連結できる。連結されたポリマーの例示的な実施形態では、連結基は、細胞内の加水分解により、またはリソソーム酵素により切断されて、2つの別々のポリマー担体を放出しやすい。
【0071】
他の組成物は、先に記載の多様な送達系(I〜X)の他の組合せを含むことができる。治療の方法には、これらのポリマー送達系の組合せのうちいずれかの併用投与が含まれる。
【0072】
本化合物を生成させるために使用される抗がん剤、ポリマー担体、リンカー分子および標的リガンドについて、以下に述べる。
【0073】
1.抗がん剤
「抗がん剤」は、がんと闘うために有用な任意の薬剤を意味する。ポリマー担体および/またはリンカーと直接または間接的に結合することができる任意の抗がん剤を使用してもよい。本開示の組成物と共に使用できる抗がん剤の一部のリストは、例えば、参照により本明細書に組み込まれる特許文献3、ならびに、その中に引用されている、抗がん剤について書かれている任意の刊行物および特許または特許出願に見出すことができる。特許文献9、特許文献10および特許文献11にも、抗がん化合物に関連する薬剤が記載されている。抗がん剤の種類としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:化学療法剤、細胞毒、代謝拮抗薬、アルキル化剤、タンパク質キナーゼ阻害剤、アントラサイクリン、抗生物質、抗有糸分裂剤(例えば、抗チューブリン剤)、コルチコステロイド、放射性医薬品およびタンパク質(例えば、サイトカイン、酵素またはインターフェロン)。抗がん剤としては、例えば以下が挙げられる:小分子の有機化合物、巨大分子、金属含有化合物、および、放射性核種を含む化合物またはキレート。例示的な実施形態では、抗がん化合物は、小分子の有機化合物である。具体例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:ドセタキセル、ゲムシタビン、イマチニブ(Gleevec(登録商標))、5−フルオロウラシル、9−アミノカンプトテシン、アミン修飾されたゲルダナマイシン、ドキソルビシン、パクリタキセル(Taxol(登録商標))、シスプラチン、プロカルバジン、ヒドロキシウレア、メソe−クロリン、Gd(+3)化合物、アスパラギナーゼおよび放射性核種(例えば、I−131、Y−90、In−111およびTc−99m)。当技術分野で公知の多くの抗がん剤が存在し、多くは開発が継続中である。いくつかの実施形態では、「抗がん剤」は、ドセタキセルまたはゲムシタビンである。いくつかの実施形態には、2つ以上の抗がん剤が含まれる。いくつかの実施形態には、2つの抗がん剤が含まれる。いくつかの実施形態には、ドセタキセルおよびゲムシタビンが含まれる。
【0074】
いくつかの実施形態では、第1の抗がん剤は、ドセタキセル、ゲムシタビン、シスプラチン、ドセタキセルの誘導体、ゲムシタビンの誘導体またはシスプラチンの誘導体である。少なくとも第1の抗がん剤および第2の抗がん剤を有するいくつかの実施形態では、第1の抗がん薬部分および第2の抗がん薬部分のうち少なくとも一方は、ドセタキセル、ゲムシタビン、シスプラチン、ドセタキセルの誘導体、ゲムシタビンの誘導体またはシスプラチンの誘導体である。第1の抗がん剤および第2の抗がん剤を有する他の実施形態では、第1の抗がん薬部分は、ドセタキセルまたはその誘導体であり、第2の抗がん薬部分は、ゲムシタビン、シスプラチンまたはその誘導体である。
【0075】
理解されようが、抗がん剤は、ポリマー担体と結合している場合、当該抗がん剤それ自体と比較して、修飾されている。当業者であれば、以下の説明に基づいて、抗がん剤をポリマー担体と結合させまたは分子を連結するための、抗がん剤の必要な化学修飾を行うことができよう。化学修飾を行って抗がん剤を結合すると、本明細書中で使用するとおりの、当該抗がん剤の「誘導体」が生成される。例えば、ドセタキセル、ゲムシタビンまたはシスプラチンの「誘導体」としては、ドセタキセル、ゲムシタビンまたはシスプラチンをポリマー担体またはリンカーと結合することが可能な、ドセタキセル、ゲムシタビンまたはシスプラチンの、化学修飾された類似体が挙げられる。誘導体は、抗がん剤の活性を妨げるべきではない。切断可能なリンカーを有する実施形態では、結合の切断時に、抗がん剤またはその活性誘導体が放出される。
【0076】
2.ポリマー担体
一実施形態では、ポリマー担体は、不飽和モノマーの重合により生成されるポリマーである。モノマーの例としては、アクリレートおよびメタクリレート、アクリルアミドおよびメタクリルアミドが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のいくつかの実施形態では、ポリマー担体は、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)の重合から生成されるホモポリマーである。他の実施形態では、ポリマー担体は、2つ以上のコモノマー単位の重合から生成されるヘテロポリマーまたはコポリマーであり、このとき、少なくとも1つのモノマー単位は、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)である。
【0077】
本明細書で使用する場合、2−CPMA、3−CPMA、2−APMAまたは3−APMAのホモポリマーであるポリマー担体は、ポリマー骨格が、2−CPMA、3−CPMA、2−APMAまたは3−APMAから誘導されることを意味するが、個々のモノマー単位は、例えば、リンカー、抗がん剤、ターゲティングリガンド、抗がん剤と結合しているリンカー、または、ターゲティングリガンドと結合しているリンカーと結合していてもよい。
【0078】
ヘテロポリマーまたはコポリマーであるポリマー担体は、ポリマー骨格が2つ以上のコモノマーから生成されることを意味し、このとき、少なくとも1つのコモノマーは、2−CPMA、3−CPMA、2−APMAまたは3−APMAであるが、個々のモノマー単位は、前述のように、例えば、リンカー、抗がん剤、ターゲティングリガンド、抗がん剤と結合しているリンカー、またはターゲティングリガンドと結合しているリンカーと結合していてもよい。いくつかの実施形態では、2−CPMAモノマー、3−CPMAモノマー、2−APMAモノマーまたは3−APMAモノマーは、例えば、リンカー、抗がん剤、ターゲティングリガンド、抗がん剤と結合しているリンカー、またはターゲティングリガンドと結合しているリンカーと結合していてもよい。いくつかの実施形態では、2−CPMA、3−CPMA、2−APMAまたは3−APMAではないコモノマーは、例えば、リンカー、抗がん剤、ターゲティングリガンド、抗がん剤と結合しているリンカー、またはターゲティングリガンドと結合しているリンカーと結合していてもよい。
【0079】
該担体ポリマー分子は、少なくとも5,000ダルトンの大きな巨大分子である。該ポリマー担体は、約5,000から約1,000,000ダルトン、約5,000ダルトンから約100,000ダルトン、約5,000から約25,000ダルトン、約25,000から約100,000ダルトン、約25,000ダルトンから約1,000,000ダルトン、または100,000ダルトンから1,000,000ダルトンの範囲であってもよい。第1のポリマー担体と第2のポリマー担体とがカップリングまたは連結している実施形態では、結果として得られるポリマーは、少なくとも50,000ダルトン、または少なくとも約100,000ダルトンである。例えば、結果として得られるポリマーは、50,000ダルトンから約1,000,000ダルトン、100,000ダルトンから約1,000,000ダルトン、または100,000ダルトンから約250,000ダルトンの範囲であってもよい。該ポリマー担体は、細胞膜を通過する抗がん剤の輸送に役立つ。したがって、抗がん剤は、該ポリマー担体と直接または間接的に結合している場合、典型的には当該抗がん剤単独の場合より良好に細胞膜を通過する。ポリマー担体のいくつかの例が記載されており(特許文献8(名称「Drug delivery system for the simultaneous delivery of drugs activatable by enzymes and light」)、特許文献3(名称「Synthetic polymeric drugs」)、特許文献12(名称「Hydrophilic N,N-diethyl acrylamide copolymers」)、特許文献1(名称「Copolymers based on N-substituted acrylamides, N-substituted methacrylamides and N,N-disubstituted acrylamides and the method of their manufacturing」)、特許文献13(名称「Soluble hydrophilic polymers and process for producing the same」)、特許文献14(名称「Hydrophilic nitrite copolymers」)、および特許文献15(名称「Soluble hydrophilic polymers and process for processing the same」)を参照)、これらの文献のそれぞれは、参照によりその全体が、個々に且つ具体的に本明細書中に組み込まれる。これらのポリマーは、2−CPMAモノマー、3−CPMAモノマー、2−APMAモノマーまたは3−APMAモノマーの組込みにより、本発明に従い修飾できる。あるいは、前述のポリマーは、本発明に従い、例えば第2のポリマー担体として、ポリマーと組み合わせて使用できる。
【0080】
3.リンカー分子
「リンカー」は、抗がん剤またはターゲティングリガンドをポリマー骨格と空間的に隔てる基を指す。リンカーは、限定するものではないが、ポリ(エチレングリコール)、アミノ酸またはポリ(アミノ酸)など任意の種類の実体であってもよく、その一端はポリマー骨格と共有結合を形成することが可能であり、その他端は薬物またはターゲティングリガンドと共有結合を形成することが可能である。リンカーは、切断可能であってもよいことから、抗がん剤を、例えば、還元条件下、酸化条件下で、または、リンカーと抗がん剤との間で共有結合を形成するエステル、アミド、ヒドラジドまたは類似の連結の加水分解により、放出できる。加えて、そのような種類のリンカーは、細胞内部での抗がん剤の選択的な放出を可能にすることにより、選択的な細胞毒性の側面を増大させる(ひいては治療指数を改善する)ことができる。リンカーの構造は、血流中では安定であるが細胞内ではリソソーム酵素による加水分解を受けやすいようにあつらえてもよい。オリゴペプチド配列、オリゴ糖配列、または、核酸中の構造と類似した構造を、薬物が結合する点として使用することもできる。こうした連結またはペプチドスペーサーは、特許文献3に述べられている以下のもののうちいずれかであってもよい:例えば、Gly−Gly、Gly−Phe−Gly、Gly−Phe−Phe、Gly−Leu−Gly、Gly−Val−Ala、Gly−Phe−Ala、Gly−Leu−Phe、Gly−Leu−Ala、Ala−Val−Ala、Gly−Phe−Leu−Gly(配列番号:1)、Gly−Phe−Phe−Leu(配列番号:2)、Gly−Leu−Leu−Gly(配列番号:3)、Gly−Phe−Tyr−Ala(配列番号:4)、Gly−Phe−Gly−Phe(配列番号:5)、Ala−Gly−Val−Phe(配列番号:6)、Gly−Phe−Phe−Gly(配列番号:7)、Gly−Phe−Leu−Gly−Phe(配列番号:8)またはGly−Gly−Phe−Leu−Gly−Phe(配列番号:9)。いくつかの実施形態では、リンカーはペプチドスペーサーである。いくつかの実施形態では、リンカーはGly−Phe−Leu−Gly(配列番号:1)である。このスペーサーのことは、本明細書および特許請求の範囲を通じてGly−Phe−Leu−Gly(配列番号:1)またはGFLG(配列番号:1)のいずれかと繰り返し呼ぶことになるが、これらの用語は、互換的に使用できる。少なくとも1つのリンカーを有するいくつかの実施形態では、リンカーはリソソーム酵素による切断を受けやすく、リンカーは、例えば、オリゴペプチド配列、オリゴ糖配列、または核酸中の構造と類似した構造であってもよい。本明細書中で使用する場合、「核酸中の構造と類似した構造」は、リン酸ジエステル−リボース連結を有するオリゴヌクレオチド配列を意味する。こうした連結は、例えば、ホスホジエステラーゼ、DNA分解酵素、RNA分解酵素およびエンドヌクレアーゼにより切断されてもよい。オリゴペプチドを切断する酵素の例としては、プロテアーゼおよびペプチダーゼが挙げられる。オリゴ糖を切断する酵素の例としては、糖加水分解酵素およびグリコシダーゼが挙げられる。
【0081】
4.ターゲティングリガンド
用語「ターゲティングリガンド」は、所望の活性が得られるように本発明の化合物を特定の部位に送達するように働く分子を意味する。ターゲティングリガンドとしては、例えば、特定の細胞表面上の分子と特異的に結合する分子が挙げられる。例示的なターゲティングリガンドとしては、以下が挙げられる:抗体、抗体断片、小有機分子、ペプチド、ペプトイド、タンパク質、ポリペプチド、オリゴ糖、トランスフェリン、HS−糖タンパク質、凝固因子、血清タンパク質、β−糖タンパク質、G−CSF、GM−CSF、M−CSF、EPOなど。いくつかの実施形態では、ターゲティングリガンドは、ポリマーと、場合によりリンカーを介して結合しているRGDfK、EPPT1ペプチドまたは葉酸である。
【0082】
概して、受動ターゲティングされるHPMAコンジュゲートについては、臨床試験での成功はこれまでわずかであるが、それは主に、受動拡散のみでは充実性腫瘍中での薬物の貯留が限られることと、臨床症状を示すがんの異質性とが理由である。能動的ターゲティング戦略は、腫瘍の生理が多様であることを考慮した多数の細胞型へのターゲティングを可能にし、充実性腫瘍の微小環境における分布を最大化しつつ、同時に他の臓器中でのその非特異的な取込みを最小化するものでありうる。能動的ターゲティング戦略は、(1)腫瘍特異性の増加、(2)薬物動態の改善、および(3)毒性の低下により、治療有効性を顕著に改善することにもなろう。抗がん薬の腫瘍局在化を顕著に改善するために活用できるいくつかのそのような戦略は、ここ数年にわたり出現している。分子マーカー(例えば、ペプチドおよび抗体)を結合しさせることによるポリマー性の薬物送達系の能動的ターゲティングは、腫瘍局在化を顕著に改善することが示されている。
【0083】
ムチン−1は、大部分の腺の上皮細胞により発現される膜貫通型の分子である。いくつかの重要な特徴により、ムチン−1は、腫瘍への標的指向性のある送達のための魅力的な受容体となる。
【0084】
まず、ムチン−1は、ヒトの乳癌、卵巣癌、膵臓癌、直腸結腸癌、肺癌、前立腺癌、結腸癌および胃癌の90%を含め、ほぼ全てのヒト上皮細胞の腺癌上で過剰発現する。さらに、ムチン−1の発現が非上皮性のがん細胞株(星状細胞腫、メラノーマおよび神経芽細胞腫)において、ならびに、血液悪性腫瘍(多発性骨髄腫およびいくつかのB細胞非ホジキンリンパ腫など)において実証されており、合計でヒトにおける全てのがんの50%を占める。
【0085】
第2に、腺癌組織においては、腺の構造が失われた結果として、ムチン−1は、細胞表面全体にわたり偏在的に発現する。その棒様の構造から、この分子は、表面上部に100〜200nm突き出ており、これは大部分の膜分子の長さの5〜10倍である。この特徴により、ムチン−1は、治療用のプローブにとって利用しやすい標的となる。
【0086】
第3に、正常組織においてムチン−1は高度にグリコシル化されている(その分子量の50〜90%は炭水化物に由来する)のに対し、新生物の組織中では、ムチン−1は典型的に低グリコシル化状態である。グリコシル化が低下していることにより、免疫系は腫瘍に関連する低グリコシル化状態のムチン−1抗原のペプチドコアに到達することが可能になり、正常細胞中では遮蔽されているエピトープを露呈させる。この特徴により、正常細胞と腺癌細胞とを識別するプローブを設計することが可能になる。
【0087】
第4に、APDTRP(配列番号:10)配列の存在により定義されるムチン−1の細胞外ドメインは、細胞表面の上部に突き出ていることから、腫瘍細胞表面上の接着分子とリンパ球上の自身のリガンドとの間の相互作用を妨げ、腫瘍エピトープが免疫認識されにくいようにする。したがって、免疫療法に応答して腫瘍抗原を下方制御させる方向には向かわず、ムチン−1の発現は、腫瘍の生存中および腫瘍転移中は、一様に上方制御され続ける。こうした特徴は、異なる段階の腫瘍進行を対象とした標的指向性のある薬物送達の設計において重要である。
【0088】
多数の調査が、ムチン−1を免疫療法のための標的として使用する可能性に焦点を合わせてきた。タンデム反復の免疫原性のAPDTRP(配列番号:10)配列を認識するための、多数のモノクローナル抗体が生成されてきた。しかし、標的指向性を与える分子として抗体を使用すると、こうしたタンパク質の免疫原性および長い血漿半減期が不利益をもたらした。結果的に、代わりに小ペプチドを使用することによりこうした欠点を取り除くことができるが、その理由は、ペプチドリガンドは、非免疫原性であり、受容体に対して高い親和性および選択性を有するからである。合成ペプチドである指定されたEPPT1(YCAREPPTRTFAYWG、配列番号:11)は、特異的なリガンドとして開発されており、顕著な親和性を示している(Kd=20μΜ)。(99mTc)で標識されたEPPT1ペプチドは、in vivoで乳癌を画像化するために使用されている。これまでに挙げたムチン−1タンパク質の全ての特徴により、この分子は潜在的な腫瘍ターゲティングリガンドの理想的な候補となっている。
【0089】
腫瘍細胞を正常細胞と区別するいくつかの腫瘍細胞および関連の血管系に特異的な受容体も同定されている。αVβ3インテグリンは、最もよく試験されているものの1つであり、腫瘍関連の新生血管系において、ならびに一定の転移性がんにおいて選択的に過剰発現する(非特許文献3参照)。トリペプチド配列Arg−Gly−Asp(RGD)を含有する高親和性のαVβ3選択的なリガンドは、ファージディスプレイ試験により同定されている。立体配座を制限したRGD配列、すなわち環状RGDは、ジスルフィド橋を含有し、直鎖状のRGDペプチドより20〜40倍高い結合力でαVβ3と結合する(非特許文献4参照)。RGDペプチドは、標的型の化学療法用(非特許文献5参照)ならびに標的型の放射線療法用(非特許文献6参照)に、ドキソルビシンとコンジュゲートされている。RGDペプチドは、生体内分布を改善し腫瘍での貯留および抗腫瘍有効性を増加させるために、ヒト化抗体、リポソーム、ポリ(エチレングリコール)およびHPMAコポリマーとコンジュゲートされている。これらの試験により、RGDおよび環状RGDは、抗腫瘍薬のターゲティングの試験にとって理想的なターゲティングリガンドとなっている。
【0090】
葉酸およびその還元型の相対物は、ヌクレオチド塩基の生合成において使用される一炭素転移反応のために、真核細胞が必要とするものである。細胞による葉酸の取込みは、体の事実上全ての細胞中に存在する低親和性の還元型の葉酸担体(Kmは約1μΜ)、または高度に限定された分布を呈する高親和性のグリコシルホスファチジルイノシトール連結型の葉酸受容体(FR)(KD=約100pM)のいずれかにより容易になる。FRは、健康な細胞上で限定された発現を呈するが、多くの場合、がん細胞上に多数存在する。例えば、FRは、卵巣、乳腺、結腸、肺、前立腺、鼻、咽喉および脳の上皮がん上に過剰発現する。FRは、慢性および急性の骨髄性白血病など、骨髄由来の造血器悪性腫瘍上にも過剰発現する。FR発現と腫瘍のグレードおよび組織学的な段階との間には強い相関が観察されている。がん細胞上のFRおよび活性化されたマクロファージへの薬物の選択的な送達を可能にするために、さまざまな葉酸連結型の分子および錯体が設計されている。葉酸を薬物ターゲティングにおける使用のための魅力的なリガンドにする他の特徴としては、以下が挙げられる:低い分子量(MW441)、水溶性、多種多様な溶媒、pHおよび熱に対する安定性、コンジュゲーション化学の容易さ、免疫原性がないこと、ならびに、その受容体に対する高親和性。
【0091】
ターゲティングリガンドを含むいくつかの実施形態では、ターゲティングリガンドは、RGDfK、EPPT1または葉酸であってもよい。いくつかの実施形態では、ターゲティングリガンドは、担体ポリマーと、アミノ酸またはペプチドであるリンカーにより結合している。いくつかの実施形態では、リンカーは、Gly−Glyを含むペプチドである。
【0092】
5.細胞による取込みの効率および特異性
本明細書に記載のポリマーベースの治療用化合物は、抗がん剤単独により使用される場合とは典型的に異なる機序を用いて、細胞による抗がん剤の取込みを可能にする点を特徴とすることができる。取込みの効率および/または特異性がポリマー担体により増加するかどうかを決定するための多くの方式が存在する。効率および/または特異性の典型的な増加は、少なくとも2倍以上、5倍、10倍、25倍、50倍、100倍、500倍、1000倍、5,000倍または10,000倍である可能性がある。
【0093】
6.2つの抗がん剤の組合せ
いくつかの実施形態では、本ポリマーベースの治療用組成物は、2つの(もしくはそれを超える)抗がん剤が結合している単一のコポリマー、または、1つが第1の抗がん剤を含有し他が第2の異なる抗がん剤を含有する2つ以上のコポリマーの混合物のいずれかを有する。いくつかの実施形態では、2つの抗がん剤は、作用機序または抗がん効果などが異なる。抗がん剤は、血流中では安定であるがリソソーム酵素による切断を受けやすい結合を介して、ポリマー担体(複数可)と結合できる。そのようにして製剤化されると、両方の抗がん剤は、同じ細胞にほぼ同時に入り込むが、その理由は、両方の抗がん剤の体内分布は一般的に同じになるからである。これは、ポリマー鎖と結合していない2つの低分子量の薬物の併用療法とは根本的に異なるが、その理由は、各薬物の体内分布は、薬物がポリマー担体とそれぞれ結合していない場合には異なる可能性があるからである。さらに、細胞のリソソーム区画に到達した後は、酵素分解性の結合を介して結合している抗がん剤はリソソーム酵素の作用により該担体から放出され、リソソーム膜を通って細胞質中に拡散する。このアプローチの主要な利点の1つは、両方の抗がん剤の作用が、異なる作用機序を有する抗がん剤をがん治療において用いることにより最適化されることである。これにより、1つの抗がん薬によっては破壊されなかったがん細胞の死滅がもたらされるであろう。
【0094】
抗がん剤の併用効果は、新生物性疾患の治療において、一方が抗がん剤を含有し、他方が別の抗がん剤を含有する2つの別々のコポリマーの投与により、各ポリマーが別々に投与される投与と比較して同時に投与した場合、得ることができる。また、コポリマーの混合物の代わりに、2つの異なる抗がん剤を含有する単一のコポリマーを利用できる。こうしたコポリマーの特異性は、ターゲティングリガンドを各ポリマー分子と結合することにより改善してもよい。
【0095】
ポリマー性の巨大分子は、ターゲティングされた細胞に典型的にはピノサイトーシスにより入り込むと考えられるが、これは、低分子量の抗がん剤をコポリマーと結合させると、その取込みの様式が、拡散から、遊離型の抗がん剤により通常誘発される副作用を減少させる可能性があるピノサイトーシスに変化するからである。この理由から、「組合せ」コポリマーと結合させると、はるかに低い用量の両方の抗がん剤を使用することが可能である。加えて、2つの抗がん剤が相乗的な抗がん効果を有する場合には、さらに低い用量を用いることが可能である。両方の抗がん剤を同じコポリマーと結合させると、両方の抗がん剤が同じ細胞に同時に入り込むことが確実になる。「組合せ」コポリマーの側鎖とも結合しているがん細胞上の腫瘍マーカーに特異的なターゲティングリガンドにより、両方の抗がん剤を含有するコポリマーを、標的であるがん細胞に特異的に向けることが容易になりまたは向上するであろう。
【0096】
特許文献8においては、抗がん薬(アドリアマイシンなど)を含有し光増感剤(メソクロリンe6モノエチレンジアミン二ナトリウム塩(ce6)など)を含有する組合せコポリマー(HPMAコポリマーなど)のin vivoでの抗腫瘍有効性は、光増感剤を含有するコポリマーと、単独で投与される抗がん薬を含有するポリマーとを使用した場合より優れていることが見出された。
【0097】
本発明は、化学療法に耐性のあるがん細胞の量を最小化させることで、腫瘍再発の可能性を実質的に減少させることもできる。このアプローチは、現在使用可能な療法より、多剤耐性細胞(MDR)の治療において、より好首尾である可能性がある。この方法を用いた際の細胞中の抗がん剤の濃度は、細胞内部またはMDR細胞中への抗がん剤の輸送が損なわれる場合であっても増加する。適当なターゲティングリガンドを結合させれば(例えば、細胞表面の抗原または受容体に相補的な構造)、細胞内作用と細胞外作用とが組み合わさって、有効性は増すであろう(細胞内作用は前述の機序により進行するであろうし、細胞外作用は血漿膜上で行われるであろう)。
【0098】
C.化合物を作製する方法
本発明には、N−2−カルボキシプロピルメタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)およびN−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)の合成が含まれる。
【0099】
ほとんどの場合、主要なコモノマー単位がポリマー担体の特性を決定する。いくつかのコモノマー単位を使用して、結果として水溶性のコポリマーとしてもよい。そのようなコポリマーは、所望のモル比の誘導体化されていないコモノマー単位を、適切な結合基またはスペーサーまたはリンカーを含有するように誘導体化されていることから生物活性剤(抗がん剤など)またはターゲティング部分を次いで結合させることができる反応基を有する、所望の比率のコモノマー単位と共重合させることにより作製できる。代替的実施形態では、コモノマーを異なる官能基と共に使用することにより、1つのコモノマーを選択的に誘導体化することが可能になる。したがって、ポリマーは、重合後に誘導体化することもできる。典型的なコモノマー単位を、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)またはN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)から作製してもよい。他の適当な担体としては、ポリアミノ酸、多糖、ポリエチレンオキシド配列を含有するコポリマー、ポリビニルピロリドン−マレイン酸無水物コポリマーなどが挙げられる。
【0100】
本発明において利用されるコモノマーとしては、以下が挙げられる:N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、(N−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA))またはN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)(Polysciences,Inc(PA)から入手可能)。
【0101】
塩基性のコモノマーであるN−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)は、例えば以下のプロセスにより作製できる。
【0102】
【化11】

【0103】
実施形態には、酸性の薬物担体(2−CPMAまたは3−CPMAのポリマーおよびコポリマーなど)、または他の薬物担体(中性のHPMAのポリマーおよびコポリマーなど)および塩基性の薬物担体(3−APMAまたは2−APMAのポリマーおよびコポリマーなど)が含まれ、このとき、該ポリマーまたはコポリマーは、2−CPMAモノマー、3−CPMAモノマー、2−APMAモノマーまたは3−APMAモノマーのうち少なくとも1つを、1つまたは2つの抗がん剤を送達するための有用なポリマー系として含む。
【0104】
モノマー単位であるN−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)またはN−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)を使用してポリマーおよびコポリマーを調製し、抗がん剤をがん細胞に送達するための担体として使用することができる。HPMA、2−CPMA、3−CPMA、2−APMAおよび3−APMAのうち2つ以上を含有するコポリマーも、同様の様式で調製できる。
【0105】
本発明の組成物は、当技術分野で公知の手法を用いて調製できる。記載のとおり、本組成物を生成するために使用される最大4つの成分、すなわち、抗がん剤、ポリマー担体、ターゲティング部分およびリンカー分子がある。この成分の任意のものを任意の適当な順序または組合せで互いに反応させて、本発明の化合物を生成することができる。成分のうち2つを共にカップリングさせ(すなわち、反応させ)て新しい反応生成物または中間体を生成してから、この中間体を次の成分と化学的に繋ぐことが好ましい場合もある。重合は、モノマーをリンカー、抗がん剤および/またはターゲティングリガンドで誘導体化する前または後のいずれかで実施できる。
【0106】
例えば、抗がん剤をモノマー(例えば、2−CPMA、3−CPMA、2−APMA、3−APMAまたはHPMA)と反応させて、誘導体化されているモノマー(この場合は抗がん/モノマー分子)を生成することができる。次に、この抗がん/モノマー分子を同じまたは他のモノマーと重合させて、本発明による組成物を生成することができる。あるいは、抗がん剤をリンカー分子と反応させて、抗がん/リンカー分子を生成することができ、次にこれをモノマーと反応させて、誘導体化されているモノマー(この場合は抗がん/リンカー/モノマー分子)を生成することができる。次に、この抗がん/リンカー/モノマー分子を同じまたは他のモノマーと重合させて、本発明による組成物を生成することができる。また別の代替法として、1つまたは複数のモノマーを重合させ、結果として得られるポリマーを抗がん剤またはリンカー/抗がん剤分子と反応させて本発明による組成物を形成することができる。ターゲティングリガンド(場合によりリンカーを介して)を、モノマー分子を調製し、次いで、重合させることにより、または、予め形成させたポリマーと反応させることにより、同様の様式で組成物中に組み込むことができる。
【0107】
明らかなように、本発明による担体ポリマー組成物を生成するために使用できるステップのいくつかの組合せおよび順序付けが存在する。本組成物が2つ以上の担体ポリマーを含む実施形態では、各ポリマーを別々に生成してから組み合わせて、本組成物を作り出すことができる。
【0108】
例えば、一実施形態では、本化合物は、(1)リンカーをモノマーと反応させてモノマー/リンカー分子を生成すること、(2)このモノマー/リンカー分子を抗がん剤と反応させること、および(3)このモノマーを(任意のコモノマーと)重合し、次いでターゲティングリガンドを加えることにより生成できる。
【0109】
具体例では、本ポリマーベースの治療用化合物は、塩化メタクリロイル(MACl)をGly−Phe(GF)と反応させ、この生成物をLeu−Gly(LG)とカップリングさせてMA−GFLG−OH分子を生成することにより生成できる(以下のスキーム3を参照)。次に、このMA−GFLG−OH分子をゲムシタビンまたはドセタキセルと反応させて、MA−GFLG−抗がん分子(複数可)を生成する。次に、このMA−GFLG−抗がん分子(複数可)を、2−CPMAコモノマー、3−CPMAコモノマー、2−APMAコモノマーまたは3−APMAコモノマーのうち少なくとも1つ、および場合により他のコモノマーと反応させ(重合させ)て、コポリマー−薬物(複数可)コンジュゲートの形態のポリマーベースの治療用化合物を生成する。次に、このコポリマー−薬物(複数可)コンジュゲートをターゲティングリガンド(例えば、RGDfK、EPPT1ペプチドまたは葉酸など)と反応させて、ターゲティングリガンドを含有するポリマーベースの治療用化合物を生成してもよい。「GFLG」は配列番号:1として開示する。
【0110】
別の実施形態では、MA−GFLG−OHをドセテキサル(Docetexal)(DCT)と反応させてMA−GFLG−DCTを得、MA−GFLG−ONpをゲムシタビン(GEM)と反応させてMA−GFLG−GEMを得る。MA−GFLG−ONpは、MA−GFLG−OHのp−ニトロフェニルエステルである。この2つのモノマーを2−CPMAコモノマー、3−CPMAコモノマー、2−APMAコモノマーおよび/または3−APMAコモノマーと反応(または重合)させてコポリマーを生成する。追加的なコモノマーを反応物(例えば、HPMAおよび/またはメタクリロイル−グリシルグリシン−O−p−ニトロフェニルエステル(MA−GG−ONp)など)中に含ませて、他のコポリマーを生成してもよい。MA−GG−ONpなどの反応から生成されるコポリマーをターゲティングリガンドとさらに反応させて、ポリマーベースの治療用化合物を生成することができる。ターゲティングリガンド(例えば、RGDfK、EPPT1ペプチドまたは葉酸が含まれる)を含有するHPMAまたは2−CPMAまたは3−CPMAまたは2−APMAまたは3−APMA−GFLG−薬物。「GFLG」は配列番号:1として開示する。
【0111】
前述のように、抗がん剤、ポリマー担体およびリンカーは、互いに直接または間接的に結合させることができる。加えて、各成分の互いの結合は、選択される成分の種類、および、その成分を互いに反応させる順序によって変化させることができる。
【0112】
D.化合物を使用する方法
本開示のポリマーベースの治療用化合物は、細胞への抗がん剤の受動的な送達または標的指向性のある送達のために使用できる。これらの化合物を使用して、抗がん剤または類似の薬剤の送達を必要とするさまざまな障害を治療することができる。開示される本化合物のいずれもこの方式で使用できることは理解される。当業者には、本化合物は、薬学上許容される形態で(すなわち、医薬組成物の形態で)、また、送達が起きる用量で、投与されることになると理解される。典型的には、本化合物は、抗がん剤または類似の化合物の送達を必要とする患者に投与されることになろう。目的が、抗がん剤または類似の薬剤を必要とする患者の細胞への本化合物の送達であることは理解される。
【0113】
コンジュゲート型の抗がん剤を有する本ポリマーベースの治療用化合物は、対象に投与できる。抗がん剤の投与を受けることを必要とする任意の対象に、本開示のコンジュゲート型の抗がん剤を投与できる。該対象は、例えば、マウス、ラット、ラビット、ハムスター、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマなどの哺乳動物、または、サル、ゴリラ、オランウータン、チンパンジーもしくはヒトなどの霊長動物であってもよい。
【0114】
コンジュゲート型の抗がん剤を有する本ポリマーベースの治療用化合物は、がん細胞の増殖を阻害するために使用できる。がん細胞の増殖を阻害するとは、がん細胞の成長を抑制または防止することを意味する。阻害剤は、がん細胞アッセイを用いることにより決定できる。例えば、いずれか一方のがん細胞株を、本コンジュゲート型の抗がん剤、または、抗がん剤単独、または、別の方式で調製された抗がん剤に次いで本開示の組成物(例えば、抗がん剤および担体のみ)の存在下もしくは不在下で、任意の一定期間にわたり、96ウェルプレート上で培養できる。次に、この細胞をアッセイできる。一定の実施形態では、本コンジュゲート型の抗がん化合物は、アッセイにより決定されるとおりの対照のいずれかに対し、成長の10%または15%または20%または25%または30%または35%または40%または45%または50%または55%または60%または65%または70%または75%または80%または85%または90%または95%を阻害するものである。
【0115】
開示するのは、本明細書中で開示するこの種類のアッセイにおいて転移性腫瘍形成を阻害する組成物、ならびに、転移性の腫瘍形成を、対照化合物の少なくとも10%または15%または20%または25%または30%または35%または40%または45%または50%または55%または60%または65%または70%または75%または80%または85%または90%または95%抑制する組成物である。
【0116】
本開示の組成物を使用して、がんまたは新生物性の障害など、制御されない細胞増殖が生じるあらゆる疾患を治療できる。異なる種類のがんの非限定的なリストは、以下のとおりである:癌、固形組織の癌、扁平上皮癌、腺癌、肉腫、神経膠腫、高悪性度の神経膠腫、芽細胞腫、神経芽細胞腫、形質細胞腫、組織球腫、メラノーマ、アデノーマ、低酸素腫瘍、骨髄腫、転移性がんまたはがん一般。
【0117】
本開示の組成物を使用して治療できるがんの、代表的であるが非限定的なリストは以下のとおりである:リンパ腫、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、菌状息肉腫、ホジキン病、骨髄性白血病、膀胱がん、脳腫瘍、神経系がん、頭部および頸部のがん、頭部および頸部の扁平上皮癌、腎臓がん、肺がん(小細胞肺がんおよび非小細胞肺がんなど)、神経芽細胞腫/神経膠芽腫、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん、肝臓がん、メラノーマ、口、咽喉、喉頭および肺の扁平上皮癌、結腸がん、子宮頸がん、子宮頸癌、乳がんおよび上皮がん、腎がん、泌尿生殖器がん、肺のがん、食道癌、頭部および頸部の癌、大腸がん、造血性のがん;精巣がん;結腸がんおよび直腸がん、前立腺がんまたは膵臓がん。
【0118】
本明細書中で開示する組成物は、子宮頸部および肛門の異形成、他の異形成、重度の異形成、過形成、異型の過形成および新形成などの前がん状態の治療のために使用することもできる。
【0119】
E.投与量
本組成物の投与のための投与量の範囲は、送達が起きる所望の効果をもたらすのに十分大きいものである。投与量は、望ましくない交差反応、アナフィラキシー反応など不都合な副作用の原因となるほど大きなものであるべきではない。一般に、投与量は、患者の年齢、状態、性別および疾患の程度に伴い変化するであろうし、当業者が決定できる。投与量は、何らかの反適応が生じる場合には、個々の医師が調節できる。投与量は、1日または数日間、1日1回または複数回の投与で約1mg/kgから30mg/kgまで変化させることができる。
【0120】
F.薬学的に許容される担体
本組成物はいずれも、医薬組成物を形成するための薬学的に許容される担体と組み合わせて治療に使用できる。
【0121】
医薬担体は、当業者に公知である。これらは、最も典型的には、組成物をヒトに投与するための標準的な担体(滅菌水、生理食塩水、および生理的なpHの緩衝液などの溶液を包含する)であろうと思われる。他の化合物は、当業者が用いる標準的な手順に従い投与されることになろう。
【0122】
医薬の送達を意図した組成物は、医薬組成物の形態で製剤化してもよい。医薬組成物は、選んだ分子に加え、担体、増粘剤、賦形剤、緩衝液、保存剤、表面活性剤などを含んでもよい。医薬組成物は、抗微生物剤、抗炎症剤、麻酔薬など1つまたは複数の活性成分を含むこともできる。
【0123】
非経口投与用の調製物としては、滅菌済の水性または非水性の溶液、懸濁液およびエマルションが挙げられ、これらは、緩衝液、賦形剤および他の適当な添加物を含有することもできる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油など)および注射用の有機エステル(オレイン酸エチルなど)である。水性の担体としては、水、アルコール溶液/水溶液、エマルションまたは懸濁液(生理食塩水および緩衝化された媒体を包含する)が挙げられる。非経口用のビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲル液デキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液、または不揮発性油が挙げられる。静脈内用のビヒクルとしては、体液および栄養分の補液、電解質補液(リンゲル液デキストロースをベースにしたものなど)などが挙げられる。例えば、抗微生物薬、酸化防止剤、キレート化剤および不活性ガスなど、保存剤および他の添加物が存在してもよい。
【0124】
本明細書に記載のとおりの組成物は、薬学上許容される酸付加塩または塩基付加塩として投与することもでき、このような塩は、無機酸(塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸およびリン酸など)ならびに有機酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸およびフマル酸など)との反応により、または、無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなど)ならびに有機塩基(モノアルキル、ジアルキル、トリアルキルおよびアリールアミンおよび置換されたエタノールアミンなど)との反応により形成される。
【0125】
医薬組成物
担体材料と組み合わせて単一剤形を生成できる活性成分の量は、治療される受容者および特定の投与様式により変動するであろう。
【0126】
疾患状態を本発明の化合物および/または組成物で治療するための投与計画は、以下を包含するさまざまな因子に従い選択される:患者の種類、年齢、体重、性別、食餌および医学的状態、疾患の重症度、投与経路、薬理学的な考慮要件(採用される特定の化合物の活性、有効性、薬物動態学的および毒性学的なプロファイルなど)、薬物送達系が利用されるかどうか、および本化合物が薬物の組合せの一部として投与されるかどうか。したがって、実際に採用される投与計画は非常に多岐にわたる場合があり、したがって、前述の好ましい投与計画から逸脱することがある。
【0127】
注射用の調製物(例えば、滅菌済の注射用の水性懸濁液または油性懸濁液など)は、適当な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して、公知の技術に従い製剤化してもよい。滅菌済の注射用の調製物は、さらに、無毒で非経口的に許容される賦形剤または溶媒中の、滅菌済の注射用の溶液または懸濁液(例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液として)であってもよい。許容されるビヒクルおよび溶媒のうち、用いてもよいのは、水、リンゲル液および等張性の塩化ナトリウム溶液である。加えて、滅菌済の不揮発性油は、溶媒または懸濁媒として慣用的に用いられる。この目的のために、任意の刺激のない不揮発性油(合成のモノグリセリドまたはジグリセリドが含まれる)を用いてもよい。加えて、脂肪酸(オレイン酸など)は、注射剤の調製において使用される。
【0128】
本発明の組成物は、単独の活性医薬として投与できるが、免疫調節薬、抗ウイルス剤または抗感染剤など1つまたは複数の治療剤と組み合わせて使用することもできる。
【0129】
前述の内容は、本発明を例証するにすぎず、本発明を本開示の組成物に限定することを意図したものではない。当業者には明らかである変形および変化形は、添付の特許請求の範囲において定義する、本発明の範囲および性質内にあることを意図している。前述の説明から、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に確認でき、その精神および範囲から逸脱せずに、本発明の多様な変化形および改変形を作製して、そうした特徴を多様な用途および条件に適応させることができる。
【実施例】
【0130】
本発明は、以下の実施例を参照することによりさらに明確にできるが、この実施例は、好ましい実施形態のいくつかを例示するために提供するものであり、本発明を限定するものでは決してない。
【実施例1】
【0131】
ポリマー−ゲムシタビンまたはドセタキセルまたはゲムシタビン/ドセタキセルコンジュゲートの合成。
【0132】
1)N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)コモノマーの合成
反応性モノマー2−CPMAの合成を、スキーム1に示すように記載した。
【0133】
【化12】

【0134】
3−アミノイソ酪酸(5.5g、53.3mmol)を26.8mlの2N NaOH(53.6mmol)に溶解し、−5℃に冷却した。22mlのジクロロメタン中の新しく蒸留した塩化メタクリロイル(MACl)(7.9g、75.9mmol)を滴加した。小量の阻害剤、三級オクチルピロカテキンを加えて、モノマーの重合を防止した。同時に、但しわずかに遅らせて、38.5ml(76.9mmol)の2N NaOHを反応混合物に滴加した。MAClおよびNaOHの添加後、反応混合物を室温まで温め、2時間反応させた。pHを8〜9前後で維持した。ジクロロメタン層を水層から分離し、水で洗浄し(20mlx2)、廃棄した。水層を合わせたものを100mlの酢酸エチルと混合した。激しい撹拌および冷却下で、pHが2に達するまで希薄なHClをゆっくり加えた。有機層を分離し、水層を酢酸エチルで3回抽出した。有機層を合わせたものを無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥させた。乾燥させた溶液を濾過し、酢酸エチルで洗浄した。酢酸エチルを回転蒸発により除去すると、生成物が白色の粉末として得られた。酢酸エチルから再結晶を行った(8.5g、収率93.2%)。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 1.25(s, 3H), 1.96(s, 3H)), 2.79-2.80(m, 1H), 3.35-3.41(m, 1H), 3.59-3.65(m, H), 5.34 (s, 1H), 5.71(s, 1H), 6.44(s, 1H, NH).
【0135】
N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)は、塩化メタクリロイルおよび4−アミノ酪酸を使用して、前述の2−CPMAの合成のように作製できる。
【0136】
2)N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)コモノマーの合成
反応性モノマーHPMAの合成は、スキーム2に示すように、これまでに記載されたとおりであった(KopecekおよびBazilova、1973)。
【0137】
【化13】

【0138】
500mlのアセトニトリル中の1−アミノ−2−プロパノール(128.4g、1.71mol)の溶液に、40mlのアセトニトリル中の新しく蒸留した塩化メタクリロイル(MACl)(90.8、0.86mol)を激しい撹拌下で−5℃にて滴加した。小量の阻害剤、三級オクチルピロカテキンをこの溶液に加えた。反応混合物をさらに30分間室温で撹拌した。副生成物として形成された1−アミノ−2−プロパノールヒドロクロリドを沈殿させ、濾過により除去した。残留物を、予冷しておいたアセトニトリルで洗浄した。濾液を−70℃に冷却し、HPMAを沈殿させた。室温と平衡化させた後、生成物を濾過により取り出し、予冷しておいたアセトニトリルで洗浄した。アセトンから再結晶化させ、純粋な生成物を単離した(75.9g、収率61.6%)。MS(ESI)m/z 144(M+1)。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 1.20および1.22(d, J=6.4 Hz, 3H)), 1.97(s, 3H), 3.18-3.21(m, 1H), 3.48-3.51(m, 1H), 3.95-3.96(m, 1H), 5.36(s, 1H), 5.74(s, 1H).
【0139】
3)MA−GF−OHの合成
メタクリロイルグリシルフェニルアラニン(MA−GF−OH)は、スキーム3に概要を示すように、塩化メタクリロイル(MACl)とグリシルフェニルアラニン(GF)との反応から作製した。
【0140】
グリシルフェニルアラニン(Gly−Phe)、5.0g、22.5mmol)を、11.3mlの2N NaOH(22.5mmol)に溶解し、0〜5℃に冷却した。10mlのジクロロメタン中の新しく蒸留したMACl(2.8g、26.8mmol)を滴加した。小量の阻害剤、三級オクチルピロカテキンを加えて、モノマーの重合を防止した。同時に、但しわずかに遅らせて、13.5ml(26.9mmol)の2N NaOHを反応混合物に滴加した。MAClおよびNaOHの添加後、反応混合物を室温まで温め、2時間反応させた。pHを8〜9前後で維持した。ジクロロメタン層を水層から分離し、水で洗浄し(7mlx2)、廃棄した。水層を合わせたものを50mlの酢酸エチルと混合した。激しい撹拌および冷却下で、pHが2〜3に達するまで希薄なHClをゆっくり加えた。有機層を分離し、水層を酢酸エチルで3回抽出した。有機層を合わせたものを無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥させた。乾燥させた溶液を濾過し、酢酸エチルで洗浄した。酢酸エチルを回転蒸発により除去すると、生成物が白色の粉末として得られた。酢酸エチルから再結晶を行った(6.3g、収率96.5%、融点:141.8〜143.4℃)。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 1.96(s, 3H)), 3.06-3.20(2m, 2H), 3.85-4.11(2m, 2H), 4.83-4.85(m, 1H), 5.41 (s, 1H), 5.79(s, 1H), 7.20-7.30(m, 5H).
【0141】
4)LG−OMe HClの合成
ロイシルグリシン−OMe(LG−OMe)は、スキーム3に概要を示すように、ロイシルグリシン(LG)とメタノール/塩化チオニルとの反応から作製した。
【0142】
ロイシルグリシン(Leu−Gly、5.0g、26.6mmol)を、40mlのメタノールに溶解し、−15℃に冷却した。過剰な塩化チオニル(SOCl2)(4ml、54.8mmol)を15分間撹拌下で滴加した。室温と平衡化させた後、この混合物を3.5時間還流させた。溶媒を蒸発させて乾燥させ、残留物をメタノールに溶解し、再び蒸発させて微量のHClおよびSOCl2を除去した。残留物をエチルエーテルと混合し、エチルエーテル層を除去して蒸発させると、白色の非晶質の固形物が得られた。粗生成物(LG−OMe.HCl、6.53g)を、精製せずに、後続のステップにおいて使用した。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 0.89-0.93(m, 6H), 1.56-1.61(m, 2H)), 1.71-1.78(m, 1H), 3.65(s, 3H), 3.77-3.85(m, 2H), 3.88-4.00(m, 1H), 5.41 (s, 1H), 5.79(s, 1H), 7.25-7.28(m, 5H).
【0143】
5)MA−GFLG−OMe(配列番号:1)の合成
メタクリロイルグリシルフェニルアラニルロイシルグリシンOMe(MA−GFLG−OMe)は、スキーム3に概要を示すように、メタクリロイルグリシルフェニルアラニン(MA−GF−OH)とロイシルグリシン−OMe(LG−OMe)との反応から作製した。「GFLG」は配列番号:1として開示する。
【0144】
3.88gのN,N’−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、30mmol)および50mlの酢酸エチル中の5.1gの未精製のLeu−Gly−OMe HCl(21.5mmol)を、200mlの酢酸エチル中の5.0gのMA−Gly−Phe(17.2mmol)と、撹拌下で室温にて混合した。この混合物に、18.3gの(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP、41.3mmol)を加え、反応混合物を3日間室温で撹拌した。反応混合物を5%NaHCO3溶液(200mlx3)、水、1M NaHSO4(200mlx3)および生理食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾過により除去した後、濾液を真空下で濃縮すると、生成物(MA−GFLG−OMe)が得られた。SiO2カラムクロマトグラフィーにより精製すると、6.35gのMA−GFLG−OMeが得られた(収率77.8%、融点:140.9〜143.0℃)。「GFLG」は配列番号:1として開示する。
【0145】
6)MA−GFLG−OH(配列番号:1)の合成
メタクリロイルグリシルフェニルアラニルロイシルグリシン(MA−GFLG−OH)(配列番号:1)は、スキーム3に概要を示すように、メタクリロイルグリシルフェニルアラニルロイシルグリシンOMe(MA−GFLG−OMe)(配列番号:1)の加水分解から作製した。
【0146】
109mlのメタノール中の5.1gのMA−GFLG−OMe(配列番号:1)(10.7mmol)の冷却した溶液に、過剰な1N NaOH(12.9ml、12.9mmol)を撹拌下で0℃にて滴加した。小量の阻害剤(t−オクチルピロカテキン)の添加後、反応混合物を0℃で2時間、次いで室温で4時間撹拌した。反応混合物を真空下で濃縮してメタノールを除去し、150mlの蒸留水と混合した。水層を酢酸エチルで洗浄し(100mlx2)、1.0Mクエン酸でpH2.0〜2.5に酸性化した。遊離酸を3x150mlの酢酸エチルで抽出し、飽和ブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥させた。溶媒を真空下で蒸発させた後、テトラペプチド生成物(MA−GFLG−OH)(配列番号:1)をエチルアルコール/n−ヘキサン(1:1)混合物から再結晶化させた(3.06g、融点:161.4〜165.6℃)。MS(ESI)m/z 483(M+Na)。
【0147】
【化14】

【0148】
7)メタクリロイルグリシルフェニルアラニルロイシルグリシル−ゲムシタビン(MA−GFLG−ゲムシタビン(配列番号:1))の合成(スキーム4)
730mgのMA−GFLG−OH(配列番号:1)(1.52mmol)、414mgのゲムシタビンHCl(1.38mmol)、732mgのBOP(1.66mmol)および小量の三級オクチルピロカテキンを、0.5mlのDIPEAと30mlのアセトニトリルとの混合物に窒素下で室温にて溶解した。この混合物を1日室温で撹拌し、真空下で濃縮して溶媒を除去した。生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出剤:EtOAc/MeOH=4/1)により精製し、質量分析(M+1=706.3)およびtlcにより分析した。収量は962mg(98.8%)であった。
【0149】
【化15】

【0150】
8)メタクリロイルグリシルフェニルアラニルロイシルグリシル−ドセタキセル(MA−GFLG−ドセタキセル(配列番号:1))の合成(スキーム5)
363mgのMA−GFLG−OH(配列番号:1)(0.76mmol)、555mgのドセタキセル(0.69mmol)、574mgのBOP(1.30mmol)、114mgの4−ジメチルアミノピリジン(DMAP、0.94mmol)および小量の三級オクチルピロカテキンを、10mlの酢酸エチルと12mlのアセトニトリルとの混合物に窒素下で4℃にて溶解した。反応混合物を4℃で1時間、次いで室温で2日間撹拌し、真空下で濃縮して溶媒を除去した。生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶出剤:EtOAc/MeOH=10/1)により精製すると、803mgの生成物(収率91.5%)が得られた。この生成物を薄層クロマトグラフィーおよび質量分析により検証した。m/z 1272.3(M+Na)。
【0151】
【化16】

【0152】
9)ポリマー−Gly−Phe−Leu−Gly−ゲムシタビン(配列番号:1)の調製
HPMAコポリマー、2−APMAコポリマー、3−APMA 2−CPMAコポリマーまたは3−CPMAコポリマー−ゲムシタビンコンジュゲートは、スキーム6に示すように、N,N’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、10.8mg)を開始剤として使用して、アセトン(2ml)中のコモノマーHPMA、2−APMA、3−APMA2−CPMAまたは3−CPMA(1.00mmol)とMA−GFLG−ゲムシタビン(配列番号:1)(78.4mg、0.112mmol)との、50℃で24時間のフリーラジカル沈殿共重合によりコモノマーから合成する。典型的には、コモノマー:開始剤:溶媒の比率は、12.5重量%:0.6重量%:86.9重量%で一定に保つ。この混合物を窒素下でアンプルに密封し、そのまま、50℃で24時間撹拌しながら重合させる。沈殿したポリマーをメタノールに溶解し、20倍体積のエーテル中で再沈殿させ、エーテルで洗浄する。小分子量の未反応のモノマーおよび他の不純物を、蒸留水に再溶解させ、蒸留水に透析することにより、ポリマーコンジュゲートから分離して塩を取り出し、次いで凍結乾燥させると、純粋な生成物が得られる。
【0153】
10)ポリマー−Gly−Phe−Leu−Gly−ドセタキセル(配列番号:1)の調製
HPMA、3−APMAコポリマーまたは2−CPMAコポリマー−ドセタキセルコンジュゲートは、スキーム6に示すように、N,N’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、60mg)を開始剤として使用して、アセトン(15ml)/DMSO(1ml)中のコモノマーHPMA(7.13mmol)、3−APMA(5.93mmol)または2−CPMA(6.15mmol)と、MA−GFLG−ドセタキセル(配列番号:1)(HPMAの場合は0.18mmol、3−APMAの場合は0.15mmol、2−CPMAの場合は0.16mol)との、50℃で24時間のフリーラジカル沈殿共重合によりコモノマーから合成した。小量の3−メルカプトプロピオン酸を連鎖移動剤として使用した。典型的には、コモノマー:開始剤:溶媒の比率は、8.8重量%:0.4重量%:90.8重量%で一定に保った。この混合物を窒素下でアンプルに密封し、そのまま、50℃で24時間撹拌しながら重合させた。沈殿したポリマーをメタノールに溶解し、20倍体積のエーテル中で再沈殿させ、エーテルで洗浄した。小分子量の未反応のモノマーおよび他の不純物を、蒸留水または50mM Tris HCl緩衝液(pH7.2)に再溶解させ、蒸留水または50mM Tris HCl緩衝液(pH7.2)に透析することにより、ポリマーコンジュゲートから分離し、次いで凍結乾燥させると、純粋な生成物が得られた。
【0154】
2−APMAまたは3−CPMAを使用したポリマー−Gly−Phe−Leu−Gly−ドセタキセル(配列番号:1)を同様の様式で調製できる。
【0155】
11)ポリマー−Gly−Phe−Leu−Gly−ドセタキセル/ゲムシタビン(配列番号:1)の調製
HPMAコポリマー、2−APMAコポリマー、3−APMAコポリマー、2−CPMAコポリマーまたは3−CPMAコポリマー−ゲムシタビンコンジュゲートは、スキーム6に示すように、N,N’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、10.8mg)を開始剤として使用して、アセトン(2ml)中のコモノマーHPMA、2−APMA、3−APMAまたは3−CPMA(1.00mmol)、MA−GFLG−ゲムシタビン(配列番号:1)(0.089mmol)と、MA−GFLG−ドセタキセル(配列番号:1)(0.022mmol)との、50℃で24時間のフリーラジカル沈殿共重合により、コモノマーから合成する。典型的には、コモノマー:開始剤:溶媒の比率は、12.5重量%:0.6重量%:86.9重量%で一定に保つ。この混合物を窒素下でアンプルに密封し、そのまま、50℃で24時間撹拌しながら重合させる。沈殿したポリマーをメタノールに溶解し、20倍体積のエーテル中で再沈殿させ、エーテルで洗浄する。小分子量の未反応のモノマーおよび他の不純物を、蒸留水に再溶解させ、蒸留水に透析することにより、ポリマーコンジュゲートから分離して塩を取り出し、次いで凍結乾燥させると、純粋な生成物が得られる。
【0156】
【化17】

【0157】
12)HPMAコポリマー−RGDfK−薬物コンジュゲートの合成
ポリマーコンジュゲートを、スキーム7に概要を示すように2つのステップの手順で合成する。第1のステップでは、反応性のHPMAコポリマー、2−APMAコポリマー、3−APMA 2−CPMAコポリマーまたは3−CPMAコポリマー−薬物コンジュゲートを、アセトン/5%DMSO中のコモノマーHPMA、2−APMA、3−APMA 2−CPMAまたは3−CPMA、MA−GFLG−ドセタキセル(配列番号:1)および/またはゲムシタビンとメタクリロイルグリシルグリシン−p−ニトロフェニルエステル(MA−GG−ONp)コモノマーとのフリーラジカル沈殿共重合により合成する。コモノマーの供給組成は、それぞれ約89.34%、0.66%および10%である。N,N’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を開始剤として使用する。簡潔に言えば、コモノマーHPMA、2−APMA、3−APMA 2−CPMAまたは3−CPMA(0.38mmol)、MA−GFLG−ドセタキセル(配列番号:1)および/またはゲムシタビン(0.0028mmol)およびMA−GG−Onp(0.0424mmol)およびAIBN(3.43mg)を1mlのアセトン(5%DMSO)に溶解する。コモノマー:開始剤:溶媒の比率は、12.5重量%:0.6重量%:86.9重量%で一定に保つ。この混合物を窒素下でアンプルに密封し、そのまま、50℃で24時間撹拌しながら重合させる。沈殿したポリマー前駆体をメタノールに溶解し、20倍体積のエーテル中で再沈殿させる。小分子量の未反応のモノマーおよび他の不純物を、蒸留水に再溶解させ、蒸留水に透析することにより、ポリマーコンジュゲートから分離して塩を取り出し、次いで凍結乾燥させると、純粋な生成物が得られる。ポリマーのONp含有量を、272nmで分光光度法を用いて定量する。
【0158】
第2のステップでは、標的化ペプチド(RGDfKなど)を、アミノリシス反応によりポリマー前駆体とコンジュゲートする。簡潔に言えば、HPMA、2−APMA、3−APMA 2−CPMAまたは3−CPMA−(GFLG−ドセタキセルおよび/またはゲムシタビン(配列番号:1))−GG−ONp前駆体(0.02mmolのONp基を含有する)を1.6mlの乾燥DMF(3Å分子篩で乾燥させる)に溶解する。RGDfK(0.03mmol)を、ポリマー前駆体中のMA−GG−ONp内容物の量に対し1.3モル過剰で加える。反応を、窒素下で24時間、室温にて実施する。反応を1−アミノ−2−プロパノール(0.02mmol)で終了させる。このコンジュゲートを、脱イオン水に透析し、凍結乾燥させる。
【0159】
【化18】

【0160】
13)ポリマー−薬物コンジュゲートの物理化学的な特徴付け
合成したポリマー−薬物コンジュゲートの重量平均分子量(Mw)および多分散性を、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)システム(Amersham Biosciences)上でSuperose12 HR 10/30カラム(Amersham Biosciences)を使用したサイズ排除クロマトグラフィーにより推定した。PBSを溶出溶媒として使用して、1mg/mlの試料を流速0.4ml/分で溶出させる。既知の分子量のポリHPMAまたはポリ2−CPMAまたはポリ3−APMAの画分を使用して、ポリマーの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および多分散性(n=Mw/Mn))を較正曲線から推定した。薬物含有量は、Amino Acid Analysis(AIBio Tech.、Richmond、VA)を用いて得た。
【0161】
【表1】

【実施例2】
【0162】
ポリマー−薬物A/ポリマー−薬物Bコンジュゲートの合成(スキーム8)
MA−GFLG−ONpをMA−GFLG−OHから調製する(先に示したとおり)。MA−GFLG−薬物AまたはMA−GFLG−薬物Bのモノマーは、先に概要を述べたように調製できる。ポリ(HPMA−co−MA−GFLG−ONp−MA−GFLG−薬物A)は、AIBNを開始剤として使用して、MA−GFLG−ONpとMA−GFLG−薬物AとHPMAとのフリーラジカル重合により調製する。ポリ(HPMA−co−MA−APMA−MA−GFLG−薬物B)は、AIBNを開始剤として使用して、MA−GFLG−薬物BとHPMAと3−APMAとのフリーラジカル重合により調製する。次いで、ポリ(HPMA−co−MA−GFLG−ONp−MA−GFLG−薬物A)をポリ(HPMA−co−MA−APMA−MA−GFLG−薬物B)と反応させて、コンジュゲートを形成する。「GFLG」は配列番号:1として開示する。
【0163】
【化19】

【0164】
【化20】

【実施例3】
【0165】
生物学的な試験
がん細胞株の成長
ポリマー−薬物コンジュゲートの効果を定量するためのがん細胞株を、以下の供給源から入手した:ヒトMDA−MB−231(乳がん)、HCT116(結腸がん)およびPANC−1(膵臓がん)はAmerican Type Culture Collection(ATCC)(Manassas、VA)から。UMRC2(腎臓がん)はUnited States National Cancer Institute(Bethesda、MD)から。細胞を、10%FBS、P/Sおよび10mM HEPESを添加したダルベッコ変法イーグル培地(「DMEM」、Invitrogen)中で維持した。全ての細胞を、37℃にて、加湿した5%CO2下でインキュベートした。
【0166】
2)ヒト腫瘍細胞株に対するin vitroでの細胞増殖アッセイ
ヒトがん細胞株に対するポリマー−薬物コンジュゲートの成長阻害アッセイを、スルホローダミンB(「SRB」)法(非特許文献7参照)を用いて実施した。簡潔に言えば、対数増殖期のがん細胞を96ウェルプレート中に2〜3x103細胞/ウェルの密度で播種し、翌日、コポリマー−薬物コンジュゲートで処置した。各処置について、3組のウェルを使用した。対照として水を使用した。細胞を、コポリマー−薬物コンジュゲートで96時間37℃にて、加湿した5%CO2雰囲気においてインキュベートした。96時間のインキュベーション後、細胞を10%トリクロロ酢酸(「TCA」)で固定し、4℃で1時間インキュベートし、水道水で3回洗浄した。次いで、細胞を1%酢酸中の0.4%スルホローダミンBで30分間染色し、1%酢酸で3回洗浄し、再び風乾させた。10mM Tris溶液中で5分の撹拌後、Benchmark Plus Microplateリーダー(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA)を用いて、各ウェルの吸光度を530nmで測定した。吸光度値から、コポリマー−薬物コンジュゲートで処置後の生細胞数の直接測定値が得られる。
【0167】
OD530値を各ウェル中の生細胞数に変換するために、OD530値を、各細胞株について作成させた標準的なOD530対細胞数曲線についての値と比較した。生存率(%)は、以下の式を用いて計算した:
【0168】
生存率(%)=生細胞数[試験]/生細胞数[対照]x100
【0169】
IC50値は、非線形回帰分析により計算した。
【0170】
【表2】

【実施例4】
【0171】
ex vivo異種移植片試験
動物モデルにおける腫瘍の成長の阻害を観察するために、以下に記載するように、ポリマーとコンジュゲートしているドセタキセルまたはゲムシタビンを用いてヌードマウス異種移植モデルを実施した。
【0172】
HCT116細胞懸濁液(2x106細胞、0.1mlのRPMI中)を、生後6週間のオスの胸腺欠損マウス(BALB/c nu/nu)の右側腹中に、0日目に皮下注射した。十分な数のマウスにHCT116細胞懸濁液を注射し、処置開始の当日に、できるだけ狭い体積範囲の腫瘍を試験用に選択するようにした。適切なサイズの範囲に腫瘍を有する動物を多様な処置群に割り付け、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を、単独で、または本発明のポリマー−薬物コンジュゲートと共に、注射した。全ての試験用の医薬品は腹腔内注射により週2回投与し、5日目から開始して32日目に終了する。腫瘍成長を定量化するために、3〜5日毎に、カリパスを用いて腫瘍の3方向の垂直径を測定し、毒性を調べるために、マウスの体重をモニターする。以下の式を用いて腫瘍体積を計算する:腫瘍体積(mm3)=(幅)×(長さ)×(高さ)×π/6。結果を図1に示す。
【0173】
本明細書に記載のように、全ての実施形態またはサブコンビネーションは、相互に排反的でない限り、全ての他の実施形態またはサブコンビネーションと組み合わせて使用してもよい。
【0174】
本明細書中で例証および論考した実施形態は、本発明を作製および使用するための、本発明者らが知る最良の方式を当業者に教示することのみを意図したものである。本明細書に記載のいかなる内容も、本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。示してある全ての例は、代表的且つ非限定的なものである。前述の本発明の実施形態は、前述の教示に照らせば当業者には理解されるように、本発明から逸脱することなく改変または変更してもよい。したがって、特許請求の範囲およびそれに相当する範囲内において、本発明は、具体的に記載するもの以外の形で実施してもよいと理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のポリマー担体を含む治療用組成物であって、
前記第1のポリマー担体は、
a)N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)およびN−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)から成る群から選択される第1のモノマーと、
b)前記第1のポリマー担体と結合し、場合によりリンカーを介して結合している第1の抗がん剤であって、前記第1のモノマーまたは別のモノマーと結合している第1の抗がん剤と、
を含むことを特徴とする治療用組成物。
【請求項2】
前記第1のポリマー担体は、第2のモノマーをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第2のモノマーは、HPMA、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートまたはメタクリレートであることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記第1の抗がん剤は、前記第2のモノマーと結合し、場合によりリンカーを介して結合していることを特徴とする請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
前記第1のポリマー担体と結合し、場合によりリンカーを介して結合している追加的な抗がん剤をさらに含み、
前記追加的な抗がん剤は、前記第1の抗がん剤とは異なり、
前記追加的な抗がん剤は、前記第1のモノマーまたは別のモノマーと結合している、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記第2の抗がん剤は、前記第1のモノマー以外のモノマーと結合していることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記第1のポリマー担体と結合し、場合によりリンカーを介して結合しているターゲティングリガンドをさらに含み、
前記ターゲティングリガンドは、前記第1のモノマーまたは別のモノマーと結合している、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ターゲティングリガンドは、前記第1のモノマー以外のモノマーと結合していることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ターゲティングリガンドは、RGDfK、EPPT1、および葉酸から成る群から選択されることを特徴とする請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
第2のポリマー担体、ならびに第2の抗がん剤、および/または前記第2のポリマー担体と結合し、場合によりリンカーを介して結合しているターゲティングリガンドをさらに含む、ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記第2のポリマー担体は、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、N−(2−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(2−CPMA)、N−(3−カルボキシプロピル)メタクリルアミド(3−CPMA)、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(3−APMA)、およびN−(2−アミノプロピル)メタクリルアミド(2−APMA)から成る群から選択されるモノマーを含むポリマーであることを特徴とする請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記第1の抗がん剤は、リンカーを介して前記第1のポリマー担体と結合していることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記第1のポリマー担体と結合している追加的な抗がん剤を有し、両方の抗がん剤は前記第1のポリマー担体とリンカーにより結合していることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記第1のポリマー担体は、
(a)約5.0から約99.7mol%の間の誘導体化されていないモノマー単位と、
(b)抗がん剤と結合している約0.2から約20.0mol%の間の誘導体化されているモノマー単位と、
(c)ターゲティングリガンドと結合している約0から約94.8mol%の間の誘導体化されているモノマー単位と、
を含むことを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記第1のポリマー担体は、前記ターゲティングリガンドと結合している約0.1から約94.8mol%の間の誘導体化されているモノマー単位を含むことを特徴とする請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
少なくとも1つのリンカーを有し、前記少なくとも1つのリンカーはリソソーム酵素による切断を受けやすいことを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記リンカーは、オリゴペプチド配列、オリゴ糖配列、および核酸中の構造と類似した構造から成る群から選択されることを特徴とする請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記リンカーは、オリゴペプチド配列であることを特徴とする請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記オリゴペプチド配列は、Gly−Gly、Gly−Phe−Gly、Gly−Phe−Phe、Gly−Leu−Gly、Gly−Val−Ala、Gly−Phe−Ala、Gly−Leu−Phe、Gly−Leu−Ala、Ala−Val−Ala、Gly−Phe−Leu−Gly(配列番号:1)、Gly−Phe−Phe−Leu(配列番号:2)、Gly−Leu−Leu−Gly(配列番号:3)、Gly−Phe−Tyr−Ala(配列番号:4)、Gly−Phe−Gly−Phe(配列番号:5)、Ala−Gly−Val−Phe(配列番号:6)、Gly−Phe−Phe−Gly(配列番号:7)、Gly−Phe−Leu−Gly−Phe(配列番号:8)、またはGly−Gly−Phe−Leu−Gly−Phe(配列番号:9)から成る群から選択されることを特徴とする請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記オリゴペプチド配列は、Gly−Phe−Leu−Gly(配列番号:1)であることを特徴とする請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記第1の抗がん剤は、ドセタキセル、ゲムシタビン、シスプラチン、ドセタキセルの誘導体、ゲムシタビンの誘導体およびシスプラチンの誘導体から成る群から選択されることを特徴とする請求項1〜20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
少なくとも2つの異なる抗がん剤を含み、前記抗がん剤のうち少なくとも1つは、ドセタキセル、ゲムシタビン、シスプラチン、ドセタキセルの誘導体、ゲムシタビンの誘導体およびシスプラチンの誘導体から成る群から選択されることを特徴とする請求項1〜21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記第1の抗がん剤は、ドセタキセルまたはその誘導体であり、
前記第2の抗がん剤または追加的な抗がん剤は、ゲムシタビン、シスプラチン、ゲムシタビンの誘導体またはシスプラチンの誘導体である、
ことを特徴とする請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
ターゲティングリガンドを含み、前記ターゲティングリガンドは、RGDfK、EPPT1、および葉酸から成る群から選択されることを特徴とする請求項1〜23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
第2のリンカーを含み、前記第2のリンカーはアミノ酸またはペプチドであることを特徴とする請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記第2のリンカーは、Gly−Gly(GG)を含むペプチドであることを特徴とする請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれか一項に記載の組成物を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項28】
治療上有効量の請求項1〜26のいずれか一項に記載の組成物を投与するステップを含むことを特徴とする新生物性疾患を治療する方法。
【請求項29】
新生物性疾患を治療するためであることを特徴とする請求項1〜26のいずれか一項に記載の組成物の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−507452(P2013−507452A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534325(P2012−534325)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/052510
【国際公開番号】WO2011/047051
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(510116716)レクサン ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】