説明

抗アデノウイルス剤を含有する医薬組成物

【課題】新規な抗アデノウイルス剤及びその医薬組成物を提供する。
【解決手段】
本発明は、抗ヒスタミン剤の優れた抗アデノウイルス作用を新規に見出したものであり、アデノウイルスの感染(アデノウイルス感染症)によって発症する疾病、すなわち、夏風邪、プール熱及び角結膜炎等の予防及び/又は治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アデノウイルス剤、並びに、アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フマル酸ケトチフェン(ケトチフェンフマル酸塩)は、(i)抗アナフィラキシー作用、(ii)抗ヒスタミン作用、(iii)PAF(血症板活性化因子)による気道反応の抑制、(iv)好酸球の脱顆粒・集積抑制等の好酸球に対する作用、(v)抗原誘発性の過敏反応の抑制、等の作用を有し、本邦では、(1)気管支喘息、(2)アレルギー性鼻炎、湿疹・皮膚炎、蕁麻疹、皮膚掻痒症の効能・効果が認められている(非特許文献1参照)。
【0003】
塩酸アゼラスチン(アゼラスチン塩酸塩)は、(i)ロイコトリエンの産生・遊離抑制、拮抗作用、(ii)ヒスタミンの遊離抑制、抗ヒスタミン作用、(iii)炎症細胞の遊走・浸潤抑制作用、活性酸素産生抑制作用、等の作用を有し、本邦では、(1)気管支喘息、(2)アレルギー性鼻炎、(3)湿疹・皮膚炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症、痒疹の効能・効果が認められている(非特許文献1参照)。そのため、フマル酸ケトチフェン及び塩酸アゼラスチンのいずれも抗ヒスタミン剤として分類可能である。
【0004】
一方、アデノウイルスの感染(アデノウイルス感染症)によって発症する疾病として夏風邪、プール熱又は角結膜炎等が知られているが、根治する薬はまだない。そのため、治療法としては、くしゃみ、鼻水、鼻閉、喉痛、咳、発熱、頭痛等の症状への対症療法が中心となり、くしゃみ・鼻水等には抗ヒスタミン剤や抗コリン剤、鼻閉には交感神経刺激剤、咳には鎮咳剤、喉痛・発熱・頭痛にはNSAIDが症状に応じて処方されている。
【0005】
これまでにケトチフェン類及びアゼラスチン類等の抗ヒスタミン剤の抗アデノウイルス作用は知られていなかった。
【非特許文献1】日本医薬品集、医療薬、2007年版、じほう(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、ケトチフェン類及び/又はアゼラスチン類に優れた抗アデノウイルス作用が発現するという驚くべき効果を見出した。その結果、ケトチフェン類及び/又はアゼラスチン類が抗アデノウイルス剤として有用であり、ケトチフェン類及び/又はアゼラスチン類を含有する医薬組成物がアデノウイルス感染症、並びに、その感染によって発症する夏風邪、プール熱又は角結膜炎等の予防及び/又は治療のための医薬組成物として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(1)抗ヒスタミン剤を含有する抗アデノウイルス剤、並びに、
(2)抗ヒスタミン剤が、ケトチフェン類及び/又はアゼラスチン類である(1)に記載の抗アデノウイルス剤であり、好適には、
(3)アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療のための(1)又は(2)に記載の抗アデノウイルス剤を含有する医薬組成物、
(4)夏風邪、プール熱又は角結膜炎の予防及び/又は治療のための(1)又は(2)に記載の抗アデノウイルス剤を含有する医薬組成物、
(5)さらに、解熱鎮痛薬、中枢神経興奮薬、抗炎症薬、鎮咳薬、去痰薬、気管支拡張薬、抗コリン剤、ビタミン剤、生薬及び生薬抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する(3)又は(4)に記載の医薬組成物、
(6)ケトチフェン類が、フマル酸ケトチフェンである(2)に記載の抗アデノウイルス剤、
(7)アゼラスチン類が、塩酸アゼラスチンである(2)に記載の抗アデノウイルス剤及び
(8)ケトチフェン類とアゼラスチン類とが同一の医薬組成物中に含有する配合剤である(3)〜(7)のいずれか1項に記載の医薬組成物である。
【0008】
さらに、本発明は、
(9)哺乳動物に、ケトチフェン類とアゼラスチン類とを同時に、順次又は別個に投与し、アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療をする方法哺乳動物に、ケトチフェン類とアゼラスチン類とを同時に、順次又は別個に投与し、アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療をする方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗アデノウイルス剤、並びに、アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療のための医薬組成物は優れた抗アデノウイルス作用を有するため有用である。さらに、アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療作用を有することから、夏風邪、プール熱又は角結膜炎の予防及び/又は治療にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、「抗ヒスタミン剤」とは、一般に、ヒスタミン受容体に対してヒスタミンと拮抗的に働く、アレルギー反応などヒスタミンの関与する過剰反応を抑える目的で用いられる薬剤であり、例えば、ブロムフェニラミン、クロルフェニラミン、クレマスチン、ジフェンヒドラミン、ロラタジン、トリプロリジン、アザタジン、セチリジン、シプロヘプタジン、フェキソフェナジン、ヒドロキシジン、プロメタジン、ケトチフェン、アゼラスチン、メキタジン及びそれらの薬理上許容される塩であり、好適には、ケトチフェン、アゼラスチン及びそれらの薬理上許容される塩であり、更に好適には、フマル酸ケトチフェン及び塩酸アゼラスチンである。
【0011】
本発明において、「ケトチフェン類」とは、ケトチフェン及びその薬理上許容される塩であり、好適には、フマル酸ケトチフェンである。
【0012】
本発明において、「アゼラスチン類」とは、アゼラスチン類及びその薬理上許容される塩であり、好適には、塩酸アゼラスチンである。
【0013】
本発明において「薬理上許容される塩」とは、本発明の有効成分である「ケトチフェン」及び「アゼラスチン」が塩基性基を有することから、酸と反応させることにより酸性塩にすることができるので、その塩を示す。
【0014】
「酸性塩」としては、好適には、フッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のような低級アルカンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩のようなアリ−ルスルホン酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、フマ−ル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩、蓚酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩;及び、グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩であり、更に好適には、無機酸塩及び有機酸塩であり、より更に好適には、塩酸塩及びフマル酸塩である。
【0015】
本発明において、ケトチフェン類とアゼラスチン類とは、同時に、順次又は別個に投与することができるが、一般に、臨床上は同時に投与するのが便利であり、それゆえ、ケトチフェン類とアゼラスチン類とは、配合剤として投与することが好ましい。また、製剤技術上、当該両化合物を物理的に混合することが好ましくない場合は、それぞれの単剤を同時に、順次又は別個に投与することもできる。
【0016】
本発明における「同時に」投与するとは、全く同時に投与することの他、薬理学上許される程度に相前後した時間に投与することも含むものである。その投与形態は、ほぼ同じ時間に投与できる投与形態であれば特に限定はないが、単一の組成物であることが好ましい。
【0017】
本発明における「順次又は別個に」投与するとは、異なった時間に別々に投与できる投与形態であれば特に限定はないが、例えば、1の成分を投与し、次いで、決められた時間後に、他の成分を投与する方法がある。
【0018】
本発明における、「治療する」とは、病気又は症状を治癒させること又は改善させること或いは症状を抑制させることを意味する。
【0019】
本発明の抗アデノウイルス剤、並びにアデノウイルス感染症の予防及び/又は治療のための医薬組成物は、アデノウイルスに感染する怖れのある患者、又はアデノウイルスに感染した患者に投与するものである。アデノウイルスを起因とする疾患としては、例えば、夏風邪、プール熱及び角結膜炎等を挙げることができる。従って、本発明の抗アデノウイルス剤、並びにアデノウイルス感染症の予防及び/又は治療のための医薬組成物は、これらの疾患の患者に投与されるのが好ましい。
【0020】
フマル酸ケトチフェン(ケトチフェンフマル酸塩)は第15改正日本薬局方に収載されている。また、塩酸アゼラスチンは医薬品として市販されており容易に入手できる(例えば、(株)三洋化学研究所から購入できる)。
【0021】
ケトチフェン類の1回投与量は、適応症や年齢により異なるが、通常、0.1mg乃至5mgであり、これを1日に、1乃至3回投与する。
【0022】
アゼラスチン類の1回投与量は、適応症や年齢により異なるが、通常、0.1mg乃至10mgであり、これを1日に、1乃至3回投与する。
【0023】
固形製剤の場合において1回投与量中に含有されるケトチフェン類の含有量は、通常、0.1mg乃至4mgであり、好適には、0.5mg乃至2mgである。
【0024】
また、アゼラスチン類の含有量は、通常、0.1mg乃至8mgであり、好適には、0.5mg乃至4mgである。
【0025】
液剤の場合において含有されるケトチフェン類の含有量は通常、0.005mg/mL乃至4mg/mLであり、好適には、0.05mg/mL乃至2mg/mLである。
また、アゼラスチン類の含有量は通常、0.005mg/mL乃至8mg/mLであり、好適には、0.05mg/mL乃至4mg/mLである。
【0026】
本発明の抗アデノウイルス剤、並びにアデノウイルス感染症の予防及び/又は治療のための医薬組成物は、上述のケトチフェン類及び/又はアゼラスチン類の他に、更に、(1)解熱鎮痛薬、(2)中枢神経興奮薬、(3)抗炎症薬、(4)鎮咳薬、(5)去痰薬、(6)気管支拡張薬、(7)抗コリン剤、(8)ビタミン剤、(9)生薬及び生薬抽出物等を本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
【0027】
具体的には、
(1)アスピリン、アスピリンアルミニウム、サザピリン、エテンザミド、サリチルアミド、イブプロフェン、アセトアミノフェン、イソプロピルアンチピリン、ロキソプロフェン等の解熱鎮痛薬、
(2)カフェイン、無水カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン、テオフィリン、アミノフィリン、ジプロフィリン等の中枢神経興奮薬、
(3)塩化リゾチーム、ブロメライン、セラペプターゼ、セミアルカリプロティナーゼ、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸アンモニウム等の抗炎症薬、
(4)リン酸ジヒドロコデイン、リン酸コデイン、塩酸ノスカピン、ノスカピン、臭化水素酸デキストロメトルファン、デキストロメトルファンフェノールフタリン塩、リン酸ジメモルファン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、塩酸エプラジノン等の鎮咳薬、
(5)塩酸L−エチルシステイン、グアヤコールスルホン酸カリウム、クレゾール酸カリウム、グアイフェネシン、塩酸ブロムヘキシン、カルボシステイン、フドステイン、塩酸アンブロキソール等の去痰薬、
(6)メチルエフェドリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸メトキシフェナミン、塩酸トリメトキノール、塩酸フェニルプロパノールアミン、プソイドエフェドリン等の気管支拡張薬、
(7)ベラドンナ(総)アルカロイド、ベラドンナエキス、ヨウ化イソプロパミド、臭化水素酸スコポラミン、ロートエキス、臭化ブチルスコポラミン、臭化メチルベナクチジウム、臭化チメピジウム、ピレンゼピン等の抗コリン剤、
(8)ビタミンA 、肝油、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、アスコルビン酸カルシウム、ビタミンD、ビタミンE、コハク酸トコフェロールカルシウム等のビタミン剤、
(9)地黄、ケイヒ、ゴオウ、ショウキョウ、キキョウ、マオウ、カンゾウ、キョウニン、ハンゲ、シャゼンソウ、セネガ、サイコ、ブクリョウ、シンイ等の生薬およびこれら生薬の抽出物(エキス、チンキ等)等
を挙げることができるが、上記のもののみに限定されるべきものではない。
【0028】
これらの具体的な剤形としては、例えば、錠剤、細粒剤(散剤を含む)、カプセル、液剤(シロップ剤を含む)等をあげることができ、各剤形に適した添加剤や基材を適宜使用し、日本薬局方等に記載された通常の方法に従い、製造することができる。
【0029】
上記各剤形において、その剤形に応じ、通常使用される各種添加剤を使用することもできる。例えば、賦形剤、安定化剤、コーテイング剤、滑沢剤、吸着剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、着色剤、pH調節剤及び香料等を適宜使用し、日本薬局方等に記載された通常の方法に従い、製造することができる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)錠剤
(1)成分
(表1)
1錠中(mg) (1a) (1b) (1c)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
フマル酸ケトチフェン 1 − 0.5
塩酸アゼラスチン − 1 0.5
乳糖 120 120 120
ステアリン酸マグネシウム 2 2 2
トウモロコシデンプン 50 50 50
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 適量 適量 適量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
【0032】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製造する。
【0033】
(実施例2)細粒剤
(1)成分
(表2)
1包中(mg) (2a) (2b) (2c)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
フマル酸ケトチフェン 1 − 0.5
塩酸アゼラスチン − 1 0.5
乳糖 100 100 100
ステアリン酸マグネシウム 4 4 4
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 適量 適量 適量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
【0034】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造する。
【0035】
(実施例3)カプセル剤
(1)成分
(表3)
1カプセル中(mg) (3a) (3b) (3c)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
フマル酸ケトチフェン 1 − 0.5
塩酸アゼラスチン − 1 0.5
乳糖 25 25 25
ステアリン酸マグネシウム 3 3 3
トウモロコシデンプン 40 40 40
ヒドロキシプロピルセルロース 適量 適量 適量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
【0036】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造した後、カプセルに充てんして硬カプセル剤を製造する。
【0037】
(実施例4)シロップ剤
(1)成分
(表4)
10mL中(mg) (3a) (3b) (3c)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
フマル酸ケトチフェン 1 − 0.5
塩酸アゼラスチン − 1 0.5
安息香酸ナトリウム 100 100 100
ポリビニルアルコール 20 20 20
白糖 900 900 900
精製水 残部 残部 残部
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
【0038】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「シロップ剤」の項に準じてシロップ剤を製造した後、褐色ガラス瓶に充てんしてシロップ剤を製造する。
【0039】
(試験例)抗アデノウイルス効果試験
(1)被験物質
フマル酸ケトチフェンは(株)ワイアイシー製のものを、塩酸アゼラスチンは(株)三洋化学研究所のものを使用した。被験物質は、日本薬局方注射用水を用いて5mg/1.0mL/Kgになるように調製し、注射器及び胃ゾンデを用いて強制経口投与した。
【0040】
(2)動物
C57BL/6NCrlCrlj雌マウス(日本チャールス・リバー社製)3週齢を購入し、温度23±3℃、湿度55±10%、照明時間8時〜20時に制御されたP3施設にて、オートクレーブ滅菌したポリカーボネート製飼育ケージに5匹ずつ入れて飼育した。飼料は実験動物用特殊固形飼料(CRF−1、オリエンタル酵母工業社製)および水フィルターを通した水道水をオートクレーブ滅菌したポリカーボネート製給水瓶にいれ、それぞれ自由に摂取させた。
【0041】
馴化終了後、至近時の体重をもとに1群16匹に群分けして次の2つの群で行った。1群は陽性対照群(アデノウイルス摂取かつ被験物質非投与)、2群は被験物質投与群(アデノウイルス摂取かつ被験物質投与)とした。なお、陰性対照群(アデノウイルス未摂取かつ被験物質非投与)については、先行試験により生存率100%が確認済みのため今回の試験では省略した。
【0042】
(3)使用したアデノウイルス
使用したアデノウイルス種類は、Mouse adenovirus strain FL(MAV FL)で、American Type Culture Collection(ATCC)から購入した。5週齢で腹腔内投与とした。投与濃度(Tissue Culture Infectious Dose:TCID50/10μL)は1×10であった。
【0043】
ATCCより購入した細胞を培養し、顕微鏡下でモノレイヤー状態を確認後、アデノウイルスを加え、Cytopathic Effect(CPE)を顕微鏡下で確認した。培養上清を回収し−80℃以下で保存した。
【0044】
(4)試験方法
アデノウイルス接種の2週間前から接種後10日目まで、1日1回、計24回、被験物質を胃ゾンデと注射器を用いて強制経口投与した。
【0045】
被験物質投与2週目に、予試験にて死亡例が認められた濃度のアデノウイルスを、腹腔内に接種した。接種後10日間観察してマウスの生存率を以下の式により算出して求めた。
【0046】
アデノウイルス感染後のマウス生存率(%)=100×[生存マウス数/総マウス数(15匹)]
(5)試験結果
得られた生存率の結果を表5及び図1に示す。
【0047】
表5は、アデノウイルス感染後10日目における生存率の結果である。
【0048】
(表5)
群 被験物質(mg/Kg) 生存率(%)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
被験物質投与群 フマル酸ケトチフェン(0.25) 93.3
被験物質投与群 塩酸アゼラスチン (0.25) 80.0
陽性対照群 非投与 46.7
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
表5より、アデノウイルスに感染したマウスにおいてフマル酸ケトチフェン及び塩酸アゼラスチンの投与により生存率が顕著に改善することが認められた。
【0049】
図1は、横軸にアデノウイルス感染からの経過日数を、縦軸に生存率(%)の推移を記したグラフである。図1より、フマル酸ケトチフェン及び塩酸アゼラスチンの投与により生存率の顕著な改善が認められた。
【0050】
以上のことから、フマル酸ケトチフェン及び塩酸アゼラスチンに優れた抗アデノウイルス作用が発現することが判った。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の抗アデノウイルス剤、並びに、アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療のための医薬組成物は優れた抗アデノウイルス作用を有するため有用である。さらに、アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療作用を有することから、夏風邪、プール熱又は角結膜炎の予防及び/又は治療にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】アデノウイルス感染からの経過日数と、生存率の推移との関係を記したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒスタミン剤を含有する抗アデノウイルス剤
【請求項2】
抗ヒスタミン剤が、ケトチフェン類及び/又はアゼラスチン類である請求項1に記載の抗アデノウイルス剤。
【請求項3】
アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療のための請求項1又は2に記載の抗アデノウイルス剤を含有する医薬組成物。
【請求項4】
夏風邪、プール熱又は角結膜炎の予防及び/又は治療のための請求項1又は2に記載の抗アデノウイルス剤を含有する医薬組成物。
【請求項5】
さらに、解熱鎮痛薬、中枢神経興奮薬、抗炎症薬、鎮咳薬、去痰薬、気管支拡張薬、抗コリン剤、ビタミン剤、生薬及び生薬抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ケトチフェン類が、フマル酸ケトチフェンである請求項2に記載の抗アデノウイルス剤。
【請求項7】
アゼラスチン類が、塩酸アゼラスチンである請求項2に記載の抗アデノウイルス剤。
【請求項8】
ケトチフェン類とアゼラスチン類とが同一の医薬組成物中に含有する配合剤である請求項3〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
哺乳動物に、ケトチフェン類とアゼラスチン類とを同時に、順次又は別個に投与し、アデノウイルス感染症の予防及び/又は治療をする方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−285474(P2008−285474A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99932(P2008−99932)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】