説明

抗アレルギー剤

【課題】医薬品に匹敵する効果を持ち、なおかつ安全性の高い食品素材の提供。
【解決手段】式(i)で表わされる化合物


(式中:Rは、特定のフェノール基を有するアルコール基、又は-CHOであり;R及びRは、同じか又は異なっており、C1〜6アルキル基である。)の少なくとも一を有効成分として含み、食品、医薬又は化粧料として許容される添加剤を含む、アレルギーを処置するための、食品、医薬又は化粧料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗アレルギー剤に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに種々の食品成分が抗アレルギー作用を有することが明らかにされ、これらの成分を活用した抗アレルギー食品の開発が注目されている。
アレルギー疾患としてはアトピー性皮膚炎や花粉症が良く知られている。
【0003】
アトピー性皮膚炎とは顔面、四肢屈側、胸腹部を中心とした掻痒の強い慢性的な湿疹様病変を言い、従来乳幼児や小児にみられる疾患であったが、近年は難治化するとともに成人患者も増加する傾向にある。
【0004】
一方、花粉症に悩まされる患者数も増加傾向にあり、その原因の多くが環境汚染やスギ花粉の増加等の人為的要因であるといわれている。花粉症患者にとってこれら症状は即座に軽減させたいものであり、治療現場では抗ヒスタミン剤やステロイド剤など主に抗アレルギー医薬品が使用され、それなりの効果は挙げている。
【0005】
しかしながら、一年を通してあるいは花粉飛散期間中にこれら医薬品を使用し続けることに対して安全性や副作用に不安感を抱く患者も少なくないため、花粉症患者の症状緩和に役立ち、医薬品よりも温和にアレルギー応答を抑制し、副作用の無い食品も開発されている。
【0006】
そのような食品の候補として、例えば難消化性オリゴ糖であるラフィノースがアトピー性皮膚炎を改善する作用を有することが報告されている(非特許文献1)。
また、茶ポリフェノールやフラボノイドなどの食品中の抗酸化成分がヒスタミン放出抑制を通じてアレルギー応答を修飾することも報告されている(非特許文献2)。
【0007】
一方、ウイスキー濃縮液に抗アレルギー効果があることが知られ、樽材に含まれるカスタラジンがその効果物質として推定されている(非特許文献3、特許文献1)が、カスタラジンはウイスキーからはほとんど検出されないことが報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−136145
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】アレルギーの臨床、241、1092−1095(1998)
【非特許文献2】Fragrance Journal、11、50−53(1990)
【非特許文献3】食品工業、42(4)、42−52(1999)
【非特許文献4】Journal of Agricultural and Food Chemistry、56、7305−7310(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように抗アレルギー効果を有する食品素材はいくつか知られているが、その効果は医薬品ほど顕著ではないため、医薬品に匹敵する効果を持ち、なおかつ安全性の高い食品素材の開発が望まれていた。
【0011】
また、ウイスキー濃縮液の抗アレルギー効果については樽材に含まれている効果物質がウイスキーには含まれていなかったことから、真の効果物質が不明であり、真の効果物質を検索することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
樽材抽出物が抗アレルギー活性を有することは知られていたが、ウイスキーの抗アレルギー成分は知られていなかった。本発明によればウイスキー濃縮物に含まれる成分(リオニレシノール、シリングアルデヒド)が抗アレルギー活性を有することを見出した。
本発明は、以下を提供する。
1) 式(i)で表わされる化合物
【0013】
【化1】

【0014】
(式中:
Rは、式(ia)〜(id)のいずれか一で表される基
【0015】
【化2】

【0016】
又は-CHOであり;
及びRは、同じか又は異なっており、C1〜6アルキル基である。)の少なくとも一を有効成分として含み、食品、医薬又は化粧料として許容される添加剤を含む、アレルギーを処置するための、食品、医薬又は化粧料組成物。
2) 有効成分の含量が、10 ppm以上である、1)記載の組成物。
3) R及びRが、メチル基である式(i)で表わされる化合物の少なくとも一を有効成分として含む、1)又は2)記載の組成物。
4)
【0017】
【化3】

【0018】
を有効成分として含む、3)記載の組成物。
5)
【0019】
【化4】

【0020】
を有効成分として含む、3)記載の組成物。
6) 食物アレルギーの抑制、花粉症、及び/又はアトピー性皮膚炎の処置に用いる、請求項1に記載の組成物。
7) 式(i)で表わされる化合物
【0021】
【化5】

【0022】
(式中:
Rは、式(ia)〜(id)のいずれか一で表される基
【0023】
【化6】

【0024】
又は-CHOであり;
及びRは、同じか又は異なっており、C1〜6アルキル基である。)の少なくとも一を含む組成物を、食前に対象に摂取させる又は投与することを含む、食物性アレルギーを処置するための方法。
8) 式(i)で表わされる化合物
【0025】
【化7】

【0026】
(式中:
Rは、式(ia)〜(id)のいずれか一で表される基
【0027】
【化8】

【0028】
又は-CHOであり;
及びRは、同じか又は異なっており、C1〜6アルキル基である。)の少なくとも一を含む、細胞内カルシウム流入抑制剤。
9)
【0029】
【化9】

【0030】
を含む、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸オキシダーゼ(NOX)阻害剤。
10)
【0031】
【化10】

【0032】
を含む、活性酸素種(ROS)消去剤。
11)
【0033】
【化11】

【0034】
を含む、抗酸化剤。
【発明の効果】
【0035】
本発明により樽材抽出物及びウイスキー濃縮物からの分離成分(リオニレシノール、シリングアルデヒド)が抗アレルギー作用を有し、医薬品、食品、化粧品に用いることができることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、ウイスキー乾燥物から得られた活性成分のNMRスペクトルである。
【図2】図2は、クロモグリク酸ナトリウム(disodium cromoglycate; Dscg)、ウイスキーコンジェナー(WhC)、シリングアルデヒド(SA)及びリオニレシノール(Lyo)の脱顆粒抑制率を示したグラフである。
【図3】図3は、シリングアルデヒド(SA)、リオニレシノール(Lyo)、エラグ酸(Ela)、薬剤対照(Dscg)のSykのリン酸化抑制に関するウェスタンブロットの写真である。
【図4】図4は、クロモグリク酸ナトリウム(左上)、エラグ酸(右上)、シリングアルデヒド(左下)、リオニレシノール(右下)の細胞内へのカルシウムイオン流入抑制効果をそれぞれ示したグラフである。
【図5】図5は、陰性対照(Ag(-))、陽性対照(Ag(+))、シリングアルデヒド、リオニレシノール、エラグ酸、Dscg、DPI(Dibenzodolium chloride)の細胞内DCF酸化抑制効果を示したグラフである。
【図6】図6は、各物質のNOX阻害活性を示したグラフである。
【図7】図7は、各物質の抗酸化活性を示したグラフである。
【図8】図8は、PCA反応の試験結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明は、式(i)で表わされる化合物の少なくとも一を有効成分として含む、アレルギーを処置するための、食品、医薬又は化粧料として許容される添加剤を含む、食品、医薬又は化粧料組成物を提供する。
【0038】
【化12】

【0039】
式中:
Rは、式(ia)〜(id)のいずれか一で表される基
【0040】
【化13】

【0041】
又は-CHOであり;
及びRは、同じか又は異なっており、C1〜6アルキル基である。
本発明において「C1〜6アルキル基」というときは、特に示した場合を除き、炭素原子1〜6個を有する直鎖又は分岐鎖のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、3−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、及びn−ヘキシル基等が含まれる。
【0042】
式(i)で表わされる化合物の好ましい例は、R及びRが、メチル基である化合物である。
式(i)で表わされる化合物のさらに好ましい例は、リオニレシノール及びシリングアルデヒドである。
【0043】
リオニレシノール(lyoniresinol; 分子量420.45、分子式C22H28O8)は下記の構造を有する。
【0044】
【化14】

【0045】
リオニレシノールは蒸溜直後のウイスキーには存在せず、樽熟成過程で増加していくことが知られている。
リオニレシノールは、ブナ科コナラ属植物等多くの植物、梅酒及び梅酢等にも含まれることが知られ、また抗菌作用、抗酸化作用、香気増強作用、メラニン生成阻害活性、チロシナーゼ阻害活性等を有することが知られている(特開2003-128568号、WO2006/068254)。
【0046】
リオニレシノール及びその類縁体(下記において、Ia、Ib、Ic及びId)は、天然物から抽出することができ、また本出願人による特許出願(特願2008-327382号)に記載の、下記の方法により合成可能である。
【0047】
【化15】

【0048】
以下にこの製造方法における各工程を説明する。
工程a)
この製造方法は、式IIIの化合物を式IIの化合物に還元する工程を含む。
【0049】
工程a)において用いられる化合物IIIは、後述する工程d)及びe)により製造することもできるし、非特許文献3に記載されているような公知の方法によって製造することもできる。
【0050】
還元工程a)は、公知文献(Chem. Ber., 94, 2522-2533, 1961)に記載の手法のような当業者に公知の手法を用いて行うことができるし、後述の工程a’)におけるような条件を用いて行なうこともできる。具体的には、例えば、酢酸エチル、酢酸、THF、メタノール、エタノール等の溶媒中、パラジウム、パラジウム/炭素、水酸化パラジウム/炭素、パラジウム黒、酸化パラジウム等の接触還元触媒を用い、20〜50℃で、水素ガス導入下で接触還元を行なう。反応時間は特に限定されないが、典型的には2時間程度である。
【0051】
上記の還元工程においては、通常、式IIIの化合物から、目的とする中間体である式IIの化合物のみならず、還元がさらに進行した式IVの化合物が副生物として得られる
。例えば、前掲公知文献におけるように、酢酸エチル中でパラジウムを用いて水素ガス導入下で式IIIの化合物の一つであるシリンガレシノールの還元工程を行う場合、対応する式IIの化合物と式IVの化合物の収率はそれぞれ29%及び46.2%であることが確認されている。
【0052】
工程a’)
式IIの化合物の選択性及び収率を高めるためには、上記の還元工程は、好ましくは、触媒として水酸化パラジウム/炭素、酸化パラジウム、パラジウム黒又はパラジウム/炭素を使用して、水素ガス導入下で行う。特に好ましい触媒は、水酸化パラジウム/炭素である(さらに好ましくは20%水酸化パラジウム/炭素である)。また、好ましくは、溶媒としてTHFを用い、反応温度は、好ましくは35〜37℃である。工程a’)におけるこの条件は、もちろん、工程a)において用いてもよい。
【0053】
工程a)及びa’)において得られた混合物(未反応化合物III+化合物II+化合物IV)は、当業者に公知の手法を用いて分離することができ、たとえば、シリカゲルクロマトグラフィーにより、効率よく分離することができる。クロマトグラフィーに用いる溶媒系は、これらの化合物を分離できる限り特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン/テトラヒドロフラン/メタノール系や、酢酸エチル/ヘキサン系を用いることができる。中でも、ジクロロメタン/テトラヒドロフラン/メタノール系は、化合物II〜IVの溶解性が高く、大量処理に有効である。
【0054】
工程a)及びa’)の反応は、式IVの化合物を得るために用いることもできる。この場合には、式IVの化合物の収率を向上させることのできる条件ことが好ましい。得られた式IVの化合物は、工程c)又はc’)に付すことができる。
【0055】
工程b)
本製造方法における最終目的物である式Ia〜Idの化合物は、式IIの化合物を、非特許文献2に記載されているような当業者に公知の手法を用いて閉環することで得ることができる。具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸等の有機酸の水溶液(1〜2%程度)、あるいは、リン酸、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液等の適切な溶媒中で加熱還流し、熱的閉環反応を行うことができる。反応時間は、式Ia〜Idの化合物が得られる限り特に限定されないが、典型的には、1.5時間である。
【0056】
上記のようにして工程b)を行なうことにより、式Ia〜Idの内の少なくとも一つの化合物が得られる。例えば、式IIの化合物としてジメトキシラリシレシノールを用い、2%酢酸中で閉環すると、リオニレシノールを得ることができる。このように得られるリオニレシノールは、天然型立体配置を有するものである((+)及び(−)−リオニレシノールの混合物)。
【0057】
【化16】

【0058】
工程c)及びc’)
上記工程a)(または工程a’))において式IIIの化合物を還元した際に得られる副生物である式IVの化合物を、酸化的閉環反応に付すことにより、式III又はIIの化合物を得ることができる。そして、得られる式III及びIIの化合物をそれぞれ工程a)又はa’)及びb)に再利用することで、式Iの化合物の収率向上が可能となる。
【0059】
このような酸化的閉環工程c)又はc’)に用いられる酸化剤としては、フェノール性化合物の酸化的カップリング反応に有用な、塩化第二鉄、フェリシアン化カリウム、硫酸第一鉄−過酸化水素、ペルオキシダーゼ−過酸化水素が好ましく、特にフェリシアン化カリウムが好ましい。本工程において酸化剤は、式IVの化合物に対して、例えばモル比で2.0〜3.0倍、特に2.0〜2.1倍の量で使用することができる。
【0060】
本工程における酸化反応においてフェリシアン化カリウムを用いる場合には、次式に示すように、フェリシアン化カリウムに対して1当量のアルカリを必要とする。
2K3Fe(CN)6 + 2KOH = 2K4Fe(CN)6 + H2O + O
使用するアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが挙げられ、本工程では特に水酸化カリウムが好ましい。
【0061】
本工程に使用することができる溶媒は、反応に対して不活性な溶媒であれば特に限定されないが、例えば、アセトニトリル、メタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルフォルムアミド等の水と任意の割合で混合できる溶媒が好ましく、これを水と混合して用いることができる。特に、アセトニトリルと水の混合溶媒(1:1)を使用することが好ましい。本工程における反応温度は、例えば0℃〜25℃であり、特に、5℃〜22℃において行われ得る。反応時間は特に限定されないが、典型的には約1〜2時間である。
【0062】
工程c)の反応の一例として、式IVの化合物の一つであるジメトキシセコイソラリシレシノールを用いて行なった反応を以下に示す。式IIに相当するジメトキシイソラリシレシノール及び式IIIに相当するシリンガレシノールが、それぞれ51.5%及び37%の収率で得られた。
【0063】
【化17】

【0064】
式IVの化合物の酸化によって得られた式IIの化合物を、その後、工程b)に付して式Iの化合物を得ることができる。また、本酸化的閉環工程で得られる式IIIの化合物は、再度工程a)の還元工程に付すことが出来る。工程c’)の式IVの化合物から式IIの化合物への酸化反応の収率が高いため、工程a)においてあえて式IVの化合物を優先的に生成させ、次に工程c’)を行なえば、効率よく式IIの化合物を得ることも可能である。
【0065】
工程d)
式IIIの化合物は、式VIの化合物を還元する工程d)により得られる式Vの化合物を、さらに酸化する工程e)に付すことにより得られる。
【0066】
式VIの化合物を還元して式Vの化合物を得る工程d)において用いることのできる還元剤としては、当該技術分野でカルボン酸エステルを還元するために通常用いられる還元剤を使用することができ、例えば、DIBAL(水素化ジイソブチルアルミニウム)、水素化リチウムアルミニウム等の金属水素化物を使用することができる。特に本工程においては、DIBALによる還元が好ましい。本工程において還元剤は、式VIの化合物に対して、例えばモル比で2〜3倍、特に2.1〜2.3倍の量を使用することができる。
【0067】
本工程に使用することができる溶媒は、反応に対して不活性な溶媒であれば特に限定されないが、例えば、ヘキサン、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル、ジクロロエタンを単独で、またはこれらを混合して用いることができる。特に、ジクロロメタンを使用することが好ましい。本工程における反応温度は、好ましくは、例えば−60℃〜−30℃であり、特に、好ましくは−56℃〜−40℃である。反応時間は特に限定されないが、典型的には1時間程度である。
【0068】
上記の還元反応を行なった後、後処理を行なう。具体的には、必要に応じてメタノールなどを用いて過剰の金属水素化物を分解し、反応液に酸を加えて式Vのアルコール体を生成させる。次いで、有機溶媒による抽出等の操作によって式Vのアルコール体を分離する。酸としては、酢酸、クエン酸等の有機酸あるいは希硫酸、希塩酸等の無機酸を用いることができる。好ましくはクエン酸を用いる。塩酸は、シナピルアルコールのような式VIの化合物の二重結合へ付加し得るため、必ずしも好ましくない(データは示さないが、NMRで確認されている)が、場合によっては用いてもよい。
【0069】
工程d)に用いる式VIの化合物は、当業者に公知の手法を用いて得ることが出来る。例えば、式VIの化合物がシナピン酸メチルである場合、市販のシナピン酸を、当業者に公知の手法を利用してメチルエステル化して得ることが出来る。具体的には、例えば、実施例1に示されているように、アセトンを溶媒とし、炭酸水素カリウム(KHCO)及び硫酸ジメチル(MeSO)とともにシナピン酸を65℃で加熱還流して、シナピン酸メチルを得ることができる他、メタノール中、濃硫酸触媒下に加熱還流するエステル化法でも得ることが出来る。
【0070】
工程e)
上述の手法を用いて得られた式Vの化合物を酸化することにより、式IIIの化合物を得ることができ、これを工程a)に付すことができる。式Vの化合物の式IIIの化合物への酸化工程e)は、塩化第二鉄、フェリシアン化カリウム、硫酸第一鉄−過酸化水素、ペルオキシダーゼ−過酸化水素等のフェノール性化合物の酸化的カップリング反応に有用であることが知られている酸化剤を用いて、又はPt電極酸化により行うことが出来る。本工程において酸化剤は、式Vの化合物に対して、2当量使用することが好ましい。
【0071】
例えば、酸化剤として、酸化的フェノールカップリングを誘導するアリルオキシラジカル発生剤であるフェリシアン化カリウムを用いる場合には、フェリシアン化カリウムを式Vの化合物の2当量使用することによって工程eを行うことができる。
【0072】
本工程に使用することができる溶媒は、反応に対して不活性な溶媒であれば特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン、ヘキサン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル、ジクロロエタンまたはこれらの混合溶媒などを用いることができ、特に、ジクロロメタン、ヘキサン、酢酸エチルの混合溶媒を使用することができる。さらに水を加えてもよい。本工程における反応温度は、例えば0℃〜25℃であり、特に、5℃〜22℃において行われ得る。
【0073】
工程e)の反応時間は非常に短く、典型的には10分程度である。
上記した通り、本法における式Vの化合物の酸化工程e)により、短時間で、かつ高収率で式IIIの化合物が得られる。
【0074】
尚、別の公知文献(Chem. Ber., 91, 581-590, 1958)には、式Vの化合物に相当するシナピルアルコールを用い、硫酸銅を含む水溶液中での酸素による酸化反応により式IIIの化合物を得る方法が記載されているが、シナピルアルコールは水に難溶であるため、分散剤として1/3容量のTHFが必要であり、結果として、溶媒量が反応基質に対し多量となる(約140倍)。また、同文献に記載された方法においては酸素を用いる必要があるが、遮蔽系では酸素ガスの吸収は全く進行せず、酸素バブリングをする必要があり、しかもそれを長時間(7時間)行なわなければ反応が進行しなかった。酸素と可燃性溶媒の接触は危険であるため、このような条件は好ましくない。一方、本工程e)においては、これらの問題が解消されている。例えば、反応時間は短く、また酸素のバブリングの必要性もない。
【0075】
工程d)及び工程e)
工程d)で得られ、その後工程e)で用いられるアルコール化合物Vは、対応するアルデヒドに酸化され易く、また、二重結合部分への親電子付加反応や当該部分の重合反応が生じやすいと考えられる。このことを考慮し、工程d)で得られる式Vの化合物は、後処理によって生成された後に単離精製することなく工程e)に用いて式IIIの化合物に誘導することが好ましい。
【0076】
従って、好ましくは、工程d)で得られた酸などによる後処理の後の反応液を有機溶媒(例えば酢酸エチル)で抽出し、得られた抽出液(例えば、ジクロロメタン、ヘキサンを
含む酢酸エチル抽出液)に酸化剤(フェリシアン化カリウム水溶液)を加え、pHを5に保ちながら1当量の炭酸水素カリウムを添加するという簡便な方法で、好収率に式IIIの化合物を得ることができる。この方法と、高収率で化合物IIIが得られる。
【0077】
各工程で得られる化合物(例えばリオニレシノール)の構造及び純度はH−NMR、13C−NMR、HPLC、TLC等で確認することができる。
シリングアルデヒド(Syringaldehyde、シリンガアルデヒドということもある。
4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシベンズアルデヒド(4-hydroxy-3,5-dimethoxybenzaldehyde)は下記の構造を有する。
【0078】
【化18】

【0079】
シリングアルデヒドは、活性酸素消去活性を有することが知られている(特開平7-300412号公報(特許3665360号公報))。
シリングアルデヒドは、天然物から抽出することができ、また当業者であれば合成可能である。
【0080】
本発明で「組成物」又は「剤」というときは、少なくとも二以上の成分からなる混合物をいう。本発明の「組成物」又は「剤」は、食品、医薬又は化粧料の形態である。本発明の「組成物」又は「剤」は、既存の製品(例えばウイスキー)を含まない。なお、以下では、本発明の「組成物」又は「剤」のうち一方を例に説明することがあるが、特に示した場合を除き、その説明は、他方にもそのまま当てはまる。
【0081】
本発明の剤は、アレルギーの処置のために用いうる。本発明でアレルギーに関し、「処置(する)」というときは、アレルギーの予防、発症した症状の進行の抑制、アレルギーの治療(対処的な治療を含む。)を意味し、具体的には、対象を、症状がない、若しくはあってもごく軽度で日常生活に支障がなく、薬があまり必要でない状態;症状が持続的に安定していて急性増悪があっても頻度は低く、遷延しない状態;又はアレルゲン誘発反応がないか、又は軽度である状態にすることを含む。
【0082】
一般に、アレルギー症状が発現する機序は、液性免疫反応では、(1)アレルゲンと免疫担当細胞(抗原提示細胞)との接触、(2)抗原提示細胞、T、B細胞協調作用によるサイトカイン等を介した抗体産生、(3)抗原・抗体反応によるエフェクター細胞の活性化、(4)エフェクター細胞からのヒスタミン等のケミカルメディエーター、サイトカイン等の放出、(5)臓器でのアレルギー反応の出現、の順に進む。また、現在市販されているアレルギー抑制のための医薬品は、有効成分として含まれる物質の作用により、メディエーター遊離抑制薬、ヒスタミンH1-拮抗薬、トロンボキサン阻害薬、ロイコトリエン拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬に分類され、それぞれメディエーター遊離抑制薬、ヒスタミンH1-拮抗薬、トロンボキサン阻害薬、ロイコトリエン拮抗薬等に分類可能であり、適宜使い分けされている。
【0083】
また、ある物質に抗アレルギー作用が認められるからといって、IgE−IgEレセプター結合抑制、脱顆粒抑制、NOX阻害作用が必ずあるとはいえない。これらの作用は、抗アレルギー作用に関連するが、それぞれアレルギー抑制のための異なる段階での機序であり、これらの機序に基づいて、当業者であれば、処置対象に応じて異なる用法・用量を設計しうる。
【0084】
本発明の剤は、特にI型アレルギーの処置のために有用である。処置の対象となる疾患又は状態として、より具体的には、アトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギーを挙げることができる。
【0085】
本発明の剤はまた、細胞内カルシウム流入抑制剤として用いうる。有効成分としてリオニレシノールを含む本発明の剤は、抗酸化剤及び/又は活性酸素種(Reactive Oxygen Species、ROS)消去剤として用いうるほか、Sykタンパク質のリン酸化抑制剤としても用いうる。また、有効成分としてシリングアルデヒドを含む本発明の剤はNADPH(還元型還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)オキシダーゼ(NADPH oxidase、NOX)阻害剤及び/又は抗酸化剤として用いうる。
【0086】
本発明の組成物又は剤は、食品、医薬又は化粧料として許容される添加剤、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、乳糖、デンプンを含む。
抗アレルギー剤中の本発明の有効成分の量は特に限定されない。ウイスキーコンジェナー中のリオニレシノール含有量は、4.6±2.4 ppmであり、また、リオニレシノールは梅果肉に含まれることが知られており、その含量は1 g当たり1.09μg(= 1.09 ppm)と報告されている。したがって、リオニレシノールを7 ppmを超えて含む組成物は、食品組成物としても新規なものである。本発明の剤においては、リオニレシノールを有効成分とする場合は、その含量を、例えば10 ppm以上、好ましくは20 ppm以上、より好ましくは50 ppm以上、さらに好ましくは100 ppm以上とすることができる。リオニレシノール以外のその類縁体(式(i)で表される化合物であって、Rが式(ia)〜(id)のいずれか一で表される基であるもの)を有効成分とする場合は、当業者であれば、その類縁体とリオニレシノールとの分子量の差違に基づき、上述したリオニレシノール量に相当する量を適宜算出することができる。
【0087】
また、ウイスキーコンジェナー中のシリングアルデヒド含有量は、4.0±0.3 ppmである。
したがって、シリングアルデヒドを4.3 ppmを超えて含む組成物は、食品組成物としても新規なものである。本発明の剤においては、シリングアルデヒドを有効成分とする場合は、その含量を、例えば5 ppm以上、好ましくは10 ppm以上、より好ましくは25ppm以上、さらに好ましくは50 ppm以上とすることができる。シリングアルデヒド以外のその類縁体(式(i)で表される化合物であって、Rが-CHOであるもの)を有効成分とする場合は、当業者であれば、その類縁体とシリングアルデヒドとの分子量の差違に基づき、上述したシリングアルデヒド量に相当する量を適宜算出することができる。
【0088】
本発明の剤における有効成分の上限値には、特に制限はなく、〜99.99重量%の範囲で適宜設定できる。
リオニレシノールを有効成分とする本発明の剤は、1日あたり、リオニレシノールを10 μg〜40 g、好ましくは20 μg〜4 g、より好ましくは50 μg〜2 g、さらに好ましくは100 μg〜1 g摂取又は投与するために用いることができる。シリングアルデヒドを有効成分とする本発明の剤は、1日あたり、シリングアルデヒドを5 μg〜40 g、好ましくは10 μg〜4 g、より好ましくは25 μg〜2 g、さらに好ましくは50 μg〜1 g摂取又は投与するために用いることができる。なお、ウイスキー1 Lから約1 gのコンジェナーが得られるので、上述したコンジェナー中の含量を勘案すると、ウイスキーを1日1 L飲用する場合、リオニレシノールを4.6±2.4μg、シリングアルデヒドは約4.0±0.3μg摂取できるに過ぎない。 なお、本発明の剤の有効成分として好適なリオニレシノール及びシリングアルデヒドは、どちらもウイスキー中から検出される化合物で、少なくともウイスキーの製造工程におけるチヤーリング程度の加熱処理では分解の恐れはなく、安定性が良いと考えられる。また、茶ポリフェノールであるカテキン及びエピガロカテキンは、分子量がそれぞれ290及び460であり、吸収率は5%未満といわれているが、シリングアルデヒドは、分子量が180であり、比較的低分子であるため、上記の化合物に比較すると吸収率が良いことが期待される。
【0089】
本発明の剤は、飲食品、香粧品及び医薬品などの添加剤もしくは配合剤として使用してもよい。本発明でいう、飲食品用、香粧品用又は医薬品用の添加剤又は配合剤とは、香料、色素、酸化防止剤などの、飲食品、香粧品又は医薬品用として通常用いられる添加剤又は配合剤に、本発明の化合物を混合したものを言う。混合比率は適宜設定すればよい。混合比率としては、例えば約0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜80重量%である。ここで用いる飲食品、香粧品又は医薬品用の添加剤又は配合剤としては、以下で述べる各種添加剤が挙げられる。
【0090】
添加剤もしくは配合剤として用いる場合の飲食品、香粧品及び医薬品などへの配合量は、特に限定されないが、本発明の化合物を基準として例えば、約0.01〜100重量%、好ましくは約0.1〜80重量%の範囲で適宜設定できる。
【0091】
本発明の剤又は組成物が、食品の形態である場合、飴、トローチ、ガム、ヨーグルト、アイスクリーム、プリン、ゼリー、水ようかん、アルコール飲料、コーヒー飲料、ジュース、果汁飲料、炭酸飲料、清涼飲料水、牛乳、乳清飲料、乳酸菌飲料の形態とすることができる。これらの飲食品は、必要により各種添加剤を配合し、常法に従って得ることができる。
【0092】
これらの飲食品を調製する場合には、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェノール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルアラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB 類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等、通常の食品原料として使用されている添加剤を適宜配合して、常法に従って製造することができる
本発明のキサンチンオキシダーゼ阻害剤を医薬品に調製する又は配合する場合には、必要により各種添加剤を配合し、本発明の阻害剤化合物を適量含有させて、各種剤形の医薬品として調製することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、エキス剤等の経口医薬品として、あるいは、軟膏、眼軟膏、ローション、クリーム、貼付剤、坐剤、点眼薬、点鼻薬、注射剤といった非経口医薬品として、提供することができる。これらの医薬品は、各種添加剤を用いて常法に従って製造すればよい。使用する添加剤には特に制限はなく、通常用いられているものを使用することができ、その例としてはデンプン、乳糖、白糖、マンニトール、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等の固形担体、蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール等のアルコール、又はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の液体担体、各種の動植物油、白色ワセリン、パラフィン、ロウ類等の油性担体等が挙げられる。
【実施例】
【0093】
以下に、本発明を実験例及び実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等に限定されるものではない。
ブナ科コナラ属植物の抽出物は、IgE−IgEレセプター阻害活性を測定することによって抗アレルギー作用を有することが明らかとなっているが、本発明においては抗DNP−IgE抗体で感作させたラット好塩基球細胞RBL−2H3細胞からのDNP−BSA抗原刺激により惹起される脱顆粒現象をβ―hexosaminidase活性により評価した。
【実施例1】
【0094】
[ウイスキーコンジェナーの分画]
8Lの市販ウイスキー(サントリーウイスキー山崎12年;アルコール濃度43%)をエバポレーション後、凍結乾燥し、乾燥物を得た。得られた乾燥物(7.9g)に純水を加え、イオン交換クロマトグラフィー(樹脂:アンバーライトXAD、2ml)に供した。
【0095】
メタノール溶出画分(3.8g)をゲル濾過クロマトグラフィー(樹脂:セファデックスLH、20ml)に供し、Kd=0〜1.0、1.0〜2.0、2.0〜3.0、3.0〜4.0、4.0以上に分画した。
【0096】
活性の強かった画分Kd=0〜1.0(2,436mg)を、さらに分画して得たKd=0.7〜1.0及びKd=3.0〜4.0(148mg)を活性画分とした。
それぞれの画分についてさらに検討を行ったところ、NMRスペクトル(図1)から前者の画分に含まれる主要成分はリオニレシノールとシリングアルデヒドであることが判明した。なお、後者の画分に含まれる主要成分はエラグ酸であること、及びエラグ酸は抗アレルギー作用を有することが既に知られている。
【実施例2】
【0097】
[脱顆粒反応抑制作用]
リオニレシノール及びシリングアルデヒドの各種濃度標品と、比較のためウイスキーコンジェナー、クロモグリク酸ナトリウム(disodium cromoglycate;Dscg,医薬品名:インタール)も試験に含めてラット好塩基球細胞における脱顆粒現象を評価した。
【0098】
なお、ウイスキーコンジェナーとはウイスキーから水とアルコールを除いた粉末状のものをいう。
ラット好塩基球細胞RBL-2H3を5.0×10cell/mLで培地(10%FBS添加MEM培地)に懸濁し、そこにマウスモノクロナール抗ジニトロフェニル基IgE(抗DNP−IgE抗体)を200ng/mLの濃度で添加し、24時間感作させた。培養終了後、培地を吸引除去し、シラガニアン緩衝液で2回洗浄し、同緩衝液160μLに置換した。次に試料溶液(ウイスキーコンジェナー、リオニレシノール、シリングアルデヒドをDMSOに溶解し、DMSOの終濃度が0.1%以下となるよう緩衝液で希釈したもの)20μL、又は陽性対照としてDMSOを緩衝液で希釈したもの20μL、又は有効性既知の薬剤としてクロモグリク酸ナトリウムをDMSOに溶解し緩衝液で希釈したもの20μLを加え、37℃で30分間培養した。次にジニトロフェニル化ウシ血清アルブミン(DNP−BSA)20μLを加え、更に37℃で10分間抗原刺激を行った。その後、氷冷下で10分静置し反応を停止させた。上清10μLを96穴プレートに移し替え、 p−ニトロフェニル−N−アセチル−β−D−グルコサミド(p−NAG)溶液50μLを加え、37℃で1時間発色させた。反応終了後、反応停止液を200μL加え、マイクロプレートリーダーにて405nmにおける吸光度Aを測定した。陽性対照の吸光度をBとした。DNP-BSA抗原のかわりにシラガニアン緩衝液を加えた、抗原刺激無しの陰性対照の吸光度をCとした。そして、次式によりβ―hexosaminidase遊離抑制率を求めた。さらに、試料によるβ―hexosaminidaseの直接的な阻害活性を算出するためにRBL−2H3細胞より調製したβ―hexosaminidase酵素液に試料溶液を脱顆粒測定の際に使用した試料濃度における直接阻害活性を次式IIにより算出する(試料処理による吸光度をD、陽性対照の吸光度をEとする)。脱顆粒抑制率はI、II式より算出した値を次式IIIに従い算出した。
【0099】
式I:遊離抑制率(%)=〔1−{(A−C)/(B−C)}〕×100
式II:酵素直接阻害活性(%)={1−(D/E)}×100
式III:脱顆粒抑制率(%)=II−I
結果を図2に示すが、シリングアルデヒドとリオニレシノールはインタールと同程度のβ−hexaminidase阻害活性を示した。
【実施例3】
【0100】
[リン酸化蛋白質の定量比較]
脱顆粒抑制試験と同様に試料(シリングアルデヒド、リオニレシノール、エラグ酸)、薬剤対照(Dscg)を処理し、抗原刺激した細胞を用意した。また、抗原刺激無しの陰性対照も用意した。細胞抽出物を調製するために、細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、10mM Tris−HCl(pH 7.5),1mM EDTA,1% NP−40,0.1% Sodium Deoxycholoate,150mM NaCl,0.1% SDSを含有する緩衝液で氷上で超音波ホモゲナイズした。溶解物を4℃で14,500 rpm、30分間遠心し、上清を可溶性画分として使用した。膜画分及び細胞質画分の分離にはCalbiochem社のProteo Extract subcellar proteome extraction kit (Code353790)により調製した。各細胞抽出物はBCA法によりタンパク濃度を測定し、等濃度となるよう希釈して用いた。細胞溶解物をSDS−PAGEによって分離し、PVDF膜に転写した。PVDF膜を5%スキムミルクでブロッキングし、次いで各種抗体でプローブした。次に西洋ワサビペルオキシダーゼ結合2次抗体を反応させ、ECL法を用いて発色させた。
【0101】
その結果を図3に示すが、エラグ酸とDscgはシリングアルデヒドとリオニレシノールに比べてSykのリン酸化を強く抑制していることが判明した。このことからエラグ酸とDsgcはアレルギー反応メカニズムのシグナル伝達系のごく上流に作用していることが分かった。
【実施例4】
【0102】
[細胞内カルシウムイオン濃度の変動]
I型アレルギーモデルの脱顆粒反応にはカルシウムイオン流入による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が関わっているとされる。そこで各成分のカルシウムイオン流入への影響を調べた。
【0103】
細胞内カルシウム濃度の測定は同人化学研究所(株)製Calcium kit−fluo−3を用いて行った。つまり、96穴マイクロプレートに播種したIgE感作処理RBL−2H3細胞に3μMの蛍光指示薬fluo3−AMを含んだLoading緩衝液100μLを加え、37℃で30分間取り込ませた。30分後、PBSにて余分の指示薬を2回洗浄後、Recording緩衝液を80μLと試料(シリングアルデヒド、リオニレシノール、エラグ酸)、薬剤対照(Dscg)それぞれ10μLとを加え、さらに30分処理する。その後、蛍光測定用マイクロプレートリーダーにセットし、抗原DNP−BSA 10μLを加え反応を開始させ、37℃に保ちながら5秒ごとに4分間指示薬の蛍光強度を測定した。
【0104】
結果を図4に示すが、Dscg、エラグ酸、シリングアルデヒド、リオニレシノールのいずれも細胞内へのカルシウムイオン流入を抑制することが分かった。このことからシリングアルデヒドとリオニレシノールはカルシウムイオンの細胞内流入抑制作用を有するという点においてはDscg、エラグ酸と共通していることが分かった。
【実施例5】
【0105】
[細胞内ROS消去]
日々の生活のなかでは、体内でスーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシラジカルのラジカルや過酸化水素、一重項酸素等といった活性酸素種:ROSが産生されている。白血球、中でも好中球によるROSの産生量は生体内で最も大きく、ROSは殺菌や異物除去等免疫応答の誘導など、重要な伝達物質になっていることが知られている。また、ROSは細胞内カルシウム濃度の増加を誘導することにより脱顆粒反応を起こすことも知られている。実施例4で細胞内カルシウム濃度を調べた結果、試料処理群が陽性対照群に比べ細胞内のカルシウムイオン濃度上昇を抑制する結果が得られた。そこで活性酸素腫を特異的に検出するDCF蛍光指示薬を用いて抗原刺激後の細胞内のROS濃度の測定を試みた。
【0106】
膜透過性プローブであるDCFH−DAは細胞外から細胞内へと移行し、細胞質中のエステラーゼにより加水分解を受けDCFHとなる。このDCFHは膜透過性を失うために細胞内にとどまり、そこで過酸化水素などの細胞内活性酸素種と反応し、酸化されることによってDCFとなる。このDCFは蛍光を発するため、DCFH−DAを投与した細胞のDCF蛍光強度を測定することにより細胞内の酸化状態を測定することができる。ここに抗酸化物質が共存するとDCFの酸化は抑制され、蛍光強度の低減により被験物質の細胞内での抗酸化活性を評価することができる。
【0107】
RBL−2H3細胞を培養し、10μMのDCFH−DA蛍光色素で30分間処理した。30分後、細胞内に取り込まれなかった指示薬をPBSにて洗浄後、さらに、脱顆粒抑制試験と同様に試料(シリングアルデヒド、リオニレシノール、エラグ酸)、薬剤対照(Dscg)、NOX inhibitorであるDPI(Dibenzodolium chloride)を処理し、抗原刺激をした。陰性対照、陽性対照も同様に処理した。抗原処理後、60秒間隔で5分間経時的に蛍光強度を測定した。
【0108】
その結果を図5に示す。シリングアルデヒド、リオニレシノール、エラグ酸、Dscg、DPIはそれぞれ陽性対照と比較し、有意に細胞内DCF酸化を抑制し得た。特にリオニレシノールの活性は強く、細胞内の活性酸素消去活性により抗アレルギー作用を示していることが示唆された。
【実施例6】
【0109】
[NOX阻害活性]NOXの細胞膜移行阻害
NADPH oxidase(NOX)の酵素本体はgp91phoxという膜貫通型タンパク質である。gp91phoxは、やはり膜貫通タンパク質であるp22phoxと会合することで、膜に安定して存在している。gp91phoxが活性化してNOX活性を持つには、さらに、本来細胞質に存在する特異的タンパク質p47phoxおよびp67phoxと低分子量Gタンパク質であるRacが膜に移行してgp91phox、p22phoxと相互作用することが必要である。
【0110】
実施例5から、リオニレシノールは細胞内ROS濃度を抑制していることが推測された。また、抗原刺激後の細胞内ROS濃度の上昇はNOXの産生によるとの報告もあることから、試料によるこれら調節因子への影響についても検討した。
【0111】
NOXの活性化は、p40phox、p47phox、p67phox、Racの細胞質から細胞膜への移行をWestern blot法で定量することにより評価した。脱顆粒抑制試験と同様に、RBL−2H3細胞に試料(シリングアルデヒド、リオニレシノール、エラグ酸)、薬剤対照(Dscg)を処理した細胞を、陽性対照としては試料の溶媒であるDMSOを処理し、NOX阻害剤としてはDPIを処理した細胞を用意し、それぞれ抗原刺激した。陰性対照としては抗原刺激無しの細胞を用意した。次に、実施例3と同様の方法で、それぞれの処理細胞から細胞質画分と細胞膜画分を調製し、SDS−PAGEにより分離し、PVDF膜に転写して各種特異的抗体をプローブし ECL法により検出した。
【0112】
結果を図6に示す。シリングアルデヒドはp67phoxの細胞膜への移行を強く阻害していることが分かった。p67phoxの膜移行の阻害はエラグ酸、Dscgにも見られた。また、NOX阻害剤のDPIにより膜移行が阻害されるのはp40phoxであった。このことと実施例5の結果と合わせ、リオニレシノールは強い抗酸化活性により細胞内ROS消去作用を、シリングアルデヒドは強いNOX阻害活性により細胞内ROS産生抑制作用を示し、それぞれ細胞内ROS濃度を低減させていることが示唆された。
【実施例7】
【0113】
[DPPH抗酸化活性]
また、細胞内ROS濃度は試料の抗酸化活性により消去されることが推測されたので、試料の抗酸化活性についてもDPPHラジカル補足能により試験管内での各試料のラジカル消去能として測定した。
【0114】
DPPH(2,2−Diphenyl−1−picrylhydrazyl)はラジカル発生剤として汎用される。DPPHはラジカル状態で517nmの極大吸収を持つ。抗酸化物質により還元されることにより、517nmの吸光度は減少する。この吸光度減少を測定することにより、化合物の抗酸化活性を測定する。
【0115】
DPPHは50% エタノールで250μM溶液を用時調製し0.22μmのフィルターでろ過することにより不溶物を除去して使用した。試料(シリングアルデヒド、リオニレシノール、エラグ酸、ウイスキーコンジェナー)、陽性対照(Vitamin C、Vitamin E、Trolox)はDMSOに溶解し、50% エタノールで希釈して用いた。96穴マイクロプレートに20μLずつ試料、陽性対照溶液を分注した。DPPH溶液を180μL加え室温で20分反応させ、517nmでの吸光度を測定した。
【0116】
結果を図7に示すが、エラグ酸は陽性対照の2倍以上の高い抗酸化活性、リオニレシノールは陽性対照と同程度の抗酸化活性を示した。シリングアルデヒドには高い抗酸化活性は認められなかった。このことから、実施例5でのエラグ酸の細胞内ROS濃度抑制はエラグ酸の高い抗酸化活性によるものと推測された。
【実施例8】
【0117】
[血管透過性亢進抑制作用]
PCA反応(Passive Cutaneous Anaphylaxis Reaction)はI型アレルギー症状の一つである血管透過性の亢進を測定する試験法である。マウスにエバンスブルー生理食塩水溶液とIgE−DNP、DNP−BSA抗原を尾静脈から投与し、DNP抗原刺激によりアレルギーを誘導した。1時間後に麻酔により致死させ、皮膚を剥離した(図8)。試料(シリングアルデヒド、リオニレシノール、エラグ酸、ウイスキーコンジェナー)は生理食塩水に溶解し、抗原刺激の1時間前に200mg/kgあるいは1000mg/kgで前処理した。対照としてDscgも同様に処理し、溶媒の生理食塩水のみを処理したものをコントロールとした。抗原刺激後、皮膚から色素を抽出し、吸光度測定によりサンプルの血管透過性亢進抑制作用を評価した。その結果を図8に示す。
【実施例9】
【0118】
以下に示す方法で、本発明の化合物を含む医薬品を製造した。
錠剤:
本発明の化合物5gに、乳糖490g及びステアリン酸マグネシウム5gを混合し、単発式打錠機にて打錠し、直径10mm、重量300mgの錠剤を製造した。
【0119】
顆粒剤:
上述の錠剤を粉砕、整粒し、篩別して20−50メッシュの顆粒剤を得た。
【実施例10】
【0120】
以下に示す組成にて、本発明の化合物入りの、各種飲食品を製造した。
【0121】
飴:
(組成) (重量部)
粉末ソルビトール 99.7
香料 0.2
本発明の化合物 0.05
ソルビトールシード 0.05
全量 100
【0122】
キャンデー:
(組成) (重量部)
砂糖 47.0
水飴 49.76
香料 1.0
水 2.0
本発明の化合物 0.24
全量 100
【0123】
ガム:
(組成) (重量部)
ガムベース 20
炭酸カルシウム 2
ステビオサイド 0.1
本発明の化合物 0.05
乳糖 76.85
香料 1
全量 100
【0124】
ゼリー(コーヒーゼリー):
(組成) (重量部)
グラニュー糖 15.0
ゼラチン 1.0
コーヒーエキス 5.0
水 78.93
本発明の化合物 0.07
全量 100
【0125】
アイスクリーム:
(組成) (重量部)
生クリーム(45%脂肪) 33.8
脱脂粉乳 11.0
グラニュー糖 14.8
加糖卵黄 0.3
バニラエッセンス 0.1
水 39.93
本発明の化合物 0.07
全量 100
【0126】
ジュース:
(組成) (重量部)
冷凍濃縮温州みかん果汁 5
果糖ブドウ糖液糖 11
クエン酸 0.2
L−アスコルビン酸 0.02
本発明の化合物 0.05
香料 0.2
色素 0.1
水 83.43
全量 100
【0127】
炭酸飲料:
(組成) (重量部)
グラニュー糖 8.0
濃縮レモン果汁 1.0
L−アスコルビン酸 0.10
クエン酸 0.06
クエン酸ナトリウム 0.05
着色料 0.05
香料 0.15
炭酸水 90.55
本発明の化合物 0.04
全量 100
【0128】
コーヒー飲料:
(組成) (重量部)
グラニュー糖 8.0
脱脂粉乳 5.0
カラメル 0.2
コーヒー抽出物 2.0
香料 0.1
ポリグリセリン 0.05
脂肪酸エステル
食塩 0.05
水 84.56
本発明の化合物 0.04
全量 100
【0129】
アルコール飲料:
(組成) (重量部)
50容量%エタノール 32
砂糖 8.4
果汁 2.4
本発明の化合物 0.2
精製水 57.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(i)で表わされる化合物
【化1】

(式中:
Rは、式(ia)〜(id)のいずれか一で表される基
【化2】

又は-CHOであり;
及びRは、同じか又は異なっており、C1〜6アルキル基である。)の少なくとも一を有効成分として含み、食品、医薬又は化粧料として許容される添加剤を含む、アレルギーを処置するための、食品、医薬又は化粧料組成物。
【請求項2】
有効成分の含量が、10 ppm以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
及びRが、メチル基である式(i)で表わされる化合物の少なくとも一を有効成分として含む、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
【化3】

を有効成分として含む、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
【化4】

を有効成分として含む、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
食物アレルギーの抑制、花粉症、及び/又はアトピー性皮膚炎の処置に用いる、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
式(i)で表わされる化合物
【化5】

(式中:
Rは、式(ia)〜(id)のいずれか一で表される基
【化6】

又は-CHOであり;
及びRは、同じか又は異なっており、C1〜6アルキル基である。)の少なくとも一を含む組成物を、食前に対象に摂取させる又は投与することを含む、食物性アレルギーを処置するための方法。
【請求項8】
式(i)で表わされる化合物
【化7】

(式中:
Rは、式(ia)〜(id)のいずれか一で表される基
【化8】

又は-CHOであり;
及びRは、同じか又は異なっており、C1〜6アルキル基である。)の少なくとも一を含む、細胞内カルシウム流入抑制剤。
【請求項9】
【化9】

を含む、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸オキシダーゼ(NOX)阻害剤。
【請求項10】
【化10】

を含む、活性酸素種(ROS)消去剤。
【請求項11】
【化11】

を含む、抗酸化剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−202598(P2010−202598A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51107(P2009−51107)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】