説明

抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革およびその製造方法

【課題】花粉付着防止効果、また、花粉やダニなどによるアレルギー性疾患の原因物質を不活化することに効果があり、自動車や列車などの各種車両用、機内・船室用などのシート材料やそれらの内装材、インテリア資材用途などに好適なスエード調人工皮革とその製造方法を提供すること。
【解決手段】表面に0.3dtex以下の極細繊維からなるスエード調の立毛を有するスエード調人工皮革であって、平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物を含む薬剤が、該酸化ジルコニウム化合物の単位面積当たりの付着量が0.072〜10.8g/mで前記極細繊維の表面に付着している抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革であり、また、表面に0.3dtex以下の極細繊維からなるスエード調の立毛を有するスエード調人工皮革に、平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物からなる加工薬剤を含浸させて、酸化ジルコニウム化合物を単位面積当たりの付着量が0.072〜10.8g/mで付着させるスエード調人工皮革の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革とその製造方法に関し、特に、花粉付着防止効果、また、花粉やダニなどによるアレルギー性疾患の原因物質(以下、「アレルゲン」という)を不活化する効果を有したスエード調人工皮革とその製造方法に関する。
【0002】
特に、本発明にかかるスエード調人工皮革は、上述した効果を生かして、自動車や列車などの車両用座席シートやそれらの内装資材用途、あるいは船舶の船室や飛行機内の座席シートやそれらの内装資材用途、あるいは更に、住宅や公共建造物等のホールなどに用いられるソファや座席シート、あるいはカーテン(吊りカーテンやアコーディオンカーテンなど)、ブラインド、内壁装資材(壁紙など)のインテリア資材用途等に、好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0003】
従来、繊維製品に、花粉付着防止効果、また花粉やダニなどによるアレルゲンを不活化する機能を持たせるという試みが検討されてきている。
【0004】
例えば、近年、フッ素系の樹脂で繊維表面を皮膜加工することにより花粉などが付着しにくいようにしたり、あるいは、ジルコニウム塩や酸化ジルコニウム化合物などの薬剤を各種繊維製品に付与することが提案されている(特許文献1−3)。
【0005】
しかし、これらの提案は、単に加工薬剤としての提案をしているにすぎず、特に繊維製品の具体的形態に応じた最適な態様を提案しているものではなかった。
【0006】
すなわち、繊維製品としては各種の形態や用途のものがあるが、例えば、スエード調人工皮革の場合には、その表面に極細繊維の短い立毛が多数密生していてかつある程度の厚さ(目付に対応する)もあって、ある種の多孔性3次元構造であると言える構造を形成していることから、特に、花粉やダニなどによるアレルゲンを、その内部に取り込みやすいものであり、また、いったん取り込まれたアレルゲンは、なかなか除去されることがないし、容易に除去することも難しい。
【0007】
そして、特に、スエード調人工皮革は、同時にその一つの用途として、自動車や列車などの各種車両用、機内・船室用などのシート材料やそれらの内装材、インテリア資材用途という分野があり、特に、これらの用途では、直接的に人体に触れる場合も多く、かつ花粉などを含んだ外気と接することも多い一方で、クリーニングなどは通常はされないことも多いことから、アレルギー体質者にとっては、抗アレルギー性能の実現が望まれるものであった。
【特許文献1】特開2001−139479号公報
【特許文献2】特開2001−214367号公報
【特許文献3】特開2006−57212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、花粉付着防止効果、また、花粉やダニなどによるアレルギー性疾患の原因物質(以下、「アレルゲン」という)を不活化することに効果があり、自動車や列車などの各種車両用、機内・船室用などのシート材料やそれらの内装材、インテリア資材用途などに好適な、新規なスエード調人工皮革とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成する本発明のスエード調人工皮革は、以下の(1)の構成からなる。
(1)表面に0.3dtex以下の極細繊維からなるスエード調の立毛を有するスエード調人工皮革であって、平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物を含む薬剤が、該酸化ジルコニウム化合物の単位面積当たりの付着量が0.072〜10.8g/mで前記極細繊維の表面に付着していることを特徴とする抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
【0010】
また、かかる本発明の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革において、より好ましい具体的構成は、以下の(2)〜(7)のものである。
(2)スエード調人工皮革が、目付60〜900g/mであり、前記酸化ジルコニウム化合物の単位面積あたりの付着量が0.072〜10.8g/mであることを特徴とする上記(1)記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
(3)前記薬剤が、酸化ジルコニウム化合物の他に、他の微粒子無機化合物あるいはその有機物誘導体を含んでいるものであることを特徴とする上記(1)または(2)記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
(4)前記微粒子無機化合物が、チタン酸化物、亜鉛酸化物、銅酸化物、マグネシウム酸化物、カルシウム酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ケイ素酸化物、およびアルミニウム酸化物のうちの少なくとも一種であり、前記酸化ジルコニウム化合物と複合酸化物を形成して該スエード調人工皮革に付着していることを特徴とする上記(3)記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
(5)前記薬剤が、柿渋、タンニン酸、ポリフェノール系化合物、カテキン、キチン、およびキトサンのうちの少なくとも一つが混合されてなるものであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
(6)前記薬剤が、粒子径が10nm未満のAg微粒子、および/またはアミノ酸系界面活性剤を含んでいるものであることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
(7)車両用あるいは室内用の内装資材用途に使用されることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
【0011】
また、上述した目的を達成する本発明の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革の製造方法は、以下の(8)の構成からなるものである。
(8)表面に0.3dtex以下の極細繊維からなるスエード調の立毛を有するスエード調人工皮革に、平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物からなる加工薬剤を含浸させて、酸化ジルコニウム化合物を単位面積当たりの付着量が0.072〜10.8g/mで付着させることを特徴とする抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革の製造方法。
【0012】
また、かかる本発明の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革の製造方法において、より具体的に好ましくは、以下の(9)の構成からなるものである。
(9)前記加工薬剤が、pH7.5〜11.5のものであることを特徴とする上記(8)記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる本発明によれば、花粉付着防止効果、また、アレルゲンを不活化することに効果があり、自動車や列車などの各種車両用、機内・船室用などのシート材料やそれらの内装材、インテリア資材用途などに好適な新規なスエード調人工皮革を提供することができるものである。
【0014】
また、請求項8にかかる本発明によれば、花粉付着防止効果、また、アレルゲンを不活化することに効果があり、自動車や列車などの各種車両用、機内・船室用などのシート材料やそれらの内装材、インテリア資材用途などに好適な新規なスエード調人工皮革の製造方法を提供することができるものである。
【0015】
特に、本発明にかかるスエード調の人工皮革は、花粉などが付着しにくいものであり、また、たとえ付着したとしても、軽くはたくことなどにより該花粉などを除去させやすいものである。さらに、付着した花粉などを除去し切れずに人工皮革中に残存したとしても、該花粉などに対するアレルゲンの不活化作用が機能するものであり、これらから、花粉アレルギー等の防止効果が良好に発揮されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、更に詳しく本発明の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革とその製造方法について説明する。
【0017】
本発明の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革は、表面に0.3dtex以下の極細繊維からなるスエード調の立毛を有するスエード調人工皮革であって、平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物を含む薬剤が、酸化ジルコニウム化合物の単位面積当たりの付着量が0.072〜10.8g/mで極細繊維の表面に付着していることを特徴とするものである。
【0018】
本発明が、特に、表面に0.3dtex以下の極細繊維からなるスエード調の立毛を有するスエード調人工皮革を対象にしているのは、そのような極細繊維の立毛群を表面に多数有する構造であることから花粉などを内部に取りこみやすいものであり、本発明の効果が大きく発揮されるからである。酸化ジルコニウム化合物の付着量は、上述した単位面積当たりの付着量が0.072〜10.8g/mとすることが重要であり、この範囲を外れると本発明の効果は小さくなる。本発明者らの知見によれば、中でも、好ましくは、0.18〜8.1g/mである。
【0019】
本発明において、酸化ジルコニウム化合物とは、酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酸塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、水酸化ジルコニウム、あるいはアルカリ金属変性水酸化ジルコニウムなどをいうものであり、特に、本発明では、平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物をスエード調人工皮革の表面を構成する極細繊維の表面に付着させることにより、該極細繊維表面に微細な凹凸形状を形成でき、この微細な凹凸形状によって、花粉などが付着しにくくなる。
なお、本発明において、酸化ジルコニウム化合物の平均粒子径はレーザー回析式粒子径分布測定装置によって測定した値をいう。
【0020】
本発明において、より具体的に好ましくは、好ましくは、スエード調人工皮革が、目付60〜900g/mの範囲内のものであって、酸化ジルコニウム化合物の単位面積あたりの付着量が0.072〜10.8g/mの範囲内、さらに好ましくは、0.18〜8.1g/mの範囲内のものであり、該範囲内の使用量で酸化ジルコニウム化合物を使用することにより一層高い抗アレルギー効果を得ることができるのである。
【0021】
平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物を極細繊維の表面に付着させるには、該平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物を含んでいる加工薬剤をスエード調人工皮革に含浸させて、その後、乾燥させて、必要に応じて、起毛仕上げなどを行い、該酸化ジルコニウム化合物を単位面積当たりの付着量が0.072〜10.8g/mで付着させることにより行うことができる。
【0022】
なお、酸化ジルコニウム化合物の単位面積当たりの付着量は、酸化ジルコニウム化合物加工薬剤濃度(%ows)、シートのピックアップ率(%)およびシートの目付(g/m)から算出する。すなわち、付着量(g/m)=加工薬剤濃度×ピックアップ率×目付である。
【0023】
該加工薬剤の含浸は、デッピング(浸漬)法、パディング法、スプレー法、捺染法、あるいはコーティング法などより行うことができるが、好ましくは、その後の人工皮革としての仕上げのしやすさなどから、パディング法、あるいはスプレー法が好ましい。
【0024】
また、繊維、繊維布帛表面に付着あるいは固着させるために樹脂バインダーを用いることが好ましいが、該樹脂バインダーとしては、アクリル酸エステル系、ウレタン系、シリコーン系、エポキシ系、酢酸ビニル系、メラミン系などを用いることができる。該樹脂バインダーの付着量は、人工皮革の総重量に対して、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。
【0025】
該加工剤は、そのpHを7.5〜11.5の範囲内になるように設定することが好ましい。すなわち、該加工薬剤のpHは、極細繊維に付与加工した際の表面付着形態が、ナノメートルレベル(10nm未満レベル)の、特に花粉付着防止効果が期待できる凹凸形状を呈する上で7.5〜11.5のアルカリ性範囲内にすることが肝要である。
【0026】
本発明において、酸化ジルコニウム化合物は、アレルゲン不活化剤としての機能を有するものである。また、酸化ジルコニウム化合物を付着処理するための加工薬剤に、該酸化ジルコニウム化合物に加えて、他の無機微粒子化合物を配合すれば、繊維上で複合酸化物を形成することができ、その点でも、本発明の目的・効果である花粉付着防止性をさらに向上させることができる。
【0027】
すなわち、本発明の人工皮革において、好ましくは、前記薬剤が、酸化ジルコニウム化合物の他に、他の微粒子無機化合物あるいはその有機物誘導体を含んでいるものであり、さらに、該加工薬剤に、ナノメートルレベル(10nm未満レベル)のAg微粒子、さらに、アミノ酸系界面活性剤を含んでいることが好ましく、これらの物質を共存させることにより、花粉付着防止と花粉アレルゲンの不活化がさらになされるものである。
なお、本発明において、Ag微粒子の粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)等で数万倍〜数十万倍に拡大して写真撮影し、任意に100個の粒子を抽出して各粒子の最大径を測定しその平均した値をいう。
【0028】
上述した酸化ジルコニウム化合物以外の他の無機化合物は、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ケイ素、あるいは酸化アルミニウムなどであることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい一態様例は、該微粒子無機化合物が、チタン酸化物、亜鉛酸化物、銅酸化物、マグネシウム酸化物、カルシウム酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ケイ素酸化物、およびアルミニウム酸化物のうちの少なくとも一種であって、上述した酸化ジルコニウム化合物と複合酸化物を形成して該スエード調人工皮革に付着しているものである。
【0029】
なお、かかる無機化合物の有機物誘導体とは、炭素数が1〜8のアルキル基、アルコキシ基、ベンジル基、フェニル基、フェノキシ基などを導入したものをいい、具体的には、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、トリエトキシチタン、テトラプロキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラヘプトキシチタン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリメチルアルミニウム、アルミニウムエトキシドなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
特に、上述の無機化合物、ならびにその有機物誘導体の水サスペンジョン、エマルジョンが繊維に付与されたとき、繊維表面での該無機化合物の粒子径が、花粉付着防止の点では500nm以下、望ましくは100nm以下で良好な効果が得られる。
【0031】
特に、花粉付着防止効果の点で、繊維表面での粒子径が500nm以下、望ましくは100nm以下であれば、このレベルの粒子径で繊維表面に超微細な凹凸が形成されることにより、花粉などが付着しても点状の接着・接合状態となり、面接着に比べて付着しにくく、かつ、付いても落ちやすいものとなる。
【0032】
以下、アレルゲンの不活化について説明する。アレルギー疾患には、各種のものがあり、特にアレルギー性の鼻炎、アトピー性皮膚炎、気管支喘息などが問題となっている。
【0033】
それらの主たる原因は、杉花粉アレルゲン、生活空間内にある塵ダニ類、特に室内塵中に多い塵ダニのアレルゲン等であり、近年、症状を訴える人が増加している。これは外気中や居住・生活空間内にアレルゲンが増加していることが一因であり、アレルゲンが人体(皮膚、粘膜など)に触れることにより各種のアレルギー疾患を引き起こす。該アレルギー疾患の発症を防止する手段として、杉花粉などのアレルゲン物質を変性させることにより不活化させることができるものである。
【0034】
本発明において、このアレルゲン不活化剤として、特に、上述した酸化ジルコニウム化合物が優れた効果を有する。さらに、アレルゲン不活化剤の作用効果を有するものとして、上述したAg微粒子があり、さらに、柿渋、タンニン酸、ポリフェノール系化合物、キトサン、カテキン、キチン等があり、これらの物質も、上述した酸化ジルコニウムに併用されて、本発明のスエード調人工皮革に付着されていることが好ましい。
【0035】
上述したアレルゲン不活化剤は、前記したアレルギー発症物質、いわゆるアレルゲンと接触して、該アレルゲンが抗原性を発揮する部分、 すなわち、エピトープの抗原性を抑制するために何らかの化学的相互作用を及ぼし、化学反応の遷移状態の障壁エネルギーを低下させることにより、該アレルゲンを不活化できるものと考えられる。
【0036】
本発明にかかる抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革は、例えば、車両用あるいは室内用の内装資材用途などに好適に使用される。具体的には、自動車などの車両用座席シートや、飛行機・船室内の座席シート、さらにはそれらの内装資材、さらに住宅、公共建造物などの内装・インテリア資材、カーテン(アコーディオンカーテン、吊りカーテンなど)、ブラインド、内壁装資材(壁紙など)等の各用途に最適なものである。
【0037】
本発明にかかるスエード調人工皮革において、人工皮革は、実質的に、0.3dtex以下の極細ポリエステル繊維100%からなっていてもよいが、ポリウレタン樹脂などの高分子弾性体樹脂が含浸されていてもよい。
【0038】
特に、従来から存在するスエード調人工皮革は、ポリウレタン樹脂が含浸されているものが多く、強度面などではポリウレタン樹脂が含浸されているものが好ましい。但し、ポリウレタン樹脂などの高分子弾性体が含浸されていなくても、その強度が十分に高いものであれば、高分子弾性体が含浸されていないものであってもよい。
【0039】
本発明に用いられるスエード調人工皮革を製造するに際しては、極細繊維および/または極細繊維束の絡合体に、必要に応じて高分子弾性体が付与された立毛シートを、まず形成する。なお、高分子弾性体は付与されないものであってもよい。
【0040】
具体的には、例えば、該極細繊維発生型の海島型等の複合繊維を短繊維化し、カード・クロスラッパーもしくはランダムウエッバーなど常法によりウェブを作り、その後、ニードルパンチあるいはウォータジェトパンチなどを施すことにより絡合シートを形成する。
【0041】
この絡合シートを必要に応じて高密度化処理あるいはポリビニルアルコールなどの糊剤を付与した後、海成分を除去し、次いで、必要に応じて、高分子弾性体を付与する。
【0042】
高分子弾性体としては、例えば、ポリエステル系、ポリエステル・ポリエーテルジオール系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系ポリウレタンあるいはアクリル樹脂、硬化シリコーンゴム、アクリロニトリルブタジエンラバー、ブタジエンラバー、天然ゴム、ポリ塩化ビニール、ポリアミドなどを使用することができる。
【0043】
これらの高分子弾性体中に、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料などの着色剤、制電剤、難燃剤、柔軟剤、凝固調整剤などの添加剤を配合してもよい。
【0044】
このシートを必要に応じて半裁し(半裁:厚み方向に何枚かに切断すること。代表的には2枚。)、少なくとも半裁面の一面を起毛処理することにより、スエード調の立毛シートが得られる。
【0045】
さらに好ましい実施態様として、製品強力を高めるために、前述した複合繊維のウエッブを織物もしくは編物と積層し、ニードルパンチ、ウォータージェットパンチあるいはこれらの組み合わせにより絡合一体化する。積層方法としては、繊維ウェブの両方もしくは片面に、織物もしくは編物を積層し絡合する方法、あるいは片面に積層し絡合処理した後さらに絡合体を複数重ねて再度絡合処理し、後工程でスライス(スライス:半裁と同じ意味、繊維絡合体シートあるいは繊維ウェブと織物とが絡合一体化されたシートあるいは高分子弾性体が含浸されたシートを厚み方向に切断する)する方法などが用いられる。必要に応じて高密度化処理あるいはポリビニルアルコールなどの糊剤を付与した後、海成分を除去し、次いで高分子弾性体を付与する。このシートを必要に応じて半裁し、半裁面を起毛処理することにより高強力な立毛シートが得られる。
【0046】
そして、この立毛シート(人工皮革)に対して、平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物を極細繊維の表面に付着させるには、該平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物を含んでいる加工薬剤を、該人工皮革に含浸させて、その後、乾燥させて、必要に応じて、起毛仕上げなどを行い、該酸化ジルコニウム化合物を単位面積当たりの付着量が0.072〜10.8g/mで付着させるものである。
【0047】
上述した織物もしくは編物を構成する糸種としては、フィラメントヤーン、紡績糸、フィラメントと短繊維の混紡糸などを用いることができ、特に限定されるものではない。また、織物もしくは編物の種類としては、経編、トリコット編みで代表される緯編、レース編みおよびそれらの編み方を基本とした各種編物、あるいは平織、綾織、朱子織およびそれらの織り方を基本とした各種織物などいずれも採用することができ、特に限定されるものではない。
【0048】
糸種によっては、ニードルパンチで複合繊維と織物もしくは編物との絡合を強固にする場合、切断されやすいことがあり、これを防止する手段として、該織物または編物の構成糸の少なくとも一部に強撚糸を使用したものが、高強力を発揮するのによい。強撚糸の撚り数としては500T/m以上、4500T/m以下が好ましく、より好ましくは、1500T/m以上、最も好ましくは2000T/m以上である。500T/m未満では糸を構成する単糸どおしの絞まりが不十分であるため、ニードルに引っかかり損傷しやすく、また撚り数が多すぎても繊維が硬くなりすぎ、製品風合い柔軟化の点から好ましくなくなるので4000T/m以下がよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明のスエード調人工皮革の具体的構成、効果について説明する。なお、以下の説明において、各性能の評価は次に記載する方法によるものである。
【0050】
(1)アレルゲン抑制評価方法:
チャック付きポリ袋中に評価用の試料(スエード調立毛シート)5×5cmを投入し、さらにダニアレルゲン懸濁液2mlを滴下し、評価液とした。それをELISA法によりダニアレルゲン量を測定し、懸濁液のみのアレルゲン量と比較することによってアレルゲン抑制率を求めた。計算式を以下に示した。
アレルゲン抑制率(%)={(懸濁液のみのアレルゲン量−評価試料のアレルゲン量)/懸濁液のみのアレルゲン量}×100
【0051】
(2)難燃性能:
FMVSS 302法により求めた。
【0052】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート、海成分がポリスチレン、島/海比率=80/20重量%、島数16島、複合繊維太さ約4dtexの高分子相互配列体繊維のステープルを用い、このステープルをカード・クロスラッパーでウェブとし、ニードルパンチして目付600g/mのフェルトを作り、このフェルトを収縮処理し乾燥した。
【0053】
次いで、このフェルトにポリビニルアルコール水溶液に含浸し、乾燥した。このシートをトリクロルエチレン中に浸漬、圧搾し脱海し乾燥した。その後、ポリエステル−ポリエーテル系ポリウレタンをジメチルホルムアミドに溶解させた溶液を固形分として対島繊維当たり約35部となるように含浸し、湿式凝固し乾燥した。
【0054】
次いで、このシートをスライスし、非スライス面をサンドペーパーで起毛処理を行ない、極細繊維の束の絡合体にポリウレタンが付与されたスエード調立毛シートを得た。
【0055】
このスエード調立毛シートを、カヤロンPネービーブルーECX300を3%owf.、スミカロンブリリアントピンクSERLを2%owf.、ミケトンポリエステルイエローGSLを2%owf.と工業用酢酸を1g/l含む染色液で、120℃×30分間染色し、120℃のテンターで幅揃えと同時に乾燥した。
【0056】
次に、乾燥した染色されたスエード立毛調シートを、平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物1.2%ows.と、アクリル樹脂2.5%ows.、およびシリコン系樹脂(日華化学(株)製 ニッカシリコーンAMZ)2%ows.およびポリエステル共重合物(日華化学(株)製 デートロンN)1%ows.を含む水系混合物液に浸漬し、マングルで絞り率50%になるように絞り、120℃でテンター乾燥した。
【0057】
実施例2
実施例1で得た染色し乾燥されたスエード調立毛シートを、平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物1.2%ows.と、アクリル樹脂2.5%ows.、およびシリコン系樹脂(日華化学(株)製 ニッカシリコーンAMZ)2%ows.およびポリエステル共重合物(日華化学(株)製 デートロンN)1%ows.と難燃剤25%ows.(大京化学(株)製 SDF−PD)を含む水系混合物液に浸漬し、マングルで絞り率65%になるように絞り、120℃でテンター乾燥した。
【0058】
実施例3
実施例1で得た乾燥されたスエード調立毛シートの裏面に難燃剤(クラリアント社製 APPRETAN CF 8211)を湿潤状態で150g/mを塗布し、120℃で乾燥した。
【0059】
比較例1
実施例1で用いた水系混合物から酸化ジルコニウム化合物を除いた水系混合物を浸漬し、マングルで絞り率50%になるように絞り、120℃でテンター乾燥した。
【0060】
上述した実施例1〜3および比較例1のそれぞれのスエード調立毛シートサンプルについて、前述した方法によりアレルゲン抑制率と難燃性能を求めた。
【0061】
その結果を表1に示すが、実施例1〜3で得られたスエード調立毛シートにおいて明らかなアレルゲン抑制効果が認められ、また、難燃剤と併用した場合も高い難燃性能を維持していることから、自動車用内装材などととして好適なものである。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に0.3dtex以下の極細繊維からなるスエード調の立毛を有するスエード調人工皮革であって、平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物を含む薬剤が、該酸化ジルコニウム化合物の単位面積当たりの付着量が0.072〜10.8g/mで前記極細繊維の表面に付着していることを特徴とする抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
【請求項2】
スエード調人工皮革が、目付60〜900g/mであり、前記酸化ジルコニウム化合物の単位面積あたりの付着量が0.072〜10.8g/mであることを特徴とする請求項1記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
【請求項3】
前記薬剤が、酸化ジルコニウム化合物の他に、他の微粒子無機化合物あるいはその有機物誘導体を含んでいるものであることを特徴とする請求項1または2記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
【請求項4】
前記微粒子無機化合物が、チタン酸化物、亜鉛酸化物、銅酸化物、マグネシウム酸化物、カルシウム酸化物、鉄酸化物、コバルト酸化物、ケイ素酸化物、およびアルミニウム酸化物のうちの少なくとも一種であり、前記酸化ジルコニウム化合物と複合酸化物を形成して該スエード調人工皮革に付着していることを特徴とする請求項3記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
【請求項5】
前記薬剤が、柿渋、タンニン酸、ポリフェノール系化合物、カテキン、キチン、およびキトサンのうちの少なくとも一つが混合されてなるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
【請求項6】
前記薬剤が、粒子径が10nm未満のAg微粒子、および/またはアミノ酸系界面活性剤を含んでいるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
【請求項7】
車両用シート、あるいは室内用のシート・インテリア材などの内装資材用途に使用されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革。
【請求項8】
表面に0.3dtex以下の極細繊維からなるスエード調の立毛を有するスエード調人工皮革に、平均粒子径が10μm以下である酸化ジルコニウム化合物からなる加工薬剤を含浸させて、酸化ジルコニウム化合物を単位面積当たりの付着量が0.072〜10.8g/mで付着させることを特徴とする抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革の製造方法。
【請求項9】
前記加工薬剤が、pH7.5〜11.5のものであることを特徴とする請求項8記載の抗アレルギー性を有するスエード調人工皮革の製造方法。

【公開番号】特開2009−13543(P2009−13543A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178685(P2007−178685)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000182247)サカイオーベックス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】