説明

抗ストレス剤

【課題】ストレスに伴う諸症状を有効に予防または軽減でき、さらに安全でかつ服用や摂取が容易な抗ストレス剤、医薬品、飲食品及び香料組成物を提供する。
【解決手段】ミルセノールを有効成分として含むことを特徴とする抗ストレス剤。ミルセノールは、炭素数10個をもつ不飽和脂肪族高級アルコールであり、特にホップ由来で、GABA受容体活性化作用を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミルセノールを有効成分として用いた抗ストレス剤に関する。また、本発明は、ホップ等に含まれているミルセンが酸化されて生ずるミルセノールを成分として含み、ストレスによって生じる精神的及び身体的諸症状を予防または軽減する医薬品、飲食品または香料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度でしかも複雑に入り組み、24時間休むことなく活動する現代社会において、人は様々なタイプの物理・化学的、心理的、社会的ストレスに曝されている。特に、複雑な人間関係を構成している中で生きている現代人にとって、ストレスを構成するものとして心理的な要因が大きい。
心理的ストレスとそれが引き起こす様々な症状については、種々の研究が行われている。例えば、心理的ストレスが大脳で感知されると、広範な脳部位でノルアドレナリンの放出が亢進し、それが引き金となって不安や緊張といった精神症状を引き起こすと報告されている(非特許文献1)。ストレスが長時間持続すると、全身の諸臓器に影響を及ぼし、その結果、重篤な心身症、うつ病、胃潰瘍、高血圧症などを引き起こすこともある。
【0003】
現在、ストレスの軽減、またはストレスに起因する疾患の予防もしくは治療の目的に使用されている薬物は、主にベンゾジアゼピン系の抗不安薬と睡眠薬である。脳内GABA神経系は、GABAa受容体とGABAb受容体の二つの受容体で構成されているところ、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬と睡眠薬の作用点と考えられているGABAa受容体は、Clチャンネルを中心としてベンゾジアゼピン結合部位を持っており、更にバルビタール結合部位をも形成している。ベンゾジアゼピン結合部位およびバルビタール結合部位が刺激を受けると、GABAa受容体のGABAに対する親和性が上昇することが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
また、脳内GABA神経系を賦活するとストレス緩和作用が発現することも報告されている。ラットを寒冷拘束ストレス(4℃,2時間)に暴露すると胃潰瘍が発生する。この胃潰瘍の発生は、GABA(5,10,20,50μg)およびGABAa受容体の作動薬(agonist)のムシモール(Muscimol)(5,10μg)の脳室内投与により用量依存的に抑制されること、GABA受容体の拮抗薬(antagonist)のビククリン(bicuculine)(40μg)はGABAによるストレス潰瘍の抑制を消失させることが報告されている
(非特許文献3)。また、GABAa受容体の作動薬のムシモールや脳内GABA濃度を上昇させるアミノオキシ酢酸(aminooxy-acetic acid)(GABAデアミナーゼ(GABA deaminase)阻害薬)によりラットにおけるストレスによる運動量の増加や胃潰瘍の発生が抑制されることも報告されている (非特許文献4)。このように脳内GABA神経系は、ストレスの緩和に重要な役割をはたしている。
【0005】
ベンゾジアゼピン系の抗不安薬と睡眠薬は比較的安全性の高い薬であるが、習慣性や副作用を併せ持つことから、日常生活における一時的なストレスに対して、頻繁に服用するのは好ましくない。また、服用後その使用を中断するとリバウンドが起こり、かえって症状が悪化する場合さえあり、理想的な抗ストレス剤とは言い難い。
【0006】
このように、現代社会におけるストレス負荷の増大とストレスの与える、精神衛生上のみならず、身体的な面においても生体に及ぼす深刻な影響を考慮すると、真に有効であって、安心して取り続けることができる安全な抗ストレス剤の開発が望まれている。特に予防的見地からは、食品や嗜好品に活用できる抗ストレス剤の開発が望まれている。
【0007】
ところで、ホップは、ヨーロッパ原産の多年草クワ科植物(学名:Humulus luplus)として広く知られているものであるが、一般には、その毬果(雌花が成熟したもの)がホップと呼ばれている。ホップは、ビール造りの原料の一つであって、ビール特有の苦味や香りづけに功を奏しており、長年の間、人々に摂取されてきているものである。斯かる苦味や香りは、ホップのルプリン部分(毬果の内苞の根本に形成される黄色の顆粒)によりもたらされているものである。
ホップの効用として、鎮静効果、入眠・安眠効果、食欲増進、健胃作用、利尿作用など多くの生理的な作用効果が知られている。このうち、ホップの鎮静作用については、例えば、バレリアーナ属植物またはその抽出物、鎮静作用を有する植物またはその抽出物及びγ−アミノ酪酸を含む睡眠障害用組成物で、前記鎮静作用を有する植物がホップである睡眠障害用組成物が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、斯かる作用と関係する原因物質については、明らかにされていないことは勿論、鎮静作用が直ちに、ストレスに対する軽減効果をもたらすこととが、次元を同一とするものとして把握できるものであることが明らかになっているものでもない。
【特許文献1】特開2003−183174
【非特許文献1】田中正敏、代謝、vol.26, p122-131, 1989
【非特許文献2】D.G Nicholls, Amino Acids as Neurotransmitter, in “Proteins,Tensmitters and Synapses.” Blackwell Scientific Publication, Oxford, p. 155-185 (1994)
【非特許文献3】KP Bhargava, GP Gupta and MB Gupta, “Central GABA-ergic mechanism in stress-induced gastric ulceration”, British Journal of Pharmacology, vol.84, p.619-623 (1985)
【非特許文献4】Psychopharmacology 89:472-476 (1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ストレスに伴う身体的諸症状を有効に予防または軽減でき、さらに安全でかつ服用や摂取が容易な抗ストレス剤及び該抗ストレス剤として活性な物質を含有する組成物乃至は機能性食品を提供することを目的とする。また、本発明は、GABA受容体を活性化し、ストレスに伴う身体的諸症状を抑制または予防する抗ストレス剤を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、有効で安全な抗ストレス剤を開発すべく、種々の化合物について試行錯誤の検討を行っていたところ、酒類、特に果実酒、日本酒、焼酎またはウイスキー類の香気成分が抗ストレス作用を示すという知見を得、特許出願を行った(特願2003−171286)。更に、本発明者らは、研究を進めるなかで、ビールが精神の緊張をほぐし心の疲れをとるストレス解消剤であると言われている(インターネットホームページ:http://www.brewers.or.jp/100ka/alacarte/kennko.htm参照)ことからビールの香気成分について検討を行ったところ、その一成分であるミルセノールが抗ストレス作用を示すという思いがけない知見を得た。
本発明は、斯かる新知見に基づいてなされたものである。
【0010】
より詳しくは、本発明者らは、GABA受容体を発現させたアフリカツメガエルの卵母細胞のGABA応答に対する増強作用を指標に、抗ストレス作用を有する物質のスクリーニングを行った。その結果、本発明者らは、ビールの香気成分、特にミルセノールがGABA受容体のGABA応答を増強する作用があることを見出した。さらに、本発明者らは、マウスにGABA受容体拮抗薬であるペントバルビタールを投与した時の睡眠時間に対する延長作用を指標に、in vivoでの薬理学的検討を行い、ビールの香気成分であるミルセノールが、ペントバルビタールによって誘発される睡眠時間を著しく延長させることを見出した。上述したように、脳内GABA神経系はストレスの緩和に重要な役割をはたしていることから、ビールの香気成分ミルセノールは、脳内GABA受容体の活性化を通じてストレスを緩和する作用を有することが明らかにされた。
そのうえ、ミルセノールは、長年の間、人々に愛飲されているビールの香気成分であること、ミルセノールが食品添加物(指定添加物)として認可されていることから、安全性上の問題はなく、また、ミルセノールを含む抗ストレス剤を医薬品、飲食品または香料組成物の形態とした場合は、ノンアルコールの状況下に提供できるので、服用または摂取に際して、いかなる状況下であっても、安易且つ容易に摂取できるという利点もある。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) ミルセノールを有効成分として含むことを特徴とする抗ストレス剤、
(2) ミルセノールがホップ由来であることを特徴とする前記(1)に記載の抗ストレス剤、
(3) GABA受容体活性化作用を有することを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の抗ストレス剤、
(4) ミルセノールを有効成分として含有することを特徴とする、抗ストレス作用を有する医薬品、
(5) ミルセノールを有効成分として含有することを特徴とする、抗ストレス作用を有する飲食品、
(6) ミルセノールを有効成分として含有することを特徴とする、抗ストレス作用を有する香料組成物、および
(7) ミルセノールを摂取することを特徴とする、ストレスを軽減または緩和する方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るミルセノールを有効成分として含有する抗ストレス剤は、GABA受容体の活性化、特に脳内GABA神経系の活性化を介して、ストレスを有効に予防・軽減することができる。その結果、本発明の抗ストレス剤は、ストレスに伴う身体的諸症状を抑制、治療または予防することができる。
また、本発明に係る抗ストレス剤は、食品添加物(指定添加物)として認可されているミルセノールを有効成分として含有しているものであるから、安全性に優れ、使用に際して特別な制限がないという利点を有する。
さらに、本発明に係る抗ストレス剤は、時、所を選ばず服用または摂取しやすいという利点を有し、特に、本発明に係る抗ストレス剤をドリンク剤、ゼリー状の食品などの機能性食品の形態にした場合は、ストレスを予防及び/または軽減するために、日常的に用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、ミルセノールを有効成分として含有する抗ストレス剤を提供するものであるところ、本発明に使用されるミルセノールとは、下記式Iで示される構造をもつ脂肪族高級アルコール類の一つであって、香料化合物として、広く知られ、且つ、食品添加物として認可されている化合物である。
【化1】

【0014】
本発明に係る抗ストレス剤に含まれるミルセノールは、天然由来のものであっても、合成品であっても良い。また、食品添加物の規格を満たすものが市場から、例えば、商品名ミルセノール(大洋香料社製)等として入手できるので、これを使用することもできる。
【0015】
天然由来のものとしては、ヨーロッパ原産のクワ科多年草であるホップ(学名:Humulus luplus)由来のものがある。ホップの精油成分は250種類にも及ぶが、フムレン(Humulene)とミルセン(Myrcene)という二つの主要な化合物が大量に含まれている。ホップの精油成分は酸化しやすく、上記のミルセンは酸化されてミルセノールとなる。ホップを原料とする飲料、例えばビール、ビールテイスト飲料、ホッピ−(登録商標)等では、ホップの貯蔵中または麦汁の煮沸中に、精油成分であるミルセンが酸化されて親水性のミルセノールとなり、最終製品中に存在する。したがって、本発明に係る抗ストレス剤に含まれるミルセノールは、ビールなどのホップを原料とする最終製品である飲料の濃縮物を調製し、その濃縮物をそのまま本発明に係る抗ストレス剤に含有させることもできる。前記濃縮物の調製には、例えば、特開2003−171286に記載されるペンタン抽出など公知の方法を用いてよい。また、上記のようにして得られた濃縮物を精製して、その精製物としてのミルセノールを本発明に係る抗ストレス剤に含有させてもよい。前記濃縮物の精製には、例えばカラムクロマトグラフィー等による精製など、公知の方法を用いることができる。
また、合成品のミルセノールとしては、例えば、ケミストリーレターズ(Chemistry
Letters)157−160ページ 1986年、ケミカルインダストリー(Chem.Ind)370ページ、1976年、特開昭59−118728号公報等に記載されている方法でミルセノールを合成することができる。更にまた、市場から入手できる市販品を用いることができるが、本発明においては食品添加物の規定を満たすものを好適に使用することができ、何らの制限を受けることはない。
【0016】
本発明に係る抗ストレス剤では、ミルセノールのみが単一の有効成分として含まれていてもよいし、その他複数の成分と混合している状態で含まれていてもよい。殊に、合成品にあっては、ミルセノールの外に、シスまたトランスオシメノールを少量含んでいることもある。カラムクロマト等にかけて、精製し、純粋なミルセノールとすることもできるが、そのままで使用に供することも可能である。
【0017】
本発明に係るミルセノールを有効性分として含有する抗ストレス剤とは、ストレスを軽減または緩和し、生体内の恒常性を維持させる抗ストレス作用を有する物質、または該物質を含む組成物をいう。言い換えれば、本発明における抗ストレス剤とは、ストレスに対し生体が防御または適応しようとする反応を引き起こす物質、または該物質を含む組成物をいう。ここで、ストレスとは、通常ストレスの原因となる刺激(ストレッサー)が生体に加わった際に、精神や身体に生ずるひずみをいう。
【0018】
ストレッサーとしては、寒冷、気象変化、放射線、騒音などの物理的刺激;薬物、ビタミン不足、酸素欠乏などの化学的刺激;細菌感染など生物的刺激;痛みや発熱などの疾病、障害からくる身体的な刺激;社会や家庭における人間関係から生ずる緊張、不安、恐怖などの精神的刺激などが挙げられる。
従って、本発明に係る抗ストレス剤は、ストレスを予防し、またはストレスからの回復を促進させること等に有用であり、ストレスに起因する医学的諸症状を予防または改善もしくは治癒することができる。
【0019】
上記ストレスに起因する医学的諸症状としては、(a)動脈硬化症、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、本態性高血圧、心臓神経症、不整脈などの循環器系疾患や、(b)気管支喘息、過呼吸症候群、神経性咳嗽などの呼吸器系疾患や、(c)消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、神経性食欲不振症、神経性嘔吐症、腹部膨満症、空気嚥下などの消化器系疾患や、(d)肥満症、糖尿病、心因性多飲症、バセドウ病などの内分泌代謝系疾患や、(e)偏頭痛、筋緊張性頭痛、自律神経失調症などの神経系疾患や、(f)夜尿症、インポテンツ、過敏性膀胱などの泌尿器系疾患や、(g)慢性関節リウマチ、全身性筋痛症、脊椎過敏症などの骨筋肉系疾患などが挙げられる。
【0020】
また、さらに前記ストレスに起因する医学的諸症状としては、(h)神経性皮膚炎、円形脱毛症、多汗症、湿疹などの皮膚系疾患や、(i)メニエール症候群、咽喉頭部異物感症、難聴、耳鳴り、乗物酔い、失声吃音などの耳鼻咽喉科領域の疾患や、(j)原発性緑内症、眼精疲労、眼瞼けいれん、眼ヒステリーなどの眼科領域の疾患や、(k)月経困難症、無月経、月経異常、機能性子宮出血、更年期障害、不感症、不妊症などの産婦人科領域の疾患や、(l)起立性調節障害、再発性臍疝痛、心因性の発熱、夜驚症などの小児科領域の疾患や、(m)腸管癒着症、ダンピング症候群、頻回手術症(ポリサージャリー)、形成手術後神経症などの手術前後の状態や、(n)特発生舌痛症、ある種の口内炎、口臭症、唾液分泌異常、咬筋チェック、義歯神経症などの口腔領域の疾患や、(o)神経症、(p)うつ病なども挙げることができる。
【0021】
本発明に係る抗ストレス剤は、医薬品または機能性食品として用いることができる。本発明の抗ストレス剤を医薬品として用いる場合、かかる医薬品は経口投与または非経口投与が都合よく行われるものであればどのような剤形のものであってもよい。本発明に係る医薬品の剤形としては、例えば注射液、輸液、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、トローチ、内用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤、湿布剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤、吸入剤、軟膏剤、ローション剤、坐剤等が挙げられる。また、本発明においては、症状に応じて、上記剤形の本発明に係る医薬品をそれぞれ単独で、または組合わせて使用することができる。
【0022】
本発明に係る医薬品においては、製剤の剤形の種類に応じて主薬としてのミルセノールに、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、安定化剤、溶解剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の添加剤を添加することができる。
より具体的には、本発明に係る医薬品がカプセル剤、錠剤、散剤または顆粒剤などの固形製剤の場合には、例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニットなどの賦形剤;澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤;ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤;脂肪酸エステルなどの界面活性剤;グリセリンなどの可塑剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。また、本発明にかかる医薬品が液体製剤の場合には、例えば、ショ糖、ソルビット、果糖などの糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類;p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。また、液体製剤の場合、本発明に係る医薬品は有効成分であるミルセノールを用時溶解させる形態の製剤であってもよい。
上述したような製剤に配合されるミルセノールの割合は特に制限されないが、通常、製剤100重量部中に、0.01〜100重量部、好ましくは0.1〜50重量部の割合でミルセノールが含まれるように調製する。なお、本発明に係る医薬品は、それ自体製剤学の分野で周知または慣用の方法に従って容易に製造することができる。
【0023】
本発明に係る医薬品の投与経路は、特に限定されず、経口投与または非経口投与のいずれでもよい。中でも、本発明に係る医薬品は経口投与が可能であることが、服用の容易性の観点から好ましい。
また、本発明に係る医薬品の投与量は、投与経路、剤形、患者の症状の重篤度、年齢もしくは体重などによって異なるので、一概には言えない。したがって、1カプセル剤当たり約5〜200mg程度のミルセノールを含有する製剤を調製し、患者に合わせて、該カプセル剤を1日当たり、1〜10カプセル程度、好ましくは1〜6カプセル程度を数回に分けて投与すればよい。
【0024】
本発明の抗ストレス剤を機能性食品として用いる場合には、形態としては前述の医薬製剤の形態と同様でよい。また、前記食品は、自然流動食、半消化態栄養食もしくは成分栄養食、またはドリンク剤等の加工形態とすることもできる。さらに、本発明に係る機能性食品は、ミルセノールをアルコール飲料やミネラルウォーターに用時添加する易溶製剤としてもよい。より具体的には、ミルセノールを含有する本発明に係る機能性食品としては、例えばビスケット、クッキー、ケーキ、キャンデー、チョコレート、チューインガム、和菓子などの菓子類;パン、麺類、ごはん、豆腐もしくはその加工品、;清酒、薬用酒などの発酵食品;みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシングなどの調味料;ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ、マヨネーズなどの畜農食品;かまぼこ、揚げ天、はんぺんなどの水産食品;果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、ゼリー状飲料、アルコール飲料、茶、コーヒー、ココアなどの飲料等の形態が挙げられる。係る飲食品中のミルセノールの割合は特に制限されないが、通常、食品100重量部中に、0.0001〜100重量部、好ましくは0.01〜10重量部の割合でミルセノールが含まれるように調製する。
【0025】
また、本発明に係る機能性食品は、例えば、医師の食事箋に基づく栄養士の管理の下に、病院給食の調理の際に任意の食品に本発明の抗ストレス剤を加え、その場で調製した機能性食品の形態で患者に与えることもできる。本発明の抗ストレス剤は、液状であっても、粉末や顆粒などの固形状であってもよい。
【0026】
本発明に係る機能性食品は、食品分野で慣用の補助成分を含んでいてもよい。前記補助成分としては、たとえば乳糖、ショ糖、液糖、蜂蜜、ステアリン酸マグネシウム、オキシプロピルセルロース、各種ビタミン類、微量元素、クエン酸、リンゴ酸、香料、無機塩などが挙げられる。
【0027】
本発明に係る機能性食品は、ストレス負荷が予想される時、または例えば、肉体労働時、精神作業時もしくはスポーツをしている時などストレス負荷が予想される時に摂取してもよい。また、ストレスの予防または軽減を計るため常用してもよい。
本発明に係る機能性食品の摂取量は、摂取する人のストレスの状態、年齢、性別などによって異なるので、一概には言えないが、成人に対する1回の摂取量が、本発明のミルセノールの総量として約1〜1000mg程度、好ましくは約5〜500mg程度である。これを1日数回程度摂取するのが良好である。
【0028】
本発明に係る医薬品または機能性食品は、他の抗ストレス剤、ビタミン剤もしくはホルモン剤その他の栄養剤、または微量元素もしくは鉄化合物と併用することができる。例えば、本発明に係る機能性食品がドリンク剤の場合、所望により、他の生理活性成分、ミネラル、ホルモン、栄養成分、香味剤等を混合することにより、嗜好飲料的性格を持たせることができ、好適である。
【0029】
さらに、本発明に係る抗ストレス剤は、香気成分ミルセノールを有効成分とするので、香料組成物として好適に用いることができる。香料組成物としては、各種空間散布剤用香料組成物(例えば、インセンス、室内芳香剤、及び車内芳香剤、並びに防臭剤等)、化粧品用香料組成物(例えば、香水、コロン、シャンプー・リンス類、スキンケア、ボディシャンプー、ボディリンス、ボディパウダー類、浴剤、ローション、クリーム、石鹸、歯磨剤、エアゾール製品等)、医薬品及び医薬部外品用香料組成物(例えば、皮膚用外剤、吸入剤等)を挙げることができる。このように本発明の抗ストレス剤は様々な用途を有するが、本明細書に記載した用途に何ら限定されるものではない。
【0030】
〔実施例〕
次に実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
ビールからの抽出
市販のビール(サントリー株式会社製 商品名 「MALT’S」)150mlを50mlのペンタンで抽出した。抽出溶液をロータリーエバポレーターを使用して、減圧下にペンタンを溜去し、得られた残さに0.2mlのエタノールを加えて溶解した。
得られた溶液を毛細管でとり、市販されているミルセノール(商品名ミルセノール 大洋香料社製)と対比して、TLC展開(展開溶媒:ヘキサンとエーテルの80:20混合溶媒)したところ、ミルセノールと同一の位置にスポットを認めた。
【実施例2】
【0032】
ミルセノールのin vitroでのGABA受容体活性化作用
実験材料には、アフリカツメガエルの卵母細胞を用いた。卵母細胞に牛の脳のcDNAをもとに合成したGABA受容体mRNAを注入して、卵表面にGABA受容体を発現させた。卵母細胞は、通常のカエル用のリンゲル液(115mM NaCl, 1 mM KCl, 1.8mM CaCl2, 5 mM Tris, pH 7.2)中で保持した。GABA(0.25μM)による抑制性電位の発生は、voltageclamping amplifier(CEZ-1100;日本光電工業製)を用いたvoltage clamp法で測定した。
サンプルには、実施例1で得たビールの香気成分(添加濃度:1μl/ml)と、以下の5種類(添加濃度:0.2μl/ml)とした。使用したサンプルは、以下の通りである。ホップ精油1(大洋香料社製)(図1中、Hop oil Perleで示す)、ホップ精油2(大洋香料社製)(図1中、Hop oil Hall Magnumで示す)、ミルセノール(大洋香料社製)、ミルセン(大洋香料社製)、フムレン(α-Humulene)(大洋香料社製)。
【0033】
結果を図1に示す。指標には、サンプルのGABAによる抑制性電位に対する増強作用を用いた。結果は、GABA(0.25μM)単独添加した場合に発生する抑制性電位を100としてGABAとサンプルを併用した時の抑制性電位が何%増えるかで表した。図1から明らかなように、評価したサンプルのうち、ビールのペンタン抽出成分、ホップ精油1、ホップ精油2、ミルセノール、ミルセンが、GABA受容体のGABA応答を増強したが、特にミルセノールに前記応答を強く増強する作用があることがわかった。
【実施例3】
【0034】
用量依存性の検討
実施例2で強い活性が認められたミルセノールの用量依存性について検討した。試験方法は、実施例2と全く同様である。GABA濃度は0.25μM、サンプル濃度は0.01〜0.2μl/mlとした。その結果を図2に示す。図2から明らかなように、ミルセノールは最大290%、GABA受容体のGABA応答を増強した。なお、図2に示した結果は、GABA(0.25μM)単独添加の場合した場合に発生する抑制性電位を100としたとき、これに対して、GABAとミルセノールを併用した時の抑制性電位が何%であるかで表した。
【実施例4】
【0035】
ミルセノールのペントバルビタール誘発睡眠に対する増強作用
試験動物はddy系雄性マウス(8週齢)を清水実験材料株式会社より購入し、1週間の予備飼育の後、実験に用いた。飼育条件が、室温23±2℃、湿度55±5%、喚気回数12〜15回/時間(オールフレッシュ方式)、照明時間(12時間/日、午前7時点灯、午後7時消灯)に設定された飼育室でポリイソペンテンケージ(日本クレア株式会社製)に5匹ずつ飼育した。飼料は固形飼料CE−2(日本クレア株式会社)を用い、飲料水は自由に摂取させた。
マウスに対し、オリーブ油に溶解したミルセノール(大洋香料社製)が50mg/kg、100mg/kgおよび150mg/kgとなるように経口投与した。なお、それぞれの群には5匹ずつのマウスを用いた、30分後に生理食塩水に溶解したペントバルビタールをその投与量が50mg/kgとなるように腹腔内投与し、睡眠時間を測定した。睡眠時間は、正向反射の消失から回復までの時間とした。
その結果を図3に示す、図3に示した実験結果は平均値±標準誤差で表示されている。図3から明らかなように、ミルセノールは用量依存的にペントバルビタールによる睡眠時間を延長させた。
【0036】
〔製剤例1〕
カプセル剤
a.処方(500mgあたり)
ミルセノール 5mg
乳糖 493mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
b.製法
上記処方に従って、ミルセノールと乳糖を混合し、打錠後粉砕したものに処方量のステアリン酸マグネシウムを混合した。混合物を500mgづつ2号カプセルに充填して、1カプセル中に5mgのミルセノールを含有するカプセル剤を製造した。
【0037】
〔製剤例2〕
ドリンク剤
a.処方
ミルセノール 5g
DL−酒石酸ナトリウム 0.1g
コハク酸 9mg
液糖 800g
クエン酸 12g
ビタミンC 10g
香料 12ml
塩化カリウム 1g
硫酸マグネシウム 0.5g
b.製法
処方に従って上記の成分を蒸留水8Lに溶解し、蒸留水を加えて全量10Lとした後、0.22μmの除菌フィルターを通過させ、100mlづつ褐色びんに無菌充填して、1剤あたり50mgのミルセノールを含有するドリンク剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の抗ストレス剤は、ストレスの軽減に役立つと共に、ストレスに伴う諸症状を予防または治癒することができ、医薬品、機能性食品あるいは香料組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ビールからのペンタン抽出物、ミルセノール、及びホップに含まれる各種香気成分のアフリカツメガエルの卵細胞を用いたGABA受容体活性化作用を示すグラフである。
【図2】ミルセノールのGABA受容体活性化作用の用量依存性を示すグラフである。
【図3】ミルセノールをマウスに経口投与した場合のペントバルビタールによる睡眠時間に及ぼす影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミルセノールを有効成分として含むことを特徴とする抗ストレス剤。
【請求項2】
ミルセノールがホップ由来であることを特徴とする請求項1に記載の抗ストレス剤。
【請求項3】
GABA受容体活性化作用を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の抗ストレス剤。
【請求項4】
ミルセノールを有効成分として含有することを特徴とする、抗ストレス作用を有する医薬品。
【請求項5】
ミルセノールを有効成分として含有することを特徴とする、抗ストレス作用を有する飲食品。
【請求項6】
ミルセノールを有効成分として含有することを特徴とする、抗ストレス作用を有する香料組成物。
【請求項7】
ミルセノールを摂取することを特徴とする、ストレスを軽減または緩和する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−213628(P2006−213628A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27057(P2005−27057)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】