説明

抗体ライブラリーを作製およびスクリーニングするための新規な方法

本発明は、抗体を産生することができる細胞のRNAから少なくとも1つの抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNA配列を作製するための方法に関する。より詳しくは、本発明は、モノクローナル抗体ライブラリーの作製に関する。本発明はまた、癌を処置するためのモノクローナル抗体、好ましくはヒト抗体をスクリーニングするための抗体ライブラリーの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、他のヒト抗体の中でもモノクローナル抗体の分野に関する。より詳しくは、本発明は、好ましくは、抗体を発現し得る細胞由来の全RNAまたはメッセンジャーRNAから、少なくとも1つの抗体の重鎖および/または軽鎖をコードするDNA配列を作製するための新規な方法に向けられている。本発明はまた、先の方法の工程を適用し、抗体、好ましくはヒト抗体のバンクまたはライブラリーを作製するための方法も含んでなる。
【0002】
「バンク」または「ライブラリー」という表現は、本明細書において違いなく用いられ、これらの表現は双方とも同じ意味を有する。
【0003】
従来、モノクローナル抗体またはそのフラグメントは、Kohler and Milstein (Kohler and Milstein, 1975, Nature 256, 495)により記載されているハイブリドーマの標準的技術を用いることによって作製され、それにより得られた抗体を次にヒト化されてきた。
【0004】
もっと最近では、ヒトモノクローナル抗体を作製および発現させるために、天然機構の理解とDNA組換え技術の開発に基づいた新規な方法が開発された。特に、抗体のコンビナトリアルライブラリーまたはバンクを得ることを目的とする技術は多くの開発の課題となっている。このような技術は、より迅速であり、ヒト化工程なしで行えるということに加え、抗体そのものおよび抗体リストの変異性のより有効な使用を提供する。
【0005】
抗体は、分子の柔軟性を提供する多様な数のジスルフィド橋により互いに連結された2本の重鎖(重鎖としてのH)と2本の軽鎖(軽鎖としてのL)の4本のポリペプチド鎖で形成された免疫グロブリンのスーパーファミリーの糖タンパク質である。これらの鎖はY型の構造を形成し、アミノ酸約110個の免疫グロブリンドメインからなる。各軽鎖は定常領域と可変領域からなり、重鎖は可変領域とイソ型によって3つまたは4つの定常領域からなる。
【0006】
ある抗体に関して、2本の重鎖は同一であり、同じことが2本の軽鎖についても当てはまる。
【0007】
定常領域は、ある抗体から他の抗体まで極めて密接に関連するアミノ酸配列を特徴とし、その種およびイソ型に特徴的である。各軽鎖はCとして示されるその典型例を有する。重鎖はイソ型によって3つまたは4つの定常領域C1、C2、C3およびC4を含む。
【0008】
抗体は2本の「腕」の末端に位置する4つの可変領域を有する。重鎖(V)が持つ可変領域と軽鎖(V)が持つ隣接可変領域の間の会合は、その抗原の認識部位(またはパラトープ)を形成する。従って、免疫グロブリン分子は各末端に1つずつ、抗原と結合するための2つの部位を有する。これらの両部位は同一であるので、1つの抗体につき2つの抗原分子が結合する可能性がある。
【0009】
重鎖では、可変領域Vは、3種類のセグメント、すなわち、変動性セグメント(vセグメントまたは遺伝子)、多様性セグメント(dセグメントまたは遺伝子)および接合セグメント(jセグメントまたは遺伝子)を含む遺伝子によりコードされる。軽鎖Vの可変領域をコードする遺伝子も遺伝子vと遺伝子jを有するが、遺伝子dは有さない。
【0010】
まず、ナイーブな免疫レパートリーは、可変領域をコードする種々の遺伝子のコンビナトリアルな再編成に由来する。より詳しくは、重鎖の遺伝子v、d、jと軽鎖の遺伝子v、jは互いに独立に会合可能であり、このことは生成され得る可変領域の大きな多様性を説明する。構造の異なる極めて多数の機能的単位が生じ得るこの第一の機構はコンビナトリアルダイバーシティー(combinatorial diversity)と呼ばれる。
【0011】
他の2つの機構がこの多様性を高め、1つはBリンパ球の分化の最初の段階で起こり(ジャンクショナルダイバーシティー(junctional diversity))、もう1つは抗原刺激により誘発される免疫応答中に起こる(体細胞超変異(somatic hypermutation))。
【0012】
ジャンクショナルダイバーシティーは、重鎖では遺伝子v−dおよびd−j、軽鎖ではv−jの間の接合部におけるコンビナトリアルな再編成の際の突然変異の出現に基づく。
【0013】
抗体の親和性の成熟は、VおよびV領域をコードする領域においてもっぱら生じる点様突然変異からなり、パラトープの構造変化の起源となり得る体細胞超変異を選択するプロセスによって起こる。
【0014】
従って、多様性は記載した3つの要素、すなわち、コンビナトリアルダイバーシティー、ジャンクショナルダイバーシティーおよび体細胞超変異に基づく。
【0015】
これらの要素を用いて始め、ヒト抗体の大きな多様性を迅速に生じさせることができるように種々の技術が開発され、特に、技術的にハイブリドーマを得るのが困難なヒト抗体の場合に注目されることが分かった。
【0016】
より詳しくは、いわゆる「ファージディスプレー」技術(Smith, 1985, Science, 228:1315; Scott & Smith, 1990 Science, 249:386; McCafferty, 1990, Nature, 348:552)の出現が、in vitroでライブラリーから、多様な標的、または抗原に対して向けられた抗体またはヒト抗体のフラグメントを選択できる可能性を与えた。これらのライブラリーは2つの群、すなわち、天然ライブラリーと合成ライブラリーに分けられる。
【0017】
天然ライブラリーはヒトB細胞から直接回収された遺伝子から、従って、コンビナトリアルダイバーシティー、ジャンクショナルダイバーシティーおよび体細胞超変異を保証する種々の機構の後に構築される。よって、このようなライブラリーを用いれば、多様な抗体を天然に作製することができる。
【0018】
さらに、これらの天然ライブラリーは、確立され、実証された技術を用いるという利点を有し、細菌、酵母、真核細胞または植物などの種々の発現系との適合が可能である。
【0019】
しかしながら、これらのライブラリーの作製は扱いにくく、適用が困難であり、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)工程に頼る必要がある。このPCR工程の適用では、既知の生殖細胞系からこのPCRに必要なプライマーを定義するために、5’および3’領域の個々の配列を知っておく必要がある。もしこの点が遺伝子c(すなわち、抗体の定常領域をコードする)に位置する3’末端に関して特に厄介でなければ、それは、それに対して遺伝子v、すなわち変動性遺伝子の末端に位置する5’末端に関して限定する。遺伝子vの5’領域に関して必要とされるこの知見は、本質的に、選択可能なプライマーをこれまでに知られている生殖細胞系由来のプライマーに限定し、従って、既知の遺伝子v配列に限定する。これは、回収され得る抗体をそれらの可変領域の5’領域に既知の配列を有する抗体に限定し、従って、遺伝子vの5’末端の配列が知られていない他の総ての抗体を排除するという結果となる。さらに、クローニングおよび/または増幅を容易にするために可変領域のアミノ酸を改変する必要もあり得る。
【0020】
遺伝子vの5’末端に関して必要な知見から来るもう1つの欠点が、この末端で体細胞超変異が生じた抗体を見過ごすというリスクである。
【0021】
最後に、PCR技術のために、遺伝子vの5’末端が、用いるプライマーと極めて強い親和性を有する抗体だけが、親和性の低いものが保持されずに、優先物として回収される。
【0022】
それらに関する合成ライブラリーは、種々の非再編成遺伝子から構築される。それらの再編成はin vitroにおいてPCRにより行われ、次に、特異性および親和性に関して最良の抗体を得るために種々のin vivo成熟機構が適用され得る。
【0023】
合成ライブラリーに頼れば、得られる抗体の多様性を増し、かつ、これらの種々の発現系との適合を保持することができる。しかしながら、それでもやはり、それらを作製するのに必要な作業には時間と労力がかかり、多くの欠点が残るのはそのままである。実際、合成ライブラリーを作製するには、PCR工程が常に必須である。PCRに使用に関連する上述の欠点に加え、この工程はサイズの大きな縮重プライマーの使用を必要とし、これはしばしば組み立てられたv、d、j遺伝子内の塩基対の欠失、付加および改変を導入し、これがまた、それらを適切に折りたたむことができない抗体の形成をもたらし、機能的でなくなく場合がある。さらに、これらのライブラリーから選択された抗体は一般に発現が弱く、多くの場合、抗体の免疫原性に影響を及ぼし得る突然変異を含む。
【0024】
さらに、合成ライブラリーの作製では、体細胞超変異のジャンクショナルダイバーシティーを保証する接合領域における突然変異を考慮に入れることができない。従って、多様性の大きな損失がある。
【0025】
本発明は、重鎖および/または軽鎖をコードするDNA配列を作製するため、最も詳しくは、広い多様性を有する抗体のライブラリーを作製するための簡単な方法を初めて記載することにより、上記に挙げた欠点をまとめて克服することをねらいとする。よって、本発明の目的は、その利点を有するだけでなく、合成ライブラリーの利点も有し、それとともにこれら2つの技術それぞれの個々の欠点を排除しつつ、抗体の重鎖および/または軽鎖の天然ライブラリーを作製する方法である。
【0026】
より詳しくは、本発明は、PCR増幅工程を用いずに行うことによりこれまでに知られているどの技術とも異なり、従って、このPCR工程に関連する上記のどの欠点とも異なる。最も詳しくは、本発明の目的である技術は、もはや、抗体の可変ドメインの遺伝子vの5’末端の配列が既知である必要はない。本発明は、増幅工程が一本鎖DNA配列に対して行われるという点で先行技術と異なる。実際、標準的なPCR増幅工程、すなわち、二本鎖DNA分子に対するものに限定される当業者の先入観および技術の現状の一体とは異なり、本発明は、単一の一次プライマーから、また、この一次プライマーから得られた一本鎖cDNA配列から抗体バンクを作製する方法を初めて記載する。
【0027】
第一の態様によれば、本特許出願の目的は、抗体、または少なくとも抗体の重鎖および/もしくは軽鎖をコードするRNAを発現し得る細胞由来のRNAの抽出物または混合物から、少なくとも1つの抗体の重鎖および/または軽鎖をコードするDNA配列を作製する方法に向けられ、該方法は少なくとも以下の工程:
a)一次プライマー(I)を、抗体の重鎖または軽鎖をコードする少なくとも1つのRNA(ここでは「センス」RNAと表す)を含むべき該RNA抽出物または混合物と接触させる工程(この一次プライマーは該「センス」RNAの配列のフラグメントと特異的にハイブリダイズすることができ、該抗体の重鎖および/または軽鎖の定常領域Cをコードする配列に含まれる);
b)該一次プライマー(I)から、「アンチセンス」cDNAと表される一本鎖cDNAを合成する工程;
c)必要に応じて、工程a)でハイブリダイズされなかった一次プライマー(I)を除去する工程;
d)該「アンチセンス」cDNAを、その5’末端とその3’末端の間に共有結合を導入することによってアニーリングする工程;
e)「センス」二次プライマーと表される二次プライマー(II)を、工程d)で得られた「アンチセンス」環状cDNAと接触させる工程(この「センス」二次プライマー(II)は該「アンチセンス」環状cDNAとハイブリダイズすることができる);
f)該二次プライマー(II)から該「アンチセンス」cDNAを増幅させる工程;および
g)それにより増幅された「センス」相補的DNA直鎖を回収する工程
を含む。
【0028】
PCR工程に頼るのであれば、そこに相補的プライマーをハイブリダイズさせ、それにより二本鎖分子の従来技術による増幅を開始させることができるには、増幅されるべき遺伝子の5’末端および3’末端それぞれの配列を知っておく必要がある。
【0029】
本発明の実際の原理は、アニーリングされた一本鎖DNA配列を適切な酵素で増幅させることができることに基づく。従って、当業者には、増幅されるべき配列の3’末端の1つの相補的プライマーだけが必要とされることが明らかであろう。そして、より詳しくは、抗体をコードする配列を作製するという範囲内で、本発明に従う増幅には、定常領域に相当する配列の全部または一部の相補的プライマーだけが必要となる。この場合、そのプライマーを一本鎖DNA分子、すなわち、「センス」RNA分子に結合させれば、一本鎖配列を増幅させることができる好適な酵素を用いてこれを増幅するに十分である。
【0030】
当業者ならば、前記が可変領域に相当する「センス」RNA配列の全体的増幅を可能とし、その5’末端である限り、すなわち、必要であれば、シグナルペプチドならびに5’−UTR領域に相当する配列を含むという点で、本発明の目的である本発明によりもたらされる利点を容易に理解するであろう。
【0031】
この技術によって単離された抗体は、次に、真核生物発現系においてこのような抗体を発現させるのに最適な、その元のシグナルペプチドとともに直接クローニングすることができるという点で、この態様は特に有利である。実際、元のシグナルペプチドが存在しなければ、発現ベクターにおける抗体のクローニングは、非天然シグナルペプチドの付加が必要となり、常に抗体の遺伝子の5’末端の配列を知っておく必要があり、このような抗体の核酸配列および/またはタンパク質配列の改変の導入の可能性がある。さらに、このような方法を用いれば、上記の欠点を総て排除すること可能性である。
【0032】
上記の各工程は、この工程に求められる必須の結果が、やはり本発明の目的から、また、この方法の保護の所望の範囲から逸脱することなく得ることができる等価の工程で置き換えてよいことは明らかである。明瞭にするために、ここで、本特許出願の全体において、「センス」および「アンチセンス」という表現は、当業者にとって標準的な方法での参照体系として、最初のRNA分子、すなわち、抗体の重鎖または軽鎖をコードするRNA分子の5’3’方向を持つことを明記する。
【0033】
よって、論理的に、一次プライマー(I)とこのプライマーから作製されたcDNA分子は、両者とも該RNAに相補的であり、これにより「アンチセンス」という表現により特徴付けられる。同様に、二次プライマー(II)ならびにこのプライマーから作製された直鎖DNA分子は、両者とも作製されたcDNAに相補的であり、従って、最初のRNA配列のような配向を持ち、「センス」という表現により特徴付けられる。最後に、同様に、三次プライマー(III)およびこの三次プライマーから作製された相補的DNA配列は、それらに関して、「アンチセンス」という表現により特徴付けられる。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、RNAの抽出物または混合物が由来する細胞は哺乳類細胞、好ましくは、マウス、ラットまたは霊長類のものであり、ヒト起源が最も好ましい。
【0035】
好ましい実施形態では、RNA抽出物または混合物は、全RNAの抽出物または混合物、メッセンジャーおよび/またはプレメッセンジャーRNAが富化されたRNAの抽出物または混合物である。
【0036】
第二の実施形態によれば、本発明の目的である該方法は、天然細胞、健常細胞、または病的組織もしくは器官、とりわけ腫瘍由来の細胞に直接適用可能であり、これらの細胞は抗体の重鎖または軽鎖をコードするRNAを発現することができる。本発明の目的である該方法はまた、健常細胞または病的細胞由来の細胞系統の細胞にも適用可能である。
【0037】
また、本発明の好ましい実施形態によれば、RNAの抽出物または混合物は脾細胞、結節またはBリンパ球に起源する。
【0038】
好ましくは、RNA混合物の抽出物が由来する細胞はBリンパ球またはその前駆体の1つまたは形質細胞である。好ましくは、これらの細胞はプロ−B前駆細胞(すでにB細胞系に約束された幹細胞)、プレ−B前駆細胞、未熟Bリンパ球、免疫適格成熟Bリンパ球または形質細胞から選択される(これらの細胞の特徴に関しては、とりわけ、ImmunoGeneticsサイト<<http://imgt.cines.fr/textes/IMGTeducatio n/Tutorials/IGandBcells/_FR/Differenciation B/>>でProfessors Marie-Paule LEFRANC and Gerard LEFRANC, Universite Montpellier II and Laboratoire d'ImmunoGenetique Moleculaire, LIGMによる刊行物「Differenciation des lymphocytes B」に示されている定義を参照)。
【0039】
本発明の極めて好ましい実施形態によれば、RNA抽出物または混合物はBリンパ球に由来する。
【0040】
特定の実施形態によれば、RNAが起源する細胞は細胞系統由来の細胞、健常な哺乳類または予め治療有効成分、とりわけ、免疫原またはワクチン(後者は抗感染性または抗腫瘍性ワクチンであり得る)としての抗原で処置された哺乳類からの単離細胞である。これらの細胞の中で、癌に罹患している、またはさらに病原性ウイルスに感染している患者からの細胞を挙げることもできる。
【0041】
よって、本発明の利点は、多様な細胞材料で始めて実施できるという可能性が得られることである。
【0042】
例えば、本発明の別の実施形態によれば、例えば、一方が脾臓由来のBリンパ球ともう一方が骨髄腫細胞の間の融合から得られるハイブリドーマなどの形質転換細胞で始めて実施することが望ましい場合がある。
【0043】
この適用では、本発明に従う方法の利益の1つは、PCR増幅を用いずに、従って、抗体の5’末端の配列を知ることなく、該ハイブリドーマにより発現されたモノクローナル抗体の天然配列を得ることができるということである。得られた配列はまた、該抗体の天然シグナルペプチド、および5’UTR領域をコードする配列も含んでなる。この基礎において、この抗体は当業者に公知の標準的な手段によってクローニングしてもよいし、あるいはまた、該抗体に相当する遺伝子を、PCR工程の必要なく、完全に合成してもよい。
【0044】
よって、本発明に従う方法の特定の実施形態では、抗体を発現し得る細胞はハイブリドーマにおいてである。
【0045】
特定の好ましい実施形態によれば、RNAおよび一次プライマー(I)からの工程b)におけるcDNAの合成は、とりわけ、逆転写酵素とヌクレオチド混合物(dNTP)の存在下でプライマーからcDNAの合成を得るために当業者に周知のいずれかの技術で行われる。
【0046】
前記cDNAの合成に用いられる一次プライマー(I)は、その5’末端に、工程b)で合成されたcDNAの3’末端に共有結合により結合できる基を含んでなり、それによりこのcDNAのアニーリングが起こり、この基は一次プライマー(I)の合成の際に導入することができる。これらの基の中でもPO基が好ましく、この基は、DNAリガーゼの存在下で、前記の合成cDNAの3’OH末端とホスホジエステル型の共有結合を形成することができる。
【0047】
特定の実施形態では、アニーリング工程d)の前に、反応媒体中にハイブリダイズしていない一次プライマー(I)の残存物が確実に残っていないようにすることが好ましく、これは該プライマー(I)のアニーリングを避け、そして、抗体のアニーリングしたcDNAよりもアニーリングしたプライマー(I)の増幅が起こらないようにするためである。
【0048】
これを行うため、限定されない例として、サイズフィルタリングによるか、またはcDNAの精製製品を用いるか(100塩基対(bp)未満の材料を排除することが分かっている)、またはさらにアガロースゲルでの分離を用いた精製による、cDNA合成後の反応媒体の洗浄などのいくつかの解決法が意図される。もう1つの代替法によれば、用いる一次プライマー(I)の量は飽和量を下回るように至適化され、この構成では工程c)は必要とされない。
【0049】
本発明のもう1つの好ましい実施形態によれば、該一次プライマー(I)は、定常領域Cに相当する「センス」RNA配列の5’末端に位置するか、または隣接する配列に特異的である。
【0050】
本発明のこの態様は、抗体の重鎖または軽鎖の定常領域をコードする配列の少なくとも一部を特異的に認識するプライマーからの抗体のアニーリングしたcDNAの合成、その後の特異的増幅を可能とするという意味で有利である。
【0051】
特定の好ましい実施形態では、該cDNAの合成に用いる一次プライマー(I)は、その5’末端に、工程b)で合成されたcDNAの3’末端に共有結合により結合することができる基を含んでなり、それによりこのcDNAのアニーリングが起こり、この基は一次プライマー(I)の合成の際に導入される。これらの基の中でもPO基が好ましく、この基はDNAリガーゼの存在下で合成されたcDNAの3’OH末端とホスホジエステル型の共有結合を形成することができる。
【0052】
cDNA配列がアニーリングされる場合、当業者ならば、二次プライマー(II)が特異的であってもなくてもよく、これは「ローリングサークル」で増幅し、このcDNA配列全体が増幅されることを理解することができる。本発明の実施形態によれば、ランダムプライマーが使用可能である。
【0053】
本発明の好ましい実施形態によれば、該二次プライマー(II)は該「アンチセンス」cDNA配列の5’末端と、定常領域Cに相当する該「アンチセンス」cDNAの配列の3’末端の間に含まれる配列に特異的である。
【0054】
いっそうより好ましくは、該二次プライマー(II)は、「アンチセンス」cDNA配列の5’末端に位置するか、または隣接する配列と特異的である。
【0055】
これは図面から明らかとなるが、「アンチセンス」cDNA配列の5’末端はまた、一次プライマー(I)の5’末端に相当し、該「アンチセンス」cDNAの配列は、当然のことながら、一次プライマー(I)により開始される。
【0056】
本発明の可能性のある実施形態によれば、本発明の方法の工程e)で適用される該二次プライマー(II)は、一次プライマー(I)をコードする配列の全体とハイブリダイズすることができる「アンチセンス」プライマーからなる。別の可能性のある実施形態によれば、この二次プライマー(II)は一次プライマー(I)の大きさよりも小さく、一次プライマー(I)をコードする配列内でハイブリダイズする。
【0057】
より詳しくは、本発明は、該一次(I)プライマーおよび二次(II)プライマーがそれぞれ10〜100ヌクレオチドの間の長さを有する一本鎖DNA配列からなることを特徴とする方法を目的とする。
【0058】
いっそうより好ましくは、本発明による方法は、該一次(I)プライマーおよび二次(II)プライマーがそれぞれ、一次プライマー(I)については20〜60ヌクレオチドの間、そして二次プライマー(II)については10〜30ヌクレオチドの間の長さを有する一本鎖DNA配列からなることを特徴とする。
【0059】
従来、「アンチセンス」cDNA鎖の合成は、遊離ヌクレオチドと、限定されない例として、逆転写酵素スーパースクリプトIII、またはさらには鳥類骨髄芽球症ウイルスまたはモロニーネズミ白血病ウイルス逆転写酵素などの逆転写酵素型の酵素を加えることにより行われる。
【0060】
好ましくは、本発明による方法は、一次プライマー(I)のハイブリダイゼーション工程a)の前にRNA変性のための工程を含んでなる。
【0061】
回収されたRNAの変性は従来、当業者に公知のいずれの方法によって達成してもよい。限定されない例として、反応混合物を65℃以上に加熱することが挙げられ、これはRNAの二次構造を変性させる。変性冷却の際に反応混合物中に一次プライマー(I)が存在すると、一次プライマーと、高い特異性を有する該RNA中のその相補的配列とのハイブリダイゼーションが可能となる。さらに、例えばT4遺伝子32補因子などのタンパク質補因子を添加してもよい。これにより、cDNAの非特異的合成の軽減が可能となる(This allows i.a. reduction of non-specific synthesis of cDNA.)。
【0062】
本発明に従う方法の鍵となる工程の1つは、「アンチセンス」cDNAのアニーリングにある。この工程は当業者に公知のいずれの技術によって行ってもよい。実際、増幅のために従来のPCR工程を排除できるということは、一本鎖形態で増幅されるcDNA分子がアニーリングされるという事実に大部分基づいている。このDNAのアニーリング原理はそれ自体が新規なものでなければ、本発明の範囲内でのその適用、すなわち、抗体の重鎖および/または軽鎖をコードする配列の作製は新規であり、これまでに記載されていない。
【0063】
このアニーリング工程は、それが同じモノカテナリー(一本鎖)DNAの5’末端と3’末端の共有結合による結合を可能とする限り、当業者に公知のいずれの技術を用いて行ってもよい。
【0064】
好ましくは、該アニーリング工程は、「ssDNAリガーゼ」型のリガーゼ(「ssDNA」は「一本鎖DNA」をさす)との接触により行われる。
【0065】
一実施形態によれば、リガーゼはCircLigase(商標)(Epicentre, Madison, WI, USA)またはssDNAサーモファージまたはいずれかの等価の酵素から選択される。
【0066】
しかしながら、本発明に従う好ましい実施形態によれば、このリガーゼはCircLigase(商標)または等価の酵素からなる。
【0067】
さらに詳しくは、当業者ならば、以下の刊行物(Polidoros, A.N. et al., Biotechniques 41(1), 35 (2006))を参照することができる。
【0068】
好ましくは、用いるリガーゼは、cDNAの3’OH末端と5’PO末端の間に共有結合を導入する。これを行うために、該cDNAの合成に用いる一次プライマー(I)の合成の際にその5’末端に予めPO4基が導入された。当然のことながら、同じ機能をもたらし得る、すなわち、cDNA分子の5’末端と3’末端の間の共有結合を可能とする他のいずれの基も使用可能である。
【0069】
このアプローチによって単離された抗体のクローニングを容易にするため、この一次プライマー(I)は定常部分の配列内に天然の制限部位を含んでもよく、あるいはこの工程を容易にするためにそれに特異的に付加された非天然配列を含んでもよい。アダプターとしてのこの付加配列は発現ベクターにおいてクローニングを容易にすることができる。このアダプターは好ましくは、発現ベクター内に存在する制限部位に適合した1以上の制限部位を含んでもよい。第二の例は、部位特異的レコンビナーゼ型の酵素により認識される2つのDNA配列を、単量体を作出するためにそれらの間の制限部位とともに含んでなるアダプターからなり得る。限定されない例としての該部位特異的レコンビナーゼは、λファージ部位特異的レコンビナーゼまたはP1バクテリオファージCreレコンビナーゼであり得る。このアダプターはまた、「リガーゼ依存的クローニング」に適合した各部位の配列を有する単量体を作製するための制限部位を含んでなるDNA配列を含んでなってもよい。
【0070】
本発明の目的である方法のもう1つの重要な工程は、厳密に言えば、環状「アンチセンス」cDNA分子の増幅工程にある。上述のように、この工程は、二次プライマー(II)の最初の段階における、該「アンチセンス」cDNAの配列の5’末端と同じ「アンチセンス」cDNAの定常領域Cに相当する配列の3’末端の間のハイブリダイゼーションにより開始される。
【0071】
この二次プライマーは当業者に公知の方法に従って選択され、1以上の免疫グロブリンイソ型の定常部分をコードするcDNA配列との相補性、および定常部分の5’末端と一次プライマー(I)がハイブリダイズした末端の間に含まれるのが望ましいことが分かっている。
【0072】
このcDNA分子を増幅させるために、増幅工程f)が、一本鎖環状DNA配列を増幅させることができる酵素とともに適用される。
【0073】
より詳しくは、該酵素は好ましくは、BSE DNAポリメラーゼラージフラグメント、バクテリオファージφ29の「ローリングサイクルポリメラーゼ」または一本鎖環状DNA配列を増幅させることができるいずれかの等価の酵素からなる。
【0074】
第一の適用では、当業者に公知の従来のアプローチを用い、数コピーの抗体からなる増幅された一本鎖DNAの直接配列決定が意図される。このアプローチによって得られる配列は5’−UTR領域、シグナルペプチド、および該抗体の可変部分をコードする配列を含んでなり、その抗体をコードする配列の5’末端について予め知っておく必要はない。
【0075】
一実施形態によれば、本発明による方法は、工程g)で回収された「センス」直鎖DNAを配列決定する工程をさらに含んでなる。
【0076】
この態様は、例えばとりわけ「アンチセンス」cDNAがハイブリドーマから回収されたRNAから得られた場合に注目される。
【0077】
第二の適用では、本発明の目的である方法は、好ましくは、マウス、ラットまたは霊長類(ヒト起源が好ましい)などの哺乳類の抗体の重鎖または軽鎖抗体鎖をコードするDNAのバンクを作製するための方法において適用可能である。
【0078】
より詳しくは、この場合、本発明の目的は、重鎖または軽鎖抗体鎖をコードするDNAのバンクを作製するための方法であって、該方法は上記のような方法を適用することからなり、さらに以下の工程:
h)「アンチセンス」三次プライマーと呼ばれる三次プライマー(III)を、工程g)で得られた「センス」直鎖DNAと接触させる工程(この「アンチセンス」三次プライマー(III)は該DNA直鎖の3’末端と5’末端の間に含まれる直鎖DNAの配列のフラグメントと特異的にハイブリダイズすることができ、定常領域Cをコードするこの直鎖DNAの配列に相当する)
i)該三次プライマー(III)から、相補的「アンチセンス」DNA鎖の合成によりコンカテマーを作製する工程、および
j)それにより得られた二本鎖DNAコンカテマーを予め作製したベクター内にクローニングする工程
を含んでなる。
【0079】
このような方法を用いれば、例えば、それにより得られ、クローニングされたコンカテマーライブラリーから、これらのコンカテマーの単量体で表される重鎖または軽鎖を配列決定することができる。
【0080】
本発明の目的に含まれるこのような方法では、コンカテマーまたは該コンカテマーの少なくとも1つの単量体を配列決定するための工程は工程j)の終了時に適用される。
【0081】
「コンカテマー」とは、直鎖多量体を形成する同じ繰り返しの単量体からなるDNA分子と理解することができる。
【0082】
より詳しくは、好ましい実施形態によれば、該三次プライマー(III)は、定常領域Cに相当する「センス」直鎖DNAの配列の5’末端に位置するか、または隣接する配列に特異的である。
【0083】
この態様は、一本鎖コンカテマーと相補的な二本鎖を合成することができ、そして、樹状増幅を開始させるという利点を有する。
【0084】
一次および二次プライマーについては、該三次プライマー(III)は、10〜100ヌクレオチドの間の長さを有する一本鎖DNA配列からなる。三次プライマー(III)については、15〜60、15〜50、15〜40、15〜35、そして15〜30ヌクレオチドの間の長さがいっそうより好ましい。
【0085】
好ましい実施形態では、本発明の目的は、本発明による重鎖または軽鎖抗体鎖をコードするDNAのバンクを作製するための方法であり、該方法は、クローニング工程j)の前に、用いるプライマーに相当する配列において、得られたコンカテマーをセグメント化する工程を含んでなり、この工程の後に、それにより得られた二本鎖DNAセグメントを予め作製されたベクター内にクローニングするための工程j)を行うことを特徴とする。
【0086】
重鎖または軽鎖抗体鎖の単量体をコードするDNAのバンクを作製するためのこの方法では、一次プライマー(I)が制限部位を含んでなること、そして、それにより得られたコンカテマーがこの一次プライマーの配列においてセグメント化されるのが好ましい。
【0087】
この制限部位の存在は、工程j)の前にコンカテマーをセグメント化するために用いる手段の1つである。二本鎖コンカテマーを形成する相補鎖の作製の実際の特性のために、この制限部位は該コンカテマーを形成する2本の鎖上に見られる。第一の実施形態によれば、一次プライマー(I)は、少なくとも1つの制限部位を天然に含んでなるように選択することができる。一例として、軽鎖κの定常部分に存在するHpa 1および/またはHinc IIまたはさらにはλ鎖ではBgl IIが挙げられる。
【0088】
第二の実施形態によれば、一次プライマー(I)は、制限部位を含むように若干改変することができる。例えば、制限部位を人工的に作出し、しかしながら所望のセンスRNAドメインと特異的にハイブリダイズするその能力を失わないように、1つまたは2つの残基を変異させることができる。
【0089】
最後に、第三の実施形態によれば、制限部位をコードする配列を一次プライマー(I)内に挿入することができ、これは所望のセンスRNAドメインと特異的にハイブリダイズするその能力をプライマーに保持させることによる。
【0090】
従って、本発明による重鎖または軽鎖抗体鎖の単量体セグメントをコードするDNAのバンクを作製するための方法はまた、コンカテマーをセグメント化するための工程が、一次プライマー(I)に含まれるか、または導入された制限部位の、特異的制限エンドヌクレアーゼによる酵素的消化により適用されることを特徴とする。
【0091】
該単量体は、次に、重鎖または軽鎖の一次プライマー(I)の3’に定常部分の連続を含んでなる真核生物発現ベクターにクローニングすることができる。クローニングは、一次プライマー(I)内に存在するものに相補的な制限部位を介して、または部位特異的組換えにより行うことができる。該発現ベクターは、宿主細胞株において組換えタンパク質を発現するために必要なエレメントを含むことができる。限定されない例として、ベクターpCEP(Invitrogen)は好適な発現プロモーターを含んでなる。
【0092】
より詳しくは、本発明による方法は、工程j)に用いられるベクターが、免疫グロブリンの重鎖または軽鎖の定常ドメインをコードする配列をさらに含んでなることを特徴とする。
【0093】
好ましくは、重鎖の定常ドメインをコードする配列は好ましくは、膜アンカーを含む免疫グロブリン由来の配列、またはトランスメンブランC末端領域を含んでなる配列からなる。
【0094】
本発明に従って作製された抗体バンクのスクリーニングを容易にするために、重鎖または軽鎖抗体鎖の配列を、例えば、ヒト解離促進因子(崩壊促進因子(decay-accelerating factor)、「DAF」またはCD55)から生じたトランスメンブラン領域のグリコシジルホスホチジルイノシトール結合シグナル配列の5’末端にクローニングすることができる。それにより構築されたベクターは次に、例えば、CHO、COS、HEK、NIH−3T3細胞などの真核宿主株にトランスフェクトすることができる。
【0095】
よって、本発明は、重鎖または軽鎖抗体鎖の単量体をコードするDNAのライブラリーを発現することができる細胞のバンクをスクリーニングするための方法を記載し、該ライブラリーは本発明による方法によって作製されたものであり、本発明によるDNAバンクを作製するための方法の工程j)で得られたベクターで、該ベクター内に挿入された二本鎖DNAフラグメントによりコードされている抗体を発現することができる宿主細胞をトランスフェクトすることからなる工程k)、および重鎖または軽鎖抗体鎖の配列をコードするこのようなDNAを発現する細胞が選択される工程l)をさらに含んでなることを特徴とする。
【0096】
より詳しくは、工程l)の宿主細胞は、その表面で、挿入された二本鎖DNAフラグメントによりコードされている抗体の重鎖および/または軽鎖を発現することができる細胞からなり、いっそうより好ましくは、該宿主細胞は、例えばCHO、COS、HEK、NIH−3T3細胞などの真核細胞からなる。
【0097】
真核生物の宿主細胞における発現は、天然型の抗体を発現するという利点を有する。いくつかの細胞をクローニング抗体の混合物でトランスフェクトすると、宿主細胞の表面において結合または発現された抗体(または重鎖および/または軽鎖を含んでなるフラグメント)のバンクを作製することができる。抗体(またはフラグメント)の該バンクは、次に、例えば、陽性クローンをFACSにより分離することによるか、または固定された、もしくは懸濁された標識を用いてポリクローナル集団を単離することによるなど、当業者に公知のいずれかのアプローチのよってスクリーニングすることができる。
【0098】
別の態様によれば、抗体または重鎖および/または軽鎖を含んでなるそのフラグメントのライブラリーを作製するために本発明による方法の使用が意図される。
【0099】
同様に、本発明はまた、上記の方法を適用することによって得られるいずれの抗体ライブラリーも包含する。
【0100】
限定されるものではないが、好ましくは、本発明による抗体ライブラリーは、ヒト抗体またはそのフラグメントのライブラリーである。
【0101】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明により得られたライブラリーをスクリーニングすることにより得られる抗体、機能的フラグメントまたは誘導化合物が記載され、特許請求され、該抗体またはフラグメントは好ましくはヒト抗体を含んでなる。
【0102】
最後に、本発明の最後の態様によれば、それが由来する抗体により認識される特異的エピトープを認識することができる抗体またはそれらの機能的フラグメントをスクリーニングするためのin vitro法が意図され、これらの抗体は所定の疾病に対して活性があり、この方法は、該所定の疾病に罹患している患者から血液サンプルを採取する工程を含んでなり、該血液サンプルに対して本発明による方法が適用される。限定されるものではないが、いっそうより好ましくは、該所定の疾病は癌である。
【0103】
本発明の他の特徴および利点は、以下の記載において、実施例および図面(その説明を以下に示す)を見れば明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の目的である方法の実施形態の工程a)およびb)を示す図である。
【図2】本発明の目的である方法の実施形態の工程c)を示す図である。
【図3】本発明の目的である方法の実施形態の工程d)、e)およびf)を示す図である。
【図4】実施例2において重鎖の配列を作製するために用いた種々の一次(I)、二次(II)および三次(III)プライマーを示す。一次プライマー(I)において制限部位を下線で示す。
【図5】実施例2において軽鎖の配列を作製するために用いた種々の一次(I)、二次(II)および三次(III)プライマーを示す。一次プライマー(I)において制限部位を下線で示す。
【図6】配列決定後の全重鎖に関して得られた配列(配列番号11に相当)を示し、ここでも、クローニングベクターの部分(斜体の核酸配列)、制限部位(下線の核酸配列)、一次プライマーIに相当するフラグメント(太字の核酸配列)、5’−UTR領域(四角で囲まれた核酸配列)、シグナルペプチド(二重下線の核酸配列)、重鎖可変部分(太字のアミノ酸配列)および定常部の部分(斜体のアミノ酸配列)が見られる。
【図7】重鎖に関して、図面においてそれぞれ、i)IMGTベースの、生殖細胞系IGHV1−1801の配列、ii)標準的なアプローチにより得られた可変ドメインの配列、およびiii)本発明の方法(図において本発明のアプローチと呼ぶ)によって得られた可変ドメインの配列のアライメントを示す。
【図8】さらに重鎖に関して、図面においてそれぞれ、i)IMGTベースの、生殖細胞系IGHV1−1801に関連している(図面ではゲノム配列と呼ばれる)シグナルペプチドの配列、ii)標準的なアプローチにより得られたシグナルペプチドの配列、およびiii)本発明の方法(本発明のアプローチと呼ぶ)によって得られたシグナルペプチドの配列のアライメントを示す。
【図9】全軽鎖に関して配列決定後に得られた核酸配列およびタンパク質配列(配列番号12に相当する)を示し、二重下線の核酸配列はシグナルペプチドに相当し、太字のタンパク質配列は可変ドメインに相当し、斜体のタンパク質配列は定常ドメインに相当する。
【図10】全重鎖に関して間接的配列決定後に得られた配列(配列番号18に相当する)を示し、太字の核酸配列はプライマーに相当し、下線の核酸配列は制限部位Mlu Iに相当し、二重下線の核酸配列はシグナルペプチドに相当し、太字のタンパク質配列は可変ドメインに相当し、斜体のタンパク質配列は定常ドメインに相当する。
【図11】全重鎖に関して複合配列決定後に得られた配列(配列番号20に相当する)を示し、二重下線の核酸配列はシグナルペプチドに相当し、太字のタンパク質配列は可変ドメインに相当し、斜体のタンパク質配列は定常ドメインに相当する。
【図12】全重鎖に関して間接的配列決定(配列番号18)および複合配列決定(配列番号20)後に得られた配列のアライメントを示し、太字の核酸配列は一次プライマーに相当し、下線の核酸配列は制限部位Mlu Iに相当し、二重下線の配列はシグナルペプチドに相当し、太字のタンパク質配列は可変ドメインに相当し、斜体のタンパク質配列は定常ドメインに相当する。
【図13】真核細胞の表面にそれらを提示させるための抗体の可変部分をクローニングするための様式を示す。プロモーター:発現プロモーター、すなわち、CMV;Mlu I:本発明によるRCAにより得られた可変部分のクローニングのための特異的制限部位;CH1’−CH2−CH3:ヒトIgG1のFc部分の部分的CH1ドメインおよび全CH2−CH3ドメイン;DTM:トランスメンブランドメイン;Cκ’:部分的ヒトCκ2ドメイン。
【図14】CHO細胞の表面における抗体の存在に関するFACS分析を示す。上の図:抗ヒトIgG Alexa 488を用いた表面における抗体の検出。下の図:抗ネズミIgG Alexa 488を用いた表面における抗体の検出。非発現細胞は黒いピークで表され、マーキングされた細胞は黒い線で表される。
【図15】プライマーの例を示す。図15A:ヒト抗体をクローニングおよび配列決定するためのプライマーの部位。Mfe I(1個のアミノ酸の改変)の制限部位Mlu I(全部合成)が付加されたヒトIgG1−4定常部分のコンセンサス配列。図15B:ヒト抗体をクローニングおよび配列決定するためのプライマーの部位。制限部位Mlu Iが付加されたIgκ定常部分のコンセンサス配列。図15C:ヒト抗体クローニングおよび配列決定するためのプライマーの部位。制限部位Mlu Iが付加されたヒトIgλ定常部分のコンセンサス配列。
【実施例】
【0105】
実施例1
図1は、抗体の重鎖をコードする「センス」RNA鎖を示し(点線)、該RNAはこの例ではハイブリドーマから回収されたものである。最初に記載したように、このRNA鎖は精製されたものである。このRNA鎖は5’3’方向に、可変領域をコードする配列ならびに定常領域Cをコードする配列を含んでなる。より詳しくは、可変領域Vは、5’−UTR単位、シグナルペプチド(Ps)ならびにv、dおよびj遺伝子からなる。遺伝子vは可変遺伝子に相当し、遺伝子dは多様性遺伝子に相当し、遺伝子jは接合遺伝子に相当する。
【0106】
軽鎖の場合、「センス」RNA鎖は遺伝子dは含まない。本特許出願では、重鎖の例のみを詳しく記載し、軽鎖の場合はその方法の種々の工程のレベルで同一である。
【0107】
「アンチセンス」一次プライマー(I)は、定常領域Cにおいてハイブリダイズされる。より詳しくは、本明細書に示されている好ましい実施形態によれば、一次プライマー(I)は定常領域Cをコードする配列の5’末端の近傍でハイブリダイズする。
【0108】
最初に記載したように、この点は、cDNA鎖の合成の際にv、dおよびj遺伝子の完全性が事実上保存されることを確実とすることができるという意味で、本発明の特に興味深い利点を有する。
【0109】
該一次プライマー(I)から「アンチセンス」cDNA鎖が合成され(実線で示される)、これはそれに対して5’3’方向に遺伝子j、dおよびvの相補的配列を含んでなる。
【0110】
このcDNA/RNAハイブリッドを次にRNアーゼで処理してRNA鎖を分解し、その後アニーリングさせることができるcDNAの一本鎖を得る。
【0111】
アニーリング工程は図2に示す。
【0112】
より詳しくは、5’3’方向に、プライマー(I)を含んでなる定常領域Cの部分をコードする配列と可変領域の相当する配列をなお含んでなり、後者が遺伝子j、dおよびvを含んでなり、全体が5’末端と3’末端の間の共有結合によりアニーリングされているcDNA鎖が示される。これを行うため、以下の例から明らかとなるように、5’末端は通常リン酸基(PO4−)を含んでなるが、それに対して3’末端はヒドロキシル基(OH)を含んでなる。
【0113】
図3は、「ローテーティングサークル」または「ローリングサークル」としての最初の4回の増幅ラウンドを示す。
【0114】
図3a)は、最初の増幅ラウンドを表す。この「センス」二次プライマー(II)は、一次プライマー(I)の5’末端と定常領域Cの3’末端の間に含まれる配列において、環状cDNAとハイブリダイズする。本明細書で示される実施形態では、二次プライマー(II)は一次プライマー(I)の5’末端においてハイブリダイズする。このハイブリダイゼーション位置に限定されるものではなく、ここでは単に一例として示されることは明らかである。次に、「センス」DNAの相補鎖の合成(点線で示される)が、該二次プライマー(II)から反応媒体中に存在する遊離のヌクレオチドを5’3’方向に付加することによって行われる。この最初の増幅ラウンドの終了により、環状cDNAとハイブリダイズされた「センス」DNAの第一単位(1)が得られる。
【0115】
図3b)は、次の増幅ラウンドを模式的に示す。最初の増幅ラウンドの継続において、2回目の増幅ラウンドが適用され、その際に、反応媒体中に存在する遊離のヌクレオチドが「センス」DNAの第一単位(1)の3’末端に付加され、それにより「センス」DNAの第二単位(2)が形成され、それはその合成に際に、それを移動させることにより環状cDNAに沿った第一単位1の場所をとる。この結果、cDNAとハイブリダイズされ、取って代わられた「センス」DNAの第一単位(1)とその5’末端でしっかり結合された「センス」DNAの第二単位(2)からなるDNA分子が得られ、結果として一本鎖となる。同時に、最初に合成された直鎖DNA単位(1)が第二単位(2)のポリメラーゼに取って代わられた際に、三次プライマー(III)のハイブリダイゼーション部位に相当する配列が遊離する(すなわち、それは一本鎖となる)。その後、この三次プライマー(III)がハイブリダイズし、第一「センス」DNA単位(1)と相補的な「アンチセンス」DNA IIの第一鎖の合成を開始する(実線で示される)。
【0116】
図3c)は、本増幅法の以降のラウンドを示す。
【0117】
同じ機構が生じ、環状cDNAに沿って「センス」DNAの第三単位(3)の合成が起こり、それにより第一単位および第二単位(1、2)からなる「センス」DNAセグメントに取って代わり、この第一単位(1)は先行する増幅ラウンドのために二本鎖DNAとなり、一方、第二単位(2)は「センス」DNAの一本鎖となる。上記の工程と同様にして、「センス」DNAの第二単位(2)の移動は、それに結合して「センス」DNAの第二単位(2)の相補的「アンチセンス」DNA(12)の第二鎖の合成を開始する三次プライマー(III)のハイブリダイゼーション部位を遊離させる。この「アンチセンス」DNAの新たに合成された第2鎖(12)が第一単位(1)の相補的「アンチセンス」DNAの第一鎖(11)の5’末端に隣接すると、それは「センス」DNAの配列に沿ったその場所を想定し、それにより第一単位(1)の相補的「アンチセンス」DNAの第一鎖(11)を遊離させる。次に、二次プライマー(II)がそのハイブリダイゼーション部位にハイブリダイズし、それによりその3’末端を遊離させ、5’3’方向に沿って「センス」DNAの相補鎖の合成を開始する。
【0118】
図3d)は、以降の増幅ラウンドを示す。
【0119】
同様に、「センス」DNAの第四単位(4)が環状cDNAに沿って合成され、それにより、先行する増幅ラウンドから生じた「センス」DNAの3つの第一単位(1、2、3)からなるDNAセグメントに取って代わる。
【0120】
本方法のこのレベルにおいて、第一単位と第二単位(1、2)は、先行する増幅ラウンドのために二本鎖DNAからなり、一方、第三単位(3)は「センス」DNAの一本鎖からなる。先行する工程と同様に、この「センス」DNAの第三単位(3)の移動は、それに結合して「センス」DNAの第三単位(3)の相補的「アンチセンス」DNA(13)の第三鎖の合成を開始する三次プライマー(III)のハイブリダイゼーション部位を遊離させる。この「アンチセンス」DNAの新たに合成された第三鎖が第一単位および第二単位(1、2)の相補的「アンチセンス」DNAの第二鎖(12)の5’末端に隣接すると、それは次に「センス」DNAの配列に沿ったその場所を想定し、それにより第一単位と第二単位(1、2)の相補的「アンチセンス」DNAの第二鎖(12)を遊離させる。次に、二次プライマー(II)がそのハイブリダイゼーション部位にハイブリダイズし、それにより、第一単位(1)の、または第二単位(2)の3’末端を遊離させ、その5’3’方向に沿って第一単位と第二単位(1、2)の相補的「センス」DNAの鎖の合成を開始する。この場合、二次プライマーが第二単位(2)の3’末端でハイブリダイズしたところで初めて、第二単位(2)に対する相補的「センス」DNAの鎖の合成が行われた。結果として、二次プライマー(II)は、次に、第一単位(1)の3’末端にハイブリダイズし、そして、第一単位と第二単位(1、2)の相補的「センス」DNAの鎖の合成を開始する。この段階で、この第二単位(2)において、「センス」DNAの相補鎖の合成は、先に合成された「センス」DNAの鎖を移動させ、遊離させる。その後、この二次プライマー(II)はこの遊離した「センス」DNA鎖にハイブリダイズすることができ、相補的「アンチセンス」DNAの鎖の合成を開始する(示されていない)。
【0121】
実施例2:「間接的」アプローチによるハイブリドーマからの抗体遺伝子のクローニングおよび配列決定
I.RNAの精製
遠心分離により予め濃縮した5×10細胞のハイブリドーマから全RNAを単離し、細胞ペレットとして−80℃で冷凍する。この細胞ペレットを解凍した後に、RNAを単離するために変性させる。全RNAの単離にはMini Kit RNeasy(登録商標)(Qiagen)を用いる。全RNAの精製は供給者からの説明書に従って行う。この細胞ペレットを、β−メルカプトエタノールを含有するRLTバッファー600μLを加えることにより溶解した後、太さ20ゲージのニードルに6回通すことによりホモジナイズする。このホモジナイズ溶解液に600μLの容量の70%エタノールを加えた後、全体をピペット操作により混合する。次に、この溶解液を、各600μlの2アリコートでRNeasyミニカラムに適用する。各適用の後に10,000gで15秒間の遠心分離を行う。このRNeasyミニカラムを500μLのRPEバッファー(Qiagen)で洗浄した後、10,000gで15秒間遠心分離する。次に、このRNeasyミニカラムを新しい遠沈管に移し、500μLのRPEバッファーを追加して洗浄した後、10,000gで2分間遠心分離する。次に、このミニカラムRNeasyを新しい遠沈管に入れ、このカラムにRNアーゼ/DNアーゼ不含水(Ambion)50μLを加える。このRNeasyミニカラムを再び10,000gで1分間遠心分離する。次に、精製された全RNAを260/280nmでの分光光度測定により定量した後すぐにcDNAの合成に用いる。
【0122】
II.cDNAの合成および精製
cDNAの合成は、鋳型としての全RNAと重鎖CHssDNAの遺伝子の特異的プライマー(5’PO−AGC AGA CCC GGG GGC CAG TGG ATA GAC AG3’、配列番号1)または軽鎖VLssDNAの遺伝子の特異的プライマー(5’PO−TCC AGA TGT TAA CTG CTC ACT GGA TGG TGG GAA GAT GGA TAC AG 3’、配列番号2)を用いることにより、逆転写スーパースクリプトIII(Invitrogen)を用いて行う。これらのプライマーの配列は、制限部位を天然に含むように、または親配列の若干の改変により制限部位の包含を可能とするように選択される。重鎖のプライマーの配列は、制限部位Xma Iを含むように改変される。軽鎖のプライマーの配列はそれに対して天然制限部位Hpa Iを含んでなる。cDNAの第一鎖の合成は、2.5μgの全RNA、1μLのdNTP混合物(各10mM、Ozyme)、遺伝子の特異的プライマー2μL(1μM、5’リン酸化、Eurogentec)を用いて行い、総て、DNアーゼ/RNアーゼ不含水(Ambion)で総量14μLとする。それにより得られた混合物を5分間65℃に加熱した後、鋳型上でのプライマーのハイブリダイゼーションを可能とするために氷上で冷却する。その後、該混合物に4μLの5×「第一鎖バッファー」(Invitrogen)、1μLのDTT(1M)および1μLのスーパースクリプトIII(200U/μL)を加える。この反応混合物を次に55℃で1時間インキュベートし、これらの酵素を15分間70℃に加熱することにより不活性化する。
【0123】
第一鎖の合成が完了したところで、次にこれをPCR精製キット(Qiagen)で処理して組み込まれなかったプライマーを除去する。cDNAの合成は、DNアーゼ/RNアーゼ不含水50μLを加え、それに250μLのPBバッファー(Qiagen)を加え、この溶液をピペット操作により混合することにより完了させる。次に、この混合物をPCR精製キットマイクロ遠心カラムに移した後、10,000gで1分間遠心分離する。このカラムを750μLのPEバッファー(Qiagen)で洗浄した後、10,000gで1分間遠心分離する。このカラムを再び10,000gで1分間遠心分離する。その後、これを1.5mLの新しいマイクロ遠沈管に移し、カラムの中央に30μLのEBバッファー(10mM Tris−HCl pH8.0、Qiagen)を加えてcDNAを溶出し、その後、全体を再び10,000gで1分間遠心分離する。その後、回収されたcDNAを−20℃で保存する。
【0124】
RNアーゼで処理するなど、cDNA合成に他の一連の工程を行ってもよいが、それらは必須ではない。
【0125】
III.cDNAのアニーリング
一本鎖cDNAを、cDNAの3’OH末端と5’PO末端の間に共有結合を導入するリガーゼCircLigase(商標)(Epicentre)を用いてアニーリングする。PO4基は、cDNAの合成に用いられた遺伝子の特異的プライマーの合成の際に5’末端に予め導入された。アニーリング反応は16μLの精製cDNA、2μLの反応バッファー10×CircLigase(Epicentre)、1μLのATP(1mM)、1μLのCircLigase(100U/μL)を用いて行う。次に、反応物を60℃で1時間インキュベートした後、80℃で10分間インキュベートすることにより酵素を不活性化する。このアニーリング反応の後に、得られた混合物をDNアーゼ/RNアーゼ不含水で50μLとし、これに250μLのPBバッファー(Qiagen)を加え、この溶液をピペット操作により混合する。次に、この混合物をPCR精製キットマイクロ遠心カラムに移し、10,000gで1分間遠心分離する。このカラムを750μLのPEバッファー(Qiagen)で洗浄した後、再び10,000gで1分間遠心分離する。このカラムをもう一度10,000gで1分間遠心分離する。次にこれを新しい1.5mLのマイクロ遠沈管に移し、カラムの中央に30μLのEB(10mM Tris−HCl pH8.0、Qiagen)を加えてcDNAを溶出し、全体を再び10,000gで1分間遠心分離する。その後、回収されたアニーリングcDNAを−20℃で保存する。
【0126】
IV.「ローテーティングサークル」による増幅
アニーリングした一本鎖cDNAを、増幅キットillustra TempliPHi(商標)(Amersham Biosciences)とcDNAの合成に用いたプライマーの配列の相同遺伝子の特異的プライマーを用いることにより増幅する。増幅反応は5μLのバッファーTempliPHi、0.5μLのアニーリングcDNAおよび0.25μLのセンスおよびアンチセンスプライマー(100μM、Sigma ProOligo)を用いて行う。これらのプライマーを表1に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
センスおよびアンチセンスプライマーは、ポリメラーゼφ29のエキソヌクレアーゼ活性から保護するためにホスホロチオエート結合を用いて合成する。反応媒体を3分間95℃に加熱した後、氷上で冷却する。第二の混合物は、5μLの反応バッファーTempliPhiおよび0.2μLの酵素TempliPhiを用いて作製する。次に、この混合物5μLを予め作製した第一の反応媒体に加える。最終混合物を30℃で18時間インキュベートした後、65℃で10分間酵素を不活性化する。増幅された二本鎖DNAを−20℃で保存する。
【0129】
V.増幅された抗体の遺伝子のクローニング
増幅の後、二本鎖DNAコンカテマーを、そのcDNAの合成に用いたオリゴヌクレオチドプライマーに適合する制限酵素で消化する。増幅された免疫グロブリンの重鎖を次のように消化する:7.5μLの増幅DNA、0.5μLのBSA 20×、1μLのバッファー4 10×(NEB)、1μLのXma I(NEB)。この混合物を37℃で4時間インキュベートした後、65℃で20分間酵素を不活性化する。増幅された免疫グロブリンの軽鎖は次のように消化する:7.5μの増幅DNA、0.5μLの水、1μLのバッファー4 10×(NEB)、1μLのHpa I(NEB)。この混合物を37℃で4時間インキュベートする。消化された重鎖および軽鎖を次に、それぞれ配列決定ベクターpUC18およびPGEM−Tにクローニングする。次に、クローニングされたDNAインサートを「BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit」(Applied Biosystems)とこれらの配列決定ベクターに相当するプライマーを用いて配列決定する。
【0130】
全重鎖に関する配列決定後に得られた配列を図6に示す(配列番号11)。図6の太字のアミノ酸配列である可変ドメインに相当する部分を配列番号7に示し、図6の二重下線の、シグナルペプチドに相当する配列を配列番号9の配列で示す。
【0131】
全軽鎖に関する配列決定後に得られた配列を図9に示す(配列番号12)。図9の太字のアミノ酸配列である可変ドメインに相当する核酸の部分を配列番号13の配列に示す。
【0132】
VI.標準的な方法により、また、本発明の目的であるアプローチにより得られた抗体の重鎖の可変ドメインおよびシグナルペプチドの配列の比較分析
ハイブリドーマから抗体の可変ドメインの配列を得るための標準的なアプローチは、該可変ドメインをPCRにより、センスプライマーとしてはシグナルペプチドに、そしてアンチセンスプライマーとしては、重鎖では定常ドメインCH1、軽鎖ではCκの5’に存在するプライマーを用いて増幅させることからなる。その抗体が由来する生物によって天然に用いられているシグナルペプチドの可能性のある既知の推定配列の総てとハイブリダイズすることができるように、通常用いられるセンスプライマーは縮重配列に相当することを述べておくべきであろう。
【0133】
重鎖の可変ドメインに関して標準的な方法で得られた配列を配列番号8の配列で示す。
【0134】
次に、例示された抗体の重鎖の可変ドメインに関して得られた配列を、機能を生じた種々の遺伝子の再配列の同定およびその例示抗体の可変ドメインの作製の際に用いられた遺伝子Vに関連するシグナルペプチドのゲノム配列のデータベース検索をさらに可能とするIMGT命名法に従った免疫原分析を行うことにより特徴づける。
【0135】
表2は重鎖に関して得られた結果を示す。
【0136】
【表2】

【0137】
図7に示される配列のアライメントならびに免疫原分析により、本発明によるアプローチにより得られた重鎖の可変ドメインの配列(配列番号7)と標準的なアプローチにより得られた重鎖の可変ドメインの配列(配列番号8)の間に存在する同一性を確認する。
【0138】
シグナルペプチドに相当する配列、すなわち、本発明による方法によって得られた配列(配列番号9)および標準的なアプローチに従って得られた配列(配列番号10)に関して同じアプローチを行った。
【0139】
IMGTベースで配列を検索することにより、遺伝子V IGHV1−1801(IMGT Flat File)の同定に関する情報を得ること、およびそれからその遺伝子に関するシグナルペプチドの核酸配列およびタンパク質配列を抽出することが可能である。この場合、ネズミ株C57BL/6Jから、例示された抗体の重鎖の可変ドメインの配列に最も近いことが確認された対立遺伝子IGHV1−1801が同定された。この例では、抗体の作製に用いられたネズミ株はBALB/cであり、その生殖細胞系は対立遺伝子IGHV1 1802下に存在する。例示された抗体の鎖の可変ドメインに関して得られた配列のアライメントは98.02%(248/253nt)の相同性を示す。この相同性は対立遺伝子IGHV1−1801に関して同定されたものよりも顕著であるが、それは遺伝子Vの短縮配列、すなわち、C57BL/6Jの対立遺伝子01の288ntに対してBALB/cの対立遺伝子02の253ntのみを考慮する。これは最初の分析が対立遺伝子01に有利であった場合を説明する。従って、シグナルペプチドの同定に関しては、この場合も用いるネズミ株に見られ、対立遺伝子IGHV1−1802に相当する配列に着目する必要がある。
【0140】
図8に示されるシグナルペプチドに相当する配列のアライメントは明らかに、この例のこの場合、タンパク質配列に4つの突然変異を誘導する4つのヌクレオチド改変に、相当する配列(配列番号10)においてバイアスを導入する標準的なアプローチとは異なり、本発明の方法はゲノム配列(配列番号9)の取得を可能とすることを示す。
【0141】
結論として、この例は、得られた配列が実際に抗体の生殖細胞系に相当するだけでなく、特に標準的な方法により得られる配列にも相当するという確信をもたらす。さらに、この例はまた、本発明による方法が標準的なアプローチで改変される天然シグナルペプチドの保存を可能とすることも示す。
【0142】
VII.標準的な方法により、また、本発明の目的であるアプローチにより得られた抗体の軽鎖の可変ドメインおよびシグナルペプチドの配列の比較分析
同様のアプローチを行い、同じ結果(示されていない)が得られた。
【0143】
実施例3:「間接的」アプローチによるハイブリドーマからの抗体の遺伝子のクローニングおよび配列決定
I.RNAの精製
遠心分離により予め濃縮した5×10細胞のハイブリドーマから全RNAを単離し、細胞ペレットとして−80℃で冷凍する。この細胞ペレットを解凍した後に、RNAを単離するために変性させる。全RNAの単離にはMini Kit RNeasy(登録商標)(Qiagen)を用いる。全RNAの精製は供給者からの説明書に従って行う。この細胞ペレットを、β−メルカプトエタノールを含有するRLTバッファー600μLを加えることにより溶解した後、太さ20ゲージのニードルに6回通すことによりホモジナイズする。このホモジナイズ溶解液に600μLの容量の70%エタノールを加えた後、全体をピペット操作により混合する。次に、この溶解液を、各600μlの2アリコートでRNeasyミニカラムに適用する。各適用の後に10,000gで15秒間の遠心分離を行う。このRNeasyミニカラムを500μLのRPEバッファー(Qiagen)で洗浄した後、10,000gで15秒間遠心分離する。次に、このRNeasyミニカラムを新しい遠沈管に移し、500μLのRPEバッファーを追加して洗浄した後、10,000gで2分間遠心分離する。次に、このミニカラムRNeasyを新しい遠沈管に入れ、このカラムにRNアーゼ/DNアーゼ不含水(Ambion)50μLを加える。このRNeasyミニカラムを再び10,000gで1分間遠心分離する。次に、精製された全RNAを260/280nmでの分光光度測定により定量した後すぐにcDNAの合成に用いる。
【0144】
II.cDNAの合成および精製
cDNAの合成は、鋳型としての全RNAと重鎖IGHClpOの特異的プライマー(5’PO−ACA AAC GCG TAT AGC CCT TGA CCA GGC ATC C3’、配列番号14)または軽鎖IGKpOの遺伝子の特異的プライマー(5’PO−ACA AAC GCG TTG GTG GGA AGA TGG ATA CAG3’、配列番号15)を用いることにより、逆転写酵素スーパースクリプトIII(Invitrogen)を用いて行う。これらのプライマーの配列は、天然配列の5’末端に付加された制限部位Mlu Iを含んでなる。第一鎖cDNAの合成は、2.5μgの全RNA、1μLのDNTP混合物(各10mM、Ozyme)、遺伝子の特異的プライマー1μL(50μM、5’リン酸化、Eurogentec)を用いて行い、総て、DNアーゼ/RNアーゼ不含水(Ambion)で総量10μLとする。それにより得られた混合物を5分間65℃に加熱した後、鋳型上でのプライマーのハイブリダイゼーションを可能とするために氷上で冷却する。その後、該混合物に4μLの5×「Prime Scriptバッファー」(Takara)、0.5μLのRNアーゼ阻害剤(40U/uL)、1μLのPrime Script RTase(200U/μL)を加えた後、20μlのH2Oで容量を整える。この反応混合物を次に50℃で1時間インキュベートし、これらの酵素を15分間70℃に加熱することにより不活性化する。
【0145】
第一鎖の合成が完了したところで、次にこれをPCR精製キット(Qiagen)で処理して組み込まれなかったプライマーを除去する。cDNAの合成は、DNアーゼ/RNアーゼ不含水50μLを加え、それに250μLのPBバッファー(Qiagen)を加え、この溶液をピペット操作により混合することにより完了させる。次に、この混合物をPCR精製キットマイクロ遠心カラムに移した後、10,000gで1分間遠心分離する。このカラムを750μLのPEバッファー(Qiagen)で洗浄した後、10,000gで1分間遠心分離する。このカラムを再び10,000gで1分間遠心分離する。その後、これを1.5mLの新しいマイクロ遠沈管に移し、カラムの中央に30μLのEBバッファー(10mM Tris−HCl pH8.0、Qiagen)を加えてcDNAを溶出し、その後、全体を再び10,000gで1分間遠心分離する。その後、回収されたcDNAを−20℃で保存する。
【0146】
RNアーゼ処理など、cDNA合成に他の一連の工程を行ってもよいが、それらは必須ではない。
【0147】
III.cDNAのアニーリング
一本鎖cDNAを、cDNAの3’OH末端と5’PO末端の間に共有結合を導入するリガーゼCircLigase(商標)(Epicentre)を用いてアニーリングする。PO基は、cDNAの合成に用いられた遺伝子の特異的プライマーの合成の際に5’末端に予め導入された。アニーリング反応は1μLの精製cDNA、1μLの反応バッファー10×CircLigase(Epicentre)、1μLのATP(1mM)、1μLのCircLigase(100U/μL)および6μlのHOを用いて行う。次に、反応物を60℃で1時間インキュベートした後、80℃で10分間インキュベートすることにより酵素を不活性化する。このアニーリング反応の後に、得られた混合物をDNアーゼ/RNアーゼ不含水で50μLとし、これに250μLのPBバッファー(Qiagen)を加え、この溶液をピペット操作により混合する。次に、この混合物をPCR精製キットマイクロ遠心カラムに移し、10,000gで1分間遠心分離する。このカラムを750μLのPEバッファー(Qiagen)で洗浄した後、再び10,000gで1分間遠心分離する。このカラムをもう一度10,000gで1分間遠心分離する。次にこれを新しい1.5mLのマイクロ遠沈管に移し、カラムの中央に30μLのEB(10mM Tris−HCl pH8.0、Qiagen)を加えてcDNAを溶出し、全体を再び10,000gで1分間遠心分離する。その後、回収されたアニーリングcDNAを−20℃で保存する。
【0148】
IV.「ローテーティングサークル」による増幅
アニーリングした一本鎖cDNAを、増幅キットillustra TempliPHi(商標)(Amersham Biosciences)とcDNAの合成に用いたプライマーの配列の相同遺伝子の特異的プライマーを用いることにより増幅する。増幅反応は4μLのHO、0.5μLのアニーリングcDNAおよび0.5μLのセンスおよびアンチセンスプライマー(100μM、Sigma ProOligo)を用いて行う。これらのプライマーを表3に示す。
【0149】
【表3】

【0150】
センスおよびアンチセンスプライマーは、ポリメラーゼφ29のエキソヌクレアーゼ活性から保護するためにホスホロチオエート結合を用いて合成する。反応媒体を3分間95℃に加熱した後、氷上で冷却する。第二の混合物は、5μLの反応バッファーTempliPhiおよび0.2μLの酵素TempliPhiを用いて作製する。次に、この混合物5μLを予め作製した第一の反応媒体に加える。最終混合物を30℃で18時間インキュベートした後、65℃で10分間酵素を不活性化する。増幅された二本鎖DNAを−20℃で保存する。
【0151】
V.増幅された抗体の遺伝子のクローニング
増幅の後、二本鎖DNAコンカテマーを、そのcDNAの合成に用いたオリゴヌクレオチドプライマーに適合する制限酵素で消化する。増幅された免疫グロブリンの重鎖を次のように消化する:8μLの増幅DNA、1μLのバッファー3 10×(NEB)、1μLのMlu I(NEB)。この混合物を37℃で4時間インキュベートした後、65℃で20分間酵素を不活性化する。増幅された免疫グロブリンの軽鎖は次のように消化する:8μの増幅DNA、1μLのバッファー3 10×(NEB)、1μLのMlu I(NEB)。この混合物を37℃で4時間インキュベートした後、65℃で20分間酵素を不活性化する。消化された重鎖および軽鎖を次に、それぞれ配列決定ベクターpGEM−Tにクローニングする。次に、クローニングされたDNAインサートを「BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit」(Applied Biosystems)とこれらの配列決定ベクターに相当するプライマーを用いて配列決定する。
【0152】
全重鎖に関する配列決定後に得られた配列を図10に示す(配列番号18)。図10の太字のアミノ酸配列である可変ドメインの相当する核酸部分を配列番号19の配列で示す。
【0153】
実施例4:「複合」アプローチによるハイブリドーマからの抗体の遺伝子のクローニングおよび配列決定
1.RNAの精製
遠心分離により予め濃縮した5×10細胞のハイブリドーマから全RNAを単離し、細胞ペレットとして−80℃で冷凍する。この細胞ペレットを解凍した後に、RNAを単離するために変性させる。全RNAの単離にはMini Kit RNeasy(登録商標)(Qiagen)を用いる。全RNAの精製は供給者からの説明書に従って行う。この細胞ペレットを、β−メルカプトエタノールを含有するRLTバッファー600μLを加えることにより溶解した後、太さ20ゲージのニードルに6回通すことによりホモジナイズする。このホモジナイズ溶解液に600μLの容量の70%エタノールを加えた後、全体をピペット操作により混合する。次に、この溶解液を、各600μlの2アリコートでRNeasyミニカラムに適用する。各適用の後に10,000gで15秒間の遠心分離を行う。このRNeasyミニカラムを500μLのRPEバッファー(Qiagen)で洗浄した後、10,000gで15秒間遠心分離する。次に、このRNeasyミニカラムを新しい遠沈管に移し、500μLのRPEバッファーを追加して洗浄した後、10,000gで2分間遠心分離する。次に、このミニカラムRNeasyを新しい遠沈管に入れ、このカラムにRNアーゼ/DNアーゼ不含水(Ambion)50μLを加える。このRNeasyミニカラムを再び10,000gで1分間遠心分離する。次に、精製された全RNAを260/280nmでの分光光度測定により定量した後すぐにcDNAの合成に用いる。
【0154】
II.cDNAの合成および精製
cDNAの合成は、鋳型としての全RNAと重鎖IGHClpOの特異的プライマー(5’PO−ACA AAC GCG TAT AGC CCT TGA CCA GGC ATC C3’、配列番号14)または軽鎖IGKpOの遺伝子の特異的プライマー(5’PO−ACA AAC GCG TTG GTG GGA AGA TGG ATA CAG3’、配列番号15)を用いることにより、逆転写酵素スーパースクリプトIII(Invitrogen)を用いて行う。これらのプライマーの配列は、制限部位を天然に含むように、または親配列の若干の改変により制限部位の包含を可能とするように選択される。重鎖および軽鎖のプライマーの配列は、5’末端に制限部位Mlu Iを含むように改変される。cDNAの第一鎖の合成は、2.5μgの全RNA、1μLのDNTP混合物(各10mM、Ozyme)、遺伝子の特異的プライマー2μL(50μM、5’リン酸化、Eurogentec)を用いて行い、総て、DNアーゼ/RNアーゼ不含水(Ambion)で総量14μLとする。それにより得られた混合物を5分間65℃に加熱した後、鋳型上でのプライマーのハイブリダイゼーションを可能とするために氷上で冷却する。その後、該混合物に4μLの5×「第一鎖バッファー」(Invitrogen)、1μLのDTTおよびスーパースクリプトIII(200U/μL)を加える。この反応混合物を次に50℃で1時間インキュベートし、これらの酵素を15分間70℃に加熱することにより不活性化する。
第一鎖の合成が完了したところで、次にこれをPCR精製キット(Qiagen)で処理して組み込まれなかったプライマーを除去する。cDNAの合成は、DNアーゼ/RNアーゼ不含水50μLを加え、それに250μLのPBバッファー(Qiagen)を加え、この溶液をピペット操作により混合することにより完了させる。次に、この混合物をPCR精製キットマイクロ遠心カラムに移した後、10,000gで1分間遠心分離する。このカラムを750μLのPEバッファー(Qiagen)で洗浄した後、10,000gで1分間遠心分離する。このカラムを再び10,000gで1分間遠心分離する。その後、これを1.5mLの新しいマイクロ遠沈管に移し、カラムの中央に30μLのEBバッファー(10mM Tris−HCl pH8.0、Qiagen)を加えてcDNAを溶出し、その後、全体を再び10,000gで1分間遠心分離する。その後、回収されたcDNAを−20℃で保存する。
【0155】
RNアーゼ処理など、cDNA合成に他の一連の工程を行ってもよいが、それらは必須ではない。
【0156】
III.cDNAのアニーリング
一本鎖cDNAを、cDNAの3’OH末端と5’PO末端の間に共有結合を導入するリガーゼCircLigase(商標)(Epicentre)を用いてアニーリングする。PO基は、cDNAの合成に用いられた遺伝子の特異的プライマーの合成の際に5’末端に予め導入された。アニーリング反応は16μLの精製cDNA、2μLの反応バッファー10×CircLigase(Epicentre)、1μLのATP(1mM)、1μLのCircLigase(100U/μL)を用いて行う。次に、反応物を60℃で1時間インキュベートした後、80℃で10分間インキュベートすることにより酵素を不活性化する。このアニーリング反応の後に、得られた混合物をDNアーゼ/RNアーゼ不含水で50μLとし、これに250μLのPBバッファー(Qiagen)を加え、この溶液をピペット操作により混合する。次に、この混合物をPCR精製キットマイクロ遠心カラムに移し、10,000gで1分間遠心分離する。このカラムを750μLのPEバッファー(Qiagen)で洗浄した後、再び10,000gで1分間遠心分離する。このカラムをもう一度10,000gで1分間遠心分離する。次にこれを新しい1.5mLのマイクロ遠沈管に移し、カラムの中央に30μLのEB(10mM Tris−HCl pH8.0、Qiagen)を加えてcDNAを溶出し、全体を再び10,000gで1分間遠心分離する。その後、回収されたアニーリングcDNAを−20℃で保存する。
【0157】
IV.「ローテーティングサークル」による増幅
アニーリングした一本鎖cDNAを、増幅キットillustra TempliPHi(商標)(Amersham Biosciences)とcDNAの合成に用いたプライマーの配列の相同遺伝子の特異的プライマーを用いることにより増幅する。増幅反応は5μLの水、0.5μLのアニーリングcDNAおよび0.5μLのセンスおよびアンチセンスプライマー(100μM、Sigma ProOligo)を用いて行う。これらのプライマーは上記の実施例3のものと同じであるので、表3に示されている。
【0158】
センスおよびアンチセンスプライマーは、ポリメラーゼφ29のエキソヌクレアーゼ活性から保護するためにホスホロチオエート結合を用いて合成する。反応媒体を3分間95℃に加熱した後、氷上で冷却する。第二の混合物は、5μLの反応バッファーTempliPhiおよび0.2μLの酵素TempliPhiを用いて作製する。次に、この混合物5μLを予め作製した第一の反応媒体に加える。最終混合物を30℃で18時間インキュベートした後、65℃で10分間酵素を不活性化する。増幅された二本鎖DNAを−20℃で保存する。
【0159】
増幅された免疫グロブリンの重鎖を次のように消化する:8μLの増幅DNA、1μLのバッファー3 10×(NEB)、1μLのMlu I(NEB)。この混合物を37℃で4時間インキュベートした後、65℃で20分間酵素を不活性化する。増幅された免疫グロブリンの軽鎖は次のように消化する:8μの増幅DNA、1μLのバッファー3 10×(NEB)、1μLのMlu I(NEB)。この混合物を37℃で4時間インキュベートした後、65℃で20分間酵素を不活性化する。重鎖の単量体はアガロースゲル(1%w/v)での電気泳動により10V/cmで分離する。次に、単量体に相当するDNAを抽出し、Nucleospin Extract IIキット(Machery Nagel)を製造業者の手順に従って用い、15μLの「溶出バッファー」での溶出により単離する。次に、このDNAを、「BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit」(Applied Biosystems)にて、cDNA合成に従った一次または三次プライマーを用い、以下の条件:5μLの単量体DNA、2μLの5×バッファー(Applied Biosystems)、2μLのBigDye Terminator v3.1、1μLのプライマー(10μM)下での「ローテーティングサイクル」増幅により配列決定する。反応条件はFast Thermal Cycler 9800(Applied Biosystems)装置、プログラム「BigDye std」のプログラミングに従う。
【0160】
全重鎖の配列決定後に得られた配列を図11(配列番号20)に示す。図11の太字のアミノ酸配列である可変ドメインに相当する核酸部分を配列番号21の配列で示す。
【0161】
実施例5:「間接的」アプローチにより得られた配列と「複合アプローチ」により得られた配列の比較
本発明の種々の選択肢、すなわち、間接的アプローチおよび複合アプローチ(直接的アプローチとも呼ばれる)を実証するために、全重鎖に関して得られた配列のアライメントを、それぞれ両アプローチを用いて行った。
【0162】
図12はこのアライメントを示す。
【0163】
この図から明らかなように、得られた配列は同一であり、これにより本発明の両アプローチが実証される。
【0164】
実施例6:真核細胞の表面での発現の検出
本発明に従ってクローニングされた抗体のスクリーニングを行うために、真核生物発現ベクターを、ヒト抗体の重鎖の定常部分のC末端にトランスメンブランドメイン(DTM)を含むように改変した。宿主細胞で発現された抗体が培養上清中ではもはや発現されずに細胞の表面で保持されるように、このDTMをIfG1型のヒト重鎖の定常ドメインとともにシスでクローニングした(図13)。Mlu Iによる制限およびDTMを含有するベクター中での連結により、それらの5’UTR部分とシグナルペプチドを含んでなる可変部分を定常ドメインとともにシスで挿入することができ、軽鎖は同様にDTMを含まないベクターにクローニングする(図13)。ネズミ抗体の重鎖および軽鎖の可変部分は発現ベクター中にヒト定常ドメイン:IgG1(重鎖)またはIgk(軽鎖)とともに、重鎖の場合にはDTMを伴ってシスでクローニングする。次に、宿主CHO細胞の、重鎖および軽鎖の発現ベクターでの同時トランスフェクションを、リポフェクタミンによるトランスフェクションにより行った。血清を含む増殖培地中での48時間の増殖時間の後、細胞をPBSで洗浄した。
【0165】
予め洗浄した細胞の表面の抗体の存在を、それらの細胞をIgG抗ヒトまたはIgG抗マウス抗体とともにインキュベーションすることにより検出した。蛍光体ALEXA 488(Molecular Probes, A11013)で予めマーキングしたIgG抗ヒトまたは抗マウス抗体が、宿主細胞の膜表面に抗体を担持する細胞の同定を可能とする。その後、フローサイトメトリー分析により、発現ベクターを含まない宿主細胞に比べて表面に抗体を担持する細胞を検出することができる(図14)。これらの抗体のキメラ性、ネズミ可変部分およびヒト定常部分は、IgG抗ヒトまたはIgG抗マウス抗体を用いた検出を可能とする。
【0166】
実施例7:本発明の適用の範囲内で使用可能な種々のネズミおよびヒトプライマーのリスト
本実施例では、限定されるものではないが、本発明の適用に好ましいプライマーの配列を一覧化する。
【0167】
I.ネズミプライマー
表4:Balb/cマウスにおける定常ドメインの各イソ型に対する特異的ネズミcDNAの合成のための一次プライマー(I)。制限部位Mlu Iを下線および斜体で示す。
【表4】

【0168】
表5:アニーリングしたcDNAの増幅のための二次プライマー(II)。3’結合はホスホジエステルの代わりにホスホチオエート()である。
【表5】

【0169】
表6:アニーリングしたcDNAの増幅のための三次プライマー(III)。3’結合はホスホジエステルの代わりにホスホチオエート()である。
【表6】

【0170】
II.ヒトプライマー
表7:いずれかのイソ型IgGに対する特異的ヒトcDNAの合成のための一次プライマー(I)。制限部位Mlu Iを下線および斜体で示す。
【表7】

【0171】
表8:アニーリングしたcDNAの増幅のための二次プライマー(II)。3’結合はホスホジエステルの代わりにホスホチオエート()である。
【表8】

【0172】
表9:アニーリングしたcDNAの増幅のための三次プライマー(III)。3’結合はホスホジエステルの代わりにホスホチオエート()である。
【表9】

図15A、15Bおよび15Cもまた、種々のプライマーおよび相当する部位を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体、または抗体の重鎖および/もしくは軽鎖をコードするRNAを発現することができる細胞由来のRNAの抽出物または混合物から、少なくとも1つの抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNA配列を作製する方法であって、少なくとも以下の工程:
a)一次プライマー(I)を、抗体の重鎖または軽鎖をコードする少なくとも1つのRNA(ここでは「センス」RNAと表す)を含み得る該RNA抽出物または混合物と接触させる工程(この一次プライマーは該「センス」RNAの配列のフラグメントと特異的にハイブリダイズすることができ、このフラグメントは、該抗体の重鎖または軽鎖の定常領域Cをコードする配列に含まれる);
b)該一次プライマー(I)から、「アンチセンス」cDNAと表される一本鎖cDNAを合成する工程;
c)必要に応じて、工程a)で該RNAの配列のフラグメントとハイブリダイズされなかった一次プライマー(I)を除去する工程;
d)該「アンチセンス」cDNAを、その5’末端と3’末端の間に共有結合を形成することによってアニーリングする工程;
e)「センス」二次プライマーと表される二次プライマー(II)を、工程d)で得られた「アンチセンス」環状cDNAと接触させる工程(この「センス」二次プライマー(II)は、該「アンチセンス」環状cDNAとハイブリダイズすることができる);
f)該二次プライマー(II)から該「アンチセンス」cDNAを増幅させる工程;および
g)それにより増幅された「センス」相補的DNA直鎖を回収する工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記一次プライマー(I)が、定常領域Cに相当するセンスRNA配列の5’末端に位置するか、または隣接する配列に特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二次プライマー(II)が、前記「アンチセンス」cDNA配列の5’末端と、定常領域Cに相当する前記「アンチセンス」cDNAの配列の3’末端の間に含まれる配列に特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記二次プライマー(II)が、「アンチセンス」cDNA配列の5’末端に位置するか、または隣接する配列と特異的である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記一次(I)および二次(II)プライマーが、それぞれ互いに独立に、10〜100ヌクレオチドの間の長さを有する一本鎖DNAの配列からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記一次プライマー(I)が、20〜60ヌクレオチドの間の長さを有する一本鎖DNAの配列からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記一次プライマー(II)が、10〜30ヌクレオチドの間の長さを有する一本鎖DNAの配列からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
一次プライマー(I)のハイブリダイゼーションのための工程a)の前に、RNAの変性のための工程を含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
抗体を産生することができる前記細胞が、ハイブリドーマからなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記RNAが、脾細胞、結節またはBリンパ球に起源するRNAから選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記RNAが、好ましくはBリンパ球に起源する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アニーリング工程が、「ssDNAリガーゼ」と表される一本鎖DNAの5’末端と3’末端を共有結合によって結合させることができるリガーゼと接触させることにより行われる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記リガーゼが、CircLigase(商標)またはサーモファージssDNAから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
増幅工程f)が、一本鎖環状DNAの配列を増幅させることができる酵素とともに適用される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記酵素が、好ましくは、BSE DNAポリメラーゼラージフラグメント、バクテリオファージφ29の「ローリングサークルポリメラーゼ」からなる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
細胞由来のRNAの抽出物または混合物から、少なくとも1つの抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNA配列を配列決定するための方法であって、請求項1〜15のいずれか一項に記載の少なくとも1つの抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNA配列を作製するための方法を適用すること、およびDNA配列を作製するための該方法の工程g)において回収された「センス」直鎖DNAを配列決定するための工程をさらに含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項17】
細胞由来のRNAの抽出物または混合物から、少なくとも1つの抗体の少なくとも1つの重鎖または軽鎖をコードするDNAのバンクを作製するための方法であって、請求項1〜16のいずれか一項に記載の少なくとも1つの抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNA配列を作製するための方法を適用すること、および以下の工程:
h)「アンチセンス」三次プライマーと表される三次プライマー(III)を、工程g)で得られた該「センス」直鎖DNAと接触させる工程(この「アンチセンス」三次プライマー(III)は、該DNA直鎖の3’末端と5’末端の間に含まれる直鎖DNAの配列のフラグメントと特異的にハイブリダイズすることができ、定常領域Cをコードするこの直鎖DNAの配列に相当する)、
i)該三次プライマー(III)から、相補的「アンチセンス」DNA鎖の合成によりコンカテマーを作製する工程、および
j)それにより得られた二本鎖DNAコンカテマーを予め作製したベクター内にクローニングする工程
をさらに含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項18】
前記三次プライマー(III)が、定常領域Cに相当する「センス」直鎖DNAの配列の5’末端に位置するか、または隣接する配列に特異的である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程j)の前に、用いられるプライマーに相当する配列においてコンカテマーをセグメント化することからなる工程をさらに含んでなる、請求項17に記載の重鎖または軽鎖抗体鎖をコードするDNAのバンクを作製するための方法。
【請求項20】
一次プライマー(I)が、制限部位を含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
コンカテマーをセグメント化するための前記工程j)が、一次プライマー(I)に含まれる制限部位の、特異的制限エンドヌクレアーゼによる酵素的消化により適用される、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
工程j)に用いられるベクターが、免疫グロブリンの重鎖または軽鎖の定常ドメインをコードする配列をさらに含んでなる、請求項17〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
重鎖の定常ドメインをコードする前記配列が、好ましくは、膜アンカーを含む免疫グロブリン由来の配列、またはトランスメンブランC末端領域を含んでなる配列からなる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
工程j)で得られたベクターで、該ベクター内に挿入された二本鎖DNAフラグメントによりコードされた抗体の重鎖または軽鎖を発現することができる宿主細胞をトランスフェクトするための工程k)をさらに含んでなる、請求項17〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
工程k)の前記宿主細胞が、その表面で、挿入された二本鎖DNAフラグメントによりコードされた抗体を発現することができる細胞である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記宿主細胞が真核細胞である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記真核細胞が、CHO、COS、HEKおよびNIH−3T3細胞から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
RNAの抽出物または混合物が由来する細胞が、ヒト起源である、請求項1〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
抗体のライブラリーを作製するための、請求項1〜27のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項30】
所定の疾病に対する活性抗体をイン・ビトロでスクリーニングするための方法であって、請求項24〜28のいずれか一項に記載の方法が該所定の疾患に罹患している患者の血液サンプルに適用される工程を適用する、方法。
【請求項31】
前記所定の疾患が、癌である、請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a)】
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【図3b)】
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【図3c)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【公表番号】特表2011−505161(P2011−505161A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536459(P2010−536459)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066804
【国際公開番号】WO2009/080461
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【Fターム(参考)】