説明

抗体及びその使用

カテプシンS活性に関連する疾患の治療において使用され得る特異的結合メンバー、例えば抗体が記載される。特異的結合メンバーは、カテプシンSに結合し、そのタンパク質分解活性を阻害する。結合メンバーは、癌、炎症性疾患、神経変性障害、自己免疫障害などの疾患、及び過剰な、無秩序な、又は不適切な血管新生に関連した他の疾患の治療において使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(発明の分野)
本願明細書は、特異的結合メンバー及び治療方法におけるその使用に関する。特に、本願明細書は、カテプシンSに対する特異的結合メンバー、好ましくはカテプシンSのタンパク質分解活性を阻害する特異的結合メンバーに関する。
【0002】
(発明の背景)
プロテアーゼは、遺伝子産物全体の約2%を構成する、タンパク質の大きなグループである(Rawlings及びBarrett、1999年)。プロテアーゼは、ペプチド結合の加水分解を触媒し、あらゆる細胞及び生物の適切な機能に不可欠である。タンパク質分解プロセッシング事象は、骨形成、創傷治癒、血管新生、及びアポトーシスを含む広範な細胞プロセスにおいて重要である。
【0003】
リソソームのシステインプロテアーゼは、リソソーム中のタンパク質の非選択的分解を担っている酵素であると当初は考えられていた。現在、このプロテアーゼは、いくつもの重要な細胞プロセスの責任を負い、アポトーシス、抗原提示、凝血、消化、プロホルモンプロセッシング、及び細胞外マトリックスリモデリングにおいて役割を有することが公知である(Chapmanら、1997年)。
【0004】
カテプシンS(CatS)は、リソソームシステインプロテアーゼのパパインスーパーファミリーのメンバーである。これまで、11種のヒトカテプシンが同定されているが、それぞれのin vivoでの特定の役割は、いまだなお決定されていない(Katunumaら、2003年)。カテプシンB、カテプシンL、カテプシンH、カテプシンF、カテプシンO、カテプシンX、及びカテプシンCは、大半の細胞において発現されて、タンパク質代謝回転を調節する際に役割を果たしている可能性が示唆されているのに対し、カテプシンS、カテプシンK、カテプシンW、及びカテプシンVは、特定の細胞及び組織に限局されており、より特異な役割を有し得ることが指摘されている(Kosら、2001年;Berdowska、2004年)。
【0005】
CatSは、元々はウシのリンパ節及び脾臓から同定され、また、ヒト型は、ヒトマクロファージcDNAライブラリーからクローニングされた(Shiら、1992年)。CatSをコードする遺伝子は、ヒト染色体1q21上に位置している。CatS遺伝子にコードされた996塩基対の転写物は、最初に、プロセッシングされていない分子量37.5kDaの前駆タンパク質に翻訳される。プロセッシングされていないタンパク質は、331アミノ酸、すなわち15アミノ酸のシグナルペプチド、99アミノ酸のプロペプチド配列、及び217アミノ酸のペプチドから構成される。CatSは、最初はシグナルペプチドと共に発現され、このシグナルペプチドは、小胞体の管腔に移行した後に除去される。プロペプチド配列は、プロテアーゼの活性部位に結合して、酸性のエンドソーム区画に輸送されるまでプロテアーゼを不活性状態にし、その後、プロペプチド配列は除去され、プロテアーゼが活性化される(Bakerら、2003年)。
【0006】
CatSは、抗原負荷前のインバリアント鎖の切断による、主要組織適合性複合体クラスII(MHC−II)の媒介による抗原提示における重要な酵素として同定された。研究により、CatSを欠損したマウスでは、APCによって外因性タンパク質を提示する能力が障害されていることが示された(Nakagawaら、1999年)。インバリアント鎖IiのプロセッシングにおけるCatSの特異性により、喘息や自己免疫障害などの状態の治療においてCatSに特異的な治療標的が与えられる(Chapmanら、1997年)。
【0007】
(CatSの病理学的関連)
プロテアーゼ制御の変化は、しばしば、多くのヒト病理学的プロセスの発端となる。リソソームシステインプロテアーゼのカテプシンSの無秩序な発現及び活性は、神経変性障害、自己免疫疾患、及びある種の悪性腫瘍を含む様々な状態に関係があるとされている。
【0008】
CatSの発現上昇は、いくつかの神経変性障害に関係があるとされている。これは、アミロイド前駆タンパク質(APP)からβペプチド(Aβ)を産生する際にある役割を有すると考えられており(Mungerら、1995年)、かつその発現は、アルツハイマー病及びダウン症候群の双方において発現上昇されていることが示された(Lemereら、1995年)。CatSはまた、ミエリン塩基性タンパク質、すなわちMSの病因に関係があるとされている潜在的な自己抗原を分解するCatSの能力を通じて、多発性硬化症(Multiple Sclerosis)においてある役割を有する可能性もあり(Beckら、2001年)、また、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)患者においては、CatS発現が4倍以上増加することが示されている(Bakerら、2002年)。
【0009】
異常なCatS発現は、アテローム性動脈硬化症にも関連付けられている。CatS発現は正常な動脈においては無視できるが、ヒトアテロームは、強力な免疫反応性を提示する(Sukhovaら、1998年)。CatS及びLDL受容体の双方を欠損したノックアウトマウスを使用するさらに進んだ研究により、これらのマウスは、有意に程度の低いアテローム性動脈硬化症を発症することが示された(Sukhovaら、2003年)。さらなる調査により、CatS発現は、炎症性の筋肉疾患及び関節リウマチと関連付けられた。炎症性ミオパシーの患者から得た筋肉生検標本では、対照の筋肉切片と比べてCatS発現が10倍増加しており(Wiendlら、2003年)、また、CatS発現のレベルは、変形性関節症患者と比べて、関節リウマチ患者の滑液において有意に高かった(Hashimotoら、2001年)。
【0010】
CatSの役割は、特定の悪性腫瘍においても調査されている。CatSの発現は、正常組織と比較すると、肺腫瘍及び前立腺癌の切片において有意に多いことが示され(Kosら、2001年、Fernandezら、2001年)、CatSが、腫瘍の浸潤及び疾患の進行においてある役割を果たす可能性が示唆された。
【0011】
この研究室におけるCatSに関する最近の研究により、ヒト星状細胞腫におけるその発現の有意性が実証された(Flanneryら、2003年)。免疫組織化学的解析により、WHOグレードIからIVの星状細胞腫生検標本のパネルにおけるCatSの発現が示されたが、正常な星状細胞、ニューロン、乏突起膠細胞、及び内皮細胞には存在しないようであった。CatS発現は、グレードIVの腫瘍において最も強いと思われ、かつ細胞外活性のレベルは、グレードIVの腫瘍に由来する培養物において最も高かった。
【0012】
CatSは、ラミニン、コラーゲン、エラスチン、及びコンドロイチン硫酸プロテオグリカンなどのECM巨大分子の分解において活性であることが示された(Liuzzoら、1999年)。
【0013】
CatSを特異的に標的とする阻害物質の作製は、このプロテアーゼの活性に関連する症状を軽減するための治療物質としての可能性を有する。
【0014】
(CatSの阻害)
プロテアーゼが過剰発現される場合、治療戦略は、これらの酵素の活性を妨害する阻害物質の開発に焦点をあわせてきた。カテプシンに対する特異的な小分子阻害物質の作製は、選択性及び特異性に伴う問題が原因で、これまでは困難とされてきた。WalkerらによってCatSに対する強力な可逆的阻害物質として開発されたジペプチドα−ケト−β−アルデヒドは、効率はより低いが、CatB及びCatLを阻害する能力を有し(Walkerら、2000年)、また、CatS阻害物質の4−モルホリン尿素−Leu−ホモPhe−ビニルスルホン(LHVS)も、より高い濃度で使用された場合に他のカテプシンを阻害することが示された(Palmerら、1995年)。
【0015】
(発明の概要)
本明細書において記述するように、本発明者らは、カテプシンSのタンパク質分解活性を強力に阻害し、さらに腫瘍細胞の浸潤及び血管新生も阻害する、カテプシンSに対する特異性を有するモノクローナル抗体を開発した。本発明者らは、抗体のVHドメイン及びVLドメイン、並びにCDRを同定した。これは、カテプシンSのプロテアーゼ活性を直接阻害するカテプシンSに特異的な抗体を初めて実証するものであり、したがって、独自に、癌治療薬から抗炎症薬まで広範な用途を有する、特異性が高く、かつ毒性の低い活性な治療物質としてこのような抗体を使用することを可能にする。
【0016】
したがって、第1の態様において、本発明は、カテプシンSに結合し、かつそのタンパク質分解活性を阻害する特異的結合メンバーを提供する。
【0017】
一実施形態では、特異的結合メンバーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するCDR若しくはそれらの変異体のうち少なくとも1つ、及び/又は配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなるアミノ酸配列を有するCDR若しくはそれらの変異体のうち少なくとも1つを含む抗原結合ドメインを含む。
【0018】
配列番号1〜6に対応するアミノ酸配列は、以下のとおりである。
配列番号1:
SYDMS
配列番号2:
YITTGGVNTYYPDTVRG
配列番号3
HSYFDY
配列番号4:
RSSQSLVHSNGNTYLH
配列番号5:
KVSNRFS
配列番号6:
SQTTHVPPT
【0019】
本発明の第1の態様の一実施形態では、特異的結合メンバーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するCDRのうち少なくとも1つ、及び/又は配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなるアミノ酸配列を有するCDRのうち少なくとも1つを含む抗原結合ドメインを含む。
【0020】
ある実施形態では、特異的結合メンバーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するCDR又はそれらの変異体のうち少なくとも1つ、例えば少なくとも2つ若しくは3つすべて、並びに配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなるアミノ酸配列を有するCDR又はそれらの変異体のうち少なくとも1つ、例えば少なくとも2つ、例えば3つすべてを含む抗原結合ドメインを含む。
【0021】
ある特定の実施形態では、特異的結合メンバーは、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR若しくはその変異体、及び/又は配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR若しくはその変異体を含む。
【0022】
一実施形態では、特異的結合メンバーは、抗体のVドメイン若しくは抗体のVドメイン、又は双方を含む。
【0023】
一実施形態では、特異的に結合する抗体Vドメインは、配列番号1、配列番号2、配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するCDRのうち少なくとも1つ、例えば2つ若しくは3つのCDRを含み、及び/又は抗体Vドメインは、配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなるアミノ酸配列を有するCDRのうち少なくとも1つ、例えば2つ若しくは3つのCDRを含む。
【0024】
好ましい実施形態では、抗体Vドメインは、配列番号8のアミノ酸配列を含み、及び/又は抗体Vドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含む。
【0025】
配列番号7:
VQLQESGGVLVKPGGSLKLSCAASGFAFSSYDMSWVRQTPEKRLEWVAYITT
GGVNTYYPDTVKGRFTISRDNAKNTLYLQMSSLKSEDTAMYYCARHSYFDY
WGQGTTVTVSS
【0026】
配列番号8:
DVLMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQSLVHSNGNTYLHWYLQKPGQSPKLL
IYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYFCSQTTHVPPTFG
SGTKLEIKR
【0027】
特異的結合メンバーは、抗体、例えば全長抗体でよい。
【0028】
一つの代替の実施形態では、特異的結合メンバーは、scFvなどの抗体断片でよい。
【0029】
本発明の特異的結合メンバーの提供により、カテプシンSのタンパク質分解活性も阻害し、かつ同様又はより高い結合特異性を場合によっては有する、関連した抗体の開発が可能になる。
【0030】
したがって、配列番号1、配列番号2、配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するCDRのうち少なくとも1つ、及び/又は配列番号4、配列番号5、若しくは配列番号6からなるアミノ酸配列を有するCDRのうち少なくとも1つを含み、少なくとも1つのCDRにおいて5個以下、例えば4個、3個、2個、又は1個のアミノ酸が置換され、かつカテプシンSのタンパク質分解活性を阻害する能力を保持している特異的結合メンバーも、本発明の第1の態様の範囲内にさらに包含される。
【0031】
本発明の第1の態様の実施形態では、本発明の第1の態様の特異的結合メンバーは、腫瘍細胞の浸潤を阻害する能力を有する。
【0032】
別の実施形態では、本発明の第1の態様の特異的結合メンバーは、血管新生を阻害する能力を有する。
【0033】
本発明の第2の態様では、本発明の第1の態様による特異的結合メンバーをコードする核酸が提供される。
【0034】
この核酸は、本発明の第1の態様による特異的結合メンバーを提供するために使用され得る。したがって、カテプシンSのタンパク質分解活性を阻害することができる特異的結合メンバーを作製する方法であって、本発明の第2の態様による核酸を宿主細胞中で発現させるステップと、前記特異的結合メンバーを前記細胞から単離するステップとを含む方法が提供される。
【0035】
本発明の別の態様は、本発明の第1の態様の特異的結合メンバー又は本発明の第2の態様の核酸を含む薬剤組成物である。
【0036】
本発明の特異的結合メンバー、核酸、又は組成物は、特にカテプシンSが異常に活性である場合に、カテプシンSの活性を阻害するために使用され得る。典型的には、無病状態では、カテプシンSは細胞内のリソソーム内部に局在している。しかし、ある種の疾患状態では、カテプシンSは細胞から分泌される。
【0037】
したがって、別の態様において、本発明は、生物試料中のカテプシンSを阻害する方法であって、本発明の第1の態様による特異的結合メンバー又は本発明の第2の態様による核酸を投与するステップを含む方法を提供する。
【0038】
別の態様では、カテプシンSの活性に関連した状態を、状態の治療を必要とする患者において治療する方法であって、本発明の第1の態様による特異的結合メンバー又は本発明の第2の態様による核酸を投与するステップを含む方法が提供される。
【0039】
一実施形態では、状態は、カテプシンSの異常な活性に関連した状態である。
【0040】
本願明細書の文脈において、カテプシンSは、その発現又は局在化が正常な健常細胞の場合とは異なる場合、例えば、過剰発現、及び/又は通常はカテプシンSを分泌しない細胞からの分泌、細胞外局在化、細胞表面局在化(カテプシンSは、普通は細胞表面では発現されない)、或いは、ある細胞若しくは組織における、又はそれらからの、通常より多い分泌又は発現が認められ、かつその活性が疾患の状態を引き起こす場合、異常に活性であるとみなされる。
【0041】
さらに、医薬品中で使用するための、本発明の第1の態様による特異的結合メンバー又は本発明の第2の態様による核酸が提供される。
【0042】
本発明はさらに、異常なカテプシンS活性に関連した状態の治療において使用するための、本発明の第1の態様による特異的結合メンバー又は本発明の第2の態様による核酸も提供する。
【0043】
また、カテプシンSの異常な活性発現に関連した状態を治療するための医薬品を調製する際の、本発明の第1の態様による特異的結合メンバー又は本発明の第2の態様による核酸の使用も提供される。
【0044】
本発明は、カテプシンSの異常な活性が関連した任意の状態、特にカテプシンSの発現に関連した状態の治療において使用され得る。例えば、本発明が使用され得る状態には、それだけには限らないが、神経変性障害、例えばアルツハイマー病及び多発性硬化症、自己免疫障害、炎症性障害、例えば炎症性の筋肉疾患、関節リウマチ及び喘息、アテローム性動脈硬化症、腫瘍疾患、並びに過剰な、無秩序な、又は不適切な血管新生を伴う他の疾患が含まれる。
【0045】
(詳細な説明)
結合メンバー
本明細書の文脈において、“結合メンバー”は、別の分子に対する結合特異性を有する分子であり、これらの分子は、特異的結合メンバーの対を構成する。分子対の一方のメンバーは、この分子対のもう一方のメンバーの一部分又は全体に特異的に結合するか、又は相補的である領域を有し得る。本発明は、抗原−抗体タイプの反応に特に関係している。
【0046】
本明細書の文脈において、“抗体”とは、免疫グロブリン若しくはその一部分、又は抗体結合ドメインであるか、若しくは抗体結合ドメインに相同である結合ドメインを含む任意のポリペプチドを意味すると理解されるべきである。抗体には、それだけには限らないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単一特異性抗体、多特異性抗体、及びそれらの断片、並びに別のポリペプチドに融合された免疫グロブリン結合ドメインを含むキメラ抗体が含まれる。
【0047】
完全な(全長)抗体は、それぞれがVH及びVLと呼ばれる可変領域をそれぞれ有する、重鎖及び軽鎖からなる免疫グロブリン分子を含む。可変領域は、3つの相補性決定領域(CDR、超可変領域としても公知)及び4つのフレームワーク領域(FR)又は骨格からなる。CDRは、抗原分子と相補的な立体構造を形成し、抗体の特異性を決定する。
【0048】
抗体の断片は、完全な抗体の結合能力を保持することができ、完全な抗体の代わりに使用することができる。したがって、本発明の目的において、文脈において特に指示がない限り、“抗体”という用語は、抗体断片を包含すると理解されるべきである。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd、dAb、及びFv断片、scFv、二重特異性scFv、ダイアボディ、直鎖状抗体(米国特許第5,641,870号、実施例2;及びZapataら、Protein Eng8(10):1057−1062頁[1995年]を参照されたい)、単鎖抗体分子、並びに抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれる。
【0049】
Fab断片は、L鎖全体(VL及びCL)、並びにVH及びCH1からなる。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域に由来する1つ又は複数のシステインを含む、CH1ドメインのカルボキシ末端の付加的な数残基を有する点が、Fab断片と異なる。F(ab’)2断片は、ジスルフィド結合した2つのFab断片を含む。
【0050】
Fd断片は、VHドメイン及びCH1ドメインからなる。
【0051】
Fv断片は、一つの抗体のVLドメイン及びVHドメインからなる。
【0052】
単鎖Fv断片は、scFvが抗原結合部位を形成するのを可能にするリンカーによって連結されたVH及びVLドメインを含む抗体断片である(Pluckthun、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、第113巻、Rosenburg及びMoore編、Springer−Verlag、ニューヨーク、269−315頁(1994年)を参照されたい)。
【0053】
ダイアボディは、Vドメイン間の鎖間であるが鎖内ではない対形成が実現されて、多価性の断片、すなわち2つの抗原結合部位を有する断片が生じるように、VHとVLドメインの間に短いリンカー(約5−10残基)を有するscFv断片(上記の項を参照されたい)を構築することによって調製される、小型の抗体断片である(例えば、欧州特許第404 097号、国際公開第93/11161号パンフレット;及びHollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444−6448頁(1993年)を参照されたい)。
【0054】
個々のCDRも、断片にさらに包含される。
【0055】
本発明において、CatSに対する特異性を有する完全な抗体1E11のVH領域及びVL領域のアミノ酸配列が同定された。さらに、本発明者らは、この抗体の6種のCDR(配列番号1、2、3、4、5、及び6)も同定した。
【0056】
前述したように、本発明の特異的結合メンバーは、1E11抗体の特異的配列、VH、VL、及び本発明において開示される配列を有するCDRに限定されず、CatSのタンパク質分解活性を阻害する能力を維持しているそれらの変異体にも及ぶ。したがって、1つ又は複数のアミノ酸残基が改変されているCDRアミノ酸配列もまた、CDR配列として使用され得る。CDR変異体のアミノ酸配列中の改変されたアミノ酸残基は、CDR全体内で、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、最も好ましくは10%以下である。このような変異体は、本願明細書の教示及び当技術分野において公知の技術を用いて提供され得る。CDRは、抗体の重鎖配列若しくは軽鎖配列又はそれらの一部分を含むフレームワーク構造中に保有され得る。好ましくは、このようなCDRは、天然のVHドメイン及びVLドメインのCDRの位置に対応する場所に位置づけられる。このようなCDRの位置は、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、米保健福祉省(US Dept of Health and Human Services)、公衆衛生局(Public Health Service)、国立衛生研究所(Nat’l Inst.of Health)、NIHパンフレット第91−3242号、1991年で説明されているようにして、かつwww.kabatdatabase.com http://immuno.bme.nwu.eduにてオンラインで決定することができる。
【0057】
さらに、可変領域のフレームワーク領域が、その代わりに又はそれに加えて修飾されてもよい。フレームワーク領域のこのような変更は、抗体の安定性を向上させ、かつ免疫原性を減少させ得る。
【0058】
本明細書における本発明の抗体には、重鎖及び/又は軽鎖の一部分が、特定の種に由来するか、又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一又は相同であり、一方、その鎖の残りの部分が、別の種に由来するか、又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一又は相同である、“キメラ”抗体、並びに所望の生物活性を示す限りにおいて、そのような抗体の断片が含まれる(米国特許第4,816,567号、及びMorrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6851−6855頁(1984年)を参照されたい)。本明細書において、対象のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えばオナガザル(Old World Monkey)、類人猿(Ape)など)に由来する可変ドメイン抗原結合配列、及びヒト定常領域配列を含む“霊長類化”抗体が含まれる。
【0059】
特異的結合メンバーの作製
本発明の特異的結合メンバー、及び本発明において使用するための特異的結合メンバーは、天然に又は合成によって、任意の適切な方法で作製することができる。このような方法としては、例えば、従来のハイブリドーマ技術(Kohler及びMilstein(1975年)Nature、256:495−499頁)、組換えDNA技術(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)、又は抗体ライブラリーを用いたファージディスプレイ技術(例えば、Clacksonら(1991年)Nature、352:624−628頁、及びMarksら(1992年)Bio/Technology、10:779−783頁を参照されたい)を挙げることができる。他の抗体作製技術は、Antibodies:A Laboratory Manual、Harlowら編、Cold Spring Harbor Laboratory、1988年に記載されている。
【0060】
従来のハイブリドーマ技術は、典型的には、抗原に結合できるリンパ球の産生を誘発するために、抗原でマウス又は他の動物を免疫化することを含む。これらのリンパ球は単離され、かつ骨髄腫細胞株と融合されて、ハイブリドーマ細胞が形成され、次いで、親の骨髄腫細胞の増殖は阻害するが、抗体産生細胞は増殖させる条件においてこれらが培養される。ハイブリドーマは、遺伝的変異の影響を受けることがあり、これにより、産生される抗体の結合特異性が改変されることもあればされないこともある。合成抗体は、当技術分野において公知の技術を用いて作製することができる(例えば、Knappikら、J.Mol.Biol.(2000年)296、57−86頁、及びKrebsら、J.Immunol.Meth.(2001年)2154、67−84頁を参照されたい)。
【0061】
修飾は、当技術分野において公知である任意の適切な技術を用いて、結合メンバーのVH、VL、若しくはCDR中に、又は実際にFR中に施すことができる。例えば、可変性のVHドメイン及び/又はVLドメインは、CDR、例えばCDR3を、そのようなCDRを欠いているVHドメイン又はVLドメイン中に導入することによって作製することができる。Marksら(1992年)Bio/Technology、10:779−783頁では、CDR3を欠いているVH可変ドメインのレパートリーを作製し、次いで特定の抗体のCDR3と組み合わせて新規なVH領域を作製するシャッフリング技術を説明している。類似した技術を用いて、本発明のCDRに由来する配列を含む新規なVHドメイン及びVLドメインを作製することができる。
【0062】
したがって、本発明の一実施形態では、本発明は、CatSに対する特異性を有する特異的結合メンバーを作製する方法であって、(a)可変ドメインをコードする核酸の出発レパートリーを提供するステップであり、可変ドメインが、置換されるべきCDR1、CDR2、若しくはCDR3を含むか、又は核酸が、そのようなCDRをコードする領域を欠損しているステップと、(b)本明細書において配列番号1、2、3、4、5、若しくは6として示される配列を有するアミノ酸配列をコードするドナー核酸とレパートリーを組み合わせて、その結果、レパートリー中のCDR領域中にドナー核酸が挿入されて、可変ドメインをコードする核酸の作製物レパートリーを提供するようにするステップと、(c)作製物レパートリーの核酸を発現させるステップと、(d)CatSに対して特異的な特異的抗原結合断片を選択するステップと、(e)特異的抗原結合断片又はそれをコードする核酸を回収するステップとを含む方法を提供する。この方法は、カテプシンSのタンパク質分解活性を阻害する能力について特異的結合メンバーを試験する任意選択のステップを含んでもよい。
【0063】
本発明の変異抗体を作製する代替技術は、例えばエラープローンPCRを用いた、VHドメイン又はVLドメインをコードする遺伝子のランダム変異誘発を含んでよい(Gramら、1992年、P.N.A.S.89、3576−3580頁を参照されたい)。さらに、又は別法として、例えば、Barbasら、1991年、PNAS 3809−3813頁、及びScier、1996年、J Mol Biol 263、551−567頁に記載されている分子進化アプローチを用いて、CDRを変異誘発の標的としてもよい。
【0064】
このような変異体を作製した後、抗体及び断片を、CatSへの結合に関して、及びカテプシンSのタンパク質分解活性を阻害する能力に関して、試験することができる。
【0065】
本明細書において説明するように、本発明者らは、本発明による特異的結合メンバーが抗タンパク質分解効果を有することを実証した。さらに、実施例において説明するように、抗浸潤性活性及び抗血管新生活性も実証された。したがって、これにより、本発明の特異的結合メンバーを活性な治療物質として使用することが可能になる。したがって、本発明の一実施形態では、特異的結合メンバーは、“裸の(naked)”特異的結合メンバーである。“裸の”特異的結合メンバーは、“活性な治療物質”と結合されていない特異的結合メンバーである。
【0066】
本願明細書の文脈において、“活性な治療物質”とは、結合物を作製するために抗体部分(抗体断片、CDRなどを含む)に結合される分子又は原子である。このような“活性な治療物質”の例には、薬物、毒素、放射性同位体、免疫調節薬、キレート剤、ホウ素化合物、色素、ナノ粒子などが含まれる。
【0067】
本発明の別の実施形態では、特異的結合メンバーは、“活性な治療物質”に結合された抗体断片を含む、免疫複合体の形態である。
【0068】
免疫複合体を作製する方法は、当技術分野において周知である。例えば、米国特許第5,057,313号、Shihら、Int.J.Cancer 41:832−839頁(1988年);Shihら、Int.J.Cancer 46:1101−1106頁 (1990年)、Wong、Chemistry Of Protein Conjugation And Cross−Linking(CRC出版 1991年);Upeslacisら、“Modification of Antibodies by Chemical Methods”、Monoclonal Antibodies:Principles And Applications、Birchら(編)、187−230頁(Wiley−Liss社、1995年);Price、“Production and Characterization of Synthetic Peptide−Derived Antibodies”、Monoclonal Antibodies:Production,Engineering And Clinical Application、Ritterら(編)、60−84頁(ケンブリッジ大学出版局1995年)を参照されたい。
【0069】
本発明の特異的結合メンバーは、さらなる修飾を含み得る。例えば、これらの抗体を、グリコシル化するか、ペグ化するか、又はアルブミン若しくは非タンパク性ポリマーに連結することができる。特異的結合メンバーは、免疫複合体の形態であってもよい。
【0070】
本発明の抗体は、標識されてもよい。使用され得る標識としては、放射能標識、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼなどの酵素標識、又はビオチンが挙げられる。
【0071】
特異的結合メンバーがカテプシンSのタンパク質分解活性を阻害する能力は、任意の適切な方法を用いて試験することができる。例えば、特異的結合メンバーがカテプシンSのタンパク質分解活性を阻害する能力は、実施例において詳述する蛍光分析を用いて試験することができる。このようなアッセイでは、任意の適切な蛍光発生基質(fluorigenic substrate)、例えば、実施例において使用されるCbz−Val−Val−Arg−AMCが使用され得る。特異的結合メンバーは、カテプシンSの活性を統計学的に有意な量だけ阻害する能力を有する場合に、カテプシンSのタンパク質分解活性を阻害するとみなされる。例えば、一実施形態では、特異的結合メンバーは、適切な対照の抗体と比べた場合に、少なくとも10%、例えば少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%、阻害性活性を阻害することができる。
【0072】
特異的結合メンバーが腫瘍細胞の浸潤を阻害する能力は、当技術分野において公知である任意の適切な浸潤アッセイを用いて試験することができる。例えば、このような能力は、実施例において説明するような改良型ボイデンチャンバーを用いて試験することができる。特異的結合メンバーは、任意の適切な腫瘍細胞株、例えば前立腺癌細胞株、例えばPC3、星状細胞腫細胞株、例えばU251mg、結腸直腸癌細胞株、例えばHCT116、又は乳癌細胞株、例えばMDA−MB−231若しくはMCF7を用いて、試験することができる。特異的結合メンバーは、浸潤を統計学的に有意な量だけ阻害する能力を有する場合に、腫瘍細胞の浸潤を阻害するとみなされる。例えば、一実施形態では、特異的結合メンバーは、適切な対照の抗体と比べた場合に、少なくとも10%、例えば少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%、浸潤を阻害することができる。
【0073】
特異的結合メンバーが血管新生を阻害する能力は、当技術分野において公知である任意の適切なアッセイを用いて試験することができる。例えば、このような能力は、実施例において説明するようなマトリゲル(Matrigel)ベースのアッセイを用いて試験することができる。
【0074】
本発明の一実施形態では、本発明において使用するための特異的結合メンバーは、それぞれその独自のIC50において比較した場合に、配列番号7のアミノ酸配列を有する抗体Vドメイン及び配列番号8のアミノ酸配列を有する抗体Vドメインを含む抗体の阻害効力の少なくとも25%、例えば少なくとも40%、例えば少なくとも50%の効力を有する、(例えば、タンパク質分解活性又は浸潤を阻害する)阻害活性を有し得る。
【0075】
核酸
本発明の核酸及び本発明において使用するための核酸は、DNA又はRNAを含み得る。これは、組換えによって、合成によって、又は標準的技術を用いるクローニングを含む、当業者が利用可能な任意の手段によって作製され得る。
【0076】
核酸は、任意の適切なベクターに挿入することができる。本発明の核酸を含むベクターは、本発明の別の態様となる。一実施形態では、ベクターは発現ベクターであり、核酸は、宿主細胞におけるその核酸の発現を実現することができる制御配列に作動可能に連結されている。様々なベクターが使用され得る。例えば、適切なベクターとしては、ウイルス(例えばワクシニアウイルス、アデノウイルスなど)、バキュロウイルス);酵母ベクター、ファージ、染色体、人工染色体、プラスミド、又はコスミドDNAを挙げることができる。
【0077】
これらのベクターは、宿主細胞中に本発明の核酸を導入するために使用することができる。多種多様の宿主細胞が、本発明の核酸を発現するために使用され得る。本発明において使用するための適切な宿主細胞は、原核生物細胞でも真核生物細胞でもよい。これらには、例えば、大腸菌などの細菌、酵母、昆虫細胞、及び哺乳動物細胞が含まれる。使用され得る哺乳動物細胞株としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞、仔ハムスター腎臓細胞、NSOマウス黒色腫細胞、サル細胞株及びヒト細胞株並びにそれらの派生物、並びにその他多数が挙げられる。
【0078】
遺伝子産物の発現を調節、遺伝子産物を修飾、及び/又は特異的にプロセッシングする宿主細胞株が使用され得る。このようなプロセッシングは、グリコシル化、ユビキチン化、ジスルフィド結合形成、及び一般的な翻訳後修飾を含み得る。
【0079】
したがって、本発明は、本発明の1つ若しくは複数の核酸又はベクターを含む宿主細胞も提供する。
【0080】
また、本発明の特異的結合メンバーを作製する方法であって、本発明の核酸を含む宿主細胞を、その核酸からの核の特異的結合メンバーの発現が起こる条件下で培養するステップと、場合によっては、その特異的結合メンバーを単離及び/又は精製するステップとを含む方法も、本発明に包含される。
【0081】
例えば、核酸構築物の調製、変異誘発、配列決定、細胞へのDNAの導入及び遺伝子発現、並びにタンパク質の解析において、核酸を操作するための公知の技術及びプロトコールに関係したさらに詳しい内容については、例えば、Current Protocols in Molecular Biology、第5版、Ausubelら編、JohnWiley&Sons、2005年、及びMolecular Cloning:a Laboratory Manual:第3版、Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年を参照されたい。
【0082】
治療
本発明の特異的結合メンバー及び核酸は、いくつかの医学的状態の治療において使用することができる。
【0083】
治療には、ヒト又は非ヒト動物に利益を与え得る任意の治療計画が含まれる。治療は、既存の状態に関してでもよく、又は予防的(予防的治療)であってもよい。治療は、治癒的効果、軽減効果、又は予防効果を含み得る。
【0084】
本発明の特異的結合メンバー及び核酸は、様々な状態及び障害の治療において使用することができる。これらには、アテローム性動脈硬化症及び腫瘍疾患、神経変性障害、自己免疫疾患、癌、炎症性障害、喘息、並びにアテローム性動脈硬化症、及び疼痛が含まれる。
【0085】
本発明の結合メンバー、核酸、及び方法を用いて治療することができる神経変性障害としては、それだけには限らないが、アルツハイマー病、多発性硬化症、及びクロイツフェルト・ヤコブ病が挙げられる。
【0086】
本発明を使用する対象となり得る自己免疫疾患としては、炎症性の筋肉疾患及び関節リウマチが挙げられる。
【0087】
本発明の結合メンバー、核酸、及び方法は、癌の治療において使用することもできる。
【0088】
“癌の治療”は、癌増殖及び/又は血管新生によって引き起こされる状態の治療を含み、かつ腫瘍性成長又は腫瘍の治療を含む。本発明を用いて治療することができる腫瘍の例は、例えば、骨原性肉腫及び軟部組織肉腫を含む肉腫、上皮性悪性腫瘍、例えば乳癌、肺癌、膀胱癌、甲状腺癌、前立腺癌、結腸癌、直腸癌、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、子宮癌、前立腺、子宮頸部、及び卵巣の癌、非小細胞肺癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫を含むリンパ腫、神経芽細胞腫、黒色腫、骨髄腫、ウィルムス腫瘍、並びに急性リンパ性白血病及び急性骨髄芽球性白血病を含む白血病、星状細胞腫、神経膠腫、及び網膜芽細胞腫である。
【0089】
本発明は、既存の癌の治療、及び初期の治療若しくは外科手術後の癌の再発予防において特に有用な場合がある。
【0090】
本発明の特異的結合メンバー、核酸、及び組成物はまた、血管新生によって媒介されるか、又は血管新生に関連した他の障害の治療において使用することもできる。このような状態としては、例えば、腫瘍、様々な自己免疫障害、遺伝性障害、眼の障害が挙げられる。
【0091】
本発明の方法は、血管腫、充実性腫瘍、白血病、転移、毛細血管拡張症、乾癬、強皮症、化膿性肉芽腫、心筋の血管形成、クローン病、プラークの新血管新生、冠状動脈側枝、大脳側枝、動静脈奇形、虚血肢血管新生、角膜疾患、ルベオーシス、血管新生緑内障、糖尿病性網膜症、水晶体後線維増殖症、関節炎、糖尿病性新血管新生、黄斑変性症、消化性潰瘍、ヘリコバクターに関連した疾患、骨折、ケロイド、及び脈管形成を含む、血管新生の媒介による障害を治療するのに使用され得る。
【0092】
治療することができる具体的な疾患、並びに本発明の方法において使用するための化合物及び組成物は、下記により詳細に説明する。
【0093】
血管新生によって媒介される眼の障害
様々な眼の障害は、血管新生によって媒介され、かつ本明細書において説明する方法を用いて治療することができる。血管新生によって媒介される疾患の1つの例は、眼の血管新生疾患であり、これは、眼の構造体中への新しい血管の侵入を特徴とし、失明の最も一般的な原因である。加齢による黄斑変性症では、関連する視覚的問題は、網膜色素上皮の下の線維血管性組織の増殖を伴うブルッフ膜の欠陥による、脈絡膜毛細血管の内方成長によって引き起こされる。加齢黄斑変性症の最も重度の形態(“滲出型”ARMDとして公知)では、異常な血管新生が網膜の下で起こり、結果として不可逆的な視力の低下をもたらす。視力の低下は、新しい血管からの出血に続いて起こる網膜の瘢痕化が原因である。“滲出型”ARMDの現在の治療は、不都合な血管を破壊するためのレーザーを用いた治療法を利用している。しかし、レーザーは、上を覆っている網膜に永久に傷跡を残すことがあり、かつ不都合な血管が再び成長することがしばしばあるため、この治療は理想的ではない。黄斑変性症に対する代替の治療戦略は、黄斑変性症から最も重度の視力低下を引き起こす新しい血管の形成又は血管新生を阻害する、抗血管新生物質の使用である。
【0094】
血管新生による損傷は、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植片拒絶、血管新生緑内障、及び水晶体後線維増殖症にも関連している。角膜の新血管新生に関連している他の疾患としては、それだけには限らないが、流行性角結膜炎、ビタミンA欠乏症、アトピー性角膜炎、上方輪部角膜炎、翼状片乾性角膜炎、類天疱瘡放射状角膜切開術(periphigoid radial keratotomy)、及び角膜移植片拒絶が挙げられる。網膜/脈絡膜の新血管新生に関連した疾患としては、それだけには限らないが、糖尿病性網膜症、黄斑変性症、推測される近視、視窩(optic pits)、慢性の網膜剥離、過粘稠度症候群、外傷及びレーザー処置後の合併症が挙げられる。他の疾患としては、それだけには限らないが、ルベオーシス(隅角の新血管新生)に関連した疾患、及びあらゆる形態の増殖性硝子体網膜症を含めて、線維血管組織又は線維性組織の異常な増殖によって引き起こされる疾患が挙げられる。
【0095】
したがって、本発明のある実施形態では、本発明の方法は、血管新生に媒介される眼の疾患、例えば、黄斑変性症の治療において使用され得る。
【0096】
炎症
本発明の特異的結合メンバー及び方法は、炎症の治療において使用され得る。CatSの活性を妨害することにより、特異的結合メンバーは、“炎症を起こした”細胞における適切な抗原提示を妨げ、したがって、炎症性の作用を弱めることができる。
【0097】
このような実施形態では、抗体は、理想的には細胞中に取り込まれて、リソソームに移行する。したがって、当技術分野において一般的な標的化方法を使用することができる。実施例において示されるように、pH結合実験から、本発明者らは、抗体がpH4.9でも結合することを実証し、このことは、抗体がリソソーム中で効果的であり得ることを示唆している。
【0098】
本発明の方法は、関節リウマチや変形性関節症など様々な形態の関節炎を含めて、血管新生に関連した炎症を治療するのにも使用され得る。
【0099】
さらに、これらの方法において、本明細書において説明する化合物と、これらの障害を治療するのに有用な他の作用物質との組合せを用いた治療も提供される。このような作用物質としては、例えば、当業者には周知であるシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)阻害剤が挙げられる。
【0100】
関節の滑膜表層中の血管は、血管新生を経ることがある。内皮細胞は新しい血管網を形成し、かつパンヌスの増殖及び軟骨破壊をもたらす因子及び活性酸素種を放出する。これらの因子は、関節リウマチ、及び同様に変形性関節症に能動的に寄与すると考えられている。血管新生関連因子による軟骨細胞の活性化は、関節破壊の一因となり、かつ新しい骨の形成も促進する。本明細書において説明する方法は、骨破壊及び新しい骨の形成を妨げる治療的介入として使用することができる。
【0101】
病理学的な血管新生は、慢性炎症にも関与していると考えられている。本明細書において説明する方法を用いて治療することができる障害の例としては、潰瘍性大腸炎、クローン病、バルトネラ症、及びアテローム性動脈硬化症が挙げられる。
【0102】
薬剤組成物
結合メンバー及び核酸は、薬剤組成物として投与され得る。本発明による薬剤組成物、及び本発明に従って使用するための薬剤組成物は、活性成分に加えて、製薬上許容される賦形剤、担体、緩衝安定剤、又は当業者に周知の他の物質を含んでよい(例えば、Remington:the Science and Practice of Pharmacy、第21版、Gennaro ARら編、Lippincott Williams&Wilkins、2005年を参照されたい)。このような物質としては、酢酸、Tris、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸などの緩衝剤;抗酸化剤;保存剤;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジンなどのアミノ酸;炭水化物;キレート剤;等張化剤(tonicifier);並びに界面活性剤を挙げることができる。
【0103】
これらの薬剤組成物は、本発明の結合メンバー、核酸、又は組成物の活性に悪影響を及ぼさない補完的な活性を好ましくは有する、治療される具体的な適応症に対する必要に応じて選択される1種又は複数種の別の活性化合物も含んでよい。例えば、癌の治療では、本発明の抗CatS特異的結合メンバーに加えて、製剤は、CatS上の異なるエピトープに結合する別の抗体、若しくは、例えば、特定の癌の増殖に影響を及ぼす増殖因子など他のなんらかの標的に対する抗体、及び/又は化学療法剤を含んでよい。
【0104】
活性成分(例えば、特異的結合メンバー及び/又は化学療法剤)は、マイクロスフェア、マイクロカプセルリポソーム、他の微粒子送達系を介して投与することができる。例えば、活性成分は、マイクロカプセル内部に閉じ込めることができ、これらのマイクロカプセルは、例えば、コアセルベーション技術若しくは界面重合により、例えば、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)又はマクロエマルジョン中の、それぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ(メチルメタシラート(methylmethacylate))マイクロカプセルとして、調製することができる。さらに詳細な内容については、Remington:the Science and Practice of Pharmacy、第21版、Gennaro ARら編、Lippincott Williams&Wilkins、2005年を参照されたい。
【0105】
持続放出製剤は、活性物質を送達するために使用することができる。持続放出製剤の適切な例としては、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが挙げられ、マトリックスは造形品、例えばフィルム剤、座剤、又はマイクロカプセル剤の形態である。持続放出マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸及びエチル−L−グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン酢酸ビニル、分解性の乳酸−グリコール酸コポリマー、並びにポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0106】
前述したように、本発明の核酸は、治療の方法において使用することもできる。本発明の核酸は、当技術分野において公知の任意の適切な技術を用いて、対象の細胞に送達することができる。核酸(場合によってはベクター中に含まれる)は、in vivo又はex vivoの技術を用いて患者の細胞に送達することができる。in vivo技術の場合、ウイルスベクター(アデノウイルス、単純ヘルペスI型ウイルス、又はアデノ随伴ウイルスなど)及び脂質ベースの系(脂質の媒介による遺伝子導入に有用な脂質は、例えばDOTMA、DOPE、及びDC−Cholである)によるトランスフェクションを使用することができる(例えば、Andersonら、Science 256:808−813頁(1992年)を参照されたい。国際公開第93/25673号パンフレットも参照されたい)。
【0107】
ex vivo技術では、核酸は、単離された患者の細胞中に導入され、改変されたその細胞が患者に直接投与されるか、又は例えば、多孔性膜の内部に封入されて、患者に移植される(例えば米国特許第4,892,583号及び米国特許第5,283,187号を参照されたい)。生細胞中に核酸を導入するために利用可能な技術としては、レトロウイルスベクター、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE−デキストランの使用、リン酸カルシウム沈殿法などを挙げることができる。
【0108】
結合メンバー、作用物質、作製物、又は組成物は、腫瘍部位若しくは他の所望の部位に局部的な様式で投与してもよく、又は腫瘍若しくは他の細胞を標的とする様式で送達してもよい。ターゲティング療法は、抗体又は細胞特異的リガンドなどのターゲティング系の使用により、特定のタイプの細胞により特異的に活性物質を送達するのに使用され得る。ターゲティングは、様々な理由から、例えば、作用物質の毒性が容認し難いほどである場合、又は別の方法では必要とする投薬量が多くなりすぎると考えられる場合、若しくは別の方法では標的細胞に移行することができないと考えられる場合、望ましいことがある。
【0109】
用量
本発明の結合メンバー、核酸、又は組成物は、好ましくは、個体への利益を示すのに十分な量である“治療有効量”で個体に投与される。実際の投与計画は、治療される状態、その重症度、治療される患者、使用される作用物質を含むいくつもの因子に応じて変わり、かつ医師の裁量によると考えられる。
【0110】
最適な用量は、例えば、年齢、性別、体重、治療される状態の重症度、投与される活性成分、及び投与経路を含むいくつものパラメーターに基づいて、医師が決定することができる。
【0111】
大まかな指針としては、抗体の用量は、患者の体重1kg当たり1ng−500mgの量で与えることができる。
【0112】
次に、以下の非限定的な実施例において、本発明をさらに詳しく説明する。添付図を参照されたい。
【0113】
材料及び方法
クローニング
成熟したCatSタンパク質をコードしているDNA配列を、BamH1及びSal1の制限部位(小文字によって示される)をコードする遺伝子特異的プライマーを用いて、脾臓のcDNAライブラリーからPCRによって増幅した(図1)。
【0114】
センス: TTT TTT gga tcc TTG CCT GAT TCT GTG GAC TGG AGA
アンチセンス: TTT TTT gtc gac CTA GAT TTC TGG GTA AGA GG
【0115】
CatS遺伝子を細菌発現ベクターpQE30中にクローニングして、組換えタンパク質のN末端にヘキサヒスチジンタグを組み込ませた。次いで、この構築物を用いて、コンピテントなTOP10F’大腸菌細胞(Invitrogen社)を形質転換させた。マルチクローニング部位に隣接するベクターに特異的なプライマーを用いたコロニーPCRによって、陽性の形質転換体を選択した(図2)。
【0116】
組換えCatSタンパク質の発現
50μMアンピシリンを添加したルリア・ベルターニ(LB)ブロス5ml中で、37℃で一晩、陽性のクローンを増殖させた。この培養物の300μlのアリコートを二次培養物の接種のために確保し、試料の残りの部分は、Qiagenミニプレップキットを用いてミニプレップし、かつDNA配列決定によって配列を確認した。
【0117】
3つの二次培養物を接種して、タンパク質発現を可視化させた。培養物のODがそれぞれ0.2、0.5、及び1.0(A550)となったときに、培養物をIPTG(最終濃度1mM)を用いて誘導し、その後、37℃で4時間放置した。次いで、4000rpmで15分間の遠心分離によって細胞を回収し、リゾナーゼ1μlを添加したPBS/0.1%イゲパル(Igepal)1ml中に沈殿物を再懸濁した。次に、SDS−PAGE及びウェスタンブロット法によって試料を解析して、タンパク質の発現を確認した。クーマシーブルー中でSDS−PAGEゲルを一晩染色し、翌日に脱染した(図3)。
【0118】
次いで、二次培養物を接種原として用い、培養物が最適な光学濃度に達したらIPTGを用いて誘導して、アンピシリンを添加したLBブロス500ml中で組換えCatSタンパク質を発現させた。この培養物を5000rpmで15分間遠心分離し、かつ沈殿物をタンパク質精製のために確保した。
【0119】
タンパク質精製
誘導された組換えタンパク質を、50mlの8M尿素緩衝液(尿素480g、NaCl 29g、NaH2PO4(二水和物)3.12g、イミダゾール0.34g)中に一晩溶解させた。この溶液を6000rpmで1時間遠心分離し、その後、0.8μmのギロディスク(gyrodisc)フィルターを用いて上清をろ過した後、精製した。
【0120】
N末端のヘキサヒスチジンタグに基づいてタンパク質を精製し、固定化金属アフィニティクロマトグラフィーによるオンカラムリフォールディングによってリフォールディングさせた。アクタプライム(Aktaprime)に取り付ける前に、100mM硫酸ニッケルを用いてハイトラップキレーティングカラム(Amersham Biosciences社)をチャージさせた。リフォールディングは、8M尿素緩衝液を5mMイミダゾール洗浄緩衝液(NaCl 29g、NaH2PO4(二水和物)3.12g、イミダゾール0.34g、pH8.0)と交換し、500mMイミダゾール溶出緩衝液(NaCl 29g、NaH2PO4(二水和物)3.12g、イミダゾール34g)を用いてタンパク質を溶出させることによって、行った。精製された組換えタンパク質の溶出プロファイルを記録した。これは、図4aにおいて確認することができる。
【0121】
溶出された画分をSDS−PAGE解析に供して、溶出画分中の組換えタンパク質の存在を確認した。ゲルをクーマシーブルーで一晩染色し、続いて脱染して、CatSタンパク質を含む画分を決定した(図4b)。
【0122】
抗体作製
リフォールディングされたタンパク質を免疫原として用いて、モノクローナル抗体を作製した。5匹のBALB/Cマウスを、3週間間隔で精製組換えタンパク質150μgで免疫化し、3回及び5回の追加免疫後に抗体力価を解析した。各動物から試験血液を採取し、抗原100ngに対して、ウェスタンブロット法において希釈率1:1000で試験した。(前述したように)3,3’−ジアミノベンジン(DAB)を用いてブロットを発色させた(図5)。
【0123】
5回目の追加免疫後、脾臓をマウスから取り出し、かつ標準的なプロトコールに従って、抗体産生B細胞をSP2骨髄腫細胞と融合させた。ハイブリドーマ融合後5日目に、HAT培地を新しいものに交換し、さらに5日後、プレートの細胞増殖を検査した。組換えタンパク質に対するELISAによってクローンをスクリーニングし、選択した陽性のハイブリドーマを限界希釈によって2回クローニングした。
【0124】
ELISA
モノクローナル抗体をELISAによってスクリーニングして、どのクローンを増殖させるべきか決定した。スクリーニング抗原(100ng/ウェル)を含む、コーティング用緩衝液(緩衝液A:炭酸水素ナトリウム0.42g/HO 100μl、緩衝液B:炭酸ナトリウム0.53g/HO 100μl、pH9.5)100μlを各ウェルに添加することによって、組換え抗原でMaxi Sorb96ウェルプレートをコーティングした。非特異的なクローンを排除するために、対照の抗原も使用した。これらのプレートを37℃で1時間インキュベートして、抗原をウェルに結合させ、次いで、各ウェルに200μlのPBS/3%BSAを添加することにより、室温で1時間ブロッキングした。
【0125】
ブロッキング溶液をプレートから除去し、ハイブリドーマ上清100μlを、陽性の抗原及び対照の抗原のウェルに添加した。スクリーニングプレートを室温で1時間、振とう機(rocker)上で上清と共にインキュベートした。プレートをPBS−Tで3回洗浄し、その後、ヤギ抗マウスHRP結合二次抗体100μl(1:3000)を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS−Tで3回洗浄し、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)100μlを各ウェルに添加し、37℃で5分間インキュベートした。呈色によって陽性のウェルを示し、1M HCL 50μlを添加することによって反応を停止させた。分光光度計により450nmでプレートを読み取り、スクリーニングウェルが陽性の測定値を提示し(+)、対照ウェルが陰性の測定値を提示している(−)試料を、さらに研究するために選択した(図6)。元のウェルの細胞を24ウェルプレート中に移し、増殖させた。
【0126】
ウェスタンブロット法
ハイブリドーマ細胞株から得た上清をウェスタンブロット法によって解析して、モノクローナル抗体が、CatSが高発現されるグレードIVの星状細胞腫細胞株U251mg中の内在性の天然CatSタンパク質を検出する能力を判定した。U251mg細胞全体の溶解物の30μg/mlのアリコートをSDS−PAGEによって分離し、Hybond−C Extraニトロセルロースメンブレン(Amersham Biosciences社)上に移した。室温で1時間、PBS/5%マーベル(marvel)中でインキュベーションすることによってメンブレンをブロッキングし、その後PBS中で手短にゆすいだ。モノクローナル抗体は、PBS中で1:500に希釈して使用し、4℃で一晩、穏やかに揺り動かしながらメンブレン上でインキュベートした。次いで、PBS/1%マーベル及び0.1%Tween−20でブロットを3回ゆすぎ、次いで、希釈率1:3000のヤギ抗マウスHRP結合二次抗体と共に、振とうしながら室温で1時間インキュベートした。次いで、PBS/1%マーベル及び0.1%Tween−20溶液でブロットを3回ゆすぎ、続いてPBS中で軽くゆすいだ。ブロットをECLプラス基質(Amersham Biosciences社)と共に室温で5分間インキュベートした後、安全な光条件下でコダック(Kodak)社製写真フィルムを用いて現像した(図7)。
【0127】
潜在的な阻害抗体を同定するためのハイスループットなスクリーニング
モノクローナル抗体の阻害効果を、CatS合成基質Z−Val−Val−Arg−AMC(Bachem社)及び組換えヒトCatS(Calbiochem社)を用いて、蛍光分析により決定した。アッセイの前に、37℃で30分間、酢酸ナトリウム緩衝液(100mM酢酸ナトリウム、1mM EDTA、0.1%Brij90、pH5.5)及び2mMジチオトレイトール(DTT)中で組換えCatS酵素を活性化させた。アッセイは、酢酸ナトリウム/DTT緩衝液(90:1)190μl、活性化CatS 1μl、10mM Cbz−Val−Val−Arg−AMC基質12.5μl、及び未精製のモノクローナル抗体上清50μlを用いて実施した。蛍光は、励起波長375nm及び励起光波長460nmにて、5分毎に4時間、測定した(図8)。これから、5つのモノクローナル抗体分泌細胞株を大規模な増殖、精製のために選択した。(アイソタイプ決定の結果に応じて)プロテインGカラム又はプロテインMカラムのいずれかを使用するアフィニティクロマトグラフィーによって、ハイブリドーマ上清を精製した(代表図9)。
【0128】
モノクローナル抗体のアイソタイプ決定
精製する前に、Pierce社製のImmunoPure(登録商標)モノクローナル抗体アイソタイピングキットを用いて、大規模増殖のために選択したモノクローナル抗体のアイソタイプを決定した。96ウェルプレート上のウェル10個をヤギ抗マウスコーティング抗体50μlでコーティングし、かつ室温で2時間インキュベートした。これらのウェルを、ブロッキング溶液125μlを用いて室温で1時間インキュベートし、非特異的結合を防止するためにブロッキングした。次いで、洗浄緩衝液125μlでウェルを4回洗浄した。ウェル10個のうちウェル9個はハイブリドーマ上清50μlと共にインキュベートし、10番目のウェルには陽性の対照溶液50μlを添加し、室温で1時間インキュベートした。これらのウェルを洗浄緩衝液125μlでもう一度洗浄した後、サブクラスに特異的な抗マウス免疫グロブリン及び対照50μlを10個の個々のウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これらのウェルを洗浄緩衝液125μlで4回洗浄した後、ABTS基質溶液100μlを各ウェルに添加して、室温で30分間反応させた。結果は、分光光度計を用いて405nmで読み取った(図10)。
【0129】
蛍光分析
精製したモノクローナル抗体を、CatSの活性を阻害する能力を定量するために、蛍光分析によって解析した。このアッセイの原理は、以前に使用したものと同じである。蛍光は、励起波長375nm及び励起波長460nmにて、1分毎に1時間、測定した(図11)。これらの進行曲線は、緩徐な結合の可逆的阻害物質の作用を示している。次いで、得られた見かけの一次反応速度曲線(first order rate order curves)を、図に示したように(図12)、GraFitソフトウェアを用いた非線形回帰解析(Morrison及びWalsh、1988年)に供して、Kを533nMと算出した。カテプシンL及びカテプシンKを用いた対照の蛍光分析を、50μMの蛍光発生基質(fluorogenic substrate)Cbz−Phe−Arg−AMCを用いて前述したように実施して(図14及び図15)、CatSに対する阻害活性が実際に特異的であることを実証した。
【0130】
抗体結合の特異性
前述したようにウェスタンブロットを実施して、CatB、CatL、及びCatKに対してではなくCatSに対する抗体結合の特異性を示した。手短に言えば、組換えCatS、CatK、CatL、及びCatB 100ngをSDS−PAGEゲル上に添加し、次いでHybond−C Extraニトロセルロースメンブレン(Amersham Biosciences社)上に移した。室温で1時間、PBS/5%マーベル中でインキュベーションすることによってメンブレンをブロッキングし、その後PBS中で手短にゆすいだ。モノクローナル抗体は、PBS中で1:500に希釈して使用し、4℃で一晩、穏やかに揺り動かしながらメンブレン上でインキュベートした。次いで、PBS/1%マーベル及び0.1%Tween−20でブロットを3回ゆすぎ、希釈率1:3000のヤギ抗マウスHRP結合二次抗体と共に、振とうしながら室温で1時間インキュベートした。次いで、PBS/1%マーベル及び0.1%Tween−20溶液でブロットを3回ゆすぎ、続いてPBS中で軽くゆすいだ。ブロットをECLプラス基質(Amersham Biosciences社)と共に室温で5分間インキュベートした後、安全な光条件下でコダック社製写真フィルムを用いて現像した(図15)。
【0131】
結合の特異性は、抗原固定化ELISAによっても決定した。前述したようにしてこれらを実施して、CatSに対する抗体の特異性及び親和性を判定した。特異性を判定するために、デュプリケートで、100ng/ウェルのカテプシンS、カテプシンL、カテプシンK、及びカテプシンBで96ウェルプレートをコーティングし、所定の濃度のCatS mAb(1×10−7〜1×10−12)と共にインキュベートした(図16)。
【0132】
さらに、あるpH範囲において抗体がCatSに結合する能力も検査した。このELISAは、100ng/ウェルのCatS抗原でコーティングした96ウェルプレート上で実施し、所与のpH値に調整した50mM Bis−Tris HCl緩衝液中の抗体希釈液をプレートに添加して、一連の異なるpH値にて所定の濃度のCatS mAb(1×10−7〜1×10−12)と共にインキュベートし、抗体の親和性の判定を可能にした(図17)。この検査から、pH5.5〜pH7.5では結合は同様であるが、pH4.9ではわずかに減少していることが明らかになった。
【0133】
モノクローナル配列決定
阻害性モノクローナル抗体の配列決定のために、ハイブリドーマ細胞株からRNAを抽出し、RT−PCRによってVH領域及びVL領域を増幅した(図18)。Invitrogen社製のTOPO TAキットを用いてPCR生成物をクローニングし、ベクターに特異的なプライマーを用いたコロニーPCRによって陽性のコロニーを確認し(図19)、また、DNA配列決定により、阻害性モノクローナル抗体のVH領域及びVL領域のコンセンサス配列を導き出した(図20)。
【0134】
RT−PCRによる、腫瘍細胞株中のCatSの存在の確認
製造業者の取扱い説明書に従ってAbsolutely RNA(商標)RT−PCR Miniprepキット(Stratagene社)を用いて、U251mg、MCF7、HCT116、及びPC3細胞株からRNAを抽出し、かつ分光光度計によって定量した。RT−PCRは、以下の条件下で、ワンステップRT−PCRキット(Qiagen社)を用いて実施した:50℃で30分間、95℃で15分間、並びに94℃で1分間、55℃で1分30秒間、及び72℃で1分間を40サイクル、続いて最後に72℃で10分間。CatSに対するプライマー配列は以下のとおりであった。CatS F:GGGTACCTCATGTGACAAG、CatS R:TCACTTCTTCACTGGTCATG。β−アクチン遺伝子の増幅を内部対照として用いて、等量のローディングを示した。アクチン F:ATCTGGCACCACACCTTCTACAATGAGCTGCG。アクチン R:CGTCATACTCCTGCTTGCTGATCCACATCTGC。RT−PCR生成物をアガロースゲル電気泳動によって解析した(図21)。
【0135】
in vitroの浸潤アッセイ
細孔サイズ12μmのメンブレン(Costar Transwellプレート、Corning Costar社、ケンブリッジ、マサチューセッツ州、米国)を付けた改良型ボイデンチャンバーを用いて、in vitroの浸潤アッセイを実施した。メンブレンをマトリゲル(100μg/cm)(Becton Dickinson社、オックスフォード、英国)でコーティングし、層流フード中で一晩乾燥させた。所定の濃度のCatS阻害抗体又は対照抗体の存在下で、各ウェルの無血清培地500μl中に細胞を添加した。アッセイはすべてトリプリケートで実施し、浸潤プレートを37℃、5%COで24時間インキュベートした後、メンブレンの上側の面に残っている細胞を除去し、かつ浸潤した細胞をカルノア固定液中で15分間固定した。乾燥させた後、浸潤した細胞の核を、室温で30分間、PBS中ヘキスト(Hoechst)33258(50ng/ml)で染色した。チャンバーインサートをPBS中で2回洗浄し、シチフルオル(Citifluor)中にマウントし、また、Nikon Eclipse TE300蛍光顕微鏡を用いて浸潤細胞を観察した。Nikon DXM1200デジタルカメラを拡大率20倍で用いて、3つのメンブレンのそれぞれの代表的な領域のデジタル画像10枚を撮影した。これらの結果を、Laboratory Imaging社のLucia GF 4.60を用いて解析し、浸潤細胞のパーセンテージとして表した(図22−26)。
【0136】
毛細血管様管(Capillary−Like Tube)の形成のアッセイ
CatS mAbの抗血管新生特性を、HUVEC細胞を用いた微小管形成アッセイ(microtuble formation assay)によって評価した。内皮細胞の管形成に対する抗体の影響を以下のようにして評価した:マトリゲル(10mg/ml)200μlを、予冷しておいた48ウェルプレートに添加し、4℃で10分間インキュベートし、次いで37℃で1時間、重合させた。200nMの適切な抗体を含む、内皮細胞増殖培地MV(Promocell社)中に細胞を懸濁させた。500μl(1×10細胞)を各ウェルに添加した。対照として、適切な体積のPBSを含む、ビヒクル(vehicle)のみの対照培地と共に細胞をインキュベートした。37℃及び5%CO2で24時間インキュベーションした後、Nikon Eclipse TE300顕微鏡を用いて細胞を観察した。
【0137】
1E11 Mabの存在下で増殖させた細胞は、微小管を形成する能力を示さず、CatS特異的抗体が、微小管形成を阻害する能力を有することが示され、細胞遊走及び血管新生に影響を与える抗腫瘍形成(anti−tumourogenic)の特性が示された(図27)。対照のアイソタイプ抗体の存在下で増殖させた細胞は、正常な微小管形成を示した。
【0138】
本明細書において参照される文献はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。記述した本発明の実施形態に対する様々な修正及び変更は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく当業者には明らかになると考えられる。特定の好ましい実施形態に関連して本発明を記述したが、特許請求の範囲の本発明は、このような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際に、当業者には明らかである、本発明を実施するための説明した様式の様々な修正は、本発明によって包含されるものとする。
【0139】
(参考文献)
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【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】図1は、脾臓cDNAライブラリーからのCatSのPCR増幅を示す。M:DNA 1KBプラスラダー(Invitrogen社)。1:成熟CatS遺伝子の特異的配列に対応するPCR生成物。
【図2】図2は、細菌発現ベクターpQE30中にクローニングされた成熟CatSタンパク質の遺伝子特異的領域を含む6つのクローン(レーン1−6)のコロニーPCRを示す。これらにより、選択された6つのコロニーすべてにおいてクローニングが成功したことが実証される。
【図3】図3は、(図2からの)クローン4及びクローン5からのタンパク質発現の最適な誘導の探索を示す。培養物のOD値が0.2(初期)、0.5(中期)、及び0.7(後期)OD550nm(それぞれA−C)のときに、IPTGを用いて発現を誘導した。ゲル電気泳動によって細菌のタンパク質溶解物を解析し、クーマシーブリリアントブルー染色でゲル染色した。
【図4】図4は、固定化金属アフィニティクロマトグラフィーによるCatSタンパク質の精製を示す。a)260nmにおけるタンパク質吸光度をモニターする精製プロファイルである。第1のピークでは、カラムからの非特異的タンパク質の溶出が示され、より広い第2のピークでは、CatS組換えタンパク質の溶出が認められる。b)タンパク質溶出画分をSDS−PAGEによって解析した。レーン1−13は、精製の過程でカラムから溶出された画分である。レーン14は、精製にかけられていない、未精製の細菌溶解物試料である。CatS組換えタンパク質が高純度に単離されていることを、画分6−12においてはっきりと確認することができる。
【図5】図5は、無関係な組換えタンパク質(1)及びCatS組換えタンパク質(2)を用いたウェスタンブロット法による、試験血液の解析を示す。ヤギ抗マウスHRPを用いてマウス血清の特異的結合を明らかにした。
【図6】ハイブリドーマ上清のELISAスクリーニングを示す。Ag+は、CatS組換えタンパク質でコーティングされたウェルを示し、Ag−は、陰性対照としての、無関係な組換えタンパク質によるコーティングを示す。ハイブリドーマ上清はいずれもCatS組換えタンパク質に対する高い特異性を示したが、対照のタンパク質抗原に対しては、ほとんど又は全く特異性を示さなかった。
【図7】図7は、グレードIVの星状細胞腫細胞株U251に由来する内因性CatSタンパク質(1)及び組換えタンパク質(2)に対してウェスタンブロット法によって解析したハイブリドーマ上清を示す。解析された各未精製上清は、(枠で囲んで強調したように)CatSが高発現されることが以前に示されたU251mg細胞株に由来する、CatSの不活性なプロ型と、成熟型の双方を認識する能力を示す。
【図8】CatSの媒介による蛍光発生基質Cbz−Val−Val−Arg−AMCの加水分解を阻害することができる抗体に関する、ハイブリドーマ上清のスクリーニングを示す。アスタリスクを付けたカラムは、さらに試験するために次に進めたハイブリドーマクローンを示す。阻害性の最も高いクローンの一部は、さらに増殖させることができず、したがって選択しなかった。アスタリスクを2つ付けたクローンは、最後に選択した阻害抗体を示す。
【図9】図9は、CatSに特異的なモノクローナル抗体の代表的な溶出プロファイルを示す。下側のトレースは、モノクローナル抗体の精製に伴う吸光度(260nm)を表す。右側のピークは、モノクローナル抗体の溶出を示し、下の棒は、どの画分が溶出された抗体を含むかを表す。
【図10】図10は、モノクローナル抗体のアイソタイプ決定の結果を示す。0.8より大きく、ボールド体で強調した値は陽性である。試験した抗体のうち4つはIgG1抗体であり、2つはIgMであり、6つの抗体はすべてκ軽鎖を有する。アスタリスクを付けたAb1は、阻害抗体として最終的に同定された抗体を表す。抗体2はCatSに特異的であるが、阻害性ではなく、アイソタイプ対照として以降の浸潤アッセイにおいて使用される。
【図11】図11は、様々な濃度の精製された2種のCatS MAb抗体の存在下におけるCatS活性の阻害を実証する蛍光分析を示す。MAb1は、CatSによるCbz−Val−Val−Arg−AMC切断の用量依存的な阻害を示す。このパネル中のMAb2は、CatSのタンパク質分解活性に対していかなる影響も及ぼしていない。
【図12】CatS MAb1(Mab 1E11)の阻害活性の定量。緩徐な結合阻害物質を示す、(Mab 1E11)の進行曲線[図11]から得られる速度を、Morrison及びWalsh(1988年)の方法に従うGraFitソフトウェアを用いて、非線形回帰によって適合させた。この手法を用いて、阻害定数(K)を533nMと算出した。
【図13】MAb1はCatKを阻害しない。CatS阻害性mAbの存在下での精製CatKによるCbz−Phe−Arg−AMCの加水分解を示す、プロットされた進行曲線。
【図14】MAb1はCatLを阻害しない。CatS阻害性mAbの存在下での精製CatLによるCbz−Phe−Arg−AMCの加水分解を示す、プロットされた進行曲線。
【図15】MAb1はウェスタンブロットにおいて、CatSに特異的に結合する。ヒトカテプシンB、L、S、及びK(各100ng)を探索するために、抗体を使用した。
【図16】CatS Mab1はELISAにおいて、CatSに特異的に結合する。グラフは、CatS、CatB、CatL、及びCatK組換えタンパク質(ウェルあたり100ng)を用い、CatS阻害抗体を1×10−7から1×10−12Mの希釈範囲でインキュベートして実施した抗原固定化ELISAの結果を示す。
【図17】CatS MAb1は、ある範囲のpH領域においてCatSに結合する。グラフは、抗原固定化ELISAの結果を示し、様々な濃度のCatS阻害抗体が、広範囲のpH領域、すなわち中性のpH7.5からpH4.9までにおいて、CatSに対する親和性を維持する能力を示している。
【図18】図18は、阻害性モノクローナル抗体の重鎖可変領域(HV)及び軽鎖可変領域(LV)並びにVL領域のRT−PCR増幅を示す図である。RT−PCRは、CatS MAb1を発現及び分泌するハイブリドーマから単離されたmRNAを用いて実施した。
【図19】図19は、(a)VH及び(b)VLのTOPOクローニングにおけるコロニーPCRの結果を示す。VH領域に関して解析した16コロニーの全ては、コロニーPCRにより、陽性と思われ、また、2つを除くすべてがVL領域に関して陽性である。
【図20】図20は、VH領域及びVL領域のDNA配列決定から決定された、ボールド体かつ下線を引いて強調したCDRを有する阻害性モノクローナル抗体のVH領域及びVL領域の共通のアミノ酸配列を示す。
【図21】一連の腫瘍細胞株、すなわちグレードIVの星状細胞腫(U251)、前立腺(PC3)、結腸直腸(HCT116)、及び乳房(MCF7)における発現を同定するためのCatSのRT−PCR。
【図22】図22は、PC3前立腺癌細胞株の、in vitro浸潤アッセイにおけるCatS阻害性モノクローナル抗体の影響を示す。浸潤アッセイは、濃度を漸増させた阻害抗体(0−200nM)の存在下で実施し、腫瘍細胞浸潤の最大39%までの減少が示された。対照の無関係なアイソタイプmAbは浸潤に対していかなる影響も及ぼさず、一方、(本発明者らが、CatSに結合することはできるが、CatSのタンパク質分解活性は阻害しないことを以前に示した)別のCatS mAbは、200nMにおいて浸潤に対して有意な影響を及ぼさなかった。代表的な顕微鏡写真も示す。
【図23】図23は、U251mg星状細胞腫細胞株の、in vitro浸潤アッセイにおけるCatS阻害性モノクローナル抗体の影響を示す。浸潤アッセイは、濃度を漸増させた阻害抗体(0−200nM)の存在下で実施し、腫瘍細胞浸潤の最大29%までの減少が示された。対照の無関係なアイソタイプmAb及び非阻害性のCatS MAbは浸潤に対して有意な影響を及ぼさなかった。代表的な顕微鏡写真も示す。
【図24】図24は、HCT116結腸直腸癌細胞株の、in vitro浸潤アッセイにおけるCatS阻害性モノクローナル抗体の影響を示す。浸潤アッセイは、濃度を漸増させた阻害抗体(0−200nM)の存在下で実施し、腫瘍細胞浸潤の最大64%までの減少が示された。対照の無関係なアイソタイプmAb及び非阻害性のCatS MAbは浸潤に対して有意な影響を及ぼさなかった。代表的な顕微鏡写真も示す。
【図25】図25は、MDA−MB−231乳癌細胞株の、in vitro浸潤アッセイにおけるCatS阻害性モノクローナル抗体の影響を示す。浸潤アッセイは、濃度を漸増させた阻害抗体(0−200nM)の存在下で実施し、腫瘍細胞浸潤の最大32%までの減少が示された。対照の無関係なアイソタイプmAb及び非阻害性のCatS MAbは浸潤に対して有意な影響を及ぼさなかった。代表的な顕微鏡写真も示す。
【図26】図26は、MCF7乳癌細胞株に対する、in vitro浸潤アッセイにおけるCatS阻害性モノクローナル抗体の影響を示す。浸潤アッセイは、200nMの対照のアイソタイプモノクローナル抗体及び200nMの阻害抗体の存在下で実施し、腫瘍細胞浸潤の63%の減少が示された。代表的な顕微鏡写真も示す。
【図27】図27は、Mab 1E11の存在下で毛細血管形成が阻害されることを示す、マトリゲルアッセイの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテプシンSに結合し、かつカテプシンSのタンパク質分解活性を阻害する特異的結合メンバー。
【請求項2】
少なくとも1つのCDRが配列番号1、配列番号2、配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列若しくはそれらの変異配列を有し、及び/又は少なくとも1つのCDRが配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなるアミノ酸配列若しくはそれらの変異配列を有する抗原結合ドメインを含む、請求項1に記載の特異的結合メンバー。
【請求項3】
少なくとも1つのCDRが配列番号1、配列番号2、配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、及び/又は少なくとも1つのCDRが配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなるアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む、請求項1又は請求項2に記載の特異的結合メンバー。
【請求項4】
少なくとも1つのCDRが配列番号1、配列番号2、配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、並びに少なくとも1つのCDRが配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなるアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー。
【請求項5】
少なくとも2つのCDRが配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、及び/又は少なくとも2つのCDRが配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなるアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む、1〜4のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー。
【請求項6】
配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR、及び/又は配列番号6のアミノ酸配列を有するCDRを含む、請求項5に記載の特異的結合メンバー。
【請求項7】
配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するCDRを含む、請求項5に記載の特異的結合メンバー。
【請求項8】
前記抗原結合ドメインが、抗体Vドメイン及び抗体Vドメインを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー。
【請求項9】
前記抗体Vドメインが、配列番号1、配列番号2、配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRを含み、前記抗体Vドメインが、配列番号4、配列番号5、及び配列番号6からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのCDRを含む、請求項8に記載の特異的結合メンバー。
【請求項10】
前記抗体Vドメインが、それぞれCDR1、CDR2、及びCDR3として、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3のアミノ酸配列を有するCDRを含む、請求項8又は請求項9に記載の特異的結合メンバー。
【請求項11】
前記抗体Vドメインが、配列番号7のアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の特異的結合メンバー。
【請求項12】
前記抗体Vドメインが、それぞれCDR1、CDR2、及びCDR3として、配列番号4、配列番号5、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するCDRを含む、請求項9〜11のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー。
【請求項13】
前記抗体Vドメインが、配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項12に記載の特異的結合メンバー。
【請求項14】
配列番号7のアミノ酸配列を有する抗体Vドメイン及び配列番号8のアミノ酸配列を有する抗体Vドメインを含む抗体の効力の少なくとも25%の効力で、カテプシンSのタンパク質分解活性を阻害する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー。
【請求項15】
全長抗体である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー。
【請求項16】
scFv抗体分子を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の特異的結合メンバーをコードする核酸。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー又は請求項17に記載の核酸を含む薬剤組成物。
【請求項19】
生物試料中のカテプシンSのタンパク質分解活性を阻害する方法であって、請求項1〜16のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー又は請求項17に記載の核酸を投与するステップを含む方法。
【請求項20】
カテプシンSの活性に関連した状態を、カテプシンSの活性に関連した状態の治療を必要とする患者において治療する方法であって、請求項1〜16のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー、請求項17に記載の核酸、又は請求項18に記載の組成物を前記患者に投与するステップを含む方法。
【請求項21】
前記状態が、異常なカテプシンS活性に関連した状態である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
医薬品中で使用するための、請求項1〜16のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー又は請求項17に記載の核酸。
【請求項23】
カテプシンSの活性に関連した状態の治療において使用するための、請求項1〜16のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー又は請求項17に記載の核酸。
【請求項24】
前記状態が、異常なカテプシンS活性に関連した状態である、請求項23に記載の特異的結合メンバー。
【請求項25】
カテプシンS活性に関連した状態を治療するための医薬品を調製する際の、請求項1〜16のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー又は請求項17に記載の核酸の使用。
【請求項26】
前記状態が、異常なカテプシンS活性に関連した状態である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記状態が神経変性障害である、請求項20若しくは請求項21に記載の方法、請求項22、請求項23、若しくは請求項24に記載の特異的結合メンバー、又は請求項25若しくは請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記状態が自己免疫疾患である、請求項20若しくは請求項21に記載の方法、請求項22、請求項23、若しくは請求項24に記載の特異的結合メンバー、又は請求項25若しくは請求項26に記載の使用。
【請求項29】
前記状態が炎症性の状態、例えば関節リウマチである、請求項20若しくは請求項21に記載の方法、請求項22、請求項23、若しくは請求項24に記載の特異的結合メンバー、又は請求項25若しくは請求項26に記載の使用。
【請求項30】
前記状態が腫瘍疾患である、請求項20若しくは請求項21に記載の方法、請求項22、請求項23、若しくは請求項24に記載の特異的結合メンバー、又は請求項25若しくは請求項26に記載の使用。
【請求項31】
前記状態がアテローム性動脈硬化症である、請求項20若しくは請求項21に記載の方法、請求項22、請求項23、若しくは請求項24に記載の特異的結合メンバー、又は請求項25若しくは請求項26に記載の使用。
【請求項32】
前記状態が疼痛である、請求項20若しくは請求項21に記載の方法、請求項22、請求項23、若しくは請求項24に記載の特異的結合メンバー、又は請求項25若しくは請求項26に記載の使用。
【請求項33】
カテプシンSに結合することができる特異的結合メンバーを作製する方法であって、請求項12に記載の核酸を宿主細胞中で発現させるステップと、前記特異的結合メンバーを前記細胞から単離するステップとを含む方法。
【請求項34】
血管新生に関連した状態を、血管新生に関連した状態の治療を必要とする患者において治療する方法であって、請求項1〜16のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー、請求項17に記載の核酸、又は請求項18に記載の組成物を前記患者に投与するステップを含む方法。
【請求項35】
血管新生に関連した状態の治療において使用するための、請求項1〜16のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー又は請求項17に記載の核酸。
【請求項36】
血管新生に関連した状態を治療するための医薬品を調製する際の、請求項1〜16のいずれか一項に記載の特異的結合メンバー又は請求項17に記載の核酸の使用。
【請求項37】
前記状態が、癌、炎症性の状態、又は眼の疾患である、請求項34に記載の方法、請求項35に記載の特異的結合メンバー、又は請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記状態が黄斑変性症である、請求項34に記載の方法、請求項35に記載の特異的結合メンバー、又は請求項36に記載の使用。
【請求項39】
前記状態が乳癌である、請求項20若しくは請求項21に記載の方法、請求項22、請求項23、若しくは請求項24に記載の特異的結合メンバー、又は請求項25若しくは請求項26に記載の使用。
【請求項40】
前記状態が前立腺癌である、請求項20若しくは請求項21に記載の方法、請求項22、請求項23、若しくは請求項24に記載の特異的結合メンバー、又は請求項25若しくは請求項26に記載の使用。
【請求項41】
前記状態が結腸直腸癌である、請求項20若しくは請求項21に記載の方法、請求項22、請求項23、若しくは請求項24に記載の特異的結合メンバー、又は請求項25若しくは請求項26に記載の使用。
【請求項42】
前記状態が星状細胞腫である、請求項20若しくは請求項21に記載の方法、請求項22、請求項23、若しくは請求項24に記載の特異的結合メンバー、又は請求項25若しくは請求項26に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公表番号】特表2008−534026(P2008−534026A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504853(P2008−504853)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001314
【国際公開番号】WO2006/109045
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(507335470)フージョン アンティボディーズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】