説明

抗凝固作用の惹起方法

血液凝固アッセイにおいて抗凝固作用を惹起するための方法であり、有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物と、血液試料を接触させることを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は、一般に、血液凝固アッセイにおいて抗凝固作用を惹起するための方法に関する。本発明の方法は、特に対象に抗凝固作用を惹起するために、および対象の異常な、不必要なまたはその他の不適切な血液凝固によって特徴づけられる病態を治療および/または予防するために有用である。
【0002】
(背景技術)
本明細書中の先行技術への言及は、該先行技術がオーストラリアにおいて技術常識を形成すると認識させるもの、またはそのような示唆を形成するものではなく、あるいはそのように認識または示唆を形成すると取るべきではない。
【0003】
凝固は止血における重要な作用機序であり、生命維持の工程である。血液凝固カスケードの二つの主要なアームである、内因系および外因系経路は、次には、フィブリノーゲンの不透過性の架橋したフィブリン血塊への変換に関与するトロンビン生成をもたらす工程において特定の血漿タンパク質に関与する一連の段階的な調整反応からなる。
【0004】
血液凝固または凝血塊生成は、三つの主要な段階で行われる。第一の段階は、プロトロンビンアクチベーター複合体の活性化である。第二の段階は、プロトロンビンの活性化である。第三の段階は、活性化したトロンビンによるフィブリノーゲン解離の結果としての、凝血塊形成である。
【0005】
内因系および外因系経路は、各々異なったプロトロンビンアクチベーター形成を導く。プロトロンビンアクチベーター形成の内因系機構は、外傷での出血、または外傷を受けた血管壁中のコラーゲンに血液が曝露されることに始まる。これはまた、通例、脆弱な血小板に対する損傷も引き起こす。そのカスケードは、因子XIIの活性化(XIIa)および損傷した血小板からの血小板因子3(PF3)の遊離に始まる。活性化した因子XII(プレカリクレインおよびキニノゲンを必要とする)は、因子XIを解離および活性化して因子XIaにする。アクチベーター因子XIは、因子IXが活性化した因子IX(IXa)になるように変換し、因子IXaは、因子Xを活性化した因子X(Xa)に変換する。カルシウムイオンは、最初の三つの工程で必要となる。因子Xaは、その後凝固の共通経路を活性化する。
【0006】
プロトロンビンアクチベーター形成の外因系機構は、血管壁または血管外組織に対する外傷に始まる。損傷を受けた組織は、組織因子(TF)としても知られる組織トロンボプラスチンを遊離する。この機構による凝血塊の形成は、通例15秒間くらいの短い時間で起こる。そのカスケードは、TFおよび因子VIIによる因子Xの活性化によって開始する。因子VIIaはまた、組織因子の存在下で因子IXを活性化し、「外因系」および「内因系」経路の間を結びつけている。因子V、因子VIIおよび組織因子と結合した因子Xaは、プロトロンビンアクチベーターを構成する。カルシウムイオンは、これらの工程の各々で必要とされる。
【0007】
凝固の共通経路は、因子Xを、内因系および外因系経路によって、上の段落で記述した活性化した因子Xに変換することに始まる。活性化した因子Xは、カルシウムイオン、循環している因子Vを含めた、活性化のためのそれら自身の補因子、および局在化のための電荷を帯びた血小板表面を必要とする。その後、プロトロンビンを解離して、活性化したトロンビンを生成することができる。トロンビンは、フィブリノーゲン(可溶性)をフィブリン(不溶性)に変換し、因子VIIIを活性化する。不溶性フィブリンのネットワーク(トロンビンにより安定化される)が形成され、それが損傷部位に局在して、接近する血液の血小板および血漿を捕捉して凝血塊を形成する。
【0008】
凝固の生理的機能は、傷害後の血液の損失を防ぐことであり、フィブリン凝血塊の開始、形成および線溶の過程の間の複合体バランスの結果である、いわゆる止血機構の一部である。しかしながら、血管壁の損傷または血流量の変化のような特定の事象が、そのバランスを乱し、凝固過程に変化を生じて、血管内に異常な凝血塊を形成することになる(血栓)。
【0009】
血栓は、血小板凝集体および/またはフィブリン凝血塊が、無傷の血管の内腔または心室内に形成する、病的な過程である。血栓が動脈内に生じると、心筋梗塞および不安定狭心症が、虚血性壊死に耐える動脈によって栄養される組織の結果として生じ得る。静脈の構造内での血栓形成は、血流量の減少による肺梗塞を生じ得る。静脈系および動脈系両方における播種性血管内凝固は、一般に敗血症性ショック、ある種のウィルス感染および癌の際に生じ、急速且つ広範な血栓形成および臓器不全をしばしば引き起こす。
【0010】
ヘパリンおよびワーファリンのような現在の抗凝固療法は、効果的であるが、出血のリスクの上昇、および日常の凝固モニターリングおよび/または腸管外投与の必要性によって引き起こされる不便さのような、幾つかの制限がある。例えば、ヘパリンは、非経口投与、常時モニターリング、狭い治療ウィンドー、ヘパリンリバウンド、血小板減少症および出血という要件によって制限される。ワーファリンも同様に、出血を来す可能性があり、その狭い治療域および若干の予測不能な効果のために、常時モニターリングを必要としうる。従って、効能、安全性および使用の簡便さが向上した化合物または基質を開発することが、なお必要である
【0011】
ヒトアポリポタンパク質CIIIは、74位のトレオニンをグリコシル化し、肝臓および腸内で合成される8.8kDのタンパク質である。それはアポリポタンパク質CIおよびアポリポタンパク質CIIもまた含む、アポリポタンパク質Cファミリーの一つである。アポリポタンパク質CIIIは、トリグリセリド豊富な血漿リポタンパク質の代謝を調節する上で中心的な役割を果たしており、標準的なヒト血漿中の濃度は100−150μg/mlである。それは、トリグリセリド豊富な超低密度リポタンパク質(VLDL)と大部分は結合している。アポリポタンパク質CIIIの一部は、高密度リポタンパク質(HDL)と結合している。ヒトにおいて、血漿トリグリセリド濃度は、アポリポタンパク質CIII濃度と明確に関連している。マウスにおいて、遺伝子導入して過剰発現すると、高トリグリセリド血症を生じる(Ito Y.,Science,249:790−793,1990年)。アポリポタンパク質CIII遺伝子ノックアウトマウスは、高トリグリセリド血症になる(Maeda N.ら、J.Biol.Chem.,269:23610−23616,1994年)。アポリポタンパク質CIIIは、リポタンパク質リパーゼ活性を抑制し、肝臓によるトリグリセリド豊富なリポタンパク質の取り込みおよびクリアランスを低下させる。これらを基に、アポリポタンパク質CIIIの血漿中濃度が上昇すると、ヒトにおける高トリグリセリド血症の発症の一因となるという、強力な証拠になる(検討のために、Mahley,R.W.ら、J.Lipid Res.,25:1277,1984年;Jong,M.C.ら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.,19:472,1999年;Breslow,J.Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,90:8314,1993年を参照のこと)。ヒトアポリポタンパク質CIIIは、シアル化のレベルに応じて三つの形態:C−III、C−IIIおよびC−IIIで存在する。下に書かれた数字は、シアル酸残基の数を示すが、C−III形態は中性の炭水化物を含んでいない。グリコシル化は、74位のトレオニン(T)上で起こる。
【0012】
幾つかのヒトアポリポタンパク質CIIIの多形性が記載されている。アポリポタンパク質CIIIを、二つの断片1−40および41−79にトロンビンが切断することは、C末端の41−79ペプチドがリン脂質に結合し得ることを示唆している(Sparrow J.T.ら、Biochemistry 16:5427−31,1977年)。合成アポリポタンパク質CIIIペプチドは、リン脂質に結合するために必要とされる最小限の配列が、アミノ酸配列48−79中に含まれることを示唆している(Sparrow J.T.およびGotto A.M.,CRC Crit.Rev.Biochem.13:87−107,1982年)。リポタンパク質リパーゼ活性の抑制は、アポリポタンパク質CIIIのN末端により媒介される(McConathy W.J.ら、J.Lipid Res.33:995−1003,1992年)。
【0013】
本発明に至るまでの作業において、アポリポタンパク質CIIIの断片(配列番号2)が、試験管内プロトロンビン時間アッセイにおいて血液凝固の延長を誘導する、アミノ酸41−79(配列番号4)を含むポリペプチドであることを決定した。そのような結果は、アポリポタンパク質CIIIの断片が、外因系凝固経路を抑制することによって、血液凝固を抑制することができるということを示している。
【0014】
(発明の開示)
本明細書を通じて、文脈が他のように要求しない限りは、「含む」なる語、または「含んでいる」などの変形は、所定の因子または完全物、または成分または完全物の群を包含することを意味するが、他のあらゆる成分または完全物、または成分または完全物の群を含まないということは意味しないと理解されるであろう。
【0015】
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列は配列識別子番号(配列番号)にて言及される。配列識別子番号の要約を表1に示す。
【0016】
本発明の一つの態様は、血液凝固アッセイにおける抗凝固作用を惹起するための方法であって、有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物と、血液試料を接触させることを含む方法を提供する。
【0017】
本発明の他の態様は対象に抗凝固作用を惹起するための方法であって、有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0018】
その上さらに他の態様は、対象の異常な、不必要なまたはその他の不適切な血液凝固によって特徴づけられる病態の予防および/または治療的処置をするための方法であって、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を含む有効量の組成物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0019】
異常な、不必要なまたはその他の不適切な血液凝固によって特徴づけられる病態には、止血関連疾患;遺伝性または後天性を含めた過凝固状態;深部静脈血栓症を含めた血栓症;肺梗塞;心房細動に関連する血栓塞栓合併症;心臓弁置換;経皮的経管的血管形成;虚血再還流傷害および術後血栓塞栓症を含む。
【0020】
好ましいアポリポタンパク質CIII断片または誘導体は、アポリポタンパク質CIIIの脂質結合断片であり、さらにより好ましくは、そのアミノ酸41−79(配列番号4)を含むポリペプチドである。本発明は一の作用機構に制限することを意図とするものではなく、アポリポタンパク質CIIIの脂質結合断片、または少なくともそのアミノ酸41−79を含むポリペプチドは、組織因子と相互作用し、VIIa複合体はそれによって外因系凝固経路を抑制するということが提案される。
【0021】
本発明の方法において、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を、経口的に(頬、舌下、吸入を含めて)、経鼻的に、経直腸的に、経膣的に、経静脈的に(経動脈を含めて)、皮内に、経皮的に、筋肉内におよび局所的に投与してよい。
【0022】
アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物は、追加の活性成分、特に追加の抗凝固剤(例えばアスピリン、ワーファリン、ヘパリン)および/または血栓溶解剤(例えばストレプトキナーゼ、tPA、TNKアーゼ、TM)もまた含む組成物として、対象に投与してよい。
【0023】
あるいは、標的療法は、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を、抗体または細胞特異的リガンドまたは特異的核遺伝物質のような標的体系を利用することによって、特定のタイプの細胞により特異的に輸送するために用いてよい。
【0024】
さらに他の選択肢として、再生、増幅または組織修復療法のために、生体内でまたは生体外での細胞培養を用いて、幹細胞を単離し、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物(構成的または発生的なもの)を生成するために遺伝子操作してもよい。
【0025】
本発明の方法はまた、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物をコード化する、ヌクレオチド配列を細胞に与えることを含む。
【0026】
もう一つ別の態様において、血液試料中で抗凝固作用を惹起するための方法であって、有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を、その血液試料に導入することを含む方法が提供される。
【0027】
もう一つ別の具体例においては、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物をコード化するヌクレオチド配列を、動物またはヒトの対象に投与する。
本願明細書を通じて用いられる配列識別子の要約を表1に示す
【表1】

【0028】
(図面の簡単な記載)
図1.アポリポタンパク質CIIIのクロマトグラフィー分離および同定
A)1容量のアセトニトリルを用いて沈降させることによって生じるヒト血漿画分を、0−70%の直線的勾配の溶媒Bを30分間にわたって1ml/分の流速で用いて、Zorbax300SB−C18カラム(5mm、4.6×250mm)を用いて、逆相HPLCによるクロマトグラフィーで分離した。溶媒Aはミリキュー水中0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)からなり、溶媒Bはアセトニトリル中0.08%のTFAからなっていた。画分を、1分間隔で収集して96ウェルポリプロピレンライブラリープレートに直接入れ、凍結乾燥し、75μlの炭酸水素アンモニウムで復元した。高処理量プロトロンビン時間(PT)凝固アッセイを用いた画分のスクリーニングは、画分41において優勢的に溶出するPT抑制因子の存在を示し、画分40においてはその活性が低いことを示した。B)A)で得た主要な抑制画分(♯41)を、0−100%の直線的な勾配の溶媒Bを91分間にわたって0.5ml/分の流速で用いた、Zorbax300SB−C18カラム(5mm、2.1×150mm)を用いた、逆相HPLCによる第二のクロマトグラフィー工程に付した。溶媒Aは、pH8のミリキュー水中10mMの炭酸水素アンモニウムからなり、溶媒Bは、pH8の70%アセトニトリル中10mMの炭酸水素アンモニウムからなっていた。高処理量プロトロンビン時間(PT)凝固アッセイを用いた画分のスクリーニングは、画分53−55全てがプロトロンビン時間の延長をもたらし、画分54が最大の抑制効果を有することを立証した。C)翻訳後に加わったシアル酸の数に従った、様々なアイソフォームにおける、アポリポタンパク質CIIIの陽イオンMALDI質量スペクトル。0、1および2つのシアル酸が結合したアポリポタンパク質CIIIは、apoC−III、apoC−IIIおよびapoC−IIIに対応している。
【0029】
図2.マイクロウェルプレートにおける高処理量比濁分析を基にした方法によって決定された、プロトロンビン時間(PT)凝固
各々のウェルの自動レーザーを基にした比濁分析は、時間依存性の凝固誘導を、相対的な光散乱の増加として、鋭敏に検出する。アセトニトリル1体積を用いた析出後に得られた、可溶性ヒト血漿画分を、逆相HPLCによって分離し、最初のライブラリーを生成した。二つの画分(40、41)は、市販のトロンボプラスチン試薬を用いた凝固の開始に先立って、5分間乏血小板血漿(PPP)で前もってインキュベーションした時に、PT反応の延長をもたらした。16秒間の対照群のプロトロンビン時間を、画分40により18秒間まで、画分41により24秒間まで延長した。
【0030】
図3.マイクロウェルプレートにおける高処理量比濁分析を基にした方法によって決定された、プロトロンビン時間(PT)凝固
自動レーザーを基にした比濁分析は、時間依存性の凝固誘導を、相対的な光散乱の増加として、鋭敏に検出するために用いられた。主要な抑制画分(♯41;図2参照)を、0−100%の連続的な勾配の溶媒Bを91分以上0.5ml/分の流速で用いた、Zorbax300SB−C18カラム(5mm、2.1×150mm)を用いた、逆相HPLCによる第二のクロマトグラフィー工程に付した。溶媒Aは、pH8のミリキュー水中10mMの炭酸水素アンモニウムからなり、溶媒Bは、pH8の70%アセトニトリル中10mMの炭酸水素アンモニウムからなっていた。高処理量プロトロンビン時間(PT)凝固アッセイを用いた画分のスクリーニングは、画分53−55全てがプロトロンビン時間の延長をもたらし、画分54が最大の抑制効果を有することを立証した。
【0031】
図4.アポリポタンパク質CIIIトリプシン消化物のプロトロンビン時間(PT)凝固活性
アポリポタンパク質CIIIトリプシン消化を、25mMの炭酸水素アンモニウム、10%アセトニトリル、pH8中で、37℃で2時間実行し、逆相HPLCによる分別に先立って、MALDI−MSによってモニターリングした。その後トリプシン消化物を、0−100%の連続的な勾配の溶媒Bを91分以上0.5ml/分の流速で用いた、Zorbax300SB−C18カラム(2.1×150mm)上での、逆相クロマトグラフィー工程により分離した。溶媒Aは、pH8のミリキュー水中10mMの炭酸水素アンモニウムからなり、溶媒Bは、pH8の70%アセトニトリル中10mMの炭酸水素アンモニウムからなっていた。高処理量プロトロンビン時間(PT)凝固アッセイを用いた画分のスクリーニングは、画分42−46全てがプロトロンビン時間の延長をもたらし、画分44が最大の抑制効果を有することを立証した。MALDI−MS分析は、大部分は画分44がアポリポタンパク質CIII(41−79)ペプチドを含んでいることを立証した。
【0032】
図5.アポリポタンパク質CIIIから得られたMALDI−ISD−MSスペクトルの切片
示されたスペクトルは、19位のアラニンから29位のセリンまでの配列を含む。
【0033】
図6.クエン酸を加えたヒト血漿のプロトロンビン時間
図6は、相対プロトロンビン時間に対する、アポリポタンパク質CIII断片(アミノ酸41−79)の濃度を示すグラフである。
【0034】
図7.ヒト全血におけるTF媒介凝固
図7は、相対凝固時間に対する、アポリポタンパク質CIII断片(アミノ酸41−79)の濃度を示すグラフである。
【0035】
図8.TF:VIIa介在の因子Xの活性化についての発色基質アッセイ
図8Aは、因子Xa相対活性に対する、アポリポタンパク質CIII濃度の対数を示すグラフである。
図8Bは、因子Xa相対活性に対する、アポリポタンパク質CIII断片(アミノ酸41−79)濃度の対数を示すグラフである。
【0036】
図9.様々な種に由来する血漿におけるプロトロンビン時間に対する、アポリポタンパク質CIII断片(アミノ酸41−79)の影響
図9は、ヒト、ブタ、イヌ、ウサギ、ラットおよびマウスにおける相対プロトロンビン時間に対する、アポリポタンパク質CIII断片(アミノ酸41−79)(22μM)の濃度単一の影響を示す。
【0037】
図10.アポリポタンパク質CIII断片(アミノ酸41−79)由来のペプチドの活性
図10Aは、種々のアポリポタンパク質CIII断片(アミノ酸41−79)由来のペプチドを示す。
図10Bは、因子Xa相対活性に対する、アポリポタンパク質CIII断片由来のペプチド(アミノ酸41−60およびアミノ酸49−62)濃度の対数を示すグラフである。
【0038】
(発明の詳細な記載)
本発明を詳細に記載する前に、特記する場合を除き、本発明は、成分の特定の処方、製造法、投薬レジメンまたはその種のものに限定されず、それ自体変化してよいということを理解すべきである。また、本明細書において用いられている専門用語は、特定の具体例を記述する目的のためだけに用いられており、本発明の範疇を制限することを目的としていないということを理解すべきである。本発明において用いられている、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈で明確にそうでないと示していない限りは、複数の態様も含むことに留意すべきである。
【0039】
本発明は、一つには、アポリポタンパク質CIIIがプロトロンビンアッセイでの抑制活性を維持するという確定事項を基礎とする。本発明の理論を制限することなく、配列番号4に開示されているアミノ酸41−79を含むポリペプチドであるアポリポタンパク質CIIIは、トロンボプラスチンと相互作用し、外因系経路を抑制することによってプロトロンビン時間を延長すると考えられている。
【0040】
従って、本発明の一つの態様は、血液凝固アッセイにおいて抗凝固作用を惹起する方法であって、有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物と、血液試料を接触させることを含む、方法を提供する。
【0041】
「抗凝固作用」という用語は、試験管内または生体内の血液凝固アッセイにおいて、または血液試料において、または対象において、血液凝固を防止または抑制または延長する作用を指すために用いられる。血液凝固アッセイは当該分野において知られており、例えばプロトロンビン時間アッセイを含むが、それだけに限定されない。
【0042】
プロトロンビン時間および国際標準比は、凝固経路における外因系−因子II、VIIおよびXを測定するための方法である。トロンボプラスチンおよび血漿を37℃で混合し、カルシウム付加後に凝血塊が形成されるまでに要する時間を測定し、これをプロトロンビン時間とする。凝血塊が形成されるまでの時間を対照群と比較し、これを国際標準比(INR)とする。INRの標準範囲は、0.9ないし1.2である。
【0043】
本発明の方法によって達成される抗凝固作用は、血液凝固を防止または抑制または延長する作用が、上で挙げたアッセイのような標準的な生体内または試験管内血液凝固アッセイの凝固能を超えることによって、本発明において、プロトロンビン時間は、有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を、血液試料または対象に投与することの抗凝固作用を測定する一つの方法である。好ましくは、本発明の範疇および参考文献のプロトロンビンアッセイにおいて達成される抗凝固作用は、選別された対照群の血液凝固アッセイにおける並列比較によって決定され、少なくとも約5%であり、より好ましくは少なくとも約10%であり、より一層好ましくは少なくとも約25%であり、より一層好ましくは少なくとも約50%であり、最も好ましくは少なくとも約90%である。
【0044】
「試料」が指すものは、それだけに限定されないが、粘液、糞、尿、生検標本、および例えば肺洗浄後に肺から抽出された塩溶液または浣腸洗浄で回収される溶液のように、動物の体内に注入してその後除去した液体のような、動物に由来する生物学的原料の試料を指すものとして理解してもらいたい。本発明の方法に従って検査される試料は、直接検査してもよく、または検査の前に何らかの形の処理を必要としてもよい。例えば生検試料は、検査の前に均質化することを必要とする。その上、生物学的試料が液体でない(例えば、固体、半固体または脱水した液体試料であってよい)限りは、緩衝剤のような試薬を付加して、試料に移動性をもたせることを必要とする可能性もある。
【0045】
「血液」という用語は、全血を意味すると理解してよいが、しかしながら血液は、例えば血漿、パック細胞、軟膜および濃縮した細胞懸濁液のような、そのあらゆる画分であってもよい。
【0046】
本発明の他の態様として、対象において抗凝固作用を惹起する方法を与え、その方法は、有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を、対象に投与することを含む。
【0047】
その上さらに他の態様として、対象の異常な、不必要なまたはその他の不適切な血液凝固によって特徴づけられる病態の予防および/または治療的処置をするための方法を与え、その方法は、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を含む有効量の組成物を対象に投与することを含む。
【0048】
本明細書において「治療的」および「予防的」処置が指すものは、最も広い意味で解釈されるべきである。「治療的」という用語は、必ずしも対象が完全に回復するまで治療することを意味しない。同様に、「予防的」は、必ずしも対象が最終的にある病気に罹患しないことを意味しない。従って、治療的および予防的処置は、特定の疾患の症候の改善すること、または特定の疾患を予防すること、または他の方法で発症するリスクを低下させることを含む。「予防的」という用語は、特定の疾患の重症度させるまたは発症を低下させると見なしてよい。「治療的」はまた、既に存在する疾患の重症度を低下させると見なしてよい。
【0049】
異常な、不必要なまたはその他の不適切な血液凝固によって特徴づけられる病態には、止血関連疾患、深部静脈血栓症を含めた血栓症、肺梗塞、心房細動に関連する血栓塞栓合併症、心臓弁置換、経皮的経管的血管形成、虚血再還流傷害、術後血栓塞栓症および過凝固状態を含む。過凝固状態は、正常な固体において通常血栓症を引き起こさないであろう状況において、血栓症を起こすリスクがある状態と定義してよい。過凝固状態は、先天性または後天性であってよい。先天性の過凝固状態は、先天的に血栓症を起こしやすい傾向があり、栓友病(thrombophilia)と呼ばれる。多くの症例で、抗トロンビン因子における特定のプロトロンビン変異に原因がある。播種性血管内凝固(生理的なトロンビン生成が規制されなくなる状態)を含む後天的な凝固疾患は、通例病気または動くことができない人が、通例生涯の中で罹患する。
【0050】
二次性または後天性過凝固状態の共通の原因は、三つの主要なカテゴリー:
1.・不動
・肥満
・鬱血性心不全
・術後ベッド療養
によって引き起こされる静脈うっ滞
2.・悪性疾患
・妊娠
エストロゲンおよび経口避妊薬使用
ネフローゼ症候群
抗リン脂質症候群
によって引き起こされる凝固因子の活性化
3.・骨髄増殖性疾患
・血栓性血小板減少性紫斑病
によって引き起こされる血小板活性化
に分類される。
一般に、急性血栓症エピソードは、一次性または先天性過凝固性を基礎として、過凝固状態を獲得する個体に生じる。
【0051】
「対象」は哺乳類であり、ヒト、霊長類、家畜動物(例えば羊、豚、畜牛、馬、ロバ)、実験動物(例えばマウス、ウサギ、ラット、テンジクネズミ)、動物伴侶(例えばイヌ、ネコ)および捕獲した野生動物(例えばキツネ、カンガルー、鹿)を含む。好ましくは、哺乳類はヒトである。本発明は本明細書においては実験動物について例示しているけれども、本発明の適用は何らヒトに制限されるものとして解釈されるべきではない。
【0052】
「アポリポタンパク質CIII」が指すものは、アポリポタンパク質CIIIの全ての形態、特記されない限りはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を指すものとして理解してもらいたい。これは、例えばmRNAをコード化するスプライシングの選択肢から生じる可能性がある全てのアイソフォームを含めた、例えばこの分子の全ての形態のタンパク質またはその機能的等価物または誘導体を含む。それは、この分子の変異体、多形性変種または相同物を指すものを含める。それはまた、この分子の類似物または等価物を指すものもまた含める。例えば、ヒトアポリポタンパク質CIIIは、シアル化の程度による三つの形態:C−III、C−IIIおよびC−IIIに存在する。下に書かれた数字は、シアル酸残基の数を示すが、しかしながら、C−III形態は中性の炭水化物を含んでいない。「アポリポタンパク質CIII」が指すものはまた、アポリポタンパク質CIIIをコード化する遺伝子分子、またはその核酸分子の誘導体、相同物、類似物を指すものもまた含めるものとして理解すべきである。
【0053】
「誘導体」は、融合タンパク質を含めた、天然の、合成のまたは組み換えの材料に由来する、断片、部分、一部分、変異体、変種および模造物を含む。部分または断片は、例えばアポリポタンパク質CIIIの活性領域を含む。好ましくは、そのような断片は、アポリポタンパク質CIIIの脂質結合断片または一部分、特に配列番号4に開示されているポリペプチドを含む。本明細書において用いられている、断片は、元のアミノ酸またはヌクレオチド配列の少なくとも約10%またはそれ以上を含む、アミノ酸またはヌクレオチド配列を意味する。例えば、アポリポタンパク質CIIIの断片は、アポリポタンパク質CIIIのアミノ酸配列(配列番号2)の10%またはそれ以上を含んでいてよく、またはアポリポタンパク質CIIIをコード化するヌクレオチド配列(配列番号1)の10%またはそれ以上を含んでいてよい。断片の例として、元のアミノ酸配列(配列番号2)の少なくとも約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%を含む分子を含む。
【0054】
断片の例としては、配列番号2に開示されているアミノ酸配列の、アミノ酸2−79、3−79、4−79、5−79、6−79、7−79、8−79、9−79、10−79、11−79、12−79、13−79、14−79、15−79、16−79、17−79、18−79、19−79、20−79、21−79、22−79、23−79、24−79、25−79、26−79、27−79、28−79、29−79、30−79、31−79、32−79、33−79、34−79、35−79、36−79、37−79、38−79、39−79、40−79および41−79を含む分子もまた含む。
【0055】
誘導体は、アミノ酸の挿入、欠失または置換に由来してよい。アミノ酸挿入誘導体は、単一または多数のアミノ酸の配列間への挿入に加えて、アミノおよび/またはカルボキシル末端の融合を含む。挿入されるアミノ酸配列の変種は、一つまたはそれ以上のアミノ酸残基がタンパク質における予め定められた位置へ導入されるものであるが、無作為挿入はまた得られる産物を適切にスクリーニングすることで可能である。欠失による変種は、配列から一つまたはそれ以上のアミノ酸を除去することによって特徴づけられる。置換によるアミノ酸変種は、少なくとも配列内の一つの残基が除去されており、その位置に異なる残基が挿入されたものである。置換によるアミノ酸変種の例は、保存的アミノ酸置換である。保存的アミノ酸置換は、典型的には、次の群:グリシンおよびアラニン;バリン、イソロイシンおよびロイシン;アスパラギン酸およびグルタミン酸;アスパラギンおよびグルタミン;セリンおよびトレオニン;リシンおよびアルギニン;およびフェニルアラニンおよびチロシンの中の置換基を含む。アミノ酸配列に対する付加は、他のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質との融合を含む。
【0056】
「保存的置換」は、アミノ酸を類似した特性を有する他のアミノ酸で置換し、ペプチド化学の分野の当業者が、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物の二次構造および疎水性が実質的に変化しないであろうと予想するようなものである。アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物のアミノ酸配列を変化させて、変化させたタンパク質を作ることを望むならば、当業者は、典型的には、一つまたはそれ以上のアミノ酸を変化させるであろう。
【0057】
例えば、あるアミノ酸は、タンパク質の活性があまり失うことなく、アポリポタンパク質CIIIまたはその配列の断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物において、他のアミノ酸で置換されてよい。タンパク質の生物学的機能活性を規定するのは、相互作用能力およびタンパク質の性質であるので、あるアミノ酸配列の置換を、アポリポタンパク質CIIIまたはそのタンパク質配列、および当然その基礎にあるDNAコード配列の断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物に行い、それにもかかわらず同様の特性を有するタンパク質を得る。あるいは、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物の望ましい特性を、高めるかまたは低下させるような置換を行ってもよい。生物学的有用性または活性をあまり失うことなく、様々な変化が、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物のペプチド配列、またはアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物をコード化する対応するDNA配列において生じる可能性がある。
【0058】
そのような変化を生じる上で、アミノ酸の疎水指数を考慮してよい。タンパク質の相互作用性生物学的機能を与える上での、疎水アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で理解されている(KyteおよびDoolittle、Journal of Morecular Biology 157(1):105−132、1982年)。アミノ酸の相対的疎水性が、合成されるタンパク質の二次構造に寄与し、換言すれば、他の分子、例えば酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などとのタンパク質の相互作用を規定する。各々のアミノ酸は、その疎水性および荷電の特徴に基づいた、疎水指数を割り当てられた(KyteおよびDoolittle、1982年、上記)。これらの値は、イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);トレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リシン(−3.9);およびアルギニン(−4.5)である。疎水指数に基づくと、アミノ酸は次の四つの群に分けられる:
1.極性があるが荷電していない側鎖群:セリン、トレオニン、アスパラギン、チロシンおよびグルタミン;
2.酸性の側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸;
3.塩基性の側鎖:リシン、アルギニンおよびヒスチジン;および
4.無極性の側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンおよびシステイン
【0059】
前記の群の中のアミノ酸は、類似した疎水指数またはスコアに基づいて、同一の群に由来する他のアミノ酸で置換してよく、依然として類似した生物学的活性を有するタンパク質を生じる、すなわち生物学的機能の等価なタンパク質を依然として得ることが、当該分野において知られている。
【0060】
アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物、またはそれをコード化する核酸分子の化学的および機能的等価物は、これらの分子のあらゆる一つまたはそれ以上の機能的活性を示す分子と理解してよく、化学的に合成されるもののようなあらゆる原料に由来してよく、天然の生成物スクリーニングのようなスクリーニング過程を介して同定してよい。
【0061】
アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物の誘導体には、ペプチド、ポリペプチドまたは他のタンパク質分子または非タンパク質分子に融合する、特定のエピトープまたは分子全体の一部を有する断片を含む。それに加えて、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物の誘導体は、そのアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を含むポリマーを含む。好ましくは、そのポリマーは、配列番号4に開示されているアミノ酸41−79を含むポリペプチドを含む、一つまたはそれ以上のモノマーを含む。また好ましくは、配列番号4に開示されているアミノ酸41−79を含むポリペプチドを含む、2、3または4つのいずれかのモノマーを含むポリマーである。
【0062】
本明細書において想定されているアポリポタンパク質CIIIの類似物には、側鎖に対する修飾、天然に存在しないアミノ酸および/またはそれらの誘導体の、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質合成の間への組み込み、および架橋剤の利用、およびタンパク質分子またはそれらの類似物に対して立体構造上の制約を課す他の方法を含むが、それだけに限定されない。
【0063】
本発明で想定されている側鎖の修飾の例には、アルデヒドと反応させ、続いて水素化ホウ素ナトリウムと反応させることによる、還元性アルキル化;メチルアセチミダートを用いたアミド化;無水酢酸を用いたアシル化;シアン酸を用いたアミノ基のカルバモイル化;2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いたアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸を用いたアミノ基のアシル化;およびピリドキサル5リン酸を用いてリシンをピリドキシル化し、続いて水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元するようなアミノ基の修飾を含む。
【0064】
アルギニン残基のグアニジン基は、2,3−ブタンジオン、フェニルグリオキサルおよびグリオキサルのような試薬を用いた、複素環縮合生成物の形成によって修飾してよい。
【0065】
カルボキシル基は、O−アシルイソ尿素形成を介してカルボジイミド活性化に付し、続いて、例えば対応するアミドに、誘導化することによって修飾してよい。
【0066】
スルフヒドリル基は、ヨード酢酸またはヨード酢酸アミドを用いたカルボキシメチル化;過蟻酸のシステイン酸への酸化;他のチオール化合物と混合した二硫化物の形成;マレイミドとの反応;無水マレイン酸または他の置換したマレイミド;4−クロロ水銀安息香酸塩、4−クロロ水銀フェニルスルホン酸、フェニル水銀塩化物、2−クロロ水銀−4−ニトロフェノールおよび他の水銀剤を用いた水銀誘導体の形成;アルカリpHでシアン酸を用いたカルバモイル化のような方法によって修飾してよい。
【0067】
トリプトファン残基は、例えばN−ブロモコハク酸イミドを用いた酸化、または2−ヒドロキシ−5−ニトロベンジル臭化物またはハロゲン化スルフェニルを用いたインドール環のアルキル化によって修飾してよい。他方のチロシン残基は、テトラニトロメタンを用いてニトロ化し、3−ニトロチロシン誘導体を形成することによって、変化させてよい。
【0068】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾は、ヨード酢酸誘導体を用いてアルキル化、またはピロ炭酸ジエチルを用いてN−カルボエトキシル化することによって達成されてもよい。
【0069】
天然に存在しないアミノ酸および誘導体をタンパク質合成の間に組み込むには、例えば、ノルロイシン、4−アミノ酪酸、4−アミノ−3−ヒドロキシ−5−フェニル吉草酸、6−アミノヘキサン酸、t−ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−メチルヘプタン酸、2−チエニルアラニンおよび/またはアミノ酸のD異性体の使用を含むが、これに限定されない。本明細書において想定されている天然に存在しないアミノ酸のリストを表2に示す。
【0070】
【表2−1】


【表2−2】

【表2−3】

【表2−4】

【表2−5】

【0071】
例えば、架橋剤は、n=1ないしn=6である(CHスペーサー基を有する二官能基性のイミドエステル、グルタルアルデヒド、N−ヒドロキシコハク酸イミドエステルのような同一の二官能基を有する架橋剤、および通常N−ヒドロキシコハク酸イミドのようなアミノ基反応部分および他の基特異的反応部分を含む異なる二官能基を有する試薬を用いて、3次元構造を安定化させるために用いられ得る。
【0072】
「有効量」または「有効数」は、治療されるべき個々の疾患の発病または進行を、望ましい応答を少なくとも一部でも得られ、または発病を遅らせ、または進行を完全に停止するほど抑制するために、必要な量または数を意味する。望ましくない効果、例えば副作用は、望ましい治療効果に伴って時々出現し;このため医師は、何が適切な「有効量」であるかを決定する上での潜在的なリスクに対する潜在的な利益を比較する。必要となる正確な量は、その対象の種、年齢および全身状態、投与法などによって、対象ごとに変化するであろう。従って、正確な「有効量」は特定できない可能性がある。しかしながら、あらゆる個々の症例における適切な「有効量」は、日常の実験のみを用いて、当業者によって決定できる可能性がある。
【0073】
「有効量」という言葉は、投与に際して、投与時の血液凝固または血栓形成を予防するか、抑制するかまたは減少させる必要性があるか、または異常な、不必要なまたはその他の不適切な血液凝固によって媒介される疾患または病態に関連した、症候の重症度を緩和するかまたは低下させることのできる、化合物の量もまた意味する。
【0074】
本発明の方法において、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物は、経口的に(頬、舌下、吸入を含めて)、経鼻的に、経直腸的に、経膣的に、経静脈的に(経動脈を含めて)、皮内に、経皮的に、筋肉内におよび局所的に投与してよい。好ましくは、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物は、処方の分野においては慣例であるように、例えば医薬上許容されるキャリア、希釈剤、濃縮剤、補助剤その他を含めた適当なキャリアと共に投与するのに適した組成物に処方されるであろう。
【0075】
「医薬上許容される」キャリア、賦形剤または希釈剤は、生物活性がないか、さもなければ望ましくなくない物質、すなわち、一切のまたはある本質的に不都合な反応を引き起こすことなしに、選別した活性のある試薬と共に対象に投与可能な物質からなる医薬上の担体を意味する。キャリアは、賦形剤、および希釈剤、界面活性剤、着色剤、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、保存剤などのような他の添加剤を含んでよい。他の適当な医薬上許容されるキャリアは、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、雲母、珪酸、粘着性のパラフィン、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどを含むが、それだけに限定されない。処方は滅菌でき、必要であれば、例えば潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝剤、着色剤、香味剤および/または芳香剤などのような、本発明の物質と有害な反応を起こさない、補助薬と混合し得る。水性の懸濁液は、懸濁液の粘性を増加させる物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよび/またはデキストランを含んでよい。所望により、懸濁液は、安定剤もまた含んでよい。
【0076】
同様に、「医薬上許容される」塩、エステル、アミド、本明細書において与えられる化合物のプロドラッグまたは誘導体は、生物活性がないか、さもなければ望ましくなくない塩、エステル、アミド、プロドラッグまたは誘導体である。
【0077】
アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を含む、本発明の組成物は、追加の活性成分、特に追加の抗凝固剤(例えばアスピリン、ワーファリン、ヘパリン)および/または血栓溶解剤(例えば、ストレプトキナーゼ、tPA、TNKアーゼTM)もまた含む。投与形態には、溶液、粉末、錠剤、カプセル、ゲルカプセル、坐薬、局所用軟膏およびクリームおよび吸入用のエアロゾルを含む。
【0078】
本発明に従って記載され、かつ使用される化合物の適切な投与経路および投与量の決定は、顧問医または製薬業者が、ケース・バイ・ケースを基準に行う必要がある。そのような決定は、当業者には日常的な事である(例えば、Anthony Fauciらによって編集され、McGrawによって出版された、第14版、Harrison‘s Principles of Internal Medicine(1998年)を参照のこと)。
【0079】
一般に、静脈内投与は、1日あたり対象の体重の約0.1−50mg/kgの範囲で、好ましくは10mg/kgおよび0.3ないし15mg/kgであるであろう。投与は、数日間、数週間または数年間、一日一回または複数回であり、または数週間または数年間、週に数回であってよい。他の経路によって投与された化合物の量は、投与された特定のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物の血漿中生物学的利用能を考慮に入れて述べられた静脈内投与量と比較して、類似した量の血漿中のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を与える量であろう。
【0080】
経口投与について、本発明のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物は、カプセル、ピル、錠剤、トローチ剤、粉末、懸濁液または乳濁液のような固体または液体に処方され得る。経口用投与形態の組成物の調製において、(例えば懸濁液、エリキシルおよび溶液のような)経口用の液体を調製する場合は、例えば、水、グリコール、油、アルコール、香味剤、保存剤、着色剤、懸濁剤などのような、通常の医薬用媒質を用いてよく;(例えば粉末、カプセルおよび錠剤のような)経口用の固形を調製する場合は、澱粉、糖、希釈剤、顆粒化剤、潤滑剤、結合剤、分解剤などを用いてよい。投与の容易さのため、錠剤およびカプセルは、最も都合のよい経口投与形態に相当し、その場合固形の医薬上のキャリアが明白に用いられている。必要であれば、錠剤は、標準的な技術によって糖の被覆または腸溶性の被覆を施してよい。活性のある試薬は、消化管の通過に適しており、同時に血液脳関門を通過可能であるようにカプセルに包むことができる。例えば、国際特許公開公報WO96/11698を参照のこと。
【0081】
非経口投与について、本発明の方法の、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物は、医薬上のキャリアに溶解または懸濁し、溶液または懸濁液のいずれかとして投与してよい。適当なキャリアの例は、水、塩溶液、デキストロース溶液、フルクトース溶液、エタノール、または動物性、植物性または合成性起源の油脂である。キャリアはまた、他の成分、例えば保存剤、懸濁剤、可溶化剤、緩衝剤などを含む。本化合物を鞘内に投与する場合にはまた、脳脊髄液に溶解してよい。
【0082】
消化による輸送のための処方を生成するための様々な方法は、当該分野においてよく知られている。一般に、Remington‘s Pharmaceutical Sciences、第18版、Gennaro編集、Mack Publishing版権、イーストン、ペンシルバニア、1999年を参照のこと。本発明の処方は、不活性で、無毒性の、医薬上適した賦形剤または溶媒を用いて、錠剤、被覆した錠剤、ピル、顆粒剤、エアロゾル、シロップ、乳濁液、懸濁液および溶液のような、慣例的な処方に、既知の方法で転化し得る。治療用活性化合物は、各々の症例において、全混合物の重量の約0.5%ないし約99%の濃度、すなわち望ましい用量の範囲を達成するために十分な量が存在するべきである。処方は、例えば、活性のある化合物は、溶媒および/または賦形剤を用いて、適切であれば乳化剤および/または分散剤を用いて希釈することによって調製し、例えば水が希釈剤として用いられる場合は、適切であれば有機溶媒を捕捉の溶媒として利用し得る。
【0083】
あるいは、標的療法は、抗体または細胞特異的リガンドまたは特異的核遺伝物質のような標的機構を利用することによって、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を、特定のタイプの細胞に、より特異的に輸送するために用いてよい。本明細書において用いられている、「遺伝物質」という用語は、少なくとも特にDNA(cDNAまたはゲノムDNA)、RNA、mRNAまたはtRNAを含めた、デオキシリボヌクレオチドおよび/またはリボヌクレオチドを含む、あらゆる一本鎖または二本鎖の核酸分子を指す。そのような分子と、人工的方法または天然に生じる原料に由来する非ヌクレオチド性置換基との組み合わせがまた、本発明で想定されている。例えばアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物が容認できない毒性を有する場合、さもなければ多すぎる量の用量を必要とする場合、さもなければ標的細胞に入ることができない場合のような、様々な理由で、標的療法は望ましい可能性がある。
【0084】
アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を直接即時に投与する代わりに、例えばウィルスベクターを用いて、または米国特許第5550050号および国際特許公開公報WO92/19195、WO94/25503、WO95/01203、WO95/05452、WO96/02286、WO96/02646、WO96/40871、WO96/40959およびWO97/12635に記述されているような細胞を基礎とする輸送体系を用いて、標的細胞内において生成させてよい。ベクターは標的細胞に方向付けられ得た。細胞を基礎とする輸送体系は、望ましい標的部位で対象の体内に埋め込むように構築され、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物のコード配列を含む。あるいは、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物は、治療すべき細胞内で生成した、またはその細胞内に標的化された活性化試薬によって活性形態に変換される前駆体として投与し得た。例えば、欧州特許出願書第0425731Aおよび国際特許公開公報WO90/07936を参照のこと。
【0085】
さらに他の選択肢として、幹細胞を単離し、遺伝的に修飾してアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を、再生療法、増強療法または組織修復療法のために、生体内または生体外での細胞培養を用いて、(構成的または派生的に)生成してよい。
【0086】
この方法はまた、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物をコード化するヌクレオチド配列を、細胞に与えることを含む。このことは、動物モデルを生み出す際に特に有用である。好ましくは、ヌクレオチド配列は、配列番号1を含む。また好ましくは、アポリポタンパク質CIIIの脂質結合部分をコード化するヌクレオチド配列であり、より一層好ましくは、配列番号3を含むヌクレオチド配列である。あるいは、遺伝子治療という方法の一部であってよい。アポリポタンパク質CIIIをコード化するヌクレオチド配列またはその遺伝子の一部は、ヒト人工染色体(HAC)ベクター内の細胞に導入してよく、その結果遺伝子が染色体外に残存する。そのような状況において、遺伝子は、染色体外に局在している細胞によって発現される。遺伝子の一部が、変異した標的の対立遺伝子を運ぶ細胞に導入され、発現されれば、遺伝子の一部はアポリポタンパク質CIIIの一部をコード化するはずである。組み換えおよび染色体外に維持するための遺伝子の導入のためのベクターは、当該分野において知られており、あらゆる適当なベクターを用いてよい。エレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈殿およびウィルス形質導入のような、細胞にDNAを導入するための方法は、当該分野において知られている。
【0087】
当該分野において知られている遺伝子輸送体系は、遺伝子操作の実行に有用である可能性がある。これらは、ウィルスおよび非ウィルス輸送法を含む。パポーバウィルス(例えばSV40、Madzakら、J.Gen.Virol.73:1533−1536、1992年)、アデノウィルス(Berkner、Curr.Top.Microbiol.Immunol.158:39−66、1992年;Berknerら、BioTechniques 6;616−629、1988年;GorzigliaおよびKapikian、J.Virol.66:4407−4412、1992年;Quantinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:2581−2584、1992年;Rosenfeldら、Cell 68:143−155、1992年;Wilkinsonら、Nucleic Acids Res.20:2233−2239、1992年;Stratfold−Perricaudetら、Hum.Gene Ther.1:241−256、1990年;Schneiderら、Nature Genetics 18:180−183、1998年)、ワクシニアウィルス(Moss、Curr.Top.Microbiol.Immunol.158:25−38、1992年;Moss、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:11341−11348、1996年)、アデノ関連ウィルス(Muzyczka、Curr.Top.Microbiol.Immunol.158:97−129、1992年;Ohiら、Gene 89:279−282、1990年;RussellおよびHirata、Nature Genetics 18:323−328、1998年)、HSVおよびEBVを含めたヘルペスウィルス(Margolskee、Curr.Top.、Microbiol.Immunol.158:67−95、1992年;Johnsonら、J.Virol.66:2952−2965、1992年;Finkら、Hum.Gene Ther.3:11−19、1992年;BreakefieldおよびGeller、Mol.Neurobiol.1:339−371、1987年;Freeseら、Biochem.Pharmacol.40:2189−2199、1990年;Finkら、Ann.Rev.Neurosci.19:265−287、1996年)、レンチウィルス(Naldiniら、Science 272:263−267、1996年)、シンドビスウィルスおよびセムリキ森林ウィルス(Berglundら、Biotechnology 11:916−920、1993年)およびトリレトロウィルス(BandyopadhyayおよびTemin、Mol.Cell.Biol.4:749−754、1984年;Petropoulosら、J.Virol.66:3391−3397、1992年)、ネズミレトロウィルス(Miller、Curr.Top.Microbiol.Immunol.158:1−24、1992年;Millerら、Mol.Cell.Biol.5:431−437、1985年;Sorgeら、Mol.Cell.Biol.4:1730−1737、1984年;およびBaltimore、J.Virol.54:401−407、1985年;Millerら、J.Virol.62:4337−4345、1988年)およびヒトレトロウィルス(Shimadaら、J.Clin.Invest.88:1043−1047、1991年;Helsethら、J.Virol.64:2416−2420、1990年;Pageら、J.Virol.64:5270−5276、1990年;BuchschacherおよびPanganiban、J.Virol.66:2731−2739、1982年)起源のものを含めて、幾つかのウィルスが、遺伝子輸送ベクターとして、または遺伝子輸送ベクターを調製するための基剤として用いられた。
【0088】
リン酸カルシウム共沈殿を含めた科学技術、機械技術、例えばマイクロインジェクション、リポソームを介した細胞膜融合媒介輸送および直接DNA取り込みおよび受容体媒介DNA輸送のような、非ウィルス遺伝子輸送法は、当該分野において知られている。ウィルス媒介遺伝子輸送は、リポソーム輸送を用いた直接的な生体内遺伝子輸送と組み合わせることができ、特定の細胞にウィルスベクターを方向付けることが可能となる。あるいは、レトロウィルスベクター生産細胞系は、特定の組織に注入され得る。生産細胞の注入は、その後、ベクター粒子の連続的な供給源を与えるであろう。
【0089】
生物学的および物理的遺伝子輸送法を組み合わせる方法において、あらゆるサイズのプラスミドDNAは、アデノウィルスヘキソンタンパク質に特異的なポリリシンコンジュゲート抗体と結合し、生じる複合体はアデノウィルスに結合している。三分子の複合体は、その後、細胞に感染させるために用いられる。アデノウィルスベクターは、結合したDNAが傷害される前に、効率的な結合、内在化およびエンドソームの分解を可能にする。アデノウィルスを基にしたベクターの輸送についての他の技術については、米国特許第5691198号を参照のこと。
【0090】
リポソーム/DNA複合体は、直接的な生体内遺伝子輸送を媒介することができることが示されている。標準的なリポソーム調製においては遺伝子輸送過程は非特異的であるけれども、例えば、直接的インサイチュ投与の後に、生体内の局所的な取り込みおよび発現が起こる可能性がある。
【0091】
他の具体例として、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物をコード化する、DNAヌクレオチド配列を、動物またはヒトの対象に注射する。例えば、DNAヌクレオチド配列は、配列番号1に開示されている配列、その変種または断片であってよい。他の具体例として、DNAヌクレオチド配列は、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物をコード化し、例えば配列番号3に開示されているDNA配列である。
【0092】
DNAヌクレオチド配列の注入は、例えば、動物、例えばヒトにおいて、異常で不必要なまたはその他の不適切な血液凝固によって特徴づけられる病態を治療するためのものであってよい。
【0093】
アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物をコード化する、DNAヌクレオチド配列は、単独で注入してよく、または他の薬剤および/または試薬と組み合わせて注入してよい。DNA配列は、医薬上の組成物として調製してよい。組成物は、本明細書に記述されているキャリアおよび/または賦形剤のような、一つまたはそれ以上の追加した原料を含んでよい。ネイクドDNAヌクレオチド配列を本発明に従って注入してよいが、注入されるDNAは、例えば出典明示により本明細書の一部とする、Felgnerら、米国特許第5459127号に記載されるように、キャリアを付随することが好ましい。
【0094】
本発明のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物はまた、血液試料への添加剤として用いてもよく、または凝固を抑制するかまたは防ぐための保存剤として用いられてもよい。従って、血液試料における抗凝固作用を生じるための方法であり、血液試料に有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を導入することを含む方法が提供される。
本発明をさらに、次の発明の範疇を制限しない実施例において、説明する。
【0095】
実施例1
原料および方法
ヒト血漿画分の調製
ヒト血漿を大部分が豊富な高分子量タンパク質に欠く画分を調製するために用いた。凍結血漿を37℃の水浴内で急速に解凍し、1体積のアセトニトリルを付加した。室温で10分間インキュベーションした後、沈殿した高分子量のタンパク質を3000Xgの遠心分離により除去し、上澄みを新しい試験管に移した。ある調製においては、アセトニトリル沈殿に先立って、尿素を血漿に付加して2Mの最終濃度にした。これらの血漿画分のMALDI−MS分析は、回収されたタンパク質の大多数は40kD未満であることを実証していた。血清を、血清に由来する類似した画分を調製する際に、血漿で置換した。
【0096】
ヒト血漿ライブラリーに含まれる抗凝固活性のバイオアッセイ
血液凝固カスケードの二つの主要な機構である、内因系および外因系経路は、フィブリノーゲンのフィブリンへの解離および最初の凝血塊形成を媒介するために、最終的には収束する。活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)テストおよびプロトロンビン時間(PT)テストは、それぞれ内因系および外因系経路の機能を評価するために、臨床において日常的に用いられている。本明細書に記述されているのは、急速な96ウェルのマイクロプレート、および薬剤輸送の適用に適した多数の化合物の大規模なスクリーニングに適合した完全自動化形式に適合した、APTTおよびPTテストの発達である。
【0097】
凝固アッセイは、0.32%のクエン酸三ナトリウムを抗凝固剤として用いて、ヒト血液を収集することによる。乏血小板血漿(PPP)を、日常的な手順によるクエン酸を加えた血液の遠心分離の後、収集する。
【0098】
PTおよびAPTTアッセイは、共にMultiprobe II EX Robotic Liquid Handling System(Perkin Elmer Life Sciences)のような、ロボットリキッドハンドリング器具を用いて、自動的にアセンブリされた。新鮮なまたは急速解凍したヒトPPP(50μl)を、底が透明の黒色の96ウェルプレートに加え、続いて96ウェルライブラリープレートから検査する化合物(1−10μl)を移した。適切な媒質の対照群を、幾つかのウェルのライブラリー化合物の代わりに加える。検査するプレートを、プレートシェーカーに移し、化合物を、PPPを用いて規定された期間(5−20分間)20−37℃で環状に震盪しながらプレインキュベーションする。PTアッセイについては、その後マイクロプレートをレーザーマイクロプレート比濁計(NEPHELOstar Galaxy、BMG Labtechnologies)に移し、前もって37℃に保っておく。その後アッセイプレートの全てのウェルを、NEPHELOstar Galaxyから市販で入手できるPT試薬を用いて自動的に注入し、凝固を開始させる。一連の市販で入手できる試薬では、首尾よく検査することができ、PT−Fibrinogen Recombinant(Instrumentation Laboratory)を含むが、それだけに限定されない。
【0099】
APTTアッセイについては、アッセイプレートの全てのウェルには、ライブラリー化合物を用いて前もってインキュベーションした後、ロボットリキッドハンドリング器具を用いて、等容量の市販されているAPTT試薬を入れた。一連の市販で入手できる試薬は、首尾よく検査することができ、PTT−A試薬(Diagnostica Stago)を含むが、それだけに限定されない。その後マイクロプレートをレーザーマイクロプレート比濁計(NEPHELOstar Galaxy、BMG Labtechnologies ドイツ)に移し、37℃に保ち、凝固アッセイを、25mMの塩化カルシウム(最初のPPP体積に相当する体積)の自動的な注入によって、開始する。その後、自動プレート震盪を、最初の測定の間隔に先立って、規定された期間1−7mmの間の幅で、環状または直線状に、最適の条件を用いて行う。正確な反応曲線を生成するために、PTおよびAPTTアッセイについてはそれぞれ日常的には2−3秒で設定されているが、測定ウィンドウは0.2秒くらい頻繁に読み取るように設定し得る。各々のウェルの自動化レーザー比濁計は、鋭敏に時間依存性の凝固の誘導を、相対的な光散乱の増加として検出し、臨床的に用いられる他の方法と比較可能な両テストを用いて凝固時間を与える。
【0100】
活性成分のMALDI−TOF MS同定
全ての活性画分は、ライナーならびにリフレクター陽イオンモードにて作動する、Bruker Autoflexマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析計を用いて質量分析した。試料の一部0.5μlを、2,5ジヒドロキシ安息香酸マトリックス0.5μlと試料標的上で直接混合し、器具に挿入する前に放置して乾燥させた。
【0101】
無傷のアポリポタンパク質CIII2−1−0の質量を測定し、それぞれ9712Da、9421Daおよび8765Daであった。
【0102】
最初の質量測定の後、最も高い存在量のタンパク質(CIII)を、レーザーの設定を変えることによって分解した。「ポストソース分解」(MALDI−PSD−MS)スペクトルを得て、炭水化物部分の存在およびサイズを決定し、シアル酸残基、N−アセチルヘキソースおよびヘキソースであった。この結果は論文において確認されている。その後「インソース分解」(MALDI−ISD−MS)スペクトルを記録し(図5)、最初の配列の63のアミノ酸残基に対応するピークを得た。スペクトルを、XMASSプログラムを用いて注釈をつけ、調査プログラムであるBioToolsに移した。質量情報をSwissProtタンパク質データーベースと比較することによって、タンパク質がアポリポタンパク質CIIIであると、疑いなく同定がなされた。
【0103】
プロトロンビン時間抑制剤の単離および特徴付け
アセトニトリル1体積を用いて沈殿させた後、最初のライブラリーを、ヒト血漿から単離した可溶性タンパク質5mgを用いて確立した。この原料の分離は、Zorbax 300SB−C18カラム(4.6×250mm)上で、0−70%の直線的勾配の溶媒Bを30分間にわたって1ml/分の流速で用いて、逆相クロマトグラフィーによってなされた。溶媒Aはミリキュー水中0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)からなり、溶媒Bはアセトニトリル中0.08%のTFAからなっていた。クロマトグラフィー分離を、214nmでモニターリングした(図1A)。画分を、1分間隔で収集して96ウェルポリプロピレンライブラリープレートに直接入れ、凍結乾燥し、その後ライブラリー画分を、バイオアッセイのために、25mMの50−100μlの炭酸水素アンモニウムで復元した。自動化リキッドハンドリングロボットは、上記のようにプロトロンビン時間を決定するために、ヒト乏血小板血漿(PPP)50μlを含む、96ウェルアッセイプレートの個別のウェルに、ライブラリーの画分の一部5μlを、配分するために用いられた。プロトロンビン時間は、凝固が開始する時間を示しており、利用した比濁分析法による光散乱の増加によって検出される。媒質と共にプレインキュベーションしたPPPは、16秒のPTしか示さなかった(図2)。このライブラリーに由来する二つの個別の画分(画分40および41)は、PTによって測定した凝固反応の誘導は一貫して延長した(図1)。画分40の存在下で、PTは18秒まで増加するが(+12.5%)、それに対して画分41は、PTを24秒まで増加させた(+50%)。同様の抑制反応は、同一のライブラリーが多数の異なるドナーに由来する血漿またはヒト血清から調製された場合に検出された。同一の画分(40、41)は、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)によって測定された凝固経路の内因系機構に対して、測定可能な効果を有さない。
【0104】
最初の分離による主要な抑制性の画分(♯41)を、二次的なクロマトグラフィーによる分離に付し、活性のある成分を単離した。この場合、Zorbax 300SB−C18カラム(2.1×150mm)上で、0−100%の直線的勾配の溶媒Bを91分間にわたって0.5ml/分の流速で用いた、逆相クロマトグラフィーによって、分離がなされた(図1B)。溶媒Aは、pH8のミリキュー水中10mMの炭酸水素アンモニウムからなり、溶媒Bは、pH8の70%アセトニトリル中10mMの炭酸水素アンモニウムからなっていた。クロマトグラフィー分離を、214、254および280nmでモニターリングし、画分を1分間隔で収集し、バイオアッセイのために凍結して50μlの25mM炭酸水素アンモニウムで復元する前に、96ウェルのポリプロピレンライブラリープレートに直接入れた。PTアッセイにおける二次元ライブラリーのバイオアッセイの後、PTを様々な程度に抑制する、三つの画分(♯53−55)を検出した(図3)。16秒間の対照群のPTが、画分53では18秒まで延び(+12.5%)、画分54では20秒まで延び(+25%)、画分55では17秒まで延びた(+6.25%)。
【0105】
MALDI質量分析によるこれらの活性のある画分の分析によって、グリコシル化の程度に関して異なる、アポリポタンパク質CIIIの様々なアイソフォームの存在が明らかになった。ヒトアポリポタンパク質CIIIは、シアル化のレベルに従った三つの形態:C−III、C−IIIおよびC−IIIで存在する。下に書かれた数字は、シアル酸残基の数を示す。画分54および55は、大部分がアポリポタンパク質C−IIIを含む(平均質量9421)ことが示され、画分53は相対的に少量のアポリポタンパク質C−IIIを含んでいた(平均質量9712は、アポリポタンパク質C−IIIがヒト血漿に存在する断然豊富な形態であることを示す以前の報告と一致している)。この化合物は、組織内でART1と呼ばれた。
【0106】
アポリポタンパク質CIIIのトリプシンによって生じたペプチドは、プロトロンビン時間を抑制する
アポリポタンパク質CIIIに由来するより小さいペプチドが、PT凝固抑制因子として作用するかを決定するために、アポリポタンパク質CIII上で制限したトリプシン消化を行った。出発物質として、最初の低pHC18分離に由来する画分40/41(バイオアッセイにより活性ありと確定された)を貯蓄し、トリプシンで消化した。トリプシン消化は、25mM炭酸水素アンモニウム、10%アセトニトリル、pH8中で37℃で2時間実行し、MALDI−MSによってモニターリングした。その後トリプシン消化物をZorbax 300SB−C18カラム(2.1×150mm)上で、0−100%の直線的勾配の溶媒Bを91分間にわたって0.5ml/分の流速で用いた、逆相クロマトグラフィーによって分離された。溶媒Aは、pH8のミリキュー水中10mMの炭酸水素アンモニウムからなり、溶媒Bは、pH8の70%アセトニトリル中10mMの炭酸水素アンモニウムからなっていた。クロマトグラフィー分離を、214、254および280nmでモニターリングした。画分を1分間隔で収集し、バイオアッセイのために凍結して30−50μlの25mM炭酸水素アンモニウムで復元する前に、96ウェルのポリプロピレンライブラリープレートに入れた。四つの画分(♯42−45)は、87%まで、PT反応を延長するペプチドを含むことが判明した(図4)。これらの画分は全て大部分がアポリポタンパク質CIIIのペプチド41−79を含み、表3において概略を示すように、MALDI質量分析によってグリコシル化の程度に関してのみ変化していることが示された。
【0107】
【表3】

【0108】
実施例2
CR001と呼ばれる、アミノ酸41−79(配列番号4)に対応するアポリポタンパク質CIIIの断片(以降の実施例2−6において「アポリポタンパク質CIII断片」と呼ばれる)を、生体外でのPTアッセイにおける抑制効果をさらに検査するために合成した。様々な濃度のアポリポタンパク質CIII断片を、市販で入手できるトロンボプラスチン試薬であるPTフィブリノーゲンリコンビナント(Instrumentation Laboratories)を用いてプレインキュベーションし、この混合物を、クエン酸を加えたヒト血漿の凝固を開始するために用いた。レーザーマイクロプレート比濁分析アッセイを、前に記述したようにPTを決定するために用いた。図6に示されるアポリポタンパク質CIII断片の濃度は、ペプチドの最終アッセイ濃度に関係する。図6は、アポリポタンパク質CIII断片がPTの用量依存性延長を引き起こし、およそ2倍のPTは、アポリポタンパク質CIII断片28μMを用いて達成されることを実証している。ヒト血漿から精製される全長のアポリポタンパク質CIII単一の濃度を、比較のために示している。アポリポタンパク質CIII断片によって媒介される、生体外PT凝固に対する抑制反応は、配列番号4に対応するアミノ酸が、この抗凝固作用を生じるために必要となる配列の大多数を包含している可能性がある。それに加えて、アポリポタンパク質CIIIを用いた研究は、天然のアポリポタンパク質CIIIのグリコシル化の相違は、この抗凝固作用を媒介するためにはあまり厳密には要求されないということを示唆している。
【0109】
実施例3
アポリポタンパク質CIII断片はまた、ヒトの全血における組織因子媒介性の凝固の抑制力について検査した。新鮮に得られ、クエン酸を加えたヒトの全血を、図6について記述されているように、様々な濃度の合成および市販のトロンボプラスチン試薬と反応させ、その後の凝固反応を比濁分析測定によって決定した。クエン酸を加えたヒト血漿に関しては、ペプチド濃度の増加は、血漿において実証されているのと同様の用量依存性で、ヒトの全血の組織因子媒介性凝固の進行の抑制を引き起こした。
【0110】
図6および7において呈示されているデータは、ヒト血漿または全血のいずれかを用いた、生体外のPTアッセイにおけるアポリポタンパク質CIII断片の明確な抗凝固作用を実証している。アポリポタンパク質CIII断片(0.85−42μM)は、クエン酸を加えたヒト血漿におけるAPTT凝固に対して何の作用もせず、アポリポタンパク質CIII断片の作用が、凝固経路の外因系機構に限定されることを示している。組み合わせると、これらのデータは、アポリポタンパク質CIII(および/またはその断片)は組織因子:VIIa複合体の成分を標的とすることにより抗凝固作用を惹起することができるという、本発明の請求事項を支持している。
【0111】
実施例4
アポリポタンパク質CIIIおよびアポリポタンパク質CIII断片が、組織因子媒介性凝固を抑制するように作用する濃度をさらに詳細に調べるために、それらの作用を、組織因子に依存する、二段階の発色基質アッセイにおいて検査した:VIIaは因子Xの因子Xaへの変換を媒介し;因子Xaの活性は、その後発色基質S−2765を用いて決定される。反応は、様々な濃度のアポリポタンパク質CIIIまたはアポリポタンパク質CIII断片を、50mMトリス(pH7.4)、100mM塩化ナトリウム、4mM塩化カルシウムおよび0.1%BSAを含む60μlの反応液中の組織因子(PTフィブリノーゲンリコンビナントの1:200の希釈液)、ヒト因子VIIIa(133pM)およびウシ因子X(0.25U/ml)を用いて、10分間37℃でインキュベーションすることによって、マイクロプレートにおいて確立された。マイクロプレートを速やかにプレートリーダーに移し、50μlの発色基質S−2765を付加して最終濃度を0.9mMとした。定時吸光度測定(A405nm)を、因子Xa活性を決定するために、30秒間隔で7分間すぐに開始した。
【0112】
図8Aにおいて示されるように、複数のヒトドナーに由来する血漿から精製したアポリポタンパク質CIIIの調製は、因子Xa活性の用量依存性抑制を引き起こす。アポリポタンパク質CIIIについて算出したIC50は、7.2μMであった。アポリポタンパク質CIII断片(図8B)はまた、この2段階の発色基質アッセイにおいて、因子Xaの用量依存性の抑制を引き起こすことが示された。合成ペプチドのアポリポタンパク質CIII断片について算出されたIC50は6.1μMであり、90%以上の抑制が、約100μMの濃度のアポリポタンパク質CIII断片を用いて達成された。
【0113】
これらのデータは、アポリポタンパク質CIIIおよびアポリポタンパク質CIII断片は、組織因子:VIIa:X/Xa複合体のレベルで、区別のできない抑制作用を有することを実証している。アポリポタンパク質CIIIまたはアポリポタンパク質CIII断片は共に、APTT凝固経路に何ら実証可能な作用を有さないので、これらのペプチドが因子XまたはXa活性を直接妨げることは不都合である。この概念をさらに支持するために、発色基質S−2765上で単独で検査した場合、アポリポタンパク質CIIIまたはアポリポタンパク質CIII断片は共に、因子Xaに対して何ら直接的な抑制作用を有さないことが示された。因子Xa活性に対して何ら実証可能な直接的作用を有さないので、組織因子:VIIa複合体が、アポリポタンパク質CIIIおよびその誘導体のアポリポタンパク質CIII断片の最も適当な標的であることが呈示された。
【0114】
実施例5
PT凝固反応に対するアポリポタンパク質CIIIの抑制作用を、以前記述したように比濁分析を基にしたアッセイで、様々な種に由来する血漿において検査した。同一の組織因子調製(PT−フィブリノーゲン レコンビナント、Instrumentation Laboratories)によって全て開始された、様々な血漿におけるアポリポタンパク質CIII断片単一の濃度(22μM)に対する反応が、図9に示されている。データは、アポリポタンパク質CIII断片が、ヒトおよびブタ血漿において実質的な抑制作用を有し、ウサギおよびマウス血漿においてはより低い作用しか有さず、イヌおよびラット血漿においてはこの濃度では区別可能な効果を何ら有さないという、明白な特異的反応を実証している。全ての種における凝固を開始させるために用いた組織因子調製は同一であるので、これらのデータは、アポリポタンパク質CIII断片が、組織因子に加えて血漿因子と、あるいはまた組織因子以外の因子と相互作用していることを示唆している。
【0115】
総括的には、図6−9において呈示されているデータは、因子VIIaは、単独であるいは組織因子を有する複合体として、アポリポタンパク質CIIIおよびアポリポタンパク質CIII断片との相互作用に対する最も適当な標的に相当することを示唆している。
【0116】
実施例6
一連のアポリポタンパク質CIII断片に由来するペプチドを用いた予備研究は、主要な抗凝固活性は、アポリポタンパク質CIII断片のN末端部分に由来することを示している。図10に記述されている、幾つかのアポリポタンパク質CIII断片に由来するペプチドを、因子Xの組織因子:VIIa媒介性活性化を決定する、2段階の発色基質アッセイにおける相対的な抑制活性について検査した。CR003、CR004およびCR005と呼ばれる、アミノ酸59−79を含むアポリポタンパク質CIII断片の様々なC末端に対応しているペプチドは、発色基質アッセイにおいて何ら抑制活性を示さなかった。対照的に、ペプチドCR002(アミノ酸41−60)は、因子Xの組織因子:VIIa媒介性活性化を抑制する力を保持していたが、アポリポタンパク質CIII断片よりも遙かに低い効能しかなかった。効能の連続的損失は、追加のN末端残基の除去として示された(CR006;アミノ酸49−62)。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】アポリポタンパク質CIIIのクロマトグラフィー分離および同定を示す。
【図2】マイクロウェルプレートにおける高処理量比濁分析を基にした方法によって測定されたプロトロンビン時間(PT)凝固を示す。
【図3】マイクロウェルプレートにおける高処理量比濁分析を基にした方法によって測定されたプロトロンビン時間(PT)凝固を示す。
【図4】アポリポタンパク質CIIIトリプシン消化物のプロトロンビン時間(PT)凝固活性を示す。
【図5】アポリポタンパク質CIIIから得られたMALDI−ISD−MSスペクトルの切片を示す。
【図6】クエン酸を加えたヒト血漿のプロトロンビン時間を示す。
【図7】ヒト全血におけるTF媒介凝固を示す。
【図8】TF:VIIa介在の因子Xの活性化についての発色基質アッセイを示す。
【図9】様々な種に由来する血漿におけるプロトロンビン時間に対する、アポリポタンパク質CIII断片(アミノ酸41−79)の影響
【図10】アポリポタンパク質CIII断片(アミノ酸41−79)由来のペプチドの活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液凝固アッセイにおいて抗凝固作用を惹起するための方法であり、有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物と、血液試料を接触させることを含む方法。
【請求項2】
対象において抗凝固作用を惹起するための方法であり、有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を、対象に投与することを含む方法。
【請求項3】
対象の異常な、不必要なまたはその他の不適切な血液凝固によって特徴づけられる病態を予防的および/または治療的処置をするための方法であり、有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を含む組成物を、対象に投与することを含む方法。
【請求項4】
その病態が、深部静脈血栓症、肺梗塞、心房細動に関連する血栓塞栓合併症、心臓弁置換、経皮的経管的血管形成、虚血再還流傷害および術後血栓塞栓症からなる群から選ばれるところの、請求項3記載の方法。
【請求項5】
血液試料中で抗凝固作用を惹起するための方法であり、有効量のアポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物を、その血液試料に導入することを含む方法。
【請求項6】
断片がアポリポタンパク質CIIIの脂質結合断片を含むところの、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
断片が配列番号4に開示されているアミノ酸配列を含むポリペプチドであるところの、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
対象が哺乳類であるところの、請求項2または請求項3記載の方法。
【請求項9】
哺乳類がヒトであるところの、請求項8記載の方法。
【請求項10】
組成物が追加の活性成分を含むところの、請求項3記載の方法。
【請求項11】
追加の活性成分が追加の抗凝固剤および/または血栓溶解剤を含むところの、請求項10記載の方法。
【請求項12】
アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物をエンコードするヌクレオチド配列を、対象に投与するところの、請求項2または請求項3記載の方法。
【請求項13】
ヌクレオチド配列が、アポリポタンパク質CIIIの脂質結合断片をエンコードするところの、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ヌクレオチド配列が、配列番号3に開示されているヌクレオチド配列を含むところの、請求項12記載の方法。
【請求項15】
深部静脈血栓症、肺梗塞、心房細動に関連する血栓塞栓合併症、心臓弁置換、経皮的経管的血管形成、虚血再還流傷害および術後血栓塞栓症からなる群から選ばれる病態を治療するための医薬を調製するための、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物の使用。
【請求項16】
深部静脈血栓症、肺梗塞、心房細動に関連する血栓塞栓合併症、心臓弁置換、経皮的経管的血管形成、虚血再還流傷害および術後血栓塞栓症からなる群から選ばれる病態を治療するための医薬を調製するための、アポリポタンパク質CIIIの脂質結合断片の使用。
【請求項17】
深部静脈血栓症、肺梗塞、心房細動に関連する血栓塞栓合併症、心臓弁置換、経皮的経管的血管形成、虚血再還流傷害および術後血栓塞栓症からなる群から選ばれる病態を治療するための医薬を調製するための、配列番号4に開示されているアミノ酸配列を含むポリペプチドの使用。
【請求項18】
深部静脈血栓症、肺梗塞、心房細動に関連する血栓塞栓合併症、心臓弁置換、経皮的経管的血管形成、虚血再還流傷害および術後血栓塞栓症からなる群から選ばれる病態を治療するための医薬を調製するための、アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物をエンコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子の使用。
【請求項19】
深部静脈血栓症、肺梗塞、心房細動に関連する血栓塞栓合併症、心臓弁置換、経皮的経管的血管形成、虚血再還流傷害および術後血栓塞栓症からなる群から選ばれる病態を治療するための医薬を調製するための、アポリポタンパク質CIIIの脂質結合断片をエンコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子の使用。
【請求項20】
深部静脈血栓症、肺梗塞、心房細動に関連する血栓塞栓合併症、心臓弁置換、経皮的経管的血管形成、虚血再還流傷害および術後血栓塞栓症からなる群から選ばれる病態を治療するための医薬を調製するための、配列番号3に開示されているヌクレオチド配列を含む核酸分子の使用。
【請求項21】
アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物および医薬上許容されるキャリアを含む、医薬組成物。
【請求項22】
アポリポタンパク質CIIIの脂質結合断片および医薬上許容されるキャリアを含む、医薬組成物。
【請求項23】
配列番号4に開示されているアミノ酸配列を含むポリペプチドおよび医薬上許容されるキャリアを含む、医薬組成物。
【請求項24】
アポリポタンパク質CIIIまたはその断片、誘導体、相同物、類似物、化学的等価物、機能的等価物または模造物をエンコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子および医薬上許容されるキャリアを含む、医薬組成物。
【請求項25】
アポリポタンパク質CIIIの脂質結合断片をエンコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子および医薬上許容されるキャリアを含む、医薬組成物。
【請求項26】
配列番号3に開示されているヌクレオチド配列を含む核酸分子および医薬上許容されるキャリアを含む、医薬組成物。
【請求項27】
アポリポタンパク質CIIIのアミノ酸41−79を含む、単離したアポリポタンパク質CIII断片。
【請求項28】
アポリポタンパク質CIIIのアミノ酸41−79を含む、アポリポタンパク質CIII断片をエンコードするヌクレオチド配列を含む、単離した核酸分子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−528490(P2006−528490A)
【公表日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521342(P2006−521342)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【国際出願番号】PCT/AU2004/000990
【国際公開番号】WO2005/011724
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(505011121)ヘルスリンクス・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】HEALTHLINX・LIMITED
【Fターム(参考)】