抗原を発現する組み換えウイルスと免疫刺激分子を発現する組み換えウイルスとを含む組成物
【課題】病原性疾患及び癌の予防及び治療のための、組換えウイルスベクターワクチンを提供する。
【解決手段】病因物質に対する抗原をコードする遺伝子をゲノムまたはその一部中に取り込んでいる組み換えウイルスと、病因物質に対する免疫応答を刺激する目的のための免疫分子をコードする遺伝子を、ゲノムまたはその一部中に取り込んでいる組み換えウイルスとの組成物。癌または病原性微生物によって引き起こされる疾患の治療方法となる。
【解決手段】病因物質に対する抗原をコードする遺伝子をゲノムまたはその一部中に取り込んでいる組み換えウイルスと、病因物質に対する免疫応答を刺激する目的のための免疫分子をコードする遺伝子を、ゲノムまたはその一部中に取り込んでいる組み換えウイルスとの組成物。癌または病原性微生物によって引き起こされる疾患の治療方法となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は病原性疾患及び癌の予防と治療のための組換えウイルスベクターワクチンの組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は抗原(単数又は複数)をコードする遺伝子を含む組換えウイルスベクターと、免疫刺激性分子(単数又は複数)をコードする遺伝子(単数又は複数)を含む組換えウイルスベクターとの組成物に関する。これらの遺伝子は1つの組換えベクターに又は別々のウイルスベクターに挿入されることができる。本発明の他の態様は、免疫刺激性遺伝子(単数又は複数)を含有する組換えウイルスによるinsitu若しくはインビトロにおける疾患細胞の感染及び感染した細胞の宿主中への再導入によって、哺乳動物における疾患細胞(例えば、腫瘍細胞)に対する免疫応答を強化することである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
癌患者における活性免疫反応を刺激する現在までの試みは“非特異的”(即ち、BCGの使用)又は“特異的”(即ち、腫瘍細胞、腫瘍細胞抽出物、細胞培養上澄み液からの抗原混合物又は腫瘍細胞の溶解産物(oncolysate)の使用)として分類することができる。これらの努力の殆どが転移性黒色腫を有する患者において続けられている。組換えワクチンの開発は、免疫原又は免疫刺激性分子の特異的な、規定された遺伝子産物又はエピトープの使用を含む。後者のアプローチが特定の患者からの細胞を用いて、これらの細胞に例えばB7.1、B7.2、IL−2又はGM−CSFのような免疫刺激性分子の遺伝子を現場で挿入するか又は培養した細胞を患者に再び投与することを必要とするという点で、組換えワクチンは“遺伝子療法”にも用いることができる。
【0003】
組換えワクチンは多くの形態をとることができる。例えばバキュロウイルス(昆虫ベクター)のようなベクターによって又は真核細胞におけるように、組換えタンパク質を合成することができる。合成ペプチドが免疫原として役立つことができる。9〜数ダースのアミノ酸から成るペプチドワクチンは2種類の形態をとることができる。これらはアジュバントと混合するか又は患者に再注入するための抗原提示細胞(antigen presenting cell)(APC)として末梢血管細胞をパルスする(pulse)ために用いることができる。特定腫瘍関連抗原をコードする遺伝子をベクターに挿入することによっても、組換えワクチンを構築することができる。用いられる共通ベクター(common vector)の一部はワクシニアウイルス、例えば鶏痘又はカナリヤ痘(ポックス)のようなトリポックス(avian pox)ウイルス、BCG、アデノウイルス及びサルモネラ(Salmonella)である。これらのベクターは、各々がそれらの利点と欠点を有するが、それらの構成タンパク質の免疫原性のために通常用いられ、挿入された遺伝子のタンパク質又はエピトープをより大きく免疫原性にする。組換えワクチンは、特定腫瘍関連抗原に対して産生されるモノクローナル抗体に向けられる抗イディオタイプ抗体の形態をとることもできる。最も最近では、プロモーター遺伝子を含有するプラスミド中の腫瘍関連遺伝子のネーキッド(naked)DNAから成るポリヌクレオチドワクチンが製造されている。上記の全ては動物モデルにおいて分析されているが、1つのアプローチの他のアプローチに対する相対的効率を調べた研究は殆どない。臨床試験は現在これらのアプローチの幾つかを胸部癌及び他の癌患者に用い始めており、他の臨床試験も近い将来開始する見込みが大きい。
【0004】
現在、癌治療用の組換えワクチンに用いられうると見なされている幾つかの抗原が存在する。これらの最初の抗原は、胸部腫瘍の約20〜30%に過度に発現することが判明しているc−erbB/2癌遺伝子である(Pietras RJ等,Oncogene 9:1829〜1838,1994)。ラットにおける点突然変異したc−erbB/2癌遺伝子が、ワクシニアウイルスに挿入されたときに、免疫原性になり、抗腫瘍効果を生じることができることが判明している(Bernards R等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:6854〜6858,1987)。しかし、ヒトc−erbB/2は突然変異させられない。この遺伝子が、インビトロでヒトT細胞反応を生じるように思われる幾つかのエピトープを含有することが最近判明している(Disis ML等,Cancer Res.54:1071〜1076,1994)。やはり多くのヒト胸部腫瘍中に見い出される点突然変異したp53癌遺伝子は細胞毒性T細胞の可能な標的であることが判明している(Yanuck,M等,Cancer Res.53:3257〜3261,1993)。特異的な点突然変異を示すペプチドがヒト末梢血リンパ球(PBL)によってパルスされて、患者に再投与される臨床研究も現在開始されている。胸部癌ムチン,MUC−1又はDF3は胸部の分化抗原(differentiation antigen)を表す(AbeM.とKufe D.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 9:282〜286,1993)。MUC−1はある種類の正常上皮組織中に発現されるが、これは胸部癌組織中では特有にグリコシル化されるように思われる。MUC−1ムチンのコアタンパク質のタンデム反復(tandem repeat)は、胸部癌患者のリンパ節が非MHC制限的にMUC−1ペプチドによって活性化されうるT細胞を含有すると言う点で、ヒトにおいて免疫原性であると報告されている(BarndDL等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:7159〜7163,1989)。卵巣癌患者がこの領域に対して抗体反応を示すことができることも判明している(Rughetti A等,CancerRes.53:2457〜2459,1993)。MUC−1遺伝子がワクシニアウイルスに挿入されている動物モデルが報告されている(Hareuveni M等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA87:9498〜9502,1990;Hareuveni等,Vaccine,9:618〜626,1991)。MUC−1ペプチドがヒトPBLによってパルスされる臨床試験は現在、胸部癌患者において行われている。癌療法の可能な標的を表す他のムチンは、ヒト胸部癌患者の約70〜80%に見い出されるTAG−72である(ThorA等,Cancer Res.46:3118〜3124,1986)。
【0005】
癌抗原に対する有効な免疫感作の大抵の試みは全腫瘍細胞又は腫瘍細胞フラグメントを含んでいるが、悪性細胞を正常細胞から区別する特有の腫瘍抗原に対して特異的に免疫感作することが最も望ましい。Tリンパ球によって認識される腫瘍関連抗原の分子性質は充分に理解されていない。エピトープ又は完全(intact)タンパク質を認識する抗体とは対照的に、T細胞は細胞表面のクラスI又はII主要組織適合(MHC)分子上に存在する短鎖ペプチドフラグメント(8〜18アミノ酸)を認識し、このようにして腫瘍関連抗原は提示され、T細胞によって認識されると思われる。
【0006】
HLA−A2クラスI分子に関連してTILによって認識される黒色腫の腫瘍抗原をコードする幾つかの遺伝子が同定されている(Kawakami,Y.等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA91:3515〜3519,1994;Kawakami,Y.等,Cancer Res.54:3124〜3126,1994)。
【0007】
ヒト癌胎児性抗原(CEA)も、結腸直腸癌、胃癌、膵臓癌、胸部癌及び非スモール(non−small)細胞癌を包含する、ある範囲のヒト癌の免疫療法の可能な標的分子を表す(Robbins PF等,Int.J.Cancer,53:892〜897,1993;Esteban JM等,Cancer 74:1575〜1583,1994)。実験研究は、抗−CEAモノクローナル抗体に対する抗イディオタイプ抗体がマウスにおいて免疫応答を誘出することができることを実証している(Bhattacharya−Chatterjee,M.等,Int.Rev.Immuno.7:289〜302,1991)。この抗イディオタイプ抗体を用いる臨床研究は現在進行中である。CEA遺伝子がワクシニアウイルス中に挿入されている組換えワクチンも開発されている(Kantor J.等,J.Natl,Cancer Inst.84:1084〜1091,1992)。このワクチンを含むフェイズI臨床試験は丁度完成されたところである。
【0008】
特有の腫瘍抗原を表す免疫優生ペプチドの同定は癌に対する免疫感作の新しい可能性を開示している。免疫優生ウイルスペプチドによる免疫感作がウイルス感染に対する保護を与えることができるウイルス特異的CTLを誘導することができることの実質的な証拠が動物モデルに存在する。純粋なペプチドのみではT細胞応答を刺激するのに効果がないが、アジュバント中に乳化した又は脂質と複合体化した(complexed)ペプチドが新しいウイルスによるチャレンジに対してマウスをプライミングする(priming)ことが実証されており、このようなペプチドが、致死的なウイルス接種物からマウスを保護するウイルス特異的CTLを誘導することができる(Kast,W.M.等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:2283〜2287,1991;Deres,K等,Nature,342:561〜564,1989;Gao,X.M.等,J.Immunol.147:3268〜3273,1991;Aichele,.P.J.Exp.Med.171:1815〜1820.1990;Collins,D.S.等,J.Immunol.148:3336〜3341,1992)。Listeriamonocytogenesペプチドエピトープによって被覆された脾臓細胞に対するマウスの免疫感作も、培養中にエキスパンドされ(expanded)うるListeria特異的CTLの形成を生じる。これらのCTLの養子移入もマウスを致死的細胞チャレンジから保護することができる(Harty,J.T.等,J.Exp.Med.175:1531〜1538,1992)。完全Freundアジュバント中で乳化されたHIVgp120とgp160の抗原エピトープを表すペプチドも特異的CTL応答をプライミングすることができる(Takahashi,H.等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:3105〜3109,1988;Hart,M.K.等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:9448〜9452,1991)。
【0009】
アジュバント中の又は脂質と複合体化したペプチドによる免疫感作はマウスにおけるT細胞応答を生じるが、この反応は一次脾臓細胞にT反応性細胞を誘導するほど強力であることは稀である。感作リンパ球の検出は殆ど常に二次インビトロ刺激を必要とする。
【0010】
B7遺伝子ファミリーの発現はマウスとヒトの両方における抗腫瘍応答の重要な機構であることが実証されている。少なくとも2種類のシグナルが抗原担持標的細胞による未使用(naive)T細胞の活性化のために必要であることが現在明らかになりつつある:T細胞受容体から供給される抗原特異的シグナルと、リンホカイン産物を生じる抗原独立性又は同時刺激性シグナル(Hellstrom,K.E.等,AnnalsNY Acad.Sci.690:225〜230,1993)。2種類の重要な同時刺激性分子は、T細胞表面抗原CD28とCTLA4のリガンドであるB7−1(Schwartz,R.H.Cell,71:1065〜1068,1992;Chen,L.等,Cell,71:1093〜1102,1992;Freeman,G.J.等,J.Immunol.143:2714〜2722,1989;Freeman,G.J.等,J.Exp.Med.174:625〜631,1991)と、CTLA4の代替リガンドであるB7−2(Freeman,G.J.等,Science,262:813〜960,1993)とである。現在までに、ネズミB7−1とB7−2(Freeman,G.J.等,J.Exp.Med.174:625〜631,1991;Freeman,G.J.等,Science,262:813〜960,1995)とヒトB7−1とB7−2の両方が述べられている(Freeman,G.J.等,J.Immunol.143:2714〜2722,1989;Freeman,G.J.等,Science,262:909〜911,1993)。B7−1とB7−2によって与えられる同時刺激性シグナルがT細胞活性化の機能的に異質の機構であるか又は余分な(redundant)機構であるのかはこの時点では不明である(Hathcock,K.S.等,J.Exp.Med.180:631〜640,1994)。ネズミとヒトの大抵の腫瘍はB7−1又はB7−2を発現せず、このことは、腫瘍が可能な拒絶抗原(rejectionantigen)を発現する場合にも、抗腫瘍T細胞応答を活性化する見込みがないことを意味する。(Hellstrom,K.E.等,Annals.N.Y.Acad.Sci.690:225〜230,1993;Hellstrom,I.等,Annals.N.Y.Acad.Sci.690:24〜31,1993)。実際に、1種類のみのシグナルがT細胞によって受容されることに起因してアネルギーが生じる可能性がある(Hellstrom,K.E.等,Annals.N.Y.Acad.Sci.690:225〜230,1993)。黒色腫細胞中へのB7のトランスフェクションはインビボにおいてネズミ黒色腫の拒絶を誘導することが判明した(Townsend,S.E.等,Science,259:368〜370,1993)。
【0011】
ワクシニアウイルスはヒトに広範囲に用いられており、天然痘に対するワクチンに基づくワクシナ(vaccina)の使用はこの疾患の世界的な規模の根絶を生じている(参考文献のMoss,B.Science,252:1662〜1667,1991において調査)。ワクシニアウイルスは低コスト、熱安定性及び簡単な投与方法と言う利点を有する。他の疾患の予防のためにワクシニアウイルスベクターを開発しようと試みられている。
【0012】
ワクシニアウイルスは細胞質DNAウイルスのポックス(pox)ウイルスファミリーの要素である。DNA組換えはポックスウイルスの複製中に生じ、DNAをウイルスゲノムに挿入するために用いられている。組換えワクシニアウイルス発現ベクターは広範囲で述べられている。これらのベクターは多様な外来遺伝子産物に対して細胞免疫性を与えることができ、幾つかの動物モデルにおいて感染性疾患を予防することができる。組換えワクシニアウイルスは発現ベクターはヒトの臨床試験にも同様に用いられている。Cooney等は35人の健康なHIV血清陰性男性にHIVのgp160エンベロープ遺伝子を発現する組換えワクシニアウイルスによって免疫感作した(Cooney,E.,The Lancet 337:567〜572,1991)。Graham等はgp160HIVエンブロープタンパク質を含有する組換えワクシニアウイルス又は対照ワクシニアウイルスのいずれかを受容するように36人の被験者を無作為に選別した(Graham,B.S.等,J.Infect.Dis.166:244〜252,1992)。組換えワクシニアウイルスを用いたフェイズI研究が転移性黒色腫を有する患者においてp97黒色腫抗原を発現する組換えウイルスを用いて開始されていて(Estin,C.D.等,Proc.Natl.Acad.Sci.85:1052〜1056,1988)、進行した胸部癌、肺癌又は結腸直腸癌を有する患者におけるヒト癌胎児性抗原を発現する組換えワクシニアウイルスを用いるフェイズI試験は丁度完了したところである。これらの試験において、ワクシニアウイルスは皮内乱刺法によって投与され、局所皮膚刺激状態、リンパ節症及び一過性インフルエンザ様症状を含めた副作用は最小であった。
【0013】
鶏痘及びカナリヤ痘(ポックス)はポックスウイルスファミリー(トリポックスウイルス遺伝子)の要素である。これらのウイルスはトリ細胞においてのみ複製することができ、ヒト細胞では複製することができない。これらは、宿主ゲノムに結合しない細胞質ウイルスであるが、真核細胞において多数の組換え遺伝子を発現することができる。
【0014】
狂犬病糖タンパク質を発現する組換えトリポックスウイルスはマウス、ネコ及びイヌを生狂犬病ウイルスチャレンジから保護するのに用いられている。鶏と七面鳥のインフルエンザHA抗原を発現する組換えトリポックスによる免疫感作は、インフルエンザウイルスによる致死的なチャレンジから保護した(Taylor等,Vaccine,6:504〜508,1988)。カナリヤポックス被験者は105.5感染単位までの用量を受容した(Cadoz M.,The Lancet,339:1429〜1432,1992)。NIAIDによって支持された最近の試験(プロトコール012A:HIV−1非感染成人における生組換えカナリヤポックスーgp160MN(ALVAC VCP125 HIV−1gp160MNO)のフェイズI安全性及び免疫原性試験)では、患者はHIVgp160遺伝子を含有する組換えカナリヤポックスウイルスを筋肉内注射によって105.5pfuまでの用量で受容して、殆ど又は全く中毒を示さなかった(個人的な通信,P.Fast.NIAID)。。
【0015】
このように、トリポックスウイルスは体液免疫と細胞免疫の両方を刺激することができ、高い抗体価(109pfu/ml)で経済的に製造されることができ、しかもヒト細胞を生産的に感染させることができず、それらの使用の安全性をかなり高めるので、トリポックスウイルスは免疫感作のために魅力的なビヒクルである。
【0016】
トリポックスウイルスの他のかなりの利点は、ワクシニアウイルスとの交差反応性が殆ど又は全くなく、したがって、予めワクチン接種されたヒトが鶏痘ウイルスタンパク質に対して既存の免疫反応性を有さないことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
発明の概要
本発明は病原性疾患及び癌の予防と治療のための組換えウイルスベクターワクチンの組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は抗原(単数又は複数)をコードする遺伝子を含む組換えウイルスベクターと、免疫刺激性分子(単数又は複数)をコードする遺伝子(単数又は複数)を含む組換えウイルスベクターとの組成物に関する。これらの遺伝子は1つの組換えベクターに又は別々のウイルスベクターに挿入されることができる。本発明の他の態様は、免疫刺激性遺伝子(単数又は複数)を含有する組換えウイルスによるin situ若しくはインビトロにおける疾患細胞の感染及び感染した細胞の宿主中への再導入によって、哺乳動物における疾患細胞(例えば、腫瘍細胞)に対する免疫応答を強化することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、疾患原因(病因)物質(disease causing agent)又は疾患状態からの抗原(単数又は複数)を発現する新規な組換えウィルスと、免疫刺激性分子(単数又は複数)を発現する組換えウィルスとの組成物であり、又は同じベクター組成物中に挿入された両分子をコードする遺伝子は、疾患を予防又は治療するためにT依存性抗原又は抗体に対する哺乳動物における免疫応答を誘出する及び/又はアップレギュレーティング(upregulating)することができる。本発明の組成物は細胞仲介免疫性並びに抗体のアップレギュレーティングに特に重要である。
【0019】
細胞仲介免疫性は癌及び病原性微生物、特に、ウィルスその他の細胞内微生物によって惹起される疾患に耐えるために非常に重要である。本発明の組成物は疾患状態の細胞からの抗原をコードする遺伝子をそのゲノムに又はその一部に組み入れた第1の組換えウィルスと、1以上の免疫刺激分子をコードする1以上の遺伝子または同じベクター中に挿入された両分子をコードする遺伝子を有する第2の組換えウイルスとを有する。両方の組換えウィルスによって感染された宿主細胞は、疾患原因物質からの両抗原(単数または複数)を発現し、免疫刺激性分子(単数又は複数)を発現する。この抗原は感染宿主細胞の細胞表面に発現されることができる。免疫刺激性分子は細胞表面に発現されるか又は宿主細胞によって実際に分泌されることができる。
【0020】
抗原と免疫刺激性分子の両方の発現は、特異的T細胞に対して必要なMHC制限ペプチドを与え、T細胞に適当なシグナルを与えて、抗原特異性T細胞の抗原認識、増殖又はクローンエキスパンジョン(clonal expansion)を助成する。総合的な結果は免疫系のアップレギュレーション(upregulation)である。好ましい実施態様では、免疫応答のアップレギュレーションは、疾患原因物質又は疾患原因物質によって感染した細胞を殺すか又はその成長を抑制することができる抗原特異性Tヘルパーリンパ球及び/又は細胞毒性リンパ球の増加である。
【0021】
1実施態様では、この組成物はウイルスゲノム又はその一部及び病原性微生物からの抗原をコードする核酸配列を含む組換えウイルスと、1種以上の免疫刺激性分子をコードする1種以上の核酸配列をコードする組換えウイルスとを含む。
【0022】
別の実施態様では、この組成物はウイルスゲノム又はその一部及び腫瘍関連抗原をコードする核酸配列を含む組換えウイルスと、1種以上の免疫刺激性分子をコードする1種以上の核酸配列をコードする組換えウイルスとを含む。
【0023】
1実施態様では、これらの組換えウイルスはサイトカイン(TNF−α、IL−6、GM−CSF及びIL−2)と同時刺激性及び補助的分子(B7−1、B7−2)とを単独で又は多様な組合せで発現するように構築されている。免疫刺激性分子とモデルTAAとをウイルス複製/感染の部位(いずれにせよ、TAA産生部位)で同時に産生することは特異的エフェクターの発生を増強する。これらの特異的免疫刺激性分子に依存して、種々な機構が免疫原性強化:ヘルプシグナル(IL−2)の増強、プロフェッショナルAPC(GM−CSF)の補充、CTL頻度(IL−2)の増加、抗原プロセッシング(processing)経路及びMHC発現(IFNγ及びTNFα)への影響等の原因になると考えられる。少なくとも1種の免疫刺激性分子と一緒のモデル抗原の同時発現は動物モデルにおいて抗腫瘍効果を実証するために有効である。
【0024】
場合によっては、多価ワクチンを得るために問題の抗原を1種類より多く含む組換えウイルスを形成することが有利である。例えば、組換えウイルスはウイルスゲノム又はその一部と、GP120(HIVから)をコードする核酸配列と、Hep B表面抗原をコードする核酸配列とを含むことができる。
【0025】
1実施態様では、この組成物はワクシニアウイルスゲノム又はその一部と、CEAをコードする核酸配列とを含む組換えウイルスと、免疫刺激性分子、B7.1をコードする核酸配列を単独で又は免疫刺激性分子、B7.2をコードする核酸配列と組合せて含む組換えウイルス、又は腫瘍抗原の遺伝子と免疫刺激性分子の両方を含有する組換えウイルスとを含む。
【0026】
本発明はまた、ウイルスゲノム又はその一部と、1種以上のB7分子をコードする1種以上の核酸配列とを含む組換えウイルス、好ましくはB7−1及び/又はB7−2を発現する組換えワクシニアウイルスをも含む。これらの組換えウイルスによる腫瘍細胞の迅速な感染は、ワクシニアがこれらのタンパク質を確実に発現することができ、機能的な分子であることを実証する。これらの組換え分子を発現する弱免疫原性シンゲニック(syngeneic)腫瘍は免疫適格性宿主によって拒絶される。
【0027】
特定の実施態様では、組換えウイルスはB7.1を含有する組換えワクシニアウイルスと、B7.2を含有する組換えワクシニアウイルスである(それぞれ、rV−B7−1とrV−B7−2と名付けられる)。
【0028】
1実施態様では、この組成物はrV−B7−1および/またはrV−B7−2とをrV−CEAと組み合わせて含む。B87分子は、非限定的に、B7−1、B7−2等と、これらの類似体を包含する。B7遺伝子は非限定的に、好ましくはネズミ又はヒト供給源から、哺乳動物組織、ゲノムライブラリー又はcDNAライブラリーを含めた、哺乳動物供給源からクローン化されることができる。
【0029】
ウイルスベクター
本発明に使用可能であるウイルスは、ゲノムの一部が欠失して、ウイルスの伝染力を損なわずに、新しい遺伝子を導入することができるようなウイルスである。本発明のウイルスベクターは非病原性ウイルスである。1実施態様では、ウイルスベクターは哺乳動物の特定の細胞タイプに対する向性を有する。他の実施態様では、本発明のウイルスベクターは例えば樹枝状細胞及びマクロファージのようなプロフェッショナル抗原提示細胞を感染させることができる。本発明のさらに他の実施態様では、ウイルスベクターは哺乳動物の任意の細胞を感染させることができる。ウイルスベクターは腫瘍細胞をも感染させることができる。
【0030】
本発明のウイルスは非限定的に例えばワクシニアウイルス、鶏痘ウイルス、非常に弱められたワクシニアウイルス(MVA)、アデノウイルス、バキュロウイルス等を包含する。
【0031】
ワクシニアウイルスゲノムは技術上周知である。これはHINDF13L領域と、TK領域と、HA領域とから成る。組換えワクシニアウイルスは外因性遺伝子産物の発現のために外因性遺伝子を組み込むために当該技術分野で用いられている(Perkus等,Science,229:981〜984,1985;Kaufman等,Int.J.Cancer,48:900〜907,1991;Moss,Science,252:1662,1991)。
【0032】
疾患状態又は疾患原因物質の抗原をコードする遺伝子をHIND F13L領域に組み入れるか、又はこの代わりに、組換えワクシニアウイルスベクターのTK領域又はワクシニアウイルスゲノムの非本質的領域に組み入れることができる。同様に、免疫刺激性分子をコードする遺伝子をHIND F13L領域に又は組換えワクシニアウイルスベクターのTK領域に組み入れることができる。
【0033】
SutterとMoss(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,89:10847〜10851,1992)とSutter等(Virology,1994)とは、本発明にウイルスベクターとして使用可能である、非複製組換えAnkaraウイルス(MVA、修飾ワクシニアAnkara)の構成とベクターとしての使用とを開示している。
【0034】
BaxyとPaoletti(Vaccine,10:8〜9,1992)は本発明にウイルスベクターとして使用可能である、カナリヤポックスウイルス、鶏痘ウイルス及び他のトリ種を包含する非複製ポックスウイルスの構成とベクターとしての使用とを開示している。
【0035】
本発明における使用に適切な発現ベクターは、機能的に核酸配列に連結した少なくとも1種の発現制御要素を含む。この発現制御要素は核酸配列の発現を制御し、調節するためにベクターに挿入される。発現制御要素の例は、非限定的に、lac系、ファージラムダのオペレーター領域とプロモーター領域、酵母プロモーター及びポリオーマ、アデノウイルス、レトロウイルス又はSV40に由来するプロモーターを包含する。付加的な好ましい又は必要とされる機能的要素の例は、非限定的に、リーダー配列、停止コドン、ポリアデニル化シグナル、及び宿主系の核酸配列の適当な転写とその後の翻訳のために必要な又は好ましい他の配列を包含する。必要な又は好ましい発現制御要素の適切な組合せが選択された宿主系に依存することは理解されるであろう。さらに、発現ベクターが宿主系の核酸配列含有発現ベクターの転移とその後の複製のために必要な付加的要素を含有すべきであることは当業者により理解されるであろう。このような要素の例は、非限定的に、複製起点と選択可能なマーカーを包含する。このようなベクターが慣用的な方法[“Current Protocols in Molecular Biology”(John Wiley and Sons,ニューヨーク州,ニューヨーク)におけるAusubel等(1987)]を用いて容易に構築されるか又は商業的に入手可能であることは、当業者によって理解されるであろう。
【0036】
疾患原因物質
本発明の組み換えウイルスは、疾患原因物質によって惹起される疾患の治療と予防に有用である。各疾患原因物質又は疾患状態は、それと共に抗原又は抗原上の免疫優生エピトープを付随しており、これらは免疫認識と、宿主における疾患誘発因子又は疾患状態の究極的な除去と制御とに非常に重要であり、時には当該技術分野で保護抗原と呼ばれる。宿主免疫系は、関連する疾患原因物質に対する体液及び/又は細胞の免疫応答を開始させるために、抗原又は抗原上の免疫優生エピトープと接触しなければならない。
【0037】
本発明の組成物は、1種以上の単離抗原又は免疫優生エピトープをコードする1種以上の核酸配列を含む本発明の組換えウイルスと、1種以上の免疫刺激性分子を含む第2の組換えウイルスとを含む。
【0038】
このような疾患誘発因子は、非限定的に、癌及び病原性微生物を包含する。本発明の組換えウイルスを用いて治療することができる癌は、非限定的に、原発性又は転移性黒色腫、胸腺腫、リンパ腫、肉腫、肺癌、肝臓癌、非ホドキンス(Hodgkins)リンパ腫、ホドキンス(Hodgkins)リンパ腫、白血病、子宮癌、例えば胸部癌、前立腺癌、卵巣癌、膵臓癌等のような腺癌を包含する。
【0039】
上記癌は本出願に述べた方法によって評価し、又は治療することができる。癌の場合には、癌に関連した抗原をコードする遺伝子を組換えウイルスゲノム又はその一部に、1種以上の免疫刺激性分子をコードする遺伝子と共に組み入れる。或いは、癌に関連した抗原をコードする遺伝子と、1種以上の免疫刺激性分子をコードする遺伝子とを別々の組換えウイルス中に組み入れる。癌に関連した抗原は癌細胞の表面に発現されるか又は内部抗原であることもできる。1実施態様では、癌に関連した抗原は腫瘍関連抗原(TAA)又はその一部である。本発明に使用可能であるTAAの例は、非限定的に、黒色腫TAAを包含し、これは非限定的にMART−1(Kawakami等,J.Exp.Med.180:347〜352,1994)、MAGE−1、MAGE−3、GP−100(Kawakami等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:6458〜6462,1994)、CEA及びチロシナーゼ(Brichard等,J.Exd.Med.178:489,1993)を包含する。
【0040】
他の実施態様では、TAAはMUC−1、MUC−2、点突然変異ras癌遺伝子、点突然変異p53癌遺伝子(膵臓癌)、CA−125(卵巣癌)、PSA(前立腺癌)、c−erb/B2(胸部癌)等(Boon等,Ann.Rev.Immunol.12:337,1994)である。
【0041】
本発明は、上でリストされたTAAをコードする遺伝子に決して限定されない。例えば米国特許第4,514,506号に記載される公知の方法により、他のTAAを同定、単離、およびクローン化してよい。
【0042】
病原性微生物である疾患原因(病因)物質の抗原をコードする遺伝子は、ウイルス、例えばHIV(GP−120,p17,GP−160抗原)、インフルエンザ(NP,HA抗原)、単純ヘルペス(HSVdD抗原)、ヒトパピローマウィルス、ウマ脳炎ウイルス、肝炎(HepB表面抗原)等を含む。病原性細菌は、クラミジア(Chlamydia)、ミコバクテリア(Mycobacteria)、レジュネラ(Legioniella)等を含むが限定されない。病原性原生動物(protozoans)は、マラリア、バベシア、住血吸虫(Schistosomiasis)等を含むが限定されない。病原性酵母はアスペルギルス(Aspergillus)、侵入性カンジダ(Candida)等を含むが限定されない。好ましい態様において、病原性微生物は細胞内生物である。
【0043】
免疫刺激分子:共同刺激/アクセサリー分子およびサイトカイン
共同刺激/アクセサリー分子からの遺伝子および/またはサイトカインをコードする遺伝子を組換え体ウイルスのゲノムに挿入する。共同刺激分子の例は、B7−1,B7−2,ICAM−1,LFA−3,CD72等を含むが限定されない。本発明により包含されるサイトカインの例は、IL−2,GM−CSF,TNFα,IFNγ,IL−12,RANTES等を含むが限定されない。
【0044】
IL−2コンストラクト
本発明のIL−2遺伝子は、タニグチ(Taniguchi)ら(Nature302:305,1983)により開示されるとおりにして作成した。
【0045】
B7コンストラクト
B7ファミリー(例えばB7.1,B7.2およびたぶんB7.3)の共同刺激性分子は、より最近に発見された重要なグループの分子を意味する。B7.1およびB7.2は共にIg遺伝子スーパーファミリーの一員である。これらの分子は、マクロファージ、樹状細胞、単球、即ち抗原提示細胞(APC)上に存在する。白血球が抗原のみと遭遇して、B7.1による共同刺激を伴えば、アネルギーまたはアポトーシス(プログラムされた細胞死)のいずれかを伴い応答し;共同刺激シグナルが提供されたなら、標的抗原に対するクローンの増殖と共に応答する。与えられた抗原に対する免疫応答の顕著な増大は共同刺激なしでは生じない(ジュン(June)ら、Immunology Today 15:321−331,1994;チェン(Chen)ら、Immunology Today 14:483−486;タウンゼンド(Townsend)ら、Science 259:368−370)。フリーマン(Freeman)ら(J.Immunol.143:2714−2722,1989)は、B7.1遺伝子のクローニングおよび配列決定を報告する。アズマ(Azuma)ら(Nature 366:76−79,1993)は、B7.2遺伝子のクローニングおよび配列決定を報告する。
【0046】
ひとつの態様において、B7.1遺伝子またはB7.2遺伝子をワクシニアウイルスに挿入した。もうひとつの態様において、CEA遺伝子およびIL−2遺伝子を共に単一のワクシニアウイルスに挿入した。rV−CEA/nIL−2(ATCC名称VR2480),rV−CEA−T108(ATCC名称No.VR2481),rV−mB7−2(ATCC名称VR2482);およびrV−mB7−1(ATCC名称VR2483)は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC),12301パークロウンドライブ、ロックビル、メリーランドに1994年10月3日ブダペスト条約の条件下で寄託した。
【0047】
本発明は、本明細書に開示された疾患原因(病因)物質により引き起こされた疾患または疾患状態を治療または予防するための方法も包含する。
治療法において、本発明の組換えウイルスまたは組換えウイルスの組成物の投与は、「予防」または「治療」目的のいずれかでありうる。予防を提供する場合、本発明の組換えウイルスまたは本発明の組換えウイルスの組成物は、あらゆる兆候に先立って提供される。組換えウイルスまたは組換えウイルス組成物の予防投与は続いて起こるあらゆる感染または疾患を予防または改良するように作用する。治療を提供する場合、組換えウイルスまたは1より多くの組換えウイルスの組成物を感染または疾患の兆候の開始時(または直後)に提供する。即ち、本発明は疾患原因因子への予想される暴露または疾患状態前、または感染または疾患の開始後のいずれかに提供されうる。
【0048】
腫瘍特異的抗原の遺伝的定義は癌治療のための標的抗原特異的ワクチンの開発につながる。免疫刺激性分子を含む組換えウイルスと組み合わせてウイルスゲノム中に腫瘍抗原遺伝子を挿入することは、癌の進行の危険が増大した患者における予防(予防免疫)、最初の外科手術後の疾患再発の予防(抗−転移予防接種)に関して、またはインビボにおいてCTLの数を増やして、即ち拡散性腫瘍の根絶に関する効果を改良するための(確立された疾患の治療)道具として、特定の免疫応答を引き出すための強力なシステムである。最終的に、本発明の組換えウイルスまたは組成物は、腫瘍運搬物に戻される前にエクスビボにおいて高められた患者の免疫応答を引き出すことができる(養子免疫治療)。
【0049】
接種物に関する単語「ユニット投薬量」は、哺乳動物のための単位投薬量として適切な物理的に別個のユニットを意味し、各ユニットは必要な希釈剤との関連において所望の免疫効果を生ずるように計算された予め決定された量の組換えウイルスを含む。本発明の接種物の新規なユニット投薬量に関する詳細は、組換えウイルスの独特な特徴および達成される特定の免疫効果により指令され、そしてそれに依存する。
【0050】
接種物は、典型的には許容される(受容可能な)希釈剤、例えば、塩水、リン酸緩衝食塩水または他の生理学上許容される希釈剤等中の溶液として調製されて、水性薬剤組成物を形成する。
【0051】
接種のルートは、静脈(I.V.)、筋肉内(I.M.)、皮下(S.C.)、内皮(I.D.)等でありえ、疾患原因物質に対する保守的免疫応答を引き出す。投薬量は少なくとも一回投与される。次の投薬量は示唆されたとおりに投与される。
【0052】
本発明の組換えウイルスの哺乳動物、好ましくはヒトへの提供において、投与された組換えウイルスの投薬量は、哺乳動物の年齢、体重、身長、性別、通常の医学的条件、以前の病歴、疾患の進行、腫瘍の重さ等の因子に依存して変更される。
【0053】
通常、約105から約1010プラーク形成ユニット/mg哺乳動物の範囲の投薬量で組成物中の各組換えウイルスを受容者に提供するのが望ましいが、より低いかまたは高い投薬量を投与してよい。
【0054】
組換えウイルスベクターの組成物は、癌例えば黒色腫(メラノーマ)のあらゆる兆候に先立つか、または癌例えば黒色腫(メラノーマ)に悩まされる哺乳動物における疾患の間接(mediate)退向に先立って、哺乳動物に導入されうる。哺乳動物に組成物を投与するための方法の例は、エクスビボにおける組換えウイルスへの細胞の暴露、または影響された組織への組成物の注射またはウイルスの皮下、S.C.,I.D.またはI.M.投与を含むが限定されない。別法として、組換えウイルスベクターまたは組換えウイルスベクターの組み合わせは、癌様病巣への直接の注射かまたは薬学上受容可能なキャリアー中での局所適用により局在投与してよい。投与されるひとつまたはそれ以上のTAAの核酸配列を運ぶ組換えウイルスベクターの量はウイルス粒子の力価に基づく。投与される免疫原の好ましい範囲は哺乳動物、好ましくはヒトあたり105から1010ウイルス粒子である。
【0055】
ひとつまたはそれ以上のTAAの核酸配列を運ぶ第1の組換えウイルスベクターとひとつまたはそれ以上の免疫刺激性分子の核酸配列を運ぶ第2の組換えウイルスベクターの組み合わせを用いる場合、哺乳動物は異なる比の第1および第2組換えウイルスベクターで免疫されてよい。一つの態様において、第1ベクターの第2ベクターに対する比は、約1:1、または約1:3、または約1:5である。第2ベクターに対する第1ベクターの最適な比は本明細書に記載される方法を用いて力価測定される。
【0056】
免疫後、ワクチンの効果は特異的溶解活性または特異的サイトカイン生成によるかまたは腫瘍退向により評価されるとおり、抗原を認識する抗体または免疫細胞の生成により評価されうる。当業者であれば、上記パラメーターを評価するための慣用的方法を知るはずである。免疫される哺乳動物が既に癌または転移性癌に罹患しているなら、他の治療処置と共にワクチンを投与することができる。
【0057】
一つの処置法において、自己の細胞毒性白血球または腫瘍浸潤白血球を癌患者から得てよい。白血球を培養により成長させて、特異的抗原およびサイトカインの存在下で培養することにより抗原特異的白血球を増やす。次に、抗原特異的白血球を自己輸血により患者に戻す。
【0058】
本発明は、組換えウイルス中の免疫刺激性分子例えばB7と共に、組換えウイルス中の効果的な量の抗原を哺乳動物に投与することにより、抗原特異的T−細胞応答を高めるための方法を包含する。この免疫アプローチは、B7共同刺激性分子により共同刺激と共に抗原により生じた免疫応答を増加させるかまたは増大する。抗原を含有する組換えウイルスおよびB7を含有する組換えウイルスの投与法は、増加した抗原特異的白血球増殖、高められた細胞溶解活性およびいずれかの組み換えウイルス単独のみの使用との比較の上での抗原に対する免疫性の延長をもたらす。抗原特異的T−細胞応答を増大させる方法のひとつの態様において、哺乳動物、好ましくはヒトをrV−TAAおよびrV−B7で免疫する。rV−B7に対するrV−TAAの比は、抗原特異的T−細胞応答を最大にするために変更されうる。rV−TAAのrV−B7に対する比は1:1、2:1、3:1、4:1等を含むが限定されない。治療の効果はインビトロおよび/またはインビボにおいて抗原特異的白血球増殖、抗原特異的細胞溶解活性、腫瘍退向等により監視されうる。
【0059】
任意の量のrV−B7の抗原への添加は比にかかわらず改良された細胞免疫をもたらす。しかしながら、rV−B7に対する抗原の最適な比は興味のある抗原各々に関して決定される。ひとつの態様において、rV−B7にrV−CEAを用いた場合、抗原特異的白血球増殖性、細胞溶解性かつ腫瘍退向性のCEA特異的応答において最大の増加をもたらす比は3:1であった。
【0060】
抗原特異的T−細胞応答を増大させる方法はあらゆる抗原に関して使用される。特に興味があるのは、腫瘍関連抗原および感染性因子の抗原である。抗原特異的T−細胞応答を増大させるためのひとつの方法において、rV−CEAおよびrV−ヒトB7−1を最適比でCEA陽性癌腫(カルシノーマ)を有する患者に投与して、CEA陽性癌腫(カルシノーマ)の軽減または排除をもたらすCEA特異的T−細胞応答を刺激する。抗原特異的T−細胞応答を増大させるためのもうひとつの方法において、rV−gp120またはその一部およびrV−ヒトB7−1を、gp120陽性細胞の減少または排除をもたらすgp120特異的T−細胞応答を刺激する比で、gp120陽性細胞を有する患者に投与する。
【0061】
本発明は、組み合わせ治療も包含する。組み合わせ治療によりとは、ひとつまたはそれ以上の疾患因子に関連したひとつまたはそれ以上の抗原をコードするひとつまたはそれ以上の遺伝子を含む組換えウイルスおよびひとつまたはそれ以上の免疫刺激性分子をコードするひとつまたはそれ以上の遺伝子を含む組換えウイルスまたは同じベクターに挿入された両タイプの遺伝子の組成物を、他の外因性免疫変調剤または免疫刺激性分子、化学療法薬剤、抗生物質、抗真菌薬、抗ウイルス薬等の単独またはその組み合わせと共に患者に投与することを意味する。他の外因的に付加される因子の例は、外因性IL−2、IL−6、インターフェロン、腫瘍壊死因子、シクロホスファミドおよびシスプラチナム、ガンシクロビア、アンフォテリシンB等を含む。
【0062】
本発明の他の側面は、in situまたはインビトロにおいて癌細胞が組換えウイルスまたは組換えウイルスの組み合わせに感染した場合の癌の治療法である。免疫刺激性分子と共に腫瘍関連抗原を発現する腫瘍細胞を、癌罹患哺乳動物において腫瘍の減少または除去をもたらすのに効果的な量で哺乳動物に投与する。
本発明は、さらに、本発明の組換えウイルスを用いた免疫により引き出されたひとつまたは複数の抗体を含む。抗体は、興味のある抗原に特異性を有し、そして反応または結合する。本発明のこの態様において、抗体はモノクローナルまたはポリクローナル起源である。
【0063】
例示される抗体分子は、完全なイムノグロブリン分子、実質的に完全なイムノグロブリン分子、またはF(ab),F(ab’);F(ab’)2およびF(v)として当業界において知られているイムノグロブリン分子の部分を含む、抗原結合部位を含むイムノグロブリン分子の部分である。ポリクローナルまたはモノクローナル抗体は、当業界において公知の方法により生成される(コーラーとミルスタイン(Kohler and Milstein)(1975)Nature256,495−497;キャンベル(Campbell)「モノクローナル抗体技術、げっ歯類およびヒトのハイブリドーマの生成および特徴」、バードン(Burdon)ら編(1985)「生化学および分子生物学における実験室技術」、13巻、Elsevier Science Publishers,アムステルダム)。抗体または抗原結合断片は遺伝子工学により生成してもよい。大腸菌における重鎖および軽鎖両者の発現技術はPCT特許出願:国際公開番号WO901443、WO901443およびWO9014424およびヒューズ(Huse)ら(1989)Science246:1275−1281の主題である。
【0064】
一つの態様において、本発明の抗体はイムノアッセイに使用することにより生物学上のサンプル中の興味ある新規抗原を検出する。
一つの態様において、CEA発現組換えワクシニアウィルスおよびB7.1発現組換えワクシニアウイルスを含む組成物を用いた免疫により生じた本発明のCEA抗体を使用することにより、免疫細胞化学を用いてCEA発現癌に罹患した哺乳動物の組織検体からのCEA抗原の存在を評価する。疾患組織中のCEA抗原の描写のそのような評価を用いることにより、疾患に罹患した哺乳動物における疾患の進行または免疫治療の効果を予測することができる。免疫組織化学に関する慣用的方法は、ハローとレーン(Harlow and Lane)(編)(1988)「抗体実験室マニュアル」中、Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,ニューヨーク;アウスベル(Ausbel)ら(編)(1987)、Current Protocols In Molecular Biology,John Wiley and Sons(ニューヨーク、ニューヨーク)に記載されている。
【0065】
他の態様において、本発明の抗体は免疫治療に用いられる。本発明の抗体は受動免疫治療に用いられる。
抗体または抗原結合断片を受容哺乳動物好ましくはヒトに提供する際、投与された抗体または抗原結合断片の投薬量は、哺乳動物の年齢、体重、身長、性別、通常の医学的条件、以前の医学的条件等の因子に依存して変更される。
【0066】
本発明の抗体または抗原結合断片は、疾患または感染の重度、範囲または期間を予防し、減らし、または弱めるのに十分な量で受容者に提供されることを意図する。
抗イディオタイプ抗体は、通常は免疫応答の途中にでき、そしてその抗イディオタイプ抗体の一部分は、元の免疫応答を誘発したエピトープに似ている。本発明においては、その結合部位が疾患状態の抗原を反映している抗体のイムノグロブリン遺伝子又はその一部分が、ウイルスゲノムのゲノム又はその一部分の中に、単独で又は免疫刺激性分子の遺伝子若しくはその一部分と組み合わさって組み込まれているので、その結果できた組換えウイルスは、その抗原への細胞性及び体液性免疫応答を引き出すことができる。
【実施例】
【0067】
実施例1
rV−B7−1及びrV−B7−2の構築及び構築体の特性決定
材料及び方法
組換えワクシニアウイルス
マウスB7−1の全縁オープンリーディングフレームをコードする1,125bpDNA断片及びマウスB7−2の全縁オープンリーディングフレームをコードする942bpDNA断片を、逆転写酵素PCR(Geneamp RNA PCR Kit,Perkin Elmer,Norwalk,CT)により、マウスB細胞系,A20(TIB208,ATCC,Rockville,MD)から抽出した全RNAから増幅した。それらB7挿入物の配列は、公表された配列と同一であることが分かった(Freeman,G.J.ら,J.Exp.Med.174:625−631,1991;Freeman,G.J.ら,Science262:813−960,1993)。それらDNA断片を、組換えウイルスの選択のための大腸菌LacZ遺伝子を含有する、Theion Biologics(Cambridge,MA)により提供されたワクシニアウイルス運搬ベクターPT116のKpn−1/Xho−1制限酵素部位に別々に連結した。組換えウイルスを先に記載された通りに誘導した(Kaufman,H.ら,Int.J.ofCancer 48:900−907,1991)。組換えクローンを5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシダーゼ(X−Gal)の存在下でのBSC−1細胞(CC126,ATCC)での増殖により選択した。適切な青色の組換えクローンを5ラウンドのプラーク精製により精製してより高い力価の溶解産物の中に増殖させた。接種用のウイルスをHeLa細胞の攪拌培養液中で増殖させ、遠心分離により直接沈澱させ、そして20%〜40%ショ糖勾配で精製した(Moss,B.Current Protocols in Molecular Biology 2.16.15.1−16.18.9,1993)。
【0068】
組換えウイルスの特性決定
DNA組換えのサザーン分析
組換えワクシニアゲノムを、ウイルスDNA抽出、HindIIIでの制限エンドヌクレアーゼ消化、及びサザーンブロッティングにより、先に記載された通りに分析した(Kaufman,H.ら,Int.J.Cancer48:900−907,1991)。
【0069】
タンパク質発現のウェスタン分析
集密BSC−1細胞に野生型ワクシニアウイルス又はマウスB7−1若しくはB7−2遺伝子を含有する組換えワクシニアウイルス(V−Wyeth、rV−B7−1又はrV−B7−2と命名した)のいずれかを10のMOIで4時間感染させた。タンパク質を抽出して先に記載された通りに分析した(Kantor,J.ら,J.Nat’l Cancer Inst.84:1084−1091,1992)。ウェスタンブロットを抗B7−1(精製ラット抗マウスB7/BB1)又は抗B7−2(ラット抗マウスB7−2(GL−1))モノクローナル抗体(Pharmingen,SanDiego,CA)と共にインキュベートしてから、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP,Kirkegaard&Perry Laboratories,Gaithersburg,MD)と結合したヤギ抗ラットと共にインキュベートし、そしてメーカーの使用説明書に従って発色させることにより、組換えB7−1又はB7−2タンパク質を検出した。
【0070】
タンパク質発現の蛍光分析
集密BSC−1細胞にV−Wyeth、rV−B7−1又はrV−B7−2のいずれかを10MOIで2時間感染させた。感染後3〜6時間で細胞を採取して精製ラット抗マウスB7/BB1−FITC又はラット抗マウスB7−2(GL−1)−FITCモノクローナル抗体で免疫染色した。細胞をフローサイトメトリ(FACSCAN,Becton Dickinson,San Jose,CA)により分析した。
【0071】
in vitro実験
MC38マウス間代性(clonic)アデノカルチノーマ細胞系(Fox,B.A.ら,J.Biol.Response Modifiers9:499−511,1990)をDr.Steve Rosenberg(National Cancer Institute,Bethesda,MD)の研究室により供与された。MC38細胞にV−Wyeth、rV−B7−1又はrV−B7−2のいずれかを0.25MOIで1時間感染させ、洗浄し、そしてHBSS中に3×106細胞/mlの濃度で懸濁させた。メスC57BL/6マウスをTaconic Farms(Germantown,NY)から得た。6〜8週齢のマウスに100μl(3×105感染細胞)の皮下注射を右側腹部に行った。対照マウスには、未感染MC38細胞を注射した。少なくとも40日間腫瘍ができなかったマウスに3×105未感染細胞で反対の側腹部を誘発した。平行実験では、C57BL/6マウスをγ線照射(500rad)して、24時間後に未感染MC38細胞、又は0.25MOI V−Wyeth、rV−B7−1若しくはrV−B7−2のいずれかを感染させた細胞を注射した。腫瘍をハサミ尺により2次元で測定して、先に記載された通りにその体積を計算した(Kantor,J.ら,J.Nat’l Cancer Instit.84:1084−1091,1992)。
【0072】
実施例2
組換えウイルスの発生及び特性決定
マウスB7−1及びB7−2のオープンリーディングフレームをコードするcDNA断片を、B7−1特異性オリゴヌクレオチドプライマー5’GGTACCATGGCTTGCAATTGTCAGTTG3’(配列番号:1)、5’CTCGAGCTAAAGGAAGACGGTCTG3’(配列番号:2)、及びB7−2特異性プライマー5’GGTACCGAAGCACCCACGATGGAC3’(配列番号:3)、5’CTCGAGTCACTCTGCATTTGGTTTTGC3’(配列番号:4)を用いる逆転写酵素PCRにより得て、ワクシニアウイルス運搬ベクターPT116内に連結した。このベクターは、挿入した遺伝子産物の合成を誘発するために多クローニング部位の上流に強力なワクシニアウイルス即時初期プロモーター(P40と命名した)を含有する。B7DNA断片の連結及び方向、並びにプロモーター位置をPCR及び配列決定法により確かめた。このキメラベクター構築体をワクシニアゲノミックHindIIIM部位内に先に報告された通りの相同組換えにより挿入し(Kaufman,H.ら,Int.J.Cancer 48:900−907,1991)、そしてプローブとしての32P放射標識B7−1又はB7−2DNAでのサザーン分析により確認した(データは示していない)。ワクシニアウイルスクローン内のB7−1及びB7−2の全縁cDNA配列は、公表された配列と同一であることが分かった(Freeman,G.J.ら,J.Exp,Med.174:625−631,1991;Freeman,G.J.ら,Science 262:813−960,1993)。
【0073】
組換えタンパク質の発現をrV−B7−1又はrV−B7−2感染BSC−1細胞からのタンパク質抽出物のウェスタン分析により確認した。これら細胞は、組換えワクシニア産物の評価用に定型的に用いられる(Moss,B.Current Protocols in Molecular Biology 2.16.15.1−16.18.9,1993)。ラット抗マウスモノクローナル抗体B7−BB1とのrV−B7−1感染細胞からのタンパク質抽出物ブロットのインキュベーションで、幅広い50〜90kDバンドが現れた。同じく、ラット抗マウスモノクローナル抗体B7−2(GL−1)とのrV−B7−2感染細胞からのタンパク質抽出物ブロットのインキュベーションで、65〜100kDの範囲のバンドが現れた(データは示していない)。これは、N−結合グリコシル化の結果としての雑多な糖タンパク質として現れるこれら分子の見掛けの分子量を示す報告と一致している(Schwartz,R.H.Cell 71:1065−1068,1992;Freeman,G.J.ら,J.Exp.Med.174:625−631,1991;Freeman,G.J.ら,Science 262:813−960,1993)。未感染又はV−Wyeth感染細胞は、B7−1及びB7−2の両方の発現について陰性であった。
【0074】
B7−1又はB7−2組換えタンパク質の細胞表面発現をフローサイトメトリにより検査した。図1Aは、未感染BSC−1細胞(図1A)がB−7(BB1)又はB7−2(GL−1)抗体のいずれとも反応しないことを示している(98.5%の細胞が5.22の平均蛍光で陰性である)。同じく、野生型ワクシニアを感染させた細胞(V−Wyeth、図1B)も、これら2種の抗体のいずれとも反応しなかった(97.7%の細胞が5.43の平均蛍光で陰性である)。rV−B7−1を感染させたBSC−1細胞(図1C)は、B7/BB1抗体と強く反応する(97.5%の細胞が2513.68の平均蛍光で陽性である)。rV−B7−2を感染させた細胞(図1D)は、B7−2(GL−1)抗体と強く反応する(98.8%の細胞が1802.30の平均蛍光で陽性である)。抗体B7/BB1とrV−B7−2を感染させた細胞との間には反応性がなく、抗体GL−lとrV−B7−1を感染させた細胞との反応性もなかった。かくして、これら検討は、組換えワクシニアウイルスが感染後3〜6時間で細胞表面上でB7−1及びB7−2分子を発現できることを証明している。感染細胞の溶解は、通常は24〜48時間の間は起こらない(Moss,B、Current Protocols in Molecular Biology 2.16.15.1−16.18.9,1993)。
【0075】
同系のC57BL/6マウス内に3×105MC38マウスアデノカルチノーマ細胞を皮下注射すると、定型的には、7〜14日以内に触知可能な腫瘍が生じた後、急速に増殖してついには致命的となることが以前に示されている(Kantor,J.ら,J.Nat’l Cancer Inst.84:1084−1091,1992)。これら腫瘍細胞も、B7の発現について陰性であることが分かっている(Chen,L.ら,J.Exp.Med.179:523−532,1992)。B7の機能的発現についてこれら組換えワクシニア構築体を試験するために、MC38腫瘍細胞の増殖を、rV−B7−1、rV−B7−2、及び野生型V−Wyethを感染させたMC38の増殖と比較した(図2A〜2D)。未感染MC38細胞の注射で(図2A)、全てのマウスに7日以内に触知可能な腫瘍が生じた。腫瘍増殖は、この実験の全期間を通して進行性であった。あらゆる腫瘍の測定値(長さ又は幅)が20mmを超えたときに、全実験において動物を殺した。0.25MOIV−Wyethを1時間感染させたMC38細胞の注射(図2B)で、触知可能な腫瘍の発生に僅かな遅れがあり、そして全ての動物は、ついには腫瘍について陽性となった(図2Bにおける一匹の動物で腹腔内腫瘍が増殖したが測定できなかった)。全てのグループについて0.25のMOIを選んだ。というのは、それよりも大きな量で感染させると、より高いレベルの非特異的細胞死が起こって腫瘍の増殖が遅くなるからである。0.25MOIのrV−B7−1(図2C)又はrV−B7−2(図2D)を感染させたMC38細胞の注射では、どのマウスにも腫瘍が誘発されず、この実験のあいだ腫瘍がないままであった。
【0076】
このMOIを感染させた細胞の組換えタンパク質発現をフローサイトメトリにより確認した。0.25MOI組換えウイルスを感染させた後は、約35%のMC38細胞が、組換えB7−1又はB7−2のいずれかについて平均蛍光が417〜585の陽性であった。未感染であるか又は0.25MOI Wyethを感染させたMC38細胞は、B7−1又はB7−2の発現について陰性のままであった。これらMC38細胞は、感染前及び感染後の両方でI型MHC抗原の発現について陽性であった。これらいずれの動物においても40日間の観察パネルのあいだ目立った毒作用は認められなかった。動物の体重は、正常な相応週齢マウスの標準偏差の範囲内であった。これら実験を更に3回繰り返したが同様な結果であった。
【0077】
腫瘍拒絶が無傷免疫系に依存性であるか否かを確認するために検討を行った。これら検討において、マウスを照射により免疫抑制(実施例1の材料及び方法を参照のこと)して感染MC38腫瘍細胞を投与した(表1)。Wyeth、rV−B7−1又はrV−B7−2を感染させた照射マウスにおける腫瘍は、腫瘍移植後14日で測定可能となり、腫瘍体積の差は認められなかった。これは、組換えB7分子に応答するには無傷免疫系が必要であることを示すものである。
【0078】
【表1】
【0079】
免疫無防備状態動物におけるMC38腫瘍の増殖。マウスをγ線照射して0.25MOIのWyeth、rV−B7−1、又はrV−B7−2のいずれかを1時間感染させたMC38細胞を注射した。
【0080】
B7遺伝子の導入のためにレトロウイルスベクターを用いる系においては、マウスの一方の側腹部へのB7発現性腫瘍細胞の投与及び反対の側腹部へのB7陰性腫瘍細胞の同時投与は、両方の腫瘍集団の増殖を阻止するであろうということが分かっている(Chen,L,ら,Cell71:1093−1102,1992)。他の検討では、B7陰性細胞への抗腫瘍活性は、B7陰性一次腫瘍の皮下投与後10日のB7発現性腫瘍細胞の多数回腹腔内注射により確認された(Li,Y.ら,J.Immunol.153:421−428,1994)。ここに記載した検討は、腫瘍細胞への長期持続性免疫がrV−B7感染腫瘍細胞での感作によって誘発されるか否かを確認するためにデザインされたものである。rV−B7−1又はrV−B7−2を感染させたMC38細胞を投与されたマウスは、少なくとも40日間は腫瘍がないままであった(図2C及び2D)ので、次にその反対の側腹部を3×105未感染(B7陰性)MC38細胞で誘発した(図3B及び3C)。未感作マウスにこれらMC38細胞を注射すると(図3A)、全ての動物に7日以内に触知可能な腫瘍形成があり、この実験の全期間を通して進行性の腫瘍増殖があった。腫瘍移植後21日におけるこの対照グループの平均腫瘍体積は、2436±858mm3であった。rV−B7−1を感染させた腫瘍を40日前に投与しておいたマウスも、未感染MC38細胞で誘発した(図3B)。これら腫瘍の形成は遅れたため、増殖速度は平均腫瘍体積が21日目で372±106mm3と実質的に低下した。同じく、rV−B7−2感染腫瘍を投与しておいたマウスは、MC38細胞で誘発すると、腫瘍細胞の増殖の実質的な低下を示した。このグループにおける平均腫瘍体積は、21日目で197±161mm3であった。かくして、腫瘍発現性B7−1又はB7−2を予め投与された動物においては、組換えワクシニアウイルス感染により腫瘍増殖が>90%低下した。これは、腫瘍誘発の40日前に一回感作しただけであるという事実、及びマウスを比較的大きな腫瘍量で誘発したという事実からみて興味深かった。これは、MC38腫瘍細胞上の拒絶抗原に対する記憶免疫応答がrV−B7感染腫瘍細胞の注射によって誘発されていることを暗に示す。上記処理方法に手を加えて、B7発現性腫瘍細胞での多数回接種、及びIL−2のようなサイトカインを含む免疫刺激性分子でのT細胞活性化の増大を含めてもよい。
【0081】
これまでの研究では、PLNSX、PLNCX又はPLXSNのようなレトロウイルスベクターでの形質導入による腫瘍細胞内へのB7の導入で、それら腫瘍に免疫原性を付与できることが証明されている(Chen,L.ら,J.Exp.Med.179:523−532,1992;Dohring,C.ら,Int.J.Cancer 57:754−759,1994)。これらB7導入の方法は、レトロウイルスベクターの比較的低い感染効率並びに薬剤選択及びB7陽性腫瘍細胞の拡大に要求される必然的な長い時間のために、臨床的応用に潜在的な限界を有している。代わりとして、ここに報告した検討は、同時刺激性分子B7−1及びB7−2の遺伝子を発現する組換えワクシニアウイルスの発生を証明した。これら組換えワクシニア構築体は、腫瘍細胞を速やかに感染し(1〜4時間)そして高い効率で組換えタンパク質を発現する(97%を超える細胞、それぞれ図1C及びID)。感染された細胞は、確実に組換えタンパク質を合成し、抗腫瘍作用をもたらすことが分かった。かくして、これら検討は、ワクシニアウイルスベクター内へのB7遺伝子の挿入のための実験系にデータを提示するものであり、潜在的な免疫療法的応用についての暗示を有している。
【0082】
実施例3
腫瘍関連抗原を発現する組換えワクシニアウイルスとB7共刺激分子を発現する組換えワクシニアウイルスを混合することによる、ヒト腫瘍関連抗原に対するT細胞免疫応答の増強の誘導
本発明は、rV−B7をヒト腫瘍関連抗原を発現する組換えワクシニアウイルスとともに含む組成物を含む。本発明の組成物は、宿主に共接種されると、ヒト腫瘍関連抗原に対する全身性T細胞免疫応答を増強する。
【0083】
今や、数種のヒト腫瘍関連抗原が同定されている。そのうちの一つはヒト癌胚抗原(CEA)であり、これは結腸直腸癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、および非小細胞肺癌を含む広範囲のヒトの癌に発現するものである。rV−CEAと呼ばれる組換えワクシニアCEA構築物をマウスおよびアカゲザルの双方に投与して、双方のモデル系においてCEAに特異的なT細胞反応を誘導することができる、ということが最近示された(Kantor J.,etal.,J.Natl.Cancer Ins.84:1084−1091,1992;Kantor J.etal.,Cancer Res.52:6917−6925,1992)。さらに、どちらの系においても全く毒性は観察されなかった。最近、転移性の胃腸癌、乳癌または肺癌を伴う患者にrV−CEAを投与する臨床実験が終了した。段階1研究では、天然痘ワクチンを投与した場合に観察されるような状態以外は、全く毒性は観察されなかった。
【0084】
一つの態様は、B7およびCEAの遺伝子を同一の組換えワクシニア構築物に挿入することである。なぜなら、双方の分子が同じ細胞上に同じ時に発現する必要があるからである。別の態様は、rV−CEAをrV−B7と混合してCEAに対するT細胞免疫反応を特異的に高めることである。この後者の手段の利点はいくつもある:(a)最大免疫反応のための割合を決定するために、rV−CEAとrV−B7の異なる割合を調べることができる(b)rV−CEAとrV−B7の投与時期を変化させることができる(c)rV−B7構築物は1種類のみ製造すればよい、即ち、rV−CEAと共に使用されるrV−B7は、別の腫瘍関連抗原に対するrV構築物と使用することもでき、実際、免疫反応強化のための薬剤に関連する他のいかなる抗原とも使用することができる。
【0085】
一つの態様において、単にrV−CEAをrV−B7と混合して宿主に共投与するだけで、CEAに特異的なT細胞免疫応答の強化が誘導されることが示された。さらに、rV−B7に対するrV−CEAの割合が免疫応答の強度における重要な因子であった。
【0086】
第一の研究において、rV−CEAとrV−B7は1対1の割合で混合された。即ち、5×106pfuのB7と5×106pfuのrV−CEAとを混合し、尾乱切によって3匹のマウスのグループに共投与した。免疫から14日後に脾臓を切除して、リンパ球の供給源とした。対照としてマウスの他の3つのグループを使用した:(a)非ワクチン接種マウス(b)5×106pfuのrV−CEAと5×106pfuの野生型ワクシニア(「V−Wyeth」と呼ぶ)を受けるマウス、および(c)5×106pfuのV−Wyethと5×106pfuのrV−B7受けるマウス。従って、全てのワクチン接種マウスは合計107pfuのワクシニアウイルスを与えられ、3つのグループ全てにおいて、ワクシニアウイルスの割合は1:1であった。図4に見られるように、rV−CEA+V−Wyethを1回投与した後、マウスはCEAに特異的な免疫反応が、低レベルではあるとしても、確かに高まった。使用された免疫分析は、以前から記載されているリンパ球増殖分析であり(Kantor et al,,J.Natl.Cancer Inst.,84:1084−1092,1992)、使用された標的抗原は、バキュロウイルスに由来する組換えCEAであった。図4に示されるように、rV−B7のrV−CEAへの追加は、特異的免疫反応を数倍増強させた。対照的に、rV−B7の対照V−Wyethへの追加は、CEA特異的免疫反応の増強に何ら影響しなかった。
【0087】
次の実験において、rV−CEAのrV−B7に対する割合を、1:3に修飾した。図5に示されるように、1:3の割合のrV−CEA+rV−B7の投与は、rV−CEA+V−Wyethと比較してCEA特異的T細胞反応を増強させ、しかも、その程度は二つの構築物(rV−B7+rV−CEA)を1:1の割合で混合させた場合よりも大きかった。前回と同様に、2つの対照群、即ち、非ワクチン接種の群およびrV−B7をV−Wyethと混合させた群は、CEAにたいして免疫反応を示さなかった。
【0088】
これらの結果は、ヒト腫瘍関連抗原に関する特異的なT細胞反応を増強させるために、rV−含有ヒト関連遺伝子をrV−B7と単に混合させるだけで、抗原提示細胞上に共感染および共発現を誘導させることができることを示唆している。さらに、使用されたrV−B7およびrV−含有ヒト関連遺伝子の割合は、ヒト腫瘍関連遺伝子産物、あるいは実際、誘導させたい若しくは免疫性を高めたいと望むその他の全ての遺伝子産物に対するT細胞活性化を最適化させるために重要な因子であるかもしれない。
【0089】
実施例4
rV−CEA+rV−B7による免疫化後のCEAに対するマウスT細胞のリンパ球増殖反応
リンパ球増殖反応
C57BL/6マウスを、以下のものを様々の割合で含む総計1×107PFUのウイルスで免疫化した:V−Wyeth;rV−CEA:V−Wyeth;Wyeth:rV−B7;またはrV−CEA:rV−B7。そして、上述したようにCEA特異的リンパ球増殖を分析した(Kantor,Jet al.,J.Nat’l.Cancer Inst.,84:1084−1091,1992)。簡単には、脾臓を免疫化から14日後に切除し、70μm細胞濾過器(Falcon,Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)を通して機械的に分散させ、単細胞の懸濁液を得た。赤血球および死んだ細胞をFicoll−Hypaque勾配(密度=1.119g/ml)(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)上で遠心することによって除去した。脾臓の単核細胞をナイロンウールカラム(Robbins Scientific Corp.Sunnyvale,CA)上を通すことによって約95%のT細胞からなる集団を得た。CEA特異的リンパ球増殖を評価するために、T細胞を105/ウェルの濃度で96ウェル平底プレート(Costar,Cambridge,MA)中に加えた。抗原提示細胞は、5×105/ウェルの濃度で加えられた被放射(2000rad)の未処理(naive)同系脾臓細胞から構成された。刺激されたウェルは以下のものを与えられた:精製ヒトCEA(100−12.5μg/ml)(Vitro Diagnostics,Denver,CO);陰性コントロールとしてオバルブミン(100μg/ml);再現抗原としてUV−不活性化V−Wyeth(2×107PFU/ml)またはT細胞陽性コントロールとしてCon−A(2μg/ml)。コントロールは、T細胞、APCおよび培地のみを与えられた。全てのウェルの細胞は、全容量200μlの完全培地(CM)[ウシ胎児血清(10%);グルタミン(2mM)、ピルビン酸ナトリウム(1mM)、Hepes(7mM)、ゲンタマイシン(50μg/ml)、2−メルカプトエタノール(50μM)および非必須アミノ酸(0.1mM)を含むRPMI 1640(Biofluids,Rockville,MD)]中で5日間培養された。細胞を1μCi/ウェル[3H]−チミジン(NewEngland Nuclear,Wilmington,DE)と共に総計12−18時間インキュベーションすることにより標識し、PHD細胞回収器(Cambridge Technology,Cambridge,MA)を用いて回収した。取り込まれた放射活性を液体シンチレーションカウンター(LS 6000IC;Beckman,Duarte,CA)によって測定した。三重のウェルからの結果を平均化して、以下のように計算された刺激指数(SI):
SI=[CPM(刺激されたウェル)]/[CPM(コントロールウェル)]
として報告した。
【0090】
リンパ球増殖分析
rV−CEAとrV−B7との混合物による免疫化が、増強されたCEA特異的リンパ球増殖反応を引き起こし得るか否かを調べるために、C57BL/6マウスを、総計107PFUのrV−CEA:V−Wyeth、V−Wyeth:rV−B7またはrV−CEA:rV−B7を1:1、1:3また3:1の割合(表2を御覧いただきたい)で使用して同時に免疫化し、14日後にリンパ球増殖反応を分析した。表2は、全く免疫化を受けなかったマウスからのT細胞は精製CEAに対して反応しないのに対し、rV−CEA:V−Wyethで免疫化されたマウスからのT細胞は弱く反応した(1.9−2.5の刺激指数[SI])ことを示す。CEAに対する反応は、免疫化の際に与えられたrV−CEAの用量に関連するようであった。V−Wyeth:rV−B7はどの割合でも免疫化したマウスからのT細胞はCEAに対して反応しなかった。対照的に、rV−CEA:rV−B7はどの割合の場合で免疫した場合でもそのマウスからのT細胞は、免疫化としてrV−B7を与えられなかった群と比較して、CEAに対する増強された反応を有するようであった(表2)。rV−CEA:rV−B7(3:1)の免疫化は、本実験において最大のリンパ球増殖の誘導を示した(SI12.3)。rV−CEA:rV−B7の割合を変えた(3:1、1:1、1:3)実験を4回行ったが、各場合において3:1の割合がCEA特異的T細胞反応を最も増強させた。CEA特異的細胞免疫応答の程度をさらに調べるために、マウスをrV−CEA:V−Wyeth(3:1)、V−Wyeth:rV−B7(3:1)またはrV−CEA:rV−B7(3:1)で1回免疫化し、そして前述ようにリンパ球増殖反応を分析した。
【0091】
【表2】
【0092】
a5C57BL/6マウスは、示されたように一回免疫化された。プールされた脾臓T細胞からのリンパ球増殖反応は、免疫化後14日目に分析された。
b抗原の濃度は以下の通りである:ConA(2μg/ml);オバルブミン(100μg/ml);およびCEA(100μg/ml)。各値は、三重試料の培地に対する平均CPMの刺激指数を示す。標準偏差は10%を越えることはなかった。
cNA、不適用
d太字の数値は、各々の培地コントロールの値と比較した場合有意である(p<0.001)。
【0093】
表3は、免疫化を受けていないマウスからのT細胞は、いかなる濃度の精製CEAにも、UV−不活性化V−Wyethにも反応しないことを示す。V−Wyethで免疫化したマウスからのT細胞は強い刺激指数(31.7)でUV−V−Wyethに反応するが、CEAに応答して増殖することはなかった。対照的に、rV−CEA:V−Wyeth(3:1)で免疫化したマウスからのT細胞は、CEAと共に増殖させた場合用量依存的に増殖した(刺激指数4.5−1.6)。rV−B7のみで免疫化した(V−Wyeth:rV−B7)マウスからのT細胞は、CEAに反応しなかった。最後に、rV−CEA:rV−B7(3:1)の組み合わせで免疫化したマウスからのT細胞は、CEA抗原に反応して用量依存的に増殖した(SI=18.6−3.0)。この刺激指数は、rV−B7の追加によってCEA特異的増殖反応が4倍以上増加することを示す。全ての群からのT細胞はコントロールリンパ球マイトゲンConAに反応し、陰性コントロール抗原オバルブミンとは反応しなかった。
【0094】
【表3】
【0095】
a5C57BL/6マウスは、示されたように一回免疫化された。プールされた脾臓T細胞からのリンパ球増殖反応は、免疫化後14日目に分析された。
b抗原の濃度は以下の通りである:ConA(2μg/ml);オバルブミン(100μg/ml);UV−Wyeth(2×107pfu/ml);およびCEA(100〜12.5μg/ml)。各値は、三重試料の培地に対する平均CPMの刺激指数を示す。標準偏差は10%を越えることはなかった。
cNA、不適用
d太字の数値は、各々の培地コントロールの値と比較した場合有意である(p<0.001)。
【0096】
実施例5
rV−CEAおよびrV−B7で感染させた細胞におけるCEAおよびB7−1の二重発現
フローサイトメトリー法
2色フローサイトメトリー法を、invitroにおいてrV−CEAおよびrV−B7で細胞が二重に感染していることを示すために使用した。集密のBSC−1細胞(CCI26,ATCC,ロックバイル、メリーランド州)を、全MOIが5となるように、rV−CEA:rV−B7、rV−CEA:V−Wyeth,V−Wyeth:rV−B7の3:1の混合物,またはV−Wyethのみで2時間にわたって感染させた。細胞は、感染後、18時間目に回収し、PE結合ラット抗マウスB7−1モロクローナル抗体(ファルミンゲン、サンディエゴ、カリフォルニア州)およびFITC結合抗CEAモロクローナル抗体COL−1(36)またはFITCおよびPE結合アイソタイプのコントロールモロクローナル抗体(ファルミンゲン)を組み合わせて染色した。COL−1モロクローナル抗体は、標準的な手法を用いてFITCに結合した(37)。細胞の蛍光は、LysisIIソフトを用いたFACSCAN(ベクトンディキンソン、マウンテンビュー、カリフォルニア州)を使用して解析した。
【0097】
フローサイトメトリーによる解析:組換えCEAおよびB7の二重発現
抗原およびB7−1の両方が、T細胞とCD28受容体を正しく結合させるために、互いに極めて隣接した位置に発現されなければならないとこれまで考えられていたために(ジェンキンズ、M.K.ら、Current Opinion in Immunol.5:361−367,1993;ハスコック、K.S.ら、J.Exp.Med.180:631−640,1994;ヘルストローム、K.E.ら、Ann.NYAcad.Sci.690:225−230,1993:ハーヂング,F.A.ら、J.Exp.Med.177:1791−1796,1993)、rV−CEAおよびrV−B7の混合物を細胞に感染させると、細胞表面にCEAおよびB7−1の両方の二重発現が起こるかどうかについて決定した。二重発現について決定するために、BSC−1細胞をrV−CEA:V−Wyeth,V−Wyeth:rV−B7,またはrV−CEA:rV−B7の3:1の混合物、またはV−Wyethのみで感染させ、二色フローサイトメトリーによって解析した。V−Wyeth:V−Wyethで感染させた細胞は、バックグランド程度の染色のみ示したが(図6A);rV−CEA:V−Wyethで感染させた細胞は、主としてCEAに対して陽性を示した(図6B)。同様に、V−Wyeth:rV−B7の混合物で感染させた細胞は、主としてB7−1に陽性を示した(図6C)。しかし、rV−CEA:rV−B7で共感染させた細胞は、CEAおよびB7の両方に陽性を示した(図6D)。
【0098】
実施例6
rV−CEA:rV−B7で免疫した後のCEA特異的な細胞傷害性の上昇
細胞溶解反応の方法:
マウスを実施例4に記載したように免疫し、CEA特異的細胞溶解活性を上記に記載したように解析した(カンター.J.ら、J.Nat’l Cancer Inst.84:1084−1091,1992)。簡単にいえば、脾臓を免疫後14日目に除去し、これを細胞1つ1つの懸濁液にして、フィコール−ハイパク(Ficoll−Hypaque)勾配にかけた。MC38マウスコロニー形成能がある腺癌細胞系列(フォックス,B.A.ら、J.Bio.Resp.Modifiers9:499−511,1990)を、スティーブローゼンバーグ博士の研究室より(国立癌研究所、ベセスダ、メリーランド州)入手した。ヒトCEA、MC38−CEA−2を発現する誘導細胞系列については、すでに記載されている(ロビンス、P.F.ら、Cancer Res.51:3657−3662,1991)。これらの腫瘍細胞は、111Inを使用した標準的な細胞溶解測定(ウンダーリッヒ、J.ら、Current Protocols in Immunology、コリガンJ.E.ら(編集)3.11.1−3.11.14,1994)における標的として使用するために調製した。簡単に言えば、腫瘍細胞(1−2×106)を、50μCiの111Inオキシキノリン溶液(アマシャム、アリングトンハイツ、イリノイ州)で37℃にて20分間放射性標識し、それから取り込まれなかった放射性標識されている核酸を除くために洗浄した。脾臓のリンパ細胞および標的細胞(5×103細胞/ウエル)を、CTL培地に懸濁し(RPMI−1640のかわりに、RPMI−1640:EHAA50:50を含む完全培地、バイオウィッタカー、ウオーカースバイル、メリーランド州)、およびU底96穴プレート(コスター)中にてエフェクター対標的の比率が100:1から12.5:1にて結合させて、16時間37℃にて5%CO2とともにインキュベートした。インキュベーションの後、上清回収システム(Skantron,スターリング、バージニア州)を使用して上清を回収し、放射活性をガンマカウンターを使用して定量化した(コブラオートガンマ、パッカード、ダウナーズグルーブ、イリノイ州)。111Inの特異的な放出の比率は、標準式によって決定した:特異的な溶解%=[(実験において自然に起こる数)/(自然に起こる最大数)]x100。
【0099】
細胞傷害性T細胞の解析:rV−CEA:rV−B7で免疫した後のCEA特異的な細胞傷害性の増加
rV−CEAにrV−B7を添加した場合のCEA特異的細胞傷害活性に対する効果を解析するために、rV−B7およびrV−CEAの混合物で免疫したマウス由来の脾臓リンパ細胞を、CEAに陰性なマウス腺癌細胞(MC38)または、ヒトCEAを発現するレトロウイルスベクターを使用してCEAで形質転換した同一細胞(MC38−CEA−2)に対する溶解活性について試験した。図7は、rV−CEA:V−Wyeth(3:1)で一度免疫したマウス由来のT細胞は、CEA陰性MC38標的細胞(黒三角)を溶解しないが、CEA陽性MC38−CEA−2標的細胞(白三角)は低レベルにもかかわらず、溶解した。このCEA特異的な溶解は、E:T比に依存しており、E:T比が12.5:1では10%まで溶解は減少した。免疫源であるrV−CEAにrV−B7を添加すると(rV−CEA:rV−B7;3:1)、MC38細胞の溶解には何の影響も与えないが(黒丸)、MC38−CEA−2標的細胞のCEA特異的な溶解には実質的な影響を及ぼした。溶解単位についてのデータの変換に基づくと、rV−CEA:rV−B7(3:1)で免疫したマウスのCTL活性は、rV−CEAのみで免疫したマウスに比較して2.8倍増加していた。
【0100】
実施例7 rV−CEAと混合したrV−B7の抗癌効果
方法
10匹のC57BL/6マウスを、全部で1×107PFUのウイルスで免疫した。免疫した後14日後に、マウスを3×105個のMC38−CEA−2細胞を右わきばらに皮下注射した。少なくとも60日のあいだ腫瘍がみられなかったrV−CEA:rV−B7(3:1)のグループのマウスを、3×105個のMC38−CRA−2細胞を反対側のわきばらに接種した。腫瘍は、二方向カリパスで測定し、以前に記載したように、体積を計算した(カンター,J.ら、J.Nat’l CancerInst.84:1084−1091,1992)。腫瘍が20mmを越えたら(長さまたは幅)、すべての実験において、動物を殺した。
【0101】
rV−CEAと混合したrV−B7の抗癌効果
先天的なC57BL/6マウスに3×105個のMC38−CEA−2マウスの腺癌細胞を皮下注射によって投与すると、7−14日の間に明らかな腫瘍が生じてきて、それから急速に腫瘍が発達して最終的に致命的となるということが以前に示されていた(カンター,J.ら、J.Nat’l CancerInst.84:1084−1091,1992)。1×107PFUのrV−CEAを3回免疫することが、マウスをこの腫瘍の接種から100%保護するために必要であることもまた、示されていた(カンター,J.ら、J.Nat’l Cancer Inst.84:1084−1091,1992)。3:1の比率のrV−CEAおよびrV−B7で免疫して、動物を腫瘍の接種から保護することが可能であるかについて決定するために、我々は全部で107PFUのV−Wyeth、rV−CEA:V−Wyeth(3:1);V−Wyeth:rV−B7(3:1);またはrV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかで一度だけ免疫したC57BL/6マウスにおけるMC38−CEA−2腫瘍細胞の増殖を比較した。MC38−CEA−2細胞を接種すると(図8A)、14日以内に、10匹のV−Wyethで免疫した動物すべてにおいて明らかな腫瘍が生じた。腫瘍の増殖は、この実験を行っている間じゅう、発育し続けた。rV−CEA:V−Wyeth(3:1;図8B)で免疫した動物にMC38−CEA−2細胞を接種すると、明らかな腫瘍がみられはじめる時期が少し遅れて、結果的に、動物の70%が腫瘍に陽性になった。Wyeth:rV−B7(3:1;図8C)で免疫した動物にMC38−CEA−2細胞を接種すると、V−Wyethで免疫したコントロールの集団の腫瘍増殖と同じように、明らかな腫瘍が14日以内に生じた(図8A)。反対に、rV−CEA:rV−B7(3:1;図8D)で一度免疫したマウスの80%は、腫瘍を形成しなかった。腫瘍陰性マウス(n=8)は、この実験の間じゅう、腫瘍をつくらなかった(60日)。著しい毒性効果は、観察期間のあいだはこれらの動物に観察されなかった。動物の体重は、年齢に相当する正常なマウスの標準偏差の中におさまった。これらの実験はさらに3回繰り返し行って、同じ結果を得た。
【0102】
腫瘍細胞に対する長い期間の継続的な免疫は、rV−CEA:rV−B7(3:1)の組み合わせで免疫することによって誘導されるかどうかを決定するために、組換えウイルスをこの比率で免疫し、少なくとも60日間は腫瘍が形成されない(図8D)マウスに、3×105個のMC38−CEA−2細胞を反対のわきばらに接種した(図9B)。コントロールの正常なマウスにMC38−CEA−2細胞を接種すると(図9A)、14日以内にすべての動物において明らかな腫瘍が形成され、この実験を行っている間、腫瘍の増殖が進行する一方で、先にrV−CEA:rV−B7(3:1)を投与したマウスは、さらに49日間観察しても、腫瘍はみられなかった(図9B)。
【0103】
実施例8 rV−PSAの構築および特性
組換えワクシニアウイルス
ヒト前立腺特異的抗原の全オープンリーディングフレームをコードする786bpのDNA断片を、ヒト転移性前立腺腺癌細胞系列、LNCaPFGC(CRL1740,アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC),ロックバイル、メリーランド州)から抽出した全RNAより、逆転写PCR(GeneAmp RNA PCR Kit,Perkin Elmer,ノルウォーク、コネチカット州)によって増幅した。PSAコード配列から予測されるアミノ酸配列は、220番目の残基がアスパラギンからチロシンに置換していたことだけが異なるが、既に報告された配列と同一であることが示された(ルンドウエルら、FEBS Letters 214:317−322,1987)。PSAの全コード配列、5’非翻訳領域の41ヌクレオチド、および3’非翻訳領域の520ヌクレオチドを含むPSAのDNA断片を、ワクシニアウイルストランスファーベクターpT116のXbaI制限酵素部位にライゲーションした。生じたプラスミドは、pT1001と命名され、ワクシニアウイルス40Kプロモーターの制御下にあるPSA遺伝子(グリッツら、J.Virology、64:5948−5957,1990)および鶏痘ウイルスC1プロモーターの制御下にある大腸菌LacZ遺伝子(ジェンキンズら、AIDS Research and Human Retroviruses、7:991−998,1991)を含む。外来遺伝子は、ワクシニアゲノムのHindIIIM領域由来のDNA配列に結合させた。ワクシニアのWyeth(ニューヨーク衛生局)株からプラーク精製した単離物を、組換えワクシニアウイルスの構築において親ウイルスとして使用した。組換えウイルスの作製は、Wyethワクシニアゲノムのワクシニア配列と、pT1001で形質転換したワクシニアに感染したRK13細胞(CCL37,ATCC)中のpT1001のこれに相当する配列のあいだでの相同組換えによって生じた。組換えクローンは、以前に記載したように(パニカリら、Gene 47:193−199,1986;カウフマンら、Int.J.Cancer、48:900−907,1991)、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドール−β−D−ガラクトピラノシド(X−Gal)の存在下においてRK13細胞(CCL37,ATCC)の増殖によって同定し、選別した。適切な青い組換えをおこしたコロニーを、4回プラーク精製することによって精製した。ウイルスのストックは、感染したRK13細胞抽出液を、36%ショ糖クッションによって遠心して精製することによって調製した。
【0104】
DNA組換えのサザン解析
組み換えワクシニアゲノムを、ウイルスDNAの抽出、HindIIIおよびClaIでの制限酵素消化、および以前に記載したようなサザンブロット(カウフマンら、Int.J.Cancer、48:900−907,1991)によって解析した。
【0105】
PSAタンパク質発現のウエスタン解析
集密のBSC−40細胞を、野生型親株ワクシニアウイルス(V−Wyethと呼ばれている)または組み換えワクシニアPSA(rV−PSAと呼ばれている)のいずれかをMOIが1として2%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーゲル培地中で感染させた。一晩感染させた後、細胞から培地を除去し、アリコートをメタノール沈澱して分泌されたPSAの存在を測定した。感染した細胞は、低張の溶解緩衝液(150mM NaCl,0.05% EDTA,10mMKCl,1mMPMSF)中に溶解し、それから超音波処理をした。細胞抽出物と培養用培地を、SDS10%アクリルアミドゲルで電気泳動した。タンパク質を、ニトロセルロース上にトランスブロットし、ブロットしたものを室温で4時間、PSAに特異的なウサギ抗体(PO798,Sigma Chemical CO.,セントルイス、ミズーリ州)とインキュベーションし、洗浄し、それからヤギ抗ウサギホスファターゼ標識二次抗体(AP,Kirkegaad&Perry Laboratories,ガイザースバーグ、メリーランド州)と共にインキュベートし、製造業者の手法に従って現像した。
【0106】
組換えウイルス(rV−PSA)の特性
ヒトPSAのオープンリーディングフレームをコードしているcDNA断片を、PSA特異的オリゴヌクレオチドプライマー5’TCTAGAAGCCCCAAGCTTACCACCTGCA3’(配列番号:5),5’TCTAGATCAGGGGTTGGCCACGATGGTGTCCTTGATCCACT3’(配列番号:6)を使用して逆転写PCRによって得て、ワクシニアウイルストランスファーベクターpT116中にラーゲーションした。このベクターは、挿入された遺伝子産物の合成を引き起こすように、マルチクローニング部位の上流に強力なワクシニアウイルス初期/後期プロモーター(40Kと呼ばれている)を含む。プロモーターの部位と同様に、PSAのDNA断片のライゲーションおよび方向は、PCRおよび塩基配列決定によって確認された。キメラのベクター構築物を、以前に報告されたように、相同組換えによってワクシニアウイルスゲノムのHindIIIM部位中に挿入し(カウフマンら、Int.J.Cancer、48:900−907,1991)、PSA配列およびHindIIIM領域中のワクシニア配列に相当する32Pで放射性標識したDNAをプローブにしたサザン解析によって確認した(データは示さない)。
【0107】
組換えPSAタンパク質の発現は、上清およびrV−PSAを感染させたBSC40細胞から抽出したタンパク質のウエスタンブロット解析によって確認した。
これらの細胞は、組換えワクシニア産物を確認するのに日常的に使用している(エールら、Current Protocols in Molecular Biol.,2.16.15.1−16.18.9,1993)。rV−PSAを感染させた細胞由来の細胞上清をブロットしたものをウサギ抗PSA抗体と共にインキュベーションすると、およそ33,000ダルトンの一本の免疫反応するペプチドが現れた(データは示さない)。同様に、rV−PSAを感染させた細胞由来のタンパク質抽出物をブロットしたものをインキュベーションすると、同じ分子量の一本のバンドが現れた(データは示さない)。これは、PSA分子の予測される大きさと一致する(アルムブラスターら、Clin.Chem.39:181−195,1993;ワングら、Methods in Cancer Research、19:179−197,1982)。親株V−Wyethを感染させた細胞由来の上清のブロットおよびタンパク質ブロットは、PSAの発現は陰性であった。したがって、これらの結果は、組換えワクシニアウイルスは、ヒトPSA遺伝子産物を忠実に発現することが可能であることを示している。
【0108】
実施例9
rV−PSA:rV−B7での免疫によるPSA特異的細胞傷害性の増加
細胞系列
コロニー形成能のあるマウス腺癌細胞系列であるMC−38(フォックス、B.A.ら、J.Biol.Response Mod.9:499−511,1990)を、バーナードフォクス博士より入手した(国立癌研究所、国立衛生研究所、ベネスダ、メリーランド州)。LNCaPヒト前立腺腺癌細胞系列(ヘルスコビッツ、J.S.ら、マーフィー,G.P.(編集)前立腺癌のモデル、pp.115−132,ニューヨーク:A.R.Liss,1980)を、アメリカンカルチャータイプコレクション(ロックバイル、メリーランド州)より入手した。モロニーマウス肉腫ウイルスレトロウイルスベクターpLNSC(ミラー、A.D.ら、Biotechniques 7:980−990,1989)を、A.ダスティーミラー博士より入手した(フレッドハッチンソン癌研究所、シアトル、ワシントン州)。マウスのエコトロピック(ecotropic)ウイルスを保持している細胞系列GP+E−86(ヘスドルファー、C.HematolOncol.Clin.North Am.,5(3):423−432,1991)、MC−38,PSA/MC−38およびpLNSX/MC−38を、10%ウシ胎児血清(FBS)(GibcoBRL)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco BRL,ガイザーバーグ、メリーランド州)にて維持した。PSA/MC−38およびpLNSX/MC−38細胞系列は、1mlあたり1mgのG418硫酸塩(Gibco BRL)の選択圧を常に与えている状況下において維持した。LNCaPは、10%FBSを含むRPMI−1640培地(Gibco BRL)中で維持した。
【0109】
PSAcDNAのクローニング
相補的なDNA(cDNA)は、ヒト前立腺癌細胞系列であるLNCaP由来の全RNAよりGeneAmpRNAポリメラーゼ鎖反応(PCR)キット(Perkin ElmerCorp.,ノルウォーク、コネチカット州)を使用して合成した。ヒトPSAに特異的なオリゴヌクレオチドプライマーは、Mac Vector4.1.4.コンピュータープログラム(Kodak Co.,ロチェスター,ニューヨーク州)を使用してヒトmRNA配列(GenBank登録番号X07730)に基ずいて選択した。HindIII制限酵素部位を含む5’(5’AGA GAG AGC CTC AAG CTT CAG CCC CAA GCT TAC CAC CTG CA3’)(配列番号:7)および3’(5’AGA GAG AGC AAG CTT AGT CCC TCT CCT TAC TTC AT3’)(配列番号:8)を、PCRによって全長のPSAcDNAを合成するのに使用した。1.5kbのPSA遺伝子を、制限酵素HindIIIで消化したpLNSXDNAとラーゲーションし、コンピテントCHα大腸菌細胞(Gibco BRL)を形質転換するのに使用した。アンピシリン耐性なコロニーについて、ベクター特異的な5’オリゴヌクレオチドプライマー(5’TTT GGA GGC CTA GGC TTT TGC AAA3’)(配列番号:9)および上述したPSAに特異的な3’プライマーを使用してPCRによってcDNAインサートの方向を調べた。PSAcDNAがセンス方向を向いている形質転換体を選択し、制限酵素消化によって同定し、Sequenase(United States Biochemical Corp.,クリーブランド、オハイオ州)を使用したジデオキシ法によって塩基配列を決定した。PCRによって回収された遺伝子の塩基配列の解析により、この遺伝子は、GenBankにあるヒトPSA遺伝子配列と同一であることが確証された。
【0110】
MC−38標的細胞へのDNAの形質転換および形質導入
PSA/pLNSXプラスミド(5μg)を、形質転換試薬(DOTAP)(Boehringer Mannheim Biochemica,インディアナポリス、イリノイ州)を使用して製造業者の手法に従ってMC−38細胞に形質転換した。24時間後に、G418を100μg/ml(重量/体積)含む選択培地を細胞に添加した。選択圧は、10%FBSおよび濃度勾配のG418を(1mg/mlまで)含むDMEM中において継続的に培養することによって維持した。薬剤耐性の細胞を制限希釈によりクローニングした。クローニング壁から得た馴化培地を、固相の二重決定タンデムRPSA免疫放射分析(Hybritech Inc.,サンディエゴ、カリフォルニア州)を使用して試験した。PSAを最も効率良く分泌するクローンを、制限希釈によって2回クローン化した。PSA/MC−38と命名された1つのクローンは、およそ10ngPSA/mlを生産した。
【0111】
ベクターを形質導入したPSA陰性なMC−38細胞は、以下のようにして作製した。マウスのエコトロピック(ecotropic)ウイルスを保持している細胞系列GP+E+86を、上記に記載したように、DOTAP形質導入試薬を使用して2μgのpLNSXベクターDNAで形質導入した。24時間後に、形質導入した細胞を植えかえて選択培地上で増殖した(1mlあたり1.0mgのG418)。G418による選択を生き延びて、pLNSXを持っている細胞は、G418が存在しない培地中でも増殖し、この培地を8μg/mlのポリブレン(Sigma Chemical Co.,セントルイス、ミズーリ州)存在下にてMC−38細胞に添加した。形質導入したMC−38細胞は、G418存在下において3週間成育した。個々の薬剤耐性コロニーを無菌的なクローニングリングによって単離し、pLNSXの存在をPCRによって同定した。1つのクローンがpLNSX/MC−38であり、これをさらなる実験に使用した。
【0112】
細胞傷害反応の方法
マウスを、実施例6に記載した基本的な手法を使用してrV−PSAで免疫した。実施例8に記載したように作製したrV−PSAは、Therion Biologics Corporation,ケンブリッジ、マサチューセッツ州から入手した。上記およびカール,J.F.ら(Cancer Reserch,印刷中)に記載されているのヒトPSAを発現するコロニー形成能のあるMC38マウス腺癌細胞系列(MC38−PSA)を、抗原特異的な標的として使用した。
【0113】
細胞傷害性T細胞の解析:rV−PSA:rV−B7で免疫したことによるPSA特異的な細胞傷害性の増加
rV−PSAにrV−B7を添加した場合のPSA特異的細胞傷害性活性に対する効果を解析するために、rV−B7およびrV−PSAの混合物で免疫したマウス由来の脾臓リンパ細胞を、PSAに陰性なマウス腺癌細胞(MC38)またはPSAで形質導入した同じ細胞(MC38−PSA)について溶解活性を試験した。図10は、rV−PSAで一度免疫したマウス由来のT細胞は、PSA陰性なMC38標的細胞を溶解しないが、PSA陽性なMC38−PSA標的細胞は溶解することを示している。免疫源であるrV−PSAにrV−B7を添加しても、MC38細胞の溶解には影響を及ぼさないが、MC38−PSA標的細胞のPSA特異的な溶解に対しては実際に影響を及ぼす(図10)。溶解の特異性は、異なる抗原であるrV−CEA:rV−B7で免疫したマウスのT細胞は、MC38−PSA標的細胞を溶解しないということからもさらに示された。
【0114】
実施例10
癌にかかっている哺乳動物を治療するためのCEA抗原に由来する免疫原性ペプチドに感作したリンパ細胞の使用
前もってCEA抗原に感作させたTリンパ細胞は、癌にかかっている哺乳動物を治療するのに効果的である場合がある。Tリンパ細胞は、末梢血液または腫瘍懸濁液由来で、in vitroで培養した(カワカミ、Y,ら(1988)J.Exp.Med.168:2183−2191)。Tリンパ細胞は、濃度が1−10MOIでおよそ1−16時間のあいだ、CEA関連抗原を発現する組換えウイルスおよび/またはB7.1および/またはB7.2を発現する組換えウイルスを感染させた細胞にさらす。抗原にさらされたTリンパ細胞を、哺乳動物、好適にはヒトにおよそ107−1012個のリンパ細胞を投与する。リンパ細胞は、静脈内、腹膜内、または病気の部分に投与される。この処置は、Tリンパ細胞治療と組み合わせて、サイトカイン、放射治療、腫瘍部分の外科的除去および化学治療薬剤のような他の治療的処置と同時に投与できる。
【0115】
本発明はある特定の態様に関連して上記に記載したが、さまざまに改変することが可能で、別の材料および試薬を本発明から逸脱しないように使用することが可能である。ある場合には、このような改変および代用は、いくらか実験を必要とするかも知れないが、日常的な実験のみ含むと考えられる。
【0116】
特定の態様の詳細な記載は、本発明の一般的な特性を十分に明らかにしており、最新の知識を適応することによって研究者は遺伝学的な概念から逸脱することなくこのような特定の態様を容易に改変および/またはさまざまな応用に適応させることが可能であり、それゆえ、このような適応および改変は、記載した態様に相当する内容および範囲内において理解されると考えられる。
【0117】
参照したすべての参考文献および特許は、本明細書中に参考文献として取り入れている。
【0118】
【化1】
【0119】
【化2】
【0120】
【化3】
【0121】
【化4】
【0122】
【化5】
【0123】
【化6】
【0124】
本発明の上記その他の目的、特徴及び幾つかの付随的な利点は、発明の詳細な説明を読んで、検討するならばさらに良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】図1A〜1DはrV−B7タンパク質を発現するBSC−1細胞の蛍光分析を示す。BSC−1細胞は、B7−1又はB7−2表面タンパク質に関して、感染前に(図1A)、10MOI V−Wyeth(図1B)、rV−B7−1(図1C)又はrV−B7−2(図1D)による感染後に染色した。図1Aと1Bは正常BSC−1細胞又はrV−B7−1とrV−B7−2との構築に用いた親ワクシニア菌株によって感染させた細胞のB7染色を典型的に示すが、図1Cと1DはrV−B7−1とrV−B7−2による感染後の組換えB7タンパク質の強い発現を、これらの分子に特異的なモノクローナル抗体をそれぞれ用いて説明する。
【図2】図2A〜2DはrV−B7タンパク質を発現する移植されたマウス腺癌の成長を示す。1群あたり5匹のC57BL/6マウスに、感染させない(図2A)、0.25MOI V−Wyeth(図2B)、rV−B7−1(図2C)又はrV−B7−2(図2D)によって感染させた3×105MC38細胞を注入した。図2Aと2BはMC38細胞の正常な成長速度を示し、図2Cと2Dは組換えB7タンパク質を発現するMC38細胞の成長速度を示す。腫瘍は2種類のサイズで測定された。これらの実験をさらに3回繰り返して、同様な結果を得た。*動物は腹腔内腫瘍を増殖させたが、これは測定することができなかった。
【図3】図3A〜3D。図3Aは未使用C57BL/6マウスにおける非感染MC38腫瘍の成長を示す。図3BはrV−B7−1で予め感染させたMC38細胞を予め投与され(40日目)、3×105MC38細胞によってチャレンジされたMC38腫瘍の成長を示す。図3CはrV−B7−2で感染させたMC38細胞を予め投与され(40日目)、3×105MC38細胞によってチャレンジされたMC38腫瘍の成長を示す。
【図4】図4は、ヒト癌胎児性抗原遺伝子(rV−CEA)、ネズミB7−2(rV−B7)、又はワクシニアウイルスの野生型菌株(V−Wyeth)の遺伝子をコードする組換えワクシニアウイルスで免疫感作された5C57BL/6マウスの各処置群を示す。各マウスには、下記比:1:1rV−CEA/rV−B7(5×106PFUrV−CEA+5×106PFUrV−B7);1:1V−Wyeth/rV−B7(5×106PFUV−Wyeth+5×l06PFUrV−B7);又は1:1rV−CEA/V−Wyeth(5×106PFUrV−CEA+5×106PFUV−Wyeth)での尾乱刺法によって1×107プラーク形成単位を投与した。免疫感作後14日目に各処置群から3個の脾臓を摘出し、プールし、標準5日リンパ球増殖分析(standard5 day lymphoproliferativeassay)を既述されたように実施した(Kantor等、JNCI,84:1084,1992)。精製T細胞をそれらの増殖能力に関して100μg/mlのバキュロウイルス産生組換えCEAに対して試験した。培地に対する細胞反応性(バックグランド)に関連して刺激指数を算出した。
【図5】図5は、ヒト癌胎児性抗原遺伝子(rV−CEA)、ネズミB7−2(rV−B7)、又はワクシニアウイルスの野生型菌株(V−Wyeth)の遺伝子をコードする組換えワクシニアウイルスで免疫感作された5C57BL/6マウスの各処置群を示す。各マウスには、下記比:1:3rV−CEA/rV−B7(2.5×106PFUrV−CEA+7.5×106PFUrV−B7);1:3V−Wyeth/rV−B7(2.5×106PFUV−Wyeth+7.5×106PFUrV−B7);又は1:3rV−CEA/V−Wyeth(2.5×106PFUrV−CEA+7.5×106PFUV−Wyeth)での尾乱刺法によって1×107プラーク形成単位を投与した。免疫感作後14日目に3個の脾臓を摘出し、プールし、標準5日リンパ球増殖分析を既述されたように実施した(Kantor等、JNCI,84:1084,1992)。精製T細胞をそれらの増殖能力に関して100μg/mlのバキュロウイルス産生組換えCEAに対して試験した。培地に対する細胞反応性(バックグランド)に関連して刺激指数を算出した。
【図6A】図6A〜6Dは、rV−CEAとrV−B7とによって同時感染されたBSC−1の蛍光分析を示す。BSC−1細胞に下記:(6A)V−Wyeth;(6B)rV−CEA:V−Wyeth(3:1);(6C)Wyeth:rV−B7(3:1);又は(6D)rV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかの比で5のMOIにおいてウイルスによって同時感染させ、MAbsPE−B7−1とFTTC−COL−1によって染色した。XおよびY軸は、各々CEAおよびB7−1蛍光を示し、Z軸は細胞数を示す。各座標における陽性細胞の%を挿入パネルに示す。図6Aは親ワクシニア菌株で感染された正常BSC−1細胞の染色を示す。
【図6B】図6A〜6Dは、rV−CEAとrV−B7とによって同時感染されたBSC−1の蛍光分析を示す。BSC−1細胞に下記:(6A)V−Wyeth;(6B)rV−CEA:V−Wyeth(3:1);(6C)Wyeth:rV−B7(3:1);又は(6D)rV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかの比で5のMOIにおいてウイルスによって同時感染させ、MAbsPE−B7−1とFTTC−COL−1によって染色した。XおよびY軸は、各々CEAおよびB7−1蛍光を示し、Z軸は細胞数を示す。各座標における陽性細胞の%を挿入パネルに示す。図6Bは単独感染中のCEA又はB7−1の発現を示す。
【図6C】図6A〜6Dは、rV−CEAとrV−B7とによって同時感染されたBSC−1の蛍光分析を示す。BSC−1細胞に下記:(6A)V−Wyeth;(6B)rV−CEA:V−Wyeth(3:1);(6C)Wyeth:rV−B7(3:1);又は(6D)rV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかの比で5のMOIにおいてウイルスによって同時感染させ、MAbsPE−B7−1とFTTC−COL−1によって染色した。XおよびY軸は、各々CEAおよびB7−1蛍光を示し、Z軸は細胞数を示す。各座標における陽性細胞の%を挿入パネルに示す。図6Cは単独感染中のCEA又はB7−1の発現を示す。
【図6D】図6A〜6Dは、rV−CEAとrV−B7とによって同時感染されたBSC−1の蛍光分析を示す。BSC−1細胞に下記:(6A)V−Wyeth;(6B)rV−CEA:V−Wyeth(3:1);(6C)Wyeth:rV−B7(3:1);又は(6D)rV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかの比で5のMOIにおいてウイルスによって同時感染させ、MAbsPE−B7−1とFTTC−COL−1によって染色した。XおよびY軸は、各々CEAおよびB7−1蛍光を示し、Z軸は細胞数を示す。各座標における陽性細胞の%を挿入パネルに示す。図6DはrV−CEAとrV−B7の両方による感染後に両方の組換え分子の同時発現を示す。
【図7】図7は、rV−CEA及び/又はrV−B7による免疫感作後の一次CTL活性の増強を示す。CEAに特異的な細胞毒性活性を全体で1×107PFUのrV−CEA:V−Wyeth(3:1;三角形)又はrV−CEA:rV−B7(3:1;円形)による感作後10日目に分析した。各群からの脾臓T細胞を16時間細胞毒性分析においてMC38細胞(CEA陰性;閉鎖記号)又はMC38−CEA2細胞(CEA陽性;開放記号)と共にインキュベートした。抗V−WyethCTL活性は全てのサンプルにおいて>50%であった。
【図8】図8A〜8Dは、rV−CEA及びrV−B7によって免疫感作されたマウスにおける移植されたCEA発現マウス腺癌細胞の成長を示す。1群にあたり10C57BL/6マウスを(8A)V−Wyeth;(8B)rV−CEA:V−Wyeth(3:1);(8C)Wyeth:rV−B7(3:1);又は(8D)rV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかの全体で107PFUで一回に免疫感作し、14日間後に3×106MC−38−CEA−2−細胞を皮下に注射した。
【図9】図9A〜9Bは、rV−B7とrV−CEAとの混合物を予め投与されたマウスにおける抗腫瘍免疫性を示す。図9Aは未使用C57BL/6マウスにおけるMC−38−CEA−2−腫瘍の成長を示し、予め腫瘍チャレンジを受けて生残したマウスにおける腫瘍成長を示す(図9B)。マウスをrV−CEA:rV−B7(3:1)によって免疫感作し、14日後に腫瘍によるチャレンジを受けさせた。60日間後に無腫瘍で留まるマウス(図8D)を反対側フランクで再チャレンジさせた(図9B)。
【図10】図10は、rV−PSA及びrV−B7−1による免疫感作後の一次CTL活性の増強を示す。PSAに特異的な細胞毒性活性を全体で1×107PFUのrV−PSA、rV−PSA:rV−B7−1又はrV−CEA:r−B7−1による感作後10日目に分析した。各群からの脾臓T細胞を16時間細胞毒性分析においてMC38細胞又はMC38−PSA細胞と共にインキュベートした。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は病原性疾患及び癌の予防と治療のための組換えウイルスベクターワクチンの組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は抗原(単数又は複数)をコードする遺伝子を含む組換えウイルスベクターと、免疫刺激性分子(単数又は複数)をコードする遺伝子(単数又は複数)を含む組換えウイルスベクターとの組成物に関する。これらの遺伝子は1つの組換えベクターに又は別々のウイルスベクターに挿入されることができる。本発明の他の態様は、免疫刺激性遺伝子(単数又は複数)を含有する組換えウイルスによるinsitu若しくはインビトロにおける疾患細胞の感染及び感染した細胞の宿主中への再導入によって、哺乳動物における疾患細胞(例えば、腫瘍細胞)に対する免疫応答を強化することである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
癌患者における活性免疫反応を刺激する現在までの試みは“非特異的”(即ち、BCGの使用)又は“特異的”(即ち、腫瘍細胞、腫瘍細胞抽出物、細胞培養上澄み液からの抗原混合物又は腫瘍細胞の溶解産物(oncolysate)の使用)として分類することができる。これらの努力の殆どが転移性黒色腫を有する患者において続けられている。組換えワクチンの開発は、免疫原又は免疫刺激性分子の特異的な、規定された遺伝子産物又はエピトープの使用を含む。後者のアプローチが特定の患者からの細胞を用いて、これらの細胞に例えばB7.1、B7.2、IL−2又はGM−CSFのような免疫刺激性分子の遺伝子を現場で挿入するか又は培養した細胞を患者に再び投与することを必要とするという点で、組換えワクチンは“遺伝子療法”にも用いることができる。
【0003】
組換えワクチンは多くの形態をとることができる。例えばバキュロウイルス(昆虫ベクター)のようなベクターによって又は真核細胞におけるように、組換えタンパク質を合成することができる。合成ペプチドが免疫原として役立つことができる。9〜数ダースのアミノ酸から成るペプチドワクチンは2種類の形態をとることができる。これらはアジュバントと混合するか又は患者に再注入するための抗原提示細胞(antigen presenting cell)(APC)として末梢血管細胞をパルスする(pulse)ために用いることができる。特定腫瘍関連抗原をコードする遺伝子をベクターに挿入することによっても、組換えワクチンを構築することができる。用いられる共通ベクター(common vector)の一部はワクシニアウイルス、例えば鶏痘又はカナリヤ痘(ポックス)のようなトリポックス(avian pox)ウイルス、BCG、アデノウイルス及びサルモネラ(Salmonella)である。これらのベクターは、各々がそれらの利点と欠点を有するが、それらの構成タンパク質の免疫原性のために通常用いられ、挿入された遺伝子のタンパク質又はエピトープをより大きく免疫原性にする。組換えワクチンは、特定腫瘍関連抗原に対して産生されるモノクローナル抗体に向けられる抗イディオタイプ抗体の形態をとることもできる。最も最近では、プロモーター遺伝子を含有するプラスミド中の腫瘍関連遺伝子のネーキッド(naked)DNAから成るポリヌクレオチドワクチンが製造されている。上記の全ては動物モデルにおいて分析されているが、1つのアプローチの他のアプローチに対する相対的効率を調べた研究は殆どない。臨床試験は現在これらのアプローチの幾つかを胸部癌及び他の癌患者に用い始めており、他の臨床試験も近い将来開始する見込みが大きい。
【0004】
現在、癌治療用の組換えワクチンに用いられうると見なされている幾つかの抗原が存在する。これらの最初の抗原は、胸部腫瘍の約20〜30%に過度に発現することが判明しているc−erbB/2癌遺伝子である(Pietras RJ等,Oncogene 9:1829〜1838,1994)。ラットにおける点突然変異したc−erbB/2癌遺伝子が、ワクシニアウイルスに挿入されたときに、免疫原性になり、抗腫瘍効果を生じることができることが判明している(Bernards R等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:6854〜6858,1987)。しかし、ヒトc−erbB/2は突然変異させられない。この遺伝子が、インビトロでヒトT細胞反応を生じるように思われる幾つかのエピトープを含有することが最近判明している(Disis ML等,Cancer Res.54:1071〜1076,1994)。やはり多くのヒト胸部腫瘍中に見い出される点突然変異したp53癌遺伝子は細胞毒性T細胞の可能な標的であることが判明している(Yanuck,M等,Cancer Res.53:3257〜3261,1993)。特異的な点突然変異を示すペプチドがヒト末梢血リンパ球(PBL)によってパルスされて、患者に再投与される臨床研究も現在開始されている。胸部癌ムチン,MUC−1又はDF3は胸部の分化抗原(differentiation antigen)を表す(AbeM.とKufe D.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 9:282〜286,1993)。MUC−1はある種類の正常上皮組織中に発現されるが、これは胸部癌組織中では特有にグリコシル化されるように思われる。MUC−1ムチンのコアタンパク質のタンデム反復(tandem repeat)は、胸部癌患者のリンパ節が非MHC制限的にMUC−1ペプチドによって活性化されうるT細胞を含有すると言う点で、ヒトにおいて免疫原性であると報告されている(BarndDL等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:7159〜7163,1989)。卵巣癌患者がこの領域に対して抗体反応を示すことができることも判明している(Rughetti A等,CancerRes.53:2457〜2459,1993)。MUC−1遺伝子がワクシニアウイルスに挿入されている動物モデルが報告されている(Hareuveni M等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA87:9498〜9502,1990;Hareuveni等,Vaccine,9:618〜626,1991)。MUC−1ペプチドがヒトPBLによってパルスされる臨床試験は現在、胸部癌患者において行われている。癌療法の可能な標的を表す他のムチンは、ヒト胸部癌患者の約70〜80%に見い出されるTAG−72である(ThorA等,Cancer Res.46:3118〜3124,1986)。
【0005】
癌抗原に対する有効な免疫感作の大抵の試みは全腫瘍細胞又は腫瘍細胞フラグメントを含んでいるが、悪性細胞を正常細胞から区別する特有の腫瘍抗原に対して特異的に免疫感作することが最も望ましい。Tリンパ球によって認識される腫瘍関連抗原の分子性質は充分に理解されていない。エピトープ又は完全(intact)タンパク質を認識する抗体とは対照的に、T細胞は細胞表面のクラスI又はII主要組織適合(MHC)分子上に存在する短鎖ペプチドフラグメント(8〜18アミノ酸)を認識し、このようにして腫瘍関連抗原は提示され、T細胞によって認識されると思われる。
【0006】
HLA−A2クラスI分子に関連してTILによって認識される黒色腫の腫瘍抗原をコードする幾つかの遺伝子が同定されている(Kawakami,Y.等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA91:3515〜3519,1994;Kawakami,Y.等,Cancer Res.54:3124〜3126,1994)。
【0007】
ヒト癌胎児性抗原(CEA)も、結腸直腸癌、胃癌、膵臓癌、胸部癌及び非スモール(non−small)細胞癌を包含する、ある範囲のヒト癌の免疫療法の可能な標的分子を表す(Robbins PF等,Int.J.Cancer,53:892〜897,1993;Esteban JM等,Cancer 74:1575〜1583,1994)。実験研究は、抗−CEAモノクローナル抗体に対する抗イディオタイプ抗体がマウスにおいて免疫応答を誘出することができることを実証している(Bhattacharya−Chatterjee,M.等,Int.Rev.Immuno.7:289〜302,1991)。この抗イディオタイプ抗体を用いる臨床研究は現在進行中である。CEA遺伝子がワクシニアウイルス中に挿入されている組換えワクチンも開発されている(Kantor J.等,J.Natl,Cancer Inst.84:1084〜1091,1992)。このワクチンを含むフェイズI臨床試験は丁度完成されたところである。
【0008】
特有の腫瘍抗原を表す免疫優生ペプチドの同定は癌に対する免疫感作の新しい可能性を開示している。免疫優生ウイルスペプチドによる免疫感作がウイルス感染に対する保護を与えることができるウイルス特異的CTLを誘導することができることの実質的な証拠が動物モデルに存在する。純粋なペプチドのみではT細胞応答を刺激するのに効果がないが、アジュバント中に乳化した又は脂質と複合体化した(complexed)ペプチドが新しいウイルスによるチャレンジに対してマウスをプライミングする(priming)ことが実証されており、このようなペプチドが、致死的なウイルス接種物からマウスを保護するウイルス特異的CTLを誘導することができる(Kast,W.M.等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:2283〜2287,1991;Deres,K等,Nature,342:561〜564,1989;Gao,X.M.等,J.Immunol.147:3268〜3273,1991;Aichele,.P.J.Exp.Med.171:1815〜1820.1990;Collins,D.S.等,J.Immunol.148:3336〜3341,1992)。Listeriamonocytogenesペプチドエピトープによって被覆された脾臓細胞に対するマウスの免疫感作も、培養中にエキスパンドされ(expanded)うるListeria特異的CTLの形成を生じる。これらのCTLの養子移入もマウスを致死的細胞チャレンジから保護することができる(Harty,J.T.等,J.Exp.Med.175:1531〜1538,1992)。完全Freundアジュバント中で乳化されたHIVgp120とgp160の抗原エピトープを表すペプチドも特異的CTL応答をプライミングすることができる(Takahashi,H.等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:3105〜3109,1988;Hart,M.K.等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:9448〜9452,1991)。
【0009】
アジュバント中の又は脂質と複合体化したペプチドによる免疫感作はマウスにおけるT細胞応答を生じるが、この反応は一次脾臓細胞にT反応性細胞を誘導するほど強力であることは稀である。感作リンパ球の検出は殆ど常に二次インビトロ刺激を必要とする。
【0010】
B7遺伝子ファミリーの発現はマウスとヒトの両方における抗腫瘍応答の重要な機構であることが実証されている。少なくとも2種類のシグナルが抗原担持標的細胞による未使用(naive)T細胞の活性化のために必要であることが現在明らかになりつつある:T細胞受容体から供給される抗原特異的シグナルと、リンホカイン産物を生じる抗原独立性又は同時刺激性シグナル(Hellstrom,K.E.等,AnnalsNY Acad.Sci.690:225〜230,1993)。2種類の重要な同時刺激性分子は、T細胞表面抗原CD28とCTLA4のリガンドであるB7−1(Schwartz,R.H.Cell,71:1065〜1068,1992;Chen,L.等,Cell,71:1093〜1102,1992;Freeman,G.J.等,J.Immunol.143:2714〜2722,1989;Freeman,G.J.等,J.Exp.Med.174:625〜631,1991)と、CTLA4の代替リガンドであるB7−2(Freeman,G.J.等,Science,262:813〜960,1993)とである。現在までに、ネズミB7−1とB7−2(Freeman,G.J.等,J.Exp.Med.174:625〜631,1991;Freeman,G.J.等,Science,262:813〜960,1995)とヒトB7−1とB7−2の両方が述べられている(Freeman,G.J.等,J.Immunol.143:2714〜2722,1989;Freeman,G.J.等,Science,262:909〜911,1993)。B7−1とB7−2によって与えられる同時刺激性シグナルがT細胞活性化の機能的に異質の機構であるか又は余分な(redundant)機構であるのかはこの時点では不明である(Hathcock,K.S.等,J.Exp.Med.180:631〜640,1994)。ネズミとヒトの大抵の腫瘍はB7−1又はB7−2を発現せず、このことは、腫瘍が可能な拒絶抗原(rejectionantigen)を発現する場合にも、抗腫瘍T細胞応答を活性化する見込みがないことを意味する。(Hellstrom,K.E.等,Annals.N.Y.Acad.Sci.690:225〜230,1993;Hellstrom,I.等,Annals.N.Y.Acad.Sci.690:24〜31,1993)。実際に、1種類のみのシグナルがT細胞によって受容されることに起因してアネルギーが生じる可能性がある(Hellstrom,K.E.等,Annals.N.Y.Acad.Sci.690:225〜230,1993)。黒色腫細胞中へのB7のトランスフェクションはインビボにおいてネズミ黒色腫の拒絶を誘導することが判明した(Townsend,S.E.等,Science,259:368〜370,1993)。
【0011】
ワクシニアウイルスはヒトに広範囲に用いられており、天然痘に対するワクチンに基づくワクシナ(vaccina)の使用はこの疾患の世界的な規模の根絶を生じている(参考文献のMoss,B.Science,252:1662〜1667,1991において調査)。ワクシニアウイルスは低コスト、熱安定性及び簡単な投与方法と言う利点を有する。他の疾患の予防のためにワクシニアウイルスベクターを開発しようと試みられている。
【0012】
ワクシニアウイルスは細胞質DNAウイルスのポックス(pox)ウイルスファミリーの要素である。DNA組換えはポックスウイルスの複製中に生じ、DNAをウイルスゲノムに挿入するために用いられている。組換えワクシニアウイルス発現ベクターは広範囲で述べられている。これらのベクターは多様な外来遺伝子産物に対して細胞免疫性を与えることができ、幾つかの動物モデルにおいて感染性疾患を予防することができる。組換えワクシニアウイルスは発現ベクターはヒトの臨床試験にも同様に用いられている。Cooney等は35人の健康なHIV血清陰性男性にHIVのgp160エンベロープ遺伝子を発現する組換えワクシニアウイルスによって免疫感作した(Cooney,E.,The Lancet 337:567〜572,1991)。Graham等はgp160HIVエンブロープタンパク質を含有する組換えワクシニアウイルス又は対照ワクシニアウイルスのいずれかを受容するように36人の被験者を無作為に選別した(Graham,B.S.等,J.Infect.Dis.166:244〜252,1992)。組換えワクシニアウイルスを用いたフェイズI研究が転移性黒色腫を有する患者においてp97黒色腫抗原を発現する組換えウイルスを用いて開始されていて(Estin,C.D.等,Proc.Natl.Acad.Sci.85:1052〜1056,1988)、進行した胸部癌、肺癌又は結腸直腸癌を有する患者におけるヒト癌胎児性抗原を発現する組換えワクシニアウイルスを用いるフェイズI試験は丁度完了したところである。これらの試験において、ワクシニアウイルスは皮内乱刺法によって投与され、局所皮膚刺激状態、リンパ節症及び一過性インフルエンザ様症状を含めた副作用は最小であった。
【0013】
鶏痘及びカナリヤ痘(ポックス)はポックスウイルスファミリー(トリポックスウイルス遺伝子)の要素である。これらのウイルスはトリ細胞においてのみ複製することができ、ヒト細胞では複製することができない。これらは、宿主ゲノムに結合しない細胞質ウイルスであるが、真核細胞において多数の組換え遺伝子を発現することができる。
【0014】
狂犬病糖タンパク質を発現する組換えトリポックスウイルスはマウス、ネコ及びイヌを生狂犬病ウイルスチャレンジから保護するのに用いられている。鶏と七面鳥のインフルエンザHA抗原を発現する組換えトリポックスによる免疫感作は、インフルエンザウイルスによる致死的なチャレンジから保護した(Taylor等,Vaccine,6:504〜508,1988)。カナリヤポックス被験者は105.5感染単位までの用量を受容した(Cadoz M.,The Lancet,339:1429〜1432,1992)。NIAIDによって支持された最近の試験(プロトコール012A:HIV−1非感染成人における生組換えカナリヤポックスーgp160MN(ALVAC VCP125 HIV−1gp160MNO)のフェイズI安全性及び免疫原性試験)では、患者はHIVgp160遺伝子を含有する組換えカナリヤポックスウイルスを筋肉内注射によって105.5pfuまでの用量で受容して、殆ど又は全く中毒を示さなかった(個人的な通信,P.Fast.NIAID)。。
【0015】
このように、トリポックスウイルスは体液免疫と細胞免疫の両方を刺激することができ、高い抗体価(109pfu/ml)で経済的に製造されることができ、しかもヒト細胞を生産的に感染させることができず、それらの使用の安全性をかなり高めるので、トリポックスウイルスは免疫感作のために魅力的なビヒクルである。
【0016】
トリポックスウイルスの他のかなりの利点は、ワクシニアウイルスとの交差反応性が殆ど又は全くなく、したがって、予めワクチン接種されたヒトが鶏痘ウイルスタンパク質に対して既存の免疫反応性を有さないことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
発明の概要
本発明は病原性疾患及び癌の予防と治療のための組換えウイルスベクターワクチンの組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は抗原(単数又は複数)をコードする遺伝子を含む組換えウイルスベクターと、免疫刺激性分子(単数又は複数)をコードする遺伝子(単数又は複数)を含む組換えウイルスベクターとの組成物に関する。これらの遺伝子は1つの組換えベクターに又は別々のウイルスベクターに挿入されることができる。本発明の他の態様は、免疫刺激性遺伝子(単数又は複数)を含有する組換えウイルスによるin situ若しくはインビトロにおける疾患細胞の感染及び感染した細胞の宿主中への再導入によって、哺乳動物における疾患細胞(例えば、腫瘍細胞)に対する免疫応答を強化することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、疾患原因(病因)物質(disease causing agent)又は疾患状態からの抗原(単数又は複数)を発現する新規な組換えウィルスと、免疫刺激性分子(単数又は複数)を発現する組換えウィルスとの組成物であり、又は同じベクター組成物中に挿入された両分子をコードする遺伝子は、疾患を予防又は治療するためにT依存性抗原又は抗体に対する哺乳動物における免疫応答を誘出する及び/又はアップレギュレーティング(upregulating)することができる。本発明の組成物は細胞仲介免疫性並びに抗体のアップレギュレーティングに特に重要である。
【0019】
細胞仲介免疫性は癌及び病原性微生物、特に、ウィルスその他の細胞内微生物によって惹起される疾患に耐えるために非常に重要である。本発明の組成物は疾患状態の細胞からの抗原をコードする遺伝子をそのゲノムに又はその一部に組み入れた第1の組換えウィルスと、1以上の免疫刺激分子をコードする1以上の遺伝子または同じベクター中に挿入された両分子をコードする遺伝子を有する第2の組換えウイルスとを有する。両方の組換えウィルスによって感染された宿主細胞は、疾患原因物質からの両抗原(単数または複数)を発現し、免疫刺激性分子(単数又は複数)を発現する。この抗原は感染宿主細胞の細胞表面に発現されることができる。免疫刺激性分子は細胞表面に発現されるか又は宿主細胞によって実際に分泌されることができる。
【0020】
抗原と免疫刺激性分子の両方の発現は、特異的T細胞に対して必要なMHC制限ペプチドを与え、T細胞に適当なシグナルを与えて、抗原特異性T細胞の抗原認識、増殖又はクローンエキスパンジョン(clonal expansion)を助成する。総合的な結果は免疫系のアップレギュレーション(upregulation)である。好ましい実施態様では、免疫応答のアップレギュレーションは、疾患原因物質又は疾患原因物質によって感染した細胞を殺すか又はその成長を抑制することができる抗原特異性Tヘルパーリンパ球及び/又は細胞毒性リンパ球の増加である。
【0021】
1実施態様では、この組成物はウイルスゲノム又はその一部及び病原性微生物からの抗原をコードする核酸配列を含む組換えウイルスと、1種以上の免疫刺激性分子をコードする1種以上の核酸配列をコードする組換えウイルスとを含む。
【0022】
別の実施態様では、この組成物はウイルスゲノム又はその一部及び腫瘍関連抗原をコードする核酸配列を含む組換えウイルスと、1種以上の免疫刺激性分子をコードする1種以上の核酸配列をコードする組換えウイルスとを含む。
【0023】
1実施態様では、これらの組換えウイルスはサイトカイン(TNF−α、IL−6、GM−CSF及びIL−2)と同時刺激性及び補助的分子(B7−1、B7−2)とを単独で又は多様な組合せで発現するように構築されている。免疫刺激性分子とモデルTAAとをウイルス複製/感染の部位(いずれにせよ、TAA産生部位)で同時に産生することは特異的エフェクターの発生を増強する。これらの特異的免疫刺激性分子に依存して、種々な機構が免疫原性強化:ヘルプシグナル(IL−2)の増強、プロフェッショナルAPC(GM−CSF)の補充、CTL頻度(IL−2)の増加、抗原プロセッシング(processing)経路及びMHC発現(IFNγ及びTNFα)への影響等の原因になると考えられる。少なくとも1種の免疫刺激性分子と一緒のモデル抗原の同時発現は動物モデルにおいて抗腫瘍効果を実証するために有効である。
【0024】
場合によっては、多価ワクチンを得るために問題の抗原を1種類より多く含む組換えウイルスを形成することが有利である。例えば、組換えウイルスはウイルスゲノム又はその一部と、GP120(HIVから)をコードする核酸配列と、Hep B表面抗原をコードする核酸配列とを含むことができる。
【0025】
1実施態様では、この組成物はワクシニアウイルスゲノム又はその一部と、CEAをコードする核酸配列とを含む組換えウイルスと、免疫刺激性分子、B7.1をコードする核酸配列を単独で又は免疫刺激性分子、B7.2をコードする核酸配列と組合せて含む組換えウイルス、又は腫瘍抗原の遺伝子と免疫刺激性分子の両方を含有する組換えウイルスとを含む。
【0026】
本発明はまた、ウイルスゲノム又はその一部と、1種以上のB7分子をコードする1種以上の核酸配列とを含む組換えウイルス、好ましくはB7−1及び/又はB7−2を発現する組換えワクシニアウイルスをも含む。これらの組換えウイルスによる腫瘍細胞の迅速な感染は、ワクシニアがこれらのタンパク質を確実に発現することができ、機能的な分子であることを実証する。これらの組換え分子を発現する弱免疫原性シンゲニック(syngeneic)腫瘍は免疫適格性宿主によって拒絶される。
【0027】
特定の実施態様では、組換えウイルスはB7.1を含有する組換えワクシニアウイルスと、B7.2を含有する組換えワクシニアウイルスである(それぞれ、rV−B7−1とrV−B7−2と名付けられる)。
【0028】
1実施態様では、この組成物はrV−B7−1および/またはrV−B7−2とをrV−CEAと組み合わせて含む。B87分子は、非限定的に、B7−1、B7−2等と、これらの類似体を包含する。B7遺伝子は非限定的に、好ましくはネズミ又はヒト供給源から、哺乳動物組織、ゲノムライブラリー又はcDNAライブラリーを含めた、哺乳動物供給源からクローン化されることができる。
【0029】
ウイルスベクター
本発明に使用可能であるウイルスは、ゲノムの一部が欠失して、ウイルスの伝染力を損なわずに、新しい遺伝子を導入することができるようなウイルスである。本発明のウイルスベクターは非病原性ウイルスである。1実施態様では、ウイルスベクターは哺乳動物の特定の細胞タイプに対する向性を有する。他の実施態様では、本発明のウイルスベクターは例えば樹枝状細胞及びマクロファージのようなプロフェッショナル抗原提示細胞を感染させることができる。本発明のさらに他の実施態様では、ウイルスベクターは哺乳動物の任意の細胞を感染させることができる。ウイルスベクターは腫瘍細胞をも感染させることができる。
【0030】
本発明のウイルスは非限定的に例えばワクシニアウイルス、鶏痘ウイルス、非常に弱められたワクシニアウイルス(MVA)、アデノウイルス、バキュロウイルス等を包含する。
【0031】
ワクシニアウイルスゲノムは技術上周知である。これはHINDF13L領域と、TK領域と、HA領域とから成る。組換えワクシニアウイルスは外因性遺伝子産物の発現のために外因性遺伝子を組み込むために当該技術分野で用いられている(Perkus等,Science,229:981〜984,1985;Kaufman等,Int.J.Cancer,48:900〜907,1991;Moss,Science,252:1662,1991)。
【0032】
疾患状態又は疾患原因物質の抗原をコードする遺伝子をHIND F13L領域に組み入れるか、又はこの代わりに、組換えワクシニアウイルスベクターのTK領域又はワクシニアウイルスゲノムの非本質的領域に組み入れることができる。同様に、免疫刺激性分子をコードする遺伝子をHIND F13L領域に又は組換えワクシニアウイルスベクターのTK領域に組み入れることができる。
【0033】
SutterとMoss(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,89:10847〜10851,1992)とSutter等(Virology,1994)とは、本発明にウイルスベクターとして使用可能である、非複製組換えAnkaraウイルス(MVA、修飾ワクシニアAnkara)の構成とベクターとしての使用とを開示している。
【0034】
BaxyとPaoletti(Vaccine,10:8〜9,1992)は本発明にウイルスベクターとして使用可能である、カナリヤポックスウイルス、鶏痘ウイルス及び他のトリ種を包含する非複製ポックスウイルスの構成とベクターとしての使用とを開示している。
【0035】
本発明における使用に適切な発現ベクターは、機能的に核酸配列に連結した少なくとも1種の発現制御要素を含む。この発現制御要素は核酸配列の発現を制御し、調節するためにベクターに挿入される。発現制御要素の例は、非限定的に、lac系、ファージラムダのオペレーター領域とプロモーター領域、酵母プロモーター及びポリオーマ、アデノウイルス、レトロウイルス又はSV40に由来するプロモーターを包含する。付加的な好ましい又は必要とされる機能的要素の例は、非限定的に、リーダー配列、停止コドン、ポリアデニル化シグナル、及び宿主系の核酸配列の適当な転写とその後の翻訳のために必要な又は好ましい他の配列を包含する。必要な又は好ましい発現制御要素の適切な組合せが選択された宿主系に依存することは理解されるであろう。さらに、発現ベクターが宿主系の核酸配列含有発現ベクターの転移とその後の複製のために必要な付加的要素を含有すべきであることは当業者により理解されるであろう。このような要素の例は、非限定的に、複製起点と選択可能なマーカーを包含する。このようなベクターが慣用的な方法[“Current Protocols in Molecular Biology”(John Wiley and Sons,ニューヨーク州,ニューヨーク)におけるAusubel等(1987)]を用いて容易に構築されるか又は商業的に入手可能であることは、当業者によって理解されるであろう。
【0036】
疾患原因物質
本発明の組み換えウイルスは、疾患原因物質によって惹起される疾患の治療と予防に有用である。各疾患原因物質又は疾患状態は、それと共に抗原又は抗原上の免疫優生エピトープを付随しており、これらは免疫認識と、宿主における疾患誘発因子又は疾患状態の究極的な除去と制御とに非常に重要であり、時には当該技術分野で保護抗原と呼ばれる。宿主免疫系は、関連する疾患原因物質に対する体液及び/又は細胞の免疫応答を開始させるために、抗原又は抗原上の免疫優生エピトープと接触しなければならない。
【0037】
本発明の組成物は、1種以上の単離抗原又は免疫優生エピトープをコードする1種以上の核酸配列を含む本発明の組換えウイルスと、1種以上の免疫刺激性分子を含む第2の組換えウイルスとを含む。
【0038】
このような疾患誘発因子は、非限定的に、癌及び病原性微生物を包含する。本発明の組換えウイルスを用いて治療することができる癌は、非限定的に、原発性又は転移性黒色腫、胸腺腫、リンパ腫、肉腫、肺癌、肝臓癌、非ホドキンス(Hodgkins)リンパ腫、ホドキンス(Hodgkins)リンパ腫、白血病、子宮癌、例えば胸部癌、前立腺癌、卵巣癌、膵臓癌等のような腺癌を包含する。
【0039】
上記癌は本出願に述べた方法によって評価し、又は治療することができる。癌の場合には、癌に関連した抗原をコードする遺伝子を組換えウイルスゲノム又はその一部に、1種以上の免疫刺激性分子をコードする遺伝子と共に組み入れる。或いは、癌に関連した抗原をコードする遺伝子と、1種以上の免疫刺激性分子をコードする遺伝子とを別々の組換えウイルス中に組み入れる。癌に関連した抗原は癌細胞の表面に発現されるか又は内部抗原であることもできる。1実施態様では、癌に関連した抗原は腫瘍関連抗原(TAA)又はその一部である。本発明に使用可能であるTAAの例は、非限定的に、黒色腫TAAを包含し、これは非限定的にMART−1(Kawakami等,J.Exp.Med.180:347〜352,1994)、MAGE−1、MAGE−3、GP−100(Kawakami等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:6458〜6462,1994)、CEA及びチロシナーゼ(Brichard等,J.Exd.Med.178:489,1993)を包含する。
【0040】
他の実施態様では、TAAはMUC−1、MUC−2、点突然変異ras癌遺伝子、点突然変異p53癌遺伝子(膵臓癌)、CA−125(卵巣癌)、PSA(前立腺癌)、c−erb/B2(胸部癌)等(Boon等,Ann.Rev.Immunol.12:337,1994)である。
【0041】
本発明は、上でリストされたTAAをコードする遺伝子に決して限定されない。例えば米国特許第4,514,506号に記載される公知の方法により、他のTAAを同定、単離、およびクローン化してよい。
【0042】
病原性微生物である疾患原因(病因)物質の抗原をコードする遺伝子は、ウイルス、例えばHIV(GP−120,p17,GP−160抗原)、インフルエンザ(NP,HA抗原)、単純ヘルペス(HSVdD抗原)、ヒトパピローマウィルス、ウマ脳炎ウイルス、肝炎(HepB表面抗原)等を含む。病原性細菌は、クラミジア(Chlamydia)、ミコバクテリア(Mycobacteria)、レジュネラ(Legioniella)等を含むが限定されない。病原性原生動物(protozoans)は、マラリア、バベシア、住血吸虫(Schistosomiasis)等を含むが限定されない。病原性酵母はアスペルギルス(Aspergillus)、侵入性カンジダ(Candida)等を含むが限定されない。好ましい態様において、病原性微生物は細胞内生物である。
【0043】
免疫刺激分子:共同刺激/アクセサリー分子およびサイトカイン
共同刺激/アクセサリー分子からの遺伝子および/またはサイトカインをコードする遺伝子を組換え体ウイルスのゲノムに挿入する。共同刺激分子の例は、B7−1,B7−2,ICAM−1,LFA−3,CD72等を含むが限定されない。本発明により包含されるサイトカインの例は、IL−2,GM−CSF,TNFα,IFNγ,IL−12,RANTES等を含むが限定されない。
【0044】
IL−2コンストラクト
本発明のIL−2遺伝子は、タニグチ(Taniguchi)ら(Nature302:305,1983)により開示されるとおりにして作成した。
【0045】
B7コンストラクト
B7ファミリー(例えばB7.1,B7.2およびたぶんB7.3)の共同刺激性分子は、より最近に発見された重要なグループの分子を意味する。B7.1およびB7.2は共にIg遺伝子スーパーファミリーの一員である。これらの分子は、マクロファージ、樹状細胞、単球、即ち抗原提示細胞(APC)上に存在する。白血球が抗原のみと遭遇して、B7.1による共同刺激を伴えば、アネルギーまたはアポトーシス(プログラムされた細胞死)のいずれかを伴い応答し;共同刺激シグナルが提供されたなら、標的抗原に対するクローンの増殖と共に応答する。与えられた抗原に対する免疫応答の顕著な増大は共同刺激なしでは生じない(ジュン(June)ら、Immunology Today 15:321−331,1994;チェン(Chen)ら、Immunology Today 14:483−486;タウンゼンド(Townsend)ら、Science 259:368−370)。フリーマン(Freeman)ら(J.Immunol.143:2714−2722,1989)は、B7.1遺伝子のクローニングおよび配列決定を報告する。アズマ(Azuma)ら(Nature 366:76−79,1993)は、B7.2遺伝子のクローニングおよび配列決定を報告する。
【0046】
ひとつの態様において、B7.1遺伝子またはB7.2遺伝子をワクシニアウイルスに挿入した。もうひとつの態様において、CEA遺伝子およびIL−2遺伝子を共に単一のワクシニアウイルスに挿入した。rV−CEA/nIL−2(ATCC名称VR2480),rV−CEA−T108(ATCC名称No.VR2481),rV−mB7−2(ATCC名称VR2482);およびrV−mB7−1(ATCC名称VR2483)は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC),12301パークロウンドライブ、ロックビル、メリーランドに1994年10月3日ブダペスト条約の条件下で寄託した。
【0047】
本発明は、本明細書に開示された疾患原因(病因)物質により引き起こされた疾患または疾患状態を治療または予防するための方法も包含する。
治療法において、本発明の組換えウイルスまたは組換えウイルスの組成物の投与は、「予防」または「治療」目的のいずれかでありうる。予防を提供する場合、本発明の組換えウイルスまたは本発明の組換えウイルスの組成物は、あらゆる兆候に先立って提供される。組換えウイルスまたは組換えウイルス組成物の予防投与は続いて起こるあらゆる感染または疾患を予防または改良するように作用する。治療を提供する場合、組換えウイルスまたは1より多くの組換えウイルスの組成物を感染または疾患の兆候の開始時(または直後)に提供する。即ち、本発明は疾患原因因子への予想される暴露または疾患状態前、または感染または疾患の開始後のいずれかに提供されうる。
【0048】
腫瘍特異的抗原の遺伝的定義は癌治療のための標的抗原特異的ワクチンの開発につながる。免疫刺激性分子を含む組換えウイルスと組み合わせてウイルスゲノム中に腫瘍抗原遺伝子を挿入することは、癌の進行の危険が増大した患者における予防(予防免疫)、最初の外科手術後の疾患再発の予防(抗−転移予防接種)に関して、またはインビボにおいてCTLの数を増やして、即ち拡散性腫瘍の根絶に関する効果を改良するための(確立された疾患の治療)道具として、特定の免疫応答を引き出すための強力なシステムである。最終的に、本発明の組換えウイルスまたは組成物は、腫瘍運搬物に戻される前にエクスビボにおいて高められた患者の免疫応答を引き出すことができる(養子免疫治療)。
【0049】
接種物に関する単語「ユニット投薬量」は、哺乳動物のための単位投薬量として適切な物理的に別個のユニットを意味し、各ユニットは必要な希釈剤との関連において所望の免疫効果を生ずるように計算された予め決定された量の組換えウイルスを含む。本発明の接種物の新規なユニット投薬量に関する詳細は、組換えウイルスの独特な特徴および達成される特定の免疫効果により指令され、そしてそれに依存する。
【0050】
接種物は、典型的には許容される(受容可能な)希釈剤、例えば、塩水、リン酸緩衝食塩水または他の生理学上許容される希釈剤等中の溶液として調製されて、水性薬剤組成物を形成する。
【0051】
接種のルートは、静脈(I.V.)、筋肉内(I.M.)、皮下(S.C.)、内皮(I.D.)等でありえ、疾患原因物質に対する保守的免疫応答を引き出す。投薬量は少なくとも一回投与される。次の投薬量は示唆されたとおりに投与される。
【0052】
本発明の組換えウイルスの哺乳動物、好ましくはヒトへの提供において、投与された組換えウイルスの投薬量は、哺乳動物の年齢、体重、身長、性別、通常の医学的条件、以前の病歴、疾患の進行、腫瘍の重さ等の因子に依存して変更される。
【0053】
通常、約105から約1010プラーク形成ユニット/mg哺乳動物の範囲の投薬量で組成物中の各組換えウイルスを受容者に提供するのが望ましいが、より低いかまたは高い投薬量を投与してよい。
【0054】
組換えウイルスベクターの組成物は、癌例えば黒色腫(メラノーマ)のあらゆる兆候に先立つか、または癌例えば黒色腫(メラノーマ)に悩まされる哺乳動物における疾患の間接(mediate)退向に先立って、哺乳動物に導入されうる。哺乳動物に組成物を投与するための方法の例は、エクスビボにおける組換えウイルスへの細胞の暴露、または影響された組織への組成物の注射またはウイルスの皮下、S.C.,I.D.またはI.M.投与を含むが限定されない。別法として、組換えウイルスベクターまたは組換えウイルスベクターの組み合わせは、癌様病巣への直接の注射かまたは薬学上受容可能なキャリアー中での局所適用により局在投与してよい。投与されるひとつまたはそれ以上のTAAの核酸配列を運ぶ組換えウイルスベクターの量はウイルス粒子の力価に基づく。投与される免疫原の好ましい範囲は哺乳動物、好ましくはヒトあたり105から1010ウイルス粒子である。
【0055】
ひとつまたはそれ以上のTAAの核酸配列を運ぶ第1の組換えウイルスベクターとひとつまたはそれ以上の免疫刺激性分子の核酸配列を運ぶ第2の組換えウイルスベクターの組み合わせを用いる場合、哺乳動物は異なる比の第1および第2組換えウイルスベクターで免疫されてよい。一つの態様において、第1ベクターの第2ベクターに対する比は、約1:1、または約1:3、または約1:5である。第2ベクターに対する第1ベクターの最適な比は本明細書に記載される方法を用いて力価測定される。
【0056】
免疫後、ワクチンの効果は特異的溶解活性または特異的サイトカイン生成によるかまたは腫瘍退向により評価されるとおり、抗原を認識する抗体または免疫細胞の生成により評価されうる。当業者であれば、上記パラメーターを評価するための慣用的方法を知るはずである。免疫される哺乳動物が既に癌または転移性癌に罹患しているなら、他の治療処置と共にワクチンを投与することができる。
【0057】
一つの処置法において、自己の細胞毒性白血球または腫瘍浸潤白血球を癌患者から得てよい。白血球を培養により成長させて、特異的抗原およびサイトカインの存在下で培養することにより抗原特異的白血球を増やす。次に、抗原特異的白血球を自己輸血により患者に戻す。
【0058】
本発明は、組換えウイルス中の免疫刺激性分子例えばB7と共に、組換えウイルス中の効果的な量の抗原を哺乳動物に投与することにより、抗原特異的T−細胞応答を高めるための方法を包含する。この免疫アプローチは、B7共同刺激性分子により共同刺激と共に抗原により生じた免疫応答を増加させるかまたは増大する。抗原を含有する組換えウイルスおよびB7を含有する組換えウイルスの投与法は、増加した抗原特異的白血球増殖、高められた細胞溶解活性およびいずれかの組み換えウイルス単独のみの使用との比較の上での抗原に対する免疫性の延長をもたらす。抗原特異的T−細胞応答を増大させる方法のひとつの態様において、哺乳動物、好ましくはヒトをrV−TAAおよびrV−B7で免疫する。rV−B7に対するrV−TAAの比は、抗原特異的T−細胞応答を最大にするために変更されうる。rV−TAAのrV−B7に対する比は1:1、2:1、3:1、4:1等を含むが限定されない。治療の効果はインビトロおよび/またはインビボにおいて抗原特異的白血球増殖、抗原特異的細胞溶解活性、腫瘍退向等により監視されうる。
【0059】
任意の量のrV−B7の抗原への添加は比にかかわらず改良された細胞免疫をもたらす。しかしながら、rV−B7に対する抗原の最適な比は興味のある抗原各々に関して決定される。ひとつの態様において、rV−B7にrV−CEAを用いた場合、抗原特異的白血球増殖性、細胞溶解性かつ腫瘍退向性のCEA特異的応答において最大の増加をもたらす比は3:1であった。
【0060】
抗原特異的T−細胞応答を増大させる方法はあらゆる抗原に関して使用される。特に興味があるのは、腫瘍関連抗原および感染性因子の抗原である。抗原特異的T−細胞応答を増大させるためのひとつの方法において、rV−CEAおよびrV−ヒトB7−1を最適比でCEA陽性癌腫(カルシノーマ)を有する患者に投与して、CEA陽性癌腫(カルシノーマ)の軽減または排除をもたらすCEA特異的T−細胞応答を刺激する。抗原特異的T−細胞応答を増大させるためのもうひとつの方法において、rV−gp120またはその一部およびrV−ヒトB7−1を、gp120陽性細胞の減少または排除をもたらすgp120特異的T−細胞応答を刺激する比で、gp120陽性細胞を有する患者に投与する。
【0061】
本発明は、組み合わせ治療も包含する。組み合わせ治療によりとは、ひとつまたはそれ以上の疾患因子に関連したひとつまたはそれ以上の抗原をコードするひとつまたはそれ以上の遺伝子を含む組換えウイルスおよびひとつまたはそれ以上の免疫刺激性分子をコードするひとつまたはそれ以上の遺伝子を含む組換えウイルスまたは同じベクターに挿入された両タイプの遺伝子の組成物を、他の外因性免疫変調剤または免疫刺激性分子、化学療法薬剤、抗生物質、抗真菌薬、抗ウイルス薬等の単独またはその組み合わせと共に患者に投与することを意味する。他の外因的に付加される因子の例は、外因性IL−2、IL−6、インターフェロン、腫瘍壊死因子、シクロホスファミドおよびシスプラチナム、ガンシクロビア、アンフォテリシンB等を含む。
【0062】
本発明の他の側面は、in situまたはインビトロにおいて癌細胞が組換えウイルスまたは組換えウイルスの組み合わせに感染した場合の癌の治療法である。免疫刺激性分子と共に腫瘍関連抗原を発現する腫瘍細胞を、癌罹患哺乳動物において腫瘍の減少または除去をもたらすのに効果的な量で哺乳動物に投与する。
本発明は、さらに、本発明の組換えウイルスを用いた免疫により引き出されたひとつまたは複数の抗体を含む。抗体は、興味のある抗原に特異性を有し、そして反応または結合する。本発明のこの態様において、抗体はモノクローナルまたはポリクローナル起源である。
【0063】
例示される抗体分子は、完全なイムノグロブリン分子、実質的に完全なイムノグロブリン分子、またはF(ab),F(ab’);F(ab’)2およびF(v)として当業界において知られているイムノグロブリン分子の部分を含む、抗原結合部位を含むイムノグロブリン分子の部分である。ポリクローナルまたはモノクローナル抗体は、当業界において公知の方法により生成される(コーラーとミルスタイン(Kohler and Milstein)(1975)Nature256,495−497;キャンベル(Campbell)「モノクローナル抗体技術、げっ歯類およびヒトのハイブリドーマの生成および特徴」、バードン(Burdon)ら編(1985)「生化学および分子生物学における実験室技術」、13巻、Elsevier Science Publishers,アムステルダム)。抗体または抗原結合断片は遺伝子工学により生成してもよい。大腸菌における重鎖および軽鎖両者の発現技術はPCT特許出願:国際公開番号WO901443、WO901443およびWO9014424およびヒューズ(Huse)ら(1989)Science246:1275−1281の主題である。
【0064】
一つの態様において、本発明の抗体はイムノアッセイに使用することにより生物学上のサンプル中の興味ある新規抗原を検出する。
一つの態様において、CEA発現組換えワクシニアウィルスおよびB7.1発現組換えワクシニアウイルスを含む組成物を用いた免疫により生じた本発明のCEA抗体を使用することにより、免疫細胞化学を用いてCEA発現癌に罹患した哺乳動物の組織検体からのCEA抗原の存在を評価する。疾患組織中のCEA抗原の描写のそのような評価を用いることにより、疾患に罹患した哺乳動物における疾患の進行または免疫治療の効果を予測することができる。免疫組織化学に関する慣用的方法は、ハローとレーン(Harlow and Lane)(編)(1988)「抗体実験室マニュアル」中、Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,ニューヨーク;アウスベル(Ausbel)ら(編)(1987)、Current Protocols In Molecular Biology,John Wiley and Sons(ニューヨーク、ニューヨーク)に記載されている。
【0065】
他の態様において、本発明の抗体は免疫治療に用いられる。本発明の抗体は受動免疫治療に用いられる。
抗体または抗原結合断片を受容哺乳動物好ましくはヒトに提供する際、投与された抗体または抗原結合断片の投薬量は、哺乳動物の年齢、体重、身長、性別、通常の医学的条件、以前の医学的条件等の因子に依存して変更される。
【0066】
本発明の抗体または抗原結合断片は、疾患または感染の重度、範囲または期間を予防し、減らし、または弱めるのに十分な量で受容者に提供されることを意図する。
抗イディオタイプ抗体は、通常は免疫応答の途中にでき、そしてその抗イディオタイプ抗体の一部分は、元の免疫応答を誘発したエピトープに似ている。本発明においては、その結合部位が疾患状態の抗原を反映している抗体のイムノグロブリン遺伝子又はその一部分が、ウイルスゲノムのゲノム又はその一部分の中に、単独で又は免疫刺激性分子の遺伝子若しくはその一部分と組み合わさって組み込まれているので、その結果できた組換えウイルスは、その抗原への細胞性及び体液性免疫応答を引き出すことができる。
【実施例】
【0067】
実施例1
rV−B7−1及びrV−B7−2の構築及び構築体の特性決定
材料及び方法
組換えワクシニアウイルス
マウスB7−1の全縁オープンリーディングフレームをコードする1,125bpDNA断片及びマウスB7−2の全縁オープンリーディングフレームをコードする942bpDNA断片を、逆転写酵素PCR(Geneamp RNA PCR Kit,Perkin Elmer,Norwalk,CT)により、マウスB細胞系,A20(TIB208,ATCC,Rockville,MD)から抽出した全RNAから増幅した。それらB7挿入物の配列は、公表された配列と同一であることが分かった(Freeman,G.J.ら,J.Exp.Med.174:625−631,1991;Freeman,G.J.ら,Science262:813−960,1993)。それらDNA断片を、組換えウイルスの選択のための大腸菌LacZ遺伝子を含有する、Theion Biologics(Cambridge,MA)により提供されたワクシニアウイルス運搬ベクターPT116のKpn−1/Xho−1制限酵素部位に別々に連結した。組換えウイルスを先に記載された通りに誘導した(Kaufman,H.ら,Int.J.ofCancer 48:900−907,1991)。組換えクローンを5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシダーゼ(X−Gal)の存在下でのBSC−1細胞(CC126,ATCC)での増殖により選択した。適切な青色の組換えクローンを5ラウンドのプラーク精製により精製してより高い力価の溶解産物の中に増殖させた。接種用のウイルスをHeLa細胞の攪拌培養液中で増殖させ、遠心分離により直接沈澱させ、そして20%〜40%ショ糖勾配で精製した(Moss,B.Current Protocols in Molecular Biology 2.16.15.1−16.18.9,1993)。
【0068】
組換えウイルスの特性決定
DNA組換えのサザーン分析
組換えワクシニアゲノムを、ウイルスDNA抽出、HindIIIでの制限エンドヌクレアーゼ消化、及びサザーンブロッティングにより、先に記載された通りに分析した(Kaufman,H.ら,Int.J.Cancer48:900−907,1991)。
【0069】
タンパク質発現のウェスタン分析
集密BSC−1細胞に野生型ワクシニアウイルス又はマウスB7−1若しくはB7−2遺伝子を含有する組換えワクシニアウイルス(V−Wyeth、rV−B7−1又はrV−B7−2と命名した)のいずれかを10のMOIで4時間感染させた。タンパク質を抽出して先に記載された通りに分析した(Kantor,J.ら,J.Nat’l Cancer Inst.84:1084−1091,1992)。ウェスタンブロットを抗B7−1(精製ラット抗マウスB7/BB1)又は抗B7−2(ラット抗マウスB7−2(GL−1))モノクローナル抗体(Pharmingen,SanDiego,CA)と共にインキュベートしてから、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP,Kirkegaard&Perry Laboratories,Gaithersburg,MD)と結合したヤギ抗ラットと共にインキュベートし、そしてメーカーの使用説明書に従って発色させることにより、組換えB7−1又はB7−2タンパク質を検出した。
【0070】
タンパク質発現の蛍光分析
集密BSC−1細胞にV−Wyeth、rV−B7−1又はrV−B7−2のいずれかを10MOIで2時間感染させた。感染後3〜6時間で細胞を採取して精製ラット抗マウスB7/BB1−FITC又はラット抗マウスB7−2(GL−1)−FITCモノクローナル抗体で免疫染色した。細胞をフローサイトメトリ(FACSCAN,Becton Dickinson,San Jose,CA)により分析した。
【0071】
in vitro実験
MC38マウス間代性(clonic)アデノカルチノーマ細胞系(Fox,B.A.ら,J.Biol.Response Modifiers9:499−511,1990)をDr.Steve Rosenberg(National Cancer Institute,Bethesda,MD)の研究室により供与された。MC38細胞にV−Wyeth、rV−B7−1又はrV−B7−2のいずれかを0.25MOIで1時間感染させ、洗浄し、そしてHBSS中に3×106細胞/mlの濃度で懸濁させた。メスC57BL/6マウスをTaconic Farms(Germantown,NY)から得た。6〜8週齢のマウスに100μl(3×105感染細胞)の皮下注射を右側腹部に行った。対照マウスには、未感染MC38細胞を注射した。少なくとも40日間腫瘍ができなかったマウスに3×105未感染細胞で反対の側腹部を誘発した。平行実験では、C57BL/6マウスをγ線照射(500rad)して、24時間後に未感染MC38細胞、又は0.25MOI V−Wyeth、rV−B7−1若しくはrV−B7−2のいずれかを感染させた細胞を注射した。腫瘍をハサミ尺により2次元で測定して、先に記載された通りにその体積を計算した(Kantor,J.ら,J.Nat’l Cancer Instit.84:1084−1091,1992)。
【0072】
実施例2
組換えウイルスの発生及び特性決定
マウスB7−1及びB7−2のオープンリーディングフレームをコードするcDNA断片を、B7−1特異性オリゴヌクレオチドプライマー5’GGTACCATGGCTTGCAATTGTCAGTTG3’(配列番号:1)、5’CTCGAGCTAAAGGAAGACGGTCTG3’(配列番号:2)、及びB7−2特異性プライマー5’GGTACCGAAGCACCCACGATGGAC3’(配列番号:3)、5’CTCGAGTCACTCTGCATTTGGTTTTGC3’(配列番号:4)を用いる逆転写酵素PCRにより得て、ワクシニアウイルス運搬ベクターPT116内に連結した。このベクターは、挿入した遺伝子産物の合成を誘発するために多クローニング部位の上流に強力なワクシニアウイルス即時初期プロモーター(P40と命名した)を含有する。B7DNA断片の連結及び方向、並びにプロモーター位置をPCR及び配列決定法により確かめた。このキメラベクター構築体をワクシニアゲノミックHindIIIM部位内に先に報告された通りの相同組換えにより挿入し(Kaufman,H.ら,Int.J.Cancer 48:900−907,1991)、そしてプローブとしての32P放射標識B7−1又はB7−2DNAでのサザーン分析により確認した(データは示していない)。ワクシニアウイルスクローン内のB7−1及びB7−2の全縁cDNA配列は、公表された配列と同一であることが分かった(Freeman,G.J.ら,J.Exp,Med.174:625−631,1991;Freeman,G.J.ら,Science 262:813−960,1993)。
【0073】
組換えタンパク質の発現をrV−B7−1又はrV−B7−2感染BSC−1細胞からのタンパク質抽出物のウェスタン分析により確認した。これら細胞は、組換えワクシニア産物の評価用に定型的に用いられる(Moss,B.Current Protocols in Molecular Biology 2.16.15.1−16.18.9,1993)。ラット抗マウスモノクローナル抗体B7−BB1とのrV−B7−1感染細胞からのタンパク質抽出物ブロットのインキュベーションで、幅広い50〜90kDバンドが現れた。同じく、ラット抗マウスモノクローナル抗体B7−2(GL−1)とのrV−B7−2感染細胞からのタンパク質抽出物ブロットのインキュベーションで、65〜100kDの範囲のバンドが現れた(データは示していない)。これは、N−結合グリコシル化の結果としての雑多な糖タンパク質として現れるこれら分子の見掛けの分子量を示す報告と一致している(Schwartz,R.H.Cell 71:1065−1068,1992;Freeman,G.J.ら,J.Exp.Med.174:625−631,1991;Freeman,G.J.ら,Science 262:813−960,1993)。未感染又はV−Wyeth感染細胞は、B7−1及びB7−2の両方の発現について陰性であった。
【0074】
B7−1又はB7−2組換えタンパク質の細胞表面発現をフローサイトメトリにより検査した。図1Aは、未感染BSC−1細胞(図1A)がB−7(BB1)又はB7−2(GL−1)抗体のいずれとも反応しないことを示している(98.5%の細胞が5.22の平均蛍光で陰性である)。同じく、野生型ワクシニアを感染させた細胞(V−Wyeth、図1B)も、これら2種の抗体のいずれとも反応しなかった(97.7%の細胞が5.43の平均蛍光で陰性である)。rV−B7−1を感染させたBSC−1細胞(図1C)は、B7/BB1抗体と強く反応する(97.5%の細胞が2513.68の平均蛍光で陽性である)。rV−B7−2を感染させた細胞(図1D)は、B7−2(GL−1)抗体と強く反応する(98.8%の細胞が1802.30の平均蛍光で陽性である)。抗体B7/BB1とrV−B7−2を感染させた細胞との間には反応性がなく、抗体GL−lとrV−B7−1を感染させた細胞との反応性もなかった。かくして、これら検討は、組換えワクシニアウイルスが感染後3〜6時間で細胞表面上でB7−1及びB7−2分子を発現できることを証明している。感染細胞の溶解は、通常は24〜48時間の間は起こらない(Moss,B、Current Protocols in Molecular Biology 2.16.15.1−16.18.9,1993)。
【0075】
同系のC57BL/6マウス内に3×105MC38マウスアデノカルチノーマ細胞を皮下注射すると、定型的には、7〜14日以内に触知可能な腫瘍が生じた後、急速に増殖してついには致命的となることが以前に示されている(Kantor,J.ら,J.Nat’l Cancer Inst.84:1084−1091,1992)。これら腫瘍細胞も、B7の発現について陰性であることが分かっている(Chen,L.ら,J.Exp.Med.179:523−532,1992)。B7の機能的発現についてこれら組換えワクシニア構築体を試験するために、MC38腫瘍細胞の増殖を、rV−B7−1、rV−B7−2、及び野生型V−Wyethを感染させたMC38の増殖と比較した(図2A〜2D)。未感染MC38細胞の注射で(図2A)、全てのマウスに7日以内に触知可能な腫瘍が生じた。腫瘍増殖は、この実験の全期間を通して進行性であった。あらゆる腫瘍の測定値(長さ又は幅)が20mmを超えたときに、全実験において動物を殺した。0.25MOIV−Wyethを1時間感染させたMC38細胞の注射(図2B)で、触知可能な腫瘍の発生に僅かな遅れがあり、そして全ての動物は、ついには腫瘍について陽性となった(図2Bにおける一匹の動物で腹腔内腫瘍が増殖したが測定できなかった)。全てのグループについて0.25のMOIを選んだ。というのは、それよりも大きな量で感染させると、より高いレベルの非特異的細胞死が起こって腫瘍の増殖が遅くなるからである。0.25MOIのrV−B7−1(図2C)又はrV−B7−2(図2D)を感染させたMC38細胞の注射では、どのマウスにも腫瘍が誘発されず、この実験のあいだ腫瘍がないままであった。
【0076】
このMOIを感染させた細胞の組換えタンパク質発現をフローサイトメトリにより確認した。0.25MOI組換えウイルスを感染させた後は、約35%のMC38細胞が、組換えB7−1又はB7−2のいずれかについて平均蛍光が417〜585の陽性であった。未感染であるか又は0.25MOI Wyethを感染させたMC38細胞は、B7−1又はB7−2の発現について陰性のままであった。これらMC38細胞は、感染前及び感染後の両方でI型MHC抗原の発現について陽性であった。これらいずれの動物においても40日間の観察パネルのあいだ目立った毒作用は認められなかった。動物の体重は、正常な相応週齢マウスの標準偏差の範囲内であった。これら実験を更に3回繰り返したが同様な結果であった。
【0077】
腫瘍拒絶が無傷免疫系に依存性であるか否かを確認するために検討を行った。これら検討において、マウスを照射により免疫抑制(実施例1の材料及び方法を参照のこと)して感染MC38腫瘍細胞を投与した(表1)。Wyeth、rV−B7−1又はrV−B7−2を感染させた照射マウスにおける腫瘍は、腫瘍移植後14日で測定可能となり、腫瘍体積の差は認められなかった。これは、組換えB7分子に応答するには無傷免疫系が必要であることを示すものである。
【0078】
【表1】
【0079】
免疫無防備状態動物におけるMC38腫瘍の増殖。マウスをγ線照射して0.25MOIのWyeth、rV−B7−1、又はrV−B7−2のいずれかを1時間感染させたMC38細胞を注射した。
【0080】
B7遺伝子の導入のためにレトロウイルスベクターを用いる系においては、マウスの一方の側腹部へのB7発現性腫瘍細胞の投与及び反対の側腹部へのB7陰性腫瘍細胞の同時投与は、両方の腫瘍集団の増殖を阻止するであろうということが分かっている(Chen,L,ら,Cell71:1093−1102,1992)。他の検討では、B7陰性細胞への抗腫瘍活性は、B7陰性一次腫瘍の皮下投与後10日のB7発現性腫瘍細胞の多数回腹腔内注射により確認された(Li,Y.ら,J.Immunol.153:421−428,1994)。ここに記載した検討は、腫瘍細胞への長期持続性免疫がrV−B7感染腫瘍細胞での感作によって誘発されるか否かを確認するためにデザインされたものである。rV−B7−1又はrV−B7−2を感染させたMC38細胞を投与されたマウスは、少なくとも40日間は腫瘍がないままであった(図2C及び2D)ので、次にその反対の側腹部を3×105未感染(B7陰性)MC38細胞で誘発した(図3B及び3C)。未感作マウスにこれらMC38細胞を注射すると(図3A)、全ての動物に7日以内に触知可能な腫瘍形成があり、この実験の全期間を通して進行性の腫瘍増殖があった。腫瘍移植後21日におけるこの対照グループの平均腫瘍体積は、2436±858mm3であった。rV−B7−1を感染させた腫瘍を40日前に投与しておいたマウスも、未感染MC38細胞で誘発した(図3B)。これら腫瘍の形成は遅れたため、増殖速度は平均腫瘍体積が21日目で372±106mm3と実質的に低下した。同じく、rV−B7−2感染腫瘍を投与しておいたマウスは、MC38細胞で誘発すると、腫瘍細胞の増殖の実質的な低下を示した。このグループにおける平均腫瘍体積は、21日目で197±161mm3であった。かくして、腫瘍発現性B7−1又はB7−2を予め投与された動物においては、組換えワクシニアウイルス感染により腫瘍増殖が>90%低下した。これは、腫瘍誘発の40日前に一回感作しただけであるという事実、及びマウスを比較的大きな腫瘍量で誘発したという事実からみて興味深かった。これは、MC38腫瘍細胞上の拒絶抗原に対する記憶免疫応答がrV−B7感染腫瘍細胞の注射によって誘発されていることを暗に示す。上記処理方法に手を加えて、B7発現性腫瘍細胞での多数回接種、及びIL−2のようなサイトカインを含む免疫刺激性分子でのT細胞活性化の増大を含めてもよい。
【0081】
これまでの研究では、PLNSX、PLNCX又はPLXSNのようなレトロウイルスベクターでの形質導入による腫瘍細胞内へのB7の導入で、それら腫瘍に免疫原性を付与できることが証明されている(Chen,L.ら,J.Exp.Med.179:523−532,1992;Dohring,C.ら,Int.J.Cancer 57:754−759,1994)。これらB7導入の方法は、レトロウイルスベクターの比較的低い感染効率並びに薬剤選択及びB7陽性腫瘍細胞の拡大に要求される必然的な長い時間のために、臨床的応用に潜在的な限界を有している。代わりとして、ここに報告した検討は、同時刺激性分子B7−1及びB7−2の遺伝子を発現する組換えワクシニアウイルスの発生を証明した。これら組換えワクシニア構築体は、腫瘍細胞を速やかに感染し(1〜4時間)そして高い効率で組換えタンパク質を発現する(97%を超える細胞、それぞれ図1C及びID)。感染された細胞は、確実に組換えタンパク質を合成し、抗腫瘍作用をもたらすことが分かった。かくして、これら検討は、ワクシニアウイルスベクター内へのB7遺伝子の挿入のための実験系にデータを提示するものであり、潜在的な免疫療法的応用についての暗示を有している。
【0082】
実施例3
腫瘍関連抗原を発現する組換えワクシニアウイルスとB7共刺激分子を発現する組換えワクシニアウイルスを混合することによる、ヒト腫瘍関連抗原に対するT細胞免疫応答の増強の誘導
本発明は、rV−B7をヒト腫瘍関連抗原を発現する組換えワクシニアウイルスとともに含む組成物を含む。本発明の組成物は、宿主に共接種されると、ヒト腫瘍関連抗原に対する全身性T細胞免疫応答を増強する。
【0083】
今や、数種のヒト腫瘍関連抗原が同定されている。そのうちの一つはヒト癌胚抗原(CEA)であり、これは結腸直腸癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、および非小細胞肺癌を含む広範囲のヒトの癌に発現するものである。rV−CEAと呼ばれる組換えワクシニアCEA構築物をマウスおよびアカゲザルの双方に投与して、双方のモデル系においてCEAに特異的なT細胞反応を誘導することができる、ということが最近示された(Kantor J.,etal.,J.Natl.Cancer Ins.84:1084−1091,1992;Kantor J.etal.,Cancer Res.52:6917−6925,1992)。さらに、どちらの系においても全く毒性は観察されなかった。最近、転移性の胃腸癌、乳癌または肺癌を伴う患者にrV−CEAを投与する臨床実験が終了した。段階1研究では、天然痘ワクチンを投与した場合に観察されるような状態以外は、全く毒性は観察されなかった。
【0084】
一つの態様は、B7およびCEAの遺伝子を同一の組換えワクシニア構築物に挿入することである。なぜなら、双方の分子が同じ細胞上に同じ時に発現する必要があるからである。別の態様は、rV−CEAをrV−B7と混合してCEAに対するT細胞免疫反応を特異的に高めることである。この後者の手段の利点はいくつもある:(a)最大免疫反応のための割合を決定するために、rV−CEAとrV−B7の異なる割合を調べることができる(b)rV−CEAとrV−B7の投与時期を変化させることができる(c)rV−B7構築物は1種類のみ製造すればよい、即ち、rV−CEAと共に使用されるrV−B7は、別の腫瘍関連抗原に対するrV構築物と使用することもでき、実際、免疫反応強化のための薬剤に関連する他のいかなる抗原とも使用することができる。
【0085】
一つの態様において、単にrV−CEAをrV−B7と混合して宿主に共投与するだけで、CEAに特異的なT細胞免疫応答の強化が誘導されることが示された。さらに、rV−B7に対するrV−CEAの割合が免疫応答の強度における重要な因子であった。
【0086】
第一の研究において、rV−CEAとrV−B7は1対1の割合で混合された。即ち、5×106pfuのB7と5×106pfuのrV−CEAとを混合し、尾乱切によって3匹のマウスのグループに共投与した。免疫から14日後に脾臓を切除して、リンパ球の供給源とした。対照としてマウスの他の3つのグループを使用した:(a)非ワクチン接種マウス(b)5×106pfuのrV−CEAと5×106pfuの野生型ワクシニア(「V−Wyeth」と呼ぶ)を受けるマウス、および(c)5×106pfuのV−Wyethと5×106pfuのrV−B7受けるマウス。従って、全てのワクチン接種マウスは合計107pfuのワクシニアウイルスを与えられ、3つのグループ全てにおいて、ワクシニアウイルスの割合は1:1であった。図4に見られるように、rV−CEA+V−Wyethを1回投与した後、マウスはCEAに特異的な免疫反応が、低レベルではあるとしても、確かに高まった。使用された免疫分析は、以前から記載されているリンパ球増殖分析であり(Kantor et al,,J.Natl.Cancer Inst.,84:1084−1092,1992)、使用された標的抗原は、バキュロウイルスに由来する組換えCEAであった。図4に示されるように、rV−B7のrV−CEAへの追加は、特異的免疫反応を数倍増強させた。対照的に、rV−B7の対照V−Wyethへの追加は、CEA特異的免疫反応の増強に何ら影響しなかった。
【0087】
次の実験において、rV−CEAのrV−B7に対する割合を、1:3に修飾した。図5に示されるように、1:3の割合のrV−CEA+rV−B7の投与は、rV−CEA+V−Wyethと比較してCEA特異的T細胞反応を増強させ、しかも、その程度は二つの構築物(rV−B7+rV−CEA)を1:1の割合で混合させた場合よりも大きかった。前回と同様に、2つの対照群、即ち、非ワクチン接種の群およびrV−B7をV−Wyethと混合させた群は、CEAにたいして免疫反応を示さなかった。
【0088】
これらの結果は、ヒト腫瘍関連抗原に関する特異的なT細胞反応を増強させるために、rV−含有ヒト関連遺伝子をrV−B7と単に混合させるだけで、抗原提示細胞上に共感染および共発現を誘導させることができることを示唆している。さらに、使用されたrV−B7およびrV−含有ヒト関連遺伝子の割合は、ヒト腫瘍関連遺伝子産物、あるいは実際、誘導させたい若しくは免疫性を高めたいと望むその他の全ての遺伝子産物に対するT細胞活性化を最適化させるために重要な因子であるかもしれない。
【0089】
実施例4
rV−CEA+rV−B7による免疫化後のCEAに対するマウスT細胞のリンパ球増殖反応
リンパ球増殖反応
C57BL/6マウスを、以下のものを様々の割合で含む総計1×107PFUのウイルスで免疫化した:V−Wyeth;rV−CEA:V−Wyeth;Wyeth:rV−B7;またはrV−CEA:rV−B7。そして、上述したようにCEA特異的リンパ球増殖を分析した(Kantor,Jet al.,J.Nat’l.Cancer Inst.,84:1084−1091,1992)。簡単には、脾臓を免疫化から14日後に切除し、70μm細胞濾過器(Falcon,Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)を通して機械的に分散させ、単細胞の懸濁液を得た。赤血球および死んだ細胞をFicoll−Hypaque勾配(密度=1.119g/ml)(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)上で遠心することによって除去した。脾臓の単核細胞をナイロンウールカラム(Robbins Scientific Corp.Sunnyvale,CA)上を通すことによって約95%のT細胞からなる集団を得た。CEA特異的リンパ球増殖を評価するために、T細胞を105/ウェルの濃度で96ウェル平底プレート(Costar,Cambridge,MA)中に加えた。抗原提示細胞は、5×105/ウェルの濃度で加えられた被放射(2000rad)の未処理(naive)同系脾臓細胞から構成された。刺激されたウェルは以下のものを与えられた:精製ヒトCEA(100−12.5μg/ml)(Vitro Diagnostics,Denver,CO);陰性コントロールとしてオバルブミン(100μg/ml);再現抗原としてUV−不活性化V−Wyeth(2×107PFU/ml)またはT細胞陽性コントロールとしてCon−A(2μg/ml)。コントロールは、T細胞、APCおよび培地のみを与えられた。全てのウェルの細胞は、全容量200μlの完全培地(CM)[ウシ胎児血清(10%);グルタミン(2mM)、ピルビン酸ナトリウム(1mM)、Hepes(7mM)、ゲンタマイシン(50μg/ml)、2−メルカプトエタノール(50μM)および非必須アミノ酸(0.1mM)を含むRPMI 1640(Biofluids,Rockville,MD)]中で5日間培養された。細胞を1μCi/ウェル[3H]−チミジン(NewEngland Nuclear,Wilmington,DE)と共に総計12−18時間インキュベーションすることにより標識し、PHD細胞回収器(Cambridge Technology,Cambridge,MA)を用いて回収した。取り込まれた放射活性を液体シンチレーションカウンター(LS 6000IC;Beckman,Duarte,CA)によって測定した。三重のウェルからの結果を平均化して、以下のように計算された刺激指数(SI):
SI=[CPM(刺激されたウェル)]/[CPM(コントロールウェル)]
として報告した。
【0090】
リンパ球増殖分析
rV−CEAとrV−B7との混合物による免疫化が、増強されたCEA特異的リンパ球増殖反応を引き起こし得るか否かを調べるために、C57BL/6マウスを、総計107PFUのrV−CEA:V−Wyeth、V−Wyeth:rV−B7またはrV−CEA:rV−B7を1:1、1:3また3:1の割合(表2を御覧いただきたい)で使用して同時に免疫化し、14日後にリンパ球増殖反応を分析した。表2は、全く免疫化を受けなかったマウスからのT細胞は精製CEAに対して反応しないのに対し、rV−CEA:V−Wyethで免疫化されたマウスからのT細胞は弱く反応した(1.9−2.5の刺激指数[SI])ことを示す。CEAに対する反応は、免疫化の際に与えられたrV−CEAの用量に関連するようであった。V−Wyeth:rV−B7はどの割合でも免疫化したマウスからのT細胞はCEAに対して反応しなかった。対照的に、rV−CEA:rV−B7はどの割合の場合で免疫した場合でもそのマウスからのT細胞は、免疫化としてrV−B7を与えられなかった群と比較して、CEAに対する増強された反応を有するようであった(表2)。rV−CEA:rV−B7(3:1)の免疫化は、本実験において最大のリンパ球増殖の誘導を示した(SI12.3)。rV−CEA:rV−B7の割合を変えた(3:1、1:1、1:3)実験を4回行ったが、各場合において3:1の割合がCEA特異的T細胞反応を最も増強させた。CEA特異的細胞免疫応答の程度をさらに調べるために、マウスをrV−CEA:V−Wyeth(3:1)、V−Wyeth:rV−B7(3:1)またはrV−CEA:rV−B7(3:1)で1回免疫化し、そして前述ようにリンパ球増殖反応を分析した。
【0091】
【表2】
【0092】
a5C57BL/6マウスは、示されたように一回免疫化された。プールされた脾臓T細胞からのリンパ球増殖反応は、免疫化後14日目に分析された。
b抗原の濃度は以下の通りである:ConA(2μg/ml);オバルブミン(100μg/ml);およびCEA(100μg/ml)。各値は、三重試料の培地に対する平均CPMの刺激指数を示す。標準偏差は10%を越えることはなかった。
cNA、不適用
d太字の数値は、各々の培地コントロールの値と比較した場合有意である(p<0.001)。
【0093】
表3は、免疫化を受けていないマウスからのT細胞は、いかなる濃度の精製CEAにも、UV−不活性化V−Wyethにも反応しないことを示す。V−Wyethで免疫化したマウスからのT細胞は強い刺激指数(31.7)でUV−V−Wyethに反応するが、CEAに応答して増殖することはなかった。対照的に、rV−CEA:V−Wyeth(3:1)で免疫化したマウスからのT細胞は、CEAと共に増殖させた場合用量依存的に増殖した(刺激指数4.5−1.6)。rV−B7のみで免疫化した(V−Wyeth:rV−B7)マウスからのT細胞は、CEAに反応しなかった。最後に、rV−CEA:rV−B7(3:1)の組み合わせで免疫化したマウスからのT細胞は、CEA抗原に反応して用量依存的に増殖した(SI=18.6−3.0)。この刺激指数は、rV−B7の追加によってCEA特異的増殖反応が4倍以上増加することを示す。全ての群からのT細胞はコントロールリンパ球マイトゲンConAに反応し、陰性コントロール抗原オバルブミンとは反応しなかった。
【0094】
【表3】
【0095】
a5C57BL/6マウスは、示されたように一回免疫化された。プールされた脾臓T細胞からのリンパ球増殖反応は、免疫化後14日目に分析された。
b抗原の濃度は以下の通りである:ConA(2μg/ml);オバルブミン(100μg/ml);UV−Wyeth(2×107pfu/ml);およびCEA(100〜12.5μg/ml)。各値は、三重試料の培地に対する平均CPMの刺激指数を示す。標準偏差は10%を越えることはなかった。
cNA、不適用
d太字の数値は、各々の培地コントロールの値と比較した場合有意である(p<0.001)。
【0096】
実施例5
rV−CEAおよびrV−B7で感染させた細胞におけるCEAおよびB7−1の二重発現
フローサイトメトリー法
2色フローサイトメトリー法を、invitroにおいてrV−CEAおよびrV−B7で細胞が二重に感染していることを示すために使用した。集密のBSC−1細胞(CCI26,ATCC,ロックバイル、メリーランド州)を、全MOIが5となるように、rV−CEA:rV−B7、rV−CEA:V−Wyeth,V−Wyeth:rV−B7の3:1の混合物,またはV−Wyethのみで2時間にわたって感染させた。細胞は、感染後、18時間目に回収し、PE結合ラット抗マウスB7−1モロクローナル抗体(ファルミンゲン、サンディエゴ、カリフォルニア州)およびFITC結合抗CEAモロクローナル抗体COL−1(36)またはFITCおよびPE結合アイソタイプのコントロールモロクローナル抗体(ファルミンゲン)を組み合わせて染色した。COL−1モロクローナル抗体は、標準的な手法を用いてFITCに結合した(37)。細胞の蛍光は、LysisIIソフトを用いたFACSCAN(ベクトンディキンソン、マウンテンビュー、カリフォルニア州)を使用して解析した。
【0097】
フローサイトメトリーによる解析:組換えCEAおよびB7の二重発現
抗原およびB7−1の両方が、T細胞とCD28受容体を正しく結合させるために、互いに極めて隣接した位置に発現されなければならないとこれまで考えられていたために(ジェンキンズ、M.K.ら、Current Opinion in Immunol.5:361−367,1993;ハスコック、K.S.ら、J.Exp.Med.180:631−640,1994;ヘルストローム、K.E.ら、Ann.NYAcad.Sci.690:225−230,1993:ハーヂング,F.A.ら、J.Exp.Med.177:1791−1796,1993)、rV−CEAおよびrV−B7の混合物を細胞に感染させると、細胞表面にCEAおよびB7−1の両方の二重発現が起こるかどうかについて決定した。二重発現について決定するために、BSC−1細胞をrV−CEA:V−Wyeth,V−Wyeth:rV−B7,またはrV−CEA:rV−B7の3:1の混合物、またはV−Wyethのみで感染させ、二色フローサイトメトリーによって解析した。V−Wyeth:V−Wyethで感染させた細胞は、バックグランド程度の染色のみ示したが(図6A);rV−CEA:V−Wyethで感染させた細胞は、主としてCEAに対して陽性を示した(図6B)。同様に、V−Wyeth:rV−B7の混合物で感染させた細胞は、主としてB7−1に陽性を示した(図6C)。しかし、rV−CEA:rV−B7で共感染させた細胞は、CEAおよびB7の両方に陽性を示した(図6D)。
【0098】
実施例6
rV−CEA:rV−B7で免疫した後のCEA特異的な細胞傷害性の上昇
細胞溶解反応の方法:
マウスを実施例4に記載したように免疫し、CEA特異的細胞溶解活性を上記に記載したように解析した(カンター.J.ら、J.Nat’l Cancer Inst.84:1084−1091,1992)。簡単にいえば、脾臓を免疫後14日目に除去し、これを細胞1つ1つの懸濁液にして、フィコール−ハイパク(Ficoll−Hypaque)勾配にかけた。MC38マウスコロニー形成能がある腺癌細胞系列(フォックス,B.A.ら、J.Bio.Resp.Modifiers9:499−511,1990)を、スティーブローゼンバーグ博士の研究室より(国立癌研究所、ベセスダ、メリーランド州)入手した。ヒトCEA、MC38−CEA−2を発現する誘導細胞系列については、すでに記載されている(ロビンス、P.F.ら、Cancer Res.51:3657−3662,1991)。これらの腫瘍細胞は、111Inを使用した標準的な細胞溶解測定(ウンダーリッヒ、J.ら、Current Protocols in Immunology、コリガンJ.E.ら(編集)3.11.1−3.11.14,1994)における標的として使用するために調製した。簡単に言えば、腫瘍細胞(1−2×106)を、50μCiの111Inオキシキノリン溶液(アマシャム、アリングトンハイツ、イリノイ州)で37℃にて20分間放射性標識し、それから取り込まれなかった放射性標識されている核酸を除くために洗浄した。脾臓のリンパ細胞および標的細胞(5×103細胞/ウエル)を、CTL培地に懸濁し(RPMI−1640のかわりに、RPMI−1640:EHAA50:50を含む完全培地、バイオウィッタカー、ウオーカースバイル、メリーランド州)、およびU底96穴プレート(コスター)中にてエフェクター対標的の比率が100:1から12.5:1にて結合させて、16時間37℃にて5%CO2とともにインキュベートした。インキュベーションの後、上清回収システム(Skantron,スターリング、バージニア州)を使用して上清を回収し、放射活性をガンマカウンターを使用して定量化した(コブラオートガンマ、パッカード、ダウナーズグルーブ、イリノイ州)。111Inの特異的な放出の比率は、標準式によって決定した:特異的な溶解%=[(実験において自然に起こる数)/(自然に起こる最大数)]x100。
【0099】
細胞傷害性T細胞の解析:rV−CEA:rV−B7で免疫した後のCEA特異的な細胞傷害性の増加
rV−CEAにrV−B7を添加した場合のCEA特異的細胞傷害活性に対する効果を解析するために、rV−B7およびrV−CEAの混合物で免疫したマウス由来の脾臓リンパ細胞を、CEAに陰性なマウス腺癌細胞(MC38)または、ヒトCEAを発現するレトロウイルスベクターを使用してCEAで形質転換した同一細胞(MC38−CEA−2)に対する溶解活性について試験した。図7は、rV−CEA:V−Wyeth(3:1)で一度免疫したマウス由来のT細胞は、CEA陰性MC38標的細胞(黒三角)を溶解しないが、CEA陽性MC38−CEA−2標的細胞(白三角)は低レベルにもかかわらず、溶解した。このCEA特異的な溶解は、E:T比に依存しており、E:T比が12.5:1では10%まで溶解は減少した。免疫源であるrV−CEAにrV−B7を添加すると(rV−CEA:rV−B7;3:1)、MC38細胞の溶解には何の影響も与えないが(黒丸)、MC38−CEA−2標的細胞のCEA特異的な溶解には実質的な影響を及ぼした。溶解単位についてのデータの変換に基づくと、rV−CEA:rV−B7(3:1)で免疫したマウスのCTL活性は、rV−CEAのみで免疫したマウスに比較して2.8倍増加していた。
【0100】
実施例7 rV−CEAと混合したrV−B7の抗癌効果
方法
10匹のC57BL/6マウスを、全部で1×107PFUのウイルスで免疫した。免疫した後14日後に、マウスを3×105個のMC38−CEA−2細胞を右わきばらに皮下注射した。少なくとも60日のあいだ腫瘍がみられなかったrV−CEA:rV−B7(3:1)のグループのマウスを、3×105個のMC38−CRA−2細胞を反対側のわきばらに接種した。腫瘍は、二方向カリパスで測定し、以前に記載したように、体積を計算した(カンター,J.ら、J.Nat’l CancerInst.84:1084−1091,1992)。腫瘍が20mmを越えたら(長さまたは幅)、すべての実験において、動物を殺した。
【0101】
rV−CEAと混合したrV−B7の抗癌効果
先天的なC57BL/6マウスに3×105個のMC38−CEA−2マウスの腺癌細胞を皮下注射によって投与すると、7−14日の間に明らかな腫瘍が生じてきて、それから急速に腫瘍が発達して最終的に致命的となるということが以前に示されていた(カンター,J.ら、J.Nat’l CancerInst.84:1084−1091,1992)。1×107PFUのrV−CEAを3回免疫することが、マウスをこの腫瘍の接種から100%保護するために必要であることもまた、示されていた(カンター,J.ら、J.Nat’l Cancer Inst.84:1084−1091,1992)。3:1の比率のrV−CEAおよびrV−B7で免疫して、動物を腫瘍の接種から保護することが可能であるかについて決定するために、我々は全部で107PFUのV−Wyeth、rV−CEA:V−Wyeth(3:1);V−Wyeth:rV−B7(3:1);またはrV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかで一度だけ免疫したC57BL/6マウスにおけるMC38−CEA−2腫瘍細胞の増殖を比較した。MC38−CEA−2細胞を接種すると(図8A)、14日以内に、10匹のV−Wyethで免疫した動物すべてにおいて明らかな腫瘍が生じた。腫瘍の増殖は、この実験を行っている間じゅう、発育し続けた。rV−CEA:V−Wyeth(3:1;図8B)で免疫した動物にMC38−CEA−2細胞を接種すると、明らかな腫瘍がみられはじめる時期が少し遅れて、結果的に、動物の70%が腫瘍に陽性になった。Wyeth:rV−B7(3:1;図8C)で免疫した動物にMC38−CEA−2細胞を接種すると、V−Wyethで免疫したコントロールの集団の腫瘍増殖と同じように、明らかな腫瘍が14日以内に生じた(図8A)。反対に、rV−CEA:rV−B7(3:1;図8D)で一度免疫したマウスの80%は、腫瘍を形成しなかった。腫瘍陰性マウス(n=8)は、この実験の間じゅう、腫瘍をつくらなかった(60日)。著しい毒性効果は、観察期間のあいだはこれらの動物に観察されなかった。動物の体重は、年齢に相当する正常なマウスの標準偏差の中におさまった。これらの実験はさらに3回繰り返し行って、同じ結果を得た。
【0102】
腫瘍細胞に対する長い期間の継続的な免疫は、rV−CEA:rV−B7(3:1)の組み合わせで免疫することによって誘導されるかどうかを決定するために、組換えウイルスをこの比率で免疫し、少なくとも60日間は腫瘍が形成されない(図8D)マウスに、3×105個のMC38−CEA−2細胞を反対のわきばらに接種した(図9B)。コントロールの正常なマウスにMC38−CEA−2細胞を接種すると(図9A)、14日以内にすべての動物において明らかな腫瘍が形成され、この実験を行っている間、腫瘍の増殖が進行する一方で、先にrV−CEA:rV−B7(3:1)を投与したマウスは、さらに49日間観察しても、腫瘍はみられなかった(図9B)。
【0103】
実施例8 rV−PSAの構築および特性
組換えワクシニアウイルス
ヒト前立腺特異的抗原の全オープンリーディングフレームをコードする786bpのDNA断片を、ヒト転移性前立腺腺癌細胞系列、LNCaPFGC(CRL1740,アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC),ロックバイル、メリーランド州)から抽出した全RNAより、逆転写PCR(GeneAmp RNA PCR Kit,Perkin Elmer,ノルウォーク、コネチカット州)によって増幅した。PSAコード配列から予測されるアミノ酸配列は、220番目の残基がアスパラギンからチロシンに置換していたことだけが異なるが、既に報告された配列と同一であることが示された(ルンドウエルら、FEBS Letters 214:317−322,1987)。PSAの全コード配列、5’非翻訳領域の41ヌクレオチド、および3’非翻訳領域の520ヌクレオチドを含むPSAのDNA断片を、ワクシニアウイルストランスファーベクターpT116のXbaI制限酵素部位にライゲーションした。生じたプラスミドは、pT1001と命名され、ワクシニアウイルス40Kプロモーターの制御下にあるPSA遺伝子(グリッツら、J.Virology、64:5948−5957,1990)および鶏痘ウイルスC1プロモーターの制御下にある大腸菌LacZ遺伝子(ジェンキンズら、AIDS Research and Human Retroviruses、7:991−998,1991)を含む。外来遺伝子は、ワクシニアゲノムのHindIIIM領域由来のDNA配列に結合させた。ワクシニアのWyeth(ニューヨーク衛生局)株からプラーク精製した単離物を、組換えワクシニアウイルスの構築において親ウイルスとして使用した。組換えウイルスの作製は、Wyethワクシニアゲノムのワクシニア配列と、pT1001で形質転換したワクシニアに感染したRK13細胞(CCL37,ATCC)中のpT1001のこれに相当する配列のあいだでの相同組換えによって生じた。組換えクローンは、以前に記載したように(パニカリら、Gene 47:193−199,1986;カウフマンら、Int.J.Cancer、48:900−907,1991)、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドール−β−D−ガラクトピラノシド(X−Gal)の存在下においてRK13細胞(CCL37,ATCC)の増殖によって同定し、選別した。適切な青い組換えをおこしたコロニーを、4回プラーク精製することによって精製した。ウイルスのストックは、感染したRK13細胞抽出液を、36%ショ糖クッションによって遠心して精製することによって調製した。
【0104】
DNA組換えのサザン解析
組み換えワクシニアゲノムを、ウイルスDNAの抽出、HindIIIおよびClaIでの制限酵素消化、および以前に記載したようなサザンブロット(カウフマンら、Int.J.Cancer、48:900−907,1991)によって解析した。
【0105】
PSAタンパク質発現のウエスタン解析
集密のBSC−40細胞を、野生型親株ワクシニアウイルス(V−Wyethと呼ばれている)または組み換えワクシニアPSA(rV−PSAと呼ばれている)のいずれかをMOIが1として2%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーゲル培地中で感染させた。一晩感染させた後、細胞から培地を除去し、アリコートをメタノール沈澱して分泌されたPSAの存在を測定した。感染した細胞は、低張の溶解緩衝液(150mM NaCl,0.05% EDTA,10mMKCl,1mMPMSF)中に溶解し、それから超音波処理をした。細胞抽出物と培養用培地を、SDS10%アクリルアミドゲルで電気泳動した。タンパク質を、ニトロセルロース上にトランスブロットし、ブロットしたものを室温で4時間、PSAに特異的なウサギ抗体(PO798,Sigma Chemical CO.,セントルイス、ミズーリ州)とインキュベーションし、洗浄し、それからヤギ抗ウサギホスファターゼ標識二次抗体(AP,Kirkegaad&Perry Laboratories,ガイザースバーグ、メリーランド州)と共にインキュベートし、製造業者の手法に従って現像した。
【0106】
組換えウイルス(rV−PSA)の特性
ヒトPSAのオープンリーディングフレームをコードしているcDNA断片を、PSA特異的オリゴヌクレオチドプライマー5’TCTAGAAGCCCCAAGCTTACCACCTGCA3’(配列番号:5),5’TCTAGATCAGGGGTTGGCCACGATGGTGTCCTTGATCCACT3’(配列番号:6)を使用して逆転写PCRによって得て、ワクシニアウイルストランスファーベクターpT116中にラーゲーションした。このベクターは、挿入された遺伝子産物の合成を引き起こすように、マルチクローニング部位の上流に強力なワクシニアウイルス初期/後期プロモーター(40Kと呼ばれている)を含む。プロモーターの部位と同様に、PSAのDNA断片のライゲーションおよび方向は、PCRおよび塩基配列決定によって確認された。キメラのベクター構築物を、以前に報告されたように、相同組換えによってワクシニアウイルスゲノムのHindIIIM部位中に挿入し(カウフマンら、Int.J.Cancer、48:900−907,1991)、PSA配列およびHindIIIM領域中のワクシニア配列に相当する32Pで放射性標識したDNAをプローブにしたサザン解析によって確認した(データは示さない)。
【0107】
組換えPSAタンパク質の発現は、上清およびrV−PSAを感染させたBSC40細胞から抽出したタンパク質のウエスタンブロット解析によって確認した。
これらの細胞は、組換えワクシニア産物を確認するのに日常的に使用している(エールら、Current Protocols in Molecular Biol.,2.16.15.1−16.18.9,1993)。rV−PSAを感染させた細胞由来の細胞上清をブロットしたものをウサギ抗PSA抗体と共にインキュベーションすると、およそ33,000ダルトンの一本の免疫反応するペプチドが現れた(データは示さない)。同様に、rV−PSAを感染させた細胞由来のタンパク質抽出物をブロットしたものをインキュベーションすると、同じ分子量の一本のバンドが現れた(データは示さない)。これは、PSA分子の予測される大きさと一致する(アルムブラスターら、Clin.Chem.39:181−195,1993;ワングら、Methods in Cancer Research、19:179−197,1982)。親株V−Wyethを感染させた細胞由来の上清のブロットおよびタンパク質ブロットは、PSAの発現は陰性であった。したがって、これらの結果は、組換えワクシニアウイルスは、ヒトPSA遺伝子産物を忠実に発現することが可能であることを示している。
【0108】
実施例9
rV−PSA:rV−B7での免疫によるPSA特異的細胞傷害性の増加
細胞系列
コロニー形成能のあるマウス腺癌細胞系列であるMC−38(フォックス、B.A.ら、J.Biol.Response Mod.9:499−511,1990)を、バーナードフォクス博士より入手した(国立癌研究所、国立衛生研究所、ベネスダ、メリーランド州)。LNCaPヒト前立腺腺癌細胞系列(ヘルスコビッツ、J.S.ら、マーフィー,G.P.(編集)前立腺癌のモデル、pp.115−132,ニューヨーク:A.R.Liss,1980)を、アメリカンカルチャータイプコレクション(ロックバイル、メリーランド州)より入手した。モロニーマウス肉腫ウイルスレトロウイルスベクターpLNSC(ミラー、A.D.ら、Biotechniques 7:980−990,1989)を、A.ダスティーミラー博士より入手した(フレッドハッチンソン癌研究所、シアトル、ワシントン州)。マウスのエコトロピック(ecotropic)ウイルスを保持している細胞系列GP+E−86(ヘスドルファー、C.HematolOncol.Clin.North Am.,5(3):423−432,1991)、MC−38,PSA/MC−38およびpLNSX/MC−38を、10%ウシ胎児血清(FBS)(GibcoBRL)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco BRL,ガイザーバーグ、メリーランド州)にて維持した。PSA/MC−38およびpLNSX/MC−38細胞系列は、1mlあたり1mgのG418硫酸塩(Gibco BRL)の選択圧を常に与えている状況下において維持した。LNCaPは、10%FBSを含むRPMI−1640培地(Gibco BRL)中で維持した。
【0109】
PSAcDNAのクローニング
相補的なDNA(cDNA)は、ヒト前立腺癌細胞系列であるLNCaP由来の全RNAよりGeneAmpRNAポリメラーゼ鎖反応(PCR)キット(Perkin ElmerCorp.,ノルウォーク、コネチカット州)を使用して合成した。ヒトPSAに特異的なオリゴヌクレオチドプライマーは、Mac Vector4.1.4.コンピュータープログラム(Kodak Co.,ロチェスター,ニューヨーク州)を使用してヒトmRNA配列(GenBank登録番号X07730)に基ずいて選択した。HindIII制限酵素部位を含む5’(5’AGA GAG AGC CTC AAG CTT CAG CCC CAA GCT TAC CAC CTG CA3’)(配列番号:7)および3’(5’AGA GAG AGC AAG CTT AGT CCC TCT CCT TAC TTC AT3’)(配列番号:8)を、PCRによって全長のPSAcDNAを合成するのに使用した。1.5kbのPSA遺伝子を、制限酵素HindIIIで消化したpLNSXDNAとラーゲーションし、コンピテントCHα大腸菌細胞(Gibco BRL)を形質転換するのに使用した。アンピシリン耐性なコロニーについて、ベクター特異的な5’オリゴヌクレオチドプライマー(5’TTT GGA GGC CTA GGC TTT TGC AAA3’)(配列番号:9)および上述したPSAに特異的な3’プライマーを使用してPCRによってcDNAインサートの方向を調べた。PSAcDNAがセンス方向を向いている形質転換体を選択し、制限酵素消化によって同定し、Sequenase(United States Biochemical Corp.,クリーブランド、オハイオ州)を使用したジデオキシ法によって塩基配列を決定した。PCRによって回収された遺伝子の塩基配列の解析により、この遺伝子は、GenBankにあるヒトPSA遺伝子配列と同一であることが確証された。
【0110】
MC−38標的細胞へのDNAの形質転換および形質導入
PSA/pLNSXプラスミド(5μg)を、形質転換試薬(DOTAP)(Boehringer Mannheim Biochemica,インディアナポリス、イリノイ州)を使用して製造業者の手法に従ってMC−38細胞に形質転換した。24時間後に、G418を100μg/ml(重量/体積)含む選択培地を細胞に添加した。選択圧は、10%FBSおよび濃度勾配のG418を(1mg/mlまで)含むDMEM中において継続的に培養することによって維持した。薬剤耐性の細胞を制限希釈によりクローニングした。クローニング壁から得た馴化培地を、固相の二重決定タンデムRPSA免疫放射分析(Hybritech Inc.,サンディエゴ、カリフォルニア州)を使用して試験した。PSAを最も効率良く分泌するクローンを、制限希釈によって2回クローン化した。PSA/MC−38と命名された1つのクローンは、およそ10ngPSA/mlを生産した。
【0111】
ベクターを形質導入したPSA陰性なMC−38細胞は、以下のようにして作製した。マウスのエコトロピック(ecotropic)ウイルスを保持している細胞系列GP+E+86を、上記に記載したように、DOTAP形質導入試薬を使用して2μgのpLNSXベクターDNAで形質導入した。24時間後に、形質導入した細胞を植えかえて選択培地上で増殖した(1mlあたり1.0mgのG418)。G418による選択を生き延びて、pLNSXを持っている細胞は、G418が存在しない培地中でも増殖し、この培地を8μg/mlのポリブレン(Sigma Chemical Co.,セントルイス、ミズーリ州)存在下にてMC−38細胞に添加した。形質導入したMC−38細胞は、G418存在下において3週間成育した。個々の薬剤耐性コロニーを無菌的なクローニングリングによって単離し、pLNSXの存在をPCRによって同定した。1つのクローンがpLNSX/MC−38であり、これをさらなる実験に使用した。
【0112】
細胞傷害反応の方法
マウスを、実施例6に記載した基本的な手法を使用してrV−PSAで免疫した。実施例8に記載したように作製したrV−PSAは、Therion Biologics Corporation,ケンブリッジ、マサチューセッツ州から入手した。上記およびカール,J.F.ら(Cancer Reserch,印刷中)に記載されているのヒトPSAを発現するコロニー形成能のあるMC38マウス腺癌細胞系列(MC38−PSA)を、抗原特異的な標的として使用した。
【0113】
細胞傷害性T細胞の解析:rV−PSA:rV−B7で免疫したことによるPSA特異的な細胞傷害性の増加
rV−PSAにrV−B7を添加した場合のPSA特異的細胞傷害性活性に対する効果を解析するために、rV−B7およびrV−PSAの混合物で免疫したマウス由来の脾臓リンパ細胞を、PSAに陰性なマウス腺癌細胞(MC38)またはPSAで形質導入した同じ細胞(MC38−PSA)について溶解活性を試験した。図10は、rV−PSAで一度免疫したマウス由来のT細胞は、PSA陰性なMC38標的細胞を溶解しないが、PSA陽性なMC38−PSA標的細胞は溶解することを示している。免疫源であるrV−PSAにrV−B7を添加しても、MC38細胞の溶解には影響を及ぼさないが、MC38−PSA標的細胞のPSA特異的な溶解に対しては実際に影響を及ぼす(図10)。溶解の特異性は、異なる抗原であるrV−CEA:rV−B7で免疫したマウスのT細胞は、MC38−PSA標的細胞を溶解しないということからもさらに示された。
【0114】
実施例10
癌にかかっている哺乳動物を治療するためのCEA抗原に由来する免疫原性ペプチドに感作したリンパ細胞の使用
前もってCEA抗原に感作させたTリンパ細胞は、癌にかかっている哺乳動物を治療するのに効果的である場合がある。Tリンパ細胞は、末梢血液または腫瘍懸濁液由来で、in vitroで培養した(カワカミ、Y,ら(1988)J.Exp.Med.168:2183−2191)。Tリンパ細胞は、濃度が1−10MOIでおよそ1−16時間のあいだ、CEA関連抗原を発現する組換えウイルスおよび/またはB7.1および/またはB7.2を発現する組換えウイルスを感染させた細胞にさらす。抗原にさらされたTリンパ細胞を、哺乳動物、好適にはヒトにおよそ107−1012個のリンパ細胞を投与する。リンパ細胞は、静脈内、腹膜内、または病気の部分に投与される。この処置は、Tリンパ細胞治療と組み合わせて、サイトカイン、放射治療、腫瘍部分の外科的除去および化学治療薬剤のような他の治療的処置と同時に投与できる。
【0115】
本発明はある特定の態様に関連して上記に記載したが、さまざまに改変することが可能で、別の材料および試薬を本発明から逸脱しないように使用することが可能である。ある場合には、このような改変および代用は、いくらか実験を必要とするかも知れないが、日常的な実験のみ含むと考えられる。
【0116】
特定の態様の詳細な記載は、本発明の一般的な特性を十分に明らかにしており、最新の知識を適応することによって研究者は遺伝学的な概念から逸脱することなくこのような特定の態様を容易に改変および/またはさまざまな応用に適応させることが可能であり、それゆえ、このような適応および改変は、記載した態様に相当する内容および範囲内において理解されると考えられる。
【0117】
参照したすべての参考文献および特許は、本明細書中に参考文献として取り入れている。
【0118】
【化1】
【0119】
【化2】
【0120】
【化3】
【0121】
【化4】
【0122】
【化5】
【0123】
【化6】
【0124】
本発明の上記その他の目的、特徴及び幾つかの付随的な利点は、発明の詳細な説明を読んで、検討するならばさらに良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】図1A〜1DはrV−B7タンパク質を発現するBSC−1細胞の蛍光分析を示す。BSC−1細胞は、B7−1又はB7−2表面タンパク質に関して、感染前に(図1A)、10MOI V−Wyeth(図1B)、rV−B7−1(図1C)又はrV−B7−2(図1D)による感染後に染色した。図1Aと1Bは正常BSC−1細胞又はrV−B7−1とrV−B7−2との構築に用いた親ワクシニア菌株によって感染させた細胞のB7染色を典型的に示すが、図1Cと1DはrV−B7−1とrV−B7−2による感染後の組換えB7タンパク質の強い発現を、これらの分子に特異的なモノクローナル抗体をそれぞれ用いて説明する。
【図2】図2A〜2DはrV−B7タンパク質を発現する移植されたマウス腺癌の成長を示す。1群あたり5匹のC57BL/6マウスに、感染させない(図2A)、0.25MOI V−Wyeth(図2B)、rV−B7−1(図2C)又はrV−B7−2(図2D)によって感染させた3×105MC38細胞を注入した。図2Aと2BはMC38細胞の正常な成長速度を示し、図2Cと2Dは組換えB7タンパク質を発現するMC38細胞の成長速度を示す。腫瘍は2種類のサイズで測定された。これらの実験をさらに3回繰り返して、同様な結果を得た。*動物は腹腔内腫瘍を増殖させたが、これは測定することができなかった。
【図3】図3A〜3D。図3Aは未使用C57BL/6マウスにおける非感染MC38腫瘍の成長を示す。図3BはrV−B7−1で予め感染させたMC38細胞を予め投与され(40日目)、3×105MC38細胞によってチャレンジされたMC38腫瘍の成長を示す。図3CはrV−B7−2で感染させたMC38細胞を予め投与され(40日目)、3×105MC38細胞によってチャレンジされたMC38腫瘍の成長を示す。
【図4】図4は、ヒト癌胎児性抗原遺伝子(rV−CEA)、ネズミB7−2(rV−B7)、又はワクシニアウイルスの野生型菌株(V−Wyeth)の遺伝子をコードする組換えワクシニアウイルスで免疫感作された5C57BL/6マウスの各処置群を示す。各マウスには、下記比:1:1rV−CEA/rV−B7(5×106PFUrV−CEA+5×106PFUrV−B7);1:1V−Wyeth/rV−B7(5×106PFUV−Wyeth+5×l06PFUrV−B7);又は1:1rV−CEA/V−Wyeth(5×106PFUrV−CEA+5×106PFUV−Wyeth)での尾乱刺法によって1×107プラーク形成単位を投与した。免疫感作後14日目に各処置群から3個の脾臓を摘出し、プールし、標準5日リンパ球増殖分析(standard5 day lymphoproliferativeassay)を既述されたように実施した(Kantor等、JNCI,84:1084,1992)。精製T細胞をそれらの増殖能力に関して100μg/mlのバキュロウイルス産生組換えCEAに対して試験した。培地に対する細胞反応性(バックグランド)に関連して刺激指数を算出した。
【図5】図5は、ヒト癌胎児性抗原遺伝子(rV−CEA)、ネズミB7−2(rV−B7)、又はワクシニアウイルスの野生型菌株(V−Wyeth)の遺伝子をコードする組換えワクシニアウイルスで免疫感作された5C57BL/6マウスの各処置群を示す。各マウスには、下記比:1:3rV−CEA/rV−B7(2.5×106PFUrV−CEA+7.5×106PFUrV−B7);1:3V−Wyeth/rV−B7(2.5×106PFUV−Wyeth+7.5×106PFUrV−B7);又は1:3rV−CEA/V−Wyeth(2.5×106PFUrV−CEA+7.5×106PFUV−Wyeth)での尾乱刺法によって1×107プラーク形成単位を投与した。免疫感作後14日目に3個の脾臓を摘出し、プールし、標準5日リンパ球増殖分析を既述されたように実施した(Kantor等、JNCI,84:1084,1992)。精製T細胞をそれらの増殖能力に関して100μg/mlのバキュロウイルス産生組換えCEAに対して試験した。培地に対する細胞反応性(バックグランド)に関連して刺激指数を算出した。
【図6A】図6A〜6Dは、rV−CEAとrV−B7とによって同時感染されたBSC−1の蛍光分析を示す。BSC−1細胞に下記:(6A)V−Wyeth;(6B)rV−CEA:V−Wyeth(3:1);(6C)Wyeth:rV−B7(3:1);又は(6D)rV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかの比で5のMOIにおいてウイルスによって同時感染させ、MAbsPE−B7−1とFTTC−COL−1によって染色した。XおよびY軸は、各々CEAおよびB7−1蛍光を示し、Z軸は細胞数を示す。各座標における陽性細胞の%を挿入パネルに示す。図6Aは親ワクシニア菌株で感染された正常BSC−1細胞の染色を示す。
【図6B】図6A〜6Dは、rV−CEAとrV−B7とによって同時感染されたBSC−1の蛍光分析を示す。BSC−1細胞に下記:(6A)V−Wyeth;(6B)rV−CEA:V−Wyeth(3:1);(6C)Wyeth:rV−B7(3:1);又は(6D)rV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかの比で5のMOIにおいてウイルスによって同時感染させ、MAbsPE−B7−1とFTTC−COL−1によって染色した。XおよびY軸は、各々CEAおよびB7−1蛍光を示し、Z軸は細胞数を示す。各座標における陽性細胞の%を挿入パネルに示す。図6Bは単独感染中のCEA又はB7−1の発現を示す。
【図6C】図6A〜6Dは、rV−CEAとrV−B7とによって同時感染されたBSC−1の蛍光分析を示す。BSC−1細胞に下記:(6A)V−Wyeth;(6B)rV−CEA:V−Wyeth(3:1);(6C)Wyeth:rV−B7(3:1);又は(6D)rV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかの比で5のMOIにおいてウイルスによって同時感染させ、MAbsPE−B7−1とFTTC−COL−1によって染色した。XおよびY軸は、各々CEAおよびB7−1蛍光を示し、Z軸は細胞数を示す。各座標における陽性細胞の%を挿入パネルに示す。図6Cは単独感染中のCEA又はB7−1の発現を示す。
【図6D】図6A〜6Dは、rV−CEAとrV−B7とによって同時感染されたBSC−1の蛍光分析を示す。BSC−1細胞に下記:(6A)V−Wyeth;(6B)rV−CEA:V−Wyeth(3:1);(6C)Wyeth:rV−B7(3:1);又は(6D)rV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかの比で5のMOIにおいてウイルスによって同時感染させ、MAbsPE−B7−1とFTTC−COL−1によって染色した。XおよびY軸は、各々CEAおよびB7−1蛍光を示し、Z軸は細胞数を示す。各座標における陽性細胞の%を挿入パネルに示す。図6DはrV−CEAとrV−B7の両方による感染後に両方の組換え分子の同時発現を示す。
【図7】図7は、rV−CEA及び/又はrV−B7による免疫感作後の一次CTL活性の増強を示す。CEAに特異的な細胞毒性活性を全体で1×107PFUのrV−CEA:V−Wyeth(3:1;三角形)又はrV−CEA:rV−B7(3:1;円形)による感作後10日目に分析した。各群からの脾臓T細胞を16時間細胞毒性分析においてMC38細胞(CEA陰性;閉鎖記号)又はMC38−CEA2細胞(CEA陽性;開放記号)と共にインキュベートした。抗V−WyethCTL活性は全てのサンプルにおいて>50%であった。
【図8】図8A〜8Dは、rV−CEA及びrV−B7によって免疫感作されたマウスにおける移植されたCEA発現マウス腺癌細胞の成長を示す。1群にあたり10C57BL/6マウスを(8A)V−Wyeth;(8B)rV−CEA:V−Wyeth(3:1);(8C)Wyeth:rV−B7(3:1);又は(8D)rV−CEA:rV−B7(3:1)のいずれかの全体で107PFUで一回に免疫感作し、14日間後に3×106MC−38−CEA−2−細胞を皮下に注射した。
【図9】図9A〜9Bは、rV−B7とrV−CEAとの混合物を予め投与されたマウスにおける抗腫瘍免疫性を示す。図9Aは未使用C57BL/6マウスにおけるMC−38−CEA−2−腫瘍の成長を示し、予め腫瘍チャレンジを受けて生残したマウスにおける腫瘍成長を示す(図9B)。マウスをrV−CEA:rV−B7(3:1)によって免疫感作し、14日後に腫瘍によるチャレンジを受けさせた。60日間後に無腫瘍で留まるマウス(図8D)を反対側フランクで再チャレンジさせた(図9B)。
【図10】図10は、rV−PSA及びrV−B7−1による免疫感作後の一次CTL活性の増強を示す。PSAに特異的な細胞毒性活性を全体で1×107PFUのrV−PSA、rV−PSA:rV−B7−1又はrV−CEA:r−B7−1による感作後10日目に分析した。各群からの脾臓T細胞を16時間細胞毒性分析においてMC38細胞又はMC38−PSA細胞と共にインキュベートした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌胎児性抗原(CEA)をコードする遺伝子と、B7.1、B7.2、あるいはB7.1とB7.2をコードする遺伝子とをウイルスゲノム中に取り込み、そして場合によりIL−2、ICAM−1,LFA−3、CD72、GM−CSF、TNFα、INFγ、IL−12、IL−6およびそれらの組み合わせから成る群から選択される免疫刺激分子をコードする1以上の遺伝子またはその一部を取り込んでいる、ワクシニアウイルス。
【請求項2】
請求項1に記載のワクシニアウイルスを単独で、または外因の免疫刺激分子、化学療法薬、抗生物質、抗ウイルス薬または抗菌薬と組み合わせて含み、そして薬学的に許容できる担体を含む、医薬組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のワクシニアウイルスを使用して感染させた宿主細胞。
【請求項4】
抗原提示細胞、腫瘍細胞、病原性微生物が感染した細胞、または遺伝的欠損細胞である、請求項3に記載の宿主細胞。
【請求項5】
抗原提示細胞が樹状細胞またはマクロファージである、請求項4に記載の宿主細胞。
【請求項6】
CEAに類似する抗原結合部位を有する抗体をコードする遺伝子をウイルスゲノム中に取り込んでいる第1のワクシニアウイルスと、B7.1、B7.2、またはB7.1とB7.2をコードする1以上の遺伝子をウイルスゲノムまたはその一部中に取り込んでいるレトロウイスルを除く第2の組換えウイルスとを単独で、または外因の免疫刺激分子、化学療法薬、抗生物質、抗ウイルス薬または抗菌薬と組み合わせて含む組成物であって、当該組成物が宿主細胞に同時感染して、前記抗体をコードする遺伝子と、B7.1、B7.2、またはB7.1とB7.2をコードする遺伝子との同時発現を生じることができる上記の組成物。
【請求項7】
CEAに類似する抗原結合部位を有する抗体をコードする1以上の遺伝子と、B7.1、B7.2またはB7.1とB7.2をコードする1以上の遺伝子とをウイルスゲノム中に取り込んでいるワクシニアウイルス。
【請求項8】
請求項7に記載の組換えウイルスを単独で、あるいは外因の免疫刺激分子、化学療法薬、抗生物質、抗ウイルス薬または抗菌薬と組み合わせて含み、そして薬学的に許容できる担体を含む、医薬組成物。
【請求項9】
請求項7に記載のワクシニアウイルスを使用して感染させた宿主細胞。
【請求項10】
抗原提示細胞、腫瘍細胞、病原性微生物が感染した細胞、または遺伝的欠損細胞である、請求項9に記載の宿主細胞。
【請求項1】
癌胎児性抗原(CEA)をコードする遺伝子と、B7.1、B7.2、あるいはB7.1とB7.2をコードする遺伝子とをウイルスゲノム中に取り込み、そして場合によりIL−2、ICAM−1,LFA−3、CD72、GM−CSF、TNFα、INFγ、IL−12、IL−6およびそれらの組み合わせから成る群から選択される免疫刺激分子をコードする1以上の遺伝子またはその一部を取り込んでいる、ワクシニアウイルス。
【請求項2】
請求項1に記載のワクシニアウイルスを単独で、または外因の免疫刺激分子、化学療法薬、抗生物質、抗ウイルス薬または抗菌薬と組み合わせて含み、そして薬学的に許容できる担体を含む、医薬組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のワクシニアウイルスを使用して感染させた宿主細胞。
【請求項4】
抗原提示細胞、腫瘍細胞、病原性微生物が感染した細胞、または遺伝的欠損細胞である、請求項3に記載の宿主細胞。
【請求項5】
抗原提示細胞が樹状細胞またはマクロファージである、請求項4に記載の宿主細胞。
【請求項6】
CEAに類似する抗原結合部位を有する抗体をコードする遺伝子をウイルスゲノム中に取り込んでいる第1のワクシニアウイルスと、B7.1、B7.2、またはB7.1とB7.2をコードする1以上の遺伝子をウイルスゲノムまたはその一部中に取り込んでいるレトロウイスルを除く第2の組換えウイルスとを単独で、または外因の免疫刺激分子、化学療法薬、抗生物質、抗ウイルス薬または抗菌薬と組み合わせて含む組成物であって、当該組成物が宿主細胞に同時感染して、前記抗体をコードする遺伝子と、B7.1、B7.2、またはB7.1とB7.2をコードする遺伝子との同時発現を生じることができる上記の組成物。
【請求項7】
CEAに類似する抗原結合部位を有する抗体をコードする1以上の遺伝子と、B7.1、B7.2またはB7.1とB7.2をコードする1以上の遺伝子とをウイルスゲノム中に取り込んでいるワクシニアウイルス。
【請求項8】
請求項7に記載の組換えウイルスを単独で、あるいは外因の免疫刺激分子、化学療法薬、抗生物質、抗ウイルス薬または抗菌薬と組み合わせて含み、そして薬学的に許容できる担体を含む、医薬組成物。
【請求項9】
請求項7に記載のワクシニアウイルスを使用して感染させた宿主細胞。
【請求項10】
抗原提示細胞、腫瘍細胞、病原性微生物が感染した細胞、または遺伝的欠損細胞である、請求項9に記載の宿主細胞。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2007−105045(P2007−105045A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291632(P2006−291632)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【分割の表示】特願平8−512100の分割
【原出願日】平成7年10月2日(1995.10.2)
【出願人】(502006782)アメリカ合衆国 (47)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【分割の表示】特願平8−512100の分割
【原出願日】平成7年10月2日(1995.10.2)
【出願人】(502006782)アメリカ合衆国 (47)
【Fターム(参考)】
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