説明

抗炎症剤としての脂肪酸

式Iの化合物およびその代謝産物は炎症反応の強力なメディエーターであり: (I)の式中、a、b、c、d、e、f、V、W、X、Y、Ra、Ra'、Rb、Rb'、Rc、およびRc'は本明細書中で定義される。特に、本発明の化合物は炎症症状を治療するための薬物候補である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願への相互参照
本出願は、2009年7月31日出願の米国仮出願番号61/213,946の優先権を主張する。該仮出願の全内容は参照によりここに組み入れられる。
【0002】
連邦支援研究に関する声明
本発明は、National Institutes of Healthによって授与された認可番号R01 HL58115およびR01 HL64937の下での米国政府の支援を得て完成された。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
求電子性脂肪酸は生化学的情報の重要なトランスデューサーである。例えば、ニトロ脂肪酸は、性質が抗炎症性である細胞シグナル伝達活性を媒介する。米国特許公開第20070232579号を参照のこと。これらのシグナル伝達イベントは、求電子性脂質によるタンパク質のスルフヒドリル基の可逆的かつ共有結合性の改変によって調節されると考えられ、該改変は、2、3例を挙げれば、タンパク質リン酸化および転写の活性化などのいくつかの下流イベントの改変を生じさせる。
【0004】
ニトロ脂肪酸と同様に、求電子性ケト脂肪酸もまた、炎症反応を調節する。ケト脂肪酸は、シクロオキシゲナーゼ-2 (COX-2)酵素の上方制御に起因して炎症時に生成する。COXは、プロスタノイド(プロスタグランジン、プロスタサイクリンおよびトロンボキサンを含む)と称される重要な生物学的メディエーターの形成に関与し、そのうち、プロスタグランジンは重要な炎症誘発性分子である。Groegerらは、炎症時に生成する特定の求電子性脂肪酸を開示し、かつ活性化マクロファージでのCOX-2が触媒する機構によって、対応するオキソ誘導体が生成したことを開示する。Groeger et al., Cyclooxygenase-2- generates anti-inflammatory mediators from omega-3 fatty acids, Nature Chemical Biology 6, 433-441 (2010)を参照のこと。
【0005】
3種の公知のCOXアイソザイム(COX-1、COX-2およびCOX-3)のうち、COX-2によって生産されるプロスタグランジンは疼痛および炎症に関連する。ゆえに、COX-2を阻害可能な物質は、疼痛を治療しかつ炎症を減少させるための治療薬として使用されている。
【0006】
選択的COX-2インヒビターは現在公知であるが、これらの化合物は、関連する有毒な副作用を示す。ゆえに、慢性痛および炎症の治療での治療薬としてのその使用は制限されている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、その態様の1つにおいて、(A) 式Iに記載のケト脂肪酸および(B) 製薬的に許容される担体、を含む製剤を提供する。
【化1】

【0008】
式(I)中、Xは、-CH2-、-OH、-S、-ORtおよび-NRpRqからなる群から選択され; Yは、-C(O)-、O、-S-、および-NRpRqからなる群から選択され; Wは、-OH、-H、=S、-SRp、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRt、NO2、=O、=NRp、=CF2、および=CHFからなる群から選択され、かつWが、-OH、-H、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRtおよびNO2 からなる群から選択される場合、Vは-CH-であり、かつWが、=O、=NRp、=CF2、および=CHFからなる群から選択される場合、Vは-C-である。
【0009】
a、b、c、d、e、およびfは、独立して、0〜15の範囲(両端を含む)の整数である。一実施形態では、dが0でない場合、cは0である。あるいは、cが0でない場合、dは0であり; 和(a + b + c + e + f)および(a + b + d + e + f)が、独立して、nが3〜15の範囲(両端を含む)の整数である式2nまたは2n+1を満たす整数に等しいようになっている。
【0010】
置換基-Rp、-Rqおよび-Rtは、独立して、H、(C1-C8)アルキルおよび(C1-C8)ハロアルキルから選択される。式I中、-Ra、-Ra'、-Rb、-Rb'、-Rc、-Rc'は、独立して、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CHF2、-CH2F、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRtおよびNO2からなる群から選択される。さらに、-Raおよび-Ra'は非水素基を同時には表さず; -Rbおよび-Rb'は非水素基を同時には表さず; かつ同様に-Rcおよび-Rc'は非水素基を同時には表さない。
【0011】
式I中、任意的な二重結合は、
【化2】

【0012】
によって示され、一方、
【化3】

【0013】
が存在する場合、それは、XおよびYおよびそれらが結合している炭素原子と一緒になって、5〜6員ヘテロシクリルまたはヘテロアリール環を表す。化合物13-オキソ-(7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、17-オキソ-(7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、13-OH (7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、17-OH (7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、13-オキソ-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸、17-オキソ-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸、13-OH-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸または17-OH-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸(式中AはEまたはZ配置のいずれかを示す)は式Iに含まれない。
【0014】
別の実施形態では、医薬製剤は、以下のリスト13-オキソ-(7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、17-オキソ-(7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、13-オキソ-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸、17-オキソ-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸、式中AはEまたはZ配置のいずれかを示す、から選択される脂肪酸および製薬的に許容される担体を含む。
【0015】
本発明はまた、炎症症状を患っている被験体の治療方法であって、治療的有効量の式(I)に記載の脂肪酸を被験体に投与するステップを含む方法を提供する。別の態様では、本発明は、13-オキソ-(7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、17-オキソ-(7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、13-OH (7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、17-OH (7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、13-オキソ-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸、17-オキソ-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸、13-OH-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸または17-OH-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸、式中AはEまたはZ配置のいずれかを示す、からなる群から選択される脂肪酸を含む医薬製剤を投与することによって、炎症症状を患っている被験体を治療する方法を提供する。
【0016】
本発明の製剤を使用して治療される例示的な炎症症状は、移植のための臓器保存、骨関節炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、同種移植拒絶、骨盤内炎症性疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、肺でのアレルギー性炎症、悪液質、ストローク、うっ血性心不全、肺線維症、肝炎、グリア芽細胞腫、ギラン・バレー症候群、全身性エリテマトーデス、ウイルス性心筋炎、移植後臓器保護、急性膵炎、過敏性腸疾患、一般的炎症、自己免疫疾患、自己炎症性疾患(autoinflammatory disease)、動脈狭窄、臓器移植拒絶およびやけど、および慢性症状、例えば、慢性肺損傷および呼吸困難、インスリン依存性糖尿病、インスリン非依存性糖尿病、高血圧症、肥満症、関節炎、神経変性障害、ループス、ライム病、痛風、敗血症、高体温、潰瘍、全腸炎、骨粗鬆症、ウイルスまたは細菌感染、サイトメガロウイルス、歯周病、糸球体腎炎、サルコイドーシス、肺疾患、肺炎症、肺の線維症、喘息、後天性呼吸困難症候群、タバコ誘発性肺疾患、肉芽腫形成、肝臓の線維症、移植片対宿主病、術後炎症、血管形成術、ステント留置またはバイパス移植後の冠血管および末梢血管再狭窄、冠動脈バイパス移植(CABG)、急性および慢性白血病、Bリンパ球白血病、新生物疾患、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、心筋炎症、乾癬、免疫不全、播種性血管内血液凝固、全身性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳脊髄炎、浮腫、炎症性腸疾患、高IgE症候群、癌転移または増殖、養子免疫療法、再潅流症候群、放射線熱傷、円形脱毛症(alopecia areta)、虚血、心筋梗塞、動脈狭窄、関節リウマチ、冠血管再狭窄、神経認知の減退およびインスリン抵抗性である。
【0017】
別の実施形態では、本発明は式(I)に記載の脂肪酸の代謝産物の検出方法を提供する。1種以上の脂肪酸代謝産物の検出は、少なくとも1種の式Iに記載の脂肪酸を生物学的サンプルと接触させることによって達成される。
【化4】

【0018】
式(I)中、Xは、-CH2-、-OH、-S、-ORtおよび-NRpRqからなる群から選択され、Yは、-C(O)-、O、-S-、および-NRpRqからなる群から選択され、Wは、-OH、-H、=S、-SRp -C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRt、NO2、=O、=NRp、=CF2、および=CHFからなる群から選択され、Wが、-OH、-H、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRtおよびNO2 からなる群から選択される場合、Vは-CH-であり、かつWが、=O、=NRp、=CF2、および=CHFからなる群から選択される場合、Vは-C-である。
【0019】
a、b、c、d、e、およびfは、独立して、0〜15の範囲(両端を含む)の整数である。一実施形態では、dが0でない場合、cは0である。あるいは、cが0でない場合、dは0であり; 和(a + b + c + e + f)および(a + b + d + e + f)が、独立して、nが3〜15の範囲(両端を含む)の整数である式2nまたは2n+1を満たす整数に等しいようになっている。
【0020】
置換基-Rp、-Rqおよび-Rtは、独立して、H、(C1-C8)アルキルおよび(C1-C8)ハロアルキルから選択される。式I中、-Ra、-Ra'、-Rb、-Rb'、-Rc、-Rc'は、独立して、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CHF2、-CH2F、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRtおよびNO2からなる群から選択される。さらに、-Raおよび-Ra'は非水素基を同時には表さず; -Rbおよび-Rb'は非水素基を同時には表さず; かつ同様に-Rcおよび-Rc'は非水素基を同時には表さない。
【0021】
式I中、任意的な二重結合は、
【化5】

【0022】
によって示され、一方、
【化6】

【0023】
が存在する場合、それは、XおよびYおよびそれらが結合している炭素原子と一緒になって、5〜6員ヘテロシクリルまたはヘテロアリール環を表す。
【0024】
本発明の方法では、生物学的サンプルの性質に応じて、場合により、細胞可溶化物(lysate)を作製する。そして、生物学的サンプルまたは細胞可溶化物をβ-メルカプトエタノール(BME)と、1種以上の共有結合性BME-脂肪酸付加物を含む混合物の形成を可能にするために十分な時間、インキュベートする。BMEを含む細胞抽出物を質量分析に付することによって1種以上の脂肪酸代謝産物の同定を行う。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】BME-ケト脂肪酸付加物のフラグメンテーション時に検出されるイオンの代表的な質量スペクトルである。
【図2】BME-ケト脂肪酸付加物のフラグメンテーションによって得られる代表的なイオンピークの質量を示す。
【図3】COX-2の阻害研究の結果を示す。該結果は、求電子性脂肪酸の形成がCOX-2のレベルに依存することを示す。
【図4】細胞での脂肪酸補充研究の結果のグラフ表示である。22:5 ω-3ケト脂肪酸の生産は、18:5 ω-3脂肪酸を出発材料として使用する一連の伸長および不飽和化ステップを必要とすることが発見された。
【図5】マクロファージ活性化時のEFADの生産を示す。RAW264.7細胞をPMA (3.24μM)、LPS (0.5μg/ml)、およびIFNγ(200 U/ml)で活性化し、活性化の20時間後に回収した。(a) 78のニュートラルロス(BMEの損失)を追跡するMRMスキャンを使用して、活性化(a, 上のクロマトグラム)および非活性化(a, 下のクロマトグラム) RAW 264.7細胞由来の細胞抽出物中の、BMBと付加物形成(adducted)した求電子性脂肪酸を検出した。(b) THP-l細胞をPMA (86 nM)で16時間分化させ、Kdo2 (0.5μg/m1)およびIFNγ(200 U/ml)で活性化し、活性化の8時間後にEFADレベルを検出した。(c) RAW264.7細胞を指定の化合物で活性化し、活性化の20時間後にEFADレベルを定量した。化合物濃度は以下の通りである: LPS (0.5μg/m1)、Kdo2 (0.5μg/m1)、IFNγ(200 U/ml)、PMA (3.24μM)、およびfMLP (1μM)。データを平均±S.D. (0=4)として表記し、ここに、* = "PMA + IFNγ+ LPS"と有意に異なる(p<0.0l)、および# = LPSと" Kdo2 + IFNγ"との間の有意な差異(p<0.0l)である(一元配置ANOVA, post-hoc Tukey法)。(d) RAW264.7細胞をKdo2 (0.5μg/ml)およびIFNγ(200 U/ml)で活性化し、活性化後の指定の時点でEFADレベルを定量した。他のEFADの一般的な典型としてEFAD-2レベルを報告する。
【図6】EFAD-2がDPAのα, β-不飽和オキソ誘導体であることを示す。(a) 78 amuの大きなニュートラルロス(BMEの損失に対応する)を示す特徴的なBME求電子試薬付加物フラグメンテーションパターンがEFAD-2のエンハンスドプロダクトイオン分析(enhanced product ion analysis)によって示される。(b) 32μMの指定の脂肪酸を補充したDMEMおよび10% FBS中でRAW264.7細胞を3日間培養した。3日目に細胞をKdo2 (0.5μg/m1)およびIFNγ(200 U/ml)で活性化し、活性化の20時間後にEFAD-2レベルを定量した。(c) オキソ基からアルコール基へのNaBH4還元の図。(d) 無処理またはNaBH4で処理された(上および下のパネル)、EFAD-2に関して精製されたRAW264.7細胞可溶化物中の343.2/299.2 (CO2を失っているオキソ-DPA)のm/zトランジションをモニターするMRMスキャン; EFAD-2に関して精製されかつNaBH4で処理されたRAW264.7細胞可溶化物中の[345.2/327.2 (ヒドロキシ-DPA/H20のニュートラルロス)のm/zトランジションをモニターするMRMスキャン。(e) 活性化RAW 264.7細胞から精製されかつNaBH4で還元されたEFAD-2のMS/MSフラグメンテーション。
【図7】EFAD-2形成がCOX-2活性に依存することを示す。指定のインヒビターの存在下でKdo2 (0.5μg/ml)およびIFNγ(200 U/ml)でRAW264.7細胞を活性化し、活性化の20時間後にEFAD-2レベルを定量した。(a) インヒビター濃度は以下の通りであった: ゲニステイン(25μM)、MAFP (25μM)、MK886 (500 nM)、ETYA (25μM)およびOKA (50 nM)。(b) COXインヒビター濃度は以下の通りであった: ASA (200μM)、インドメタシン(25μM)、イブプロフェン(100μM)、ジクロフェナク(1μM)およびNS-398 (4μM)。データを平均±S.D. (n=4)として表記し、ここに、* = "Kdo2 + IFNγ"と有意に異なる(p<0.01) (一元配置ANOVA, post-hoc Tukey法)。(c) 精製ヒツジCOX-2 + DPA, ±ASAを使用してEFAD-2のヒドロキシ前駆体を合成し、指定の時点で定量した(MRM 345/327)。(d, e) COX-2およびCOX-2±ASAによって形成された2種の異性体のクロマトグラフィープロファイル(左パネル)およびスペクトル(右パネル)。(f) RAW264.7細胞をKdo2 (0.5μg/ml)およびIFNγ(200 U/ml)±ASAで活性化し、オキソDPAの生産を分析し、17-オキソDPA標準と比較した。421.2/343.2のm/zトランジション(BMEを失っているEFAD-2のBME付加物)を追跡するMRMスキャンによってEFAD-2の溶出プロファイルをモニターした。(g-i) RAW264.7細胞をKdo2 (0.5μg/ml)およびIFNγ(200 U/ml)で活性化するか、またはビヒクルコントロールで処理し、活性化の20時間後に可溶化物を回収した。OH-DPA (μM)、DPA (μM)、またはビヒクルを細胞可溶化物に加え、オキソ-DPAまたはOH-DPAの生産を経時的にモニターした。黒および中抜きの記号は、それぞれ、活性化および非活性化細胞由来の細胞可溶化物の使用を示す。
【図8】活性化初代マウスマクロファージでのEFADの形成を示す。骨髄由来マクロファージをKdo2 (0.5μg/ml)およびIFNγ(200 U/ml)で活性化し、活性化の10時間後にEFADを検出した。
【図9】細胞中のタンパク質とのEFAD付加物の形成を示す。(a) RAW264.7細胞をKdo2 (0.5μg/ml)およびIFNγ(200 U/ml)で活性化し、活性化の20時間後に回収した。そして、細胞可溶化物を2群: 500 mM BMEでの処理およびその後のアセトニトリルでのタンパク質沈殿(「トータル」)ならびにアセトニトリルでのタンパク質沈殿およびその後の500 mM BMEでの処理(「遊離+付加された小分子」)に分け(、かつ内部標準を加え)た。RP-HPLC-MS/MSによってEFAD-2レベルを定量した。(b) RAW264.7活性化細胞可溶化物でのEFAD-2とBMEの時間経過反応。
【図10】RAW264.7細胞の活性化後の細胞内および細胞外GS-オキソ-DPA付加物の検出を示す。(a) GS-13-オキソDPAの化学構造およびフラグメンテーションパターン。(b) 合成標準(上のパネル)、細胞培地(中のパネル)および細胞ペレット(下のパネル)由来の13-および17-オキソDPAのクロマトグラフィープロファイルおよび質量スペクトル。内部標準GS-5-オキソETE-d7を使用してシグナルレベルを補正することによって、回収効率に起因する差異を考慮に入れた。それぞれ細胞培地および細胞ペレット由来のサンプル中で最良の信号雑音比をもたらすフラグメントとして、フラグメント345.3および523.3を選択し、モニターした。フラグメント634.4は親イオン652.4からのH2Oの損失から生じ; m/z 523.3およびm/z 420.3は、ペプチドのフラグメンテーションに典型的なフラグメントy2およびc1に対応し、一方、345.3および308.2は脂質およびグルタチオン分子から生じた。m/z 505.3およびm/z 327.2は、それぞれ、523.3および345.3からのH2Oの損失から生じた。K/IはKdo2およびIFNγで処理された細胞であり; K/I + ASAはKdo2、IFNγおよびASAで処理された細胞であり; NTは無処理細胞である。
【図11】17-オキソDHAおよび17-オキソDPAによる抗酸化および炎症反応のモジュレーションを示す。RAW264.7細胞を増加濃度の17-オキソDHAおよび17-オキソDPAで処理した。(a) 処理の1時間後に細胞を回収し、核抽出物中のNrf2レベルを定量した。(b) 処理の18時間後に細胞を回収し、HO-1およびNqo1 (上のバンド)レベルをウエスタンブロットによって測定した。(c, d) RAW264.7細胞を増加濃度の17-オキソDHAおよび17-オキソDPAで6時間処理し、Kdo2 + IFNγを加えた。12時間の時点でサンプルを回収した。細胞培地中のIL-6、MCP-1およびIL-10レベルをQuantikine ELISA Kit (R&D Systems)によって測定し、総タンパク質含量によって正規化した(c); 細胞培地中の亜硝酸レベルを測定し、総タンパク質含量によって正規化し、総細胞可溶化物中のiNOSおよびCox-2レベルを測定した(d); (e) 0.5〜10,000 nMの範囲の濃度のロシグリタゾン、17-オキソDPA、17-オキソDHA、15d-PGJ2、17-ヒドロキシDHA、DPA、およびDHAに関してPPARγベータ-ラクタマーゼレポーターアッセイを実施した。
【図12】THP-l細胞によって生産されたEFADがRAW264.7によって生産されたものと共溶出することを示す。THP-l細胞をPMA (86 nM)で16時間分化させ、Kdo2リピドA (0.5μg/ml)およびIFNγ(200 U/ml)で活性化した。活性化の8時間後(8 h postctivation)にEFADレベルを検出した。78のニュートラルロスを追跡するMRMスキャンを使用してEFAD-BME付加物を検出した。
【図13】α,β-不飽和ケト誘導体のBME付加物がMS/MSによる定量に関して最も信頼できる濃度曲線をもたらすことを示す。(a) 化合物9-オキソODE.、12-オキソETE、15オキソEDEおよび9-オキソOTrEをBMEと2時間反応させ、内部標準である5-オキソETE-d7の存在下での段階希釈によって濃度曲線を作製した; (b-c) 9-オキソODE、12-オキソETE、15-オキソEDEおよび9-オキソOTrEの段階希釈物を、CO2のニュートラルロスを追跡する内部標準(5-オキソETB-d7)の存在下でのMRM(b)によって定量するか、または親質量を追跡するS1M(c)によって定量した。化合物に対応するすべてのピーク面積を内部標準に標準化し、濃度に対してプロットした。
【図14】EFAD生産がRAW264.7細胞活性化に依存することを示す。RAW264.7細胞を指定の化合物で活性化し、活性化の20時間後にEFADレベルを定量した。化合物濃度は以下の通りである: LPS (0.5μg/ml)、Kdo2リピドA (0.5μg/ml)、IFNγ(200 U/ml)、PMA (3.24μM)、およびfMLP (1μM)。データを平均±S.D. (n=4)として表記し、ここに、* = "PMA + IFNγ+ LPS"と有意に異なる(p<0.0l)、かつ# = LPSと"Kdo2 + IFNγ"との間の有意な差異 (p<0.0l)である(一元配置ANOVA, post-hoc Tukey法)。
【図15】EFAD生産が時間依存的であることを示す。RAW 264.7細胞をKdo2リピドA (0.5μg/ml)、IFNγ(200 U/ml)で活性化し、活性化後の指定の時点でEFADレベルを定量した。
【図16】EFAD-lおよび-3がn-3系の脂肪酸由来であることを示す。32μMの指定の脂肪酸を補充したDMEMおよび10% FBS中で3日間、RAW264.7細胞を培養した。3日目に、Kdo2リピドA (0.5μg/ml)およびIFNγ(200 U/ml)で細胞を活性化し、活性化の20時間後にEFAD-1および-3レベルを定量した。
【図17】EFAD形成がPLA2およびCOX-2活性に依存することを示す。指定のインヒビターの存在下でRAW264.7細胞をKdo2リピドA (0.5μg/ml)およびIFNγ(200 U/ml)で活性化し、活性化の20時間後にEFAD-2レベルを定量した。インヒビター濃度は以下の通りであった: ゲニステイン(25μM)、MAFP (25μM)、MK886 (500 nM)、ETYA (25μM)およびOKA (50 nM)。データを平均±S.D. (n=4)として表記し、ここに、* = "Kdo2 + IFNγ"と有意に異なる(p<0.01) (一元配置ANOVA, post-hoc Tukey法)。
【図18】EFAD形成がCO -2活性に依存することを示す。指定のインヒビターの存在下でRAW264.7細胞をKdo2リピドA (0.5μg/ml)およびIFNγ(200 U/ml)で活性化し、活性化の20時間後にEFAD-2レベルを定量した。COXインヒビター濃度は以下の通りであった: ASA (200μM)、インドメタシン(25μM)、イブプロフェン(μM)、ジクロフェナク(lμM)およびNS-398 (4μM)。データを平均±S.D. (n=4)として表記し、ここに、* = "Kdo2 + IFNγ"と有意に異なる(p<0.01) (一元配置ANOVA, post-hoc Tukey法)。
【図19】in vivoおよびin vitroの両方でアスピリンアセチル化COX-2が13-HDHAではなく17-HDHAを生産することを示す。10μM DHA±ASAの存在下でCOX-2によって合成されたHDHAのクロマトグラフィープロファイル(a)および質量スペクトル(b)。また、活性化RAW264.7細胞(K/I)±ASAの細胞可溶化物由来のHDHAのクロマトグラフィープロファイルを13-HDHAおよび17-HDHA合成標準と比較した。(c) 活性化RAW264.7細胞(K/I)±ASAによって生成されたオキソDAHのクロマトグラフィープロファイルを13-オキソDHAおよび17-オキソDHA合成標準と比較した。差し込み図に拡大したクロマトグラムを報告する。
【図20】EFADが他のα,β-不飽和ケト脂肪酸と比較してBMEに対する類似の反応性を有することを示す。Agilent 8453ダイオードアレイを使用して、種々のBME (50 mM)およびα,β-不飽和ケト脂肪酸(2.9μM)の擬一次反応速度を分光光度的に測定した。309 nm (15d-PGJ2)、289 nm (17-オキソ-DHAおよび17-オキソ-DPA)および287 nm (15-オキソETE)で吸光度変化(減少)を追跡した(左パネル)。リン酸バッファーpH 7.4中で37℃で反応を実行し、右側パネルに示すように450スペクトルを(1スペクトル/秒で)記録した。UV-Vis ChemStation (Agilent)を使用して吸光度の減少を一次曲線に調整した。
【図21a】GAPDHとEFAD-2のin vitro反応の質量分析による分析を示す。処理されたウサギGAPDH中の4残基を検出してEFAD-2の標的であると限定した。ペプチドをCys244 (a)、His163 (b)、Cys149 (c)およびHis328 (d)としてアルキル化した。上のパネルはEFAD-2改変ペプチドを示し、下のパネルは対応する天然のペプチドのスペクトルを示す。
【図21b】GAPDHとEFAD-2のin vitro反応の質量分析による分析を示す。処理されたウサギGAPDH中の4残基を検出してEFAD-2の標的であると限定した。ペプチドをCys244 (a)、His163 (b)、Cys149 (c)およびHis328 (d)としてアルキル化した。上のパネルはEFAD-2改変ペプチドを示し、下のパネルは対応する天然のペプチドのスペクトルを示す。
【図21c】GAPDHとEFAD-2のin vitro反応の質量分析による分析を示す。処理されたウサギGAPDH中の4残基を検出してEFAD-2の標的であると限定した。ペプチドをCys244 (a)、His163 (b)、Cys149 (c)およびHis328 (d)としてアルキル化した。上のパネルはEFAD-2改変ペプチドを示し、下のパネルは対応する天然のペプチドのスペクトルを示す。
【図21d】GAPDHとEFAD-2のin vitro反応の質量分析による分析を示す。処理されたウサギGAPDH中の4残基を検出してEFAD-2の標的であると限定した。ペプチドをCys244 (a)、His163 (b)、Cys149 (c)およびHis328 (d)としてアルキル化した。上のパネルはEFAD-2改変ペプチドを示し、下のパネルは対応する天然のペプチドのスペクトルを示す。
【図22】増加濃度のグルタチオントランスフェラーゼ(GST)を伴わないかまたは伴うEFADのインキュベーションの結果、酵素の添加量に依存する付加速度が生じ、EFADがGSTの基質であることが確認されたことを示す。
【図23】活性化RAW264.7細胞のペレットおよび培地中でGS-オキソDHA付加物が検出されることを示す。合成標準(上のパネル)、細胞培地(中のパネル)および細胞ペレット(下のパネル)から得られた13および17-オキソDHAのクロマトグラフィープロファイルおよび質量スペクトル。内部標準GS-5-オキソETE-d7を使用してシグナルレベルを補正することによって、回収効率に起因する差異を考慮に入れた。それぞれ細胞培地および細胞ペレット由来のサンプル中で最良の信号雑音比をもたらすフラグメントとして、フラグメント343.3および521.3を選択し、モニターした。フラグメント521.3および418.2はフラグメントy2およびc1に対応し、一方、343.3および308.2は脂質およびグルタチオン分子から生じた。フラグメント503.3は523.3からの水の損失から生じた。
【図24】図24は、17-オキソDHAおよび7-オキソDPAが骨髄由来マクロファージでの炎症反応.をモジュレートする(modulat)ことを示す。細胞を増加濃度の17-オキソDHAおよび17オキソDPAで6時間処理し、Kdo2リピドA (0.5μg/ml)およびIFNγを加えた。12時間の時点でサンプルを回収した。(2) 細胞培地中の亜硝酸レベルを測定し、総タンパク質含量に対して正規化し: 総細胞可溶化物中のiNOSおよびCOX-2レベルを測定した。(b) 細胞培地中のIL-6、MCP-1、およびIL-10レベルを測定し、総タンパク質含量に対して正規化した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
定義
本明細書中で使用される用語「アルキル」とは、1〜24個の炭素原子の分岐または非分岐飽和炭化水素基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシルなどを意味する。「低級アルキル」基は、1〜6個の炭素原子を含むアルキル基である。
【0027】
「アルケニル基」は、2〜24個の炭素原子の分岐または非分岐炭化水素基であり、構造式中に少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含む。
【0028】
本明細書中で用いられるフレーズ「アルキニル基」は、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を含む、2〜24個の炭素原子の分岐または非分岐炭化水素基を表す。
【0029】
本明細書中で使用される「アリール」とは、単環式または多環式芳香族基、好ましくは単環式または二環式芳香族基、例えばフェニルまたはナフチルを表す。特に指定されない限り、アリール基は、非置換であるか、または例えばハロ、アルキル、アルケニル、OCF3、NO2、CN、NC、OH、アルコキシ、アミノ、CO2H、CO2アルキル、アリール、およびヘテロアリールから独立して選択される1個以上の、および特に1〜4個の基によって置換されていてよい。典型的なアリール基には、非限定的に、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、クロロフェニル、メチルフェニル、メトキシフェニル、トリフルオロメチルフェニル、ニトロフェニル、および2,4-メトキシクロロフェニルが含まれる。
【0030】
用語「ハロゲン」および「ハロ」は、-F、-Cl、-Brまたは-Iを表す。
【0031】
用語「ヘテロ原子」は、酸素(O)、窒素(N)、および硫黄(S)を含むものとする。
【0032】
用語「ヒドロキシアルキル」とは、アルキル基の1個以上の水素原子が-OH基で置換されている、指定数の炭素原子を有するアルキル基を表す。ヒドロキシアルキル基の例には、非限定的に、-CH2OH、-CH2CH2OH、-CH2CH2CH2OH、-CH2CH2CH2CH2OH、-CH2CH2CH2CH2CH2OH、-CH2CH2CH2CH2CH2CH2OH、およびそれらの分岐型が含まれる。
【0033】
用語「ハロアルコイル(haloalkoyl)」とは、C1-C8アルキル基中の1個以上の水素原子がハロゲン原子で置換され、該ハロゲン原子は同じかまたは異なっていてよい、-(C1-C8)アルキル基を表す。ハロアルキル基の例には、非限定的に、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピルイル、ペンタクロロエチル、および1,1,1-トリフルオロ-2-ブロモ-2-クロロエチルが含まれる。
【0034】
用語「アミンまたはアミノ」とは、-NRpRq基を表し、式中、RpおよびRqはそれぞれ独立して水素、(C1-C8)アルキル、(C1-C8)ハロアルキル、および(C1-C6)ヒドロキシアルキル基を表す。
【0035】
用語「オキソ」とは、飽和または不飽和(C3-C8)環式または(C1-C8)非環式部分に結合している=O原子を表す。該=O原子は、環式または非環式部分の一部である炭素、硫黄、および窒素原子に結合していてよい。
【0036】
用語「複素環」とは、単環式、二環式、三環式、または多環式の系を表し、それは不飽和または芳香族であり、かつ窒素、酸素および硫黄から独立して選択される1〜4個のヘテロ原子を含み、ここに、窒素および硫黄ヘテロ原子は場合により酸化され、かつ窒素ヘテロ原子は場合により四級化される。二環式、および三環式環系が含まれる。複素環は任意のヘテロ原子または炭素原子を介して結合していてよい。複素環には、上で定義されるヘテロアリールが含まれる。複素環の代表的な例には、非限定的に、ベンゾオキサゾリル、ベンズイソオキサゾリル、ベンズチアゾリル、ベンズイミダゾリル、イソインドリル、インダゾリル、ベンゾジアゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンズイソオキサゾリル、プリニル、インドリル、イソキノリニル、キノリニルおよびキナゾリニルが含まれる。複素環基は非置換であるか、または、1個以上の置換基で場合により置換されていてよい。
【0037】
「ヘテロシクロアルキル」とは、1もしくは2個の飽和または不飽和環を含みかつ環中に少なくとも1個の窒素、酸素、または硫黄原子を含む単環式または二環式環系を意味する。用語「シクロアルキル」とは、1もしくは2個の飽和または不飽和環を含む単環式または二環式環系を表す。
【0038】
用語「ハロアルキル」とは、C1-C6アルキル基中の1個以上の水素原子がハロゲン原子で置換され、該ハロゲン原子は同じかまたは異なっていてよい、C1-C8アルキル基を表す。ハロアルキル基の例には、非限定的に、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピル、ペンタクロロエチル、および1,1,1-トリフルオロ-2-ブロモ-2-クロロエチルが含まれる。
【0039】
本明細書中で用いられる用語「ヘテロアリール」とは、1または2個の芳香環を含み、かつ芳香環中に少なくとも1個の窒素、酸素、または硫黄原子を含む単環式または二環式環系を表す。特に指定されない限り、ヘテロアリール基は非置換であるか、または例えばハロ、アルキル、アルケニル、OCF3、NO2、CN、NC、OH、アルコキシ、アミノ、CO2H、CO2アルキル、アリール、およびヘテロアリールから選択される1個以上の、および好ましくは1〜4個の置換基で置換されていてよい。ヘテロアリール基の例には、非限定的に、チエニル、フリル、ピリジル、オキサゾリル、キノリル、チオフェニル、イソキノリル、インドリル、トリアジニル、トリアゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル、ベンゾチアゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、チアゾリル、およびチアジアゾリルが含まれる。
【0040】
用語n-3、n-6、もしくはn-9多価不飽和脂肪酸(PUFA); n-3、n-6、もしくはn-9求電子性脂肪酸誘導体(EFAD)のそれぞれ; または任意のそれらの代謝産物は、それぞれ用語ω-3、ω-6、もしくはω-9多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはそれぞれω-3、ω-6、もしくはω-9求電子性脂肪酸誘導体(EFAD)またはその代謝産物と交換可能に使用される。同様に、用語オメガ-3、オメガ-6、もしくはオメガ-9多価不飽和脂肪酸(PUFA)、またはオメガ-3、オメガ-6、もしくはオメガ-9求電子性脂肪酸誘導体(EFAD)、またはその代謝産物は同物質を表す。
【0041】
この関連で、「代謝産物」のカテゴリーには、ケト脂肪酸の位置異性体(regioisomers)、立体異性体、および構造類似体が含まれる。ゆえに、本発明の代謝産物には、異なる炭素長のテイルを有する脂肪酸、ならびに二重結合の位置異性体(positional isomers)が含まれる。また、代謝産物クラス内には、PUFAのケトおよびヒドロキシ誘導体の位置異性体が含まれる。さらに、二重結合はシス(Z)二重結合またはトランス(E)二重結合であってよい。さらに、本発明にしたがって、代謝産物カテゴリーは、以下でさらに詳細に記載されるように、ケト脂肪酸の小分子類似体を包含することができる。
【0042】
用語「誘導体」とは、類似の化合物から誘導された化合物、または、1個以上の原子が別の原子または原子群で置換された場合に、別の化合物から生じることが想像できる化合物を表す。本発明に基づく脂肪酸代謝産物の誘導体には、非限定的に、脂肪酸テイル中の1個以上の炭素原子が酸素、硫黄またはアミノ基で置換されているすべての化合物が含まれる。例えば、脂肪酸テイルは1個以上のポリエチレングリコール単位または1個以上の1,2-ジアミノエタン単位またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0043】
用語「生物学的サンプル」とは、好適な生理学的に許容される担体中の、組織、細胞、細胞抽出物、ホモジナイズされた組織抽出物、1種以上の酵素の混合物、例えば非限定的にヒドロキシデヒドロゲナーゼおよびシクロオキシゲナーゼを含む混合物を表す。
【0044】
本発明の化合物はまた、種々の異性体型で存在することができ、それには、立体配置異性体、幾何異性体、および配座異性体が含まれ、ならびに種々の互変異性型で存在することができ、特に水素原子の結合点が異なる型で存在することができる。用語「異性体」は、本発明の化合物のすべての異性体型を包含するものとし、それには該化合物の互変異性型が含まれるものとする。
【0045】
本明細書中に記載の特定の化合物は不斉中心を有し、したがって異なる鏡像異性体およびジアステレオ異性体として存在する。本発明の化合物は光学異性体またはジアステレオマーの形式であってよい。したがって、本発明は、光学異性体、ジアステレオ異性体およびそれらの混合物、例えばラセミ混合物の形式の本発明の化合物および本明細書中に記載のその使用を包含する。本発明の化合物の光学異性体は、公知の技術、例えば不斉合成、キラルクロマトグラフィー、疑似移動床技術によって、または光学活性分割剤を用いる立体異性体の化学的分離によって取得することができる。
【0046】
特に指定されない限り、「立体異性体」とは、化合物の1つの立体異性体であって、該化合物の他の立体異性体を実質的に含まない立体異性体を意味する。ゆえに、1つの不斉中心を有する立体異性的(stereomerically)に純粋な化合物は該化合物の反対のエナンチオマーを実質的に含まない。2つの不斉中心を有する立体異性的に純粋な化合物は該化合物の他のジアステレオマーを実質的に含まない。典型的な立体異性的に純粋な化合物は、約80重量%を超える該化合物の1立体異性体および約20重量%未満の該化合物の他の立体異性体を含み、例えば約90重量%を超える該化合物の1立体異性体および約10重量%未満の該化合物の他の立体異性体、または約95重量%を超える該化合物の1立体異性体および約5重量%未満の該化合物の他の立体異性体、または約97重量%を超える該化合物の1立体異性体および約3重量%未満の該化合物の他の立体異性体を含む。
【0047】
記載される構造と該構造に与えられた名称との間に矛盾が存在する場合、記載される構造が支配する(controls)。さらに、構造の立体化学または構造の部分が、例えば、太線または破線で記載されていない場合、該構造または構造の部分はそのすべての立体異性体を包含すると解釈されるものとする。
【0048】
用語「プロドラッグ」とは、in vitroまたはin vivoで生物学的条件下で加水分解するか、酸化するか、または他の様式で反応して、活性化合物、特に本発明の化合物を提供することができる化合物の誘導体を意味する。プロドラッグの例には、非限定的に、生物加水分解性基(biohydrolyzable groups)、例えば生物加水分解性アミド、生物加水分解性エステル、生物加水分解性カルバマート、生物加水分解性カルボナート、生物加水分解性ウレイド、および生物加水分解性リン酸類似体(例えば、一リン酸、二リン酸または三リン酸化合物)を含む本発明の化合物の誘導体および代謝産物が含まれる。例えば、カルボキシル官能基を有する化合物のプロドラッグは該カルボン酸の低級アルキルエステルである。カルボン酸エステルは、分子上に存在する任意のカルボン酸部分をエステル化することによって好都合に形成される。プロドラッグは、Burger's Medicinal Chemistry and Drug Discovery 6th ed. (Wiley, 2001)およびDesign and Application of Prodrugs (Harwood Academic Publishers Gmbh, 1985)に記載される方法などの周知の方法を使用して典型的に製造することができる。
【0049】
用語「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」および「治療(treatment)」とは、疾患または疾患に関連する症状の改善または根絶を表す。特定の実施形態では、該用語は、疾患を有する患者に1種以上の予防物質または治療物質を投与することに起因して、該疾患の広がりまたは悪化を最小にすることを表す。
【0050】
用語「有効量」とは、疾患の治療または予防における治療または予防上の利益を提供するか、または疾患に関連する症状を遅延させるかもしくは最小にするために十分な本発明の化合物または他の活性成分の量を表す。さらに、本発明の化合物に関する「治療的有効量」とは、単独の、または他の療法と組み合わせた治療物質の量が疾患の治療または予防における治療上の利益を提供することを意味する。本発明の化合物とともに使用されると、該用語は、療法全体を向上させるか、疾患の症状もしくは原因を減少させるかもしくは回避するか、または別の治療物質の治療上の効力もしくは別の治療物質との相乗作用を増強する量を包含することができる。
【0051】
「患者」または「被験体」は本明細書を通して交換可能に使用され、該用語には、動物(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギまたはモルモット)が含まれ、一実施形態では、哺乳類、例えば非霊長類および霊長類(例えばサルおよびヒト)が含まれ、別の実施形態では、ヒトが含まれる。一実施形態では、患者はヒトである。特定の実施形態では、患者はヒト乳児、子供、青年または成人である。
【0052】
求電子性脂肪酸誘導体
多価不飽和脂肪酸はヒトにおいて多数の有益な健康効果を発揮する。主要な(n-3 PUFA)はエイコサペンタン酸(eicosapentanoic acid) (EPA; (5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-エイコサ-5,8,11,14,17-ペンタン酸)およびドコサヘキサン酸(docosahexanoic acid) (DHA; (4E,7E,10Z,13E,16E,19E)-ドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサン酸)である。EPAおよびDHAはともに、アラキドン酸由来のプロスタノイド合成およびその後のn-3プロスタノイド生産の競合阻害によって抗炎症効果を発揮する。本発明の関連で、求電子性脂肪酸誘導体(EFAD)はn-3 PUFAの酸化的代謝産物である。本発明に基づく典型的なEFADはα,β-不飽和ケト脂肪酸またはその代謝産物である。ケト脂肪酸は、ケトン基が、炭素-炭素二重結合に隣接する炭素原子上にある脂質である。ケト脂肪酸およびその生物学的代謝産物は、生物学的環境(biological mileu)中に存在する求核試薬との付加物形成反応を行うことによって生物学的効果を発揮する。
【0053】
ケト脂肪酸およびその代謝産物の同定
本発明者らは、COX-2依存性機構によって活性化マクロファージ中で生産される6種の求電子性脂肪酸誘導体(EFAD)を発見した。しかし、細胞のアセチルサリチル酸(ASA)処理により、EFADの形成の割合および細胞内濃度が上昇した。これら6種のEFADは、RAW264.7中で65 nM〜350 nMの範囲のnM濃度で見出され、LPSおよびIFNγ活性化THP-1細胞および初代マウスマクロファージによっても生産された。
【0054】
EFAD 1〜3は、それぞれ、n-3脂肪酸DHA、(7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,13,16,19-ペンタエン酸(DPA)、およびドコサテトラエン酸(DTA)のα,β-不飽和オキソ-誘導体として広範に特徴付けされた。EFAD 1および2の特定の13-オキソおよび17-オキソ位置異性体が同定されており、in vitroで合成された。その生物学的作用を調査すると、EFADは、活性化RAW264.7細胞中でタンパク質および小分子細胞性スルフヒドリル、例えばGSHと付加物を形成することが見出された。EFAD-1およびEFAD-2の17-オキソ標準(17-オキソDHAおよび17-オキソDPA)は、PPARγおよびKeap-1/Nrf2経路を活性化することができ、かつ活性化マクロファージ中で観察される細胞内濃度に相当する濃度で活性化マクロファージ中のiNOSおよびサイトカイン発現を阻害することができた。
【0055】
一実施形態では、本発明は、酵素によって生成される求電子性脂肪酸誘導体(EFAD)、または酵素によって生成されるその代謝産物のクラスを記載する。EFADおよびその代謝産物はヒトの健康に有益な効果を有する。本発明によれば、本発明のケト脂肪酸または酵素によって生成されるその代謝産物は、in vivoで適応シグナル伝達分子を生じさせることによって炎症を阻害することができる。炎症症状に対する反応の性質が特定のケト脂肪酸の細胞レベルに依存するため、生物学的サンプル中のこれらの物質を同定可能な分析方法の開発が重要である。本発明は、生物学的サンプルを分析するための質量分析法を提供する。すなわち、本方法は、β-メルカプトエタノール(BME)によって駆動される、求電子性化合物のアルキル化を逆相-高圧液体クロマトグラフィータンデム型質量分析(RP-HPLC-MS/MS)22法とともに使用して、ケト脂肪酸およびその代謝産物を同定する。
【0056】
したがって、求核試薬として作用するβ-メルカプトエタノールと求電子試薬である式I、IIまたはIIIの脂肪酸代謝産物との間のマイケル付加反応を可能にするために十分な時間、目的の生物学的サンプルをβ-メルカプトエタノール(BME)とインキュベートし、1種以上の共有結合性β-メルカプトエタノール-求電子性脂肪酸付加物を含む混合物を形成させる。サンプル中のケト脂肪酸の同一性は、結果として生じるサンプルのクロマトグラム中の質量ピークから推定される。この方法を炎症のin vitroモデルに適用することによって、従来のスクリーニング方法では見落とされるかもしれない未知のまたは不十分にしか特徴付けられていない分子種が、より顕著に同定されると仮定された。BMEとのアルキル化反応によって付加物形成RESのMS/MS条件が標準化され、それぞれ独自の特定のMS/MS特性を有する一連のRESに類似のイオン化およびフラグメンテーション特性が得られる。したがって、可逆的RES遊離型または、タンパク質もしくは小分子チオールに付加された可逆的RES、MS/MS時に不十分にしかフラグメント化しない分子種、検出限界以下の濃度であった分子種、および現在の知識に基づいてその形成が予測できなかった分子種が、本方法によって同定され得るであろう。
【0057】
図1に示すように、本発明の方法による細胞可溶化物の分析の結果、78ダルトンの質量差を示す2つのピークが得られた。該質量差は付加物からのBME基の損失(-78 amu; [M-BME]-)に起因する。そのようなフラグメンテーションから得られる最終結果は、その質量が、細胞可溶化物中に存在するケト脂肪酸の質量と一致する第二のピークである。ケト脂肪酸の同一性を確認する追加の証拠は、M-BMEピークのフラグメント化およびその後の、結果として生じるフラグメントイオンの分析によって得られる。本発明の方法の利点は、生物学的サンプル中のケト脂肪酸の検出の感度および精度を高める良好な脱離基(すなわちBME)を提供することである。
【0058】
本方法を使用して、PMA、LPS、およびIFNγによるRAW 264.7細胞の活性化時に形成される6種の以前に特徴付けられていない主要なRES種(図5a)を同定した。MS/MS実験により、6種のEFADのそれぞれからのBMEのニュートラルロスが確認された(データは示されない)。PMA、Kdo2およびIFNγ活性化THP-1細胞、ヒト単球/マクロファージ細胞系中で同じ求電子性分子種を検出した(図5bおよび12)。それらの相対的存在量は2つの細胞系間で異なったが、MS/MSスペクトルは同一の特徴的損失および類似の強度比を示した(データは示されない)。
【0059】
求電子性脂質の検出および定量化のためのBME法の堅牢性を、CO2の損失を追跡するBME法、選択イオンモニタリング(SIM)およびマルチイオンモニタリング(MRM)モードを使用してα,β-不飽和部分を含む種々の求電子性脂肪酸の質量分析反応を比較することによってさらに試験した(図13)。各試験濃度で異なる脂肪酸に関して得られたプロセス全体の標準偏差は、BMEでは40%〜50%、MRMでは60〜83%、およびSIM分析では15〜35%の範囲であった。さらに、本発明者らは、BMEに基づく質量分析の方法論が、他の質量スペクトルに基づく方法より優れていることを見出している。その理由は、前者が、一貫して、強いシグナル強度、低いバックグラウンドレベルおよび線形性をもたらしたからである。SIMおよびMRM分析が高いバックグラウンドレベルのために非常に不十分な結果しかもたらさない生物学的サンプルに関してBME法を選択した。
【0060】
EFAD形成はマクロファージ活性化後の時間依存的である
異なる炎症症状下でのEFADの形成を、種々の刺激で細胞を処理することによって確認した。ゆえに、LPS、IFNγ、PMA、fMLP、およびKdo2-リピドA (Kdo2)の種々の組み合わせでマクロファージを活性化した(図1cおよび補足図3)。合成内毒素であるKdo2を使用して、EFAD形成への潜在的LPS調製混入物の寄与を回避した。Kdo2-リピドAおよびIFNγの組み合わせはLPSとほぼ同一に作用したため、以降の全ての実験にそれを使用した。これにより、LPS中の成分または混入物自体はEFADの前駆体の役目を務めていないことがさらに確認された。さらに、経時的分析により、EFAD形成が活性化の4〜6時間後に始まり、約10時間でピークに達することが示された(図1dおよび補足図4)。他のEFADの時間依存的形成のプロファイルはEFAD-2のプロファイルに類似であり(データは示されない)、異なる分子種に関して得られた細胞内濃度の範囲は65〜350 nMの範囲であった(表1)。
【0061】
EFADはn-3脂肪酸のα,β-不飽和オキソ-誘導体である
同定に関わるEFAD中のα,β-不飽和ケトン基の存在の確認は、(10 ppm未満の精度での)質量-飛行時間(TOF)データ、溶出プロファイルの分析に基づき、かつEFADのフラグメンテーション時のCO2の損失の観察に基づいた。ゆえに、DPAのEFAD (EFAD-2)が、全部で5個の二重結合を有する22-炭素脂肪酸テイルの一酸素化(mono-oxygenated)誘導体であることが同定された。BMEが付加されたEFAD-2 (m/z 421 [M-H]-)のMS/MSスペクトルは、m/z 403 ([M-H-H2O])、377 ([M-H-CO2])、343 ([M-H-BME])、325 ([M-H-BME-H2O])、および299 ([M-H-BME-CO2])の特徴的フラグメントイオンを示した(図6a)。これは、以前に報告されたBME付加物のフラグメンテーションパターン22と一致する。
【0062】
同様に、DHAのEFAD (EFAD-1)およびDTAのEFAD (EFAD-3)を、それぞれ全部で6および4個の二重結合を有する、22-炭素脂肪酸の一酸素化誘導体として同定した。in vivoでの前駆体を解明するために、脂肪酸補充研究を実施した。18:3 n-3 (α-リノレン酸)および20:5 n-3 (EPA)を補充した活性化RAW264.7細胞中でEFAD-2の形成は顕著に増加し、一方、対応するn-6分子種を供給した場合に形成はわずかに減少した(図6b)。これらの結果は、EFAD-2が排他的にn-3 PUFA由来であることを示した。さらに、図4に示すようにEFAD-2形成はCOX-2依存的である。22:6 n-3 (DHA)の補充はEFAD-2レベルを増加させなかった。これは、哺乳類細胞は短い鎖のPUFAを不飽和化しかつ伸長することができるが、それらは一般にDHAなどのPUFAを再飽和させない事実と一致した。
【0063】
活性化RAW264.7細胞中のEFAD-1の形成は22:6 n-3の補充によってのみ増加した(図16a)。EFAD-3はn-3およびn-6脂肪酸の両者の補充によって増加した。それは、その前駆体がn-3またはn-6 DTAのいずれかであることを示す(図16b)。概して、この研究では、EFAD-1、EFAD-2、およびあるパーセンテージのEFAD-3がn-3脂肪酸DHA、DPAおよびDTAの誘導体であり、一方、EFAD-4〜-6がn-3およびn-9脂肪酸から合成されることが示された(表1)。
【表1】

【0064】
EFADの求電子性官能基がα,β-不飽和カルボニルであることのさらなる確認および脂肪酸テイル中の他の求電子性基(例えばエポキシ基)の存在を除外するためのさらなる確認は、Luche反応を実施することによって達成された(図6c)。この反応では、(CeCl3の存在下で) NaBH4を使用して、位置選択性を失うことなく(エポキシまたはカルボン酸基ではなく)カルボニル基をアリルアルコールに選択的に還元する23。IFNγおよびLPS-活性化RAW264.7細胞可溶化物由来の脂質抽出物をHPLCによって分画した。EFAD-2を含むフラクションを精製し、NaBH4で還元した結果、EFAD-2に対応するシグナルが顕著に低下し、かつ、トランジション345/327で、以前に存在しなかったピークが出現した(EFAD-2の還元産物、図6d)。典型的にMS/MS時にヒドロキシ基によって誘発される増強されたフラグメンテーションのせいで、Luche反応の産物はカルボニル基の位置についての適切な情報をもたらした。したがって、一般に観察されるイオンフラグメント(m/z 327 ([M-H]-H2O)および283 ([M-H]-H2O-CO2)に加えて、NaBH4で還元されたEFAD-2に富むフラクション中で以下の13-ヒドロキシ-DPA (13-OH-DPA)の診断イオン: m/z 223, 205 (223-H2O)および195が観察された(図6e)。これらの知見は、EFAD-2が13-オキソDPAに対応し、かつEFAD-3がDTAのオキソ-誘導体であることを最終的に明らかにした。(表1)
BME技術は、求電子性ケト脂肪酸の、生物学的に重要な代謝産物を特定するために有用である。例えば、発明者らはBME技術を使用して、強力な抗炎症性求電子性シグナル伝達分子である生物活性C-10〜C18代謝産物を探し出した。小さい、低分子量代謝産物は、向上した安定性およびバイオアベイラビリティを有し、それにより、これらの化合物ならびにこれらの脂肪酸代謝産物の誘導体は慢性痛および炎症の治療のための候補薬物になる。
【0065】
ケト脂肪酸およびその代謝産物
主要なn-3多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)であるエイコサペンタン酸(EPA; (5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-エイコサ-5,8,11,14,17-ペンタン酸)およびドコサヘキサン酸(DHA; (4E,7E,10Z,13E,16E,19E)-ドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサン酸)は、ヒトでの多数の有益な健康効果と結び付けられている。特に、健常個体の脳および網膜組織はDHAに富み、かつDHAはこれらの組織の正常な発達および機能に必要である1,2。さらに、飲食物中のDHAの消費は、神経認知の減退の減少3、糖尿病でのインスリン抵抗性の改善4、心筋梗塞などの心血管リスクの発生率の低下5、および炎症の減少6に関与する。EPAおよびDHAはともに、アラキドン酸由来のプロスタノイド合成、およびその後のn-3プロスタノイド生産の競合阻害によって抗炎症効果を発揮し、血管拡張を誘発し、血小板凝集を阻害し7、かつその機構が依然として不明である一連の抗炎症イベントを促進する能力を有する。
【0066】
いくつかの新しいクラスの抗炎症性脂質メディエーターが最近報告されている。炎症誘発性プロスタノイドに構造的に関連するが、これらの脂質誘導体は、NF-κB活性化を抑制し、サイトカイン発現をモジュレートし、Gタンパク質共役受容体を活性化し8、かつ細胞保護反応を促進する9ことによって炎症の消散を促進する。これらには、酵素によって合成されるレゾルビン(Rv)、ニューロプロテクチン(neuroprotectins)、マレシン(maresins)、およびリポキシン(LX)が含まれる。オキシゲナーゼ、例えばシクロオキシゲナーゼ-2 (COX-2)およびリポキシゲナーゼ(LOX)は、炎症イベントの発生および細かく組織化されたその消散の両者における重要な酵素として、これらの生合成プロセスに関与する10
【0067】
そのような脂質誘導体の第2の群には、非酵素的酸化イベント時に主に形成される反応性求電子性分子種(RES)であるニトロ-脂肪酸(NO2-FA)、15-デオキシ-Δ(12,14)-プロスタグランジンJ2 (15d-PGJ2)、およびニューロプロスタン(neuroprostanes)が含まれる。本発明の文脈で、求電子性脂肪酸誘導体(EFAD)はn-3 PUFAの酸化的代謝産物である。典型的なEFADはケト脂肪酸である。ケト脂肪酸は、二重結合の炭素原子に隣接してケトン基が存在する脂質である。ケト脂肪酸ならびにその生物学的代謝産物は反応性求電子性分子種(RES)であり、主に求電子反応を介してその生物学的効果を発揮する11,12
【0068】
RESは、α-炭素を電子不足にし、かつ電子に富むドナー分子(求核試薬)に対して反応性にする電子吸引性官能基を有することによって特徴付けられる分子である。電子吸引基の強度は求電子試薬の反応性を決定する。本発明のケト脂肪酸またはその代謝産物中に存在する典型的な電子吸引基は、生物学的求核試薬とのマイケル付加反応を行うことができるα,β-不飽和カルボニル基である。さらに詳細なRESの特徴付けを本明細書中の以下に記載する。
【0069】
ゆえに、それぞれ、マウス細胞(RAW264.7)およびヒト単球細胞(THP-1)で炎症が開始する場合、ケト脂肪酸の細胞内レベルが上昇する。特に、本発明者らは、活性化マクロファージ中で6種の求電子性脂肪酸誘導体(EFAD)を同定した。活性化マクロファージ中のこれらのEFADは、質量分析によって、それぞれ、n-3脂肪酸DHA、(7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,13,16,19-ペンタン酸(DPA)、およびドコサテトラン酸(docosatetranoic acid) (DTA)のα,β-不飽和オキソ-誘導体として特徴付けられた。特に、DHAおよびDPA EFADに関して13-オキソおよび17-オキソ位置異性体が同定されている。
【0070】
EFADの生物学的生産
1. COX-2の役割
いかなる特定の理論によって拘束されることも望まないが、本発明者らは、活性化細胞中でCOX-2依存的機構を介してEFADが生産されると考える。例えば、EFADをPUFAのα,β-不飽和オキソ-誘導体として特定するプロセスでは、その合成に関与する経路を決定するための一連の実験を実施した。Kdo2およびIFNγで活性化されかつ種々のインヒビターで処理されたRAW264.7細胞中でEFADレベルを定量した(図7a、図17、および表1)。
【0071】
ゲニステインおよびメチルアラキドニルフルオロホスホナート(MAFP)は、EFAD生産を50%より大きく阻害した。LPSおよびIFNγシグナル伝達を阻害するための一般的チロシンキナーゼインヒビターとしてゲニステインを選択した。カルシウム依存性およびカルシウム非依存性サイトゾルホスホリパーゼA2 (cPLA2およびiPLA2)の両者の選択的不可逆的インヒビターであるMAFPを用いて、RAW264.7細胞活性化時に細胞質膜からEFAD前駆体が放出されるかどうかを決定した。5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)がEFAD形成に関与するかどうかを決定するために、MK886を使用して5-LOXのFLAP依存的活性化を妨げた。MK886はEFADに対して有意な効果を有さなかった。
【0072】
COXおよびLOX酵素の非特異的インヒビターであるエイコサテトライン酸(eicosatetraynoic acid) (ETYA)はEFAD形成を強く阻害することが見出され、一方、一般的ホスファターゼインヒビターであるオカダ酸(OKA)は、おそらくLPSおよびIFNγシグナル伝達の増強に起因してEFAD形成のわずかな増加を生じさせた。EFAD形成に対するETYAの阻害効果が特にCOXの阻害に起因するかどうかを決定するために、Kdo2およびIFNγで活性化され、そのIC50値の少なくとも5倍の濃度のCOXインヒビターで処理されたRAW264.7細胞中のEFADレベルを定量した24 (図7c、および18、および表1)。
【0073】
インドメタシンおよびジクロフェナクはEFAD形成を完全に消滅させることが見出され、一方、イブプロフェンは、有意な効果を示さなかったEFAD-1を除き、EFAD形成を80%より大きく顕著に阻害することが見出された。さらに、ニメスリドに構造的に密接に関連する選択的COX-2インヒビターであるNS-398も同様にEFAD形成を消滅させた。すなわち、炎症を減少させるために使用されるCOX-2特異的な慣用の非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)は、結果として細胞のケト脂肪酸レベルも減少させる。図3を参照のこと。
【0074】
最後に、アセチルサリチル酸(ASA)は、EFAD-4およびEFAD-6のみを除くすべてのEFADに関してEFAD形成を顕著に約2.5倍増加させた。これは、COX-2 Ser530のASAアセチル化が長鎖PUFAの一酸素化誘導体の形成を促進することを示す以前の報告25と一致した。すべてのEFADに関するインヒビター研究で得られた結果の概要を表1に報告する。
【0075】
COX-2阻害研究の結果はEFAD形成へのCOX-2の関与を示し、酵素的EFAD合成のin vitroモデルの開発に刺激を与えた。精製ヒツジCOX-2を使用してEFAD-2前駆体(OH-DPA)を作製し(図7c〜e)、一方、EFAD-1前駆体であるヒドロキシ-DHA (OH-DHA)はDHAからCOX-2によって生産された(図19aおよび19b)。興味深いことに、ASAはOH-DPA形成の速度および程度を増加させ(図7c)、かつ生産されるヒドロキシ-異性体集団を13-から17-にシフトさせた(図7d〜fおよび図19aおよび19b)。
【0076】
質量分析を使用する酵素反応混合物の分析では、特徴的フラグメンテーションパターンが示された。COX由来13-OH-DPAのフラグメンテーションパターンでは、特徴的なm/z 195および223イオンが観察された。これらのイオンは、ホウ水素化ナトリウム(NaBH4)を使用する還元反応に付されたRAW264.7細胞抽出物に関して観察されるヒドロキシル基によって誘発されるフラグメンテーションに対応する(図6eおよび7d)。対照的に、COX-2反応混合物をASAで処理すると、C-17位のヒドロキシル基に対応する特徴的イオンが検出された(図7e)。活性化された、ASA処理RAW264.7細胞では、このシフトの結果、EFAD-2について図7g、EFAD-1について図19cに示すように、17-オキソ-異性体が生産された。
【0077】
2. ヒドロキシデヒドロゲナーゼの役割
PUFAから、その対応するオキソ-誘導体への変換は、COX-2に加えてヒドロデヒドロゲナーゼの存在を必要とする。例えば、活性化または非活性化RAW264.7細胞由来の可溶化物を、EFAD-2前駆体であるDPAおよびOH-DPAとインキュベートした。活性化および非活性化細胞可溶化物をNAD+の存在下でOH-DPAとインキュベートすると、EFAD-2の時間依存的生産が生じた(図7g)。対照的に、DPAとインキュベートした場合、活性化細胞由来の可溶化物のみがOH-DPAおよびEFAD-2の時間依存的生産を示した(図7g〜i)。
【0078】
これらの結果は、活性化細胞のみがDPAをそのオキソ誘導体(オキソ-DPA)に代謝的に変換可能であることを示し、PUFAから、その対応するヒドロキシ誘導体への変換におけるCOX-2の役割が確認され、該ヒドロキシ誘導体は、構成的に発現されると思われるヒドロキシデヒドロゲナーゼを介して酵素的に、対応するオキソ誘導体に変換される。したがって、本発明者らによれば、ケト脂肪酸のin vivoレベルとCOX-2のin vivoレベルとの間に線形相関が存在する。初代細胞系などの他の細胞系でのEFADの形成もまた、以下の実験セクションでさらに説明するように、本発明者らによって決定された。
【0079】
EFADは細胞保護性および抗炎症性経路を活性化する
上記のように、本発明の化合物は生物学的チオールと反応して可逆的共有結合性付加物を形成することができる。ゆえに、EFADなどの細胞内RESは、Nrf2インヒビターKeap1のチオール依存的改変を介するNrf2依存的抗酸化反応経路の活性化を促進する。これは、転写因子Nrf2の核移行およびその標的遺伝子の発現を誘発する28。例えば、17-オキソDHAおよび17-オキソDPAは用量依存的Nrf2核蓄積および細胞保護酵素ヘムオキシゲナーゼ1 (HO-1)およびNAD(P)H:キノン酸化還元酵素1 (Nqo1)の発現を促進した(図11aおよび11b)。
【0080】
17-オキソDHAおよび17-オキソDPAが、Kdo2およびIFNγによって生成した炎症反応のモジュレーションに役割を果たすかどうかを調査するために、本研究者らは、増加用量の17-オキソDHAおよび17-オキソDPAに曝露された細胞中のサイトカイン、IL-6、MCP-1およびIL-10のレベルの変化を研究する。
【0081】
MCP-1およびIL-10の両者の細胞内レベルはEFAD処理後に用量依存的様式で抑制された。例えば、最高濃度のEFADでMCP-1レベルの〜80%減少が観察され、一方、IL-6の約50%減少が観察された(図11c)。骨髄由来マクロファージ(BMDM)において類似の結果が観察された(図23a)。図11dに示すように、EFAD-1および-2は、RAW264.7およびBMDMの両者において、誘導性一酸化窒素シンターゼ(iNOS)誘導およびその後の細胞培地中の亜硝酸の蓄積を強くかつ用量依存的に抑制した(図23b)。
【0082】
特に、それぞれ25および20μMの17-オキソDPAおよび17-オキソDHA濃度で亜硝酸生産の〜70%減少が観察された。興味深いことに、この研究では、Cox-2誘導はEFADによって影響を受けなかった。iNOSおよび分析される炎症誘発性サイトカインの発現はNF-κBおよびStat-1の活性に依存する。求電子性脂質は、NF-κBサブユニットp65のDNA結合ドメインへの直接付加およびインヒビターIκBαへの直接付加によってかまたは間接的機構を介してこれらの転写因子の活性化を抑制できることが報告されている。しかし、EFADはp65核移行およびDNA結合またはStat1リン酸化を有意には阻害しない。
【0083】
オキソ-脂肪酸、例えば15d-PGJ230、5-オキソEPA、6-オキソOTE、および合成4-オキソDHA31がペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)に共有結合によって結合し、かつそれを活性化するという観察は、17-オキソDPA、および17-オキソDHAがPPARγを活性化する能力を試験するよう本発明者らを促した。ゆえに、強力な合成PPARγアゴニストであるロジグリタゾン(Roziglitazone)を使用してPPARγベータ-ラクタマーゼレポーターアッセイを実施した。ロジグリタゾンはポジティブコントロールとしてアッセイで使用した。
【0084】
両EFAD (17-オキソDPAおよび17-オキソDHA)はPPARγを活性化し(図11e)、天然のリガンド15d-PGJ2 (〜25 nM)と比較してわずかに高いEC50 (〜40 nM)を有し、かつ17-OH-DPA (>10μM)およびその対応する天然の脂肪酸(DHAおよびDPA)より何桁も低いEC50を有した。
【0085】
生物学的チオールとのその反応性のために、本発明のEFADおよびその代謝産物は、COX-2遺伝子の転写因子の結合ポケット中に存在するシステインと反応し、それにより、転写因子を不活性化すると考えられる。その結果、細胞のCOX-2レベルの低下によって炎症が阻害される。
【0086】
本発明はまた、ケト脂肪酸またはその代謝産物の特定の模倣物を提供する。該模倣物の合成は以下に記載される通りである。
【0087】
ケト脂肪酸の模倣物の合成
多数の生物活性分子中で見出されるα,β-不飽和ケトン単位は医薬品化学における重要なシントンである。α,β-不飽和ケトン単位を含む生物活性分子に関して、いくつかの合成が報告されている。Synder, B. et al., Org Lett., (2001), 3(4), 569-572およびBamford, S. et al., Org Lett., (2000), 2(8), 1157-1160を参照のこと。
【0088】
この背景に対して、本発明者らは、式Iに記載の脂肪酸が炎症反応の強力なメディエーターであることを見出した。
【化7】

【0089】
特に、α,β-不飽和ケト脂肪酸は強い抗炎症効果を示す。いかなる特定の理論をも支持しないが、本発明者らは、一部の実施形態で、不飽和脂質のケトおよびカルボン酸基(carboxylate groups)が、エフェクタータンパク質の結合ポケットの内側を覆う(line)残基との静電的および水素結合性相互作用に寄与すると考える。
【0090】
したがって、本発明は、上記静電的および水素結合性相互作用を保持するケト脂肪酸模倣物を提供する。本発明の一部の実施形態では、以下の式IIにしたがう模倣物は、α,β-不飽和アルキルケトンにコンジュゲートされた複素環式ジオンの類似体である。本発明の模倣物のジオン官能性は、脂質のカルボン酸頭部基(head group)と同様に、エフェクタータンパク質の結合ポケット内の同じ領域を占有すると考えられる。ゆえに、ジオン官能性は、生物学的ケト脂肪酸のカルボン酸基の様式でタンパク質と相互作用するであろう。さらに、模倣物のテイル領域中のケト基の位置を維持することによって、式(II)の化合物はその標的に密接に結合すると考えられる。
【化8】

【0091】
式IIに示される化合物の合成は、適切に置換されたニトリルをジエチルホスホナートと反応させること、およびその後のエナミンホスホナートとアルデヒドとの塩基触媒反応によって達成することができる。スキーム1はこの合成ストラテジーを示す。
【化9】

【0092】
このストラテジーは多用途であり、種々の複素環式ジオンと適切に官能化されたα,β-不飽和アルキルケトンとのコンジュゲーションを可能にする。ゆえに、スキーム1中のXは、硫黄、酸素、または非置換であるか、もしくは適切に置換された窒素原子であり得る。
【0093】
スキーム1に示されるストラテジーはまた、ケト基に対するアルファ炭素上に置換基を保持する模倣物の合成を可能にする。ゆえに、スキーム1中のR1は、水素、(C1-C8)アルキル、(C2-C8)アルケニル、(C2-C8)アルキニル、(C1-C4)アルコキシ、(C1-C4)アルコキシ(C1-C4)アルキル、(C1-C8)フルオロアルキル、(C1-C8)ヒドロキシアルキル、(C3-C8)シクロアルキル、(C4-C8)ビシクロアルキル、(C3-C8)ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アリール、(C3-C8)シクロアルキル(C1-C6)アルキル、(C3-C8)ヘテロシクロアルキル(C1-C6)アルキル、ヘテロアリール(C1-C6)アルキルおよびアリール(C1-C6)アルキルからなる群から選択される。
【0094】
さらなる実施形態では、本発明の模倣物はトリアゾール誘導体である。式IIIを参照のこと。いくつかの研究でトリアゾール単位がカルボン酸基の模倣物であることが示されている。ゆえに、カルボン酸部分の代わりにトリアゾール単位を含む推定の模倣物は、ケト脂肪酸と類似の様式で抗炎症活性に関与する生理的標的に結合すると考えられる。したがって、これらの化合物は炎症の治療のための薬物候補である。
【化10】

【0095】
式IIIによって示される化合物は「クリック」化学を使用して容易に合成することができる。ゆえに、触媒の存在下でのα,β-不飽和アルキルケトンのアジドと、適切に置換されたアルキンとの反応はトリアゾール模倣物を生じさせる。スキーム2は、本発明のトリアゾール模倣物をもたらす種々の合成ステップを示す。
【化11】

【0096】
ゆえに、スキーム2中のR1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素、(C1-C8)アルキル、(C2-C8)アルケニル、(C2-C8)アルキニル、(C1-C4)アルコキシ、(C1-C4)アルコキシ(C1-C4)アルキル、(C1-C8)フルオロアルキル、(C1-C8)ヒドロキシアルキル、(C3-C8)シクロアルキル、(C4-C8)ビシクロアルキル、(C3-C8)ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリール、アリール、(C3-C8)シクロアルキル(C1-C6)アルキル、(C3-C8)ヘテロシクロアルキル(C1-C6)アルキル、ヘテロアリール(C1-C6)アルキルおよびアリール(C1-C6)アルキルからなる群から選択される。
【0097】
ケト脂肪酸、代謝産物および模倣物の製剤
その態様の1つにしたがって、本発明は、式I〜IIIに適合するケト脂肪酸、その代謝産物または模倣物、およびその製薬的に許容される塩、溶媒和物または水和物および製薬的に許容される担体の製剤を提供する。本発明の化合物に加えて1種以上の治療物質を有する製剤も想定される。本発明の製剤に加えられる薬物の非限定的な例には、化学療法剤、抗体、抗ウイルス剤、ステロイド性および非ステロイド性抗炎症剤、慣用の免疫療法剤、サイトカイン、ケモカイン、および/または成長因子が含まれる。さらなる態様では、本発明の組成物は、一緒に製剤化された2種以上の上記の式I〜IIIの化合物を含む。
【0098】
本発明の製剤中、2種以上の担体の混合物などの2種以上の生理的に許容される担体を使用することができる。さらに、本発明の製剤には、増粘剤、希釈剤、溶媒、バッファー、保存剤、界面活性剤、賦形剤などを含ませることができる。
【0099】
本発明の化合物には、製薬的に許容されるカチオンを含ませることができ、それには、金属イオンおよび有機イオンが含まれる。より好ましい金属イオンには、非限定的に、適切なアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および他の生理的に許容される金属イオンが含まれる。典型的なイオンには、その通常の原子価の、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムおよび亜鉛が含まれる。好ましい有機イオンには、プロトン化三級アミンおよび四級アンモニウムカチオン、例えば、トリメチルアミン、ジエチルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)およびプロカインが含まれる。典型的な製薬的に許容される酸には、非限定的に、塩酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、メタンスルホン酸、酢酸、ギ酸、酒石酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸、コハク酸、乳酸、グルコン酸、グルクロン酸、ピルビン酸、オキサル酢酸、フマル酸、プロピオン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸などが含まれる。
【0100】
本発明の化合物の異性体および互変異性型ならびにこれらの化合物の製薬的に許容される塩もまた、本発明によって包含される。典型的な製薬的に許容される塩は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、メシル酸(mesylic)、ステアリン酸、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トルエンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、アルゲン酸(algenic)、ベータ.-ヒドロキシ酪酸、ガラクタル酸およびガラクツロン酸から製造される。
【0101】
本発明の化合物と一緒に使用される好適な製薬的に許容される塩基付加塩には、金属イオン塩および有機イオン塩が含まれる。典型的な金属イオン塩には、非限定的に、適切なアルカリ金属(Ia群)塩、アルカリ土類金属(Ia群)塩および他の生理学的に許容される金属イオンが含まれる。そのような塩は、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムおよび亜鉛のイオンから構成されてよい。好ましい有機酸塩は、三級アミンおよび四級アンモニウム塩、例えば、トリメチルアミン、ジエチルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)およびプロカインから構成されてよい。すべての上記塩は、対応する本発明の化合物から当業者が慣用の手段によって製造することができる。
【0102】
本発明の化合物および好適な担体を含む医薬製剤は、本発明の化合物の有効量を含む種々の剤形であってよく、該剤形には、非限定的に、固体、溶液、粉末、液体エマルジョン、液体懸濁液、半固体、および乾燥粉末が含まれる。また、そのような製剤には、製薬的に許容される希釈剤、充填剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、界面活性剤、疎水性ビヒクル、水溶性ビヒクル、乳化剤、バッファー、湿潤剤、保湿剤、可溶化剤、酸化防止剤、保存剤などとともに活性成分を含ませてよいことが当技術分野で公知である。投与のための手段および方法は当技術分野で公知であり、当業者は種々の薬学参考文献を指針として参照することができる。例えば、Modern Pharmaceutics, Banker & Rhodes, Marcel Deldcer, Inc. (1979); およびGoodman & Gilman's, The Pharmaceutical Basis of Therapeutics, 6th Edition, MacMillan Publishing Co., New York (1980)を調べることができる。両文献は参照によりその全体がここに組み入れられる。
【0103】
本発明の化合物を、注射による、例えばボーラス注入または持続注入による、非経口または静脈内投与用に製剤化することができる。注射用製剤は、単位剤形で、例えばアンプルまたは複数回投与容器中で、保存剤を加えて提供することができる。該組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンなどの剤形をとってよく、懸濁化剤、安定剤および/または分散剤などの製剤化剤(formulatory agents)を含んでよい。
【0104】
注射用調製物、例えば滅菌注射用水性または油性懸濁液は、好適な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して公知技術にしたがって製剤化することができる。滅菌注射用調製物は、無毒の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液である、滅菌注射用溶液または懸濁液であってもよい。用いることができる許容されるビヒクルおよび溶媒には、水、リンゲル液、および等張性塩化ナトリウム溶液が含まれる。さらに、溶媒または懸濁媒体として滅菌固定油を通常用いる。この目的のために、任意の無刺激(bland)の固定油を用いることができ、それには、合成モノ-またはジグリセリドが含まれる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸希釈剤は注射剤の調製での用途が見出せる。本発明の実施形態で有用な追加の脂肪酸希釈剤には、例えば、1種以上のステアリン酸、金属性ステアラート、フマル酸ステアリルナトリウム(sodium stearyl fumarate)、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪酸エステル、ベヘン酸グリセリル、鉱油、植物油、パラフィン、ロイシン、シリカ、ケイ酸、タルク、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエトキシル化ヒマシ油、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリオキシエチレン-グリセロール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、ポリエトキシル化ステロール、ポリエトキシル化ヒマシ油、ポリエトキシル化植物油などが含まれる。一部の実施形態では、脂肪酸希釈剤は脂肪酸の混合物であってよい。一部の実施形態では、脂肪酸は、脂肪酸エステル、脂肪酸の糖エステル、脂肪酸のグリセリド、またはエトキシル化脂肪酸エステルであってよく、他の実施形態では、脂肪酸希釈剤は、脂肪アルコール、例えば、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、パルミトリル酸(palmitolyl acid)、セチルアルコール、カプリルアルコール、カプリリルアルコール、オレイルアルコール、リノレニルアルコール、アラキドニックアルコール(arachidonic alcohol)、ベヘニルアルコール、イソベヘニルアルコール、セラキルアルコール、キミルアルコール、およびリノレイルアルコールなどおよびそれらの混合物であってよい。
【0105】
他の実施形態では、本発明の製剤は経口投与の固体剤形であり、それには、カプセル、錠剤、丸剤、粉末、および顆粒が含まれる。そのような実施形態では、活性化合物を1種以上の不活性希釈剤、例えばスクロース、ラクトース、またはデンプンと混合してよい。そのような剤形は、通常の実施の場合のように、不活性希釈剤以外の追加の物質、例えばステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤を含んでもよい。カプセル、錠剤、および丸剤の場合、剤形は緩衝剤を含んでもよく、さらに腸溶コーティングを用いて調製することができる。
【0106】
固体剤形は、本発明の化合物を上記のものなどの1種以上の脂肪酸希釈剤と混合し、かつ液体混合物に増粘剤を加えてゼラチンを形成させることによって製造された液体またはゼラチン製剤であってよい。そしてゼラチンを単位剤形にカプセル化してカプセルを形成させることができる。別の典型的な実施形態では、上記のように調製された本発明の化合物の油性調製物を凍結乾燥して固体を形成させ、該固体を、1種以上の製薬的に許容される賦形剤、担体または希釈剤と混合して錠剤を形成させることができ、さらに別の実施形態では、油性調製物の本発明の化合物を結晶化して固体を形成させ、該固体を、製薬的に許容される賦形剤、担体または希釈剤と混合して錠剤を形成させることができる。
【0107】
本発明の化合物の経口投与に有用なさらなる実施形態には、液体剤形が含まれる。そのような実施形態では、液体剤形は、水などの当技術分野で一般に使用される不活性希釈剤を含む、製薬的に許容されるエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、およびエリキシルを含んでよい。そのような組成物は、湿潤剤、乳化および懸濁化剤、および甘味剤、香味物質、および香料物質などの補助剤を含んでもよい。
【0108】
さらに別の実施形態では、本発明の化合物をデポー製剤として製剤化することができる。そのような長時間作用型製剤は、移植(例えば皮下または筋肉内)または筋肉内注射によって投与することができる。約1〜約6か月またはそれ以上の間隔でデポー注射を投与することができる。ゆえに、例えば、好適なポリマーもしくは疎水性材料(例えば許容される油中のエマルジョンとして)またはイオン交換樹脂を用いて、または難溶性の誘導体、例えば難溶性の塩として化合物を製剤化することができる。
【0109】
注射用製剤に好適な他の希釈剤には、非限定的に、以下のものが含まれる。
【0110】
植物油: 本明細書中で使用される用語「植物油」とは、ポリエチレングリコールの少なくとも1つの鎖が共有結合によって植物油に結合している、植物油のエトキシル化から形成される化合物、または化合物の混合物を表す。一部の実施形態では、脂肪酸は約12炭素〜約18炭素の範囲の炭素を有する。一部の実施形態では、エトキシル化の量は、約2〜約200、約5〜100、約1.度.〜約80、約20〜約60、または約12〜約18個のエチレングリコール反復単位で変動させることができる。植物油は硬化型または非硬化型であってよい。好適な植物油には、非限定的にヒマシ油、硬化ヒマシ油、ゴマ油、トウモロコシ油、ピーナッツ油、オリーブ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、ダイズ油、安息香酸ベンジル、ゴマ油、綿実油、およびパーム油が含まれる。他の好適な植物油には、市販の合成油、例えば、非限定的に、Miglyol.TM. 810および812 (Dynamit Nobel Chemicals, Swedenから入手可能)、Neobee.TM. M5 (Drew Chemical Corp.から入手可能)、Alofine.TM. (Jarchem Industriesから入手可能)、Lubritab.TM.シリーズ(JRS Pharmaから入手可能)、Sterotex.TM. (Abitec Corp.から入手可能)、Softisan.TM. 154 (Sasolから入手可能)、Croduret.TM. (Crodaから入手可能)、Fancol.TM. (the Fanning Corp.から入手可能)、Cutina.TM. HR (Cognisから入手可能)、Simulsol.TM. (CJ Petrowから入手可能)、EmCon.TM. CO (Amisol Co.から入手可能)、Lipvol.TM. CO、SES、およびHS-K (Lipoから入手可能)、およびSterotex.TM. HM (Abitec Corp.から入手可能)が含まれる。ゴマ、トウゴマ、トウモロコシ、および綿実油を含む他の好適な植物油には、R. C. Rowe and P. J. Shesky, Handbook of Pharmaceutical Excipients, (2006), 5th ed.で列挙されるものが含まれる。該文献は参照によりその全体がここに組み入れられる。好適なポリエトキシル化植物油には、非限定的に、Cremaphor.TM. ELまたはRHシリーズ(BASFから入手可能)、Emulphor.TM. EL-719 (Stepan productsから入手可能)、およびEmulphor.TM. EL-620P (GAFから入手可能)が含まれる。
【0111】
鉱油: 本明細書中で使用される用語「鉱油」とは、未精製および精製(軽)鉱油の両者を表す。好適な鉱油には、非限定的に、Avatech.TM.グレード(Avatar Corp.から入手可能)、Drakeol.TM.グレード(Penrecoから入手可能)、Sirius.TM.グレード(Shellから入手可能)、およびCitation.TM.グレード(Avater Corp.から入手可能)が含まれる。
【0112】
ヒマシ油: 本明細書中で使用される用語「ヒマシ油」とは、ポリエチレングリコールの少なくとも1つの鎖が共有結合によってヒマシ油に結合している、ヒマシ油のエトキシル化から形成される化合物を表す。ヒマシ油は硬化型または非硬化型であってよい。ポリエトキシル化ヒマシ油の同義語には、非限定的に、ポリオキシルヒマシ油、硬化ポリオキシルヒマシ油、ムクロゴールグリセロリリシノレアス(mcrogolglyceroli ricinoleas)、マクロゴールグリセロリヒドロキシステアラス(macrogolglyceroli hydroxystearas)、ポリオキシル35ヒマシ油、およびポリオキシル40硬化ヒマシ油が含まれる。好適なポリエトキシル化ヒマシ油には、非限定的に、Nikkol.TM. HCOシリーズ(Nikko Chemicals Co. Ltd.から入手可能)、例えばNikkol HCO-30、HC-40、HC-50、およびHC-60 (ポリエチレングリコール-30硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール-40硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール-50硬化ヒマシ油、およびポリエチレングリコール-60硬化ヒマシ油、Emulphor.TM. EL-719 (ヒマシ油40モル-エトキシラート、Stepan Productsから入手可能)、Cremophore.TM.シリーズ(BASFから入手可能)、例えばCremophore RH40、RH60、およびEL35 (それぞれ、ポリエチレングリコール-40硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール-60硬化ヒマシ油、およびポリエチレングリコール-35硬化ヒマシ油)、およびEmulgin.RTM. ROおよびHREシリーズ(Cognis PharmaLineから入手可能)が含まれる。他の好適なポリオキシエチレンヒマシ油誘導体には、R. C. Rowe and P. J. Shesky, Handbook of Pharmaceutical Excipients, (2006), 5th ed.で列挙されるものが含まれる。該文献は参照によりその全体がここに組み入れられる。
【0113】
ステロール: 本明細書中で使用される用語「ステロール」とは、ステロール分子のエトキシル化から得られる化合物、または化合物の混合物を表す。好適なポリエトキシル化ステロールには、非限定的に、PEG-24コレステロールエーテル、Solulamm C-24 (Amercholから入手可能); PEG-30コレスタノール(cholestanol)、Nikkol.TM. DHC (Nikkoから入手可能); フィトステロール、GENEROL.TM.シリーズ(Henkelから入手可能); PEG-25フィトステロール、Nikkol.TM. BPSH-25 (Nikkoから入手可能); PEG-5ダイズステロール(soya sterol)、Nikkol.TM. BPS-5 (Nikkoから入手可能); PEG-10ダイズステロール、Nikkol.TM. BPS-10 (Nikkoから入手可能); PEG-20ダイズステロール、Nikkol.TM. BPS-20 (Nikkoから入手可能); およびPEG-30ダイズステロール、Nikkol.TM. BPS-30 (Nikkoから入手可能)が含まれる。本明細書中で使用される用語「PEG」とは、ポリエチレングリコールを表す。
【0114】
ポリエチレングリコール: 本明細書中で使用される用語「ポリエチレングリコール」または「PEG」とは、式-O-CH2-CH2-のエチレングリコールモノマー単位を含むポリマーを表す。好適なポリエチレングリコールはポリマー分子の各端に遊離ヒドロキシル基を有するか、または低級アルキル、例えばメチル基でエーテル化された1個以上のヒドロキシル基を有してよい。また、エステル化可能な(esterifiable)カルボキシ基を有するポリエチレングリコールの誘導体も好適である。本発明で有用なポリエチレングリコールは任意の鎖長または分子量のポリマーであってよく、かつ分岐を含むことができる。一部の実施形態では、ポリエチレングリコールの平均分子量は約200〜約9000である。一部の実施形態では、ポリエチレングリコールの平均分子量は約200〜約5000である。一部の実施形態では、ポリエチレングリコールの平均分子量は約200〜約900である。一部の実施形態では、ポリエチレングリコールの平均分子量は約400である。好適なポリエチレングリコールには、非限定的にポリエチレングリコール-200、ポリエチレングリコール-300、ポリエチレングリコール-400、ポリエチレングリコール-600、およびポリエチレングリコール-900が含まれる。名称中のダッシュに続く数字はポリマーの平均分子量を表す。一部の実施形態では、ポリエチレングリコールはポリエチレングリコール-400である。好適なポリエチレングリコールには、非限定的にCarbowax.TM.およびCarbowax.TM. Sentryシリーズ(Dowから入手可能)、Lipoxol.TM.シリーズ(Brenntagから入手可能)、Lutrol.TM.シリーズ(BASFから入手可能)、およびPluriol.TM.シリーズ(BASFから入手可能)が含まれる。
【0115】
プロピレングリコール脂肪酸エステル: 本明細書中で使用される用語「プロピレングリコール脂肪酸エステル」とは、プロピレングリコールまたはポリプロピレングリコールと脂肪酸との間で形成されるモノエステルまたはジエステル、またはそれらの混合物を表す。プロピレングリコール脂肪アルコールエーテルを得るために有用な脂肪酸には、非限定的に、本明細書中で規定されるものが含まれる。一部の実施形態では、モノエステルまたはジエステルはプロピレングリコールから得られる。一部の実施形態では、モノエステルまたはジエステルは約1〜約200オキシプロピレン単位を有する。一部の実施形態では、分子のポリプロピレングリコール部分は約2〜約100オキシプロピレン単位を有する。一部の実施形態では、モノエステルまたはジエステルは約4〜約50オキシプロピレン単位を有する。一部の実施形態では、モノエステルまたはジエステルは約4〜約30オキシプロピレン単位を有する。好適なプロピレングリコール脂肪酸エステルには、非限定的に、ラウリン酸プロピレングリコール: Lauroglycol.TM. FCCおよび90 (Gattefosseから入手可能); カプリル酸プロピレングリコール: Capryol.TM. PGMCおよび90 (Gatefosseから入手可能); およびプロピレングリコールジカプリルカプラート(propylene glycol dicaprylocaprates): Labrafac.TM. PG (Gatefosseから入手可能)が含まれる。
【0116】
ステアロイルマクロゴールグリセリド: ステアロイルマクロゴールグリセリドとは、主にステアリン酸から合成されるかまたは主にステアリン酸に由来する化合物から合成されるポリグリコール化(polyglycolized)グリセリドを表すが、他の脂肪酸または他の脂肪酸由来の化合物を同様に合成で使用してよい。好適なステアロイルマクロゴールグリセリドには、非限定的に、Gelucire.RTM. 50/13 (Gattefosseから入手可能)が含まれる。
【0117】
一部の実施形態では、希釈剤成分は、1種以上のマンニトール、ラクトース、スクロース、マルトデキストリン、ソルビトール、キシリトール、粉末化セルロース、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、アルファ化デンプン、リン酸カルシウム、金属炭酸塩、金属酸化物、または金属アルミノケイ酸塩を含む。
【0118】
固体および/または液体剤形中での使用のための典型的な賦形剤または担体には、非限定的にソルビトール、例えばPharmSorbidex E420 (Cargillから入手可能)、Liponic 70-NCおよび76-NC (Lipo Chemicalから入手可能)、Neosorb (Roquetteから入手可能)、Partech SI (Merckから入手可能)、およびSorbogem (SPI Polyolsから入手可能)が含まれる。
【0119】
デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、およびアルファ化デンプンには、非限定的に、R. C. Rowe and P. J. Shesky, Handbook of Pharmaceutical Excipients, (2006), 5th ed.に記載のものが含まれる。該文献は参照によりその全体がここに組み入れられる。
【0120】
崩壊剤: 崩壊剤には、1種以上のクロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスポビドン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、イオン交換樹脂、食物酸およびアルカリ炭酸塩成分に基づく沸騰系(effervescent system)、粘土、タルク、デンプン、アルファ化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、セルロースフロック(cellulose floc)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ケイ酸カルシウム、金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、またはリン酸カルシウムが含まれる。
【0121】
本発明のさらに別の実施形態には、他の活性物質、例えば、補助剤、プロテアーゼインヒビター、または他の適合性薬物もしくは化合物と組み合わせて投与される本発明の化合物が含まれ、その場合、そのような組み合わせは本明細書中で記載される方法の所望の効果を達成するのに望ましいかまたは有益であると理解される。
【0122】
投与経路
本発明の化合物は、それが有効である任意の経路によって任意の慣用の様式で投与することができる。投与は全身性または局所性であってよい。例えば、投与は、非限定的に、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、経皮、経口、口腔内または眼内の経路、または膣内、吸入、デポー注射、または移植による投与であってよい。特定の実施形態では、投与は非経口または静脈内であってよく、すべて、長期の全身取り込み、組織半減期および細胞内送達に好都合な安定化添加物の存在下または不存在下であってよい。ゆえに、(単独のまたは他の医薬品と組み合わせた)本発明の化合物の投与様式は注射様式(皮下または筋肉内に注射される短時間作用性、デポー、移植およびペレット形式が含まれる)であってよい。一部の実施形態では、本発明の化合物を含む注射用製剤は、傷害または炎症部位、例えば、関節鏡検査、血管形成術、ステント留置、バイパス術などに起因する外科的切開部位または炎症部位に入れることができる。
【0123】
特定の他の実施形態では、炎症領域に直接塗布される軟膏またはローションとして本発明の化合物を局所塗布することができる。例えば、一部の実施形態では、本発明の化合物を含むローションまたは軟膏を製造し、やけど、放射線熱傷、真皮障害部位、浮腫、関節炎の関節などに塗布してよい。
【0124】
本発明の種々の実施形態はまた、本発明の化合物を投与するための方法に関する。投与の具体的様式はさまざまであり、適応に依存する。投与の具体的経路および投与レジメンの選択は、最適な臨床反応を得るために、臨床家が、臨床家に公知の方法にしたがって調節または漸増(titrated)することができる。投与すべき化合物の量は治療上有効な量である。投与すべき用量は、治療される被験体の特徴、例えば、治療される具体的動物、年齢、体重、健康、存在すれば、併用療法のタイプ、および治療の頻度に依存し、当業者(例えば臨床家)が容易に決定することができる。例えば、Goodman & Goldman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, Ninth Edition (1996), Appendix II, pp. 1707-1711またはGoodman & Goldman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, Tenth Edition (2001), Appendix II, pp. 475-493の指針に基づいて用量を決定することができることを当業者は認識する。両文献は参照によりその全体がここに組み入れられる。
【0125】
種々の実施形態では、各投与サイクル中に送達される本発明の化合物の有効量は、約10 mg/ m2/日〜約1000 mg/ m2/日の範囲であってよい。一部の実施形態では、有効量は約20 mg/ m2/日〜約700 mg/ m2/日であってよく、他の実施形態では、有効量は約30 mg/ m2/日〜約600 mg/ m2/日であってよい。特定の実施形態では、有効量は約50 mg/ m2/日、約400 mg/ m2/日、約500 mg/ m2/日、または約600 mg/ m2/日であってよい。さらに他の実施形態では、本発明の化合物の有効量は治療の進行に伴って変動し得る。例えば、投与サイクルを通じた治療の進行に伴って投与方式を増加もしくは減少できるか、または投与の初めから終わりまで一日量を増加もしくは減少し得る。更なる実施形態では、1000 mg/ m2/日を超えて投与することができる。その理由は、高用量の本発明の化合物でさえ、一般に患者に耐容性であり、望ましくない生理的影響を生じさせないからである。
【0126】
本発明の化合物を製剤化するために使用される医薬用担体は投与経路に依存する。投与は、局所(経眼(opthamalic)、経膣、経直腸、もしくは鼻腔内が含まれる)、経口、吸入、または非経口、例えば点滴、皮下、腹腔内もしくは筋肉内注射による投与であってよい。
【0127】
ゆえに、本発明の化合物は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内(intracavity)、経皮、気管内、体外、または局所(例えば、局所鼻腔内投与または吸入剤による投与)で投与することができる。この関連で、フレーズ「局所鼻腔内投与」は、一方または両鼻孔を通じる鼻部および鼻腔への組成物の送達を意味し、核酸もしくはベクターのスプレー機構または液滴機構による送達、またはエアロゾル化を経由する送達を含むことができる。後者は、多数の被験体が同時に治療対象である場合に有効である。吸入剤による組成物の投与は、スプレーまたは液滴機構による送達を介して鼻部または口を経由することができる。送達は、挿管を介して呼吸器系(例えば肺)の任意の領域に向けることもできる。
【0128】
非経口投与用の本発明のケト脂肪酸模倣物の製剤は、ニトロ脂肪酸模倣物を安定化する賦形剤および担体を含む。そのような担体の例は、非水性溶媒、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、および注射用有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。さらに、非経口投与用製剤には、液体溶液、懸濁液、または注射前の液体への溶解もしくは懸濁に好適な固体剤形、またはエマルジョンが含まれる。
【0129】
模倣物の静脈内製剤は、製剤のモル浸透圧濃度(osmomolarity)を維持する物質を含む。そのような物質の例には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、乳酸加リンゲル液、液体および栄養補充物などが含まれる。また、微生物の感染または炎症を妨げる1種以上の追加の成分ならびに麻酔剤も静脈内製剤に含まれる。
【0130】
本発明はまた、本発明の模倣物の製薬的に許容される塩の製剤を提供する。そのような塩の例は、模倣物と無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、または水酸化カリウムとの反応によって形成されるものである。本発明の模倣物と有機塩基、例えばモノ-、ジ-、トリアルキルおよびアリールアミンおよび置換エタノールアミンとの塩もまた想定される。
【0131】
さらに別の態様では、本発明の模倣物をプロドラッグとして製剤化することができる。生理的pHでは、ケト脂肪酸の模倣物は、典型的に、荷電分子であり、最適なバイオアベイラビリティおよび細胞輸送動態を有さないかもしれない。したがって、これらの懸念に対処するために、本発明の化合物を、製薬的に許容されるエステル、例えばメチルまたはエチルエステルとして提供することができる。該エステルはプロドラッグとして働く。その理由は、非特異的細胞内エステラーゼがin vivoでそれを活性型に変換するからである。
【0132】
治療方法
本発明に基づく化合物は、多数の急性および慢性の炎症および代謝症状を治療し、改善し、かつ/または予防するために個体に投与することができる。特に式I〜IIIに記載の化合物ならびにその代謝産物を使用して、急性症状、例えば、一般的炎症、自己免疫疾患、自己炎症性疾患、動脈狭窄、臓器移植拒絶およびやけど、および慢性症状、例えば、慢性肺損傷および呼吸困難、糖尿病、高血圧症、肥満症、関節炎、神経変性障害および種々の皮膚障害を治療することができる。しかし、他の実施形態では、本発明の化合物を使用して、例えば、関節炎、ループス、ライム病、痛風、敗血症、高体温、潰瘍、全腸炎、骨粗鬆症、ウイルスまたは細菌感染、サイトメガロウイルス、歯周病、糸球体腎炎、サルコイドーシス、肺疾患、肺炎症、肺の線維症、喘息、後天性呼吸困難症候群、タバコ誘発性肺疾患、肉芽腫形成、肝臓の線維症、移植片対宿主病、術後炎症、血管形成術、ステント留置またはバイパス移植後の冠血管および末梢血管再狭窄、冠動脈バイパス移植(CABG)、急性および慢性白血病、Bリンパ球白血病、新生物疾患、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、心筋炎症、乾癬、免疫不全、播種性血管内血液凝固、全身性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳脊髄炎、浮腫、炎症性腸疾患、高IgE症候群、癌転移または増殖、養子免疫療法、再潅流症候群、放射線熱傷、脱毛症などの慢性または急性炎症が含まれる症状を有する任意の症状を治療することができる。
【0133】
本発明の化合物は、投与されると、炎症を媒介するいくつかの細胞受容体および/またはタンパク質と、その活性を阻害または刺激することによって相互作用し、それによって炎症を阻害するかまたは減少させる。理論によって拘束されることを望まないが、本発明者らは、本発明の化合物が、例えば、神経伝達、遺伝子発現、血管機能および炎症反応が含まれる重要なシグナル伝達活性をモジュレートできると考える。これらの活性を促進する本発明の化合物の化学的性質には、非限定的に、電子吸引性ビニル基に隣接するβ-炭素の強い可逆的求電子性、Nef様酸塩基反応を受けてNOを放出する能力、疎水性および親水性の両区画に分かれる能力、およびGタンパク質共役受容体および核内受容体への強い親和性が含まれる。
【0134】
例えば、一実施形態では、本発明の化合物は、複数のGタンパク質共役受容体および核内受容体、例えば、非限定的に、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、例えば、PPARα、PPARγ、およびPPARδを介して細胞シグナル伝達を媒介するために投与することができる。PPARは、生物じゅうで、例えば、単球/マクロファージ、好中球、内皮細胞、脂肪細胞、上皮細胞、肝細胞、メサンギウム細胞、血管平滑筋細胞、神経細胞で発現される核内受容体であり、「活性化」されると、いくつかの標的遺伝子の転写を誘導する。PPARの活性化は、組織恒常性の調節、例えばインスリン感受性の上昇において種々の役割を果たし、慢性炎症過程を抑制し、循環遊離脂肪酸レベルを減少させ、内皮機能障害を補正し、脂肪線条形成を減少させ、プラーク形成を遅延させ、血管壁肥厚を制限し、かつプラーク安定化および退行を増強することが示されている。本明細書中で具体化される本発明の化合物は、PPAR活性化に関連するこれらの機能のいずれかを遂行することができる。
【0135】
さらに、本発明の化合物は、正常な細胞過程を顕著に改変することなく、これらの機能を遂行することができる。例えば、一実施形態では、本発明の化合物は、血圧を正常レベルに低下させることによって高血圧症を治療するために投与することができ、過剰投与された場合でさえ、正常レベル未満に個体の血圧を低下させることはない。ゆえに、理論によって拘束されることを望まないが、本発明の化合物は、従来の薬物治療を使用する過剰投与または過剰治療に関連する負の影響を伴わない個体の治療を提供することができる。
【実施例】
【0136】
実験法
材料
ジクロフェナク、メチルアラキドニルフルオロホスホナート、MK886、(±)-イブプロフェン、インドメタシン、NS-398、15d-PGJ2、4-ヒドロキシ-2-ノネナール、9-オキソODE、5-オキソETEd7、12-オキソETE、15-オキソEDE、9-オキソOTrE、17-オキソDPA、および17-オキソDHAをCayman Chemicals (Ann Arbor, MI)から購入した。ヒツジ胎盤COX-2 (Cayman 60120)もCayman Chemicalsから購入した。DPAおよびDHAをNuCheck Prep (Elysian, MN)から購入した。Kdo2リピドAをAvanti Polar Lipids, Inc (Alabaster, AL)から購入した。HPLC溶媒をHoneywell Burdick and Jackson (USA)から購入した。グルタチオンおよびグルタチオンS-トランスフェラーゼをSigma-Aldrichから購入した。
【0137】
細胞培養および処理
マウス単球/マクロファージ細胞(RAW264.7)およびヒト単球細胞(THP-1)をATCC (USA)から入手し、ATCCの指針にしたがってDMEM + 10% FBS (RAW264.7)およびRPMI + 10% FBS (THP-1)中で5% CO2中で37℃で維持した。L-細胞をATCC (CCL-1)から入手し、10% FBS、グルタミン(2 mM)、ピルビン酸ナトリウム(1 mM)、ペニシリン、ストレプトミオシン(streptomyocin)および非必須アミノ酸を補充したDMEM中で5% CO2中で37℃で維持した。
【0138】
活性化実験では、RAW 264.7細胞を播種し、一晩インキュベートし、約80%コンフルエンスの時点で指定の化合物で処理した47。非活性化コントロールはビヒクルのみで処理した。活性化時に、L-グルタミン(584 mg/L)、ピルビン酸Na(110 mg/L)およびHepes (3.57 g/L, pH 7.4)を補充した最小必須イーグル培地(Minimum Essential Medium Eagle) (Cellgro, 17-305) + 2% FBSの活性化培地(SMEM)中で細胞を維持した。阻害研究では、活性化の時点で培地にインヒビターを加え、MTTアッセイを使用して細胞生存度を確認した。(特に指定されない限り)活性化の20時間後に50 mMリン酸バッファー(pH 7.4)中で細胞を回収し、液体N2中で急速凍結した。THP-1細胞をPMA (86 nM)で16時間、分化させ、RPMI + 2% FBS中でIFNγ(200 U/ml)およびKdo2リピドA (0.5μg/ml)で活性化し、分化の40時間後に回収した。EFAD単独での処理では、17-オキソDHAおよび17-オキソDPAを指定の濃度でかつ指定の期間、細胞培養培地に加えた。炎症誘発刺激と組み合わせたEFADでの処理では、17-オキソDHAおよび17-オキソDPAを加えた後にKdo2およびIFNγを6時間の時点で加えた。
【0139】
求電子試薬とBMEとのトランス-アルキル化反応
解凍後、可溶化物をBME (500 mM + 内部標準、5-オキソETEd7 (1.25 ng/ml))に曝露し、以前に報告される22ように50 mMリン酸バッファー(pH= 7.4)中で37℃で1時間インキュベートした。タンパク質を冷アセトニトリルで沈殿させ、上清をHPLC-ESI-MS/MSによって分析した。
【0140】
HPLC-ESI-MS/MS
20 x 2 mm C18 Mercury MSカラム(3μm, Phenomenex)を使用する逆相HPLCによってサンプルを分離した。A (水/0.1%ギ酸)およびB (アセトニトリル/0.1%ギ酸)からなるグラジエント溶媒系を、以下の条件: 35% Bで0.5分維持、次いで35〜90% Bで4分、90〜100% Bで0.1分、1.4分維持および100〜35% Bで0.1分、1.9分維持の条件下で750μl/分で使用した。異性体の分割を達成するために、150 x 2 mm C18 Lunaカラム(3μm, Phenomenex)を使用してクロマトグラフィーを実施した。以下の条件: 35% Bで3分維持、次いで35〜90 % Bで23分、次いで90〜100% Bで0.1分、5.9分維持および100〜35% Bで0.1分、7.9分維持の条件下で250μl/分の流速を使用した。BME付加物の分析および定量化は、ハイブリッド三重項四重極-線形イオントラップ質量分析計(4000 Q trap, Applied Biosystems/MDS Sciex)を使用し、ニュートラルロス(NL)スキャンモード、多重反応モニタリング(MRM)スキャンモード、および増感プロダクトイオン分析(EPI)モードで実施した。以下の設定: それぞれ遊離脂肪酸およびBME付加物のデクラスタリングポテンシャル(declustering potential) -90および-50 V、および衝突エネルギー-30および-17 Vを使用した。ゼログレードエアーをソースガスとして使用し、かつ衝突室中でN2を使用した。利用可能であれば外部合成標準を使用し、かつアナライトと5-オキソETEd7内部標準との間のピーク面積比を比較することによってEFADを定量した。データを取得し、Analyst 1.4.2ソフトウェア(Applied Biosystems, Framingham, MA)を使用して解析した。
【0141】
COX-2反応
ヒツジ胎盤COX-2 (20 U/ml)をTris/ヘム/フェノール(THP)バッファー±2 mM ASA中で37℃でプレインキュベートした。各反応前に新たに調製されるTHPバッファーはTris・Cl (100 mM, pH 8.1)、ヘマチン(1μM)、およびフェノール(1μM)から構成された。10μMの濃度の指定の脂肪酸を加えることによって反応を開始させた。指定の時点で氷冷アセトニトリル(9 x 反応容量)を加えることによって反応を終結させ、COX-2タンパク質を遠心分離によって取り出した。CO2の損失(OH-DPAおよびOH-DHAに関してそれぞれm/z 345/301およびm/z 343/299)を追跡する多重反応モニタリング(MRM)モードのRP-HPLC-MS/MSによって生成物形成をモニターした。
【0142】
初代マクロファージの調製
Daviesによって開発されたプロトコールにしたがってC57BL/6マウスから骨髄由来マクロファージを単離した。Davies, J.Q. & Gordon, S. Isolation and culture of murine macrophages. Methods Mol Biol 290, 91-103 (2005)を参照のこと。
【0143】
ウエスタンブロット
サンプルのタンパク質濃度をBCAアッセイ(Pierce)によって測定した。以下の一次抗体を使用した: Nrf2 (Santa Cruz, sc-722)、HO-1 (Assay Design, SPA-896)、Nqo1 (Abcam, ab34173)、Cox-2 (Santa Cruz, sc-1745)、iNOS (BD Transduction Lab, 610332)、ラミン B1 (Abcam, ab16048)。アクチン(Sigma A2066によって検出)を負荷コントロールとして使用した。二次抗体をSanta Cruz Biotechnologyから購入した。
【0144】
硝酸化合物/亜硝酸化合物測定
Nitrate/Nitrite Colorimetric Assay Kit (Cayman Chemical)を使用するGriess反応によって細胞培養培地中の総亜硝酸および硝酸化合物濃度を測定した。
【0145】
グルタチオン付加物の測定
Thermo-Fisher LTQと連結されたnanoACQUITY UltraPerformance LCを使用するナノ-LC-MS/MSによって細胞ペレットおよび培地中のGS付加物を分析した。GS-5-オキソETE-d7を内部標準として加えた。Waters XBridge BEH130 C18 NanoEaseカラム(3.5μm, 100μm x 100mm)を使用した。0.5μl/分のA (H2O/0.1%ギ酸)およびB (アセトニトリル/0.1%ギ酸)からなるバイナリーフローシステムを使用し、以下の条件: 1.5% Bで3分維持、次いで1.5〜30% Bで10分、次いで30〜70% Bで27分の条件下でクロマトグラフィーを実施した。GS-5-オキソETE-d7、GS-オキソDHAおよびGS-オキソDPAの同定に関して、それぞれ、以下の親イオン: 633.3、650.3および652.3をモニターした。
【0146】
統計学
データを平均±SDとして表記し、多重対比較用の一元配置分散分析、post-hoc Tukey法によって評価した。特に指定されない限り、有意性をp<0.01として決定した。
【0147】
反応性求電子性分子種(RES)
RESは、α-炭素を電子不足で、かつ電子に富むドナー分子(求核試薬)に対して反応性にする電子吸引性官能基を有することによって特徴付けられる分子である。電子吸引基の強度は求電子試薬の反応性を決定する。これらの電子吸引基の2つの顕著な例はα,β-不飽和カルボニルおよびニトロアルケンであり、ここに、β-炭素が(少なくとも1個の水素原子と結合していれば)求核攻撃の部位である。これらのような求電子試薬の共鳴構造は、それらが、マイケル付加を介して多数の求核試薬と共有結合によって反応することを可能にする。興味深いことに、求電子性化合物の反応性は各求電子試薬の生物学的結果に直接関係すると思われ13、不可逆的付加物は毒性作用を有する14。さらに、RESはまた、GSH/GSSG酸化還元対を変化させることによって細胞酸化還元電位をモジュレートし、それは根底にある細胞シグナル伝達にさらに影響を与えうる。タンパク質に共有結合性の改変を施すことによって、RESは細胞シグナル伝達イベントを開始させ、かつ酵素活性および細胞内局在をモジュレートすることができる15。健常細胞ではRES生産およびレベルは厳密にコントロールされ、低レベルのこれらの分子種が細胞生存遺伝子の発現を誘発し、一部の事例では、細胞に、ストレス期間を切り抜けて生き残る用意をさせる。対照的に、病理学的条件下では、RESは過剰生産されることがよくあり、シグナル伝達イベントおよび防御経路に打ち勝って細胞損傷を加速させる16。最近、種々の疾患、例えば神経変性、癌、および顕著な炎症成分を示す他の病状の予防または治療にRESを用いる方向への動きがある。例えば、求電子性神経突起伸長促進性のプロスタグランジン化合物は脳虚血/再潅流時の防御作用を示し、それは、ニューロン中のその蓄積およびその後のKeap1/Nrf2経路の活性化に起因する17。他のRES (例えばアビシン18およびビス(2-ヒドロキシベンジリデン)アセトン19、イソチオシアネート20)は、前癌細胞および腫瘍細胞のアポトーシスを誘発するその能力のせいで、潜在的な化学防御剤(chemopreventative agents)である。さらに、求電子試薬15d-PGJ2は急性肺損傷の動物モデルにおいて防御機能を示す21
【0148】
EFADは、マウス骨髄から単離された初代マクロファージによって生産される
RAW 264.7細胞(および潜在的に他のマクロファージ細胞系)は、改変されたAA代謝を有するため26、EFADの形成が初代細胞系で同様に生じることを示すことが重要であった。ゆえに、C57BL/6マウス初代造血幹細胞をマクロファージに分化させ、Kdo2およびIFNγで活性化し、EFADの形成を分析した。6種のEFAD分子種のうちの5種(EFAD-1、2、-3、-5および-6)が観察され、それらをRAW 264.7細胞によって生産されたものおよび利用可能な標準と共溶出させた。RAW264.7細胞で観察されたものと同様に、活性化骨髄由来マクロファージ(BMDM)細胞をASAで処理すると、EFAD形成の程度が約2〜3倍増加し、EFAD-1および-2の場合、異性体組成は13-オキソから17-オキソ分子種にシフトした(図8)。
【0149】
EFADとタンパク質およびグルタチオン(GSH)との付加物の動態および同定
EFADなどの生物学的求電子試薬は、タンパク質のスルフヒドリル基、ならびに細胞還元剤GSHと反応する15,27〜29。異なるアプローチを使用して、EFADによるタンパク質および小分子スルフヒドリルとの付加物形成の発生および程度が示されている。活性化細胞でのスルフヒドリル付加物の発生を示すために、総EFAD含量を定量し、遊離EFAD (グルタチオンなどの小分子と付加物形成したEFADを含む)のプールと比較した。2群間の差異から、タンパク質と付加物形成したEFADのパーセンテージ(〜51%)が得られた(図9a)。遊離型と付加物型との間の細胞内EFADの分布を確認するために、遊離型および付加物型の両EFADをBMEと反応させた。BMEを伴う遊離EFADとBMEを伴う付加物形成EFADの反応速度論の差異を使用して、遊離型と付加物型との間の細胞内EFADの分布を確認した。
【0150】
典型的に、BMEと遊離求電子試薬との反応速度は速く、試験された異なるα,β-不飽和オキソ-脂肪酸(15d-PGJ2、EFAD-1、EFAD-2)に関して約3x10-3〜5 x10-3 sec-1の範囲の算出された擬一次反応速度定数を有する(図20)。対照的に、Cys-EFADおよびHis-EFAD付加物では、速度定数(koff )に応じて、付加物形成した求電子試薬との反応速度は遅い。これらの反応の時間依存的特徴を使用して、細胞可溶化物中に存在する付加物形成集団をさらに確認した(図9b)。
【0151】
遊離EFADの場合の速い速度論および付加物形成タンパク質からのEFADの置換に関するより遅いt反応速度を観察した。約50%のEFADが最初の5分以内にBMEと反応し、タンパク質と付加物形成したEFADが45分後にBMEと反応する総EFADの残りの〜50%を占めることが示唆された(図9b)。
【0152】
EFADとタンパク質中の求核性残基との結合をさらに具体的に試験するために、本発明者らは、GAPDHがEFADによってアルキル化されるかどうかを試験した。この酵素は、十分に特徴付けられている、求電子試薬の標的であり、ニトロシル化、酸化または求核付加によって容易に不活性化される。予測されるように、その求電子特性に基づいて、EFAD-2合成標準(17-オキソ-アイソフォーム)は、in vitroでGAPDHのCys244、Cys149、His163およびHis328残基と付加物を容易に形成した(図21)。
【0153】
細胞還元剤グルタチオンは、システインのスルフヒドリル基(sulhydryl group)を介してEFADなどの生物学的求電子試薬と容易に反応し、対応するグルタチオン-EFAD (GS-EFAD)、付加物をもたらす。本発明者らは、EFADがグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)の基質であるかどうか、およびマクロファージ活性化時に細胞中でGS-EFAD付加物が実際に形成されるかどうかを調査した。
【0154】
ゆえに、増加濃度のGST有り無しでEFADをインキュベートすると、酵素の添加量に依存する付加物形成割合が生じ、EFADがGSTの基質であることが確認された(図22)。
【0155】
図10a、10bおよび22は、活性化RAW264.7細胞の細胞可溶化物、細胞培地由来のグルタチオン付加物の質量スペクトル分析の結果を示し、これらの質量スペクトルを、合成によって製造されたGS-オキソDHAおよびGS-オキソDPA標準の反応混合物から得られた質量スペクトルと比較する。EFAD-1および-2のGSH付加物に関して観察されたフラグメンテーションパターンおよび保持時間は、合成標準を使用して得られたものと一致した。さらに、ASAを加えるとGS-付加物の形成が増加し、EFAD合成の同時の増加と合致した。GS-付加物は細胞外培地中でも見出され、唯一の例外は、ASAで処理されたサンプルで、細胞外培地中のGS-付加物の検出が予想外に減少したことであった。
【0156】
考察
広範囲の脂質シグナル伝達メディエーターに関する現在の知識にもかからわず、Harkewiczらによって提起された疑問は依然として残る:「生物学的に重要なエイコサノイド[または他の脂肪酸由来代謝産物]は見落とされていないか?」。ここに本発明者らは、負に帯電した脂質代謝産物の検索を、可逆的求電子活性およびしたがって潜在的シグナル伝達能を有するものに集中させることによってこの疑問に対処する。本研究で使用された方法により、活性化マクロファージによって生産される6種の新規EFAD、ならびにオキソETE (データは示されない)が検出された。本発明者らが知っている限り、これらの分子種のうちの5種は、哺乳類細胞によって形成される関連する炎症メディエーターまたは代謝産物として以前に報告されていない(EFAD-5はオキソETrEと一致するかもしれない)。興味深いことに、15d-PGJ2は本研究で観察されなかった; 15d-PGJ2のレベルは検出のためには低すぎたかもしれず、15d-PGJ2によるものとされることがよくある効果にも、本明細書中で報告される新規分子種が関与するかもしれないことが示唆される。
【0157】
脂質メディエーターの検索をさらに1歩進めるにあたって、Lipid Metabolites and Pathway Strategyコンソーシアム(Lipid MAPS; http://www.lipidmaps.org)は、メタボローム(metabolome)の脂質セクションおよび「脂質代謝産物の全体的変化」(すなわちリピドミクス(lipidomics))に集中した情報を2005年から公開している。今日までに使用された方法は新規脂質代謝産物を同定し、これらの代謝産物のシグナル伝達特性に関する貴重なデータをもたらしたが、それらは制約を有し、独特であるか従来と異なるシグナル伝達手段を有する脂質を見落とす可能性を有する。他の研究では、排他的にRESに集中した方法を使用し; MS/MSを使用してRES-GSH付加物を検出および研究することによって、種々のRESによって残されたin vivoサインを認識しかつMSを使用することによって目的のRESの構造情報を得ることが可能である3。しかし、この方法の使用にも制約がある。例えば、脂質二重層中で生成したRESはGSHと相互作用する機会を有さないが、依然としいて膜結合タンパク質を改変する。この概念は、タバコ葉中の過敏反応によって生産される酵素生成RESを特徴付けるためにすでに使用されている。
【0158】
本発明者らは、RES-GSH付加物のみを分析することに代わる方法を開発した。該方法では、β-メルカプトエタノール(BME)に対する求電子試薬のアルキル化反応を使用して、細胞スルフヒドリル(または他の求核試薬)に可逆的に付加できる求電子試薬を特定する。通常、酸化されたPUFA分子種は、基質、機構/酵素を仮定し、および次いで、合成化合物と比較して、標識された基質の生成物を特定するかまたは仮定された生成物を特定することによって発見されてきた。この方法の成功は、種々のPG分子種についての広範囲にわたる知識およびイソプロスタン(isoprostanes)、ニューロプロスタン(neuroprostanes)、リポキシンおよびレゾルビンの発見によって例証される。逆に、この研究で報告された酸化された脂質種は、もっぱらその化学的性質: 可逆的求電子活性を有する負に帯電した小さい疎水性分子という性質に基づいて最初に発見された。本明細書中で使用されるBME法はRESに関するMS/MS感度を増加させ、かつMS/MS分析時の種々のRESの挙動を正規化した。例えば、オキソ-脂肪酸誘導体ならびに対応するヒドロキシ-誘導体はフラグメントにならず、構造上の特定が困難になる。したがって、この研究で報告される分子種が以前に報告されていない1つの理由は、脂質代謝産物の特定の典型的方法が主に予測された分子種または最も多量の分子種をもたらし; 生産されるかもしれない予期されない脂質種および低濃度のシグナルは、この方法での顕著な分子種のバックグラウンドに追いやられることであるかもしれない。本研究では、発明者らは、以前に特徴付けられていない求電子性脂肪酸を報告する。該脂肪酸はn-3 PUFAの酸素化によって最初に得られた。特に、EFAD-1〜-3は、オキソDHA、オキソDPAおよびオキソDTAに対応する(ASAの存在に依存して異なる異性体が形成される)。EFAD-4〜-6はn-6およびn-9 PUFAから得られた。しかし、低レベルおよび数種の異性体の存在により、これら後者の分子種の詳細な構造上の特徴付けは可能ではなかった。
【0159】
したがって、誘導酵素COX-2がEFAD生合成に必要とされたが、本発明者らは追加の機構がその形成に関与する可能性を排除することができない。実際、DHAからOH-DHAへの自己酸化およびその結果の10種の位置異性体の形成が1980年代の初期に報告された。LOX (すなわち5-LOXおよび、一部の事例では、12-LOXおよび15-LOX)はPUFAの酸化を同様に開始させることができる。最後に、シトクロムp450 (CYP)モノオキシゲナーゼはPUFAのNADPH依存的酸化を触媒することが報告され、CYP4F8は主にn-3位でのAAおよびDPA (22:5n-6)の水酸化を触媒することが示されている。PUFAのヒドロキシ-誘導体の形成はすでに報告されているが、対応するオキソ-分子種へのさらなる酸化はヒドロキシ-ETAに関してしか観察されていない。さらに、(6E,8Z,11Z,14Z)-5-オキソイコサ-6,8,11,14-テトラン酸(5-オキソETE)およびKODEに関する知識にもかかわらず、類似の22-炭素分子種の研究が不足している。生物活性脂質上のヒドロキシル基の酸化は一般に代謝不活性化のステップとみなされてきたが、本発明者らは、そうではなくてそのような反応が新規の有益な生物学的活性を与えることを提唱する。ここに、本発明者らは、n-3 PUFAのヒドロキシ-誘導体がLOXによってRvおよびニューロプロテクチンにさらに酸化される点での分枝を報告する。本発明者らは、モノヒドロキシ-PUFA誘導体が、生物活性求電子性脂質を生成させる対応するカルボニル分子種にも変換されることを示す。
【0160】
数種のデヒドロゲナーゼ酵素は、EFAD形成の二次酸化ステップに関与することがすでに報告されている。例えば、酵素15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼはこの反応の候補である。その理由は、それが15-オキソETEの形成およびレゾルビンD1およびE1の位置-17での酸化を触媒することが報告されているからである Mol Pharmacol. 2009 Jun 17. [Epub ahead of print])。同様に、LTB4 12-ヒドロキシデヒドロゲナーゼ/プロスタグランジンレダクターゼ(LTB412-HD/PGR)はヒドロキシ-エイコサノイドのNADP+-依存的還元を触媒して、対応するα,β-不飽和オキソ-誘導体にする。5-オキソETE形成の場合、5-リポキシゲナーゼの生成物である5-ヒドロキシエイコサテトラン酸は、5-ヒドロキシエイコサノイドデヒドロゲナーゼ(5-HEDH)によってさらに酸化されて5-オキソETEになる。HEDHは順および逆の両方向の5-HETEから5-オキソETEへの反応を触媒することができるので、5-オキソETEの形成には、高NADP+:NADPH比(酸化的ストレス下の細胞を表す条件)が好都合である。HEDH活性は骨髄細胞中に存在するが、それはPMAを使用するマクロファージへの分化後に最も顕著に誘発されることに留意すると興味深い。
【0161】
EFADとタンパク質およびGSHとの付加物形成により、タンパク質機能の潜在的モジュレーターとしておよび求電子性シグナルトランスデューサーとしてそれらが果たす役割が示された。タンパク質とのRESの付加物形成、例えばNO2-FAによるGAPDHの共有結合性改変は、タンパク質の活性または細胞内位置を変化させることができる。RESは、NFκBのp65サブユニットとのNO2FAおよび15d-PGJ2の付加物形成によって例証されるように、転写調節因子と共有結合によって結合し、ゆえにDNA結合を妨げることによって遺伝子発現をモジュレートすることもできる。他の事例では、RESは転写因子と関連するタンパク質と共有結合性付加物を形成する(例えばNrf2インヒビターKeap1との15d-PGJ2の付加物形成)。さらに、RESはGSHとの共有結合性付加物を形成することによってシグナル伝達に関与する。活性化RAW264.7細胞可溶化物から回収されたEFADの約50%はタンパク質と付加物形成したが(図9a)、この値はGSHなどの小分子に結合しているEFADを含まなかった。細胞内および細胞外(分泌)の両GS-EFAD-2 (およびGS-EFAD-1)付加物をRP-HPLC-MS/MSによって同定した。興味深いことに、RAW264.7細胞の場合、GS-13-オキソDPAおよびGS-17-オキソDPA付加物の両者が細胞内で検出されたがGS-13-オキソDPA付加物のみが細胞外で検出された。この観察はいくつかの可能性に起因するかもしれない; ASAでのRAW264.7細胞の処理は分泌経路に影響するかもしれず、GS-17-オキソDPAはGS-13-オキソDPAほど効率的には分泌されないかもしれず、またはGS-17-オキソDPAは、以前に分泌されたGS-13-オキソDPAより高速にさらに代謝されるかもしれない。
【0162】
GSHおよびGAPDH-付加物形成に加えて、いくつかのシグナル伝達経路の、EFADによるモジュレーションにより、内因的に生産される抗炎症性シグナル伝達メディエーターとしてのその役割が確認された。その求電子性にしたがって、17-オキソDHAおよび17-オキソDPAは、Nrf2の核蓄積および2つの主要なNrf2標的遺伝子、HO-1およびNqo-1の発現を促進することによって抗酸化反応を誘発した。17-オキソ-標準はまた、PPARγのアゴニストとして作用し、EFADがPPARγの活性化を通していくらかの抗炎症効果を発揮することを示唆した。これは、低濃度の合成リガンドロシグリタゾンによるPPARγの活性化が初代マウスマクロファージ中のIFNγおよびLPS-依存的遺伝子の小セットの発現を阻害するという以前の観察と一致した。さらに、17-オキソDPAおよび17-オキソDHAは、RAW264.7細胞中で用量依存的様式でIFNγおよびLPS誘発性のサイトカイン生産を阻害した。EFADの抗炎症性シグナル伝達特性に関するさらなる証拠は、IFNγおよびKdo2でのマクロファージ活性化後のiNOS発現および17-オキソDPAおよび17-オキソDHAによる活性の用量依存的阻害であった。驚くべきことに、EFAD-1および-2は、RAW264.7中のNF-κB DNA結合活性、p65核移行、またはSTAT-1リン酸化(データは示されない)に影響しなかった。それは、サイトカインおよびiNOS発現の阻害がこれらのシグナル伝達経路と無関係であることを示唆する。興味深いことに、Kdo2およびIFNγに応えるCOX-2誘導は、EFAD処理によって影響されなかった。概してこれらの知見は、EFADがNF-κBおよびSTAT-1以外の経路を介してその抗炎症作用を発揮することを示唆する。PPARγの活性化は1つの可能性である。特にその理由は、PPARγの活性化が、iNOSおよびCOX-2発現に識別可能に影響し、かつNF-κBの活性化に影響することなく発明者らが観察したものに類似のサイトカイン発現パターンを生じさせることができるからである。シグナル伝達メディエーターとしてのEFADの役割を支持する追加の証拠は、17-オキソDPAおよび17-オキソDHAがGAPDH中のCysおよびHis残基と共有結合によって結合し、以前にNO2-FAに関して観察されたパターンと類似のパターンをもたらすという観察であった。最後に、予備データは、EFAD-1および2-が、おそらく転写因子Hsf1の活性化およびその後のHsp70およびHsp40などの標的遺伝子の転写を誘発することによって、熱ショック応答の活性化を介して細胞保護効果を促進することを示す。これは、EFADがその有益な作用を発揮するさらなる機構である。結局、求電子試薬によってモジュレートされる、認識されるシグナル伝達経路を試験したが、おそらくEFADは、それぞれ、その自身の独特のシグナル伝達プロファイルおよび受容体を有する。これらのプロファイルを解明するためのさらなる研究が現在進行中である。
【0163】
本発見の可能性は、EFADの生物学的特性を全体として考慮した場合に十分に認識することができる: それらはオメガ-3脂肪酸由来の有益な生物活性脂質であり、COX-2の作用を介して生産され、その形成はアスピリンによって増強される。このシナリオでは、炎症の分解におけるCOX-2およびオメガ-3脂肪酸の、まだ十分に解明されていない有益な役割および心血管の恒常性におけるその重大な役割は、COX-2由来のEFADがこれらの作用の媒介に寄与することを示唆する。さらに、EFAD生合成のASA-依存的増強はこの仮説をさらに強化し、発明者らが細胞モデルで観察したEFADの保護効果および抗炎症効果がヒト健康におけるオメガ-3脂肪酸、COX-2およびASAのいくつかの有益な作用の変換に関与することを示唆する。
【0164】
引用文献






【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 以下の式(I)に記載の脂肪酸:
【化1】

[式中、
Xは、-CH2-、-OH、-S、-ORtおよび-NRpRqからなる群から選択され;
Yは、-C(O)-、O、-S-、および-NRpRqからなる群から選択され;
Wは、-OH、-H、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRt、NO2、=O、=NRp、=CF2、および=CHFからなる群から選択され;
Wが、-OH、-H、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRtおよびNO2からなる群から選択される場合、Vは-CH-であり、かつ、Wが、=O、=NRp、=CF2、および=CHFからなる群から選択される場合、Vは-C-であり;
a、b、c、d、e、およびfは、独立して、両端を含む0〜15の範囲の整数であり、ここに
dが0でない場合、cは0であり;
cが0でない場合、dは0であり; および
和(a + b + c + e + f)および(a + b + d + e + f)は、独立して、nが、両端を含む3〜15の範囲の整数である式2nまたは2n+1を満たす整数に等しく;
-Rp、-Rqおよび-Rtは、独立して、H、(C1-C8)アルキル、アリールおよび(C1-C8)ハロアルキルからなる群から選択され;
-Ra、-Ra'、-Rb、-Rb'、-Rc、および-Rc'は、独立して、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CHF2、-CH2F、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRtおよびNO2からなる群から選択され;
-Raおよび-Ra'は同時には非水素基を表さず;
-Rbおよび-Rb'は同時には非水素基を表さず;
-Rcおよび-Rc'は同時には非水素基を表さず;
【化2】

は任意的な二重結合を示し; および
【化3】

は場合により存在し、存在すれば、
【化4】

は、XおよびYおよびそれらが結合している炭素原子と一緒になって、5-〜6-員ヘテロシクリルまたはヘテロアリール環を表し; および
ここに式Iは以下の化合物:
13-オキソ-(7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、
17-オキソ-(7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、
13-OH (7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、
17-OH (7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、
13-オキソ-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸、
17-オキソ-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸、
13-OH-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸または
17-OH-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸ではなく; かつ
ここにAはEまたはZ立体配置のいずれかを示す。];
および
(b) 製薬的に許容される担体
を含む医薬製剤。
【請求項2】
YがOであり、Xが-OHであり、かつ
【化5】

が二重結合を示す、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
YがOであり、Xが-ORtであり、かつ
【化6】

が二重結合を示す、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
(i) 以下:
13-オキソ-(7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、
17-オキソ-(7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、
13-OH (7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、
17-OH (7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、
13-オキソ-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸、
17-オキソ-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸、
13-OH-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸または
17-OH-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸からなる群から選択され; かつ
ここにAはEまたはZ立体配置のいずれかを示す、脂肪酸; および
(ii) 製薬的に許容される担体
を含む医薬製剤。
【請求項5】
脂肪酸が、13-オキソ-(7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、17-オキソ-(7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、13-オキソ-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸、17-オキソ-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸からなる群から選択される、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
炎症症状を患っている被験体の治療方法であって、以下の式(I)に記載の脂肪酸:
【化7】

[式中、
Xは、-CH2-、-OH、-S、-ORtおよび-NRpRqからなる群から選択され;
Yは、-C(O)-、O、-S-、および-NRpRqからなる群から選択され;
Wは、-OH、-H、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRt、NO2、=O、=NRp、=CF2、および=CHFからなる群から選択され;
Wが、-OH、-H、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRtおよびNO2からなる群から選択される場合、Vは-CH-であり、かつ、Wが、=O、=NRp、=CF2、および=CHFからなる群から選択される場合、Vは-C-であり;
a、b、c、d、e、およびfは、独立して、両端を含む0〜15の範囲の整数であり、ここに
dが0でない場合、cは0であり;
cが0でない場合、dは0であり; および
和(a + b + c + e + f)および(a + b + d + e + f)は、独立して、nが、両端を含む3〜15の範囲の整数である式2nまたは2n+1を満たす整数に等しく;
-Rp、-Rqおよび-Rtは、独立して、H、(C1-C8)アルキル、および(C1-C8)ハロアルキルから選択され;
-Ra、-Ra'、-Rb、-Rb'、-Rc、-Rc'は、独立して、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CHF2、-CH2F、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRtおよびNO2からなる群から選択され;
-Raおよび-Ra'は同時には非水素基を表さず;
-Rbおよび-Rb'は同時には非水素基を表さず;
-Rcおよび-Rc'は同時には非水素基を表さず;
【化8】

は任意的な二重結合を示し; および
【化9】

は場合により存在し、存在すれば、
【化10】

は、XおよびYおよびそれらが結合している炭素原子と一緒になって、5-〜6-員ヘテロシクリルまたはヘテロアリール環を表し; および
ここに式Iは以下の化合物:
13-オキソ-(7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、
17-オキソ-(7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、
13-OH (7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、
17-OH (7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、
13-オキソ-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸、
17-オキソ-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸、
13-OH-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸または
17-OH-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸ではなく; かつ
ここにAはEまたはZ立体配置のいずれかを示す。]
の治療的有効量を被験体に投与するステップを含む、上記方法。
【請求項7】
炎症症状の治療方法であって、以下:
13-オキソ-(7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、
17-オキソ-(7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、
13-OH (7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,14,16,19-ペンタン酸、
17-OH (7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-7,10,13,15,19-ペンタン酸、
13-オキソ-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸、
17-オキソ-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸、
13-OH-(4Z,7Z,10Z,14A,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,14,16,19-ヘキサン酸または
17-OH-(4Z,7Z,10Z,13Z,15A,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,15,19-ヘキサン酸からなる群から選択され; かつ
ここにAはEまたはZ立体配置のいずれかを示す、脂肪酸
を含む医薬製剤を被験体に投与するステップを含む、上記方法。
【請求項8】
炎症症状が、移植のための臓器保存、骨関節炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、同種移植拒絶、骨盤内炎症性疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、肺でのアレルギー性炎症、悪液質、ストローク、うっ血性心不全、肺線維症、肝炎、グリア芽細胞腫、ギラン・バレー症候群、全身性エリテマトーデス、ウイルス性心筋炎、移植後臓器保護、急性膵炎、過敏性腸疾患、一般的炎症、自己免疫疾患、自己炎症性疾患、動脈狭窄、臓器移植拒絶およびやけど、慢性肺損傷および呼吸困難、インスリン依存性糖尿病、インスリン非依存性糖尿病、高血圧症、肥満症、関節炎、神経変性障害、ループス、ライム病、痛風、敗血症、高体温、潰瘍、全腸炎、骨粗鬆症、ウイルスまたは細菌感染、サイトメガロウイルス、歯周病、糸球体腎炎、サルコイドーシス、肺疾患、肺炎症、肺の線維症、喘息、後天性呼吸困難症候群、タバコ誘発性肺疾患、肉芽腫形成、肝臓の線維症、移植片対宿主病、術後炎症、血管形成術、ステント留置またはバイパス移植後の冠血管および末梢血管再狭窄、冠動脈バイパス移植(CABG)、急性および慢性白血病、Bリンパ球白血病、新生物疾患、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、心筋炎症、乾癬、免疫不全、播種性血管内血液凝固、全身性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳脊髄炎、浮腫、炎症性腸疾患、高IgE症候群、癌転移または増殖、養子免疫療法、再潅流症候群、放射線熱傷、円形脱毛症(alopecia areta)、虚血、心筋梗塞、動脈狭窄、関節リウマチ、冠血管再狭窄、神経認知の減退およびインスリン抵抗性からなる群から選択される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
以下の式(I)に記載の脂肪酸の代謝産物の検出方法であって、以下のステップ:
(a) 生物学的サンプルを以下の式Iに記載の少なくとも1種の脂肪酸:
【化11】

[式中、
Xは、-CH2-、-OH、-S、-ORtおよび-NRpRqからなる群から選択され;
Yは、-C(O)-、O、-S-、および-NRpRqからなる群から選択され;
Wは、-OH、-H、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRt、NO2、=O、=NRp、=CF2、および=CHFからなる群から選択され;
Wが、-OH、-H、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRtおよびNO2からなる群から選択される場合、Vは-CH-であり、かつ、Wが、=O、=NRp、=CF2、および=CHFからなる群から選択される場合、Vは-C-であり;
a、b、c、d、e、およびfは、独立して、両端を含む0〜15の範囲の整数であり、ここに
dが0でない場合、cは0であり;
cが0でない場合、dは0であり;
和(a + b + c + e + f)および(a + b + d + e + f)は、独立して、nが、両端を含む3〜15の範囲の整数である式2nまたは2n+1を満たす整数に等しく;
-Rp、-Rqおよび-Rtは、独立して、H、(C1-C8)アルキル、(C1-C8)アルキル、および(C1-C8)ハロアルキルから選択され;
-Ra、-Ra'、-Rb、-Rb'、-Rc、-Rc'は、独立して、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)、-C(O)Rp、-COOH、-COORp、-Cl、-Br、-I、-F、-CF3、-CHF2、-CH2F、-CN、-SO3、-SO2Rp、-SO3H、-NH3+、-NH2Rp+、-NRpRqRtおよびNO2からなる群から選択され;
-Raおよび-Ra'は同時には非水素基を表さず;
-Rbおよび-Rb'は同時には非水素基を表さず;
-Rcおよび-Rc'は同時には非水素基を表さず;
【化12】

は任意的な二重結合を示し; および
【化13】

は場合により存在し、存在すれば、
【化14】

は、XおよびYおよびそれらが結合している炭素原子と一緒になって、5-〜6-員ヘテロシクリルまたはヘテロアリール環を表す。]
と接触させるステップ;
(b) 場合により、生物学的サンプルから細胞可溶化物(lysate)を調製するステップ;
(c) (a)由来の生物学的サンプルまたは(b)で得られた細胞可溶化物をβ-メルカプトエタノールと、1種以上の共有結合性β-メルカプトエタノール-脂肪酸付加物を含む混合物の形成を可能にするために十分な時間、インキュベートするステップ; および
(d) (c)由来の混合物を質量分析による分析に付して、式Iの1種以上の脂肪酸代謝産物を特定するステップ
を含む、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21a】
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【図21b】
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【図21c】
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【図21d】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2013−500966(P2013−500966A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522816(P2012−522816)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/002141
【国際公開番号】WO2011/014261
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(504279968)ユニバーシティー オブ ピッツバーグ − オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション (24)
【Fターム(参考)】