説明

抗真菌剤の医薬組成物

【課題】本発明は、非晶質化(部分的な非晶質化も含む)したトリアゾール系抗真菌剤であるイトラコナゾールまたはサペルコナゾールをシクロデキストリンまたはその誘導体を使用して可溶化させることで、pHが低pHに限定されることなく、安定な医薬組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】シクロデキストリンまたはその誘導体によりイトラコナゾールまたはサペルコナゾールを可溶化するにあたり、該抗真菌剤をその融点以上に加熱し、溶融させて得た非晶質(部分的な非晶質化も含む)化合物を使用することで、溶媒臭や苦みの元となっているアルコール系共溶媒を添加せず、かつ、強酸により低pHとしなくても可溶化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品分野での発明であり、非晶質化(部分的な非晶質化も含む)したトリアゾール系抗真菌剤とシクロデキストリンまたはその誘導体を使用することで可溶化して得られる、医薬組成物に関するものである。より詳しくは、イトラコナゾールまたはサペルコナゾールを加熱溶融することで非晶質化(部分的な非晶質化も含む)し、25℃での水への溶解度が1.8g/100mL以上であるシクロデキストリンまたはその誘導体、すなわち、マルトシル−β−シクロデキストリンあるいはヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンなどの水溶液と混合することで、溶解補助剤であるアルコール系共溶媒を使用せず、かつ、低pHにすることもなく可溶化させ、安定な医薬組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
トリアゾール系抗真菌剤のイトラコナゾール(Itraconazole: 4−[4−[4−[4−[[2−(2,4−ジクロロフェニル)−2−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)−1,3−ジオキソラン−4−イル]メトキシ]フェニル]−1−ピペラジニル]フェニル]−2,4−ジヒドロ−2−(1−メチルプロピル)−3H−1,2,4−トリアゾール−3−オン)あるいはサペルコナゾール(Saperconazole: 4−[4−[4−[4−[[2−(2,4−ジフルオロフェニル)−2−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)−1,3−ジオキソラン−4−イル]メトキシ]フェニル]−1−ピペラジニル]フェニル]−2,4−ジヒドロ−2−(1−メチルプロピル)−3H−1,2,4−トリアゾール−3−オン)は、経口あるいは非経口投与で使用される抗真菌剤である。
【0003】
該抗真菌剤は、非常に抗菌スペクトルが広く、皮膚糸状菌(トリコフィトン属、ミクロスポルム属、エピデルモフィトン属)、カンジダ属、マラセチア属、アスペルギルス属、クリプトコックス属、スポロトリックス属、ホンセカエア属などの菌種に抗菌活性を示すことが知られている。
【0004】
該抗真菌剤は、従来、トリアゾール系抗真菌剤として多用されていたフルコナゾールの耐性菌に対しても効果が期待されること、また、副作用も比較的少ないことから、近年は表在性皮膚真菌症である白癬(体部白癬、股部白癬、手白癬、足白癬、頭部白癬、ケルスス禿瘡、白癬性毛瘡)、カンジダ症(口腔カンジダ症、皮膚カンジダ症、爪カンジダ症、カンジダ性爪囲爪炎、カンジダ性毛瘡、慢性皮膚粘膜カンジダ症)、癜風、マラセチア毛包炎あるいは爪白癬、また、内臓真菌症(深在性真菌症)である真菌血症、呼吸器真菌症、消化器真菌症、尿路真菌症、真菌髄膜炎の治療に多く用いられるようになった。
【0005】
該抗真菌剤は非常に水への溶解度が乏しく脂溶性の高い薬物であり、強酸性にすることでわずかに溶解度が高まることが知られている。従来製品化されていたカプセル剤などは、その乏しい溶解性のために、患者の胃酸の分泌量や食事中の脂肪分の含量により、薬物の吸収量が大きく左右され、効果の発現量が一定しないというバイオアベイラビリティー上の重大な問題を抱えていた。
【0006】
この重大な問題点を克服するために、シクロデキストリンを使用し、難水溶性である該抗真菌剤を可溶化させる技術が開発され、開示されている(特許文献1)。
【0007】
この特許文献1では、該抗真菌剤をアルコール系共溶媒(エタノールやプロピレングリコールまたはグリセリンなど)に加え、塩酸などの強酸を加えて非常にpHを低くすることで溶解させ、予め別にシクロデキストリンの溶解液を調製しておき、これに加えて溶液状とする。さらに、矯味矯臭剤、甘味料を加えたのち、製剤のpHを2.0±0.1に調整して最終的に製剤化するという方法が記載されている。
【0008】
この方法の場合、確かに該抗真菌剤を可溶化できるが、低pHであることによる口腔内での強烈な刺激があり、また、アルコール系共溶媒特有の溶媒臭や耐え難い苦みがあること、さらに、該抗真菌剤によると思われる苦みが加わることで、たとえ矯味矯臭剤、甘味料を加えていても、苦みと甘味を同時に感じるという非常に不快な味となり、服用を容易にするという観点からは十分ではなかった。したがって、特許文献1においては、甘味剤、矯味矯臭剤の添加が必須となっている。しかしながら、実際はそれでも十分とはいい難い。
【0009】
また、特許文献1には、ゼリー化については何も記載されていない。
それにもかかわらず、本発明者らは、特許文献1に記載の発明においてゼリー化を試みてみたが、成功するには至らなかった。
【0010】
たしかに、味をマスキングすることにおいて、ゼリー化することは非常に有効な方法であるが、特許文献1の発明においては、pHを低くしなければならず、そのため、ゲル化剤が酸で分解し、製剤の安定性が担保できない、あるいは、ペクチンやアルギン酸またはその塩およびジェランガムなどのように、比較的耐酸性があるゲル化剤を使用しても、極端に低いpHのために瞬時にゲル化し、均質な製剤を得ることができない等の問題があった。さらに加えて、低pHのために、可溶化に使用しているシクロデキストリンが分解することで還元末端を有するグルコースを生じ、該抗真菌剤との反応で褐変化が起こるため、製剤としての安定性も十分ではないという、医薬品として非常に重大な問題があった。
【特許文献1】特表平09−502989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、トリアゾール系抗真菌剤、例えばイトラコナゾールまたはサペルコナゾールをアルコール系共溶媒を使用せず、かつ、pHが低pHに限定されることなく、短時間に溶解させることができ、しかも安定な医薬組成物を新たに提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、係る問題点に鑑み上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねた。その結果、25℃での水への溶解度が1.8g/100mL以上のシクロデキストリンまたはその誘導体によりイトラコナゾールまたはサペルコナゾールを可溶化するにあたり、該抗真菌剤をその融点以上に加熱し、溶融させて得た非晶質(部分的な非晶質化も含む)化合物を使用したところ、全く予期せざることに、溶媒臭や苦みの元となっているアルコール系共溶媒を使用せず、かつ、強酸により低pHとしなくても、難溶性の該抗真菌剤を可溶化することができることを見出した。さらに、低pHとしないため、添加剤などの分解がほとんどなく、製剤の経時安定性も向上し、より優れた医薬組成物を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
また、先にも述べたように、味をマスキングする方法としてはゼリー化が非常に有効である点に改めて着目し、本発明者らは、従来技術としての特許文献1(ゼリー化については全く何の開示もされていない)においてゼリー化を試みたが成功するには至らなかった。従来技術の検討の結果、低pHであるため、ゲル化剤が酸で分解したり、あるいは比較的耐酸性があるゲル化剤を使用しても、極端に低いpHのため、瞬時にゲル化してしまう等の理由により、ゼリー化することができなかったのであるが、これらの問題点のない本発明によれば、ゼリー化も可能であるという有用な新知見が得られ、この有用新知見に基づき更に検討の結果、剤型をゼリー剤とする新規医薬組成物に関する発明も完成した。
【0014】
すなわち本発明は、非晶質化(部分的な非晶質化も含む;以下同じ)したトリアゾール系抗真菌剤(例えば、イトラコナゾール、サペルコナゾール等)をシクロデキストリンまたはその誘導体で可溶化させてなること、を特徴とし、しかもその際、アルコール系共溶媒を使用することなく且つpHを低pHに限定する必要もないこと、を特徴とする安定な医薬組成物に関するものである。
【0015】
また、本発明は、非晶質化した該トリアゾール系抗真菌剤を、シクロデキストリン及び/又はその誘導体の存在下、水に溶解させること、を特徴とする医薬組成物の製造方法、ないし、該トリアゾール系抗真菌剤の溶解方法にも関するものである。
【0016】
更に詳細には、本発明は、該トリアゾール系抗真菌剤(イトラコナゾール、サペルコナゾール等)を非晶質化した後、あるいは、あらかじめ非晶質化した該トリアゾール系抗真菌剤を、シクロデキストリン及び/又はその誘導体を含有する水溶液中に添加混合して可溶化させること、しかもその際、従来技術においては必須の工程であるアルコール系共溶媒を使用することなく且つpHを低pHに限定する必要もないこと、を特徴とする安定な医薬組成物を製造する方法に関するものである。
【0017】
また、本発明は、該トリアゾール系抗真菌剤(イトラコナゾール、サペルコナゾール等)を非晶質化した後、あるいは、あらかじめ非晶質化した該トリアゾール系抗真菌剤を、シクロデキストリン及び/又はその誘導体を含有する水溶液中に添加混合して可溶化させること、しかもその際、従来技術においては必須の工程であるアルコール系共溶媒を使用することなく且つpHを低pHに限定する必要もないこと、を特徴とする該トリアゾール系抗真菌剤の可溶化方法にも関するものである。
【0018】
更に、本発明は、上記のように液状の医薬組成物(液剤)及びその製造方法を提供するほか、ゲル化剤を添加混合して常法にしたがってゼリー化することによりゼリー剤に製剤化することも包含するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、難溶性の該抗真菌剤を可溶化することができ、しかもその際、アルコール系共溶媒の使用も必要がなく、また、pHを酸性に限定する必要もないため、製造工程が簡略化されるだけでなく、従来技術では成し得なかった苦みや強烈な酸味による刺激を感じることのない製剤を提供することができる。また、製剤のpHを酸性に限定することなく設定できるため、内服液剤とできることは言うまでもないが、従来技術では製造することができなかった、より薬物の苦みをマスキングするために好適なゼリー剤を提供することができる。
【0020】
しかも、本発明においては、ゼリー状の組成物とした場合、比較的高齢で免疫力が低下した患者に多い内臓真菌症の治療において、嚥下力が低下していても容易に服用できること、また、HIV患者で罹患率が高いといわれる口腔カンジダ症の場合、咽頭痛、嚥下痛があるために、錠剤やカプセル剤など、従来の薬剤が服用しづらい場合にも好適で、さらに、液剤などと比べ、ゼリー剤の方が服用する際の口腔内での滞留時間が長いため、口腔内の真菌との接触時間が長くなり、直接の殺菌作用による効果の上昇も期待できる可能性がある。
【0021】
さらに、上述したように製剤のpHを酸性に限定する必要がないため、可溶化する際に使用しているシクロデキストリン類の分解を防ぐことができ、製剤が経時的に褐変化していくといった医薬品として深刻な問題も回避できることから、安定性を向上させた医薬品を提供することが可能となるのである。また、該抗真菌剤を非晶質化することで通常は安定性が低下するものであるが、本発明は安定性の低下もほとんどないという著効も奏される。
本発明は基本的に経口投与用医薬組成物を想定しているが、親水性の外用薬としても利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る組成物に含まれるトリアゾール系抗真菌剤としては、トリアゾールを含み抗真菌性を有するトリアゾール系化合物がすべて使用可能であり、非限定例としてイトラコナゾール、サペルコナゾールが挙げられる。したがって本発明においては、トリアゾール系抗真菌剤としては、有効成分を抗真菌剤に製剤化したものも包含されるが、通常、有効成分のみ、すなわち、トリアゾール系化合物自体を指すものである。
【0023】
本発明に使用する該抗真菌剤は、非晶質化(部分的な非晶質化も含む)したものを使用することを特徴とする。非晶質化(部分的な非晶質化も含む)する方法は種々存在するため、特に限定されないが、該抗真菌剤の融点(イトラコナゾールは、約166℃、また、サペルコナゾールは約190℃)以上、具体的には約200℃付近の温度で加熱することで溶融化することがより好ましい。このようにして得られた溶融物を、室温まで冷却・固化し、粉砕・篩過することにより使用することができる。
【0024】
該抗真菌剤を非晶質化せず、結晶形の状態のまま使用した場合、適当なアルコール系共溶媒と強酸を使用しなければ、実用的に可溶化することはできない。また、仮にアルコール系共溶媒を使用せずに強酸性溶液としたシクロデキストリン溶液に該抗真菌剤を添加した場合、該抗真菌剤が溶解するまでに非常に長時間を要することとなり、実製造面において非現実的な方法となる(特許文献1)。
【0025】
本発明に使用するシクロデキストリンまたはその誘導体は、非晶質化(部分的な非晶質化も含む)した該抗真菌剤を可溶化できればその種類及び添加量は特に限定されないが、水への溶解度が25℃で1.8g/100mL以上、200g/100mL程度までの溶解性を持つものであることが好ましい。具体的には、γ−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン及びグルコシル−β−シクロデキストリンなどが好適で、特に、マルトシル−β−シクロデキストリンがより好ましい。添加量については、該抗真菌剤とシクロデキストリンまたはその誘導体が1:15〜1:200の比率の範囲にあることが好ましく、1:30〜1:80であることがより好ましい。シクロデキストリンは低pHでは分解する性質を有するが、本発明においては、極端な低pHにする必要がないので、分解しにくいという特徴を有する。
【0026】
医薬組成物中に含まれる該抗真菌剤の含量としては、薬効を発現するのに十分な量を含有させておく必要がある。しかし、薬物の種類により配合量が異なるため、一律に記載することは困難であるが、通常、1回服薬量あたりで25〜200mg程度の幅がある。また、組成物を患者が1回あたりに服用しやすい量として1g〜50g程度と考えた場合、組成物中の該抗真菌剤含量は、0.05%〜20%が好ましく、0.5%〜5%がより好ましい。
【0027】
医薬組成物のpHは、先行技術のようにpH2.0±0.1あるいはそれ以下といった極端な強酸性にする必要はなく、服薬時の刺激や添加剤の安定性などを考慮して設定することができ、好ましくはpH2.5〜8、より好ましくはpH3.5〜7に設定するのが良い。
【0028】
本発明によれば、非晶質化したトリアゾール系抗真菌剤を、シクロデキストリンの存在下、水中において可溶化すればよく、例えば両者を同時に水中に添加、混合、撹拌したり、あるいは、両者に水を添加、混合、撹拌したり、また、所望するのであれば、どちらか一方に加水(あるいは水中にどちらか一方を添加)した後、他の一方をそのまま(あるいは水に懸濁又は溶解したもの)添加、混合、撹拌することにより、可溶化することができる。本発明によれば、可溶化することができるので、常法によって処理することにより、液剤に製剤化することができる。そして、本発明によれば、液剤に製剤化できるので、常法にしたがって処理することにより、容易にゼリー剤に製剤化することができる。
【0029】
このように、本発明によれば、医薬組成物の剤型は、経口投与の場合、液剤あるいはゼリー剤などとすることが出来るが、高齢者の嚥下力の低下や口腔カンジダ症による咽頭痛・嚥下痛などの症状がある場合は、ゼリー剤とすることが好ましい。また、外用薬としても使用できるが、その場合はエアゾール剤、パップ剤及びローション剤とすることも可能である。
【0030】
医薬組成物をゼリー剤とする場合に使用するゲル化剤としては、ペクチン、カンテン、カラギーナン、ジェランガム、ゼラチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアガム、タラガム、アルギン酸またはその塩、マンナン類のうちから、少なくとも一種以上を配合することで良く、場合により併用して使用することができる。併用する場合は、例えば、カッパカラギーナンとイオタカラギーナンの併用、これらのカラギーナンの少なくともひとつとローカストビーンガムの併用が例示される。また、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ローカストビーンガムの少なくともひとつとキサンタンガムの併用が例示される。
【0031】
ゲル化剤の濃度は、薬物の苦みのマスキング効果と薬物の放出性の両方を兼ね備えるために、ゲル強度として3,000〜60,000N/m2、好ましくは4,000〜50,000N/m2、更に好ましくは6,000〜30,000N/m2の強度が得られる量を配合するのが良いが、通常、0.01%〜5%、さらには0.03〜3%がより好ましい。
【0032】
添加される水は、ゼリー化するのに必要な量であればよく、組成物全体の30%(w/w)以上であって、上限は70〜95%(w/w)とするのが好ましく、例えば、30〜95%(w/w)、好ましくは30〜70%(w/w)である。
【0033】
本発明の組成物には、薬物の苦みを遮蔽するための甘味剤、矯味剤及び香料、また、流通時の安定性を確保するための防腐剤(保存剤)、その他、pH調整剤、乳化剤、分散剤、溶解補助剤、抗酸化剤、着色剤などを適宜添加することができる。
【0034】
甘味剤としては、例えば、糖アルコールであるマルチトール、エリスリトール、キシリトール、トレハロース及びソルビトール、高甘味度甘味料であるアセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア及びソーマチンなど、また、その他の糖として、ショ糖が挙げられ、これらの甘味剤は適宜組み合わせて使用することができる。
【0035】
香料としては、例えば、チョコレートフレーバー、アップルフレーバー、アセロラフレーバー、ストロベリーフレーバー、グレープフレーバー、アプリコットフレーバー、パイナップルフレーバー及びオレンジフレーバーなどが挙げられ、これらの香料も適宜組み合わせて使用することができる。
矯味剤としては、例えば、メントール、カカオ末及びクエン酸などが挙げられ、適宜組み合わせて使用することができる。
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルなどが挙げられ、これらの防腐剤も防腐効果を高めるために適宜組み合わせて使用することができる。
【0036】
pH調整剤としては、例えば、クエン酸またはその塩、リン酸またはその塩、塩酸及び水酸化ナトリウムなどが挙げられ、所望のpHに合わせるために適宜組み合わせて使用することができる。
【0037】
本発明の組成物を入れる容器については特に限定されないが、カップ状、封筒状あるいはスティック状の容器に充填し、製品化することが可能であり、携帯性や服用時にスプーンを必要としないなどの利便性を考慮すると、スティック状であることがより好ましい。また、その材質は、薬物の安定性を確保するためにアルミラミネートであることが好ましく、さらに、場合によっては、脱酸素剤が混ぜ込まれたようなラミネートシートで、ゼリー中の酸素を除去し、薬物の酸化を防ぐようなものであっても良い。
【0038】
本発明のゼリー組成物は、通常のゼリー製剤の製造方法により製造することができる。具体的には、例えば、まず、分散媒である水を適量加えた後、ゼリー基材を添加して分散・懸濁または溶解させる。この液を撹拌しながら加熱することにより、ゼリー基材を完全に溶解させた後、他の種々の添加剤を加える。その後、トリアゾール系抗真菌剤のシクロデキストリンによる可溶化物を添加し、良く撹拌して、溶解または分散・懸濁状態として均質化し、該溶液、または分散・懸濁液を冷却することにより、ゼリー組成物を得ることができる。高温に曝すことが好ましくない成分を配合する場合においては、上記で得られる溶液または分散・懸濁液が適当な温度になるまで放置した後に、当該成分を添加し、さらに冷却してゼリー組成物を得てもよく、あるいは高温に曝すのが好ましくない成分を冷却直前に添加してゼリー組成物を得てもよい。
【0039】
このようにして得られるゼリー組成物の包装形態は、特に限定されないが、先に示したように有効成分の1回投与量を1つのスティックに充填することが好ましい。ゼリー組成物のスティックヘの充填およびシールの方法は、常法により行なわれる。
【実施例】
【0040】
以下に、調製例、実施例および試験例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例等に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
下記の成分を用いてゼリー組成物(pH6.6)を調製し、これをカップ型容器に充填・包装した(ゼリー1個中に有効成分が200mg含有)。なお、得られたゼリー組成物については、味ならびにゲル強度を評価した。ゲル強度(N/m2)の測定は、(株)山電RHEONER RE−3305により、φ16mmの円柱型プランジャーを使用し、圧縮速度1mm/s、クリアランス10%にて行なった。
【0042】
成分名 1包中の処方量(g)
イトラコナゾール(溶融物) 0.200
ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン 8.000
κカラギーナン 0.200
ローカストビーンガム 0.022
ソルビトール 2.850
サッカリンナトリウム 0.012
塩化カリウム 0.020
リン酸水素二ナトリウム 0.521
クエン酸 0.052
メントール 適量
オレンジフレーバー 0.020
精製水 適量
合計 20.000
【0043】
得られた組成物は、ゲル強度が10,830N/m2であった。味は、オレンジとメントールの矯味効果により薬物の苦みを感じることなく、非常に服用しやすいものとなった。
【0044】
(実施例2)
下記の成分を用いてゼリー組成物(pH2.7)を調製し、これをカップ型容器に充填・包装した(ゼリー1個中に有効成分が200mg含有)。
成分名 1包中の処方量(g)
イトラコナゾール(溶融物) 0.200
ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン 6.000
ペクチン 0.140
スクラロース 0.004
エリスリトール 4.000
キシリトール 2.000
リン酸 0.014
グレープフルーツフレーバー 0.020
精製水 適量
合計 20.000
【0045】
得られた組成物は、ゲル強度が3,024N/m2であった。かなり柔らかな食感ではあったが、酸味による矯味効果と糖アルコール類の甘味、また、グレープフルーツのフレーバーにより薬物の苦みを感じることなく、さわやかな味で非常に服用しやすいものとなった。
【0046】
(実施例3)
下記の成分を用いてゼリー組成物(pH6.7)を調製し、これをカップ型容器に充填・包装した(ゼリー1個中に有効成分が200mg含有)。
成分名 1包中の処方量(g)
イトラコナゾール(溶融物) 0.200
マルトシル−β−シクロデキストリン 6.000
カンテン 0.126
スクラロース 0.002
リン酸水素二ナトリウム 0.327
クエン酸 0.033
アップルフレーバー 0.020
精製水 適量
合計 17.138
【0047】
得られた組成物は、ゲル強度が25,007N/m2であった。アップルフレーバーとゼリーの食感がマッチし、薬物の苦みを感じることなく、非常に服用しやすいものとなった。
【0048】
(実施例4)
下記の成分を用いてゼリー組成物(pH8.0)を調製し、これをカップ型容器に充填・包装した(ゼリー1個中に有効成分が200mg含有)。
成分名 1包中の処方量(g)
イトラコナゾール(溶融物) 0.200
ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン 6.000
カンテン 0.260
スクラロース 0.002
リン酸水素二ナトリウム 1.200
カカオ末 0.400
チョコレートフレーバー 0.020
精製水 適量
合計 20.000
【0049】
得られた組成物は、ゲル強度が60,107N/m2であった。カカオ末とチョコレートフレーバーによる矯味効果で、薬物の苦みを感じることなく、非常に服用しやすいものとなった。なお、イトラコナゾール(溶融物)にかえてサペルコナゾール(溶融物)を使用するほかは、これらの実施例と同様に処理してゼリー組成物を製造したが、得られたゼリー組成物は、いずれもすぐれたゲル強度を示し、薬物の苦味を感じることなく、非常に服用しやすいものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質化(部分的な非晶質化も含む)したトリアゾール系抗真菌剤をシクロデキストリンまたはその誘導体により可溶化させて得られる医薬組成物。
【請求項2】
トリアゾール系抗真菌剤の非晶質化(部分的な非晶質化も含む)が加熱溶融によるものであることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
トリアゾール系抗真菌剤が、イトラコナゾールまたはサペルコナゾールであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項4】
エタノール、プロピレングリコール及びグリセリンなどのアルコール系共溶媒を含まないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
シクロデキストリンまたはその誘導体が、25℃における水への溶解度として1.8g/100mL以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
pHが2.5から8であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が液剤又はゼリー剤であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のゼリー剤に使用するゲル化剤がペクチン、カンテン、カラギーナン、ジェランガム、ゼラチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアガム、タラガム、アルギン酸またはその塩、マンナン類のうちから、少なくとも一種以上を配合してなるものであることを特徴とする同項記載の医薬組成物。
【請求項9】
ゲル強度が3,000〜60,000N/m2であることを特徴とする請求項7または8のいずれかに記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2008−308417(P2008−308417A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156128(P2007−156128)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(597087804)大蔵製薬株式会社 (9)
【Fターム(参考)】