説明

抗真菌剤

本発明は、塩酸アモロルフィンおよび以下の▲1▼〜▲9▼から選ばれた少なくとも1種を含む抗真菌剤である。▲1▼硝酸ミコナゾール、▲2▼シクロピロクスオラミン、▲3▼トルナフテート、▲4▼サリチル酸、▲5▼塩酸クロルヘキシジン、▲6▼塩化ベンゼトニウム、▲7▼塩化デカリニウム、▲8▼ヒノキチオール、▲9▼ジンクピリチオン 本発明によれば、それぞれの成分の単独使用に比較して、相乗的に水虫の原因菌に効果がある。したがって、従来継続した薬剤塗布を完治前に中止してしまい、十分な治療効果が得にくかった水虫に対する医薬品として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、塩酸アモロルフィンの効力が増強された抗真菌組成物に関する。
【背景技術】
水虫は一般的に治りにくいといわれているが、それは長期間薬剤を塗布し続けなければならないことに起因する。患者の多くは冬場に菌の活動が緩和になると水虫の症状が治まることから、自己判断で薬剤塗布を中断してしまい、薬剤の治療効果が十分発揮できないからである。
したがって短期間で優れた効果を現す抗真菌剤を提供できれば水虫の治療に有効であるが、従来十分満足できるものは無かった。
塩酸アモロルフィンは、我が国でも現在汎用されている抗真菌剤の一つである。塩酸アモロルフィンは、モルホリン系抗真菌剤に分類され、従来のイミダゾール系、チオカルバメート系、ベンジルアミン系、アリルアミン系とは異なる新しい構造を有する。作用機序は真菌細胞壁エルゴステロールの生合成の阻害にあり、その作用点は△14レダクターゼ反応および△8→△7イソメラーゼ反応の2段階を選択的に阻害することにより強い抗真菌活性を示す。
塩酸アモロルフィンは白癬菌属、カンジダ属をはじめ、小胞子菌属、表皮菌属、アスペルギルス属、ペニシリウム属などの病原性真菌に対し幅広い抗菌スペクトルをもち、特に皮膚糸状菌に対するMIC値は非常に低い。
しかし、塩酸アモロルフィンも水虫を完治させるためには長期間の継続した投与が必要であり、十分な治療効果が得られないことが多かった。そのため、より優れた効果を有する抗真菌剤が求められていた。
従来、アモロルフィンについては、その持効性の向上を目的とした技術(日本国特開 2001−335487)などが知られているが、その相乗効果を発現させる成分については報告されていない。
【発明の開示】
本発明者らは、白癬菌属に効力を有する抗真菌剤について種々検討した結果、抗真菌剤としてアモロルフィンとある種の成分を同時に配合することにより、優れた抗真菌効果を発揮することを見出し本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
1.塩酸アモロルフィンおよび以下の▲1▼〜▲9▼から選ばれた少なくとも1種を含む抗真菌剤。
▲1▼硝酸ミコナゾール、▲2▼シクロピロクスオラミン、▲3▼トルナフテート、▲4▼サリチル酸、▲5▼塩酸クロルヘキシジン、▲6▼塩化ベンゼトニウム、▲7▼塩化デカリニウム、▲8▼ヒノキチオール、▲9▼ジンクピリチオン
2.塩酸アモロルフィンの配合量が製剤全体の0.1〜1質量%である1記載の抗真菌剤。
3.塩酸アモロルフィンおよび以下の▲1▼〜▲9▼から選ばれた少なくとも1種を含む薬剤を患部に塗布することを特徴とする、水虫、いんきんたむし又はぜにたむしの治療方法。
▲1▼硝酸ミコナゾール、▲2▼シクロピロクスオラミン、▲3▼トルナフテート、▲4▼サリチル酸、▲5▼塩酸クロルヘキシジン、▲6▼塩化ベンゼトニウム、▲7▼塩化デカリニウム、▲8▼ヒノキチオール、▲9▼ジンクピリチオン
4.塩酸アモロルフィンおよび以下の▲1▼〜▲9▼から選ばれた少なくとも1種の成分の、抗真菌剤製造のための使用。
▲1▼硝酸ミコナゾール、▲2▼シクロピロクスオラミン、▲3▼トルナフテート、▲4▼サリチル酸、▲5▼塩酸クロルヘキシジン、▲6▼塩化ベンゼトニウム、▲7▼塩化デカリニウム、▲8▼ヒノキチオール、▲9▼ジンクピリチオン
である。
本発明において、塩酸アモロルフィンの配合量は、製剤全体(エアゾール剤の場合は原液中)の0.1〜1質量%であり、好ましくは0.2〜0.8質量%である。
同時配合する成分の配合量はその成分により異なり、塩酸アモロルフィン1質量部に対して、▲1▼硝酸ミコナゾールの配合量は0.2〜5質量部、▲2▼シクロピロクスオラミンの配合量は、0.2〜5質量部、好ましくは0.5質量部〜2質量部、▲3▼トルナフテートの配合量は、0.4〜10質量部、好ましくは1〜4質量部、▲4▼サリチル酸の配合量は、0.2〜5質量部、好ましくは0.5〜2質量部、▲5▼塩酸クロルヘキシジンの配合量は、0.1〜5質量部、好ましくは0.5〜2質量部、▲6▼塩化ベンゼトニウムの配合量は0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜2質量部、▲7▼塩化デカリニウムの配合量は、0.01〜5質量部、好ましくは0.05質量部〜2質量部、▲8▼ヒノキチオールの配合量は0.01〜0.5質量部、好ましくは0.05質量部〜0.2質量部、▲9▼ジンクピリチオンの配合量は、0.1〜5.0質量部、好ましくは1.0〜5.0質量部である。
本発明の組成物は、必要に応じて通常の添加剤などを混合して常法により、液剤、ローション剤、乳剤、チンキ剤、軟膏剤、クリーム剤、水性ゲル剤、油性ゲル剤、エアゾール剤、パウダー剤などの外用製剤とすることができる。
本発明において配合できる成分としては、水溶性成分として、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、エタノール、マクロゴール類などがあげられる。本発明において配合できる油性成分として、アジピン酸ジイソプロピル、ステアリルアルコール、セタノール、スクワラン、中鎖トリグリセライドなどがあげられる。本発明において配合できる高分子として、カルボキシビニルポリマー、メチルセルロース、エチルセルロースなどがあげられる。本発明において配合できるpH調整剤として、クエン酸、水酸化ナトリウム、ジイソプロパノールアミンなどがあげられる。本発明において配合できる抗酸化剤として、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、α−トコフェロール、エリソルビン酸、ピロ亜硫酸ナトリウムなどがあげられる。本発明において配合できる界面活性剤として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリソルベート類、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンなどがあげられる。本発明において配合できる安定化剤として、EDTA−2Naなどがあげられる。
本発明の組成物は白癬菌に対して優れた抗真菌効果を有するので、水虫、いんきんたむし又はぜにたむしに対して優れた治療効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
以下実施例および試験例により、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
(クリーム)
塩酸アモロルフィン 0.5575g
硝酸ミコナゾール 1.0g
リドカイン 2.0g
ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート 4.0g
ソルビタンモノステアレート 2.0g
1,3−ブチレングリコール 15.0g
中鎖脂肪酸トリグリセリド 15.0g
グリセリンモノステアレート 25.0g
EDTA−2Na 0.1g
精製水 全100g
水相成分(1,3−ブチレングリコール、EDTA−2Na、精製水)および油層成分(塩酸アモロルフィン、硝酸ミコナゾール、リドカイン、ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、中鎖脂肪酸トリグリセリド、グリセリンモノステアレート)をそれぞれ加温後混合し、通常の方法でクリーム100gを製造した。
【実施例2】
(ゲルクリーム)
塩酸アモロルフィン 0.5575g
ヒノキチオール 0.1g
リドカイン 2.0g
ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート 1.0g
プロピレングリコール 10.0g
中鎖脂肪酸トリグリセリド 5.0g
ステアリルアルコール 1.0g
カルボキシビニルポリマー 0.5g
ジイソプロパノールアミン 適量
EDTA−2Na 0.1g
精製水 全100g
油相成分(塩酸アモロルフィン、ヒノキチオール、リドカイン、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ステアリルアルコール)を加温溶解し、プロピレングリコールを加え、さらに、精製水により膨潤させたカルボキシビニルポリマーに油相を加え乳化後、精製水に溶解した中和剤およびEDTA−2Naを添加し、ゲルクリームを製造した。
【実施例3】
(ゲルクリーム)
塩酸アモロルフィン 0.5575g
塩化デカリニウム 0.1g
リドカイン 2.0g
グリチルリチン酸二カリウム 0.5g
塩化ベンザルコニウム 0.05g
l−メントール 1.0g
ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート 3.0g
1,3−ブチレングリコール 5.0g
ステアリルアルコール 5.0g
白色ワセリン 5.0g
中鎖脂肪酸トリグリセリド 5.0g
カルボキシビニルポリマー 1.0g
EDTA−2Na 0.1g
ジイソプロパノールアミン 適量
精製水 全100g
油相成分(塩酸アモロルフィン、リドカイン、l−メントール、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、白色ワセリン、ステアリルアルコール、流動パラフィン)を加温溶解し、精製水により膨潤させたカルボキシビニルポリマーに油相を加え乳化後、1,3−ブチレングリコールおよび精製水に溶解した塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、グリチルリチン酸二カリウム、ジイソプロパノールアミンおよびEDTA−2Naを添加し、ゲルクリームを製造した。
【実施例4】
(ローション)
塩酸アモロルフィン 0.5575g
塩化ベンゼトニウム 0.1g
リドカイン 2.0g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.5g
ポリエチレングリコール400 10.0g
エタノール 50.0g
精製水 全100ml
上記処方で、常法によりローション剤を製造した。
【実施例5】
(ローション)
塩酸アモロルフィン 0.5575g
塩化ベンゼトニウム 0.1g
リドカイン 2.0g
グリチルリチン酸二カリウム 0.5g
塩化ベンザルコニウム 0.05g
l−メントール 1.0g
ポリエチレングリコール400 10.0g
カルボキシビニルポリマー 0.2g
ポリビニルピロリドン 1.0g
エタノール 45.0g
ジイソプロパノールアミン 適量
精製水 全100ml
上記処方で、常法によりローション剤を製造した。
【実施例6】
(エアゾール剤)
原液:
塩酸アモロルフィン 27.895g
トルナフテート 50g
グリチルリチン酸ジカリウム 25g
エタノール 2500g
精製水 全5000ml
噴射剤:
DME 5000ml
エタノール、精製水の基剤に他の原液成分を溶解して原液を製造した。
容器に充填後、バルブを装着し、噴射剤を充填してエアゾール剤を製造した。
試験例1
塩酸アモロルフィンと各検体の組み合わせによりFICインデックス(Fractional Inhibitory Concentration index)を測定し、相加・相乗効果を測定した。
検体として、硝酸ミコナゾール、シクロピロクスオラミン、トルナフテート、サリチル酸、塩酸クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウム、ヒノキチオールおよびジンクピリチオンを用いた。
感受性試験は日本医真菌学会(標準化委員会)提案微量液体希釈法にて行った。感受性測定用培地として、0.165M MOPS−RPMI1640を用いた。
薬剤を含む培地に約10分生子/mlに調製した菌液を接種、28℃、にて最長7日間培養した。抗菌力の判定は発育コントロールが明らかに赤変した時点で目視にて行った。陰性コントロールと同様の青色を示すウエルの最小濃度をMIC値(最小発育阻止濃度、μg/ml)とした。チェッカーボード法によりFICインデックス(Fractional Inhibitory Concentration index)を算出した。
算出式;

判定は、2より大きいものを拮抗作用、2〜1のものを相加作用、1以下のものを相乗効果として併用効果の判定をした。
得られたFICインデックスの結果を表1に示した。

表から明らかなように、全ての薬剤で水虫の代表的な菌種に対して相乗効果を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
本発明により、塩酸アモロルフィンの作用をより高めることができたので、皮膚糸状菌に対して極めて効力の強い抗真菌剤を提供することが可能になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸アモロルフィンおよび硝酸ミコナゾールを含む抗真菌剤。
【請求項2】
塩酸アモロルフィンおよびシクロピロクスオラミンを含む抗真菌剤。
【請求項3】
塩酸アモロルフィンおよびトルナフテートを含む抗真菌剤。
【請求項4】
塩酸アモロルフィンおよびサリチル酸を含む抗真菌剤。
【請求項5】
塩酸アモロルフィンおよび塩酸クロルヘキシジンを含む抗真菌剤。
【請求項6】
塩酸アモロルフィンおよび塩化ベンゼトニウムを含む抗真菌剤。
【請求項7】
塩酸アモロルフィンおよび塩化デカリニウムを含む抗真菌剤。
【請求項8】
塩酸アモロルフィンおよびヒノキチオールを含む抗真菌剤。
【請求項9】
塩酸アモロルフィンおよびジンクピリチオンを含む抗真菌剤。
【請求項10】
塩酸アモロルフィンの配合量が製剤全体の0.1〜1質量%である1〜9のいずれかに記載の抗真菌剤。
【請求項11】
塩酸アモロルフィンおよび硝酸ミコナゾールを含む薬剤を患部に塗布することを特徴とする、水虫、いんきんたむし又はぜにたむしの治療方法。
【請求項12】
塩酸アモロルフィンおよびシクロピロクスオラミンを含む薬剤を患部に塗布することを特徴とする、水虫、いんきんたむし又はぜにたむしの治療方法。
【請求項13】
塩酸アモロルフィンおよびトルナフテートを含む薬剤を患部に塗布することを特徴とする、水虫、いんきんたむし又はぜにたむしの治療方法。
【請求項14】
塩酸アモロルフィンおよびサリチル酸を含む薬剤を患部に塗布することを特徴とする、水虫、いんきんたむし又はぜにたむしの治療方法。
【請求項15】
塩酸アモロルフィンおよび塩酸クロルヘキシジンを含む薬剤を患部に塗布することを特徴とする、水虫、いんきんたむし又はぜにたむしの治療方法。
【請求項16】
塩酸アモロルフィンおよび塩化ベンゼトニウムを含む薬剤を患部に塗布することを特徴とする、水虫、いんきんたむし又はぜにたむしの治療方法。
【請求項17】
塩酸アモロルフィンおよび塩化デカリニウムを含む薬剤を患部に塗布することを特徴とする、水虫、いんきんたむし又はぜにたむしの治療方法。
【請求項18】
塩酸アモロルフィンおよびヒノキチオールを含む薬剤を患部に塗布することを特徴とする、水虫、いんきんたむし又はぜにたむしの治療方法。
【請求項19】
塩酸アモロルフィンおよびジンクピリチオンを含む薬剤を患部に塗布することを特徴とする、水虫、いんきんたむし又はぜにたむしの治療方法。
【請求項20】
塩酸アモロルフィンおよび硝酸ミコナゾールからなる組成物の、抗真菌剤製造のための使用。
【請求項21】
塩酸アモロルフィンおよびシクロピロクスオラミンからなる組成物の、抗真菌剤製造のための使用。
【請求項22】
塩酸アモロルフィンおよびトルナフテートからなる組成物の、抗真菌剤製造のための使用。
【請求項23】
塩酸アモロルフィンおよびサリチル酸からなる組成物の、抗真菌剤製造のための使用。
【請求項24】
塩酸アモロルフィンおよび塩酸クロルヘキシジンからなる組成物の、抗真菌剤製造のための使用。
【請求項25】
塩酸アモロルフィンおよび塩化ベンゼトニウムからなる組成物の、抗真菌剤製造のための使用。
【請求項26】
塩酸アモロルフィンおよび塩化デカリニウムからなる組成物の、抗真菌剤製造のための使用。
【請求項27】
塩酸アモロルフィンおよびヒノキチオールからなる組成物の、抗真菌剤製造のための使用。
【請求項28】
塩酸アモロルフィンおよびジンクピリチオンからなる組成物の、抗真菌剤製造のための使用。

【国際公開番号】WO2004/073715
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502765(P2005−502765)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001892
【国際出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】