説明

抗肥満剤

【課題】日常的に摂取できる主食と成り得る素材から得られる、抗肥満効果が高くかつ安全性が高い抗肥満剤ならびに該抗肥満剤を用いた飲食品および動物用飼料を提供すること。
【解決手段】抗肥満剤の有効成分として、発芽期のイネ科植物、好ましくは発芽期のライ麦または小麦の抽出物、好ましくは、20〜28℃未満の発芽条件において発芽させる場合に、未発芽種子に吸水させてから12〜144時間経過したもの、または、12〜20℃未満の発芽条件において発芽させる場合に、未発芽種子に吸水させてから18〜192時間経過した発芽物の抽出物、或いは前記発芽物の芽の長さが、1mm以上180mm以下である発芽物の抽出物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発芽処理することによって脂肪細胞分化抑制作用および脂肪蓄積抑制作用を高めたイネ科植物を用いた、抗肥満剤ならびに該抗肥満剤を含有する飲食品および動物用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本および欧米諸国では、糖尿病、高血圧、動脈硬化などの症状が重複するメタボリックシンドロームとよばれる病態をもつ患者が増加している。メタボリックシンドロームには肥満が深く関わっていると考えられている。肥満は、過食によるエネルギーの過剰摂取や運動不足による消費エネルギー低下などにより、脂肪細胞数の増加や脂肪細胞自身の肥大化が起こり、脂肪が過剰に蓄積した状態をいう。脂肪を過剰に蓄積した肥大脂肪細胞からは各種のアディポサイトカインが分泌され、その結果、インスリン抵抗性や高血圧、高脂血症などが誘導される。肥満やメタボリックシンドロームを制御するためには脂肪前駆細胞の肥大脂肪細胞への分化および脂肪蓄積の機構を解明することが重要な課題であり、この肥大脂肪細胞への分化および脂肪蓄積を抑制することが肥満の予防に繋がるものと考えられる。
【0003】
従来、肥満の予防に有用な物質としては、ベルベリンなどの物質が知られているが、塩化ベルベリンは医薬品であり、医師の処方なしに、効果を示す量を継続して摂取する事はできない。また、天然物由来の抽出物として、特許文献1には、イネ科植物の種子および/または地上部茎葉から抽出される成分を有効成分とする脂肪前駆細胞からの脂肪細胞分化抑制物質が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の脂肪細胞分化抑制物質は、多種類のイネ科植物を有効成分とすると共に、これらイネ科植物の多岐に亘る部分、すなわち種子、葉、茎などを有効成分としているため、摂取量と作用の間に相関性がなく、脂肪細胞の安定した分化抑制作用を得ることができず、さらに高用量を適用したとしても、強力な脂肪蓄積抑制作用を得ることができないという問題点を有していた。
【0005】
前記問題点を改善したものとして、特許文献2には、イネ科植物の一つである麦類の若葉、特に大麦若葉の搾汁液粉末を用いた脂肪細胞分化抑制物質が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の脂肪細胞分化抑制物質は、特許文献2の明細書の段落〔0044〕及び〔図1〕の記載から明らかなように、マウス脂肪前駆細胞3T3−L1の脂肪細胞への分化抑制率は、約20〜40%程度であり、また添加量を増加させても、脂肪蓄積率が40%程度で効果が頭打ちとなり、脂肪細胞分化抑制作用および脂肪蓄積抑制作用に関し、未だ十分なものとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−247695号公報
【特許文献2】特開2008−056580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、日常的に摂取できる主食と成り得る素材から得られ、抗肥満効果が高く、しかも用量と活性に相関性があって効果が実感しやすく、かつ安全性が高い抗肥満剤ならびに該抗肥満剤を用いた飲食品および動物用飼料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の穀物に発芽処理を施した、発芽期の穀物に優れた脂肪細胞分化抑制作用及び脂肪蓄積抑制作用が発現すること、そしてこれらの作用効果は発芽の程度に依存することを見出した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、発芽期のイネ科植物の抽出物を有効性分として含有する抗肥満剤、好ましくは、更に、下記(1)〜(5)のいずれか、特に好ましくは、下記(1)〜(5)の全てを有する抗肥満剤ならびに該抗肥満剤を含有する飲食品および動物用飼料を提供することにより、上記目的を達成したものである。
(1)前記発芽期のイネ科植物は、20〜28℃未満の発芽条件において発芽させる場合に、未発芽種子に吸水させてから12〜144時間経過したもの、または、12〜20℃未満の発芽条件において発芽させる場合に、未発芽種子に吸水させてから18〜192時間経過したものである。
(2)前記発芽期のイネ科植物は、芽の長さが1mm以上180mm以下のものである。
(3)前記イネ科植物が、ライ麦または小麦である。
(4)前記抽出物が、前記発芽期のイネ科植物の乳酸菌発酵物または酵母発酵物の抽出物である。
(5)前記抽出物が、エタノール抽出物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗肥満剤ならびに該抗肥満剤を用いた飲食品および動物用飼料は、抗肥満効果が高く、かつ穀物として食されているイネ科植物から得られるものであるため、日常的に主食に添加することもできる安全な抗肥満作用を有する穀物素材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−1】図1−1は、発芽温度15℃において、発芽の程度の異なるライ麦の抽出物を添加したときの細胞内トリグリセライド量を示した図である。
【図1−2】図1−2は、発芽温度15℃において、発芽の程度の異なる小麦の抽出物を添加したときの細胞内トリグリセライド量を示した図である。
【図2】図2は、発芽温度25℃において、発芽の程度の異なるライ麦の抽出物を添加したときの細胞内トリグリセライド量を示した図である。
【図3】図3は、ライモルト又は塩化ベルベリンの添加量を変えて添加したときの細胞内トリグリセライド量を示した図である。
【図4】図4は、ライモルトの乳酸菌発酵物または酵母発酵物の抽出物を添加量を変えて添加したときの細胞内トリグリセライド量を示した図である。
【図5】図5は、(a)分化誘導を行う前の3T3−L1細胞(400倍)、(b)分化誘導後の3T3−L1細胞(400倍)、及び(c)分化誘導の際に発芽温度15℃で48時間経過後の発芽ライ麦抽出物を添加した3T3−L1細胞(400倍)をそれぞれ示した光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の抗肥満剤について、好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0014】
本発明の抗肥満剤に用いるイネ科植物としては、特に制限されないが、例えば、ライ麦、小麦、ライ小麦,大麦,オーツ麦,はと麦,トウモロコシ,イネ,ヒエ,アワ,キビなどが挙げられ、高い活性が得られる点から、ライ麦および小麦が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明の抗肥満剤に用いる発芽期のイネ科植物は、その抗肥満効果が発芽の程度に依存することから、20〜28℃の発芽条件(以下、発芽条件Aとも言う)において発芽させる場合に、好ましくは未発芽種子に吸水させて(吸水開始)から6〜192時間経過したもの、より好ましくは12〜144時間経過したものを用いることが好ましい。また、12〜20℃未満の発芽条件(以下、発芽条件Bとも言う)において発芽させる場合に、好ましくは未発芽種子に吸水させて(吸水開始)から6〜240時間経過したもの、より好ましくは18〜192時間経過したものを用いることが好ましい。
したがって、前記発芽条件Aにおいて、未発芽種子に吸水させてから6〜192時間経過したもの、または、前記発芽条件Bにおいて、未発芽種子に吸水させてから6〜240時間経過したものであれば、抗肥満効果が高く、しかも用量と活性に相関性があって効果が実感しやすい抗肥満剤が得られる。
通常、種子が発芽するまで、即ち、発芽の状態が確認されるまでの期間は、周囲の環境や条件、種子の状態によって異なるものであるが、本発明における発芽期のイネ科植物には、種子の発芽が確認されてから実際に芽が伸長していく状態にあるものだけでなく、前記発芽条件Aにおいて、未発芽種子に吸水させてから6時間以上経過したもの、または前記発芽条件Bにおいて、未発芽種子に吸水させてから6時間以上経過したものであれば、実際に芽が伸長する前の状態のものも含まれる。
【0016】
また、前記発芽期のイネ科植物は、前述の如く、実際に芽が伸長する前の状態のものを含むものであるが、芽の長さが、1mm以上180mm以下のものが好ましく、1mm以上150mm以下のものがより好ましく、1mm以上100mm以下のものが更に好ましい。芽の長さが180mm超のものであると、それ以下のものと比較して作用が低下することがある。
【0017】
前記発芽期のイネ科植物を得るための発芽処理方法としては、特に制限されるものではないが、水(水道水や地下水などの一般水、蒸留水、滅菌水など)を使用した発芽処理方法が好ましい。例えば、ライ麦等の穀粒を水に浸漬して休眠打破した後、シャーレ等の容器内で発芽させる方法が挙げられる。この方法の場合、浸漬水の温度は、好ましくは2〜40℃、より好ましくは10〜30℃である。また、発芽処理は、インキュベーター中で行ってもよい。この方法の場合、インキュベーター内の保持温度は、好ましくは2〜40℃、より好ましくは15〜30℃である。
また、イネ科植物は、発芽処理に際しては、水洗して夾雑物を除去し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液などで滅菌しておくことが好ましい。
【0018】
前記発芽処理後、得られた発芽期のイネ科植物は、そのまま抽出処理をしてもよいが、より高い活性を示す組成物が得られる点から、抽出処理の前に、得られた発芽期のイネ科植物の発酵処理をすることが好ましい。発酵は、乳酸菌または酵母菌を使用して処理することが好ましい。尚、発酵処理をする発芽期のイネ科植物は、そのまま発酵処理に供することもできるが、処理の前にあらかじめ発芽期のイネ科植物を、好ましくは平均粒径が1〜100μm程度に粉砕や破砕すると、表面積が増加し、発酵を効率よく行うことができるため好ましい。粉砕や破砕する方法としては、例えば、スライサーやカッターで切削した後ブレンダ−、ミキサー、摩砕ミルで粉砕処理する方法などを使用できる。
【0019】
前記発酵処理に用いる乳酸菌としては、例えば、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属またはぺディオコッカス(Pediococcus)属に属する菌株が挙げられる。例えば、乳酸菌として、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・フェルメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・デルブルキー(Lactobacillus delbruckii)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ブツネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ぺディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
また、前記発酵処理に用いる酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)
、チゴサッカロマイセス・ルキシ(Zygosaccharomyces rouxii)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
前記発酵処理は、従来公知の方法により行うことができ、例えば、乳酸菌を用いる場合には、特開2008−179595号公報の段落〔0022〕〜〔0029〕に記載の方法が挙げられる。酵母を用いる場合においても、同様の方法を適宜変更することによって行うことができる。
【0022】
前記発芽期のイネ科植物または発酵物の抽出は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよびn−ブタノールなどの低級アルコール、ならびに1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールなどの室温で液体であるアルコール類;ジエチルエーテルおよびプロピルエーテルなどのエーテル類;酢酸ブチルおよび酢酸エチルなどのエステル類;アセトンおよびエチルメチルケトンなどのケトン類;ならびにクロロホルムなどの有機溶媒を用いて行うことができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の有機溶媒の中では、操作性や環境に対する影響などの点から、室温で液体であるアルコール類、例えば、炭素原子数1〜4の低級アルコールを用いるのが好ましく、残留溶媒による安全性の観点からはエタノールを用いるのがより好ましい。
【0023】
具体的な抽出方法としては、前記発芽期のイネ科植物または発酵物を、常圧または加圧下で室温または加温した抽出溶媒中に加え浸漬や攪拌しながら抽出する方法や、抽出溶媒中で還流しながら抽出する方法などが挙げられる。その際、抽出温度は2〜100℃とするのが好ましい。抽出時間は使用する抽出溶媒の種類や抽出条件などによって適宜設定することができるが、通常30分〜60時間程度である。また、抽出溶媒の使用量は、前記イネ科植物または発酵物100質量部に対し、好ましくは50〜2000質量部程度にするとよい。尚、抽出処理の前に、あらかじめ発芽期のイネ科植物を、発酵処理における説明と同様の方法で粉砕や破砕処理してもよい。
【0024】
ついで、抽出液および残渣を含む混合物を、必要に応じて濾過または遠心分離などに供し、残渣である固形成分を除去して抽出液を得る。なお、除去した固形成分を再度、抽出溶媒を用いる抽出操作に供することもでき、さらにこの操作を何回か繰り返してもよい。
【0025】
このようにして得られた抽出物を液体のまま本発明の抗肥満剤として用いてもよく、さらに用途や必要に応じ、剤型や食品の種類および形態などに合わせて、凍結乾燥、熱風乾燥、熱処理、粉砕処理、分級処理、加水混合処理などの加工処理を適宜施した加工物としてから使用してもよい。
【0026】
本発明の抗肥満剤は、前記発芽期のイネ科植物および発酵物の抽出物、ならびに必要に応じて薬学的に許容される種々の担体、賦形剤、その他の添加剤、その他の成分を配合して製剤化したものである。本発明の抗肥満剤の剤型は、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などの経口剤であり、常法により製剤化することができる。また、他の成分として、その他の薬効作用を有する成分、抗炎症薬、各種ビタミン類、生薬、ミネラル類を適宜配合することができる。
【0027】
また、本発明の抗肥満剤を用いた飲食品および動物用飼料は、前記発芽期のイネ科植物もしくは発酵物の抽出物またはその加工物を、飲食品または動物用飼料に添加したものである。添加対象の食品としては、パン類、麺類、タブレット、キャンディーなどの菓子類、清涼飲料、ジュース、栄養ドリンクなどの飲料などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。飲食品への添加時機も、特に制限されるものではなく、飲食品の製造工程中に添加してもよく、製造された飲食品に添加してもよい。
【0028】
本発明の抗肥満剤およびこれを含有する飲食品中の前記発芽期のイネ科植物および/または発酵物の含有量は、特に制限されるものではなく、使用形態、抗肥満剤の剤型、飲食品の種類、投与または摂取する者の症状や年齢性別などによって適宜変化させることができ、通常、1人1日当たりの前記発芽期のイネ科植物および/または発酵物の投与量または摂取量が0.01〜10gとなるように含有させることが好ましい。
【実施例】
【0029】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0030】
実施例(発芽期の小麦およびライ麦の抽出物の製造ならびに評価)
1.試料
使用した試料は下記の通りである。
小麦:ホクシン(未発芽)
ライ麦:ドイツ産ライ麦(未発芽)およびライモルト(発芽ライ麦市販品:Briess Industries製;芽の長さ1mm)
乳酸菌1:菌種ID「AYA」(FERM P21106)、種名「Lactobacillus plantarum」、入手先「オリエンタル酵母工業(株)」
乳酸菌2:菌種ID「L−010」(FERM P21534)、種名「Lactobacillus plantarum」、入手先「オリエンタル酵母工業(株)」
乳酸菌3:商品名「アクティブサワーR」(乳酸菌製剤:オリエンタル酵母工業(株))
酵母:菌種ID「P−544」、種名「Saccharomyces cerevisiae」、入手先「オリエンタル酵母工業(株)」
【0031】
2.小麦またはライ麦の発芽物の調製
前記小麦粒またはライ麦粒50gを、1%次亜塩素酸ナトリウムおよび0.1%「TritonX−100」(商品名:非イオン性界面活性剤:GEヘルスケア ジャパン(株)製)水溶液300mLに10分間浸漬した後、水300mLで5回洗浄した。洗浄後の小麦粒またはライ麦粒を10gずつ9cm径のシャーレに入れ、水30mLを加えて(吸水開始)、4℃で一昼夜静置した後、15℃(前記発芽条件A)または25℃(前記発芽条件B)で数日間静置して発芽させた。吸水開始から24時間ごとに芽の長さを測定した。測定は、無作為に10本の発芽物を採取し、1mm刻みで測定し、平均値とした。
【0032】
3−1.乳酸菌発酵物の調製
GYP培地で、前培養した菌体適当量を、20%(w/v)の前記ライモルト粉砕物(100μmスルー)の水懸濁液に添加して、30℃、24時間、120rpmで振とう培養して発酵処理を行うことにより乳酸菌発酵物を得た。
【0033】
3−2.酵母発酵物の調製
YPD培地およびYMPD培地で前培養した酵母適当量を、20%(w/v)の前記ライモルト粉砕物の水懸濁液に添加して、30℃、6時間または24時間、120rpmで振とう培養して発酵処理を行うことにより酵母発酵物を得た。
【0034】
4.エタノール抽出物の調製
前記の小麦およびライ麦の未発芽物、小麦およびライ麦の発芽物、ならびにライモルトの乳酸菌および酵母発酵物を凍結乾燥して(ただし、前記未発芽物および発芽物は、マルチビーズショッカー(多検体細胞破砕機/MB301(S):安井器械株式会社製)で粉砕した後)、各試料に5倍量のエタノールを添加して、150rpm、室温の条件で、2時間振とう抽出した。次いで、3500rpm、室温の条件で、15分間遠心分離して、上清を遠心濃縮機で乾燥した。得られた濃縮物の重量を測定して、100mg/mLとなるようにエタノールに溶解して、各試料のエタノール抽出物を得た。得られた各試料について、下記の方法により、脂肪細胞分化抑制性および脂肪蓄積抑制性を評価した。
【0035】
5.マウス前駆脂肪細胞3T3−L1を用いた脂肪細胞分化抑制性および脂肪蓄積抑制性評価
マウス前駆脂肪細胞3T3−L1を、10% fetal bovine serum(FBS)、10U/mL penicillin、10μg/mL streptomycinを含むダルベッコ変法イーグル培地(グルコース4.5g/L、DMEM、Sigma-Aldrich社製)に、4×104cells/mLの密度で浮遊させ、24ウェルプレートに1mLずつ播種した。次いで、5%CO2存在下、37℃で、3日間の培養後、コンフルエントになったことを顕微鏡下で確認してから、脂肪細胞への分化を誘導するため、培地を10μg/mLインスリン(ヒト由来)、250nMデキサメタゾン、500μM 3−イソブチル−1−メチルキサンチンを含む10%FBS−DMEM(分化誘導培地)に置換し、分化誘導2日後、培地を10μg/mLインスリンを含む10%FBS−DMEM(維持培地)に置換して、さらに、5日または6日間培養した。各試料のエタノール抽出物は分化誘導培地および維持培地に添加して培養した。各培養細胞の脂肪細胞分化抑制作用を顕微鏡下で観察し、また細胞内の脂肪蓄積抑制性を、下記トリグリセライド量の測定によって評価した。なお、陽性対照として塩化ベルベリン(Sigma-Aldrich社製)を用いた。結果は、無添加におけるトリグリセライド産生量を100とした%で表す。トリグリセライド量の結果は、〔表1−1〕、〔表1−2〕、〔表2〕、〔表3〕及び〔表4〕と、〔図1−1〕、〔図1−2〕、〔図2〕、〔図3〕及び〔図4〕に示す。尚、表及び図の番号は、それぞれ同一の評価結果に対応している。また、3T3−L1細胞における分化抑制作用の観察結果を、〔図5〕に示す。
【0036】
6.トリグリセライド量の測定
上記培養後の3T3−L1細胞をPBS(−)500μL/wellで2回洗浄した後、2−プロパノール300μLを加えて、80rpmで、20分間振とうして細胞内のトリグリセライドを抽出した。抽出したトリグリセライド量を、トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業製)を用いて定量を行った。
【0037】
【表1−1】

【0038】
【表1−2】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
〔表1−1〕及び〔図1−1〕の結果から、次のことが明らかである。未発芽のライ麦(種子)では、脂肪細胞が細胞内に脂肪を蓄積するのを全く抑制しないが、発芽処理を行ったライ麦では、時間の経過と共に、脂肪蓄積抑制作用を増大させた。具体的には、発芽温度を15℃とした場合(前記発芽条件A)に、トリグリセライドの産生量は、吸水開始から6時間経過(まだ芽は出ていない状態)で試料無添加の細胞に比して、66.8%の細胞内脂肪量であった。24、48、72時間経過(芽の長さがそれぞれ2.5mm、4mm、10mm)で、それぞれ28.5%、1.4%、2.9%にまで減少した。更に、144時間、すなわち6日経過(芽の長さが15mm)すると、トリグリセライドの産生量は、計測できないレベルまで減少した。
〔表1−2〕及び〔図1−2〕の結果から、ライ麦の発芽物の代わりに、小麦の発芽物を用いても同様の効果が得られることが確認された。
〔表2〕及び〔図2〕の結果から、発芽温度を25℃とした場合(前記発芽条件B)でも、発芽処理を行ったライ麦では、時間の経過と共に、脂肪蓄積抑制作用を増大させることが確認された。また、細胞に添加する試料の濃度を減少させると、脂肪蓄積抑制作用は、発芽開始から144時間、すなわち6日後に最大値を示し、以降は作用が減少することが確認された。
〔表3〕及び〔図3〕の結果から、ライモルト(ライ麦の発芽物)の脂肪蓄積抑制作用が用量依存的であること、また、その作用は塩化ベルベリンと同様に非常に強力なものであることが確認された。
〔表4〕及び〔図4〕の結果から、ライモルト(ライ麦の発芽物)は、乳酸菌または酵母により発酵させることで、脂肪蓄積抑制作用が強化され、より少ない添加量で脂肪蓄積抑制作用を示すことが確認された。
【0043】
また、〔図5〕から、本発明の抗肥満剤を添加した細胞では、分化誘導を行っているにも関らず、細胞内に脂肪が全く認められず、細胞の形態も脂肪細胞のようになっていないことから、本発明の抗肥満剤が脂肪細胞分化抑制作用を有することが認められた。
【0044】
これらの結果から、イネ科植物であるライ麦および小麦は、発芽することによって、脂肪細胞分化抑制作用および脂肪蓄積抑制作用が発現することが明らかである。
また、脂肪細胞分化抑制作用および脂肪蓄積抑制作用は、発芽の段階が進むにつれて増強される。
また、脂肪細胞分化抑制作用および脂肪蓄積抑制作用は、乳酸菌または酵母による発酵によっても増強される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発芽期のイネ科植物の抽出物を有効成分として含有する抗肥満剤。
【請求項2】
前記発芽期のイネ科植物は、20〜28℃未満の発芽条件において発芽させる場合に、未発芽種子に吸水させてから12〜144時間経過したもの、または、12〜20℃未満の発芽条件において発芽させる場合に、未発芽種子に吸水させてから18〜192時間経過したものである請求項1記載の抗肥満剤。
【請求項3】
前記発芽期のイネ科植物は、芽の長さが1mm以上180mm以下のものである請求項1または2記載の抗肥満剤。
【請求項4】
前記イネ科植物が、ライ麦または小麦である請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗肥満剤。
【請求項5】
前記抽出物が、前記発芽期のイネ科植物の乳酸菌発酵物または酵母発酵物の抽出物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗肥満剤。
【請求項6】
前記抽出物が、エタノール抽出物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗肥満剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗肥満剤を含有する飲食品または動物用飼料。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−31077(P2012−31077A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170403(P2010−170403)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000226998)株式会社日清製粉グループ本社 (125)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】