説明

抗肺がん化合物または抗食道がん化合物のスクリーニング方法

CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を決定する方法、およびこのキナーゼ活性のモジュレーターをスクリーニングする方法が本明細書中で開示される。このようなモジュレーターを使用する、またはこのようなモジュレーターを含む、肺がんもしくは食道がんを予防および/または治療するための方法および薬学的組成物も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
優先権
本願は、2008年10月24日に出願された米国特許仮出願第61/197,263号の恩典を主張する。この開示は全て参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は肺がんおよび食道がんに関し、具体的には、その診断および治療に関する。
【背景技術】
【0003】
肺がんおよび食道がん
肺、食道、および鼻咽頭のがんを含む気道消化管癌は、日本における全てのがん死の4分の1近くを占める。肺がんは、世界におけるがん関連死の主因であり、1年で130万人の患者が亡くなっている(非特許文献1)。組織学的に異なる2種類の主要な肺がんである、非小細胞肺がん(NSCLC)と小細胞肺がん(SCLC)は、異なる病態生理学的特徴と臨床的特徴を有する。NSCLCは肺がんの80%近くを占め、一方でSCLCは肺がんの20%を占める(非特許文献2−3)。様々な治療様式、例えば、放射線療法および化学療法と組み合わせて、外科技術を適用しているにもかかわらず、肺がんの全体の5年生存率は約15%と、依然として低いままである(非特許文献4)。食道扁平上皮癌(ESCC)は、消化管の最も致死的な悪性腫瘍の1つであり、肺がんの全体の5年生存率はわずか15%である(非特許文献5)。カスピ海東岸部から中国中央部に広がる「アジア食道がんベルト(Asian esophageal cancer belt)」と呼ばれる地域において、食道がんの発生率が最も高いことが報告されている(非特許文献6)。肺がんおよび食道がんの発症および/または進行に関与する多くの遺伝子変化が報告されているが、正確な分子機構は未だ明らかになっていない(非特許文献7)。
【0004】
様々な治療様式、例えば、放射線療法および化学療法と組み合わせて、最新の外科技術を用いているにもかかわらず、肺がんおよびESCCは、悪性腫瘍の中でも最も不良な予後を示すことが分かっている。全ての病期を含む肺がん患者の5年生存率は依然として15%に留まり、ESCC患者の5年生存率は10%〜16%である(非特許文献8)。従って、分子標的薬剤および抗体ならびにがんワクチンの開発を含む治療戦略の改善が待ち望まれている。肺がんの分子基盤の理解の増大によって、腫瘍成長および進行における特定の鍵となる分子を阻害する標的戦略が特定された。例えば、上皮成長因子受容体(CDCA5)は、NSCLCで一般的に過剰発現し、その発現が予後不良と相関することが多い(非特許文献9)。近年、2つの主なクラスのCDCA5阻害剤が開発されている:チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)として作用する低分子、例えば、ゲフィチニブおよびエルロチニブ;ならびにCDCA5の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体、例えば、セツキシマブ。上述の標的療法では、NSCLCの予後の改善が期待されたが、その結果は未だ十分ではない。エルロチニブは、プラシーボに比べて延命効果を示し、生存期間の中央値が、プラシーボでは4.7ヶ月であったのに比べて、エルロチニブでは6.7ヶ月であった(非特許文献10)。他方では、ゲフィチニブのみが、優れた奏功率と症状管理とを示した(非特許文献11)。セツキシマブの場合、現在の第2相データは、NSCLCにおけるこの薬剤の役割について何らかの確定的な結論を出すには十分に機が熟していない(非特許文献13)。従って、分子標的薬剤および抗体ならびにがんワクチンの開発を含む有効な治療戦略が待ち望まれている。
【0005】
cDNAマイクロアレイ解析
cDNAマイクロアレイでの、数千の遺伝子の発現レベルの系統的解析は、発がん経路に関与する分子を同定するのに効果的なアプローチである。これらの遺伝子またはそれらの産物のいくつかが、有効な抗がん剤、および疾患の信頼性のある指標である腫瘍マーカーの開発の標的となると考えられる。このような分子を単離するために、レーザーマイクロダイセクションによって調製された腫瘍細胞の純粋な集団を用いて、肺がんおよびESCCの全ゲノム発現プロファイルが解析された(非特許文献14−19)。
【0006】
CDCA5(細胞分裂周期関連5)
細胞周期制御タンパク質であるCDCA5は、姉妹染色分体接着の調節因子として同定された。この35kDaのタンパク質は、G1期において後期促進複合体(APC)依存性のユビキチン化を通して分解される。これまでの研究によって、CDCA5は、クロマチン上のcohesionと相互作用し、間期に姉妹染色分体接着を支持するように機能することが示されている。姉妹染色分体は通常、ほとんどのG2期細胞でさらに分離し、このことはS期において既に、接着の樹立にCDCA5が必要であることを示している(非特許文献20)。今までのところ、接着の樹立に特に必要となる他のタンパク質が1つだけ知られている:出芽酵母アセチルトランスフェラーゼEco1/Ctf7(非特許文献21−23)。また、ショウジョウバエ(Drosophila)およびヒトの細胞における接着にも、この酵素のホモログが必要となるが(非特許文献24−25)、これらのタンパク質がS期でも機能するかどうかは未だ分かっていない。従って、CDCA5およびEco1/Ctf7ホモログが協働してがん細胞での接着を樹立するかどうかに取り組むのは興味深い。
【0007】
正確な染色体分離を効果的に行うために、姉妹染色分体接着は細胞周期の適切な時点で樹立および解体されなければならない。APCCdc20の活性化は、後期阻害剤セキュリンを分解の標的とすることによって接着の分離を制御することが以前に報告されている。これによりScc1/Rad21のセパラーゼ依存性の切断が可能になり、後期が誘発される。APCの、ほとんどの細胞周期基質の分解は、これらの機能の点で論理的である。分解されることによって、活性が時期を逸して現われるのを防ぎ、細胞周期進行が段階的に促進される。
【0008】
CDCA5の機能はまた、接着を調節する他の因子の機能とも重複しており、それらの活性が組み合わされることで染色体は確実に複製および分離する(非特許文献26)。これらのマイクロアレイデータによると、APCおよびCDC20は肺がんおよび食道がんでも発現が高いが、正常組織でのこれらの発現は低い。さらに、CDC20は、半定量RT−PCRおよび免疫組織化学分析を用いて、臨床小細胞肺がんでの発現が高いことが確認された(非特許文献27)。
【0009】
これらのデータは、CDCA5がCDC20と協働して、細胞周期の進行を促進することによってがん細胞の増殖を促進するという結論に一致するが、この分子がCDCA5と直接相互作用できることを示す証拠はない。このタンパク質は、間期細胞の核に局在し、有糸分裂の際に染色分体から分散し、後期にcohesion複合体と相互作用する(非特許文献28)。CDCA5は、染色分体に対するcohesionの安定な結合と、間期における姉妹染色分体接着とに必要であることが報告された(非特許文献29)。これらの生物学的研究にもかかわらず、本発明以前に、ヒトの発がんにおけるCDCA5の活性化の重要性と、治療標的としてのその使用とに関する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】PCT/JP2008/065353
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】WHO Cancer World Health Organization. 2006
【非特許文献2】Morita T & Sugano H. Acta Pathol Jpn. 1990 Sep; 40(9):665-75
【非特許文献3】Simon GR, et al., Chest. 2003 Jan; 123(1 Suppl):259S-271S
【非特許文献4】Parkin DM. Lancet Oncol. 2001 Sep; 2(9):533-43
【非特許文献5】Shimada H, et al., Surgery. 2003 May; 133(5):486-94
【非特許文献6】Mosavi-Jarrahi A & Mohagheghi MA. Asian Pac J Cancer Prev. 2006 Jul-Sep;7(3):375-80
【非特許文献7】Sozzi G. Eur J Cancer. 2001 Oct; 37 Suppl 7:S63-73
【非特許文献8】Parkin Dm et al., CA Cancer J Clin 2005; 55:74-108 Global cancer statistics, 2002
【非特許文献9】Brabender J, et al., Clin Cancer Res. 2001 Jul; 7(7):1850-5
【非特許文献10】Shepherd FA. et al., N Engl J Med. 2005 Jul 14; 353(2):123-32
【非特許文献11】Giaccone G, et al., J Clin Oncol. 2004 Mar 1; 22(5):777-84
【非特許文献12】Baselga J. J Clin Oncol. 2004 Mar 1; 22(5):759-61
【非特許文献13】Azim HA & Ganti AK. Cancer Treat Rev. 2006 Dec; 32(8):630-6. Epub 2006 Oct 10
【非特許文献14】Kikuchi T, et al., Oncogene. 2003 Apr 10;22(14):2192-205
【非特許文献15】Kakiuchi S, et al., Mol Cancer Res. 2003 May;1(7):485-99
【非特許文献16】Kakiuchi S, et al., Hum Mol Genet. 2004 Dec 15;13(24):3029-43. Epub 2004 Oct 20
【非特許文献17】Kikuchi T, et al., Int J Oncol. 2006 Apr; 28(4):799-805
【非特許文献18】Taniwaki M, et al., Int J Oncol. 2006 Sep; 29(3):567-75
【非特許文献19】Yamabuki T, et al., Int J Oncol. 2006 Jun; 28(6):1375-84
【非特許文献20】Schmitz J, et al., Curr Biol. 2007 Apr 3; 17(7):630-6. Epub 2007 Mar 8
【非特許文献21】Skibbens RV, et al., Genes Dev. 1999 Feb 1; 13(3):307-19
【非特許文献22】Toth A, et al., Genes Dev. 1999 Feb 1; 13(3):320-33
【非特許文献23】Ivanov D, et al., Curr Biol. 2002 Feb 19; 12(4):323-8
【非特許文献24】Williams BC, et al., Curr Biol. 2003 Dec 2; 13(23):2025-36
【非特許文献25】Hou F & Zou H. Mol Biol Cell. 2005 Aug; 16(8):3908-18. Epub 2005 Jun 15
【非特許文献26】Rankin S, et al., Mol Cell. 2005 Apr 15; 18(2):185-200
【非特許文献27】Taniwaki M, et al, Int J Oncol. 2006 Sep; 29(3):567-75
【非特許文献28】Rankin S, et al., Mol Cell. 2005 Apr 15; 18(2):185-200
【非特許文献29】Schmitz J, et al., Curr Biol. 2007 Apr 3; 17(7):630-6. Epub 2007 Mar 8
【発明の概要】
【0012】
本発明は、CDCA5に対するERK(細胞外シグナル制御キナーゼ)のキナーゼ活性を低下させる薬剤を特定する方法を提供する。この薬剤は、この薬剤と、リン酸供与体としてATPの存在下で、ERKポリペプチドまたはその機能的等価物と、CDCA5ポリペプチドまたはその機能的等価物とをインキュベートし、CDCA5ポリペプチドのリン酸化レベルを決定することによって検出される。対照レベルと比較した、CDCA5リン酸化レベルの低下は、試験薬剤がERKキナーゼ活性の阻害剤であることを示す。CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を低下させる薬剤は、肺がんまたは食道がんの少なくとも1つの症状を治療または予防するのに有用である。
【0013】
本発明はまた、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を検出するためのキットを提供する。試薬は、好ましくは、キットの形で一緒に包装される。試薬は別々の容器に入れて包装されてもよく、例えば、ERKポリペプチド、CDCA5ポリペプチド、SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79または209におけるCDCA5リン酸化レベルを検出するための試薬、対照試薬(陽性対照および/または陰性対照)、ならびにリン酸化レベルを検出するための薬剤を含んでもよい。
【0014】
さらに、本発明は、新規の合成ポリペプチドであるCDCA5(S209A)およびその機能的等価物を提供する。このポリペプチドが発現すると、がん細胞の増殖を阻害することができる。
【0015】
好ましい態様において、CDCA5(S209A)ポリペプチドは、SEQ ID NO:7に記載のアミノ酸配列を含む。本願はまた、SEQ ID NO:6に記載のCDCA5(S209A)ポリヌクレオチド配列の少なくとも一部によってコードされる単離されたタンパク質も提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は、対象における肺がんまたは食道がんの、治療および予防のいずれかまたは両方のための方法、を提供する。該方法は、ドミナントネガティブ効果を有するCDCA5ポリペプチド変異体、該変異体をコードするポリヌクレオチド、または前記ポリヌクレオチドを含むベクターを投与する工程を含む。
【0017】
本発明のなおさらなる目的は、活性成分として、薬学的有効量の、ドミナントネガティブ効果を有するCDCA5ポリペプチド変異体、該変異体をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクター、および薬学的に許容される担体を含む、肺がんまたは食道がんを治療または予防するための組成物を提供することである。
【0018】
本発明の様々な局面および用途は、以下の図面の簡単な説明および本発明の詳細な説明およびその好ましい態様を考慮すれば、当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A−B】肺の腫瘍におけるCDCA5の発現。A、半定量RT−PCRによって調べられた、肺がん組織におけるCDCA5遺伝子の発現。B、半定量RT−PCRおよびウエスタンブロット法によって調べられた、肺がん細胞株におけるCDCA5遺伝子の発現。
【図1C−D】肺の腫瘍におけるCDCA5の発現。C、ウエスタンブロット法によって調べられた、肺がん細胞株におけるCDCA5タンパク質の発現。D、肺がんLC319細胞における内因性CDCA5タンパク質の細胞内局在。細胞をウサギポリクローナル抗CDCA5抗体およびDAPIで染色した。
【図2A−B】正常組織におけるCDCA5の発現、およびCDCA5の発現とNSCLC患者の予後不良との関係。A、様々な正常ヒト組織におけるCDCA5転写物のノザンブロット分析。B、5つの正常組織(肝臓、腎臓、心臓、肺、および精巣)ならびに肺腺癌におけるCDCA5タンパク質の発現。
【図2C−D】正常組織におけるCDCA5の発現、およびCDCA5の発現とNSCLC患者の予後不良との関係。C、組織マイクロアレイ上での、抗CDCA5ポリクローナル抗体を用いた、代表的な肺腺癌におけるCDCA5タンパク質の免疫組織化学染色パターン(上X100;下X200)。D、組織マイクロアレイ上での、CDCA5発現と腫瘍特異的生存期間のカプラン・マイヤー分析。
【図3A−B】CDCA5の増殖促進効果.A、半定量RT−PCR分析(上)およびウエスタンブロット法(下)によって確かめられた、CDCA5に特異的なオリゴヌクレオチドsiRNA(si−#1および−#2)または対照siRNA(si−LUCおよびsi−CNT)による、A549細胞およびLC319細胞におけるCDCA5発現のノックダウン。B、siRNAをトランスフェクトしたA549細胞およびLC319細胞のコロニー形成アッセイ。
【図3C−D】CDCA5の増殖促進効果.C、MTTアッセイによって調べられた、siRNAに反応したA549細胞およびLC319細胞の生存率。全てのアッセイは3つのウェルにおいて独立して3回行った。D、外因性CDCA5を安定発現するCOS−7細胞の増殖がインビトロで亢進した。2種類の安定なクローン(COS−7−CDCA5−#Aおよび−#B)ならびに2種類の対照クローン(COS−7−モック−#Aおよび−#B)の細胞生存率を、1日目、3日目、5日目、および7日目に、MTTアッセイによって定量した。全てのアッセイは3つのウェルにおいて独立して3回行った。
【図4】ERKプロテインキナーゼによるインビトロCDCA5リン酸化。A、組換えERK2(rhERK2)による、組換えヒトCDCA5(rhCDCA5)のインビトロリン酸化。B、CDCA5上のリン酸化部位を特定するMALDI−TOF質量分析のための、インビトロでrhERKによってリン酸化されたrhCDCA5のR−250染色。
【図5】培養細胞におけるCDCA5のERK依存性リン酸化部位の特定。A、HeLa細胞において、MEK阻害剤U0126と共に、またはMEK阻害剤U0126を伴わずにEGFで刺激した後に、内因性CDCA5がERKによってリン酸化された。B、非タグ付きCDCA5発現ベクターをHeLa細胞にトランスフェクトした。細胞をFBSなしで20時間飢餓状態にした後に、EGF刺激を5分間、10分間、20分間、30分間行った。10uM U0126処理を1時間行った。
【図6A】培養細胞における、CDCA5のERK依存性リン酸化部位の特定。A、ERK1またはERK2を発現するベクターと非タグ付きCDCA5発現ベクターとを、HeLa細胞にコトランスフェクトした。HeLa細胞をFBSなしで20時間飢餓状態にした後に、細胞を50ng/ml EGFでそれぞれ5分間、10分間、20分間、30分間、刺激した。EGF刺激の前に、10uM U0126処理を1時間行った。
【図6B】培養細胞におけるCDCA5のERK依存性リン酸化部位の特定。B、ERK2を発現するベクターとCDCA5を発現するベクターをコトランスフェクトした、飢餓状態にしたHeLa細胞を、50ng/ml EGFで20分間、刺激した。EGF刺激の前に、10uM U0126阻害剤による処理を1時間行った。抗CDCA5抗体を用いた非タグ付きCDCA5タンパク質の免疫沈降後に、試料をSDS−PAGEに供した。コロイドCBB染色を一晩行った。MS分析のために、CDCA5タンパク質に対応するバンドを切り出した。抗CDCA5抗体を用いたウエスタンブロットから、各試料においてCDCA5タンパク質が発現していることが示された。
【図6C】培養細胞におけるCDCA5のERK依存性リン酸化部位の特定。C、未処理試料のMS分析結果。
【図6D】培養細胞におけるCDCA5のERK依存性リン酸化部位の特定。D、EGF刺激試料のMS分析結果。
【図6E】培養細胞におけるCDCA5のERK依存性リン酸化部位の特定。E、U0126処理後のEGF刺激試料のMS分析結果。
【図6F】培養細胞におけるCDCA5のERK依存性リン酸化部位の特定。F、ERK2を発現するベクター、および非タグ付き野生型を発現するベクター、ならびにCDCA5アラニン置換体を発現するベクターをHeLa細胞にコトランスフェクトした。飢餓状態にした後に細胞をEGFで刺激した。
【図7A】がん細胞におけるERK依存性リン酸化部位の機能。A、抗CDCA5抗体を用いたウエスタンブロットから、肺がん細胞株においてCDCA5が発現していることが示された。モック、野生型、およびCDCA5アラニン置換ベクターをトランスフェクトしたA549およびLC319肺がん細胞株を用いて、増殖アッセイを行った。トランスフェクション後、6日目にMTTアッセイを行った。
【図7B】がん細胞におけるERK依存性リン酸化部位の機能。B、モック、野生型、およびCDCA5リン酸模倣変異体ベクターをトランスフェクトしたLC319およびA549肺がん細胞株を用いて、増殖アッセイを行った。トランスフェクション後、6日目にMTTアッセイを行った。
【発明を実施するための形態】
【0020】
態様の説明
定義
本明細書で使用する「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という言葉は、特別の定めのない限り「少なくとも1つの」を意味する。
【0021】
物質(例えば、ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチドなど)に対して使用される「単離された」および「精製された」という用語は、物質が、天然源に含まれ得る少なくとも1つの物質を実質的に含まないことを示す。従って、単離されたまたは精製されたタンパク質(例えば、抗体)は、細胞材料、例えば、このタンパク質が得られた細胞または組織源に由来する炭水化物、脂質、もしくは他の混入タンパク質を実質的に含まないか、または化学合成された時には化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まないタンパク質をさす。「細胞材料を実質的に含まない」という用語は、そのポリペプチドが単離された細胞または組換え生成された細胞の細胞成分から分離されたポリペプチドの調製物を含む。
【0022】
従って、細胞材料を実質的に含まないポリペプチドは、異種タンパク質(本明細書で「混入タンパク質」とも呼ばれる)を約30%、20%、10%、または5%(乾燥重量で)未満しか有しないポリペプチド調製物を含む。ポリペプチドが組換え生成された時には、いくつかの態様では、培地も実質的に含まず、これにはタンパク質調製物の体積の約20%、10%、または5%未満の混入培地しか有しないポリペプチド調製物が含まれる。ポリペプチドが化学合成によって生成された時には、いくつかの態様では、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まず、これにはタンパク質調製物の体積の約30%、20%、10%、5%(乾燥重量で)未満の、タンパク質の合成に関与する化学的前駆体または他の化学物質しか有さないポリペプチド調製物が含まれる。特定のタンパク質調製物が単離されたまたは精製されたポリペプチドを含有することは、例えば、タンパク質調製物のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後の単一バンドの出現と、ゲルのクマシーブリリアントブルー染色などによって示され得る。一態様では、本発明のタンパク質は単離または精製される。
【0023】
「単離された」または「精製された」核酸分子、例えば、cDNA分子は、組換え技術によって生成された時には、他の細胞材料もしくは培地を実質的に含まないものであり得、または化学合成された時には、化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まないものであり得る。一態様では、本発明のタンパク質をコードする核酸分子は単離または精製される。
【0024】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書中で同義に用いられる。これらの用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が修飾残基または非天然残基、例えば、対応する天然のアミノ酸の人工的な化学的模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然のアミノ酸ポリマーに適用される。
【0025】
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体をさす。天然アミノ酸は、遺伝暗号でコードされるもの、ならびに細胞内での翻訳後に修飾されるもの(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基と結合したα炭素)を有するが、修飾R基または修飾骨格を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)をさす。「アミノ酸模倣体」という語句は、異なる構造を有するが、一般的なアミノ酸と同様に機能する化学的化合物をさす。
【0026】
アミノ酸は、IUPAC−IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)により勧告された、一般に知られている三文字記号または一文字記号のいずれかによって本明細書で示されることがある。
【0027】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」という用語は、特に定めのない限り同義に用いられ、アミノ酸と同様に、一般的に認められた一文字記号によって言及される。アミノ酸と同様に、天然の核酸ポリマーまたは非天然の核酸ポリマーの両方を含む。ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸、または核酸分子は、DNA、RNA、またはそれらの組み合わせからなってもよい。
【0028】
本発明はがんの療法(治療)および予防に関する。本発明の文脈において、がんに対する療法またはがん発症の予防は、以下の段階、がん細胞の増殖阻害、がんの退縮およびがんの発生の抑制のいずれかを含む。がんを有する個体の死亡率および罹患率の低下、血中の腫瘍マーカーレベルの低下、がんに伴う検出可能な症状の緩和などもがんの療法または予防に含まれる。このような治療効果および予防効果は好ましくは統計的に有意である。例えば、観察時には、細胞増殖性疾患に対する薬学的組成物の治療効果または予防効果は、投与なしの対照と比較して、5%以下の有意性レベルである。例えば、スチューデントのt検定、マン−ホイットニーのU検定またはANOVAを統計解析に用いることができる。
【0029】
さらに、本発明の文脈において、「予防」という用語は疾患の死亡率または罹患率の負荷を減少させる任意の活性を含む。予防は一次的、二次的、および三次的な予防レベルで行うことができる。一次的な予防が疾患の発症を回避するのに対して、二次的および三次的なレベルの予防は、機能を回復することおよび疾患に関連する合併症を低減することにより、疾患の進行および症状の出現の予防、ならびに既に確立された疾患の悪影響の低減を目的とする活動を包含する。
【0030】
本発明の文脈において、「有効な」治療とは、対象において、肺がんまたは食道がんのサイズ、有病率、もしくは転移能の減少をもたらす治療である。治療が予防的に適用される場合、「有効な」とは、治療によってがんの発生が遅延もしくは妨害されるか、またはがんの臨床症状が軽減されることを意味する。肺がんまたは食道がんの評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行うことができる。さらに、治療の有効性は、肺がんまたは食道がんの診断のための公知の任意の方法に関連して決定することができる。例えば、肺がんまたは食道がんは病理組織学的に、または症候性の異常を特定することにより日常的に診断される。
【0031】
さらなる定義が、適宜、次の文章中に入れられている。
【0032】
CDCA5
ヒトCDCA5遺伝子のヌクレオチド配列がSEQ ID NO:4に示され、GenBankアクセッション番号NM_080668またはBC011000としても利用可能である。本明細書中で、「CDCA5遺伝子」という語句は、ヒトCDCA5遺伝子ならびに非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシを含む他の動物のCDCA5遺伝子を含むが、これに限定されず、CDCA5遺伝子に対応する他の動物において見出される対立遺伝子変異体および遺伝子を含む。
【0033】
ヒトCDCA5遺伝子によってコードされるアミノ酸配列がSEQ ID NO:5に示され、GenBankアクセッション番号AAH11000としても利用可能である。本発明において、CDCA5遺伝子によってコードされるポリペプチドは「CDCA5」と呼ばれ、時として「CDCA5ポリペプチド」または「CDCA5タンパク質」と呼ばれる。
【0034】
CDCA5(S209A)
CDCA5変異体遺伝子のヌクレオチド配列をSEQ ID NO:6に示す。CDCA5変異体遺伝子によってコードされるアミノ酸配列をSEQ ID NO:7に示す。本明細書中で「CDCA5変異体」という語句はCDCA5(S209A)を含む。「S209A」は、CDCA5アミノ酸配列の209位にあるセリンがアラニンに置換されていることを示す。
【0035】
上皮成長因子(EGF)
ヒトEGF遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、GenBankアクセッション番号NP_001954として利用可能である。EGF(ポリペプチド)は、タンパク分解性に切断されて適切な受容体に結合することができる53アミノ酸ペプチドを生じる膜結合型分子として存在すると考えられている。この53アミノ酸断片をSEQ ID NO:3に示す。EGF断片および完全長EGFは両方とも「EGF」と呼ばれる。本明細書中で「EGF遺伝子」という語句は、ヒトEGF遺伝子ならびに非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシを含む他の動物のEGF遺伝子を含むが、これに限定されない。
【0036】
ERK
本発明において、ERK1およびERK2は両方とも「ERK」と呼ばれる。ヒトERK1遺伝子によってコードされるアミノ酸配列をSEQ ID NO:1に示したが、これに限定されない。ERK1は、GenBankアクセッション番号NP_002737.2、NP_001035145.1、およびNP_001103361.1として示した3つのアイソフォームを含むと考えられている。従って、本明細書中で「ERK1」という語句は、これらの3つのアイソフォームを含む。他方で、ヒトERK2遺伝子によってコードされるアミノ酸配列がSEQ ID NO:2に示され、GenBankアクセッション番号NP_002736.3としても利用可能である。本明細書中で、「ERK遺伝子」という語句は、ヒトERK遺伝子ならびに非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシを含む他の動物のERK遺伝子を含むが、これに限定されない。本明細書中で「ERK」は、時として、「ERKポリペプチド」または「ERKタンパク質」と呼ばれる。
【0037】
ポリペプチドの機能的等価物
本発明のポリペプチドは、本発明のポリペプチドの生成に用いられる細胞もしくは宿主、または利用する精製方法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形態が異なってもよい。それにもかかわらず、本発明の元のタンパク質の機能と等価な機能を有している限り、本発明の範囲内にある。
【0038】
従って、本発明の一局面によれば、CDCA5、CDCA5(S209A)、EGF、およびERKにも機能的等価物が含まれる。本明細書中で、タンパク質の「機能的等価物」は、このタンパク質と等価な生物学的活性を有するポリペプチドである。すなわち、元のタンパク質の少なくとも1つの生物学的活性を保持する任意のポリペプチドを、本発明における機能的等価物として使用することができる。例えば、CDCA5の機能的等価物は、CDCA5の細胞増殖を促進する活性を保持している。さらに、CDCA5の生物学的活性は、ERKとの結合活性および/またはERKによってリン酸化される活性を含むのに対して、CDCA5(S209A)の例示的な生物学的活性は、このタンパク質ががん細胞の増殖を阻害する能力である。さらに、EGFの例示的な生物学的活性はEGFRへの結合活性を含み、ERKの例示的な生物学的活性は、CDCA5に対するキナーゼ活性である。
【0039】
ある特定のタンパク質と機能的に等価なタンパク質を得る、または調製するための方法は当業者に周知であり、タンパク質に変異を導入する従来の方法を含む。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発を介してヒトタンパク質アミノ酸配列に適切な変異を導入することによって、ヒトタンパク質と機能的に等価なタンパク質を調製することができる(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995), Gene 152, 271-5; Zoller, MJ, and Smith, M. (1983), Methods Enzymol. 100, 468-500; Kramer, W. et al. (1984), Nucleic Acids Res. 12, 9441-56; Kramer W, and Fritz HJ. (1987) Methods. Enzymol. 154, 350-67; Kunkel, TA (1985), Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-92; Kunkel (1991), Methods Enzymol. 204, 125-39)。
【0040】
または、ある特定のタンパク質に対する機能的に等価なタンパク質は、ある特定のタンパク質またはそのポリヌクレオチド断片の遺伝子をプローブとして使用するハイブリダイゼーション法によって得ることができる。本発明の文脈において、元のタンパク質と機能的に等価なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーション条件は、当業者によって日常的に選択することができる。例えば、ハイブリダイゼーションは、「Rapid−hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いてプレハイブリダイゼーションを68℃で30分間以上行い、標識プローブを加え、68℃で1時間以上温めることによって行ってもよい。以下の洗浄工程は、例えば、低ストリンジェントな条件で行うことができる。例示的な低ストリンジェントな条件は、42℃、2xSSC、0.1%SDS、好ましくは50℃、2xSSC、0.1%SDSを含んでもよい。好ましくは、高ストリンジェンシー条件が用いられることが多い。例示的な高ストリンジェンシー条件は、室温で20分間、2xSSC、0.01%SDSによる3回の洗浄、次いで、37℃で20分間、1xSSC、0.1%SDSによる3回の洗浄、および50℃で20分間、1xSSC、0.1%SDSによる2回の洗浄を含んでもよい。しかしながら、温度および塩濃度などのいくつかの要因がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼすことがあり、当業者であれば、必要なストリンジェンシーを達成するために要因を適切に選択することができる。
【0041】
「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、ある核酸分子が、典型的には核酸の複合混合物中でその標的配列にハイブリダイズするが、他の配列には検出可能な程度にはハイブリダイズしない条件をさす。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、様々な状況下で異なる。配列が長いほど、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な指針は、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic Probes, 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)において見出される。一般的にストリンジェントな条件は、規定のイオン強度pHにおける特定の配列の熱融点(Tm)より約5℃〜10℃低くなるように選択される。Tmは(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度下で)標的に相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である(標的配列が過剰に存在するため、Tmでは50%のプローブが平衡状態で占有される)。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤を添加することによって実現してもよい。選択的または特異的ハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的な、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、以下を含む:50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でインキュベーション、または5×SSC、1%SDS、65℃でインキュベーションし、0.2×SSCおよび0.1%SDS中、50℃で洗浄。
【0042】
一般的に、タンパク質中の1つまたは複数のアミノ酸の改変はタンパク質の機能に影響しないことが知られている。実際に、変異したまたは改変されたタンパク質、すなわち特定のアミノ酸配列への1つまたは複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加によって改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質は、元の生物活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984); ZollerおよびSmith, Nucleic Acids Res 10:6487-500 (1982); Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13(1982))。アミノ酸変異は天然でも起こり得る。従って、当業者であれば、1個のアミノ酸または少ないパーセントのアミノ酸を変化させる、アミノ酸配列に対する個々の付加、欠失、挿入、もしくは置換、またはタンパク質の変化により類似の機能を有するタンパク質がもたらされる「保存的改変」であるとみなされるものが、本発明の文脈において受け入れられうることを認識するであろう。
【0043】
タンパク質の活性が維持される限り、アミノ酸変異の数は特に限定されない。しかしながら、一般的に、アミノ酸配列の5%以下を変えることが好ましい。従って、好ましい態様において、このような変異体において変異されるアミノ酸の数は、一般的に、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下、より好ましくは10アミノ酸以下、より好ましくは6アミノ酸以下、さらにより好ましくは3アミノ酸以下である。本発明のタンパク質の機能的等価物には、タンパク質の天然のアミノ酸配列に対して、1つまたは複数のアミノ酸、例えば、1〜5アミノ酸、例えば、アミノ酸の5%までが置換、欠失、付加、または挿入されたものが含まれる。例えば、CACR5タンパク質に関して、その活性を保持するために、ERKリン酸化を受けやすい、SEQ ID NO:5のセリン−79およびセリン−209にあるアミノ酸は、好ましくは、保存されなければならない。ERKに関して、タンパク質がCDCA5に対するキナーゼ活性を維持するように、変異タンパク質のアミノ酸配列にはキナーゼドメインが保存されることが好ましい。
【0044】
変異させようとするアミノ酸残基は、好ましくは、アミノ酸側鎖の特性が保存されている別のアミノ酸に変異させる(保存的アミノ酸置換として知られるプロセス)。アミノ酸側鎖の特性の例は、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および以下の官能基または共通の特徴を有する側鎖:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);水酸基を含む側鎖(S、T、Y);硫黄原子を含む側鎖(C、M);カルボン酸およびアミドを含む側鎖(D、N、E、Q);塩基を含む側鎖(R、K、H);ならびに芳香族を含む側鎖(H、F、Y、W)である。機能が類似するアミノ酸を生じる保存的置換表は当技術分野において周知である。例えば、以下の8つのグループはそれぞれ、互いにとって保存的置換であるアミノ酸を含む。
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)
(例えば、Creighton,Proteins1984を参照されたい)。
【0045】
このような保存的に改変されたポリペプチドが本発明のタンパク質に含まれる。しかしながら、本発明はこれらに限定されず、タンパク質の少なくとも1つの生物学的活性が保持されている限り、タンパク質は非保存的改変を含む。さらに、改変されたタンパク質は、多型変異体、種間ホモログ、およびこれらのタンパク質の対立遺伝子によってコードされるタンパク質を排除しない。
【0046】
さらに、本発明の遺伝子は、タンパク質のこのような機能的等価物をコードするポリヌクレオチドを含む。ハイブリダイゼーションに加えて、遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、前記の配列情報に基づいて合成したプライマーを用いて、タンパク質と機能的に等価なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離することができる。ヒト遺伝子と機能的に等価なポリヌクレオチド、およびヒトタンパク質と機能的に等価なポリペプチドは、通常、元々のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列と高い相同性を有する。「高い相同性」は、典型的には、40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%〜95%以上の相同性をさす。特定のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性は、「Wilbur and Lipman, Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」のアルゴリズムに従って決定することができる。
【0047】
ポリペプチドの産生
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドを産生するための方法を提供する。ポリペプチドは、ポリペプチドをコードする遺伝子を含む発現ベクターを有する宿主細胞を培養することによって調製されてもよい。ニーズに応じて、遺伝子を安定に発現させると同時に、細胞内の遺伝子のコピー数を増幅する方法が用いられてもよい。例えば、核酸合成経路を欠失させたCHO細胞に、相補的なDHFR遺伝子(例えば、pCHOI)を含むベクターが導入され、次いで、メトトレキセート(MTX)によって増幅されてもよい。さらに、遺伝子の一過的発現の場合、SV40複製起点を含むベクター(pcDなど)で、染色体上にSV40T抗原発現遺伝子を含むCOS細胞を形質転換する方法を使用することができる。
【0048】
前記のように得られた本発明のポリペプチドは、宿主細胞の内部または外部(例えば、培地)から単離され、実質的に純粋で均一なポリペプチドとして精製することができる。ある特定のポリペプチドに関して本明細書で使用する「実質的に純粋な」という用語は、ポリペプチドが他の生物学的な高分子を実質的に含まないことを意味する。実質的に純粋なポリペプチドは、乾燥重量で少なくとも75%(例えば、少なくとも80%、85%、95%、または99%)純粋である。純度は、任意の適切な標準的な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定することができる。ポリペプチド単離および精製のための方法は任意の特定の方法に限定されない。実際に、任意の標準的な方法を使用することができる。例えば、ポリペプチドを単離および精製するために、カラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩沈殿、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、および再結晶を適切に選択し、組み合わせることができる。
【0049】
クロマトグラフィーの例には、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed. Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。これらのクロマトグラフィーは、HPLCおよびFPLCなどの液体クロマトグラフィーによって行われてもよい。従って、本発明は、前記の方法によって調製された、高度に精製されたポリペプチドを提供する。
【0050】
本発明のポリペプチドは、任意で、精製前または精製後に、適切なタンパク質改変酵素で処理することによって改変または部分的に欠失されてもよい。有用なタンパク質改変酵素には、トリプシン、キモトリプシン、リジルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが含まれるが、これに限定されない。
【0051】
ベクターおよび宿主細胞
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドが導入された、ベクターおよび宿主細胞を提供する。本発明のベクターは、本発明のポリペプチドを発現させるために、または遺伝子療法において本発明のポリヌクレオチドを投与するために、本発明のポリヌクレオチド、特に、DNAを宿主細胞内に保つのに有用である。
【0052】
大腸菌が宿主細胞であり、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blue)内で多量に増幅および産生しようとする場合、ベクターは、大腸菌内で増幅される「ori」および形質転換された大腸菌を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬物によって選択される薬物耐性遺伝子)を有さなければならない。例えば、M13シリーズベクター、pUCシリーズベクター、pBR322、pBluescript、pCR−Scriptなどを使用することができる。さらに、前記のベクターと同様に、cDNAをサブクローニングおよび抽出するために、pGEM−T、pDIRECT、およびpT7も使用することができる。本発明のタンパク質を産生するためにベクターが用いられる場合、発現ベクターが特に有用である。例えば、大腸菌内で発現される発現ベクターは、大腸菌内で増幅されるために前記の特徴を有さなければならない。JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blueなどの大腸菌が宿主細胞として用いられる場合、ベクターは、大腸菌内で望ましい遺伝子を効率的に発現することができるプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Ward et al., Nature 341: 544-6 (1989); FASEB J 6: 2422-7(1992))、araBプロモーター(Better et al., Science 240: 1041-3(1988))、T7プロモーターなどを有さなければならない。これに関して、前記のベクターの代わりに、例えば、pGEX−5X−1(Pharmacia)、「QIAexpress system」(Qiagen)、pEGFP、およびpET(この場合、宿主は、好ましくは、T7 RNA ポリメラーゼを発現するBL21である)を使用することができる。さらに、ベクターは、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列を含んでもよい。ポリペプチドが大腸菌ペリプラズムに分泌されるように導く例示的なシグナル配列は、pelBシグナル配列(Lei et al., J Bacteriol 169:4379(1987))である。ベクターを標的宿主細胞に導入するための手段には、例えば、塩化カルシウム法およびエレクトロポレーション法が含まれる。
【0053】
本発明のポリペプチドを産生するために、大腸菌に加えて、例えば、哺乳動物に由来する発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen)およびpEGF−BOS(Nucleic Acids Res 18(17):5322(1990))、pEF、pCDM8)、昆虫細胞に由来する発現ベクター(例えば、「Bac−to−BACバキュロウイルス発現系」(GIBCO BRL)、pBacPAK8)、植物に由来する発現ベクター(例えば、pMH1、pMH2)、動物ウイルスに由来する発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルスに由来する発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母に由来する発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen)、pNV11、SP−Q01)、ならびに枯草菌(ogen)、pNV11、SP−Q01)、ならびに枯草菌(Bacillus subtilis)に由来する発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)を使用することができる。
【0054】
CHO細胞、COS細胞、またはNIH3T3細胞などの動物細胞においてベクターを発現させるために、ベクターは、このような細胞における発現に必要なプロモーター、例えば、SV40プロモーター(Mulligan et al., Nature 277: 108(1979))、MMLV−LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushima et al., Nucleic Acids Res 18: 5322(1990))、CMVプロモーターなど、および好ましくは、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬物(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬物耐性遺伝子)を有さなければならない。これらの特徴を有する公知のベクターの例には、例えば、pMAM、pDR2、pBK−RSV、pBK−CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。
【0055】
CDCA5に対するERKのキナーゼ活性
ERKによるCDCA5の選択的リン酸化が本明細書中で明らかにされる。その結果、別の局面において、本発明は、CDCA5に対するERKまたはその機能的等価物のキナーゼ活性を測定する方法を提供する。このような方法は、以下:
a.ERKによるCDCA5リン酸化に適した条件下で、ERKまたはその機能的等価物と、CDCA5またはその機能的等価物とをインキュベートする工程であって、
ERKの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択され、
CDCA5の機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド、および
iii.SEQ ID NO:4のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択される、工程;
b.CDCA5のリン酸化レベル(すなわち、SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79および/または209におけるリン酸化)を検出する工程;ならびに
c.工程(b)において検出されたCDCA5のリン酸化レベルと相関させることにより、ERKのキナーゼ活性を決定する工程
を含んでもよい。本発明の文脈において、CDCA5リン酸化に適した条件、またはERKまたはその機能的等価物のキナーゼ活性を決定するのに適した条件は、リン酸供与体の存在下で、CDCA5(またはその機能的等価物)およびERK(またはその機能的等価物)をインキュベーションすることによって得ることができる。本発明において、CECA5またはERKは細胞抽出物として提供されてもよく、好ましいリン酸供与体はATPである。本明細書中で、ATPは必要に応じて標識されてもよい。例えば、ホットアッセイでは、放射性標識ATPが用いられてもよい。CDCA5のリン酸化反応は、キナーゼアッセイ緩衝液(例えば、50mM Tris−HCl、10mM MgCl、1mM EGTA、2mM DTT、0.01% Briji 35、1mM ATP)中でCDCA5およびERKを30℃で20分間インキュベーションすることによって行われてもよい。反応は、Laemmli試料緩衝液を加えることによって止めることができる。
【0056】
コールドアッセイでは、インキュベーション後に、ホスホ−CDCA5レベル(「CDCA5のリン酸化レベル」とも呼ばれる)を検出することができる。本明細書中で「ホスホ−CDCA5」はリン酸化CDCA5を示す。リン酸化CDCA5を検出する前に、CDCA5は、CDCA5発現細胞の他の要素または細胞溶解物から分離することができる。例えば、CDCA5を分離するために、ゲル電気泳動(例えば、SDS−PAGE)が用いられてもよい。または、CDCA5と、抗CDCA5抗体と連結した担体とを接触させることによって、CDCA5が捕捉されてもよい。
【0057】
標識リン酸供与体が用いられた場合、ホスホ−CDCA5レベルは、標識を追跡することによって検出することができる。または、ホスホ−CDCA5レベルは、(例えば、ウエスタンブロットアッセイまたはELISAによって)リン酸化CDCA5を認識する抗体を用いて検出することができる。特に、抗体は、CDCA5のホスホ−Ser79またはSer209を特異的に認識する。他方で、放射性標識ATP(例えば、32P−ATP)がリン酸供与体として用いられた場合(ホットアッセイ)、分離されたCDCA5の放射能はホスホ−CDCA5レベルと相関しており、従って、シンチレーションカウンターを用いてレベルを検出することができる。または、ホスホ−CDCA5レベルを検出するための他の方法には、質量分析、例えば、MALDI−TOF−MSが含まれるが、これに限定されない。
【0058】
様々なロースループットおよびハイスループット酵素アッセイ形式が当技術分野において公知であり、ERKによるCDCA5のリン酸化レベルの検出または測定に容易に合わせることができる。ハイスループットアッセイの場合、CDCA5は、好ましくは、マルチウェルプレート、スライド、およびチップなどの固体支持体に固定化される。反応後に、固体支持体上にリン酸−CDCA5を検出することができる。ホスホ−CDCA5を検出するために、例えば、ホスホ−CDCA5に結合する抗体を使用することができる。例えば、ERKによるCDCA5のリン酸化部位はSer79またはSer209であり、ERKによるCDCA5のSer79またはSer209のリン酸化は、ホスホ−CDCA5(Ser79またはSer209)に特異的な抗体を用いて検出することができる。または、P32標識ATPがリン酸供与体として用いられてもよい。この場合、ホスホ−CDCA5は放射性P32によって追跡することができる。このようなアッセイを容易にするために、固体支持体はストレプトアビジンでコーティングされてもよく、CDCA5はビオチンで標識されてもよい。当業者であれば、望ましいスループット能力に応じて、他の適切なアッセイ形式を決定することができる。
【0059】
別の態様において、ERKによるCDCA5リン酸化に適した条件は、ポリペプチドを発現する細胞を培養することによって得られてもよい。例えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを有する形質転換細胞が用いられてもよい。
【0060】
本発明の文脈において、生物学的試料中のERKのキナーゼ活性を評価することができる。例えば、本発明の生物学的試料は、患者から得られたがん組織、またはがん細胞株を含んでもよい。このような生物学的試料中のERKのキナーゼ活性は、肺がんまたは食道がんを示す、または患者の予後を評価または決定するための信頼できるマーカーとして役立つ。
【0061】
さらに、本発明は、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を測定するための試薬を提供する。このような試薬の例には、リン酸供与体と共に使用することができるCDCA5が含まれる。本発明において、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を測定するためのキットも提供される。このようなキットは、本発明の試薬およびホスホ−CDCA5レベルを検出するための検出剤を含んでもよい。好ましい検出剤には、非リン酸化CDCA5からリン酸化CDCA5を特異的に認識する抗体が含まれる。例えば、本発明では、好ましい抗体は、Ser79またはSer209がリン酸化されたCDCA5を認識する。
【0062】
スクリーニング方法
本発明はまた、ERKがCDCA5に対するキナーゼ活性を有するという知見に関する。ERKによるCDCA5のリン酸化部位はSer79およびSer209であり、このリン酸化はEGF依存性である。このために、本発明の一局面は、ERKを介したCDCA5リン酸化を調整または調節する試験化合物を特定することを伴う。本明細書中で、調整または調節するとは、ERKによるCDCA5リン酸化レベルが、試験化合物の機能によって変化した、例えば、低下した、減少した、もしくは阻害された、または場合によっては、増加または増強したことを示す。
【0063】
従って、本発明は、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を調節する化合物を特定するための新規の方法を提供する。例えば、本発明は、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を調節する薬剤を特定するための方法を提供する。該方法は、以下:
a.ERKによるCDCA5リン酸化に適した条件下で、試験化合物の存在下で、ERKまたはその機能的等価物とCDCA5またはその機能的等価物とをインキュベートする工程であって、
ERKの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択され、
CDCA5の機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド、および
iii.SEQ ID NO:4のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択される、工程;
b.SEQ ID NO:5のセリン79または209アミノ酸残基におけるCDCA5リン酸化を検出する工程、およびCDCA5のリン酸化レベルを決定する工程;ならびに
c.工程(b)において決定されたレベルと、試験薬剤の非存在下で決定されたレベルとを比較する工程;ならびに
d.工程(c)において試験薬剤の非存在下で決定されたレベルと比較して、CDCA5のリン酸化レベルを低下させた試験薬剤を選択する工程
を含む。
【0064】
本発明の方法によって特定される薬剤は、例えば、ERKを介したCDCA5リン酸化を阻害することによって、肺がんまたは食道がんの進行を遅延する、または止めることができる候補化合物を構成する。従って、本発明は、ERKおよびCDCA5を発現する細胞を用いて、CDCAに対するERKキナーゼ活性を調節する化合物をスクリーニングする方法、あるいは肺がんもしくは食道がんを治療または予防するための薬剤をスクリーニングする方法を提供する。該方法は、以下の工程:
a.CDCA5またはその機能的等価物およびERKまたはその機能的等価物を発現する細胞(すなわち、この細胞はCDCA5またはその機能的等価物をコードするポリヌクレオチド、およびERKまたはその機能的等価物をコードするポリヌクレオチドを含み、かつ翻訳する)であって、
CDCA5の機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド、および
iii.SEQ ID NO:4のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択され、
ERKの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択される、細胞と試験薬剤とをEGFの存在下で接触させる工程、
b.SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79または209におけるCDCA5リン酸化を検出する工程、およびCDCA5のリン酸化レベルを決定する工程;および
c.工程(b)において決定されたレベルと、試験薬剤の非存在下で決定されたレベルとを比較する工程;ならびに
d.工程(c)において試験薬剤の非存在下で決定されたレベルと比較して、CDCA5のリン酸化レベルを低下させた試験薬剤を選択する工程を含む。
【0065】
例えば、ERKによるCDCA5のリン酸化部位はSer79またはSer209である。前記方法は、CDCA5に対するキナーゼ活性を有するERKまたはその機能的等価物と、ERKによってリン酸化されやすいCDCA5またはその機能的等価物と、1種または複数種の候補化合物とを接触させ、ホスホ−CDCA5レベルをアッセイすることによって行われる。例えば、ERKによってリン酸化されやすいCDCA5の機能的等価物は、CDCA5の、ERKを介したリン酸化部位であるSer79またはSer209の少なくとも1つを含んでもよい。ERKまたはその機能的等価物によるCDCA5リン酸化を調節する化合物がこのようにして特定される。
【0066】
細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物の産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物および天然化合物を含むが、これに限定されない任意の試験化合物を、本発明のスクリーニング方法に用いることができる。本発明の試験化合物は、(1)生物学的ライブラリー、(2)空間的にアドレス可能なパラレル固相ライブラリーまたは液相ライブラリー、(3)デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法、(4)「1ビーズ1化合物」ライブラリー法、および(5)アフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー法を含む、当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを用いて入手することもできる。アフィニティークロマトグラフィー選択を用いる生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマー、または低分子化合物ライブラリーに適用可能である(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリーを合成する方法の例は当技術分野において見出すことができる(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909-13; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422-6; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678-85; Cho et al. (1993) Science 261: 1303-5; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 1233-51.)。化合物のライブラリーは溶液中に提供されてもよく(Houghten (1992) Bio/Techniques 13: 412-21.を参照のこと。)、またはビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82-4.)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555-6.)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号;同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865-9.)、もしくはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386-90.; Devlin (1990) Science 249: 404-6.; Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378-78.; Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301-10.;米国特許出願第2002103360号)上に提供されてもよい。
【0067】
さらに、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性、またはERKによるCDCA5のリン酸化を阻害する、としてスクリーニングされた化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換された化合物も、本発明のスクリーニング方法によって入手可能な化合物に含められる。
【0068】
本発明によって、ERKによるCDCA5リン酸化を抑制すると細胞増殖が低下することが明らかになった。従って、ERKによるCDCA5リン酸化、またはCDCA5に対するERKのキナーゼ活性を阻害する候補化合物をスクリーニングすることによって、がんを治療または予防する能力を有する候補化合物を特定することができる。これらの候補化合物ががんを治療または予防する能力は、がん治療剤を特定するために二次スクリーニングおよび/またはさらなるスクリーニングによって調べられてもよい。
【0069】
本発明において、試験化合物の治療効果は、ERKによるCDCA5リン酸化またはERKのキナーゼ活性と相関付けることができる。例えば、試験化合物が、試験化合物の非存在下で検出されたレベルと比較して、ERKによるCDCA5リン酸化またはERKのキナーゼ活性を抑制または阻害する場合、この試験化合物を、治療効果を有する候補化合物として特定または選択することができる。または、試験化合物が、試験化合物の非存在下で検出されたレベルと比較して、ERKによるCDCA5リン酸化またはERKのキナーゼ活性を抑制も阻害もしない場合、この試験化合物は有意な治療効果を有さないと特定することができる。
【0070】
本発明の一局面は、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を調節する試験化合物の能力を検出するためのキットを提供する。このようなキットは、以下の構成要素:
a.CDCA5(ポリペプチド)またはその機能的等価物であって、CDCA5の機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド、および
iii.SEQ ID NO:4のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド、
からなる群より選択される、CDCA5(ポリペプチド)またはその機能的等価物;
b.ERK(ポリペプチド)またはその機能的等価物であって、ERKの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択される、ERK(ポリペプチド)またはその機能的等価物;
c.CDCA5のリン酸化レベルを決定するための試薬、すなわち、例えば、SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79または209におけるCDCA5リン酸化を検出するための試薬;ならびに
d.ATPおよび適切な緩衝液
を含んでもよい。
【0071】
さらに、本発明はまた、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を調節する試験化合物の能力を検出するためのキットを提供する。このようなキットは、以下の構成要素:
a.CDCA5またはその機能的等価物、およびERKまたはその機能的等価物を発現する細胞、すなわち、CDCA5またはその機能的等価物をコードするポリヌクレオチド、およびERKまたはその機能的等価物をコードするポリヌクレオチドを含み、転写する細胞であって、
CDCA5の機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド、および
iii.SEQ ID NO:4のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択され、
ERKの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択される、細胞、
b.EGF、ならびに
c.CDCA5のリン酸化レベルを決定するための試薬、例えば、 SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79または209におけるCDCA5リン酸化を検出するための試薬
を含んでもよい。
【0072】
CDCA5のリン酸化レベルを決定するための試薬として、例えば、CDCA5リン酸化、特に、SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79または209におけるCDCA5リン酸化を検出する抗体を使用することができる。さらに、リン酸供与体として標識ATPがキットに含められる場合、ATPの標識を検出する試薬を使用することができる。キットの構成要素はそれぞれ、容器の内容を示すラベルと共に、別々の容器に入れられてもよい。さらに、必要に応じて、キットは、アッセイを実施するための説明書(例えば、書面、テープ、VCR、CD−ROMなど)を含んでもよい。
【0073】
CDCA5に対するERKキナーゼ活性を阻害するドミナントネガティブタンパク質
CDCA5変異体が、がん細胞増殖を阻害するというのが本発明によって証明された新規の知見である。このような変異体はドミナントネガティブ効果を有するとみなされている。本発明の文脈において、「ドミナントネガティブ効果を有する」とは、ポリペプチドがERKによるCDCA5リン酸化を阻害し、その後に、インビボで細胞増殖を抑制する(すなわち、SEQ ID NO:7のポリペプチドと類似の活性)ことを意味する。このようなドミナントネガティブ効果を有するポリペプチドは、本明細書中で「ドミナントネガティブタンパク質」、「ドミナントネガティブ変異体」、または「ドミナントネガティブCDCA5」とも呼ばれる。
【0074】
本発明の変異体ポリペプチドが有する活性は、SEQ ID NO:7のポリペプチドより低い、SEQ ID NO:7のポリペプチドと等価な、またはSEQ ID NO:7のポリペプチドよりかなり高いものでもよい。例えば、ERKによるCDCA5のリン酸化レベルは、本発明の変異体ポリペプチドが存在することによって、少なくとも、変異体ポリペプチドの非存在下と比較して、約90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、25%、20%、10%、5%、1%、またはそれ未満(例えば、0%)に低下してもよい。
【0075】
好ましくは、ドミナントネガティブ効果を有するCDCA5変異体は、CDCA5上の少なくとも1つのERK依存性リン酸化部位がセリン以外のアミノ酸残基で置換されたアミノ酸配列を含んでもよい。本発明において、CDCA5上のERK依存性リン酸化部位は、CDCA5(SEQ ID NO:5)のSer−79およびSer−209からなる群より選択されてもよい。従って、Ser−79およびSer−209のいずれかまたは両方が、セリン以外のアミノ酸残基で置換されてもよい。例えば、CDCA5(SEQ ID NO:5)のSer−79および/またはSer−209はアラニンで置換されてもよい。具体的には、本発明は、以下:
a.SEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
b.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列からなるタンパク質と等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド、ならびに
c.SEQ ID NO:6のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、ポリペプチドが、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択される、実質的に純粋なポリペプチドに関する。
【0076】
本発明において、アミノ酸配列SEQ ID NO:7からなるポリペプチドは、ERKを介したCDCA5リン酸化および細胞増殖を阻害する生物学的活性を有することが明らかにされた。さらに、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有するポリペプチドも本発明に含まれる。例えば、本発明は、以下のポリペプチド:
b.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド、ならびに
c.SEQ ID NO:6のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド
を含んでもよい。
【0077】
このような改変されたポリペプチドを得るための方法および条件は前記で詳述した。さらに、ポリペプチドが、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有するかどうかを評価するための方法も本発明によって提供される(前記)。SEQ ID NO:7のアミノ酸配列からなるCDCA5変異体の必要なドミナントネガティブ効果を保持するために、少数のアミノ酸または少ないパーセントのアミノ酸のみを改変(付加、欠失、挿入、または置換)することが好ましい。改変しようとする残基の数は、一般的に、20アミノ酸以下、好ましくは15アミノ酸以下、より好ましくは10アミノ酸以下、さらにより好ましくは1〜5個のアミノ酸である。または、改変されるアミノ酸のパーセントは、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、より好ましくは10%、さらにより好ましくは1〜5%である。本発明の変異体ポリペプチドの前記の改変に加えて、本発明の変異体ポリペプチドは、ドミナントネガティブ効果を保持している限り、他の物質にさらに連結されてもよい。このような連結に使用可能な物質には、ペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然ポリマーおよび合成ポリマーなどが含まれる。これらの種類の改変は、さらなる機能(例えば、標的化機能および送達機能)を付与するように、または変異体ポリペプチドを安定化するように行われてもよい。
【0078】
例えば、ポリペプチドのインビボ安定性を高めるために、特に有用な様々なアミノ酸模倣体または非天然アミノ酸を導入することが当技術分野において公知である。この考えは、本発明の変異体ポリペプチドにも取り入れることができる。ポリペプチドの安定性は多くのやり方でアッセイすることができる。例えば、安定性を試験するために、ペプチダーゼおよび様々な生物学的培地、例えば、ヒト血漿および血清が用いられてきた(例えば、Coos Verhoef et al. (1986) Eur. J. Drug Metab. Pharmacokin. 11: 291-302を参照されたい)。例えば、ポリペプチドが、ERKを介したCDCA5リン酸化を阻害する活性は、ポリペプチドの存在下でERKのキナーゼ活性を決定することによって調べることができる。具体的には、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性は、CDCA5リン酸化に適した条件下で、ポリペプチドとERKおよびCDCA5をインキュベートし、ホスホ−CDCA5レベルを検出することによって決定することができる。CDCA5のリン酸化レベルは、前記で詳述したように、またはポリペプチドリン酸化を検出するための他の周知の方法を用いて検出されてもよい。例えば、リン酸化レベルは、ポリペプチド上のある部位でのリン酸化を認識する抗体によって検出することができる。ERKによるCDCA5のリン酸化部位はSer79またはSer209である。
【0079】
または、ERKによるCDCA5リン酸化に加えて、CDCA5変異体は細胞増殖を阻害または抑制する活性も有するので、この活性と相関付けて、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性(ドミナントネガティブ効果)を、ポリペプチドが有するかどうかが調べられてもよい。変異体ポリペプチドのこのようなドミナントネガティブ効果は、CDCA5およびERKの両方を発現する細胞を用いたドミナントネガティブアッセイによって検出することができる。具体的には、本発明のポリペプチドを細胞に導入した後に細胞の生存率を検出しうる。
【0080】
ポリペプチドの非存在下で測定された細胞生存率と比較して細胞生存率を低下させるポリペプチドは、ドミナントネガティブ効果を有するとみなすことができる。本発明において、ポリペプチドの細胞増殖を阻害する活性も、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列を有するポリペプチドの細胞増殖を阻害する活性と比較することができる。
【0081】
CDCA5およびERKを発現する限り、使用可能な細胞は限定されない。例として、臨床試料からの細胞およびNSCLC細胞株、例えば、A549(ATCC CCL−185)およびLC319(愛知県がんセンター)が含まれるが、これに限定されない。
【0082】
細胞増殖は、当技術分野において公知の方法によって、例えば、MTT細胞増殖アッセイを用いて測定してもよい。簡単に述べると、cell−counting kit−8 solution(DOJINDO)を1/10体積の濃度で各ディッシュに加え、プレートを37℃でさらに2時間インキュベートする。次いで、Microplate Reader 550(BIO−RAD, Hercules, CA)を用いて、参照として吸光度を450nmで測定する。
【0083】
細胞への本発明のポリペプチドの導入は、細胞内でポリペプチドを発現するように設計されたベクターをトランスフェクトすることによって行われてもよい。または、活性について調査されるポリペプチドが、以下で説明する細胞膜透過性物質を用いて生細胞に導入されてもよい。または、導入は、細胞へ透過するようにポリペプチドを改変し、この改変したポリペプチドを細胞とインキュベートすることによって行われてもよい。このようなポリペプチドの改変には、細胞透過性ペプチドとの連結、微粒子(例えば、金属粒子)の表面上への付着、およびリポソーム内への封入が含まれる。
【0084】
本発明の変異体ポリペプチドは、選択されたアミノ酸配列に基づいて化学的に合成することができる。従来のペプチド化学で用いられる方法を、本発明の変異体ポリペプチドを合成する方法に使用することができる。特に、前記方法は以下の文書および日本特許公報に記載されている方法を含む:
Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966; The Proteins, Vol. 2, Academic Press Inc., New York, 1976;
ペプチド合成(Peptide Synthesis),丸善(Inc.), 1975;
ペプチド合成の基礎と実験(Fundamental and Experimental Peptide Synthesis),丸善(Inc.), 1985;
医薬品の開発 続(Development of Pharmaceuticals),Vol. 14:ペプチド合成(Peptide Synthesis),広川書店,1991;および
国際公開公報WO99/67288。
【0085】
本発明の変異体ポリペプチドはまた、公知の遺伝子工学技術により合成することもできる。遺伝子工学技術の一例は以下の通りである。具体的には、所望のペプチドをコードしているDNAを適切な宿主細胞に導入して、形質転換細胞を調製する。本発明の変異体ポリペプチドはこの形質転換細胞によって産生されるポリペプチドを回収することによって得ることができる。あるいは、所望のポリペプチドは、タンパク質合成に必要な要素が再構成されているインビトロ翻訳系を用いて、インビトロで合成することができる。
【0086】
遺伝子工学技術が用いられる場合、本発明の変異体ポリペプチドは異なるアミノ酸配列を有するペプチドを持つ融合タンパク質として発現することができる。所望の融合タンパク質を発現するベクターは、同じリーディングフレームに存在するように、本発明の変異体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと異なるペプチドをコードするポリヌクレオチドを連結し、次いで、結果として得られるポリヌクレオチドを発現ベクターに導入することによって得ることができる。融合タンパク質は、結果として生じるベクターで適切な宿主を形質転換することによって発現する。融合タンパク質の形成に特に有用な異なるペプチドは、以下のペプチドを含む:
FLAG(Hopp et al., (1988) BioTechnology 6, 1204-10)、
6個のHis(ヒスチジン)残基から成る6xHis、
10xHis、
インフルエンザ血球凝集素(HA)、
ヒトc−myc断片、
VSV−GP断片、
p18 HIV断片、
T7−タグ、
HSV−タグ、
E−タグ、
SV40T抗原断片、
lck タグ、
α−チューブリン断片、
B−タグ、
プロテインC断片、
GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、
HA(インフルエンザ血球凝集素)、
免疫グロブリン定常領域、
β−ガラクトシダーゼ、および
MBP(マルトース結合タンパク質)。
【0087】
本発明の変異体ポリペプチドは、このように産生された融合タンパク質を適切なプロテアーゼで処理し、次いで、望ましいポリペプチドを回収することによって得ることができる。ポリペプチドを精製するために、融合タンパク質と結合するアフィニティークロマトグラフィーによって、融合タンパク質を予め捕捉し、次いで、捕捉した融合タンパク質をプロテアーゼで処理することができる。プロテアーゼ処理によって、望ましいポリペプチドをアフィニティークロマトグラフィー樹脂から分離し、高純度の望ましいポリペプチドを回収する。
【0088】
本発明の変異体ポリペプチドには、改変ポリペプチドが含まれる。本発明において、「改変された」という用語は、例えば、他の物質との結合をさす。従って、本発明において本発明の変異体ポリペプチドは、細胞膜透過性物質などの他の物質をさらに含んでもよい。他の物質には、ペプチド、脂質、糖類、および様々な天然ポリマーまたは合成ポリマーなどの有機化合物が含まれる。本発明の変異体ポリペプチドは、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を阻害する望ましい活性を保持している限り、任意の改変を有してもよい。一部の態様において、阻害ポリペプチドは、CDCA5に対するERKの結合と直接競合しうる。改変はまた、本発明の変異体ポリペプチドにさらなる機能を付与しうる。さらなる機能の例には、標的可能性、送達可能性、および安定化が含まれる。
【0089】
本発明における変異体ポリペプチドの改変の好ましい例には、例えば、細胞膜透過性物質の導入が含まれる。通常、細胞内構造は細胞膜によって外側から遮断されている。従って、細胞外物質を細胞に効率的に導入するのは難しい。ポリペプチドを細胞膜透過性物質で改変することによって、本発明の変異体ポリペプチドに細胞膜透過性を付与することができる。結果として、本発明の変異体ポリペプチドと細胞とを接触させることによって、ポリペプチドを細胞に送達して、細胞において作用させることができる。
【0090】
「細胞膜透過性物質」とは、細胞質へ入るために哺乳動物細胞膜を透過することができる物質をさす。例えば、ある特定のリポソームは細胞膜と融合して、細胞内に内容物を放出する。一方、ある特定のタイプのポリペプチドは哺乳動物細胞の細胞膜を透過して細胞内に入る。このような細胞に入っていく活性を有するポリペプチドについて、本発明において細胞質膜などが物質として好ましい。特に、本発明は、以下の一般式を有する変異体ポリペプチドを含む。
[R]−[D]または[D]−[R];
式中、
[R]が、細胞膜透過性物質(膜導入剤(membrane transducing agent))であり、[D]が、SEQ ID NO:7を含む断片配列である。前記の一般式において、[R]および[D]は直接連結されてもよく、リンカーを介して間接的に連結されてもよい。複数の官能基などを有するペプチドおよび化合物をリンカーとして使用することができる。具体的には、例えば、−GGG−を含むアミノ酸配列をリンカーとして使用することができる。または、細胞膜透過性物質および選択された配列を含むポリペプチドを微粒子の表面に結合させてもよい。[R]は、[D]の任意の位置に連結することができる。具体的には、[R]は、[D]のN末端もしくはC末端に連結されてもよく、[D]を構成するアミノ酸の側鎖に連結されてもよい。さらに、複数の[R]分子が[D]の1個の分子に連結されてもよい。この場合、[R]分子は、[D]分子上の異なる位置に導入しうる。または、[D]は、多数の[R]が連結することによって改変されてもよい。例えば、細胞膜透過性を有する様々な天然ポリペプチドまたは人工合成ポリペプチドが報告されている(Joliot A. & Prochiantz A., Nat Cell Biol. 2004;6:189-96)。これらの公知の細胞膜透過性物質は全て、本発明における変異体ポリペプチドを改変するのに使用することができる。
【0091】
膜導入剤は、以下に列挙した群より選択することができる。
[ポリ−アルギニン], Matsushita, M. et al, J Neurosci. 21, 6000-7 (2003);
[Tat/RKKRRQRRR](SEQ ID NO: 6) Frankel, A. et al, Cell 55,1189-93 (1988)およびGreen, M. & Loewenstein, P. M. Cell 55, 1179-88 (1988);
[ペネトラチン/RQIKIWFQNRRMKWKK](SEQ ID NO: 7), Derossi, D. et al, J. Biol. Chem. 269, 10444-50 (1994);
[ブフォリンII/TRSSRAGLQFPVGRVHRLLRK](SEQ ID NO: 8) Park, C. B. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 97, 8245-50 (2000);
[トランスポータン/GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL](SEQ ID NO: 9) Pooga, M. et al. FASEB J. 12, 67-77 (1998);
[MAP(モデル両親媒性ペプチド)/KLALKLALKALKAALKLA](SEQ ID NO: 10), Oehlke, J. et al. Biochim. Biophys. Acta. 1414, 127-39 (1998);
[K−FGF/AAVALLPAVLLALLAP](SEQ ID NO: 11), Lin, Y. Z. et al. J. Biol. Chem. 270, 14255-14258 (1995);
[Ku70/VPMLK](SEQ ID NO: 12), Sawada, M. et al. Nature Cell Biol. 5, 352-7 (2003);
[Ku70/PMLKE](SEQ ID NO: 13), Sawada, M. et al. Nature Cell Biol. 5, 352-7 (2003);
[プリオン/MANLGYWLLALFVTMWTDVGLCKKRPKP](SEQ ID NO: 14), Lundberg, P. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 299, 85-90 (2002);
[pVEC/LLIILRRRIRKQAHAHSK](SEQ ID NO: 15), Elmquist, A. et al. Exp. Cell Res. 269, 237-44 (2001);
[Pep−1/KETWWETWWTEWSQPKKKRKV](SEQ ID NO: 16), Morris, M. C. et al. Nature Biotechnol. 19, 1173-6 (2001);
[SynB1/RGGRLSYSRRRFSTSTGR](SEQ ID NO: 17), Rousselle, C. et al. Mol. Pharmacol. 57, 679-86 (2000);
[Pep−7/SDLWEMMMVSLACQY](SEQ ID NO: 18), Gao, C. et al. Bioorg. Med. Chem. 10, 4057-65 (2002); および
[HN−1/TSPLNIHNGQKL](SEQ ID NO: 19), Hong, F. D. & Clayman, G. L. Cancer Res. 60, 6551-6 (2000)。
【0092】
本発明において、ポリ−アルギニンを構成するアルギニン残基の数は限定されない。一部の好ましい態様において、5〜20個の連続したアルギニン残基が例示され得る。好ましい態様において、ポリ−アルギニンのアルギニン残基の数は11である(SEQ ID NO:22)。
【0093】
さらに、本発明は、本発明のドミナントネガティブタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド、ならびに該ポリヌクレオチドを含むベクターおよび宿主細胞を提供する。ポリヌクレオチド、ベクター、および宿主細胞は既に前記で定義されている。
【0094】
ドミナントネガティブ変異体を用いた肺がんまたは食道がんの治療および予防
本明細書中で開示されるCDCR5のドミナントネガティブ変異体は、肺がんまたは食道がんを、治療または予防するのに使用することができる。例えば、本発明は、ドミナントネガティブ効果を有するCDCA5変異体、このような変異体をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターを投与することによって、対象における肺がんまたは食道がんの、治療および予防のいずれかまたは両方のための方法を提供する。
【0095】
いくつかの好ましい態様において、CDCA5変異体は、対象に投与するために膜導入剤と連結される。生細胞内に入る能力について多数のペプチド配列が特徴付けられており、本発明におけるこの目的のために使用することができる。このような膜導入剤(典型的にはペプチド)は、内部移行後に生細胞の細胞質区画および/または核区画に到達する能力によって規定されている。導入剤を得ることができるタンパク質の例には、HIV Tatトランスアクチベーター1、2、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)転写因子アンテナペディア3が含まれる。さらに、導入活性を有する非天然ペプチドが用いられている。これらのペプチドは、典型的には、移行について試験された、膜相互作用特性で知られている低分子ペプチドである。K−線維芽細胞増殖因子(FGF)の分泌シグナル配列の中にある疎水性領域、毒液毒素マストパラン(トランスポータン)13、およびブフォリン114(両生類抗菌ペプチド)が形質導入剤として有用であると示されている。本発明において有用な導入剤の総説については、Joliot et al. Nature Cell Biology 6:189-96(2004)を参照されたい。
【0096】
治療または予防のために用いられるCDCA5変異体は、好ましくは、以下の一般式:
[R]−[D]、または
[D]−[R]
を有してもよい。式中、前記の「CDCA5に対するERKキナーゼ活性を阻害するドミナントネガティブタンパク質」の項で定義されたように、[R]は膜導入剤であり、[D]は、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0097】
別の態様において、本発明は、本発明のCDCA5変異体を発現するベクターを投与する工程を含む、対象において肺がんまたは食道がんを治療または予防するための方法を提供する。この態様では、このようなベクターは細胞内でCDCA5を発現するので、CDCA5変異体は、膜導入剤を用いることなく細胞に導入されることができる。CHO、COS、またはNIH3T3細胞などの動物細胞内でベクターを発現するために、ベクターは、このような細胞において発現するのに必要なプロモーター、例えば、SV40プロモーター(Mulligan et al., Nature 277: 108(1979))、MMLV−LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushima et al., Nucleic Acids Res 18: 5322(1990))、CMVプロモーターなど、好ましくは、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬物(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬物耐性遺伝子)を有さなければならない。これらの特徴を有する公知のベクターの例には、例えば、pMAM、pDR2、pBK−RSV、pBK−CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。
【0098】
薬学的組成物
さらに本発明は、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を減少させる、またはERKによるCDCA5のリン酸化を阻害する薬学的有効量の化合物、および薬学的に許容される担体からなる、肺がんまたは食道がんを治療または予防するための組成物を提供する。本発明の化合物が標的活性を有するか否かは、例えば、本発明のスクリーニング方法に従って決定することができる。例えば、CDCA5に対するキナーゼ活性は、CDCA5リン酸化に適した条件下で本発明の化合物をインキュベートし、ホスホ−CDCA5レベルを検出することによって決定することができる。ERKによるCDCA5のリン酸化部位はSer79またはSer209でありうる。
【0099】
さらに、本発明のドミナントネガティブポリペプチドは、CDCA5に対するERK依存性リン酸化を抑制する。従って、本発明の別の局面によれば、本発明のドミナントネガティブポリペプチド、またはこのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのいずれかからなる本発明の薬学的組成物は、CDCA5に対するERK依存性リン酸化を阻害するのに使用することができる。さらに、本発明者らは、CDCA5に対するERK依存性リン酸化が肺がん細胞または食道細胞の増殖および/または生存に必須であることを明らかにした。従って、前記のポリペプチドまたはポリヌクレオチドのいずれかからなる本発明の薬学的組成物は、肺がんまたは食道がん、特に、NSCLCを治療または予防するのに使用することができる。すなわち、本発明の一態様において、本発明は、
[1]肺がんまたは食道がんを治療または予防するための組成物であって、活性成分として薬学的有効量の、ドミナントネガティブ効果を有するCDCA5変異体、該変異体をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクター、および薬学的に許容される担体を含む、組成物、
[2]CDCA5における少なくとも1つのERK依存性リン酸化部位が野生型以外のアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列をCDCA5変異体が含む、[1]の組成物、
[3]ERK依存性リン酸化部位がSer−79およびSer−209のいずれかまたは両方である、[2]の組成物、
[4]CDCA5変異体がSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含む、請求項[3]の組成物、
[5]CDCA5変異体が一般式:[R]−[D]を有し、式中、[R]が膜導入剤であり、[D]がSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、[4]の組成物、
[6]膜導入剤が以下:
ポリ−アルギニン;
Tat/RKKRRQRRR/SEQ ID NO: 8;
ペネトラチン/RQIKIWFQNRRMKWKK/SEQ ID NO: 9;
ブフォリンII/TRSSRAGLQFPVGRVHRLLRK/SEQ ID NO: 10;
トランスポータン/GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL/SEQ ID NO: 11;
MAP(モデル両親媒性ペプチド)/KLALKLALKALKAALKLA/SEQ ID NO: 12;
K−FGF/AAVALLPAVLLALLAP/SEQ ID NO: 13;
Ku70/VPMLK/SEQ ID NO: 14;
Ku70/PMLKE/SEQ ID NO: 15;
プリオン/MANLGYWLLALFVTMWTDVGLCKKRPKP/SEQ ID NO: 16;
pVEC/LLIILRRRIRKQAHAHSK/SEQ ID NO: 17;
Pep−1/KETWWETWWTEWSQPKKKRKV/SEQ ID NO: 18;
SynB1/RGGRLSYSRRRFSTSTGR/SEQ ID NO: 19;
Pep−7/SDLWEMMMVSLACQY/SEQ ID NO: 20;および
HN−1/TSPLNIHNGQKL/SEQ ID NO: 21
からなる群より選択される、[5]の組成物
を提供する。
【0100】
本発明のドミナントネガティブポリペプチドは肺がん細胞または食道がん細胞の増殖を抑制するよう機能を発揮するので、薬学的組成物中のポリペプチドは効果を生じるために細胞に導入される必要がある。従って、薬学的組成物に適したポリペプチドには、細胞内へ透過するように改変されたポリペプチドが含まれる。このような改変の例には、前記で詳述したように、細胞透過性ペプチドとの連結、微粒子(例えば、金属粒子)の表面上への付着、およびリポソーム内への封入が含まれるが、これに限定されない。
【0101】
別の態様において、本発明はまた、肺がんおよび食道がんなどのがんを治療するための薬学的組成物の製造における、本発明のドミナントネガティブポリペプチドまたは本発明によってスクリーニングされた化合物の使用を提供する。
【0102】
または、本発明はさらに、肺がんおよび食道がんなどのがんの治療において使用するための、本発明のドミナントネガティブポリペプチドまたは本発明によってスクリーニングされた化合物を提供する。または、本発明はさらに、薬学的または生理学的に許容される担体と、活性成分としてのポリペプチドまたは化合物とを処方する工程を含む、肺がんおよび食道がんなどのがんを治療するための薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスを提供する。別の態様において、本発明はまた、活性成分と、薬学的または生理学的に許容される担体とを混合する工程を含み、この活性成分が本発明のドミナントネガティブポリペプチドまたは本発明によってスクリーニングされた化合物である、肺がんおよび食道がんなどのがんを治療するための薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスも提供する。
【0103】
本発明の薬学的組成物はまた、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、サル、ヒヒ、およびチンパンジー、特に、商業的に重要な動物または家畜を含むが、これに限定されず、ヒトおよび他の任意の哺乳動物における障害を治療および/または予防するのにも使用されてもよい。
【0104】
本発明の薬学的組成物は、薬学的有効量の活性成分(本発明のドミナントネガティブポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または本発明のスクリーニング方法によって単離された化合物)を含む。化合物(タンパク質およびポリヌクレオチドを含む)の「薬学的有効量」は、CDCA5に対するERK依存性リン酸化が重要な役割を果たしている目的の障害を治療および/または予防するのに十分な量である。薬学的有効量の一例は、患者に投与された時に、CDCA5に対するERK依存性リン酸化レベルを減少させて、障害を治療または予防するのに必要な量でもよい。リン酸化レベルの減少は、例えば、少なくとも、約5%、10%、20%、30%、40%、50%、75%、80%、90%、95%、99%、または100%の減少でもよい。または、薬学的有効量は、対象における肺がんまたは食道がんのサイズ、有病率、もしくは転移能の減少につながる量でもよい。さらに、本発明の薬学的組成物が予防的に適用される場合、「薬学的有効量」は、肺がんまたは食道がんの発生を遅延または予防する量でもよく、または肺がんもしくは食道がんの臨床症状を軽減する量でもよい。
【0105】
このような薬学的有効量の本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドを決定するために、病理組織学的診断を含む標準的な臨床プロトコールを用いて、または慢性の咳、嗄声、喀血、体重減少、食欲低下、息切れ、喘鳴、気管支炎もしくは肺炎の発作の繰り返し、および胸痛など症候性の異常を確認することによって、肺がんまたは食道がんを評価することができる。
【0106】
使用される用量は、対象の年齢および性別、治療されている正確な障害、ならびにその重篤度を含む多くの要因に依拠するであろう。さらに、投与経路は状態およびその重篤度によって変えてもよい。しかしながら、本発明の医用薬剤の有効な用量範囲の決定は、特に、本明細書中で提供される詳細な開示を考慮すれば、十分に当業者の能力の範囲内である。本発明のドミナントネガティブポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または本発明のスクリーニング方法によって単離された化合物の薬学的にまたは予防的に有効な量(用量)は、最初に、細胞培養アッセイおよび/または動物モデルから概算することができる。例えば、用量は、細胞培養において決定されたIC50(細胞の50%が望ましい効果を示す用量)を含む循環濃度範囲に達するように動物モデルにおいて処方することができる。ポリペプチド、ポリヌクレオチド、または化合物の毒性および治療効力はまた、細胞培養または実験動物において、例えば、LD50(集団の50%が死に至る用量)およびED50(集団の50%において治療に有効な用量)を決定するための標準的な薬学的手順によって決定することもできる。毒性作用と治療効果との用量比が治療指数(すなわち、LD50とED50との比)である。高い治療指数を示すポリペプチド、ポリヌクレオチド、および化合物が好ましい。ヒトにおいて使用するための投与量範囲の処方において、これらの細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータを使用してもよい。このようなポリペプチドおよびポリヌクレオチドの投与量は、毒性がほどんど無くまたは全く無く、ED50を含む循環濃度の範囲内にあり得る。この範囲内で、投与量は、使用される単位剤形および利用される投与経路によって変えてもよい。正確な処方、投与経路、および投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択することができる(例えば、Fingl et al. (1975) in 「The Pharmacological Basis of Therapeutics」, Ch.1 p1を参照されたい)。投与量および投与間隔は、望ましい効果を維持するのに十分な活性成分の血漿中濃度を得るように個々に調節されてもよい。
【0107】
必要に応じて、本発明のドミナントネガティブポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または本発明のスクリーニング方法によって単離された化合物からなる本発明の薬学的組成物は、任意で、他の治療物質が関心対象のポリペプチドのインビボドミナントネガティブ効果を阻害しない限り、活性成分として他の治療物質を含んでもよい。例えば、製剤は、抗炎症剤、鎮痛剤、化学療法剤などを含んでもよい。医用薬剤それ自体に他の治療物質を含めることに加えて、本発明の医用薬剤はまた連続して、または1種または複数種の他の薬理学的薬剤と同時に投与されてもよい。医用薬剤および薬理学的薬剤の量は、例えば、使用される薬理学的薬剤のタイプ、治療されている疾患、ならびに投与計画および投与経路に依る。
【0108】
成分、特に、本明細書中で言及した成分に加えて、本発明の製剤は、問題になっている製剤のタイプを考慮して当技術分野において従来の他の薬剤を含んでもよいことが理解されるはずである。
【0109】
本発明の一態様において、本発明の薬学的組成物は、肺がんまたは食道がん、特に、NSCLCの病理学的状態を治療するのに有用な材料を含む製造物品およびキットに含まれてもよい。製造物品は、本発明の任意の薬学的組成物の容器をラベルと共に含んでもよい。適切な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成されてもよい。容器のラベルは、組成物が疾患の1つまたは複数の状態を治療または予防するのに用いられることを示さなければならない。ラベルはまた投与などの指示を示してもよい。
【0110】
前記の容器に加えて、本発明の薬学的組成物を含むキットは、任意で、薬学的に許容される希釈剤を収用する第2の容器をさらに含んでもよい。キットは、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、注射器、および使用説明書の付いた添付文書を含む、商業的視点および使用者視点から望まれる他の材料をさらに含んでもよい。
【0111】
薬学的組成物は、所望であれば、活性成分を含む1つまたは複数の単位剤形を含み得る包装またはディスペンサー装置に入れることができる。包装は、例えば、ブリスター包装などの金属箔またはプラスチック箔を含んでもよい。包装またはディスペンサー装置には投与説明書が添付されてもよい。
【0112】
(1)活性成分としてポリペプチドを含む薬学的組成物:
本発明は、活性成分として本発明のドミナントネガティブポリペプチドを含む薬学的組成物を提供する。本発明のポリペプチドは、CDCA5発現細胞の増殖を抑制する機能を発揮するので、薬学的組成物におけるポリペプチドは効果を生じるために細胞に導入される必要がある。従って、薬学的組成物に適したポリペプチドには、細胞内へ透過するように改変されたポリペプチドが含まれる。このような改変の例には、細胞透過性ペプチドとの連結、微粒子(例えば、金属粒子)の表面上への付着、およびリポソーム内への封入が含まれるが、これに限定されない。本発明の薬学的化合物には細胞透過性ペプチドの使用が特に好ましい。
【0113】
肺がんおよび食道がんなどのがんを治療および/または予防するために、本発明のドミナントネガティブポリペプチドは、患者に薬学的組成物として直接投与されてもよく、または従来の製剤方法に従って処方されてもよい。例えば、必要に応じてポリペプチドは、経口投与、直腸投与、経鼻投与、局所投与(頬側投与および舌下投与を含む)、腟投与または非経口投与(筋肉内投与、皮下投与、静脈内投与、腫瘍内投与を含む)に適した形に処方されてもよく、または吸入ガス注入による投与に適した形に処方されてもよい。従って、本発明は、ポリペプチドに加えて、任意の薬学的に許容される賦形剤または担体を含む薬学的組成物を含む。「薬学的に許容される」という語句は、物質が不活性であり、薬物の希釈剤またはビヒクルとして用いられる従来の物質を含むことを示す。適切な賦形剤およびその製剤は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th ed. (1980) Mack Publishing Co., ed. Oslo et al.に記載されている。
【0114】
例えば、製剤の正しいpHを維持するために、賦形剤が用いられてもよい。最適な貯蔵寿命のために、ポリペプチドを含む溶液のpHは、好ましくは約5〜約8、より好ましくは約7〜約7.5である。製剤はまた、凍結乾燥散剤または本発明に適した他の任意の賦形剤を含んでもよい。
【0115】
水性調製物について、製剤を等張にするために、適量の薬学的に許容される塩が製剤に典型的に用いられる。薬学的に許容される等張性賦形剤の例には、食塩水、リンガー溶液、ハンクス溶液、およびデキストロース溶液などの液体が含まれるが、これに限定されない。注射用製剤には等張性賦形剤が特に重要である。
【0116】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれに所定量の活性成分が含まれている、カプセル、カシェ剤、および錠剤が含まれるが、これに限定されない。製剤には、薬物、液体、ゲル、シロップ、スラリー、丸剤、散剤、顆粒、溶液、懸濁液、エマルジョンなども含まれる。活性成分は、任意で、ボーラス、舐剤、またはペースト剤として投与される。経口投与用の錠剤およびカプセルは、結合剤、増量剤、潤滑剤、崩壊剤、および湿潤剤などの従来の賦形剤を含んでもよい。適切な賦形剤は、特に、増量剤、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、およびソルビトールを含む糖;セルロース調製物、例えば、コーンスターチ、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびポリビニルピロリドン(PVP)である。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、およびアルギン酸またはその塩、例えば、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤が添加されてもよい。錠剤は、任意で、1種または複数種の製剤成分と共に圧縮または成型することによって作られてもよい。圧縮錠は、散剤または顆粒などの自由に流動することができる形をした活性成分を、任意で、結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、界面活性剤、または分散剤と混合して、適切な機械の中で圧縮することによって調製してもよい。湿製錠は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を適切な機械の中で成型することによって作ることができる。錠剤は、当技術分野において周知の方法に従ってコーティングすることができる。経口液体調製物は、例えば、水性または油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ、またはエリキシル剤の形をとってもよく、または使用前に水または他の適切なビヒクルと再構成するための乾燥品として提供されてもよい。このような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性ビヒクル(食用油を含んでもよい)、および防腐剤などの従来の添加物を含んでもよい。これらの調製物における医用薬剤の処方または用量によって、示された範囲内の適切な投与量を得ることができる。
【0117】
投与量は症状に応じて変えることができるが、肺がんまたは食道がんを治療または予防するためのポリペプチドまたはその断片の例示的な用量は、正常な成人(体重60kg)に投与された時に、約0.1mg〜約100mg/日、好ましくは約1.0mg〜約50mg/日、より好ましくは約1.0mg〜約20mg/日である。
【0118】
正常な成人(体重60kg)に注射の形で非経口投与された場合に、疾患の状態、患者の症状、および投与方法によって、ある程度の差はあるが、約0.01mg〜約30mg/日、好ましくは約0.1〜約20mg/日、より好ましくは約0.1〜約10mg/日の用量を静脈内注射するのが便利である。また、動物の場合でも、体重60kgに変換した量を投与することができる。
【0119】
非経口投与用の製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および対象とするレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質をさらに含み得る水性および非水性の無菌注射液剤が含まれる。同様に、懸濁化剤および増粘剤を含み得る水性および非水性の無菌懸濁剤が含まれる。製剤は、単位投与用容器または複数回投与用容器、例えば、密閉されたアンプルおよびバイアルに入れて提供されてもよく、無菌液体担体、例えば生理食塩水、注射用水、の使用直前の添加のみが必要なフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存されてもよい。あるいは、製剤は持続注入用として提供されてもよい。即時注射用の溶液および懸濁液は、先に述べた種類の無菌の散剤、顆粒剤、および錠剤から調製されてもよい。
【0120】
直腸投与用製剤には、カカオバターまたはポリエチレングリコールなどの標準的な担体を用いた坐剤が含まれる。口内、例えば、頬側または舌下に局所投与するための製剤には、スクロース、およびアラビアゴムまたはトラガカントゴムのような風味付き基剤中に活性成分を含むロゼンジ、ならびにゼラチン、グリセリン、スクロース、またはアラビアゴムなどの基剤中に活性成分を含むトローチが含まれる。活性成分の鼻腔内投与のためには、液体スプレーもしくは分散性散剤または滴剤の形が使用され得る。滴剤は、1種または複数種の分散剤、可溶化剤、または懸濁剤もまた含む水性または非水性の基剤を用いて処方されてもよい。
【0121】
吸入による投与のため、組成物は、注入器、噴霧器、加圧パック、または他のエアロゾルスプレーを送達する簡便な手段から簡便に送達される。加圧パックは、典型的には、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスなどの適切な噴射剤を含む。加圧式エアロゾルの場合、投薬単位は、一定量を送達するバルブを備えることによって決定されてもよい。あるいは、吸入またはガス注入による投与のため、組成物は、乾燥粉末組成物、例えば、活性成分と、ラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤との粉末混合物の形をとってもよい。粉末組成物は、単位剤形、例えば、カプセル、カートリッジ、ゼラチンまたはブリスターパックで提供されてもよく、散剤は、それらから、吸入器または注入器の補助により投与され得る。
【0122】
他の製剤には、治療剤を放出する、移植可能な装置および粘着パッチが含まれる。
【0123】
所望の場合、インビボで活性成分を徐放する、制御放出する、または持続放出するように適合された前記の製剤が用いられてもよい。
【0124】
(2)活性成分としてポリヌクレオチドを含む薬学的組成物:
さらに、本発明は、活性成分として、発現可能な形で本発明のドミナントネガティブポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、薬学的組成物を提供する。本明細書中で「発現可能な形で」という語句は、ポリヌクレオチドが細胞内に導入されると、ドミナントネガティブ効果を有するポリペプチドとしてインビボで発現されるであろうことを意味する。好ましい態様において、関心対象のポリヌクレオチドの核酸配列は、標的細胞におけるポリヌクレオチドの発現に必要な調節エレメントを含む。このポリヌクレオチドは、標的細胞のゲノムに安定して挿入されるように備えられてもよい(例えば、相同組換えカセットベクターの説明については、Thomas K.R. & Capecchi M.R. (1987) Cell 51:503-12を参照されたい)。
【0125】
患者へのポリヌクレオチドの送達は、患者が、ポリヌクレオチドを運ぶベクターに直接曝露される直接送達でもよく、あるいは最初にインビトロで細胞が関心対象のポリヌクレオチドで形質転換され、次いで患者に移植される、間接送達でもよい。これらの2つのアプローチはそれぞれ、インビボ遺伝子療法またはエクスビボ遺伝子療法として公知である。
【0126】
遺伝子療法の総説については、Goldspiel et al., (1993) Clinical Pharmacy 12: 488-505; Wu and Wu (1991) Biotherapy 3: 87-95; Tolstoshev (1993) Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 33: 573-96; Mulligan (1993) Science 260: 926-32; Morgan & Anderson (1993) Ann. Rev. Biochem. 62: 191-217;および(1993) Trends in Biotechnology 11(5): 155-215を参照されたい。組換えDNA技術の技術分野において一般に知られている使用可能な方法は、Ausubel et al.編(1993) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY;およびKrieger (1990) Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NYに記載されている。
【0127】
(3)本発明のスクリーニング方法によって選択された化合物を含む薬学的組成物
本発明は、本発明のスクリーニング方法によって選択された任意の化合物を含む、肺がんまたは食道がんを治療または予防するための組成物を提供する。
【0128】
ヒトおよび他の哺乳動物、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーのための医薬として本発明の方法によって単離された化合物を投与する場合、単離された化合物は直接投与か、または従来の薬学的調剤法を用いた剤形に調製できる。例えば、ニーズに応じて、薬物は経口的に糖衣錠、カプセル、エリキシルおよびマイクロカプセルとして、または非経口的には、水または薬学的に許容される他の任意の液体を用いた無菌液または無菌懸濁液の注射剤の形をとることができる。例えば化合物は、一般的に許容された投薬実施のために要求される単位剤形において、薬学的に許容される担体または培地、特に、無菌水、生理的食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、香料、賦形剤、溶媒、防腐剤、結合剤などと混合することができる。これら製剤における活性成分の量を用いると、指示された範囲内の適切な投与量を得ることができる。
【0129】
錠剤およびカプセルを形成するために混合できる添加剤の例は、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムなどの結合剤、結晶セルロースなどの賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、およびアルギン酸などの膨張剤、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、スクロース、ラクトース、またはサッカリンなどの甘味料、ならびにペパーミント、アカモノ(Gaultheria adenothrix)油、およびサクランボなどの香料を含む。単位剤形がカプセルの場合、油などの液体担体も上記成分においてさらに含めることができる。注射のための無菌組成物は、注射に用いられる蒸留水などのビヒクルを用いて通常の薬物の実施に従って処方することができる。
【0130】
生理的食塩水、グルコース、ならびにD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、および塩化ナトリウムなどの補助剤を含む他の等張液を注射用の水溶液として使用することができる。これらは適切な可溶化剤、例えば、アルコール、特にエタノール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールなどのポリアルコール、ポリソルベート80(商標)およびHCO−50などの非イオン性活性剤と組み合わせて用いることができる。ゴマ油およびダイズ油は適切な油性液体の例であり、可溶化剤としての安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールと組み合わせて使用することができる。これらはリン酸緩衝剤または酢酸ナトリウム緩衝剤などの緩衝剤、塩酸プロカインなどの鎮痛剤、ベンジルアルコールまたはフェノールなどの安定化剤、および抗酸化剤とともにさらに処方されてもよい。調製された注射液は適切なアンプルに充填されてもよい。
【0131】
本発明の薬学的組成物を患者に投与するために、当業者に周知の方法、例えば、動脈内注射、静脈内注射、または経皮注射、および鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与、または経口投与を使用してもよい。投与量および投与方法は、患者の体重および年齢、ならびに選択した投与方法によって変化し得る。しかしながら、当業者は適切な投与方法および投与量を日常的に選択することができる。前記化合物がDNAによってコード可能である場合、そのDNAを遺伝子治療用のベクターに挿入し、治療を行うためにこのベクターを患者に投与することができる。投与量および投与方法は、患者の体重、年齢、および症状によっても変化し得る。しかし、当業者はそれらを最適に選択することができる。
【0132】
例えば、ERKに結合し、その活性を調節する化合物またはCDCA5のリン酸化を阻害する化合物の用量は症状次第であるが、正常な成人(体重60kg)へ経口投与する場合、適切な用量は一般的に約0.1mg〜約100mg/日、好ましくは約1.0mg〜約50mg/日、さらに好ましくは約1.0mg〜約20mg/日である。
【0133】
非経口投与する場合、正常な成人(体重60kg)に注射する形では、患者、標的器官、症状および投与方法によりいくらか異なるが、約0.01mg〜約30mg/日、好ましくは約0.1〜約20mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10mg/日の静脈内注射が簡便である。また、他の動物の場合においても、体重60kgに変換した量を投与することが可能である。
【0134】
本発明は、本明細書中に記載されている1種または複数種の治療用化合物を含む、薬学的組成物または治療組成物を含む。薬学的製剤は、経口投与、直腸投与、経鼻投与、局所(頬側および舌下を含む)投与、膣または非経口(筋肉内、皮下および静脈内を含む)投与、あるいは吸入またはガス注入による投与に適したものを含んでもよい。製剤は、適宜、個別の用量単位において都合よく提供され、薬学分野において従来より使用されている任意の方法によって調製してもよい。本明細書における全ての薬学的方法は、液体担体または微粉固体担体、必要に応じて、その両方と活性化合物の結合をもたらす工程、および必要な場合は生成物を所望の製剤に成型する工程を含む。
【0135】
経口投与に適している薬学的製剤は、個別の単位、例えば、カプセル、カシェ剤または錠剤として都合よく提供することができ、各々は粉末もしくは顆粒として、溶液、懸濁液として、またはエマルジョンとして活性成分の予め定められた量を含む。活性成分はまた、ボーラス、舐剤、またはペースト剤として提供されてもよく、純粋な形、すなわち担体なしで存在してもよい。経口投与用の錠剤およびカプセルは、従来の賦形剤、例えば、結合剤、増量剤、潤滑剤、崩壊剤、または湿潤剤を含んでもよい。錠剤は任意に1つまたは複数の製剤成分を用いて、圧縮または成形によって作ってもよい。圧縮錠は、散剤または顆粒などの自由に流動する形状の活性成分を、任意で、結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、界面活性剤、または分散剤と混合して、適切な機械の中で圧縮することによって調製してもよい。湿製錠は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を適切な機械の中で成形することによって作ってもよい。錠剤は、当技術分野において周知の方法に従ってコーティングされてもよい。経口液体調製物は、例えば、水性または油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ、またはエリキシル剤の形で存在するか、あるいは使用前に水または他の適切なビヒクルを用いて構成するための乾燥品として提供されてもよい。このような液体調製物は、従来の添加剤、例えば、懸濁剤、乳化剤、非水性ビヒクル(食用油を含んでよい)または防腐剤を含むことができる。さらにまた、錠剤は、任意で、その中の活性成分を遅延放出または制御放出するように処方されてもよい。
【0136】
非経口投与用の製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および対象とするレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含み得る水性および非水性の無菌注射液、ならびに懸濁化剤および増粘剤を含み得る水性および非水性の無菌懸濁剤が含まれる。製剤は、単位投与用容器または複数回投与用容器、例えば、密閉されたアンプルおよびバイアルに入れて提供されてもよく、生理食塩水、注射用水などの無菌液体担体の使用直前の添加のみが必要なフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存されてもよい。あるいは、製剤は持続注入用として提供されてもよい。即時注射用の液体および懸濁液は、先に述べた種類の無菌の散剤、顆粒剤および錠剤から調製されてもよい。
【0137】
直腸投与用製剤は、カカオバターまたはポリエチレングリコールなどの標準的な担体を用いた坐剤として提供されてもよい。口内、例えば、頬側または舌下に局所投与するための製剤には、スクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカントゴムなどの風味付き基剤中に活性成分を含むロゼンジ、ならびにゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアラビアゴムなどの基剤中に活性成分を含むトローチが含まれる。鼻腔内投与のためには、本発明の化合物は、液体スプレーもしくは分散性散剤としてまたは滴剤の形で使用することができる。滴剤は、1種または複数種の分散剤、可溶化剤、または懸濁剤もまた含む水性または非水性の基剤とともに処方されてもよい。液体スプレーは加圧パックから都合よく送達される。
【0138】
吸入による投与のため、本発明の化合物は、注入器、噴霧器、加圧パックまたは他のエアロゾルスプレーを送達する簡便な手段から簡便に送達される。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスなどの適切な噴射剤を含み得る。加圧式エアロゾルの場合、投薬単位は、一定量を送達するバルブを備えることによって決定されてもよい。
【0139】
あるいは、吸入またはガス注入による投与のため、本発明の化合物は、乾燥粉末組成物、例えば、化合物とラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤との粉末混合物の形をとってもよい。粉末組成物は、単位剤形、例えば、カプセル、カートリッジ、ゼラチンまたはブリスターパックで提供されてもよく、散剤は、それらから、吸入器または注入器の補助により投与され得る。
【0140】
所望であれば、活性成分を持続放出するように適合された上記の製剤が使用されてもよい。本発明の薬学的組成物は、抗菌剤、免疫抑制剤、または防腐剤などの他の活性成分もまた含んでもよい。
【0141】
具体的に前述した成分に加えて、本発明の製剤は、該当する製剤のタイプを考慮して当技術分野において従来の他の薬剤を含んでもよいこと、例えば、経口投与に適した製剤は香料を含んでもよいことが理解されるはずである。
【0142】
好ましい単位投与製剤は、活性成分の下記の有効量またはその適切な一部を含むものである。
【0143】
前述した条件の各々について、組成物は経口でまたは注射で、約0.1〜約250mg/kg/日の用量で投与してもよい。ヒト成人の用量範囲は通常約5mg〜約17.5g/日、好ましくは約5mg〜約10g/日、および最も好ましくは約100mg〜約3g/日である。別々の単位で提供された提示の錠剤または他の単位剤形は、このような用量またはその倍数として有効な量、例えば、約5mg〜約500mg、通常約100mg〜約500mgを含む単位を都合よく含むことができる。
【0144】
薬学的組成物は好ましくは経口または注射(静脈もしくは皮下)で投与され、対象に投与される正確な量は主治医の責任である。しかしながら、使用される用量は、対象の年齢、性別、治療されている詳細な障害、およびその重篤度を含む多くの要因に依拠すると考えられる。さらに、投与経路は状態およびその重篤度によって変わりうる。
【0145】
がんの予後を評価するための方法:
本発明は、CDCA5の発現が患者の予後不良に有意に関連するという新規の発見に関する。従って、本発明は、がん、特に、肺がんを有する患者の生物学的試料中のCDCA5遺伝子の発現レベルを検出し、検出された発現レベルと対照レベルとを比較し、予後不良(低い生存率)を示す、対照レベルに対する発現レベルの増加を決定することによって、患者の予後を決定または評価するための方法を提供する。
【0146】
本明細書中で、「予後」という用語は、疾患の見込み転帰、ならびに症例の性質および症状によって示されるような、疾患からの回復の可能性に関する予測をさす。従って、好ましくない、悪い、不良である予後は、治療後の生存期間または生存率の低下によって規定される。反対に、良い、好ましい、または良好な予後は、治療後の生存期間または生存率の上昇によって規定される。
【0147】
「予後を評価する」という用語は、患者のがんの今後の転帰(例えば、悪性度、がんの治癒尤度、生存率など)を予想する、予測する、または所定の検出または測定と相関付ける能力を指す。例えば、経時的にCDCA5の発現レベルを求めることで、患者の転帰(例えば、悪性度の増減、がんの分類の増減、がんの治癒尤度、生存率など)の予想が可能となる。
【0148】
本発明の文脈において「予後を評価する(または決定する)」という語句は、がんの進行、特に、がんの再発、転移拡散、および疾患再発の予想および尤度解析を含むことが意図される。本発明の予後を評価する方法は、治療的介入、診断基準、例えば、疾患の病期分類、ならびに新生物疾患の転移または再発に関する疾患モニタリングおよび監視を含む治療様式について結論を出す際に臨床的に使用されることが意図される。
【0149】
前記方法に用いられる患者に由来する生物学的試料は、試料中でCDCA5遺伝子を検出することができる限り、評価しようとする対象に由来する任意の試料でよい。好ましくは、生物学的試料は、肺細胞(肺から得られる細胞)である。さらに、生物学的試料は、痰、血液、血清、または血漿などの体液を含んでもよい。さらに、試料は、組織から精製された細胞でもよい。生物学的試料は、患者から、治療前、治療中、および/または治療後を含む様々な時点で得られてもよい。
【0150】
本発明によれば、患者に由来する生物学的試料において測定されたCDCA5遺伝子の発現レベルが高ければ高いほど、治療後の寛解、回復、および/または生存に関する予後が不良になり、かつ不良な臨床転帰の尤度が高くなることが示された。従って、本方法によれば、比較に用いられる「対照レベル」は、例えば、治療後にがんの良好なまたは良い予後を示した個体または個体集団において、任意の種類の治療の前に検出されたCDCA5遺伝子の発現レベルの場合でありえ、本明細書中で「予後良好対照レベル」とも呼ばれるであろう。または、「対照レベル」は、治療後にがんの不良なまたは悪い予後を示した個体または個体集団において、任意の種類の治療の前に検出されたCDCA5遺伝子の発現レベルでありえ、本明細書で「予後不良対照レベル」とも呼ばれるであろう。「対照レベル」は、単一の参照集団に由来する単一発現パターンまたは複数の発現パターンである。従って、対照レベルは、がんの患者、または疾患状態(予後良好または予後不良)が既知の患者の集団における任意の種類の治療の前に検出されたCDCA5遺伝子の発現レベルに基づき求めることができる。好ましくは、がんは肺がんである。疾患状態が公知の患者群においてCDCA5遺伝子の発現レベルの標準値が用いられることが好ましい。標準値は、当技術分野において公知の任意の方法によって得ることができる。例えば、平均+/−2 S.D.または平均+/−3 S.D.の範囲を標準値として使用することができる。
【0151】
対照レベルは、任意の種類の治療の前に、疾患状態(予後良好または予後不良)が既知のがん患者(対照または対照群)からこれまでに収集および保存された試料を使用することによって、試験生物学的試料と同時に求めることができる。
【0152】
または、対照レベルは、対照群からこれまでに収集および保存された試料におけるCDCA5遺伝子の発現レベルを解析することによって得られた結果に基づいて統計的方法によって求めることができる。さらに、対照レベルは、これまでに試験された細胞からの発現パターンのデータベースでもよい。
【0153】
さらに、本発明の一局面によれば、生物学的試料におけるCDCA5遺伝子の発現レベルは、複数の参照試料から求められた複数の対照レベルと比較することができる。患者に由来する生物学的試料のものと同程度の組織型に由来する参照試料から求められた対照レベルを使用することが好ましい。
【0154】
本発明によれば、CDCA5遺伝子の発現レベルと予後良好対照レベルとの類似が患者のより好ましい予後を示し、予後良好対照レベルに対する発現レベルの増大が、治療後の寛解、回復、生存、および/または臨床転帰の良好ではない予後不良を示す。他方で、予後不良対照レベルに対するCDCA5遺伝子の発現レベルの低減が、患者のより好ましい予後を示し、発現レベルと予後不良対照レベルとの類似が治療後の寛解、回復、生存および/または臨床転帰の良好ではない予後不良を示す。
【0155】
生物学的試料におけるCDCA5遺伝子の発現レベルは、対照レベルの1.0倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、またはそれを超えて異なる場合に変化したと考えられ得る。
【0156】
試験生物学的試料レベルと対照レベルとの間の発現レベルの相違は、対照、例えば、ハウスキーピング遺伝子に対して標準化することができる。例えば、β−アクチン、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1をコードするものを含む、発現レベルががん細胞と非がん細胞との間で異ならないことが知られるポリヌクレオチドを用いて、CDCA5遺伝子の発現レベルを標準化することができる。
【0157】
発現レベルは、当技術分野において周知の技法を用いて患者から得られた生物学的試料において遺伝子転写産物を検出することによって求めてもよい。本発明の方法によって検出される遺伝子転写産物には、転写産物および翻訳産物、例えば、mRNAおよびタンパク質の両方が含まれる。
【0158】
例えば、CDCA5遺伝子の転写産物は、遺伝子転写産物に対するCDCA5遺伝子プローブを使用するハイブリダイゼーション、例えば、ノザンブロットハイブリダイゼーション解析によって検出することができる。検出はチップまたはアレイ上で行ってもよい。CDCA5遺伝子を含む複数の遺伝子の発現レベルを検出するために、アレイを使用することが好ましい。別の例として、CDCA5遺伝子に特異的なプライマーを使用する増幅ベースの検出法、例えば、逆転写ベースのポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を検出に利用してもよい(実施例を参照されたい)。CDCA5遺伝子に特異的なプローブまたはプライマーは、CDCA5遺伝子(SEQ ID NO:4)の配列全体を参照することにより従来の技法を用いて設計および調製することができる。例えば、実施例で使用されるプライマー(SEQ ID NO:25−28)は、RT−PCRによる検出に利用することができるが、本発明はそれらに限定されない。
【0159】
特に、本発明の方法に用いられるプローブまたはプライマーは、ストリンジェント、中程度ストリンジェント、または低ストリンジェントな条件下でCDCA5遺伝子のmRNAとハイブリダイズする。本明細書で使用されるように、「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列とハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしないと考えられる条件をさす。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、様々な状況下で異なると考えられる。長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、短い配列よりも高い温度で観察される。一般的に、ストリンジェントな条件の温度は、規定のイオン強度およびpHで特定の配列の熱融点(Tm)より約5℃低く選択される。Tmは、(規定のイオン強度、pHおよび核酸濃度で)標的配列に相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列とハイブリダイズする温度である。一般的にTmでは標的配列が過剰に存在するので、プローブの50%が平衡状態で占められる。典型的に、ストリンジェントな条件は、塩濃度がpH7.0〜8.3で約1.0M未満のナトリウムイオン、典型的に約0.01〜1.0Mのナトリウムイオン(またはその他の塩)であり、温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10個〜50個のヌクレオチド)では少なくとも約30℃であり、長いプローブまたはプライマーでは少なくとも約60℃である。ストリンジェントな条件は、不安定化剤、例えば、ホルムアミドの添加によっても達成することができる。
【0160】
または、本発明の評価のために翻訳産物が検出されてもよい。例えば、CDCA5タンパク質の量が決定されてもよい。翻訳産物としてのタンパク質の量を求めるための方法には、CDCA5タンパク質を特異的に認識する抗体を用いるイムノアッセイ法が含まれる。抗体はモノクローナル抗体でもよくポリクローナル抗体でもよい。さらに、断片がCDCA5タンパク質との結合能力を保持している限り、抗体の任意の断片または改変(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fvなど)を検出に使用してもよい。タンパク質検出のために、これらの種類の抗体を調製する方法は当技術分野において周知であり、このような抗体およびその等価物を調製する任意の方法を、本発明において使用することができる。
【0161】
CDCA5遺伝子の翻訳産物に基づいてCDCA5遺伝子の発現レベルを検出する別の方法として、CDCA5タンパク質に対する抗体を用いた免疫組織化学分析によって染色強度が観察されてもよい。すなわち、強い染色が観察された場合、CDCA5タンパク質の存在が増加しており、同時に、CDCA5遺伝子の発現レベルが高いことを示している。
【0162】
さらに、CDCA5タンパク質は細胞増殖活性を有することが知られている。従って、CDCA5遺伝子の発現レベルは、指標としてこのような細胞増殖活性を用いて決定することができる。例えば、CDCA5を発現する細胞を、生物学的試料の存在下で調製および培養し、次いで、増殖速度を検出する、または細胞周期もしくはコロニー形成能力を測定することによって、生物学的試料の細胞増殖活性を決定することができる。
【0163】
さらに、評価の正確さを改善するために、CDCA5遺伝子の発現レベルに加えて、他の肺がん関連遺伝子、例えば、肺がんにおいて異なって発現することが知られている遺伝子の発現レベルも決定することができる。このような他の肺がん関連遺伝子の例には、WO2004/031413およびWO2005/090603に記載の遺伝子が含まれる。これらの内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0164】
または本発明によれば、対象の予後を評価するために他の試験結果に加えて中間的な結果が得られることもある。このような中間的な結果は、医師、看護師、または対象の予後を評価、決定、または推測する他の施術者の助けとなり得る。予後を評価するために、本発明によって得られる中間的な結果と組み合わせて考慮され得るさらなる情報には、対象の臨床症状および身体状態が含まれる。本方法に従ってがんの予後について評価される患者は、好ましくは、哺乳動物であり、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシを含む。
【0165】
がんを診断するためのキットまたはがんの予後を評価するためのキット
本発明は、がんを診断するためのキットまたはがんの予後を評価するためのキットを提供する。好ましくは、がんは肺がんである。具体的には、キットは、患者に由来する生物学的試料におけるCDCA5遺伝子の発現を検出するための少なくとも1つの試薬を含み、試薬は、以下:
(a)CDCA5遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b)CDCA5タンパク質を検出するための試薬;および
(c)CDCA5タンパク質の生物学的活性を検出するための試薬
からなる群より選択されてもよい。
【0166】
CDCA5遺伝子のmRNAを検出するための適切な試薬には、CDCA5 mRNAに特異的に結合する、またはCDCA5 mRNAを特定する核酸、例えば、CDCA5 mRNAの一部に対する相補的配列を有するオリゴヌクレオチドが含まれる。これらの種類のオリゴヌクレオチドは、CDCA5 mRNAに特異的なプライマーおよびプローブによって例示される。これらの種類のオリゴヌクレオチドは、当技術分野において周知の方法に基づいて調製されてもよい。必要に応じて、CDCA5 mRNAを検出するための試薬は固体マトリックスに固定化されてもよい。さらに、CDCA5 mRNAを検出するための複数の試薬がキットに含まれてもよい。
【0167】
他方で、CDCA5タンパク質を検出するための適切な試薬には、CDCA5タンパク質に対する抗体が含まれる。抗体はモノクローナル抗体でもよく、またはポリクローナル抗体でもよい。さらに、断片がCDCA5タンパク質との結合能力を保持している限り、抗体の任意の断片または改変(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fvなど)を試薬として使用することができる。タンパク質検出のために、これらの種類の抗体を調製する方法は当技術分野において周知であり、このような抗体およびその等価物を調製する任意の方法を、本発明において使用することができる。さらに、抗体は、直接的な結合または間接的な標識法によって、シグナル発生分子で標識されてもよい。抗体を標識するための標識および方法、ならびに抗体とそれらの標的との結合を検出するための標識および方法は当技術分野において周知であり、本発明のために任意の標識および方法を使用することができる。さらに、CDCA5タンパク質を検出するための複数の試薬がキットに含まれてもよい。
【0168】
さらに、生物学的活性は、例えば、生物学的試料における発現されたCDCA5タンパク質による細胞増殖活性を測定することによって決定することができる。例えば、細胞を、患者に由来する生物学的試料の存在下で培養し、次いで、増殖速度を検出する、または細胞周期もしくはコロニー形成能力を測定することによって、生物学的試料の細胞増殖活性を決定することができる。必要に応じて、CDCA5 mRNAを検出する試薬が固体マトリックスに固定化されてもよい。さらに、CDCA5タンパク質の生物学的活性を検出するための複数の試薬がキットに含まれてもよい。
【0169】
キットは、上述の複数の試薬を含んでもよい。さらに、キットは、固体マトリクス、およびCDCA5遺伝子に対するプローブまたはCDCA5タンパク質に対する抗体を結合するための試薬、細胞を培養するための培地および容器、正の対照および負の対照の試薬、ならびにCDCA5タンパク質に対する抗体を検出するための二次抗体を含んでもよい。例えば、予後良好または予後不良の患者から得られた組織試料は、有用な対照試薬として役立ち得る。本発明のキットはさらに、緩衝液、希釈剤、フィルター、針、注射器、および使用説明書を含む添付文書(例えば、書面、テープ、CD−ROMなど)を含む、商業的視点および使用者視点から望まれる他の材料を含んでもよい。これらの試薬などが、標識を備える容器内に含まれ得る。適切な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。容器は、様々な材料、例えば、ガラスまたはプラスチックから形成され得る。
【0170】
本発明の一態様として、試薬がCDCA5 mRNAに対するプローブである場合、この試薬は少なくとも1つの検出部位を形成するために、多孔性ストリップなどの固体マトリックス上に固定化されてもよい。多孔性ストリップの測定領域または検出領域は、それぞれが核酸(プローブ)を含む複数の部位を含んでもよい。試験ストリップはまた、陰性対照および/または陽性対照の部位を含んでもよい。または対照部位は、試験ストリップとは離れたストリップに位置してもよい。任意で、異なる検出部位が異なる量の固定化核酸、すなわち、第1の検出部位には多量の核酸、後続の部位には少量の核酸を含んでもよい。試験試料が加えられると、検出可能なシグナルを示す部位の数から、試料に存在するCDCA5のmRNA量の定量的指標を提供することができる。検出部位は、任意の適切に検出可能な形状で構成されてもよく、典型的には、試験ストリップの幅にわたってバーまたはドットの形状である。
【0171】
本発明のキットは、陽性対照試料またはCDCA5標準試料をさらに含んでもよい。本発明の陽性対照試料は、CDCA5陽性血液試料を収集することによって調製されてもよく、次いで、これらのCDCA5レベルがアッセイされる。または、精製されたCDCA5タンパク質またはポリヌクレオチドを、CDCA5を含まない血清に加えて、陽性試料またはCDCA5標準を形成してもよい。本発明において、精製されたKDD1は組換えタンパク質でもよい。陽性対照試料のCDCA5レベルは、例えば、カットオフ値を超えるものである。
【実施例】
【0172】
材料および方法
細胞株および臨床試料
本研究に使用した23種類のヒト肺がん細胞株は、19種類のNSCLC(A427、A549、NCI−H1373、LC319、PC−14、PC−3、PC−9、NCI−H1666、NCI−H1781、NCI−H647、NCI−H226、NCI−H1703、NCI−H520、LU61、RERF−LC−AI、SK−MES−1、EBC−1、LX1、およびNCI−H2170)ならびに4種類の小細胞肺がん(SCLC:DMS114、DMS273、SBC−3、およびSBC−5)を含んだ。本研究に使用したヒト食道癌細胞株は以下の通りであった:9種類のSCC細胞株(TE1、TE2、TE3、TE4、TE5、TE6、TE8、TE9、およびTE10)および1種類の腺癌(ADC)細胞株(TE7)(Nishihira T et al. J Cancer Res Clin Oncol 1993; 119: 441-49)。細胞は全て、10%ウシ胎児血清(FCS)を添加した適切な培地において単層で増殖させ、5%COを含む加湿雰囲気中、37℃で維持した。本研究に使用した細胞パネルには、ヒト気道上皮細胞、SAEC(Cambrex Bio Science Inc., East Rutherford, NJ)も含めた。原発性NSCLCおよびESCC試料は、以前に他で報告されたように得られた。腫瘍は全て、UICC(International Union Against Cancer) (Sobin L, Wittekind C. Anonymous. New York: Wiley-Liss. 2002)のpTNM病理学的分類に基づいてステージ分類した。ホルマリン固定組織マイクロアレイにおける免疫染色のために、合計262例のNSCLC(156例の腺癌(ADC)、88例の扁平上皮癌(SCC)、2例の腺扁平上皮癌(ASC)、16例の大細胞癌(LCC);88人の女性患者および174人の男性患者;26〜84歳の範囲で年齢中央値65.0歳;111 pT1、125 pT2、26 pT3腫瘍サイズ;204 pN0、24 pN1、34 pN2結節状態)ならびに隣接する正常な肺組織試料もまた、北海道大学およびその関連病院(札幌、日本)で手術を受けた患者から入手した。本研究および言及した全ての臨床材料の使用は、個々の施設内倫理委員会による承認を受けた。
【0173】
半定量RT−PCR
それぞれの一本鎖cDNAの適切な希釈液を、臨床肺がんおよび臨床食道がんの試料のmRNAから調製し、定量対照としてβ−アクチン(ACTB)発現レベルを測定した。増幅用のプライマーセットは以下の通りであった:ACTBに対しては、 ACTB−F (5’−GAGGTGATAGCATTGCTTTCG−3’; SEQ ID NO: 23) および ACTB−R (5’−CAAGTCAGTGTACAGGTAAGC−3’; SEQ ID NO: 24)、CDCA5に対しては、CDCA5−F (5’−CGCCAGAGACTTGGAAATGT−3’; SEQ ID NO: 25) and CDCA5−R (5’−GTTTCTGTTTCTCGGGTGGT−3’; SEQ ID NO: 26)。全ての反応は、GeneAmp PCR system 9700(Applied Biosystems, Foster City, CA)での、95℃5分の初回変性とそれに続く、95℃30秒、56℃30秒、および72℃60秒での、22サイクル(ACTBの場合)または30サイクル(CDCA5の場合)を伴った。
【0174】
免疫細胞化学分析
COS−7細胞を、カバーガラス(Becton Dickinson Labware, Franklin Lakes, NJ)上で、c−Mycタグ付きCDCA5(pcDNA3.1/myc−His−CDCA5)で一過的にトランスフェクトした。48時間後に、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、次いで、室温で3分間、0.1%Triton X−100を含むPBS(−)を用いて透過性にした。非特異的結合をCasblock(ZYMED, San Francisco, CA)を用いて、10分間室温でブロックした。次いで、細胞を、3%BSAを含むPBSで希釈した一次抗体(ウサギポリクローナル抗c−Myc抗体, Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)と室温で60分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、細胞を、1:1,000に希釈したAlexa488結合抗ウサギ二次抗体(Molecular Probes)を用いて室温で60分間染色した。PBS(−)でもう1回洗浄した後、各標本を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールを含むVectashield(Vector Laboratories, Inc., Burlingame, CA)を用いてマウントし、Spectral Confocal Scanning Systems (TSC SP2 AOBS; Leica Microsystems, Wetzlar, Germany)を用いて視覚化した。
【0175】
ノザンブロット分析
ヒト多組織ブロット(心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸、結腸、白血球、胃、甲状腺、脊髄、リンパ節、気管、副腎、骨髄を含む、23種類の正常組織; BD Biosciences Clontech, Palo Alto, CA)を、CDCA5の32P標識PCR産物とハイブリダイズさせた。プライマー:CDCA5−F1 (GCTTGTAAAGTCCTCGGAAAGTT; SEQ ID NO: 27) および CDCA5−R1 (ATCTCAACTCTGCATCATCTGGT; SEQ ID NO: 28)を用いたRT−PCRによって、CDCA5の部分長cDNAを調製した。供給業者の推奨に従って、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄を実施した。増感スクリーンを用いて、−80℃で7日間、ブロットをオートラジオグラフ撮影した。
【0176】
抗CDCA5抗体
pET28ベクター(Novagen)およびプライマー:CDCA5−F3 (5’−CCGGAATTCATGTCTGGGAGGCGAACGCG−3’; SEQ ID NO: 36) および CDCA5−R3 (5’−CCGCTCGAGTTCAACCAGGAGATCAAACTGCTC−3’; SEQ ID NO: 37)を用いて、N末端にHisタグ付きエピトープを含む完全長CDCA5を発現するプラスミドを調製した。組換えタンパク質を大腸菌(Escherichia coli)のBL21コドンプラス株(Stratagene)において発現させ、供給業者のプロトコールに従ってNi−NTA(QIAGEN)を用いて精製した。タンパク質をウサギに接種し、免疫血清を標準的な方法論に従ってアフィニティカラムで精製した。アフィニティ精製した抗CDCA5抗体を、ウエスタンブロット法ならびに免疫細胞化学試験および免疫組織化学試験のために使用した。CDCA5発現ベクターでトランスフェクトした細胞株に由来する溶解物、およびCDCA5を内因的に発現する肺がん細胞株またはCDCA5を発現しない気道上皮細胞であるSAECに由来する溶解物を用いたウエスタンブロットによって、この抗体がCDCA5に特異的であることを確認した。
【0177】
ウエスタンブロット法
細胞を溶解緩衝液;50mM Tris−HCl (pH 8.0), 150 mM NaCl, 0.5% NP−40, 0.5%デオキシコール酸−Na, 0.1% SDS、およびプロテアーゼインヒビター(Protease Inhibitor Cocktail Set III;Calbiochem)中に溶解した。以前に記載されたように(Kato T, Daigo Y, Hayama S, et al. Cancer Res 2005;65:5638-46)、ECLウエスタンブロット解析システム(GE Healthcare Bio−sciences)を使用した。
【0178】
免疫細胞化学分析
培養細胞をPBS(−)で2回洗浄し、30分間37℃で4%パラホルムアルデヒド溶液を用いて固定し、次いで、3分間、0.1%TritonX−100を含むPBS(−)を用いて透過性にした。一次抗体反応の前に、非特異的抗体結合をブロックするために、細胞をブロッキング溶液[3%ウシ血清アルブミンを含むPBS(−)]で10分間カバーした。細胞を、ヒトCDCA5に対する抗体(組換えCDCA5に対して作製した;前記を参照されたい)とインキュベートした後、内因性CDCA5を検出するためにAlexa Fluor 488ヤギ抗ウサギ二次抗体(Molecular Probes)を加えた。核を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で染色した。抗体で染色した細胞を、レーザー共焦点顕微鏡(TSC SP2 AOBS: Leica Microsystems)で観察した。
【0179】
免疫組織化学および組織マイクロアレイ分析
臨床NSCLCにおけるCDCA5発現の意義を調べるために、組織切片を、ENVISION+キット/西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP;DakoCytomation)を用いて染色した。内因性ペルオキシダーゼおよびタンパク質をブロッキングした後、アフィニティ精製した抗CDCA5抗体を加え、それぞれの切片を、二次抗体としてHRP標識化抗ウサギIgGとインキュベートした。発色基質を加え、標本をヘマトキシリンで対比染色した。以前に公表されたように、ホルマリン固定NSCLCを用いて、腫瘍組織マイクロアレイを構築した(Callagy G, Cattaneo E, Daigo Y, et al. Diagn Mol Pathol 2003;12:27-34, Callagy G, Pharoah P, Chin SF, et al. J Pathol 2005;205:388-96, Chin SF, Daigo Y, Huang HE, et al. Molecular Pathology 2003;56:275-9)。サンプリングのための組織領域を、スライド上の対応するH&E染色切片と目視で位置合わせすることで選択した。ドナー腫瘍ブロックから採取された3つ、4つまたは5つの組織コア(直径0.6mm、高さ3〜4mm)を、組織マイクロアレイヤー(Beecher Instruments)を用いてレシピエントパラフィンブロックに入れた。それぞれの症例からの正常組織のコアに穴を開けた。得られたマイクロアレイブロックの5μm切片を免疫組織化学分析に使用した。CDCA5陽性は、臨床病理学的データの予備知識なしで、3人の独立した研究者らによって半定量的に評価された。それぞれの腫瘍組織コアの中の染色の強度はほぼ均一であったので、核および細胞質におけるCDCA5染色の強度は、陰性(腫瘍細胞に染色は認められない)または陽性(腫瘍細胞の核および細胞質に茶色の染色が認められる)と記録することによって評価した。3人の評価者が全員、独立に症例を陽性と規定した場合のみ、症例は陽性であるとして認められた。
【0180】
統計解析
統計解析をStat View統計プログラム(SAS)を用いて実施した。年齢、性別、および病理学的な腫瘍−リンパ節−転移(TNM)分類などの臨床病理学的変数と、組織マイクロアレイ分析によって決定されたCDCA5タンパク質陽性とを相関付けるのに分割表を用いた。腫瘍特異的な生存曲線を、手術日からNSCLC関連死の時点または最後の追跡調査観察まで算出した。カプラン−マイヤー曲線をそれぞれの関連変数およびCDCA5発現に関して算出し、患者サブグループ間の生存時間の差を、ログランク検定を用いて解析した。臨床病理学的変数とがん関連死亡率との関連性を決定するために、単変量解析をCox比例ハザード回帰モデルによって実施した。
【0181】
RNA干渉アッセイ
CDCA5配列を用いて、2種類のCDCA5 siRNAオリゴヌクレオチドを設計した。30μlのリポフェクタミン2000 (Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて製造業者のプロトコールに従って、siRNA(600pM)をNSCLC細胞株LC319およびA549にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を7日間培養した。細胞数および生存率は、ギムザ染色および3回の3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイ(cell−counting kit−8 solution; Dojindo Laboratories)によって測定した。使用したsiRNA配列は以下の通りであった:コントロール−1 (si−LUC: フォチヌスピラリス(Photinus pyralis)由来のルシフェラーゼ遺伝子), 5’−NNCGUACGCGGAAUACUUCGA−3’ (SEQ ID NO: 29); control−2 (CNT: ON−TARGETplus siCONTROL Non−targeting siRNAs pool of 5’−UGGUUUACAUGUCGACUAA−3’ (SEQ ID NO: 30); 5’−UGGUUUACAUGUUUUCUGA−3’ (SEQ ID NO: 31); 5’−UGGUUUACAUGUUUUCCUA−3’ (SEQ ID NO: 32); 5’−UGGUUUACAUGUUGUGUGA−3’ (SEQ ID NO: 33)); siRNA−CDCA5−#1 (si−CDCA5−#1: 5’−GCAGUUUGAUCUCCUGGUUU−3’ (SEQ ID NO: 34)); siRNA−CDCA5−#2 (si−CDCA5−#2: 5’−GCCAGAGACUUGGAAAUGUUU−3’(SEQ ID NO: 35))。このアッセイに使用した細胞株では、機能的siRNAによるCDCA5発現のダウンレギュレーションが確認されたが、対照では確認されなかった。
【0182】
細胞増殖アッセイ
FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、c−Myc/Hisタグ付きCDCA5発現ベクター(pcDNA3.1−c−Myc/His−CDCA5)またはモックベクター(pcDNA3.1−c−Myc/His)を、COS−7細胞またはNIH3T3細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を、0.4mg/mlネオマイシン(ジェネティシン, Invitrogen)を含む培地中でインキュベートした。7日後に、細胞生存率をMTTアッセイによって調べた。CDCA5を安定に発現するCOS−7細胞を樹立するために、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて、非タグ付きCDCA5発現ベクター(pCAGGSn−CDCA5)またはモックベクター(pCAGGSn)を、内因性CDCA5を弱く発現するCOS−7細胞にトランスフェクトした。トランスフェクト細胞を、0.4mg/mLネオマイシン(ジェネティシン, Invitrogen)を含む培地中で14日間インキュベートした。次いで、50個のコロニーをトリプシン処理し、限界希釈アッセイによって安定なトランスフェクタントについてスクリーニングした。RT−PCR、ウエスタンブロット法、および免疫細胞化学染色によって、各クローンにおいてCDCA5の発現を決定した。1日目、3日目、5日目、および7日目に、細胞生存率をMTTアッセイによって調べた。
【0183】
インビトロキナーゼアッセイ
完全長組換えGST−CDCA5(Precision Proteaseで切断したpGEX−6p−1/CDCA5)を用いて、インビトロキナーゼアッセイを行った。簡単に述べると、それぞれ1.0μgのGST−CDCA5、ヒストンH1(Upstate)、MBP、またはGSTを、1μCiの[γ−32P]−ATP(GE Healthcare)および2単位のCDC2(BioLabs)または50ngのERK2(Upstate)を添加したキナーゼ緩衝液(50mM Tris−HCl、10mM MgCl、1mM EGTA、2mM DTT、0.01% Briji 35、1mM ATP、pH7.5、25℃)20μl中で、30℃で20分間インキュベートした。Laemmli SDS試料緩衝液を最終体積30μlまで加えて反応を止め、試料の半分を5〜15%勾配ゲル(Bio−Rad Laboratories)に供し、リン酸化をオートラジオグラフィーで視覚化した。ERK基質としてMBPを使用し、CDC2基質(陽性対照)としてH1を使用した。GSTは陰性対照基質として役割を果たした。
【0184】
MALDI−TOF質量分析
CDCA5組換えタンパク質を、ERKキナーゼ(rhERK2)またはCDC2と37℃で3.5時間インキュベートした。試料をSDS−PAGEゲルで分離した。電気泳動後に、ゲルをR−250(Bio−Rad)で染色した。以前に述べられたように(Kato T et al. Clin Cancer Res 2008; 14:2363-70)、CDCA5に対応する特異的バンドをトリプシンで消化し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI−QIT−TOF; Shimadzu Biotech, Kyoto, Japan)による分析に使用した。一次配列データベースからタンパク質を特定するために、質量スペクトルデータを、Mascotサーチエンジン(http://www.matrixscience.com)を用いて調べた。培養細胞におけるCDCA5のインビボERK依存性リン酸化部位を決定するために、CDCA5発現ベクターおよびERK2発現ベクターの両方をトランスフェクトしたEGF処理HeLa細胞において外因的に発現させたCDCA5タンパク質を、抗CDCA5抗体を用いて免疫沈降した後に、コロイドCBB染色を行った。上述のようにMS分析のために、CDCA5に対応するバンドを切り出した。
【0185】
EGF刺激アッセイ
培養された子宮頚部扁平上皮癌HeLa細胞を、FCSを含まない培地中で20時間、培養した。次いで細胞を、10μM MEK阻害剤U0126(Promega)と共に、または10μM MEK阻害剤U0126(Promega)を伴わずに、50μg/ml EGFで20分間、刺激した。
【0186】
フローサイトメトリー分析
A549、LC319、およびHeLa細胞の細胞周期を、アフィディコリン(Sigma−Aldrich)処理によって16時間同調させ、PBS(−)で3回洗浄し、細胞周期停止を解除するために新鮮な培地を添加した。G1/Sを解除した後、14時間にわたって(1〜2時間ごとに)細胞を収集し、70%エタノールで固定し、次いで、使用前に4℃に保った。細胞を、100μg/ml RNase(Sigma−Aldrich)を含むPBS(−)を用いて37℃で30分間インキュベートし、50μg/mlヨウ化プロピジウム(Sigma−Aldrich)を用いて4℃で30分間染色した。各時点での細胞懸濁液をFACScan(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)で分析した。
【0187】
結果
肺がんおよび食道がんならびに正常組織におけるCDCA5の発現
分析された臨床肺がんおよび臨床食道がんの試料の40%超において、がん細胞における発現が正常対照細胞の3倍以上である転写物を検出するために、cDNAマイクロアレイ上にある27,648の遺伝子を以前にスクリーニングした。アップレギュレートしていた遺伝子の中で、CDCA5転写物を特定し、半定量RT−PCR実験によって、10件の代表的なNSCLC症例のうち9件、5件のSCLC症例のうち全て(図1A)、23種の肺がん細胞株のうち全てにおいて、CDCA5転写物が高発現していることが確かめられた。高レベルのCDCA5発現は肺がん細胞株の全てでも観察されたのに対して(図1B)、CDCA5転写物は、正常小気道上皮(SAEC)に由来する細胞および正常食道試料ではほとんど検出されなかった。さらに、内因性CDCA5タンパク質の強い発現は、抗CDCA5抗体を用いたウエスタンブロット分析によって肺がん細胞株および食道がん細胞株において確かめられた(図1C)。肺がんLC319細胞における内因性CDCA5の細胞内局在を調べるために免疫蛍光分析を行い、CDCA5は間期細胞の核に局在し、細胞質では弱いことが分かった(図1D)。プローブとしてCDCA5 cDNA断片を用いたノザンブロット分析によって、2.8kb転写物が精巣において高発現しているが、他の任意の正常組織ではほとんど検出できなかった(図2A)。さらに、抗CDCA5ポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学によって、5つの正常組織(心臓、肺、肝臓、腎臓、および精巣)におけるCDCA5タンパク質発現と、肺がんにおけるCDCA5タンパク質発現を比較した。CDCA5発現は、精巣細胞および肺がん細胞の核に豊富に、細胞質では弱く検出されたが、残りの4つの正常組織ではほとんど検出できなかった(図2B)。
【0188】
NSCLC患者のCDCA5発現と予後不良との関係
保存されていたNSCLCから調製した組織マイクロアレイを用いて、抗CDCA5ポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学分析を行った。CDCA5発現パターンは陰性または陽性と分類した(図2C)。検査した262件のNSCLC症例のうち、192件(73.3%)の症例において陽性染色、70件(26.7%)の症例または隣接する任意の非がん細胞において陰性染色であることが判明した(表1A)。根治治療を受けたNSCLC患者のCDCA5発現と様々な臨床病理学的パラメータとが関連し、NSCLCのCDCA5陽性と腫瘍特異的な悪い生存率との間には有意な関係があることが分かった(ログランク検定によりP=0.0143;図2D)。患者予後と、年齢、性別、組織学的タイプ(ADC対非ADC)、pT分類(腫瘍サイズ;T1対T2+T3)、pN分類(結節状態;N0対N1+N2)およびCDCA5の状態(陰性発現対陽性発現)を含むいくつかの要因との関係を調べるために、単変量解析も適用した。これらのパラメータは全て予後不良と有意な関係があった(表1B)。多変量解析では、CDCA5の状態は、本試験に登録された手術を受けた肺がん患者の独立した予後因子であるが(P=0.0237)、pTおよびpN分類ならびに年齢は予後因子でないことが示された。
【0189】
(表1A)NSCLC組織におけるCDCA5陽性と患者の特徴との関係(n=322)

ADC、腺癌
非ADC、扁平上皮癌+大細胞癌および腺扁平上皮癌
P<0.05(χ検定)

(表1B)NSCLC患者における予後因子のCox比例ハザードモデル解析

ADC、腺癌
非ADC、扁平上皮癌+大細胞癌および腺扁平上皮癌
*P<0.05
【0190】
CDCA5の増殖促進活性
高レベルのCDCA5発現を示す肺がん細胞株A549およびLC319において、内因性CDCA5の発現をsiRNAによってノックダウンした。CDCA5のmRNAおよびタンパク質発現レベルを調べた。2種類のCDCA5特異的siRNA(si−CDCA5−#1およびsi−CDCA5−#2)は、対照siRNA構築物(si−LUCおよびsi−CNT;図3A)と比較して、CDCA5 mRNAおよびタンパク質の発現を有意に抑制することが判明した。コロニー形成アッセイおよびMTTアッセイから、2種類のsi−CDCA5によりCDCA5発現が低下すると、CDCA5発現に対するノックダウン効果によって、A549細胞およびLC319細胞の両方の増殖が有意に抑制されたことが明らかになった(図3Bおよび3C)。次に、細胞増殖促進効果におけるCDCA5の可能性のある役割を調べた。非タグ付き完全長CDCA5を発現するように設計されたプラスミド(pcDNA3.1−CDCA5)またはモックプラスミドを調製し、COS−7細胞またはNIH3T3細胞にトランスフェクトし、外因性CDCA5を過剰発現する2種類のCOS−7細胞株(COS−7−CDCA5−#Aおよび−#B)ならびに2種類の対照細胞(COS−7−モック−#Aおよび−#B)を樹立した。次いで、これらのCOS−7由来トランスフェクタントのMTTアッセイを行い、COS−7−CDCA5細胞の増殖と対照COS−7−モック細胞の増殖を比較した。CDCA5 cDNAをCOS−7またはNIH3T3細胞にトランスフェクトすることによって、モックベクターのトランスフェクタントと比較して細胞増殖が有意に増強した。ウエスタンブロット分析によって検出されたCDCA5発現レベルによれば、2種類のCOS−7−CDCA5細胞の増殖は有意な程度に促進された(図3D)。
【0191】
インビトロでのERKおよびCDC2プロテインキナーゼによるCDCA5リン酸化
インシリコアプローチによって、癌化MAPK経路の重要な下流成分の1つである、ERKキナーゼによるCDCA5タンパク質のいくつかのコンセンサスリン酸化部位[x−x−S/T−P]が示唆されたので、発がんにおけるCDCA5の機能を分析するために、CDCA5タンパク質の可能性のあるリン酸化に焦点を当てた。プロテオームリン酸化ペプチドスクリーニングを用いた以前の報告によれば、CDCA5は、セリン−75、セリン−79、およびスレオニン−115がリン酸化されると推定された(Olsen Jv et al. Cell 2006; 127(3):635-648)。CDCA5リン酸化に関する同族のキナーゼを特定するために、可能性のあるリン酸化部位を有する、セリン−75、セリン−79、およびスレオニン−115を含むCDCA5のペプチド配列を比較した。CDCA5のセリン−75はコンセンサスCDC2プロテインキナーゼリン酸化部位[S/T−P−x−R/K]と完全にマッチしたのに対して、セリン−79およびスレオニン−115はERKリン酸化部位[x−x−S/T−P]と良く一致することが判明した。これらのコンセンサス配列は多くの種において高度に保存されている。続いて、組換えrhERK2とrhCDCA5をインキュベートすることによって、インビトロキナーゼアッセイを行った。CDCA5は両ERKキナーゼによって直接リン酸化されることが分かった(図4A)。この結果から、CDCA5はERK経路に関与し得ることが示唆された。
【0192】
ERKによるCDCA5の直接的なリン酸化部位を決定するために、インビトロキナーゼアッセイとそれに続いて質量分析を行った。キナーゼアッセイとその後のSDS−PAGEによるタンパク質分離の後に、rhERK2とインキュベートしたrhCDCA5タンパク質またはrhERK2とインキュベートしなかったrhCDCA5タンパク質に対応する3つのバンドをトリプシンで消化し、MALDI−QIT−TOF MS分析を行った(図4B)。
【0193】
インビボでのERK依存性CDCA5リン酸化の特定
哺乳動物細胞において内因性CDCA5がERKによってリン酸化されることを証明するために、MEK阻害剤U0126の存在下または非存在下で、血清を欠乏させたHeLa細胞をEGFで刺激した。抗ERK抗体を用いたウエスタンブロット法によって、上方へシフトしたバンドが検出され、EGF刺激の15分後および30分後に、ERKは著しく活性化されたが、60分でレベルは減少することが分かった(図5A、左パネル)。高レベルのERKリン酸化に従って、抗CDCA5抗体により検出されるCDCA5バンドは高分子量側にシフトした。対照的に、細胞をEGFおよびMEK阻害剤U0126で処理すると、ERKリン酸化レベルは低下し、ERKリン酸化レベルは低下し、上方へのCDCA5バンドシフトは完全に阻害された(図5A、右パネル)。これらの結果から、ERK経路による内因性CDCA5タンパク質リン酸化の可能性があることが証明された。培養細胞におけるMAPキナーゼ経路依存性のCDCA5リン酸化を確かめ、リン酸化部位を特定するために、mycタグ付きCDCA5を発現するように設計されたプラスミドをトランスフェクトしたHeLa細胞を、MEK阻害剤U0126の存在下または非存在下で、EGFで刺激した。これらの細胞抽出物を、抗myc抗体を用いた2D−ウエスタンブロット法に用いた。EGFおよびU0126で処理しなかったHeLa細胞では、2個のスポットが検出された(スポット番号1および2)。しかしながら、EGF処理によって、スポットの1つ(スポット番号2)のシグナルがかなり大幅に増加したのに対して、さらに酸性側のpI値を有する2つの新たなスポットシグナル(スポット番号3および4)が誘導された。酸性側のpIを有する、これらのシフトしたスポットは、細胞とMEK阻害剤U0126とのプレインキュベーションによって大幅に減少した。さらに、EGF刺激によって増加したスポット番号2のシグナルもU0126処理によって減少した。これらの結果は、EGFリガンド刺激に応答してMAPKカスケードによってCDCA5が特異的にリン酸化されたことを示唆している。
【0194】
インビボでのERK依存性CDCA5リン酸化の特定
ERKキナーゼおよび基質としてCDCA5を用いたインビトロキナーゼアッセイに従って、リン酸化CDCA5をバンドシフトとして検出した。さらに、EGF刺激条件下でのHeLa細胞において内因性CDCA5がバンドシフトとして検出された(図5A)。培養細胞における非タグ付きCDCA5のリン酸化状態を決定するために、外因性CDCA5発現ベクターをトランスフェクトしたHeLa細胞をEGFで刺激した。ERK2のバンドシフトによって、細胞内で内因性ERKが活性化されたことが分かった。だが、リン酸化CDCA5タンパク質はバンドシフトとして検出されなかった(図5B)。培養細胞におけるERK依存性リン酸化部位を特定するために、抗CDCA5抗体を用いた免疫沈降アッセイを行って、EGF未処理細胞溶解物から非タグ付きCDCA5タンパク質を免疫沈降した。全試料においてSer21のみが確認された。これらの結果から、がん細胞における内因性ERKが、外因性CDCA5タンパク質の過剰発現を刺激するのに十分でない可能性があることが分かった。続いて、外因性ERK1または2をHeLa細胞にトランスフェクトした。細胞をEGFで刺激した後に、EGF刺激細胞において外因性ERK1または2ならびに内因性ERKの活性化が検出されたが、U0126 MEK阻害剤処理では検出されなかった。ERK活性化によって、リン酸化された外因性CDCA5がバンドシフトとして検出することができた(図6A)。これらの結果から、CDCA5はHeLa細胞において過剰発現ERKによってリン酸化されることが分かった。CDCA5のERK依存性リン酸化部位を決定するために、この非タグ付きCDCA5タンパク質を、抗CDCA5抗体を用いて免疫沈降した後に、コロイドCBB染色を行った。EGF未処理、またはEGF刺激、あるいはEGFとMEK阻害剤U0126との刺激の条件下で、細胞を調製した。4800 plus MALDI−TOF−TOF分析器を用いたMS分析のために、CDCA5に対応するバンドを切り出した(図6B)。MS分析によって、未処理、EGF刺激、およびEGFとMEK阻害剤との刺激それぞれにおいて、CDCA5配列の70%、77%、および66%がカバーされたことが分かった。2つのERK依存性リン酸化部位Ser79およびSer209を特定した。ホスホ−Ser21は全試料において見出され、このことから、ERK依存性リン酸化部位でないことが分かった(図6C−6E)。MS分析の結果を確かめるために、Ser79および/またはSer209残基をアラニンで置換した非タグ付きCDCA5ベクターでトランスフェクトした細胞を用いて、ウエスタンブロット分析を行った。未処理条件下またはEGF刺激条件下で、ERK2発現ベクターを、野生型および変異体CDCA5を発現するベクターと共にコトランスフェクトした。ウエスタンブロット法に示したように、ERK2バンドシフトから、EGF刺激によってERKが活性化されたことが分かった。野生型CDCA5はEGF刺激後にバンドシフトとして検出された。CDCA5−S79AおよびCDCA5−S209Aの上方へシフトしたバンドのレベルは野生型CDCA5と比較して弱かったが、二重変異体CDCA5のシフトバンドは検出されなかった(図6F)。これらの結果から、Ser79およびSer209は細胞内でERKによってリン酸化され得ることが分かった。
【0195】
現在までに、MARK経路が発がんを促進することを報告する多くの証拠がある。さらに、これらのデータから、CDCA5は、肺または食道における発がんの原因の1つであるがん精巣抗原として特徴付けられることが示唆された。CDCA5のERK依存性リン酸化部位の機能ががん進行において重要な役割を果たし得るかどうか調べるために、がん細胞増殖に対するこれらのリン酸化部位のドミナントネガティブ効果を調べた。CDCA5−Ser79またはSer209のアラニン置換体を用いて、増殖アッセイを行った。MTTアッセイから、Ser209アラニン置換体をトランスフェクトすると、肺がん細胞株A549およびLC319肺がん細胞株の増殖が阻害されることが示された。これは、これらの細胞株に対してSer209アラニン置換体がドミナントネガティブ効果を示したことを示唆しているのかもしれない(図7A)。細胞増殖に対する、これらのリン酸化部位の効果を確かめるために、Ser残基をアスパラギン酸またはグルタミン酸で置換した、Ser79またはSer209リン酸化模倣構築物を、LC319肺がん細胞株において発現させた。MTTアッセイから、Ser209リン酸化模倣ベクターでトランスフェクトした細胞だけがLC319細胞およびA549細胞の増殖を有意に促進できることが分かった(図7B)。この結果は、CDCA5のSer209リン酸化ががん細胞増殖に重要な役割を果たしていることを強く示唆しうる。
【0196】
考察
分子標的化薬は、詳細に明らかにされた作用機構のために、悪性細胞に対する特異性が高く、副作用がほとんどないと期待されている。モデル手術法および補助的な化学放射線療法が改良されているにもかかわらず、肺がんおよびESCCは、悪性腫瘍の中でも最も不良な予後を示すことが知られている。従って、今日では、これらのがんの早期検出および個々の患者に対する補助的な治療様式のより良い選択のための新規の診断バイオマーカー、ならびに新たなタイプの抗がん剤および/またはがんワクチンを開発することが急務となっている。適当な診断標的分子および治療標的分子を特定するために、全ゲノム発現分析を組み合わせた(Kikuchi T et al. Oncogene 2003;22:2192-2205, Kakiuchi S et al. Mol Cancer Res 2003;1:485-499, Kakiuchi S et al. Hum Mol Genet 2004;13:3029-3043, Kikuchi T et al. Int J Oncol 2006;28:799-805, Taniwaki M et al. Int J Oncol 2006;29:567-75, Yamabuki T et al. Int J Oncol 2006;28:1375-84) for selecting genes that were overexpressed in lung and esophageal cancer cells by high-throughput screening of loss-of-function effects by means of the RNAi technique (Suzuki C et al. Cancer Res 2003; 63:7038-7041, Ishikawa N et al. Clin Cancer Res 2004; 10:8363-8370, Kato T et al. Cancer Res. 2005; 65:5638-46, Furukawa C et al. Cancer Res. 2005; 65(16):7102-10, Ishikawa N et al. Cancer Res. 2005; 65(20):9176-84, Suzuki C et al. Cancer Res. 2005; 65:11314-25, Ishikawa N et al. Cancer Sci 2006; 97:737-45, Takahashi K et al. Cancer Res 2006; 66:9408-19, Hayama S et al. Cancer Res 2006; 66:10339-48, Kato T et al. Clin Cancer Res 2007; 13:434-42, Suzuki C et al. Mol Cancer Ther 2007; 6:542-551, Yamabuki T et al. Cancer Res 2007; 67:2517-25, Hayama S et al. Cancer Res 2007; 67:4113-22, Kato T et al. Cancer Res 2007; 67:8544-53, Taniwaki M et al. Clin Cancer Res 2007; 13:6624-31, Ishikawa N, et al. Cancer Res 2007; 67:11601-11, Mano Y et al. Cancer Sci 2007; 98:1902-13, Suda T et al. Cancer Sci 2007; 98: 1803-8, Mizukami Y et al. Cancer Sci 2008; 99:1448-54)。この系統的なアプローチを用いて、CDCA5は、臨床肺がんおよび臨床ESCCの試料において頻繁に過剰発現していることが見出され、この遺伝子産物の過剰発現は肺がん細胞の増殖において必須の役割を果たすことが示された。
【0197】
これまでの研究によって、CDCA5はクロマチン上のcohesionと相互作用し、間期に姉妹染色分体接着を支持するように機能することが証明されている。姉妹染色分体は通常、ほとんどのG2細胞でさらに分離し、このことはS期において既に、接着の樹立にCDCA5が必要であるというという可能性を示唆している(Schmitz J et al. Curr Biol 2007; 17: 630-636)。今までのところ、接着の樹立に特に必要となる他のタンパク質が1つだけ知られている:出芽酵母アセチルトランスフェラーゼEco1/Ctf7(Skibbens RV et al. Genes Dev 1999; 13:307-319, Toth A et al. Gene Dev 1999; 13:320-333, Ivanov D et al. Curr. Biol 2002; 12:323-328)。また、ショウジョウバエおよびヒトの細胞における接着にも、この酵素のホモログが必要となるが(Williams BC et al. Curr. Biol 2003; 13: 2025-2036, Hou FおよびZou H. Mol Biol Cell 2005; 16:3908-3918)、これらのタンパク質がS期でも機能するか否かは未だ分かっていない。したがって、CDCA5およびEco1/Ctf7ホモログが協働してがん細胞での接着を樹立するかどうかに取り組むのは興味深いであろう。
【0198】
正確な染色体分離を効果的に行うために、姉妹染色分体の接着は細胞周期の適切な時点で樹立され、かつ解体されなければならない。APCCdc20の活性化が、分解に関して、後期阻害剤のセキュリンを標的とすることによって接着の崩壊を制御することがこれまでに示されてきた。これにより、Scc1/Rad21のセパラーゼ依存性の切断が可能になり、後期が誘発される。APCのほとんどの細胞周期基質の分解は、これらの機能の点で論理的である。分解することによって、活性が時期を逸して現われるのを防ぎ、細胞周期の進行が段階的に促進される。CDCA5の機能はまた、接着を調節する他の因子の機能と重複している場合があり、それらの活性が組み合わされることで染色体は確実に複製および分離する(Rankin S et al. Mol. Cell 2005;18:185-200)。本発明者らのマイクロアレイデータによると、APCおよびCDC20は肺がんおよび食道がんでも高発現するが、正常組織でのこれらの発現は低い。さらにCDC20は、半定量RT−PCRおよび免疫組織化学分析を用いて、臨床小細胞肺がんでの発現が高いことも確認された(Taniwaki M et al. Int J Oncol 2006; 29:567-75)。これらのデータは、CDCA5がCDC20と共に、細胞周期の進行を促進することによってがん細胞の増殖を増強し得ることを暗示しているが、これらの分子がCDCA5と直接相互作用し得ることを示す証拠はない。
【0199】
CDCA5はこれまでに、間期では核に、有糸分裂中には細胞質に位置することが報告された(Rankin S et al. Mol. Cell 2005; 18:185-200)。しかしながら、その生理学的機能は依然として明らかになっていない。CDCA5が核に局在していることが確認された。核は遺伝物質を含有し、その主な機能は、遺伝子の完全性を維持し、遺伝子発現を調節することである。核は、細胞の要求に応じて変化する動的構造体である。核の機能を制御するために、核を出入りするプロセスは調節されている。核内でのCDCA5の局在化は、この分子が細胞周期を制御するのに必須の因子として役割を果たし得ることを示している(Kho CJ, et al. Cell Growth Differ 1996; 7:1157-1166, Bader N, et al. Exp Gerontol 2007 [電子版])。CDCA5は、クロマチン上のcohesionと相互作用することによって細胞周期制御に重要な役割を果たすことが知られているが(Schmitz J, Watrin E, Lenart P, et al. Curr Biol 2007;17:630-636)、CDCA5が発がん過程とどのような関連性があるのかを証明した研究はない。CDCA5は、肺がん細胞において異常発現する推定がん遺伝子であることが確かめられた。組織マイクロアレイ分析によって、CDCA5タンパク質の高発現を示すNSCLC患者の腫瘍特異的な生存期間が短いことが見出された。このことは、CDCA5が肺がん進行に重要な役割を果たしていることを強く示している。
【0200】
本発明者らのデータからまた、CDCA5が、コンセンサスERKリン酸化部位として多くの種において高度に保存されている配列を有する、2個のリン酸化部位、セリン−79およびセリン−209においてERKによってリン酸化される可能性が高く(データ示さず)、ERKによるセリン−209のリン酸化が細胞増殖に重要であるように思われることも示唆された。ERKは、複数の生化学シグナルの統合点として機能し、かつ様々な細胞過程、例えば、増殖、分化、転写調節、および発生に関与するMAPキナーゼファミリータンパク質のメンバーである(Roux PP and Blenis J. Microbiol. Mol Biol Rev 2004;68:320-44, Chang L and Karin M. Nature 2001;410:37-40, Ferrell JE Jr. Trends Biochem Sci 1996;21:460-6)。MAPKカスケードの異常調節が発がんに寄与することは周知であった(Cowley S, Paterson H, Kemp P, Marshall CJ. Cell 1994;77:841-52, Mansour SJ, Matten WT, Hermann AS, et al. Science 1994;265:966-70)。Raf−MEK−ERK経路は、Ras低分子GTPアーゼの重要な下流エフェクターであり、Ras低分子GTPアーゼは、EGFRの重要な下流エフェクターである(Roux PP and Blenis J. Microbiol. Mol Biol Rev 2004;68:320-44, Chang L and Karin M. Nature 2001;410:37-40, Ferrell JE Jr. Trends Biochem Sci 1996;21:460-6)。従って、EGFR−Ras−Raf−MEK−ERKシグナル伝達ネットワークは、新たな抗がん薬の発見につながる苛烈な研究調査の主題であった。現在、ゲルダナマイシン類似体17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−AAG)のようなRaf−MEK−ERKカスケード阻害剤が臨床試験において評価されている(Smith RA, Dumas J, Adnane L, Wilhelm SM. Curr Top Med Chem 2006;6:1071-89)。さらに、低分子MEK阻害剤であるRas阻害剤が開発されている(English JM and Cobb MH. Trends Pharmacol Sci 2002;23:40-5)。これらの薬物は前臨床研究および/またはがん患者の特定の割合において有効であることが分かっているが、臨床応答は、標的タンパク質の活性化レベルと正確に相関する可能性は低かった。さらに、一部の症例では、非特異的な細胞傷害性による重篤な有害反応が報告された。従って、未知の下流癌化シグナルの解明に基づいてこの経路を特異的に標的化することは、有望なアプローチの1つであるかもしれない。
【0201】
ERK依存性リン酸化残基であるセリン−209をアラニンで置換した変異体CDCA5タンパク質によるドミナントネガティブ効果によって、CDCA5を過剰発現する肺がん細胞の増殖を有効に抑制できることが証明された。この部位におけるCDCA5のリン酸化は肺がん細胞の増殖/生存に必須である可能性が高く、CDCA5はがん精巣抗原に属する可能性があるので、CDCA5−ERK酵素活性の選択的標的化、ならびにがんワクチンなどのがん免疫療法は、がんに対して強力な生物学的活性を有し、有害事象のリスクがほとんど無いと期待される有望な治療方針であり得る。
【0202】
要約すると、CDCA5は、MAPK経路によってセリン−209がリン酸化されることによって肺における発がんに重大な役割を果たしている可能性が高い。CDCA5発現ならびにCDCA5とERKキナーゼとの機能的相互作用の阻害は、新たなタイプの抗がん薬を開発するための有望な治療方針であり得る。
【0203】
産業上の利用可能性
本明細書中で証明されたように、ERKはCDCA5に対してキナーゼ活性を有し、この活性を抑制すると、がん細胞の細胞増殖が阻害される。従って、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を阻害する薬剤は、肺がんまたは食道がんを治療するための抗がん剤として治療に有用である。ERKによるCDCA5のリン酸化部位は、例えば、Ser79またはSer209である。
【0204】
さらに本発明は、CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を阻害する抗がん剤のスクリーニング方法を提供する。従って、細胞増殖の重要な段階を阻害する候補化合物が本発明によって単離され得ることが期待される。
【0205】
さらに本発明は、CDCA5変異体、例えばCDCA5(S209A)によってがん細胞を処理すると、CDCA5のSer209に対するERKのキナーゼ活性が抑制され、従ってがん細胞の増殖が抑制されることを証明する。このデータは、ERK機能のアップレギュレーションおよびCDCA5に対するERKのキナーゼ活性の増強が肺における発がんの共通する特徴であることを意味する。従って、ERKキナーゼ活性の選択的な抑制は、肺がん患者および食道がん患者を治療するための有望な治療方針であり得る。
【0206】
本明細書中で引用した特許、特許出願、および出版物は全て、その全体が参照により組み入れられる。しかしながら、本明細書中のいかなるものも、先行発明のため、本発明がそのような開示に先行している資格を有しないことの承認として解釈されるべきではない。
【0207】
本発明をその特定の態様に関して詳細に説明してきたが、上記の説明は事実上、例示的かつ説明的なものであって、本発明およびその好ましい態様を説明することを意図していることが理解されるはずである。当業者は、日常的な実験を通して、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更および修正がなされ得ることを容易に理解するであろう。さらなる利点および特徴は添付の特許請求の範囲から明らかになると考えられ、このような特許請求の範囲は、当業者によって理解されるように、それらの妥当な均等物によって決定される。従って、本発明は上記の説明によって規定されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって規定されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDCA5ポリペプチドに対するERKポリペプチドのキナーゼ活性を測定する方法であって、以下の工程を含む、方法:
a.ERKポリペプチドによるCDCA5ポリペプチドリン酸化に適した条件下で、ERKポリペプチドまたはその機能的等価物と、CDCA5ポリペプチドまたはその機能的等価物とをインキュベートする工程であって、
ERKポリペプチドの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択され、
CDCA5ポリペプチドの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド、および
iii.SEQ ID NO:4のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択される、工程;
b.SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79または209におけるCDCA5ポリペプチドのリン酸化を検出して、CDCA5ポリペプチドのリン酸化レベルを決定する工程;ならびに
c.工程(b)において決定されたCDCA5ポリペプチドのリン酸化レベルと相関させることにより、測定されたERKポリペプチドのキナーゼ活性を決定する工程。
【請求項2】
CDCA5ポリペプチドに対するERKポリペプチドのキナーゼ活性を調節する薬剤を特定する方法、あるいは肺がんまたは食道がんを治療または予防するための薬剤をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含む、方法:
a.ERKポリペプチドによるCDCA5ポリペプチドのリン酸化に適した条件下で、試験化合物の存在下で、ERKポリペプチドまたはその機能的等価物とCDCA5ポリペプチドまたはその機能的等価物とをインキュベートする工程であって、
ERKポリペプチドの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択され、
CDCA5ポリペプチドの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド、および
iii.SEQ ID NO:4のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択される、工程;
b.SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79または209におけるCDCA5ポリペプチドのリン酸化を検出して、CDCA5ポリペプチドのリン酸化レベルを決定する工程;
c.工程(b)において決定された該レベルと、試験薬剤の非存在下で決定された該レベルとを比較する工程;ならびに
d.工程(c)において試験薬剤の非存在下で決定された該レベルと比較して、CDCA5ポリペプチドのリン酸化レベルを低下させた試験薬剤を選択する工程。
【請求項3】
CDCA5ポリペプチドに対するERKポリペプチドのキナーゼ活性を調節する薬剤を特定する方法、あるいは肺がんまたは食道がんを治療または予防するための薬剤をスクリーニングする方法であって、以下の工程を含む、方法:
a.EGFの存在下で、試験薬剤と、CDCA5ポリペプチドまたはその機能的等価物をコードするポリヌクレオチドおよびERKポリペプチドまたはその機能的等価物をコードするポリヌクレオチドを発現する細胞であって、
CDCA5ポリペプチドの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド、および
iii.SEQ ID NO:4のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択され、
ERKポリペプチドの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択される、細胞とを接触させる工程;
b.SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79または209におけるCDCA5ポリペプチドのリン酸化を検出し、CDCA5ポリペプチドのリン酸化レベルを決定する工程;
c.工程(b)において検出された該レベルと、試験薬剤の非存在下で決定された該レベルとを比較する工程;ならびに
d.工程(c)において試験薬剤の非存在下で決定された該レベルと比較して、CDCA5ポリペプチドのリン酸化レベルを低下させた試験薬剤を選択する工程。
【請求項4】
CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を調節する薬剤を特定するためのキットであって、以下の構成要素を含む、キット:
a.CDCA5ポリペプチドまたはその機能的等価物であって、
CDCA5ポリペプチドの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド、および
iii.SEQ ID NO:4のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択される、CDCA5ポリペプチドまたはその機能的等価物;
b.ERKポリペプチドまたはその機能的等価物であって、ERKポリペプチドの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド、
からなる群より選択される、ERKポリペプチドまたはその機能的等価物;
c.SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79または209におけるCDCA5のリン酸化を検出するための試薬;ならびに
d.ATPおよびキナーゼ緩衝液。
【請求項5】
CDCA5に対するERKのキナーゼ活性を調節する薬剤を特定するためのキットであって、以下の構成要素を含む、キット:
a.CDCA5ポリペプチドまたはその機能的等価物をコードするポリヌクレオチド、およびERKポリペプチドまたはその機能的等価物をコードするポリヌクレオチドを発現する細胞であって、
CDCA5ポリペプチドの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド、および
iii.SEQ ID NO:4のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドが、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド、
からなる群より選択され、
ERKポリペプチドの機能的等価物が以下:
i.SEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
ii.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、但し、結果として得られるポリペプチドがSEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価なキナーゼ活性を有する、ポリペプチド
からなる群より選択される、細胞;
b.EGF、ならびに
c.SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79または209におけるCDCA5ポリペプチドのリン酸化を検出するための試薬。
【請求項6】
試薬が、SEQ ID NO:5のアミノ酸残基セリン79または209におけるCDCA5ポリペプチドのリン酸化を認識する抗体である、請求項4または5記載のキット。
【請求項7】
以下からなる群より選択される、実質的に純粋なポリペプチド:
a.SEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
b.1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド、ならびに
c.SEQ ID NO:6のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、SEQ ID NO:7のいずれか一つのアミノ酸配列からなるポリペプチドと等価な生物学的活性を有する、ポリペプチド。
【請求項8】
請求項7記載のポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項10】
請求項8記載のポリヌクレオチドまたは請求項9記載のベクターを有する、宿主細胞。
【請求項11】
対象における肺がんまたは食道がんの、治療および予防のいずれかまたは両方のための方法であって、以下の工程を含む方法:
ドミナントネガティブ効果を有するCDCA5ポリペプチド変異体、該変異体をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターを投与する工程。
【請求項12】
CDCA5ポリペプチドにおける少なくとも1つのERK依存性リン酸化部位が野生型アミノ酸残基以外のアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列を、CDCA5ポリペプチド変異体が含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
ERK依存性リン酸化部位がSer−79およびSer−209のいずれか、または両方である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
CDCA5ポリペプチド変異体がSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
CDCA5ポリペプチド変異体が一般式:[R]−[D]を有し、式中、[R]が膜導入剤であり、[D]がSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
膜導入剤が、
ポリ−アルギニン;
Tat/RKKRRQRRR/SEQ ID NO: 8;
ペネトラチン/RQIKIWFQNRRMKWKK/SEQ ID NO: 9;
ブフォリンII/TRSSRAGLQFPVGRVHRLLRK/SEQ ID NO: 10;
トランスポータン/GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL/SEQ ID NO: 11;
MAP(モデル両親媒性ペプチド)/KLALKLALKALKAALKLA/SEQ ID NO: 12;
K−FGF/AAVALLPAVLLALLAP/SEQ ID NO: 13;
Ku70/VPMLK/SEQ ID NO: 14;
Ku70/PMLKE/SEQ ID NO: 15;
プリオン/MANLGYWLLALFVTMWTDVGLCKKRPKP/SEQ ID NO: 16;
pVEC/LLIILRRRIRKQAHAHSK/SEQ ID NO: 17;
Pep−1/KETWWETWWTEWSQPKKKRKV/SEQ ID NO: 18;
SynB1/RGGRLSYSRRRFSTSTGR/SEQ ID NO: 19;
Pep−7/SDLWEMMMVSLACQY/SEQ ID NO: 20; および
HN−1/TSPLNIHNGQKL/SEQ ID NO: 21
からなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
肺がんまたは食道がんの、治療および予防のいずれかまたは両方のための組成物であって、活性成分として薬学的有効量の、ドミナントネガティブ効果を有するCDCA5ポリペプチド変異体、該変異体をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクター、および薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【請求項18】
肺がんを有する患者の予後を評価または決定するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)患者に由来する生物学的試料におけるCDCA5遺伝子の発現レベルを検出する工程;
(b)検出された発現レベルと対照レベルとを比較する工程;および
(c)(b)の比較に基づいて患者の予後を決定する工程。
【請求項19】
対照レベルが予後良好対照レベルであり、かつ対照レベルと比較した発現レベルの上昇が予後不良と決定される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
上昇が、対照レベルより少なくとも10%高い、請求項18記載の方法。
【請求項21】
発現レベルが、以下:
(a)CDCA5のmRNAを検出する方法、
(b)CDCA5タンパク質を検出する方法、および
(c)CDCA5タンパク質の生物学的活性を検出する方法
からなる群より選択されるいずれか一つの方法によって決定される、請求項18記載の方法。
【請求項22】
患者に由来する生物学的試料が、生検材料、痰もしくは血液、胸水、または尿を含む、請求項18記載の方法。
【請求項23】
(a)CDCA5遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b)該遺伝子によってコードされるタンパク質を検出するための試薬;および
(c)該タンパク質の生物学的活性を検出するための試薬
からなる群より選択される試薬を含む、肺がんを診断するためのキット、または肺がんを有する患者の予後を評価もしくは決定するためのキット。
【請求項24】
試薬が、該遺伝子の遺伝子転写物に対するプローブである、請求項23記載のキット。
【請求項25】
試薬が、該遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体である、請求項23記載のキット。

【図1A−B】
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【図1C−D】
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【図2A−B】
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【図2C−D】
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【図3A−B】
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【図3C−D】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2012−506236(P2012−506236A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517681(P2011−517681)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【国際出願番号】PCT/JP2009/004054
【国際公開番号】WO2010/047028
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】