説明

抗腫瘍活性を上昇させるための化学療法薬物の組み合わせ

オキシアルキレン含有ヒストンデアセチラーゼインヒビターは、細胞および哺乳動物における抗腫瘍活性を上昇させるために、他の抗腫瘍剤と順次併用使用される。本発明のヒストンデアセチラーゼ(HDAC)インヒビターの抗腫瘍活性を上昇させる方法は、化学療法有効量のオキシアルキレン含有HDACインヒビターを誘導期間に哺乳動物細胞または宿主細胞へ投与し、その後、チューブリン相互作用剤、DNA相互作用剤、DNAアルキル化剤および白金錯体からなるクラス内のメンバーの化学療法的有効量を、該哺乳動物細胞または宿主細胞へ順次投与する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(1.発明の分野)
本発明は、化学療法剤と併用して用いられる生物学的に活性な薬剤である酪酸ピバロイルオキシメチル(これは、PIVANEXとして商業的に公知である)、これを含む薬学的組成物、および哺乳動物を処置するための方法に関する。本発明では、オキシアルキレン含有化合物と化学療法剤とを併用すると、多数の多様な癌細胞に対する抗腫瘍活性が上昇することを示す。
【背景技術】
【0002】
(2.関連分野の説明)
酪酸は、バターに約5%までの濃度で見出される無毒の天然産物である。消化器系では、酪酸は、微生物の発酵産生物として分泌される。結腸では、酪酸は、mM濃度に達することもある。酪酸は、遊離形態であろうとまたはより通常のアルカリ金属塩の形態(「酪酸/酪酸塩」)であろうと、抗腫瘍活性を示すことが知られている。特にこの活性は、新生物細胞に対する毒性、細胞増殖の阻害、および細胞分化の誘導という形で証明されている。このような活性はインビトロおよびインビボの双方で示されている。
【0003】
従って、例えばインビトロで増殖した種々の腫瘍細胞において、形態学的変化および生化学的変化を誘導することによる、酪酸/酪酸塩の抗腫瘍活性が報告されている。ヒト供給源由来の罹患細胞のいくつかの代表例は、以下である:神経芽細胞腫[PrasadおよびKumar,Cancer 36:1338(1975)]、白血病[Collinsら,Proc.Natl.Acad.Sci.75:2458(1978)]、結腸癌[Dexterら,Histochem.16:137(1984)ならびにAugeronおよびLaboisse,Cancer Res.44:3961(1984)]、膵臓癌[McIntyresら,Euro.J.Cancer Clin.Onc.20:265(1984)]、腎臓腫瘍細胞[Heifetzら,J.Biol.Chem.256:6529(1981)]、乳癌[Stevensら,Biochem.Biophys.Res.Comm.119:132(1984)]、前立腺癌[Reeseら,Cancer Res.45:2308(1985)]、星状細胞腫[McIntyre,J.Cell.Sci.11:634(1971)]、ヒト類表皮癌[Marcherら,Exp.Cell.Res.117:95(1978)]。さらに、骨髄性白血病患者から単離した白血病細胞では、本発明者らによって行われた全てのインビトロ試験で、酪酸/酪酸塩が最も強力な細胞傷害性且つ細胞分化性の薬剤であることが示された。例をあげると、レチノイン酸、1,25−ジヒドロキシビタミンDおよびシトシンアラビノシドよりも高い効果がみられた。
【0004】
インビボで酪酸/酪酸塩を適用した報告例は以下の通りである。神経芽細胞腫患者は、10g/日までの用量を受け、これにより、臨床的に検出可能な毒性は生じなかった[Prasad,Life Sci.27:1351(1980)]。難治性急性骨髄白血病を再発した小児に0.5g/kg/日を処置したところ、部分的且つ一時的な寛解がみられ、検出可能な毒性作用はなかった[Novogrodskyら,Cancer 51:9(1983)]。さらに、本発明者らは、急性骨髄白血病を再発した患者を1.0g/kg/日を10日間、1.5g/kg/日をさらに6日間で処置した;その後の追跡臨床検査で、有害な反応は示されなかった[Rephaeliら,Blood 68:192a(1986)]。高投与量の酪酸/酪酸塩を使用した臨床試験でも毒性はみられなかった。
【0005】
これまでに発表されていない研究(M.ShaklaiとE.Januszewiez)において、正常骨髄および白血病患者の末梢血から採取し、軟寒天で増殖させた顆粒球およびマクロファージのコロニー形成単位(CFU−GM)の抑制により、酪酸/酪酸塩の選択性が示された。
【0006】
Suzanne M.Cuttsら,Cancer Research 61,8194−8202は、ドキソルビシン(アドリアマイシン(登録商標))と酪酸ピバロイルオキシメチルとの両方の薬物を同時に細胞に曝露した場合、あるいは酪酸ピバロイルオキシメチルをドキソルビシンを投与してから18時間後までに与えた場合の、相乗的相互作用について記述した。著者らは順序を逆にして投与すると拮抗作用になると報告している。
【0007】
Elena di GennaroらはProceedings of the AACR,第44巻,2003年3月のAbstract Number:3636において、ヒストンデアセチラーゼインヒビターSAHAで24時間前処置し、その後ラルチトレックスド(raltitrexed)あるいは5FUを与えると、相乗的相互作用の相乗作用がみらられたことを示している。SAHAはヒドロキサム酸スベロイルアニリドである。
【0008】
A.PatnaikらはClinical Cancer Research 第8巻,2142−2148,2002年7月において、ドセタキセル、ゲンシタビンまたはシスプラチンと、AN−9(酪酸ピバロイルオキシメチル)とをインビトロで組み合わせて使用すると、種々の細胞株に対して相加的な細胞傷害効果を超えた効果を有すると報告している。しかしながら化学療法剤を加える順序については議論されていない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、癌処置の一方法、特に哺乳動物の癌処置の方法を提供する。この方法は、オキシアルキレン含有ヒストンデアセチラーゼインヒビター(HDAC)を含む組成物の治療有効量を投与し、その後別の化学療法剤を順次投与する工程を包含する。本発明の一実施形態では、オキシアルキレン含有HDACインヒビターは、酪酸ピバロイルオキシメチルである。驚くべきことに、ドキソルビシンで報告された経験とは対照的に、この順序での添加により、相加的効力を超える効力が得られることが確認された。
【0010】
本発明者らは、治療有効量のオキシアルキレン含有化合物を投与し、その後特定の他の化学療法剤および/または必要に応じて癌部位に対する別の癌処置を投与する過程において、ヒトまたは哺乳動物における癌または他の腫瘍の増殖の、相加的阻害を超えた阻害を見い出した。本発明者らはまた、さらに、投与の順序を逆にすると拮抗する(抗相加的)効果があることを観察した。阻害増強は、より高い用量のオキシアルキレン含有化合物において特に顕著であった。特に、哺乳動物において2g/m/日を超える、特に約3、4、5、6、もしくは7g/m/日のPivanexの投与量、または腫瘍細胞において125μMを超える、すなわち150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、もしくは250μMの濃度のPivanexの場合に顕著であった。これらの増加した投与量または濃度を、腫瘍細胞を化学療法剤の効果に感作するのに必要な、Pivanex曝露量に、またはPivanex誘導期間(本明細書中で詳細に記載し、定義する)を実質的に減少するために設計する。これらの増加した投与量または濃度を適用することにより、Pivanex誘導期間を60時間未満、48時間未満、36時間未満、24時間未満、12時間未満、6時間未満、4時間未満、および2時間よりわずかに多くまで減少させることが可能となる。
【0011】
より詳細には、本発明は、薬学的キャリアおよびオキシアルキレン含有化合物を含む抗癌処置法、その後、続いて他の化学療法剤および/または必要に応じてこのような癌を治療するための方法とともに本明細書において定義されたとおりの他の癌処置によって処置する方法を提供する。
【0012】
また本発明は、前記HDACインヒビターの抗腫瘍活性を上昇させるための化学療法調製物の製造におけるHDACインヒビターの使用に関し、この使用は、この製造におけるチューブリン相互作用剤、DNA相互作用剤、DNAアルキル化剤および白金錯体からなるクラスの化学療法剤の使用を含み、この調製物は、HDACインヒビターを投与する誘導期間、続いてこの化学療法剤を投与することに適合している。
【0013】
本発明の薬学的組成物は、経口投与、非経口投与または直腸投与、局所適用および他の投与形態に適合され得、これには尿道内投与、膣内投与、膀胱内投与等が挙げられる。そして製薬分野の当業者に周知のように、単位投与量の形態となることも可能である。
【0014】
さらに本発明は、哺乳動物において腫瘍を処置するかまたは免疫応答調節効果を生じる方法に関し、この方法は、有効な抗腫瘍用量または免疫応答調節用量のオキシアルキレン含有化合物の哺乳動物への投与、その後、一つ以上の化学療法剤および/または必要に応じて癌の部位への他の癌処置の投与を包含する。本発明はまた、動物において腫瘍を処置するかまたは免疫調節応答を得るための薬の製造のために、オキシアルキレン含有化合物を含む化合物を他の化学療法剤と併用して使用することが含まれる。本明細書に記載される化合物は、ヒトと非ヒト動物の両方に有効となる。
【0015】
本発明のさらなる目的、特徴および利点は、以下の説明で示され、その一部は、その記載によって明らかであるか、または本発明の実施によって学習することも可能である。本発明の目的、特徴および利点は、添付の特許請求の範囲で特に指摘されている手段および組み合わせを用いて実現および収得することが可能である。
【0016】
(発明の詳細な説明)
PIVANEX(酪酸ピバロイルオキシメチル)は、オキシアルキレン含有化合物であり、これは酪酸のピバレートエステル誘導体であり、Titan Pharmaceuticals,Inc.から市販されている。
【0017】
一実施形態では、本発明は、オキシアルキレン含有化合物と特定の化学療法剤とを順次適用する処置方法を用いて抗腫瘍活性を上昇させる方法を提供する。一実施形態では、オキシアルキレン含有化合物は酪酸ピバロイルオキシメチルである。
【0018】
特に、化学療法剤は、DNA相互作用剤、DNAアルキル化剤、チューブリン相互作用剤および白金錯体からなるクラスの中から選択される。
【0019】
一実施形態では、この治療活性は、癌および他の増殖性障害を処置、予防または改善するために効果がある。順次投与する本発明の化合物は特に、癌および他の増殖性障害に苦しむ被験体内で抗増殖剤または分化剤として働くことにより、このような異常による影響を処置、予防または改善するために有用である。このような障害としては、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄白血病および急性骨髄単球性白血病等の白血病、他の脊髄異形成症候群、多発性骨髄腫、乳癌、子宮頚癌、黒色腫、大腸癌、鼻咽腔癌、非ホジキン型リンパ腫(NHL)、カポジ肉腫、卵巣癌、膵臓癌、肝癌、前立腺癌、扁平上皮癌、他の皮膚悪性疾患、奇形癌、T細胞リンパ腫、肺腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、末梢神経外胚葉腫瘍、横紋筋肉腫等の多発性骨髄腫、並びに前立腺腫瘍および他の固形腫瘍が含まれるが、これらに限定されない。オキシアルキレン含有化合物は非癌細胞に対して抗増殖効果を持つ可能性があり、良性腫瘍および乾癬等他の増殖性障害の処置に役立つ可能性がある。
【0020】
別の実施形態では、この治療活性は、白血病、扁平上皮癌および神経芽細胞腫を処置または改善するために有効である。
【0021】
本発明の方法によって特に効果的に処置され得る癌には、哺乳動物癌(特にヒト癌)が含まれる。本発明の方法によって特に処置可能な癌は、アポトーシスのインデューサーに感受性を持つ癌である。このような癌には、乳癌、大腸癌および直腸癌、肺癌、肝癌、卵巣癌、子宮頚癌、膀胱癌、胃癌、膵臓癌およびリンパ腫、骨髄腫ならびに白血病が含まれる。順次の処置を用いる本発明の方法によって特に処置可能な癌には、乳癌、卵巣癌、結腸直腸癌および非小細胞性肺癌が含まれる。
【0022】
生物学的評価において酪酸ピバロイルオキシメチルは、骨髄非破壊的且つ骨髄非抑制性の薬剤であることが示されている。従来の癌治療法と異なり、オキシアルキレン含有化合物は癌細胞の遺伝子発現に変化を誘発してアポトーシスを引き起こすことが示されている。酪酸ピバロイルオキシメチルは、培養中の多種類の腫瘍細胞に対して活性を有する分化剤として機能する。
【0023】
肺癌および肝臓に転移した難治性悪性疾患の処置に対する予備的なI/II相臨床試験では、酪酸ピバロイルオキシメチルは、充分に耐性であるようである。
【0024】
組織培養における、化学療法と、酪酸ピバロイルオキシメチルとの投与量およびスケジュールの相互作用についての試験は、臨床計画を促進するために行われた。
【0025】
腫瘍細胞に対するオキシアルキレン含有化合物の増殖傷害性効果および細胞傷害性効果は、時間および濃度に依存することが明らかとなった。腫瘍細胞株に依存する細胞傷害性は、酪酸ピバロイルオキシメチルを125μMを超える濃度で腫瘍細胞に6時間曝露した後、および酪酸ピバロイルオキシメチルを25μMを超える濃度で72時間処理した後に認められた。
【0026】
腫瘍細胞の形態変化および増殖阻害は、5〜25μMという低い用量の酪酸ピバロイルオキシメチルを72時間処置した後に観察された。観察された形態変化はより分化の進んだ表現型と一致していたため、酪酸ピバロイルオキシメチル曝露後の癌遺伝子の発現の調査を促進した。腫瘍細胞を酪酸ピバロイルオキシメチルに10〜50μMの投与量で72時間曝露すると、p53、c−mycおよびrasが著しく抑制された。p53、c−mycおよびrasの発現変化は化学的抵抗性に関係しており、これは、癌遺伝子の発現を抑制するには充分であるが直接細胞毒とはならない量のPIVANEXで前処理すると、細胞傷害性薬物の作用が増強され、そのため現在の化学療法剤と相加的または相乗作用的であることを示唆している。
【0027】
酪酸ピバロイルオキシメチルで腫瘍細胞を前処理して得られる相乗作用効果は、ヒト癌細胞で実証された。ヒトT24膀胱癌細胞およびA549肺癌細胞を、漸増する濃度の酪酸ピバロイルオキシメチルに6時間または72時間曝露し、その後に多様な化学療法剤に曝露した。より低用量の酪酸ピバロイルオキシメチルでの6時間の処置は、化学療法剤による細胞傷害性は増強されなかったが、これらの細胞株を酪酸ピバロイルオキシメチルで72時間処理すると、化学療法剤の濃度が直接細胞傷害性を呈することのない程度であっても、薬物誘発性細胞傷害性が増強された。投与量を高くすると、上記のように、順次レジメ後の細胞傷害性の増加は、酪酸ピバロイルオキシメチルによる、より短い誘導期間の後に見られるようである。
【0028】
ヒト非小細胞性肺癌細胞株のH522およびNCI−H23についてPivanexの増殖阻害活性を、Pivanex単独および標準的な化学療法剤であるドセタキセルとの組み合わせで評価した。細胞を3日間Pivanexで処理してその後24時間ドセタキセルに曝露したか、または細胞をドセタキセルで24時間処理した後にPivanexに3日間曝露した。4日間の実験の最後に、MTSテトラゾリウム生体染色法を用いた標準的な染色技術によって細胞増殖阻害を判定した。順次の薬物処理が相加的であるか、相乗的であるか、または相加的でさえないないかを判断するため、これら2種類の薬物を様々な割合にし、これに対する細胞増殖を、アイソボログラム(isobologram)分析においてグラフ化した。Pivanexの後にドセタキセルの順であると、これら2種の薬剤の相加的または相乗的な相互作用を示唆するデータパターンが得られる。対照的に、ドセタキセルの後にPivanexの順では異なるパターンが得られ、これは相加的効果または相乗的な効果があるとはいえないことを示唆する。H522細胞およびNCI−H23細胞における順番試験の結果は、最初にPivanexを曝露し、その後にドセタキセルを処理する順番が好ましいことを支持している。
【0029】
(順次併用療法)
オキシアルキレン含有化合物は、癌または腫瘍の処置のために一つ以上の化学療法剤と組み合わせて使用される。これらの組み合わせ薬剤は順次投与されるが、オキシアルキレン含有化合物は、化学療法剤投与の先に投与される。
【0030】
この順次レジメンは、誘導期の間にオキシアルキレン含有化合物を投与し、その後にチューブリン相互作用剤、DNA相互作用剤、DNAアルキル化剤および白金錯体からなるクラスのメンバーの化学療法的有効量を、哺乳動物もしくは宿主細胞に投与することを提供する。
【0031】
オキシアルキレン含有化合物は化学療法剤投与に先立って、誘導期の間投与することができる。この誘導期間は化学療法剤投与の約2時間より前、好ましくは4時間より前、より好ましくは6時間以上約120時間以下である。本発明の一実施形態では、オキシアルキレン含有化合物は、化学療法剤投与に先立って、約24時間から96時間の誘導期間投与することができる。
【0032】
別の実施形態では、オキシアルキレン含有化合物を処理した後に、約48時間〜約84時間の誘導期間酪酸ピバロイルオキシメチルが投与される。また本発明の別の実施形態では、化学療法剤を投与する前に、約54から78時間の誘導期間、酪酸ピバロイルオキシメチルが投与される。さらなる別の実施形態では誘導期間が、Pivanex曝露が48時間、36時間、24時間、12時間、6時間、4時間、および2時間をわずかに超える程度まで減少する。
【0033】
オキシアルキレン含有化合物と併用できる化学療法剤は、一般的にDNA相互作用剤もしくはDNAアルキル化剤、チューブリン相互作用剤および白金錯体として一般にまとめられる。この化学療法剤の群の各々は、活性や化合物のタイプによってさらに分類することができる。オキシアルキレン含有化合物と併用して使用される化学療法剤には、これらの群中の特定のメンバーが含まれる。化学療法剤およびその投与方法についての詳細な議論はDorrらによるAppleton & Lange(Connecticut,1994)「Cancer Chemotherapy Handbook」,第2版の15〜34ページを参照する。これらの開示については、参考のためこの明細にその全体を添付する。
【0034】
DNA相互作用剤には、例えばカルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン(oxaliplatin)、シクロホスファミド、ダカルバジンまたはテモゾロミドといったアルキル化剤、あるいはゲンシタビン等のピリミジンベースのヌクレオシド、あるいはプリンベースのヌクレオシドであるフルダラビンが含まれる。ダカルバジンは多発性黒色腫の処置に選択される薬物の一つである。
【0035】
白金錯体には、シスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチンが含まれる。
【0036】
チューブリン相互作用剤は、チューブリンの特定部位に結合することによって作用する。チューブリンは重合して細胞性微小管を作るタンパク質である。微小管は重要不可欠な細胞構造単位である。相互作用剤がチューブリンに結合すると、微小管は安定化するか、または使用する薬剤の種類によっては脱重合する。チューブリン相互作用剤には、コルヒチン、ビンクリスチンおよびビンブラスチン、ビノレルビン、パクリタキセルおよびドセタキセルが含まれる。
【0037】
本発明の一実施形態では、オキシアルキレン含有化合物は、シスプラチンおよびカルボプラチン、オキサリプラチン、ゲンシタビン、タキソール、ドセタキセルおよびパクリタキセルからなる群から選択された化学療法剤と併用して投与される。本発明の別の実施形態では、化学療法剤と併用して投与するために用いられるオキシアルキレン化合物は、酪酸ピバロイルオキシメチルである。
【0038】
本発明は、治療投与量のオキシアルキレン含有HDACインヒビターを患者もしくは宿主細胞に投与し、そして治療活性の上昇をもたらす量の効果のある化学療法剤を順次投与することによって、ある種の化合物の治療活性を上昇させる方法に関する。一般的に治療活性の上昇とは、患者または宿主細胞において特定の化合物(すなわち、オキシアルキレン含有化合物および/または化学療法剤)の治療効果が、化学療法剤と併用しない通常の場合より大きな、情趣した治療有効性であることを意味する。治療活性の上昇には治療活性の強化が含まれる。さらに、化学療法剤を本発明の特定の化合物と共に順次投与することで相乗効果がもたらされ得、化学療法剤の用量はオキシアルキレン含有化合物を使用しない場合での同じ治療有効性を達成するのに必要な量よりも少なくてもよい。
【0039】
(定義)
本明細書中で使用される場合、「薬学的に受容可能な」成分とは、ヒトおよび/または動物に使用するのに適した成分であって、過度の有害な副作用(毒性、刺激炎症およびアレルギー応答等)がなく妥当な利益/危険比に見合う成分である。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「オキシアルキレン含有化合物」は、式(I)、(II)および(III)を有する化合物である:
(I)X−CH−CHX−CHX−C(=O)−O−Z;
(II)CH−CO−CH−C(=O)−O−Z;
(III)CH−CH−CO−C(=O)−O−Z。
【0041】
ここで、XはHであるかまたは一つのXのみがOHであり得;Zは−CHR−O−(O=)C−R’であり;Rは水素およびアルキル基からなる群から選択されるメンバーを表し、R’はアルキル基、アミノアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群のメンバーを表し、ここでアリール単独、ならびにアラルキル、アラルコキシおよびアリールオキシ内のアリールは、それぞれサブグループ(a)および(b)からなる群から選択され、ここで(a)は、置換されていない、フェニル、ナフチル、フリルまたはチエニルであり、(b)は、フェニル、ナフチル、フリルまたはチエニルであり、その各々は、アルキル、アルコキシまたはハロゲンからなる群から選択された少なくとも1個の置換基によって置換されており、ただし、(I)においてXがHであってR’がプロピルであるならば、Rは、少なくとも3個の炭素原子を含むアルキルである。このオキシアルキレン含有化合物は、酪酸ピバロイルオキシメチルを含む。
【0042】
用語「安全且つ効果的な量」とは、本発明の様式で使用した場合に過度の有害な副作用(毒性、刺激、またはアレルギー反応等)がなく妥当な利益/危険比に見合い、所望の治療応答をもたらすのに十分な成分量をいう。「化学療法的有効量」とは、本発明の化合物の、所望の化学治療応答がもたらされる効果のある量を意味する。例えば、肉腫であれリンパ腫であれ癌の増殖もしくは発生を遅らせる量、あるいは癌を縮小させるもしくは転移を防ぐ量、あるいは動物の生存期間を延長させる効果のある量である。特定の安全且つ効果的な量、あるいは治療的有効量は、処置される特定の状態、患者の身体状態、処置を受ける哺乳動物あるいは動物の種類、処置持続期間、(ある場合には)同時に行う治療の性質、採用する特定の処方、および化合物あるいはその誘導体の構造といった要因によって異なることとなる。
【0043】
本明細書中で使用される場合、いくつかの例にある単語「mg/m」あるいは「g/m」は、個々の化学療法剤によって異なるが、一日当たりの用量あるいは、1処置クールの間もしくは処置期間もしくは処置周期中に投与される用量のことを示す場合がある。数例ではあるが、投与量はmg/kg/日で示されている(例えばダカルバジンについて)。多数の例では、化学療法薬物は1処置クールにおいて一定の日数あるいは一定期間投与される。薬物が投与される日数または期間には、引き続いていかなる薬物も投与されない休止期間が置かれる場合が多い。例えば、ドセタキセルの通常用量は、3週間あたり75mg/mとなる。経口投与された薬物テモゾロミドの典型的な投与量は、最初の5日間に計750mg/mの用量が投与され、続いて23日間の休止期間となる、28日間である。酪酸ピバロイルオキシメチルの通常用量は、処置1日当たり2.5、3、4、5、6、7g/mである。
【0044】
「薬学的塩」とは、化合物の酸性塩または塩基性塩を作製することによって改変された化学療法剤の塩である。これに限るものではないが例として、アミン等の塩基性残基の好酸塩もしくは有機酸塩;カルボン酸等の酸性残基のアルカリ塩もしくは有機酸塩等が含まれる。これに限るものではないが、薬学的に受容可能な塩としては、ハロゲン化水素、硫酸塩、メト硫酸塩、メタン硫酸塩、トルエンスルホン塩、硝酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、乳酸塩等が含まれる。本発明の化合物の薬学的に受容可能な塩は、これらの化合物の遊離酸の形態または遊離塩基の形態を、化学量論的量またはそれを超える量の適切な塩基または酸を水もしくは有機溶媒、またはその二つの混合物中で反応させて調製することができる。一般的にはエーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルといった非水性媒体が好ましい。例えば、本発明の塩はイオン交換によって調製され得る。適切な塩の一覧は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第17版(Mack Publishing Company,Easton Pa.1985年)の1418ページあるいはThe Merck Index,第13版,2001(Merck Research Laboratories Division of Merck &Co.,Inc.出版)のMISC−22ページおよびMISC−23ページに収載されている。これらの開示については、参考としてこの明細書にその全体を援用する。薬学的に受容可能な塩としては、アルギニン塩、リジン塩、グルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩も含まれる。
【0045】
本明細書中で使用される場合、「薬学的キャリア」とは、他の化学療法剤と併用してオキシアルキレン含有化合物を動物またはヒトに送達するための、薬学的に受容可能な溶媒、懸濁剤または賦形剤である。このキャリアは、液体であっても固体であってもよく、思考計画された投与方法に従って選択される。リポソームもまた薬学的キャリアである。
【0046】
本明細書中で使用される場合、「癌」は、哺乳動物にみられるあらゆるタイプの癌、もしくは新生物、悪性腫瘍のことをいい、癌腫および肉腫を含む。癌の例は、脳癌、乳癌、膵臓癌、子宮頚癌、結腸癌、頭部頸部癌、腎臓癌、肺癌、非小細胞性肺癌、黒色腫、中皮腫、卵巣癌、肉腫、胃癌、子宮癌および髄芽細胞腫がある。
【0047】
「白血病」は広く造血器官の進行性悪性疾患をいい、一般的に偏向的な増殖と、血液および骨髄中の白血球およびその前駆体の発生が特徴である。一般に白血病は臨床学的に(1)疾患の持続期間および性質(急性または慢性)、(2)関係する細胞の種類(骨髄性、リンパ性または単球性)、(3)血液中の異常細胞数が増加するか否か(白血病性または非白血病性(亜白血病性))に基づいてタイプによらずインビボでいくらかのレベルの抗白血病活性を一般に示すと考えられる。従って、本発明は、白血病治療の方法を含み、好ましくは、急性非リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性顆粒球性白血病、慢性顆粒球性白血病、急性前骨髄球性白血病、成人T細胞白血病、非白血性白血病、白血球増加性白血病、好塩基性白血病、芽細胞白血病、ウシ白血病、慢性骨髄性白血病、皮膚白血病、胎児性白血病、好酸球性白血病、グロス白血病、ヘアリーセル白血病、血芽球性白血病、血芽球細胞性白血病、組織球白血病、幹細胞性白血病、急性単球性白血病、白血球減少性白血病、リンパ管性白血病、リンパ芽球性白血病、リンパ球性白血病、リンパ行性白血病、リンパ性白血病、リンパ肉腫細胞性白血病、肥胖細胞性白血病、巨核球性白血病、小骨髄芽球性白血病、単球性白血病、骨髄芽球性白血病、骨髄性白血病、骨髄性顆粒球性白血病、骨髄単球性白血病、ネーゲリ型白血病、形質細胞白血病、形質細胞性白血病、前骨髄球性白血病、リーダー細胞性白血病、シリング型白血病、幹細胞性白血病、亜白血病性白血病および未分化白血病を処置する方法が望まれる。
【0048】
用語「肉腫」は一般に、胚性結合組織様の物質から構成される腫瘍のことをいい、一般に繊維状あるいは均質な物質中に包埋された、緊密に充填された細胞から構成される。オキシアルキレン含有化合物と化学療法剤とで処置可能な肉腫には、軟骨肉腫、線維肉腫、リンパ肉腫、黒色肉腫、粘液肉腫、骨肉腫、Abemethy肉腫、脂肪性肉腫、脂肪肉腫、胞状軟部肉腫、エナメル上皮肉腫、ブドウ状肉腫、緑色腫肉腫、絨毛上皮腫、胚性肉腫、ウィルムス腫瘍肉腫、子宮内膜肉腫、間質性肉腫、ユーイング肉腫、眼膜肉腫、線維芽細胞性肉腫、巨細胞性肉腫、顆粒球性肉腫、ホジキン肉腫、突発性多発性色素性出血性肉腫、B細胞免疫芽球性肉腫、リンパ腫、T細胞免疫芽球性肉腫、イエンセン肉腫、カポジ肉腫、クップファー細胞肉腫、血管肉腫、白血肉腫、悪性間葉肉腫、傍骨性骨肉腫、網状赤血球性肉腫、ラウス肉腫、漿液嚢胞性肉腫、滑膜肉腫および毛細管拡張性肉腫が含まれる。
【0049】
用語「黒色腫」は、皮膚および他の器官のメラノサイト系から生じた腫瘍を意味すると取られている。例えば、オキシアルキレン含有化合物と他の化学療法剤とで処置することのできる黒色腫には、例えば、末端部黒子黒色腫、メラニン欠乏性黒色腫、良性若年性黒色腫、クラウドマン黒色腫、S91黒色腫、ハーディング−パッセー黒色腫、若年性黒色腫、悪性黒子型黒色腫、悪性黒色腫、結節型黒色腫、爪下黒色腫、表在拡大型黒色腫が含まれる。
【0050】
用語「癌腫」は周囲の組織に浸潤して転移を起こす傾向がある上皮細胞からなる悪性新生増殖物をいう。例えば、オキシアルキレン含有化合物と他の化学療法剤とで処置し得る典型的な癌腫には、小葉癌、腺房癌、腺嚢癌腫、腺様嚢胞癌、腺癌腫、副腎皮質癌、肺胞癌、肺胞細胞癌、基底細胞癌(basal cell carcinoma)、基底細胞癌(carcinoma basocellulare)、類基底細胞癌、基底有棘細胞癌、細気管支肺胞癌、細気管支原生癌、気管支癌、大脳様癌、胆管細胞癌、絨毛膜癌、膠様癌、面皰癌、脳梁癌(corpus carcinoma)、篩状癌(cribriform carcinoma)、被甲性癌(carcinoma encuirasse)、皮膚癌、円柱状癌(cylindrical carcinoma)、円柱細胞癌、腺管癌、硬性癌(carcinoma durum)、胎生期癌、脳癌、類表皮癌、上皮性腺様癌(carcinoma epitheliale adenoides)、外方増殖性癌(exophytic carcinoma)、潰瘍癌、癌腫血管腫(carcinoma fibrosum)、ムチン性腺癌(gelatiniform carcinoma)、ムチン性腺癌(gelatinous carcinoma)、巨細胞癌(gigant cell carcinoma)、巨細胞癌(carcinoma gigantcellulare)、腺癌、顆粒膜細胞癌腫(granulosa cell carcinoma)、毛母癌腫、血液癌、肝細胞癌、ヒュルトレ細胞癌、ヒアリン癌(hyaline carcinoma)、副腎様癌(hypemephroid carcinoma)、小児胎児性癌(infantile embryonal carcinoma)、組織内癌(carcinoma in situ)、表皮内癌、上皮内癌、クロンペッカー癌(Krompecher’s carcinoma)、クルチッキー細胞癌(Kulchitzky−cell carcinoma)、大細胞癌、レンズ状癌(lenticular carcinoma)、レンズ状癌(carcicnoma lenticulare)、脂肪腫性癌腫、リンパ上皮癌、髄様癌(carcinoma medullare)、髄様癌(medullary carcinoma)、黒色癌腫、軟性癌(carcinoma molle)、粘液性癌腫(mucinous carcinoma)、粘液分泌性癌腫(carcinoma muciparum)、粘細胞性癌(carcinoma mucocellulare)、粘表皮癌、粘液癌(carcinoma mucosum)、粘液癌(mucous carcinoma)、粘液腫様癌(carcinoma myxomatodes)、鼻咽頭癌、燕麦細胞癌、骨化性癌腫、類骨癌腫(osteoid carcinoma)、乳頭癌、門脈周囲癌、上皮内癌、棘細胞癌、粥状癌(pultaceous)、腎細胞癌、予備細胞癌、癌肉腫、総排泄腔癌、硬性癌、陰嚢癌、印環細胞、単性癌、小細胞癌、ソレノイド癌(solanoid carcinoma)、回転楕円面細胞癌腫(spheroidal cell carcinoma)、紡錘体細胞癌(spindle cell carcinoma)、海綿様癌(carcinoma spongiosum)、扁平上皮癌、扁平上皮細胞癌、紐様癌(string carcinoma)、血管拡張性癌(carcinoma telagiectaticum)、毛細血管拡張性癌(carcinoma telangiectodes)、移行性細胞癌(transitional cell carcinoma)、結節癌(carcinoma tuberosum)結節癌(tuberous carcinoma)、疣状癌、絨毛癌(carcinoma villosum)が含まれる。
【0051】
本発明に従ってオキシアルキレン含有化合物で処置し得るさらなる癌としては、例えば、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、横紋筋肉腫、原発性血小板増加症、原発性マクログロブリン血症、小細胞性肺癌、原発性脳腫瘍、胃癌、結腸癌、悪性膵臓インスリノーマ、悪性カルチノイド、膀胱癌、前悪性皮膚障害、精巣癌、リンパ腫、甲状腺癌、神経芽細胞腫、食道癌、尿生殖器管癌、悪性高カルシウム血症、子宮頸部癌、子宮内膜癌、副腎皮質癌、および前立腺癌が挙げられる。
【0052】
本明細書中で使用される場合、「化学療法剤」としては、DNA相互作用剤あるいはDNAアルキル化薬剤(特定のピリミジンヌクレオシドもしくはプリンヌクレオシド)、白金ベースの細胞傷害性薬剤剤、およびチューブリン相互作用剤が挙げられるがこれらに限定されない。本発明における「化学療法剤」の例としては、シスプラチンおよびカルボプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲンシタビン、フルダラビンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0053】
本明細書中で使用される場合、「併用療法」あるいは「補助療法(adjunct therapy)」とは、化学療法剤を必要とする患者が、オキシアルキレン含有化合物を併用して疾患の治療を受けること、あるいは他の薬剤を与えられることを、意味する。この併用療法は逐次投与治療法であり、患者は最初にオキシアルキレン含有化合物(例えば、酪酸ピバロキシルメチル)で処置され、次に他の化学療法剤のうちの1種以上で処置される。
【0054】
用語「誘導期間」とは、別の化学療法剤ではなく、実質的にオキシアルキレン含有化合物のみを投与する化学療法処置期間を意味する。この点における用語「実質的に〜のみ」とは、誘導期間中に10%以下の他の化学療法剤、好ましくは5%以下の他の化学療法剤、最も好ましいのは0%の他の化学療法剤しか投与されないことを意味する。誘導期間によって、処置された癌細胞は感作され、誘導期間後に投与される他の化学療法剤を用いた化学療法に対する感受性が増す。誘導期間中に投与されるオキシアルキレン含有HDACインヒビターは、一定の1日投与量には限定されないが、可変投与量のHDACインヒビターの投与が包含され得ることが、理解される。同様に、誘導期後に投与する他の化学療法剤の量は、一定量であっても可変量であってもよい。本文章における用語「可変」には、一定量以外のあらゆる投与量変化が包含される。即ち、例えば、誘導期間中の一日目から二日目に、もしくは誘導期間後に、投与量は増やしても減らしてもよい。
【0055】
用語「ヒストン」は、強塩基性ポリペプチドを記載し、リジンリッチ、わずかにリジンリッチ、そしてアルギニンリッチとして分類される。塩基性アミノ酸の多くは、アミノ末端にてクラスター形成する。これらは高度ポリカチオン性であり、DNAのポリアニオン性骨格と相互作用して非荷電核タンパク質を作る。ヒストンは染色体構造物質であるクロマチンを維持するのに必須の相互作用に関与する。ヒストンおよびその機能は、Thomas M.Devlin著、Textbook of Biochemistry with Clinical Correlations,Wiley−Liss,1992,p.637,639−641に記載されており、この開示は、参考として本明細書中にその全体が援用される。
【0056】
用語「ヒストンデアセチラーゼインヒビター」あるいは「HDAC」インヒビターとは、ヒストンの脱アセチル化を妨げる分子類のことをいう。ヒストンのアセチル化によって、ヒストンのポリカチオン性が中和され、これにより、クロマチンの基本単位構造であるヌクレオソームを部分的にむき出しにされる。この結果DNA構造が緩くなり、転写機構がDNAにアクセスできるようになって遺伝子の発現が促進される。HDACインヒビターはヒストンをアセチル化状態に確保し、多様なヒト癌細胞において増殖の停止およびアポトーシスを引き起こす。HDACインヒビターは、Paul A.Marksら著、Curr Opin Oncl 2001,13:477−483,2001年により詳細に記載されており、この開示は、参考として本明細書中でその全体が援用される。
【0057】
本発明のために記載されている全ての特徴、性質、および範囲については、それが実施形態にあるものでも、好ましいとされるものであってもそうでなくても、互いに組み合わせ得る。例えば、HDACインヒビターの好ましい特性もしくは投与量の範囲と、本明細書中に記載される二番目に使用する化学療法剤のより広く定義された、あるいは好ましいものではない特性もしくは投与量と組み合わせ得る。
【0058】
一種類以上の化学療法剤と併用するオキシアルキレン含有化合物は、薬剤と共に使用可能なあらゆる通常の方法によって、単独の治療薬として、あるいは他の治療剤と併用して、投与される。癌、腫瘍、白血病、もしくは他の関連疾患を処置する際に、オキシアルキレン含有化合物と併用される化学療法剤の量とその種別は、患者の応答および生理状態、副作用のタイプおよび重篤度、処置される疾患、好ましい投与法、患者の予後、その他の要因によって異なる。
【0059】
オキシアルキレン含有化合物が他の化学療法剤と併用される場合、オキシアルキレン含有化合物と他の治療薬との割合は、好ましい治療効果、観察される併用の副作用、または医療技術分野の当業者にとって公知の他のそのような考慮事項に従い、必要に応じて変更される。一般には、オキシアルキレン含有化合物と他の治療薬との割合は、重量比で、約0.5%対99.5%から約99.5%対0.5%の範囲となる。
【0060】
癌、腫瘍、またはその他の疾患を処置するために他の治療剤の前に投与するオキシアルキレン含有化合物の量、オキシアルキレン含有化合物と他の治療薬剤の個々の用量および投与レジメンは、変化し得る。引き続き行う治療は、一回目の治療が完了した後二回目の治療が始まる前の、誘導期間の範囲内の妥当な期間内であり得る。
【0061】
ピバネックス(PIVANEX)の投与量の範囲は、約0.01g/m/日から、2g/m/日、3g/m/日、4g/m/日、5g/m/日、6g/m/日、もしくは7g/m/日を超える約10g/m/日までである。しばしば、この投与量の範囲は、約0.1mg/m/日から約5g/m/日までである。
【0062】
オキシアルキレン含有化合物との併用療法においてパクリタキセルの投与量範囲は、1治療クール当たり約10mg/mから約200mg/mである。好ましくは、この投与量範囲は、約20mg/m/日から約150mg/m/日である。The Physician’s Desk Reference(2003年)のpp.2193に、投与量のさらなる指針が示されている(この開示は、参考として本明細書中でその全体が援用される)。
【0063】
オキシアルキレン含有化合物との併用療法においてゲンシタビンの投与量範囲は、最長12週間の治療期間中について最大10000mg/mである。この範囲内で、約100mg/mから約8000mg/mの範囲の投与量が、適切であり得る。The Physician’s Desk Reference,2003,第57版のpp.1837(この開示は、参考として本明細書中でその全体が援用される)は、ゲンシタビンのための投与計画が以下のように推奨されている:最長7週間週一回1000mg/mを30分間かけて投与し、その後に1週間休止、その後に週一回の治療を4週間中3週間連続で行う。ゲンシタビンは、膵臓癌、非小細胞肺癌および関連疾病の処置に選択される薬剤の一つである。静脈経路による投与が好ましい。その製品は、静脈内投与用塩酸塩が200mgおよび1gのバイアルで入手可能である。
【0064】
タキソールの投与量範囲は、1治療クール当たり、10mg/mから500mg/mであり、好ましくは40mg/mから300mg/mである。
【0065】
オキシアルキレン含有化合物との併用療法においてドセタキセルの投与量範囲は、1治療クール当たり、約10mg/mから200mg/mであり、好ましくは、50mg/mから150mg/mである。より好ましくは、投与量範囲は、約60mg/mから約100mg/mである。The Physician’s Desk Reference,2003のpp.773(この開示は、参考として本明細書中でその全体が援用される)は、転移性乳癌を含む乳癌の処置のためのドセタキセルのための投与レジメンが以下のように推奨されている:3週間ごとに1時間の注入として100mg/m。非小細胞肺癌に対する好ましい治療レジメンは、60mg/mから100mg/mの範囲、より好ましくは75mg/mを、3週間ごとに1回、1時間かけて静脈内投与する。
【0066】
オキシアルキレン含有化合物との併用療法において投与されるカルボプラチンの有効量は、投与量範囲で、1治療クール当たり約1mg/mから約1000mg/mである。カルボプラチンの好ましい範囲は、1治療クール当たり約100mg/mから約500mg/mである。The Physician’s Desk Reference,2003のpp.1126(この開示は、参考として本明細書中でその全体が援用される)は、カルボプラチンのための投与レジメンが以下のように推奨されている:4週間ごとに第一日目に360mg/m、もしくは1129ページに記載されているCalvert式を使用する。この製品は、50mg、150mg、および450mgの静脈内注入用の一用量バイアルとして入手可能である。カルボプラチンは、卵巣癌腫および関連疾患を含む卵巣癌の様々な形の処置に選択される薬剤の一つである。
【0067】
オキシアルキレン含有化合物との併用療法において投与されるシスプラチンの有効量は、投与量範囲で1治療クール当たり約1mg/mから約300mg/mである。
【0068】
オキシアルキレン含有化合物との併用療法においてオキサリプラチンは、1治療クール当たり約10mg/mから約250mg/mの投与量範囲で投与される。The Physician’s Desk Reference,2003のpp.2999(この開示は、参考として本明細書中でその全体が援用される)は、オキサリプラチンのための投与レジメンが以下のように推奨されている:2週間ごとに85mg/mを静脈内で120分間かけて投与する。オキサリプラチンは、結腸直腸癌あるいは直腸癌または関連疾患の処置のために選択される薬剤の一つである。製品は、50mgまたは100mgのバイアルで販売されている。
【0069】
オキシアルキレン含有化合物との併用療法においてダカルバジンは、0.5mg/kg/日から10mg/kg/日の投与量で投与され、好ましくは1mg/kg/日から8mg/kg/日を10日間投与する。The Physician’s Desk Reference,2003のpp.885(この開示は、参考として本明細書中でその全体が援用される)は、ダカルバジンのための投与レジメンが以下のように推奨されている:2mg/kg/日から4.5mg/kg/日を連続して10日間。この処置は、4週間間隔で反復され得る。他のレジメンでは、250mg/m/日を5日間であり、この処置は、3週間間隔で反復され得る。ダカルバジンは、転移性悪性黒色腫あるいはホジキン病または関連疾患の処置のため選択される薬剤の一つである。製品は、静脈注入用の100mgまたは200mgのバイアルで販売されている。
【0070】
テモゾロミドは、経口投与される化学療法剤の一種である。オキシアルキレン含有化合物との併用療法において、テモゾロミドは、通常5日間である1治療クール当たり、合計投与量として500mg/m、750mg/m、1000mg/m、および1250mg/mの投与量で投与される。The Physician’s Desk Reference,2003のpp.3081(この開示は、参考として本明細書中でその全体が援用される)は、テモゾロミドのための投与レジメンが以下のように推奨されている:28日間の1治療周期につき、初回用量150mg/mを経口で連続5日間。この用量は、血小板計数モニタリングを用いて200mg/mまで増加され得る。テモゾロミドは、難治性未分化神経膠星状細胞腫または関連疾患の処置のために選択される薬剤の一つである。製品は、250mgのカプセルで販売されている。
【0071】
一実施形態では、酪酸ピバロイルオキシメチルを3日間連続して約0.5g/m/日から5g/m/日の用量で投与し、その後第4日目に約50mg/mから100mg/mのドセタキセルを投与する。
【0072】
本明細書中に示されている投与量範囲は、一般的指針にすぎないことは、よく理解されている。化学療法剤に対するオキシアルキレン含有化合物の投与量範囲の割合は、上記に提供したオキシアルキレン基含有HDACインヒビター(例えば、酪酸ピバロイルオキシメチル)および化学療法剤の有効投与量範囲から決定され得、そしてまた、所定の投与量範囲および割合のために、処置の有効性から決定され得る。主治医には、有意な柔軟性があり、どのようなレジメンが各々の患者に対して最も良く作用するかの専門家の判断を適用する。また、この明細書中で開示される順次投与、ならびに投与されるレジメンの相加的効果または相加的効果を超える効果(相乗的効果)は、本明細書中で開示されている投与量範囲から離れ得る投与量の変化または判断を必要とし得ることが、理解されている。
【0073】
また、正確なレジメンは、処置する疾患、その疾患の重篤度、およびその処置に対する応答に依存する。
【0074】
化学療法剤の種類、薬学的キャリア、および投与する化合物の量は、哺乳動物の種および体重、並びに治療する癌の種類によって、幅広く変化する。また、投与する投与量も、特定の化学療法剤の薬力学特性およびその投与の方法および投与経路;レシピエントの年齢、性別、代謝速度、吸収効率、健康状態、および体重;症状の性質および程度;同時に行う治療の種類;治療の回数;ならびに期待する治療効果などの既知の要因によって、幅広く変化する。
【0075】
オキシアルキレン含有化合物と一種以上の化学療法剤とは、好ましくは、二種類以上の異なる投与形態で別々に投与される。これらは、採用する投与形態に応じて、同一の投与経路によって、あるいは二種類以上の異なる経路によって、独立に投与され得る。
【0076】
適切な薬学的組成物および投与形態は、好ましくはオキシアルキレン含有化合物および一種以上の化学療法剤を含む。
【0077】
化学療法剤の投与量およびその範囲は、特定の薬剤および治療する癌の種類に依存する。当業者は、適切な用量を確認することができる。
【0078】
(投与形態)
順次併用法はまた、経口形態、静脈内形態(ボーラスもしくは注入)、腹腔内形態、皮下形態、または筋肉内形態で投与され得、全ての投与形態は、薬学の分野の当業者にとって周知である。
【0079】
一種以上の化学療法剤と併用するオキシアルキレン含有化合物は、適切な薬学的希釈剤、増量剤、賦形剤、またはキャリア(本明細書中では集合的に、薬学的に受容可能なキャリアもしくはキャリア物質と呼ばれる)との混合物の形で一般的に投与される。これらは、意図する投与形態に関して、かつ通常の薬学的実施に一致するように、適切に選択される。この単位は、経口注入、直腸注入、静脈内注入、または非経口投与に適切な形態となる。さらに、局所投与様式および他の投与様式(尿道内投与、膣内投与、または膀胱内投与を含める)も利用し得る。
【0080】
一種以上の化学療法剤と併用するオキシアルキレン含有化合物は、単独で投与され得るが、一般的には、薬学的に受容可能なキャリアと混合される。このキャリアは、固体もしくは液体であり得、一般にキャリアの種類は、利用する投与法の種類を基に選択される。
【0081】
Remington:The Science and Practice of Pharmacy,A.Gennaro編,第20版,Lippincott,Williams & Wilkins,Philadelphia,PA;Advances in Pharmaceutical Sciences Vol 7.(David Ganderton,Trevor Jones,James McGinity編,1995)に記載されているように使用され得る、薬学的に受容可能なキャリアおよび賦形剤の詳細例。ピバネックス(Pivanex)は、静脈内(IV)で、200°エタノールを添加したIntralipid 20% IV Fat Emulsion中の乳濁液として投与される。これは、エタノール(2mL/gのピバネックス)中に希釈され、その後、Intralipid 20% IV Fat Emulsionに添加されて、20mgピバネックス/mLnoストックエマルジョンが生成される。
【0082】
一種以上の化学療法剤と併用するオキシアルキレン含有化合物はまた、リポソーム送達系(例えば、小さい単膜リポソーム、大きな単膜リポソーム、および多重膜リポソーム)の形態でも投与され得る。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミン、またはホスファチジルコリン等の、多様なリン脂質から形成され得る。
【0083】
また、最初に誘導期間中Pivanexを放出し、次いでテモゾロミド等の経口活性化学療法剤を放出する、徐放性投与形態も処方され得る。そのような投与形態は、当技術分野で公知である。
【0084】
一般に、水、適切な油、生理食塩水、デキストロース(ブドウ糖)水溶液、および関連する糖溶液、およびグリコール(例えば、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール)は、適切な非経口溶液用キャリアである。好ましくは、非経口投与のための溶液は、活性成分の水溶性塩、適切な安定剤、そして必要な場合には緩衝物質を含む。単独あるいは併用される、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、またはアスコルビン酸等の抗酸化剤は、適切な安定化剤である。また、クエン酸およびクエン酸塩、ならびにEDTAナトリウムもまた、使用される。さらに、非経口溶液は、塩化ベンザルコニウム、メチルパラベンもしくはプロピルパラベン、およびクロロブタノール等の保存剤を含み得る。適切な薬学的キャリアは、本分野における標準的参考書であるRemington:Science and Practice of Pharmacyに記載されている。
【0085】
非経口形態および静脈内形態はまた、選択した注入あるいは送達系の種類に適合させるために、無機塩類および他の物質を含み得る。
【0086】
、一種以上の化学療法剤と併用するオキシアルキレン含有化合物を投与するための有用な薬剤投与形態が、以下のように示される。
【0087】
(注射用溶液)
注射投与に適する非経口用組成日は、10%(容量)プロピレングリコール中1.5%(重量)の活性成分と水とを攪拌することによって、調製される。この溶液を、塩化ナトリウムで生理等張液とし、滅菌する。
【0088】
(処置方法)
処置方法は、処置される特定の癌もしくは腫瘍の処置において効果のある、あらゆる適切な方法で行われ得る。処置は、直腸投与、非経口投与、または静脈内投与であっても、または腫瘍もしくは癌に注射してもよい。有効量を投与する方法はまた、処置される疾患あるいは疾病に依存して異なる。本発明の一実施形態では、適切なキャリア、さらなる癌抑制化合物、または投与を容易にする稀釈剤と共に処方された、一種以上の化学療法剤と併用するオキシアルキレン含有化合物の静脈内適用、皮下適用、または筋肉内適用による非経口投与は、温血動物へこの化合物を投与するのに好ましい方法である。
【0089】
一種以上の化学療法剤と併用するオキシアルキレン含有化合物の効力は、既知の癌細胞株を用いた日常的スクリーニング法によって、インビトロおよびインビボの双方で確認され得ることを、当業者は認識している。細胞株は、American Tissue Type Cultureまたは他の研究所から入手可能である。
【0090】
以下の実施例は、本発明を例証するが、本発明を制限するものであると意図されない。
【実施例】
【0091】
(実施例1)
(腫瘍細胞株および細胞培養)
T24膀胱転移癌細胞、Calu−6未分化肺癌細胞、およびSK−MES−1扁平肺癌細胞培養物を、American Type Culture Collection(Manassas,VA)から購入した。細胞株は全て10%ウシ胎仔血清を添加したPRMI−1640で培養した。マイクロタイタープレートでの培養には、細胞を1ウェル当たり10個の密度でプレートし、37℃、5%CO環境で一晩インキュベートした。
【0092】
一晩インキュベートした後、ウェルに薬物を4連で添加し、オキシアルキレン含有化合物の存在下または非存在下で、6時間から96時間インキュベートした。新しい培地に細胞傷害性薬剤を加え、この培養物をさらに6時間培養し、次に培地を取り除いた。
【0093】
次にウェルを洗い、各ウェルに薬剤を加えない培地を加えた。引き続いてマイクロタイタープレートをさらに3日間培養し、その後にクリスタルバイオレットアッセイによって細胞密度を測定した。あるいは、培養物の一部を、メタノールで固定してヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で5分間染色し、顕微鏡撮影を行った。
【0094】
(抗腫瘍薬)
ピバネックス(PIVANEX)(酪酸ビバロキシルメチル)は、Titan Pharmaceuticals Inc.(South San Francisco,CA)から得、0.05% イントラリピッド(Intralipid)TM(Fresenius Kabi,Clayton,NC)と混合して培養培地に加えた。細胞傷害性薬剤であるゲンシタビン(Gemzar;Eli Lilly and Co.,Indianapolis,IN)、シスプラチン(Platinol,Bistol−Myers Squibb Co.,Pinceton,NJ)、パクリタキセル(Taxol;Bristol−Myers Squibb Co.,Pinceton,NJ)、およびドセタキセル(Taxotere,Aventis Pharmaceuticals Products,Inc.,Bridgewater,NJ)をPIVANEXと併用して試験した。
【0095】
(クリスタルバイオレッドマイクロタイターアッセイ)
マイクロタイターウェル内の細胞を、PBSで洗い、2容量の100%冷メタノールで5分間固定した。1容量の0.5%クリスタルバイオレットの20%メタノール溶液を加え、付着している細胞を10分間染色した。次に細胞を洗い、クリスタルバイオレットを0.1Nクエン酸ナトリウム緩衝液で溶出し、ELISAプレートリーダーで490nmの値を読んだ。
【0096】
(腫瘍遺伝子発現分析)
腫瘍細胞培養物のmRNAを、標準的な方法によって単離し、RT−PCRを行って腫瘍遺伝子c−Mycの発現レベルを測定した。RT−PCRサイクリングに使用したc−Mycプライマー対は、次の物である。
【0097】
【化1】

このc−Mycプライマー対は、以下のプログラムによってサイクリングした。:95℃で3分間、次に、[95℃で1分間、次に55℃で1分間、次に72℃で1分間]を30サイクル反応させ、その後7分間72℃に温度を保ち、次に温度を4℃に下げた。サンプルを、1%アガロースゲル電気泳動およびゲルデンシメトリーによって定量分析した。
【0098】
(表1:ピバネックスは、腫瘍遺伝子c−Mycの発現を減少する)
【0099】
【表1】

a 任意のPCR単位に対し、96時間曝露したピバネックス濃度(μM)をプロットした表。これは、ピバネックスが、腫瘍遺伝子c−Mycの発現を減少することを示している。
【0100】
(表2:T24膀胱癌細胞株において、ピバネックスとシスプラチンの細胞傷害性は相加的である)
【0101】
【表2】

a T24癌細胞生存率(A490吸光度)に対するピバネックス濃度(μM)とピバネックス処置後に投与したシスプラチンの濃度(μM)をプロットした表。ピバネックスとシスプラチンの細胞傷害性が相加的であることを示している。
【0102】
(表3:非小細胞肺癌細胞SK−MES−1において、ピバネックスはパクリタキセルに対する耐性を克服する)
【0103】
【表3】

a SK−MES−1癌細胞生存率(A490吸光度)に対し、処置したピバネックスの濃度(μM)とピバネックス処置後に投与したパクリタキセルの濃度(μM)をプロットした表。ピバネックスがパクリタキセルへの耐性を克服することを示す。
【0104】
(表4:Calu−6非小細胞肺癌細胞において、ピバネックスとシスプラチンの細胞傷害性は相加的である)
【0105】
【表4】

a Calu−6癌細胞生存率(A490吸光度)に対し、処置したピバネックスの濃度(μM)とピバネックス処置後に投与したシスプラチンの濃度(μM)をプロットした表。ピバネックスとシスプラチンの細胞傷害性が相加的であることを示している。
【0106】
(表5:Calu−6非小細胞肺癌細胞において、ピバネックスとシスプラチンの細胞傷害性は相加的である)
【0107】
【表5】

a Calu−6癌細胞生存率(A490吸光度)に対し、処置したピバネックスの濃度(μM)とピバネックス処置後に投与したシスプラチンの濃度(μM)を示したSD表。ピバネックスとシスプラチンの細胞傷害性が相加的であることを示している。
【0108】
(表6:Calu−6非小細胞肺癌細胞において、ピバネックスとゲンシタビンの細胞傷害性は相加的である)
【0109】
【表6】

a Calu−6癌細胞生存率(A490吸光度)に対し、処置したピバネックスの濃度(μM)とピバネックス処置後に投与したゲンシタビンの濃度(μM)をプロットした表。ピバネックスとゲンシタビンの細胞傷害性が相加的であることを示している。
【0110】
(表7:T24膀胱癌細胞において、ピバネックスとゲンシタビンとの細胞傷害性は相加的以上のものである)
【0111】
【表7】

a T24癌細胞生存率(A490吸光度)に対し、処置したピバネックスの濃度(μM)とピバネックス処置後に投与したゲンシタビンの濃度(nM)を示した表。ピバネックスとゲンシタビンとの細胞傷害性は、相加的以上のものであることを示している。
【0112】
(表8:SK−MES−1非小細胞肺癌細胞において、ピバネックスとシスプラチンとの細胞傷害性は相加的以上のものである)
【0113】
【表8】

a SK−MES−1非小細胞癌細胞生存率(A490吸光度)に対し、ピバネックスの濃度(μM)とピバネックス濃度(μM)を添えたシスプラチンの濃度(μM)をプロットした表。ピバネックスとシスプラチンとの細胞傷害性は相加的以上のものである。
【0114】
(表9:Calu−6非小細胞肺癌細胞における、ピバネックスとドセタキセルとの細胞傷害性は相加的以上のものである)
【0115】
【表9】

a Calu−6癌細胞生存率(A490吸光度)に対し、処置したピバネックスの濃度(μM)とピバネックス処置後に投与したドセタキセルの濃度(μM)をプロットした表。ピバネックスとドセタキセルとの細胞傷害性が相加的以上のものであることを示している。以下は、腫瘍細胞増殖におよぼすピバネックスと化学療法剤との効果をまとめたものである。
【0116】
膀胱癌細胞株(T24)に対し、ピバネックスは、シスプラチンと併用すると相加的活性であり、ゲンシタビンとの併用では相加性を超えるものであることがわかった。
【0117】
化学療法抵抗性非小細胞肺癌細胞株(SK−MES−1)において、ピバネックスは、シスプラチンあるいはパクリタキセルと併用すると相加性を超える活性であることがわかった。
【0118】
非小細胞肺癌細胞株(Calu−6)において、ピバネックスは、シスプラチンおよびヌクレオシドアナログであるゲンシタビンと併用すると相加的活性であり、タキサンドセタキセルと併用すると相加性を超えるものであることがわかった。
【0119】
特定の適応症のためには、ピバネックスと化学療法剤との併用は、相加的活性であるがわかった。また他の適応症では、この併用療法は、相加的を超える活性であることがわかった。
【0120】
数種類の腫瘍細胞株(Calu−6、SK−MES−1、T−24)を、10〜50μMという低濃度のピバネックスに培養中96時間曝露すると、腫瘍遺伝子c−Mycの発現が減少された。
【0121】
ピバネックスの腫瘍遺伝子調節は、時間依存性であり、そして腫瘍細胞株依存的であった。
【0122】
(実施例2)
本実施例では、3日間(72時間)の誘導期間とその後24時間のドセタキセル曝露を伴う薬剤併用治療法における、ピバネックスおよびドセタキセルの細胞傷害性を示す。
【0123】
(方法論)
(細胞株)
ATCC(Rockville、MD)より購入したヒトNSCLC細胞株H522(高増殖性、t1/2=28時間)およびH23(低増殖性、t1/2=38時間)を、75cmのプラスチック製組織培養フラスコにて、10%ウシ胎仔血清(FBS;Nova Tech)を含むRPMI培地(RPMI;Nova Tech,Grand Island,N.Y.)中で維持した。細胞は、37℃加湿5%CO加環境で培養した。
【0124】
(処置)
ピバネックス(Titan Pharmaceuticals)は、100%エタノールで稀釈して、最終濃度<0.5%エタノールの1Mストック溶液とした。ドセタキセル(Taxotere TM)はAventis(Strasbourg,France)から寛大にも提供された。それを、100%ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して1000倍のストック溶液とした。細胞培養実験のために、ピバネックスとドセタキセルを、細胞培養培地で稀釈し、それぞれ最終濃度<0.5%エタノール、および最終濃度<0.1%DMSOとした。
【0125】
(増殖抑制アッセイ)
対数増殖期の細胞を、トリプシン(0.05%)/EDTA(0.02%)で回収し、10%FBSを含む新しい培地で再懸濁した。増殖培地100μl中の細胞懸濁液を、0日目に、10細胞/ウェルの濃度で96ウェルマイクロタイタープレート(Faldon,Oxnard,CA)にプレーティングした。この細胞を37℃加湿5%CO環境で24時間インキュベートし、薬剤処理を行った。1日目に、連続稀釈濃度の薬剤およびビヒクルを含む、培地100μlアリコートを、細胞プレートに加え、各配列について特定の時間インキュベートした。加湿インキュベーター(5%CO/95%HEPAフィルター透過空気)内で37℃で4日間インキュベートした後、100μlの増殖培地を取り除いた。次に、MTSテトラゾリウム[3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2−テトラゾリウム−内部塩]化合物(PBS中に1.9mg/ml,pH 6.0)を20μl加え、細胞を37℃で1時間インキュベートした。このMTSテトラゾリウム化合物は、生きた細胞によって生物還元され、細胞培養培地に可溶性の着色ホルマザン生成物となった。吸光度を、Dynex HDマイクロプレートリーダー上で波長490 nmの値を記録した。IC50値を、3つの別個の試験からPrism(登録商標) GraphPadソフトウェアを使用して判定した。各用量判定のため各試験は4度重複測定をおこなった。データは増殖抑制パーセントとして表し、0%はビヒクル(0.1% DMSO)のみを加えたウェルの平均値を表し、以下のように計算した。:
増殖抑制%=(1−(OD試験/ODビヒクル))×100
ここでOD試験は試験サンプルの光学密度であり、ODビヒクルは関係する各試薬を溶解させたビヒクルの光学密度である。
【0126】
(ピバネックス/ドセタキセルを加えたH23細胞)
ピバネックスの後にドセタキセルを使用する順次投与多剤併用試験において、試験結果はこの2つの薬剤に、腫瘍細胞増殖抑制に対して相乗的・相加的な活性がみられることを示す。
【0127】
H23−ピバネックス、次いでドセタキセルを処理すると、相乗的増殖抑制活性がみられた。一方ピバネックス並びにドセタキセル単独では、24時間曝露後にH23細胞増殖の急激な上昇がみられた。
【0128】
H522−ピバネックス、次いでドセタキセルで処理すると、相加的・相乗的増殖抑制活性が示された。一方ピバネックス並びにドセタキセル単独では、24時間曝露後にH522細胞増殖の急激な上昇がみられた。
【0129】
本アッセイでは、ピバネックス/ドセタキセル濃度(各々に薬剤のIC50のパーセンテージとして表示する。)が60/40から25/75の間の範囲内で、H23細胞に投与したピバネックスによって、相加的という基準を5%から25%(25/75で5%、50/50で12%、40/60で25%)超える、相加的を超える(相乗的)増殖抑制効果がもたらされた。この増殖抑制活性効果は、相加的という基準値と比べて約12.5%並びに25%、60%の上昇に相当する。
【0130】
(実施例3)
(ピバネックスについてのイントラリピッド(Intralipid)処方手順)
層流方式のフード内で無菌操作をもちいる。適切な量のピバネックスを滅菌バイアルに入れ、ピバネックス1g当たり2mlのエチルアルコール(200°)をバイアルに加える。次に適切な量のイントラリピッドをバイアルに加えて20mg/mL ピバネックスのストック乳濁液を作成する。次にこのバイアルを数回静かに上下逆さにする。この乳濁液をイントラリピッド(20%)でさらに稀釈して希望する濃度にする。
【0131】
(ビヒクルコントロール)
適切な量のイントラリピッド(20%)を滅菌ガラスバイアルに入れる。適切な量のエチルアルコール(200°)を加えて濃度4%にする。このバイアルを数回静かに上下逆さにする。
【0132】
本明細書中において、具体的な実施形態を参照して本発明を記載したが、当業者は、容易に本発明における多様多数の改変および変化に想到する。好ましい実施形態が開示され、詳細に記載されるが、このような理由からこれは本発明を制限するものであるとは意図されない。従って、そのような変化形および改変形は、本発明の意図される範囲に包含される。
【0133】
上記の開示は、本願発明を当業者が実施することを可能にするために必須であると見なされるすべての情報を包含する。引用される特許または刊行物は、さらなる有用な情報を提供し得るので、これらの引用文献は、その全体が参考として本明細書中に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)インヒビターの抗腫瘍活性を上昇させる方法であって、化学療法有効量のオキシアルキレン含有HDACインヒビターを誘導期間に哺乳動物細胞または宿主細胞へ投与し、その後、チューブリン相互作用剤、DNA相互作用剤、DNAアルキル化剤および白金錯体からなるクラス内のメンバーの化学療法的有効量を、該哺乳動物細胞または宿主細胞へ順次投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記オキシアルキレン含有HDACインヒビターが、以下の式(I)、(II)および(III):
(I)X−CH−CHX−CHX−C(=O)−O−Z;
(II)CH−CO−CH−C(=O)−O−Z;
(III)CH−CH−CO−C(=O)−O−Z
を有する化合物であり、
ここで、XはHであるかまたは一つのXのみがOHであり得;Zは−CHR−O−(O=)C−R’であり;Rは水素およびアルキル基からなる群から選択されるメンバーを表し、R’はアルキル基、アミノアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選択されるメンバーを表し、ここでアリール単独、ならびにアラルキル、アラルコキシおよびアリールオキシ内のアリールは、それぞれサブグループ(a)および(b)からなる群から選択され、ここで(a)は、置換されていない、フェニル、ナフチル、フリルまたはチエニルであり、(b)は、フェニル、ナフチル、フリルまたはチエニルであり、その各々は、アルキル、アルコキシまたはハロゲンからなる群から選択された少なくとも1個の置換基によって置換されており、ただし、(I)においてXがHであってR’がプロピルであるならば、Rは、少なくとも3個の炭素原子を含むアルキルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オキシアルキレン含有化合物が、酪酸ピバロイルオキシメチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
チューブリン相互作用剤が、タキソール、パクリタキセルまたはドセタキセルであり、前記DNA相互作用剤が、ピリミジンベースのヌクレオシドアナログまたはフルダラビンであり、前記DNAアルキル化剤が、ダカルバジン、テモゾロミドまたはシクロホスファミドであり、前記白金錯体が、シスプラチン、カルボプラチンまたはオキサリプラチンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ピリミジンベースのヌクレオシドアナログが、ゲンシタビンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記誘導期間が、約2時間より長くから約120時間までである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導期間が、約24時間〜96時間である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記誘導期間が、約48時間〜84時間である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記誘導期間が、約54時間〜78時間である、請求項8に記載の方法。
【請求項9】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
化学療法剤と併用した前記オキシアルキレン含有化合物の有効量が、約0.01g/m/日〜約10g/m/日の投与量範囲で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
オキシアルキレン含有化合物と併用したゲンシタビンの有効量が、最大約10000mg/m、好ましくは100から4000mg/mの投与量範囲で、12週間までの処置期間にわたって投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
オキシアルキレン含有化合物と併用したパクリタキセルまたはドセタキセルの有効量が、1治療クール当たり約10mg/m〜約200mg/mの投与量範囲で投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
ドセタキセルが、10mg/m〜200mg/mの投与量で、望ましくは50mg/m〜120mg/mの投与量で投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
オキシアルキレン含有化合物と併用したカルボプラチンの有効量が、1治療クール当たり約10mg/m〜約1000mg/mの投与量範囲で投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項16】
カルボプラチンの有効量が、約100mg/m〜約500mg/mの投与量範囲で投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
オキシアルキレン含有化合物と併用したオキサリプラチンの有効量が、1治療クール当たり約10mg/m〜約250mg/mの投与量範囲で投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項18】
オキシアルキレン含有化合物と併用したシスプラチンの有効量が、1治療クール当たり約1mg/m〜300mg/mの投与量範囲で投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項19】
オキシアルキレン含有化合物と併用したダカルバジンの有効量が、10日間の1治療クール当たり約0.5〜10mg/kg/日の投与量範囲で投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項20】
テモゾロミドの有効量が、1治療クール当たり500〜1250mg/mの投与量で投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項21】
酪酸ピバロイルオキシメチルが、約0.5g/m/日〜5g/m/日の投与量で3日間連続して投与され、次いで第4日目に約50mg/m〜100mg/mのドセタキセルが投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項22】
HDACインヒビターの抗腫瘍活性を上昇させるための化学療法用調製物の製造におけるHDACインヒビターの使用であって、チューブリン相互作用剤、DNA相互作用剤、DNAアルキル化剤および白金錯体からなるクラス内の化学療法剤の使用を含み、該調製物は、該HDACインヒビターを投与する誘導期間、その後の該化学療法剤の投与に適合している、使用。

【公表番号】特表2006−502117(P2006−502117A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−521887(P2004−521887)
【出願日】平成15年7月11日(2003.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/022181
【国際公開番号】WO2004/006909
【国際公開日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(502197932)タイタン ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】